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迷宮災厄戦⑦〜覇道の国の筋肉賛歌

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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「ふ、は、は、は、は!!!」
 その声は巨大な書架が立ち並ぶ図書館の国に響き渡っていた。
 その存在を隠す気が欠片もないのだろう声の主は、円形に並べられた書架が作る広場の中央で、仁王立ちの姿で高らかに哄笑を上げていた。
 赤いパンツにマントを羽織る、ボディビルダー的な体格を持つ男性……いや、オウガ。
「見るがいい、世界を統べる我輩の肉体をッ!」
 誰も見ていないというのに、堂々たる宣言を放ちながらポージングを決める。
 いや、一人それを見ている人物がいた。
「――ッ」
「見るがいい、万物を従える我輩の筋肉をッ!」
 モストマスキュラーからサイドチェストへ。眼前で行われる行為に涙目で震えるのは、年端もいかぬ少女であった。たった一人、その幼きオーディエンスへと向けられる、その笑顔は目映く輝いている。
 が、少女の2倍以上は優にある体格。3mにも届くばかりの巨体の発する威圧に少女は、ただ体を震わせ、――目を輝かせていた。
 始めこそ、恐怖に満ち満ちていたはずだが、何かしらの扉を開いてしまっている。
 迷い子たるアリスを満面の笑みで見下ろし、そして何処かへと視線を向けたそれは、高らかに叫ぶ。
「来るのだろう! 我が肉体を打倒せんと、この勲を汚さんと!! だがッ!! 我が肉体は屈さぬぞ!! それでも、我が肉体を砕くというのならばッ!!」
 バンッ! とその屈強な足が床を叩く。
 はずみで少女が床から跳ねて、転がった。
「ならば来いッ、兵どもよ! その肉体、ただでは壊さぬ。その蛮行、その悪戯、いかなる罪禍か。我が筋肉の禊にて思い知らせてくれよう!!」


「暑い、暑いなあ……」
 乱羽はややうんざりした様子でそうぼやいた。
「うん、……まあ、うん、全体的にこう、むさいというか、暑い相手だけど、……やることは、簡単!」
 どうにか気分を好転させようと声を張り上げた乱羽は、人差し指を掲げてこう言った。
「ぶん殴ってきて」
 シンプルである。
 ただ、このオウガはこの膨大な図書館に収められた世界征服に関するあらゆる歴史書・図鑑・ノウハウ本・自己啓発本などで強化されている。
 その為、ただ戦うだけでは、及ばす敗北を喫する事になるだろう。
「でも、この図書館には、その強化に負けない力がある『正義の書』も眠ってるんだって」
 条件を満たせば、その正義の書の強化を得られれば、同じ土俵に立つことが出来る。
 その条件とは。
「そのものずばり、派手に登場したり、きらっきらしたり、何かカッコよく弱者を守る! みたいな事言ってみたり、とにかく正義の味方っぽいことをするってこと!」
 そのノリで突っ込んでいって、裸の王様をぶん殴る。
「というわけ! それじゃあ――」
 あとよろしく! そう乱羽は言い放ち、逅リモアを起動させ、ようとして「あ、そうだ」と言い継いだ。
「女の子に何かしようって感じじゃないみたいだけど」
 むしろ観客としては、歓迎しているようにすら思えるが。
「あれはあれで変なトラウマになっちゃいそうだから、助けてあげてね」
 今度こそ、乱羽はグリモアを発動させたのだった。


オーガ
 VS筋肉、もとい裸の王様です。
 正義っぽいことを言って殴りかかるだけのシナリオです。

 好きにプレイングください。
 好きに書きます。

 断章は特にありません。
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第1章 ボス戦 『メガトンキング・ネイキッド』

