●グリモアベースにて
「みんなみんなーっ、迷宮災厄戦お疲れ様。まだまだ戦争は序盤だけれど、いいペースで行ってるよ。このままの勢いで勝ち進もう」
集まった猟兵に、にこやかに笑うレイッツァ・ウルヒリン(紫影の星使い・f07505)は、会議室を暗くしてグリモアである電脳天球儀を天井に照射した。見上げれば豪奢な宮殿から広がる庭が全面に映る。細部こそぼやけて見えないものの、手入れされた庭を真上から眺める機会は早々ない。わぁ、とレイッツァは声をあげながらもそのまま話を続ける。
「此処はね、『ハートの女王』……オウガ・オリジンに殺された、かつての忠臣の居城なんだ。中では怨念が具現化されたオブリビオンがそこいら中をうろついているよ」
『ハートの女王』の怨念は石像の形で顕現しており、猟兵を発見するとふわりふわりとその重い身体を浮かせ追尾してくるらしい。極弱いオブリビオンであるが、いちいち相手にしていてはキリがない程わんさか出てくるので、逃げた方が早い。そこで鍵となるのが、城下に広がる迷宮と化した庭園からの脱出。他のグリモア猟兵も予知しているように、幾つかに分かたれたこの城区画は、全ての迷宮を踏破することで怨念を消し去ることが出来る。
「これだけは注意してほしいんだけど……彼らにちょっとでも触れちゃったらゲームオーバー、場外にテレポートさせられてしまう。あんまり余裕にしてたら囲まれちゃった、なんて事にならないようにね」
続いて戦場の説明に入る。ハート型の大池を囲うように構築された垣根は、赤と白の薔薇が鮮やかに咲き誇っており、優雅なひとときを味わわせてくれる。しかしあくまで薔薇であることを忘れてはいけない、垣根を乗り越えようと無理に進めば茨が猟兵を襲うだろう。
上から見るとハート型になっている大きな池は、白と赤を混ぜ合わせたような濃淡とりどりのピンク色の蓮の花が咲いている。水面には巨大な蓮葉が浮いており、一般的な成人した人間ひとり位は余裕で乗れる。子供なら二人もいけなくはないか。万が一落ちても水に濡れるだけだが、怨念は池の底まで追いかけてくるので水中が安全とは限らない。
「オブリビオンがいなきゃとっても良いロケーションなのが勿体ないね。ま、全力で駆け抜けるも景色を楽しむのもみんなの自由さ。最終的に、出口へと抜ければ良いんだから」
追いかけっこ、いってらっしゃ~い! なんて、明るい声音でレイッツァはグリモアによる転送を開始した。
まなづる牡丹
オープニングを読んでいただきありがとうございます、まなづる牡丹です。こちらは戦争シナリオにつき、1章で完結致します。
解説の通り、女王の怨念が具現化した石像に追いかけられます。敵は超弱いですが、無限沸きなので最終的には逃げることになります。
●場所解説
巨大蓮が浮かぶハート型の池を中心に、薔薇の垣根が周りを囲っています。開始地点はハートの窪みから、出口は人によって違います。
薔薇の生垣や水面に浮く蓮を上手く利用して、敵から逃げ延びて下さい。もちろん、余裕があれば遊んでも大丈夫です。最終的にゴールできればクリアです。
PSWは参考程度に、自由な発想でどうぞ。
●プレイングボーナス
……地形を利用して女王の石像と追いかけっこする。
●プレイング送信タイミングについて
公開されたタイミングで送って頂いて構いません。
執筆は先着順でなく、大成功に近いものから8/8より予定しています。
万が一執筆許容量を超えました場合、期間いっぱいまでお時間を頂くor不採用の場合がございますのでご容赦下さい。
(基本は全採用を目指す所存です。)
以上。皆様のプレイングを心よりお待ちしています!
第1章 冒険
『女王の石像から逃げろ』
|
POW : 女王の石像の集団に追いかけられながら、迷宮内をマラソンしつつ迷宮を探索する
SPD : 女王の石像に見つかる度に、全速力で振り切って安全を確保しつつ迷宮を探索する
WIZ : 女王の石像に見つからないように隠れ潜みながら迷宮を探索する
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宇宙空間対応型・普通乗用車
どうせなら女の子を追いかける側になりたいが…
女王様に追いかけ回されるのもまた一興ってもんだなぁ!
