迷宮災厄戦⑥~解放を夢見て
果たしてどれほどの時間を過ごしていたのか、彼女らはとうに思い出せなくなってしまった。
邪悪なオウガに捕らえられ、自らの肉体を石へと変えられて、解放の時を夢見たまま幾星霜。
狂おしいほどの時間の中で……しかしオウガの掛けた術により、正気を喪うことすら許されていない。食事も、呼吸も必要はなく、死の安寧が彼女らに訪れることもない……できるのは、いつしかこの苦しみを、誰かが救ってくれるという希望を抱くことくらい。
ああ――その希望は聞き届けられた。
石と化した体に纏わりつくのは、どこから現れたかも判らぬ亡霊らしきもの。
そして……その亡霊たちは動くことのできぬ彼女らの耳元で、そっと何事かを囁いたのだ。
秘められし『ぱらいそ預言書』を信じよ。
これから現れる者たちを見事倒した暁には、お前は解放されるであろう。
もっとも……それが真実かどうかを確かめる術は、彼女らには決してないのであるが。
否……それはヤクモ・カンナビ(スペースノイドのサイキッカー・f00100)の予知にさえ判らない。十中八九、全くの嘘偽りに違いないのだが。
それでも彼女らは、信じる道しか残されていなかった。信じねば、決して希望が叶わぬことを解っているから。それに……信じれば彼女らに憑いた霊たちのポルターガイストで、どこか新しい場所にゆくことくらいはできるから。
だから、彼女らは『魔空原城』で待っている……虚空に浮かぶ洋風めいたサムライエンパイアの城。その中のひとつの大広間の中で。
アリスたちの呪われた生に、終止符を打って下され――魔空原城の攻略以上に、それがヤクモの願いであった。
あっと。
あっと。でございます。迷宮災厄戦『⑥魔空原城』の戦いをお送りします。
石像と化したまま長い時間を過ごし、疲れ果てたアリスたちは、永劫の苦しみから逃れるためならば自ら傷つくことすら厭わず襲い掛かってきます。
彼女らを救うには……もう、彼女らの石像を砕き、死による解放をもたらすしかありません。たとえ命を失う結果になったとしても猟兵たちを倒し、解放されたいという彼女らの願いを正面から受け止めて、彼女らの苦痛に終止符を打って下さい……彼女らはもはや捨て身の覚悟であるからこそ、その覚悟を打ち破る覚悟が重要なのです。それはプレイングボーナスでもあります。
第1章 集団戦
『堕ちた犠牲者『アリススタチュー』』
|
POW : 石像擬態
全身を【物言わぬ石像】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 石呪灰煙
レベル分の1秒で【口から石化ガス】を発射できる。
WIZ : 石化接触
【本体の身体のどこか】が命中した対象に対し、高威力高命中の【石化の呪い】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
イラスト:TAB-AS
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リコリス・ガレシア
主人格はおっとりと穏やかな少女
「何て酷い」
石像たちを真っすぐな瞳で見つめ返す少女は叫ぶ
「お願い。この子たちを助けて!」
衝撃で帽子が吹き飛ぶ中、石像のガスが届かない位置まで残像を生み出す縮地で移動した少女はゆっくりと立ち上がる
「本当に、いつも無茶ばかりする」
夜のような黒髪、血のような赤眼、帽子の代わりに般若の面を斜めに被り、彼岸花模様の着物を纏う
右手で左手首を掴むと、左腕が天叢雲剣に変化しそのまま抜刀します
「俺は一振りの刃だ。主が望むものを断ち切るのみ」
UC使用。天井まで雨雲が覆い、暴風雨が吹き荒れ石化ガスを吹き飛ばす
「神器解放『天叢雲剣』」
「お前たちを解放する」
雨雲から落ちる雷が石像を破壊する
……解ってる。
その光景が部屋の中に広がっていることは、頭では十分に解っていたはずだったのに。
けれどもリコリス・ガレシア(多重人格者の神器遣い・f28348)は、込み上げてくる嗚咽を禁じきれぬままだった。
雷に打たれたかのように呆然と立ち尽くし、石像たちを真っ直ぐに見つめたままで、なんて酷い、と口から零す彼女。本当は今すぐにでも顔を背けたいのに、そんなことをすれば自分がこの光景から逃げ出す卑怯者になるかのようで、彼女らの存在そのものに目を瞑るかのようで、足が床に擦れる重い音と共に近付いてくる石像たちから視線を離せない。
「お願い。この子たちを助けて!」
リコリスは自分が叫んだのだと思ったが、本当は声が出ていたかどうかさえ定かではない。ただ彼女が憶えているのは……不意に吐き出される石色のガス。それは彼女の胸から上を覆って――。
――数メートルほど後方で、“リコリス”は膝立ちの姿勢からゆっくりと立ち上がってみせた。
『本当に、いつも無茶ばかりする』
煙に覆われた残像が消え、被っていた帽子が床に落ちた後、そう囁いた“リコリス”は髪を黒く染め、眼を血のように赤く変え、帽子の代わりに斜め般若の面を被る。彼岸花模様の着物を纏った“ソレ”は――。
右手で掴んだ左手首を“抜刀”し、高らかに天へと掲げてみせる!
神器解放、『天叢雲剣』。
嵐を喚ぶ神剣の真の刃は、天井まで覆う嵐雲。
『俺は一振りの刃だ。主が望むものを断ち切るのみ』
神剣は暴風雨にてガスを飲み込んで、それから、高らかに宣った。
『主の望みに従い……お前たちを解放する!』
雨雲からは石像へ、激しい雷が落下して……“リコリス”の髪と瞳、それから腕と衣服が元に戻った時には、少女像はすっかり砕けて、ようやく不自由から永遠に解放されていた。
そしてその時の雷鳴が、戦いの始まりの合図となった。
成功
🔵🔵🔴
佐伯・晶
人の心では永遠には耐えられないよね
もう元には戻せないようだし
早く砕いてあげるのがせめてもの情けかな
女神降臨を使用
空からガトリングガンで攻撃するよ
届くか届かないかの高さを飛んで跳躍を誘い
動きを変えれない空中で砕こう
砕けた体を投げてくるなら
神気で飛んできた石塊の時間を停めて防御
これは僕なりのオーラ防御だよ
数が多いなら使い魔の催眠術で
自分をただの石像だと思い込ませ動きを止めよう
本質的な解決にはならないけど
自分を人間だと思わなければ辛くないだろうからね
これは女神だけど邪神の力だからね
残念ながら救う事はできないんだ
僕も時の流れに擦り切れてしまう前に
元の体に戻れればいいんだけど
いや、今は目の前に集中しよう
人の心では耐え切れるはずもない永遠を、その身を砕いてやることでしか終わらせられない。
暴風雨吹き荒れた直後の室内を、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は宵闇色のドレス姿で駆け上っていった。纏う女神の姿の前には、石化のガスも届きはしない。よしんばどうにか届いても、静謐なる神気を貫けるはずもない。
そんな一方的な状況の中で、さらに一方的に放ったガトリングガン。女神の力そのものにより産み出される弾丸は、手足くらいの細さであれば、呪いにより硬化した表面をも粉砕してみせる。
それでも……手足を捥がれたくらいでは石像は動きを止めぬ彼女らの様子が、晶の心を痛めるのだった。
あれではたとえ石化から解放されても、手足を失ったまま生きることになるだろう。だというのに彼女らは、その程度今よりよっぽどマシとでも言うかのように、憑依する亡霊を巧みに操り、その砕けた手足をこちらに飛ばして攻撃せんとする。
……が、破片はやはり神気に止められて、すっかり時を止められてその場に落下した。
晶には、何も効きはしない……けれども逆に晶のほうも、彼女らを楽にしてやる術はない。晶に宿る女神の本性は、疑いようもなく邪神のそれであるからだ。
(「だから残念ながら、『救うため』には使えないんだ」)
でも……唾棄すべき選択肢さえ取っていいのなら、違う意味での“救い”なら与えることができた。
「さあ、使い魔たち。彼女らを催眠術にかけてきて。内容は――『自分は動くことも考えることもない石像だ』、だ」
自分を人間だと思わなければ辛くない。だけれどそれは、本質的にはより憎むべき解決法だ。
邪神の姿に囚われて、こんなことばかりして心を擦り切れさせてしまう前に、元の体に戻らなくては……そんな焦りを感じた晶。
けれども次の瞬間には首を振り、“邪悪”に囚われた石像を真っ二つに断ち切った。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
・第三『侵す者』武の天才
一人称:わし/わしら 豪快古風
対応武器『黒燭炎』
憐れだの。憐れに思うからこそ、わしは…『わしら』はここにおるのだが。
ああ、お前たちの願い、正面から受け止めよう。
『わしら』は一度命を落とした悪霊なれど、今をまた生きる猟兵なれば!
お前たちの全てを受け止めようぞ!
石は鎧と見て【鎧砕き】交えつつ【なぎ払い】の【2回攻撃】を行うが、それで砕けぬときは【それは火のように】で一体ずつ確実に砕こうぞ。
死して救われるのならば、そのまま砕かれ眠れ。
…おやすみなさい。
その後も次々に足を床に引きずりながら現れる石像を、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)――いや、『侵す者』はじっと見定めていた。
「憐れだの。のう、そうだろう?」
漆黒の槍、『黒燭炎』を前方に向け、両足は前後に肩幅に開く。
躙り寄る少女。明らかに自身の正面へと向けられたままの槍に、気付かぬという訳でもなかろうに。けれども石像は回り込もうとする素振りさえ、丸っきり見せようともしない。
(「だからこそ、わしは……『わしら』はここにおるのだが」)
脳裏で“他の者たち”と会話したらしく、『侵す者』は一つゆっくりと頷いた。彼女は回り込もうと思っても、真っ直ぐにこちらに向かうだけでも精一杯なのだ。よしんば左右に動いたところで、その速度ではすぐに再び槍を向けられるのみだろう。
(「それを解っていても尚、わしらの方に歩みを進めるか」)
死地を承知で生を掴まんとする。その姿の何たる武士(もののふ)か。
「ああ、お前たちの願い、正面から受け止めよう」
槍を、迷うことなく喉元へと合わせ。少女の、全てを目に灼き付ける。
「『わしら』は、確かに一度命を落とした悪霊なれど。しかし、今をまた生きる猟兵なれば!」
乾坤一擲の気合いと共に繰り出した穂先は、壊すことのできぬはずの石像の首へと大穴を開けた。
「カーッ!」
その勢いのまま再び槍を引き戻し、今度はぐるりと頭上で回し、首を刈り取り跳ね飛ばす。
もう二度と動くこともなく、ただその場に横たわる石像。
果たして義透は彼女の決死の覚悟を、全て受け止めたことになっただろうか?
(「それを決めるのはわしではない……が、死して救われるのならば、願わくばそのまま砕かれ眠れ」)
おやすみなさい、と手を合わせて冥福を祈る義透の足元で……石像の頭部は一瞬だけ微笑んだように見えた。
大成功
🔵🔵🔵
山梨・玄信
哀れな…もはや倒す事でしか救えぬか…。
ならば、わしも全力で受け止めるぞい。
【SPDを使用】
先ずは防御に専念して、敵が動けるのか確認するぞ。
それによって戦い方が変わるからのう。
見切りと第六感で石化ガスの発生タイミングを測り、カウンターで気弾をぶつけて飛散させるぞい。
オーラ防御は全身に展開し、万一に備えておくのじゃ。
敵が動けるなら気弾を2回攻撃にし、ガスを消した後に2発目で敵を攻撃。
動けぬなら…敵の背後に回って浸透勁(鎧無視攻撃)で攻撃するのじゃ。自分が死ぬ瞬間なぞ見たくないじゃろうからな。
戦闘が終わったら、念仏を唱えるぞ。
「仏の道は捨てので、これぐらいしかしてやれんが…」
アドリブ歓迎じゃ。
南無阿弥陀仏。名前さえ知らぬ少女の骸へと、念仏を唱える声がする。
(「哀れな……やはり倒すことでしか救えなんだか」)
仏の道は捨てた破戒僧の山梨・玄信(3-Eの迷宮主・f06912)であっても、御仏に縋るほかはなかった。御仏よ、仏が道を踏み外した者さえ救う者だと言うのなら、このわしの願いを聞き届け、この娘に冥福をもたらしたまえ。
いまだ石を砕いた感触の残る掌に目を落としながら、玄信は戦いと呼んで良いものかどうかすらも定かでない邂逅を、改めて思い出していた。
警戒し、距離を取って様子を見る玄信に、少女は満足に近付くことさえできやしない。
ポルターガイストの力で重い体を動かすよりも、玄信が軽くステップを踏む方が遥かに速く。彼女がもどかしがっているだろうことは、問いかけるまでもなく明らかだった。だから……。
彼女の口内に仕込まれていた装置は、少しでも玄信に追いつこうとガスを噴射した。
「む……!」
けれども遠くからガスを吐きかけたくらいでは、玄信の戦闘の勘を破るには至れない。肌に触れさえすれば、間違いなく動きを阻害させるだろう隠し玉……が、反射的に玄信の発した気魄がそうさせない。肌どころか両者の半ばほどのところで、ガスの霧をすっかり押し留めてしまう。少女は自らが発したガスに視界を奪われて、ようやく、その霧が晴れた頃には――。
――視界が目まぐるしく広間の中を回り始めた瞬間が、彼女の見た最期のものだった。
目隠しになった霧を回り込むように背を取った直後の位置に、今も玄信は佇んでいる。
(「わしが浸透勁で体を砕いてやったのを、理解する間もなく逝かせてやれたのなら良いが」)
いかに死ねるのであればそれで良かった少女であっても、死の瞬間を自覚させるなど、そんな惨いことをするわけにはゆかぬのだから。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
……承りました
全霊、いえ、全性能を以て相対させていただきます
彼らは最早捨て身、硬化し防御を固めることすら最低限に攻撃を加えてくることでしょう
脚部スラスターでの滑走●スライディング移動で攻撃を躱しつつ頭部格納銃器での●なぎ払い掃射で攻勢を牽制
硬化して防御した直後の攻撃に移る挙動をセンサーでの●情報収集で●見切り、間髪を入れずに肩部格納銃器での●スナイパー射撃でUCを発射
凍結させて動きを封じた石像を●怪力で振るう剣や盾、発砲する通常弾頭で砕いて行きます
光が氷の欠片で乱反射して…
こんな物の何が美しいものか
この世界を救い、悲劇を減らす為とはいえ騎士として救う事も出来ずにこの仕打ち…存分にお恨みください
……いいや、惨さという点で話をするのなら、彼らの身を打ち砕かなくてはならぬという時点で十分に惨いことに違いないのだろう。
相手は、死ぬのが九で生きるのが一……あるいはもっと生き残る可能性は低いと知っていて、微かな救いの希望のために、全てを捨ててでも戦いを挑む。
動きの鈍いその突撃を脚部スラスターでの滑走で避け、すれ違いざまに兜の内蔵銃を撃つ。石像の肉体に当たった銃弾はパラパラと音を立てて散り、トリテレイアの内蔵センサーはその際に何らかのエネルギーが石の内部から表層へと移動した様子を察知する。
(「ユーベルコードによって表面を硬化しましたか……しかし、最低限の面積のみに抑えているようです」)
そうしていた理由は既にセンサーに捉えられている。エネルギーは何らかの内蔵機構に溜められている……すなわち、それは彼女が攻撃へと移る前兆だ!
「……承りました」
その時トリテレイアの発した台詞は、どこか場違いなようにも聞こえた。けれども……その意味は余人には解らなくても、少女にだけは伝わったに違いない。
遅々とした石の動きにスラスター。秘められたユーベルコードにエネルギーセンサー。全霊を――いや機械ゆえ“全性能を”か――以って相対することで、せめてもの敬意を彼女に示す。それはすなわち彼女の渾身の攻撃の時……トリテレイアも渾身の攻撃にて彼女を屠るということだ。
両肩から放たれた超低温弾が、石像を内部のガスごと凍結させた。
次の瞬間……振るわれる盾が。剣が。放たれる弾丸が脆くなった彼女を粉々にする。
舞い散って小型の虹を作る氷の破片の、何が美しいものか。
この世界を救い、悲劇を減らすためだとはいえ、少女一人さえ救えず何が騎士か。
(「存分にお恨みください……」)
希望を奪うことでしか絶望を祓えなかった自分を、彼自身が最も許し難いから。
大成功
🔵🔵🔵
依神・零奈
その想い相分かった、私の役目は現世の守護……ではあるけど本分は魂が迷わないように見届ける事、それだけは今になっても変わらない。……戦なんて面倒だけど、そうも言ってられないね。
彼女らの決死の覚悟を打ち砕くには直接受け止めないとかな……【破魔】の力を全身に纏い相手の呪いの効果の軽減を狙うよ。それに呪いは私の得意分野、UCを発動し舌禍による【呪詛】で相手の動きを制限しつつ【破魔】の力を込めた無銘刀でその体を打ち砕いていく。
「もはやその体は動かない、もう動く必要はない」
相手の動きが鈍ったら更に【フェイント】などで翻弄しつつ戦闘を進めていけるようにしよう。確実に破魔の力で呪いを浄化し魂を救えるようにね
次々に砕かれてゆく少女たち。それが自身の役目たる現世守護のため必要な事柄だというのなら、依神・零奈(殯の掃持ち・f16925)も戦なんて面倒だなんて言ってもいられなかった。
(「その想い、相分かった」)
彼女らが決死の覚悟で挑んでいるのなら、こちらも直接受け止めることで打ち砕かなくてはならないだろう。神たる自身の破魔の力を、体全てに循環させる。
そうすれば……石化の呪いを宿した石像に触れても、零奈の体は石にならずに済んだ。もしも、その力を少女にまで逆流させて、その身に自由をもたらせたなら言うことなかったのに。
……が、言霊を災禍へと変える呪詛、『舌禍』の持ち主たる零奈だからこそ、それが叶わぬ願いであることがありありと見て取れてしまった。
石化の呪いを解こうとすれば、少女の肉体は戻るのではなく、石のまま呪いごと砕け散ってしまう。その神性を解放した零奈の力を以ってしても……だ。
「もはやその体は動かない、もう動く必要はない」
零奈は叶う限り優しく囁いてはやったが、それは『舌禍』による呪詛そのものだった。
元より動かぬ石像が、今では身じろぎさえもが許されない。すらりと抜いた無銘刀……そちらには浄化のほうの力を宿し、叩きつければ石像は呆気なく崩れ去ってゆく。
少女の呪いを浄化できていることは、疑いようもないことだった。
それでいて彼女を救うことはできない……できるのは彼女を、呪われた永劫の生から解放させること。
零奈は、確かに呪いを解いたのだ。二度と少女が、何かに囚われることはない。
ずっと囚われ続けていた彼女の魂が、迷わずに往くように……それだけは零奈も見届けることができたのだろう。
だとすれば零奈は、今の役目を得たからといって変わらぬ神としての本分を、きっと果たせたのだと信じたかった。
大成功
🔵🔵🔵
小烏・安芸
苦しみから解放する、か。苦痛を与える咎人殺しのウチがやると皮肉なもんやな。まぁ今に始まったことでも無し、苦しむべきでない相手を楽にするんも仕事の内や。
向こうは必死……いや、いっそ自分から終わりに来るくらいの勢いか。済まんけどその手を取ってやることはできんな。捨て身だからこそ目の前の相手以外への警戒は薄いはず、特に足元はな。
ラスティ・ピースをガントレット型に変形させて正面からの殴り合いで迎え撃つ構えを見せて、相手との間合いを詰めたところで模造呪鎖・落魂で捕縛させてもらうわ。
あとは直接触れんように相手を縛った鎖越しに全力の拳を叩き込んで、一撃で終わらせたる。もう悪い夢を見んで済むようにな。
そして――。
幾つも立ち並んでいたこの部屋の石像たちも、いつしか残すところはあと一つになっていた。
同じ目に遭っていたはずの仲間たちが全て砕かれてしまっていたことは、彼女も重々承知していただろうに。なのに、まるで何かに導かれるかのように立ち向かってくる彼女の様子は、小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)にはいっそ自分から終わりに来るくらいの勢いにさえ見えた。
「済まんけど、その手を取ってやることはできんな」
口の中で発した言葉は、果たして少女に届いただろうか? その台詞は少女の救い得ぬ境遇に対する嘆きか。はたまた罪人に苦痛を与えることを生業とする咎人殺しが、少女を苦しみから解放せんとすることへの皮肉か。
何にせよ必死にこちらへと近寄って来ようとする少女が、咎人殺しが処すべき――苦しむべき相手だとは安芸は思っていなかった。
(「それを楽にするんも仕事のうちや。どうせ今に始まったことでもないさかい」)
だから……ところどころが錆び付いた奇妙な形状の武器、『ラスティ・ピース』をガントレット型へと変形させる。そして、思いきり石像の顔面をぶん殴る……と見せかけて、紡いだ呪詛は『模造呪鎖・落魂』。
正面へと警戒を向けただろう少女の足元を、赤錆の浮かんだ鎖が縛めた。ただでさえ勝利を得ようと焦っていたところをガントレットで釣られ、足元が疎かになった石像は容易く転倒させられる。どうにか起き上がろうともがいていると……それを鎖は十重二十重に取り囲む。ガスを吐いても表には出せず、無論、その肌の呪いも誰にも触れないように。
だったら……あとは、引導を渡してやるだけだ。ラスティ・ピースの形状を調整し、最も威力の出せるガントレットに変える。そして思い切り息を吸い込んで……力の限り鎖へと叩きつけてやる!
「もう、悪い夢を見んで済むとええな……」
鎖の凹凸とガントレットが噛み合って、拳は、呆気なく石像を破砕した。
かくして大広間の石像少女は、全てが砕かれたことになる。
彼女らの命は助からなかったが、彼女らの魂は残らず救われた……そのことに猟兵たちは思うところはあるのだろうが、今はきっと、得たものだけをただ誇ればいいはずだった。
成功
🔵🔵🔴