迷宮災厄戦⑩~迷宮のファンタスマゴリー
回り道、曲がり角、先の見えない長い廊下には、
白い煙が霧のように漂い、ベールのような薄いカーテンが垂れ連って。
薄暗い道の先をふわりと隠すように揺れていた。
ふと煙やカーテンに、どこからともなく"映像"が浮かび上がる。
佇む人の影、笑うピエロ、断末魔の表情、処刑人の後ろ姿、映像は不規則で繋がりがない。
不吉な映画のワンシーンのような音のない映像が現れては消える。
万華鏡のようにクルクルと移り変わる様はまるで走馬灯。
●
迷宮災厄戦の戦果によってハートの女王が住んでいた城への道が開かれた。
城の持ち主、かつての忠臣と呼ばれる「ハートの女王」は、オウガ・オリジンに戯れに殺されている。
しかし迷宮のようなその城には今もその怨念が残り、女王の姿を象る石像を動かすのだという。
新たな戦場を目指すには徘徊する石像達の手をかいくぐり、この迷宮を攻略しなくてはならない。
「この城を守る女王の石像は、力こそ弱いが数が多く、触れた者を城外へテレポートさせる力を持っている。ゆえに如何にこの石像に見つからず、先に進めるかが攻略の鍵となるだろう。そして今回、私が皆を送るのはこの場所だ」
猟兵達へ語りかけるクック・ルウの背後に、城内の景色が浮かび上る。薄暗い廊下にもやのような煙とカーテンが揺れて、女王の石像達が歩き回っている様子が見えるだろうか。
この女王の石像達は物音や気配に反応して、侵入者を捜し出そうとするけれど曲がり角やカーテンなどの障害物を利用して隠れたり逃げてしまえば、やり過ごすことは難しくはない筈だ。
「今回向かう場所には、様々な映像が浮かび上がる仕掛けがあるのだが。人を脅かすようなものを見せるらしく、どうもお化け屋敷のような事になっているのだが、こわいのが苦手な者も頑張って進んでくれ。なにもできないが、クックもここで応援しているからな」
きゅっと拳を握って猟兵を激励すると、グリモアが輝き猟兵達の移送を始める。
「全ての迷路を攻略すれば怨念は消え、このエリアを制圧することが出来る。皆の力を頼りにしているぞ」
鍵森
●こちらは戦争シナリオとなります。
イメージはお化け屋敷で追いかけっこです。
●プレイングボーナス:地形を利用して女王の石像と追いかけっこする。
舞台は入り組んだ廊下となります。
白い煙やカーテンがあるので、目くらまし等にご利用ください。
●映像
特に害のない仕掛けです。
恐怖映像などを映し出しますが、あまり残酷な描写は致しません。
幻灯機などは見当たらず、不思議な感じで映し出されるようです。
シナリオのフレーバーとしてお使いください。
お目通しありがとうございます。
皆様のご参加お待ちしております。
第1章 冒険
『女王の石像から逃げろ』
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POW : 女王の石像の集団に追いかけられながら、迷宮内をマラソンしつつ迷宮を探索する
SPD : 女王の石像に見つかる度に、全速力で振り切って安全を確保しつつ迷宮を探索する
WIZ : 女王の石像に見つからないように隠れ潜みながら迷宮を探索する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ディルク・ドライツェーン
おばけやしき?ってなんだろう
なんかカクリヨみたいな感じがするなっ!
よくわかんねぇけど石像と追いかけっこ頑張るぞっ
…なんか薄暗いなぁ
お、なんかいま人影がみえたような…?
ううん…よくわかんねぇけど怖いな…
!?っと、石像かっ!
待ってた!!なんか静かすぎて嫌だったから気が紛れそうだっ
まぁ捕まったら終わりだから逃げなきゃな
走りながらそのへんのカーテンを【怪力】で引きちぎって
複数の曲がり角のあるところで石像に投げて被せ
その間に曲がり角に入って隠れてやり過ごすぜっ!
ふぅ……!?
え、なんかいま後ろに居たか…?気の所為、だよな?
