14
終末病棟アムネシア

#UDCアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


0




●苦痛からの解放
 ――痛い。辛い。苦しい。
 ――誰か、お願い。たすけて。

 パパとママ、お医者様にもお願いしたけど、誰もたすけてくれない。
 毎日ずっと苦しくて、こんなのが続くだけなら生きていたくなんかなかった。
 けれどあの日、『あのこ』は私を助けてくれた。
 私はもう大丈夫。だって痛いのも苦しいのも全部、あのこが忘れさせてくれたから。

●結ヶ丘病院の噂
 入院患者が或る日突然に姿を消す。
 亡くなった患者の遺体が消え去っている。
 退院した後に患者が行方不明になる。
 更に不可解なことに、対象者は全て――少年か少女のみ。

「これがUDCアースの日本にある、或る病院で起こっている出来事です」
 グリモアベース内。
 人狼のグリモア猟兵、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は集った猟兵達にとある病院について話した。
 これまでごく普通の病院だった其処に今、異変が起きているという、
「そこの名前は結ヶ丘病院です。最近、古い旧病棟の隣に新病棟を建てて入院患者さんがぐっと増えたらしいのですが……」
 近頃、小学生から高校生ほどの年頃の患者が失踪や行方不明となっている。
 病院側や関係者はどうやら少年少女に対する記憶を消去されているらしく、事件は表沙汰にはなっていない。
 おそらくは何らかのオブリビオンが関与しているのだろう。
「今回、皆さんにお願いしたいのは潜入調査です。僕の見立てではオブリビオンは、今はもう使われなくなった旧病棟にいるはずです。ですが、お昼の間に旧病棟に乗り込むことはできなさそうなんです」
 誰もいない旧病棟など何かが潜むのにはお誂え向き。
 其処に何かが秘められている可能性は高い。
 だが、其処は新病棟からよく見える位置にある。明るいうちに侵入しようとすれば咎められて止められるうえ、内部に潜む何かが此方の存在に気付いて逃げ出してしまう可能性が非常に高い。
「だから、お昼の間は新病棟で敵の手がかりや異変の正体を探ってください」
 院内の人々に怪しまれない程度に敵の情報を集める。
 または、夜の為に旧病棟の鍵を拝借しておく。
 病院自体について調べてみるなど、その他にも出来ることはたくさんあるだろう。
 そして夜になったら、闇に乗じて旧病棟に乗り込む。
 敵の正体を知った状態で戦えるか、謎のまま挑むことになるかは潜入調査の結果次第。
「けれど気を付けてください。オブリビオンが年若い患者さんを狙っていることは確かです。患者さんに成り済ます場合はすごく危険だと思います」
 幸いにも入院手続きは人類防衛組織UDCの協力によってスムーズに行える。
 しかし、患者として潜入するならそれなりの覚悟が必要だ。昼間の院内でいきなり襲ってくるようなことはないだろうが、万が一にでも敵や関係者の接触があった場合、どう対応するかも決めておいた方が良いだろう。
 十分に気を付けてください、と告げたミカゲは病院に赴く仲間達をしっかりと見つめる。その眼差しには信頼が宿っているように見えた。
 そして、少年は十字架型のグリモアを掲げる。
「それではテレポートを始めます。どうか皆さん、よろしくおねがいします……!」


犬塚ひなこ
 今回の世界は『UDCアース』
 或る病院に巣食う謎の存在を突き止め、倒すことが目的となります。

●第一章
 入院患者の異変と行方を調べる為の潜入ターン。
 基本的には昼間に新病棟で情報を集め、夜に旧病棟へ忍び込む流れとなります。鍵はあってもなくても侵入可能ですが、あった方がスムーズです。

 【POW】危険度:低。
 【SPD】危険度:中。※患者に成りすまし、且つ少年少女の場合は危険度:大。
 【WIZ】危険度:中。

 以上が大体の指標となります。
 いずれの場合も派手に動くと敵に感知され、失敗という可能性が高いです。
 フラグメント以外にも出来ることはありますので、皆様の自由な行動と発想を試してみてください。判定はしっかり行いますが、無下に扱うことは致しません。
 また、一章は成功ラインに達した時点で次の章に進む予定です。

●第二章:集団戦。現時点で敵の数、詳細は不明。

●第三章:ボス戦。現時点で詳細は不明。

 二章、三章からの途中参加も大歓迎です。
 怪しい旧病棟に纏わる不穏で不気味な雰囲気を感じて頂ければ幸いです。それでは、どうぞよろしくお願い致します!
435




第1章 冒険 『深夜の病院に彷徨える……』

POW   :    人がいなくなるまで病院内で身を潜める、検査室や職員食堂などを総当たりで調べる

SPD   :    患者に成り済ます、病院長室や職員のロッカーなどから手がかりを探す

WIZ   :    医療関係者に成り済ます、カルテや院内のイントラネットをのぞき見て情報を得る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月山・カムイ
記憶を消去されている、という状況は些か危ういものを感じますね
ですが、カルテ等は消去された証拠等が残っている可能性もあります
ここはひとつ、影の追跡者を利用してその辺りの残された痕跡がないか、漁って見ますか
……イントラネットのハッキング等が出来る人が手伝ってくれるとありがたいんですけどねぇ

影の追跡者を召喚して、医療関係者の追跡を行いカルテの整理やイントラネットの操作をしている所を盗み見る
連番として保管されているカルテに抜けはないか
居たはずの患者のデータが消されていたりしないか
場合によってはカルテの倉庫なんかに忍び込んで、そこでカルテの確認をしてみる、という手も使えるかもしれませんね


蘭・七結
サクヤさん(f00865)と一緒に。

病院にはカルテ庫があるはず。
亡くなった子はもちろんだけれど、行方不明の子たちが退院の扱いになっていれば、紙媒体のカルテがそこにあるはずだわ。
専門卒程度の新人医事課職員に【変装】。医事課でカルテ庫の場所を調べつつ、PHSを借りるわ。
行動をする前にPHSで院長室とカルテ庫の職員へ電話し【礼儀作法】で丁寧に対応。【おびき寄せ】の技能で最上階の病棟へ行ってもらいましょう。

カルテ庫前まで来たら〝白き災厄よ来たれ〟を使用し、召喚した白蛇のイルルに見張りをお願いするわ。イルル、よろしくね。
サクヤさんとはPHSを使って連絡を取りましょう。何か手掛かりを掴めたら報告するわ。


東雲・咲夜
七結ちゃん(f00421)と情報収集

【目立たない】よう静かに、如何にも関係者な顔で振る舞いましょ
看護師さんたちの更衣室で適当な白衣をお借りし
着替えたら早速院長室へ
その間も噂話など耳にしたら詳しく聞かせて貰えへんか話しかけてみます

七結ちゃんとの連絡用にナースステーションでPHSをこそっと拝借
次いで向かう院長室に誰もいーひんのを確認したら潜入
神使の白狐を召喚し、少し離れた通路で患者はんのフリをさせ見張りをお願いします

【第六感】を頼りに怪しそうな引き出し、棚、ファイルに
手掛かりあらへんか探索しましょ
泥棒はんみたいな真似して堪忍え…

収穫時や退室時に七結ちゃんに連絡入れましょな

🌸アレンジOK
🌸京言葉



●不自然なカルテ
 真白な壁、清潔感のある床と廊下。
 建てられたばかりだという新病棟の内部は診察や見舞いに訪れた人々が其々に行き交っている。それは一見すると何処にでもある病院内の光景。
 だが、此処には悪しき何かが潜んでいる。
(「記憶を消去されている、という状況は些か危ういものを感じますね」)
 月山・カムイ(絶影・f01363)は待合室の椅子に腰を下ろし、暫し院内の様子を眺めていた。失踪事件に思いを巡らせたカムイはふと或る看護師に目を付ける。
 記憶をどうにかされている以上、医療関係者は何も知らない。
 だが、カルテなどには消去された証拠が残っているのではないか。そう当たりを付けたカムイは影の追跡者を召喚し、看護師をマークさせた。
 そして、誰かを待っている様子を装ったカムイは影の追跡者から伝えられる情報へと意識を向ける。
(「やはりカルテ庫に向かうようですね」)
 カムイが追跡者を付けたのはカルテらしき束を抱えていた看護師だ。
 予想通りに看護師が部屋に入り、手にしていたカルテを棚に仕舞う。そして別のカルテを出してイントラネットに何かを打ち込み始めた。
(「普通の患者のデータばかりですね。外れでしたか」)
 画面を望み込む追跡者と五感を共有している為、カムイはデータをクリアに見ることが出来ている。だが、操作しているのは看護師自身。
 カムイが望む少年や少女のデータにはなかなか行きつかない。
 しかし、カムイはふと気付く。
 おかしいな、と呟いた看護師が首を傾げてカルテをまじまじと見た。影の追跡者が合わせてそちらを見ると、どうやら書類のナンバーが幾つか抜けているようだった。
(「今のは……行方不明になった患者の分なのでしょうか」)
 看護師も不思議がっているということは意図された抜けではないのだろう。
 やはりこの病院には何者かの手が入っている。
「忍び込んででも調べに行かなければならないようですね」
 椅子から立ち上がったカムイはカルテ庫に続く廊下を見据え、歩き出した。
 其処に新たな異変が待っていることは未だ知らぬまま――。

●其れは何者か
 一方、女子更衣室から出て来る影がふたつ。
 蘭・七結(恋一華・f00421)と東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)は互いの健闘を祈り、其々の目指す場所へと歩を進めた。
「七結ちゃん、気ぃつけてね」
「サクヤさんも無理はしないでね」
 七結は新人医事課職員としてカルテ庫へ、咲夜は白衣を纏った関係者として院長室へと向かう。その際、先程ナースステーションで拝借してきたPHSの電源を入れた七結は或る場所にコールした。
「もしもし? 実は緊急の案件で人手が足りなくて……」
 七結が掛けたのはカルテ庫の電話、そして院長室に通じる番号だ。
 礼儀作法に則ってそれらしい話を告げ、最上階に来て欲しいと伝えた七結は電話を切る。これで其々の部屋の者は暫し部屋をあけてくれるだろう。
 咲夜は七結から連絡を受け、院長室に足を踏み入れる。
「何か手掛かりがあるとええのですけど……」
 見張りとして神使の白狐を召喚した咲夜は扉の前に彼女を立たせ、内部の探索に入る。もし院長自らが行方不明事件に加担しているのだとしたら恐ろしいことだ。
「泥棒はんみたいな真似して堪忍え」
 罪悪感を覚えながら咲夜は怪しそうな棚や引き出し、ファイルを探る。
 しかし、何も見つからない。
 第六感も働かず、めぼしいものは何もなかった。もしかしたら院長自体は事件に何の関係もないのかもしれない。
 手掛かりが見当たらないことは残念だったが、咲夜は逆に安堵を覚えた。
「流石に院長はんが黒幕なんは……」
 そこまで言い掛け、咲夜ははっとする。外の白狐が「こんにちは」と誰かに挨拶する声が聞こえたのだ。
 院長が戻って来た合図なのだと察した咲夜は慌ててファイルを元に戻して扉から出る。すると其処には訝しげな顔をしている院長がいた。
「おや、どうしたんだい」
「いいえ、院長はんに書類を渡しに来たんです。机の上に置いておきましたえ」
 院長に偽りの理由を告げ、咲夜は白狐の手を引いてその場から去る。
 もちろん、机の上に書類などない。ボロが出る前に退散しようと決めた咲夜の判断は正しかった。その後、ありもしない書類を探し回って首を傾げる院長の姿があったらしいが、それはまた別の話。
 ――同じ頃、カルテ庫にて。
「おいで、愛しい子」
 七結の声に呼応するように白き災厄こと、白蛇のイルルが召喚される。
 自身と五感を共有する白蛇へと入口の見張りをするよう願い、七結はカルテを調べる為に棚に向かった。
「イルル、何かあったらよろしくね」
 もし職員が戻って来てもすぐに出れば必要以上に怪しまれることはない。
 注意深く見る必要がある為、カルテを見る間はイルルの視界を感知することはできなくなるが、その他の感覚が働いていれば問題はないだろう。
 七結は小児科のカルテを見つけ出し、しっかりと書類を探っていく。
 そして、幾つかの番号が抜けていることに気付いた。
「きっとカルテ自体が抜かれて隠蔽されてるのね。だったら――」
 更に七結は思い至る。
 書類自体が抜かれているのなら、このカルテ庫にオブリビオンかそれに関係する者が出入りしている可能性が高い。つまり、この場は危険だ。
 そう感じた瞬間。
「……ッ! 何、この痛み……!」
 硫酸でもかけられたような鋭い痛みが七結に襲い掛かった。
 直接何かに攻撃されたのか。否、違う。外で見張りをしているイルルが攻撃されたのだ。七結はこれがイルルの痛みなのだと悟り、カルテを見ていた意識を白蛇の視界に向ける。
 廊下には蛍光色の薬品が入った試験管が転がっている。
 そして、妙な声が聞こえた。
「誰か知らないけれど、何か嗅ぎ回ってる連中がいるみたいだね」
 すぐに声の主の姿を探るが、逆光になっていてよく見えない。
 七結が目を凝らそうとした時、廊下の端から誰かが走ってくる足音が聞こえた。声の主もそれに気付いたらしく身を翻す。
「実験動物にしてやろうと思ったけど見逃してあげよう」
 それだけを告げ、何者かは足音とは反対方向へと駆けていった。
 七結はカルテ庫を飛び出し、何かの薬品をかけられたイルルを抱きあげる。通常なら見つかり辛いはずの白蛇が発見されたということは、あの声の主はオブリビオン、ないしは相応の力を持っているものなのだろう。
 そして、其処へ咲夜と、同じくカルテ庫を調べに訪れたカムイが駆け付ける。
「七結ちゃん……!」
「何か物音がしましたが大丈夫ですか?」
「わたしは平気よ。でも……」
 イルルにごめんね、と告げた七結はその体をそっと撫でた。
 そして七結は咲夜とカムイに今しがた起こったことを告げる。
 影は随分と小柄で白衣を着用していた。男とも女とも取れぬ不思議な声色だったと話す七結の言葉を聞き、咲夜達は警戒を強めた。
 カルテを抜き、少年少女を秘密裏に連れ去る者。
 その真意は未だ、知れず。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

春霞・遙
小児科医としては流石に病院で子供が、って事件は見過ごせないなぁ。

WIZ
UDC組織に掛け合って解決するまでの間、結ケ丘病院で外勤させてもらう。ついでに夜に行動する日の当直も代わってもらうことにすれば夜に行動しても不自然じゃないよね。
カルテから行方不明者に年齢以外の共通点がなかったか「情報収集」しておく。
職員も患者も覚えていないってことだけど、変わったことがなかったか、変な人が来なかったかなど不自然にならない範囲で回診のときに聞いてみる。「医術」「言いくるめ」
被害者になりうる患者さんと患者として忍び込む猟兵の人にシャドウチェイサーを憑けておく。そして侵入や探索やいざという時のフォローをします。



●謎の声
 結ケ丘病院、外勤医師。
 それが今の春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)の仮の肩書きだ。
「小児科医としては流石に病院で子供が、って事件は見過ごせないなぁ」
 自分にしか聞こえぬ声で呟き、遙は事件を解決する決意を固める。
「彼が簡単に当直を代わってくれて良かったよ」
 そういって思い返すのは今夜の当直だった研修医の姿。彼は最初こそ渋っていたが、疲れているのではないかと指摘された上に休むべきだと遙に上手いこと言いくるめられた。それゆえに今はこうして当直の座を譲って貰えている。
「これで夜に行動しても不自然じゃないよね」
 夜まで情報収集をしようと決めた遙は白衣を翻し、回診に向かう。
 彼女は元より小児科医。それゆえにスムーズに行方不明になり得そうな年齢の少女達の元へ行くことが出来た。
 普段通りに簡単な診察を終えた後、遙は子供達に聞いてみる。
「そういえば最近、変わったことがあったり、変な人が来なかったりしなかった?」
 すると、間もなく退院する予定の少女から妙な話が飛び出した。
「えっとねえ、変な人というか声は聞こえたよ」
「声?」
「うん、お昼にちょっと眠っちゃったときかなあ。『痛いのも苦しいのも、忘れたくない?』って聞いてくる誰かの声が聞こえて目が覚めたの」
「それで……あなたはどうしたのかな」
「もう痛いのは治ったから大丈夫だよ! って答えたら声は聞こえなくなったよ」
 夢だったのかな、と不思議そうに首を傾げる少女。
 本当に夢うつつだったのかもしれないが、遙は妙な確信を得ていた。これは紛れもなく『敵』が少女に接触した痕跡だ。
 ありがとう、と少女に告げた遙は手を振り、そっと影の追跡者を呼び出した。
「……まだ狙われている可能性はあるかもしれないですから」
 少女のベッドの下に影を潜ませた遙は病室を後にする。敵がそれ以上接触しないでいるということは少女は対象から外れたということかもしれないが、念の為だ。
 敵はおそらく何らかの見込みがある少年や少女にまず声を掛けて回っている。
 ならば今、一番危ういのは――。
「入院患者に扮している子達ですね。急いで知らせないと」
 その子達の病室は何処だっただろうか。
 遙は駆け出したくなる気持ちを抑え、廊下を進む歩を速めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

クレム・クラウベル
【WIZ】
医療関係者装い潜入
UDC組織から衣装等拝借。言葉遣いも丁寧に

それとなく医療の話から旧病棟の話へ移し情報を探る
そういえば、最近病棟を新しくされたのでしたか
あちらの病棟はもう利用されていないのですか?

また、今入院している年若い患者と接触できそうなら会話
患者役の猟兵とも協力して、同室になったので仲良くして欲しい等切り口に
目線を合わせ不審がられない範囲で
いつから入院しているか等尋ね敵に関する情報を探る
家を離れて暮らすのは君たちには大変なことも多いだろう
なにか困っていたり、気になることはないかい?
子供の間でなにか噂がないか等も調べる
ありがとう、辛いことも多いだろうけど、早く元気になれるといいね



●怯える少女の話
 此処はナースステーションの内部。
 クレム・クラウベル(paidir・f03413)は人類防衛組織UDCから医療関係者としての衣装と仮の立場を得て、医師の一人として其処に立っていた。
「そういえば、最近病棟を新しくされたのでしたか」
 医療の話をする傍ら、クレムはふと窓辺から見える旧病棟に目を向ける。
 そうなんですよ、と看護師が答えるとクレムは更に問い掛けた。
「あちらの病棟はもう利用されていないのですか?」
「ええ、随分と古くて。もう器具は廃棄して待合室の椅子なんかも取り払って、後は取り壊しを待つだけなんです」
 成程、と頷いてクレムは急病を眺める。
 つまり今、中はがらんどうになっているということだ。ブラインドの類は未だ残っているようで、新病棟から旧病棟の内部を窺うことはできない。
 それは結局、内部で妙なことが行われていても察知できないということでもある。
 クレムが暫し考え込んでいると、看護師が更に口をひらく。
「そうそう、新病棟の作りは旧病棟とほとんど同じなんですよ。壁や床はもちろん新しくなっていますが、病室の位置や各部屋の配置は同じ方が良いっていう院長の意向らしいんです」
「それは有り難いですね」
「?」
 それならば夜に乗り込むときも迷わないで済むと感じてクレムは思わず呟く。しかし看護師が不思議そうな顔をしたので、何でもないと誤魔化した。
 そして、暫し後。
 旧病棟の情報を十分に得たクレムは年若い患者の話を聞きに病室へ向かう。
 丁度、不安げな少女を見つけた彼はその子に話を聞いてみることにした。
「家を離れて暮らすのは君たちには大変なことも多いだろう。なにか困っていたり、気になることはないかい?」
「……こわいの」
 すると少女は怯えたように声を震わせた。
「怖い、というと――」
「痛いのも、苦しいのも忘れさせてくれるよって、誰かが言うの」
「それは誰だい?」
「わからない。どこからか声が聞こえて……わたし、こわくて何も答えられないの」
 少女は心底怖がっていた。
 それはきっと幽霊などの類ではなく、オブリビオンが関与するものだ。そう直感したクレムは少女の肩を軽く叩き、大丈夫だと励ます。
「ありがとう。その怖いものは追い払うよ、必ず」
 だから病気が早く治るように頑張ろう。
 口調も柔らかく変え、やさしく告げたクレムは少女に別れを告げて歩き出した。
 同様に院内で調査を行っている猟兵達も『声』の噂や話を聞いているようだ。病室に潜む何かの存在を強く感じながら、クレムは再び旧病棟を見据えた。
 きっとあの場所に行けばすべてが分かる。そんな気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

勘解由小路・津雲
■行動(WIZ)ただし、医療関係者ではなく、守衛になりすます。これならカギの場所も分かるだろうし、病院内を巡回していても怪しまれないだろう。巡回していて、気になったところにはユーベルコード【式神召喚】で式神をおいておこう。守衛が患者とあまり積極的にやり取りするのは怪しまれるかもしれないので、もどかしいがこぼれおちる噂話をひろいあつめる程度にしておこう。

あと守衛仲間からも話を聞いておく。あくまで世間話の域をでないように、「そういや、病院てのはよく「出る」ってきくけど、ここにもそういう話はあるのかい?」という感じ。


虻須・志郎
連携アドリブ歓迎

関係者は記憶を消されてんなら
まず記録を漁るしかないか
UDCに行方不明者の情報提供と設備業者の身分偽装を依頼
合わせて少年少女以外に病院関係者で失踪した者の情報と
設備の見取り図も貰えるだけ貰おう

正面から設備調査の名目で入り
見取り図に従い院内インフラの中枢へ向かう
サーバーにマッドネスで院内のハッキング
失踪者及び失踪者発生時のシフトを調査
そして監視カメラの無力化を実施しよう

