●
この国にはたくさんの断頭台がある。
カチコチ、カチコチ、カチコチ――この辺りでは時を刻む針の音が響き渡っている。
直接、断頭台の下に召喚されたアリスたちが耳にしたであろう時計針の音。刃が落ちる瞬間、自身の時が潰える瞬間、それは一針先の音なのか、数針先の音なのか――それとも考えた今瞬間なのか――自身の状況を悟り、または悟れぬまま死んでいったアリスたちはたくさんだ。
生命の刻みを止めて、鮮血流れるアリスはオウガ・オリジンへと食事として饗された。
そんな、絶望の国。
●
「迷宮災厄戦、お疲れさま! アリスラビリンスの攻略は考えることも多いけれども、頑張っていきましょうね」
猟兵たちを迎えたのはポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)だ。
早速だけど、と彼女は説明を始める。
「今回皆さんに攻略してもらいたいのは、召喚断頭台のある恐るべき絶望の国なの。
今でこそ召喚機能は停止しているけれども、それまではオウガ・オリジンに食事を饗するためにアリスを直接「断頭台の下」に召喚していたのよね」
国のオウガたちはその『食事』のおこぼれを食べてきた。
たくさんのおこぼれを食べてきたオウガたちは、でっぷりと太っていてそして戦闘力も高い。
「でも弱点というべきものもあるのよね。国のあちこちにある断頭台でオウガの首を落とせば、一撃で殺すことができるわ」
今回の皆さんの敵は、ホライゾンストーカーね、とポノ。
「訪れた猟兵たちをストーカー……追いかけてくるから、うまいこと鬼ごっこをしながら断頭台へと敵を差し込めれば良い感じに倒せるんじゃないかしら?」
いわゆるギロチン。刃は斜め刃でロープで吊上げられている。えいやっとロープを切れば刃が落ちる造りだ。
「ホライゾンストーカーなら――そうね、毒液にやられた振りをして近寄ってこさせたり、思いっきり追いかけっこをして「次の行動」の成功を敵に確信させて油断へと導いたり、高機動追跡モードになったならそのまま断頭台へと突っこむよう誘導したり、と色々方法はあるだろうから、頑張ってみて頂戴ね」
健闘を祈るわ!
そう言ってポノは猟兵たちを送り出すのだった。
ねこあじ
ねこあじです。
さくっとざくっと倒しましょう。
●プレイングボーナス
オウガを断頭台に乗せる。
特に締切などは設けず、さくっとざくっと行きます。
執筆開始はマスターページやTwitterにて。
全採用のお約束はできませんが、よろしくお願いします。
第1章 集団戦
『ホライゾンストーカー』
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POW : チェイサーズポイズン
自身に【ばらばらにしたおもちゃのブロックの尻尾 】をまとい、高速移動と【遅効性の麻痺効果を持つ毒液】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : チェイサーズインスティンクト
【アリスや対象を追いかけた 】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ : フライングチェイサー
【星空の翼を広げ羽ばたく 】事で【高機動追跡モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月舘・夜彦
【華禱】
オブリビオン相手に鬼ごっことは……
あちらですね、承知致しました
断頭台を事前に決めておき、倫太郎殿と情報を共有
移動は駆け足で、段差も活用して跳び移る
視線と跳ぶ方向を別にしてフェイントも活用
下手に戦いを挑むよりも、今は逃げるのに集中した方が良さそうです
単純な攻撃であれば残像により回避
毒液は視力と見切りにより毒液の軌道を確認
回避が困難な量であると判断した場合
抜刀による衝撃波より毒液を吹き飛ばして払う
多少は体に付くと考え、毒耐性にて耐える
断頭台付近に到着しましたら、倫太郎殿が拘束術を使っている間に敵の背後へ移動
早業の二刀流剣舞『襲嵐』を使い、断頭台に向けて吹き飛ばします
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦、あそこのにしようぜ?
誘導する断頭台を先に決めて
一先ずは追いかけっこだな
ダッシュで逃げる
フェイントも交ぜて
高速移動のスピードを殺せないか試しつつ断頭台へご案内
断頭台に近付くまでは
生命力吸収と鎧砕きを乗せた華焔刀で対処
つっても、逃げるのに手いっぱいになりそうなんですケド!
見切りや残像で敵の毒液は回避
間に合わない場合はオーラ防御で凌ぐ
毒には毒耐性で対応
何にせよ、動き止めたら捕まるから足は止めずに
決めてた断頭台近くに辿り着いたら派手に立ち回り
断頭台も敵も射程に入れて拘束術使用
拘束した鎖を引き絞って
念動力も使いながら断頭台へ投げ飛ばす
断頭台に敵が放り込まれたのを確認したら
直ぐにロープも切断
カチコチ、カチコチ――硬めな時計針と振り子の音。よくよく耳をすませば秒針のような軽めの音も聴こえるこの国は、どこかどんよりとした空気が漂い、空は暗かった。
召喚されたアリスたちは断頭台の下へと送られる。けれども異なる方法でこの国へと入った猟兵たちは、まず断頭台を見つけることを目標とした。闇雲に敵と追いかけっこをしてもしょうがない。
草原と石畳。荒れた石の街のような景観。
轍に残る血の跡。なぞるように見た月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の眉は、どこか痛ましげに顰められた。
轍の先へと目を遣った篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は大中小と並ぶ断頭台を三つ見つける。
「夜彦、あそこのにしようぜ?」
指差し振り向けば、既に夜彦は視認し頷くところ。
「あちらですね、承知致しました」
何度も使われたのだろう。断頭台がある地面は赤黒く変色していた。
猟兵が敵を見つけたのが先か、ホライゾンストーカーが獲物を見つけたのか先か。
互いの存在を認識し、始まるのは追いかけっこだ。
「オブリビオン相手に鬼ごっことは……」
音なく石畳を駆ける夜彦。
『ギギギギッ!!』
夜空を切り取ったかのような小さな翼を広げ、丸々と太ったサソリが空を飛ぶ。
おもちゃのブロックのような尾をばらばらに纏い、地上を走る新鮮な食べ物――夜彦めがけて毒液を放射した。
降りかかるは雨の如き毒。