アドリブ歓迎
ポツンと一人置かれた長い廊下は静かでどんよりと暗い。
おばけやしき、というものはよく分からないが、此処はカクリヨの世界に似ている。魑魅魍魎の妖怪達が暮らすあの世界に。
なんにせよ、追いかけっこを頑張ろう。薄暗い廊下を進むディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)の足取りは前向きだ。
行く手を遮るカーテンをくぐり、床を這う白煙を脚は蹴散らす。城に籠もる怨念など恐れるような様子もない。
「……お、なんかいま人影がみえたような……?」
赤い瞳を瞬いて、視線を向ける。
カーテンの後ろに見えたのは、長い髪をした女のようだった。
あれが女王の石像だろうか。よく確かめようと目をこらせばもう消えている。実体のない幻影は、いたずらに惑わせるばかり。
現れては消える人影は、誰もいないのに誰かがいるような気配がまとわりついてくるようで。
「ううん……よくわかんねぇけど怖いな……」
唸るように呟いた。徐々に馴染みの薄い感覚を覚え、おばけやしきとはこのようなところなのかと得心したような面持ちになりながら。
どれくらい進んだだろう、静かだった空間の僅かな異変を感じ取って足を止める。
ガトン、ズズ、ズズ……。
重たく引きずるような"物音"を耳が拾った。
「!? っと、石像かっ!」
音の正体をすぐに理解して、ディルクの表情は明るくなった。
「待ってた!! なんか静かすぎて嫌だったから気が紛れそうだっ」
敵に見つかった事よりも、今の状況を変える事態の方が喜ばしい。
正体の分かる相手なら、対処の仕方もあるというもの。
女王の石像の一団が後ろの曲がり角から現れるのを目の端で認めて。
「さあ、逃げなきゃな」
トン、と床を蹴って走り出す。女王の石像も対象を定めた動きで追いはじめた。
ディルクは走りながら掴める場所にあるカーテンを力任せに引きちぎる。怪力のなせる技、それはなんとも造作もないことで。
三つ辻の曲がり角が見えてくれば、わざと走るスピードを緩めて。
「それっ、と!」
石像の顔めがけて集めたカーテンを投げつけて被せた。先頭の集団が止まれば後ろにいる者も進めない。網に掛かった魚のようにもがく石像の群れを置き去りに、曲がり角を一つ二つと駆け抜けてディルクは見事に姿をくらませたのだった。
ここまで来ればひとまず様子を見てもいいだろうというところ。
ふぅ、と一息吐いた瞬間。背中をゆらめくような何かが掠める。
「……!?」
即座に振り返っても、そこにはなにもない。
「え、なんかいま後ろに居たか……? 気の所為、だよな?」
漂う煙を見間違えたのだろうか。
けれど、あれはなにか長い髪のようなものではなかったか。
首を傾ぐ。けれど考えたところで答えもなく。
気にしたところで仕方ないか、と出口を求めてまた歩き出す。
足元の影は、煙と共に揺れていた。
大成功
🔵🔵🔵
飴屋・れいん
妖怪だからお化け屋敷なんて怖くありませんわ…!なんてわけはなく…怖いですわ!
アリスラビリンスの世界的にお化け屋敷と言うよりはホラーハウスですわよね…。
はぁ、チェーンソーを持った殺人鬼とか排水溝から子供を誘うピエロとか…!出会ったら倒れてしまいそうですわ…。
そもそも怨念の篭った女王の像が動き回ってるのもホラーですからね…!
とにかく姿が女王像が見えたら隠れましょう。
幸い交わすところはたくさんあるようですし。
頑張りますわっ!
…!!きゃあああ…!!悲鳴が聞こえましたわー!!何事ですのー!!
(騒がしくしながらもなんとか隠れたり逃げたり)
妖怪だからお化け屋敷なんて怖くありませんわ……!
なんてわけはなく……怖いですわ!
怖いものは怖い。妖怪雨降らしの少女、飴屋・れいん(飴🍬降らしになりたくて・f28850)の眦がこれから訪れる恐怖の予感にうっすらと潤みだす。しかし、ここに来てしまった以上、彼女は進まなくてはならない。
「頑張りますわっ!」と、声には出さずに気合いをいれて。いざ挑む。
(お化け屋敷と言うよりはホラーハウスですわよね……)
女王の住んでいた城というだけあって、寂れていてもその造りは優雅な趣がある。絵本に出てくるような洋風の城もこんな感じだっただろうか。もっとも怨念に満ちたこの不気味な空気は如何ともしがたいけれど。
こういう場所に似合いそうな者といえば。
例えばチェーンソーを持った殺人鬼、排水溝から子供を誘うピエロ……!
