迷宮災厄戦⑫〜レッツ、スタイリッシュ!
●ザ・ゴールデンエッグスワールド
静かな湖のほとり。穏やかな波が陽光にきらめき、水鳥たちがゆったりと水面に浮いている。水鳥たちの中に一際、輝く一団がいた。生きた黄金、輝く羽毛を持った黄金のガチョウたち。その内の一匹があくびの様に一声鳴いた。
不意に水面が大きく揺れた。遠くから響く足音と木々を折る破壊音。黄金ガチョウたちを残して他の水鳥たちが、一斉に羽ばたき逃げるように飛び去って行く。やがて湖の傍らの木をへし折って、巨大なオウガ達が姿を現した。全身を鎧で覆ったトランプの巨人たちだ。
「見つけたぞ、黄金ガチョウ。その卵の力、オウガ・オリジン様のために使わせてもらう」
巨人の言葉に、黄金ガチョウたちはしばらく巨人たちの姿を見回していたが、一斉に首を横に振った。
「グワッグワッワッ(なんていうかさー、違うんだよねー)」
「グーグワーッ(そーそー。別にオウガでも協力するけど。こーパワー系は見飽きているってゆうかー)」
「グッグッグワ、グッグッグ、グーワー(おれ達が見たいのはもっとこうさー、スタイリッシュ! ってやーつー?)」
呆気にとられる巨人たちの前に一匹の黄金ガチョウがお尻を振り振り歩いていき、二つの翼で追い払うようなゼスチャーをして見せる。
「貴様らっ愚弄するか!」
激昂するトランプの巨人たちをあざ笑うかのように、一斉に飛び立つ黄金ガチョウたち。巨人たちの頭上で金色の羽毛がはらりと舞った。
●グリモアベース
「さて、アリスラビリンスでオウガ退治の依頼だ。敵はトランプの巨人――ま、オウガ・オリジンや猟書家たちと戦う前の前哨戦って感じだね」
説明をするのはディスターブ・オフィディアン。
「場所は、ザ・ゴールデンエッグスワールド。黄金ガチョウたちが住んでいてね、彼らの存在で戦いは有利にも不利にもなるだろう。
彼らが生む黄金の卵は、それを持つものに大きな力を与える。この世界限定ではあるけどね。それはオウガ達も分かっている。配下のトランプ兵団を呼び出して、黄金ガチョウの卵を狙っているようだ。もっとも、ガチョウたちの好みに合わなくて難航しているようだけどね」
言ってディスターブは悪戯気な笑みを浮かべる。
「そう、好みだ。どうもここのガチョウたち『スタイリッシュな戦い』が好みらしくてね。彼らの目の前で格好良く戦って見せれば、気前よく卵を産んでくれるだろう」
つまるところ作戦はこうだ。
「まず黄金ガチョウを追っているトランプ兵団に攻撃を仕掛けて格好良く倒す。
その時の格好良さに応じて大量の黄金の卵が手に入るだろう。
一通り黄金の卵を手に入れたら、兵団たちの親玉、トランプの巨人との戦闘だ。
もちろんこの時も格好良さを意識して戦えば、追加で黄金の卵を産んでもらえるだろう。
卵を10個ほど手に入れた後なら問題なく倒せると思うよ」
そう言って、ディスターブはおどけるように両手を広げて見せた。
「敵は多勢だが、ガチョウたちの好みがわかっている以上は、みんなに分がある。敵のオウガたちには、君たちの引き立て役になってもらおうじゃないか」
雲鶴
主人公求む! 雲鶴です。
さて今回はアリスラビリンスの迷宮災厄戦シナリオとなります。
今回のシナリオでは「黄金の卵をオウガに取らせず、自分達が取る。」ことでプレイングボーナスとなり、有利に戦闘を進めることが可能です。
なおOPで書いた通り、スタイリッシュな戦闘を披露することでガチョウたちが黄金の卵を大量に生んでくれます。
補足情報として、黄金の卵は中身まで黄金になっていますので、激しいバトルで割れる恐れはありません。オウガが手に入れた際は丸のみしますが、どのように持ち運ぶかは考えておくとよいでしょう。また所有数に応じて持ち主の体が光ります。
なお周辺の地形は背の高い木が生えた森になっており、そこそこの大きさの湖があります。
