迷宮災厄戦⑦〜悪役のすゝめ
●世界征服大図書館
そこは世界征服に関するあらゆる歴史書・図鑑・ノウハウ本・自己啓発本が収められていた。
その名のとおり、まさしく『世界征服』というカテゴリーに属する本に関してのみに特化した大図書館であった。
その大図書館に置いて、一人のオウガが一冊の本を手に取る。
タイトルは『悪役のすゝめ』。
「なるほどな……庶子たる俺にとっては、悪役こそが花道。我が兄は確かに最強にして最良たる王子であったが、今は違う」
『悪役のすゝめ』たる本を手にしたオウガ、『悪の王子ライオネル』 は不敵に笑う。
本の内容が気に入ったのだろう。
生前は武勲を立てることに固執するあまり、兄である王子の愛の前に敗れ去った。
だが、オウガとなった今、彼には兄は存在しない。兄が存在したという過去はあれど、現在に対を成す兄はいないのだ。
「ならば、俺は悪を成そう。いたぶり、じっくりと、じわじわと敵を、猟兵をいたぶり殺して、あらゆる国を征服しよう。何故あんな小さな国にこだわっていたのか……男ならば夢は大きく、世界制覇! 何、もう此処には目障りな兄はいない……クククッ! 俺を止められる対存在がいないのであれば、もう俺を誰も止められぬ!」
そう、兄たる王子の存在がなければ。
何度そう思ったことだろう。過去の化身たるオブリビオン、オウガとなって漸くにして叶った願い。
いつも目障りだった。最期には愛によって改心させられてしまうという結末すらも屈辱だった。
だが、もうそれも在りえぬ結末。
これからは己の心の欲望の赴くままに、あらゆるものを征服し、支配しよう。
『悪の王子ライオネル』は、生まれて以来、最高の気分で高らかに笑うのだった―――。
●迷宮災厄戦
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)の姿であった。
「お集まり頂きありがとうございます。迷宮災厄戦、順調に推移していっているようで何よりですね。今回皆さんに向かっていただくのは、『世界征服大図書館』……世界征服に関するあらゆる書物が蔵書として収められている図書館です」
名前からしてそうではないかと猟兵たちは思っていたが、これまた碌でもないシロモノばかりを集めた図書館もあったものだと嘆息する者もいたかもしれない。
「はい……この場に存在するオウガ『悪の王子ライオネル』は、蔵書である『悪役のすゝめ』を読み解き、強化されている状態です。ただ、敵は単純に読んだだけでパワーアップしているわけではないのです」
そう、この世界征服に関する蔵書『悪役のすゝめ』を読み、『あからさまな油断行動』や『悪役っぽい台詞』などを要所要所で取り入れてくるのだという。
猟兵たちより一段高い場所に陣取って高笑いしたり、影で真っ黒になって見えないとか、そんな……。
「ステレオタイプと言いますか……特に利点になるとは思えない行動を取ることに寄って、『悪の王子ライオネル』はパワーアップした力を振るうのです。油断はなりませんが……この図書館には皆さんに利する書物も存在しているのです」
そう、悪の世界征服に関する蔵書があるのであれば、同時に『正義の書』もまた存在する。
この図書館の中に存在する『正義の書』を見つけ出し、書物に書かれている『正義の味方っぽい行動』を取ることに寄って猟兵もまたパワーアップするのだ。
「まずは、この『正義の書』を見つけ出し、本のタイトル、内容に則した行動を取りながら、『悪の王子ライオネル』を打倒していただきたいのです」
と、ナイアルテは、謎のポーズを取る。
……なにそれ。
猟兵達の視線が痛い。ナイアルテは何事もなかったかのように姿勢を正す。なかったことにするつもりだ。だが、見逃してはならない。耳が真っ赤だ。
「……うう、いえ、その正義の味方は……登場時、ポーズを取られるので……その、参考になるかと思い、ポーズを、とり、ました……」
健気な献身だが、どちらかというと大火傷負ったようなものだった。
耳まで真っ赤に赤面しながら、ナイアルテは猟兵達の背中を無言でぐいぐい押して転移させる。
きっと、戦いから戻ってきた猟兵たちに、ポーズのことをいじられる運命になるであろうが、それでもナイアルテは大真面目に猟兵達を見送るのだった―――!
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『迷宮災厄戦』の戦争シナリオとなります。
世界征服大図書館にて待ち受け、『悪役のすゝめ』たる本を読み、パワーアップした『悪の王子ライオネル』を『正義の書』を読み、正義の味方っぽく打倒しましょう。
※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。
プレイングボーナス……「正義の味方」っぽい行動をする。
見つけた正義の書のタイトルと、そこに書かれているっぽい行動や言動を行うとパワーアップします。なお、このパワーアップは、この世界征服大図書館たる、この国だけでのみ有効なパワーアップです。
それでは、迷宮災厄戦を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『悪の王子ライオネル』
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POW : 殺戮の魔剣
自身の【魔剣】が輝く間、【魔剣ダインスレイヴ】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : ワールド・エンド
レベル×5本の【切断】属性の【空間の断裂】を放つ。
WIZ : 魔鏡剣アンサラー
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【魔法を反射し、術者へと返す剣】で包囲攻撃する。
イラスト:うにび
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ヒューベリオン・アルカトラズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
村崎・ゆかり
誰よ、こんなふざけた図書館建てたのは? 織田信長とかその辺?