妖怪との馴染みが深いせいだろうか、れいんはついつい化けて出て来そうな者達の姿をありありと思い浮かべてしまう。
もしそんなのと出会ったら倒れてしまいそうですわ……。
はぁ、と重いため息を吐きながら慎重に歩を進める。
そもそも怨念が篭る女王の像が動き回ってるのもホラーですからね……!
無人の城を彷徨う石像の一団、それはさぞ寂しくて不気味な光景だろう。
ただよう煙の中に映る影に身をすくませながら、あたりの気配にも気をつける。
隠れる場所は多いのだから落ち着いて進めば、敵に見つかっても対処できるはず。
けれど。廊下の角を曲がったレインの前を大きなカーテンが行く手を塞いでいて。
向かい合うようにその眼前に映し出されたのは、のっぺりとした白い仮面を被り包丁を振りかざす殺人鬼の姿。
「……!! きゃあああ……!!」
身の危険を感じるような映像に、思わず持っていた傘でカーテンを跳ね飛ばした。飛び出た悲鳴を動転する頭が誤解する。
「悲鳴が聞こえましたわー!! 何事ですのー!!」
自分の悲鳴に更に驚いたれいんの元へ 騒ぎを聞きつけた女王の石像達が廊下の向こうから駆けつけてくる。
「来ないでー!!」
カーテンの向こうへ飛び込むように、れいんは走りだした。
逃げ惑うその後に散り落ちるような水滴が舞う。
妖怪雨降らしの少女は、落ち込むと雨を降らせてしまうのだという。
滴は、瞳から零れる涙か、それとも雨だったのか。
それは彼女にもわからないのかもしれない。
成功
🔵🔵🔴
庵野・紫
えー!?なになに?なんでこんなに多いわけ?!
あー、もう、うざったい!
片っ端から切って切ってきりまくりたい!
それが出来ないなんて、アンってば不利じゃね?
かなり不利じゃん。
よく見たらなんかヤバ気な雰囲気だし。
お化け?!えー、やだやだやだ!無理!
音を立てないように慎重に進むしかないじゃん!
はぁ……行ってこよ…。
カーテンに隠れたり曲がり角に隠れたり、地味ー。
ドッキリも勘弁ー。
不気味な映像も流れてくるしサイアクー。
気配まで消せてんのかな。
像が通り過ぎるまでやり過ごして一気に走る!
見つかったら神罰を与える!
こっちに、来んな!
張り巡らされた布に浮かび上がる黒い影は、音もなく狂気じみた笑いを浮かべて。よどんだ瞳は悪意に満ち、獲物を追い詰めるようにじりじりと迫ってくる。
写し出された映像をカーテンごと乱暴に捲って庵野・紫(鋼の脚・f27974)は不機嫌に眉を寄せた。
「えー!? なになに? なんでこんなに多いわけ?!」
ため息がでる。
カーテンを捲った先にはまた別のカーテン。際限がない。鬱蒼とした藪を掻き分けて進んでいるような気分だ、纏わり付くような白煙もうっとうしい。
加えて、この意味不明な不気味映像。
「あー、もう、うざったい!」
せめて垂れ幕のようなカーテンを、片っ端から切って切って切りまくれば少しは歩きやすくなるだろうか。
けれど、物音を立てていればお化けが集まってくるのだという。
怨念によって動く石像が砂糖菓子に群がる蟻のように迫ってくる様を思い浮かべて、紫は煩わしげに頭を振った。
――やだやだやだ! 無理!