次に関係者を絞込み逆行催眠で状況を聞き出す
面倒事はアムネジアフラッシュで無かった事に
邪神様には俺じゃ知覚出来ない異常を調べてもらうぞ

鍵開けろだ? ちょっと待て、直ぐ終わる
一人で見切れる量じゃない、皆で協力していこうぜ



●深まる謎
 その頃、守衛室にて。
 勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は警備の人間として院内に入り、様々な場所を巡っていた。
 彼の狙い通り、警備員が巡回する姿は怪しまれずに済んだ。
 しかし、守衛である以上は肝心のカルテ庫やナースステーションなどに入り込めない。それならばと津雲が取った行動は守衛室にある情報を集めること。
 そして、通常では手に入る事のない旧病棟の鍵を入手することだ。
「式神を置いたところに問題はないようだな」
 院内の巡回中、少し気になった部分に設置した式神の視界を確かめる。
 其処にはごく普通の病院の光景が見えた。
「ん……?」
 其処でふと、津雲は妙な違和感を覚える。
 子供が白衣を着て歩いてきていた。ただそれだけなのだが、妙に引っ掛かってしまう。そして、津雲は何故に違和を感じたのかすぐに知ることになる。
『邪魔だよ』
 そんな声が聞こえたかと思うと、ぐしゃり、と式神の視界が歪んだ。
 白衣を着た子供らしき人物が式神を蹴って壊したのだ。
「在り得ないな」
 津雲は共有していた五感が消失していくのを感じながら冷静に呟いた。見つかり辛いはずの式神が発見され、いとも簡単に潰されてしまったのだ。
 顔はよく見えなかったが、あの人物が重要な鍵になるに違いない。
 ひとまずは深追いせず、仲間に出会ったら伝えよう。そう決めた津雲は他にも情報がないかと考え、この病院に来て長いという守衛に話を聞くことにした。
「そういや、病院てのはよく妙なものが『出る』ってきくけど、ここにもそういう話はあるのかい?」
「そうだなあ、新病棟になってから変な話を聞いたな」
「変な話と言うと?」
「個室に一人でいると誰もいないのに声がするとかなんとか」
「声か……」
 先程の子供のような存在とはまた違う話なのだろうか。理由はないが何となくそんな気がして、津雲は暫し考え込んだ。
 ユーベルコードを察知する力を持つ白衣の人物。
 そして、病室に一人でいると語り掛けて来るという謎の声。
「繋がりそうで繋がらないな」
 津雲は小さく呟き、これから巡り来る夜について思う。
 敵は此方が院内を探っていることに気が付いている。夜になるまでに相手が逃げやしないかと懸念を抱き、津雲は旧病棟の鍵を握り締めた。

●痛みの種類
 同じ頃、院内の中枢。
 虻須・志郎(第四の蜘蛛・f00103)はイントラネット設備を管轄する機械の前に訪れていた。其処は彼が扮する設備業者でないと簡単には入り込めない場所だ。
「ああ、ありました。これがエラーになってますね」
 適当なことを職員に告げた志郎は、暫し時間がかかると告げて端末を弄っていく。
 彼が上手く此処に入り込めたのは人類防衛組織UDCの協力の元、院内サーバーにエラーが見つかったという連絡をしたからだ。
 ちょうど上手い具合にシステムが動いていなかったらしく、こうして堂々とハッキング――もとい、調査ができている。
(「失踪した少年少女のデータは、と」)
 UDC組織から聞いていた情報と照し合わせ、志郎はデータを拾っていった。
 院内で行方不明になるのはともかく、退院後に疾走するのは何故なのか。それを突き止める為に情報を探った志郎はふと気付く。
「家庭環境に難。精神的な苦痛あり、か……」
 院外で失踪した少女の多くにそんなメモ書きが見受けられた。
 総合病院でもある結ヶ丘病院には精神科もある。怪我や体の病気以外で悩める少女も多くいたのだろう。
 それが何と繋がるのかはまだ見当もつかなかったが、他の仲間が集めた情報と照らし合わせれば何かが分かるかもしれない。
 そして、患者の情報を調べ終えた志郎は失踪者及び失踪者発生時のシフトを調査する。更には監視カメラの一時的な無力化を実施していく。
 だが、そちらについては何の手掛かりも、手応えもなかった。
 念の為に催眠術で職員に様々なことを聞いてみたが、本当に何も知らないようだ。
「記憶を弄られてるってのにもう一度消すことになって悪いな」
 腕時計型光波精神干渉器、アムネジアフラッシュを向けた志郎はこれまでの遣り取りを含め、職員の記憶をすべて消した。
 そして、集めた情報を改めて整理し直した志郎はひとつの仮説を立てる。
「行方不明の少女は皆、何らかの強い痛みを訴えていたのか」
 傷の痛み。病の苦しみ。心の傷。
 種類は違ってもどれも年頃の少女には耐えきれるものではない。
 敵はおそらくそんな少年少女を 勾引かしているに違いない。間違っていないはずだと確信を得た志郎はふと、嫌な予感を覚えた。
「つまり、少年少女は自ら敵についていったのか……?」
 もしそうだとしたら、と考えると予想したくないことばかり浮かんでしまう。
 しかし、とりあえずは仲間と合流するべきだ。
 ハッキング序でに入手した病院の見取り図を手にし、志郎はその場を後にした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

星鏡・べりる
うひゃ、真冬のホラー!
この案件、オブリビオンの仕業だったんだね

【SPD】
入院できたし、私は「病院関係者が邪神に生贄を捧げてる」方向で調査をしよっと。
消えた子に対する記憶は消されてるって話だから、私にできる事は地道に聞いて回って情報を集める事ぐらいかな。

今回の事件の対象になりそうな少年少女に主治医について聞いて回ろう。私、そんなに頭良くはないから情報は猟兵内で共有するよ。

敵から接触があった場合は、ひとまず会話で誤魔化そうとするけど、ダメなら【グラップル】で静かに関節キメて機械鏡を使って【催眠術】で記憶消去しよう。人間じゃない場合は、銃持ち歩けないし肉弾戦で抵抗。

なるべく、単独行動は避けようかな。


アウレリア・ウィスタリア
SPD

ボクの年齢、背格好なら狙われる範囲内でしょうか
患者を装って調査しましょう
入院患者のロッカーや更衣室なども調査しつつ
職員らに
退院後は歌を歌いたい、練習したいのだとボクの夢を語ってみましょう
その際にボソッとでも言葉を漏らしたならボクの耳はその言葉を逃しません
もちろん聞こえていないととぼけますが

さて、それでボク自身に直接危害が及ぶ可能性があるのですが
そうした予感を第六感的に感じれば
【合わせ鏡の境界】でもうひとりの自分を召喚
どちらかが囮にもう一方が隠れて何かあった場合の保険として行動
大騒ぎなるのは困るので情報を集めつつ誘拐されそうとかあれば
残った方が人を呼んでくるなどして阻止します

アドリブ歓迎


未不二・蛟羽
子供ばかりって…友達でも欲しい、なんて訳無いっすよねぇ…

患者に変装して、潜入
怪我で、入院したけど、暇だから探検してる設定っす!
【コミュ力】で、行方不明になる世代の子にどんどん話しかけるっす!
こういうのって結構子供の方が重要なこと知ってたり…っす
最近急に元気になった友達とか、その前に何か起きなかったとか、あとはこの病院の怪談、とか、面白そうな事があったら教えて欲しいっす!


難しい事は苦手っすから、情報はすぐに仲間に連絡っす!

関係者に会ったら、場所とか名称とか、情報を聞きたいっすけど…
家族が面会に来るから、でその場から離脱っす

離脱が難しいならメモに書き殴って窓に投げるっす、誰か読んで欲しいっす!



●緑のぷるぷる
 少年少女連続失踪事件。
 しかも誰も少女達が消えたことを知らない。それはまさに真冬のホラー。
「うーん、病院関係者が邪神に生贄を捧げてるのかなぁ」
「どうなのでしょう。ひとまずは調べてみないと分かりませんね」
 入院患者として潜入した星鏡・べりる(Astrograph・f12817)とアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は今、院内を歩いて情報を集めていた。
「子供ばかりって……友達でも欲しい、なんて訳無いっすよねぇ……」
 同じく入院患者に扮している未不二・蛟羽(絢爛徒花・f04322)も其処に加わり、三人は其々に病院内を調べてゆく。
 消えた子に関する病院関係者の記憶は消されているらしい。
 しかし何処かに綻びはあるはずだとして、アウレリアはロッカーや更衣室を調べに向かい、べりると蛟羽は聞き込みを行っていく。
「ねぇねぇ、主治医の先生ってこわい?」
「ううん、やさしいせんせいだよ」
「怒ったり、怖い顔をしたりしないっすか?」
「全然!」
 先ずべりる達が聞いていったのは少年少女への主治医に対する心情。
 もし医師の中に怪しい人物がいれば子供が怖がっているはず。そんな風に思っていたのだが――。
「先生、何か変なこと言ってたりしなかったかな」
「とっても良い先生ばっかりだよ」
「そうそう、もうすぐ退院できるから頑張れって言ってくれるの!」
「そうっすか……なるほど」
 大部屋の子供達はみんな揃って、先生は良い人ばかりだという。
 子供達の表情は明るく誰も医師を怖がったりなどしていない。上手く隠しているのかもしれないが子供はああ見えて感情に敏感だ。
 べりると蛟羽は顔を見合わせる。
 怪しさの片鱗すら見えないのはおかしい。というよりも医師がまったくの無関係であることを示している証拠のように思えた。
 アウレリアも部屋を見て回ったのだが、其処にはごく普通の光景があっただけ。
 何も収穫がないまま、アウレリアはべりる達が聞き込みに行っている入院患者用のラウンジへと向かう。
 其処は医師や職員もたまに訪れる場所だ。
「身体の調子はどう?」
「はい、大丈夫です。退院後は歌の練習をしてみたいのです」
 職員からの問い掛けにアウレリアはそっと夢を語ってみる。それで何か反応が得られないかと覗ってみたが、職員は笑顔で話を聞くだけ。何も怪しい部分はない。
 やはり病院関係者の仕業ではないのだろうか。
 アウレリアはこれから診察があるという医師を見送り、べりると蛟羽も何もそれらしい話がないことに肩を落とす。
 しかし、ある少年が思い出したように口をひらいた。
「そいえば、先生達って物覚えが悪いよね」
「どういうこと?」
「詳しく教えて貰えませんか?」
「個室の方に入院してたユウカちゃんのこと、忘れちゃってるんだよ」
「退院したの? って聞いてもユウカちゃんなんて知らないって……」
 問い掛けるべりる達に子供達は口々に言う。
「つまり、いつの間にかユウカちゃんが消えたってことっすね」
 おそらくユウカとは失踪した少女のひとり。そして、小児科関係の医師は彼女に関しての記憶を消されている。子供達がユウカという子の名前を覚えているということは記憶の消去が完全ではないということ。
「個室の子が消えて、子供だけが覚えていて……ううん?」
 べりるは首を傾げる。
 こんなとき、もっと頭が良い人だったら何かピンとくるのかもしれない。暫し悩むべりるは途中で考えることを放棄し、傍らのアウレリアと蛟羽に視線を送った。
「もしかしてですが……」
 すると、アウレリアが顔をあげる。同時に蛟羽も強く拳を握って立ち上がった。
「俺もきっと今、同じ事を思っているっす!」
 見る限り、大部屋の子供達は全員欠けずにちゃんと揃っていた。そして消えたというその子は個室に入っていた少女だ。
「狙われているのは自分で歩き回れる子や喋れる子ではなくて……」
「はい、個室に入らざるを得ない程に病や怪我に苦しんでいる子供っす!」
 アウレリアと蛟羽が推理を口にすると、べりるも敵の狙いに気が付く。
「そうだ、私も個室に入院させて貰ってたっけ!」
 もし敵からの接触があるのならば個室内に違いない。
 それならば、患者として潜り込んだ自分達は大きな間違いを犯してしまった。聞き込みに回らず病室にいるか、重病人のふりをすれば自ずと敵を知れたはず。
 入院患者を装っているのも忘れ、べりるは胡桃色の跳ねっ毛を揺らして駆けた。まだ間に合うだろうかと自分の病室に駆け込んだべりる、そしてその背後から部屋を覗き込んだアウレリアと蛟羽は、見た。
「――何、あれ」
「……分かりません」
「緑色のぷるぷるしたものが居たっすね……」
 ずるりと、緑色のぷにぷにした物体が天井のダクトに吸い込まれていった。否、自ら滑り込んだように見えた。生き物のように蠢いていたあれはきっと、近付いてくるべりる達の足音を聞いて慌てて逃げ出したのだろう。
「あれが邪神? ううん、もっと違う何か――」
 べりるは首を横に振る。生贄だとかそんなものじゃない。
 物音で逃げ出すということは問答無用で襲い掛かってくるような類の敵ではない。もしかすれば、近付くことで何か情報が掴めたかもしれない。
 妙に生々しい不気味な雰囲気を感じながらアウレリアは窓の外に目を向ける。其処には不穏な空気が満ちた旧病棟があり、蛟羽は双眸を鋭く細めた。
 あの正体を知るには真夜中にあそこに乗り込むしかない。
 頷きあった三人は覚悟を決め、窓越しに旧病棟を見据えた。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ジナ・ラクスパー
入院患者さんのお見舞いを装い、慎重に聞き込みを。
誰の、と問われた時のため、手近な病室の患者さんか
患者を装う仲間がいらっしゃればその方のお名前を覚えておきます。

いなくなった方のことは忘れてしまっても
怪しい気配、物音、オブリビオンの残した手がかりを
気に留めた方がおられるかもしれません。
病室がわからなくなったふりで
年若い患者さん方にお聞きしてみましょう。
さ、さっき旧病棟の窓に不思議な影を見た気がするのです…!
あれはお医者様でしょうか?
それとも古いシーツとか…?
正体がわかれば何も怖くないのですけれど…!

得た情報は仲間の皆様と共有。
何方かに夜を待たず危険が迫った際は駆け付けられるよう
捜査中も注意深く。


花剣・耀子
あたしは患者に成りすまして行きましょう。
情報は多い方が良い。接触できる可能性があるなら好都合よ。

昼間は患者として、待合室や休憩室で噂を探るわね。
見慣れない人影を見ていないか、旧病棟周りの怪談話等、
怪しそうな情報を拾いましょう。

誰かが接触してきたら、相手の様子をよく観察して受け答えを。
今のあたしは「入院したてで不安な少女」よ。
夜の病院はちょっとだけ怖いから、
自分が過ごす場所の噂は気になるものだもの。
万が一攻撃されても、即座に命の危険がないなら甘んじて受けるわね。
大丈夫。あたしは我慢強いのよ。

夜には旧病棟へ。
開いている場所があればそこから、
なければ新病棟から見え辛い窓等を破って入りましょう。


オルハ・オランシュ
【WIZ】
謎の多い事件だね
闇雲に突っ込んでも解決しないし、今は地道に情報を集めるしかないか
些細なことでも真相に迫る糸口になるかもしれない

看護助手を装って調査しよう

勉強と理由をつけて、今は入院していない患者のカルテを色々チェック
ランダムに手に取るように見せかけて
取るカルテは勿論被害者となり得る年齢層のもの
人の記憶から消えても、記録は消されているとは限らないから
患者の様子に変化があったような記述がないかな
入院していた部屋番号も覚えておくよ

該当の部屋も調査しなきゃね
何かの痕跡が残っていればいいんだけど……
病棟を回りがてら今入院している少年少女に話を聞こう
何かを見たり聞いたり、変わったことはなかった?



●おばけの部屋
「謎の多い事件だね」
 オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)は軽く肩を竦め、手にしたカルテを机に置く。その傍らには、看護助手としてこの病院に訪れたオルハの指導を務める看護師がおり、どうしたの? と首を傾げていた。
「いえ、何でもありません」
「そう。じゃあこのカルテの整理をしてくれるかしら」
 看護師に答えると新たなカルテの山がオルハの前に置かれる。
 その数は結構な量だ。
 しかし、謎が多い今回は闇雲に突っ込んでも解決しないはず。今は地道に情報を集めるしかないと感じ、オルハはカルテ整理に挑む。
 そう、きっと些細なことでも真相に迫る糸口になるかもしれない。
 ふと見れば今は入院していない患者のカルテが出て来た。ランダムに手に取るように見せかけ、注意深く見るカルテは被害者となり得る年齢層のもの。
「通し番号はちゃんと連番になってるみたいだね」
 オルハは此処に来る直前、カルテ庫に向かった仲間から『不自然にナンバーが抜けているファイルがある』と聞かされていた。
 それゆえにまだカルテ庫に入れられていない、未分類扱いの書類を何とか見る流れに漕ぎ付けたのだが――。
「うん、何にも問題ないみたい。ただ、この子……」
 オルハは或るカルテを見て、行方不明になっているとされる少年だと気付いた。
 彼は退院後に失踪したらしいので不明になった理由は病院の管轄ではない。また、家族の記憶は消されておらず捜索届けが出されているのだ。
 やはり記憶を消す存在は院内に居る。
 オルハは少年が入っていた病室の部屋番号を覚え、カルテ整理を進める。
 そして、休憩時間に入ると同時に件の病室、四〇八へと向かった。
「何かの痕跡が残っていればいいんだけど……」
 訪問した部屋は個室。今は誰も入院患者が入っていないらしい。
 しんと静まり返った部屋の中、オルハは何か妙な気配を感じて辺りを見渡した。誰もいない。何もない。だが、何故か頭上に気配を感じる。
 そのとき――。
「お姉ちゃん! そこっておばけの部屋だよ!」
「おばけの部屋?」
 オルハの背後から少年が声を掛けてきて妙なことを言う。どうやら彼は暇を持て余して院内を歩いていた入院患者らしい。
 詳しく聞いてみると、この部屋では時々患者以外の声が聞こえることがあったのだという。だからおばけの部屋と言われているらしい。
「少し調べる必要があるかもしれないね」
 オルハは更なる謎を追う為に気を引き締め、掌を強く握った。

●潰えた命の重さ
 おばけの部屋と呼ばれる病室がある。
 事前にその個室を調べた仲間、オルハに案内されて来たのは花剣・耀子(Tempest・f12822)だ。
「此処がおばけの声が聞こえるって場所ね」
 入院患者として訪れた耀子は先ず、待合室や休憩室での情報収集を行っていた。
 其処での収穫は何もなかった。というよりも、医療関係者が何かをしているわけではないという情報が浮き彫りになったのだ。
 そして、怪談話を聞いて回っていた耀子はある話を耳にした。
 聞き込みにまわった仲間が共通して聞いたように、耀子もまた『誰もいないのに誰かの声が聞こえる』という噂を知ったのだ。
 それゆえに仲間にその声が聞こえる部屋が分からないか聞いたところ、この四○八号室に、入院患者として案内されたというわけだ。
「誰もいないのに話しかけられるなんて本当に怪談話ね」
 耀子がベッドに腰を掛けてちいさな溜息をつくと、傍に控えていたジナ・ラクスパー(空色・f13458)が頷く。
「何かある可能性が高いですが、いざとなったら私が駆け付けます」
 だから安心してください、と告げたジナは入院患者の見舞いを装って訪れた猟兵。彼女もまた、耀子と同じように聞き込みを行って同じ情報を手に入れた者だ。
 それでは、と告げて待合室に向かったジナを見送り、耀子はベッドに横になった。
(「今のあたしはそう、入院したてで不安な少女よ」)
 何処で誰が見ているかはわからない。それゆえに付け入り易い隙を見せるようにこれまでもそう振舞って来ていた。
 もし噂の声の主が敵であり、病室に一人でいる者に声を掛けて来るとするならば、間もなく現れるはずだ。
 そうして、暫し後。不意に頭上から妙な声が聞こえて来た。
『……す、け――』
「何?」
 思わず起き上がった耀子が顔をあげると、通気口から何かが落ちて来た。
 べちょ、と粘着質な音が響いたかと思うと緑の液体が辺りに散る。
「たすけ、て……」
 緑色のスライムで構成されたようなそれは少年の形をしており、はっきりとした言葉を紡いだ。見た目こそおぞましいが其処には敵意はない。
 それだけではなく、助けを求めている。
「待って、あなたは何なの……?」
 戸惑いを隠しきれず緑色の少年を見つめる耀子の背後で扉が開き、異変を察知したジナが部屋に飛び込んできた。
「どうかしましたか、耀子さん。……!?」
 ジナは床に倒れるような形で横たわる緑の少年を見て驚愕する。
 するとスライム状の少年は震える声で告げていく。
「僕、『あのこ』に騙されたんだ。胸が痛いのなんてもうなくなるよって、辛いのは終わりだよって聞いたのに、こんな姿になる、なんて……」
 その言葉でふたりは理解した。分かってしまった。
 このスライムは行方不明になった少年のひとりだ。どうやら彼は苦しんでいる。不定形の体を蠢かせる様は拒否反応を起こしているかのようだ。
 元は人間だと分かった以上、放っておくことはできない。
「大丈夫? ねえ、あの子って?」
 耀子は手が汚れるのも構わず緑の少年を抱き起こして問い掛ける。ジナもその手を握ることで酷い恐怖状態に陥っている少年の心を励ましていく。
「頑張ってください! ああ、身体が崩れて……!」
 だが、スライム少年の身体は脆く崩れていった。癒しの力でもあれば少しくらいは何とかなったかもしれないが、二人にはどうすることもできなかった。
「たすけて、だれか。死にたくないよう……僕、もっと生きたかっ……――」
 そして、少年は最後まで言葉を紡げぬまま崩れ落ちた。
 どろりとした液体に変わったそれを見下ろし、耀子は唇を噛み締める。
 きっと、彼は逃げてきたのだ。
 苦しみをなくせるという何者かが紡いだ甘言に夢を見て、旧病棟に連れられ、こんな姿に変えられてしまった。そしておそらく少年の身体はスライム化に適応できなかったのだろう。
 ジナは直感する。この病院で誰かが非人道的な『実験』を行っている、と。
「許せません……!」
「ええ、こんなのおかしいわ」
 耀子は立ち上がり、窓辺から見える旧病棟を見つめた。
 目の前で命を落とした少年に報いる為にも必ず敵を倒してみせる。そう決めた二人は深く頷き、仲間達の元へと向かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
正体を見極める為に、ここはあえて囮になる。

重病人になりすまし、敵を誘う。動けない重病人の患者として、ベッドで寝たきりの状態で待機させてもらう。重病人になりきる際は、自分の能力で体温を急激に低下させ、血の気をなくし重病人を装う。そこは病院の協力も必要になるだろうから、予めUDC組織か誰かに伝えておいた方がいいな?

敵の気配は【第六感】で察知。眠っている振りに見せかけ、ギリギリまで敵を誘い……そこで【残像】+【ジャンプ】で敵の接触を回避し、敵の正体を見極める。
攻撃してきた場合は、【先制攻撃】+氷の【属性攻撃】で応戦させてもらうぞ。牽制や反撃程度で本格的な戦闘はしない。逃げるのならなら見逃そうと思う。



●楽園への誘い
 見上げる天井は真っ白で汚れひとつない。
 ぼんやりと真上を見上げ、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)はゆっくりと息を吐いた。静かな個室内に響く微かな呼吸音。
 ヴァーリャは今、敵の正体を見極める為に敢えて囮になっている。
(「暇なのだ……。けど今の俺は重病人。重病人……」)
 そう自分に言い聞かせたヴァーリャは此処に来てからずっと寝たきり。
 ぐう、とお腹が鳴ったがそれも我慢をして、じっと敵を待ち続ける。UDC組織に掛け合って入院した為、周辺環境の問題はない。
 血の気をなくした見た目の彼女は病を患った病人にしかみえない。
 しかし、特にやることもないのでヴァーリャはそっと昼食に思いを馳せる。
(「病院食は少ないと聞いたが、お昼が楽しみ……何だ?」)
 そんなとき、妙な気配を感じた。
 自分以外には誰もいないはずなのに何かが這ってくるような音が聞こえる。
 耳を澄ませたヴァーリャはその音が頭上から聞こえてくると察した。だが、上階を誰かが歩くような音ではない。
(「来るなら来ると良いぞ。迎え撃ってやろう」)
 目を閉じ、眠っているふりをしたヴァーリャはギリギリまで何かを引き付ける心算で居た。そして、気配が間近まで迫った次の瞬間。
「ねえ、あなた。くるしいの? つらいの?」
 声が聞こえた。
「む?」
 思わず目を開けたヴァーリャは天井にある通気口から緑色の何かが見えていることに気付いて目を丸くした。
 そして、その不定形の緑の生物はずるりと身体を這い出すと、にっこりと――少女の頭の形をした部位に笑顔を浮かべた。
「あなたも仲間になろう? そしたら、私みたいに痛いのは全部忘れられるよ」
 緑色のスライム少女に敵意はなく、寧ろ好意しかない。
 だが、彼女が口にしているのはヴァーリャもスライムになろうと誘う恐ろしいものだ。スライムは両腕を伸ばして此方に触れようとした。
「さ、触るな!」
 しかしヴァーリャは瞬時に起き上がると残像を残す勢いで部屋の端まで退避する。そのまま身構えたヴァーリャだったが、相手が襲い掛かってくることはなかった。
「そう、ざんねん。このからだになれば、何もつらいことなんてないのに……」
 緑色のスライム少女はずるりと通気口に戻っていく。敵が去るのだと気付いたヴァーリャはおそるおそる問い掛ける。
「どこへ行くんだ?」
「気がかわったら、夜に旧病棟においで。すてきな世界がまってるから」
 その言葉だけを残して気配は消えた。
 あまりの突然の出来事にヴァーリャはその場に座り込み、呼吸を整えた。
 もしかしてあれが――あの軟体生物が、行方不明になった少女のなれの果てなのだろうか。嫌な予感は消えてくれず、ヴァーリャは首を横に振った。
 それでも先ずは仲間に報せないと。
 気を引き締めたヴァーリャは立ち上がり、病室を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
子供を狙う、か……。敵の目的は分からないが思う所はある、僕も協力しよう。

【SPD】
慣れない院内で迷った新米患者を装って、手掛かりを探そうか。
危険は承知の上だ。
職員しか立ち入れないロッカールームや休憩室を見つけたら、誰もこちらに注意していない事を確認してから立ち入ろう。
遠慮なく開ける事の出来る場所はを開けて手掛かり…特に夜の為の鍵を探すぞ。
探している間も外の気配には注意を。
誰かが近づいてきたなら、壁やロッカーに凭れて仮病の振りをしようか。
「…急に息が苦しく、なって…。ここ、なら、先生がいると…」
もう収まったから大丈夫と理由を付けて、深入りされる前に部屋から出れれば僥倖か。


シャイア・アルカミレーウス
少年少女が消えている……死体も消えてるのは不気味だけど、こんなの勇者じゃなくてもほっとけないね!

(wiz)
普通にやるなら総当たりか患者になりすましだけど、総当たりじゃ効率が悪そうだし、なりすましも僕は少女でリスクが高いから医療関係者で行こう。

「無色多職の夢幻未来」で「ジョブが医者の大人な私」を召喚するよ。
僕は物陰に潜んで、「私」に情報取集してもらおう。
長くいるとボロが出そうだから、カルテで被害者の共通点でも探ろうかな。同じ症状とか共通の担当医とかね。

あとは……患者になった猟兵くんに何かあったときはフォローに入ろうかな。襲われることはないだろうけど、「私」はユベコだから盾になっても問題ないしね。



●翻る白衣
 行方不明の少年少女のカルテが紛失している現状。
 守衛に扮した仲間が鍵を手に入れたこと。隠蔽や記憶を操作している人物が、どうやら院長や医者ではないこと。
 そして、個室の病室で聞こえるという『声』の正体。何者かが猟兵の式神や追跡用の力を破っていったこと。
 謎というパズルのピースは今、少しずつ集まってきている。
「死体も消えてるのは不気味だけど、こんなの勇者じゃなくてもほっとけないね!」
 シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は強く掌を握り、何としても更なる謎を突き止めようと意気込む。
「犯人が表に出ている医師ではないなら裏を調べるしかないな」
 ユエ・ウニ(ヤドリガミの人形遣い・f04391)は入院患者として潜入し、更なる手掛かりを集めようとロッカールームに訪れていた。
 そこは職員しか入れない場所であり、ユエとシャイアは注意深く辺りを見渡す。
「誰もいないな、よし」
「じゃあ女子用の更衣室は僕に任せて」
 男性用ロッカー室に向かったユエを見送り、シャイアはユーベルコードを発動させた。其処に現れたのは思い描いた理想の姿の自分――医者姿の大人シャイアだ。
 大人のシャイアと共に女性用ロッカー室に向かったシャイアは物陰に潜む。こうして本物が隠れていればいざというときに逃げることも出来る。
 そして、シャイアがロッカールームを探っている一方。
 ユエもまた何か手掛かりがないかを探し続けていた。
 不意に誰かが近付いてくる気配がして、ユエがはっとする。職員か医師だろうか。されどこういうときの為の策は用意していた。
 ロッカーに凭れかかったユエは体調が悪くなったふりをして俯いた。
「……急に息が苦しく、なって……。ここ、なら、先生がいると……」
「へぇ、じゃあそのまま倒れているといい」
 だが、返って来たのは無慈悲な言葉だった。次の瞬間、試験管が割れるような音がしたかと思うと、ユエの身体は妙な煙に包まれた。
「――!」
「そろそろ医者共の記憶を消してやろうと思って来たんだけどね。君以外誰もいないなんて。でも姿を見られると厄介だから、暫く眠っていて貰うよ」
 謎の人物はそう呟くとその場から去った。
 おそらく薬品の効果なのだろうか、瞼が妙に重い。完全に不意を突かれた形で倒れ込んだユエは顔をあげ、手を伸ばす。
 朦朧とする意識の中、見えたのは白衣の裾と小さな靴。
「待……て……」
 それだけを声に乗せた後、ユエの意識は其処で途切れた。

「――ねえ、キミ。ユエくん……ユエくん!」
 シャイアの声と共に身体が揺さぶられ、ユエは目を覚ました。
 ゆっくりと瞼を開いたユエは頭痛を感じながら、シャイアを見上げる。
「良かった。ずっと戻って来ないから心配して来てみたんだよ。何かあったの?」
「多分、敵に襲われたんだ」
 不覚だったと呟いたユエは頭を振った。幸いにも身体は何ともなく、ただ眠らされてしまっただけだ。
 姿を見ることは叶わなかったがユエは確かに敵の言葉を聞いた。
「医者の記憶を消しに来たと言っていた。奴がおそらく今回の黒幕だと思う」
「僕達が色々調べてることもばれちゃったかな?」
「大丈夫だ。僕が猟兵と分かっていたら眠らせるだけでは済まなかったはずだ」
 シャイアが不安げに問うと、ユエは首を横に振る。
 敵はきっと薄々感付いてはいるだろうが、まだ此方を脅威には思っていない。それならばまだ、敵は旧病棟を根城にしているはずだ。
 ユエはシャイアに介抱の礼を告げて立ち上がった。
 仲間の無事にほっとしたシャイアも頷き、窓の外を見遣る。
「もうすぐ夜だね。暗くなったら皆と合流して、乗り込もう!」
 この先に何があっても必ず乗り越えてみせると決め、シャイアは窓から見える空を振り仰いだ。既に陽は落ちており、夕闇が夜の帳を誘う時刻。
 辺りが完全な闇に包まれたら作戦開始だとして、二人は頷きあった。

●いざ、敵地へ
 猟兵達の其々の調査と潜入により、様々な情報が集まった。
 まず旧病棟の鍵は無事に手に入っている。
 カルテは明らかに何者かによって抜かれていた。しかし院長を含む医師や関係者は記憶を消される側であり、黒幕ではないということが分かった。

 また、院内には通気口を伝って緑色のスライムが徘徊していたということ。
 そして――それは、行方不明になった少女が変異したモノである可能性が高いということが判明している。
 更に院内には、医者ではないが白衣を着て歩き回る人物が目撃されている。
 その人物は小柄であり、男女どちらともつかない声色だ。
 おそらくその人物こそが医者の記憶を消して回り、院内の少年少女をそそのかしてスライム化の『実験』を行っている張本人だ。

 以上の情報を共有しあった猟兵達は夜の旧病棟前に集っていた。
 両開きの古い硝子扉に鍵が差し込まれ、ゆっくりと回される。閉ざされていた扉は鈍く軋んだ音を響かせながら開いた。
 猟兵達はがらんどうになった内部を進む。
 おおまかな部屋の配置は新病棟とほぼ同じであり、調度品や器具の類が取り払われていることで障害物もなく、迷うこともないだろう。
 そうして、猟兵達がひらけた場所――おそらく一番大きな待合室だったであろう場所に辿り着いた時、空気が変わった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『不定形少女』

POW   :    あたまはこっちにもあるよ
自身の身体部位ひとつを【自分が擬態している少女】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    みんなとかしちゃうよ
【触手状に伸ばした腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【衣服を溶かす溶解液】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    いっしょになろうよ
【全身を不定形に変形させて】から【相手に抱きつくために伸ばした身体】を放ち、【少しずつ溶解させていくこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●不定形少女と狂ったカガク者
 真夜中。旧病棟内部にて。
「やあ、ようこそ我が実験病棟へ」
 不意に少女とも少年ともつかない中性的な声が辺りに響き渡った。
 その声の主は暗闇に紛れており、影だけは分かるが肝心の顔が見えない。ただ白衣を着た小柄な人物だということだけは分かる。
「君たちが嗅ぎ回っていたことは分かっていたよ。厄介な連中なら逃げ出してしまおうかと思ったんだけどね。でも丁度、戦闘実験もしてみたかったんだ」
 影は淡々とした声で喋る。
 その間に猟兵達の周囲を取り囲む形で何体もの気配が現れた。
 ざわ、わ、と肌が粟立つような感覚がする。
 現れたのは――スライム状の不定形少女達、十数体。
「その子達は実験の成功例だよ。何度か試したが、やはり少年や死体はその身体の変化に馴染めないみたいでね。全部が途中で崩れていったよ」
 実験成果を話す敵の言葉は止まらない。
「代わりに少女は九割ほどスライム化に成功した。最初は嫌がる子もいたが、今はもうすっかりその身体を気に入っているみたいだ」
 そういって敵が周囲を示すと、不定形少女達は口々に好きなことを語る。
『ねえねえ、いっしょになろうよ』
『来てくれたんだね、あなたも私たちと同じになろ?』
『ふふっ、みんなとかしちゃうよ』
『見てみて、あたまはこっちにもあるよお』
 なんという悍ましい光景なのだろう。
 緑色のスライム少女はかつて人間だったモノのようだ。
 きっと彼女達は病や怪我に苦しんで、痛みから解放されたかった子だ。
 中には家庭の問題から逃げ出したくて心の痛みを抱えていた者もいると予想される。ふわふわと幸せそうに微笑む彼女達。以前はあったはずの苦しみはもう何処にもないように見えた。
 だが――こんな方法は間違っている。誰もがそう感じていた。
「さて、お前達。そいつらを全員融かしておいで」
 そして白衣の人物は指先を猟兵達に向け、不定形少女達に命じる。
 彼女達は「はーい」と返事をすると、甘やかで無邪気な敵意を猟兵達に差し向けた。そして、身を翻した白衣のカガク者は上階に続く階段の方へ歩き出す。
 追おうとするも、猟兵達を阻むように不定形少女達が立ち塞がった。
 そうしてカガク者は一度だけ振り返る。
「ああ、その子達を人間に戻そうなんて考えないことだね。『実験は完全に成功』しているんだ。君たちはこの意味が分からないほど馬鹿じゃないだろう?」
 言葉に反して馬鹿にするような口調で告げ、白衣の人物は去っていった。

 急いで追わなければ敵は姿をくらましてしまうだろう。
 その為には往く手を阻む緑色の不定形少女達を早く、確実に倒していかなければならない。可哀想などと手緩いことは言っていられず、手加減などしている暇は与えられていない。
 それを分かって敵も彼女達を嗾けたのだろう。
 全て倒さなければ未来は拓けず、これを逃せば新たな犠牲者が生まれるだけだ。
 慈悲を抱くのならば今此処で引導を渡すことこそ唯一の正解。
 それが君達、猟兵の使命なのだから――。
春霞・遙
助けてあげられなくてごめん、救ってあげられなくてごめん。
せめて貴女達みたいな子を増やさないように、つらいときはこれからも寄り添うから。

【WIZ】
届かないとは思うけど戦闘の合間にあの研究者の足元を拳銃でスナイプしてわずかでも逃げる邪魔をしたい。
不定形の身体に抱きつかれたら抵抗しない。融かされる痛みは激痛耐性で耐えて、こちらから抱きしめてあげる。それで疑問に思ってくれれば、謎を喰らう触手たちを呼び出してだまし討ち。

非人道的な研究でもせめて彼女らの苦痛を取り除くためにしたとか建前でも言えばいいものを。


オルハ・オランシュ
馬鹿みたい
そんなに実験が好きなら自分の身体を実験台にすればいいでしょ
でも選んだのは抵抗力すらないも同然の子ども達……
ほんと、最低

この子達を探している家族がこんな姿を見なくて済むのはせめてもの救いなのかな
ごめんね、私は容赦しないよ
いたずらに戦いを長引かせても君達が苦しむだけだもの

まずは【力溜め】
集中して、限界まで力を高めて
【なぎ払い】で一人でも多く巻き込んでいくよ
触手に狙われたら【見切り】を狙おう
……そんなドロドロの緑、本当の君の腕じゃないでしょ!
【カウンター】で一思いに切り裂いて、【2回攻撃】に繋げる
頭部を狙ってフィロ・ガスタ

もう頑張らなくていいんだよ
ゆっくり、おやすみ



●異形の少女
「――待ってください!」
 拳銃を構え、遙は上階に続く階段へ銃弾を放つ。
 鋭い銃声が鳴り響いたが、目標の研究者にまでは届かない。だが、相手はもう一度振り返って猟兵達を見遣った。
 敵が此方を見ていると察し、オルハと遙は自らの思いを口にする。
「馬鹿みたい。そんなに実験が好きなら自分の身体を実験台にすればいいでしょ」
「非人道的な研究でも、せめて彼女らの苦痛を取り除くためにしたとか建前でも言えばいいものを」
 二人の声を聞き、ふふ、と敵が笑った気がした。
 しかし、オルハ達からはその表情は窺い知れず、影はそのまま遠ざかっていく。
 遙達の前には二体の不定形少女が割り込み、上階にはいかせないとばかりに立ち塞がった。共に彼女達を相手取るしかないと判断し、遙とオルハは頷きを交わす。
「いっしょになろう」
「いたいのもくるしいのも、なくなるよ」
 少女達は口々に甘やかな声色で囁いた。そして、触手状に伸ばした腕の先をオルハに向けてきた。
 その腕の先は少女の頭部へと変化し、オルハの腕に噛み付く。
「……!」
 とっさに振り払い、後退する。
 大丈夫ですか、と問う遙に平気だと返し、オルハは力を溜めてゆく。その間に遙も少女に抱きつかれていたが、オルハは集中していった。
 遙は不定形の身体に抱きつかれても抵抗はしないでいる。激痛が身体中に走ったが、これもまた少女の痛みなのだと受け止めた。
「助けてあげられなくてごめん、救ってあげられなくてごめん」
 纏わりつかれながら遙は少女に謝る。手が届かなかったこと、間に合わなかったこと。全てが自分の責任だと驕る心算はないが、ただ謝罪したかった。
 すると遙の耳元で少女が語る。
「お医者様はたすけてくれないわ。でも、私はもうだいじょうぶ」
 にっこりと笑った少女の声に苦痛の色は勿論、疑問すらなかった。遙の胸の奥が締め付けられるように痛む。そのとき、後方からオルハの声が響いた。
「行くよ、下がって」
 その声に反応して少女から離れ、遙が身を引いた次の瞬間。
 三叉槍――ウェイカトリアイナによる鋭い薙ぎ払いの一閃が放たれた。二体を巻き込んだ一撃は少女達の身体を引き千切る勢いだ。
 しかし、その身は元より柔らかい。すぐに再生した少女達はオルハ達を融かして同化する為に襲い掛かってきた。
 触手状に伸ばした腕がふたたび遙を捉える。
「……手加減はしないことに決めました」
 拳銃の銃口を差し向けた遙は腕を一気に撃ち穿った。彼女達の思考は身体と一緒にとかされきっている。其処に疑問を浮かばせることはもう、出来ない。
 そう悟った遙は次々と銃弾を撃ち放ち、不定形少女の身体を削り取っていく。
 オルハも三叉槍を振るって迫り来る触手腕を振り払った。
「選んだのは抵抗力すらないも同然の子ども達……ほんと、最低」
 既に上階に進んでしまったであろう研究者を思い、オルハは息を吐く。
 この子達を探している家族がこんな姿を見なくて済むのはせめてもの救いなのだろうか。知らないままいる方が幸せであることも世の中にはある。
 オルハはやりきれない思いを裡に秘め、目の前の少女に得物の切先を向けた。
「ごめんね、私は容赦しないよ」
 いたずらに戦いを長引かせても君達が苦しむだけ。
 遙が腕を四散させたときの反応から見るに、どうやら不定形少女達は痛みを感じていないようだが、あのままの姿で生き長らえさせることは出来ない。
 オルハにふたたび触手の腕が迫る。だが――。
「……そんなドロドロの緑、本当の君の腕じゃないでしょ!」
 一度見切った攻撃は当たらない。オルハはそのまま反撃に移り、ウェイカトリアイナを真上に振るった。腕が引き裂かれる中、更にオルハは三叉槍を振り下ろす。
 狙うは頭部。
 見切らせはしないと素早く踏み込み、オルハは少女に終わりを齎す。
「もう頑張らなくていいんだよ」
 そして、オルハはもう一体の少女へと向き直った。其処には遙に纏わりつく不定形少女の姿がある。
「どうして、どうして、いっしょになろうとしてくれないの?」
「それはね――」
 一瞬、不定形少女が疑問めいた言葉を落とした。
 今こそ好機だと感じた遙は少女を抱き締める。密着した部分が皮膚をとかす勢いの激痛を与えたが、そんなことなど構いやしない。
 途端に紫の触手が少女を包み込み、その身を喰らい尽くすが如く絡み付いた。そして、崩れ落ちる不定形少女から手を放した遙は小さく呟く。
「貴女達みたいな子を増やさないように、つらいときはこれからも寄り添うから」
 その言葉が救いになどならないと知っていても告げずにはいられなかった。
「ゆっくり、おやすみ」
 オルハも僅かに俯き、死を迎えた少女達へと葬送の言葉を贈った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
手首を切り裂き血を流す
自決しようという訳じゃない
ボク……今の私はあの頃の私
地下に幽閉され、日々拷問を受け感情を閉ざしていたあの頃の

仮面を投げ捨て光の宿らない瞳で突貫する
流れ出る血は【血の傀儡兵団】に
兵団と共に一陣の風となって「敵」を屠り駆け抜ける
血糸、レージングで絡めとり、兵団と手に持つ拷問具で叩き伏せる

あぁ、なんでこんなことになっているんだろう?
私は何をするためにここに来たんだろう?
「悲しい」を無くしたくて戦っているはずなのに
今の私は何も感じず、何も考えない

暴走とは違う自己防衛
心を閉ざし感情も閉ざす
ただ目的のためだけに動く生きた人形

逃がしはしない
アイツは敵だ
私が復讐すべき敵だ

アドリブ歓迎



●仇と敵
 立ち塞がる少女を前に、アウレリアは頭を振った。
 滴る赤い雫は今しがた切り裂いた手首から零れ落ちる血。絶望を前に自決しようとしたではない。これは、目の前の少女に終わりを与える為のもの。
 ――我が血は力、敵を切り裂く無数の兵団。
 詠唱と共に周囲に血人形が召喚され、不定形少女に狙いを定める。
 仮面を投げ捨て、光の宿らない瞳で人形達を突貫させてゆく。
「ボク……今の私は、あの頃の私」
 思い返すのは地下に幽閉され、日々拷問を受けていたあの頃の自分。
 痛みから逃れる為に感情を閉ざした。だから何も感じないはずだとしてアウレリアは己を律し、床を蹴りあげる。
 血の兵団と共に一陣の風となり、アウレリアは『敵』を血糸で絡め取る。きゃあ、と声をあげて切り裂かれた不定形少女の体が崩れた。
 だが、妖しく蠢いたその身はすぐに再生してゆく。
 きっと彼女達は痛みから逃れる為に研究者の誘いに乗った。その時点でもう人として死を迎えたも同然なのだろう。
 アウレリアは鞭剣状の刀身を振るいあげ、更なる一閃を放つ。
 拷問具が少女の身を穿つ最中、アウレリアの脳裏に幾つもの疑問が浮かんだ。
 ――あぁ、なんでこんなことになっているんだろう?
 ――私は何をするためにここに来たんだろう?
 自分は『悲しい』を無くしたくて戦っているはずなのに、今は何も感じず、何も考えないまま闘っている。
 暴走とは違う自己防衛が心を閉ざし、感情をも閉ざしている。
 今の彼女はただ、目的のためだけに動く生きた人形。
 迫り来る触手の腕を血糸、レージングで斬り裂いたアウレリアは血人形達に周囲を囲むよう命じる。そして一気に力を揮った。
 悲鳴をあげ、不定形少女はその場に崩れ落ちる。
 動く力を失った少女はそのまま息絶え、もう二度と動くことはなかった。
 アウレリアは手首から滴る血も拭わぬまま、逃げていった研究者を思う。
「逃がしはしない」
 アイツは敵。私が復讐すべき、敵だ。
 昏い病棟内の空気は酷く冷たい。それよりも更に冷えきった、凍り付くような眼差しが上階に向けられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
…彼女たちが心から望んでこうなることを選んだなら…
いや、彼女たちは「生きたかった」だけだ
何か違うモノになりたかった訳ではあるまい

まずは彼女たちに鎮魂の祈りを
彼女たちの為の祈りではあるが
自身の心を落ち着かせ
戦闘に集中して挑む為の
精神集中の役割も担っている

大鎌の刃に毒の力を纏わせて攻撃
毒といっても苦しませるのが目的ではない
強力な麻酔のようなものだよ
夢見心地のうちに終わらせてあげよう
彼女たちの動きを鈍らせ
大鎌で一気に急所を切断しよう
…迷うな
私にすべきことは彼女たちを救済すること
だが、今の私にできるのはこれしかない…
力が及ばず、申し訳ない



●鎮魂の一閃
 それは人とは凡そ掛け離れたもの。
 透き通ったやわらかな身体。とかされた思考は苦痛を認識しない。
「……彼女たちが心から望んでこうなることを選んだなら、」
 それは倖せなのかもしれない。
 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は一瞬だけ裡に過った思いに頭を振って、違う、とはっきり口にした。
「いや、彼女たちは『生きたかった』だけだ」
 何か違うモノになりたかった訳ではあるまい。現に今、不定形少女達はまともな思考能力を持っているようには見えなかった。
 ただ其処にあるだけの存在。それが今の少女達であり、本質は既に死んでいる。
 セツナは彼女達に鎮魂の祈りを捧げた。
 少女の為の祈りではあるが、それは自身の心を落ち着かせる意味合いもある。
「その命に罪はない。けれど――」
 つみとらせて貰おうか、と静かに告げたセツナは大鎌の刃に毒の力を纏わせた。迫り来る触手の腕を刃で斬り裂き、身を翻す。
 鋭い刃が身体を両断したというのに少女は苦痛を感じていないようだ。
 それが感覚を麻痺させる毒の為なのか、彼女達が言う痛みがなくなったという元からの効果なのかは今は分からない。
 だが、どのような理由であっても苦痛から逃れたかった少女達に痛みを与えたくはなかった。ふわふわと笑う少女を見据えたセツナは今一度、刃を振り下ろす。
「夢見心地のうちに終わらせてあげよう」
 容赦なく身体を斬り、穿ち、セツナは不定形少女の動きを鈍らせてゆく。しかし少女もセツナを捉えて抱きつこうとしてきた。
「ふふ、とかしちゃうよ。いっしょになろ」
 融解の力がその身に痛みを与える。だが、表情一つ変えずにそれを振り払ったセツナは大きく腕を掲げ、よろめいた少女に狙いを定めた。
「……迷うな」
 零れ落ちた言葉は自分への戒め。
 今、自分がすべきことは彼女達を救済すること。こうすることしか出来ないのだと己を律し、セツナは大鎌を振り下ろした。
 少女の首が地面に落ち、その身体は見る間に崩れ落ちる。
「力が及ばず、申し訳ない」
 届かぬ謝罪の言葉を落とし、セツナはもう一度だけ死した者への祈りを捧げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月山・カムイ
化け物となった事に、慣れてしまいましたか?
それとも、諦めてしまいましたか?

最早日の差す外で堂々と歩く事は叶わず、排水管を這い回るタダの化け物に成り果てて
……それで、貴女達は満足なのか、と聞いている

言葉は固く冷たく凍てつき、見下すように睥睨する
人としての生を捨ててしまった彼女達を憐れむか、それともそうならなければ苦しみから逃げられなかった事に憤りを感じるのか
ないまぜになった感情が、自分でもよくわからなかった
だが、わかった事はここで終わらせてやるべきだ、というそれだけ

無響剣舞・絶影
不定形少女達を身動き出来ない程に切り刻む
誰か灼き尽くす術を持つ人が居るなら、その人と組んで終わらせよう
それが弔いだ



●彼女達の幸せ
 身体を蠢かせ、不定形少女達がくすくすと笑う。
 その表情はまるで心地好い夢を見ているような穏やかなものだ。
「化け物となった事に、慣れてしまいましたか?」
「うふふ」
 カムイは冷たく問い掛け、少女を見下すように睥睨する。だが返ってきたのは甘い笑い声だけだった。
「それとも、諦めてしまいましたか?」
「あははっ」
 ふたたび問い掛けるが、少女は楽しげに笑っただけ。
 彼女達は最早、日の差す外で堂々と歩く事は叶わず、排水管や通気口を這い回るただの化け物に成り果てているというのに。
「……それで、貴女達は満足なのか、と聞いている」
 カムイが放った言葉は固く冷たく、凍てついていた。すると少女は妖しく蠢き、触手状に伸ばした腕をカムイへと伸ばす。
 即座に床を蹴ったカムイは一閃を避けた。明確な攻撃動作を行っているというのに相手からの悪意や敵意は感じられない。此方と同化しようという好意めいた感情しか読み取れなかった。
 人としての生を捨ててしまった彼女達を憐れむか。それとも、そうならなければ苦しみから逃げられなかった事に憤りを感じるのか。
 綯い交ぜになった感情が自分でもよくわからなかった。
 だが、ひとつだけ分かったこともある。
「唯一確かなのは――ここで終わらせてやるべきだということだ」
 カムイは破魔の小太刀を構え、二撃目の触手腕を躱した。
 そして、異形を絶つ為の術刻印が施された清廉なる刃が標的に差し向けられる。
 ――無響剣舞・絶影。
 音もなく、解き放たれた斬撃は数千万にも及ぶ傷を不定形少女に刻んだ。
 抵抗する暇も与えられず少女の身は一瞬で崩れ落ちる。カムイは細切れになった少女だったモノを見下ろし、刃を下ろした。
 本当ならば火で灼き尽くして屠る方が葬送になったかもしれない。だが、それは叶わなかった。それゆえにカムイは目を閉じ、ささやかな冥福を祈る。
「弔いになるかは分かりませんが……」
 彼女達をこんな姿にした者を討ってみせると決め、カムイは顔をあげた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
七結ちゃん(f00421)と一緒

こないにぎょうさんの…
ここに居るんは女の子だけやから
少なくとももっと、…なんてえげつない…
…あかん、今は泣いてる時やない

イルルちゃんが怪我したんはこの溶解液のせい?
触れてしもたらえらい痛そう…
注意深く【見切り】ながら、桜色の光の【オーラ防御】
【なぎ払い】も駆使
うちは攻撃より支援の方が得意やさかい
主に七結ちゃんの援護を

救いの道がひとつなら…
扇を広げ、水龍様をお喚びし彼女らを結界へ
折角苦しみとさよならできはったのに堪忍え…
七結ちゃん、今よ…!

どうしても七結ちゃんに溶解液が飛びそうなら進んで受けに前へ
【激痛耐性】で多少の痛みは平気よ
大切なお友達には怪我せんでほしいもの


蘭・七結
サクヤさん(f00865)と一緒に。

あなた達の痛みも嘆きも、ナユは理解してあげられない。けれどもう助からないことは解っているから…せめて安らかに眠れるように、手加減しないわ。
ナユはね、あなたたちの創造者に怒っているの。
そこをどいてちょうだいな。

首に連ねた指輪に口付けをし〝かみさまの言うとおり〟を使用。
ナユの『かみさま』。力を貸してちょうだいね。

サクヤさんの援護を受け、ナユは攻撃に専念。
結界の範囲内へ【おびき寄せ】て【だまし討ち】で怯ませられるかしら。
隙を見つけ、斬首刃で【範囲攻撃】と【2回攻撃】をして一気に散らせるわ。
生命力を吸われたら【生命力吸収】でお返し。傷ついたイルルの分までいただくわ。



●悲しみを越えて
「こないにぎょうさんの……」
 周囲に蠢く不定形少女達を見回し、咲夜は震えそうになる自分の肩を抱く。
 此処にいるのは少女だけ。
 だが、行方不明になった患者には少年も含まれていたはずだ。そして、謎の研究者は言っていた。『少女は九割ほど成功した』と。
「少なくとももっと、……なんてえげつない……あかん、今は泣いてる時やない」
 自分の頬を掌で拭った咲夜は顔をあげた。
 大丈夫だと告げるように彼女の傍に寄り添った七結はちいさく頷いてみせる。見据えるのは自分達を阻む二体の少女達。
「あなた達の痛みも嘆きも、ナユは理解してあげられない。けれどもう助からないことは解っているから……」
 せめて安らかに眠れるように、手加減しない。
 助からないと知っていてもすぐに納得できるようなことではなかった。だが、状況は一刻を争う。少女達に同情して手を緩めれば諸悪の根源である存在が逃げ果せ、また別の所で同じ悲しみが繰り返されてしまうだろう。
 刹那、咲夜に向けて触手状に伸ばされた腕が迫る。
 既の所で避けた咲夜だが頬を腕が掠めた。頬が灼けるような鋭い痛みを微かに感じた咲夜は思わず後退る。
「直接、触れてしもたらえらい痛そう……」
 注意深く見切らねばならぬと察し、桜色の光で防御陣を巡らせてゆく。
 そして、反撃として咲夜は薙ぎ払いの一閃を放った。それと同時に七結が首に連ねた指輪に口付けをする。
「ナユの『かみさま』。力を貸してちょうだいね」
 途端に双眸が鮮明な猩々緋へと変わり、膨大な力が溢れはじめた。
 少女達に黒鍵の斬首刃を向けた七結はそれを振るう。
「ナユはね、あなたたちの創造者に怒っているの」
「救いの道がひとつなら……」
 続いた咲夜は扇を広げて水龍を喚んだ。放たれた雫の鎖は水の結界となり、不定形少女達を包み込んでいく。
「折角苦しみとさよならできはったのに堪忍え……」
 だが、二体から同時に溶解液が解き放たれた。咲夜はとっさに七結の前に飛び出してそれを受け止める。
 激痛に耐え、咲夜は呼び掛けた。
「七結ちゃん、今よ……!」
「そこをどいてちょうだいな。傷ついたイルルの分までいただくわ」
 その声に応えるようにして七結が斬首刃を振り下ろす。
 斬撃は一度に留まらず、二度目が振るわれた。そして、一瞬後――。
 少女達はその場に崩れ落ちて戦う力を失った。それが命の終わりにもなったと悟り、咲夜と七結は静かに頷きを交わす。
 この場の全員を倒さねば進めぬ状況を見据え、二人は別の標的に狙いを定めた。
 弔いも出来ぬまま、哀しき戦いは続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
なんで、なんで…みんな笑ってるっす…?

嫌悪感と、疑問と、自分でもよく分からない感情が渦を巻き

それで、幸せ…?じゃあ幸せって、何っす?
もっときらきらして、あったかくて、楽しい未来があるのが幸せなんじゃないっすか!?


伸びてくる触手は【ダッシュ】【スライディング】で回避。そのまま相手の懐に滑り込んで、【捨て身の一撃】っす
【ブラッド・ガイスト】で捕食形態である虎の爪を纏って攻撃っす
ガチキマイラで尻尾を変化させて、合わせて使い、全部喰らって

心も、体も、俺には助けられない、けど。助けられない、から
もう、こんな事起こしたく、無い、から
全部食べて…お仕舞いっす


……とりあえず、白衣の奴は絶対ェぶん殴る、っす



●倖せの意味
 蠢く少女達はふわふわと笑っていた。
 蛟羽は彼女達が苦痛からはかけ離れた表情をしていると感じ、思わず身を引く。
「なんで、なんで……みんな笑ってるっす……?」
 逃げたいわけではなかった。
 だが、嫌悪感に疑問、戸惑い。自分でもよく分からない感情が渦を巻いている。
「あなたもおいで。しあわせになれるよお」
「それで、幸せ……? じゃあ幸せって、何っす?」
 少女の紡いだ言葉に蛟羽は首を振った。
 蛟羽が思う幸せとはもっときらきらしていて、あったかくて、楽しい未来。
「それが幸せだっていうっすか!?」
 声を荒らげてみても少女は動じない。ただ身体を蠢かせて蛟羽に迫って来るだけ。
 このままでは抱きつかれると察した蛟羽は姿勢を低くしてスライディングで以て避けた。そして、そのまま懐に飛び込んで捨て身の一撃を加える。
 弾けた溶解液が付着し、じわりと肌を焼くような痛みが走った。だが、蛟羽は滲んだ血液を代償にして捕食形態である虎の爪を纏う。
 其処から更にもう一撃。
 柔らかい少女の肉体は衝撃を吸収したが、確かな衝撃は与えられている。
 更には尻尾を変化させて齧りつく。全部喰らってやるっす、と告げた蛟羽が振るう力に加減は全くなかった。
「心も、体も、俺には助けられない、けど。助けられない、から――」
 身体に巡る痛みよりも心の方が痛かった。
 それでも蛟羽は少女を喰らう力を止めず、全力を出し切る。
「もう、こんな事起こしたく、無い、から。全部食べて……お仕舞いっす!」
 そう宣言した、次の瞬間。
 少女の動きがぴたりと止まり、その身体は沈むように崩れ落ちていった。
 呆気ない終わりに蛟羽は肩を落としながら亡骸となった液体を見下ろす。沸々と湧いてくるのは静かな怒り。
「……とりあえず、白衣の奴は絶対ェぶん殴る、っす」
 あの上に真に倒すべき相手がいる。
 双眸を鋭く細めた蛟羽は上階を見据え、掌を強く握り締めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャイア・アルカミレーウス
……別にさ、こういう事は今回が初めてじゃないから、やれるよ。やりたいかとは、別だけどね。

(pow)
相手が不定形のスライムなら剣より魔法の方が効きがよさそうだね。
建物を崩さないよう「勇者の心得」で魔法制御力を強化して魔法で攻めよう。
杖の魔弾で誘導、痛みがないようにぶつけるんじゃなくて相手を包み込むように「破魔」を込めた「全力魔法の魔術師の咆哮」を発生させて一瞬で消し去るよ。
できれば他の人と協力して、一纏めにしたところを一網打尽にしようか。
「……勇者の心得その2、すたこら逃げても現実から逃げない、ガンガンいこう!」

ごめんね、痛かったよね。君たちの尊厳の代償は絶対に払わせるから。
(アレンジ絡み歓迎)



●勇者の決断
「……別にさ、こういう事は今回が初めてじゃないから、やれるよ」
 シャイアは俯いていた顔をあげ、目の前の少女を見つめた。
 剣を構えるシャイアの心は揺らいではいない。少女であったモノを屠れと言われれば迷いもなく斬ることが出来る。でも、とシャイアは付け加えた。
「やりたいかとは、別だけどね」
 そう呟いて地を蹴ったシャイアは敵との距離を取る。
 その際に発動するのは勇者の心得。
 頑張る理由は、この先に同じ悲しみを繰り返させない為。心と体を奮い立たせたシャイアに魔力が巡っていく。
 対する不定形少女は抱きついて此方を融かそうとしてきたが、すぐに避けた。
 敵の動きは特に速いものではないようだ。それゆえに注意を払っていれば躱すことも容易だろう。
 剣よりも魔法の方が効きが良さそうだと感じたシャイアは魔弾の杖を手にする。
 同時にシャイアは周囲を見遣って協力できそうな仲間を探した。だが、視線を遮るように少女が身体を蠢かせて迫る。
「邪魔だよ……!」
 皆が一人一体ずつ相手取っている以上は自分もそうするしか他なかった。シャイアは魔力を紡ぎ、破魔の力で少女を包み込む。
 そして、全力で以て太陽めいた圧縮魔力弾を解き放った。
「……勇者の心得その二、すたこら逃げても現実から逃げない、ガンガンいこう!」
 次の瞬間、魔力の内部に閉じ込められた少女が消し飛ぶ。
 難しいことは考えなくていい。今はただ敵となった者を屠るのが自分の役目。
 消し炭になった亡骸を見下ろしたシャイアは、ごめんね、と告げて目を瞑る。
「君たちの尊厳の代償は絶対に払わせるから」
 そうして上に続く階段を見上げたシャイアは決意する。
 まだ少女達は残っているが上階への道はひらけた。後はこの場で戦っている仲間に任せればいいと信じて、シャイアは走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
黒くてぐずぐずして、どろどろとしている。……物である時には感じなかった感情だ。
感じるのは初めてではないが、今すぐあの白衣にぶつけたくなる。
その前にな、……、……全員ちゃんと眠らせてやらないとな。

手こずっている奴がいるなら援護を。
そうでないなら、白衣のアイツまでの道を開けるために僕は動こう。
必要であれば声掛けを。
時間稼ぎとフェイントが多少は役に立つだろう。

援護等で細かい立ち回りが必要であればエレクトロレギオンを、そうでないならオペラツィオン・マカブルで立ち回ろう。
いっしょに、おなじに。……すまない。僕はいっしょにはなれないんだ。
せめて、からくりの形は子供が好きそうな動物型を。


勘解由小路・津雲
………………妖魔、討つべし。陰陽師の私には、それしかできないのだから。それがおれの、選んだ道なのだ。

■戦闘 【エレメンタル・ファンタジア】を使用。旧病棟なら、スプリンクラーがあるはず。今は使っていなくても大丈夫、設備を利用するだけだから。スプリンクラーを通じて雨を降らせ、それを凍らせる。スライム状の体も一緒に凍らせればダメージを与えられるだろう。制御の難しい技なので、仲間を傷つけぬよう落ち着いて。私は、おれは明鏡止水の陰陽師、我が心に一点も迷いなし!



●屠るべきもの
 黒くてぐずぐずして、どろどろとしている。
 この感情は何なのだろうか。物である時には感じなかった感情だ。
 ユエは胸の裡で淀む思いに困惑めいた気持ちを抱いていた。この黒い何かを知らないわけではない。だが、言葉に出来るようなものではなかった。
 今すぐあの白衣にこの感情をぶつけたくなる。だが――。
「その前にな、……、……全員ちゃんと眠らせてやらないとな」
 沈黙交じりの言葉を目の前の少女達に向け、ユエは絡繰り人形を繋げた指先を相手に差し向ける。
 その傍らには津雲も神妙な面持ちで佇んでいた。
「………………妖魔、討つべし」
 余計なことは考えない。それが津雲なりの挑み方だ。
 少女達は一人に一体ずつ絡み付こうとしているのか、ユエと津雲の前に迫ってくる。津雲は即座に片腕を掲げ、周囲から水と氷の属性を集わせた。
 雨となった水が不定形少女を濡らし、氷の力がその身を凍らせていく。
 ぶるぶると震える少女の様子を確かめ、津雲は身を僅かに逸らす。次の瞬間、少女が放った触手の腕が先程まで津雲が居た空間に迸った。
 その間にユエは自分の周囲に機械兵器を呼び出し、もう一体の少女へと吶喊させる。標的に纏わりつく機兵によって二体の動きが鈍った。
 そこに生まれた隙を狙った津雲は、ふたたび周囲の空気の冷たさを用いて氷の属性を顕現させる。
 スライム状の腕ごと貫く勢いで津雲は力を放った。
 容赦も手加減もしない。してはいけない。
「陰陽師の私には、それしかできないのだから」
 ――それがおれの、選んだ道なのだ。
 自分に言い聞かせるような言葉を紡ぎ、津雲は属性をコントロールしてゆく。
 ユエもまた、抱き着こうとしてくる少女の腕を間一髪で避けて態勢を整える。
「ねえ、いっしょになろうよ」
 蕩けた表情で呼びかけて来る不定形少女。ユエはその眼差しを受け、首を横に振る事しか出来なかった。
「いっしょに、おなじに。……すまない。僕はいっしょにはなれないんだ」
「どうして?」
「このからだになれば痛いのもなくなるのに」
 少女達は口々に疑問を紡ぐ。確かに攻撃を受けても痛みは感じていないらしい。それが元は病気や怪我を負っていた少女だったのならば、苦痛を忘れてしまったことは幸せなのかもしれない。
 だが、違う。こんな姿になってまで逃れたかったものではないはずだ。
 思考までとろけている現状、その答えはこうなる前の少女達しか知らない。ユエは脱力して絡繰り人形に力を込めた。
 それを隙だと感じた不定形少女が伸ばした腕を頭部に変えて襲い来る。
 しかし、その一閃は無効化された。
 今だ、とユエが身体を起こした瞬間、津雲が水の力を解き放つ。
 暴走しやすい力を見事に操った津雲は二体を一気に穿った。それと同時にユエも絡繰り人形から力を反射して少女を貫く。
 更にはもう一撃、津雲が氷の力を不定形少女に放った。
「私は――おれは明鏡止水の陰陽師、我が心に一点も迷いなし!」
 凛と通る宣言の後、少女達は崩れ落ちる。
 凍り付いた身体が元に戻ることはなく彼女達はそれきり二度と動かなくなった。
 ユエは俯き、津雲も瞼を閉じる。
 安らかに、などとは言えない。今はただ弄ばれた命の仇を討つことだけを考え、彼らは強く拳を握り締めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジナ・ラクスパー
生きる苦しみをもう味わいたくなかった方も
この中にはいらっしゃるのかもしれません。
でも、あの男の子は私たちに『生きたかった』と言ったから
…悔やむのも俯くのも、報いた後にするのです!
最後に繋いだ手の感触を掌に握り締めて

エルフの身躱しの魔力を発動させ、溶解液を回避
赤は剣に、青は槍に、碧は杖に……道拓く花の一撃を!
エンハンスで攻撃力を強化。
すこし心が痛んでも、手は臆せず迷わず
少女たちを見据え、狙い定めて攻撃を。
ご一緒した皆様と連携が叶うなら
死角から伸びる敵の手に注意の声掛け。
背を守り合い、狙いを揃え、少しでも早い突破を叶えるため
…逃げ去った背中に、一秒でも早くこの剣を
あの男の子の悲しみを届けるために!



●刃の切先
 生きることは苦しみだ。
 ただ平穏と幸せだけが続くものではないのだとジナは識っている。
 その生涯を病や怪我に侵されたとあれば苦しみも大きいだろう。中にはこれ以上の生の苦痛を味わいたくなかった者もいるのかもしれない。
「……でも、」
 ジナは思う。病室で出会った、あの少年の言葉を。
 ――もっと生きたかった。
 彼は自分の言いたかったことすら言えずに命を落とした。あの体温のない手を、溶け消えた体と思いをジナは確りと覚えている。
 あの子は自分達に生きたかったと伝えてくれた。だから、とジナは前を見据える。
「……悔やむのも俯くのも、報いた後にするのです!」
 最後に繋いだ手の感触を思い返すように掌に握り締めた。そして、身躱しの魔力を発動させたジナは床を蹴る。
 一瞬後、それまでジナが立っていた場所に溶解液が散った。
「赤は剣に、青は槍に、碧は杖に……道拓く花の一撃を!」
 剣の切先を『敵』である不定形少女に向け、ジナはその身に力を漲らせていく。
「ふふ、あなたもおいで」
 不定形少女は触手状の腕を伸ばしながら誘う。
 生きたいからこそ彼女達はそうなることを望んだのかもしれない。
 だが、苦痛を逃れたとしても少女達にはもう元の人格はないように思えた。ふわりと微笑むのは倖せだからではなく、ただ思考をとかされているだけ。実験の産物として生きることまで望んだわけではないはず。
 刃を向けることは心が痛む。それでも、臆せず迷わず、躊躇わず。
 ジナは目の前の少女にだけ意識を向ける。本来なら群がられてしまう状況だが、仲間達が共に戦ってくれているが故にこうして一対一で立ち向かえるのだ。
 狙う相手は別でも、きっと心はひとつ。
 仲間と背を守り合いながらジナは刃を振るい、少女を容赦なく斬り裂いた。
 迫り来る溶解液や腕を掻い潜ったジナは剣の切先を相手の胸元へ向ける。そして、ひといきに刃を突き立てた。
 逃げ去った背中に、一秒でも早くこの剣を向ける。それが今すべきこと。
「負けません。あの男の子の悲しみを届けるためにも――!」
 胸を深く貫かれた少女はその場に崩れ落ち、断末魔すら遺さずに伏した。
 そうしてジナはゆっくりと剣を引き抜く。
 ごめんなさい。
 ちいさな言の葉を落としてから伏せられた金の眸は、静かな悲しみを映していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
まずは『トリニティエンハンス』の水の魔力を発動、状態異常力を重視し強化
その後、【残像】+【先制攻撃】+氷の【属性攻撃】攻撃で、少女達よりも素早く氷の力を合わせた攻撃を行う。そのまま氷の【属性攻撃】+【2回攻撃】を使用し、手数による攻撃で凍結状態を狙う
凍結状態により動きが鈍ったと判断できたら、『雪娘の靴』で完全に凍りつかせる。苦しむことのないよう。

君たちは苦しかったのだろう。差し伸べられた手にすがるほど。
俺はそれを責めたりしない。ただ、すがる手を間違えてしまっただけだ。それしか、方法がなかったかもしれない。
もし生まれ変わりというのがあるなら、幸せに暮らせるように……今はただ、安らかに眠ってくれ



●氷に眠る
「きてくれたんだね。あなたも辛いこと、忘れたいんだよね」
 ヴァーリャが対峙したのは、あの病室で出会った少女だった。
 くすりと笑んだ不定形少女は昼間、『夜に旧病棟においで。すてきな世界がまってるから』と告げて病室から去った。
 だからこそ此処に来た者が仲間になってくれると勘違いしているのだろう。
 ヴァーリャは首を横に振り、その身に水の魔力を纏った。
「君たちは苦しかったのだろう。差し伸べられた手にすがるほど」
 踏み締めた爪先が妙に冷たく感じられる。少女はただ生きたかっただけだ。痛みや苦しみがない世界に行けると告げられて、断る勇気など持てるはずもない。
 そして、ヴァーリャは強く床を蹴りあげる。
 伸ばされた少女の腕が彼女を貫いたように見えたが、それは残像。そのまま高く跳躍したヴァーリャは一気に降下する。
 靴裏に生成された魔力氷の刃で少女の脳天を貫き、ヴァーリャは素早く着地する。
「俺はそれを責めたりしない。ただ、すがる手を間違えてしまっただけだ」
 それしか方法がなかったかもしれない。
 今更間違いを責めたとしても過去は覆せず、未来も変わらないだろう。彼女達はもう人間としての死を迎えている。
 そう考えるべきであったし、そう思わなければ胸が苦しいほどに痛む。
「おいで。ねえ、いっしょになろう?」
「遠慮させて貰おう」
 不定形少女は両腕を広げてヴァーリャに抱きつこうとする。だが、即座に実を翻すことで抱擁は躱された。
 メチェーリの名を冠する駆動剣を振りあげたヴァーリャは少女の胴体目掛けて刃を振るう。横薙ぎの一閃は身体を真っ二つに斬り裂いたが、軟体はすぐさま再生していった。しかし、ヴァーリャは吹雪めいた連続の斬撃を放っていく。
 そうして、もう一度ひといきに跳躍した。
 まるで宙を翔けるように跳んだヴァーリャは狙いを定め、氷刃で少女の胸元を一気に貫いた。刃から伝わる冷気が不定形少女の身を凍らせてゆく。
 どうか、苦しむことのないよう。
 込められた願いと共に標的は完全に凍結し、二度と動かなくなる。
 それでも少女は淡く微笑んでいた。最期まで幸せそうな蕩けた表情をしていた彼女は本当に幸せだったのだろうか。
 答えの出ない思いを抱き、ヴァーリャは願う。
「もし生まれ変わりというのがあるなら、幸せに暮らせるように……」
 今はただ、安らかに眠れ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる
よーこ(f12822)と一緒に

そっか、『実験は完全に成功』してるんだね。
……優秀なカガク者さんだな~

だったら遠慮はいらないよね。
やっちゃおうか、よーこ。

『コード・ツクヨミ』
分霊機解放だよ《ヤタ》、いっぱい増えなさい!
機械鏡を増やしたら【雲蒸竜変】で躊躇なく不定形少女達を撃ち抜くよ。
形が分からなくなるまで、吹っ飛ばしてあげる!
泣いても、叫んでも、許しを乞うても、全部無駄。
今更遅いんだよね、君達はもう人間じゃあないから。

生き残りがいたら、しっかりトドメを刺すね。
ごめんね、これが私のお仕事だから。

よし、あらかた片付いたかな。
よーこ、カガク者を追いかけよっか。


花剣・耀子
べりるちゃん(f12817)と同道。

あのこが崩れたのは、そういうことだったのね。
実験。そう。
――良いわ。姿を見せたこと、後で後悔させてやる。

ええ、そうね。
ヒトの範疇を外れたなら、きみたちはあたしたちの敵よ。

刃が届く限りの敵を対象に【《花剣》】を使用。
数が多くても、形を変えても、溶けて混ざりあったって。
存在を保つには、限りがあるでしょう。
きみたちが自分を認識できなくなるまで斬り果たすわ。

死は只の死だもの。
これは慈悲でも救いでもないし、
これからすることも仇討ちではないわ。
――だけど、そうね。呪詛くらいは聞きましょう。
あたしが黄泉路を辿るまで、憶えて連れて行ってあげる。

いきましょう、べりるちゃん。



●死という終幕
 揺らめく少女は不定形。
 くすくすと笑う声が響く最中、そっか、とべりるが落とした呟きが聞こえた。
「実験は完全に成功してるんだね。……優秀なカガク者さんだな~」
 茶化しているように聞こえても、その言葉の裏には様々な感情が隠されていることを耀子は分かっている。
 耀子もまた、あの研究者が言っていた言葉を思い返して頭を振った。
「あのこが崩れたのは、そういうことだったのね。実験。そう」
 腕の中で死んでいった名も知らぬ少年。実験の失敗体としての最期を思うと言葉には表せない思いが裡に巡った。耀子の声を聞き、べりるは視線を送る。
「だったら遠慮はいらないよね。やっちゃおうか、よーこ」
「――良いわ。姿を見せたこと、後で後悔させてやる」
 言葉と共に白刃が舞い、周囲の不定形少女達を切り裂いてゆく。
 其処に合わせてべりるが発動させたのは『コード・ツクヨミ』。
「分霊機解放だよ《ヤタ》、いっぱい増えなさい!」
 べりるの声に呼応する形で浮遊する機械鏡が周囲に広がっていく。解放された複製機能によって鏡が幾つも戦場に展開される中、べりるは自分と同じ名を冠する機宝銃を撃ち放った。
 銃撃の乱射と鏡の反射。それらによって跳弾した銃弾は少女達を容赦なく穿つ。
 しかし少女は白刃や銃弾を受けても尚、笑っていた。
「ふふ、痛くないよ。苦しいのはぜんぶ忘れさせてもらったから」
 言葉の通り、少女は苦痛というものを感じないのだろう。それが本当に幸せなのかと問われれば否と言える。
 絶対に間違っていると口にした耀子に頷き、べりるは更なる銃弾を放った。
「それなら形が分からなくなるまで、吹っ飛ばしてあげる!」
「倒れるまで手は止めないわ」
 べりるに続いて耀子も力を揮い続ける。
 ふたたび花剣を放てば少女達の腕や胴体を刃が穿っていった。すぐに彼女達の身体は元通りに復元されていくがダメージがないわけではないはずだ。数が多くても、形を変えても、溶けて混ざりあったって存在を保つには限りがある。
 少女達は泣くことも、叫ぶことも、許しを乞うこともしない。
 だからといって戦い易いわけではない。敵が伸ばす触手腕を躱したべりるは妙な戦い辛さを覚えながらも機械鏡を更に展開していく。
「今更遅いんだよね、君達はもう人間じゃあないから」
「ええ、そうね。ヒトの範疇を外れたなら、きみたちはあたしたちの敵よ」
 きみたちが自分を認識できなくなるまで斬り果たす。
 それがこの場に立つ者としての務め。悲しみなど感じる暇も与えられない。
 反射した銃弾が少女を穿つ中、べりるは銃口を真っ直ぐに向けた。
 直接狙うのは心臓。其処にはもうきっと鼓動も心もないのだろうが、終わりを与えるならばきっと其処が良い。
「ごめんね、これが私のお仕事だから」
 乾いた銃声が響いた刹那、一体目の少女がその場に伏した。
 耀子は自分を狙う少女を見据える。残骸剣を鞘ごと振りあげた耀子は頭部で噛み付こうとしてくる相手の一閃を受け止めた。
 死は只の死。
 今から行うことは慈悲でも救いでもなく、仇討ちでもない。
「――だけど、そうね。呪詛くらいは聞きましょう。あたしが黄泉路を辿るまで、憶えて連れて行ってあげる」
 言葉に反して少女は何も言うことはなかった。ただ、ふわりと笑んだだけ。
 そして耀子は剣をそのまま振り下ろした。瞬刻、白き刃が戦場を縦横無尽に駆け、少女だったモノの命を散らす。
 周囲を見渡したべりると耀子は腕を下ろし、前方の階段へと歩を進めた。
 既に仲間達によって不定形少女は殆ど倒されている。
「よし、あらかた片付いたかな。よーこ、カガク者を追いかけよっか」
「いきましょう、べりるちゃん」
 先を示す指先を見据え、耀子はべりると共に行く。
 絶対に逃がさない。この戦いに明確な終わりを与える為に、二人は駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レガルタ・シャトーモーグ
チッ、悪趣味な病院だな…
胸糞の悪くなる光景だが、後腐れなく殺れるのは悪くない
…許せ…

囲まれると危険だな
一定の距離を保ちながら、飛針を投げて牽制
スライム達の周囲を走って牽制を繰り返し、意図的に一定の区画へ囲い込んでいく
ある程度集まったら鈴蘭の嵐で一掃する
足りなければ【2回攻撃】で再度

やめろ、口を開くな
そんな事を言っても、もう何もかも終わってる
俺に出来るのは、一刻も早くこのクソみたいな地獄を破壊するくらいだ
沈黙、眠り、終焉の嵐を運ぼう
鈴蘭の花は少女への手向けになるだろうか
いや、どうでもいい事だったな…



●ささやかな手向け
「チッ、悪趣味な病院だな……」
 舌打ちと共にレガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)が見渡したのは異形が蠢く光景。あれは全て、元は人間だったのだという。
 胸糞の悪くなる話に頭を振ったレガルタだが、後腐れなく殺れるのは悪くないとも感じていた。あのような存在を生かしておくことこそ地獄に違いない。
「……許せ……」
 ちいさく呟いたレガルタは此方に向かってくる少女達に視線を向けた。
 近付かれると小柄な自分では雁字搦めにされてしまうだろう。一定の距離を保つべきだと察したレガルタは即座に後方に下がり、指のリングを引く。
 すると前方の少女に向けて袖口から飛針暗器が放たれた。鋭い一閃はスライム状の身体を貫き、近付くことへの牽制となる。
 されど不定形少女は怯まなかった。抱きつくのが駄目ならば腕だけを使えばいいのだというようにくすくすと笑い、触手状のそれをレガルタへと伸ばす。
 しかしレガルタはもう一度、素早くリングを引いた。暗器は伸ばされた腕を深く抉り、少女の身体を飛散させてゆく。
 見る間に敵の身体は再生していくが足りぬなら何度でも放てばいい。
「かわいいおとこのこ……ねえ、いっしょに気持ちよくなろ?」
 この姿になれば痛いことなんてないから。
 そう語った不定形少女の眸は幸福だけを映し続けていた。確かに苦痛からは逃れられたのかもしれない。だが、あんなものまやかしだ。
 少女の声には応えず、レガルタは駆ける。
 飛針を投げ、角へと誘い込むように走る少年は追い掛けて来る少女達を見遣った。
「どうして逃げるの?」
「おいでよ、ねえ」
 蠢く不定形のもの達は口々に疑問を声にして呼び掛ける。見ていられないと感じたレガルタは思わず首を振った。
「やめろ、口を開くな。そんな事を言っても、もう何もかも終わってる」
 彼女達は最早、ヒトではない。此処に在る現実は残酷だ。
 それゆえに自分に出来ることは一刻も早くこの状況を破壊することだけ。そして次の瞬間、レガルタの周囲に鈴蘭の嵐が巻き起こった。
 それは沈黙と眠り、終焉の嵐。
 白い花が舞い散る中で少女達は戦う力を奪われ、その場に倒れ込んだ。
 レガルタは彼女らが完全に死したことを確認した後、ふと思う。
 鈴蘭の花は少女への手向けになるだろうか。せめてもの葬送の彩になったならば――と、其処まで考えた少年は僅かに俯き、思いを言葉に変えた。
「いや、どうでもいい事だったな……」
 どんな事情や思いがあれどこの場の戦いは終わったのだ。
 後は元凶の人物を追うだけだと己を律し、少年は上階を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虻須・志郎
痛いのが辛かったんだろ?
その歳でな、我慢出来ないのは仕方ないさ
だけど全部から逃げちまった……そのツケなんだ

機神覚醒、制御系をファルシオンへ移行
流血を代償にあえて敵の攻撃を受け、その構造を解析
一撃で屠れる弱点を照合後、反撃に転じる

自分に言い聞かせるように、拳を振るう
痛みには慣れてる、覚悟は決まった
捨て身で人だったモノの核を殴り潰す
その痛みを少しでも感じない様に
だからもう、お前達は休んでいい

アムネジアフラッシュで痛覚を誤魔化し
ヴァンプ・シュワルグで流血に耐える

アンタ、名前は?
白衣の科学者へ志郎が問う
そうか……じゃあ××、今日がお前の命日だ
勝利の方程式なんて生温い――海になど還すか
アンタはオレの贄だ



●屠ると決めた意思
 ふわり、ゆらりと少女達は揺らぎ、微笑みを浮かべる。
 それらに人間らしい意思がないと感じながら志郎は機神を覚醒させ、制御系をファルシオンへ移行してゆく。
「痛いのが辛かったんだろ?」
「もうだいじょうぶ。痛くなんてないから」
 その際に問い掛けた言葉に少女はくすくすと笑った。そして、不定形少女は志郎に触手状の腕を伸ばしてくる。
「その歳でな、我慢出来ないのは仕方ないさ。だけど、」
 今、そんな姿になり果てているのは全部から逃げてしまったツケだ。
 厳しい言葉を告げた志郎は敢えて一閃を受け止め、痛みに耐えた。じわりと肌を融かす液体が志郎の身を削る。
 其処から流れ落ちた血を代償にして志郎は敵の構造を解析していった。
 どうやら彼女達に神経はない。思考能力すらとかされてしまった少女に残ったものは、幸福めいた偽の感情だけ。
 それに加えて柔軟で再生力の高い身体が与えられている。
「これは一撃で屠れるものじゃないな」
 何よりも研究者がデータを簡単に解析されまいと講じたのか、明確なデータは探れなかった。それならば倒れるまで殴るしかないと察し、志郎は拳を握り締める。
 少女が抱きつこうと迫る中、志郎は身を翻した。
 その代わりに反撃として、自分に言い聞かせるように拳を振るう。
 触れた部分がとかされていく痛みが駆け巡ったが、痛みには慣れている。覚悟は決まったとして、捨て身の勢いで懐に潜り込んだ志郎はもう一度、拳を叩き込んだ。
「ふふ……とかしてあげる」
 少女は志郎の身体に纏わりつき、力を吸い取ろうと狙う。
 だが、齧り付かれる前に志郎は自らの腕を少女の胸に突き立てた。身を包む痛みは誤魔化し、流血にも耐え抜く。
 やがて志郎は不定形少女の核めいた部位を確りと掴んだ。
 一瞬の間。
 そして――ぐしゃり、と鈍い音が響く。
「もう、お前達は休んでいい」
 崩れ落ち、床に倒れ込んだ少女に最期の言葉を送った。
 ただの液体になり果てた彼女は二度と起き上がらず、微笑むこともなかった。
 踵を返した志郎は白衣の研究者を思い、彼とも彼女とも解らぬ相手が逃げていった上階へと歩を進める。
 そうして、思いを声に載せた。
「勝利の方程式なんて生温い――海になど還すか。アイツははオレの贄だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
逃げていったマッドサイエンティストには視線をくれない
今向き合うべきは、この場にいるかつて人間だった少女らだろう

「壊鍵、起動。『炎殺式』」

これを慈悲と言うつもりはない
どこまで行っても、おれにできることはたった一つ
壊して殺す、ただそれだけだ

『炎殺式』は速射の効く炎の弾丸を連射する式
壊鍵に搭載された汎用魔術回路だ
周囲に計百十の炎弾を浮かべ、自身の周囲を衛星軌道で巡らせながら突っ込む

やることはシンプルに一つ
焼き固め、拳で砕く
固まらずとも、拳で散らし炎で灼き尽くす
即ち、鏖殺だ

罵りも誹りも受けよう
けれどきみ達は、もう生きていてはいけないものになってしまった
だからさよならだ
――来世の幸福を祈っているよ



●たったひとつのシンプルなやり方
 少年の眸はただ、今の標的だけを捉えていた。
 逃げたマッドサイエンティストには視線もくれず、灰の瞳で見据えるのは嘗て人間だった少女達の姿。
「壊鍵、起動。『炎殺式』」
 その式は焔を力として放つもの。
 短い言葉と共に壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は向き合う対象に炎の弾を向ける。周囲に巻き起こった炎は計、百十。それらを衛星軌道のように巡らせた灰色は床を強く蹴り、相対する者との距離を詰めた。
 行うべきことも、行えることもシンプルで、たったひとつ。
 焼き固め、拳で砕く。
 振るわれた少年の腕は伸ばされた少女の触手腕を散らせる。それほどの勢いがついた拳で更にもう一撃。
 散った液体が周囲に広がる様はまるで血が迸っているかのようだ。だが、不定形少女は痛みなど感じていない様子で更なる行動に移った。
「この世界ってくるしいことばかりだった。あなたもそう思わない?」
 他の個体よりも僅かに年上めいた外見の異形少女は問い掛ける。灰色を抱き締めてとかそうとしながらも彼女は更に続けた。
「痛いことは忘れちゃえばいい。そうしたら、しあわせになれるわ」
「…………」
 灰色は答えない。その代わりに少女の腕を振り払い、炎でその身を焼く。
 固まらずとも、拳で散らし炎で灼き尽くす。
 ――即ち、鏖殺。
「ふふ、そんなことされても痛くないの」
 常人であれば既に悲鳴を上げているほどの衝撃にも怯まず、少女は灰色の炎と一閃を受け続けた。その身が散り、蒸発してゆく度に灰色は思う。
 こんなものを倖せとは呼んではいけない。
 思考能力まで奪われた少女達はそれを感じることしか出来ないのだろう。偽りでしないものだからこそ、灰色は力を振るい続ける。
 灰色は灼き千切られていく少女を見つめ、思いを言葉に変えた。
「幸せかなんて知らない。どこまで行っても、おれにできることはたった一つ」
 これを慈悲と言うつもりはない。
 自分ができることを見誤ることだってしない。
「壊して殺す、ただそれだけだ」
 彼女達は、もう生きていてはいけないものになってしまった。
 だから、さよならだ。
 微笑み続ける少女に視線でそう示し、灰色はふたたび壊鍵から炎殺の式を起動させた。新たな焔が周囲に緋色の灯を燈していく中、灰色は告げる。
「――来世の幸福を祈っているよ」
 そして、最大出力を載せた拳が振り下ろされた。
 灼け焦げた匂いが辺りに広がっていく。断末の悲鳴も苦痛もみせることなく死した少女。その姿を見下ろした少年は拳を下げ、己の掌を震えるほど強く握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレム・クラウベル
実験、ね。……随分悪趣味なことで
己が欲の為に利用したか、全て
救いだなどと建前すらもなく
……あぁ、気分が悪い

胸元の銀十字をなぞるのは一度だけ
ようやく逃れた痛みを再び与えねばならないのは心苦しいが
これ以上犠牲を増やすことは許されない
立ちふさがる彼女達に指を差し向け光を呼ぶ
捕縛されぬよう相手との距離に注意し囲まれぬように
適宜射撃も交え、牽制や他の味方の支援も

これを越えれば、もう痛みに苦しまなくていい
……眠れ。妨げるものはもう何もない
ただ、安らかであれと祈りを乗せて撃ち抜く

やむを得ないことだとしても
……慣れるものではないな、罪のない命を摘むのは
黙想は一瞬
……今は先を急ごう、これで終わりではないのだから



●十字に祈る
 彼女達は実験の産物。
 そう思うと虫唾が走るようで、言葉に表せない思いが裡に巡った。
「……随分悪趣味なことで」
 クレムは溜息をつく。この場から去ったカガク者に言葉が届かぬと解っていても口にせずにはいられなかった。
「己が欲の為に利用したか、全て。救いだなどと建前すらもなく……」
 あぁ、気分が悪いと口にして一度だけ胸元の銀十字をなぞる。
 クレムの目の前には異形の身体を蠢かせた少女が迫ってきていた。
「ねえ、いっしょにとけて気持ちよくなろ?」
 ふわりと語り掛け、抱き着こうとしてくる不定形少女の腕がクレムを捉えようと蠢く。だが、即座に身を翻したクレムは少女の腕から逃れた。
 そして、指先を標的に差し向けたクレムは光を喚ぶ。
 途端に不定形少女の腕が天からの光によって貫かれ、液体が周囲に散った。しかし相手が痛みや苦しみを感じている様子はない。どうやら彼女達は本当に苦痛を忘れてしまったようだ。
 それでも、無邪気に甘えるように微笑む少女への攻撃は心苦しい。
「これ以上犠牲を増やすことは許されない」
 口にしたのは自分に言い聞かせる為の言葉。伸ばした触手で此方を融かそうとしてくる標的に視線を向け、クレムはふたたび人差し指を向けた。瞬刻、戦場を裂くように舞い降りた鋭い光が少女の胸元を貫く。
「や、ああ……っ」
 痛みは覚えていないようだが、衝撃にじたばたと暴れる不定形少女。
 クレムは放たれた溶解液を敢えて受け止め、身を焼くような痛みに耐えた。現在のの少女達がすべてを忘れてしまったとしても、あの姿になる以前は病や怪我で酷く苦しんでいたのだろう。
 きっと己の身に巡る痛み以上に彼女達は深い苦痛を抱いていたはず。
 しかし、このままでは嘗ての少女が決して望まぬであろう未来を導いてしまう。
「……眠れ。妨げるものはもう何もない」
 クレムは銃の引鉄に指をかけた。
 それは月が与う銀の一露。魔を喰らい、悪しきを祓うもの。そして――ただ、安らかであれ、と祈りを乗せて標的の胸元を撃ち貫く。
 見る間に不定形少女は崩れ落ち、呆気ない死を迎えて逝った。
「……慣れるものではないな、罪のない命を摘むのは」
 瞼を閉じたクレムが紡いだ黙想は一瞬。
 やむを得ないことだとしても、ひとつの命は完全なる終わりを迎えた。そうしてクレムは亡骸から離れ、上階への道を進む。
 今は先を急ごう。
 未だ、これで終わりではないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『狂ったカガク者あるいは探究者』

POW   :    研究の副産物
自身の身体部位ひとつを【蠢くナニか】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ビビットケミカルズ
【蛍光色の薬品が入った試験管】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にぶちまけられ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    薬品大乱舞パーティー
自身が装備する【劇薬や毒物の入ったフラスコ】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鳥渡・璃瑠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●真夜中の最終実験場
 旧病棟の屋上に激しい夜風が吹き抜けていく。
 階下で足止めとして放たれた不定形少女達は猟兵達の手によって倒され、そのすべての命が散った。
 諸悪の根源を追って辿り着いたのは屋上。
 其処で猟兵達は今、白衣の人物を追い詰めていた。
「やれやれ、もう少しは足止めになると思ったんだが……戦闘実験は失敗かな」
 屋上にあがって来た猟兵達に気付いていながらも慌てず、背を向けていた白衣の影はゆっくりと振り返る。
 今までは影や障害物に遮られて見えなかった顔がはじめてあらわになった。
 元より小柄な人物であると認識されていたが、その顔立ちは幼い。病院に入院していた少年や少女達と変わらぬ年頃に思える。
「子供だ、って顔をしているね。……でも、見た目で判断するのは良くない」
 その声は中性的であり、少女にも少年のようにも聞こえた。
 口振りからするに、性別が判別し辛いのと同じように相手はただの子供ではないのだろうと予想される。
「折角だから教えてあげよう。この姿も実験の成果だよ。歳を取らなければ、いつまでも研究が続けられるからね」
 カガク者は表情をほとんど変えず、しかし不敵な態度で話す。
 そして、これが研究成果だと示して自らの腕を伸ばした。
 するとその手がスライムめいたものへと変化する。軟体の頭部めいた部位になった腕は、猟兵達が先程まで戦っていた不定形少女と同じような形状だ。
「そうだ、君たちの誰かが言っていたね。『自分の身体を実験台にすればいい』だとか、『彼女らの苦痛を取り除くためにしたのだと言えばいい』とかね」
 階下のフロアから立ち去る際に猟兵の言葉を聞いていたのだろう。
 カガク者は薄く双眸を細めた。
「自分への実験も勿論行った。思う存分ね。代償に自分の名も忘れてしまったが、些細なことさ。それに……彼女達の苦痛もちゃんと取り除いてやったじゃないか。あの子達はどうせ死ぬだけの運命だったんだから、生まれ変われて幸せだろう?」
 カガク者は自分の腕で蠢くスライム状のナニか――少女めいた頭部を動かす。
 その頭部は幸せそうに笑っていた。

「さて、どうしようか。逃げ果せるのも無理なようだから……」
 屋上から何らかの手段を使って逃げる気だったのだろうが、カガク者の周囲は既に猟兵達によって囲まれていた。
 しかし相手は焦りなどは見せず、白衣の裏に仕込んだ試験管やフラスコを見せつけながら猟兵達を手招く。
「……『アムネシア計画』の最終実験は自分自身で行うのも悪くない。さあ――」
 かかっておいで、と声がした。
 その声に悲壮感はなく、寧ろ自分が勝つ気でいる雰囲気も感じられる。
 油断ならない相手だと察した猟兵達は敵を見据える。相手は自らの身体すら利用してまでも実験を続ける狂ったカガク者。
 その悪しき存在に引導を渡す為、今こそ己の力を揮うときだ。
月山・カムイ
『アムネシア計画』……さしずめ痛みも苦しみも全て忘れて、人であった事すらも忘れてしまう計画ですか
元々の計画内容については、貴方も既に自分が誰だったかを忘れたように、忘れてしまったのでしょうけども

元は救いたいという願いだったのだろう
元は終末治療としての計画だったのだろう
目的を見失って、どんな形であれ生き残らせる事だけに特化したか
全てを忘れて化け物になるような治療モドキは、ここで辞めて貰おう

絶影の殺戮捕食態を開放、猛然と斬りかかる
どちらかが死ぬまでの喰らい合い
蛍光色の薬品によるダメージなぞ幾らでも耐えて見せましょう
呪翼刻印を最大限に稼働させて、最後の最後まで喰らいつき、喰らい尽くす


セツナ・クラルス
人の為に科学や医療が必要であり
科学や医療の為に人がある…というのは本末転倒ではないのかね
姿を忘れ、名前も忘れ、使命すらも忘れてしまった
あなたは一体「誰」なのかな

あなたの健気な程の探究心は尊敬に値するよ
…でも、もう休んでもいいのではないのかな

得体の知れない毒を身体に浴びるのは
よろしくないだろうね
可能な限り見切りたいところだが
取りこぼした分は氷の力で凍らせてみよう
液体ならば凍るかもしれないからね
被弾したとしても無駄にはしない
敵の人格を借用することで同じコードを使用し反撃
己の魔力を総動員して全力攻撃

(コード使用時は敵の人格になっている為
声が幼くなり、不遜な態度をとる)
さあ、最終実験を始めようか



●忘却の果て
 ――アムネシア計画。
 それはさしずめ、痛みも苦しみも全て忘れて、人であった事すらも忘れてしまう。
 そんな計画だろうかと考え、カムイは敵を見据える。
「元々の計画内容については、貴方も既に自分が誰だったかを忘れたように、忘れてしまったのでしょうけども」
 人の為に科学や医療が必要であり、科学や医療の為に人がある。
 そんなものは本末転倒ではないのかね、と告げたセツナもまた己の思いを問い掛け、標的であるカガク者を瞳に映した。
「姿を忘れ、名前も忘れ、使命すらも忘れてしまった。あなたは一体『誰』なのかな」
「…………」
 しかし、相手はカムイやセツナの言葉に何も答えない。
 ただ双眸を鋭く細め、白衣の裏から幾つものフラスコや試験管を取り出しただけ。そして、敵は猟兵達に向けてそれらを解き放った。
 セツナは自分に向かってくるフラスコを何とか避け、カムイは絶影の刃で以て硝子瓶を弾き飛ばす。
 散った液体が僅かに肌を掠め、焼けるような痛みが走った。
 それは不定形少女と戦った時のものとよく似ている。カムイはあの薬品類もまた計画に用いられたものなのだと察して警戒を強めた。
 セツナも得体の知れない毒を身体に浴びるのはよろしくないだろうと判断して身を翻す。操られたフラスコは壁を作るようにカガク者の周囲を浮遊していた。
「あなたの健気な程の探究心は尊敬に値するよ」
「本当にそう思っているのかい?」
「……でも、もう休んでもいいのではないのかな」
「ふん、何も知らない癖に」
 セツナの言葉にカガク者が反応したが、続く言葉は吐き捨てるような冷たさを孕んでいる。そして、敵はカムイに向けて腕を振るった。
 スライム化した部位は鞭のように伸び、瞬く間にカムイの腕に噛み付く。少女の形をしたそれは彼の力を吸い取りながらにこりと笑った。
 悪意も何もない純粋な表情。だが、それを操るカガク者にこそ邪気が満ちている。
「何も知らぬが、予想は出来る」
 痛みを振り払い、カムイは巡らせた想像を言葉に変えていった。
 元は救いたいという願いであり、元は終末治療としての計画だったのだろう。それはいつしか目的を見失い、どんな形であれ生き残らせる事だけに特化したに違いない。だからこそ、カムイは決意する。
「全てを忘れて化け物になるような治療モドキは、ここで辞めて貰おう」
「休む気がないのならこちらから引導を渡すだけだよ」
 カムイの宣言に続き、セツナも敵に言い放った。されど敵も更なるフラスコや試験管を彼らに差し向けた。
 セツナは迫り来る硝子瓶へと氷の魔力を放ち、中身ごと氷結させる。
 落ちたフラスコが割れ、液体は散ることなく砕け散った。セツナが邪魔な瓶を処理してくれている間にカムイは戦場を駆ける。
 絶影で試験管を叩き落とし、一気に敵の眼前まで距離を詰め――そして、殺戮捕食態を開放したカムイは猛然と斬りかかった。
「……っく」
 咄嗟に敵はスライム状の腕で防御したが、刃はそれごと敵を喰らう。
 少女の形をした頭が地面に落ち、カガク者は白衣の裾を翻しながら後退した。その腕が新たに再生されていく様を見遣り、セツナは敵の厄介さを知る。
 再生に若干の時間がかかるとはいえ、あの腕で受け止められればダメージは殆どないようなもの。だが、そのことを知って尚カムイは凛然と告げる。
「これはどちらかが死ぬまでの喰らい合いだ」
「面白いね。やってみるといい」
 両者の眼差しと言葉が重なり合い、戦場に更なる緊張感が満ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
何がアムネシア計画だ……大層な御託を並べているだけではないか!
そうやって、自分を正当化して来たんだろう? そんなものは研究ではない!

敵が薬品かスライムで攻撃しようとして来た場合、【2回攻撃】+氷の【属性攻撃】を使用。凍結を狙い、毒などの効果の無効化を図る。
そして隙を狙い、【ダッシュ】+【先制攻撃】で距離を一気に詰め、素早く敵に『亡き花嫁の嘆き』叩き込む。

凍結させられないと判断した場合は【残像】+【ダッシュ】で瞬時に回避を試みる。その後は攻撃の隙を見つけ、【ジャンプ】で高く飛び空中から『亡き花嫁の嘆き』を食らわせる。

お前は『カガク者』なんかじゃない……人の未来を奪う、ただのオブリビオンだ!


ジナ・ラクスパー
生まれ変われて幸せ? 苦痛を取り除いてやった?
そうして『生まれ変わった』あの方たちの死を
実験の失敗と一言で切り捨てられる貴方が
どの口でそんなことを仰るのでしょう…!

心のもつ熱に、速く強く荒くなりかける言葉を
握る青の槍の冷たさで宥め
エンハンスに願うのは、戦線に在り続けるための防御の力
身躱しを過信せず迫る頭部を見据えて回避
躱せなくとも、肉を切らせた返礼は貴方の骨で
…っ、そんなもの、ですか?
もっと深く食らいつけばいいのです
その首狙うこの剣から、咄嗟に逃れられない程に!

この方を倒したところで誰の命も還らない
死者は喜ぶことも嘆くこともできない
分かっていますけれど、痛みは心の奥に
…ただ、止めてみせるのです



●実験と記憶
 夜空に星は見えない。
 どんよりとした雲に包まれた寒々しい空の下、少女達は思いを口にしていく。
「生まれ変われて幸せ? 苦痛を取り除いてやった?」
「何がアムネシア計画だ……大層な御託を並べているだけではないか!」
 ジナとヴァーリャは怒りにも似た感情を覚えている。
 実験。ただそれだけの為に命を作り替えられた者達は犠牲になった。
「そうして『生まれ変わった』あの方たちの死を、実験の失敗と一言で切り捨てられる貴方がどの口でそんなことを仰るのでしょう……!」
「あの子達がキミ達を返り討ちにしていたら実験は成功だったんだけどね」
 ジナの言葉にカガク者は何のこともないようにさらりと答える。
 そして、敵は続けて「殺したのはキミ達だ」と告げた。その声を聞いたヴァーリャは拳を握る。その手は震えていた。
「そうやって、自分を正当化して来たんだろう? そんなものは研究ではない!」
「……あの子の事なんて覚えてもないのでしょうね」
 ヴァーリャが強く言い放つ傍ら、ジナも掌を握り締める。
 ジナが思うのは病室で死んでいった少年。失敗作とされるであろうあの子のこと。そして、ヴァーリャもまた自らの手で葬った少女を思い出していた。
 怒り。悲しみ。または憎悪めいた思い。
 心のもつ熱に、言葉が速く強く荒くなりかける。しかしジナは握る青の槍の冷たさで燃え滾るような思いを宥めた。
 その間にも敵は毒薬入りのフラスコを生成して猟兵達に嗾ける。幾つもの瓶が向かってくると察してジナとヴァーリャはそれぞれ左右に駆けた。
 衝突しそうなフラスコをジナが槍で弾きかえせば、ヴァーリャが氷の魔力を放って液体ごと凍らせた。
 手数が足りない分はジャンプで避け、ヴァーリャは液体を踏まぬよう立ち回る。
 ジナも隙を見て魔力を紡いだ。願うのは、戦線に在り続けるための防御の力。これでたとえ攻撃を受けようとも耐えられるはず。
 されど己を過信せず、ジナはしっかりと敵からの攻撃に目を向ける。
 そしてジナは一気に敵との距離を詰めた。軽い身のこなしを活かしてフラスコを凍らせてくれているヴァーリャがいるからこそ、敵まで踏み込める。
 だが、カガク者もジナの接近に気付いてスライム状の腕を伸ばした。
「ジナ!」
 仲間の危機を察したヴァーリャが呼びかけるが、ジナ自身も躱せないと悟っている。されどそれでいい。肉を切らせた返礼は敵の骨を断つことですればいい。
「……っ、そんなもの、ですか? もっと深く食らいつけばいいのです」
 ――その首を狙うこの剣から、咄嗟に逃れられない程に!
 ジナは痛みに耐え、思いを刃に乗せる。そして眼前の敵を横薙ぎに斬り払った。だが、その刃からは柔らかな感触しか感じられない。
「言っただろう、自分への実験も勿論行った、と」
「……!」
 ぐにゃりとカガク者の身が揺らぎ、不定形のものへと変わった。刃から逃れた相手はすぐに元の身体に戻り、双眸を鋭く細めた。
 即座に敵がジナから離れたが、ヴァーリャがその背後に回り込む。高く跳躍したヴァーリャが狙うのは靴裏に生成した刃での一閃。
「それならば、なくなるまで切り刻むだけだ!」
 落下の勢いに乗せて敵の身体を穿てば、細氷の冷気がきらきらと夜を飾った。
 しかし、やはり手応えは薄い。
 敵を蹴った勢いで更に跳躍したヴァーリャはジナの傍に着地した。互いに護りあうように身構え、敵を見つめた。
 相手が手強いことはもう十分に知っている。
 だからこそこの力を揮い続けるだけだとして、少女達は思いを強めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レガルタ・シャトーモーグ
狂人か…、いや…、既にヒトですら無いな
相手がどんな奴だろうと関係無い
俺は仕事をするだけだ

距離をとって相手の出方を見つつ、試験管から避けるように一箇所に止まらないよう走る
ぶちまけられた試験管のエリアが増えれば、こちらが追い込まれかねない
立ち位置に注意しつつ、ダメ元でぶちまけられたエリアに【呪詛】でもかけておくか

攻撃の直後や他の猟兵と交戦中に背後から咎力封じ
背後に回れたら【暗殺】も試す
急所がヒトと同じとは限らないが、どこかを庇うように逃げれば、それが目安になるだろう

貴様はここで散れ
それがせめてもの償いだ


都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

モルヒネのようですね
貴方自身も嘗て病に苦しんだ身か
或いは
痛みや辛さから解放したい誰かを
救えなかったことへの絶望に堕ちた心でしょうか

手を尽くし切れぬ
儘ならぬことの
拭えぬ痛みの
何と重く辛いことでしょう

然れど
「現在」を生きる子供達の心を
「助けて」――生きたい、という希みの蕾を摘み取る権利は
過去の残滓に過ぎぬ貴方には、ありません

生きている限り
未来の花は咲くのです

不意打ち、死角に備えて研ぎ澄ます第六感
見切り回避
オーラで自他防御

フェイント、残像で隙を与え
流星符で捕縛、味方の援護

葬送の餞に放つ花筐は淡紫の薔薇――アムネシア
紫がかった夜明けの空の色

無残に散らされた命達へ
安らかなる終焉を願って



●失くした痛み
「モルヒネのようですね」
 都槻・綾(夜宵の森・f01786)は目の前の存在に向けてそんな言葉を向けた。
 自身も嘗て病に苦しんだ身か。或いは、痛みや辛さから解放したい誰かを救えなかったことへの絶望に心が堕ちたのだろうか。
 痛みと苦しみ。
 それらを忘れさせてしまうことが、この計画なのか。
「狂人か……、いや……既にヒトですら無いな」
 綾の後方、レガルタも敵を見据えて思いを言葉に変えた。
 しかし、相手がどんな奴だろうとレガルタには関係無い。俺は仕事をするだけだと己の心を律した少年は暗器に力を注ぐ。
 それに、名すら忘れてしまったというカガク者に問い掛けたとしても、納得のいく答えが返ってくることはないだろう。
「邪魔だよ、消えてくれないかな」
 相手の淡々とした言葉と共にフラスコが周囲に浮遊していく。その中身はおそらく劇薬や毒物。ユーベルコードの力で操作される瓶は猟兵達を狙って飛翔してくる。
 綾が即座にフラスコを避け、レガルタも軌道を逸らすようにして屋上内を駆けた。地面にぶつかった硝子が甲高い音を立てて割れる。
 絶え間なく襲い来るそれらを見切る為に第六感を発動させた綾は四方八方からの攻撃を何とか回避し、自らも力を紡いだ。
「手を尽くし切れぬ、儘ならぬこと。拭えぬ痛みの何と重く辛いことでしょう」
 綾が思わず口にした想いには犠牲になった少女達への感情が籠められている。
 カガク者の言う通り、その中には運命に抗えずに死を待つだけの者も居たのかもしれない。自分達が事前に手を差し伸べられたとしても、病を完全に治す術は誰も持ち合わせていない。
 レガルタは綾の声を聞き、緩く頭を振った。
 口数は少なくとも彼もまた犠牲になった者への思いを抱いている。
 そして、レガルタは袖口から放つ飛針によって襲い来るフラスコを打ち抜き、劇薬が直接ふりかかる被害を消していった。
 更に綾へと蛍光色の薬品が入った試験管が衝突しようと迫ったが、オーラによる防御がそれを弾く。
「ふん、大人しく受けていればいいものを」
 するとカガク者はぶちまけられた薬品の上に立ち、其処から力を吸収しはじめた。おそらくは実験の産物として、相手だけは薬品から何かの恩恵を受けられるようになっているのだろう。
 そう察したレガルタは呪詛の魔力を紡ぎ、敵が経つ地点に呪いをかける。
「おっと」
 カガク者はそれを受けまいとして身を翻してレガルタ達との距離を取った。この策が有用かどうかはまだ分からない。だが、レガルタは何度でも邪魔をしてやると決めて、呪詛の力を強めていった。
 そうして綾もまた顔をあげ、攻勢に入る。
「然れど『現在』を生きる子供達の心を『助けて』――生きたい、という希みの蕾を摘み取る権利は過去の残滓に過ぎぬ貴方には、ありません」
 綾は七星の力が宿る符を指先で挟み、一気に敵へと投擲した。
 されど符は見切られ、薬液とぶつかって夜闇の中に散る。それでも諦めはしないと誓い、綾は思いを言の葉へと変えた。
「生きている限り、未来の花は咲くのです」
「そうさ、だから生かせる可能性を試して救った。君の考えと何が違う?」
 綾と敵の視線が交差する。
 そんな中でレガルタは首を振り、ダガーをひといきに投げ放った。
「黙れ。救ったなど貴様が言うことではない」
 道理を語れるほど全てを知っているわけではない。
 形は違っても、カガク者も少年や少女達を救ったといえるのかもしれない。だが、それは自分達が認めてはいけないことだ。
 敵は不敵に目を細め、レガルタと綾を見遣った。
 気を付けろという旨の意思を込めた二人は横目で視線を交わしあい、尚も迫り来るフラスコを避ける為に其々の方向に駆けてゆく。
 相手は手強い。戦いは長引くだろう。
 そんな予感をひしひしと感じながら、二人は戦いに抱く意志を強くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
忘れるのは…おススメしないっす
分からないから。何が分からないかも、知ってる筈なのに分からなくなる
…気持ちいいもんじゃないっすよ
俺は、知らないないけど…知ってるっす
右腕の【No.322】を見て、胸の辺りの痛みに一度目を閉じて

…アンタは1発ブン殴る
死ぬだけの運命とか、そんなのある訳無い!
少なくとも、アンタが決めつける事じゃ無いっす!

【逆シマ疾風】で空中戦に、風で試験管を投げる相手の動きを邪魔するっす
アンタの場所なんて、作らせない
外れた試験管も地面に落ちる前に回収してやるっす
相手の真上を取ったら【ブラッドガイスト】に切り替え
落下の速度も合わせて顔に一方ブチ込むっす

連携・アレンジOK


シャイア・アルカミレーウス
確かに死ぬ運命だったのかもしれない。でも、それは今日こんな形じゃなかった!残された時間も、残す言葉も、病気なんかに負けないと立ち上がる未来も貴方が奪った!私はそれが許せない!

(pow)
(病弱だった昔の自分に被害者を重ね、非常に感情的に動きます
真の姿を開放、トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化
【力溜め】+【破魔】の攻撃で力任せに攻撃します

自信か仲間が攻撃を受けたら頭を冷やして魔法に切り替える
思いっきり怒りを込めた「魔術師の咆哮」で敵を蒸発させる)

こんなに簡単に我を忘れちゃうなんて、私もまだまだ勇者とは名乗れませんね……。よっし!あの子達のために、僕たちでお花でもお供えしようか!



●赦せぬ現実
 カガク者が操る試験管やフラスコが飛び交う戦場。
 中の液体を浴びればただでは済まないと感じ、シャイアと蛟羽は硝子瓶が飛んでくる軌道を読み、其々に駆けた。敵は自分を守るようにフラスコを布陣させ、近付く者がいればそれを操って進路を塞いでいる。
 厄介な相手だと唇を噛み締め、シャイアは敵を睨み付けた。
 思うのはあんな姿に変えられた被害者達。
「確かに死ぬ運命だったのかもしれない。でも、それは今日こんな形じゃなかった!」
 彼女達に過去の自分を重ねずにはいられず、シャイアは言い放った。強い感情と共に解放するのは真の姿。
 渦巻く魔力はシャイアに力を授け、その身に炎が宿った。
 シャイアの覇気が戦場に満ちる最中、蛟羽は肩を落として首を横に振る。思うのはやはり犠牲となった少女や少年、そして名を忘れたというカガク者のこと。
「忘れるのは……おススメしないっす」
 分からないから。何が分からないかも、知ってる筈なのに分からなくなる。
「そんなの……気持ちいいもんじゃないっすよ。俺は、知らないけど……」
 確かに知ってるっす、と矛盾にも聞こえる言葉を口にした蛟羽は右腕の『No.322』という文字を見た。そして、胸の辺りが痛む感覚に一度だけ目を閉じた蛟羽はすぐに顔をあげ、風の加護を翼に纏う。
 迫り来る試験管を見据えた蛟羽は風圧の弾丸でそれを弾き、粉々に砕いた。
 液体が飛び散るかと思いきや彼はそれすら風で吹き飛ばす。
 その隙に剣を振りあげたシャイアが地面を蹴った。
「残された時間も、残す言葉も、病気なんかに負けないと立ち上がる未来も貴方が奪った! 私は――」
 シャイアは思いの丈を言葉に変え、フラスコごと突破する勢いで接敵した。
「それが許せない!」
 そして、刃に破魔の力を籠めて振り下ろした一閃は重い。しかしカガク者は感情に任せた一撃などいとも簡単に見切り、ひらりと避けてしまう。
「別にキミ達に許されなくても構わないさ」
 そうして反撃として少女型のスライム頭部と化した腕を振るった。一瞬でシャイアの腕に少女型のそれが喰らいつき、力を奪い取っていく。
 大丈夫っすか、と蛟羽が呼びかけた言葉に頷き、シャイアはスライムを振り払って後退した。ステップを踏み、敵との距離を取った彼女は呼吸を整える。
 見据える先には不敵に目を細めるカガク者がいる。
 頭を冷やさなくちゃ、と噛み付かれた傷跡に意識を向けたシャイアは剣を下ろし、竜牙を用いた魔弾の杖に持ち替えた。
 フラスコの攻撃も試験管の一閃も厄介極まりない。
 近付けば不定形の腕が絡み付いてくるのならば、まずは邪魔なものを壊していくだけ。シャイアが気を引き締めた様子に気付き、蛟羽もしっかりと身構える。
 魔弾が試験管を打ち、続けて放たれた風の弾丸がフラスコを貫いていく。
「させません!」
「アンタの場所なんて、作らせない」
 二人が放つ力は次々と邪魔な硝子瓶を打ち砕いた。相手は零れた薬液から力を吸収する能力もあるようだが、外れた試験管も地面に落ちる前に弾き飛ばすだけ。
 ユーベルコードが飛び交う戦場にて、シャイアはしかと前を見る。
 シャイアが抱く気持ちを肌で感じ取った蛟羽も深く頷き、敵を強く見据えた。
 過去から蘇ったものが現在を侵すなど言語道断。
 自分達が此処にいる理由は――これ以上、未来を穢させない為なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
凍てつけ、燃え尽きろ
そう呪詛のように繰り返す
【蒼く凍てつく復讐の火焔】
その炎を周囲に纏い、拷問具を手に突貫する

我を忘れての攻撃ではない
【絶対零度の蒼の炎】これに触れてしまえば
大抵の薬品は凍りつく
固体にしてしまえば危険度も下がるし対処もしやすい
それに屋上なら空に舞い上がって回避もできる

不老不死?
別に私には興味の無いことだけど
もしそうなら私はこの蒼焔でお前を焼き続ける
お前は私の「敵」
凍えて砕かれ焼け焦げていけ

既に面を脱ぎ去った素顔
光の宿らない瞳に「敵」の姿を映し
焔を振るい、拷問具を振るい、そして己の復讐を成し遂げる

そのためなら多少の傷なんて厭わない
肉体の傷より心の傷の方が痛いのだから

アドリブ歓迎


勘解由小路・津雲
実験は失敗だよ。戦闘実験だけではなくてね。おまえの陳腐な実験全体が終わる時がきたんだよ。そのけがらわしい薬品ともども、浄化の炎で燃やし尽くしてやるぜ。

■戦闘 ユーベルコード【歳殺神招来】を使用、歳殺神の加護を受けた古代の戦士の霊を召喚、燃え盛る炎の槍で攻撃。本体は霊符から「衝撃波」を放ち、戦士の霊を援護。あるいは戦士の霊に命じて他の猟兵の攻撃を援護する。

■心情 「アムネシア」って記憶喪失とか、そういう意味だったか? おまえ、自分の名前を覚えていないと言ったな。……おまえ、実験の目的は? 目的は覚えているのか? 何のための実験だったんだ? いや、少し気になってな。まあ、どうでもいいことか。



●喪失したもの
 夜の狭間に蛍光色の薬品が舞う。
 無差別に、そして無軌道に操られるフラスコ壜を津雲が素早く避け、アウレリアはソード・グレイプニルを振るうことで弾いていった。
 ――凍てつけ、燃え尽きろ。
 呪詛のように繰り返し、アウレリアは蒼く凍てつく復讐の火焔を解き放つ。
 それは決して我を忘れての攻撃ではない。蒼炎に触れてしまえば大抵のものは凍りつく。オブリビオン本体には容易に効かないかもしれないが、操られるだけの薬品ならば無力化も可能なはず。
 夜の闇に絶対零度の蒼炎が浮かび上がり、敵が放ったフラスコの薬品を凍り付かせ、跡形もなく焼き尽くしていった。
 そして、アウレリアはその炎を纏い、拷問具を手にして吶喊する。刃は標的たるカガク者を捉え、その腕を鞭のように絡め取った。
「なかなかやるね」
 敵がアウレリアを見据える中、隙が生まれたと感じた津雲は力を解き放つ。
 ユーベルコード――歳殺神招来。
 津雲の傍に古代の戦士の霊が召喚され、燃え盛る炎の槍が闇を照らした。そして、戦士は槍の切先を敵に向けて突撃する。
 だが、カガク者はアウレリアに絡め取られた腕を自ら引き千切った。
 それは自傷行為にも見えたが異形化している軟体部分を切り離しただけのようだ。本人は何の痛みも受けておらず、千切れた腕も新たに再生している。
 そして、敵は蛍光色の眩い薬品を此方に投げ放った。
 津雲は訝しげに片目を眇めた後、薬品を即座に躱す。その際に津雲はふと思う。
 アムネシアとは記憶喪失という意味だったはず。
「おまえ、自分の名前を覚えていないと言ったな。……おまえ、実験の目的は? 目的は覚えているのか? 何のための実験だったんだ?」
 敵に問い掛けた津雲は霊符を構え、戦士の援護を行っていく。
 すると相手ははフラスコを戦士へと解き放ち、その動きを阻みながら答えた。
「この際だ、少しだけ教えてあげよう」
 カガク者曰く、これは忘れたいことを忘れさせる為の研究なのだという。
 本人が忘れたいものだけを消せば幸福に繋がる。それゆえに実験の目的は覚えている。しかし、副作用として『忘れても構わない』と感じていることが次々と頭から抜け落ちるという。
「で、これを知ってキミはどうしたいのかな?」
 そう話した敵が津雲に視線を向ける。すると津雲は首を横に振った。
「いや、少し気になってな。まあ、どうでもいいことか」
 そういうことかと理解できても相手が行ったことに納得はできない。話を聞いていたアウレリアも敵を見据えた。
 少女達は痛みを忘れることを願い、他の事も忘れてしまったのだろう。
 だが、カガク者がその身体になるまでにも幾千の実験があったはずだ。歳を取らないという相手に向け、アウレリアは冷たい言葉を向ける。
「不老不死? 別に私には興味の無いことだけど、」
 もし、数多の犠牲を払ってその身体になったのならば――。
 十分に有りえる話に想像を巡らせ、アウレリアは光の宿らぬ眼で敵を見る。
「私はこの蒼焔でお前を焼き続ける」
「ふぅん、随分とお怒りのようだね」
 アウレリアの言葉と同時に蒼き焔が燃え上がった。しかし、敵もフラスコを次々と生成して猟兵達へと舞い飛ばす。
 津雲は戦士の霊に他の猟兵やアウレリアの攻撃を援護するよう命じ、自らも更なる霊符で後方支援に入っていった。
「実験は失敗だよ。戦闘実験だけではなくてね」
 おまえの陳腐な実験全体が終わる時がきたのだと告げ、津雲は敵からの衝撃波で以て攻撃を打ち消してゆく。
 そして、アウレリアも更なる攻勢に入りながら、静かに宣言する。
「お前は私の『敵』。凍えて砕かれ焼け焦げていけ」
 その声は冬の空気よりも冷たく、死の宣告のように闇にとけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
探究心が強いんはええことですけど
人様の幸せを決め付ける権利は誰にもあらしまへん
家族と過ごす未来も、苦しみに隠れた小さな喜びも
あんさんは全て奪いはったんです…!

七結ちゃんの攻撃の間を縫うよう
水の槍で【属性攻撃】【援護射撃】
危険な薬品たちをばらまきはったら
桜吹雪の【範囲攻撃】と薙刀の【なぎ払い】で打ち落とします

生きている限り全てのひととわかり合うんは無理やし
何を善悪とするかもうちにはわからしまへん
せやけど
うちにはうちの守りたいものがある、から

七結ちゃんが動きを封じてくれはるさかい
光の弓の弦を引きます
感覚を研ぎ澄まして、集中して…
貫くビジョンを思い浮かべたら矢を放ちます

🌸京言葉
🌸アレンジ可


蘭・七結
サクヤさん(f00865)と。

その探究心が、あの子たちの気持ちを利用したのね。
刹那的な幸せのうしろで、喪失の涙を流した人がどれほどいるのかしら。
嘆きの連鎖が続くのは、美しくない。
その野望も、あなたも。ナユたちが散らしてあげるわ。

毒同士の対決なら、負けられないわ。
〝嘲笑の惨毒〟で動きを封じましょう。
サクヤさんと連携しながら、隙を見つけて間合いを詰める。【毒使い】の毒を使用し【早業】で相手の目元を狙って【目潰し】を図るわ。
さあ、サクヤさんご一緒に。
双刀の白刃で攻撃。傷を付けられたら【傷口をえぐる】で更なる苦痛を味わってちょうだい。
これはナユのイルルをいじめたお返し。
とびきりの痛みを味わうといいわ。



●生と死の価値
 未知を求める心。実験へ賭ける思い。
 あのカガク者を見ていると研究への感情がひしひしと感じられる。
 猟兵をとかさんとして放たれる幾つものフラスコが舞う中、咲夜と七結はそれらを避け、振り払うように戦場を駆けていた。
「その探究心が、あの子たちの気持ちを利用したのね」
「探究心はええことですけど、人様の幸せを決め付ける権利は誰にもあらしまへん」
 七結がそう口にすれば、咲夜も頷く。
 そして七結の傍に液体入りのフラスコが落ちて割れた。地に広がるそれが劇毒だと察した察した七結はユーベルコードを発動させる。
「毒同士の対決なら、負けられないわ」
 放たれたのは嘲笑の惨毒。
 敵の頭上へから猛毒のスパイスが降り注ぎ、その動きを一時的に止める。だが、麻痺が効いたのは一瞬だけ。
「毒の類が効くと思ったかい?」
 不敵に問うカガク者の視線は冷たい。しかし、一瞬であっても止められたのは事実だ。七結が更に力を紡ぐ中、咲夜は彼女の援護となるように動いていった。
 攻撃の合間を縫うように水槍を突き放ち、咲夜は敵に言い放つ。
「家族と過ごす未来も、苦しみに隠れた小さな喜びも、あんさんは全て奪いはったんです……!」
「だから? その小さな喜びって物の為に苦しんで死ねと言いたいのかな」
 咲夜の声にカガク者は首を傾げる。
「そないなこと……!」
 反論する咲夜に敵は呆れたような眼差しを向けた。
 まるで痛みと苦痛を取り除く方が重大だとでも言いたげだ。
「そんなこと、言ってないわ」
 その言葉と共に七結は敵との間合いを詰めようと駆ける。毒のスパイスで目潰しを計るも、その早業よりも先に浮遊するフラスコが七結を襲った。
「ふぅん。でも、彼女達を本当に殺したのはキミ達だ」
 カガク者は猟兵達が倒してきた不定形少女のことを示し、キミ達が手を掛けなければまだ生を繋いでいたはずだと話す。
 衝撃と激痛がその身を駆け巡り、七結の身体が僅かに揺らいだ。
「七結ちゃん!」
「……大丈夫」
 咲夜が七結を呼ぶが、平気だという声が返って来る。
 彼女を気に掛けながらも咲夜はまだ幾つも残されているフラスコに視線を巡らせた。どうにかしてあれをすべて落とさなければならない。
 咲夜は薙刀を振るい、硝子瓶を次々と薙ぎ払っていった。その間にカガク者が新たなフラスコを生成していくが、こちらとて負けてはいない。
「生きている限り全てのひととわかり合うんは無理やし、何を善悪とするかもうちにはわからしまへん。せやけど……」
 薙刀の柄を強く握り締めた咲夜は敵を見据え、言葉を続ける。
「うちにはうちの守りたいものがある、から」
 するとその声を聞いた七結も深く頷きを返し、黒鍵の斬首刃を敵に差し向けた。
 刹那的な幸せのうしろで、喪失の涙を流した人がどれほどいるのだろう。
 嘆きの連鎖が続くのは、美しくない。だから――。
「その野望も、あなたも。ナユたちが散らしてあげるわ」
 凛とした声が、夜の狭間に響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
短い人生、苦痛が多かったとしても、その中に輝く思い出だってあったはず。
死の意味、生の価値を決めるのは本人だ。
苦痛の記憶だけでなく家族たちとの関係性を、親しい人たちとの残された時間を自分勝手な理屈から奪ったあなたを私は許さない。

敵の薬品入りの試験管等の攻撃が厄介ですね。銃で撃ち落としても飛沫か飛びそう。
割っても問題ない位置関係のときを狙って撃ち落としたり、味方が戦いやすいよう「援護射撃」「誘導弾」。
ハシバミの枝で割らないように壁へ打ち返したり枝を飛沫避けにしたり出来そうなら「吹き飛ばし」「カウンター」。

それと味方の方々の治療を。敵の記憶はユーベルコードでも戻らないでしょう。

アドリブ共闘歓迎


オルハ・オランシュ
自分の身体での実験だけじゃ物足りなかったの?
哀れだね
君が地獄に落ちてくれないと
大事な命を使い捨てにされたあの子達が浮かばれないよ
――死ぬ覚悟はできてるんでしょうね

トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化
【力溜め】も併用して、高められる限界まで!
噛みつかれそうになったら【見切り】を狙うけど
間に合わなかったら【武器受け】で被害を抑えよう
体勢を整えられる前に【早業】で【カウンター】
あの子達の無念を晴らさなきゃ
【2回攻撃】で一気にいくよ

私はね、科学って人を楽しませたり、暮らしを豊かにするものであってほしいんだ
君の科学はこの世に要らない



●実験成果
 夜の空気は凍てつくように冷たく、肌を刺す。
 試験管やフラスコが戦場を飛び交い、猟兵達を襲っていた。遙とオルハは互いに背中合わせになり敵からの攻撃を打ち落とし、避けていく。
 オルハは魔力を己の身体に満ちさせていきながら、カガク者へと問いかけた。
「自分の身体での実験だけじゃ物足りなかったの?」
 哀れだね、と口にしたオルハは更なる力を溜める。高められる限界まで研ぎ澄ますと決め、オルハはウェイカトリアイナを握る手に力を込めた。
 思うのは死を迎えた少女や少年達。
 たとえ短い人生だったとしても、苦痛が多かったとしても、その中に輝く思い出だってあったはず。死の意味、生の価値を決めるのは本人だ。
 遙は静かな声で告げ、カガク者を睨み付けた。
「自分勝手な理屈からすべてを奪ったあなたを私は許さない」
 苦痛の記憶だけでなく、家族たちとの関係性、親しい人たちとの残された時間。
 そして――死を乗り越えられたかもしれない未来。
 過去が変えられないのならば、今の自分達は現在に抗うだけ。遙は迫り来るフラスコの攻撃から逃れるように駆け、銃口を向ける。
 管を無暗に壊していっても液体が飛散して痛みを被るだけ。
 それならば、と誰もいない所にあるフラスコを撃ち落とす遙の銃捌きは見事だ。オルハは操られる器物は彼女に任せておけばいいと感じた。
 階下の戦いからの付き合いではあるが、互いの呼吸は把握している。
「こっちもお願いしていいかな」
 オルハは自分に向かって飛んでくるフラスコを示し、遙に呼び掛けた。
 そしてオルハは屋上の端へと素早く駆けていった。それは此処で戦う他の猟兵を巻き込まない為の動きだ。
 彼女の狙いに気付いた遙は拳銃を構え、狙いを定めた。
 今、とオルハから視線が送られた刹那。
 乾いた音と硝子が割れる音が連続して響き、幾つものフラスコが弾け飛んだ。遙によって散らされた液体は誰にあたることもなく虚空に消える。
 オルハは作戦が上手くいったと感じ、改めて敵に瞳を向けた。
 いつまでもフラスコなんかと追いかけっこはしていられない。それでも尚試験管は生成され続けるが、徐々にその数も少なくなってきている。
 それもオルハや遙をはじめとした猟兵達が次々と器物を破壊しているからだ。今や生成よりも破壊の速度の方が早い。
「君が地獄に落ちてくれないと、あの子達が浮かばれないよ」
 大事な命を使い捨てにされたんだから、とオルハが言葉にするとカガク者はちいさく笑ったように見えた。
「地獄? そんなものないよ。あるとしたら苦痛が満ちるこの世が地獄だ」
「だからってあんなこと……」
 敵の言葉に遥が眉をひそめ、ハシバミの枝を強く握る。そして今度は自分に迫ったフラスコに向けて大きく振り被った。割らぬようにそれを打ち返した遙は、改めて敵と自分の考え方の違いを知る。
 最早、何も分かち合うことはできないだろう。
 オルハは地を踏み締めた後、ひといきに敵に向かう。投げ放たれた試験管は三叉槍で弾き飛ばして間近まで迫り、静かな声で告げる。
「――死ぬ覚悟はできてるんでしょうね」
「さあ、どうかな」
 とぼけたような声が返ってくる中、オルハはカガク者の胸を真正面から貫いた。だが、其処に手応えはない。
 その様子を見ていた遙が気付いた。敵の体はもうヒトとしての枠を超えている。
「まさかもう身体の全てがあの子達と同じになっているのでしょうか」
 実験は完全に成功している。
 階下で聞いた言葉を思い返したオルハも槍を相手から引き抜いた。そしてすぐに身を引き、襲い来る劇毒の瓶を躱す。
 まだ戦いは続く。そんな予感を強く感じながら、二人は身構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
漸くちゃんと会えたな。
昼間の借りは返すぞ。

ここまで追い詰めたんだ。逃がさない様に、後方にて支援を。
もしカガク者が逃げようとすれば、エレクトロレギオンで牽制と攻撃を。
相手との距離が近い場合はわざと隙を見せてオペラツィオン・マカブルで応戦する。
【フェイント】が上手く効けば幸いか。

寂しいと、誰かと一緒になりたいと、そう思っているのは、僕達が倒した奴らだけじゃなくて、お前もなんじゃないのか?
アムネシアというのは記憶喪失の事だった筈だ。痛みや苦しさを忘れてしまうのも、一つの幸せの形だろう。
お前のしてきた事は幸せの押し付けだ。

逃げる算段でもつけてここまで来たんだろう、周囲の状況には注意を払っておこう。


虻須・志郎
連携アドリブ歓迎

オマエが好き放題する事が救いだってなら、
オレも好きな様にさせてもらうぜ
どうせ死ぬ運命なんだろう?
アンタにも味わわせてやるよ

ここまで保った正気を糧に、第四の蜘蛛を憑依顕現
真の姿、肥大した四肢と赤い四ツ目の複眼
蜘蛛の化け物、実験の成果、復讐者の姿

『罪を数える迄も無い、齎されるのは死と心得よ』
望まぬ融合は蜘蛛も同じ、生命への冒涜は邪神の愉悦
ヒト風情が高らかに掲げて許されると思ったか?

王者の石が鈍く輝く
変形した蠢くナニかを生命力吸収で喰らい尽そう
痛みは激痛耐性も覚悟もある、捨て身の一撃で立ち向かう

本命でも捨て石でもいい
近付いた所でアムネジアフラッシュ
催眠術で動きを止めて、これでお終いだ



●対峙と拮抗
「漸くちゃんと会えたな。昼間の借りは返すぞ」
 ユエはカガク者を見つめ、自分の周囲にエレクトロレギオン達を召喚する。
「へぇ、昼間のやつか。あの時に記憶も消しておけばよかったかな」
 対する敵はようやくユエのことを思い出したらしく、冗談交じりに言葉を返した。そしてカガク者はユエへと大量のフラスコを解き放つ。
 ひとりでは対処できぬほどの薬液入り瓶の奔流にユエは身構え、機械兵達をフラスコに向かわせた。衝突音と共に硝子が割れ、機兵達が消滅していく。
 それでも尚フラスコはユエに迫る。
 そのとき、一陣の風が吹いた。
 否、そのように感じられただけであり、その正体は駆けた志郎がフラスコを全て打ち落とした風圧だった。
「オマエが好き放題する事が救いだってなら、オレも好きな様にさせてもらうぜ」
 志郎がカガク者を見据えると、同じような眼差しが返ってくる。
 どうするつもりだと問うような敵の視線を受けた志郎は薄く口元を緩めてみせた。
「どうせ死ぬ運命なんだろう? アンタにも味わわせてやるよ」
 そして、志郎はここまで保った正気を糧にして第四の蜘蛛を憑依顕現させる。
 肥大した四肢と赤い四ツ目の複眼は蜘蛛の化け物であり、実験の成果。そして、復讐者の姿でもある。
 それが彼の真の姿だ。
 そう気づいたユエが身構える中で志郎は王者の石を鈍く輝かせる。
『罪を数える迄も無い、齎されるのは死と心得よ』
 望まぬ融合は蜘蛛も同じ、生命への冒涜は邪神の愉悦。ヒト風情が高らかに掲げて許されると思ったか、と告げるとカガク者も片目を瞑って答える。
「生憎、ヒトの姿はもう捨てたよ」
 そうして敵は蠢く腕を掲げた。変異した少女の頭部めいたそれが伸ばされ、志郎に迫る。何物をも融かす痛みが彼を襲った。
 だが、触れた部分から生命力を吸収せんとする志郎も敵の力を喰らい尽そうと狙う。拮抗する力は五分と五分。触れているだけだというのに、異形と異形の喰らい合う様は激しく見えた。
 しかしこれは好機だ。
 志郎が敵を抑えている間に周囲のフラスコを壊せば戦いの突破口になる。
 そう感じたユエはふたたびエレクトロレギオン達を向かわせ、毒液を相殺してゆく。そして、ユエもまたカガク者に問い掛ける。
「寂しいと、誰かと一緒になりたいと、そう思っているのは、僕達が倒した奴らだけじゃなくて、お前もなんじゃないのか?」
 アムネシアというのは記憶喪失のことのはず。
 きっと痛みや苦しさを忘れてしまうのも、一つの幸せの形だろうとユエは感じた。だが、それをどう思うかは個人次第。
「お前のしてきた事は幸せの押し付けだ」
「それを彼女達が望んだとしても?」
 敵は問い掛けに答えず、逆に質問を投げかけて来る。その間も志郎との鍔迫り合いめいた力の奪い合いは続いていた。
 そのまま頼む、と視線で志郎に告げながらユエは機械兵を放ち続け、邪魔なフラスコを消し飛ばしていく。
「……違う。あんなものは望んだなんて言わないだろう」
 頭を振ったユエは不定形少女達を思い返し、カガク者をもう一度睨み付けた。
 何人かは本当に望んだかもしれない。だが、騙された者だっているだろう。ユエは裡から湧き上がるこの感情に名前を付けられないでいた。
 それでも、今はただ敵を止めることだけを考えればいい。
 見据える先には激痛に耐え、敵と渡り合う志郎の姿がある。誰もが皆戦っているのだとして、ユエと志郎は其々の役割をしかと自覚した。
 折角、敵をここまで追い詰めたのだ。決して逃がしはしない。
 そう心に決め、猟兵達は戦い続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレム・クラウベル
……つくづく理解出来ないな
己の身体を実験台にしてまで進める研究など
俺には分かりそうにない
為すは自由、されどそれに他者を巻き込むなら
ましてやその命を弄んだなら
許す理由はどこにもない

祈りの火よ――焼き払え
灰も残さず過去へと還せ
身体の不自然な動きには注視し、予兆あれば炎を盾に
焦がし潰せば奇妙なそれもおとなしくなるだろうか

他者の幸せなど、お前の決めることではない
それに適合出来ずただ苦しみのまま死んだ者もいる
お前が実験などしなければ
まだ生きられたかもしれない命だ
……奪い摘み取ったのとなんら変わらない

償いなど期待していない
もう二度と目覚めるな
過去は過去らしく躯の海で永遠に眠れ
……未来は、お前のものじゃない


壥・灰色
お前がなんのつもりで彼女たちをああしたのかは理解した
おまえが自分の身体を使って、実験の果てを極めたのも理解した

だが、おれたちがそれを許すかどうかは全く別の問題だ
おまえの狂気に端を発した実験が、彼女らを人でなくした
それは死ぬのとどう違う?
幸せに笑っていようと、人を溶かし殺すバケモノになり果てて
かつて愛した者と共にいることさえ出来なくなることが

――死ぬのと、一体、どう違う!!

壊鍵!! 撃殺式、起動!!
こいつを――殺す!!

拳に宿すは『撃殺式』
壊鍵から発される衝撃の威力を数倍に増幅するワンタイム・パス
脚に衝撃を籠め、踏み込み
何を喰らおうが、血反吐を吐こうが
止まらず敵の前に至り、ただ一発の最強の拳を放つ



●炎と衝撃
 カガク者がなんのつもりで彼女たちをああしたのかは理解した。
 自分の身体を使って、実験の果てを極めたのも理解できた。だが――。
「おれたちがそれを許すかどうかは全く別の問題だ」
 灰色は敵が放った試験管を身を捻って避け、振るった拳で弾き飛ばす。
 どうやら敵は広がった液体から力を吸収する能力があるらしい。それを知ったクレムは即座に試験管に狙いを定め、空中で散った薬品を炎で焼き払った。
 これで其処から厄介な力を得ることはできなくなるだろう。クレムは敵を見遣り、己の思いを言葉にして零す。
「……つくづく理解出来ないな」
 己の身体を実験台にしてまで進める研究など自分には分かりそうにない。
 その間にも敵は幾つものフラスコを生成してクレムや灰色をはじめとした猟兵に解き放って来た。
 衝撃を纏った灰色は跳躍で以てそれを躱し、クレムは祈りの火で薬品ごとそれらを燃やして無効化していく。
 浮遊するフラスコは攻撃と同時にカガク者の守護にもなっており、このままでは近付くことすら難しかった。だが、灰色は怯むことなく戦場を駆ける。
「おまえの狂気に端を発した実験が、彼女らを人でなくした。それは死ぬのとどう違う?」
「ヒトであることがそんなに幸せかな」
 灰色の問い掛けに敵は頭を振った。そして、灰色へと劇毒入りのフラスコを嗾けていく。それらを腕で振り払い、灰色は敵との距離を詰めていく。
 痛みが巡ろうとも関係ない。ただ、一点を目指す。
 クレムはその援護になろうと決めて白い浄化の炎を放ち、硝子壜を退けていった。
 為すは自由。されどそれに他者を巻き込むならましてやその命を弄んだなら、許す理由はどこにもない。
 相手はただの過去の存在。未来を毒する権利だってないはずだ。
 灰色は吶喊する。
 敵から答えが得られないと知っていても、ひたすら真っ直ぐに言葉を向ける。
「幸せに笑っていようと、人を溶かし殺すバケモノになり果てて、かつて愛した者と共にいることさえ出来なくなることが――死ぬのと、一体、どう違う!!」
 吼えるような少年の声が夜空の下に響いた。
 そして、起動されたのは壊鍵、撃殺式。こいつを殺す、と決めた思いと共に振るわれた拳は激しい衝撃を纏い、カガク者を貫く。
 次の瞬間、相手の身が弾け飛んだ。身を貫くほどの衝撃にオブリビオンは消滅したと見せかけて、その身体が見る間に再生していく。
 予想していないわけではなかった。カガク者は不定形少女と同じ身体を持っているのだ。それゆえにクレムは少しも動じず、追撃としての炎を紡ぐ。
「祈りの火よ――焼き払え。灰も残さず過去へと還せ」
 焦がし潰せば奇妙なそれもおとなしくなるだろうか。これでも効かぬならば燃え尽きるまで力を注げばいいだけのこと。
「……痛みのない幸せを望むことの何が悪いんだ」
「他者の幸せなど、お前の決めることではない」
 再生途中の身体が燃やされる衝撃で傾いだカガク者は灰色達と距離を取りながら視線を向ける。するとクレムは凛と言い放った。
 あんなものは倖せなどと呼べない。
 実験に適合出来ずただ苦しみのまま死んだ者もいるとクレムも知っている。
「お前が実験などしなければまだ生きられたかもしれない命だ、……奪い摘み取ったのとなんら変わらない」
「おまえが、殺したんだ」
 灰色も敵を睨み付け、更なる力を拳に集わせた。
 体勢を立て直した敵は自分を守るように新たなフラスコを浮遊させる。更なる障害が現れたが、クレムも灰色も気圧されなどしなかった。
 ただ、この戦いを終わらせる。
 そのことだけが変えられぬ過去へ報いる方法だと彼らは識っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる
よーこ(f12822)と一緒に

あの子達が幸せかどうかもわかんなくしたクセに、よく言うよ。
何がなんだか分からなくなるまで狂うなんて、自分の未来を見てるみたいで嫌になるなぁ。
もういいや、御託はたくさん。
アイツをさっさと殺しちゃおう、よーこ。

屋上だから、十分に広そうだね。
だったら私は【スカイステッパー】で跳ねまわりながら銃撃を加えていくよ。よーこや他のメンバーのサポートをするように動くよ。
敵を狙うというよりは、フラスコや試験管を撃って相手の手数を減らそうと思うよ。

ねぇ、よーこ。
私達もこいつらと同じようなモノなのかな。
私、バカだからよく分からないけどさ。
違う……よね?


花剣・耀子
べりるちゃん(f12817)と一緒に

そういう思考のヒトは、良く知っているわ。
研究者なんて多かれ少なかれ「そう」だもの。
それ自体の是非を問うことはしないけれど、
――でも、お前はもうヒトではないわね。

いきましょう、べりるちゃん。
終わりにするわ。

援護はべりるちゃんがしてくれるもの。
あたしは最短距離で首を狙いましょう。
【剣刃一閃】、目の前にあるものは全て斬り果たすわね。

手足の一本二本はくれてやるわ。
その代わり、お前の首を寄越しなさい。


……、ほんとうにばかね。
嬉しいことも楽しいことも苦しいことも悲しいことも、
きみのなかには、まだ沢山在るでしょう。
望みを持ち続けている限り、同じではないわ。

帰りましょう。



●異形の力
 知っている。そんなものだと分かっている。
 あのカガク者のような思考のヒトはよく識っている。何故なら研究者なんて多かれ少なかれ『そう』であるからだ。
 耀子は僅かに眉を顰め、敵を見つめた。
 研究自体の是非を問うことはしない。しかし目の前の存在は斃すべきもの。
「――でも、お前はもうヒトではないわね」
「幸せであるだけならばヒトである意味もないからね」
 敵意を向けた耀子に対し、カガク者は不敵に答えた。同時に耀子に向けて試験管が投げ放たれ、蛍光色の液体が広がる。
 だが、それはべりるが撃ち放った機宝銃の弾丸によって空中で打ち消された。
「あの子達が幸せかどうかもわかんなくしたクセに、よく言うよ」
 呆れたような、それでいて何処か悲しげな言葉を紡いだべりるは即座に身を翻す。それまで彼女が居た場所にぶつかった硝子壜が割れ、気色の悪い液体が地面を濡らして、融かしていった。
 この戦場には敵が操るフラスコや試験管が常に飛び交っている。べりるは戦場を跳ねまわり、耀子は駆け巡ることで其々にそれらを躱し、時には互いに迫る壜を打ち払いながら戦っていた。
 戦いの最中に感じたのは、敵が静かな狂気を孕んでいること。
 何がなんだか分からなくなるまで狂うだなんて、その姿は何だか自分の未来を見てるみたいで嫌になる。
 べりるは敢えてそれを言葉にせず、構えた拳銃でフラスコを撃ち抜いていった。
 この計画は忘れたいことを忘れさせるためのもの。
 少女達を生かせる可能性を試して救った。
 新たな命を得た少女達を殺したのは猟兵だ。
 敵は他の猟兵達と交わした言葉を耀子とべりるは聞いていた。だが、どの言葉にも納得することはおろか、共感すら出来なかった。
「もういいや、御託はたくさん。アイツをさっさと殺しちゃおう、よーこ」
 今更、何を語りかけても無駄だと分かる。
 だから自分達はただ目の前のオブリビオンを屠るだけ。そう決めたべりるの気持ちを察し、耀子は頷いた。
「いきましょう、べりるちゃん」
 終わりにするわ、と告げた耀子はフラスコの軌道を見極め、地面を蹴る。たとえ途中で脅威が迫ろうともべりるがすべて撃ち落としてくれると信じた。
 べりるもまた援護になるよう、自らに襲い掛かる硝子瓶を避けて宙を翔けながら、耀子が往く道をひらいていく。
 その後押しがあるからこそ標的に集中できる。
 剣刃一閃。目の前にあるものは全て斬り果たすとして、耀子は残骸剣を振りあげた。しまった、と後退ったカガク者はそれを避けることが出来ないと察する。
「よーこ、やっちゃえ!」
 べりるが呼び掛けた言葉を背に、耀子は刃を突き付ける。だが、敵は即座にスライム化した腕を伸ばすことで耀子に喰らいついた。
「手足の一本二本はくれてやるわ」
「……くっ」
 耀子は異形の頭部が噛み付く痛みなど気にも留めず、そのまま刃を振り下ろした。そして、其処に全力を込める。
「その代わり、お前の首を寄越しなさい」
 刹那、その言葉通りにカガク者の首が両断された。
 やった、とべりるが思わず声をあげたが、すぐにその瞳に驚愕の色が浮かぶ。
 確かに斬り落とされたはずの首がずるりと胴体に戻り、瞬く間にカガク者の身体が再生してしまったではないか。
「この身体も捨てたものじゃないだろ?」
「……そんな身体になってまで、何が研究だよ」
 敵が得意気に片目を瞑る様を見遣ったべりるは唇を噛み締めた。
 怒りでも悲しみでもない、奇妙な感情が裡に巡っていく感覚をおぼえながら、べりると耀子は敵を強く見据えた。
 それでもきっと、戦いはもうすぐ終わる。誰もがそう感じていた。

●忘れ去られた事件
「しかしまさか、ここまで追い詰められるなんてね……」
 猟兵達の攻撃を受け続けたカガク者はよろめき、弱々しい言葉を吐く。
 蛟羽はそれが好機だと読んで龍閃を纏う腕に力を込めた。
「死ぬだけの運命とか、そんなのある訳無い! 少なくとも、アンタが決めつける事じゃ無いっす!」
「手の施しようがないとカルテに書いてあっても?」
 するとカガク者は不敵に笑う。
 あの少女達の中にはそういう子も居たのかもしれない。それが事実だったかどうかはもう確かめようがない。
 一瞬は言葉に詰まった蛟羽だが、拳を強く握り締めた。
「それでも……アンタは一発ブン殴る」
 既に行く手を邪魔していたフラスコは数が減り、敵まで容易に近付ける。跳躍した蛟羽は敵の真上に跳び、落下の勢いに乗せて殴り抜く。猛き龍は吼え、水気を纏って敵を鋭く穿った。
 其処に続いたカムイが呪翼刻印を最大限に稼働させ、敵に喰らいつく。
「喰らわれたお返しだ」
 最後の最後まで、喰らい尽くす。最期に続く一手として、思いを込めたカムイの一撃は深く、カガク者の小さな身体を貫いた。
 だが、敵はその身を再生させていく。未だ終わらないと言わんばかりに力を振り絞って試験管を飛ばした。
 その狙いは攻撃ではなく力を吸収する為だ。
 其処に気付いたセツナは敢えて試験管の攻撃を被りに向かった。被弾さえすれば此方のもの。痛みも伴うが力を蓄えさせるわけにはいかない。そして、ユーベルコードによって敵の人格を模倣したセツナは不遜な態度で告げる。
「さあ、最終実験を始めようか」
 刹那、己の魔力を総動員した全力の攻撃が解き放たれた。
 自らの能力を模倣されてたじろぐ敵へと、べりると耀子による更なる一閃が加えられる。それだけではなく、シャイアも其処に続いた。
「――全力全霊全開放!!!」
 思いっきり怒りを込めた魔術師の咆哮が敵を蒸発させる勢いで巡っていく。
 焼け焦げる敵の肉体を見据えるアウレリアは、今更容赦などしない。既に面を脱ぎ去った素顔、その瞳には常に『敵』の姿が映っていた。
 焔を振るい、拷問具を振るい、そして――己の復讐を成し遂げる。
 そのためなら多少の傷など厭わない。きっと、肉体の傷より心の傷の方が痛い。アウレリアは言葉を発することなくカガク者を打ちのめしていく。
 津雲もアウレリアに合わせ、戦士の霊に願った。
「そのけがらわしい薬品ともども、浄化の炎で燃やし尽くしてやるぜ」
 解き放たれる炎に己の符を合わせ、津雲は真っ直ぐに敵を見つめる。最早、逃げることなど叶うまい。
 咲夜と七結も頷きあい、最後に向けて力を紡ぐ。
「さあ、サクヤさんご一緒に」
「七結ちゃん、いこか」
 光の弓の弦を引いた咲夜が感覚を研ぎ澄ませ、集中する。その間に七結が双刀の白刃を振るい、其処に出来た傷口を抉った。
「これはナユのイルルをいじめたお返し。とびきりの痛みを味わうといいわ」
「――今や!」
 白蛇の分だとしてお返しの一閃を抉り込んだ七結に合わせ、貫くビジョンを思い浮かべた咲夜が光の矢を放った。
 敵の傷口が更に広がり、再生が間に合わぬほど削られる。
 その間にユエは周囲を見遣った。
 敵とて逃げる算段でもつけてここまで来たのだろう。此処で逃走されては何もかもが水の泡になってしまう。
「あれは……?」
 不意に遠くの夜空にヘリのような影が見えた。しかしそれは病院には近付かず、そのままどこかに消えてしまった。計画というくらいだ。まだ仲間がいるのかもしれないが、その正体を知ることは今は不可能だろう。
 気を取り直したユエは敵に視線を向け直す。
 自分の役目は機械兵達と共に邪魔なフラスコを撃ち落とすことだ。彼に援護を任せ、志郎は接敵する。
 近付いた所でアムネジアフラッシュを使用した志郎は催眠術で敵の動きを止めることを狙う。しかし、敵は全く動じていなかった。
「そんなものが効くわけないよ」
「そうか。だが、これでお終いだ」
 されど志郎にとってはそれで良かった。たった一瞬でも自分に意識を向けたのが運の尽き。その間に他の仲間達がカガク者の背後を取っていた。
 綾が七縛符を放ち、オルハと遙が其処に続く。
 遙は傷付いた仲間の治療を担い、最後まで誰も倒れぬよう支えようと決めた。
「その記憶はユーベルコードでも戻らないでしょうね」
 呟いた言葉は世闇に消えていく。
 そして、オルハは自らが倒した少女達を思って「あの子達の無念を晴らさなきゃ」とちいさく呟いた。
「私はね、科学って人を楽しませたり、暮らしを豊かにするものであってほしいんだ」
 だから――君の科学はこの世に要らない。
 そう告げたオルハの風を纏う一閃が敵の身を貫いた。
 更には真正面から駆けた灰色がふたたび、拳に撃殺の式を宿す。それは衝撃の威力を数倍に増幅するワンタイム・パス。
 脚に衝撃を籠め、灰色は強く踏み込む。苦し紛れに敵が振るった蠢く腕が身を掠めたが、少年は止まらず敵の前へと至った。
 そして、ただ一発の最強の拳を放つ。
「――喰らえ」
 先程とはうって変わり、静かな言葉と共に鳴り渡ったのは破裂音めいた衝撃の残響。身体を粉々に砕かれる勢いで弾け飛んだカガク者の身体は奇妙に蠢いた。
「まだ、だ……痛みも苦しみもない。実験は、成、功……」
 敵は譫言のように何かを繰り返し呟く。
 クレムは憐れむような眼差しで敵を見遣ると、読み上げた祈祷文から生じた火を差し向けた。過去は過去らしく躯の海で永遠に眠ればいい。
「償いなど期待していない。もう二度と目覚めるな」
 ――未来は、お前のものじゃない。
 宣告めいた言の葉が落とされた直後、浄化の焔が千切れた身体を燃やす。
 それでも敵はその身を再生せんとして蠢いた。最早それはヒトの形を成していない、ただのスライムめいたナニかだ。
 レガルタは眉を顰め、もう終わりにするべきだと感じた。
「貴様はここで散れ。それがせめてもの償いだ」
 其処から放たれるのは抉る刃の一閃。相手を死に至らしめるほどの深く、鋭い刃の衝撃はカガク者の力を大きく削った。
 そして、レガルタの一撃が転機になったと気付いたヴァーリャはふたたび駆ける。
 怒りにも似たこの感情を、どうにも出来ぬ憤りを全てぶつける為に。
「お前は『カガク者』なんかじゃない……人の未来を奪う、ただのオブリビオンだ!」
 ヴァーリャも、ジナも分かっている。
 この敵を倒したところで誰の命も還らず、死者は喜ぶことも嘆くこともできないことを、痛い程に知っていた。
 分かっていても、心の奥に巡る痛みは消えてくれない。だからこそ誓う。
「……ただ、止めてみせるのです」
 思いを込めたジナの刃。そして、ヴァーリャの紡ぐ氷の刃が同時に敵を貫いた。
 崩れ落ちた敵はもう言葉を発することも出来ないようだ。
 綾は真冬の黎明の如き刀身を掲げ、それを四季謳う彩りの花弁へと変えた。
「終わらせましょう」
 葬送の餞に放つ花筐は淡紫の薔薇――アムネシア。
 それは紫がかった夜明けの空の色を宿す花。
 無残に散らされた命達へ、安らかなる終焉を願って手向けられた花は夜風に乗り、遥か空へと舞い上がっていった。
 そして、戦いは終幕した。
 骸の海へと還っていくのだろうか。目の前で消え去ったカガク者が居た場所を見下ろし、シャイアは肩を落とした。
 こんなに簡単に我を忘れてしまうなんて自分もまだまだ勇者とは名乗れない。
 それでも敵のしたことは赦せなかった。
「よっし! あの子達のために、僕たちでお花でもお供えしようか!」
 シャイアは敢えて明るく言い、未来を見据えるのだと心に決める。他の猟兵達も死した者への敬意を払いたいとして彼女に同意を示した。
 そんな中、べりるは一度だけ夜空を見上げてから視線を落とす。
 まだ夜は深く、夜明けは遠い。
「ねぇ、よーこ。私達もこいつらと同じようなモノなのかな」
 吐いた息は白く、俯いたべりるの表情を隠してしまった。耀子は彼女の横顔を見つめながら続く言葉を待つ。
「私、バカだからよく分からないけどさ。違う……よね?」
「……、ほんとうにばかね」
 耀子は一瞬だけ、本当にたった一瞬だけ泣き出しそうな顔をした。
 しかし首を横に振り、べりるに伝える。
 嬉しいことも楽しいことも苦しいことも悲しいことも、きみのなかには、まだ沢山在る。望みを持ち続けている限り、きっと同じではない。
 そうでしょう、と問い掛けるとべりるはそっと頷いた。
「……うん」
「帰りましょう」
 耀子は踵を返すとべりるを呼び、帰路につく仲間達の後を追った。

 こうして結ヶ丘病院で密かに起こっていた事件の幕は下りる。
 元凶は消えても失われた命は戻らない。消えた少年や少女の行方は誰にも知られぬまま、望まぬ忘却の果てで眠り続けるだけ。
 それでも、猟兵達は憶えている。
 懸命に生きたいと願った者の心を、生への思いを。そして、その最期を。
 忘れぬことこそが、ささやかな手向けになると信じて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月05日


挿絵イラスト