で、この膨大な書架から『正義の書』を見つけないといけないわけね。
せめてもう一人くらい人手が欲しい。というわけで、アヤメも捜索よろしく。
――見つけた、これね。『正義の味方 その作法と実践』。
ざっと読んで、オウガと相対しましょ。
巫覡載霊の舞、発動。
悪の王子を見下ろせる場所から登場。
そこまでよ、悪の王子。あなたの野望はこの正義の陰陽師が砕いてみせる!
薙刀持って飛び降りても、神霊体になってたら平気でしょ。
正義の味方は仲間を想うもの。アヤメも無理しない程度に牽制よろしく。
アンサラーを薙刀回して「衝撃波」で叩き落としつつ、悪の王子を「串刺し」に。
図書館とは知識の集積地である。
知識に善悪はなく、もしも、善悪が存在するのであれば、それは知識を扱うものの善悪でしかない。だが、時として人の心同様に悪意に溢れた図書館もまた存在するのだ。
それが『世界征服大図書館』である。
その蔵書の数々は、世界征服の関するものばかりである。悪書と呼ばれるものであったかもしれない。けれど、使い方次第では、それは『正義の書』へと変ずるものもあるのだ。
「ククク……猟兵達め。早速嗅ぎつけて来たか……よかろう。どのみち奴らは、この『悪役のすゝめ』を読み、パワーアップした俺に敵うことなできまい。返り討ちにしてくれる」
早速『悪役のすゝめ』を読んで、悪の幹部ムーブに磨きのかかる『悪の王子ライオネル』。少し芝居がかっているのは、そういう本を読んだからだろう。
だが、事実として『悪の王子ライオネル』の戦闘力は著しく強化されている。油断していては、猟兵と言えど苦戦することは必至であった―――。
「誰よ、こんなふざけた図書館建てたのは? 織田信長とかそのへん?」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、目の前に広がる書架に収められた蔵書を前にして憤慨した。
何が世界征服だ、と。
そんな事を考えそうなのは、彼女にとって織田信長を思い出すくらいであったのだろう。そして、この悪意ある蔵書によって強化されたオウガが存在するという事実もまたゆかりにとって腹立たしいことこの上ない問題であった。
「で、この膨大な書架から『正義の書』を見つけないといけないわけね……」
せめて、もう一人くらい人手が欲しい所だ。そこで式神アヤメを呼び出して、二手に分かれる。
お手伝いしますよ、とアヤメは早速書架のあちこちを飛び回って『正義の書』の探索に乗り出す。
こういうときに諜報活動に秀でたくのいちの式神というのは、本当に助かる。後でご褒美をあげないとけないとゆかりは考えながら、書架という書架を探し回る。
しばらくするとアヤメから連絡が入り、これではないかというタイトルの書を差し出される。
時間があまり無いゆえに、ざっと流し読みにしてゆかりは駆け出す。面倒事はさっさと片を付けるに限る。
「あっちにオウガの反応―――!」
アヤメの探索に引っかかったオウガ『悪の王子ライオネル』の姿を捉えたゆかりは、早速王子を見下ろせる書架の上へと陣取る。
「そこまでよ、悪の王子。あなたの野望はこの正義の陰陽師が砕いてみせる!」
何奴、とステレオタイプの反応を示す『悪の王子ライオネル』。
こてこてとした雰囲気なのは、互いに読んだ蔵書が似たようなものであったからだろう。
『悪の王子ライオネル』が読んだのは『悪役のすゝめ』。
一方、ゆかりが読んだのは『正義の味方 その作法と実践』。作者一緒じゃない? と訝しみたくなるほどに似たようなタイトルである。
だが、互いに芝居がかったのは此処までであった。高台から飛び降りながら、ユーベルコード、巫覡載霊の舞によって強化された衝撃波を放つ薙刀の紫の刀身がきらめく。
「―――覚悟!」
放たれた薙刀の一撃が衝撃はを放ち、『悪の王子ライオネル』へと迫る。
だが、その一撃は、魔鏡剣アンサラーによって空を舞い、魔法を反射する剣に反射せされる。
一撃で倒せるとは思っていなかったが、これも蔵書を読んでパワーアップした結果なのだろう。サポートを頼んだ式神アヤメもゆかりと『悪の王子ライオネル』の鍔迫り合いに割り込む余地が無いほどに反射する衝撃波の渦は分厚い。
「ククク! 女だてらに接近戦をするとは、見上げたものだ! 陰陽師!」
『悪の王子ライオネル』の剣が翻り、ゆかりの薙刀を払う。
だが、彼女の体は今や神霊体である。多少の傷は無視して動くことができる。薙刀の衝撃波を反射するというのならば―――。
「反射しきれないほどの量ならどうなのよ!」
はなたれる薙刀の振るう速度が上がる。ゆかりもまた『正義の書』を読み解き、パワーアップしている。
正義の味方とは、常に限界を超えていくものである。
ピンチとはすなわちチャンス。
戦いの場において、場の劣勢は歓迎スべきことではない。だが、正義の味方にとって尺の都合上ピンチになるは必定。運命である。
そして、そのピンチを乗り越えるからこそ、正義の味方なのだ。
「な、なに―――!?」
魔鏡剣アンサラーが反射しきれないほどの衝撃波を受けて砕けて散る。
その一瞬の隙をゆかりは見逃さなかった。
放たれた薙刀の一突きが、『悪の王子ライオネル』の胴を貫く。逆境を覆した一撃に、『悪の王子ライオネル』は捨て台詞を吐きながら逃げていく。
それを追う余裕はなかったゆかりは、そのままアヤメに抱えられて、次なる戦場へと移動する。
抱え方がお姫様だっこであったりと、なんか物申したい気持ちであったが、こうやって抱えられるのもまた、たまには良い経験であったのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
昔から読書は大好きだったから
本の配置にはある程度詳しいつもりだよ
高いところだって飛べば届くんだから
見つけるのは『正義の書 改心のための愛』
【指定UC】で髪を一つに結わいた美青年に変身
弾かれても【破魔】は僕には効かないし
歌や言霊は魔法じゃないし?
