5
Anges de la Mer:Azur

#グリードオーシャン #お祭り2020 #夏休み

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#お祭り2020
🔒
#夏休み


0






 淡い天色を幾重にも重ねて、海の色は深く青く染まってゆく。
 青の彼方から、彼女はやってくるのだ。さざ波の隙間からこぼれ落ちる光のリボンを掻い潜って、優雅に、堂々と。きらめく鱗に覆われた『翼』を力強く羽ばたかせ、黒く大きな瞳に母の愛をたたえて。
 海の天使たちが島を訪う季節。――夏が今年もやってきた。



「グリードオーシャンに、ウミガメを見に行こうと思っているんだが」
 お前らも一緒にどうだ、と、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)が居合わせた猟兵たちに声をかけた。
 コンキスタドールを退けた島の中に、ウミガメの産卵地になっている場所があるらしい。毎年、初夏から夏の終わりにかけて様々な種類のウミガメが入れ替わり立ち代り卵を産みに島の近海へ姿を現わす。鰭のようになった大きな前足で水をかき泳ぐ様子はまるで翼を羽ばたかせているようにも見え、とても美しい。それをぜひこの目で、間近に見てみたいのだと、アレクサンドラは言う。
「知り合いを誘ってみたんだが、そいつは日に焼けるのが嫌だとか言ってな。ビーチのレストランで優雅に過ごすんだとさ」
 島には洒落た料理を出す店もあるらしい。日中に海を楽しんだ後でサンセットを眺めながら涼むのもいいだろう。そっちの案内は隣の奴に聞いてくれ、とアレクサンドラが目配せをして、マリンレジャーに話を戻す。
「ダイビングに必要な道具は俺が手配するから、お前らは手ぶらで大丈夫だぞ。希望者には簡単なレクチャーもする」
 浅瀬にもウミガメたちは泳いでくるので海に不慣れな者でも安心して楽しめる。少し深い場所まで行けば大型種の姿も見られるだろう。人間より大きな身体の個体もいるらしい、とアレクサンドラが小声で付け加える。どの種類も食性は草食型なので襲われる心配はない。
 卵の盗掘は当然ご法度だが、運が良ければ孵化して海を目指す子ガメの群れに遭遇することもある、――かもしれない。
「さあ、どうする?」
 夏のバカンスにすっかり浮かれた様子のアレクサンドラが、ウインクをして君たちを誘った。


本多志信
 こんにちは、本多志信です。

 【本シナリオについて】
 高遠しゅんMSの『Anges de la Mer:Rouge』と同じ島での1日となっております。こちらでは昼間のレジャーをお楽しみいただけます。
 既にオブリビオンの脅威を退けた後の島ですので、戦闘は発生しません。取得できる獲得EXP・WPが少なめとなります

 【主な内容】
 「ダイビングでウミガメと遊ぼう!」です。ゆったりと泳ぐウミガメたちの愛らしい姿をご堪能ください。
 がっつり海を泳ぎまわってもいいですし、浜辺や小舟でライトにお過ごしいただいても構いません。
 生き物の種類や生態は実在のものをベースにファンタジー要素を盛り込んでまいります。「こんな不思議なカメがいた!」的にオリジナルのウミガメを考えてみるのも面白いと思います。

 【ダイビング】
 猟兵なので「だいたいのことはなんとかなる」マインドでスルーして大丈夫です。プレイングで触れなくてもそれらしく演出させていただきます。
 シュノーケリングなど他の方法もOKです。「キャラクターさんらしさ」をめいっぱい楽しんでください。

 【NPC】
 アレックスも遊びに来ています。お声掛けをいただいた場合は登場します。
28




第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りを楽しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

泡沫・うらら
【♠🐠】

夏の海に催し物
いつもの格好でも楽しめんことはあらへんけども
折角やもの。仕立て屋さんにお願いした水着で、向かいましょう

擬態を解き水を蹴るは一本の鰭
重力から解き放たれ思う侭に進める事の
なんて、心地良いこと

ねぇジャックさん、海の中は如何?
泳ぎが不得手だと仰っていた貴方
けれど、器用に立ち回る姿に感嘆して
貴方と海に在れるやなんて、まるで夢のよう

主役の彼らの姿を見留めたら
驚かせぬようゆっくりと、近づきましょう

彼らが渡ってきた海のお話も聞きたい所やけど
それはまたの機会に延期して
彼らと共に、海中遊泳の穏やかなひとときを過ごしましょう

海も悪いもんや無いでしょう?
貴方がそう思う瞬間に立ち会えて、嬉しい


ジャック・スペード
【♠🐠】

スーツは重いので水着で行く
沈まぬようジェットと機翼を展開し
バランス取りながら海中を往こう

うららが游ぐ姿は、初めて見る
あんたには矢張り海の中が似合うな
優雅に水中を舞う友人の姿は
何だか新鮮で、つい其方に気を惹かれそうになる

ああ、あんたと泳げる日が来るなんて
俺も思ってなかった
海の中には知らない景色が広がっていて
機械仕掛けのこころも、わくわくと跳ねるようだ

ウミガメを見付けたら
怖がらせないように、ゆっくり近寄ってみよう
一緒にのんびりと泳げると嬉しい

海はずっと、怖かったんだが――
海中に射し込む陽射しはキラキラしていて
綺麗な魚やウミガメたちは
心地好さそうに泳いでいる

なんだか楽園みたいで、綺麗だな





 きらきらと輝く水面の下。とぷん、――と、少しばかりの空気を巻き込んでエントリーすれば思いのほか明るいことに驚くだろう。白い砂が陽光を反射するおかげで海の中は目の覚めるようなブルーだ。ゆっくりと身体を沈めて砂地へ近づくダイバーの姿は、まるで地球を見下ろす宇宙飛行士のようにも見えるかもしれない。白い海底に点在する珊瑚の群れはさしずめ砂漠のオアシスだろうか。その珊瑚を拠点とした小さな魚たちが水の流れに身を委ね、あるいは抗い、チラチラと大樹に鮮やかな花を咲かせているようだった。
 珊瑚の上を、大きな魚影がゆったりと通り過ぎる。小魚たちは天敵が現れたと思ったか、素早く窪みに身を潜ませた。しかし大魚は親指ほどの大きさの魚に構いもせず、海の中を沖へと泳ぐ。嵐が過ぎ去ったとばかりに再び顔を出した群れの脇で、今度は大きな砂煙が巻き上がった。またしても魚たちは珊瑚の森に引っ込む。静まり返った森の横を、黒く巨大な何かが海底を這うようにして泳いでいった。

(――あんたはやはり、海の中が似合うな)
 先導して泳ぐ泡沫・うらら(夢幻トロイカ・f11361)の後ろ姿を追いかけながら、ジャック・スペード(J♠️・f16475)はつくづくと思う。
 擬態を解いた麗しきキマイラの半身は大きな魚の尾鰭をうねらせ、優雅に水を打っている。深い海の底から汲み上げたような色の髪は先端に行くほどに陽の光を受け、揺蕩うては波に解けた。うららの身体が上下にしなるごとに白い薄衣を水中に散らしてふわり、ふわりと花開くのは、今年誂えたばかりだという水着だ。それは陸(おか)の上でも彼女によく似合っていたが、海の中では殊更にその美しさを引き立てた。重力という枷から解放された人魚は、大いなる青の中で全身全霊で自由を謳歌していた。
 ふと、うららが泳ぐのをやめてジャックに前方を指し示す。砂地が途切れたその先には、深い海が広がっていた。目の下には陽の光が届かぬ暗い水底。陸に住み慣れた者にとっては奈落の底も同然の闇だ。遠い昔、絶望と共に眺めた広すぎる宇宙に似ている――と、ジャックは僅かに躊躇した。視界の端ではうららが気遣わしげにジャックを振り返っている。
(――なに。大丈夫さ)
 油断すれば吸い込まれてしまいそうな、あまりの広大さに身体も魂も散り散りになってしまいそうな、深い青。だが黒い英雄は立ち止まらない。水の中を行くために入念に準備をしてきたし、なにより傍らには友がいる。初めて立ち入る世界に怖気付いてしまうのはあまりにももったいない。
 ジャックが機械の翼とジェットを操って体勢を立て直したのを見て、うららが嫋やかに微笑んだ。

 ――ねえ、ジャックさん。海の中はいかが?
 果敢に未知の世界へと挑む友人の横顔へ、うららは目線で語りかけた。
 バカンスへ旅立つ前に泳ぎが不得手だと言葉少なに語った友は、しかし傍目にはそうとは思えないほど器用に身体を操って海の中を飛んでいる。砂地を遠慮がちに進んでいたのは、きっとジェット噴射で魚たちを驚かせないための気遣いだったろう。足元にすら海が広がる領域では、ジャックは先ほどよりもずっと上手に泳ぎ回っていた。
 銀色の剣に似た身体を閃かせて、魚の大群が二人の頭上に現れた。うららとジャックは水を蹴って太陽を目指し、銀の巨群を真っ二つに割る。弾かれるようにして左右に分かれた魚の群れは、渦を巻いて再び一つの塊に戻った。波間を縫って零れ落ちてくる光の帯が、ジャックのボディに刻印されたスペードをきらりと輝かせている。
 ざあ――、と、そのとき二人の身体を大きな流れが攫った。夢中で泳ぎ回るうちに、外海から流れ込む海流にぶつかったらしい。流れに揉まれながら、ジャックは「風に似ている」と思った。考えてみれば風も陸上の空気が流れることで生じるもの。海の中で水が動けば、それは水の生き物にとっての風であるのだろう。
 陸であれば傘が吹き飛ぶほどの速さの流れに在って、二人は離れ離れにならないようにひとつの岩にしがみついた。ほ、と安堵の息を吐く仕草をするも、肺呼吸の必要がない二人からは空気の泡は零れない。ひと息ついたところで流れの向こうに視線を送ると、彼方から無数の微生物が飛ばされてくる様が真冬の吹雪のようでもあった。そして更にその向こうから――、
(ウミガメがやってきた――!)
 大きな前鰭を上下に羽搏かせるシルエットは、間違いなくウミガメのそれだ。旅の主役が、悠然と姿を現した。
 遠くの海から、大きな海流に乗っておそらく群れで移動してきたのだろう。その数は一頭や二頭どころではなく、数十頭に及んでいる。
 あっという間に二人とウミガメたちの距離は縮まり、そして目の前を横切ってゆく。つり目がちの黒い瞳がほんの一瞬だけジャックの方を向いた気がした。
 うららとジャックは目配せして頷き合い、しがみついていた岩を蹴って海流に身を踊らせた。流れに身を任せて泳ぐと、驚くほどスピードが出る。ジャックはジェットのエンジンを切り替え、金属製のボディが沈まない程度の浮力調整に努めた。ウミガメたちを驚かせぬように、二人は静かに、ゆっくりと彼らに寄り添って泳ぐ。
(貴女たちは、いったいどんな海を渡ってやってきたんでしょう)
 ウミガメな遥かな旅路へと思いを馳せ、うららは慈しみの眼差しを向ける。母となるために。未来へ命をつなぐために。彼らは大きな旅を何度でも繰り返すのだ。その生きざまの雄大なこと。――ああ、うちもいま、大きな旅の途中なんや。未だ、失くした過去を取り戻すための旅やけれども。いつか、きっと。うちも未来へつなぐ旅をするのね――。
(……――)
 群れを挟んだ対面には、ジャックが黒く大きな機体を静かに操って泳いでいるのが見える。その金色の目は、うららと同じくウミガメに注がれ、そして時折周囲の海全体を見渡しているようだ。
 ウミガメの甲羅を覆う青い藻は、彼らの重ねた年月を物語っている。先頭を泳ぐカメは他の個体よりも一回り大きく、そして甲を覆う緑はひときわ濃い。群れの中ほどにはほとんど藻の生えていないカメもいて、彼女はきっとまだ若い個体なのだろう。新品の甲羅を持つカメは、他にはもう一頭いるどうか、というところか。毎年何千と生まれる命のうち、再び島へ戻ってこられるのはほんの一握りなのだ。
 降り注ぐ太陽は波のフィルターを通して光のかけらに形を変える。そうして、ウミガメたちの背でダンスするようにチラチラと揺らめいていた。いつしか、群れの間を魚たちも泳いでいる。再び砂地が近づいてきて、流れが穏やかになった。
 ――なんと心地好さそうに泳ぐのだろうか。ジャックは生き物たちが描くリズミカルな流線に目を奪われた。水の中の生き物が、かくも美しいものだとは。そしてその向こうにはうららが彼らと同じようにしなやかに尾を揺らして微笑んでいる。きっと、“楽園”とはこういう光景のことを言うのだろう。
 ジャックの目に穏やかな光が明滅するのを見て、不意にうららの胸に喜びが湧き上がった。それは、友と同じ目の高さで景色を見ることができる喜び。己の在るがままの姿、在るがままの世界を分かち合う喜び。いつもは遥か頭上から世界を見ている貴方と、今こうして海に在れるやなんて――。
 まるで、夢のよう。
 海は優しく二人を見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リリ・リーボウィッツ
●黒猫のネーベルを連れて、青緑のワンピースの水着で参加。
綺麗な海ですねー!
さあ、ネーベル。一緒に泳ぎましょー!
泳ぎましょー!
泳ぎましょー!
……断固拒否ですか。そーですか。

この辺りに生息しているファンタジックな亀さんたちについては事前に教授(魔法の鏡)に教えてもらいました。
あ! さっそく発見!
あれはウミネコガメですね。頭に猫耳状の突起があります。(突起が邪魔して甲羅に首を引っ込められない)
可愛いですねー。(言うほど可愛くない)

亀といえば(謎の連想)アレクサンドラさんのツルツル頭も意外と猫耳が似合いそうですよね。試しに着けてみては?
着けてみては?
着けてみては?
……断固拒否ですか。そーですか。





 あなたも一度くらいは受け取ったことがあるのではないだろうか。――真っ白な砂浜、ソーダゼリーのような波打際、海は遠くへ行くほど青が濃く、その上には澄み渡った青空が広がっている――そんな南国の写真があしらわれた暑中見舞いを。
 リリ・リーボウィッツ(CROWBAR CAT・f24245)の前に広がる風景も、まさしくそんな夏の便りにふさわしい絶景だった。
「綺麗な海ですねー!」
 ほのかに黄味がかった砂浜から淡いグリーンの浅瀬、そして沖合のブルーへと滑らかなグラデーションを描く南の海に、リリはありきたりの、しかしこれ以外に何を言えばいいのかと思うほど素直な感情をぶちまけた。どこぞの偉人ですら言っている。「エモさが天元突破したら人は語彙力ゼロになるものなのだ」と。多分。
 南国の景色に溶け込む鮮やかなブルーグリーンの水着を纏ったリリは、熱い砂浜からひんやりとした波の中へと足を移動させた。
 ――ちゃぷ。ちゃぽ。
 寄せては返す波の音に、可愛らしい合いの手が入る。
「わっ、ひんやり〜。とっても気持ちいいですー」
 ほぼ真上から降り注ぐ日差しの熱を、海がほどよく冷ましてくれる。波に浸した足元を見ると、砂の一粒一粒まで数えられそうにクリアだ。波の影が水底に落ちて揺らめいていた。
「さあ、ネーベル。一緒に泳ぎましょー!」
 くりっと元気に振り返って、リリは相棒の黒猫を呼んだ。しかし当のネーベルはガジュマルに似た木の影に引っ込んだまま出てこようとはしない。白い砂浜に黒い毛皮では、日光にモテモテすぎるのである。誰が進んでバーベキューになってやるものかと言いたげな半眼でネーベルがリリを睨んでいた。眩しそうに細めた目の中で瞳孔が針のように細くなっている 。その上、両の耳は「聞くべきことなど何ひとつない!」とばかりに後ろへそっくり返って、小さな頭のシルエットは鏃のようだった。
「一緒に泳ぎましょー!」
 拒絶の藪睨みを物ともせず、リリはさっきと同じ陽気さでネーベルを呼ぶ。
 黒猫はついとそっぽを向き、イライラした様子で尻尾を地面に叩きつける。
 たんたん、たん。
「泳ぎましょー!」
「ア゛ォーーーーーーーン!!」
 哀しいかな、大きさでネーベルはリリに勝てない。ずかずかと歩いてきた“飼い主”にひょいと持ち上げられたまま、四本の足の指をくわっと開いて抗った、が、どこにも蹴るべき敵がおらず、抵抗は不発に終わった。

「何やってんだ」
 仲良く喧嘩する二人(?)の後ろから、呆れたような声がした。「あ」と、リリが身体を捻って聞き覚えのある声の主を振り返る。
「アレクサンドラさ――いたっ」
「ニ゛ャッ!」
 その隙を見逃すことなく、ネーベルがリリの腕を蹴って脱出を図った。が、背後に現れたアレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)に軽々とキャッチされてあっという間にリリの腕の中へ戻されてしまう。短い逃避行であった。
「旅先ではペットにリードをつけておけ。はぐれたら連れて帰れないぞ」
 ネーベルのことをただの黒猫だと思っているアレクサンドラは、飼い主に脱走防止の心得を説く。――本当は、リリに憑依しているオウガの分身なのだが。耳の間や喉を撫でられながら、ネーベルはとりあえずただの猫のふりを決め込んだ。リリも、特に頓着せず「そうですね」とだけ返した。
「アレクサンドラさんは、もうカメさんたちには会いましたかー?」
 ピク、と片眉を上げて、アレクサンドラはリリを見る。本名である「アレクサンドラ」は、実は女性名である。故にこの中年男はその名で呼ばれることを好んでいないようであったが――、いちいちそれをあげつらうほど若くもない。そんなわけで、一応表情筋で抗議をしてみせるに留めたらしい。
「ああ。朝のうちに一本潜って、ウミガメのクリーニングステーションに行ってきた」
 自然界の生き物の身体には、小さな寄生虫が巣食っていることがほとんどだ。人間であれば予防や治療でそれらを取り除くのだが、野生動物にはそのような医療手段がない。しかし、そういった寄生虫を主食にしている生き物も存在するのが自然界でもある。ワニが大きく口を開けて鳥たちを招き入れるのは、口内のメンテナンスをしてもらうためだ。海の中にも“掃除屋”が活躍する場所があり、様々な生き物が身体をきれいにするためにそこを訪れる。そういった場所は『クリーニングステーション』と呼ばれ、サメやマンタ、そしてウミガメといった生き物たちと遭遇する可能性が高いスポットとして、マリンレジャーでは人気があるのだ。
「甲羅が光る種類のカメがいたぞ」
「へー! それはホタルウミガメですね!」
「よく知ってるな」
 即座にカメの名前を挙げるリリに、アレクサンドラは感心してみせた。
「ここに来る前に、教授に教えてもらいましたから!」
 えっへん、とリリは胸を張って応える。“教授”と呼ばれて差し出されたものは、猫耳がデザインされた手鏡だった。
「教授は、いろんな世界のことを知っている魔法の鏡なんですよー」
 他にも様々な種類のウミガメがいるのだと、リリは夢中になって喋った。中でも彼女のお気に入りはウミネコガメというカメらしい。猫なのか鳥なのか亀なのか、大変紛らわしい名前である。最後にカメがくるなら、やはりカメなのだろう。手鏡に映されたその姿は確かにウミガメの一種であったが、お世辞にも「可愛い」とは言い難い。しかしリリはしきりに「可愛いですねー」と頰を緩めている。
 ウミネコガメの頭部には三角形の突起が二つあり、それが確かに猫耳のようにも見える。しかしその突起のせいで彼らはカメのくせに甲羅に首を引っ込めることができないのだという。なんとも不器用なカメである。急所を守るよりも猫耳を優先させて進化してきたということは、その猫耳になんらかの生存的有利があるはずなのだが、これが何の役に立っているのかは未だに解明されていないようだ。
 きっとこの娘はスマホのカバーも猫耳付きなんだろうな、と思いながらアレクサンドラが海へ目を遣ったそのとき、波間から小さな一対の三角形が姿を現しているのが見えた。
「おい、いたぞ」
「えっ? ――あっ、本当ですー! いました、いましたー!」
 指差す方向へ一直線に駆け出すリリを、アレクサンドラは「待て待て」と引き留める。
「そのまま行く奴があるか。用意した道具は使うもんだ」
 差し出されたシュノーケル付きのマスクとフィンをリリが受け取り装備すると、同じく準備万端になったアレクサンドラもゴーサインの代わりに親指を立てた。
「――……」
「どうした」
「アレクサンドラさんのツルツル頭も、意外と猫耳が似合いそうですよね。あのカメさんたちみたいに」
 ――いったいどういう連想なのか。若い娘の思考回路はわからん。マスクの中で片眉を上げて、どう返したものか数秒迷っていると、リリは更に圧してきた。
「試しに着けてみては?」
「――行くぞ」
 アレクサンドラは応えないことに決めた。よくわからない問いは無視するに限る。
「着けてみては?」
 ざぶざぶと海に入り、腰ほどの深さになったところでフィンを足に装着する。
「着けてみては?」
 とぷん。エメラルドグリーンの世界に入ってしまえば水の外の音は聞こえない。
「可愛いと思うんですけどねー」
 粘るのを諦めて、リリもウミネコガメたちに挨拶するべく海の中へと潜る。
 静かになった海辺で黒猫がにゃあんと鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

ん?海の中か
大丈夫だ、呼吸出来る海ならばもう慣れ…。…出来んだと…?
そう肩を揺らせばウェットスーツにボンベの装備を始めよう
…宵…本体は陸に保管してきたな…?
手を引かれ海に向かうも、宵の言葉や繋いだ手、そして導かれる様に宵の指す先へ視線を向ける度に初めて見る素晴らしい景色が目に飛び込んで来れば緊張も和らぎ思わず口元を緩めながら宵を振り返ろう
海の中とはいつ見ても不思議な物だな…!
そう笑みを交わしつつ頭上を添い泳ぐウミガメや魚達を見遣れば繋いだ手に力を込め身を寄せよう
お前が見せてくれなければこの美しい景色も見る事も無かったのだろう
楽園か…俺にとってはお前の隣がそう、なのやもしれんな


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

残念ながら呼吸できる海ではないようです、と小さく笑って
同じくタンクとウェットスーツなどを受け取れば装備して
大丈夫ですよ、僕がきみを導きますから
怖いことなどありません
ええ、本体はちゃんと置いてきましたので
さぁ行きましょうとかれの手を引き海へ潜りましょう

群れをなし泳ぐ魚たちの姿や
海底に生きるサンゴたちの姿を見れば
かれに指さして示しつつ海の中を進んでゆきます
かれのゴーグル越しのまなざしが喜色に満ちているのを見れば思わず微笑み
ええ、きみとともに見る海はいっそう美しく見えます

頭上を横切るウミガメを見上げれば、繋いだ手の先のかれに身を寄せ
ここが、海中の楽園なのかもしれませんね



⚫︎

「海の中? 大丈夫だ、任せろ」
と、パートナーが夏の太陽のごとく頼もしい笑顔を見せたのは、どのタイミングであっただろうか。グリモアベースを出立する前? ――いや、島に到着してすぐのことだったような気もする。今回行く海は水中で呼吸できない海なのだと伝えると、彼はひどくショックを受けたような顔をしていたが、どちらの表情にも甲乙つけがたい魅力があった。
「ふふ」
 逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は自分だけが閲覧できる“心の秘蔵アルバム”に、また新しいページを追加した。
「どうした、宵。何か面白いものでもあったか」
 その背後から声をかけてきたのは、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)――宵の秘蔵アルバムにいくつもの表情や姿を焼き付けられた当人である。
「――いえ、なにも」
 おっと、いけない。これはぼくだけの宝物ですから。宵はサッといつもの穏やかな笑みを作って、ザッフィーロを振り返った。
 ゴトン、と重たそうな音を立てて、ザッフィーロは呼吸ガスを充填したタンクを運んできたところだった。ウェットスーツを下半身だけ着用して、上半身をエプロンのように身体の前側に垂らしている。普段あまり肌を見せない服装で過ごしているだけに、露わになった褐色の胸板が妙に気恥ずかしく思えた。平静を装いながらもそれとなく直視を避けてしまう宵に気づかないまま、ザッフィーロは「そうか」と答えた。そして独り言のようにぽつりと続ける。
「しかし、だいびんぐの装備とはかくも重いものなのだな。これで海の中を自由に泳げるのだから、不思議だ」
 ザッフィーロがぺちんと叩いた鉄製のタンクは、重さが16kg前後ある。幼い子供1人分を背負うことになる。しかもダイバーが装備するのはこれだけではない。BCDと呼ばれるベストのような機材と、そしてさらには金属製のオモリを体重に応じて着ける。ここまでしてようやく人間の身体は海の中で安定したバランスを保てるというわけだ。
「ええ。そうやってまで深い海の世界を覗きに行こうとする人間の好奇心も、目を見張るものがありますね」
 宵もザッフィーロも、元々は人が生み出した道具に宿った神である。故にかつての彼らにとって移動とは自力で行うものではなく、人の手によって運搬されるのが常だった。“一度落ちたら戻れない”ような場所にわざわざ立ち入るという行為は、彼らにとって怖れの対象であり、同時に好奇心の対象でもあった。
「……宵、本体はちゃんと保管してあるな?」
 ふと、不安になったザッフィーロが念を押す。ヤドリガミの肉体は仮初のものだから、今の二人に万一のことがあったとしても心配はない。ただし本体――かつての姿であった物に何かが起これば非常事態だ。うっかり海の旅に携行して落としでもしたら、大変である。
「大丈夫ですよ。しっかりと、安全な場所に」
 BCDにタンクをセットしながら宵が答えた。貴重品として確かなところへ預けたから、間違いはないだろう。
 午前中に受けたレクチャーの内容を思い出しながら、ひとつひとつ入念にチェックする。見慣れない道具ばかりだから覚えるのに骨が折れるが、こうして自分の力で準備を整えるというのはなかなかに面白い。隣ではザッフィーロが同じように機材の最終チェックを行なっている。高くなった太陽に照らされて、蒼い髪の先から汗が滴り落ちた。

 ざく、ざく。――ちゃぷ。
 細かい砂が小石に変わり、そして波に洗われる。砂礫を踏みしめる音が水音に変わってしばらくすると、ウェットスーツの手首や足首からひんやりとした海水が侵入してきた。重装備と昼下がりの気温で火照った身体にほどよい刺激が走る。
 水面が腰から上、そして背中へと上がっていく頃になれば、次第にタンクの重さも感じられなくなってきていた。
「――大丈夫、怖いことなどありません」
 ほんのわずか、繋いだ手に力が入ったことに気づいて、宵が振り向いた。海の深さは肩ほどまでに至り、海面の下では予想以上に波が揺れていた。しっかりと重心を落として立っていなければ、大の男でもあっさりと流されてしまいそうになる。
 去年は小舟の上で波の上を行くのにも不安そうだった、きみ。今年は手を取り合って、海の中を飛ぶのだ。踏み込むのが怖くて、どきどきして、惹かれてやまない。青い世界は、まるできみそのもの。
 ザッフィーロは小さく頷き返して、首に掛けていたマスクを顔に着けた。飯盒のような形のマスクは鼻と目を覆い、海水から顔面の粘膜を守ってくれる。と同時に、外界からシャットアウトされたかのような孤独感も生んだ。力強く握り返された手の感触は確かにあるのに、なぜか宵を遠くに感じてしまう。
「さあ、行きましょう」
 そう言って、宵はレギュレーターを口に咥えて波の下へと潜った。
「――よし」
 ザッフィーロも、意を決して宵の後を追う。
 水中に潜ると、水の上の世界がやたらと鮮やかであったことに気づく。水面の天井は陽射しを受けてきらきら輝き、水の外の景色を断片的に映している。そして水底へ視線を移せば、海の中も負けずに鮮やかな色に満ちていることを知るのだ。浅い場所にいる魚は白い身体のものが多いが、少しばかり奥へ進めば黄色と黒の縞模様をした蝶のような魚がいる。注意深く脇を見れば、岩場の影から小さな赤い魚の群れがこちらの様子を窺っている。
 その愛らしい姿に、ザッフィーロは思わず目を奪われた。先を行く宵の手を引いて呼び止め、小魚の群れを指差して示す。宵も、マスクの奥のザッフィーロの瞳が少年のように輝いているのを見て、目を細めた。岩にしがみついてしばらくの間、二人は小さな生き物たちの暮らしぶりを観察した。一度目を留めてみればあちらこちらにエビや魚の姿があり、波の下は思いのほか賑やかな“都市”だった。
(では、もう少し沖へ行きましょう)
 青の濃くなる方を指差す宵に頷いて、ザッフィーロも名残惜しげに水底の住人たちへ別れを告げた。
 身体を前に倒してバランスをとりながら、ゆったりと脚を動かしてフィンで水を蹴る。蹴った分だけ推進力が生まれ、身体を波打たせるごとにぐいと進むのが面白くなってきた。深くなるにつれて痛む鼓膜にかかる圧を丁寧に抜き、腕に着けたダイブコンピュータで現在の水深を確認する。深さは十メートル。見上げれば天井は遥か上だ。しかも足の下も青い水。底の岩場も目視できるが、もう何メートルか潜降しなければ触れることができないだろう。
――こぽこぽこぽこぽ、こぽこぽこぽ。
 水の流れる音と、エアーの音。そして、シュー、と、ゆったりした呼吸の音が響く。
 二人の影から吐き出される気泡の塊が上へ上へと立ち昇り、いくつもの空気の柱が生まれては消えてゆく。
(海の中とは、いつ見ても不思議なものだな……!)
 いつしか恐怖心を忘れ、グランブルーの中を泳ぐサファイアの青年は心を躍らせた。鮮やかな色彩も、不思議な形の生き物たちも、不規則なリズムで身体を揺らす水の流れも、何もかもが面白い。彼にとって、海が「落ちたら二度と這い上がれない場所」でなくなる日も、そう遠くないのだろう。あんなに高いところにある水面も、今は不安を煽る存在ではない。
 ――と、外から差し込む光を丸い影が横切った。
 新しい世界への一歩を祝福するかのように、悠然と。丸い甲羅から伸びた翼をはためかせて、海の天使が二人の頭上を泳いでいる。
(宵、見ろ)
 繋いだ手に力を籠めれば、宵もウミガメの姿に気づいて水面を見上げる。そうして、ザッフィーロの身体にそっと寄り添った。
 ぴたりと身体をくっつけると、今度はザッフィがなにやらもぞもぞと動いている。機材にトラブルでもあっただろうか、と心配げに覗き込むが、彼が探していたのは水中用のノートだった。幼児向けの玩具と同様に、磁石と砂鉄で白い盤面に文字が書けるようになっている。ノートに紐で繋がれたペンでザッフィーロが手早く書いて見せたのは、
『Paradiso』
 それを見て、宵はザッフィーロのBCDにこてんと頭を乗せた。
(ええ、ええ。――きみと共に在る。ここが、海中の楽園なのかもしれませんね)

 二人の周りを魚の群れが通り過ぎた。
 エアー残量は未だ十分。さあ、天使を追って、いましばらく青の海を飛んでゆこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月23日


挿絵イラスト