それでは皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『トランプの巨人』
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POW : 巨人の剣
単純で重い【剣】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : トランプ兵団
レベル×1体の、【胴体になっているトランプのカード】に1と刻印された戦闘用【トランプ兵】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : バインドカード
【召喚した巨大なトランプのカード】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
水鏡・怜悧
詠唱:改変・省略可
人格:ロキ
ふむ……格好良さを意識して戦う、ということですね。ガチョウさんたちの好みに合うかはわかりませんが。
UCで風を纏うブーツと氷を纏うレイピアを構築。風で加速し、数合打ち合いながら相手の動きを情報収集。一度後ろに飛び退き、間を縫うように高速移動しながら斬りつけます。氷の量を微調整し、敵の集団を抜けきったところで一度に敵が倒れるようにしましょう。
卵はUDCの液体金属で身体に縛り付け、上から黒い白衣を羽織っておけば見栄えの問題は無いでしょう
巨人に対しては「換装」と言いレイピアを光属性の2丁拳銃に変更。ガン=カタの要領で高速接近戦。隙を見て巨人の口内へ銃口を入れ引き金を引きます
アルミィ・キングフィッシャー
スタイリッシュ…?
曲芸でもやれば良いのかい?
戦いに注文付けるとかあんまりいい趣味じゃないんじゃないかね。
まあ良いさ、なら少し付き合ってみせようか。
相手はトランプ兵団かい、じゃあ胴体に派手なマークがあるから敵陣に突っ込みながらそこに矢を打ち込んでいこう。点数は低そうだけどね。合体したらリビングロープを投げて動きを封じるの試みる…けど逆にふっ飛ばされるかもしれないね、けどバンダナを広げて空中でこらえて敵の頭上から飛び降りてダガーで一突き。
まあこんな感じさ。
そこのウスノロはこんな真似できるかい?
攻撃してきたら防具を残して背後から刺突。
これはアンコールさ、まあとっときな。
トレーズ・ヘマタイト
※アドリブ自由
魅せる戦いか、意識はしておこう
黒魔導鎧を着て黒剣と白剣を左右に持ち上空に転移、兵団の1体を踏み潰して着地、注目を集め●時間稼ぎをし敵数を確認
敵の攻撃を●武器受けし●カウンターで切り捨てていき、ガチョウを優先する者は腰に下げていたトロワを剣状態で2本抜き●念動力で操り切り倒す
敵が逃げれば四本の剣を投げて倒し、その隙を狙ってきた者はトロワの3本目を抜き返り討ちにする
卵をもらえれば鎧の中の体内に入れる
タールかつ●怪力持ちの自分であれば問題はないだろう
巨人戦は剣撃を選択UCを使い残像を残し上空に飛んで避け、黒剣白剣を合体させ大剣とし、地上へ飛び●鎧砕きで粉砕し、更に緋晶で焼ききる
以上
パルル・ブラックベリー
スタイリッシュってよくわかん無いけど要はゴリ押ししなけりゃ良いわけだ。
そしたらまずはトランプ兵をこっちに誘き寄せるぞ。この内臓ペラペラ野郎!お前らなんぞ精々折り紙として遊ぶことくらいしか価値がねーんじゃ!
敵が向かってきてくれたらまずは敵の頭上を飛んで避ける、すれ違い様に片手で敵の頭を掴む。そのまま前に放り投げて集団にぶつける!まぁそこそこ魅せプレイじゃない?
タマゴについては『パルルちゃんポット』の中に無理やり突っ込んで持ち運んで回収すればこれも解決出来るからヨシ
タマゴが揃ったら巨人君にユーベルコードを使うぞ。お前らの頭ぐちゃぐちゃにしてくれるわぁ!