貴方は恵まれない可哀そうな人だ
征服する事でしか心を満たせない
悲しいくらい孤独な人だ
収める国の数が力じゃない
自国の民すら守れぬ者に王は務まらない
貴方のそれは、ただの逃げだ
守るべき者、譲れない想い
それが本当の強さだ
UC発動中は僕の言葉全てが攻撃になる
【催眠、祈り】を乗せた【歌唱】を響かせながら
優しい微笑みで光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】
これが、世界の温かさだ
図書館に必要なものとは何か。
勿論、蔵書である本であることは間違いない。書架も必要である。だが、それだけでは不十分であろう。
書を正しく管理し、整頓する者―――司書が必要である。
そういった意味では『世界征服大図書館』は、不完全なる図書館であると言えよう。司書無き図書館は背表紙を見たとしても、乱雑なカテゴライズしかされていない訪れる者にとっても、知識の泉となりえないものであったことだろう。
その『世界征服大図書館』に猟兵とオウガの戦いの音が木霊する。
それを尻目に栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、オラトリオの翼を広げて、大図書館という大地に根付く樹木のような書架の間を飛ぶ。
昔から読書が大好きだった彼にとって、本の配置はよくわかっているつもりだった。だが、それは整備された木々を往くことと同じであったことだろう。
正しく分類されていればこそ、本の配置というのは活きてくる。
だが、司書無き『世界征服大図書館』は、彼の想像を絶する乱雑さでもって本を初夏に収めていたのだ。
「もう! 本当にオブリビオンって、こういうところにマメじゃないんだよなぁ!」
翼で空を飛び、高い所にある本も難なく探索できるのはありがたいことなのだが、こんなにも煩雑な整理の仕方をされているとは夢にも思わなかった。
だからこそ、この悪辣たる悪意の書に溢れた図書館にあって、『正義の書』は光り輝く希望のように思えたのだ。
手にするは『正義の書 改心のための愛』。
ぱたん、と本を閉じる音が響く。
それは澪が『正義の書』を読了した音だった。ユーベルコード、叶夢の戯(リソウノタイゲン)の輝きに寄って変ずるは、中性的な長髪を結いた美青年。
「今、夢を見せてあげるよ」
天使の羽が大きく広がり、パワーアップした彼の速度で持って、戦いの渦中にある『悪の王子ライオネル』の元へと駆けつける。
すでに先行した猟兵に寄って、一撃を加えられた後であったが、『悪の王子ライオネル』は何もかも諦めていなかった。
「猟兵……! どこからともなくまたやってくるか! アンサラー!」
幾何学模様を描き、飛翔する魔境剣アンサラー。
それは魔法を反射する恐るべき力。この世界征服図書館の蔵書である『悪役のすゝめ』を読み解いたがゆえのパワーアップに寄って、その宙を駆ける魔境剣の数は膨大である。
だが、澪は臆することはしない。
「貴方は恵まれない可哀そうな人だ。征服することでしか心を満たせない。悲しいくらい孤独な人だ」
澪の言葉は静かに紡がれる。
それは彼のユーベルコードに寄って紡がれる破魔の光と共に『悪の王子ライオネル』に降り注ぐ。言霊となった言葉は、その一つ一つが邪悪なるものを打ち払う力を秘めている。
澪は理解している。手にした『正義の書 改心のための愛』にかかれていることを理解し、実践しているのだ。
例え、魔法を反射する魔境剣であっても、言霊は魔法ではない。だから、反射などされることはない。
「な、なにを―――! 認められるわけがない。生まれが、力が、劣っているからと言って、俺が認められないわけがない!」
それを見透かすように澪は頷く。『悪の王子ライオネル』の生涯を思えばこその言葉。何も悪を倒すのに刺々しい力は必要ないのだ。
悪を制する力というものがあるのだとすれば、それは愛。
「治める国の数が力じゃない。自国の民すら護れぬ者に王は務まらない。貴方のそれは、ただの逃げだ。護るべき者、譲れない想い。それが本当の強さだ」
澪の言葉はありとあらゆる不浄を祓う力となって、後光の如き力強さで持って、『悪の王子ライオネル』を灼く。
その表情が浮かべるのは優しい微笑み。
誰も彼もが、彼を否定してきたことだろう。
嫡子ではない。魔法を使うことができない。そんなふうに彼のできないこと、どうしようもないことを責めてきたのだろう。
だが、澪は違う。
違うこと、持っていないことは何も悪いことではないのだと。
強さとは生まれ持ったものではないのだ。
本当の強さとは、一体何であるのか。それを知るものにこそ、力は宿る。澪の言葉は力ある言葉であったことだろう。
暖かくも優しい言葉。
それは『悪の王子ライオネル』の心の澱を優しく溶かす言葉だった。
「これが、世界の温かさだ」
その確信に満ちた言葉が、悪しき心を焼き払うのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
セラフィール・キュベルト
…ポーズを取るというのは、確かに少々、気恥ずかしいものがありますね。
それは兎も角、私に向いた正義の書は…ありますでしょうか。
発見しました書の題名は…「世界を包み、救う愛」。
成程、これでしたら私にも実践可能ですね…。
内容を理解しましたら敵へ挑みます。
征服と支配の果てに、貴方は何を望まれるのですか?