POW   :    メガトンキングドロップ
【天高く弾き飛ばすかちあげボディアッパー】が命中した対象に対し、高威力高命中の【上空でパワーボムの体勢に捕え落下叩きつけ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    メガトンパンチ
【常軌を逸した筋力・体重を乗せた拳】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    大王爆裂キック
【視線】を向けた対象に、【えげつないスピード・破壊力のミドルキック】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はファイール・ティンプレートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●リプレイにつきまして。

 プレイングをいただき、ありがとうございます。
 リプレイの執筆開始についてでございますが、誠に勝手ながら、私用により『リプレイの執筆を8/10から』とさせていただきます。
 申し訳ございません。
 よろしくお願いいたします。
有栖川・夏介
正義の味方っぽいこと…ですか。
自分には縁遠い存在に感じるので難しいですね。

正義の味方というか、お助けキャラは薔薇と共に現れるイメージがあります。
【血を欲す白薔薇の花】で自分の周囲に白薔薇を展開
薔薇の花を纏いながら颯爽と登場し、アリスの少女に声かけ
「助けにきましたよ、お嬢さん」
……これちょっと…恥ずかしいな……。

気持ち切り替えオウガを倒す
薔薇を纏ったままオウガに突っ込み白薔薇の花を紅く染めあげる
多少なりと傷をつけることができれば、処刑人の剣を構えて【傷口をえぐる】攻撃
「……残念ですが、サヨナラの時間です」



 正義の味方。有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)にとってそれは、あまり現実味の無い言葉だった。
 いや、ともすれば、夏介自身が正義の味方と呼ばれるものに追われるに値するのかも知れない。息を吐く。僅かに腕の皮を粟立てる感覚に目を閉ざして、一度浮かんだ考えをリセットした。
「ただ、なんとなくは」
 イメージは浮かんでいた。
 ダン、! と地を蹴った夏介は、握る切っ先の無い剣を白薔薇の花弁へと溶かし、駆け抜ける。
「ふはははは!! どうだ! この肉! 体ッ! 美……ん、ぬう!?」
 ぞ、ぁ――! と。
 なおも筋肉を顕示するオウガと少女、その中間に、白薔薇を纏う風が舞い降りた。
 荒ぶ花弁が肌を僅かに裂いた瞬間、跳び退ったオウガが睨みつける視線を一瞥し、その花を纏い現れた青年、夏介は少女に振り返っていた。
 憂いを帯びる赤い瞳に、もどかしげに浮かんだ笑み。それは少女をの視線を、かの肉体美から引き剥がすのには十分に過ぎて。
(……これは、ちょっと……恥ずかしいな)
「貴様ッ!! そのような矮躯で我輩から視線を奪うなど!!」
 それが少女から向けられる視線に、思わず照れに漏れでた笑みだと、少女自身が気付くより前に、夏介は発せられた怒号へと向き直っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アニカ・エドフェルト
また、不思議な本も、あるもの、ですね…。

軽く、飛び上がってから、ふんわりと、相手と、アリスさんの、間の地面に、降りて行って、相手を、びしっと、指差します。
可能なら、《生まれながらの光》演出で、光を、纏いながらとか、いいかもしれません、ね。
こんなところで、放っておくわけには、行きません、ね。
今ここで、倒しちゃいますっ

相手の、すぐ近くを、ちょこちょこ動きつつ、攻撃、誘ってみます。
ほら、あなたの力、見せてください、よ?
攻撃は、〈オーラ防御〉〈激痛耐性〉で、耐えられれば…

ふむ。その程度、ですか。今度は、わたしの、番ですっ
《死闘天使》で、強化された、蹴りや組み技、お見舞い、しちゃいますっ

(アドリブ歓迎)