佐伯・晶
スタイリッシュか、難しいね
でもまあ、それが必要ならやれるだけやってみようか
という訳でワイヤーガンを主体に戦ってみるよ
糸使いってスタイリッシュと相性良い気がするからね
トランプ兵達を森に誘い込んで
ワイヤーガンで立体的に移動しつつ
切断用のワイヤーで攻撃しようか
押し寄せてきたところを頭上に跳んですり抜け
ワイヤーでひとまとめにして切断したり
木の幹を蹴って移動し無駄に背後に降り立ち
ワイヤーで首を刎ねたりしてみよう
巨人との戦いになったらバインドカードを
木とワイヤーガンでの移動を利用して回避
そのまま隙ができるまで引っ掻き回した後
試製電撃索発射銃を使用し電撃で動きを止めたよう
そのまま締め付けてばらばらにしようか
シキ・ジルモント
◆SPD
宇宙バイクに乗って現場へ
格好の良い戦い方など意識した事は無いが、やれるだけやってみるか…
ユーベルコードを発動
バイクのスピードを上げて、敵集団へ突撃
バイクの『運転』技術を駆使してトランプの兵の間を縫うように走り、すり抜けざまに射撃を叩き込む
召喚されたトランプ兵団多く囲まれるなら、バイクごとジャンプして飛び越える
そうして頭上を取れば、一転してこちらが有利だ
遮るものの無いその状態から、兵団の頭上から弾丸を見舞ってもいいし、本体の巨人へ反撃してみるのもいいだろう
卵はバイクに固定した袋に入れて運ぶ
手に持つ必要がないから、多く手に入れても邪魔にはならないはずだ
…体が光るのは落ち着かないが、仕方ない
●
おとぎの国の森の湖畔、響き渡るガチョウの鳴き声に、森を踏み荒らすトランプ兵士たちの足音。空を飛んで逃げる黄金ガチョウたちをトランプ兵士たちが追い掛け回していた。
木々の陰に潜み、六人の猟兵がその様子をうかがう。
「光っているものはいないな。どうやらあいつらは黄金の卵を手に入れていないようだ」
相手の様子を観察するのは、黒い魔導鎧の騎士――トレーズ・ヘマタイト(骸喰らい・f05071)。
「まあ、数を頼んで追い掛け回すのがスタイリッシュかって言うと違う気がするしね。……スタイリッシュ自体が難しいけど」
と、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)が相槌を打つ。
「ほんと、曲芸でもやればいいのかね。命懸けの戦いに注文付けるとか、あのガチョウたちあんまりいい趣味じゃないんじゃないかね」
アルミィ・キングフィッシャー(「ネフライト」・f02059)は軽くため息をつきながら、皮鎧やアイテムのチェックをしていく。
「ふむ……見栄えの良さや格好良さを意識して戦う、ということですね。どんな戦い方がガチョウさんたちの好みに合うかはわかりませんが」
「格好の良い戦い方など意識した事は無いが、やれるだけやってみるか……」
考え込みそうな水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)の隣でシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が宇宙バイクにまたがり、ハンドガンに銃弾を装填。
「よくわかんないけど要はゴリ押ししなけりゃ良いんでしょ? ガチョウたちの好みなんて考えてても仕方ないし」
2人の頭上で、ピンク髪のフェアリー、パルル・ブラックベリー(腹黒フェアリー・f10498)が能天気な声を上げる。
「ただ単に敵を倒すのではなく、魅せる戦いか。どこまでできるかはわからないが意識はしておこう。……む?」
