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夏は祭り、衣は踊り、毒だって廻る

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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「母ちゃん母ちゃん、お願い! ハナ、どうしても新しい浴衣が欲しいの!」
「おいらもお祭り行きたいよう、焼きそば食ってイカ焼き食って、かき氷食いながら花火見たら帰るからぁ!」
「なぁん」
「ほらぁ、タマも行って来いって! ねえ、かあちゃ、」
「――いけません!」
 じたばた、ゴロゴロ。蚊取り線香の香りに満ちた畳の上で駄々をこねていた子供二人がびくうと竦む。
 なぁん。一瞬で静かになったその場に、猫の声ばかりがゆっくり響いて、母親ははっとした。
「あ、あ、ごめんよ、母ちゃん暑くてねぇ。……けれども今回の幽衣祭ばかりはおよしと言ったろう」
「……なんでぇ……」
 泣きそうな声でハナはぎゅうと赤いスカートを握り締めた。
「母ちゃん、先月は行こうねえって言ったもの。ハナ、たくさんてるてる坊主も作ったよ。今夜はいっぱい晴れるのに、なんで行ってはいけないの?」
「……ハナ、タロもおいで。サブさんがこないだ亡くなったのは知ってるだろ? ハチさんもお雪さんも、みんなみぃんな――」

 どろん、と化ける音ひとつ。三人の親子は煙と共に瞬く間に猫又の姿となった。
「私たち、妖怪たちばかり。……だから駄目なのさ。祭りには、色んなのがたくさん来るからね」
「やだよう、お祭り行きたいよう。……でもお雪さんみたいに、あかい水溜りで死ぬのは、もっとやだよう。もっといっぱいてるてる坊主作ればよかった」
 ぐすぐす、ぐずる子供たちと宥める母親を見ながら、三叉尻尾のタマがくぁ、と欠伸をした。


「――アナタ、浴衣を選びに行かない?」
 唐突な誘い掛けは何時もの通りに、宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)は白い髪を揺らして声を投げた。
 浴衣、と瞬いて足を止めた猟兵たちへ、千隼は小さく頷く。
「カクリヨファンタズムで、そういったお祭りがあるの。勿論浴衣選びでなくとも、普通の夏祭りと同じように出店は出るし花火も上がるし、――殺妖事件も起こるわ」
 さつよう。
 最後何か妙なの混じらなかったかと怪訝な視線が返るのに、表情を微動だにさせず、案内人は再度頷く。
「そのお祭りは『幽衣祭』と言ってね。様々な浴衣や和小物を並べた呉服屋なんかの出店と、夏祭りの出店とが立ち並ぶのよ。提灯代わりに狐火お面が道々を照らして、その面を被ればヒトだって妖のふりが出来る。色んな村にやって来るお祭りだけれど、ワタシが予知を見た村では、その以前から連続殺妖が起こっているらしいの」
 だから村の子供たちは、多くは祭りに行ってはいけないと言い含められているようだ。知られるところでは夏の風物詩とも言えるもの。心待ちにしていた子だって多い。
「ちなみにその村は、猫又たちの村よ。閑静で、けれど何処か懐かしい、川のほとりの田舎村。
 小さな村なのに犯人を見た者はおらず、残されるのは真っ赤な血溜まりだけ。おそらく犯人――そのオブリビオンはとても狡猾に立ち回っているのだと思うわ。普段は普通の村の仲間としてね。
 ……祭りよりもと思われる方がいれば、どうぞこの事件も解決して欲しいのよ。このお祭りは二日続くの。アナタたちをお連れするのは一日目。浴衣を選んだり、夏の祭りを楽しむ方は楽しんで、事件を追う方は、色々と情報を得られる良い機会になるでしょう。
 ――せめて最後の一日だけでも、子供たちが遊べたなら、良いわ」
 事件を追うならば多少の危険は伴うでしょうけれど。
 付け足した言葉は、猟兵と言う名を持つ者たちへは蛇足だろう。けれどそれでも気をつけてともうひとつ足して、案内人は道を繋ぐ。
「……無事に事件を解決できたら、きっと猫又妖怪たちがもふもふを披露してくれると思うわ」
 どう解決するかはお任せするわね、と聞いた言葉を最後に、猟兵たちの視界は白く覆われた。


柳コータ
 お目通しありがとうございます、柳コータと申します。
 今回も幽世の世界へ、夏らしい楽しみと共にご案内致します。章ごとにそれなりにテンションが異なることになりそうですので、楽しめそうなところへのみ等の参加も歓迎です。

 ※プレイング受付期間の詳細、楽しみ方の詳細案内はMSページで行いますので、お手数ですが適宜ご確認下さい。期間外は全て流します。場合によっては短期受付になります。

●ご案内
 一章:三種類の楽しみ方ができます。(遊びor推理)
 A:浴衣選びを楽しむ。
 B:王道に夏祭りを楽しむ。
 C:妖怪に紛れて事件の調査、推理をする(専用プレイングボーナス:毒に対処する)

 ★どれを行うかは冒頭にABCで記載して下さい。ない場合は流します。
 ★同行者がおられる場合は【4名まで】とさせて頂きます。

 祭りと推理の並行もできますが、どちらかがメインになります。
 【Cのみを行った方の中から】犯人へ辿り着く形を取りたいと考えていますが、おられなかった場合はお祭りが盛り上がるほど炙り出される形になりますのでお気になさらず。

 ※詳細は長くなるのでMSページにて。

 二章:ボス戦(割と真面目に戦闘)
 三章:集団戦(割ともふもふ)

●他
 再送なしで採用できるだけご案内させて頂きます。
 一章は特になるべく採用したい気持ちですが、場合によってはご案内できないこともございますのでご了承下さい。
 複数参加の場合、呼び名とID、あるいはグループ名をお忘れなきようお願いします。同グループでも〆切日が異なる場合はお返しします。

 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『幽衣祭』

POW   :    お祭り、お祭り、お祭りだ!

SPD   :    浴衣見立ても悪くない

WIZ   :    面を被って妖怪の仲間入り

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ぽたた、ぽたん。
 赤い滴が楽しい祭りの只中で静かに落ちる。くるり、くるくる。揺れるのはなあに。
「……それは、なあに?」
 こっそり頭を覗かせた――小さな女の子。ぴこりと白い耳を揺らして、ハナは興味津々にまあるいカップを覗き込む。
 行ってはいけないよと言われたけれど、やっぱり我慢なんてできなくて。こっそりこっそりお祭りの中、見つけたちょっと変わった屋台。
「美味しいスープさ。呑んでみるかい? なあに、すぐに美味しくって真っ赤になるよ」


 七彩の花火が夜に開いた。
 幽衣祭の始まりだ!
 誰が言ったか、太鼓が鳴る鳴る。
 川のほとりを埋め尽くす、色とりどりの屋台たち。そちらの列は浴衣に和小物、あちらの列はりんご飴に金魚掬い――道を成すのは灯り代わりの狐火と面。ひとつふたつ無くなったって気づきやしない。誰かが悲鳴をあげたって気づきやしない!
 だって祭りだ、楽しい祭り。右を見ても左を見ても妖ばかり!

 さあさ、君は何して遊ぶ?
琴平・琴子
A

連続殺妖が起きているところでお祭りですか
妖怪に紛れての犯行なんでしょうが…血溜まり?
原因や犯妖は形無い何かだったりするんでしょうか

浴衣…
そういえばお祖母さまがよく浴衣を着ていた気がします
この口調も性格も言わばお祖母さまに憧れた様なもの
背筋が伸びて凛々しいお祖母様のようになれるでしょうか
シンプル目なのを選びましょうか

可愛らしいものもありますが此処はやはりシンプルな涼しげな…
いえ此方の薄緑と白の市松模様の浴衣にします
帯は黄色で、葉っぱの帯留めがありましたら是非
そうしたらそれに合わせた白い籠に白地にお花の巾着も欲しくなりますね

…私ったらまた自分の可愛いを優先して
いえ可愛いくて上機嫌だから良いのです




 猫叉村に『幽衣祭』がやって来る。
 夏の始めからずっと告知してあった祭りを心待ちにしていたのは村の者だけではない。
 ――むしろ近頃続いている『事件』を知らぬ分、祭り目当てにやって来る来客のほうが純粋に楽しげだった。
 川のほとりを埋め尽くす屋台の列に、妖たち。始めから惜しみなく上がり続ける花火に太鼓。祭りはとても楽しげで、盛況に思えるけれど。
 ざっと見る限り村の子供と思しき姿が少ない。出店を回す村の者は楽しげながらも時折浮かない顔を見せた。
 賑やかな祭りの道々と立ち並ぶ出店を軽く見渡して、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は長い睫毛を伏せる。
「連続殺妖事件が起きているところでお祭りですか」
 ほんのぽつりと静かに零した声は、彼女の小さな姿にそぐわないほど冷静だった。
(妖怪に紛れての犯行なんでしょうが……原因や犯妖は形無い何かだったりするんでしょうか)
 光を透かしたような明るい翡翠色の瞳をすいともう一度辺りへ向けて、歩み考えようとして――、
「……あ」
 我知らず、小さな声が唇を震わせた。
 琴子の視線を奪ったのは、浴衣。呉服屋の露店で夜風にふわりと揺れるそれ。

「やあ、お嬢さん。お一人かい」
 露店の奥から、穏やかな老爺が琴子に気づいて声を掛けた。
「一人ではいけませんか」
 反射的に出た警戒心の滲む声音にも、老爺はゆるりと首を振る。
「いいや、悪くはないよ。気をつけて欲しいとは思うがね。よかったら見ておゆき。何か気になるのだろう」
 手招かれて、暫くの逡巡ののちに琴子は浴衣たちが並ぶ老爺の露店をそっと覗いた。
「……そういえば、お祖母さまがよく浴衣を着ていた気がします」
 お祖母さま。そう琴子が呼ぶ声は、僅かに柔く親愛を込めて。
 たくさん愛してくれた両親。何をしても褒められたから、褒められるだけの自分であろうとした。そして憧れを向けた視線は、老いて尚真っ直ぐな背筋が凛々しかった祖母へ。
 迷わず淀まず、躊躇わず。自分にも恥じぬ自分であると胸を張る――お祖母さまに憧れた。
(この口調も性格も、言わばお祖母さまに憧れたようなもの)
 彼女はどんな浴衣を着ていたろうか。そう、落ち着いた色でシンプルな、今視線の先で揺れているようなそれ。もしかしたら、浴衣を着れば。
「お祖母さまのようになれるでしょうか」
 ぽつり呟いて、琴子はシンプルなそれに手を伸ばして、
「可愛らしいものもありますね」
 気づいてしまった。単色染めでシンプルな浴衣に隠れるようにしていた、薄緑と白の市松模様の浴衣。淡い色合いは可愛らしくて、奥に置いてある黄色の帯が良く合いそうだ。
「……可愛らしいものもありますが、此処はやはりシンプルで涼しげな……」
「ああ、その薄緑の浴衣になら、良く合いそうな帯留めもあるよ。葉っぱの形なのだがね、お嬢さんには良く似合いそうだ」
 ひょいと取り出された帯留めにも浴衣にも、祖母が着ていたような落ち着きはないのだけれど。
「――ええ、では頂きます。帯はそちらの黄色で」
 可愛いから、それはそれで良いのだ。

 薄緑の市松模様の浴衣に黄色帯、葉っぱの帯留め。それを綺麗に包んで貰って、琴子は祭りの道をまた歩き出す。
「こうなると、浴衣に合わせた巾着も欲しくなりますね」
 たとえば、白い籠に白地にお花の巾着なんてあるでしょうか。
 そのままつい和小物が並ぶ露店を覗いてしまいながら、ほんの僅かに足取りは軽くなる。
 憧れのシンプルはまだ選べはしないけれども。
「……私ったらまた自分の可愛いを優先して。――いえ、可愛いから良いのです」
 琴子は上機嫌に浴衣の包みを抱きしめた。
 祭りの夜は、始まったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
さっちゃん(f28184)とB
浴衣で屋台巡り

うわぁ、混んでる
ふーん…私、よくわからないけど、スゴイの?
それよりあそこに人がいっぱいいる!
何だろう?私、ちょっと見てくる!

りんご飴の屋台を横目に
でも、私がやりたいのはこっち
金魚すくい!
久しぶりにやってみたいな
昔よりも上手になってると思うし!
さっちゃん、大声出さないで
金魚がビックリする!
私ねぇ、あのデメキンちゃんがほしい!
よーし、狙って…あ!穴あいちゃった
おかしいな
周りの人たちはちゃんと出来てるのに
これ、不良品じゃない?
さっちゃんのやつ、貸して!
む、すぐ破れた…同じか(ぽいっ

え?なんで私が欲しかったコとってるの?
ズルい!
でも…りんご飴くれるならいいか


千々波・漣音
ちぃ(f28195)とB
浴衣で屋台

どうだちぃ、UDCアースで流行りの柄の浴衣を着こなすオレ様!(ふふん
いや、いつも迷子になるのお前じゃねーか!
てか浴衣姿のちぃが超絶可愛くてやばい…
って、え、何処行った!?

ん?金魚掬いか(慌てて見つけ
お前、とろくて全然掬えなかったじゃねーの
おーそりゃお手並み拝見だなァ
…デメキン欲しいのか、よし(密かに超やる気
って、ちぃ全然上達してねェし!(可愛いがすぎる!
てか人の取るなよ!?即破れてるし!
く、もう一つ貰うか…
ふははは、見ろ!
凄腕の神業だろ、神格も高いからなオレ!(こういう事は得意

デメキンも…って、え、むしろ文句!?
…仕方ねェな、これもやるから(買ってた林檎飴渡し




 浴衣と和小物が並ぶ露店の列の向こう側には夏祭りらしい屋台が連なる。
 こちらからは良い匂い、あちらからは浴衣の誘惑。どちらにも多くの人だかりができている屋台通りは、一言で言えば、
「うわぁ、混んでる」
 ――尾白・千歳(日日是好日・f28195)の言う通りだった。
 けれどもそれだけ祭りは楽しげな空気に満ちていた。聴こえて来る太鼓の音に合わせて、千歳の大きな狐尾がもふり、ふりと揺れる。
「はぐれちゃダメだよ、さっちゃん!」
「いや、いつも迷子になるのお前じゃねーか!」
 自分より小さな幼馴染に心配されて、千々波・漣音(漣明神・f28184)はついいつもの調子で言葉を返す。そのやりとりすら昔からのいつも通りで、着て行こうと言い合うまでもなくお互い浴衣で来たのだって、幼馴染みの『いつも通り』だ。
「それよりどうだちぃ、UDCアースで流行りの柄の浴衣を着こなすオレ様!」
 ふふん。漣音は自信たっぷりに腰に手を当てた。ホワイトベージュに大柄の幾何学模様を組み合わせた、トレンドの最先端をゆく漣音の浴衣姿は彼の端正な顔立ちによくよく似合っていたのだけれど。
「ふーん」
 肝心の千歳と言えばよくわかっていなさそうな顔で首を傾げて、ぴこんと耳を動かした。
「とれんどって私、よくわからないけど、スゴイの?」
「え、すごいって言うか、ちぃの浴衣も超絶可愛くてやばいって言うか」
「あっ、それよりあそこ! 人がいっぱいいる! 私、ちょっと見て来る!」
 何だろう! 楽しげに飛び跳ねるように駆けて行くちとせは勿論漣音の褒め言葉など聞いてはいなかったのだけれども。
「浴衣に合わせて髪上げてるのも良く似合ってるって言うか……って」
 正面から褒めることなどできずに逸らしていた視線を漣音が戻した先に、千歳の姿はなく。
「え、ちぃ!? 何処行った!?」
 ――慌てて探しに駆け出すのだって、いつも通り。

 人だかりが出来ていたのは、どうやらりんご飴の屋台のようだった。特別にりんご飴専門店からの出張だと言うから人だかりにも納得はしたけれども、それより千歳の視線は泳ぐ赤に釘付けになる。
「金魚すくい……!」
「ああいた、ちぃ……って、ん? 金魚掬いか?」
「うん! 久しぶりやってみたいなって。さっちゃんもやっていいよ?」
「いや、やっていいよっていつもオレにやらせてたじゃねェか……。てか」
 すっかりしゃがみ込んでやる気になっている千歳に溜息混じりに苦笑して、漣音も隣にしゃがみ込む。
「できんのか? お前、とろくて全然掬えなかったじゃねーの」
「むむっ。昔よりも上手になってると思うし!」
「おー、そりゃお手並み拝見だなァ」
「むむむむ! あのデメキンちゃんが欲しいから、頑張るもん!」
 にやりと揶揄うように笑う漣音の視線がうんと優しいのに気づくことなく、千歳は意地になったように、屋台の店主から力強く金魚掬いのポイとお椀を貰った。
「親父、オレにも」
 ぐぐっと構えた千歳の隣で、漣音もポイを貰ってお椀を取る。
(……デメキン欲しいのか)
 よし、と漣音がポイを握る手に密かにやる気が満ち満ちた。動きも速いし他に比べて大きいから、難易度は高いだろうけれど――。