一弾指ほどの間しかない判断。夜彦が取った行動は『払い』であった。鞘持ちの指は鍔を弾くように、柄を握る片手は刃の鞘走りに合わせ、勢いある抜刀と共に放たれる衝撃波。
衝撃に虚空の毒液は細やかに散り、刹那に霧状となり果てた。
『ギィ!』
衝撃波はそのまま上空の敵に届くも、強化されているのだろう。ホライゾンストーカーの夜の煌きが身を守った。硬い。
(「下手に戦いを挑むよりも、今は逃げるのに集中した方が良さそうですね」)
砕けた塀へと跳び移り、その先の跳躍を見越したのか敵は真っ直ぐに突っ込んでくる――が、夜彦が跳んだのは別方向。敵にしてみれば遠回り――慌てたように旋回し、再び夜彦を追う。
『ギャギャギャギャ!!』
ホライゾンストーカーが威嚇の声を上げ、倫太郎を追っていた。
関節肢を畳み、翼の羽ばたきは最小限に。高速移動のそれへ移るホライゾンストーカー。
真っ直ぐに突っ込んでくる敵姿を捉え、ぎりぎりまで引きつけた倫太郎は地面の僅かな段差を利用して斜め前へと跳んだ。着地に使った片脚で更に鋭角を描くように跳ぶ。
視界には勢い余ったのち、再浮上、更に旋回し倫太郎を探すホライゾンストーカーの姿。
『ギギィ!』
「うわ、見つけんの早っ……」
素早い『餌』目掛けてバシュッ! と毒液を放つホライゾンストーカー。だが距離があれば回避もしやすい。倫太郎の駆けは速度を増す。
一体から二体、そして三体と敵が増えた。
「逃げに専念すりゃ、避けもできるっしょ!」
フェイントを織り交ぜ、遮蔽物を利用し、パルクールの要領で逃げる倫太郎。
跳躍の際、関節肢を広げ迫ってきた敵を華焔刀で打ち返す。長柄で絡めるようにフルスイングした。
敵は太っていて重く、そして強固だ。それだけ、たくさんのアリスの残骸を食べ、血肉を力へと変えていったのだろう。
打ち返した敵が戻ってくる。断頭台のある場所へと。
そして――、
「倫太郎殿」
タンッと跳躍した夜彦の着地。倫太郎を呼んだ彼は、身を低く屈めたまま摺り足で地に大きな弧を描いた。構える。
空に六体の敵姿。
「縛めをくれてやる!」
断頭台も敵も、災いを縛る見えない鎖が倫太郎から放たれた。
『ギイイ!』
ホライゾンストーカーたちが加速した――否、倫太郎が拘束した鎖を引いたのだ。複数の鎖を引き絞る。
するり、と凪のように夜彦が動いた。続き起こるは青嵐。
「振るう刃は、嵐の如く――」
二刀が舞い放つ斬撃は、数多の風刃を生んだ。嵐に糸解かれる繭のように。
バンッ! と吹き飛ばされた敵が断頭台へと嵌まる。
倫太郎が手首を捻り、見えぬ鎖を繰って断頭台へと投げ飛ばせば同じような衝突音。
災い――強く固定された断頭台はびくともしない。
「そのまま挟まってな!」
念動力で圧しながら、ロープを切断する。
吊るしていたロープから放たれた断頭台の刃は、耳を劈く嫌な音をたてて落ち、
ザシュッ。
敵体の硬い手応えは何だったのか。ホライゾンストーカーは容易く切断され、その体液を撒き散らした。
断末魔の鳴き声はなく、カチコチ、カチコチ、と時を刻む音が場に渡る。
赤黒い地面に、新鮮な体液が染みていった。
終わりは呆気ない。
きっと、アリスたちの強制的な終焉もこんな風だったのだ。大地に染みついた色は無念の其れ。
「……次、行くか」
「そうですね――」
刀のように玲瓏ではない刃の走り。
耳にこびりつき残る、ざらついた音はどこか血臭さを伴っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
ちくたくちくたく
時計の音ってどうしてこんなに窮屈なのかしら?
追い立てられるのは嫌いではないけれど
だって、復讐してやるのは楽しいもの!
あら、あら
でっぷり太った追跡者さん? そんな無様でアリスに追いつけるのかしら
そう小馬鹿にしながら自慢のお尻を叩いて【誘惑】し
断頭台を背に【逃げ足】活かして立ち回る
敵が高機動追跡モードに変身したなら【野生の勘】で
ひらり【ジャンプ】で突撃を躱してみせて
そのまま断頭台へとご招待!
おデブとはいえスピードと反応速度が上がっているなら
それだけでは足りないかしら?
その時はダメ押しに【踏みつけ】押し込んであげるから!
カチコチ、カチコチ――硬い時計針と揺らぐ振り子の音。
チッ、チッ、チッ、チッ――軽やかな秒針の音。
場所を変えればたくさんの、時を刻む音。
「ちくたく、ちくたく」
暗澹めいた空、草原と石畳、廃墟のような崩れた石街。
「ちくたく、ちくたく」
この場に響く音を口ずさみながらメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は、たん、たんっ、と石畳を踵で打つ。
「時計の音って、どうしてこんなに窮屈なのかしら?」
あらゆるものを『時』という型に嵌めようとしているようだ。
「追い立てられるのは嫌いではないけれど――」
そう言って、瓦解する塀へと跳び移った。頭にひらりと靡くのはウサギを模したモノ。
「だって、復讐してやるのは楽しいもの!」
ぺろり。赤い瞳のウサギは赤い舌を覗かせて、どこか愉快そうに微笑んだ。
『ギギィィ!』
新たな食べ物――『アリス』を見つけたホライゾンストーカーが空を旋回した。
夜空を切り取ったかのような翼を広げ、降下する。
「早速おいでなさったわね」
ぴょんぴょんと塀上を跳ねて、真っ直ぐ向かってきたホライゾンストーカーを難なく回避するメアリー。
たたらを踏んだように一瞬ぶれたホライゾンストーカーがぐるりと円を描き、メアリーを視界におさめた。
「あら、あら」
軽やかに、歌うように、ころころと鈴を転がすように、どこか甘い声でメアリーは言う。
「でっぷり太った追跡者さん? そんな無様でアリスに追いつけるのかしら」
ふりふりと。まあるいウサギの尻尾が良く見えるように。
細腰のラインと上向きのヒップラインの黄金比。僅かな陽射しに映える健康的な美尻をしなやかな手で叩き、メアリーは微笑む。
きっとお肉は柔らかで、血は甘いのだろう――『ギギッ!』と一鳴きしたホライゾンストーカーは関節肢を開き、再び滑空した。
始まるのは鬼ごっこだ。
「追跡者(おに)さん、こちら♪」
甘やかな声がホライゾンストーカーを誘う。
ぴょんっと地面に降り立ったメアリーが駆け、遮蔽物を潜り、回りこみ、と逃げていれば星空の翼を広げ羽ばたくホライゾンストーカー。飛行速度を跳ね上げて、メアリーを追う。
『ギギギ!!』
軋ませる敵の声が前方に――回りこまれたのだ。横へと跳躍するも敵の視線はメアリーに纏わりつき、動線もぶれない。
真っ直ぐに飛んでくるホライゾンストーカー。
「やだ、捕まっちゃったわね――」