そういう事態を避けるためにはこの不気味な城を出るまで、武器や技の使用禁止。お喋り厳禁。足音は静かに。等々、制約が多いということ。
「アンってば不利じゃね? かなり不利じゃん」
ブーイングものの状況だが、やすやすと敵に捕まるような真似はしない。紫は女王の石像に出くわしそうになると、廊下の角に身を潜め。またある時は口を閉じてじっと息をするのもこらえながらカーテンの裏に隠れた。
道のりは順調と言えたが、その顔に浮かぶ表情はますます苛立ちが混じる。
地味ー。ドッキリも勘弁ー。
不気味な映像も流れてくるしサイアクー。
唇をとがらせる紫のすぐ後ろで僅かに空気が揺れた。カーテンの隙間から女王の石像の白い腕がぬっ……と突き出して、紫に触れようと忍びやかに曲げられた指が迫る。
気づかれないとでも思っていたのだろうか。
「うっざ」
ばり。ぱりり。小さく爆ぜる雷光が空気を震わせた。
「こっちに、来んな!」
かざした掌、竜神の怒りが片鱗をみせる。
指先を下ろす。小さな仕草一つで、薄暗い廊下を切り裂くような雷が、石像を貫き砕く。
「あー、音出ちゃったじゃん。……、走るかー」
こんな場所は、さっさと出て行くに限る。紫は駆け出した。
後に残るのは雷の余韻と、瓦礫となって散らばる石像の破片。
女王如きが、それも醜悪な怨念で動く石像が。
その御身においそれと触れるなど赦されるわけがない。
大成功
🔵🔵🔵
ニオ・リュードベリ
アドリブ歓迎
なんだか怖い所だね
隠れやすそうなのは助かるけれど……気をつけていこう
出来るだけ【目立たない】ように身を屈めたり静かに歩きながら進むよ
【視力】で遠くも見渡しつつ、石像には気をつけて
危なくなればすぐにカーテンの裏や物陰に隠れよう
それより怖いのは仕掛けにびっくりしちゃうこと
人の影くらいなら我慢できるけど
ピエロとか怖い顔がばーんって出てきたら本当にびっくりしちゃう
すぐに声を抑えられるよう意識して……でもでも意識しすぎたらそれはそれで良くない
とにかくどーんと構えよう
必要なのは【勇気】!
前に進みつつ何が出てきても対処出来るように心構えをしていくよ!
覚悟していけば怖いのだって耐えられるもの……!
長い廊下を歩いている。ここへ来たのはつい先ほどのことである筈なのに、出口の見えないこの暗がりに、もう随分と長い間、迷い込んでいるような錯覚を覚えていた。
「人の影くらいなら我慢できるけど」
煙やカーテンに写し出される映像は、時にゾッとさせるような光景が現れる。
アリスとして、猟兵として、恐ろしい光景を何度も目にしてきたニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)だけれど、
(ピエロとか怖い顔がばーんって出てきたら本当にびっくりしちゃう)
きゅっと唇を結んだ。
少しの悲鳴でも聞きつけられれば、追っ手が来る。自分を驚かせるような映像が出やしないかと気が気でないが、幻影にばかり気を取られてもいけない。
目立たぬように、身をかがめて進むニオの動きは慎重だ。
遮蔽物が多く、視界は良いとは言えなかったが、注意深い行動によってニオは徘徊する女王の石像との遭遇を避けることに成功していた。
ある時は曲がり角へ逃げ延び、またある時は息を潜めてカーテンの裏に隠れながら、布一枚を隔てて無数の足音がゆっくりと遠ざかるまで待つ。
(隠れやすい場所があるのは助かるけれど……気をつけていこう)
そっと息を吐いて、胸を撫で下ろす。
今は、そんな些細な動作さえも気が抜けない。
また少し進んだ先に、道を塞ぐような大きなカーテンが掛かっていた。
なにかイヤな予感がしたけれど、他に道もなく中へ潜る。奥は一段と暗く、渦巻くような煙が顔にまとわりついた。
そして煙の中に逃げ惑う少女の姿があった。あっ、とそちらを見たときにはもう映像は消えていて、
「今のは……」
本物ではない。ただの映像だ。姿の見えない怪物に追われて走るあの表情も、すべてまやかし。
それでも、心臓が締め付けられるような気がした。
迷路も、煙も、カーテンも、映像も。
迷い込んだ人をただ怖がらせて楽しむような物がどうして用意されているのか。
考えるまでもない。
オウガの興ずるゲームの為のものなのだろう。
自分を抑えるように(大丈夫)心のなかで唱えるように想って。
振り払うように煙の中を突っ切る。
怖いという気持ちを理解しているニオだからこそ、立ち向かうための勇気を持つことができる。