「よーく狙って……えいやーっ!」

 やたら気合いの入った掛け声と共に、ざぶんっと水飛沫が跳ねる。
「……ちぃ?」
 金魚掬いってそんな気合いいる?
 とは聞かずに置いて。濡れるのは免れたのが幸いか、勢い良く振り抜かれた(振り抜くものではない)千歳のポイに気持ちよく風穴が開いた。なお金魚はお椀にいない。
「あれ? おかしいな、穴あいちゃった。これ、不良品じゃない?」
「いや違ェし、ちぃ全然上達してねェし!」
「もー! さっちゃん大声出さないで、金魚がビックリする!」
「お、おー……、ふは」
 可愛いが過ぎない? うちの幼馴染みホント可愛くてやばくない?
 思わずぷるぷると震えて笑う漣音の様子に構うことなく、千歳は破れてしまったポイを捨てると、当然のように漣音の手にあるポイをひょいっと取り上げた。
「さっちゃんのやつ、貸して! えいやーっ!」
 ざぶんっ! ばりん。
「って、いや人の取るなよ!? 即破れてるし! ……く、親父、もう一つくれ」
 想像通りと言うか、昔と変わらない幼馴染みの不器用さにくつくつ笑いながら、漣音はもうひとつポイを貰う。
「金魚掬いってのは、こうやるんだよ」
 するり、水を滑るように漣音のポイが水と金魚の隙間に入る。一匹赤いのがお椀に跳ねれば、そこからは瞬く間だった。
 ひょいひょいひょい。静かな水音で、金魚たちが次々漣音の椀に収まってゆく。おおお、と感嘆の声は周りからだ。
「ふははは、見ろ! 凄腕の神業だろ、神格も高いからなオレ!」
 それ神格関係ある?
 とも聞かずに置いて。漣音はこと、こういうことは得意である。

「ほらちぃ、お前が欲しがってたデメキンも……」
「え? なんで私が欲しかったコとってるの? さっちゃんズルい!」
「え、むしろ文句!?」
 ぷくうと膨れるのも、たいへん可愛くはあるのだが。けれどもせっかくのお祭りだ、膨れっ面よりは笑った顔が見たいもの。――想い寄せる子には、いつだって笑っていてほしいもの。
「……仕方ねェな、ほら、デメキンと、これもやるから」
 漣音は軽く肩を竦めて、店主に袋に入れて貰ったデメキンと、買っていたりんご飴を差し出した。
 途端にぱあっと千歳の瞳が輝く。
「あっ、りんご飴!」
「いらねェの?」
「いる! ……りんご飴くれるならいいや。えへへ」
 千歳は嬉しそうにりんご飴を受け取って、表情を緩める。ありがとう、と夏の甘い赤色を齧る姿は、昔から変わらず無邪気なものだ。
「ちぃはホントりんご飴好きだよな」
「さっちゃんも食べる?」
「えっ」
「なーんてね! あげないっ」
 かぷり、齧った口の中、うんと甘酸っぱい味が広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花】A
くっ…珍しくむさ苦しくない面子だってのに、またこの展開…!
姐サン、オレの両手見えてる?今日も元気に両手に荷物なんだケド!
(先に巡った屋台の品々で既に手一杯な荷物持ち)

ハイハイ、んじゃオレはそこの屋台で一休み(がてら行き交う浴衣美人でも拝んで目の保養)してるからごゆっく…いや色々とホントそっとしといて!(遠い目)

(浴衣選びに花咲かす2人を大人しく眺め)
嗚呼…キミらも和やかに楽しんでる分には良いのにネ…何で中身はじゃじゃ馬…ソレこそ馬子――何でもナイヨよく似合ってる!流石!

オレはやっぱシンプルなので良いかな
ウン、小物で遊ぶぐらいが…って何ソレ!
もっと小粋とか伊達とかそんな感じの無いの!?


花川・小町
【花】A
(澪ちゃんと並んで楽しく祭の風情を満喫――していたら、不意に後ろから聞こえたぼやき声に振り返り)
あら、両手に花だというのにご不満?
何でも楽しんだもの勝ちよ

ええ、ふふ――この祭の華たる浴衣と小物一式、ぱあっと買い揃えなきゃね
伊織ちゃんも良い子にしてれば着替人形――いえ、伊達男らしく見繕ってあげるからね
黙ってさえいれば絵にはなるのだから、大人しくついていらっしゃい

(澪ちゃんと同じ花ながらも、雰囲気ががらりと違う浴衣を幾つか見つつ)
貴女も本当に、何でも華やかに映えて愛らしいことこの上ないわ
ね、伊織ちゃん?(滑る口を笑顔で遮り)

さて伊達男には――このひよこちゃん巾着もいいんじゃないかしら?


鳳来・澪
【花】A
(姐さんと仲良くきゃっきゃと漫ろ歩き!――に、ついてきたおまけに、何とも言えない目で振り返り)
そうなるって分かっててついてくるなんて、ほんまアレよねぇ
でも助かったよ、荷物持ち!(お陰で空いた手でしっかり姐さんの横をキープして)

さてと、やましい伊織ちゃんはおいといて――本番本命はこれからよねぇ?
幽衣祭に来といて普通の屋台だけで終わらせるなんてもったいないよね!
伊織ちゃんもまぁ、馬子にも衣装てことで――観念しや

(姐さんと揃いの花柄ながら、身に纏えばがらりと雰囲気が変わってみえる浴衣に感嘆の声あげ)
わぁ、姐さんが着るとやっぱ一味ちゃうね…!

伊織ちゃんは亀さん根付とか提げとけばええんちゃう?




 ひらり、選んでおくれと浴衣が揺れる。
 ふわり、食べておくれと甘い氷菓が誘う。
 ゆらゆらと、灯る狐火は浮かぶ面と共に道を照らして、祭りの花が空にぱっと咲く。
「姐さん、今の花火、何の花やろか?」
「ふふ、そうねぇ澪ちゃん。菊かしら。――あら、今の蝶の扇は良いわね。澪ちゃんに似合いそうよ」
「ほんま? やったらさっきの花簪、姐さんに当ててみてもろたら良かったなぁ」
 きゃっきゃと楽しげに漫ろ歩くは美女二人。鳳来・澪(鳳蝶・f10175)と花川・小町(花遊・f03026)は肩を並べて今宵の祭りをふたり、満喫し――
「くっ……珍しくむさ苦しくない面子だってのに、またこの展開……!!」
 聞き慣れた声、呉羽・伊織(翳・f03578)のぼやきが耳に届いて、揃って振り向いた。澪と小町のその後ろ、荷物に両手を埋め尽くされた美丈夫がいる。
「あら、両手に花だと言うのにご不満?」
「姐サン姐サン、オレの両手見えてる? オレ自分でも見えないケドね! つまり今日も元気に両手に荷物なんだケド!」
 お分かりいただけるでしょうか! つい喚く伊織の両手は、先に巡った屋台の品々で一杯なのである。右手からは腹ぺこの香り、左手からは甘い香り。割と無理に積んだ一番上ではまんまるカステラがころころしている。
「そうなるって分かっててついてくるなんて、ほんまアレよねぇ」
「九分九厘そうなるとしても一厘くらいの期待の余地はあっても良いと思うんだよネ……」
 まあなかったわけなんだけど。遠い目をふと明後日の方向へ向けた伊織を、心底なんとも言えない顔で澪が見る。
「でも助かったよ、荷物持ち!」
 上機嫌な笑みで、澪はぎゅっと小町の腕を捕まえた。荷物持ち――もとい伊織の両手の犠牲のおかげで、隣をキープできるわけである。いつもありがとう、両手(せめて本体に言ってやってくれない? という視線は黙殺して)。
「何でも楽しんだもの勝ちよ」
 くすくすと笑み零す小町とその腕を取る澪を前に、伊織は深々とため息を吐いた。
「ハイハイ、んじゃオレはそこの屋台で一休み……」
 ――がてら、行き交う浴衣美人でも拝んで目の保養を――
「してるからごゆっく、」
「伊織ちゃん、何かやましいことでも考えていないかしら」
 姐サンちょっと心読むのやめてほしい。ホントびっくりする。そういうのよくない。休憩用に椅子が用意された屋台へ向かおうとする伊織の足音がじゃりっと小石を踏み潰す。
「ほんまに考えとったん、伊織ちゃん……」
「そんな目で見ないでってか、いや色々とホントそっとしといて!」
 遠い目の距離が明明後日くらいまで伸びた気がした。
「さてと、やましい伊織ちゃんはおいといて。――本番本命はこれからよねぇ?」
 伊織が一休みを諦めてため息にしたのをちらとは見遣って、澪はすっかり上機嫌な笑みを小町へ向けた。
「幽衣祭に来といて普通の屋台だけで終わらせるなんて、もったいないよね!」
「ええ、ふふ。――この祭りの華たる浴衣と小物一式、ぱあっと買い揃えなきゃね」
 ここは幽世、その衣を謳った祭り。ここにあるのは、常に出会える浴衣とも小物とも限らぬだろう。小町は嫋やかな笑みを伊織へも向ける。
「伊織ちゃんも、良い子にしてれば着せ替え人形――いえ、伊達男らしく見繕ってあげるからね」
「姐サン今着せ替え人形って言っ」
「黙ってさえいれば絵にはなるのだから、大人しくついていらっしゃい」
 よろしい? よろしいデス。小町の無言の圧に伊織がただ頷くばかりになったのを澪も振り向きながら、足取りは楽しげに進む。
「伊織ちゃんもまぁ、馬子にも衣装てことで」
 ――観念しや。
 美人の笑みは時折たいへん怖いものである。何故だか良く知っている。大人しくついてゆく以外の選択肢は、どうやら伊織にはなかった。悲しいかな、いつものことである。

 この花柄はどうかしら。ふと小町が足を止めたその露店には、様々な花の模様の浴衣が揃っているらしかった。大柄で大人っぽくあしらわれたもの、小さな花がそこかしこで咲くもの。鮮やかな色の下地に同じ花柄のそれを手に取れば、それぞれ身に宛てがって見る。
「わぁ、姐さんが着るとやっぱ一味ちゃうね……! 綺麗、言うか、美しい言うか」
「ありがとう。貴女も本当に、何でも華やかに映えて愛らしいことこの上ないわ」
 大きさこそ違えど、同じ花柄。けれども身に纏う人によって、それはがらりと雰囲気を変えた。気に入った花を見つけては幾つか宛ててみながら、二人の楽しげな浴衣選びは続く。
「嗚呼……キミらも和やかに楽しんでる分には良いのにネ……」
 荷物持ちをしたまま、二人を大人しく眺めて伊織はぼそりと呟く。そうして楽しんでいる二人は、本来目の保養としては余りあるほどだ。ただし。
「何で中身はじゃじゃ馬……ソレこそ馬子――」
「――ね、伊織ちゃん?」
 にっこり。繰り返すようだが、美人の笑みは場合によっては死ぬほど怖いものである。つまり。
「何でもナイヨよく似合ってる! 流石!」
 馬子にも衣装なんて言葉は、間違っても言ってはいけない。

 楽しげに花の浴衣を選び合い、澪と小町は伊織のほうへ視線を向けた。
「さて、伊達男には――どうしましょうか」
 とは小町。
「ん、オレはやっぱシンプルなので……」
 とは伊織。
「伊織ちゃんは亀さん根付とか提げとけばええんちゃう?」
 とは澪。
 ウンウンわかる、小物で遊ぶぐらいが――伊織が言いかけて、止まる。
「……って何ソレ! もっと小粋とか伊達とかそんな感じのないの!?」
「そうね、このひよこちゃん巾着もいいんじゃないかしら?」
「かわいい! でも小粋も伊達も何処にも無いネ!!」
 いくら可愛いものが好きでもこれは遠い目をしてはいられない。三人の賑やかな声は祭りの賑わいを更に明るいものにして。

 ――結局。伊織は何とか胸にひとつの花が咲く落ち着いた色の浴衣とひよこちゃん巾着と亀さん根付を手にしたとか、しないとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【正義】
主にC
A●

浴衣は地味な黒地に血桜の帯
鳥籠の簪を帯に挟む
狐面

浴衣に着替え後、呉服屋でアリスティアと遭遇

何の浴衣着るのか迷ってンのか?
なら俺が選んでやンよ(服選び好き

白に赤の山茶花柄の浴衣
黒レースの帯
結び方お任せ

俺の見る目に狂いはねェわ
似合ってるぜ(片目瞑り

浴衣来て村人へ聞き込み

祭を興醒めにする事件は早々に解決すっぞ
犯人は妖怪達に恨みが?時間帯は?
血溜まりだけ残る…

共通点は屋台の食べ物絡み

複数の屋台で発見されてるのは辿られない為か
どう接触してるか
アリスティア、頭イイな!
夏場で水を用いる機会は多いだろ
屋台での調理然り
小さな村だ、水源も限られてるハズ

水源を見張る
犯人らしき者が居たら確保
事情聴取


アリスティア・クラティス
【正義】A、C

「まあ!息災そうで何よりだわ、クロウ!」
せっかくだもの!クロウに浴衣を選んでもらいましょう!
今まで来ていた浴衣は一纏めにしてどこかに預かってもらってと…!
ふふっ、男性にコーディネートしてもらえるなんて、驚きが隠せないわね。どうなるか楽しみだわ!

猫面被り
…自分が殺すつもりになって思案する
毒殺で沢山殺す→なら夏場に高確率で摂取するもの→お茶等の飲料水
⇒それを扱うお店で尋ねる
「この祭で使われている水源はどこかしら?」

祭りに井戸水や川などを利用しているならば、そこに毒を投げ込むだけで
殆どの屋台で無自覚に大量妖殺が可能と予測
(川なら上流)身を隠して
そこに何か入れる不審者がいればクロウと捕縛




 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)がその浴衣を見繕ったのは、季節外れの桜の枝が飾られた呉服屋の露店だった。
 祭りの賑わいを眺め歩いて、聞かされた事件の気配は見るだけでは薄いと息を吐く。これは聞き込みもせねばならないようだと――目を留めたのは、道々に浮かぶ狐面。黒地に紅を引いたひとつを拝借したところで、桜枝の露店が目に入った。
「へェ、桜揃えの店にしちゃ、物騒な眺めだな」
 揃っていたのは夜闇のような黒に舞う桜たちの浴衣。舞うは桜のみならず、刃も蝶も血飛沫も飛ぶ。――その様が、妙に気に入った。
「この帯、イイな。血桜か。……なら、合わせンのは黒の浴衣がイイか」
「お目が高いねえ、兄さん。そしたらこっちの簪はどうだい」
「あァ、悪くねェ。銀の――いや、金の鳥籠の簪にするか」
 あいよ、と店主から機嫌良く渡された浴衣の一式を買い上げて、クロウは裏に用意されていた着替え処で浴衣を纏い、狐面を頭に引っ掛けた。地味な黒地の浴衣に血桜の帯は良く映えて、鳥籠の金簪を挟めば、我知らず口元が小さく笑う。
 合わせた下駄も黒に赤鼻緒。風雲が踊る下駄をからりと鳴らして再び祭り路を歩き出した、そのときだった。

「クロウ?」
 聞き覚えのある声に視線を遣れば、まずは目を引く長い金髪が目に入る。緩く広がる髪を揺らし、赤い瞳を丸くしてこちらを驚いたように見ている女性には、クロウも覚えがあった。
「アリスティア?」
 丁度覗いた呉服屋の露店前に浴衣姿で立っていたのはアリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)だった。
 アリスティアは暫く驚いたように瞬いていたものの、すぐに溌剌とした明るい笑みをクロウへ向けた。
「まあ! 息災そうで何よりだわ、クロウ! 男前が上がったのではなくて?」
「そりゃどうも、この浴衣のおかげかねェ。……アリスティアも何の浴衣着るか迷ってンのか?」
 新しいヤツ。ひらりと袖を閃かして、クロウはふとアリスティアが足を止めていた露店を覗き込む。なるほど、女性向けから男性向けまで取り揃えは豊富だが、その分目移りしやすい店ではあるようだった。
「ええ、悩んでしまって。今着ているものも気に入ってはいるのだけど」
「なら俺が選んでやンよ」
 服選びは好きなほうだ。気軽に言えば、ぱあっとアリスティアの表情が輝く。
「よろしいの? せっかくだもの、お願いしたいわ!」
「なら――」
 クロウが選んだのは、白地に赤の山茶花柄の浴衣だった。黒のレースの帯は柔らかく、大輪の花が咲くように結び着付ければ、大人らしくも可愛いくアリスティアをより魅せる。
「ふふっ、男性にコーディネートして貰えるなんて、驚きが隠せないけれど――どうかしら!」
 着替えを終えてアリスティアが姿を見せると、クロウは少し得意げに笑った。
「俺の見る目に狂いはねェわ。似合ってるぜ、アリスティア」
 ぱちり、茶化すように片目を瞑って、ひょいとまた浮かぶ面をひとつ拝借する。仕上げにょうに白猫面をアリスティアに手渡せば、そのままクロウは歩き出した。
「せっかくだ、一緒に調べようぜ。……アリスティアもそのために来たんじゃねェの?」
 殺妖事件。ふと声を潜めて言われたそれに、アリスティアは僅かに瞠目して――得意に笑った。
「ええ、喜んで!」