そう言ったメアリーは、つま先を弾き大きくジャンプ。
『!!?』
大きく拓けた敵の視界に飛び込んでくるのは、断頭台だ。
「――なんちゃって♪」
寸前で断頭台に突っ込むのを回避しようと尾を動かしたサソリの背へ、メアリーの蹴撃。
敵の頭が太い二本の柱の間へと入り、すかさずメアリーはホライゾンストーカーを踏みつけた。
「チェックメイト、ね」
絶望の刃を振るい、ロープを切れば放たれるは絶望の大刃。
刃走り。
耳を劈く嫌な音をたてて落ち――ザシュッ――敵を切断する。
『ヒギ、イイィィ――!!』
一拍遅れて上がった断末魔は転がっていく頭から放たれ、唐突に止む。バタタッと一瞬噴きあがった体液は、すぐに新鮮な液溜まりとなりつつあった。
「ちくたく、ちくたく」
一体のオウガが今の時を止め、けれども時計の音は止まない。
大成功
🔵🔵🔵
クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可
強制的に召喚させられ、処刑されてオウガに食われるとは、嫌な話だ
この仕組みを作ったオリジンにはいずれ報いを受けてもらうとして……まずは此処を終わらせましょう
敵を断頭台に誘導する形で移動。道中は反撃せずに逃げに徹した後、断頭台の近くで敢えて毒を受けて倒れることで敵を油断させる
毒液を受ける際は『オーラ防御』『毒耐性』で毒の効果を弱め、【忌避されし死の否定】による再生力強化で早々に毒を分解
動けるようになっても敢えて動けないふりをして油断させ、敵が接近した所で『だまし討ち』で反撃
敵の『体勢を崩す』ことで断頭台の方に押し込み、鎖で敵を断頭台に縛り付けて首を落とす
まさに因果応報と言う所ですね
アリスラビリンスへと降り立ったクロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)がまず耳にしたのは、カチコチ、カチコチと、どこか硬めな時計針と振り子の音だった。耳をすませば秒針のような軽めの音も聴こえる。
どんよりとした空気が漂い、空は暗かった。光の差さぬダークセイヴァーのような空。
ふと地面を見れば石畳と轍――薄汚れているのは血の跡が入りこんでいたから。
辿っていくと見つけたのは一つの断頭台。少し向こうには廃墟のような石街。
近付いてみれば使いこまれているのが分かった。
二本の柱は染まった血で変色しており、高く、吊るされた刃も研がれてはいるが薄汚れている。吊るすロープは真新しい。
「強制的に召喚させられ、処刑されてオウガに食われるとは……嫌な話だ」
首が嵌まるように造られた板。断頭台を観察し、クロスは呟く。
「この仕組みを作ったオリジンにはいずれ報いを受けてもらうとして……」
踵を返し、ホライゾンストーカーが住処にしていそうな廃墟へと向かう。――確固たる足取りで。
「まずは此処を終わらせましょう」
アリスが召喚されない――端的に言えば、ホライゾンストーカーは腹を空かせていた。
柔らかな肉やさらさらな甘い血も好きであったし、硬い肉とどろどろと凝った血もまた好きだ。オウガ・オリジンへと饗される食べ物であったが、その『おこぼれ』は彼らにとって栄光の極みでもあった。あのオウガ・オリジンのおこぼれなのだ。
新しい食事を持って行けばきっと喜ばれるだろう。
――そんなホライゾンストーカーが一人の『アリス』を見つけた。こっちに気付いた『アリス』は、身を翻して走りだした。
さあ、追いかけっこの始まりだ。
『ギギギギッ!!』
軋んだ虫の鳴き声が背に。
追いかけてくるホライゾンストーカーから逃げるように、クロスは駆けた。
断頭台が見え、僅かに足を緩める――それを隙と取った敵はギシギシと鳴きながら、尻尾から毒液を降りかけていく――ばらばらと、散る毒雨。
「ぐっ……!」
毒雨に打たれ、体勢を崩したクロスがざざっと石畳を擦り倒れた。断頭台へと僅かに寄りかかる。
更に染み込ませるようにぱたぱたっと毒雨がクロスと周囲の地を打った。
『ギイィ』
翼と関節肢を広げ、ゆっくりと降りてくるホライゾンストーカー。
クロスの顔は長い銀髪に覆われ、今は見えない――けれども苦しげに震えていた――頃合だ。十分に近付いたところで、この毒尾を一突き――。
だが。
振るわれたのはクロスの黒羽であった。
幾人ものアリスの残骸を喰らい、強化されでっぷりと太った敵胴を叩く。
『ギ!!??』
「油断大敵ですよ」
断頭台目掛けて叩きつけ、伸縮自在の鎖がホライゾンストーカーを縛りつけた。
『ギギイイッ!!』
暴れようとしても断頭台へ密着するように縛りつけた鎖は強固だ。
大鎌に変化した黒羽がロープを切断すれば、大きな首切りの刃が滑り落ち、耳を劈くは身の毛もよだつ音。
――ザシュッ。
断末魔はなく、前方へと跳んだ頭がごろりごろりと転がった。一瞬噴きあがった体液が場を濡らしていく。
巻き付けた鎖はびくびくとした敵の動きをクロスへと伝えてくる。
忌避されし死の否定――オーラを纏い、ユーベルコードによる再生力が身に顕現するまで毒に耐えたクロス。見事なだまし討ちであった。
「……まさに因果応報というものですね」
動かなくなった敵を見下ろすクロスは、そう呟くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シリン・カービン
【SPD】
「追い込み罠、ですね」
断頭台を見上げてポツリ。猟の方針は決まりました。
まずはホライゾンストーカーを誘います。
物陰に隠れては射撃を繰り返し、動き出したら誘導開始。
一直線に駆け断頭台の下で待機。
ホライゾンストーカーが追ってきたら
【ピクシー・シューター】を発動。
後方から包囲するように複製猟銃で集中砲火を浴びせ
断頭台へ追い立てます。
「わかっていても避けられない。それが罠と言うもの」
強行突破しようと突っ込んでくるホライゾンストーカーを、
頭上に浮かばせた複製猟銃の一挺に掴まり
鉄棒の大車輪の要領で躱します。
さらに回転の勢いで背中を蹴り飛ばし、
断頭台に突っ込みます。
「あなたは、私の獲物」(ザシュッ)
カチコチ、カチコチ――硬い時計針や振り子の音。加え、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)の長い耳に入ってくる軽やかな秒針の音。
辿っても音の出所は分からない、けれども轍に染みこんだ血の跡は辿ることができた。
石畳と、草原と、少し遠くには廃墟らしき石群。
アリスラビリンスの絶望に満ちた国で、暗澹たる空の下、シリンが見つけた一つの断頭台。
石台に突き立つ柱などには数多の血が染み込んでいるのだろう。すっかりと変色していて使いこまれているのが分かった。