ガチョウたちの鳴き声が一際大きくなる。トランプ兵の腕の中で逃れようと暴れる黄金ガチョウ。その姿にトレーズは咄嗟に二振りの剣を引き抜き、転移の魔方陣を展開。
「切り込む」
仲間達へ言い置いて、トレーズの巨体が掻き消えた。直後、トランプ兵達の頭上に魔法陣が展開されトレーズが転移。彼の巨体が轟音とともに着地し、真下のトランプ兵を踏みつぶす。
「猟兵っ!? 敵襲っ、敵しゅ……っ」
立ち上がりざまトレーズは黒剣の切り上げで手近なトランプ兵を切り伏せ、白剣の突きでもう一体――黄金ガチョウを捕まえていたトランプ兵を仕留める。
無事にガチョウが空へ逃げ去るのを見送ってトレーズは自らに殺到するトランプ兵達に向き直り、敵兵の数を図る。
――なかなか数が多いな。九十から百はいるか。しかし。
「このメンバーを相手取るには足りないな」
トレーズが独り言ちると同時、無数の矢がトランプ兵達に向けて降り注いだ。トランプ兵達が悲鳴を上げて、足を止める。
「これで敵の勢いは殺せたね。それじゃ、ここからが本命だ。その派手な胴体のマーク射抜かせてもらうよ」
矢を番え、トランプ兵の中へ駆けこむのはアルミィ。足を止めることなく矢を放ち、トランプ兵達の胴体を矢で穿ち貫いていく。
「こっちはダイヤの2でこいつはクラブの3、点数が低そうだね。ハートのクイーンとかスペードのキングとかいないものかね。……っと、ハートの5頂きっ!」
また一体、胴の中央を射抜かれたトランプ兵が倒れ伏す。
「くっ敵は少数だ! 陣形を整えろ、囲め囲めっ!」
「そうはいかない――、掻きまわさせてもらうよ」
涼やかな声と共にトランプ兵のもとへ飛び込んだのは怜悧。UDC金属を変形させ風を纏わせたその靴は地に着くことなく、空気を踏んでいた。
突きかかってくる槍の穂先を、怜悧は手にしたレイピアで切り飛ばし、トランプ兵の胸を一突き。レイピアがまとう冷気がトランプ兵の体を凍り付かせる。
横合いのトランプ兵の槍をレイピアでしのぎながら、怜悧はトランプ兵の動きを確かめるように斬りつける。
「やーいこの内蔵ペラペラ野郎! 悔しかったら、もっと厚みのある人生送って見せろ!」
パルルがトランプ兵達の頭上を飛び回りながら、彼らに挑発の言葉を浴びせかける。
仮にも彼らは兵士である、見え見えの挑発であれば引っ掛かりはしなかっただろう。
「お前らなんぞ精々折り紙として遊ぶことくらいしか価値がねーんじゃ! あっ、硬くて簡単には折れないから、折り紙にしても微妙かな?」
しかし、無視を続けるには彼女の挑発は余りにもうざすぎた(誉め言葉)。
「――いい加減に、しろぉっ!!」
とうとう耐えかねたトランプ兵達がパルルを追いかけて、誘い込まれるままに森の中へ入っていった。
高らかに響き渡るエンジン音。カスタムバイク・レラに乗ってシキがトランプ兵達へと突っ込んでいく。右手で器用にバイクを操りながら、左手でハンドガンの照準を合わせ、すれ違いざまにトリガー。トランプ兵達の合間を縫うように走りながら、兜を撃ち抜いていく。二体、三体と撃ち抜いて四体目。
「おのれ騎兵か。叩き落してくれる!」
トランプ兵がシキの正面に立ち、槍を大振りに薙ぎ払う。瞬間、シキは大きく車体を傾斜、横倒しにバイクを滑らせて槍の下を潜り抜ける。
驚愕の表情を浮かべるトランプ兵に、シキがハンドガンを発砲。その頭部を撃ち抜いて、再びバイクを加速させる。
「ええい、あの妖精どこに行った。おい、そっちはどうだ?」
「駄目だな、見つからない」
森へ入り込んだトランプ兵の二人連れ。晶は二人の頭上の木に陣取り切断ワイヤーを伸ばしていく。
「仕方ない、一度本体に合流するか」