「貴様ッ!! そのような矮躯で我輩から視線を奪うなど!!」
 叫んだオウガに、彼女は飛び出していた。その言葉に意を反する為ではない。その言葉を発するそのオウガの力を見たいと好奇心を掻き立てられたがゆえだ。
 癒しの光を纏い、薄桃の髪を柔く結ったアニカ・エドフェルト(小さな小さな拳闘士見習い・f04762)が、ふんわりと少女への視線を切るようにオウガの前へと降り立っていた。
「……、なんだ貴様」
「わたしは、アニカ、です。よろしく、お願いします、ね?」
「貴様も、美しさのなんたるかを理解しないままに我が道を阻むか」
「ええ、はい、放っておくわけには、行きません、し」
 たどたどしげに、幼い舌足らずな声を発しながらアニカは無防備にもオウガの間合いへと踏み込んでいた。
「ですので」
 アニカは、自分の3倍程の体躯のオウガへと、しかし、変わらぬあどけない笑みを向けている。
「ほら、あなたの力、見せて、ください――」
 ――よ。と言おうとしたその刹那、アニカの視界が急変する。いや視界がというよりも、写る景色そのものが、オウガの肌に変わっているのだ。
 オウガの拳が既にアニカの体を打ち上げて、そのまま彼女の胴を掴み、少女の体を地面へと叩きつけていた!
 ド、ゴゥ! と爆発が起きたような粉塵と共に衝撃が撒き散らされ、アニカの体はその粉塵の中に覆い隠されてしまっていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

備傘・剱
つまり、迎え撃て、という事だな?
その肉体を誇示するという事は、そういう事なのだな?

ならば、問おう!筋肉の王よ!
汝、何の為にその体を鍛える!

全力脱衣!開催最強筋肉祭、発動!フリーポーズ、レディ、ゴゥ!

筋肉とは(ラットスプレッド+衝撃波)
魅せるものであり(サイドチェスト+誘導弾)
誇るものではないのだよ(サイドトライセップス+呪殺弾)!

幼女を怯えさせる(アドミナブル・アンド・サイ+オーラ防御)
飾りだけの肉体に(サイドトライセップス+結界術)
正義など、存在しない!(モストマスキュラ―+ブレス攻撃)

解ったか!魅せる競技者としての誇りが、心がなければ、ただの恐怖でしかないのだよ!
ビルダーなめてんじゃねぇぞ



 粉塵が上がる、その寸前。
 アニカが体捌きで重心をずらし衝撃を流したのに加え、体を包んだオーラの揺らぎに彼女が攻撃を凌いだ事を悟ると、備傘・剱(絶路・f01759)は助けるかと動きかけた体を抑え、眼前のオウガへと険のある視線を差し向けていた。
「問おう! 筋肉の王よ!」
 発した声は、図書館中に響き渡り、残響を重ねていく。
 剱の呼び掛けに、己の力を振るったオウガが、緩慢に体を向けた。殊勝な剱の態度に、オウガは笑みを深めていた。
「ふ、はは、ははは! 聞こう、問うがいい!」
「汝、何の為にその体を鍛える!」
「美とは力! 力とは美! 美しきものが凡てを統べる!」
 怒号と紛うオウガの声が肺と喉に響き放たれる。
「美しいだろう、我が肉体は……、これこそが支配者である証!!」
 ぐぐ、と全身を盛り上げるオウガへと、剱は否定するように静かに首を振る。
 それはつまり己を誇示するため、それだけのためのもの。
「……そうか」
 剱は、瞑目する。己の鼓動を確かめるように胸を握り、そして。
 カ、ッ――! 開眼!
 同時に胸を握っていた腕を握ったままに振り上げた!
「全力脱衣ッ!」
 舞い上がるのは、その瞬間まで彼が身に付けていたはずの衣類だ。
「んぬう……?」
 露になったそれにオウガが唸る。オウガのように盛り上がり巨大と呼ぶものではないが、しかし確かに鍛え上げられた肉体。
 オウガが美とするものだ。だが、彼は敵対者である。
「教えてやるよ……、正義の筋肉って奴をな!!」
 ここに今筋肉と筋肉のぶつかり合いが始まらんとしていた!