「追い込み罠、ですね」
断頭台を見上げて、ぽつりと呟くシリン。精霊が視える彼女の眸には、今、一体何が在るのだろうか――。
双眸に映る現実は、巻いた脂で変色していてもきちんと研がれた刃。
猟の方針は決まった。罠も猟師もここにある。後は、獲物だ。
ギチギチギチ。
存外、虫の立てる音は耳につく。
廃墟らしき石群へと赴いたシリンは精霊猟銃を手に音の元を辿る。大きな遮蔽物を背に、意識は音に集中させたまま。
今はまだ視認する必要は無い。音の出所に向けて発砲。
耳を劈く銃声が轟き、空で霧散する前に二発目。
『ギイイイ!!』
石塀を蹴り跳躍したホライゾンストーカーがその姿を見せた。大きなサソリの胴に向けて、試しとばかりにシリンはスコープを覗き三発目を撃つ。
銃弾をはじく硬質な音に一瞬目を眇めた。アリスの残骸を喰らい、でっぷりと太ったホライゾンストーカーはその血肉により強化されているようだ。
あちらがこちらを視認した。敵の、獲物を見つけたという意識を肌にビリリと感じた。
まだ十分に距離があるうちに銃撃を切り上げ、踵を返してシリンは駆けだす。
辿り着いた場所はもちろん断頭台だ。
その下に立ったシリンを目指し、ホライゾンストーカーが飛行してくる。
「羽根妖精よ、私に続け――」
シリンの声に応じ、複製された精霊猟銃が虚空に現れた。ホライゾンストーカーよりも、遥か上に。
敵に集中する数多の銃声――その全てを弾き、かつ自身の軌道のブレも見せないホライゾンストーカーが加速する。
けれども銃撃は誘導するものであった。
『ギギギ!!!』
シリンの柔らかな肉を捕らえようと、関節肢を広げた――そう、獲物は彼女だ。敵がそう確信を得る瞬間、ぎりぎりまで惹きつけたシリンは手を頭上へと掲げた。
タイミングを合わせたように一挺の複製精霊猟銃が落ちてくる。
「わかっていても避けられない。それが罠というもの」
『!?』
シリンの動きから、予定していた行動成功率が落ち、それを察した敵が急停止しようとするのだがそう速度が落ちることはない。
掴む複製がぐるんと時計回りに回転した。伴い、シリンの体も動く――風の精霊が彼女のブーツ裏を弾き上げ、補助をする。
大きく一回転するシリンは空を蹴り、強烈な蹴撃を敵へと放った。断頭台の間目掛けて、真っ直ぐに。
激しい衝突音を立て、柱の間へと嵌まる巨大なサソリ。太った代償か、叩きこまれれば抜け出すのは容易ではない様子。
今だ滞空の最中にあったシリンは身を捻り、腰元に備えた精霊猟刀を抜き放った。
「あなたは、私の獲物」
振り下ろした猟刀が太いロープを切断すれば、大刃の流れる音が耳を劈く。そして、
ザシュッ――。
あんなに硬質であった敵は容易く切断された。
『ヒッ、ギィィィィィ……! ――』
一拍遅れて上がった断末魔は転がっていく頭から放たれ、唐突にぱたりと止む。一瞬噴きあがった体液は、今や新鮮な液溜まりを作っていた。
カチコチ、カチコチ、カチコチ。時を刻む音は止むことなく、全てを過去へと流していく。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
すごく可愛いサソリさんだ
しかもころころ太ってかわいいなあ…
太りすぎて羽根がアンバランスな感じがするけれど
一生懸命飛んでいる姿がとても尊い
アリラビってこんな可愛い虫がいるのか…
なら守らないといけないよ(きりっ
でもこの子オウガなんだっけ…
いいよ、追いかけっこをしよう
【逃げ足】には自信があるんだ
僕に追いつけるかな
というか何で追いかけてくるの?
【動物と話す/コミュ力】で聞いてみる
まさか食べようなんて思ってないよね…
念の為【投擲】でメダルを貼ろう
遅いなあ、ほらこっち
【挑発】と【催眠術】で夢中にさせて
ギロチンの周りに誘いこんだら…つかまえた
【早業】でロープを切る
僕は虫にはやさしい
苦しまずに死なせてあげるよ
カチコチ、カチコチ。
どこからともなく聞こえる時計針や振り子の音。耳をすませば秒針の音も聞こえるはずなのだが、アリスラビリンスへと降り立った鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は気にも留めず気が赴くままに歩いていた。のんびりとしたその歩調は、散策そのものである。
ダークセイヴァー世界のような空は陽もあまりなく、暗澹めいている。どこかどんよりとした空気であったが、彼にしてみれば静かで何だか居心地が良くって涼しいなぁくらいのもの。
草原に続く石畳道。廃墟となった石の街もあり、何となくそこへ入っていく。
『ギギ』
カサカサガサガサ。意外と耳につく虫の足音に、章は周囲を見回した。
(「あ」)
見つけたのは、鮮やかなオレンジ色の体の、ころころとポップな尾のサソリ。
じいっと観察する。サソリは章には気付いていないようで、真っ直ぐ石塀の上を歩いている。
「すごく可愛いサソリさんだ」
ぽつりとした章の呟きに、ぴたっと動きを止めるサソリ――ホライゾンストーカー。尾をくるっと上向かせ、振り向く――目(?)が合った。
「しかもころころ太ってかわいいなあ……確か、アリスを餌にしていたんだったかな?」
前のめりになったホライゾンストーカーは夜空を切り取ったかのような翼を広げる。
「太りすぎて羽根がアンバランスな感じがするね」
章の言う通り、まん丸に太く大きくなったホライゾンストーカーに対し翼はやや小さめだ。
『ギ』
一生懸命飛んでいる姿がとても尊く感じた章である。
「アリスラビリンスって、こんな可愛い虫がいるのか……なら、守らないといけない」
それまでの柔和ともいえる表情を、キリッと引き締めた様は守るべきものを見つけた男の其れであった。アリスラビリンスが滅びてしまえば、このサソリさんもいなくなってしまう。
――のだが。
それはそれとして、ホライゾンストーカーは真っ直ぐに章の元へと飛んでくる。
体長は章の身長半分くらいはあるだろうサソリに、背を向け彼は走り出した。そういえば、と思い出したことがあったのだ。
「でもあの子、オウガなんだっけ……」
尊く、愛でる対象となっても結局敵対する運命はまさに悲劇。
瓦解した石壁を飛び越え、若干身を屈めて方向転換。一瞬だけ、探す動作をしたホライゾンストーカーを引き離す。逃げ足には自信があった。
「――というか何で追いかけてくるの?」
章としては腕を広げて抱きしめることも可能ではあったが、相手の尋常でない雰囲気はそのまま腹を抉ってきそうなもの。
『ギ!』
ホライゾンストーカーから返ってきた『声』は実に端的であった。
ごはん!
