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迷宮災厄戦⑪〜枯樹生華ならずとも咲く花の名を

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●真実を告げる鏡の間
「教えてちょうだい、『真実の鏡』。今、この戦場に来ている猟兵達の位置を」
 その声は冷ややかな声だった。
 誰かのために何かを成そうとして、その誰かに裏切られた過去。何もかも奪われ、誹られ、謂れのない罪で痛めつけられた過去。
 そのどれもが悔恨にまみれていた。
 何故、自分が誰かの身代わりになろうとしたのか。
 何故、自分が全ての罪をかぶろうと思ったのか。
 何故、自分には力がなかったのか。

「……何もかも今更だけれど。私が悪かったのよ、きっと。タイミングも悪かったし、運も悪かった。けれど、心の何処かでこう思っていたのね」
 声の主、枯樹死華のアリス『エルヴィラ』は独白する。誰に届くわけでもない。
 あの時も誰にも届かなかった言葉だから、これはただの独り言だ。
「誰かたすけてくれるんじゃないかって。私は魔女じゃないって。誰かがそう言ってくれるんじゃないかって。でも、よくわかったわ。人間誰だって自分がかわいいもの。あんな痛い思いを誰かにさせるなんて、私はできない」

 だから、誰も助けてはくれなかったのだ。
 謂れのない魔女の嫌疑を掛けられた時も、誰かが自分を弁護してくれるのではないかと期待していたのだ。だから死んでしまった。
「だから、『真実の鏡』。教えてちょうだい。私という苦難を前にして、猟兵達は立ち向かってくるのかを。本当に困難を乗り越えることがどういうことなのかを」
 枯樹死華のアリス『エルヴィラ』は鏡を見据える。

 此処は真実を告げる鏡の間。
 問いかけに真実を持って応える『真実の鏡』が無数に点在する不思議の国。待ち受けるオウガ、枯樹死華のアリス『エルヴィラ』は、乗り越えられなかった困難の体現者として、猟兵の前に立ちふさがるのだった―――。

●迷宮災厄戦
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。此度の戦場は『真実を告げる鏡の間』。かつてオウガ・オリジンに戯れに殺された、かつての忠臣『鏡の女王』の怨念籠もった国です」
 迷宮災厄戦の推移は順調のようだった。
 すでに2箇所の戦場は猟兵に寄って制圧され、次々と戦いに赴くことのできる戦場が増えてきている。『真実を告げる鏡の間』もまた、そのうちの一つであった。

 あちこちに『真実の鏡』と呼ばれる鏡が点在している不思議の国が、今回猟兵達が赴く戦いの場である。
「この『真実の鏡』は質問すると『この不思議の国内部の事』限定で何でも答えてくれるそうなのです。この場に存在する強力なオウガ……枯樹死華のアリス『エルヴィラ』は、これを利用して皆さんの正確な位置を把握し、襲ってきます」
 それが事実であるとすれば、猟兵たちにとって、相当な不利な状況である。
 それこそ一方的に攻撃される、一方的に手の内を覗かれるということに変わりないからだ。敵よりも先んじて情報を得るということは、それだけ有利な状況を作り出せる。

「ですが、この『真実の鏡』は皆さんからの質問にも答えてくれます。こちらも適切な質問によって有利を確保しましょう」
 ナイアルテは、そう言って頭を下げる。
 僅かに表情が陰るようであったのは、何故だろうか。
「この場に存在しているオウガ……枯樹死華のアリス『エルヴィラ』は、かつていわれなき罪によって裁判にかけられ、拷問の末に亡くなった絶望の国のアリスです。今はオウガとなってしまって、取り返しのつかないオウガとなっています……」
 オウガであるがゆえに倒す以外の道はない。
 それはわかっている。この情報が猟兵達の躊躇いのもとになってしまうことも。けれど、誰からも何も知られないままに骸の海へと還ってしまうのは、勝手なこととは言え、同情に値する。

「これ以上彼女が過ちを繰り返してしまう前にどうか、彼女を骸の海へ」
 それだけ伝えてナイアルテは再び頭を下げた。
 絶望の果にオウガとなってしまうのであるとするならば、かつての絶望の国アリスは、どこまでも報われない。
 それ故にナイアルテは、猟兵たちに託す。
 戦わなければ生きることはできない。けれど、戦うだけではない強さもまた、必ず存在するのだと信じて―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『迷宮災厄戦』の戦争シナリオとなります。

 真実を告げる間にて、『真実の鏡』を利用して襲いくるオウガ、枯樹死華のアリス『エルヴィラ』を打倒しましょう。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……鏡に有効な質問をする。

 ※『真実の鏡』は敵の位置や死角、ユーベルコードの弱点など、この不思議の国の内部にあるものの情報ならばなんでも答えてくれます。
 ですが、猟兵個人のセンシティブな質問は避けてください(胸の大きさや身長を聞くなど)。