オレは【水上走行モード】で爆音立てつつ池の上を突っ切らせてもらうぜ!
ハートを引き裂く形で最短ルート💔を爆走だぁ!
怨念を込めた熱烈に歓迎はありがたいが…
オレは車だから王様になれねぇんだよなぁ!
悪いが全力で逃げさせてもらうぜ!
囲まれたら圧縮空気の放射で牽制&ジャンプ⇒緊急離脱だ!
いやまったくモテる車はツライなー!
とか言いつつ派手に騒いで走ってりゃ、石像の注意は粗方オレに向くだろ!
逃げきれればよし!逃げきれなくても仲間を守れる!
二段構えの完璧な作戦だぜぇ!
まぁ捕まってやるつもりもねぇけどなヒャハハァ!
●
世界は、宇宙は、こんなにも広い。己の得意分野を発揮できる機会など早々ないと、宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)は奮起した。この狭い空間において、機動力とはそれだけで利点であることを、傍若無人に振舞う石像型オブリビオンどもに示してやらねばならぬ。石と車、どちらがこの場を制するのか、しかと決着をつけよう!
「どうせなら女の子を追いかける側になりたいが……女王様に追いかけ回されるのもまた一興ってもんだなぁ!」
クラッチ、からの間髪入れずアクセル踏み込みで5速からの急発進!! グリモアの転移先であるハートの凹み部分から、それを引き裂く形で最短ルートを爆走!! 下が水だろうと関係ない、今の普通乗用車は【水上走行モード】、ホバリングにより圧縮空気を下方へ放ち、云わば浮きながらの高速移動が可能となっている! その代償に一気に走行距離1000km程の寿命を喰うのだが致し方あるまい。蓮の花も浮葉もかき分けて、普通乗用車は湖面を駆ける。最早『普通乗用車』の定義が崩れそうとは思ってはいけない。
怨念の籠った女王の石像は、踏み荒らされた池の後ろからのろのろと普通乗用車を追ってくる。このままアクセルを踏み続けていれば追い付かれることはないだろうが、このセダン、交通ルールは守るタイプ。水辺が終わり垣根に侵入したなら、一時停止は忘れずに左右前方後方確認。……うん、四方から敵が来ているね!!
「いやまったくモテる車はツライなー!」
後方水面から、前方右折も左折も直進も敵に阻まれ。となれば溜め込んだ圧縮空気の放出で牽制からの垂直ジャンプ!! 女王の石像は真上に跳んだ普通乗用車を見上げ……呆けた。これは、私がいま追いかけているのは、一体……?
「怨念を込めた熱烈に歓迎はありがたいが……オレは車だから王様になれねぇんだよなぁ!」
空中でハンドルを右に思い切り切ってからアクセル全開で、グオォオオオと急旋回。茨の垣根に突っ込みつつも追っ手からは逃げ延びる。茨は思ったよりも強固であるらしく、普通乗用車の塗装がところどころ剥げて痛々しい。
「痛てて……オレのホワイトパールの肌に傷をつけるとはやるじゃねぇか……保険に入ってなきゃ危うく高くつくところだったぜ……!」
いや知らんけど。保険、入ってそうじゃないですか。非合法な感じの。車検は……どうなんですかね、猟兵なんで通ってるんじゃないですか?(※塗装が剥げていても走行に問題が無ければ車検は通るぞ!)