「いやいや僕を食べても美味しくないと思うよ?」
見て分かるだろう? と話しかけながらメダルを投擲する章。闇の賭博王ブラックレイヴンが描かれたコインは弾かれることなく、吸着するかのように、ホライゾンストーカーの背にぴたりと貼りついた。
確率空間上の可測関数Xが展開され、勝負の明暗が完全に分かたれた。
ホライゾンストーカーのあらゆるギャンブルに負け続ける不運――それはこの空間において、章が仕掛けるものに負け続けるというものでもある。
「遅いなあ、ほらほら、サソリさんこっちだよ」
逃げるアリスよろしく、声と羽ばたく鴉たちがホライゾンストーカーを惑わす。羽音や遮るような飛行で、同じく飛ぶ敵はぐらぐらと揺れた。
いつしか鴉たちに囲まれ、進路を誘導されるホライゾンストーカーは「もう少し頑張れば美味しい血肉にありつける」という報酬系回路が活性し、ふらふらだ。
「――うん、頑張ったね」
おいで、と声がして鴉たちが離れた――あそこを抜けたら美味しいごはん――その瞬間、
「捕まえた」
ぐるんとホライゾンストーカーの視界が回った。
ザシュッ。
ロープから放たれ、大刃の流れるざらつく音に続いたのはそんな音だった。
どんっと地面に落ちたサソリの頭が転がった。断末魔はなく、章の傍にある胴や関節肢がびくびくと動く。一瞬噴きあがった体液は既に地面に液溜まりを形成していた。
「苦しまずに逝けたね」
よかったよかった、と章。
カチコチ、カチコチ、カチコチ。時を刻む音が、今在るものを過去へと流していく。
「さあ、骸の海へとお還り――元気に飛んでいくんだよ」
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
蠍、でしょうか
食事自体は、仕方の無い事ですが…
それだけのアリスが、亡くなった、と
…逃げる余地さえ、与えられず…
…絶望の国
その名前の通り、でも
赦す事は、出来ません
蠍が居れば気を引き、断頭台の方へ駆けます
翼を広げれば、断頭台を挟んだその先に立ち
静穏帰向で祈ります
蠍の飛行進路を断頭台へ導く様に
風となり、飛行の幅を狭め、圧し下げ
風のトンネルを作る様に
着地地点は、断頭台の元へ
蠍が刃の下へ着けば
合図も音も無く、風の刃でロープを切ります
…君も、せめて
知らないまま、分からないまま、おやすみなさい
…ごめんね
そのまま、浄化と共に祈ります
蠍も、食事になったアリス達も
この世界から、解放されますように
…どうか、安らかに
石畳道に残る轍に血の跡。この道を通って『新鮮なアリス』たちが運ばれたのだろうか。
崩れた石街の中には円卓があり、そこで食事会が催されていたのだろう。
(「食事自体は、仕方の無いことですが……それだけのアリスが、亡くなった、と……」)
見つけた断頭台を見上げ、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は心を痛めた。吊るされた大刃は黒々としていて研いでも拭えない脂が残っている。
支える柱や台は変色していて、使いこまれているのが分かった。ここに横たわったであろうアリスたち。
「……逃げる余地さえ、与えられず……これが……絶望の国……」
祈りを重ねても払えそうにない闇。
時折吹く風はぬるく、空はダークセイヴァー世界のように暗澹めいていた。生命の輝きを、歓びを、封殺する国。
(「その名前の通り……でも――」)
自由は等しくあった方がいい。何者にも、魂を侵す権利はないはずだ。
彼女にしては珍しく、凪の心がざわざわとした。カチコチ、カチコチ、と場に響く時計針や振り子の音が彼女に同調するように。
「赦すことは、出来ません」
ホライゾンストーカーは腹を空かせていた。
柔らかな肉とさらさらな甘い血、硬い肉とどろどろと凝った血。いろんなアリスがいた。オウガ・オリジンへと饗される食べ物であったが、その『おこぼれ』は彼らにとって栄光の極みでもあった。
新しい食事を持って行けばきっと喜ばれる。
アリスの召喚はされなくなったが、先日は偶然迷い込んだアリスがいて、皆で分け合った。
またそんなアリスが来ないだろうか、と、行動していたホライゾンストーカーは一人の『アリス』を見つける。
こちらに気付いたのだろう、娘はどこか慌てたように踵を返して駆けた。
逃げる娘を狙い、ホライゾンストーカーは星空の翼を広げた。
先の心のままに、瑠碧は祈る。
生きるを守り、悲しき過去の残滓を帰す――感じることはできないけれども、残っているだろうアリスの魂を揺蕩う名も無き精霊たちが抱く。
――帰ろう、還ろう……どうか、在るべき場所へ――。
祈り、謳う。
世界に直接渡る響きはホライゾンストーカーを導く。
断頭台の前に立つ瑠碧へと真っ直ぐ飛んできたホライゾンストーカーが関節肢を広げて捕獲しようとする動き。
対し、瑠碧はするりと横へと移動する――ホライゾンストーカーもその飛行進路を変えようとするのだが――風に阻まれた。
『……ギ!?』
背後から圧され、浮上しようとするも空にも明らかに阻害する風。
風のトンネルともいえる、真空の道がそこに出来ていた。
肢を動かしばたばたと抵抗するも、その身は断頭台へと送られた。
瑠碧とホライゾンストーカーの目が合う。
瞬間、ざらついた刃走り。
ザシュッ――。
合図も音も無く、風の刃で切られたロープ。放たれた大刃がホライゾンストーカーを切断していた。
跳ねられた頭がドンッと落ち転がっていく。
「……君も、せめて……知らないまま、分からないまま、おやすみなさい」
はたりと。夜空を切り取ったかのような翼が僅かに動き、液溜まりに落ちた。
昔、どこかの大地で、きっと蠍が夜を見上げたのであろう、そんな星空。
「……ごめんね」
厚い、闇。
そんな世界に一つの輝き――瑠碧の祈り、浄化の力であった。
(「蠍も、食事となったアリスたちも……この世界から、解放されますように」)