飽くなき欲求は底の抜けた瓶の如きもの。永遠に満たされぬ思いを抱えながら生きることは、苦しいことです。
聖輝光輪・心恨浄化を発動、【優しさ】を乗せた波動で戦意の鎮静を試みつつ説得を。
その行いは否定しつつも、彼自身は決して否定せず。
彼を認め、受け入れ、愛すること。それが私の見出した正義です故に。
正義の味方。
それは如何なる定義を持って、正義と為すのか。その答えは猟兵の数だけ存在するだろう。多種多様な世界を行き来する彼等にとって、種族も千差万別であれば、考え方もまた同様であろう。
だが、世界に選ばれた戦士である彼等にとって唯一共通することと言えば、それは世界を救う、世界のために戦うこということだ。
それはある意味、世界への愛であろう。
「……ポーズを取るというのは、確かに少々、気恥ずかしいものがありますね」
この戦場に送り出される前にグリモア猟兵がしていたポーズ。それを思い出して、セラフィール・キュベルト(癒し願う聖女・f00816)は、自分も同じようなポーズをせねばならないのかと考えて、少し気後れしていた。
オラトリオである彼は、見た目こそ少女のようであるがれっきとした男子である。ただ、育った環境が特殊であったために、今でも女性の装いを常に身に纏っている。
それ故に、だろうか。
年頃の男性であれば、ヒーロー物などに憧れはあっても気恥ずかしさはないはずだからだ。
それはともかくとして、セラフィールはオラトリオの翼でもって『世界征服大図書館』の書架の間を飛び回る。
すでに先行した猟兵たちがオウガである『悪の王子ライオネル』との戦いに移っている。自分もすぐに加勢に向かおうと思うのだが……。
「私に向いた正義の書は……ありますでしょうか」
できれば、自身の心情と重なるものであれば、正義の味方らしいポーズなどを気恥ずかしく思わずに済む、と彼は考えながら書架の間を飛ぶ。
これだけ莫大な蔵書の中で、自分にあった書物を探すのは難儀だ。けれど、彼の諦めない心、それこそ、他者への思いやりの心が引き合うようにして『正義の書』と巡り合うべくして巡り合うのだ。
『世界を包み、救う愛』―――それこそが、セラフィールの手にした『正義の書』だ。彼は早速ページを捲り、内容を読み解いていく。
ふむ、と頷くと書を閉じる。
オラトリオの翼で空を舞い上がる姿は天使にして聖女。
舞い散る純白の羽根と共に、暖かな光りに包まれ、己の悪意を灌がれんとする『悪の王子ライオネルの前に舞い降りるセラフィール。
「征服と支配の果に、貴方は何を望まれるのですか?」
その言葉に顔を上げる『悪の王子ライオネル』。その瞳は、己の矜持、己の過去に対する様々な感情にまみれていた。
「知れたこと! 全てだ! あらゆるものを征服し、支配する。それこそが頂点に立つというものだ!」
その言葉にセラフィールは頭を振る。
「飽くなき欲求は底の抜けた瓶の如きもの。永遠に満たされぬ思いを抱えながら生きる事は、苦しい事です」
セラフィールの言葉は慈愛に満ちていた。
本来であれば、相容れぬ存在であるオブリビオン、オウガを前にしても、その慈愛に陰りは見えない。
あるのは説得しようという試み。
「どうか恐れないで、どうか怯えないで。私の光を、私の声を。荒ぶる刃を、今はお収めください――」
彼の頭上に浮かびあがった光輪から優しい光の波動がはなたれる。
それこそが彼のユーベルコードの輝き。
聖輝光輪・心恨浄化(キュリオ・メンティス)である。敵意や戦意を沈静化させようというのだ。
その聖女の如き働きかけは、『正義の書』である『世界を包み、救う愛』に記されたそのもの。
力を増すユーベルコードの光は、『悪の王子ライオネル』の戦意を根こそぎ光でもって照らし、払っていく。
「貴方の行いは間違っている。けれど、それを重ねてきたのは、貴方の過去があってのこと。歩んできた道は変えられません。けれど、これからの道は変えられるはず……愛すること。それが私の見出した正義です故に」
その言葉は正しく救世たる言葉。
その言葉の力に寄って『悪の王子ライオネル』は剣を下げるだろう。
それが、この場の僅かな時間であったとしても、セラフィールはたしかに今、その悪しき心を凌駕する愛の心でもって、それを制したのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
ベルンハルト・マッケンゼン
(『正義の書』を詠むと、昔の戦場がフラッシュバックする)
正義、か。
プロホロフカの戦いを、思い出す。
押し寄せる敵の機甲師団を、我がティーガーで屠り続けた激戦を。
我等は数多の戦闘に勝利したが、戦争には敗北した。
あの時、私は正義の執行者だったのか?