とかまぁなんだかんだ言いつつも、確りと、派手に騒いでイケイケなBGMを流しながら走っていれば自然と女王の石像の注意は普通乗用車の方へと向き。走って逃げているだけで他の猟兵を守る事にも繋がる。実に攻防一体の技、これほどの戦果をあげられるのは普通乗用車をおいて他にあるまい。二段構えの完璧な作戦に、自分でも満足感を覚える。比例して自然とエンジンの回転数も抑えられ、安全安心な走行が可能となった。
「捕まってやるつもりはねぇけどなヒャハハァ!」
ポンコツでもテツクズでもない、セダン《古き良き》を冠するに相応しい走りが、庭園に轍を刻んでゆく――。
大成功
🔵🔵🔵
水心子・静柄
迷路の道順で悩むだけ時間の無駄だから第六感と野生の勘を頼りにノータイムに判断して突き進むわ。
池のほとりで石像に出くわしたら、一時的に蓮の上に逃げるわ。それで石像が追ってきて、私の蓮に飛び乗ろうとしたら、飛んでる最中に錬成カミヤドリで複製した脇差を念力で操作して、勢いつけてぶつけて池に落としてから、元の場所に戻って進むわ。池のほとり以外で石像に出くわしたら、複製した脇差を念力で操作して足場にし、茨に触れないようにして薔薇の生垣を飛び越してやり過ごすわ。あとやり過ごせそうにないなら、石像の足元狙って複製した脇差を飛ばし、足止めしてから後退して違う道を進むわ。
●
迷路というだけあって、華やかに見える此の庭園も、外敵を逃さない為の複雑な要塞であることに変わりはない。道順で悩むだけ時間の無駄、頼りになるのは己が磨き上げた第六感。それを確信へと変える野生の勘が、走る水心子・静柄(剣の舞姫・f05492)の脚に宿る。ノータイムで分岐を曲がり、直進し、時には引き返して、じわじわと、しかし確実にゴールへ向かっていった。
「数だけは多いのね、嫌になるわ」
のろのろと追いかけてくる女王の石像は、動きこそ緩いが物量で攻めてくるといった戦法だった。静柄の行く手を阻み、少しでも触れようと捨て身のタックルを仕掛けてきたり上から降ってきたりと、想像以上に忙しない。一旦池に逃げ込むと、女王の石像は岸に集まってうろうろしていたがやがてどれかが一歩蓮の上へと歩み出た。
静柄が一歩進めば、同じく一歩追いかける女王の石像。それがいつの間にか何体もいて。全く、これではまるで足場を奪い合うパズルではないか。
「生憎と石と共に沈む気はないの。場外へ放り出されるなんて真っ平御免」
女王の石像のうち一体が漸く静柄の隣の蓮まで辿り着く。重たい石身が跳ねこちらに飛び移ろうとしてくるが、そうはさせない。宙に浮いている隙に複製した黒漆の脇差――自分自身――を複数操り、まるでショットガンのように浴びせぶつけて池に撃ち落とす! 石はそのままドボン、と池に沈みしばらくは浮き上がってきそうにない。たんっ、と足場という領地を広げ、元の岸辺まで戻ったら再びダッシュ! 幾らかは池に落としたけれど、如何せん次から次へと沸いて出るものだから常に移動していなければならないのがつらいところ。
「あっちにこっちに、怨念もここまでくると執念ね」
曲がり角、出会い頭に触れそうになるのを機敏な動きで躱す。こうも遮蔽物が多いと事故も起こりやすいとみるや、静柄は錬成した脇差を宙に浮かせ、細い階段を作り上げた。其処にぴょんと飛び乗って、茨の生垣を越えてゆく。
一本別の路に入ったとはいえ、やることは同じ。ただ走り、ゴールを目指す。追手には足元を狙い複製脇差を飛ばして足止めを、前方を塞ぐ石像には触れないようまた足場を組んで乗り越える。ひたすら進んだ先に見えてきた、光を集約したのではと見紛う次元の歪み。それこそが屹度ゴールだと確信した静柄は、一度だけ振り返った。
「追いかけっこはもうたくさん。この勝負は私の勝ちよ」
さようなら、過去を永遠に彷徨う女王さま。――渦巻く光に向けて足を踏み出す。石像たちはついてこれない領域。薄緑の髪をふわりと翻せば、またひとつの戦場が拓かれた――。
大成功
🔵🔵🔵
オート・チューン
迷路探索まっかせてー!
わたい、鬼ごっこだーい好き!!
池の蓮の上をぴょんぴょんするなんてわくわくだね!
わたい知ってるよ!踏んだら沈む蓮があるんでしょ?!ゲームで見たことある!
鳥足で時々高くジャンプしたり、空中浮遊で着地のタイミングをずらしたりして鬼さんに捕まらない様に遊…逃げるよ!
石像がいっぱい追いかけてきたら沈む蓮トラップをしかけちゃうぞ!
蓮の上にいると思わせて空中浮遊待機!押し寄せて来たらジャンプでひらりとかわーす!すると石像くん達は蓮と一緒に沈むって寸法よ!
お池で仲良くお遊戯会してなさーい!ふっふーん
あ、あれ?怒っちゃった?きゃーにげろにげろー!
●
グリモアベースでぴょんこぴょんこと跳ねていたオート・チューン(太陽のバースデイ・f04855)は、開始地点であるハートの窪み部分に転送されるやいなや、周囲を警備する女王の石像に向かって宣戦布告! 周囲の注目を一息に集める。
「わたい、鬼ごっこだーい好き!! 迷路だって小路だってぜんぶ飛び越えちゃうもんねーっ!」
小さな羽根でぱたぱたと宙に浮くオートへ、わーっと群がる女王の石像たち。「きゃーっ」なんて甲高い声を上げつつ、その裡は楽しさに満ち溢れている。だってそう、ちゃぷちゃぷした池のふわふわな蓮の上をぴょんぴょんするなんて、わくわくどきどきだもの。踏んだら沈む蓮があるって、ゲームで見たことある! 確か石の上はずっと乗ってられるんだよね? 小さな蓮は私の体重でも沈んじゃう? ふふっ、次はどこに進もうか。知略と度胸と好奇心が複雑に絡まり、オートの足取りへ影響を及ぼす。
「攻略法を知ってるわたいに、追いつけるっかな~?」
細くも強靭な鳥足で高くジャンプし、すちゃっと着地した大蓮の上から、右往左往する女王の石像たちに手を振る。みんなここまで来れるかな? うずうずとはち切れんばかりの高揚を、思い切り握りしめて挑発。ここまでおいでよ、わたいと遊……おっと、逃げなきゃいけないんだった☆
「鬼さんこーちらっ! あははっ、ほらぁ……捕まえてみーてよっ!」
石像たちはお互いをしばし見つめ合い……誰からともなく蓮の上へと乗る。石故に重く、オートと違いすぐ浮遊しなければくしゃっと蓮ごと沈んでしまうだろう。整備された池の岸から、中央できゃっきゃと騒ぐオートに向かい進軍する石像はまるで灰色の波。中には蓮に頼らずに完全に池の上を浮遊してくる石像もいた。
「あーっ! そういうのルール違反だよ! ちゃんと蓮の通りに進んで!!!」
オートの叱責に驚いたのか、すごすごと元の場所に戻り、律義に蓮の上を辿ってくる石像のなんと健気なこと。怨念で出来ていても、元々の育ちの良さが分かる敵だ。
追いかけっこは中々順調に進んでいた。石像がいっぱい追いかけてきたら。沈む蓮トラップを仕掛ける。蓮の上にいると思わせて、ほんの僅か空中に浮遊して待機。オート目掛けて押し寄せて来たところをタイミングよく高らかにジャンプし、ひらりと躱す! すると石像達は蓮と一緒に、飛沫は上げども泡も立てずにずっしりと深く沈んでいった。
「ふっふーん。お池で仲良くお遊戯会してなさーい!」
尤も、相手も自分も、世界の命運を掛けて戦っている事に変わりはない。本気で遊んで、本気で勝って。でも、何事も本気で楽しむオートはある意味無敵であると言えるのかもしれない。だってほら、その証拠に、石像たちもそのペースに呑まれてる。浮き上がってこない仲間を見て、石像たちもふわふわゆっくりとオートを追尾して、回り込んだり上下から立体的に攻めたりと意表を突いてくる。ホンキのオブリビオン、こわい怖いっ!
「怒っちゃった? きゃーっ、にげろにげろー!」
――大丈夫。あなたの辿り着く先は、勝利で彩られている。ゴールはすぐそこに迫っているけど、簡単にクリアしては面白くない。「せめてわたいが焦るくらいに……って、わーっ!」……追いかけっこは油断大敵。さぁ、先に一歩踏み出すのはどちら――?
大成功
🔵🔵🔵
玉ノ井・狐狛
※アドリブ/連携などお任せ
なかなかイイ場所じゃねぇか
これでもうちょい混雑(石像を指す)してなきゃァ、なおイイんだけどな
池はフツーに蓮の上を渡って移動
移動先を石像に阻まれたりして問題が起きたら、障壁で足場を作って移動
▻足場習熟▻結界術
必要があれば三次元的にも動ける
石像どもがついてくるには楽じゃねぇだろ?
薔薇のあたりに辿り着いたら、あとはどうにでもなる
UCで薔薇を操作
アタシのジャマにならないように&石像どものジャマになるように操る
鬼ごっこにしちゃ、鬼が多すぎらァ
それだけハンデがあるなら、こっちだって使えるモノは使わないとな
●
白と赤が交互に、或いは整然と並ぶ薔薇並木。高さや形が一定に保たれ、観光地化したらミーハーな女子どもの目に留まるだろう。フォトグラフィックな景観は見ているだけでも圧巻で、玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)の目にもまた価値のあるものに映った。
「ふ、なかなかイイ場所じゃねぇか。これでもうちょい混雑してなきゃァ、なおイイんだけどな」
庭園の端々、垣根に隠れて女王の石像たちがこっちを見ているのが分かる。こんなに視線を集めちまって、全くアタシってば罪な輩だねぇ……なんてのは億尾にも出さず、開始地点から池を横断し最短距離でハートの先端まで蓮に乗って移動する。
どの蓮が自分の体重を支えられるか、というのは目視で瞬時に判断出来た。少しくらい小さくても秒は持つ。次の蓮へ移動する時間さえ取れれば良いと、軽やかにステップを刻みながら狐狛は一歩また一歩と進んで。女王の石像たちは浮遊して追ってくるものの、その動きは鈍い。こりゃあ簡単にゴールできるかもなぁなんて思っていたら、まぁまぁ大変! 向こう岸からもわんさか出てくる石像の群れ。この数を放置したのでは狐狛の乗る蓮が無くなってしまう。
「物量で来るってか。ははぁ、結構けっこう。アタシ相手じゃなかったら通用したかもな」
前後の進退窮まるというのなら、Z軸に逃げ込もう――。この世界は『立体』で出来ている、三次元的に動いちゃいけないような、縛りプレイはしていない。使えるものはなんでも使う、それが本気勝負してくる相手への、最大限の敬意ってものだろう。こんなにも数のハンデがあるなら猶の事!
障壁を宙に足場の様に展開し、ぱっと飛び移れば追いかけてきた石像が弾かれドボンと池に沈む。水飛沫に当たらないようもっと高みへと足場を伸ばし、スタっと下を見れば、面白い事にひとつの蓮の上で閊えている。こちんがちんと石像同士がぶつかっては眩暈を起こしてる姿は、見ていて少し面白い。
「かーっ、鬼ごっこにしちゃ鬼が多すぎらァ。悪いが先に抜けさせてもらうぜ」
石像の浮遊追尾を、障壁足場を次々と作り出して回避していく狐狛。歩みは一時だって止めない、いつだって走り抜ける!
漸く対岸まで辿り着いたなら、ヌっと垣根から出てくる石像数体。しかし此処まで来た以上負ける要素は見つからない。侵掠すること林の如し、視界内の薔薇の生垣がうねうねと動き出し、急成長! 石像たちを絡めとり、ぎゅうっと縛り上げる!!
ついでに迷路になっていようと関係ない、ひた走るのに邪魔な垣根は、全て退けと脳内で操れば、植物のくせにまるで動物のように薔薇は狐狛を避けてぐにゃっと曲がりくねった。その間を駿と駆け抜けて、目指すはゴール、虹の屈折を宿す異次元の扉!
「量より質だぜ、お前さん方。ま、次の勝負にでも活かしてくれや」
視界に入れたゴールに飛び込めば、眩い光と共に新たなる路が切り開かれてゆく。おめでとう、あなたはこの蓮薔薇庭園を攻略した――!!
大成功
🔵🔵🔵
佐々・夕辺
ロキ【f25190】と
なるほど、此処からスタートね
ってロキ、これはれっきとしたお仕事よ!判ってるの?
障害物はUCで飛び越える
――え?
あぶない、と言われて振り返ったら
神様がふつりと消えていた
……ロキ? ね、ねえ、どこ?
…ロキ!? ロキ! どこいったの!
ロキお兄ちゃん!
涙が出て来る 一人ぼっちの私
其れでも逃げ切らなきゃいけない
走れ、走れ走れ
ゴールについたらロキと再会
ばか!しんぱいした!
そんなお花なんかで…懐柔されないんだから…!
人がどれだけ心配して、ばか、ばか……!
お花が似合う女の子じゃなくていい
大切な人を失わない私になりたい
とにかく、ロキのばか!
ロキ・バロックヒート
夕ちゃん(f00514)と
追いかけっこして遊べるやつだね
え、お仕事?わかってるって
薔薇の庭が見事だね
ほんとにきれい
蓮の上に飛び乗っていくのも楽しくて
頑張って先行する姿も可愛らしくて
危なかったらUCで蹴散らすけどさ
追いかけっこにもそろそろ飽きてこない?
あー夕ちゃんあぶなーい
怨念から庇うフリしてわざとゲームオーバー
ゴールで出迎えて
そんな泣いて怒んないでよ
ほらこれあげる
薔薇の庭園で摘み取ったピンク色の一輪
蜂蜜色の髪に差してあげて
最近そういうのが似合う女の子になってきたよね
えー駄目?ごめんってば
小さい頃したみたいに撫であやす
花言葉は可愛い子、とは心の中
だいじょうぶ
俺様はずっと夕ちゃんのお兄ちゃんだから
●
「なるほど、此処からスタートね。ちょっとやだ、もう鬼さんいっぱいいるじゃない!」
「追いかけっこして遊べるやつだね。楽しそう」
からからと目を細めて笑うロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)に対し、佐々・夕辺(凍梅・f00514)はキリリと強めな態度で言い返した。思わず背筋が伸びてしまうような凛とした声音であったが、当事者のロキはのらりくらりとそれを躱して。
「ロキ、これはれっきとしたお仕事よ! 判ってるの?」
「え、あー……うん。わかってるって」
見事な薔薇の庭園を一望する。白と赤が交互に並んで市松模様になっている個所もあれば、真っ直ぐ一列一色で埋め尽くされた垣根も存在し、見ているだけでも面白い。本当に、綺麗で、手入れの行き届いた庭だとわかる。これがオブリビオンの作りだした世界だなんて、少し勿体ない。だって――ゴールしたら消えてしまうから。
「行きましょう、ロキ。先にゴールを見つけた方が勝ちでどうかしら?」
「いいよぉ。俺様探すのも隠れるのも得意だから、ハンデでもあげようか?」
「まぁ! ではお手並み拝見させて頂戴」
踏み出した一歩はまず紅薔薇の並木道。薔薇の樹は青々とした葉枝を可愛らしくハート型に剪定されて、まるで映画の中に入り込んでしまったみたい。丁度それらしく、悪役《女王の石像》も樹の陰や曲がり角からじっと二人の様子を窺っている。先に手を出した方が負け? それとも先手必勝? どちらでも良いけれど。二人、近い視線が絡み合う。目は口ほどに物を言い、互いの言いたい事を正確に捉えて踵を返し、大蓮にワンツーとステップを踏みながら飛び乗った夕辺、それに軽やかな足取りで続くロキ。追って追われて、追い進んで。誰が鬼なのか、段々ごちゃごちゃしてきたぞ?
一生懸命ロキを誘導するよう頑張って先行する夕辺の姿が可愛らしくて、思わず笑みが零れる。ほんとに愛い存在だね、なんて。本人に伝えたら頬を膨らませるのだろうけど。いやはや、それも見てみたい気もする。ふふっと笑うロキの心境もしらず、「こっちよ!」と手招きする夕辺の健気なこと。
女王の石像はふわふわゆっくりと追尾して、走っていれば追いつかれこそしないけれど、ずぅっと視界に入ってきて煩わしい。追いかけっこもそろそろ飽きてこない?
「あー、夕ちゃんあぶなーい」
「――え?」
横から迫る女王の石像を避けて隣の大蓮にジャンプしたら、合わせて後ろから割り込んできた敵に挟まれる。だめっ、と思いながらもロキの声にハっとして夕辺が振り返れば、其処に既にロキの姿はない。神さまは、ふつりと消えていた。夕辺への攻撃を庇って、ヒュっと、最初から居なかったみたいに、ひとりぼっちの夕辺。
何処に行ったの、ロキ――。夕辺の藍の瞳がぐわっと揺れる。戦慄く唇は無意識に神様の名を叫んでいた。
「……ロキ? ね、ねえ、どこ? ……ロキ!? ロキ! どこいったの! ロキお兄ちゃん!」
答えが返ってくることはない。この世界からまるではじき出されてしまったかのように、此処に居るは夕辺唯一人。涙がじわりと溢れ、頬を伝う。でも、孤独を感じている暇はない、敵はまだすぐそこにいる――逃げ切らなければいけない。ロキが紡いだこの機会を無駄にすることは出来ない。走れ、走れ走れ! 脚が動かなくなるほど速く、強く!!
大蓮を蹴って高らかなジャンプ。宙を舞い、1回2回……対岸まではすぐそこ。跳べ、翔べ。……かみさまをひとりぼっちにしちゃいけない。嗚呼、可笑しいな。涙が出てくる。心細いのは私自身のはずなのに、こんな時までロキの事が心配で。全く、腐れ縁だなんてものは言いようね――。
跳躍を駆使し岸辺に辿り着いたら、きょろきょろと周囲を見渡す。右手には紅薔薇、生命の輝きたる血潮色の薔薇。左手には白薔薇、蒼空に挿す純白の雲にして水平線まで届く泡の色。迷って中央の路を進む。その深奥にはきらきらと輝く時空の歪みが見えた。でも、一人でいくわけにはいかない。
「ロキ……どこ?」
「はーい?」
「!!」
辿り着いたゴール。垣根からひょっこりと身体を出して、ロキは悪戯っぽい笑みで夕辺を迎えた。驚きつつも安堵が勝った夕辺は、またぽろぽろと透明な雫を瞳から零して駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「ばか! しんぱいした!!」
ぽかぽかと優腕がロキの胸を叩く。どこまでいっても可愛い子、そんなに泣いて怒らないで?
「ほら、これあげるから機嫌直して?」
「……?」
ロキの手に握られていたのは、赤でも白でもない、ピンクの花弁の一輪。此処に来るまでに偶然見つけた、奇跡色のそれを蜂蜜色の髪にすっと差し込む。まぁま、とっても可愛らしいレディの出来上がり!
「最近そういうのが似合う女の子になってきたよね」
「こんなお花なんかで……懐柔されないんだから……! 人がどれだけ心配して、ばか、ばか……!」
「えー駄目? ごめんってば」
小さい頃もこうしたっけ。と懐かしみながら、ロキは絹糸のようにきらめく髪を撫であやす。挿し込まれたピンクの薔薇が、手の動きに合わせてゆらゆら揺れた。花言葉は可愛い子、とは心の中。少しだけ高い背は夕辺の繊細な睫毛を捉える。
泣かないで、何処にもいかないよ。
――だいじょうぶ、俺様はずっと、夕ちゃんのおにいちゃんだから。
絡まる指先は視線よりも熱く逞しい。それが分かって、夕辺はふっと瞼を閉じた。
お花が似合う女の子じゃなくていい。大切な人を、失わない自分になりたい。私が想う大切なひと、私を想う誰か、いつか出会う大切な存在――……それを護れる私に。
なぁんて、あなたに伝えるのは少し癪だから、これは心の裡に秘めておくけれど。でも、これだけははっきり言わせてね。
「……~~っ、ロキのばか!」
「は~い」
笑いながら、怒りながら。叩きながら、撫でながら。二人、息を合わせて一斉に虹の輝きを放つ時空の歪みに飛び込んだ! 世界が祝福するように薔薇の花弁が舞いあがる。赤と白に包まれた二人を中心に光は収束し、気付けばアリスラビリンスの拠点へと戻っていた。
「……夢だったみたい」
「夢じゃないよ」
ほら、とロキが夕辺の髪を掻き揚げれば、鮮やかに咲き誇るピンク色の思い出が一輪。
おめでとう、君たちはこの戦場を攻略した!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