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迷宮災厄戦③〜黄昏の夢魔

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●無明長夜
 黄昏の闇に覆われた不気味な森を夢魔が駆ける。
 ナイトメア、と言われて多くの人間が思い描く姿のそのオウガは一つだけそのイメージと異なる部分があった。
 それは背に生えた腕。細長い人間の腕がまるで騎手のように空に向かって伸ばされている。
 夢魔が駆け、その腕が木々の太い枝に触れる。するとその枝を握りしめ、そこを支点に夢魔の体をぐるりと一回転させ空へと引っ張り上げた。
 恐るべき剛力を宿せし腕を移植されたオウガは、その不気味な姿の影を黄昏の森に落としながら訪れる獲物を待ちわびていた。

「さて、アリスラビリンスが大変なのはみんな知っていると思うけど」
 そう猟兵達に語りかけるケットシーはクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)。
「今回はオブリビオン・フォーミュラであるオウガ・オリジンだけでなくその力を奪い取った『猟書家』達とも戦わなくてはならない。まあ、考える事が多くて厄介だね」
 そんな風に軽口を叩く彼女はこほんと咳ばらいをする。
「しかしそれはそこに辿り着いてからの話、まだ始まったばかりだからじっくりと進んで行かないとね」
 そう言ってクーナは彼女の得た予知について説明を始める。
「今回皆に行って欲しいのは『ゆうとろどきの森』という黄昏の闇に覆われた不気味な森だ。そこに居るオウガには変わった特徴があってね……なんか、不気味な体の部位を移植されてるんだ」
 それも全部、と嫌そうな顔をして言う彼女。
「今回行って貰う場所にいるオウガはアルプトラオム、まるで悪夢で例えられる馬のような感じのオウガだね。劈く嘶きや周囲に恐怖の記憶や感情をばら撒いたり靄を噴霧してアリス達の絶望の記憶とかでダメージを与えて来る。それで移植された体の部位は不気味なやたら細長い人間の腕、それが馬の胴体の鞍を乗せる辺りの位置に生やされている。細長い見た目に反して力が異常に強い、それこそオウガが全力疾走しても手を離さない位にはね」
 うっかり捕まると大変かもだから何か対策練っていった方がいいかもね、と彼女は捕捉する。
「さて、まだ戦いは始まったばかりだ。不気味な相手になるけれど、遠慮なくぶっ飛ばして進んで行こう」
 そう説明を締め括り、クーナはグリモアを輝かせ猟兵達を黄昏の森へと転送したのであった。


寅杜柳
 オープニングをお読み頂き有難うございます。
 夕闇は深くなると恐ろしくなるもの。

 このシナリオはゆうとろどきの森で胴に不気味な細長い人間の腕を移植されたアルプトラオムの群と戦うシナリオとなります。
 胴の人間の腕は異常な怪力を持ち、迂闊に捕まると逃れにくいようです。
 また、下記の特別なプレイングボーナスがある為、それに基づく行動があると判定が有利になりますので狙ってみるのもいいかもしれません。

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 プレイングボーナス……「不気味な身体部位」への対抗手段を考える。
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 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『アルプトラオム』

POW   :    劈く嘶き
命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    狂い駆ける
【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    もがき苦しむ
攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。

イラスト:烏鷺山

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

クロード・ロラン(サポート)
●心情
「俺は咎狩り!オブリビオンは皆狩ってやるよ!」
オブリビオンを倒すことこそ自分の存在意義と思っています
心情的に敵に同情することもありますが、
最終的にオブリビオンは狩るもので、それが救いにもなると思っています
助けるべき人がいれば、全力で助けに行きます
言動が素で中二病まっさかりな感じです

●戦闘
小柄さ・身の軽さを活かした、スピードやアクロバティックな動きで戦うタイプ
ダッシュ、ジャンプを多用し、敵の死角に潜り込んだり、敵を一ヶ所にまとめてUCを使います
武器は大鋏。斬ったり、叩いたり、お好きに使わせてください

その他、連携やアドリブお任せします


スピレイル・ナトゥア(サポート)
精霊を信仰する部族の巫女姫です
好奇心旺盛な性格で、世界をオブリビオンのいない平和な状態に戻して、楽しく旅をするために戦っています
自分の生命を危険に晒してでも、被害者の方々の生命を救おうとします
技能は【第六感】と【援護射撃】と【オーラ防御】を主に使用します
精霊印の突撃銃を武器に、弾幕を張ったり、味方を援護したりする専用スタイルです(前衛はみなさんに任せました!)
情報収集や交渉のときには、自前の猫耳をふりふり揺らして【誘惑】を
接近戦の場合は精霊の護身用ナイフで【捨て身の一撃】を繰り出します
マスター様ごとの描写の違いを楽しみにしている改造巫女服娘なので、ぜひサポート参加させてくださると嬉しいです!