それとも、大量虐殺者だったのか……
正義とは、勝者だ。勝者が歴史を作る。
勝たなければ、何の意味もない。
故に、私は勝つ。私を、貫くため!
(UCを発動、燃え上がる黄金の炎と共に哄笑する)
黄金の炎は不滅の焔。その輝きが私を前へと歩ませる!
我が名はベルンハルト、黄金の戦士。
闇の王子よ、我が業を照覧せよ。そして……絶望せよ!
(ライフルを連射後、捨て身の銃剣突撃へ)
正義とは何か。悪とは何か。
その答えに終止符が打たれることはきっと、人の心の中にある善悪が分かたれないことと同じように決着の着かぬ問いであったのかもしれない。
人の心は悪だけに染まることはなく、また善だけが存在することもない。光と闇が背中合わせであるように。
「正義、か」
広大なる書架が並び立つ『世界征服大図書館』において、見つけ出した『正義の書』を読んだベルンハルト・マッケンゼン(黄金炎の傭兵・f01418)の脳裏に明滅するように蘇る戦いがあった。
押し寄せる敵の機甲師団。己が駆る重戦車。はなたれる砲弾。爆音。戦禍にあってなお、掴み取るものは勝利のみ。
一時の勝利が全ての勝利に繋がることは当然である。だが、一時の勝利が全体の勝利を確約するものではない。
故に、己達は敗北したのだ。
心に去来するものがある。
それはベルンハルトだけにしかわかりえないことだった。何もかもが間違っているような、それでいて答えは用意されていないような。そんな感覚。
「あのとき、私は正義の執行者だったのか? それとも大量虐殺者だったのか……」
それを肯定するものはいない。
誰の心にも解を齎す者などいない。後悔はない。悔恨も何もかもが過去のものだ。
「正義とは、勝者だ。勝者が歴史を作る。勝たなければ、何の意味もない。故に、私は勝つ。私を、貫くため!」
ユーベルコードの黄金の輝きがはなたれる。
黄金の焔が燃え上がり、Gotterdammerung(ゲッテルデンメルング)―――神々の黄昏が顕現する。
そこにあったのは未来の可能性を代償にした己の武器……それをラインの黄金銃に変化させる。
勝たなければ意味を見出だせぬというのであれば、敗北とは即ち死である。そこに未来はない。ならば、己の未来を代償にしてでも勝たなければならない。
己という自己を貫くために。
「我が名はベルンハルト、黄金の戦士。闇の王子よ、我が業を照覧せよ。そして……絶望せよ!」
その言葉に反応したのは、『悪の王子ライオネル』。
先行した猟兵達の攻撃と言葉によって、削ぎ落とされていた悪役としての矜持が、その言葉によってぶり返される。
敵意があるというのならば、それは彼が持つ魔境剣アンサラーと同じく敵意でもって応えるしかない。
猟兵とオブリビオン。
互いに滅ぼし合う間柄であればこそ、互いの存在意義は戦ってこそ証明される。
「業と言ったか、猟兵! 我が魔剣ダインスレイヴの剣戟、受けてみよ!」
互いの視線が交差臆する。
放たれるはラインの黄金銃の弾丸。連射されるそれを魔剣ダインスレイヴの剣戟が弾き飛ばす。
凄まじき剣戟の速度。飛来する銃弾を切り払うなど、常人の出来ることではない。
それが、この『世界征服大図書館』に収められている『悪役のすゝめ』を読んでパワーアップした『悪の王子ライオネル』の力である。
「今や神々は愛を捨て、世界を呪った。黄昏の時、此処に来たれり…コード・エクスティンクション!」
ラインの黄金銃の力が開放される。
銃剣の装備された黄金銃を構え、白兵戦へと立ち向かう。それは自殺行為であるように思えた。ベルンハルトが『悪の王子ライオネル』より利することがあるのだとすれば、それはライフル銃の弾丸の弾速であったことだろう。
対する『悪の王子ライオネル』は、過去より研鑽し続けた剣技の業。放たれる剣戟の凄まじさは、ライフル銃の弾丸を弾き飛ばしたことで知れている。
だが、それでもベルンハルトは臆することをしない。
それをしてしまえば、己は己ではなくなる。己を貫くことは、克己すること。前に進む。剣戟が肉を断つ。
痛みが走るより先に、脚を踏み出す。それは捨て身であった。
己の生命こそが弾丸であるというのならば、その一撃こそが、ベルンハルトの最大の一撃。
「ガッ―――!?」
銃剣が『悪の王子ライオネル』の身を貫く。
放たれた一撃は、確かにその身を貫いた。押しやるようにして銃剣を押し込めば、ぐらりと広大なる『世界征服大図書館』の連なる書架の眼下に落ちていく『悪の王子ライオネル』。
それを見送り、ベルンハルトは立っていた。
どれだけ傷つこうとも、最後まで立つものにこそ、手を伸ばす権利のあるものがある。
その名を勝利と呼ぶ―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
センサーで書棚を高速精査し●情報収集
探す本の種類は決まっています
…ある意味で、何時も私が行っている行為なのかもしれませんね
『汝、騎士足らんと願うならば』
…憧れ、時に合理から断念してきた内容です
ですが今は…
(機械馬に騎乗し颯爽と王子の元へ ●防具改造で取り付けた青紫のマント翻し降り立ち)
貴方が悪を為さんと欲するなら
私はそれを阻む正義の騎士として立ち塞がりましょう
王子、貴方に決闘を申し込みます
相手の実力を発揮させるのは戦術的に愚策ですが…
双方共に全力を出し切り真正面から打ち破る
それが御伽の正義の騎士という物
UCを使用、魔剣を悉く防ぎ、一刀の元に武器落とし
首元に突きつけ
最期の機会です
罪を雪ぎ改心を
ウォーマシンたる機械騎士トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)にとって、捜し物をするということは容易なものであった。
人の瞳は時として主人である人すらをも欺くことがある。だが、トリテレイアのアイセンサーは己を騙すことはしない。
そのアイセンサーに捉えられる情報は的確にして正確。そこに存在するものを、それであると正しく認識する。
故に、この『世界征服図書館』において、存在するという『正義の書』を探し出す事など造作もないことであった。
「……ある意味で、いつも私が行っている行為なのかもしれませんね」
正しきことを成すために、正しきことを見つける。
それは、彼の電脳の中で常に模索していることであろう。正しきこと。間違えること無く、正しく行うために情報というソースは潤沢にあるべきなのだ。
「……これが、『正義の書』……憧れ、ときに合理から断念してきた内容です」
手にしたのは『汝、騎士足らんと願うならば』。
そのタイトルを、背表紙を機械の指が撫でる。彼の炉心を動かす行動理念。『騎士道精神』。それは合理性とは相反するものもまたあるだろう。
その相反するものに憧憬を持ちつつも、機械たる身がそれを許さない。それが機械騎士であるトリテレイアの強さの象徴であったかもしれない。
だが、それでも。手を伸ばしたいと思う物がある。
それを人は矛盾と呼ぶのかも知れない。
「ですが、今は……」
手にした『正義の書』―――『汝、騎士足らんと願うならば』。それを手にトリテレイアは機械馬ロシナンテⅡを駆り、颯爽と『悪の王子ライオネル』の元へ駆け出す。
迷いがあるなど、機械騎士として有るまじきことであろう。
だが、その電脳がはじき出すゆらぎこそが騎士たるものと足らんと願うトリテレイアの炉心を燃やす原動力となる。日除けの天幕をトリテレイアは機械馬と共に駆けながら、引きちぎり青紫の外套として身につける。
「ぐ……傷を負ったか……だが、俺は負けない。俺が俺であるために……何もかも乗り越えて、あらゆるものを支配するために」
先行した猟兵から受けた傷は浅くはない。
それでも『悪の王子ライオネル』は立ち上がる。決着が付いていてもおかしくないほどの傷を追ってもなお立ち上がるのは、『悪役のすゝめ』を読んだがゆえのパワーアップの力故。
そんな彼の前に立ちふさがるのは、青紫の外套翻し、機械馬より降り立つトリテレイアの姿であった。
「貴方が悪を為さんと欲するなら、私はそれを阻む正義の騎士として立ちふさがりましょう。いざ―――」
トリテレイアと『悪の王子ライオネル』の視線が交錯する。
互いに構える魔剣ダインスレイヴと儀礼用長剣。視線の交錯は一瞬。互いの踏み込みが、合図となり剣戟が始まる。
放たれる『悪の王子ライオネル』の放つ魔剣ダインスレイヴの連撃は絶技と言っていいだろう。
一撃を放つ瞬間に繰り出されるのは九つの斬撃。生半可な戦士であれば、この一撃のもとに勝負は決したことだろう。
だが、トリテレイアは違う。
「御伽噺に謳われる騎士達よ。鋼の我が身、災禍を払う守護の盾と成ることをここに誓う」
それは彼の理想の姿である。
例え、それが己の電脳の導き出した最適解ではないのだとしても。それが己の理想であり、『騎士』として相応しいと判断した行いにこそ、猟兵としての力が宿る。
それは即ち、ユーベルコードの輝きであり、機械人形は守護騎士たらんと希う(オース・オブ・マシンナイツ)―――トリテレイアの願いそのものであった。
「な、に―――!?」
驚愕に見開かれる『悪の王子ライオネル』の瞳。放たれた九つの斬撃全てが長剣によって防がれる。
敵を害するための剣であれば、おそらく連撃に寄って長剣は砕け散っていただろう。だが、誰かを、何かを護るために耐久性に特化した長剣は見事に耐えきっていた。
放たれた斬撃の一撃が、魔剣ダインスレイヴを弾き飛ばす。返す刃が『悪の王子ライオネル』の首元に突きつけられる。
「最期の機会です。罪を雪ぎ改心を」
それは最後通告だった。
だが、同時にそれは叶うことのない願いでもあった。悪役らしく鼻で笑う『悪の王子ライオネル』。
「ふん―――そのつもりはない」
後退するように、飛び退る『悪の王子ライオネル』。
それを追いかけようとして、トリテレイアは膝をつく。あれだけの剣戟を受け流すのには、トリテレイアもまた各部の関節部を犠牲にしなければならないほどの強烈なる負荷が掛かっていたのだ。
「……あくまで、『悪の王子』であるという『役』を捨てれませんでしたか……」
それはある意味でトリテレイアもまた同じであろう。
機械である身でありながら、断念してきた『騎士』としての矜持。
だが、今は違う。
それは敵を下し、勝利を得るよりも得難きものをトリテレイアは得たのかも知れない。
『願い』は、常に彼の炉心を正しく燃やしているのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
えーと、魔法少女入門?
まあ、魔法少女も正義の味方と言えるかな
ちょっとだけ憂鬱だけど
戦いに勝つ事が優先だからね
敵を見つけたら
悪い事はいけないよ
今ならまだ引き返せる、と
正義っぽく一応説得してみよう
まあ聞く耳持たないだろうから
どうしても止めないなら
見逃す事はできないよ、と戦おう
女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)と叫んで
無駄に回転したり魔力の羽をまき散らしたり変身しよう
恥ずかしくないかって?
恥ずかしいに決まってるよ
やけくそだよ
邪神が爆笑してるけど無視だ無視
変身したらガトリングガンで攻撃
ガトリングガンの銃身や弾を生成するのに
魔法っぽい力使ってるからいいよね
飛んでくる剣を砕いたり
神気で停めたりしつつ戦うよ
「えーと、『魔法少女入門』?」
『世界征服大図書館』の何処かに有ると言われた『正義の書』。
その一冊を手にした佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、手にした『魔法少女入門』を片手に訝しむような表情になってしまった。
だってそうだろう。
魔法少女。それは様々な形態があるとは言え、元男性である晶にとって、馴染みのないものであり、『正義の味方』かと問われれば―――。
「まあ、魔法少女も正義の味方と言えるかな……」
そう曖昧な返事になってしまうのだった。それに彼、もとい彼女にとって、魔法少女入門が正義の書であるというのならば、若干憂鬱になってしまう。
だって、そうだろう。今は女性の体ではあるものの、中身は男性である。どうしたって抵抗はあるし、この『魔法少女入門』の内容からして、この後の展開が想像されてしまうのだから。
「ちょっとだけ憂鬱だけど、戦いに勝つことが優先だからね」
仕方ない! と奮起して晶は『正義の書』である『魔法少女入門』を片手に『世界征服大図書館』を駆け抜ける。
そこに遭遇したのが『悪の王子ライオネル』だった。彼は他の猟兵達の戦いから逃げてきていたようだった。
負傷しているのは、すでに相当なダメージを刻まれたが故だろう。
「きみ! 悪いことはいけないよ。今ならまだ引き返せる!」
聞く耳は持たないだろう、という晶の予想は当たっていた。
「今更何を言う。俺は『悪の王子ライオネル』だぞ。貴様ら猟兵を倒し、必ずや世界の全てを手に入れる……それが俺の存在意義だ」
手にした魔境剣アンサラーが振るわれ、宙に舞う幾何学模様を描く剣たち。それは魔法を反射する恐るべき魔剣たちである。
「どうしても止めないなら、見逃すことはできないよ……うぅ……小っ恥ずかしいけど、我慢我慢」
晶のユーベルコードが輝く。
その輝きは彼女の体を包み込み、身につけていた衣装を光の粒子へと変換してく。
「―――女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)!」
宙に浮かび上がらい、光の粒子と共に回転し、組み上げられた宵闇の衣を纏っていく。ブーツ、タイツ、ドレスにフリルと下から順にアップされるようにして身に纏っていく。
魔力の羽根が舞い散り、光の中から現れるのは、可憐なる姿となった晶だった。
その姿はまさに魔法少女そのもの。
「―――」
『悪の王子ライオネル』も、流石に空いた口が塞がらないのだろう。驚愕した様子なのが、余計に晶の羞恥心を煽る。
「恥ずかしいに決まってるよ! やけくそだよ!」
その身に宿す邪神が爆笑する声が頭の中に木霊する。だが、そんなのは今は無視。無視。
生成されたガトリングガンから放たれる弾丸は魔法の力が籠められている。魔境剣アンサラーとは相性が悪いが、そこは手数で補う。
嵐のように弾丸を反射するアンサラーであったが、なにせガトリングガンから斉射される弾丸の数は、その数を有に越える。
弾き返すことのできなくなったアンサラーから順に砕かれて活き、最後の一本が砕かれたとき、勝負は決した。
「―――ぐはっ! ぐっ、なんたる巫山戯た女だ……! 我がアンサラーが敗れるとは……!」
『悪の王子ライオネル』が歯噛みしながら、後退していく。
確かに勝利は得られたのかも知れない。けれど、晶は勝利の余韻に浸れるほど喜ぶことはできなかった。
魔法少女入門。
それに従ってユーベルコードの演出が凄まじいものになったのは、パワーアップの結果だろう。
だが、その有様はどこからどうみても可憐なる少女のもの。
中身は男性である晶にとって、それは羞恥心を煽るプレイのように思えてならなかった。もしかしたら、体の内にいる邪神がわざと『正義の書』の偏った嗜好のものを探しだしたとしか思えないほど。
「あら―――バレましたの?」
そんな悪びれもしない邪神のクスクスと笑う声が聞こえたとか、聞こえなかったとか―――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
こんな本がありますな。「原初の正義」。
(読んでみると)素晴らしい!これがあれば、
世の“塵”を全て払えるかもしれません。
■闘
名乗りと共に登場。私は蛟鬼、「原初の正義」の体現者。
正義の名の許に世の安寧を護り、悪しき心を討つのが我が使命。
故にあなたを裁きましょう、ライオネル公!
先ずは現れる空間断裂を【第六感】を以てかわし、
地を踏まず【空中浮遊】しながら【ダッシュ】で接近。
零距離から【怪力】を込めて【大首が迫る】を放ち、
遠く彼方まで飛ばしましょう。
こうして彼の罪は消え去ったのです。
(袖から濡姫登場)
『因みに彼の正義は危険なもので、悪に堕ちる――」
喜劇みたいにするな!濡姫!
※アドリブ連携歓迎・不採用可
『迷宮災厄戦』が始まってからというものの、このアリスラビリンスでは通常よりもさらに奇っ怪なる不思議の国が戦場となっていた。
その一つである『世界征服図書館』は、不可思議な力の働く場所であった。
この大図書館に収められた蔵書の数々は、その殆どが『世界征服』に関するものばかりであった。故に、その中の一冊である『悪役のすゝめ』を読んだオウガ『悪の王子ライオネル』は、さらに悪役らしく振る舞い、パワーアップを果たしていた。
「く―――っ、俺の覇道を邪魔する猟兵達め、忌々しい……! だが、ここを凌げば、まだ勝ちの目はある。俺は必ずや、全てを支配し、全ての頂点に立つのだ―――!」
猟兵達の攻撃に晒され、撤退を余儀なくされた『悪の王子ライオネル』。
だが、その撤退を許すほど、猟兵の包囲網は甘くはない。
「私は蛟鬼、『原初の正義』の体現者。正義の名の許に世の安寧を護り、悪しき心を討つのが我が使命。故にあなたを裁きましょう、ライオネル公!」
その言葉が頭上より響き渡る。
『悪の王子ライオネル』が振り返る。そこにいたのは、高い書架の上に立ち、『悪の王子ライオネル』を見下ろす荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)であった。
彼の佇まいは、普段よりも芝居がかっていたかもしれない。
それもそのはずである。
彼はすでに、この広大なる『世界征服大図書館』の何処かに存在しているという『正義の書』―――『原初の正義』を手にしていたのだ。
そこに描かれていたのは、彼の感性に大いに訴える内容であった。
「素晴らしい! これがあれば、世の“塵”を全て払えるかもしれません!」
そんなふうに珍しく感情の高ぶりを感じられずにはいられず、居ても立っても居られないままに、普段であればしないであろう芝居がかった口調で持ってオウガである『悪の王子ライオネル』と対峙したのだ。
「俺を裁く? 不敬である! 俺の覇道を邪魔するものは、尽く切り伏せる……! 虚空の彼方へ……塵芥となるが良い!」
奮った魔剣のひらめきが、そのまま斬撃を空間断裂となって放たれる。それは絶技と言って良いほどの連撃であった。
空間の断裂は、魔剣が翻る度に増えていき、その断裂に触れてしまえば、どれだけの防具を着込んでいようとも意味を為さない。
「凄まじき技ですが―――」
その斬撃を第六感の如き、勘の冴えを見せた動きで躱していく。されど大地は踏まず、空中を浮遊するが如くの足捌きで持って空間の断裂を巧みに切り抜けていく。
「空間を断裂させるということは、不可視なる一撃。その不可視なる斬撃に己を巻き込まぬように攻撃を放つ必要があるということは……!」
神速の踏み込み。
蛟鬼の体が、一瞬にして『悪の王子ライオネル』の剣戟の内側へと入り込む。視線が交錯する。
互いに互いの放つ技は、もうわかっていた。すでに猟兵達の攻撃に寄って満身創痍である『悪の王子ライオネル』。彼が敵である猟兵を近づかせたくないのは明白だ。
そのために空間の断裂を引き起こす技を使った。
その目論見は正しい。
だが、神速の踏み込みを持つ者にとって、それはあまりにも拙い手であると言わざるを得なかった。
逃げるのではなく、立ち向かってこそ逆境は乗り越えることができるというのに。
「軽くつつくだけですので」
拳が『悪の王子ライオネル』の胴を捉える。ひた、と拳を押し当てるだけの小さな挙動。たったそれだけ。
踏みしめた足が、大地が、その練り上げられた練磨に寄ってのみ放つことの出来る絶技―――寸勁。
それを空中浮遊より踏み込んだ力を伴って放つ拳はまさに、大首が迫る(オオクビガセマル)が如く。
放たれた拳の力が『悪の王子ライオネル』の体を吹き飛ばす。
満身創痍の体で、その一撃をこらえるすべはなく、吹き飛ばされていく過程で、その体は保たずに散り散りに霧散して消えていく。
怨嗟の声が聞こえたような気がしたが、彼にとってそれは“塵”同然であった。
「こうして彼の罪は消え去ったのです……」
そう締めくくろうとした彼の袖の中からにゅるっと濡姫が登場し、ボソッと。
「ちなみに彼の正義は危険なもので、悪に堕ちる―――」
謎のエピローグを付け加える。
それは蛟鬼がしっかりと締めくくった最後を、わずかに喜劇のような終わり方にするものであった。
「喜劇みたいにするな! 濡姫!」
そんな彼等のやりとりが、悪意あふれる『世界征服大図書館』の中に爽やかな一陣の風を吹き込んだのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