カチコチ、カチコチ。
時間はすべてに等しく未来に向かって歩んでいく。
『彼ら』が一つ分、前を見れば先にあるのは浄化への時。
「……どうか、安らかに」
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
アリスを処刑する断頭台…食料を効率よく
供給する加工場というわけか。
マシンウォーカーに乗り込み、
がしょんがしょん歩いてストーカーの前に現れる。
「腹があんなに大きい。相当食べたらしいな……」
ブラスターを一発撃って挑発し、追いかけっこの始まりだ。
奴をギロチンの下に誘い出す。こんな怪物に追われたアリスの恐怖、
筆舌に尽くしがたいものだったろう…。
「空を飛んだ…!」
空中の敵に向けて機銃を撃ちながら、森のさらに奥へ。
ギロチン台が見えるポイントに差し掛かったら、
マシンウォーカーから降りて走るぞ。
手に持ったクロスグレイブを、UCで槍に変えて発射。
飛行能力を強制解除して、勢いでギロチンに突っ込ませてやるか。
草原と石畳道が続くなか、ふとこんもりとした森を見つけたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は吸っていた紙巻タバコを消し、携帯灰皿へと放り込んだ。
途端に肺へと入ってくるのは、世界の拭えない血臭さだ。すり鉢の底に在るかのように澱んだ風。
「アリスを処刑する断頭台……食料を効率よく供給する加工場というわけか――」
石街の円卓、そして森の円卓――準備をすればそのまま食事会に使えるそれを見つけては、ガーネットはやや眉を顰め思考する。
アリスラビリンスの狂ったお茶会。
「……救いの無い国だな」
未開惑星調査用の二足戦車・マシンウォーカーに乗りこんだガーネットは、がしょんがしょんと歩行しながらカメラを回した。
サーチモードで捉えた敵はホライゾンストーカーだ。
もし彼女が生身のまま歩いていたなら『新しいアリスだ』と意気揚々と出てきたのだろうが、今は凄く警戒している。食べられそうにない機械を観察しているようだ。
「ウォーマシンなアリスもいたと思うのだが……」
ホライゾンストーカー的に、好ましいのは柔らかい肉と甘い血なのだろう。硬い肉や凝った血も悪くはない。
「ふむ」
何にせよ膠着状態では意味がない――ということで、ガーネットはブラスターの銃口を向け、光線を発射した。
枝に当たった光線は生木をバンッと弾けさせ、ホライゾンストーカーを飛び退かせた。
夜空を切り取ったかのような翼を広げるサソリ。
「空を飛んだ……!」
広々とした空へ飛び上がったホライゾンストーカーはようやくマシンウォーカーの中にいるガーネットに気付いたようだ。
旋回ののち、急降下してくる。
備えた中量級の機関銃で撃つも、ぐるんと体を回し避けるホライゾンストーカー。
真っ直ぐに突っ込んでくる敵に対し、マシンウォーカーを操って空気噴射で浮上し避けるガーネット。
ノズルを回し、移動する。
「腹があんなに大きい。相当食べたらしいな……」
ガーネットの視界に入ったのは、でっぷりと太ったサソリの姿だ。
着地から二脚のバネを使いマシンウォーカーが駆ける。方向転換は瞬時の滞空に再び空気噴射で行う。
フェイントを仕掛けてみるも、高機動追跡モードとなりつつあるホライゾンストーカーはぴったりとガーネットの軌道をなぞり追ってくる。まさしくストーカー。
(「こんな怪物に追われ喰われたアリスの恐怖、筆舌に尽くしがたいものだったろうな……」)
敵の関節肢が喰いこみ、頭や柔らかな腹から喰われる――麻痺毒に侵されてしまえば、ゆっくりと襲ってくる敵の姿も見ていたかもしれない。意識あるままに、食べられて。
その時。
「見つけた……!」
断頭台を見つけたガーネットはマシンウォーカーから飛び出し、自身の脚で走り始めた。
『ギギギギッ!!』
ようやくちゃんと柔らかな肉を見たホライゾンストーカーの嬉しげな鳴き声。
断頭台の前にガーネットは立つ。
「は、喰われる前に『喰って』やろう――『武器庫』よ!」
ガーネットの巨大な十字架・クロスグレイブが変化し、槍形状となる。
「異界兵器の一つ<節制>を解禁する権利を求める……開門せよ!!」
淀んだ空気を切り裂く異界の風が巻き起こった。
螺旋を描き放たれた魔槍が向かってくる敵を貫いた瞬間、その形状が解けた。刹那の空が――それはどこまでも闇の続く、星の空――ホライゾンストーカーの翼を覆う。
『!?』
否、夜空は夜空へと還り、かき消されていた。
自身の飛行による推進力。翼を失くし、ただ這うサソリの姿となった敵は断頭台へと突っこんでいく。
「チェックメイトだ」
放つブレードワイヤーが断頭台のロープを切る。
ジャッ!! とざらついた鋭い音が流れ、大刃がホライゾンストーカーを切断した。
『ヒギャァァァ……ッ!!』
敵の断末魔は跳ね転がった頭部から放たれている。びくびくと断頭台に残された胴が震え――動かなくなった。
「――閉門」
終末異界兵器「XIV:節制」――再び魔槍の形状となっていたそれが十字架へと戻る。
ホライゾンストーカーが骸の海へと還る様をガーネットは見つめる。蓄えた力、アリスたちの血肉が凪の海へと流れていく様を。
クロスグレイブを地につき立てたその姿は、墓標のようにも見えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
ギロチンというのは死刑囚に苦痛を与えないように開発された物なんだよネ
でも人殺しの道具である事には変わらない
この場にいきなり召喚されて首を切られるなんて想像しただけで震えがくる
今回はオウガへの死刑宣告は僕がやろうか
囮役はソヨゴに任せて
断頭台の側で待ち構える
電子ゴーグルでソヨゴの位置は把握しながら通信する
ソヨゴ5度くらい左に方向変えて
OKその先にゴールがある
がんばって!