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
やあやあ!…遠からん者は音にも聞け!
近くば寄って目にも見よ!
我こそは狐龍の姫忍…政木・朱鞠!
理不尽に抗う術無き女の子に露出ハラスメントする悪鬼外道を成敗せんと、モノノフの国・サムライエンパイヤより馳せ参じた!
…って口上をかまして、あのムキムキングさんに攻撃ね。

戦闘【POW】
まずは敵さんが暴れまわって予想外のダメージを貰わない様にしっかりと捕まえないね…。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心臓も筋肉質っぽいから効果が有るか未知数だけど…『忍法・投げ恋菱』で今まで犯した咎について楽しくお喋りして貰おうかな。

アドリブ連帯歓迎


上野・イオナ
うーん、この戦場に置いては少し戦いずらい、なんか良い奴な気もするオウガだね。結構好きだよ!
少女に関しては、ちょっとだけヒーローショーを見てた時の自分が重なってしまうかも。他人に迷惑かけない限り身体を鍛えるのはいい事だしね。
UC【バトルキャラクターズ】使用
キャラクター達には巻き込まれないように少女を守って貰って
せめてというかなんというか、僕は堂々と1人で戦おう
「僕はイオナ!
世界を救う為にもこの戦場を通させてもらうよ!」
上から飛び降りて登場。
戦いの中で隙を見て彩虹の剣の一撃を綺麗にキメてやる。
筋肉はないけれどコッチもコッチでカッコイイと思えて貰えたら良いなぁ。
※アレンジ・連携大丈夫です


ラファエル・ノックハーツ
筋肉の過度な押し売りはやめてください!
いたいけな少女がそういう性癖に目覚めるはおろか自分自身もムキムキにする危険性がございますよ!!

とりあえず少女を背に筋肉キングにへと相対!
書の条件?忘れちった!脳内にメモってあるのは「つまり普段通りに」って言葉だけ!

いざ正義の……一度ピンチ!
アッパーを豪快に食らってラファエルくん吹っ飛ばされたー!でも大丈夫。そう、激痛耐性ならね。
俺に掴みかかろうとするムキムキに、怪力とUCによるパワーボム返しィ!!