 夕と夜の狭間で止まったような森の中を悪夢の黒馬はひた走る。
 まるで苦痛や恐怖から逃れるように苦しみの嘶きを上げながら駆け巡るそのオブリビオンは、自身の裡に宿る不明瞭な感情に突き動かされるようにして少しでも広く、遠くまで自身を苛む感情をばら撒かんとしていた。
 青白く細長い人間の手――背中に移植されたその腕は掴める位置に近づいたものを片っ端から掴み握り潰し、破壊の為の剛力を周囲に振るう。
 そんな狂乱するアルプトラオムの姿を、精霊術士である改造巫女服のキマイラの少女スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)は痛ましく思いながらも眺め、精霊の力を宿した突撃銃を握る手に力を込める。
 オブリビオンのいない平和な世界に戻し、楽しく旅をする為に彼女は戦うのだ。
 一方で人狼の少年、クロード・ロラン(黒狼の狩人・f00390)はやる気十分な様子で黒馬の様子を観察していた。
 彼にとっての存在意義はオブリビオンを倒す事、狩る事。それを為す事こそがオブリビオンにとっても救いになる事だと、彼は信じている。
 だから、彼は彼の存在を主張するように黒馬に対し叫ぶ。
「俺は咎狩り! オブリビオンは皆狩ってやるよ!」
 その声に反応し、猟兵を認識したアルプトラオムがその上半身を一度跳ねさせ後ろ脚だけで立ち上がり、それをスタートに加速し踏み潰さんと森の中を一直線に駆ける。
 しかしクロードはその突進に対し跳躍、木の枝を支点に空へと跳ねて軽々と回避する。
 アルプトラオムの背に生えた人間の腕も届かぬほどの高さまで舞い上がり、更に枝を蹴り軌道を変えつつ銀の大鋏を構えると、黒馬とすれ違った瞬間にその刃で馬の胴体を斬り裂く。
 傷自体は浅い。だが黒馬は悲鳴を上げて人間の腕を伸ばし、人狼の少年を掴もうとする。けれど少年の動きは風のように早く掴みどころのない変幻自在なもので思うようにはいかない。
 周囲を煩く飛び回り切り裂いてくる少年に苛立ったか、黒馬の形がぼやけ何かを周囲にばら撒き始める。
 それは黒馬を構成する感情と記憶、恐怖。周囲にそれらをばら撒く暴れ馬と化したアルプトラオムは距離を取ったクロードへと踏み込まんとする。
 しかしそこに銃弾。炎の精霊の力を宿したそれはスピレイルの突撃銃より放たれたものだ。
 出鼻を挫かれた黒馬は標的をキマイラの女に変えようとするも、スピレイルは更に弾丸をばら撒いて黒馬の気勢を削ぐ。
 あの黒馬の攻撃を受けたのなら、黒馬を構成する絶望の記憶や感情が彼女を責め苛んだ事だろう。
 だが黒馬の攻撃手段はその馬の体と背に生やした人間の腕によるものだけのようで。距離を取りながら戦い、接近戦を避ければほとんどの攻撃を回避できる。
「この刃に、咎狩りの力を――いくぜっ!」
 彼女の攻撃により生じた隙、畳みかけるようにクロードが獲物である銀薔薇の大鋏を強化する為にユーベルコードを起動。
 銀色に光る彼の背丈ほどもあった大鋏はその刃を三倍ほどに伸ばすと、突風のように駆ける彼が銀薔薇の大鋏を一閃。
 その胴体を中程まで切り裂き、黒馬を構成する何かをその傷口から噴き出させれば、その間にスピレイルのユーベルコードの準備も整う。
 周囲の精霊の力を吸収し一つの弾丸の形に収束させ続け、巨大化を続ける炸裂弾。それを突撃銃の引鉄を引く動作と共に黒馬に対し放つ。
 胴体を深々と切り裂かれ一度足を止めてしまった黒馬にそれを回避する余裕もなく、背に生えた細長い人の手でそれを受け止めようとするもそれを貫通、黒馬の胴体にめり込みその内部で炸裂。体内からの衝撃に黒馬の曖昧な体は耐え切れずに靄のように霧散する。
 先ずは一体、だが黄昏の森にはまだまだこの不気味なアルプトラウムが駆けまわっている。
 次なる獲物を探る為にクロードとスピレイルの二人は狼の耳と黒猫の耳をそれぞれ働かせて次なる悪夢の黒馬の気配を探る。
 そうして狭間の森をまるで悪しき獣を狩る猟師のように、同年代の二人は駆けて行った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

高柳・源三郎(サポート)
旅芸人一座の座長、それが高柳源三郎じゃ!!(まだ零細なんじゃがな......)。
性格は酔いどれおやじじゃが旅芸人一座の座長なので本番(戦闘)では酔いが殆ど覚めて戦うことが出来るんじゃ。
武器である【不思議なたぬき人形「はな」】【暗殺用たぬき人形「たろう」】を使いまるで踊りや人形劇をするかのう様にユーベルコードを使い戦うのじゃ。時々【竜珠】に封じ込めてある骸魂・八岐大蛇に乗っ取られて暴れて回ってしまうんじゃ。
情報収集は芸をして道行く人の足を止めて人達の噂話を聞けば集められると考えてとるんじゃ。
口調は(わし、~殿、じゃ、のう、じゃろう、じゃろうか?)です。



 黄昏の森を、一人の酔っぱらいが千鳥足で歩いている。
 夕方のような夜のような何とも曖昧な時間帯で凍り付いたような奇妙な場所。けれども彼、高柳・源三郎(零細旅芸人一座の酔いどれ座長・f15710)はこんな場所でも酔いの回ったままだ。
 そんな傍から見て無防備な様子の彼を見つけた悪夢の黒馬の一匹は、体から絶望と恐怖の記憶をばら撒く暴れ馬と化して彼へと突撃する。
 衝突の一秒前、ぼんやりとした自意識で曖昧な恐怖に突き動かされる黒馬は今まさに踏み潰そうとしている人間の男の顔を見ていなかった。
 ――もし見ていたとしても結果に変わりはなかったのだろうけれども。
 赤らんだ顔はそのままに纏うオーラは剣呑なものへと変わり果て、その眼に真剣な色を宿した源三郎は暴れ馬の前脚の一撃を馬の真下に潜り込む事で回避する。
 そして流れるような動作で取り出した二体のたぬき人形を操る。
 オスのたぬき人形『たろう』は黒馬の腹部に暗器の刃を突き立て、メスのたぬき人形『はな』は黒馬の真下という危険地帯から不思議な力で源三郎を弾き飛ばし避難させる。黒馬のばらまく恐怖の記憶や感情も不思議な力を障壁のように構築して源三郎へは通させない。
「踊れ、踊れ♪ 武器達踊れ♪」
 そして、体勢を立て直しながら歌うように囃し立てる源三郎、それはユーベルコード起動の合図。
 途端、暴れ馬の真下に潜り込んだままの『たろう』の内臓武器が六十四個複製され、その刃を黒馬の腹に念力ですべて同時に突き立て貫通させる。
 その間十秒にも満たず。何が起こったかもアルプトラウムの不明瞭な自意識では理解できなかっただろう。
 そして黒馬の背を貫通し飛び出した刃が急旋回し馬の背に雨のように突き刺されば、プツンと糸が切れた様にアルプトラウムの体は霧のように薄れ崩れ去っていく。
 後に残るは一人の酔っぱらい。暗殺者の気配からいつもの酔いどれおやじの気配に戻った彼は、上機嫌な様子で黄昏の闇に覆われた森をマイペースに歩いていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋山・小夜
アドリブ歓迎

「記憶や感情に干渉してくるとは、こりゃまた厄介なやつですね。」

戦闘開始直後にユーベルコードを発動。
「不気味な身体部位」への狙撃を試みるために、若干離れたところで80cm超電磁加速投射砲グスタフ・ドーラの二門と、二〇式戦斧 金剛(射撃モード)を展開、グスタフとドーラの二門を狼耳の近くで80cm砲弾を連続発射し、一時的に自身の聴覚を潰す。もちろん、金剛による射撃も行う。
可能であれば、二〇式戦斧金剛を斧モードにチェンジさせ、「不気味な身体部位」を中心とした部分への一撃離脱(ヒットエンドラン)攻撃を行う。

「『歩く武器庫』の名が伊達ではないことを証明して見せますよ。あんたを潰すことでね!」


エドガー・フォーサイス
アドリブ・連携歓迎

なるほど…確かに悪夢の化身といった姿ですね、面倒な事ですか弱く儚げな美少年である僕が掴まったら厄介な腕も備えられていると……なら、逆に利用するとしましょうか

まずは箒にまたがって「空中浮遊」
ついで「全力魔法」で風を巻き起こし飛ぶのに有利な環境を形成、嘶きや爆走が少しでも届き辛い場所を滑空するなど回避に全力を尽くします
近接域に入らない様にも留意

同時に相手の行動パターンや癖を観察
隙を見出だしたら【指定UC】を囁き穢します
さあ、愛を、かつて貴方が殺した者達が抱いた愛をその身に満たして下さい
今の貴方は完璧ですか?…いいえ、違うでしょう?

さあ、望むままに、思うがままに自分を壊して下さい



 悪夢の黒馬は森を駆ける。
 徐々に同胞の気配が減っている。猟兵にやられている。明確な自意識はなくとも自身に危機が迫っている事くらいは認識できる。
 何故なら彼の黒馬を構成するものはオウガに喰らわれたアリス達の恐怖と絶望、苦痛なのだから。
 仲間を失くし最後には孤独となる。それはこの世界に召喚されてしまったアリス達の感じた感情と近似したものをアルプトラオムに抱かせる。
 ――根本的な自意識に欠けるが故に恐怖を超える智慧もなく、感情に振り回されこの明ける事も夜闇に閉ざされる事もない黄昏の森をただ走り回る。
 ただ、自身を構成する感情をばら撒く事しかできないそのオブリビオンは背に移植された細長い人間の腕を乱雑に振り回す。
 まるで明けない夜に捕らわれ藻掻き苦しんでいるかのように。
「なるほど…確かに悪夢の化身といった姿ですね、面倒な事です」
 線の細い美少年、そう見える西洋妖怪、エドガー・フォーサイス(傾奇のアガペ・f28922)はそんなオブリビオンを見ながら細く息を吐く。
「記憶や感情に干渉してくるとは、こりゃまた厄介なやつですね」
 そして人狼の少女、秋山・小夜(お淑やかなのは見た目だけ。つまり、歩く武器庫。・f15127)も苦い顔をしながら呟く。
「その上か弱げな美少年である僕が掴まったら厄介な腕も備えられていると」
 冗談めかして言うエドガーだが、実際あの腕の力はすさまじく、一気に致命傷を叩き込まれる可能性すらあるだろう。
 けれど力が強いという事は、敵に向けられたときにのみ効果を発揮するものである。
「……なら、逆に利用するとしましょうか」
 そう呟くエドガーの表情は、どこか悪だくみをしているかのよう。
 そんな二人にアルプトラオムが気づき、前脚で地面を掘り返すようにしながら警戒の姿勢を取る。
 一触即発の危険な空気、それに物怖じすることなく小夜は一歩、前に足を踏み出し宣言する。
「『歩く武器庫』の名が伊達ではないことを証明して見せますよ。あんたを潰すことでね!」
 その宣言と共にワルツとしてのファーストステップを踏み出す。
「剣戟の響きは円舞曲、響き渡る雄叫びは観客の歓声、舞い散る鮮血は最高のドレス!」
 朗々と謳う彼女は、見た目こそ変わらない。けれど起動したユーベルコードにより超高速での戦闘に対応できる状態に変化している。
「さぁっ、一緒におどりましょう? 華麗なる大円舞曲!」
 加速した速度に合わせた歩調で一息に後退し距離を取った小夜はその狼の耳元に巨大な『80cm超電磁加速投射砲グスタフ・ドーラ』の二門と射撃モードへと変形させた巨大戦斧『二〇式戦斧 金剛』を展開、次々に発射し砲弾を悪夢の黒馬に叩き込まんとする。
 向こうも暴れ馬状態で超スピードと反応速度を獲得しているが、小夜も同系統のユーベルコードで超高速戦闘に対応している。
 駆け回る暴れ馬を狙い、耳が麻痺するような轟音を至近距離に響かせながら砲弾を放つ。時に回避され人の腕にガードされ、接近される前に高速で移動し黒馬の背後に砲弾をぶち込むように高速での砲撃戦が行われていく。
 そんな小夜の戦闘の様子を、箒に跨り空を飛行しながらエドガーは観察していた。悪夢の黒馬の嘶きも暴走も届かぬ距離――不意に高跳びした場合にも備え、高度を十分維持している。
 全力を込めた魔法で風を操り有利な環境を創り出した彼の動きは地上を駆けるよりも自由自在。
 空より冷静に観察する彼はこのアルプトラオムが人間の腕を攻撃に用いるよりも身を守る為に使う事を優先させている事を見抜く。
 そして同時に、後方から前方へと腕をやる時に動きが固くなり隙が生じる事も。

 そして、終に砲弾の一発が黒馬の背の人間の腕の根元に命中、その細い腕の半分程を削り取った。
 ぶらぶら揺れる人の腕。けれど尋常なものでないのか、黒馬が暴れて腕を鞭のように振り回すのに合わせ、近くの木を指の力だけでえぐり取っていく。
 そんな悪夢の黒馬が近づいてくる前に小夜は即座に距離を取る。あんなふざけた力の腕に掴まれてしまえばただでは済まないだろう。
 回避しながら小夜は背後に回り込み砲撃を行う。それを人間の腕を赤黒い馬の尻尾へとやり弾いて攻撃を凌いだ瞬間、空のエドガーが黒馬の頭付近まで急降下し、ただ一言を囁く。
「狂乱招く言の葉よ、我が敵を穢し災いを齎せ……」
 それは呪言、精神を揺るがせ歪な自己愛を増幅させる穢れの言葉。
 囁き即座に空へと舞い上がったエドガーは黒馬を見下ろして呟く。
「さあ、愛を、かつて貴方が殺した者達が抱いた愛をその身に満たして下さい」
 殺されたアリスの感情や記憶を元とするオウガであるアルプトラオム、その元となった人物が抱いた自己愛をその霧のような黒馬の体の裡に増幅させていく。
「今の貴方は完璧ですか? ……いいえ、違うでしょう?」
 囁く言葉は泥のように悪夢の黒馬に纏わりつき、染み込んでいく
 結果、生じるのはアリスとしての美意識と現在の黒馬のオウガの肉体の不一致。
「さあ、望むままに、思うがままに自分を壊して下さい」
 そう告げたエドガーの言葉に、アルプトラオムはその人間の腕を自身の首にかけ、締め上げる。
 太い馬の首、霧のようなもので構成されているけれども、密度の高い今の状態では実体があるも同じ状態だから掴むことができる。
 そして、締め上げる力はどうしようもない現在への絶望により酷く強くなっている。
 そんな自傷を行うアルプトラオムに生じた隙――それを小夜が見逃すはずもなく、テンポの良いワルツのステップを踏みながら高速で接近すると本来の巨大戦斧の形に戻した金剛を馬の背、人間の腕の生え際に真上から叩き落す。
 斧の一撃の直後に小夜は離脱――しなかった。
 なぜならその一撃でこのアルプトラオムの胴体は両断されていたから。
 悪夢の終わりのようにその身体が霧と化し解け、何もなかったかのように溶け込んでいく姿をエドガーと小夜は見届け、次の標的を探すために黄昏の闇の深くへと向かっていった。

 そして、ゆうとろどきの森の一角に巣くう不気味な腕を生やしたアルプトラオムは猟兵達の活躍により一掃される。
 森は相変わらず黄昏の闇に包まれたまま。けれどオウガの闇の一つはこうして消し去られたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月04日


挿絵イラスト