オウガが来たらUC発動
断頭台にオウガを拘束する
腕で宙空に弧を描き
袖口から大鎌を取り出す
大仰でごめんネ
刃物はこれしか持っていないんだ
じゃあサクサク執行するよ
苦痛が少ない事に感謝したまえ
そう言ってロープを切断する
城島・冬青
【橙翠】
服に血糊をつけ怪我をしたように装いフラフラと歩きます
ほらほらオウガさん
瀕死のエサがよろよろと歩いてますよ〜
寄ってきたホライズンストーカーを引きつけながらアヤネさんの待つ断頭台へと向かっていきます
オウガの攻撃は食う寸前でよろけたフリをしつつダッシュと残像でうまく回避
惜しい!それでは私に当たりませんよ?
仮に攻撃に当たったとしても毒耐性があるのである程度は平気で動けるはず
断頭台の近くまでうまく誘き寄せたら…
アヤネさんお願いします!
にしてもこうして見ると生のギロチンは迫力があるなぁ
おっと、逃げちゃダメです!
オウガが断頭台に来る前に逃げ出しそうになったらカラスくんで連れ戻す
はい、逝ってらっしゃい
カチコチ、カチコチ、と時を刻む音は時計針や振り子のそれ。
近付いては離れるような秒針の音も聞こえ、ふと、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)は電子ゴーグルに電子時計を表示してみた。――刻みのスピードは、成程、でたらめだ。
どこか狂った姿も時折見せるアリスラビリンス。
その国にある断頭台の下で、彼女は待機していた。目前には使いこまれた断頭台。
染み込んだアリスたちの血で石台や柱は変色している。
「……ギロチンというのは死刑囚に苦痛を与えないように開発された物なんだよネ」
横たわるのであろう場所を見ながらの呟きは誰に向けられたものなのか――。
「でも人殺しの道具である事には変わらない」
周囲を見回す。見晴らしの良い場所だった。
断頭台があり、石畳道が少し、続く先には大きな石でできた円卓――お茶会や食事会に使われていたのだろう。
「……この場にいきなり召喚されて、首を切られるなんて想像しただけで震えがくる」
自身の首を撫でた。ましてや、死刑囚だったわけでもない彼ら。
歓声、悲鳴、首切りショー。
ここが狂った饗宴の場であったと察するのは容易であった。
「――そろそろかな」
そう呟いて、アヤネは台に隠れるように屈む。傍らには流れた血の跡があった。
「――」
祈りの言葉をひとつ、『彼ら』へと送る。
常ならば足取り軽やかに、しっかりとした歩みを見せる城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)であったが、今はフラフラよろよろと石街の郊外を歩いていた。
「……ッ」
刃が首を掠ったのか、べったりと赤い血に染まっている。服は鮮血を吸いこめ切れず、脚に幾筋もの血が伝い落ちていった。そのまま地面へぽたぽたと。滴下血痕が彼女の歩みの跡となる。
はあはあと息切れしながらも、懸命に歩む冬青。
(「ゆっくり歩くのって、結構疲れる~~」)
けれども心の中はいつもの通り、明るい冬青であった。
とりあえず映画で観たようなゾンビ歩きを披露しながら、ふらふら演技。赤いのは血糊であった。
その時、冬青の動きと甘やかな匂いに気付いたホライゾンストーカーが空を飛びやってきた。
『掛かったね』
こっそりと隠した小さな受信機からアヤネの声。
(「ほらほらオウガさん、瀕死のエサがよろよろと歩いてますよ~」)
旋回して様子を見るホライゾンストーカーの動きに、手を振ってアピールしてやりたいところだがここは我慢だ。
冬青の柔らかな肉と甘やかであろう血を喰らおうと、ホライゾンストーカーは急降下してくる。
「……わっ」
躓き、がくんとよろけた冬青は敵の特攻を回避する形となった――まあ、演技である。ばっちり、場には残像。片脚をばねのように伸ばし瞬時にダッシュした冬青の姿は、再浮上したホライゾンストーカーから少し離れていた。
けれども獲物としか見ていないホライゾンストーカーは出来た彼我の距離に気付かず、再び冬青を追いかける。
(「惜しかったですね~。それでは私に当たりませんよ?」)
にっこりと心の中で笑う冬青はふらふらと歩き続けた。
『ソヨゴ、5度くらい左に方向変えて』
(「はい」)
『OK、その先にゴールがある。がんばって!』
ふらふら、よろよろ、時々躓きながらアヤネのいる断頭台へと向かう。
「あっ」
よろけた冬青が掴まるのは石台。
染み込み変色したそこに加わる新たな血の手跡。
『ギイッ!』
冬青を見据え、ゆっくりと降りてくるホライゾンストーカーは何かを考えているようだ。大方、このまま喰らうか大刃で料理してからにするか、というところだろう。
冬青に向けて関節肢を広げたその時、
「かの者の自由を奪え」
この場にはそぐわない、凜とした声。
伸びた影が複数の蛇のようにホライゾンストーカーを拘束する。
ダンッ! と断頭台へと落ちるホライゾンストーカーは、もちろん逃れようとして動く。ウロボロスが一つ、二つ、消えた。
たくさんのアリスたちを喰らい、自身の力に変えてきた敵は強い。星空の翼を広げ、ポップな尻尾はここぞとばかりにバラバラとなり暴れ出した。
「おっと、逃げちゃダメですよ!」
冬青の見えないコルヴォが思いっきり敵の脳天に当たる部分を嘴で突いた。目を回すサソリ。
アヤネが腕で宙空に弧を描けば、袖口から暗澹めいた空を切り裂くように黒き月の如き刃が駆けた。
「大仰でごめんネ。刃物はこれしか持っていないんだ」
Scythe of Ouroborosは止まることなく、ヒュンと風を切る。
じゃあサクサク執行するよ――その言葉は、オウガに恐怖を抱かせた。自身が饗宴のための刃に掛かるのだと悟ったのだ。
それはかつてのアリスたちが見せた震えでもあった。
『ギャギャ!!!』
「苦痛が少ない事に感謝したまえ」
振るった大鎌が音なくロープを切断した。
「はい、逝ってらっしゃい」
『ギーーーーー!!!』
冬青の声を掻き消すように、断頭台の刃がざらついた音を立て落ちていく。
ザシュッ、と跳ねられた敵首が弧を描き、落ちた地面を転がった。
――ギィィィ……と消えていくホライゾンストーカーの悲鳴。
胴にくっついたままの翼から一つ、二つ、三つと。星の輝きが消えていく――喰らってきたアリスたちが、一人、二人、三人と、ようやく永き眠りにつくように。静かに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
箒星・仄々
断頭台と時計の音と
何とも残酷な国です
アリスさん達の悲しみと絶望を思うと
とても辛いです
ご無念に報いる為にも
ここを突破しましょう
風の魔力で浮遊し高速移動で鬼ごっこ
毒液は残像分身で回避
業火の盾で防御
断頭台の側まで誘導
断頭台の下を潜り抜け
敵が追って来たら
烈風でロープ切断
又は突風や激流、爆炎の衝撃でよろけさせて
断頭台へ
ポノさんお勧めの
毒でやられ墜落の振りで誘き寄せも
逃げるばかりではありません
毒液を掻い潜り分身で躱しながら
魔力をブロックへ放ち
尾の尖端を自身に向けさせ
毒液を自分で浴びてもらいます
麻痺始めた緩慢な敵を断頭台へ誘導
…時計の音が聞こえますか?