言った瞬間、風を切る音がした。次いで何かが地に落ちる音。
「うん、なんだ今のお、と……」
振り向いたトランプ兵の視線の先には、首を切り落とされた同僚の姿。倒れ込む仲間から逃れるように後退るトランプ兵の背後に人影が立った。風切り音、トランプ兵の胴体をワイヤーが両断する。
倒れ伏すトランプ兵を眺めながら、人影――晶が彼らを切断したワイヤーを巻き取っていく。
「無駄に背後を取ってみたけど……スタイリッシュってこんな感じでいいのかな?」
「あーっはっはっはっ、ここまでおいでーだ!」
高笑いしながら飛びまわるパルルをトランプ兵達が追いかけまわす。その数およそ十余り。ほとんどが激高し冷静さを欠いていたが、一体だけ冷静さを取り戻していた。わざと速度を落とし仲間から離れると、パルルが折り返してきたところへ回り込む。
「もう逃げられはせんぞ!」
「げぇーーっ! こっちくんなぁ!」
叫ぶパルルを叩き落そうとトランプ兵が槍を振り下ろし、その真下でパルルがニヤリと笑った。
「なんちゃって」
槍の一撃をヒラリとかわし、パルルはトランプ兵の頭上へ飛ぶ。兜を掴みトランプ兵の体を持ち上げて、引っこ抜く様に投げ放つ。落下していく先は彼女を追うトランプ兵達の頭上。トランプ兵達が慌てて避けようとするが、全速力からは止まれない。かえって足がもつれて転んだところへ、落下。衝突に追って全員が巻き込まれふっ飛ばされる。
「ヴィクトリーッ! まあそこそこ魅せプレイじゃない?」
目を回し倒れ込んだトランプ兵達の上に立って、パルルはどや顔で決めポーズをとるのだった。
トレーズの揮う剣がトランプ兵を両断し、アルミィの放った矢が胴体のマークを射抜く。二人の足元には既に数十のトランプ兵が倒れていた。
「これが猟兵か、強い……っ! こうなれば先に黄金のガチョウを!」
「そうはいかない」
その場を逃れようと背を向けたトランプ兵へ矢が降り注ぎ、足が止まったところへトレーズが腰に差していた二本の剣を投げ放つ。放たれた剣は違わずトランプ兵の背中を刺しぬくと、宙を浮かびトレーズの側へと舞い戻った。
「まだまだ多い、ここから先は速度をあげさせてもらう」
怜悧は四方からトランプ兵に囲まれていた。前から振り下ろされる槍をサイドステップで回避。左右から放たれる突きをしゃがんでかわし、レイピアで穂先を跳ね上げ三人まとめて転倒させる。後方からの薙ぎ払いをレイピアの柄で叩き落すと、そのまま勢いを殺すように後ろへ大きく跳躍し包囲網の外に着地する。怜悧へと殺到するトランプ兵達へレイピアを構えて疾走。
「もう動きは見切った、終わりにしよう!」
靴に纏う風を強化し高速化、怜悧は一瞬にしてトランプ兵達の真ん中を切り抜けて、彼らの背後に着地する。動きを止めたトランプ兵達を背に怜悧がレイピアを腰に差した瞬間、切り裂かれたトランプ兵達が同時に倒れ伏した。
銃声と共に、また一体トランプ兵が倒れ伏す。その光景を背にシキはバイクを走らせる。
「やれやれ、少しは数が減って来たか。……む?」
車体を反転させ再びトランプ兵達のもとへ走らせようとしたシキの目に映ったのは、混乱から立ち直り陣形を整えたトランプ兵達の姿。横一列に並んで隙間なく盾を構え槍の穂先を前方へ向ける――ファランクスの陣形だ。じりじりとシキを包囲するトランプ兵達へ向け、シキは即座にアクセルレバーを握りこむ。急加速、前方のトランプ兵へ向けハンドガンを連射するが、トランプ兵の構える巨大な盾に弾かれる。バイクが槍の間合いに入る寸前、シキがバイクの前輪を跳ね上げた。バイク諸共跳び上がり、シキは放物線を描く様トランプ兵達の頭上を越える。眼下のトランプ兵達の背中に向けハンドガンを連射。