 祭りを興醒めにする事件は早々に解決すっぞ。
 クロウはいつも通りの口調で言いながらも、時折屋台に見つける浮かない顔を見つけては、聞き込みを地道に重ねて行った。
 事件の件を解決すべく、秘密裏に調べている。そう言えば村の者たちは小さな声で応えてくれた。面を被っていたおかげもあったろう。――事件が起こった時間帯。殺された者が恨みを買ってはいなかったか。そこに見える、共通点は。

「……食べ物、だな」
「共通点、ね? ……確かに皆、何かを食べた後に亡くなっているようだわ」
 なら。アリスティアも思考を巡らす。
(私が殺すつもりなら、どうするかしら)
 真っ赤な血溜まり。散見された真っ赤なスープ。――真っ赤な、毒。
「祭りで、毒殺で沢山殺すなら、夏場に高確率で摂取するものだと思うのよ。例えばそう――お茶や、水」
 そこまで考えて、アリスティアは冷たい飲み物を扱っている屋台へ駆け寄った。
「少し、お尋ねするわ。この祭りで使われている水源はどこかしら?」
 その問いかけで、クロウもはっとした。
「アリスティア、頭イイな!」
 夏場で水を用いる機会は多い。屋台の調理然り、その要因が水そのものにあるとすれば。
「小さな村だ、水源も限られてるハズ」
「ええ、水源は川よ、クロウ! 行きましょう!」
 祭りの賑わいを抜けて、二人は駆ける。目指すは川の上流、この村へ流れ込む分岐点。
 祭囃子も花火の音も少し遠くなった頃、クロウとアリスティアは川の上流に辿り着く。――と同時に、不自然に蠢く影を見つけた。
 一瞬の判断で、二人は夏草の影に身を潜める。
 ゆら、ゆらり。揺れるその何かの影は、まるで風に吹かれるまま揺れているようで、何処か気味が悪い。そうしてその影が川に何かを投げ込もうとする、その瞬間に。
「クロウ!」
「あァ、――任せとけ。らァッ!」
 両側から回り込んだクロウとアリスティアが、その影を取り押さえる。途端に影がじたばたともがいた。
「はなせ、はなして、はなせ」
「誰が離すものですか! 観念なさい」
「はなせ、はなせはなせはな――」
 じたばた、ばたばたばた――ぱたり。
 ふと抵抗が止んで、犯人と思しき影はほとんど身動ぎしなくなった。思わずクロウとアリスティアは顔を見合わせるが、再びその影が動き出して、その姿が暗闇の中うっすらと見える。
「……子供?」
「……う。う……なに? お兄さんにお姉さん、どうしてぼくを捕まえてるの?」
 そこにいたのは間違いなく子供だった。そしてどこまでも純粋な瞳で、困惑したように二人を見上げている。僅かな逡巡ののち、クロウたちは子供から手を離した。
「なァお前、さっき何してたかわかるか?」
「さっき? ……わかんない。ぼく、お祭り行っちゃダメだから、ちゃんとおうちにいたんだもん」
 その答えに、アリスティアもまた静かに視線を落として考え込む。それから。
「操られて、いた、だとか」
「……そりゃァ、面白くねェ話になりそうだな」
 低い声で言葉を交わして、二人は祭りの灯りのほうへ視線を向けた。
 ――今宵のスープは毒入りにつき。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
ユカタ、花火、屋台
…殺妖事件

流れゆく提灯の灯り横目に
手には買い求めたばかりの簪
淡く白い輝き放つ、樹脂細工の月下美人
誰に贈るなど悩むまでもなく
軽い足取りとて今は謎を追うが為
馴染みよい黒猫の面を被って

妖しげな屋台と童子の会話
盗み聞けば脇の闇へと紛れ
【月の仔】忍ばせ、屋台裏を探る
はて得体の知れぬ食材、素材はないか
ひととおり視た後は別なる屋台へと飛ばす
同じモノを扱っている所を探してくるがいい

店主、俺にも一杯貰えぬか
受け取る手を滑らせるのは猿芝居なれど
石畳の隙間、伸びる緑に変化は現れまいか
さりげなく観察

…ああ、済まぬ
あかい水たまりが出来てしまった
白い尾が汚れなんだかと
ハナへと其の不吉さを告げるよう気遣う




 道々に明るく灯る青き狐火は、目線とほぼ同じ高さにあった。
 共に並ぶ数々の面を横目にジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が静かに祭りの路を歩き過ぎれば、すれ違った親子連れから声がする。
「母ちゃん、さっきの兄ちゃん見た!? 竜神さまみたいな格好いい尻尾だったよ!」
「ああ、立派だったねえ。お前もあれほど大きく育ってくれたら良いけれど」
(……竜人、ではあるが)
 神ではない。――けれども以前も似たことを妖たちに言われたことがある。ほんの小さく柔い息を零して、ジャハルは小さな包みを提げた片手を確かめた。
 揺れるユカタに咲く花火。楽しげな祭囃子と賑わう屋台。その一角で見つけた簪は、淡く白い輝きを放つ月下美人。職人の技による細やかな細工で花咲き、今にも香り立ちそうな樹脂細工の簪は、贈り物だ。――誰に贈るかなどとは、悩むまでもない。
 帰り着いたそのあとで、髪を梳かすときにでもあの蒼き髪に飾ろうか。あの星の双眸がどのように笑んでくれるか、考えれば我知らず、ジャハルの足取りは軽くなる。
 けれども遊んでばかりもいられはしない。殺妖事件の謎を追うべく、ジャハルは頭に引っ掛けておいた黒猫の面をすいと被った。

「……それは、なあに?」
「美味しいスープさ、飲んでみるかい――」

 ふと耳に留まった妖しげな会話に足を止めたのは、すぐあとのことだ。幼い声に耳を澄ませながら、ジャハルはするりと夜闇に紛れる。入り込んだのは妙な屋台のその影へ。
 白い二つ尾と尻尾を揺らすのは、話に聞いた猫又の少女、ハナだろう。純粋な子供は疑うことを知らず、明るい声が祭囃子に混じる。
「カマル」
 低く、深く。声を賑わいの底に潜ませるようにしてジャハルが呼べば、ひょこんと顔を覗かせた蛇がいる。美しい月白の鱗と二対の翼を持つ、半透明の蛇。三日月が浮かぶように神秘的に飛んで見せるその仔は、名を呼ばれて嬉しいのか、すりりと頭をジャハルの長い指に擦り付ける。
 愛らしい仕草に指先で軽く応えて、後でなと囁けば、ジャハルは屋台裏をすいと示した。
「行け」
 ――調べて来いと、言外に告ぐ。それを汲み取って、カマルはするりと屋台裏へ忍んで行った。重ね合わせた五感で調べるのは、得体の知れぬ食材や素材はないか。それこそ毒となるような。
(……大きな鍋。水と、赤いスープ。揺れているのは……縄?)
 ゆらゆら、ぽたり。滴り落ちる赤は真っ赤だ。食材らしい食材はほとんど見当たらぬ。ただ大量に、水瓶ばかりが積まれていた。
(この全てが毒とも言い切れぬが)
 それを確かめるよりは、妖しい屋台を調べるほうが先決か。同じ水瓶があれば、その疑惑は深まるものだ。ジャハルはカマルに他の妖しげな屋台を調べるよう伝えて飛ばす。

「うん! ハナ、それ飲んでみたいなあ」
 無邪気な声が、何も知らずに泣く前に。その小さな手が真っ赤なスープに伸ばされた丁度そのときだ。
「店主、俺にも一杯貰えぬか」
 遮るようにジャハルが屋台へ進み入れば、ハナの尻尾がぴょこんと揺れて、店主らしき妖しい影は、僅かな沈黙ののち、勿論だともとその赤いスープをジャハルへ差し出した。その、不自然なまでに生白い手からスープを受け取って。
 ――ばしゃん。から、ころ。
「……ああ、済まぬ。手が滑った」
 淡々と謝罪を口にするのは猿芝居。しゃがんで器を拾う間に、足元へ広がる赤が地面に覗く緑にもたらすものを、何気なさを装って向けられた視線が、確と捉える。
 じわり。赤く染みるそれは、ほんの少し後には芽を出したばかりの緑を、くたりと枯れさせた。やはり、毒。そう確信を得たところで、幼い声が降って来る。
「お兄さん、大丈夫?」
「問題ない。……それよりも、白い尾が汚れなんだか。随分と大きな――あかい水たまりが出来てしまった」
 立ち上がると、ジャハルは大きな背を少し屈めてハナを気遣う。声音は誰ぞの言い聞かせをなぞるように柔らかいながら、その不吉を思い出させるように。
「……っ! だ、大丈夫。でもハナ、やっぱりスープはいらない!」
 はっと一瞬で顔色を変えたハナは、慌てた様子でその屋台から逃げ出した。
(思い出したか。……このまま家に帰ってくれれば良いのだが)
 その小さな背が一瞬で人混みに埋まってしまうのを見送ってから、ジャハルは屋台へ視線を戻す。けれどその先に、先ほどまでいた人影はなかった。
(簡単には行かぬ、か)
 ならば丁寧に、一つずつ調べてやらねばならぬ。黒猫面を被り直して、ジャハルは再び祭りの路を歩み出した。
 ――手にした簪の入れ物を傷付けぬよう、大きな掌でそっと握って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
【C】
真っ赤な血…お祭り
凶器のお話はなかった
だったら多分毒
食べ物もそうだけど、色鮮やかな飲み物は、毒を混ぜても見た目じゃきっと分からない
「だとしたら…、ッ」
こんな時に、発作…!
思わず屈みこんでそのまま咳と吐き気に任せて花を吐く
苦しいけど、慣れてる
頭も、回ってる
何とか顔を上げて、白い猫耳の生えた女の子の方を見た
彼女が心配して寄ってきてくれれば、あのスープは飲ませなくて済む筈
「ごめんね、大丈夫だよ…でも、よかったら椅子のある所まで連れて行ってくれないかな…」
何処かに座って、背中をさすってくれるようにお願いすれば更に足止めできると思う
本当は毒に強い分調査したかったけど…他の猟兵さん達、お願いします…


比野・佑月
【C】
ははぁ、楽しみを奪ってる誰かがいるってわけだ。
子供達を悲しませる悪い子の噂を聞いちゃあ見過ごせないな。

【眷属招来・冥】で犬の亡霊を召喚。
あかい水溜まりって言葉から連想された血の匂いや、
お祭りの場にふさわしくない薬臭さだったりを
嗅ぎ取れないか試して貰おう。

俺自身もお祭り屋台のハシゴで毒探し。
多少なら耐性でどうにかなるだろーし、死ななきゃなんとでも。

毒入りのを見つけたら、冥が亡霊であることを活かして
そっと屋台に忍び込ませて…
攻撃を呑み込み無効化する能力で毒入り食材を平らげて貰おうかな。

発覚時にどういう反応をするか、
闇に紛れて隠れながら様子をうかがうよ。
慌てて尻尾を出してくれれば楽なんだけど。




 緩くひとつに纏めた三つ編みを揺らして、花色衣・香鈴(Calling・f28512)は祭りの路を駆けている。
(真っ赤な血……お祭り)
 連続殺妖事件――それが起こっているとも知らぬ祭り客たちは実に楽しげだ。
 けれどもそうでない者たちがいる。今この場所で何が起こっているか知っている、この村の住人たちだけは僅かに顔を翳らせている。そしてたった今、真っ青な顔で女の子が妙な屋台から逃げ出したのを香鈴は見た。

 ――真っ赤なスープ。
 ――勧めていた誰か。それを遮った誰か。
 ――逃げ出した女の子。

(やっぱりあれは、毒)
 香鈴が遠目に見ていたのは、断片的な瞬間だけだ。けれどもあの小さな少女、ハナを目前の毒から遠ざけたのは、もしかしたら猟兵だったのかもしれない。
 そう考えたからこそ、香鈴は咄嗟に妖しげな屋台から逃げ出したハナを追いかけた。
(凶器のお話はなかった。食べ物もそうだけど、色鮮やかな飲み物は、毒を混ぜても見た目じゃきっとわからない)
 人混みを潜って、香鈴はハナを見失わないよう追いかける。
「あれ、キミ――」
「あ……」
 駆け抜けざまに不意に声がして、目が合った。
 見知った顔にきょとんとして瞬いたのはどちらもで、我に返ったのは比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)のほうが早かった。
 形良い犬耳をぴんと立てて、佑月は息を切らした香鈴を見やる。
「何か困ってる?」
「あ、の、女の子が……」
 香鈴が言いかけて向けた視線を追って、佑月も視線の先に駆ける少女を捉える。
「あれが話に聞いたハナって子だね。ははぁ、楽しみを奪ってる誰かが近くにいるってわけだ」
「そう、です。……さっき毒で、狙われていて」
「なるほど。子供たちを悲しませる悪い子の噂を聞いちゃあ、見過ごせないな」
 ――冥。
 佑月が短く喚べば、傍らに犬の亡霊が姿を顕した。
「ひとまずあの子を追いかけて。その後は血の匂いか、薬臭いものがないか調べてくれる?」
 同じ眷属の頭をひとつ撫でると、心得たとばかりに冥は駆け出す。
 それを追って、佑月と香鈴も走り出した。
 祭りに賑わう屋台通りは、多少の非日常をものともしない。当然のように混ざり込んだ危険を知るのは、猟兵たちくらいのものだ。
「俺もお祭り屋台、ハシゴして調べてたんだけどね。割とすんなり混ざってる。あんまりあっさり出されてたものだから、代わりに俺と冥で平らげておいたけど」
 駆けながら佑月がもたらした報せに、香鈴は驚いて短く声を零した。
「え……っ、食べたんですか?」
「多少なら耐性でどうにかなるだろーってね。実際こうして走れてるし、死ななきゃなんとでも」
 まあ大半食べたのは冥だけど。そう言って改めて向けた視線の先で、亡霊犬が足を止めた。
 その傍まで駆け寄ろうとして――香鈴が気づく。
「あ、駄目……っ!」
 視線の先で、ハナが何気なく渡された『赤い飲み物』を受け取ろうとしている。
 けれど。待って、と香鈴があげかけた声は、呼吸を遮るような吐き気に遮られた。――こんなときに、発作だなんて。
「……ッ!」
「どうしたの、……って」
「だい、じょうぶです……ッ、行って、」
 立っていられない。思わず屈み込みながら、佑月を促す。あの赤いものを渡す何かを止めなければ。
 濁った咳が込み上げる。げほりと手で押さえながら吐き出せば、零れたのは鮮やかな花。
「止めて、下さい……っ」
「――わかった」
 一瞬の逡巡の後、佑月は立ち止まらずに駆け出した。
 そのままハナの傍まで行けば、飲み物を受け取ろうとしたその小さな手の前に進み出る。
「キミ、――ああ、キミだよ。少しお願いがあるんだけど、あそこにいるお姉さんと一緒にいてあげてくれないかな」
「ええと……おまわり、さん?」
「そう、困ってる人に優しくしてあげるお仕事なんだ。ただ俺は今すぐ行かなきゃいけないところがあるから、お願いできるかな?」
 人好きのする笑みを浮かべて見せれば、ハナは振り向いて、蹲ったままの香鈴を見つけた。その様子に驚いたようにして、慌てて頷く。
「わかった!」
「頼んだよ。……さて」
 ぱたぱたと駆け戻る優しい小さな背を見送って、佑月は祭りの賑わいに紛れ込んだぶっそうな赤い屋台を振り向く。
「そろそろ全部食えたかい、冥」
 わかっていたことだが、振り向いた先に既に人影はない。けれども何でも呑み込んでは無効化させる亡霊犬は、屋台に残っていた全てをたいらげている。これでどれほど潰したろうか。
「そろそろ、慌てて尻尾を出してくれれば楽なんだけど」
 随分と悪い子がいたもんだ。その悪事がばれたとき、どう出るか。その反応を伺うように、佑月はするり、闇に紛れる。
 じわり、じわりと滲み出す、事件の形。ぼんやりと浮かび上がったことは、ひとつある。
(犯人は、あの女の子を狙っている?)