「覚悟していけば怖いのだって耐えられるもの……!」
俯かず前を向く彼女の歩みは出口へと、また一歩近づいている。
大成功
🔵🔵🔵
水心子・静柄
お化け屋敷の幽霊なんて所詮まやかしよ。タネがわかっているなら怖がる必要はないわ。本当に怖いものは未知の事象よ。
さて迷路の道順で悩むだけ時間の無駄だから第六感と野生の勘を頼りにノータイムに判断して突き進むわ。移動する際は物音と気配に注意するわ。また途中にカーテンがあったら一枚剥がしてバランス部分に錬成カミヤドリで複製した脇差を括り付けて念力で動かせる移動式のカーテンを作る。途中、石像を見かけたらすぐに壁際によって移動式カーテンの裏側に隠れてやり過ごすわ。
暗く淀んだ空気が立ち込めているような廊下を、もやのような煙が漂い、垂れ幕のようなカーテンが行く手を塞いでいる。
蜃気楼のように、視界の端を人影が見え隠れする、水心子・静柄(剣の舞姫・f05492)は心揺らさぬ表情のまま。
「お化け屋敷の幽霊なんて所詮まやかしよ。タネがわかっているなら怖がる必要はないわ」
そう切り捨てるように言って。彼女はまず、自分を覆うのに充分な長さを持つカーテンを探すと、それを剥がし始めた。そして自身の本体(器物)である脇差しを複製し、レール代わりにカーテンを括り付けて頭上に浮かせる。
なんということだろう、静柄はその場で自分用の帳を作り出したのである。脇差しは彼女の傍らに寄り添うように浮遊して動くため、移動にも問題はない。無数のカーテンが並ぶ場所において隠れて移動するのにこれほど適した方法もないだろう。
咄嗟にあるものだけで移動式のカーテンを作り出した機転は、見事としか言いようがない。
なにより、極めて現実的な手段で状況を利用するところが彼女の冷静さを伺わせる。
ただ難点といえば、移動式のカーテンにも映像が映るということだけだ。
しかし間近で不意に現れる、忌ま忌ましいほどに醜悪な化け物が現れたところで。
静柄は冷たい眼差しで一瞥し、
「くだらないわね」
相手にもしなかった。
足音も立てずに進む静柄の姿は、御簾越しに見る貴人を思わせる。
ぐるぐると廻るばかりで果ての無いような廊下を進む足取りは滑らかで。
自分の直感に従って、立ち止まることなく進む姿は、まるで勝手知ったる場所を歩いている様。それほど彼女の姿は堂々としていた。
(道順で悩むだけ時間の無駄だから)
余計なことに構っていられない。
それでいて、女王の石像が近づいてくることを察すると、壁際に寄りカーテンの中へ身を隠す慎重さもある。
周囲の景色に溶け込むように潜む静柄を見つけるのは、石像には困難なことだろう。
辺りをくゆる白煙すら、カモフラージュには都合がいい。
用意された仕掛けも恐怖さえ感じなければどうということもない。
城に籠もる怨霊も、不気味な映像も、徘徊する石像も、
数多の世界を知り、様々な経験を重ねた静柄にとって全ては説明のつくものなのだ。
「本当に怖いものは未知の事象よ」
ふっ、と唇は笑みの形に弧を描く。
この迷宮は彼女に恐怖を与えられない。
大成功
🔵🔵🔵
ディイ・ディー
🎲🌸
聞いてはいたが不気味だ
揺らぐ煙を掌で払い除け振り返る
志桜、大丈夫か?
俺に任せろ、と告げて志桜の手を握る
怖かったら抱きついても良いからな
と、軽く揶揄いつつ思う
仕事柄、恐怖の感覚が麻痺しているから
映像を見ても感心くらいしか感じられない
だから怖がれる志桜がとても好ましい
(――来た!)
声は出さずに志桜を腕の中に引き寄せて
彼女の声も一緒に抑えるように強く抱く
石像だ、と視線で示しカーテンの裏で息を潜める
……行ったか
って、うわ。また石像が来た
仕方ねえ、追いつかれないように全力で走るぜ
志桜、掴まってろ!
お姫様抱っこで志桜を抱いて駆けよう
安心しろ、捕まるもんか
俺の姫君は、たとえ女王にだって触れさせねえ!
荻原・志桜
🎲🌸
だいじょうぶ、ディイくんいるもん
おばけとかまさかいるはず、だけどもしもいたら?
うう、こわい。笑い声とか聞こる気がするよぉ
竦む足だけど彼と手を繋ぎ進んで行く
映像が出るたびに小さく悲鳴を上げ腕にしがみつき
ディイくん絶対ここなんかいる!
だって急に――ひっ、今度はなに?
近付く音がする、
反射的に叫びそうになるが引き寄せられて腕の中
ぐるぐる安心と恐怖が入り混じり
再び泣きそうでぎゅっと抱き付く
行ったと、彼の言葉にそおっと見上げ
うう…ねえ、怖いのいった?
もういない……っているの?!
ディイくん、ひゃっ
ふわり宙に浮く感覚
落ちないよう咄嗟に腕を回し
恐怖薄らぎあたたかな温もりだけを感じて
ただ彼だけを双眸に映す
まるで舞台に下りた幕だ。行く手をふさいだ分厚いカーテンを左右に開き、足を踏み入れる。漂う煙の中に浮かび上がるのは、なにがそんなに可笑しいのか、来場者を迎えるように笑うピエロの姿。わざとらしくも見える程大げさに気の触れた笑い方をしている。白塗りの肌にべったりと口紅をつけて大口を開けると化け物のようだ。
ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は特に感慨もなく視線を外し。
映像ごと追いやるように煙を手で払いながら、
「志桜、大丈夫か?」
背中に隠した桜へと振り返って尋ねた。
「だいじょうぶ、ディイくんいるもん」
答える声にふるえが交じる。
荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)は眉尻の下がったしゅんとした表情で、しかし頼りないと思われないよう「ほんとうに、だいじょうぶ」と言葉を重ねる。
--ああ、本当に怖いのだ。
ここにある映像をどれだけ見ようとも、ディイが恐怖を感じる事はない。
せいぜい、よくできていると関心するぐらいだろうか。
とっくに麻痺した感覚を持つ彼女の震える小鳥のような様子に手が伸びる。
「ディイくん……?」
なめらかな白い手を取って、握りしめながら、辺りに響かないよう彼女にしか届かぬ近さで。俺に任せろ。そっと囁く声に志桜は小さくうなずいた。
く、と喉を鳴らすように笑って、
「怖かったら抱きついても良いからな」
「うう、ん」
付け足された言葉にも素直に頷きかけた志桜は、それが冗談交じりの調子だと気づくと頬を膨らませてぎゅっと指を絡ませた。
繋いだ手のぬくもりだけが道標だというように。二人は逸れないよう気をつけながら廊下を進む。
奇っ怪で不気味な映像が映る度に、志桜は小さく悲鳴を上げてディイの腕に抱きついた。竦む足を必死に抑えながら、潤んだ瞳で訴える。
「ディイくん絶対ここなんかいる!」
リアルな映像は時折鮮明で、いまにも飛び出してくるのではないのかと思わされる。最初に見たピエロなんて笑い声まで聞こえてきそうだった。
「だって急に――ひっ、今度はなに?」
ズズ……ズズ……。
重たく引きずるような音が廊下の奥から響いてくる。それが石像の移動する音だと気がついて。
(――来た!)
ディイは素早く腕の中に志桜を引き寄せて強引に近くのカーテンの裏へと隠れた。
そのまま真正面から抱き寄せて、胸の中に隠すように強い力で抱きしめる。
いきなりのことに動転しながらも志桜は悲鳴をこらえて顔を上げる。互いの視線が交差し、ディイの青い瞳が近づいてくる物音を示した。
このままじっとしていればやり過ごすことができる。
二人は吐息が溶け合うような距離のまま、待つしかない。
布一枚を隔てて、怨念に満ちた石像の行列が通り過ぎていく。
まるで悪夢のようだ、泣きそうになりながら志桜はディイの背中に手を回して頭を胸に押し当てた。
ぐるぐると安心と恐怖が入り交じる、もっとつよく互いの存在を感じていたい。そうすればもうなにも怖くないのだと思えるような気がした。
どれくらいそうしていただろう。
「……行ったか」
ディイが呟き、身を離す。
「うう……ねえ、怖いのいった?」
「うわ、数が多いって聞いてはいたが」
「……っているの?!」
カーテンの隙間から安全を確認していたディイが勢いよく振り返って志桜を抱える。
「志桜、掴まってろ!」
ひゃっ。と小さな声が上がった。
軽々と抱き上げ、ディイが志桜を両腕に抱えたまま走り出した。
手を引いて走ることはしなかった。女王の石像が触れたものは城の外へ飛ばされる。それは同じ場所に飛ばされるとは限らず、片方だけが飛ばされてしまうことだってありえる。
ディイはこの瞬間、麻痺したはずの恐怖心を思い出せそうな気がした。
チャチな映像なぞよりもずっと怖いものがあるとすれば。
それはここで二人が離れ離れになり、それきり会えなくなることだ。
「安心しろ、捕まるもんか。俺の姫君は、たとえ女王にだって触れさせねえ!」
「うん!」
ディイの首に手を回して、志桜は微笑んだ。
その双眸に映るのは愛しい人の姿だけ。
恐怖を置き去りにして、二人は迷宮を駆け抜ける。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