迷宮災厄戦③〜蠢く獣たち
●森の獣
深い深い森は、どこまでも闇に覆われていた。
先を見通そうとしても、その静かな夕闇に遮られて行く手は判然としない。陽の差しこまない森では周囲に何があるかを捉えるだけがせいぜいだ。
足を踏み入れるだけで不安に駆られるような不気味さが、そこには蠢いていた。
そして、無数の影も。
「ウゥゥゥゥゥ……ッ!!」
「グルルル……グァウッ!!」
薄闇の中を徘徊する、人型の獣たち。
鋭い爪牙や翼、紫色の体毛を持つそれら――『ジャバオウガ』は空腹に耐えかねる獣のように唸り続けている。徘徊して探し求めるのは喰う獲物だろうか。
「ヴォオオオオオオオオオオオッ!!」
二本足で歩き、あるいは翼を使って飛び、ジャバオウガは夕闇の森を動く。
その長い尾の先端に移植された口――白牙の並ぶ獰猛な口から、飢餓の涎をふりまきながら。
●グリモアベースにて
「この森にうろついているオウガを、倒してほしい」
集まった猟兵たちに、プルート・アイスマインドはアリスラビリンスにある森をグリモアの投射映像で見せた。
鳥瞰するような映像には、大地を埋める森の姿が映っている。現地の暗さも相まって詳細までは見えないが、とにかくひどく居心地が悪そうだということだけは猟兵たちも察することができた。
一同の表情からそれを読み取ったプルートは、同意するように頷く。
「雰囲気に違わず、この森には何やら『不気味な身体部位』を移植されたオウガたちが潜んでいる。どこの誰の手によって移植されたのかは知らんが……まあこれが少しばかり厄介になるかもしれん」
移植された身体部位はお飾りではない。
自身の体と同じように動かせるそれはオウガの戦力を確かに底上げしているのである。
「おまえたちに倒してもらいたいのは『ジャバオウガ』と呼ばれるオウガの群れだ。知能が高いわけではないが、そのぶん獣らしく俊敏でな。おまけに飛行もできるしビームも撃てるときている。くれぐれも油断はしないようにな」
猟兵たちに念を押しながら、プルートはそのジャバオウガたちに移植された身体部位についても説明した。
ジャバオウガたちの長い尾の先には『牙を備えた口』が移植されている。それで噛みつけば喰いこんだ牙が相手を逃がさないだろうし、辺りの木々を噛むことで曲芸じみた移動もできるかもしれない。
何かしらの対抗手段は考慮しておいたほうがいいだろう、とプルートは言った。
「では森へ送るぞ、猟兵たちよ。準備はいいな?」
話を切り上げたプルートの掌の上で、グリモアが輝きを放つ。
いざ獣たちが蠢く森へ――猟兵たちの体は転送されてゆくのだった。
星垣えん
というわけで、星垣えんでございます。
今回は迷宮災厄戦のシナリオとなっております。
本シナリオでは『移植された不気味な身体部位への対抗手段を考える』ことでプレイングボーナスを得られます。
今回でいえば、ジャバオウガの尾に移植された『牙を備えた口』ですね。通常のユーベルコードに加えてジャバオウガはこの口を活用してきます。
ガブガブ噛みついてくるとか、枝を掴んでアクロバット移動とか。
なのでそこらへんに上手く対処できれば戦いも有利になるでしょう。
それでは、皆様からのプレイング、お待ちしております!
第1章 集団戦
『ジャバオウガ』
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POW : 喰らいつく顎
【噛みつき】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : かきむしる爪
【爪】による素早い一撃を放つ。また、【翼を限界まで酷使する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 燃え光る眼光
【視線】を向けた対象に、【額のクリスタルから放たれるビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:白狼印けい
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
御剣・刀也
尻尾についてる口ね
まるで日本の妖怪みたいだな
まぁいい。そんなことは些細なことだ。何であれ、立ち塞がるなら、斬って捨てるのみ
喰らいつく顎による攻撃は第六感、見切り、残像で避けつつ、尻尾の口による予想外の角度からの攻撃も十分に警戒する
枝を加えて上級からの強襲、尻尾を使った下からの不意打ちを常に意識しておきつつ、勇気で恐れず、カウンターの一撃で切り捨てる
「お前らがどんな技を使おうが、俺からすればしょせん曲芸。そんなもんでやれるほど、俺の命は安くない」
春霞・遙
腹ぺこにはお腹いっぱいの銃弾を食らわせてやりましょう。
攻撃を回避しつつトリッキーな移動手段が出来ないよう銃で翼や尾の「部位破壊」を狙います。
特に木に噛み付いた尾を支点に弧を描いて飛んでこられるのは洒落にならなさそうなので、動きに注意して全力回避かいざとなったら杖を取り出してぶん回して「カウンター」。
口でも尾でも、噛み付こうと口を開いたなら【バレットレイン】で全弾撃ち込みます。
ニオ・リュードベリ
オウガっていうだけで怖いのに……更にあんな姿になっているなんて
怖いけど頑張ろう……!
相手に対する恐怖や嫌悪感から【呪詛】をこめてバロック達を召喚
みんなで手分けして敵を追い込もう
相手が命中率の高いビームを撃てるからといって複数方向からの同時攻撃には対応しづらいと思う
バロックのうち半分は正面からビームに対する囮に
残り半分は尻尾の口に対する囮になってもらう
前と後ろから一気に攻め込ませるよ
けれど本命はあたし自身
オウガがバロック達に注目している間に【目立たない】よう少しずつ接近
そして敵の額と尻尾が両方ともバロックへの対応をした瞬間に【ダッシュ】で突っ込む!
勢いをつけて側面から【ランスチャージ】だよ!
逢月・故
わぉ、口が多いね!
ひとりでふたり分喋れるかい?
……なぁんだ、お喋りは出来ないんだねぇ
ざんねーん
ペンキ塗れにした赤い糸を張り巡らせよう!
んふふ、コレは特別性だからね!
そう簡単には切れないよ
怖がらせて手招いて、ふぅらりふらふら寄っといで
ほぉら、兎肉なんて好きでしょ?
なぁーんて、オレは女王陛下の可愛い可愛い黒兎さんだから、君たちにあげるものはないけどね!
糸に触れたらどうなるかって?
あら不思議、赤いペンキがぐるぐる伸びて荊になっちゃった!
オレのコレは赤薔薇の女王陛下のためにあるけど、どっかには荊に巻かれて百年眠ってた寝坊助なお姫サマが居るらしいよ!
ふは、眠りネズミだってそんなに寝ないのに寝汚いねぇ
ルパート・ブラックスミス
森の中、特に木々が生い茂る中に敵を【おびき寄せ】つつUC【理異ならす凍炎】発動。
周囲の木々に凍る鉛を伝わせ覆い、敵がアクロバット移動をするべく木々を掴んだ御自慢の尾口に、木々から鉛を侵食させ凍結し繋ぎ止めよう。
(【属性攻撃】【地形の利用】【グラップル】)
罠や待ち伏せも警戒せず、挙句本来の飛行能力を殺すような閉所にむざむざ飛び込む。
付け焼刃の力に溺れた慢心など、その牙と口は獣としての貴様らを弱くしたな。
後は宙吊りになったのを両断していくだけだ。
凍る鉛で巨大化【武器改造】した大剣による【範囲攻撃】で木々諸共【なぎ払い】をかける。
【アドリブ歓迎】
レナータ・バルダーヌ
口が二つもあったらたくさん食べられそうですけど、しっぽの方の口の中はどうなっているんでしょう?
結構長いしっぽですし、喉?が詰まりやすかったりしたら大変そうです。
敵の攻撃が噛みつきなら、ブレイズキャリバーの体は相性がいいかもしれません。
敢えて避けずに攻撃を受け、噛まれた瞬間に傷口から【ブレイズフレイム】で炎を噴出して【カウンター】します。
これなら相手がいかに俊敏でも確実にダメージを与えられるはずです。
勿論こちらも無傷とはいきませんけど、【痛みに耐え】るのは慣れているので大丈夫です。
もっと火力を上げられればもう少し楽に戦えるかもしれませんけど、森まで燃やしてしまってはいけないですからね。
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
ようし、ジャバオウガ退治がんばるぞー☆
【ライオンライド】で呼び出した友達の子ライオンくんと一緒にやってきたよ!
敵を見つけたらライオンくんに「騎乗」して突撃だ!
爪での攻撃はライオンくんとの巧みなコンビネーションですべて「見切り」で回避しちゃうよ♪
牙を備えた口に対しては……ライオンくんには悪いけどおやつのお肉を放り込んで塞いじゃうぞ☆
敵の攻撃を防いだらボクのレイピアとライオンくんの爪攻撃のコンビネーションでやっつけやうね!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
寒々しい薄闇に覆われた森。
「オウガっていうだけで怖いのに……更にあんな姿になっているなんて……」
下草を踏んで徘徊するジャバオウガたちを、禍々しい尾を見て、ニオ・リュードベリは恐怖に疼く胸を押さえた。
あの牙に噛まれれば――。
その恐れが、彼女の影から無数のバロックレギオンを召喚する。ニオの精神に掻き立てられるようにバロックレギオンはジャバオウガの群れに襲いかかった。
「ガウウウウウウッ!!」
「ヴォウッ! ヴォオオオオッ!」
移動音に反応したジャバオウガたちが方向を変え、額から細い光の線を飛ばす。小さく鋭いビームは中空を高速で突っ切り、バロックレギオンの数体をズタズタに貫いた。
だが、ニオのバロックレギオンは止まらない。
倒れた個体を踏み越えて真正面からジャバオウガたちにぶつかる。その間にニオはもう半数のバロックレギオンに木々の死角を進ませ、敵群の背後に踊り出させた。
「前と後ろから一気に攻撃だよ!」
「グアアアアッ!!」
前後からの挟撃。背中へ肉迫するバロックレギオンをジャバオウガたちは長い尾を差し向けることで食い止める。尾の牙を噛みつかせて、それ以上の攻撃を許さなかった。
そして、それはニオの計算通りだった。
「ビームも尻尾も前後に向いて、もう手一杯だよね。脇ががら空きだよ!」
「グォオオオオオ!?」
側面。勢いをつけて疾走してきたニオの白銀の槍が、ジャバオウガたちを横から刺し貫いた。胴体に風穴を開けた獣たちが二体、三体と伏してゆく。
「よし……どんどん倒してくよ!」
ふわり、と。
舞い落ちる綿のように、逢月・故が森へ降り立ち、獣たちを見て目を見開いた。
「わぉ、口が多いね! ひとりでふたり分喋れるかい?」
「ガアアアアアアアッ!!」
「……なぁんだ、お喋りは出来ないんだねぇ。ざんねーん」
獰猛なる唸りで威嚇するジャバオウガに、時計ウサギはつまらなそうに肩を竦める。
そして、ゆらりゆらりと、その体を揺らした。
まるで無防備で貧弱なウサギが、迷いこんできたかのように。
「ほぉら、兎肉なんて好きでしょ? 食べてみない?」
「グガァァァァァッ!!」
ジャバオウガたちの額が煌めき、瞬く間にビームが殺到する。
しかし三方から奔るそれは、故の横をするりと過ぎては彼方に消えてゆく。ビームをすかしてみせた彼は誘うように妖しく笑う。
「オレを食べたいならさ、もっと近くに来てよ?」
「ヴォオオオオオオオオオオオ!!」
まんまと引っかかったジャバオウガたちが、弱きウサギを喰らおうと駆け、故のもとへと群がってくる。
だが刹那――ジャバオウガの脚が、足元に張られた赤い糸に引っかかった。
途端、糸から凄まじい速さで荊が広がり、敵の脚を伝って五体を絡めとる。
「グォォォ……!?」
「なぁーんて、オレは女王陛下の可愛い可愛い黒兎さんだから、君たちにあげるものはないけどね!」
女王陛下のご威光(アプローズ)――咲き誇る赤薔薇に包まれ、戦闘能力を高めた故が赤糸の繋がっている両手を振り上げる。糸は荒れ狂う蛇のようにうなり、ジャバオウガたちの肉に喰いこんで一瞬で無惨な肉片に変えていた。
四散するジャバオウガたちの血が遠くに舞い上がっているのを見ながら、御剣・刀也もまた数体のジャバオウガたちと正対していた。
「グルルルッ……!」
「その尻尾についてる口。まるで日本の妖怪みたいだな」
ゆらゆら動く敵の尾を見ながら、日本刀『獅子吼』を抜く刀也。
「まぁ、立ち塞がるなら、斬って捨てるのみだがな」
「ヴウウゥゥゥッ!!」
「ゴアアアッ!!」
一斉に、ジャバオウガたちが刀也へ襲いかかる。
己を喰い殺さんと大口を開け、飛びかかってくる獣たち。
刀也は上体を横へ逸らして一体目を避けると、続く二体目の顎をしゃがみこんで回避。しゃがんだ隙を狙ってきた三体目の攻撃は跳びあがって空を切らせた。
「その程度では、俺を捉えることはできないぞ」
「ガアアァァァァッ!!!」
刀也が言い終わるのを待たず、獣の声が降る。
上だ。大口を開けたジャバオウガが落下してきていた。刀也が横へ避けると、ガキン、と空振りした牙がかち合う。身の毛がよだつような鈍い音だ。
と、そこへ猛烈な勢いで、下から何かが伸びてきた。
尾だ。鋭利な牙が、刀也の喉元めがけて突き出される。
刀也は――むしろ踏みこんだ。
牙がすれ違う。掠めた首からわずかばかりの血が流れる。
だがそれだけだ。
深く踏みこんだ刀也の眼前には、虚を突かれた獣の、がら空きの胴があった。
「お前らがどんな技を使おうが、俺からすればしょせん曲芸。そんなもんでやれるほど、俺の命は安くない」
「グガァァァァァッ!!?」
一閃。鮮やかな袈裟斬りをくらったジャバオウガの鮮血が、森の土を濡らした。
暗鬱とした森の中、重い金属が擦れる音が響く。
「ウガアァァァァッ!!」
「どうした。俺はこっちだぞ」
何体ものジャバオウガを引き連れて、騎士鎧――ルパート・ブラックスミスが木々の間を駆けていた。
走るヤドリガミを追い立てる獣たち。
襲いかかる爪や牙をギリギリで避けながら、ルパートはどんどん森の奥へと逃げた。
木々の間隔が狭まり、上方には枝がいくつも折り重なってゆく。
「ガウウッ!」
ジャバオウガたちが跳躍し、太い枝に尻尾の口で噛みついた。そのまま木を伝って頭上を移動し、ルパートの行く手に先回りしようとする。
だがいざ前方へ跳ぼうとしたとき、体が後ろに引っ張られた。
尻尾が固まった鉛に覆われて、枝に繋ぎ止められていたのだ。しかもジャバオウガの体は尾の先端から根元にかけて、徐々に凍りはじめている。
「グギャギャ!!?」
「木々に『凍る鉛』をこっそり伝わせておいた。貴様ら御自慢の『口』で枝に喰いついたのが失策だったな」
無様にも宙づりになった獣たちをルパートが悠々と見上げる。ジャバオウガは脱出するべく全力でもがくが、その甲斐もなく肉体は半ばまで凍りついていた。
両手で持った大剣に、凍る鉛を纏わせるルパート。
「罠や待ち伏せも警戒せず、挙句本来の飛行能力を殺すような閉所にむざむざ飛び込む。付け焼き刃の力に溺れて慢心したか」
「ギアアアアアアアアアッ!!?」
鉛を重ねて巨大化した大剣で、ルパートが頭上を薙ぎ払う。枝も幹もまとめて斬り飛ばす一撃はジャバオウガたちの凍った体を両断し、残骸がぼとぼとと地面に落ちる。
「その牙と口は獣としての貴様らを弱くしたな」
どこかで、木々が折れて倒れるような轟音が響く。
だが、レナータ・バルダーヌはそれに気づけるほど悠長な状況になかった。
「うーん……」
「グルルルッ……!」
「ガウウゥゥゥッ!!」
唸るジャバオウガたちに四方から睨まれ、困ったように頭をひねるレナータ。
完全に囲まれていた。逃げ場なし。
かなり、まずい。
――が、レナータが『周囲の轟音にも気づけない』のは、別に包囲されて切迫しているからではなかった。
「口がふたつもあったらたくさん食べられそうですけど、しっぽの方の口の中はどうなっているんでしょう? 詰まりやすかったりしたら大変そうです」
という至極どうでもいい考え事をしていたからだった。
だから結構、隙だらけだった。
「ガアアアアアアッ!!」
「あーっ! 痛い痛いーっ!!」
飛びついたジャバオウガの(本来の)牙がレナータの白肌に突き刺さる。さらに他のジャバオウガたちも腕に、脚に、続々と噛みついた。
「くっ……!」
深く牙が喰いこみ、血が噴き出す。
しかし次の瞬間――。
「グオオオッ!?」
「グググガガガッ!!?」
レナータに組み付いていたジャバオウガたちが、一斉に業火に巻かれていた。
その身に宿す地獄の炎。傷口から噴出する紅蓮が、ジャバオウガたちの口から入りこんで体内を蹂躙したのだ。
「素早くてもこれなら避けられませんよね……いたたたっ」
炭化した獣たちが崩れるのを見ながら、レナータは血の零れる噛み傷をさすった。
ひゅんひゅん、と、小さな影が風を切る。
「ようし、ジャバオウガ退治がんばるぞー☆」
小さな小さな子ライオンに跨って、フェアリーのお姫様――ティエル・ティエリエルは暗い森の中を軽快に走り回っていた。
「いくよライオンくん! あそこに突撃だー!」
ジャバオウガの集団を指差すティエル。
「ガウウウッ!!」
「そんなの、ライオンくんには当たらないぞー☆」
迎撃に飛んできたジャバオウガたちの爪撃を、右に左にとジグザグしてかわすティエル&ライオンくん。
だが巧みにかわすティエルたちへ、尻尾の牙が襲いかかる。
太い牙を備えた口が小さき妖精に迫る――が。
「はい、おやつのお肉だよ☆」
「グガッ!?」
ひらかれた口に、両手で抱え上げた肉を放りこむティエル。なかなかに厚い肉はぴったりと尻尾の口にはまりこんで、きっちり塞いでしまった。
そして自分のおやつだった肉を使われて、ライオンくんはしょんぼりした。
「ごめんねライオンくん。ジャバオウガを退治できたら新しいの買ってあげるね」
「!!」
「わわっ、ライオンくーん!?」
一瞬で元気になったライオンくんが、雄々しき表情で大ジャンプ。危うく振り落とされそうになったティエルだが、翅をパタパタしてこらえると愛用のレイピアを構えた。
「くらえー!」
「!!」
「グ……ガガガッ!?」
ティエルのレイピアがジャバオウガを切り裂き、ライオンくんの振る爪が重なる。
すれ違った敵が力なく倒れるのを振り向いて確認して、ティエルは「やったー☆」と諸手をあげて喜ぶのだった。
「ヴォアアアアア!!」
「すばしっこいですね……厄介なところから潰していきましょう!」
中空を飛び交って向かってくるジャバオウガへ、春霞・遙が拳銃の弾をばらまく。飛び回る獣たちを追う銃弾は翼や尾をぶち抜いて何体も地面に墜落させた。
ジャバオウガの繰り出す高速の爪撃を避けながら、遙は着実に敵の機動力を削いでいた。
だがさすがに、空を飛ぶ俊敏な獣のすべてを落とすことはできない。
「グオオオオオオオッ!!」
「! また面倒な動きを……」
ジャバオウガが中空へ跳びあがり、身を翻らせて尾で枝に齧りつく。疾駆とも飛行とも違う軌道変化に、遙の銃口は行先を見失った。そうしているうちにジャバオウガたちは群れを成して樹上から迫ってくる。
ならば、と遙は拳銃を仕舞い、代わりに木の杖を取り出した。
魔法で迎撃――否、そんな華麗な方法ではない。
「グアアアッ!」
「そんな牙で噛まれたりしたら……痛いじゃないですか!!」
「ブゴゴッ!?」
頭上から飛び降りてきたジャバオウガをバックステップでかわし、迎え撃つようにフルスイング! 強烈な打撃をくらった獣が高々と跳ね上がり、頭から地面に墜落する!
「ヴォオオオオオオオ!!」
「ガアアアアッ!!」
左右から、もう二体のジャバオウガが大口をひらいて突っこんでくる。
だが、一直線だ。
軌道を予測するまでもない単純な動きに合わせて、遙は再び拳銃を抜き、トリガーに指をかける。
「腹ぺこなら、お腹いっぱいの銃弾をどうぞ」
「「ガガガガガガッ!!?」
嵐のように、銃弾が吹き荒れる。浴びせられた数え切れぬ弾丸に口内を貫かれたジャバオウガたちは、穴だらけになった体を倒れさせた。
そして遙の銃声がやんだとき――。
夕闇に包まれた不気味な森は、本来の静寂を取り戻していた。
大成功
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