着地音と共にバイクのタイヤが地を滑る。着地の反動を抑えてバイクを制止させたシキの周りに動けるトランプ兵はいなかった。
彼の足元に一匹の黄金ガチョウが歩み寄ってきた。
森の中、樹上の晶が操るワイヤーがトランプ兵達の胴を割いた。反撃とばかりに残ったトランプ兵達が根元に立って槍を構えるが、突き出すより早く晶がワイヤーガンを発射。トランプ兵達の頭上を跳び終えて後方の木へと飛び移る。
追いかけようと駆け出したトランプ兵の首にワイヤーがかかった。ワイヤートラップだ。思わずトランプ兵が足を止めた瞬間、晶が手元のワイヤーを手繰った。張り巡らされていたワイヤーが引き絞られて、トランプ兵達の体を微塵に引き裂く。
次の切断ワイヤを仕掛けようと地面に降りた晶の足元へ、一羽のガチョウが姿を現した。
ガチョウが嘴で示した先にはいくつもの金の卵が落ちていた。
「うわ、すごい量。もらっていいの?」
晶の問いに大きく頷いて、ガチョウはどこかへと飛び去って行った。
怜悧やパルルもまた周囲のトランプ兵達を全滅させ黄金の卵を受け取っていた。残るトランプ兵は、アルミィやトレーズの周囲にいる二十数体のみ。
「お仲間はもう全滅したみたいだね」
「くっこうなれば……合体!」
二人の不意をついてトランプ兵達が円陣を組んで合体していく。見る間に胴の数字が増えていきやがてダイヤとクラブ、二人のクイーンへ。その二人が手を組んで合体しようとした瞬間、アルミィが放ったリビングロープがクラブのクイーンに巻き付いて、クイーンたちを引きはがす。同時に切りかかるトレーズ。ダイヤのクイーンがその一撃を槍でしのぐ。アルミィはクイーンとロープを引き合い、トレーズは槍と剣での鍔迫り合い。
先に膠着が崩れたのはトレーズ、力任せにクイーンの体を押しやると、放たれた突きを切っ先でそらすようにして受け流し、カウンターの一閃。一挙動で首を落とす。
直後、クラブのクイーンが力任せにロープを引き寄せ、アルミィの体を上空へと投げ放った。森の木々に数倍する高さまで彼女の体が浮かび上がる。急速に遠ざかる地面、小さくなっていく木々。アルミィの視界の端に湖と数体のトランプの巨人の姿が見えた。
――ああ、この高さから落ちると死ぬな。とはいえ……。
「対策は、持っているのさ」
アルミィがハラリとバンダナを解いて合言葉を唱えた瞬間、バンダナが大きく広がって、パラシュートの様にアルミィの落下を食い止めた。そうして態勢を整えると、アルミィは地上のクイーン目掛けて自ら落下。加速していく景色の中、アルミィはダガーを引き抜いて、クイーンの脇をすり抜け五点着地。前転しながら起き上がったアルミィの背後で、クイーンが倒れ伏す。その首にアルミィのダガーが突き刺さっていた。
軽く息をついて立ち上がったアルミィに影が差し、金色の羽毛が舞う。二羽のガチョウがバスケットを咥えたまま飛んでいた。彼らがアルミィとトレーズの頭上まで来ると咥えていたバスケットを落とす。乾いた金属音を立てて地面に落ちたバスケットには、黄金の卵が一杯に詰まっていた。
六人が受け取った卵をしまい込んだ頃、森の奥から足音が響いた。六人が一斉に飛び退った直後、放たれた巨大なトランプが彼らの立っていた場所に突き刺さる。
森の奥から攻撃の主、トランプの巨人たちが姿を現す。
「気付いたか。今の奇襲を躱すとはな」
「簡単さ、もっともアンタらみたいなウスノロは、こんな真似できないだろうね」
「減らず口をっ!」
振り下ろされる剣をダガーで受けながらアルミィは後方へ跳躍、衝撃を殺す。
「換装っ!」
怜悧の言葉と同時、レイピアが二丁の拳銃に変わる、発砲。降り注ぐ光弾から身を護るように巨人が腕をクロスさせたまま突進。そこへトレーズが割り込み巨人の突進を受け止める。トレーズの足が地面にめり込んだ。横合いからトレーズ目掛け切りかかるトランプ兵。その剣ががトレーズに触れる寸前、晶が巨人の手にワイヤーが絡みつかせ、動きを止める。同時に晶はワイヤーガンで後方へ跳躍、彼女がいた場所を巨大トランプが切り裂いた。乱戦の中、パルルが飛び回って巨人の攻撃をかわし、意識の外からシキが銃弾を撃ち込んでいく。
初めこそ乱戦ではあったが、勝負は見えていた。オウガ達が金の卵を持たず、猟兵たちは全員十個以上の金の卵を持っている。トレーズやシキに至っては二十以上。もはや負ける戦いではなかった。
シキと怜悧が銃を連射、二人の十字射撃を二体の巨人がガードを固めて凌ぐ。埒が明かない、とばかりにシキが怜悧に目くばせをして、バイクを加速。ハンドガンを連射しながら突っ込むシキと怜悧。迎え撃つように振り下ろされる剣を躱し、シキはバイクごと跳躍。巨人の顔面にバイクの後輪を叩きつける。同時に怜悧が跳躍、二人はそのまま空中でターゲットを入れ替える。唯一鎧に覆われていない巨人の口へ二人が銃口を突き付けて発砲。
着地した怜悧たちの傍らで、二人の巨人が息絶えた。
我武者羅に振るわれる巨人の剣、その斬撃をアルミィは斬撃を上回る速度で避け、パルルは宙を舞って避ける。
「それじゃあそろそろ、パルルちゃんの番だね。さぁっ、お前らの頭ぐちゃぐちゃにしてくれるわぁ!」
言葉と同時、パルルが身を翻して巨人へ突進。巨人の顔面へビンタを放つ。大音声と共に、巨人の体が宙を舞い、別の巨人にぶつかりながら倒れ込む。体勢が崩れた隙を見逃さず、アルミィが踏み込む。それを追い払うように薙いだ大剣がアルミィの皮鎧を捉えた。瞬間、巨人の鎧の隙間へダガーが突き立つ。倒れ伏す巨人の後ろに、皮鎧を脱いで加速したアルミィが立っていた。
「これはアンコールってやつさ、まあとっときな」
続けざまに投げ放たれる巨大トランプ。トレーズが双剣でカードを切り裂き、晶がワイヤーガンで身をかわす。その姿を見て巨人が笑みを浮かべ、剣を振りかざす。
「かかったな。その技、空中で軌道は変えられまい!」
「かかったのは、お前の方さ」
晶の言葉と同時に、無数のワイヤーが奔った。鋼の糸が巨人達の全身に絡みつきその動きを封じ込める。
「では、終わらせるとしよう」
トレーズが両手の白剣と黒剣を合体させ一振りの長大な剣に変えると、大きく飛翔。空中で大剣を構えると全身に緋晶を纏わせて急降下。巨人たちが攻撃から逃れようともがくところへ、晶がワイヤー経由で電撃を食らわせ、さらにワイヤーを締め付けていく。
トレーズは空中でさらに加速し、その身に纏った緋晶諸共、巨人に大剣を叩きつける。衝撃波と共に広がった緋晶が巨人たちの体を飲み込み消し飛ばす。
やがて衝撃波が収まりトレーズが着地する頃には、巨人たちの体は焼きつくされ、塵となっていた。
●
こうして、オウガ達の侵攻は退けられた。黄金ガチョウたちの平穏が今後乱されることはないだろう。
「……で、さらに追加の卵を貰ったんだけど、どうしようか、これ」
「くれるってゆーんだから、貰っておけばいいんじゃない」
黄金ガチョウたちから、さらに大量の黄金の卵を受け取り猟兵達は新たな戦場へと向かうのであった。
大成功
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