事後にオウガさん&アリスさん達の冥福を祈り
鎮魂の調
「……断頭台と時計の音と……何とも残酷な国です」
箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)の猫の耳やヒゲがしょんぼりとなる。どこにいても聞こえる「カチコチ、カチコチ」といった時計針や振り子の音は、シンプルだからこそ色々な想いが駆けめぐり、消える。
(「アリスさん達の悲しみと絶望を思うと――とても辛いです」)
風の魔力を纏い、浮遊する仄々を包みこむのはどこか生ぬるく血臭い風。暗澹めいた空はダークセイヴァー世界のようで、希望の光を見せてはくれない。
空を飛んでみると分かったことがある。
石街を中心に、郊外まで点在する断頭台と円卓の存在に。アリスラビリンスはお茶会の頻度が高く、そのぶん、多くのアリスたちが犠牲となってきたのだろう。
「……ご無念に報いるためにも……ここを突破しましょう」
『ギギギ!』
獲物を見つけて空を飛んできたホライゾンストーカーを、旋回やくねくねと飛行しながら翻弄する仄々。
ばらばらにしたおもちゃのブロックを纏った敵はその毒針を仄々へと向け、毒液を発射した。
けれどもケットシーの身軽さを活かした飛行は、業火の盾を出すまでもなく敵攻撃を避けられるものだ。ひらりと軽々と回避する仄々。挑発するように振り子のように左右移動しながら飛ぶ。
「当たりませんよ、鬼さんこちら、です!」
そして、ひゅんっと急降下した仄々と、それを追うホライゾンストーカー。
二本の柱間を通った仄々は急浮上して腕を振るった。刃の如き烈風が放たれ、先にはロープ。
ダンッ! と落ちた大刃が通過しようとしていたホライゾンストーカーを切断した。
「……まずは一体ですね」
出来うる限り、敵を倒していこうと決意していた仄々は休むことなく、次へ。
空を飛行する仄々は目立っていて、次のホライゾンストーカーが森の方向から飛び出してきた。
今までの様子を見ていたのだろう、ホライゾンストーカーは確実に仕留めるべく毒を発射した。
「うっ……!?」
毒に攻撃された仄々は苦しそうに胸をおさえて墜落し、断頭台へと落ちた。
しめしめと近づいてくるホライゾンストーカーであったが、間近に迫り関節肢を広げたところでぴたりと止まった。
胸をおさえる手からちらちらと光るものが見えたのだ――猫の手が力を失うと、光は空へと浮上し――爆発した。
『ギ!?』
爆炎に圧されよろけたホライゾンストーカーへ、跳ねるように起き上がった仄々がカッツェンナーゲルを振るう。最後の一押しだ。
新たな断頭台へと叩きこまれたホライゾンストーカーは、何が起こったのか把握できないままに、処刑刃の新たな餌食となった。
――戦いと爆炎に導かれるように、続き出現する二体の敵。
仄々を『アリス』ではなく攻撃してくる敵だと認識したホライゾンストーカーは、旋回するとともに降りかかる雨の如く毒を放ち続けた。
仄々の業火が盛り、じゅっと音をたて毒液を蒸発させる。刹那に発生する蒸気もまた毒であった。
空へと浮上する仄々はどこか淡々とした声で告げる。
「こうやって、アリスさんたちを動けなくしたこともあるのでしょうね」
断頭台に拘束し、麻痺毒を打ちこみ、意識あるままに喰らったこともあるのだろう――敵たちの動きで察することができた。
魔力を風に、敵が纏うおもちゃのブロックへ放つ。仄々が魔法剣を振るえば土鈴が軽やかな音を立て、風質を変化させた。
つむじ風がホライゾンストーカーの身を傷つけ、さらに尾針を回した。発射し続けていた毒液が敵胴へと当たる。
『ギイィ!?』
傷口から毒液が入りこみ、麻痺は早くに生じた。
墜落し、びくびくと動くホライゾンストーカーを断頭台へと乗せる仄々。星空を切り取ったかのような翼がやけに目に入る――。
「……時計の音が聞こえますか?」
カチコチ、カチコチ。
チクタク、チクタク。
横たわるアリスたちが聞き、その身に感じたであろう、刹那であり永遠の時間。
『……ギ……』
その恐怖を、ホライゾンストーカーたちは身をもって知るのだ。
風が吹けば、終わりの時。ロープを切断した烈風は虚空でその激しさを解き、穏やかな風となってばらばらと転がっている敵たちの体を骸の海へと還す。
「やすらかに」
そう祈り、カッツェンリートで鎮魂の調べを奏でる仄々。
残っていた敵の翼から星の輝きが消えていく。
――喰らわれ、敵の血肉・力となってしまっていたアリスたちが、ようやく永眠できる――そんな風に思ってしまうほどの、穏やかな光の消失。
星の数ほどのアリスたち。
そしてオウガへも仄々は冥福を祈る。
一秒先、一音の先、そこにあるのは安息の時であった。
大成功
🔵🔵🔵