 それでは、迷宮災厄戦を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』

POW   :    魔女殺し
【猛毒の呪詛】を籠めた【マンチニールの果実の投擲】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    狼殺し
【スナバコノキの実の破裂】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【高速でまき散らされる種子】で攻撃する。
WIZ   :    悪魔殺し
自身の装備武器を無数の【ゼラニウム】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:とのと

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大宝寺・風蘭です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

佐伯・晶
こちらの位置を把握されるのは面倒だね
鏡には敵が今籠の中に持っている
スナバコノキの数を聞いておこう

狼殺しで飛んできた種子は
神気で時間を停めて防御
そのまま空中に固定しておこう

移動しつつ予め聞いておいた数を防いだら
ガトリングガンによる範囲攻撃で反撃
固定されている種子にもわざと当てるよ

ある程度の種子に運動エネルギーが蓄積された時点で
固定を解除して種の散弾をお返ししようか

もちろん自分の方に飛んでこないように
射撃方向や位置に気を付けて立ち回っておくよ

ダメージを負ったところで
石から創った使い魔に石化させて無力化
とどめは後から来る仲間に任せて
動けない間にここを通り抜けよう
オウガ・オリジンを倒すのが目的だからね



「『真実の鏡』よ、教えてちょうだい」
 その声は冷たく、冷ややかだった。
 何もかも諦めているからこその俯瞰した瞳。問いかけた『真実の鏡』が示すのは、一人の女性の姿。
 青い瞳に金色の髪を束ねた女性―――佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の姿がそこにはあった。
 ここは『真実を告げる間』にある一つの鏡の前。
 この不思議の国において、存在するもの全てに対する質問に真実で持って応える『真実の鏡』。それを利用して、オウガ、枯樹死華のアリス『エルヴィラ』はバスケットから一つの実を取り出す。
 スナバコノキ。
 それは手榴弾の如く破裂し、種を凄まじ速度でばら撒くエルヴィラのユーベルコード。死せる時にはなかった力だ。

 もしも、この力があったのならば、自分は拷問の末に死ぬことはなかったかもしれない。魔女と誹られることはあったとしても、生命だけはつなげたかもし得ない。
 その夢想はどれもが手遅れであった。
 なぜなら、彼女がオウガとして手に入れた力は、己が絶望しなければ得ることなどできなかったのだから。

「こちらの位置を把握されるのは面倒だね……もう補足されてるんだろうし……『真実の鏡』よ」
 晶は、この不思議の国である『真実を告げる間』に足を踏み入れてから感じる視線ような、じっとりとした感覚を覚えていた。
 背筋を睨めつけられているような、そんな不快な感触。これがグリモア猟兵から伝えられたところに寄る、『真実の鏡』を利用しているオウガの視線であることは明白だった。

 そして、晶がもまた無数に点在する『真実の鏡』の前にて、問いかける。
「彼女が持つスナバコノキの数を教えて」
 その問いかけに『真実の鏡』の鏡面が歪む。そこにあったのは、オウガ、エルヴィラであった。
 腕に抱えるようにしたバスケットの中から取り出したスナバコノキの実。
『スナバコノキの実は、108個。うち、一度の発動で放たれるのは10個』
 それが問いかけに対する答えだった。
 晶にとっては、それだけ十分であった。必ずスナバコノキの実は自分を狙ってくる。狙ってくるのであれば、それにどう対処するのか、彼女の中ではもう定まっていた。

 駆け出す。
 今は彼女にかまってはいられない。迷宮災厄戦。その目的はオブリビオン・フォーミュラであるオウガ・オリジンの撃破だ。
 だからこそ、晶はその道筋を付けるための戦場を駆け抜けている。
「邪神の神気で―――!」
 そんな彼女の頭上に放り投げられるスナバコノキの実。視線を巡らせる。ざっと視認しただけで、その実の総数は『真実の鏡』の告げた数と一致する。
 ならば、と晶は開放した邪神のオーラでもって、権能である固定の力を発揮する。空中で固定されるスナバコノキの実。破裂寸前といったように膨れ上がった状態で空中に固定された実を見据え、携行型ガトリングガンを構える。

「塵も積もれば山となる、ってね―――!」
 ユーベルコード、邪神の手遊び(スタティック・アクセラレーター)が発動する。神気によって固定されたスナバコノキの実へと次々と放たれたガトリングガンの弾丸がぶつかる。
 空中で固定されたスナバコノキの実は、その場から動くことはないが、それでも徐々に弾丸がぶつかった運動エネルギーは蓄積されていく。
 それは炸裂する手榴弾よりを遥かに越える運動エネルギーとなって、スナバコノキの実へと蓄積される。

「さあ、これがお返しだよ! 解除!」
 固定されたスナバコノキの実が一斉に弾ける。
 ガトリングガンの弾丸によって晶へと向かわぬように運動エネルギーをコントロールしていたおかげで、その弾丸の如きスナバコノキの種子が次々と放り投げたエルヴィラへと向かう。
 悲鳴が聞こえる。その方角へと一気に駆け出す。

「猟兵―――! 私の力を利用した……!?」
 視線と視線が絡まる。
 運命にもてあそばれたというのであれば、晶とエルヴィラもまた似たような境遇であったのかもしれない。
 誰かの思惑に自分の身が巻き込まれる。自分ではどうしようもない力に翻弄される運命というのであれば、エルヴィラは巻き込まれて絶望した生命。
 晶は……猟兵としての力を得た生命。
 そこに何の違いがったのかは、運命しか知らないことだろう。

「悪いけれど、君にかまっている暇はないんだ」
 手をのばす。同時に石から作り上げられた使い魔の牙がエルヴィラの足に噛み付く。じわりと石化が始まり、彼女の足をその場にとどめ続ける。
 時間稼ぎにしかならないだろう。
 トドメは後から来る猟兵に任せる。晶の目的は、目の前のオウガではない。この戦場を抜けた先に在るオウガ・オリジン。

 故に、晶はエルヴィラの視線を受け流し、そのまま戦場を駆け抜けていったのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

姫川・芙美子
これも正義の戦いなら、私の成すべき事なのでしょうね。
全力を尽くしましょう。

鏡に質問。
「エルヴィラの受けた無実の罪、その真相と真犯人は?」
彼女との戦いの際は、【百鬼夜行】使用。各装備の封印を解き強化。
「黒いセーラー服」を無数の護符に代え、【結界術】で防御結界を作成、相手の攻撃に対抗します。
「鬼髪」を伸ばし、締め付けて【捕縛】しつつ、先ほど知った真相を教えましょう。
それで慰めになるかは分かりません。苦しめるだけかも知れません。どちらにしても心に動揺が生まれればそれでよしとしましょう。
巨大化した「鬼手」でなぎ払い【精神攻撃】。心の防壁を【鎧無視攻撃】します。
「……ごめんなさい」と、思わず呟きます。



 迷宮災厄戦、その戦場となった『真実を告げる間』に石の砕ける音が響き渡る。
 それは先行した猟兵に寄る足止めの攻撃、石化を受けて動きを封じられた、枯樹死華のアリス『エルヴィラ』の足が立てる音であった。
 石化は解かれ、その薄皮をはぐようにして石化の名残である石が散らばる。
「わたしは何も間違っていなかった。わたしの行いに間違いがあったのだとすれば、誰かに頼ろうという考えがあったこと。生まれ落ちる時は大勢に囲まれていたのだとしても、人間は死ぬ時は一人で死ぬしかないのだとわからなかったわたしの落ち度」

 その声はなんの感情も乗っていなかった。あるのはただの悔恨。激情を駆り立てるような憤怒もなければ、悲しみに暮れる悲嘆もなかった。
 ただ、ただ、淡白なまでに自身の過去、いわれなき罪に寄る拷問の末の死を思うだけであった。
「『真実の鏡』よ。次は、どなた? 近づいていくる猟兵はどこにいるの?」
 問いかける声は、もはやただの作業だ。
 真実を知るつもりはない。どうして、自分がいわれなき罪に問われたのかすらどうでもいい。そうでなければ、このひび割れた心は散り散りになってしまう。
『真実の鏡』が映し出すのは、漆黒の髪と瞳を持つ、古風な学生服を纏った少女の姿であった。

「これも正義の戦いなら、私の成すべきことなのでしょうね……全力を尽くしましょう」
 姫川・芙美子(鬼子・f28908)は静かに『真実の鏡』へと歩み寄る。
 問いかける問いを口にするのを、一瞬ためらう。そこに救いはあるのかと。葛藤が、彼女の開いた口から言葉を紡ぐのをためらわせた。
 けれど、彼女の行いは、常に誰かのために。『そうあるべき』という強迫観念の前には、彼女の躊躇いは意味をなさなかった。
「エルヴィラの受けた無実の罪、その真相と真犯人は?」
 それは過去を暴くことにほかならない。
 果たして真相を知ることが、エルヴィラのためになるのか。慰めになるのかわからない。苦しめるだけかもしれない。

 けれど。

『魔女裁判の生贄。無実であるエルヴィラを魔女と偽ったのは―――』

 息を呑む。
 けれど、頭を振って芙美子は、ユーベルコードを発動する。
 百鬼夜行(ヒャッキヤギョウ)。それは彼女の身に纏う黒いセーラー服を無数の護符に代える。妖怪『蝶化身』の封印されたそれは、全てが護符の集まったものである。
 その封印を時、宙へと舞い上がる護符による結界術が、堅牢なる防御結界となって、スナバコノキの弾丸のごとく猛烈なる種子の弾幕から彼女を護る。
 凄まじい勢いと数の種子の弾丸めいた攻撃は、護符を次々と傷つけていく。保つのかと心が揺らぐのは、知ってしまった真実故。

「―――あなたの、過去を知りました。あなたは、無実の罪で魔女へと仕立て上げられたのですね……あなたを、魔女だと差し出したのは、村の住人全て。あなた以外の誰もが、あなたを魔女だと証言した」
 彼女の言葉にスナバコノキの種子の暴風雨がピタリと止む。
 それはエルヴィラの精神的動揺を示していた。鬼の封印された髪の毛が一気に伸び、エルヴィラの体を縛り付ける。

「―――そう。そうよね。知っていたわ。けれど、仕方のないことなのよ。誰が言い出したかなんて、詮無きこと。けれど、期待してしまったのよ。誰かが間違いだったって、そんなふうに言ってくれるのを。誰かの心に後悔が訪れるのではないかと」
 けれど、それが訪れることがなかったからこそ、彼女は絶望の国に堕ちた。オウガとなった。

「―――封印限定解除」
 芙美子は、その腕に宿り封印された『鬼』の妖力を解放する。
 それは肉体を傷つけるための武器ではない。相対する者の精神のみを打ち砕く拳。エルヴィラの心を覆うのが鎧なのだとすれば、それは彼女の精神的な防壁なのだろう。
 振るわれた拳がエルヴィラの心の鎧をすり抜けるようにして、その精神に打撃を与える。
「……ごめんなさい」
『鬼手』による拳の一撃が、エルヴィラの体を吹き飛ばす。
 思わずつぶやいた言葉は、誰のためか。
 精神的動揺に付け入るしかなかったからか。それとも、その心を癒やすことができなかったからか。

 その答えは、芙美子の心の中にだけ、存在し、他の誰にも知られることはなかった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋山・軍犬
じゃあ鏡に質問

『エルヴィラに救いはあるのか?』

Q:この質問で何が有利に?
A:自分のテンションが…上がる!

そもそもオブリビオンになってなお
『あんな痛い思いを誰かにさせるなんて、私はできない』
とか言ってる子よ、救いがあるならテンション上がるでしょ

そして挑みたくない苦難からは逃げるが
挑みたい苦難にはヤバくても挑むのが
馬鹿な男という生物なのだ

ちなみに鏡が無理と言っても挑みまっす
はい、馬鹿で~す

という訳で
そんな思いを込めた【指定UC】で分かるまで殴りあいます
そんな気合いの入ってないしかめっ面で自分を如何にか
出来ると思ってんの?
肉弾戦闘系アーティストのフードファイター舐めんな
生命力と気合いは売るほどあんぞ



 告げること言葉に偽りはない。
 その心を鎧う、かつてのエルヴィラの矜持は拳の一撃に寄って砕かれた。
 けれど、それは枯樹死華のアリス『エルヴィラ』の矜持ではない。その矜持は過去のもの。過去より滲み出た骸の海より出る過去化身たる、オウガたる彼女には意味のないものであった。
 けれど、その一撃は、その言葉は、その真相は、彼女の心を大きく不安定にさせたことだろう。
 吹き飛ばされた先にある『真実の鏡』により掛かるようにして立ち上がる姿は、弱々しいものであった。けれど、その心が何一つ折れていないこともまた事実。
「『真実の鏡』よ……私は困難の体現者……なら、猟兵は、どこ?」
 鏡が歪む。
 その鏡面に移ったのは、緑色のミリタリーファッションに身を包んだ秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)の姿であった。

「じゃあ鏡に質問。『エルヴィラに救いはあるのか?」
 その質問は、軍犬にとって一見すると意味をなさない質問であったかもしれない。そうしている間にも彼目掛けて放たれる猛毒の呪詛籠められたマンチニールの実は迫っている。
 猟兵たる己が有利に立つための質問をするのであれば、その質問は意味をなさなかったことだろう。
 彼女の救い。
 それがどれだけの意味を成すのか誰にもわからない。
 そして、得られた答えもまた―――。

『救いはない』

 簡潔な、それでいて無情なる言葉だった。
 いわれなき罪。誰かのためにと願った、誰かにすでに裏切られた末路であるのだから、そこに救いはない。あるのは残酷なまでに絶望へと叩き落されるエルヴィラの結末たる過去しかない。
 軍犬は、もしかしたら、という思いがあったのだ。

『あんな痛い思いを誰かにさせるなんて、私にはできない』

 その言葉があったからこそ、彼はその質問をした。救いがあって欲しいと願ったのだ。けれど、真実を映し出す鏡が告げる真実が常にプラスに働くことはない。
 けれど、それで軍犬の心が萎えることはない。
 何故、こんな質問をしたのかと問われれば、彼はこう応えるだろう。
「自分のテンションが……上がる!」
 と。己のためじゃない。誰かのためにこそ戦えるのであれば、己の心はどこまでも燃え上がっていく。
 誰もが目を背ける困難であったのだとしても、『真実の鏡』が告げる『真実』が『救いがない』というのであったとしても。

 それでも軍犬は立ち向かう。挑みたい。『救いがない』という『真実』に挑むのが、馬鹿な男という生物なのだ。
『それは無理である』
 迫るマンチニールの実。その猛毒の呪詛が当たるだけで、その身は焼け爛れるような痛みに襲われるだろう。『真実の鏡』が告げる。無理であると、無駄であると。
「無理であろうが、なんであろうが……はい、馬鹿で~すって笑って突っ込むのが男、軍犬っすよ!」
 駆け出す。頬をかすめるマンチニールの実。
 投擲された方角がわかるのであれば、一々『真実の鏡』に位置を問いかけることなどしない。
 そんな質問に意味はない。

「ユーベルコードが奇跡の力だと言うのなら……この程度の理不尽! ぶっ壊せえぇッッ!!」
 駆け抜け、視線の先にしかめっ面をするエルヴィラの姿を捉える。
 心が叫ぶ。もう止められることは出来ない。何故ならば、彼はフードファイターだ。食事で得た癒やしと活力、そして真心が彼の足を止めない。
 マンチニールの猛毒の呪詛が彼の体を蝕んだところで、なんだというのだ。この痛みは痛みなんかじゃない。

「圧力拳!!」
 放たれる拳がエリヴィラの拳とぶつかる。単純で重い一撃。地形が変わるほどの拳の応酬が互いの拳を傷つける。
「わたしは、それでよかった。救われた生命があるのなら、それでいいと。けれど、わたし自身が願った思いは、それを汚す思いだから」
 その言葉に、痛むはずのない頬をかすめた傷が痛むのを軍犬は感じた。
 猛毒よりも何よりも、その言葉に痛みが走る。
「そんな気合の入ってないしかめっ面で自分を如何にかできると思ってんの? 肉弾戦闘系アーティストのフードファイター舐めんな―――!」

 放たれる拳がエルヴィラの真芯を捉える。
 その拳は肉体を傷つけない。その拳が砕くのは、自身の思いを汚れた思いだという、彼女のオウガになって歪んだ心を打ち砕く。
「生命力と気合は売るほど……! 誰かの痛みをと言うあんたの願いが汚れているわけなんてないっす!」
 放たれた拳が砕いた心の破片が霧散していくようだった。

「―――他の誰がなんて言おうとも、あんたは汚れているわけないっす! 過去に歪められた、その思いだけ、打ち砕くっす!」
 献身であったのだろう思いも。
 痛みに耐えられないという思いも。
 誰もが持っている思いだ。誰にだってあるものだ。だからこそ、誰かのために戦える者にこそ、強さは宿る。
 例え、死せるかもしれなくとも、過去の化身として歪められたとしても、人は負けない。負けるようにはできていない。

 オウガになった今でも、誰かの痛みのために、しかめっ面を浮かべて苦渋の顔をするエルヴィラにだからこそ、軍犬は笑ってほしいとその拳を振るったのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
優しいんだ。昔も、今も。
恨むのではなく、理解するなんて。
人間は弱いさ。本当にね。だから、正義と悪が必要なんだもの。

真実の鏡。エルヴィラが何処から来るのか教えて。
それだけ知っていればいい
あとは目を閉じ仁王立ちで感覚を研ぎ澄ますだけ。
真実の鏡が答えた位置にエルヴィラが来たか野生の勘で察知して、
その後は真正面から怪力出で突っ込むだけ
攻撃?激痛耐性・気合に覚悟、継戦能力で突破だよ
真正面から向き合って乗り越えてあげるよ
武器は使わない。真っ直ぐ言って右ストレート

知ってるよ。物語のようなヒーローはいない。
期待したって望んだって願ったって来ない時は来ない。
だから、そんなヒーローになるしかないんだ。自分自身が。



 人の心は、いつだって薄氷の上を踏むように危ういバランスの上に成り立つ壊れやすく傷つきやすいものである。
 だから、人はそれぞれに自分の心を両の手のひらで大切に抱えるようにして包み込んで人生という荒波を渡っていく。
 けれど、両手がふさがっていては誰かと手をつなぐことは出来ない。人と人との心の通い合いは、常に片手を開けて誰かの心に振れるということだ。
 けれど、誰かの心を守ろうとした時、人の手は両手で覆うとする。むき身になった自分の心を護るものはない。
 誰かのために何かを成すとはそういうことだ。自分の心が堕ちて砕けてしまうかもしれなくても、それでも誰かを守ろうとするからこそ、誰かのために戦えるものにこそ、尊いものが芽生える。

「優しんだ。昔も、今も。恨むのではなく、理解するなんて。人間は弱いさ。本当にね。だから、正義と悪が必要なんだもの」
 不思議の国『真実を告げる間』において、点在する『真実の鏡』の前に立つ、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)は独白する。
 人は弱い。そう理解する。誰の心にも弱さはある。それは悪と善が存在するように、表裏一体であり、互いになくてはならないものである。悪だけ、善だけが存在する心を持つものがいないように、人の心は常に天秤のようにどちらかに揺れ動く。

「『真実の鏡』。エルヴィラが何処から来るか教えて。それだけ知っていればいい」
 ライアにとって、必要なのはオウガの弱点であるとか、何処に居るかではない。必ずオウガであるのならば、この地に足を踏み入れた猟兵である自分のもとにやってくる。
 オウガ……オブリビオンとはそういうものだ。過去の化身である以上、猟兵とは決して相容れない存在だ。
 互いに滅ぼし合うしかない関係。ひと目見ればわかる。目の前に対峙するものが、己を滅ぼすものであると。
『五時の方向、3秒後に、マンチニールの実による狙撃』
 それは『真実の鏡』が告げる真実。くるりと体を翻すライア。仁王立ちで感覚を研ぎ澄ませいてたライアにとって、狙撃は有効な手段であった。

 猛毒の呪詛が籠められた一撃。
 それを受けてしまえば、ライアの体と言えど猛毒に寄って蝕まれタダではすまないだろう。これからも戦いが続き迷宮災厄戦において、猛毒の呪詛は耐え難い一撃であった。
 それを閉じていた目を見開いて、僅かに顔を傾けて躱す。
 風切り音がして、猛毒の呪詛籠められしマンチニールの実が地面へと突き刺さる。次の瞬間、ライアは駆け出していた。
 真正面から愚直に突っ込むライアに次々とマンチニールの実が突き刺さる。
 猛毒の呪詛が、ライアの体に駆け回っていく。
「―――ッ!」
 常人であれば、それだけでのたうち回るような激痛。けれど、ライアの足は些かも衰えずに駆ける。
 一歩踏み出すたびに猛毒の呪詛が暴れまわるようにして体の中を駆け回っていく。けれど、関係ない。痛みなど、呪詛など、今の彼女には関係ない。
 ユーベルコード、侵食加速:未到再起(エイユウニイマダイタラズ・イマダシネズ)。それは彼女が瀕死の傷を負ってもなお、魂が肉体を凌駕し、再び立ち上がる力として、その体に宿る。

「倒れてる暇なんてっ…ない!」
 真正面からの突進。
 あまりにも愚直過ぎる。けれど、それでもライアの瞳に捉える枯樹死華のアリス『エルヴィラ』の姿は悲壮感にあふれていた。
「なんで、止まらないの! 痛いでしょう! 痛いでしょうに! 止まって!」
 敵だと言うのに。互いが滅ぼし合う関係であるとわかっているのに。
 それでも他者の痛みに敏感なのは、生きていたからだ。誰かのために生きようとした証だからだ。

「知ってるよ。物語のようなヒーロはいない」
 駆け抜けたライアが振りかぶる拳。真っ直ぐに。ただひたすらに真っ直ぐに駆け抜け、拳がエルヴィラの頬を打つ。吹き飛ぶ軽い体。
 この拳がどれだけの意味を持つのかわからない。けれど、それでもと言わなければならない。
「期待したって、望んだって願ったって来ない時は来ない。だから―――」
 ライアの言葉は残酷なまでに現実的な言葉であった。
 正義の味方が誰しもが願う幻想の産物であるというのであれば、それはあまりにも酷な事実であったことだろう。
 それでも人は立ち上がらなければならない。

 己の信じるもののために。
 その正義を成すために。苦しくとも、痛みに喘ごうとも。
「そんなヒーローになるしかないんだ。自分自身が」
 ライアは宣言する。
 正義の味方が、ヒーローが幻想の産物であるというのならば、自分が現実のものとなろうと。
 誰かのための正義の味方になるために。倒れることなく戦う続けるのだと―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
ほう、「真実の鏡」とな
我にも真実を映し出す力はあるため少々親近感を覚えるな
とはいえ、我が力は幻術や変化を暴き真実の姿を映す物、この真実の鏡とは少々性質が異なるか

真実の鏡は猟兵の居場所を示しもするが、未来予知が出来るわけでは無い
あくまで今の位置がわかるだけであろう
なれば、こちらも敵の位置を真実の鏡より聞き出して
敵が近づいてきたら『鏡渡り』にて離れた鏡に移動すれば
敵の襲撃に対処は出来る
これほど鏡があるならば如何様にも移動出来よう

後は敵の攻撃の薄い場所を真実の鏡より聞き出して
鏡の中からの奇襲、またはオーラ防御の障壁を盾に花びらを突破
真朱神楽にて切り裂いてやろうぞ

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎



 不思議の国『真実を告げる間』。そこは、この国にあるものならば必ず真実を告げる『真実の鏡』が点在する地であった。
 そこかしこにある『不思議の鏡』は、その地の光景は不思議な魅力を醸し出していた。
 とある神社にて御神体として祀られていた破魔の神鏡を本体とするヤドリガミである天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)にとって、その光景は多少の親近感を持って迎えられた。
「ほう、『真実の鏡』とな。我にも真実を映し出す力はある故、似たもの同士のような感覚があるな……」
 とは言え、彼女の力は幻術や変化を暴き真実の姿を映す物である。この国に点在する『真実の鏡』とは少々性質が異なる。

 敵オウガである枯樹死華のアリス『エルヴィラ』もまた、この『真実の鏡』のちからを使って猟兵達の位置を探って奇襲をしかけてくる。
 ならば、これを同じように利用することこそが、この戦場における最適解であろう。
「―――なれば、こちらも敵の位置を聞き出すのが肝要。『真実の鏡』よ」
 百々の言葉に応えるように、『真実の鏡』の鏡面が揺らぐ。
 応える言葉に、思いの外接近を許していたことを知る百々。あくまで互いに位置が知れるということだけが、互いに与えられたルール。
 であるのならば、それは未来予知ではない。
 あくまで『質問した時に存在する位置』だけが真実であり、今、相手がどこにいるかを知るすべは、その都度鏡に問わなければならない。
 そこに一瞬であろうともタイムラグが存在するのであれば。

 神鏡のヤドリガミである百々にとって、攻撃を回避することなど造作もないことであった。
「鏡から鏡へ、鏡の世界を通じて渡れ」
 真実の鏡に触れ、その中へと、とぷりと入り込む百々。
 ユーベルコード、鏡渡り(カガミワタリ)。それは鏡と鏡がつながる鏡面世界へと移り進むユーベルコード。
 百々の居た場所をゼラニウムの花びらが掠める。それは散々に『真実の鏡』ごと砕いて進む恐るべき攻撃であった。
 
 だが、鏡面世界から次なる鏡へと移りでた百々にとって、その攻撃は無意味。
「鏡―――、鏡の猟兵だとでもいうの! 『真実の鏡』よ―――」
 エルヴィラの苛立つ声が響く。
 ゼラニウムの花びらが再び渦を巻き、百々の潜む鏡へと殺到する。しかし、それは一瞬遅い。
 すでに鏡でつながる鏡面世界から、次なる鏡へと移動していた百々が別の鏡から飛び出す。
「遅い!」
 吹き荒ぶゼラニウムの花弁を神気纏ったオーラが防壁となって防ぐ。花びらの嵐を突き進んで百々は構えたる朱色に塗られた薙刀を振るう。
 それはゼラニウムの花びらの中の舞うが如く振るわれる一撃。

 そこに憐れみはない。
 誰かのためにと言う者の生き死にがどのようなものであったとしても関係ない。エルヴィラの死は確かに無残で残酷なものであったことだろう。
 死した後であっても悔恨の念に囚われてしまうのもまた、絶望したが故だろう。
 だが、彼女は生きたのだ。
 生きている以上、死は必ず訪れる。彼女は彼女の矜持に準じた。
 それを哀れむことはない。

「眠れとは言わない。けれど、その身が、その心がオウガとして歪められることだけは許さない」
 放たれた一撃は違わず袈裟斬りにエルヴィラの体を切り裂く。
 その一撃を持って、人の助けとなり導くことを信条とする百々から贈る唯一の手向けであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大宝寺・風蘭
・鏡への質問
「エルヴィラはどこ?」

・因縁
かつてこの世界に召喚された際、たまたま居合わせて共闘した仲。自分の方が早く元の世界への扉を見つけたので、そこで別れていた。絶望する前の彼女は優しく強く、自力で元の世界に戻れただろうと信じて疑わなかったが。
「元の世界じゃもう処刑されてたッてか……戻れないわけだねぃ」

・戦闘
【望月】でモチズキを召喚し、頑張って盾になってもらう。
モチズキに攻撃はさせない。それは自分が負うべきモノと思うので。
肉薄して真正面から切り込み、刀身輝く木刀で斬りかかる。
「一緒に帰ろうって言えたら最高なんだけど……ゴメン」
救いにならなくとも、絶望の記憶の繰り返しを断てるのは自分だけだから。



「『真実の鏡』よ。エルヴィラはどこ?」
 大宝寺・風蘭(狂拳猫・f19776)はアバウトな性格をしている。自覚もある。だからというわけではないけれど、『真実の鏡』に対する質問もざっくりとしたものだった。
 オブリビオン―――過去の化身。オウガと成り果てた、かつて一度だけ共闘した仲。自分のほうが元の世界への扉を先に見つけたので、そこで別れていた。まだ、彼女は絶望していたようには思えなかった。
 強くて、優しくて。見ず知らずの自分を助けてくれた。だから安心していたのだ。自分が助かるのだから、彼女も大丈夫だろうと疑っていなかった。
 信じていたと言ってもいい。

『ねえ、元の世界に戻ったのならば、何をしたい? 何をしようと思う? きっとそれが生きる原動力になると思うから』

 その言葉はいつかの彼女の言葉だった。
 どんな思いであの言葉を自分に向けたのだろう。その言葉にどれだけ勇気づけられただろう。いつもいつも、誰かのために自分の身を粉にしてきたのだろう。
 記憶をなくしてしまう前も、記憶をなくしてからも。
「元の世界じゃもう処刑されてたッてか……戻れないわけだねぃ」
『真実の鏡』が告げる。
 枯樹死華のアリス『エルヴィラ』の所在を。

 また、彼女の言葉が蘇る。
『ここはとても困難に満ちているけれど、いつだってどこにだって活路はあるよ』
 己にはもうそれがないものであったとしても、彼女はそう告げたのだろう。

「―――そんじゃ頼んだかんね、モチズキ。食った分はちゃんと働いてよ……」
 手作りのずんだ餅を自身に憑依するオウガ―――望月(モチヅキ)へと与える。いくらでも食べればいい。そう思った。現れる己に憑依したオウガと、もう戻れないオウガ、エルヴィラが対峙する。
 
 再会の言葉はなかった。
 互いに互いが滅ぼし合う関係であるということは承知の上である。一度は互いに背中を預けた仲。けれど、今はもう違う。決定的に違ってしまっていた。
 オウガのモチズキがエルヴィラと風蘭との間に割り込むように盾となって、マンチニールの果実の投擲から護る。
「オウガといえど、猟兵に使役される程度の存在なら―――人肉を喰らわずに生きていけるのでしょうね。けれど、もう何もかも手遅れよ」
 猛毒の呪詛がモチズキの体へと駆け巡る。
 モチズキは憑依した風蘭との間に交わされた約束事を忠実に守っていた。

 モチズキには攻撃させない。盾となってがんばってもらう。それだけ。

「一緒に帰ろうって言えたら、最高なんだけど……」
 革命の意志が、彼女の心に灯る。
 それは弱々しい光だった。刀身の輝きが鈍い。木刀のように見える革命剣は、未だ、彼女の意志を反映しない。
 辛いのなら、モチズキに戦わせ続けることだってできただろう。
 けれど、これは風蘭自身が負うべきモノだ。他の誰にも譲れない。

 思い出す。
 彼女の言葉を、微笑みを、強さを。己のためじゃない。誰かのために何かをする。自己を顧みない。誰かの安寧のために、己の実を差し出す勇気を。
 そこにあったのは自己犠牲なんて生易しいものではない。
 どれだけの痛みがあったことだろう。
 途中で心折れてしまったことだろう。
 それでも、死しても尚残ったものは、誰かのためにという思いだけであった。
「己のために戦うものにこそ、生きる視覚が与えられるのよ。他の誰でもない。自分自身のために、自分が何をするのか。泣いたって、叫んだって、誰も助けてはくれない。人のために何かをすることは勝手だけれど、困難の前に人は一人では立ち向かえないほどに脆弱なのだから―――!」

 エルヴィラがモチズキを下す。
 マンチニールの果実の毒性は、呪詛。オウガの生命力を削りきって、地面にモチズキが倒れ落ちる。
 風蘭は、前を向いた。
 アバウトな性格だけれど、忘れてはならない。
「例え救いにならなくとも、アンタの絶望の記憶の繰り返しを立てるのは、アタシだけだから―――!」
 革命剣の刀身が輝く。
 何もかも反対のことを言うエルヴィラ。それは過去の化身たるオブリビオン、オウガへと成り果ててしまった彼女の過去の反転であったのかもしれない。
 何度も何度も味わってきたのだろう。
 己を苛む絶望の記憶を。

 せめて、それだけは断ち切らなければならない。もう何もかもが取り返しであったのだとしても。困難をねじ伏せるだけの力を今彼女が持っていたのだとしても。
 何もかも持っていなかったからこそ、誰かのために生命を投げ出せる彼女だったからこそ、風蘭は彼女に背中を預けたのだ。
「……ゴメン。けれど、ありがとう」
 あの時はありがとう。
 放たれる革命剣の一閃が、エルヴィラの体を切り裂く。
 救いはない。けれど、その一撃は、もう二度と骸の海から滲み出ることはないだろう。幾度、幾千もの絶望の記憶を繰り返すこともない。

 本当の意味で彼女は救われたのかも知れなかった。
 霧散し、消えていく枯樹死華のアリス『エルヴィラ』。伸ばした手が求めるのはなんであったのだろうか。
 救いか、希望か。それとも。
 消えていくエルヴィラを見送り、風蘭は呟く。

「枯樹生華ならずとも咲く花の名を……」
 彼女の真心が紡いだ希望は、風蘭に託され紡がれていく。
 繋がれた希望はいつの日にか大きな篝火となって世界を照らすだろう。その時また思い出す。
 エルヴィラというアリスの、誰かのためにと言う想いを―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月08日
宿敵 『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』 を撃破!


挿絵イラスト