「俺の力は!見てくれなんかじゃ計り知れねえ!……今チビ(165cm)って思ったな!!??絶対ちょっと思った!!許せん!!!食らえや見せ筋野郎ォォォ!!!」



 と、そんな光景に頭を抱える男がいた。
「……、増えた……ッ!」
 そう嘆くのは、ラファエル・ノックハーツ(オーヴァーマン!!!・f28352)。くるくると捻じれた髪に指を埋もれさせながら絶望の声を発していた。
「筋肉の過度な押し売りはおやめくださいってば、なんでそうアピールするの、やなのーっ、ていうか幼気な少女がそういう性癖に目覚める危険性、っていうかもう目覚めかけてっし、ヘタこきゃ自分自身もムキムキにお鍛えあそばれる可能性も無きにしもあらずなのですわよ……ッ!!」
「……うんまあ、出にくいのは、同意だねえ」
 と、血涙を流す勢いでオウガへと、ついでに猟兵の一人へと、敵愾心を燃やすラファエルの横で、白クマの耳を所在なさげに動かしている上野・イオナ(レインボードリーム・f03734)が困ったように言う。
 イオナとしては、隣のラファエル程、あのオウガに対して敵意を持ち合わせてはいなかった。なんというか少女も今は楽しそうではあるわけで、なんだかんだ他のオウガと比べれば話は通じてくれそうな雰囲気がある気がする。
 ヒーローショーを見ていた頃の自分が重なるような気がする。要するに憧れと、ショーを見る事自体の楽しさなのだろう。
「とはいえ」
 その最終目的は他のオウガと同じくアリスの捕食と、支配なわけで。
 いざ、飛び出していくか、と構えたその瞬間、イオナの傍を通り過ぎる影が一つ。
「待ってるみたいだったから、お先に失礼するわね?」
 と、ダン! と床を蹴って一人の妖狐がオウガへとその姿を見せ、口上を上げた。
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け!」
「ぬ……?」
 オウガは、その声に彼女へとその視線を向けた。
「近くば寄って目にも見よ! 我こそは狐龍の姫忍、政木・朱鞠!」
 オレンジの忍装束に身を包んだ政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)が刀を抜き、オウガへとその切っ先を突きつける。
「理不尽に抗う術無き女の子に露出ハラスメントする悪鬼外道を成敗せんと、モノノフの国・サムライエンパイヤより馳せ参じた!」
 とサムライエンパイア文化に詳しいものなら、侍なのか忍者なのか、と首を捻る光景ではあるが、ここにそのツッコミを入れる者はなく。
 ズダン、!! と駆け出した彼女を書架の上から眺めていたイオナは、登場する機を逃してしまった事実に焦り、そして、隣でごやごやと悪態をついていたラファエルもいない事に気付いた。
「え」と見れば、いつの間にか少女の前にラファエルは降り立っていた。
「いつの間に」
「さあ! 逃げるんだ!!」
「で、でも……っ」
 何故か抵抗する少女を護るように立つラファエルは、オウガを睨む。とその時。
 グ、ォンと電子的な音と共に、少女の周りにまるで格闘ゲームに出てくる戦闘キャラクターのような筋骨隆々の老若男女が複数人出現した。ラファエルが敵ではないと感じて、動こうとしない少女へと再度声を――。
「今すぐ行きます!!」
「ええ……」
 かけようとした瞬間に、飛びつくように額に数字の描かれた格闘キャラ達の腕を取った少女が、ためらいもなく広場の端へと離れていく。
「ええ……?」
 取り残されたラファエルが、何ともやるせなさを感じている最中、その格闘キャラを召還したイオナは、始まった戦闘の中へと飛び込んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


『筋肉とはッ!!』
 巻き上がる粉塵の中で響く声に、アニカは軋むように痛む体をめり込んだ床から引き抜いていた。
 は、はは――、と笑いを吐き出す。大丈夫、肺は動く。
 地面は硬い。そこへと叩きつけられたダメージはアニカの体の芯に染みわたっている。
 だとしても。
「ええ――、この程度、ですか」
 彼女の心を砕くには、遠く至らない。
『魅せるものであり』
 うん、とイオナは背を広げるラットスプレッドからサイドチェストへと移行する剱の声に少し頷いた。
 例としてヒーローショーを出しはしたが、それに限らず筋肉、というよりも肉体美というものへの憧れは、子供の時分、いや今もそれが無いと言えば嘘になる。
 ただ、それによって他者へ害を為すというのであれば、否やはない。故に英雄然として、イオナは虹の柄を握るのだ。
『誇るものではないのだよ』
 夏介は、静かに心に凪ぎを呼び込んでいく。
 常であれば、既に感情など意識せず、恥じらいも露と消えているだろうに。やはり、自分ではない誰かを演じたせいか。
 感情が引っ張られているのだろうか。
 ともかく、凪いでいく。誇らず、顕示せよ。夏介は、処刑の道具であるのだから。
『幼女を怯えさせる――』
 俺も怯えてるんだぜ。
 ラファエルは、サイドトライセップスからアドミナブル・アンド・サイへとポージングを移していく男性に、心の中でヘルプと看板を振り上げていた。
 いや、ポーズの名前などラファエルが知る由もなく、何か見た事ある程度の認識でしかないが。ともかく、少女の無事は確保されたわけなので、後はあの筋肉だるまに突っ込むだけ。
 濃赤のビジネススーツを軽く叩いて、彼は覚悟を決めた。
『飾りだけの肉体に……っ』
 朱鞠は剱のポーズと言葉に込められた力が場を満たしていく感覚を如実に感じながら、駆ける。握るは鉄条網じみて棘を無数にその身に纏う鎖。
『正義など、――存在しないッ!!』
 裂帛の一声が剱より放たれた! 大砲の如き音の振動は、大気を震わせオウガの体を強かに打ち付ける。
「ナイスッ!! バルク!!」
 それを追うように少女の歓声が響き渡る。雀が跳ねるように小躍りし、満面に笑みを湛えるその表情は、オウガには決して見せなかった表情。
 それが何よりも、オウガが少女に与えた感動が、恐怖から転じた、正義たらしめぬものだという証左であった。
「……っぐ、ぉ」
 叩きつけられた衝撃に仰け反ったオウガは、しかし、迫る脅威への対処に背筋を盛り上がらせ、強引に体を引き起こす。
 腕が奔り、ガ、ォン!! と音が爆ぜる。
「ふ、んぬァッ!!」
 前傾姿勢のままオウガの懐へと潜り込まんばかりに肉薄する朱鞠に、オウガがその顔面目掛け振り抜いた拳が、彼女の残像を貫いていた。
 体を捻る。
 独楽のように回る地面を真上に見下ろし、跳躍した朱鞠は鎖を振るう。
 剱が作った場を結ぶような力場の流れに沿うように、オウガの周囲へと鎖を展開した彼女が着地すると同時に腕を引けば。
 ギャ、ガッ!! と一斉に鎖の輪が収縮しオウガの体へと巻き付きその動きを阻む。
「ぬ、姑息な……ッ!!」
「あら、時間稼ぎはお嫌い?」
 振り返る朱鞠が、肉を破り食らいつく鎖を外そうともがくオウガと、それに突貫する彼を視界に収めて、微笑み唇に指を当てて、息を投げるように指を離す。
「さ、あなたの咎を数えなさい」
「咎など、ありはせん!!」
 返る即答。
「あら、そうかしら?」
 この場に法は無く、認知として咎が無いというのであれば、成程、その答えは正しいのだろう。
「でもね」
 朱鞠の主観を押し付けるならば。
「ゴ、ぁ……!?」
 ず、ぐん、とオウガの体が跳ねた。その胸に幾らかの棘が顔を覗かせている。心臓の辺りから突き出たそれらは、咎の罰だ。
「それじゃあ、お仕置きよね」と指を一つ立てた彼女の拘束は依然健在で。
「処刑を」
 オウガへ向けて、夏介が花弁を纏い駆ける。冷静に、感情の揺らぎ一つ感じさせない声色は研いだ刃を想起させるものだった。
「執行します」
 振るった指先に、花弁が一斉にオウガへと襲い掛かった。ギッ――! 乱雑な音と共に鎖の拘束を緩めるに至ったオウガが迫る花弁を薙ぐように、その腕を振るい払ったその時。
 両刃の紅剣が、赤く染まる花弁の向こうから削った剛腕の傷へと吸い込まれていき、ズバン、と肩口から千切り取られた腕が宙を舞う。
「――サヨナラの時間です」
 噴き上がる血糊を花弁で受け止め、肩越しにオウガの巨体を見上げる。
 影が降りている。
 腕が千切れたことで緩んだ拘束の中から残る腕が、夏介へと振るわれ――立ち上っていた粉塵の一部が、吹き飛んだ。
 ゴ、ァ! と粉塵を散らし弾丸の如く、距離を詰めた勢いのまま放たれた脚撃が夏介へと放たれていた拳を弾き飛ばす。
「先ほどは、ありがとう、ございました」
 アニカが、華奢な足から放たれたとは思えぬ轟音で地を揺らしながら、挨拶をする。世話になったと言わんばかりに。
「今度は、私の番……ですっ」
「な、ッ――ガ!?」
 垂直に上げた脚がオウガの腹を窪ませる。遅れて散る衝撃を貫いて、跳ねるように入れ替えた脚の追撃が、樹の幹の如き脚を打ち払う。
「……っ」
彼女を矮小と甘んじる事を愚とオウガは漸くに気付いていた。軸足を崩され、倒れ込むバランスを調節し、全体重を乗せた腕のハンマーをアニカへと叩き落とす! それを受ければ、強化を重ね受けるアニカだろうと地面の染みと化す威力、それにアニカは自ら飛び込んだ。
 直後、地面を揺らがせたのは、その勢いを全て自らに返されたオウガの体だ。
 オウガを投げた。
 迫る腕に飛びつき、その全体重を掛けた、つまりは、自ら体幹を崩壊させたオウガを投げる事に怪力は必要ない。矢印を捻る力さえあればいい。
 奇しくも、つい先程の意趣返しとなった投げ技に、しかし、仕留めてはいない事をアニカは確信している。故に、瓦礫と粉塵に視界を遮られ警戒と共に一歩退いたアニカを狙ったのだろう。
「ほ、ボぁ!?」
 地面から掬い上げるように放たれた拳が、チャンスか!? と飛び込んだ赤いスーツの男を天へと打ち上げていた。
 ラファエルは、ただ困惑の最中にありながらも、現状の把握は早かった。
 それは既に一度見た動きだったからか、直後のオウガの動きもおおよその予想が付いていた。
「いやでも、い、ってえじゃんかさあ!!!」
 それはともかく、痛い物は痛い。盛大に涙し叫びながらも、通常激痛に反射反応を起こして硬直する思考と肉体を操って、予想通り、落ち始めたラファエルの体を掴もうとするオウガに相対する。
 それはアニカを地面に叩きつけた動きそのもの。
「オレ、ソレ、サッキ、ミタ!! からぁ!!」
 掴みかかる腕を逆に掴み、ラファエルは空中で上位を取る攻防を仕掛ける。その間、凡そ数秒。
「小賢しい……!」
「誰がチビでございますですことか!? こんボケェ!!」
 結構話を聞いてないらしい渾身の叫びに振り絞られた怪力が、軍配をラファエルに上げさせ。
「食らえや、見せ筋野郎ォ!!」
 両足を掴み、頭から地面へと叩き落とすラファエルの着地点に、アリカが脚を構え――衝突。
 ズ、ゴガァ!!! と轟音弾け、オウガの巨体がラファエルの手を離れ宙を舞う。アリカの放った蹴りがオウガの胴を撃ち抜いていたのだ。
 二三のバウンドを経て、立ち上がるオウガは、口腔から大量の血を吐き出した。体内はどれ程に負傷しているのか。心臓は咎棘に貫かれ、度重なる打撃が全身を蝕んでいる。
 だが、しかし、オウガはまだ立つ。迫る虹。
「……っ」
 残る腕で、虹の刃を受け、弾き、そして牽制に放った蹴りが刃に受け止められた衝撃に、しかし、間合を離す事に成功したことを悟り、オウガは、その剣士、イオナを睨む。
 矮躯、なれど、形勢は劣勢。
「負けぬ、だが、負けぬぞ!! この筋肉に、我が覇道を刻むのだ!」
 そんな彼に、イオナは少し困ったように眉をしかめていた。
 やっぱり、結構好きな性格ではあるんだよなあ。と轟く声に、イオナは思いながらも、その虹の刃を向け、そしてある事を思い出した。
「僕はイオナ!」
 名乗りを忘れていた。目まぐるしい中でついつい、この場においての重要事項。
 ヒーローっぽいこと。差し向けた切っ先を振るいイオナは駆け出す姿勢を取り、声を放つ。
「世界を救う為にもこの戦場を通させてもらうよ!」
「……行くぞ!! 猟兵!!」
 互いの間合の外。だが、瞬く間にその距離は消費され、肉薄する。実感する。体に満ちる力、歯車がかみ合うような感覚の重なり。
 虹の色彩が齎すそれとは別の、加護。
 一閃。放たれた軌跡は、虹の一翼の如く、羽ばたいて。
 虹の光彩爆ぜる。
 周囲を包んだそれが、おさまった時には、もうかのオウガのすがたは無く。
 残った王冠が、ぱん、と弾けた残滓が漂うのみであった。

最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト