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迷宮災厄戦⑦〜悪党の伝統、人質戦法

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「ウガガガ。かの厳重な警備で堅めた大図書館も、オレ様にかかればこんなものよ」
 平時であれば幾人もの学者から主婦まで幅広い層がこの図書館に訪れ賑わいを見せているはずであった。
 諍いを起こすものは警備につまみ出されるため、誰もが安心して先人たちの叡智を求める子が出来たのだ。
 しかし、その大図書館も今では誰一人読書を楽しむことなく傷付き倒れている。
「ウガガ、人は情などというくだらない物に縛られるからこうなるのだ。ウガ、『コイツ』を盾にしただけで誰も手を出せず嬲り放題で笑いが止まらなかったぞ。ウガガガ!」

 事件は数十分前に起こっていた。
 黒く蠢く不定形の影が、図書館の天窓に影を作る。
 それはしばらくそこでじっと獲物を値踏みしていたが、館内にいる人達はまるで気付いていない。
 皆本に夢中であるし、鳥が粗相することも珍しくはないからだ。
 そうしてタールのようなそれがドロっと窓の隙間を抜けて天井に張り付くと、美しい女館長の座る椅子の上へと移動する。
 そこからは一瞬の出来事であった。
 バッと女館長を目掛けて飛び掛かり身体に取り込むと、見上げる程の大男の姿へと変化していったのだ。
「ウガガガ、愚かな市民共よ!コイツの命が惜しくば大人しくしていろ!」
 襲撃した大男が人質にとったのは、ここの最高責任者であり有力な魔女でもある重役。
 そうして警備を含め誰もが悲鳴を上げながらも太刀打ちできずあの惨状となったのだ。
「ウガガ!これで『世界征服』の知識はオレ様のものよ!」

「ってことになってるんだって!」
 そういうと、グリモア猟兵の明石・真多子(軟体魔忍マダコ)が動画の停止ボタンを押す。百聞は一見に如かず、拙い説明より動画を見せたほうが楽な現代っ子だ。
「すっごく悪いやつが現れたよ!なんと【人質をとって身体に取り込んでる】んだって!」
 六本の腕をしっちゃかめっちゃか振り回し、なんとか身振り手振りで状況を説明する。
「しかも、世界征服に関する書物を見つけてパワーアップしようとしてるみたい!でもこの図書館には対抗する【正義の書】っていうのもあるみたいなんだ!だから【正義を示せばこっちの力になるかも】!」
 ピコンとアホ毛を伸ばし、緊張した様子を見せる。
「【敵は人質を取ってるから手出しできないと油断している】けど、すっごく強いから気を付けて!人質の魔女の人から力を奪ってきたり、不定形な身体を駆使した変則的な攻撃もしてくるみたい!でも【正義は必ず勝つ】はずだよ!みんな頑張ってね!」
 そういうと、真多子はすぐさまキミ達をグリモアで転送し始めた。


ペプシ派
 悪い奴を思いっきりぶっ飛ばすシナリオです。
 悪党といったら人質ですよね。
 卑怯な作戦にも屈しない正義パワーを見せてやりましょう!

 『ボーナス』
 悪に対する正義を見せつけると、その内容が正義の書に書かれていればヒーローパワーが皆さんに与えられて強化してくれます。

 『注意点』
 敵は身体の正面に人質を取り込んでいます。大事な人なので傷つけないようにしましょう。
 敵は不定形な身体ですが、体積が減ると形態を維持できず自壊します。なので人質以外を攻撃すれば勝てるかもしれません。
 また、人質を取り戻すと魔力が足らず弱体化するようです。
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第1章 ボス戦 『オウガ兵器『ウィッチハートエンジン』』

POW   :    ウィッチハートフルスロットル
全身を【魔女の心臓から絞り出した魔力】で覆い、自身の【体に取り付けられた魔女への負荷】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    疾く重い一撃
【魔女の魔力を燃料とし繰り出される拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ   :    剛力触手打ち据え乱舞
自身の【邪悪なる赤い瞳】が輝く間、【背中から生えている強力な触手】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はスニッカ・カードルタンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ノエル・フィッシャー
【SPD】
情があるから人は縛られる。うん、そうだね。
でもその情があるからボクの溢れ出る光は輝く。強くなれる。即ち、ボクは無敵なんだよ。

正義の味方は颯爽と現れ、華麗に活躍する。何よりもその姿は美しくなければいけない。
UC【花の王子】で人質を守るべき味方と定義、無数の花びらで敵の視界を防ぎつつ目の前に瞬間移動。
敵が対応する前に【無銘の剣】を拳に突き刺して反撃を防ぎ、そこから引っ張り出すように人質の救助を試みるよ。

アドリブ・共闘歓迎だよ。



 静まり返った大図書館、そこで唯一バタバタと本棚の端から端まで薙ぎ払って乱暴に物音を立てる大男の姿があった。
「ウガガガー!『世界征服』の知識はどこにあるんだ!いい加減吐け!」
 あまり頭が良くないらしいその男は、細かい探し物が苦手なのか痺れを切らして騒ぎ立てる。
 黒く不定形な体の一部である背中から、触手をいくつか伸ばしてイラついたように床を叩いた。
 すると、大男の腹部に上半身だけ出した美しい魔女が掠れた声を絞り出す。
「言え……ません。あなたのような者の手には……絶対に……!!」
 身体から魔力を奪われているのか血の気は薄く、倒れていった仲間たちの姿を見て弱った心は今にも折れそうである。
 しかし、それでも希望を諦めず何かを待つように耐え忍んでいるのだ。
「ウガー!!心のひろーいオレ様でもこれ以上は勘弁ならん!人質はお前一人いればいいのだ、そこら中に倒れているやつらの息の根を止めたっていいんだぞ?ウガガガ!」
 なんとこの意地汚く卑怯な男は、交渉の材料として人の命を引き合いに出す。
 流石にこの言葉で女館長の心も揺らぎ、悔しそうに唇をかんだ。
「ウガガ!そうよ、お前ら人は情とかいうものに弱いからなぁ!どうれ、早く言わんとまずは一人……」

 大男が無駄に大きい脚を振り上げたその時、コツコツと通路を叩く一人の足音が響き渡る。
「情があるから人は縛られる。うん、そうだね。でもその情があるから彼女は輝きボクを導いた。そしてその光でボクの溢れ出る光はより輝く。強くなれる。即ち、ボク達は無敵なんだよ。」
 大男の下品な声とは異なり、その声は凛と張り、内から自信と優しさが溢れ出ているようであった。
「ウガ!?だ、誰だおまえは!!」
「ボクの名前はノエル。通りすがりの、彼女の王子様だよ。」
 大男の問いに、ノエル・フィッシャー(呪いの名は『王子様』・f19578)が堂々と胸を張って声を響かせる。
 その視線の先には、囚われた女館長の姿があった。
「ウガウガー!!つまりオレ様の邪魔者ってことじゃねーか!オレ様は今忙しいから引っ込んでろ!」
 律義にノエルの名乗りを聞き終わった大男は、近くの本棚を担ぎ上げるとノエルへ向けて軽々と放り投げる。
 バサバサと貴重な書物を落としながら飛んでいくそれは、ノエルのいた場所にぶつかると木片を激しく飛び散らせて砕けてしまった。
「ウガガ、これで邪魔者は大人しく……ウガ?」

 大男は砕けた本棚の下にいるはずの人影がいないことに気が付く。
 あるのはただ無数に散らばる花びらのみ。
 何が起こったのか唖然としていると、突如視線の下からあの凛とした声が再び響く。
「言っただろう。ボクは無敵なんだ、キミの王子様だからね。だから心配しないで……すぐにボクがキミの手を掴んでみせるから」
 希望を諦めかけ、俯いていた女館長の顎をくいと、ノエルのしなやかなシルクの指で上げる。
「あ……」
 彼女の目の前にノエルが顔を寄せて目を合わせると、女館長の眼に光が灯り、頬に血の気が戻って赤く染める。

「ウガ!?おまえいつの間に!!コバエのようにうっとうしいやつめ!これでどうだ!!」
 見下ろす位置にいるのえるのに驚いたが、大男はハッと我に返るとジンバルを鳴らすように大きく広げた両手を閉じてノエルを叩き潰そうとする。
「まったく、邪魔者はキミの方だよ。彼女は返してもらうからね」
 しかしその瞬間、鼻を通る香しい生花の匂いと共に無数の花びらが大男の視界を遮った。
「ウガ!?」
 そのままバチンと音を立てて人一人をミンチに変えてしまいそうなその攻撃は、またもノエルを捉えず空を叩いていたのだ。
 そして十分離れた館長席に、女館長をお姫様だっこで抱えたノエルが佇んでいた。
「さぁ……今はこれをボクだと思って待っていておくれ。キミを傷つけたアイツを懲らしめて来るからね」
 衣服を失っていた彼女を何処かの国旗で優しく包むと、そっと彼女の席に下ろす。

「ウガ……力が……身体が……!!くそーこのままではオレ様が消える!こうなればいけ好かないお前だけでも、ウガガァァァ!!」
 魔力の供給源である女館長を失ったためか、大男の身体は蝋が溶けるようにドロドロと自壊している。
 それでも諦めないのか、大男は最後の力を振り絞って捨て身の拳を振り上げノエルへと飛び掛かったのだ。
 同時にノエルもクルリと振り返ると、身なりに不釣り合いな武骨な剣を抜き構える。
「胸を張ってボクは誓おう……彼女へはもう指一本たりと触れさせはしないと!」
 守るものを背に、ノエルは一切避ける動作もせず迫って来る大男の身体を瞬く間に切り捨てていったのであった。
「ウ…ガハッ!!」
「ボクはもう、誰一人として見捨てはしない」

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・イオナ
確かに人質は普通に辛いな。
体に埋め込まれてるようだけど、不定形なら引っ張ればとれるかな?
UC【バトルキャラクターズ】使用
エネルギー源にされてるならいきなり殺される事はないと思いたい。物量に任せて近づこう!
「ちょっとダメ元だけど今から助けるから待っててね」
魔女さんを抱き掴んだ状態でオウガに対してトライレインボウ/スタンプ弾の突き飛ばし
何とか引き剥がさせてくれ!
さすがに傷つける事は出来ないから無理そうなら撤退
引き剥がせても魔女さんに無理はさせられないから逃げよう

※アレンジ・連携大丈夫です



 静まり返った大図書館、そこで唯一バタバタと本棚の端から端まで薙ぎ払って乱暴に物音を立てる大男の姿があった。
「ウガガウガー!どんだけ本があるんだよ!『世界征服の知識』が全っ然見つからんぞ!」
 あまり頭が良くないらしいその男は、細かい探し物が苦手なのか痺れを切らして騒ぎ立てる。
 黒く不定形な体の一部である背中から、触手をいくつか伸ばしてイラついたように床を叩いた。
「ウガー……まぁいい。どのみち『コイツ』がいれば俺様には誰も手出し出来ないのだ。時間はいくらでもある、それまでお前にはたっぷり地獄の苦しみと共に付き合ってもらうぞ。ウガガガガ!」
 そう言うと、大男の腹部で上半身だけ身体を晒しぐったりとしている女館長を見下ろす。
「うぅ……」
 俯いた彼女の表情は分からないが、その苦悶の声色から相当弱っているのは間違いない。

 そんな彼らのやり取りを影ながら覗く人影があった。
「参ったな、確かに人質は普通に辛いね。でもあの魔女さんも苦しそうだし長引かせるわけにはいかないか……」
 本棚を背にして顔を覗かせていた上野・イオナ(レインボードリーム・f03734)は、救助対象の確認を行っていたが予想以上に事態は深刻であると判断する。
 ゲーム慣れしている彼は、初見の敵はまず様子を見てパターンを掴むというセオリーを熟知しており、今回もこうして実行していたのだ。
 そしてあの衰弱ぶりから、ただ取り込まれているだけでなく何かしらエネルギーを奪われているのだろうと予想を立てる。
「なんか不自然なくらいメチャクチャマッチョだったもんな」
 だからこそ一刻も早く助け出さなければならないと、イオナは瞬時に優先目標を設定した。
「それにしてもどうしたものかな。体に埋め込まれてるようだけど、背中とかグニグニしてて不定形だったし引っ張ればとれるかな?」
 助け出すにはまずあの大男と切り離さなくてはならない。
 しかし、どう助ければ正解なのかまでは調べている時間が無かった。
 彼女の安全を考慮するならもっと観察し待つべきか、一瞬だけそう考えたがすぐに掻き消す。
「いや、エネルギー源にされてるならいきなり殺される事はないはずだよな。それにヒーローならここでためらったりしないはず!」
 自分の憧れたヒーロー像、それが彼の迷いを吹き飛ばし、奮い立たせるようにイオナの背へ追い風を送る。
「ちょっとダメ元だけど今から助けるから待っててね!」
 言うが早いか、イオナは颯爽とその場から駆けだした。

「そこまでだ!英雄イオナ、彼女の希望を描きにただいま参上!」
 本棚から身体を出したイオナは、自身へ注目を引くように大声で名乗りを上げる。
 正面から正々堂々と名乗りを上げれば、敵は否応なしに人質をこちらへ向けようとするだろう。
 ゲームから得た経験則にある、その行動パターンに賭けての行動であった。
「ウガ?まーだ警備が残っていたのか。バーカめ!『コイツ』が目に入らんのか!」
 イオナの予想通り、大男はわざわざ見せつけるように胸を張って女館長を盾にする。
 卑怯で意地汚い悪役らしいことだが、しかしだからこそ今が救出のチャンスでもあった。
「いまだぁぁぁ!!いくぞみんな!!」
 イオナが号令を上げると、額に数字の付いた彼の思い入れのある無数のゲームキャラクター達が大男の周囲からワッと溢れ出す。
「ウガ!?お前らどこから湧いて……ってやめんかー!!」
 ゲームキャラクター達は大男に組み着いて関節を阻害したり、人質を掴んで引っ張り出そうと試みていた。

 あのゲームキャラクター達は、先ほどイオナが本棚に身を隠していた際に召喚して、予め敵の裏どりをさせていたのだ。
 ここでもゲームでチームプレイしていたイオナのセンスが活きたといえるだろう。
「ふんぬ……ウガガガー!!!」
 しかし、彼ら一人一人は大した力を持たないNPCレベルであるため、力を込めた大男の振り払いで大半が吹き飛ばされてしまった。
 そして残る人質を掴んでいたキャラクター達も、大男の両手で指を組んだダブルスレッジハンマーの振り下ろしで叩き潰されそうになっている。
「魔女さん!まだ希望を捨てないくれ!喰らえぇぇ!!」
 そこに割り込むようにイオナが再び叫ぶ。
 その手には既に弾を込め終わったショットガンピストルが握られ、十分な射程距離まで近付くことが出来たのだ。
 そしてそれを女館長に当たらないよう大男の無駄に大きい身体へ続けざまに三発全弾打ち切る。
「ウガ!ウガガ!ウガガガー!!」
 一発、二発まではなんとか喰いしばって踏ん張ったが、三発目のスタンプ弾が命中した時に大男の不定形な黒い身体が勢いよく後方へ吹き飛ぶ。
 同時に、ゲームキャラクター達が押さえていた人質は残り、無事に救出が果たされる。
「これでもう卑怯な戦法で威張れないだろう!これで、トドメだぁー!」
 撃ち切ったショットガンを放って、天窓から射しこむ光を反射し虹色に輝く剣を引き抜くと、本棚にべしゃりとくっついている真っ黒いスライム状になっている元大男を一閃。
 斬撃の跡から黒い身体をどんどんと色づいていき、極彩色へと変化すると消滅したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
「待たせちまったな、館長さん。」
静寂な空気の中、[存在感]を放って化物の前に立つ。
「アンタを助けるヒーローはココに居るぜ。変身!」
変身ポーズを決め、猟兵"ブレイザイン"になる。
(まずは、館長さんを助ける。
だが、アイツが激しく動くと館長さんを苦しめちまう。
なら…!)
一瞬の隙を突き、接敵する。
疾く重い一撃を[勇気]を持って紙一重で避ける。
不定形の体に手を突っ込み、館長さんを引きずり出す。
「怖かったな、もう大丈夫だぜ。」
引き剥がせなくても、この距離なら誤射しねえ。
「悪事はここまでだ!必殺!サンライズ・バースト!」
サンライザーを[零距離射撃]で[一斉掃射]する。
念のため、[誘導弾]で化け物だけを狙う。



 静まり返った大図書館、そこで唯一バタバタと本棚の端から端まで薙ぎ払って乱暴に物音を立てる大男の姿があった。
「ウガガガー!これだけオレ様が頑張ってるのに『世界征服の知識』が見つからんぞ!なんて不親切な図書館だ!オレ様は三行以上の文を読むと眠くなるというのに、こんなに字が多いなんて!」
 あまり頭が良くないらしいその男は、細かい探し物が苦手なのか痺れを切らして騒ぎ立てる。
 黒く不定形な体の一部である背中から、触手をいくつか伸ばしてイラついたように床を叩いた。
「ウガー!!それもこれも『コイツ』が口を割らないからだ!強情なやつにはお仕置きをくれてやる、それぃ!」
「あぐ……うぅ……」
 大男がサイドチェストのポーズを取ると、彼の腹部に囚われ上半身だけ晒した女館長の首が締まり苦しそうに呻く。
 この施設の責任者であるこの魔女は、人質となった自分を守るため倒れていった警備達のためにも、ただじっと耐え忍ぶしかないのだ。
 その顔はまるで生気を吸われたかのように蒼白で、血の気の薄い様子からこの状況が長引けば非常に危険な状態だろう。

 そんな悪に屈さず消え入りそうな灯火へ、再び火を灯そうとする精悍な男の声が館内に響き渡る。
「そこまでだぜド悪党!」
 声はすれども姿は見えず。
 静寂だった屋内で反響し木霊するその声は、とんと出所が分からなかった。
「ウガ!?な、何者だ!!オレ様をド悪党と称したのは褒めてやるが、姿を見せないとは許せん!」
 油断していた大男が、思わず腕を緩めて辺りをキョロキョロと見回し警戒する。
 だがそのおかげで女館長も息を肺に取り込み、少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「お望み通り見せてやるぜ!たぁッ!!」
 再び声が轟くと、陽光射しこむ天窓をパリンと突き破り、空桐・清導(人間のアームドヒーローにしてスーパーヒーロー・f28542)が三点着地で大男の目の前に姿を現す。
「待たせちまったな、館長さん!俺が来たからにはもう心配はいらないぜッ!」

 大男の前には、変わったベルトを締めた革ジャンに革手袋を着こなす普通の青年。
 しかしその圧倒的存在感を示す登場に眼を奪われ、大男は咄嗟に反応出来なかったがすぐに我に返る。
「ウガガガ!なにかと思えば一般人がまだ残っていたのか!丁度良い、『コイツ』が強情だからお前を痛めつけて口を割らせるとしよう」
 意地汚く卑怯なこの大男はニヤリと笑うと、グッと大きく握り拳を作りまるで大型トラックの様なパンチが清導へと迫る。
「ウーガガ!まずは全身をバキバキにへし折り動けなくしてやるぞ!フンッ!!」
「俺が一般人?いいや違うね!せいっ……や!!」
 普通なら恐怖で立ちすくむ攻撃だが、清導は一切怯む様子も無く立ち向かい、冷静に見切って跳び上がると大男の拳を踏みつけて紙一重でいなす。
 さらに床へめり込んだその拳を台にして二段目のジャンプを行うと、清導のベルトが熱く燃えるように光を放って彼を包み込む。
「往くぜ!ちょおおおお、変ッ身!!!」
 その瞬間、大男は頭上で太陽のように輝く彼の姿に眼が眩んで怯む。
 そして大男がようやく眼を開くと、スタッと降り立った清導の姿は先ほどまでと全く異なっていた。
 真紅の鎧にたなびくマント、ビシっと決めた変身ポーズが彼をヒーローであると言われなくても直感させていたのだ。
「俺の名は『ブレイザイン』!!館長さん、アンタを助けるヒーローだ!!」
 その耳にするだけに勇気をくれる彼の声を聴き、俯いていた女館長の目に光が灯る。

「ウガガーン!?ヒーローが来るなんて聞いてないぞ!い、いやだがオレ様には人質がいるのだった。ウガガ、どれだけ強かろうが迂闊に手を出せまい」
 一瞬天敵である英雄の登場にたじろぐ大男だが、思い出したように胸を張って人質を強調する。
(パンチの瞬間、館長さんが苦しそうだった……これ以上アイツが動き回ると無駄に苦しめちまう。なら……!!)
 向かい合うように対峙した清導ことブレイザインと大男。
 睨み合いの中、先に動き出したのはブレイザイン。真正面から狙い撃てと言わんばかりに突っ込んでいく。
「ウガガ!ばーかめ!派手な攻撃が出来ないからと捨て身はいかんぞ!ウラッ!」
 ブレイザインを迎え撃つ大男は、再びあの大きな拳を作り今度は両手で逃げ場を無くす。
 上への逃げ場も無くされ絶体絶命のピンチだが、それでもブレイザインの燃える闘志は揺るがない。
「ばかはアンタの方だぜ!『下』がお留守なんだよ!」
 ブレイザインはスライディングのように滑り込むと、一度目のパンチで抉れた床を利用し大男の両手パンチを見事くぐり抜ける。
「ウガ!?しまっ……」
「ブレイジング……レザー!!」
 そしてそのまま勢いを活かし、ブレイザインの腕に装着されているブレードによって大男の黒い身体を切り裂き女館長を助け出した。
「ウガァァ!?あづっあぢぃい!傷口が焼けて戻らねぇ!」
 灼熱の刀身により焼き切られた大男は、不定形な身体を固定されて悶え苦しむ。
「ウガガガガァー!クソクソクソ!身体がおかしい!これも全部お前のせいだ!死ねぇぇ!!」
 魔力の供給源も失い半狂乱になった大男は、人質ごとブレイザインを押しつぶそうと跳び上がって全身を広げる。
 両腕で女館長を抱きかかえていたブレイザインは、先ほどのようにブレードで応戦が出来ない。
 再びピンチが訪れる。しかし、ヒーローはどんな時でも諦めないのだ。
「オマエの悪事はここまでだ!必殺ゥ!サンライズ・バースト!!」
 ブレイザインが叫ぶと彼の両肩が赤熱し、燃える炎が噴き出し大男を押し返す。
「ウガ……ウガガァー!!!」
 黒い身体が焼かれて縮み、やがて煙を吐き出しながら悪党は消滅したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
正義の味方と言えば名乗りあげというやつなのでっす!
ポーズも決めてびしっとなのでっす!

愚かでっすかー、くだらないでっすかー。
藍ちゃんくんは自分たちが傷つけられようとも館長さんを守ろうと無抵抗を貫いた方々をとっても尊敬するのでっす!
後は藍ちゃんくんにお任せなのでっす!

というわけで踊るのでっす!
正義のヒーローもヒロインも皆でダンスするのはお約束でっすからねー!
触手さんの狙いがつかないよう、とっても激しく回り続けるダンスで振り回しちゃいましょう!
目を回させればなおよし!
悪党の身体が魔女さんのクッションになるよう調整!
人質や味方への攻撃も思い通りにさせなければ衰弱していくかと!



 静まり返った大図書館、そこで唯一バタバタと本棚の端から端まで薙ぎ払って乱暴に物音を立てる大男の姿があった。
「ウ……ウ……ウガァァァ!!!なんでサ行だけであっちにもこっちにもあるんだ!『世界征服の知識』が一向に見つからんぞ!オレ様は細かい物探しが苦手なのをすっかり忘れていた!こんなことなら一人くらい起こしておけば良かった……ウガァー!!」
 あまり頭が良くないらしいその男は、細かい探し物が苦手なのか痺れを切らして騒ぎ立てる。
 黒く不定形な体の一部である背中から、触手をいくつか伸ばしてイラついたように床を叩いた。
「ウガガ!もう起きてるのは『コイツ』しかいないのに、まったく強情なやつめ。ええいこうなったら無理やり誰か起こして『コイツ』をダシに吐かせるか……」
 大男がそう呟くと、彼の腹部に囚われ上半身だけ身体を出している女館長の顎を強引に掴み、グイと顔を上げさせる。
「ぐっ……」
 顎を掴まれ言葉を発さないが、その魔女の瞳には『お前なんかに教えてやるものか』という反骨心が現れている。
 しかし、その気丈な振る舞いとは対照的に彼女の囚われた身体は生気を吸われているかのように蒼白で弱っていた。
「ウガガガガ!そうやって強情でいるがいい。すぐにお前の配下を叩き起こして拷問にかければ気も変わるだろう。ウーガガガ!!」

 その言葉に女館長はギョッと瞳孔を開く。
 自分を守るために倒れていった警備達をこれ以上苦しめるというのか、その恐怖が彼女の心を縛り決意を揺るがせる。
 そんな変化を目聡く気が付いたのか、卑怯で意地汚い大男はニタニタと不快な笑みを浮かべて掴んでいた顎を離して歩き出した。
 そしてわなわなと震わせた女館長の口が開こうという時、やたらと自己主張の激しい元気な声が館内中に響き渡る。
「えっー!!起きてる人を探してるでっすか!?はいはいはーい!ここにいるのでっす!!」
「ウガ!?」
 静寂な館内で突然ギャンギャンと響く声で耳がキーンなったのか、大男は堪らず耳を押さえて足を止めた。
「ウガー!煩いぞ図書館では静かにしろ!!いったい誰だお前は!!」
 自分も負けじと大声で謎の声の主へ返すと、ひょこっと大きなツインテールを揺らす子供が姿を現した。
「じゃじゃーん!藍ちゃんくんでっすよー!ぴすぴすなのでっす!!」
 紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)はそう言いながら、ギターをかき鳴らすように腕をグルグルと回してダプルピースのポーズをドドンとキメ、ギザギザな歯がキラリと光る。
「ウガーーー!!びっくりした!なにかと思えばただの女の子じゃないか!……いや、声は男……ウガ?ウガーどっちでもいい、ともかくガキンチョ一人だけじゃないか!」
 藍の無邪気な笑顔と男女どちらとも決めかねない微妙な背丈、やたら様になっている可愛らしい仕草も相まって大男は一瞬混乱する。

「ウーガ!ともかくどうせお前も『コイツ』を助けようとか言うのだろう。人は情とかいうくだらん感情に流され、そうやって愚かな行動をとると決まっているからな!飛んで火にいるというやつだ、ウガガガ!」
 調子を取り戻した大男は、藍へ見せつけるように胸を張って、腹部にいる女館長を盾にして構える。
「愚かでっすかー、くだらないでっすかー。それでも藍ちゃんくんは自分たちが傷つけられようとも館長さんを守ろうと無抵抗を貫いた方々をとっても尊敬するのでっす!」
 人質を守るために犠牲となった者達、彼らは今も辛うじて息をしているが立ち上がれず周囲に倒れ伏していた。
「だから!後は藍ちゃんくんが引き受けたから館長さんも安心するのでっす!」
 彼らを守り、そして女館長へ希望を差し伸べるように、藍はズイと脚を一歩踏み出す。
 天窓からスポットライトのように陽光で藍を包むその雄姿に、初めて女館長の目が緩んで一筋の涙が伝う。助けを求める声なき声だ。

「ウーガー!ごたくは聞き飽きた!オレ様をコケにした罪は重いぞ!すぐに楽にはしてやらん、ギッタギタに嬲って『コイツ』の口を割らせてやる!ふんぬ……ウガガガガァー!」
 大男が前屈みになって力むと、彼の背中から幾本もの黒い触手が伸びてビシバシと周囲を叩きながら藍へと迫る。
「おっと、こんな時こそ踊るのでっす!正義のヒーローもヒロインも皆でダンスするのはお約束でっすからねー!!」
 タタっと初めのステップを踏むと、藍は四方八方から打ち込んで来た鞭の様な触手を軽やかで巧みに踊りながらいなした。
「ウガッ!ウガガ!ぐぬぅう!ウガー!ウガガガガァー!」
「ワン、ツー、ジャンプッ!スリー、フォー、ターンッ!おお~っと!悪党ちゃんもなかなかノリの良いダンスでっすよー!」
 藍があまりにも素早くあちこちへ跳ね回るものだから、どうにか視界に捉えようと大男も身体をあっちこっち動かしクネクネと不格好だがダンスのように動いていた。
「ウガ?ウガガガ!そうだろうそうだろう!オレ様はダンスもイケるクチだったのだ!冥土の土産だ、オレ様の華麗な足さばきを魅せ……ウガァ!?」
 藍の踊りとよいしょにおだてられ、戦闘中であるにも関わらず調子に乗った大男。
 しかし、伸ばしていた自分の触手を踏みつけつんのめり、なんとか踏ん張りはしたものの、ツルっと後ろへ倒れてしまった。
「ウガップ!」
「今でっすねー!」
 大男の自重ゆえに、倒れた際のドンと背中を押す衝撃は大きく、腹部に取り込まれていた女館長が一瞬ほとんど身体を出すほど浮き上がる。
 そこへ先ほどのような軽やかなジャンプで藍が駆け付けると、しっかりキャッチ。
「藍ちゃんくんの目的達成でっす!悪党ちゃんはこれでサヨナラァァァ!でっすよーーー!!」
 二人分の体重をかけたキックで大男を踏みつける。
 そして、藍が大声でサヨナラと叫ぶと脚部のエネルギーへと変わり、圧縮された力を解放して跳び上がる。
「ウグェ!……ウガガガー!!」
 魔力供給源を失い再生能力を失った大男は、藍の跳躍時の衝撃でバラバラに飛び散り消滅したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月09日


挿絵イラスト