「お姉さん、へいき?」
「……ごめんね、大丈夫、だよ」
 心配そうにおずおずと傍に来てくれたハナに、香鈴は尚も花を吐きながら何とか笑う。
(苦しい。苦しい、けど)
 慣れてる。いつだってこうだ。痛くて、苦しくて、吐き気は治らなくて。
(頭も、回ってる)
 傍まで来てくれたこの少女が、また戻って狙われることのないように。もう少しくらい、引き留めることができれば。
「でも……よかったら、椅子のあるところまで連れて行ってくれないかな」
「ハナ、案内できるよ! 行こう!」
 頷く代わりに零れた咳で、花が溢れる。小さな手が躊躇わず伸ばされたのに微笑みながら、香鈴はその小さな手を守るように握った。
(本当は、毒に強い分調査したかったけど……)

 ――お願いします。

 声もなく、ただ振り向いた。佑月に、他の猟兵たちに後を託して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
C

猫のお面に、浴衣姿で……犯人を探しましょー

犯人、このお祭りのために吊られたてるてる坊主さんだったりして……
晴れないと首をはねると脅されたとか、吊られた恨みとか……
なので、てるてる坊主さん、もしくは赤いスープを売ってる屋台を探しますー

見つけたら赤いスープ、妖怪さんや誰かが飲もうとしていれば、先に全部買いしめて頂いちゃいましょー……
そっと飲むふりして、Cradle……手の中にひそめた小さな端末に触れさせて、中に、収めてしまいましょね……
まあ、だめなら実際に飲むことにします……
毒耐性ありますし……いっぱい飲んでも平気ですよー……

はい、これで店仕舞いですよー……お話聞かせて、くださいなー……


天沢・トキ
C
にゃにゃ、殺妖事件!?大変…!
猫妖怪仲間の危機だもん、トキはふたつ尻尾の皆を助けてみせるよ。ふんす!
あと、みっつ尻尾のタマさんがなんとなく気になるなー。

猫の仮面に、化け術でひとつ尻尾を増やして
お祭りにきた猫又の子のふりをする囮捜査大作戦!
屋台を中心に怪しいものがないか見て回るね。
にゃ、わた飴!たこ焼き!焼きそばー!!……演技だよ?演技です。
何かあれば尻尾と勘にびびっとくるはずなんだから!
んん、スープ?赤い?
嫌な気配がしたら、誰かが飲んでしまう前にはしゃいだふりで証拠品は確保ー!
毒耐性で挑戦してみてビリビリきたら、怪しい、よね?
猟兵の先輩たちとも出来るかぎり協力するよ!




 ふあ。
 ゆっくり、あくびをひとつ。ついでにふたつ。眠たげな双眸を開いて、寧宮・澪(澪標・f04690)はずり落ちかけた猫の面を引っ張った。
 纏う浴衣は落ち着いた藍。手に持ったうちわは、余り動かす気もしないのだけれども。
「楽しげですねー……」
 暑いですー。然程動かぬ表情筋を無に限りなく近くそのままに、澪は屋台通りをのんびり歩く。
「殺妖事件の犯人を探しましょー……ですがー、ふむ……」
 ゆるり、歩いて首傾げ、僅かに考え込んだところで、小さな澪の呟きを耳に留めて飛び上がった少女がいた。
「にゃにゃ、殺妖事件!?」
 りんりんと元気よく鈴の音を鳴らして大きな琥珀色の瞳を見開いたのは天沢・トキ(東方妖怪のどろんバケラー・f29119)だった。
「大変、大変! ……て、知ってて来たんだけど! お姉さんも?」
「ちょっぴり声が大きいですがー……。ええ、そうですー。あなたはー……猫叉さん、ですかー……?」
「にゃっ。トキは確かに猫妖怪だけど、ホントはひとつ尻尾なんだよっ。でもでも、仲間の危機だもん、トキはふたつ尻尾の皆を助けてみせるよ!」
 ふんす!
 トキは目一杯やる気を込めて、化け術でひとつ増やした尻尾を揺らす。
「あと、トキはみっつ尻尾のタマさんがなんとなく気になるなー、なんだけど、お姉さんはどうかな?」
「そうですねーぇ……。私は、犯人、このお祭りのために吊られたてるてる坊主さんだったりして……なんてー……」
 巡らせていた考えを澪が口にすると、トキはまんまるに目を見開いた。興味津々! 尻尾はぴんっと立って。
「えっ、てるてる坊主さん? どうして、どうして?」
「どうしてでしょー……。晴れないと首を撥ねると脅されたとか、吊られた恨みとか……?」
「わ、すごい、怖い! じゃあ、てるてる坊主さんのある屋台を探すとかすればいいのかな?」
「もしくは、赤いスープを売ってる屋台ですかねー……」
 澪の答えを聞いて、トキはきらきらと目を輝かせた。
「すごい、さすが先輩の猟兵さん……!」
 ――トキは最近猟兵となったばかりだ。化け猫一家の末っ子で、たくさんのきょうだいと共に幽世を駆け回って来たけれども、まだまだこうして猟兵として動くのは慣れてはいない。元気いっぱいの耳も尻尾も、トキの感情そのままにぴこぴこ動くし、うんと頑張らないと隠せやしないのだけれど。
「トキもいっぱい頑張るよ! それじゃあ行こう!」
 いざ調査! トキは元気よく隠れていない猫耳の上から猫の面を被る。それに、澪がゆっくり首を傾げた。
「何故に猫さんが猫ですー……?」
「にゃっ。これはね、囮操作大作戦なの! こうしてお面をしてれば、お祭りに来た猫又の子のふりができるかなって」
「なるほどー……?」
 確かに、村の子供だと思わせることができれば、犯人を誘えるかもしれない。そうも思うが、それよりも。
「にゃにゃっ。お姉さん見て! わた飴! たこ焼き! いっぱいあるよ! あっ、焼きそばー!!」
 きらきらぱたぱたうっきうき。
 隠しきれない楽しさは、間違いなくただの子供らしさであるのだが。
「ハッ……! え、演技だよ? 演技です」
「……気をつけて行きましょーねぇ……」
 あまり目を離してはいけない気がする。のんびりぼんやりとそう察して、澪もトキの後ろを歩き始めた。

 そうして二人がそれを見つけたのは、殆ど同時だった。
「んん、あのスープ、赤い?」
「てるてる坊主、もいますねー……」
 その屋台は本当に何気なく列に紛れていた。くるくるとてるてる坊主が揺れる、屋台の上には赤いスープがカップに並んで。――奥に、影。顔は見えない。
「――おや、そこのお嬢さん方。猫又村の子かい。スープはいかがかな」
 その顔の見えない誰かの声が、ふたりを呼んでいる。

「びびっと来た、来ました。あの屋台、すごく嫌な感じがするよ」
「同意見ですー……。でも、行ってみましょー……」
 虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言う。そのための囮捜査大作戦でもあったろう。澪とトキは視線を交わし、何気ない様子を装ってその屋台へ近づいた。
「こんばんはーぁ……。美味しそーなスープですねー……」
「うんうんっ、真っ赤でドキドキしちゃうね。全部欲しくなっちゃう!」
「それは良いですねー……。店主さん、あるだけ全部、頂けますかー……?」
 勿論お代は払いますから。澪が相変わらずのマイペースでそう言えば、さすがの店主も少し驚いた様子だった。全部かい、と繰り返して、少しの間を挟む。けれども結局承諾して、屋台の上には目一杯の真っ赤なスープがずらりと並んだ。
「もうありませんか? 絶対ですか?」
 トキが念押しするようにぐいと身を乗り出すと、店主は頷く。
「ここにはもうないよ」
「では、頂きましょーねぇ……」
「えっ」
 えっ。トキは驚いて澪を見る。けれども澪は顔色ひとつ変えずに、躊躇いなくスープを傾けた。――その死角には、小さな端末がある。電脳空間の海へと繋がるその端末へ、するするとスープは仕舞い込まれて。
「い、いただきます!」
 手慣れた仕草にこっそり感心しながらも、トキも真っ赤なスープを手にした。毒への耐性はある。多少なら挑戦したって大丈夫なはずだ。
「……!」
 舌に触れたそのあとで、ビリビリと走る妙な感覚。ほんの一口未満で『毒』を察して、トキは視線だけを澪へ向けた。
(毒だよね?)
(間違いありませんねーぇ……)
 視線だけで何ともなしに互いに察して、やがて屋台の赤いスープはからになる。――けれど。
「――はい、これで店じまいですよー……って」
「あ、れ?」
 改めて屋台の奥を覗いた先に、妙に無気味な影はいなかった。いつの間に消えたのか、そこには大量の水瓶ばかりが残されて、てるてる坊主がゆらゆら揺れる。

「……逃げられました、ねー……。けど、これで大分出回る毒は減ったのではないでしょうかー……」
「にゃっ、そうだよね。飲んじゃうひとが出ないといいけど……」
 心配そうに尻尾と耳をぺしょりと下げて、トキはくるくる回るてるてる坊主を見上げる。
 快晴を願うはずのそれは、妙に赤く、黒く、こわいもののように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
A●

相棒の人形、縫の浴衣選び

うつくしい衣を眺めるのは
やはり華やぐ気持ち

今日は縫の分も新調しましょうね

常は表情の動かぬ縫も
瞳がきらきら煌いているように見えて
微笑んで小さな頭を撫でる

白や紅の着物を纏うことが多いけれど
凛とした横顔には
紺地に朝顔柄も大人びていて映えそうな

――やぁ、粋ですねぇ
よく似合っていますよ

試しに羽織った姿に
素直な賛辞を贈れば
心成しか彼女の白皙の頬が染まったようで
益々愛らしい

帯は柔らな稚児帯を
ひらひら金魚めいた様子で結んで貰って
仕上げの髪飾りは似合いのものを
店の方に選んで貰いましょうか

己も店の勧めのままに
縫と揃いの紺地
流水紋の浴衣を纏ったなら
笑んで手を繋ぎ

いざ祭りへ
繰り出しましょう




 夏の宵、夏の衣が風に踊っている。
 ひといろ、柄も様々に。合わせる帯を覗けば更に。帯留め、簪まで含めれば――ひとつとて、全く同じ揃えはなしに。
 それを選びゆく人々の、妖の、なんと楽しげなことか。嗚呼、あの色は、あのひとに合いそうな。
「……ふふ」
 うつくしい衣を眺めゆくのは、やはり心も華やぐもの。
 都槻・綾(糸遊・f01786)は柔い笑みを零して、傍らを歩く相棒たる人形の、小さな頭をゆっくり撫でた。
「今日は、縫の分も新調しましょうね」
 その為に来たのですよ、と。告げてやれば、少女人形は良いの? とばかりに綾を見上げる。
 いつもは然程動かぬその表情も、今ばかりはきらきらと瞳を煌めかせているように見えるから、愛らしい。

「さあ、縫。どの店が良いですか」
 いくつか見繕うように呉服屋の露店を見て回ったそのあとで、綾は縫へ問いかけた。浴衣を扱う店は数あれど、せっかくならばこの子の気に入るところで見繕ってやりたいものだ。
 常は綾の世話を焼き、あれこれとお喋りを好む縫だが、いざ選んで良いと言われるとどうやら真剣に悩み込んでしまったらしい。
 けれども急ぐ祭りでもなし、綾は急かすでもなく、ゆるり、ゆるりと足を進める。
 その袖をちいさな手が引いたのは、落ち着いた風合いの露天の前だった。祭りに気取るでもなく、ただ衣が映えるがままに置かれたその店。
「……良い店ですね」
 微笑んで綾が頷けば、ほんの僅かに縫も嬉しそうにしたような気がした。
 さあ、どれにしましょうか。囁いて楽しげに、綾は浴衣を見て回る。鮮やかなものから、落ち着いたもの、帯留めに髪飾りまで、一式揃う店である。
 試しに着ても、と店主に声を掛ければ、勿論よと涼しい声が返った。
「いつもは白や紅の着物を纏うことが多いけれど、紺地に朝顔柄も大人びていて映えそうですね」
 おいでおいでと手招けば、手に取った紺地の衣を縫に羽織らせる。
 落ち着いた夜を掬うような色合いは、凛とした横顔にやはり良く映えた。
「――やぁ、粋ですねぇ。よく似合っていますよ」
 素直な賛辞を微笑み贈る。――心なしか、いつだって凛とした少女の白い頬が淡く色づいた気がして、益々愛らしい。ついもうひとつ頭を撫でれば、すっかり視線が合わなくなって、くすくすと笑み溢れてしまった。
「帯には……そうですね」
 綾が選び取ったのは、柔らかな稚児帯。ひらひらと金魚のように結べば尚愛らしさは増すだろう。
「着付けは、お願いできますか」
「ええ、構わないわ」
「では、この子をお願いします。――仕上げの髪飾りは、お任せで」
「承ったのよ。……ところで、貴方はどうなさるの? その布地なら、揃いのものが男物であるのだけれど」
 店主がすいと取り出したのは、縫へ選んだのと同じ色の紺地に流水紋の浴衣。それに少し淡い色の帯を合わせれば、縫と揃う夏衣は目にも涼しかろう。
「ふふ。――では、私にはそれを」

 そうして、着替えを終えて姿を見せた縫は、朝顔の咲く紺地の浴衣に金魚帯、髪飾りに白い摘み細工の花簪を飾られていた。しゃらりと下がる飾りには、真白の中にひとつだけ、紅い金魚飾りが揺れる。
「素敵ですよ、縫。では――いざ、往きましょうか」
 揃いの紺地の浴衣を纏い笑んで、綾は縫のちいさな手を取る。

 祭りの夜はまだ明けぬ。ふわり、夏めく風が、同じ色の浴衣を揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
A
「ほわぁ…」
カクリヨファンタズムに来るのは初めて
同じ呉服店でもサクラミラージュのそれとは異質な雰囲気に感じる
扱ってる物は同じ筈だけど何となく品揃えも向こうとは違うような
「ぁ、ごめんなさい」
っとと、いつまでも入口の近くに居たら邪魔だよね
さっさと入らなきゃ

「どうしよ…」
どれも素敵
でもうろうろする内に見つけた白地に青の撫子と金魚柄の浴衣の傍を何度も通っちゃう
可愛いけど…似合うか自信ない
―もし誰かに先に買われてしまったら?
「…!」
どれも素敵、それは本当
だけどこれが選択肢から消えちゃったら正直今日はもう帰ろうってなると思う
「あの、これ下さい」
帯とかは家にもあるし
だからこれだけ
これだけはあたしが買いたい




 右手の中指の指輪を無意識にそうっと撫でて、雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は幽衣祭の入り口に立ち尽くしていた。
「ほわぁ……」
 聞こえて来るのは祭囃子に花火、人の行き交う楽しげな声。宙に並んだ狐火に面、次々に訪れる祭り客は、人も妖も入り混じる。
(ここが、カクリヨファンタズム)
 聞き知ってはいても、やって来るのは初めてだった。
 良く知ったサクラミラージュにも祭りはあるし、呉服屋だってたくさんあるけれど――不思議と何処か違う気がする。
 不思議と無性に懐かしくて、不可思議で。いつそこから掻き消えてしまっても不思議ではないような。
「……ぁ、ごめんなさい」
 とん、と軽く肩が誰かとぶつかった。それで我に返る。いつまでも人通りの多い入り口に立ち尽くしてはいられない。
(さっさと入らなきゃ)
 優歌は足を踏み出した。不思議と胸が高鳴っている。緊張か、楽しみか、その両方か。
 ――いざ、摩訶不思議な幽世の祭りへ。

「どうしよ……」
 祭りの露店は数多い。浴衣を見に来た優歌であるけれど、あちらこちらと見るうちに、どれも素敵で決められなくなってしまった。
 幸せな悩みではあるのだけれど、ついしゅんと眉を下げて、祭り路を歩く。――ひらり。
(……あ)
 まただ。そう気づいて、顔を上げた。
 歩き回って、何度も色々な同じ露店の前を通り過ぎてはいるけれど、いつもその浴衣が目に留まる。
 白地に青の撫子と金魚柄をあしらった、その浴衣。
(また来ちゃった。……やっぱり、可愛い)
 少し大人っぽくも、柔らかな可愛さがあって、つい視線が引き寄せられてしまう。
 けれど。
(可愛いけど……似合うか自信ない)
 つい、そんなことを考えてしまう。試しに着させて貰うこともできるだろうけれど、それで本当に似合わなかったら、それも切ない。
(やっぱり、あたしには――)
 止めた足を、また動かす。逃げるみたいに歩き出そうとしたときだ。ふと明るい声が耳に飛び込んで来た。
「わあっ、見て見て、あの浴衣可愛い!」
「わ、ほんとだ。撫子と金魚ってなんか良いね。あ、一点ものみたいだよ」
 はしゃいだ知らない声に、優歌の足が止まる。

 ――もし、誰かに先に買われてしまったら?

「……っ!」
 逃げそうになった足を、自分の意思でそこに留めた。
(どれも素敵、それは本当。……だけど)
 もしも、今目の前にあるこの浴衣が、選択肢から消えてしまったら。
(正直今日はもう帰ろうって、なると思う)
 だから、頑張って息を吸う。
 どきどきと鳴る鼓動を治めるようにゆっくり吐いて。
「あの、これください」
 やっとのことで出した声は、少しだけ震えたかもしれない。けれど優歌の声は確かに響いて、店主の老婆は嬉しそうに顔を緩めて頷いてくれた。
「はいよ、今包むねえ。帯なんかは良いのかい?」
「帯とかは、家にもあるので……」
「そうかい。うん、きっとこれは、あんたに似合うさ」
 優しい声音で店主は言ってくれる。それがとても嬉しくて、優歌はきゅっと右手を握りしめた。
 柔らかな撫子と金魚の浴衣が、優歌のために包まれる。ほどなくして渡されたそれを胸に抱きしめて、ありがとうございます、と優歌は柔く微笑んだ。
 似合うかどうか、自信はやっぱりないけれど、それでも。

(これだけは、あたしが買いたい)

大成功 🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
A
万禍
共に幽世へ逃れて長いが…
私は、浴衣を持っていなかったな?

今更だが気付いたと手にする神剣へ言い、
並ぶ浴衣の花園めいた多種多様さに目は釘付け
心躍ると同時、惹かれるものが多く悩ましい

…万禍
この淡い翡翠色に白の紫陽花が浮かぶ浴衣と
黒地に月下美人を描いた浴衣
どちらがいいだろう
好きな方を?
…選べないから訊いたんだ

呆れつつまだ見ぬ中に出逢いがあるやもと巡れば
白い浴衣の全体を碧色の七宝柄で彩った浴衣が目に入る
所々霞がかったような風合いで浮かぶ七宝柄は花のよう
色と柄の見事な調和に暫し魅入られていると
それか、と問う、自分にのみ聞こえる友の声

ああ、これだ

迷わず返し、浴衣を取って
折角だ
これに合う簪も探そうか




 細める瞳は野山の緑。揺らす髪は木々の焦茶。花のように柔らかくも美しく整った顔を微笑ませて、汪・皓湛(花游・f28072)は幽衣祭にするりと紛れた。
 楽しげな人や妖たちの声もまた耳に楽しい。この幽世はよくよく危機にも陥るが、その分穏やかな時間は、とても穏やかなものだとも知っている。
「万禍」
 呼び掛けるのは手に在る神剣へ。全てが黒色の剣たる大切な友の声は、皓湛にしか聞こえない。
「共に幽世へ逃れて長いが……私は、浴衣を持っていなかったな?」
 ひらり。夏の宵に踊る衣たち。色も柄もとりどりのそれらは、既に見慣れたものであるはずだけれども。
「ああ、今更だ。――今更だが気づいた」
 泰然と、いつもと同じ調子で皓湛が言えば、友はどうやら呆れたらしい。それを察した上で気にも留めずに、足取りは軽く祭りを進む。
「見えるか、万禍。並ぶ衣たちが花園のようだ」
 花を描いたものもある。模様を描いたものもある。同じ『浴衣』と括れども、それらの並びはひとつたりとも同じものはなく、いずれもさあ選べとばかりに胸を張る。咲き誇る花々にも似た彩りは、夏の夜に良く似合う。
「心躍るな」
 そして同じほどに――悩ましい。
 ひとつ覗いて、ふたつ足を止めかけ、三つ悩んで。皓湛は結局、花緑青の暖簾が美しい露店に足を止めた。落ち着いた自然な色合いの浴衣が並ぶその露店で、やっと浴衣を手に取ろうとして。
「……万禍」
 片手に持つ友へ示したのは、ふたつ。
「この二つならば、どちらがいいだろう」
 ひとつは淡い翡翠色に白の紫陽花が浮かぶ柔らかな。もうひとつは黒地に月下美人を描いた、涼やかな。
 けれども、ごくごく真剣な声で問うたのに、聞こえて来たのは気のない声である。
「なに? 好きなほうを? ……選べないから訊いたんだ」
 当然だろうと呆れながら、皓湛は結局その浴衣たちを置いた。まだ見ぬ呉服屋の露店は数知れず。その中に出逢いがあるやもしれぬ。
 また飽きもせずに歩き出せば、万禍が何かぽそりと言ったが減らず口を返して流す。
 ふたりで過ごす時間は幾年を越えたか、互いの性質はよくよく知り合ってもいるからこそ、共に進む歩みを止めぬ。
 ――ふと。
 我知らず皓湛は目を奪われた。
 まず目に飛び込んだのは、碧色の七宝柄。柔らかな白を彩る七宝は、所々霞がかったような風合いで浮かぶ。それはまるで、花のように。忘れられた景色のように。

 それか、と。

 皓湛にだけ聞こえる万禍の声が問う。それで気づいた。

「――ああ、これだ」

 迷うことなく、浴衣を取った。着てゆくかい、と問う店主には、丁寧に首を横に振って包んで貰うことにする。やがて丁寧に包まれた浴衣を、万禍とは反対の手に抱えて、再び皓湛は歩き出す。
 満足かと問う声にも頷くが、――それでも祭りの夜に向ける皓湛の瞳は、未だ煌いて。
「折角だ、これに合う簪も探そうか」
 好きにせよと、呆れた声。
 それに笑い返した花神の見上げた夏の夜空に、鮮やかな花火が咲き誇った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
A+C
予定は未定なのですが
そろそろ浴衣の季節なので何かいいものがあれば

この人出なら雑鬼が走り回っても問題ないでしょう
浴衣を見つつ赤を誘い文句なり売りにしている店がないか
品物に赤い何かが混ぜられていないか情報収集させます

…ところで御店主、浴衣の仕入れは何処で?
急に柄やら色が変わったりすると少々困るもので
至って普通の、人間が着るようなものが良いのですが
そんなもの面白くない?
完璧な人間になるのが楽しいとは思わないので?

…ああ、そこの勝色のを見せていただけますか
色が渋すぎる?
長く着て青が冴えていく変化が楽しいんじゃありませんか
これを頂きましょう
これに合う帯もあればいいのですが、心当たりありませんか




 祭りの夜に妖が駆ける。
 その様は、水衛・巽(鬼祓・f01428)に取っては見慣れたものの一つでもあり、この幽世の世の常でもあろう。
「……夏ですね」
 唇に笑みを乗せて、巽は賑わう祭り路を歩みながら、その中に雑鬼を走らせた。これだけの人出があれば、妖たちがいるのなら、同じように走り回るのが増えても問題はないだろう。
 探させるのは鮮やかな赤。誘い文句や売り文句でも構わない。怪しげな品物に赤い何かが混ぜられていないか調べるべく、雑鬼たちは祭りの夜の情報を集めに。

 その主たる巽は――立ち並ぶ呉服屋の露店へ、すいと足を向けていた。
 そろそろ浴衣の季節だ。何か良いものがあればいい。
 巽が覗いたのは何の変哲もない露店の一つだった。彩りは豊かだが柄物はやや少なく、男性ものが多い。
「やあいらっしゃい、別嬪な兄さん。見てってくれるのは嬉しいが、あんたにうちのはちぃとばかし地味じゃねえかい」
 店主が僅かに苦笑して見せた。それは謙遜と言うよりは、純粋に多く店が出ているからこそ故の思いやりのひとつでもあったろう。
 けれども巽は穏やかな笑みを浮かべたままに首を横に振った。
「良いのですよ。私が見たいのは、至って普通の、人間が着るようなものでして」
「そりゃあ、ウチには御誂え向きだが。せっかくの幽衣祭だ、普通じゃ面白くねえとは思わないんで?」
 その問いこそ面白いもののように、巽は笑う。深い藍色の瞳がより色を深くした。

「――完璧な人間になるのが楽しいとは思わないので?」

 幾つか並べられた浴衣を吟味しながら、ふむ、と巽は息を吐く。――時折雑鬼たちから届く報せは、然程大きなものもない。ただ、怪しげな屋台はするりと紛れていて、他の猟兵たちもまた調べに入っているようだと。
(では、その助けともなるように)
 再び雑鬼を駆けさせながら顔を上げて、巽はふと奥の浴衣に目を留めた。
「御店主、そこの勝色のを見せていただけますか」
「これかい? 良いが、あんたには少し渋い色過ぎやしないかね」
「ふふ。長く着て、青が冴えていく変化が楽しいんじゃありませんか」
 微笑めば、店主は勝色の浴衣を手渡してくれる。見目の通り落ち着いた、手触りの良い浴衣である。深く沈むような勝色は、使い込めばそれだけ青が冴えてゆくだろう。
「良い色ですね。……これを頂きましょう」
 迷わず言えば、店主はやや驚いたようにしながらも頷いた。ならば包んでやろうと言う店主に帯の選択を任せて、巽はふと首を傾げる。
「……ところで御店主、浴衣の仕入れは何処で?」
「んん? ウチは抱えてる染物職人やらがいてね。そっちから卸して貰ってるが」
「そうですか。……いえ、急に柄やら色やらが変わったりすると、少々困るもので」
 巽の紡ぐ理由になるほどと笑って、店主は包み終えた浴衣を差し出した。
「帯は櫨染色にしてある。……浴衣に困ったら、また来れば良いさ」
 浴衣と包んだ但書があれば、いつだってウチに来られるだろうから。
 そう言う店主の手から受け取った浴衣の包みからは、淡く術の気配がする。

「……ありがとうございます。確かに」
 浴衣を手にして、巽はまた祭り路を歩き出した。
 ――雑鬼と妖たちが走り回って、祭りの夜は過ぎてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
C
せっかくのおまつりなのに、あそべないのはかなしいよね
しゅんとして
(てるてる坊主がちゃんとおまつりいけるようにしてくれるからね)

白いキツネ面で妖怪の振りして捜査開始

それまで村のなかまとしてうまく立ち回ってた、なら
おまつりだって、この屋台のものを食べたら――
なんてバレることはしないよね

仕入れ元?
屋台を回ってちょっとずつ仕込んでる?
かおが広そうだったり
ここに出す屋台をまとめてるひととか…

屋台をめぐってあれこれ買いながら
調理の様子や屋台主に接触してる人がいないか見るよ
にぎやかな裏であやしいとりひきとか?
裏側にまわるときはそーっと

もしなにかを勧められたら
飲むふりで面の裏側に仕込んだハンカチに吐き出すよ


黒雨・リュカ

アドリブ◎
狐の面をかぶり祭りをまわる
真っ赤な血だまりっていうと
外傷か、吐血したか
犯人が全く目撃されて無いことを考えると――遅効性の毒、か?
怪しそうな食べ物のやり取りを見かけたなら
渡された側をつけて確かめようか
それでもし倒れても
ちゃんと癒せば問題ないだろう

…ああ、そう思っていたのに
直前、子供から器を取り上げる
どうしても…腹が減って死にそうなんだ
これをやるから譲ってくれ
狐面を差し出して
交換を持ちかける

譲ってもらえたら子供が離れるのを待ってそれを嚥下する
もし毒で臓腑を焼くのなら
流石の俺でも涙のひとつでも出るだろう
そうすればあとは【克復慈雨】
涙で癒して元通り…だ
さっきの屋台にきっちりお礼をしてやろう


柊・はとり
【C】
ああ……懐かしいなこの感じ
特別な祭りの夜にはよく殺人事件が起きる
もう思い出したくないのにどうして来ちまったんだろうな

祭りを楽しむ連中に紛れて妖の面を被り
参加者の噂話に【聞き耳】を立てる
被害者の共通点は無いかとか
動機があったとか無かったとか
誰が誰に恨みを持っているとか…
事件の核心には無関係な人物ほど
【情報】を勝手に喋ってくれるもんだ

【第六感】で怪しいと思った奴は【追跡】
何をやってるのか暴いてやるよ
そういや毒に気をつけろって聞いたな
食い物関係が怪しいか…

飲食物はまず臭いを確かめ手をつけるのも少しだけ
味に異変を感じたらすぐ吐き出す
死んでるからそんなに意味無いが…
探偵が毒にやられるのはだせえしな




 たのしい声が祭囃子と花火に混じる。
 けれども駆け回っている子供は、見つける限り、狸の子、狐の子――猫の子は、ほとんどいない。
(いっちゃだめって、いわれたのかな)
 猫又村の子供たち。みんなみんな、こんなに楽しい音を家で聞きながら、たくさん我慢してるだろうか。
 そう思えば、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)も思わずしゅんとしてしまう。
(せっかくのおまつりなのに、あそべないのはかなしいよね)
 てるてる坊主を作ったのだと言っていた。たくさん晴れるように願ったろう。それだけでなくて、きっと大好きなおとうさんや、おかあさんと一緒に――。
 かなしい気持ちに引っ張られそうになって、オズははっとして顔を上げた。ぷるぷると頭を振って、手に取っていた白い狐面を被る。
(てるてる坊主が、ちゃんとおまつりいけるようにしてくれるからね)

 祭りの屋台通りを、妖怪のふりして歩く。知らぬ誰かでも気さくに良い夜だねと声を掛けてくれるのが何だか楽しくて、だからこそ。このお祭りの中に何か危ないものが潜んでいると思えば、やっぱりしゅんとしてしまうのだ。いけない、いけない。
「わたあめひとつ、くださいなっ」
 屋台を巡ってあれこれと買いながら、オズは注意深く様々な人の様子を伺った。
 怪しげな調理をしているところはないか。妙な接触をして来るような影はいないか。
(それまで村のなかまとしてうまく立ち回ってた、なら……おまつりでだって、すぐにバレることはしないよね)
 つまり、堂々とやってもバレない自信がある。――その方法がある。
(仕入れ元? 屋台を回って、ちょっとずつ仕込んでる? ……かおが広そうなひとなら、何かわかるかな)
 ぐるぐる、考えを巡らせながら、オズは色々な屋台を覗く。
 妙なところがないか。そう思って見れば、怪しげな屋台はいくつも見つかった。けれども幸いだったのは、他の猟兵が殆ど手を打ったあとのところが多かったことだ。
 屋台裏へも、そーっとそーっと回って見たけれど、あやしい取引はどうやらなくて。――その代わり。
 真っ赤なスープを並べる店を追う、同じ猟兵たちに出会うことができた。

「……君も?」
 静かに、夜に沈むようにして耳を欹てる眼鏡の青年がひとり、そこにいた。
 オズが潜めた声を掛ければ、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は慣れた様子で耳を澄ませ気配を殺したまま、頷いた。被った面は銀狐。青の三つ目が印象的なそれを眼鏡の上へ押し上げてオズを見て――その後ろをも見る。
「あんたたちもか」
「『たち』……? あ、」
 向けられた視線は、オズの細い肩の向こうへ。はたとして振り向けば、夜の中にもうひとつ浮かぶ、黒狐の面を見つけた。夜に馴染む漆黒の髪を揺らして、黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)は灯るような赤い目を二人へ向けた。
「……あの子供が、じきにこちらへ来る」
 溜息でも吐くように低く吐き出された言葉に、はとりが察したように眉を顰める。
「『ハナ』か。……あのまま素直に家に帰れば良いものを。他の猟兵に二度ほど助けられてただろ」
「心待ちにした祭りの夜だ、多少怖いことがあっても此処に居たいほうが強いだろう。――そら、来たぞ」
 リュカがすいと示した先に、きょろきょろと屋台たちを見渡しながら歩く子供がいる。ぴこりと揺れるふたつ尻尾と白い耳。
「……あの子のこと、ずうっと見ていたの?」
 素っ気ない口調ながら、決してその視線を外さないリュカにオズが訊ねれば、リュカはすいと狐面を被り直した。
「そこまで暇じゃない。手掛かりが無いか、つけていただけだ。……ところで、何か手掛かりは」

 話を変えるように問うたリュカに、軽く肩を竦めながらまず答えたのははとりだった。
「これまでの被害者の共通点は『全て猫又村の者』であること。動機は不明。……妙な屋台はどうやらやたらとあるが、今までのどれも犯人らしい痕跡は残さずに逃げ果せている」
 冷静な瞳と淀まぬ声で、はとりは自分が調べ得た情報を開示する。そのあとに、柔らかなオズの声が続いた。
「わたしも色んな屋台を見てまわったよ。あやしいところはたくさんあったけど、どれも協力をしてるわけではないとおもう。あやしいひとは、見つけるたびにひとりきりで、でもそれも、影みたいにすぐきえちゃうよ」
「犯人は複数はいない、だが複数いるように見える。毒は――遅効性の毒、の可能性は高いか」
 はとりとオズ、そして自分の見解を示して、リュカは暫し考え込む。けれどもその思考を一時止めるように、「おい」とはとりが油断のない視線を祭りの賑わいへと向けた。
「話し合いはあとだ。――『ハナ』が来た」

 白、銀、黒。
 三つの狐面が密やかに見る先で、ハナはまた怪しげな屋台の前で足を止めている。その様子を、リュカは呆れた心地で見つめていた。
(あの子供は、また)
 再三恐ろしいものに狙われておいて、いまだその恐ろしさを知らぬ。否、知らさぬように猟兵たちがその幼い心ごと守っているのだからそれも道理だが。
(一度、その恐ろしさを、苦しみを知れば)
 無謀で愚かな行為などしようと思わなくなるだろうか。ならば、その小さな手に渡される誰かの悪意の塊を、呑み込んでしまえば良い。癒す術ならリュカが得ている。ちゃんと癒せば、問題ないだろう。
 ――そう、思ったはずだった。
 その小さき者が赤い何かを口にしようとする、その直前に。リュカはその器を、ひょいと取り上げてしまった。
「……おにいちゃん?」
「――どうしても、腹が減って死にそうなんだ」
 口が滑る。何を言っているのだか。腹など空いて死ぬような人間でもあるまいに。
「これをやるから譲ってくれ」
 あまつさえ、黒の狐面をその小さな手に握らせるまでして。
 人間は。リュカにとって小さな存在だ。雨を降らすこともできない。その身の毒を洗い流すこともできない。信ずることで神を縛って、都合よく神頼みなんて言葉を使って。
(クソ食らえだ)
 それでも、力も存在も他人に由来する――それが神であるが故に。
「いいよ。お面ありがとう、きれいなお兄ちゃん!」
 嬉しそうに、ハナが狐面を抱きしめて、ぱたぱたとまた駆け出す。その姿を追う者がないかは、自分が見ずとも見守る者が他にいよう。
 だからリュカは手にした真っ赤な毒を、喉へ流し込む。捨てることはできなかった。寄越せと言って得たからだ。――それが供物と同じ意味を得たからだ。
「……ッ」
 息が詰まる。毒が臓腑を焼いてゆく。痛いのか熱いのかは定かでない。
「だいじょうぶ!?」
 我知らず崩れ落ちた足元を支えるように覗き込む、美しいキトンブルーがあった。オズだ。それに辛うじて頷くも、蝕む毒には涙も溢れて。
 ほろり、竜神の流した涙は、その身の毒を癒しゆく。やがて元通りになる肉体を感じれば、リュカはゆっくり身を起こす。
「……無茶をする」
 呆れた声は、はとりのものだ。
「だが、これではっきりもした。……あの子供は今夜、特に狙われている」
 冷静に向ける視線はハナが行った先へ、そしてもぬけの殻として残された屋台へ。

 祭囃子は賑やかに続く。――楽しげな気配と、不穏の気配。その感覚に、はとりは覚えがあった。
(……懐かしいな、この感じ)
 特別な祭りの夜にはよく殺人事件が起きる。
(もう思い出したくないのに、どうして来ちまったんだろうな)
 わかっていたろう、話を聞いたそのときから。
 わかっていたはずだ、触れたくも、触れられたくもないその記憶に自ら触れてしまうだろうと。
 けれどもそれは、はとりの矜恃でもあった。もう誰も死なせたくはない――死なせてはならない。
 己が、既に死んでいようと。
「犯人はじき顔を出す。……俺たち猟兵が目論見を潰して、随分焦ってるだろうしな」
「また、あの子をねらう?」
「ああ、狙う。――と言うよりは、今夜あの子を狙うために、あちこちの影を操って毒を撒こうとしたんだろ」
「……今までの怪しい影は、操られていたと」
「そう考えるのが妥当だ。しかも当人に操られている自覚はないだろうな」
 リュカの呟く声に頷いて、はとりは溜息と共に肩を竦める。
「理由は知らない。……だがもう、姿を見せる以外、犯人に打つ手はないだろうな」
「どうして……あ」
 問いを口にしかけて、オズははとりの視線を追い、気づく。――屋台通りは、すぐそこで終わり。
 祭りの只中で狙えるのは、ハナが帰ってしまうまでの間だけだ。
「わたし、あの子を追いかけるよ。……さいごまで、怖い思いをするのはかなしいものね」
 オズが駆け出すと、リュカも軽く息を吐いてそちらへ歩み出す。
 はとりもくいと眼鏡を押し上げて、祭りの夜を抜けてゆく。

 どぉん。
 花火の音に歓声がする。――毒入りスープは廻らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『腹ペコ坊主』

POW   :    味見させて…
自身の身体部位ひとつを【鋭い牙が並んだ自分】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    キミを食べたい
攻撃が命中した対象に【美味しそうな物のしるし】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【捕食者のプレッシャーと紅い雨の弾丸】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    今日の予報はヒトの消える日
【飢餓】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠弦月・宵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ぽたり、ぽたぽた。
 赤い水たまりに、ゆらゆら、ゆらゆら、何かが揺れる。

 ――お腹がすいたな。

 お腹が空いて仕方がなくて、うっかり味見のつもりでいくつか、食べてしまった。
 だけどそれでも我慢したのだ。だって『今日』が本番だから。
 ちゃあんとちゃんと、用意した。毒をたっぷり含ませた雨は水瓶に。願われたその日が晴れるよに。じわりと廻して確かめた。――ふたつ尻尾の連中はとても単純で、すぐに操られてくれた。
 一等都合が良かったのは、話しもしないと思われていた三又の。
 爪を立てて怒るから、丸呑みして一番の住処にしてやった。その小さな身で走れば、笑ってしまうほど誰も気づきやしないのだ。
 それなのに。
(どうして気づいた。どうして廻らない。ああ――)
 誰かが。何かが邪魔をする。全部に廻そうとした毒を、全部ひっくり返したなにかがいる。
 これじゃあ美味しくならないじゃないか。

 ――おなかがすいた。たべたい。たべたい。

 呑気に走ってゆく白いふたつ尻尾の子猫を、だらりと下がったてるてる坊主が追っているのに、誰が気づいたろう。影に、祭囃子に混じって、ハナがついに屋台通りを抜ける。
 そこは、随分開けた場所だ。田舎らしい長閑さのある、何もない川のほとり。少し行けば、猫又村の家々が並ぶ。
 家を目指して走るハナは、後ろの何かに気づいてはいない。祭りに行けた楽しみを胸に、鼻歌混じりに歌っている。

「明日天気になあれ」

 そう、願ったのはその声だ。腹ペコ坊主はぐわり、大きな大きなあぎとを開く。
 きゅっと結ばれた首を数だけ、赤くしたのを食べていいだろ?
天沢・トキ
ハナちゃんあぶな……にゃにゃー!!?
(口ぱっくりに涙目尻尾ぶわわ)
トキは!こわいお化けが!苦手ですー!!!
でも足は止めずにハナちゃんを守れる配置へダッシュ!
こ、ここここっから先は通さないんだからね…!

トキの、とっておきの妖術
ぎゅっと目を閉じて心の裡へ呼びかけるんだ
ねえご先祖さま力を貸して
応えるように響く鈴の音

炯々と光る瞳
研ぎ澄まされた感覚
硬い鋼爪と自在に動く三つ尾と
野性味の増した獣の姿で軽く一歩踏み出せば
目で捉えることが難しい身のこなし
見切って躱して近づいて
重い帳も紅い雨も怖くはないの

ひらりひらひらひらめく布を
猫の前で躍らせる、その意味を知ってる?
千々に引き裂かれても文句は言えないのよ
にゃーん




「ハナちゃんあぶな……にゃにゃー!!?」
 どぉんと咲いた花火の音と一緒に、天沢・トキ(東方妖怪のどろんバケラー・f29119)は走り出していた。
 考えてなんかいない。身体が先に動いてしまった。――どうしよう!
「トキは!」
 目指す先、ゆらゆら揺れる、くたびれた色の大きな大きなてるてる坊主はやたらと大きい。ぽたぽた落ちる赤いのがまた鮮やかで、更に尻尾がぶわわっと逆立つ。
「こわいお化けが!」
 ハナはまだ気づいていない。どうか振り返らないでって、願うように思う。だってそんなの見ちゃったら、きっと泣いちゃうもの。さっきから見開いたままのトキの目が涙目なのは――きのせい、気のせい!
 足は止めない。止まらない。ぐんと更に速度を上げて、トキは腹ペコ坊主とハナの間に滑り込む。瞬間、ぐわりと開いた大口があんまりに怖くてびゃーって泣きそうになる代わりに口を開いて。
「苦手ですー!!!」
 なにこれこわいー!! 精一杯の強がりで両足を踏ん張って、トキは腹ペコ坊主を涙目のまま睨みつける。
「こ、ここここっから先は、通さないんだからね……!」
 足は震えるし舌だって噛む。だけども身体は引っ込めたりせず、トキはぎゅっと目を閉じた。
(落ち着いて、おちついて)
 大丈夫、大きな気配は目の前にある。小さな気配は背中にちゃんといる。だから守るんだ。怖くたって大丈夫。トキにはとっておきの妖術がある。

(ねえご先祖さま、力を貸して)

 心の裡へ呼び掛けた。
 ――りん。
 応えるように、鈴が鳴る、鳴る。
(あの子を、助けたいの)
 ――りん。

 ゆっくり開くトキの瞳が夜に光った。
 一回り大きさを増した猫耳が、ぴんと張って音を追う。自在に動く三つ尾は伸びかけた腹ペコ坊主の布を叩き落として。
 研ぎ澄まされた感覚で、硬い鋼爪と共に、トキは一歩踏み出す。――怖くはない。
 この身に宿した先祖の一露。――かつて、神獣となった小さき猫のように。
「おなかがすいた」
 凶悪なあぎとが開く。真っ赤な口のその奥を目の前に晒されて尚、怯みはしない。
「トキもお腹が減るから、早く終わらそうか」
 噛みつく牙をひらり、躱して夜を跳ぶ。落ちて来る赤を飛んで弾いて爪を振り下ろす。
 ひらめく布の一片を逃すことなく裂いては夜に沈むその動きは、捉えることすら難しい。
 鋭い爪撃の軌跡さえ夜に残して、トキは花火が咲いた一瞬にくすりと微笑んだ。
「ひらりひらひら、ひらめく布を」
 ゆらり、ゆらゆら。腹ペコ坊主は獲物を見失って、闇雲にその牙を振り下ろしている。大ぶりなその動きは躱すに容易い。ひらひらと惑う獲物は、むしろ。
「猫の前で踊らせる、その意味を知ってる?」
 誘うように、知らせるように。飢餓を持て余した腹ペコ坊主はいっそう闇雲に攻撃を繰り出して、その全てをトキは躱して受け流す。
 軽く軽く、その足取りは遊ぶように。懐にとんと飛び込んで。
 ――深く深く、爪を抉り下ろすのは一瞬のこと。ばりりとその布を引き裂いて。
 あそんで、なんて可愛いことは言わないの。

「千々に引き裂かれても、文句は言えないのよ」

 にゃーん。祭りの夜に猫が鳴く。
 白い子猫が首を傾げて振り向くときには、その鋭い爪は仕舞い込まれて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
良う我慢したのだろうな
腹が減って辛いのは良く分かる
――…が、喰ろうて良いモノばかりではない故

脳裏に蘇る赤い水
ハナへ届くその前に滑り込み
村人らの壁となるよう
振り返らず時間を稼ぐ
出来れば、怖がらせすぎぬよう
…そら逃げよ、わるい鬼が来るぞ

喰う前に合わせる手も無きか
掌から生み出した【怨鎖】
ぴんと両手で張って盾代わりとし
喰らい付く牙を防ぐ
夕餉にするには苦かろう

動きを止められぬなら
腕一本敢えて喰らい付かせる
御代は高く付くがな
隙ついてその首へと鎖を一周

元よりこうした役回りであろう
怪力用いて一気に吊り上げ
弧描き地へと叩き付ける

然し
逆さになっては、晴らせるものも晴らせまいか
尾と肩を落とすハナを思えば眉も寄る




 花火ではない音がした。
「……なんの、音?」
 もうお祭りの中は抜けたけれども、はしゃいでしまった鼓動は早い。ハナはそうっと後ろを振り向いて。
 ――大きな大きな、夜の背を見た。
「花火の音だ。……あるいは、恐ろしい鬼の足音かもしれぬな」
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は小さな子猫の視界を塞ぐようにその前に立ち、抑揚の少ない声音で何気なく答えて見せた。
 その姿を見上げて、あ、とハナが小さな声を上げる。
「さっきの、お兄ちゃん。何しているの?」
「……花火見物、と言ったところか。咲いて散るのを見届けねば」
 ジャハルの答えに、ハナは更に首を傾げる。けれども大きな背中は微動だにせず、そら、と村のほうを指さした。
「逃げよ、わるい鬼が来るぞ」
「ふふっ、うん! こわいこわーいっ」
 淡々としたジャハルの言葉を冗談と取ったらしいハナは、笑いながら軽く駆け出す。
 その気配が行くのを背に感じながら、ジャハルは目前へと視線を戻した。既に裂かれたあとのある、宙ぶらりんの腹ペコ坊主。
「おなかすいた。おなかすいたおなかすいたおなかすいた――おなかがすいた」
 無機質な声が何度も繰り返す。ぽたぽた落ちる赤は、食った痕か裂かれた跡か。
「良う我慢したのだろうな」
 それが喰らうためだったとて、腹が減って辛いのは良く分かる。しかしそれをどうにか満たそうと衝動のままに伸ばす手は、屠る牙にしかならぬものだ。
「……喰ろうて良いモノばかりではない故」
 腹が減ろうが悪夢を見ようが、壊して良い幸せなど、どこにもない。
 ゆらり、ぐわり。腹ペコ坊主が牙を剥く。その牙を掌から出づる鎖が受け止めた。
 金属と金属がぶつかり削れ合うような、嫌な音が花火の音に混じって響く。重ねて張った鎖は盾とも成り、飢えた牙を喰い止めた。その飢餓を目前にして、ジャハルはまるで動じるでもない。
「夕餉にするには苦かろう」
 冗談には生真面目な声が、遠くの祭囃子に乗って花火が咲いた。
 がりりと牙は鎖を喰む。満たされぬ飢餓は膨れ上がって、腹ペコ坊主はがむしゃらにその牙を突き立てた。
「おなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいた」
 右へ、左へ、暴れ回って地団駄を踏む子供のように。腹ペコ坊主は先へ進めもしなければ肉を屠りもできないのに、痺れを切らしたように無理やりそこを突破しようとする。
「――何ぞ口になければ不安な赤子か」
 そら。無造作にジャハルが喰らい付かせたのは自身の腕だ。食い込む牙の痛みに顔も歪ますこともなく、敢えて喰らい付かせた腕をぐっと引き寄せる。
「美味いか。御代は高く付くがな」
 低めた声で囁いて、その首へぐるりと鎖を一周させた。腹ペコ坊主が鎖に気づいたときにはもう遅い。自在に操る鎖を引けば、腕から引き剥がしがてら、巨大なてるてる坊主を夜空に吊り上げる。
「元よりこうした役回りであろう」
 一息と一瞬。
 その間に地に叩きつけるのは、得手とする怪力を存分に発揮して――そのあぎとを開く頭から。
 どぉん。
 花火の音と、轟音と。重なるふたつは同時に空と地に響く。
「……然し、逆さになっては、晴らせるものも晴らせまいか」
 もしあの子供が見たならば、肩を落とすだろうか。そんなことを考えたジャハルの眉間に、少しの優しい皺が刻まれた。

 ――けれども、ふと視線を落とした懐に。今宵買い求めた簪が無事あることを確かめれば、星護りの竜は僅かに笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
ハナがつくったのはおまつりをたのしめるようにねがいをこめた
てるてる坊主のはずだもの

きみじゃだめだよ
あの子のねがいをかなえてくれるのは、きみじゃない
わたしたちが、ハナをぶじにおうちに帰すんだ

ハナを助けたい気持ちで作ったシャボン玉で自分を包み
素早く動けるように

あじみなんてさせないよ
おいしいわたあめやたこ焼きだったら
おまつりだもの、食べさせてあげられたのにねっ

攻撃を回避しながら飛び回り、斧を振り下ろす
飛んですり抜けて
攪乱を狙う

牙が襲っても武器受けとオーラ防御で防ぐ
おあじはいかが?

ハナにはたのしい思い出だけ抱いて帰ってほしいけど
もし気づかれたなら
だいじょうぶ
わたしたちはおまつりをまもるヒーローなんだっ




 あした天気になあれ。
 稚い声が歌ったのは、ただ純粋な願いごと。
 あした、楽しいことがあるように。――こっそり遊ぶ、なんて形ではなくて。
「ハナがつくったのは、おまつりをたのしめるようにねがいをこめた、てるてる坊主のはずだもの」
 ――きみじゃだめだよ。
 柔らかな声で、はっきりと。オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はゆらゆら宙にゆれる影に言う。
 願いを込められた形を持っているくせに、たのしいをおそろしいにしてしまう、その腹ペコ坊主に首を振る。
「あの子のねがいをかなえてくれるのは、きみじゃない」
 祭りの夜の賑わいが、まだ夜の向こうに明るく見える。本当はまだ、あそこにいたかったはずだ。大好きな家族と一緒にうんと楽しく過ごしたかったはずだ。
 それでも帰って行ったのは、怒られないためもあったろうけれど。きっとだいすきなひとたちに心配をかけないためでもあったろう。
 だからオズは、その帰り道を守りたい。不意にだいすきな誰かに会えなくなる、そんなことがないように。
「わたしたちが、ハナをぶじにおうちに帰すんだ」
 ふわり、優しいシャボン玉で自身を包む。まもろう、まもるよ。――まもりたい。思いに応えるように、身体が軽くなってゆく。空だって歩けるくらい、きっと。

「おなかすいたおなかすいた、あじみさせて」
「あじみなんてさせないよ」
 鋭い牙がオズを狙う。上から、横から、斜めから。がちん、がちんと激しく鳴り合う牙を、オズは遊ぶように避けて飛ぶ。鬼さんこちら。捕まる気なんてないけれど。
「おまつりだもの。おいしいわたあめやたこ焼きだったら、食べさせてあげられたのにねっ」
 軽く、速く、オズがその身のこなしで牙を避けながら振り下ろす斧は、間違いなく腹ペコ坊主を抉る。あちらこちらに飛び回れば、手負いの腹ペコはついては来れない。

「――ひゃ」

 ちいさなちいさな悲鳴が聞こえたのはそのときだ。オズがはっとして振り向いた先に、ハナがいる。咄嗟にその小さな身体を守るように一息にハナの前へ飛べば、オズは天使みたいな色彩で、ふわりと柔らかく笑って見せた。
「ほら、いって?」
「あ……でも」
「だいじょうぶ。――わたしたちは、おまつりをまもるヒーローなんだっ」
 ヒーロー。そう言えば、ハナはきょとんとしたらしかった。ぱちぱちと目を瞬かせて、助けてくれるの、と呟く。オズは花咲くように笑って頷いた。
「こんや、こわいものはきっとぜんぶたおしてしまうよ。そうしたら、あしたはきっとぜんぶたのしいからね」
「ほんと……?」
「うんっ。だからきょうは、もうおかえり」
 ここから先に、こわいものは絶対通さないから。
 オズがキトンブルーの瞳を合わせてはっきり言えば、ハナはこくりと頷いて今度こそ踵を返す。それを見送って、オズは軽やかに祭りの夜を飛んだ。

「さあ、こわいのもかなしいのも、わたしたちでおしまいにしよう」

成功 🔵​🔵​🔴​

汪・皓湛
飢える苦しみを知っている、覚えている
幽世へ逃れる前がそうだった
人々に見えず、居ると気付いてもらえず
苦しくて、悲しくて
辿り着けなければ、私も犯人殿と同じ骸魂になっていたのだろう
…友を道連れに

万禍
あの少女と、少女の祭りの夜の思い出を守りにゆくぞ
殺妖事件は今日で終いだ

花神を喰らった事はございますか
犯人殿へ声をかけ、意識を此方に向けさせる
近付いてもらえれば好都合
そうでなければ此方から向かいましょう
大人しく喰われるつもりは毛頭無いので
噛みつこうとしてくる頭部は
万禍の鞘で薙ぎ払う・受け止める等して焦らずに応戦
隙を捉えたなら、万禍の刃を用いてUCを

貴方の飢えを満たす事は出来ませんが
眠りへおくる、その一助には




 祭りの賑わいは、今は遠い。
「おなか、がす、いた」
 聞こえる声は既に歪で、途切れ途切れでしかない。それでも尚満たされぬ飢餓で、腹ペコ坊主はゆらゆら揺れる。その様は、まるで忘れられた存在のようだ。
 ――いつかの汪・皓湛(花游・f28072)のように。
 今にも夜に溶けそうなのに、それでも空腹を訴え続けるその影に、皓湛は僅かに視線を落とす。

 飢える苦しみを知っている。覚えている。
(幽世へ逃れる前が、そうだった)
 人々が神を忘れ、妖を忘れ、その瞳に映ることができなくなった。
 そこにいるのに気づかれぬ。
 見えることのない花は踏み荒らされて、信仰は途絶えた。花を咲かせることすらできなくなった頃には、ただ苦しくて、悲しくて、――飢えていた。
 幸い皓湛は幽世へ友と共に逃れることができたが、もしも幽世に辿り着けなければ今目の前にいる腹ペコ坊主のように骸魂になっていただろう。愛する友を道連れに。
「……ふ。私の台詞を取るな、万禍」
 皓湛の耳にのみ聞こえる万禍の声に小さく笑って顔を上げた。
 緩慢な動作で友を抜き放つ。真黒の万禍の刃は夜に馴染んで、白すぎるほど白い皓湛の肌を映えさせる。
「殺妖事件は今日で終いだ。――あの少女と、少女の祭りの夜の思い出を守りにゆくぞ」

 ぼたり、ぼたぼた。真っ赤な血溜まりが大きさを増す。
 開いたままの腹ペコ坊主のあぎとは、飢餓を鳴らしてがちがちと動いている。それまでいくつ命を喰ったか、それを思えば同情の余地などありはしない。
「花神を喰らったことはございますか」
 その意識を引くように皓湛はゆっくり声を掛けた。既にろくに動けやしないらしい腹ペコ坊主は、程近くに皓湛を見つけて空腹のままに寄って来る。
「おや」
 それでもなお噛み付いて来る牙を、万禍の鞘で薙ぎ払う。途端、ぐらりと傾く影に、皓湛は迷わず万禍の刃を振り下ろした。
 どぉん。
 夏の花が空に咲く。
 かちん。
 万禍が鞘へ帰りつく。

 おなかがすいたとわめく声がぴたりと止まり、腹ペコ坊主の布切れが、ぐしゃりと地面に落ちて消えゆく。――その最後、ぱぁんと赤く弾けて飛んで、てるてる坊主は消え失せた。
 皓湛はゆっくり笑って、目を伏せる。
「……貴方の飢えを満たすことはできませんが」
 ――眠りへおくる、その一助には。

 囁き落としたそのあとに、ちょこんと座った三又尻尾のタマが、なぁんと小さく鳴いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 連続殺妖事件はかくして幕を降ろす――とは、行かぬ。

「……あれ?」
 祭りからこっそり帰りついたハナは、村の様子がおかしいのに気がついた。
 密かに村を出たとき、小さな村は見渡す限りとても静かだった。
 事件の件があって尚更、祭りの日だと言うのに村は閑静なまま――と思っていたのに。

 なぁ、なぁ。にゃーん。

 やたら滅多と、鳴き声がする。
 どうしたんだろう。ハナが覗いた、村の中央。そこにはちょっとした集会所があって、何かがあるとみんなここで立ち話をするのだけれど。
 ――どうしたことか、みんなみんな猫の姿を取ってにゃーにゃーと鳴く、もふもふの山がそこにあった。

 猟兵が見たならば、それが骸魂に呑まれた妖だとすぐわかったろう。
 どうやら弾けたてるてる坊主は最後の足掻きのように赤い雨――骸魂を村に降らせて、村に残っていた者たちを残らず呑ませてしまったらしい。
 村の者たちはすっかりただの猫のように、もふもふにゃーにゃーと転がっている。
「にゃ……にゃあ……?」
 ハナはめいっぱいに混乱をして、もふもふ村の中でぱったり倒れてしまった。
 ――きっとこれは、楽しいお祭りが見せる夢なのだ、と。
杜鬼・クロウ
【正義】

コレは…ある種、天国ともいえるか
お前は猫に目がねェとか…あァこりゃ重症だわ(溜息
見渡す限り猫
可愛すぎて倒し辛ェな…(髪ガシガシ
元は村のモンだしよ…骸魂吐き出させる方向でいくか(浴衣の袖捲り

夜雀召喚
夜雀にも助力得て態と猫を威嚇したり怒らせ
【聖獣の呼応】使用
朱の鳥は待機
羽根を複数枚貰う

コイツは破魔の力が宿ってる
アリスティア…おい!コラ!
気持ちは分かるが遊んでねェで真面目にヤれッ(彼女にも羽根渡し

猫と追いかけっこ
下駄が鳴り響く
猫の首根っこを掴む
以前首根っこを掴みまくっており、コツ掴んでいて得意
ぽんぽんして骸魂が飛び出た所を羽根で浄化
元に戻った村人見て安堵

ったく…(苦笑気味
次、どんどん行くぞ!


アリスティア・クラティス
【正義】

思わず奇声を上げて突進するわ!(POW)【すねこすりあたっく】を受けて後退させられても、何度も突進!
「お願い!一度で良いの!
一度で良いから、その毛並みをモフモフさせてぇっ!」

しばし、正気を失い戯れて「つ、強いわ…こ、これがねこのツンデレ……!」と肩を上下させて荒い息をついていたところで、隣を見れば…クロウが猟兵のお仕事をしている!!
慌てて取り繕って、妖を元に戻すお仕事開始!

預かった朱色の羽を敵の前でねこじゃらしの要領で振って、敵を誘い、一匹ずつ捕まえて捕獲!クロウの真似をしてポンポン叩いて羽で浄化

ねこ…(哀
惜しいことをし――いえ!こうでなくては困るのよっ!これこそ本来あるべき正しき姿!




 もふもふにゃーにゃー、もふにゃーにゃー。
 もふもふにゃーにゃー、もふにゃーにゃー。

 長閑な村の真ん中で、花火灯りに転がる猫又たちは数知れず。
 幽衣祭の向こうは、猫祭りであったのだ。
「――!!!」
 どどどん。花火が向こうの空に咲く。その燦きをふわり広がる金髪に受けて、アリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)は元気のよろしい奇声と共に駆け出した。今なんて? って顔を隣でした杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)はその残像を見送ることになる。
 目指すはもふもふ、そのど真ん中。――全力の突進をもって、そのもふもふにアリスティアは突っ込んだ。
「にゃーん!!」
 ようこそもふもふ猫又村へ! でもちょっと勢いよすぎですお姉さん!
 猫又たちはその勢いに驚いたようにじゃれつくように、あたっくを仕掛ける。
「ぐふっ、かわいい……!」
 割と正面からがっつり当たってますがお姉さん。
 それでもめげずにアリスティアは再び突進して、
「にゃーん!!」
「ぐふっ、かわいい……!!」
 しあわせなデジャヴである。ころころ転がる猫又たちに、アリスティアは何度だって立ち上がった。
「お願い! 一度で良いの! 一度で良いからその毛並みをモフモフさせてぇっ!!」
 ――そうして、モフモフ天国に囚われるのだ。

「あァこりゃ重症だわ……」
 聞いてたより結構だいぶひどかった。
 全力で正気を失って猫又たちと戯れているアリスティアを遠い目で見て、クロウは深々とため息を吐いた。
 猫に目がないとは聞いていたけれども、もう今クロウのことなど見えていないだろう、たぶん。
(まあ、コレはある種、天国とも言えるか)
 見渡す限り猫、猫、猫。何処か懐かしい田舎の風景に良く似合う長閑でもふもふな眺めは非常に平和である。あるがゆえに。
「可愛すぎて倒し辛ェな……」
 ついがしがしと髪を掻き上げて、クロウはもう一度ため息を吐いた。一応、ここは戦場であるはずなのだ。さっぱり武器を出す気にならないけれど。
「元は村のモンだしよ……。骸魂吐き出させる方向でいくか、アリスティア、」
「モフモフ!!」
「……夜雀」
 隣からそっと視線を外して、クロウは浴衣の袖を捲りあげると式神を喚んだ。ころりと夜から出でた果実は一度クロウの手におちて、ぽすんと蝙蝠の形を取る。指に留まって命を待つ式に、主は大量の猫たちを示した。
「ちっとあいつら、からかって遊んで来い。適当に怒らせてくれりゃァそれで良い」
 命を受けて、夜雀はぱたぱたと猫たちのほうへ向かう。突っついたりひらひら飛んで威嚇して見せれば、容易に猫たちはフシャアと毛を逆立てた。
 それで定まる。――いくら愛らしい見目でも、敵は敵。クロウの喚び声に応えて、朱の鳥が夜空を明かすように飛来した。
 その羽根を数枚頂戴すれば、散らすか? と首を傾ぐ聖獣にいいやと首を振り、クロウは足元で威嚇していた猫の首根っこを掴む。
「破魔が上手いこと効けば良いンだが」
 ぽんぽんと、羽根で猫を撫でるようにしてやれば――ぎゃっと飛び出して来る骸魂を浄化する光がふわりと広がった。
 収まる頃にそこにいるのは、ひと回り小さな猫又妖怪。本来の村の住民だろう。その姿を目にして、クロウは柔く安堵の息を吐く。

 それから。

「つ、強いわ……これがねこのツンデレ……!!」
「――アリスティア! おい! コラ! そろそろ戻って来い、ってか気持ちはわかるが遊んでねェでまじめにヤれッ!」
「は……ッ!?」
 手にした浄化の羽根を渡すついでのように、羽根でぽすんとアリスティアの肩を叩いた。
 浄化の加護のおかげかはいざ知らず、ぜいはあと本気で戯れて肩で息をしていたアリスティアはようやく正気に戻った様子でクロウを見る。
「も、勿論よ。少し遊んであげただけだわ!」
「遊ばれてたの間違いじゃねェの?」
「本望よ! ――じゃなくて、この子たちを元に戻してあげなくてわね。やるわよクロウ!」
「俺はもうやってンだが……ったく、どんどん行くぞ!」
 慌てて取り繕って背筋を伸ばしたアリスティアに苦笑しながら、クロウたちは羽根で猫たちをじゃらし始める――もとい、浄化する。
 軽やかに鳴るのは二人ぶんの下駄の音。からころ、にゃあにゃあ。ぽんぽんと。
「そら、逃がさねェぞ!」
 クロウは慣れた様子で猫の首根っこを捕まえては、骸魂を剥がしてゆく。
「ねこ……」
 しょもんとしたのはアリスティアだ。だってこんなに可愛いくて、すりすりして来てもくれるのに。そうは思うけれども、預かった朱色の羽根を見れば、ぐっと手を握りしめて決意する。
 ひょこひょこじゃらして遊ぶ可愛い子に、ぽんぽんと。羽根で撫でてやれば、浄化の暖かい光は心地良さそうな猫の寝顔を連れて来てもくれる。遊べないのはちょっぴり寂しいけれども。
「惜しいことをし――いえ! こうでなくては困るのよっ! これこそ本来あるべき正しき姿!」
「アリスティア、こっち手伝え!」
「ええ、今行くわ!」

 もふもふ、にゃーにゃー。からころぽすん。
 楽しげな追いかけっこにお祭の音。目が覚めた猫又村の者たちは、口を揃えて言ったと言う。

 ――『何だか楽しい夢を見たんだ』。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
わあ、もふもふだっ
かわいい

ハナを見つけたなら、寝ていてもいたくない場所にそっと移動して
ぶじでよかった
いい夢をみて、もうちょっとだけまっててね

もふもふたちに両手を広げ
いっしょにあそぼうっ
受け止めそっと撫でて
こすられたら笑って
ふふ、きもちいい

ガジェットショータイム
こういうのはすきかな
音の鳴るボールやねこじゃらしのライトを出して
ひょん、ひょんと目の前に魚を跳ねさせる
えい、えいっ

わあ、みんなげんきいっぱいだっ
おいで
わっと集まってうもれたならそれも楽しくて笑い声をあげる
ふかふかだからねむくなっちゃうね
言いながらなでなで
きみもきもちいい?
よかったっ

もうだいじょうぶだよ
あしたはみんなでおまつりをたのしんでね




「わあ、もふもふだっ」
 すっかり長閑でふかふかした光景が広がる村の中央に足を踏み入れて、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は思わずぱあっと笑ってしまった。
 あの子たちがオブリビオンなのは、わかる。けれどもだって、かわいいのは間違いない。
「……あ」
 あそんであそんで、すりすりと寄って来る猫又たちを踏まないように少し歩いて、きょろきょろと見渡した先。オズは探していた女の子を見つけた。
「ぶじでよかった」
 すっかり気を失っているようだけれど、怪我は見当たらない。オズはその小さな身体をそっと抱え上げて、すぐそこに見つけた柔らかな夏草の生える場所へ寝かせてやる。
 ここなら目が覚めても、体は痛くないだろう。
「いい夢をみて、もうちょっとだけまっててね」

 もふもふたちの元へ戻って、オズはふわりと笑って両手を広げた。
「いっしょにあそぼうっ」
 ――よころんで! とばかりに猫又たちがオズの元に殺到する。
 もふもふにゃーにゃーと飛びついて来たまんまるな猫又たちを、残らず受け止めれば、擦り寄る温かなぬくもりが少しくすぐったくて。
「ふふ、きもちいい」
 ふわり、幸せそうにオズは笑う。そうしたらまた猫又が増えた。夜さえ照らすような柔く暖かい笑顔は、呑み込まれた妖たちの道標のように。
「……あそびたいの?」
 すりすりと寄っては擦り寄る猫又たちに、オズはこてりと首を傾ぐ。それから少し考えて、気づいた。

 子猫たちが多いのだ。――きっとお祭りに行けずに村にいたから。

(だからいっぱい、あそびたいんだ)
 だったらうんとたのしもう。オズは笑ってガジェットを喚ぶ。
「ね、こういうのはすきかな」
 ころころ転がる、音の鳴るボール。猫じゃらしのライト。おさかなおもちゃ。
 にゃー!
 見たことのない遊び道具に、猫又たちはきらきらと目を輝かせて飛びつく。
「わあっ、みんなげんきいっぱいだっ」
 楽しくって笑いながら、じゃれつく子猫たちと遊ぶ。その楽しげな声に惹かれて来た猫又たちにも、いらっしゃい! と明るい声。
 遊んでいるうちにどんどんもふもふ猫又たちは増えて、ぼくともあそんで! とばかり、オズを埋もれさせてしまうけれど。
「ふふ、ふかふかだからねむくなっちゃうね」
 優しい笑顔が猫又たちを撫でて撫でて。きょうはたのしい日だよって教えてくれるのだ。
 だからそのうち眠くなるのは、猫も同じ。はしゃぎ疲れた子供のようにすやすやと眠って――その骸魂が消えてゆくのを、オズは見送る。
 お祭りの音が、少しずつ終わってゆくのが聞こえた。
 眠る猫又たちに、ハナに、その夢に、そうっと囁くように、オズは笑って。
「もうだいじょうぶだよ。あしたはみんなで、おまつりをたのしんでね」

 ――あした天気になあれ。
 最後にひとつ作り出したガジェットは、青い瞳のてるてる坊主。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
何故なのか

嘆くべき事態、欠片もない悲壮感
一先ずは眠る一匹をハナの枕に

…猫
最近その生態を好ましく思う、が
こうも囲まれた経験はなく混乱の極み

お前、脛にすら届いておらぬぞ
だからと登るな
簪に届かぬよう高く掲げ
師の作った服に爪を立てるな
おい、そちらは尾で爪を研ぐな
首根っこ摘んでは下ろし

お前のために振ったわけではない
尾先で戯れるな
……
そうか
それが好きか
早足で歩きながら尾先を揺らす
ちょろちょろと左右へ
時には上吊り上げ、低く這わせ
はて群れで追う彼らが遊び疲れるのと
俺が埋め尽くされるのとどちらが先か
足の遅い子猫を少し待つ間にいくつか振り落とし

満足したら眠れ
もう悪いモノについて行かぬよう
指先で小さな額をそっと撫で




 ――何故なのか。
 目の前に広がる光景を、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は何とも言えない眼差しで見つめた。
 骸魂に呑まれ、オブリビオンと化した妖たち。本来は嘆くべき事態である。けれども欠片もない悲壮感どころか、もふもふにゃーにゃーすりすりと、のびのびほのぼのしている猫又村のなんたることか。
 にゃーん。
「……猫」
 気の抜ける声が催促するように擦り寄るその姿。猫というその生態を近頃ジャハルは好ましく思っているけれども。
 にゃにゃーん。にゃにゃにゃにゃーん。
「……何故なのか」
 見渡す限り猫、猫。躊躇いもなくじゃれついてくるその小さきものたちにここまで囲まれた経験はない。今度は混乱を口に出して、ジャハルはいつの間にやら頭の上で寝始めていた一匹をそのままに、一先ず広場の端に足を進めた。
 柔い夏草の上に寝ているのは――先ほど背を見送った子供。ハナだ。その無事を確かめるように見て、ジャハルは頭の上ですぴすぴ寝始めた一匹をハナの枕としてぽすんと置いてやる。
「にぃ」
「大人しく寝ていろ。……その子供が目覚める頃には貴様もただの猫まくらだ」
 ぴん、と軽く猫又の額を弾く。途端に弾き出された骸魂だけをぶちんと握り潰して、ジャハルは息を吐いた。
 振り向いた先には。
「……、……」
 言葉を失う程度には、あそんでくれと言わんばかりのもふもふたちがそこにいた。
 遊べと言うか。――言うのです。

「お前、脛にすら届いておらぬぞ」
 すっかり猫又たちにもふもふと囲まれながら、ジャハルは軽く歩き回っている。と言うのも、大人しく座っていてはどんどん増えるもふもふに埋め尽くされかねないと察したからだ。
「だからと登るな。……これはやらぬ」
 器用にもよじよじとそこらじゅうから登ってくる小さい猫又たちが届かぬよう、贈り物の簪は高く掲げて避難させる。その美しい月下美人が視界に過ぎるたび、愉快そうに笑って見ている師の顔が浮かぶようで――。
「黒いの。師の作った服に爪を立てるな。おい、そちらは尾で爪を研ぐな」
 細っこい首根っこを摘んでは降ろし、摘んでは降ろし。そうするうちに三匹は乗って来るからきりがない。
 遊んでやれば満足するのか。こんな緊張感の欠片もない戦闘があったろうか。否、簪の守護は万全であるが。
「にゃーん!」
 無意識にぶんと触れた尾に、子猫たちがぴょこぴょこ跳ねた。
「……お前のために振ったわけではない。尾先で戯れるな」
 とは、言っても。
 右へ、左へ。自在に竜尾を動かせば、実に楽しげに猫又たちは喜ぶのだ。
「……そうか、それが好きか」
 にゃん。答えるような鳴き声に、溜息代わりに尾先を振ってやる。
 ちょろちょろと左右へ。登る子を吊り上げて、落ちる前に這わせて拾う。
 夜の向こうで祭囃子がゆっくり終わる。どうやら今夜の祭りはそろそろ終いらしい。
(この子猫たちは遊べもしなかったのだな)
 随分遊び足りなかったろう。そう思えば、すっかり群れに追われるジャハルの尾はまた動く。
「来たか」
 ゆっくり寄って来る特に体が小さい子猫を待つ間にじゃれる子らを振り落としてはまた歩く。
 祭り夜の漫ろ歩きとはならずとも――楽しい気分にはなれるだろうか。

 もふもふ、楽しげに楽しげに、猫又たちはジャハルにじゃれつきすり寄って、うんとはしゃいだ声で遊んだ。
 そのふかふかな群れがはしゃぎ疲れて眠り始めたのを見てとって、ジャハルは空へ失せてゆく骸魂たちを見送る。
「満足したら眠れ」
 にゃあ。小さな声で鳴いた子猫を大きな掌にそっと抱えて、片手は小さな額を撫でる。
 もう悪いモノについて行かぬよう。――悪い夢を見ぬように。

 優しい夜の指先が、白い子猫を守るように撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
丸々とした愛らしい毛玉殿の山
予想外過ぎる光景に呆ける事数秒
万禍に名を呼ばれ我を取り戻す

しかし、どうすれば…

戸惑っていると足元に何やら温かな感触
もしやと目を向ければすねこすりが「にゃー」
後ろ、右、左からも
…なんと抗いがたい触感と温もりだろう
万禍から手を離したくない為、右手のみでそっと触れ

(固まる
(無心でもふもふ撫で撫で
(暫し経過

名を呼ぶ声で我に返る
いつの間にか自分は胡座をかき
足の上には万禍と、すねこすりが数匹
両手は彼らを愛でていて友は呆れているかと思えば
彼らの温もりを気に入ったらしい
安堵と共に、友とすねこすりの組み合わせが愛らしく見えて

ふふ
実に温いな、万禍

彼らが望む限り
愛でさせて頂こう




 ――骸魂の雨が猫又村へ降った。
 その意味を取り違えるような汪・皓湛(花游・f28072)でもなかった。
 だからこそ急ぎ村に向かい――そうして言葉を失った。

 もふもふにゃーにゃー、もふにゃーにゃー。

 何と言うことだろう。
 猫又村にいた全ての妖はすっかりオブリビオンに――否。
「にゃー」
「何と愛らしい、毛玉殿の山……?」
 もっふりたっぷりにゃーにゃー鳴く猫又たちの光景に、呆けてしまうのも致し方なかった。
 予想外過ぎやしないだろうか。皓湛はもっと悲惨な状態を覚悟して来たわけである。しかし踏み込んでみれば、実はもふもふ楽園がこんばんはしていらっしゃるではないか。
「……。……あ、ああ」
 我を取り戻したのは、友たる万禍の呼び声のおかげだった。どこか呆れて聞こえる声に、皓湛は流石に困惑を顔に浮かべてしまう。
「しかし、どうすれば……」
 戸惑いを口にしたときだ。何か柔らかなぬくもりが、足元に感じられた。もしやと視線をやれば、丸々ふかふかとしか猫又がにゃーと鳴く。
「……これは」
 戸惑っているうちに、後ろから、左右から、猫又たちが皓湛にじゃれつきに来る。
 ――なんと抗い難い感触と温もりだろう。
 とは言えかけがえのない友から手を離したくもなく、皓湛は右手だけでそっと猫たちに触れた。

 ぴた。
 皓湛の動きが止まる。けれどもそれも僅かな間だ。
 もふもふもふもふ。
 喋るでもなくひたすらに。無心でそのもふもふを堪能するように皓湛はその毛並みを撫でて、撫でて。

「……うん?」
 また、万禍が名を呼ぶ声で我に返る。そうして、おや、と瞬いた。
 いつの間にやら皓湛はその場にゆったりと胡座をかいていた。その足の上には万禍と、もふもふした猫又が数匹。すっかり両手は小さな頭を愛でていた。
「ああ、すまない万禍――、と」
 すっかり呆れられてしまったかと思ったが、響いて来たのは柔い声。呆れすらないその友の声は、膝の上に共に乗った小さな温もりを気に入ったらしかった。
「ふふ。……実に温いな、万禍」
 友と猫又たち。その組み合わせがやたらと愛らしく見えて、皓湛は微笑む。驚きはしたが、こんなに穏やかな結末も良いものだ。

「――さあ、行きなさい」

 花びらと送り出す骸魂が、最後の花火と星になった。すやすやと膝で眠るぬくもりは、すっかりただの猫又の子になって、小さく丸まっている。
「そちらは、いらっしゃい」
 にゃあ。鳴く声を招いて、友と語らう。静かになる祭りの終わりが、寂しいものでなく、あたたかな夢であるように。
「……ああ、そうだな。彼らが望む限り、愛でさせて頂こう」

 ――花神は舞う黒花と笑んだ。友と猫と、そのぬくもりを両の手に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天沢・トキ
あの子も幽世に辿りつけてたら……
ううん!ふたつ尻尾の皆もタマさんも助かってよかった!
でもでも村がまた大変なことになってるー!?

にゃにゃ(うず)
これってどうしたら(うずうず)
皆元に戻れるのかな?な?(うずうずうず)
え、いいの?飛びこんじゃうのもお仕事なの?ほんと??
にゃーーん!(あそぼー!!!)

子猫の本性にぽぽんと戻って
もふもふの塊に大喜びで猫まっしぐら
でもちっちゃくたって猟兵だからね!
つぶされたりはしな、にゃ、にゃー!!
(もみくちゃにされていく毛玉がひとつ)

皆が元に戻ったら、お家のなかへ運んであげたり
アフターケアな子猫の手は必要かな?
最後までばっちりお仕事するからね!




 祭りの音が、終わりゆく。
 その気配をぴこりと動く耳で尾で感じ取って、天沢・トキ(東方妖怪のどろんバケラー・f29119)は来た道を一度振り返った。
(あの子も幽世に辿りつけてたら)
 もしかすれば。
「……ううん!」
 過ぎったそんな考えを振り切るように、ぶんぶんと頭を振る。
「ふたつ尻尾の皆もタマさんも助かってよかった! ……って、あれれ?」
 なんだかにゃーにゃー聞こえないだろうか。
 にゃーにゃー。気のせい? 首を傾げる。
 にゃーにゃー。――気のせいじゃない!
 慌ててトキは駆け出して、そして猫又村に辿り着き、ぱかんっと大きな口を開けることになった。

「村がまた大変なことになってるー!?」

 ようこそおかえりもふもふの村!
 目の前に広がるもふもふに、にゃーにゃーと響く楽しげな声は、すっかり骸魂に呑まれてしまった村の子だってわかるのだけれど。
「……にゃにゃっ」
 ころころ思い切り転がっていたり。
 みんな楽しげにじゃれて追いかけっこしていたり。
「こ、これってどうしたら」
 ――うずうず。
「みんな元に戻れるのかな? な?」
 ――うずうず。
 ああだって、あの追いかけっこに混ざりたい。思いっきり走り回って、みんなでぴょんぴょん飛び回って。
(でもダメ、トキはいまお仕事中なんだよ……!!)
 そう、猟兵になったのだから! うきうき遊びに飛び込むなんてまさか、そんな――。
「なぁん」
「……えっ。いいの? 飛び込んじゃうのもお仕事なの?」
 みんなそれやってたぞって、教えてくれたのは三つ尻尾のタマだった。ほんと?? ふらりと揺れる三つの尻尾を見つめて見つめて、トキの大きな瞳はきらきら輝いた。

「にゃーーーん!!」

 ぽぽぽんっ。我慢ならずに本性たる子猫に戻ってしまうのも致し方ない。
 だってみんなと遊びたい。尻尾の数なんて気にしないってタマさんが言ってた。
 あそぼー! って思い切りじゃれつけば、いいよー! って名前も知らない灰色の子が迎えてくれる。そのままもふもふの塊に一直線! 猫まっしぐらとはこのことだ。
 ずっとあそびたかったんだって、小さな子が嬉しそうに言った。
(そうだよね、お祭り我慢してたもんね)
 トキがうんうん頷けば、そうだそうだと追いかけっこはまた盛り上がる。
(でも、ちっちゃくたって猟兵だからね! つぶされたりはしな、)
 もふもふもふもぎゅ。
「にゃ、にゃー!!!」
 ――あえなくもみくちゃにされてゆく、茶虎の毛玉がそこにあったとか。

 遊んで遊んで、くたびれて。すっかりみんな眠ってしまう頃、トキは骸魂が消えてゆくのを見てとった。
 遊びたくて、我慢して。それで呑まれてしまった子たちは、どうやら今夜の大騒動に満足してくれたらしい。
 ぽぽぽん。
 本性の姿のまま丸まる猫又村の子猫たちを、トキはまた人の形を取って、お家の中へ運んでゆく。それぞれの家は、タマが教えてくれた。
「なぁん」
「ふふ、タマさんありがとう! 最後までばっちりお仕事するからね!」

 最後はハナ。その子の家へ。ぐっすり眠って子猫姿になったのを、起こさないようにそうっとそうっと。
「よし、と。……明日、晴れるといいね!」
 花火くらいに明るい笑顔で、トキは笑って村を出た。

 ――猟兵たちが後にした、猫又村での幽衣祭。
 どうやら事件は噂の猟兵さまたちが解決してくれたらしいと、伝えられたのは朝。
 何だか良い夢を見たなあと言う猫又村の皆々は、安心と共に笑い合って。

 よくよく晴れた夜空には、たくさんの花火が上がる。
 浴衣と屋台が並ぶ祭り路に、楽しげな子供たちの笑い声が響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト