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それは大切なものだから

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●迷宮と宝箱
 アルダワ魔法学園には幾つもの学園迷宮が存在する。それは、この地に存在する人々にとってひどく当たり前の事実であった。
 故に彼らは思う。
 まぁ迷宮と言えば宝箱だよね。と。宝箱っていうからにはやっぱり色々良いものがあって欲しいじゃないか、と。
「金銀財宝とか?」
「やっぱり武具だろう?」
「宝箱だったら一個くらいミミックあるべきだろう? こう、なんかびっくりする感じのミミック!」
「いやいや。やっぱなんでも願い叶えてくれるくせにえげつないバッドステータス叩き込むようなやつさぁ」
「いや、それってハズレのやつじゃない?」
 そこは対価だろうとか。それこそ迷宮の宝物だろうとか。
 走り出した話が収まる様子もなく、今日も今日とて学園迷宮のこれってありそう宝箱談義は何処までも盛り上がっていた。

●たったひとつ、大切なものを
「ーーまぁ、盛り上がるだけならいーけど、そこに御誂え向きのエリアが出てきたから問題なんだよね」
 やれやれと息をついてみせたのは黒髪を揺らす少年だった。眼鏡の奥、紫の瞳を一度細めるとユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)は集まった猟兵たちを見た。
「来てくれてありがとう、おにーさん、おねーさん達。例によって例のごとく、学園迷宮でちょっと面倒なのが居るのが分かったんだ」
 宝の山。
 ひどく単純にそう命名されたフロアには、たくさんの宝箱が置かれているという。種類は様々。大きさだけは何故か統一されている。
「フロアにある扉は硬く閉ざされたまま。気になることがあるとすれば、扉が板チョコの形になってたんだよね」
 ふんわりと甘いチョコレートの香り付き。
 誰かがその場でチョコレート作りしているという訳でもなく。シーズンと言えばシーズンだけどね、と息をついてユラは猟兵たちを見た。
「宝の山のフロアに、他にもチョコレートの痕跡があるかもしれない。一応、注意して見ておいて欲しいんだ」
 何せ、この迷宮に『何か』がいるらしいということは分かっているのだがその詳細までは分からなかったからだ。
「ごめんね。俺の予知じゃそこまでの情報は掴めなかった。でも、この迷宮の奥にいる『何か』がーー災魔が今回の一件関わっているのは確かだよ」
 宝箱が沢山だと、笑って済ませられるようなものではないタイプのフロアが存在しているのだ。
「誘惑の間だよ」
 生者にはどうしたって抗えないものがある。嘗て誰かが言ったのだという。人は苦痛には耐えられるが快楽には抗えないのだーーと。
「ありとあらゆる誘惑の幻覚が、そのフロアに入ると見えるんだ」
 そのひとにとって、抗えないものの幻覚。足を止めてしまう程の何か。もしくはーー。
「大切なもの。此処がどれほど危険だと分かっていても、身を沈めてしまいそうになるほどの、ね」
 別にただのこたつかもしれない。ふかふかのベッドだったりーースイーツビュッフェかもしれない。でも、それ以外の何かかもしれない。
「このエリアもチョコレートの匂いがするみたいなんだ」
 溢れるほどに甘い香り。
 迷宮に存在しない筈のそれは、まず間違いなく異常の印だろう。
「進む程に濃くなる可能性があるから、気をつけて」
 無事に突破できれば、この一件に関わっている災魔を見つけることができるだろう。
「まぁ、まずは宝箱の山からだけど。おにーさんとおねーさん達なら、どうにかしてくれると思うし」
 誘惑も、幻覚と分かれば足を止めてしまったとしてもーーそれが違うと知っていれば、歩き出せる方法を見出せるかもしれない。浸るように、足が止まってしまったとしても。大切な何かをそこに見つけてしまっても。
「その誘惑を誘惑と知っているのもおにーさんとおねーさん達だけだしね。それじゃぁ、いってらっしゃい。気をつけてね」
 大切なものだけはどうか、失わないように。


秋月諒
 秋月諒です。
 どうぞよろしくお願いいたします。
 拳で語る系(たぶん)ダンジョン攻略時々心情系かなぁと思いつつ。

●各章について
 第一章では、宝の山に挑戦します。
 たくさんの宝箱があるエリアです。この宝箱を開き、奥の扉を開く手がかりを探します。

 第二章では、誘惑のエリアに挑戦します。
 ありとあらゆる誘惑の幻覚が見えます。侵入者を足止めすべく、本人にとって抗いがたい幻覚が見えてくるようです。
 こたつの誘惑なのか、ふかふかベッドなのかそれとも……なのかは挑戦する皆様次第かと。

 第三章では、ボスとの戦いとなります。
 詳細は不明です。チョコレートと関係があるのかな、とユラは思っているようです。

 それでは皆様、
 ご武運を。
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第1章 冒険 『宝箱がいっぱい!』

POW   :    片っ端から開けていく、力づくで罠を突破

SPD   :    効率よく解錠や罠の解除を行う

WIZ   :    箱の外側や周囲に手掛かりがないか探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

百合根・理嘉
【HSC】
迷宮に宝箱、とか滅茶苦茶燃える展開だろ……
そうそ……るっせぇよ、ばーか

んー?りんたろはどー思うよ
俺としちゃ、情報収集してから力づくで
ばかーん!と開けて攻略してぇ
うるせー、ばーか

つー訳で箱の外側と周囲の情報収集してから
遠慮なしに宝箱はばかーん!と、りんたろに開けさせるー
ふへへ。俺の装備で開けれると思うか?
ん?ん?

げー!なんじゃこりゃー!
(禄でもないトラップ発動させるフラグ)

まぁ、トラップは力づくで攻略!
最悪、Silver Starでりんたろとタンデムで強行突破しちまおう!
そうしよう!
いーんだよ!次の扉に辿り着いたらゲームクリアなんだからよ!

補足
倫太郎は口煩い兄貴分で悪友。りんたろ呼び


篝・倫太郎
【HSC】
おーおー……ゲーマーの血が騒ぐって?
馬鹿とか言った方が馬鹿なんですぅ

それよか、これ、情報収集して解錠すんのか?
あ、情報収集はするんだな?
賢くなったじゃねぇの、リカ

床のタイルの色が違ってねぇかとか
箱のねぇ場所との違いとか諸々調べて……俺かよ!
仕方ねぇな、んっとに……華焔刀ですぱーんと開けてく

わー!ばか!おま……!ちったぁ考えろーっ!
仕方ねぇなぁ!トラップは問答無用で力押し!
華焔刀と素手でなんとかする!
一応、Lorelei起動させて情報収集して罠の分析しつつ迷宮攻略!
次の扉の鍵とかそんなんがあったら回収してリカにパス!

お前はホントなんも考えてねぇな?!

補足
理嘉は喧しい悪友で弟分。リカ呼び



●宝箱がいっぱい
 曰く、迷宮には宝物が付き物なのだという。たとえ、その中身が空であったとしても、そこに『ある』ことにこそ意味がある。長く続いた探索、その道中にあった探索者たちにとって未知なる存在。宝箱への希望と欲望、警戒ーーそして、隠しきれない期待と共に探索者たちは宝箱に手をかける。
「おー」
 の、だが。
「宝箱いっぱいじゃん」
 宝箱がいっぱい。それはもう、山のように。置き場所に規則性はないのか、あっちこっちに置かれたままの宝箱はどれ一つ開けられてはいなかった。
 宝の山。
 成る程、そう言われるだけはある、様々な種類の宝箱が、積み上げられるようにして置かれていたのだ。それこそーー篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)の身長と同じ程に。
(「まーよく積んだもんだな」)
 積み上げたのか、積み上がったのか。
 魔術的な何かがそうしたのか。
 琥珀の瞳が捉える『何か』がある気配は今のところないままに、ほう、と息をつけば傍の悪友ーー百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)が宝箱の山を見上げていた。
「迷宮に宝箱、とか滅茶苦茶燃える展開だろ……」
「おーおー……ゲーマーの血が騒ぐって?」
 揶揄うように声を投げればそうそ、と頷いたそこで理嘉が、ぱっと振り返る。
「るっせぇよ、ばーか」
「馬鹿とか言った方が馬鹿なんですぅ」
 あーだこーだと。いつものペースで言い合いながら、それよか、と倫太郎は眼前の『山』を見る。
「これ、情報収集して解錠すんのか?」
「んー? りんたろはどー思うよ。俺としちゃ、情報収集してから力づくでばかーん! と開けて攻略してぇ」
「あ、情報収集はするんだな? 賢くなったじゃねぇの、リカ」
 よしよし、と揶揄いひとつ「うるせー、ばーか」と返す悪友に倫太郎は笑った。
 さて、と理嘉はあたりを見渡す。箱のチョイスは済んだ。見る限りは少し大きめの宝箱、と言ったところだろうか。外側に仕掛けの様子は無い。
「床のタイルの色に変化はない、か。箱のねぇ場所との違いもねぇし……ほんとに適当に置かれてるだけか?」
「じゃ、こいつをばかーん! と。りんたろに」
「俺かよ!」
 は? と顔を上げた倫太郎の前、理嘉は腰に手をあてて立つ。
「ふへへ。俺の装備で開けれると思うか? ん?ん?」
 それは世に確信犯というのーーかもしれない。
 最も、倫太郎にとってみれば慣れたものか。仕方ねぇな、と呆れ半分、手にした刀を振り下ろした先ーーそれは、起きた。
「げー! なんじゃこりゃー!」
 キィイイン、と甲高い音ひとつ。瞬間、空気が熱を帯びる。
「わー! ばか! おま……! ちったぁ考えろーっ!」
 来る、と思った瞬間、宝箱の中から『何か』が二人に向かって放たれた。吹き上がった炎を飛ぶように避けた理嘉の前、倫太郎が『何か』を斬りはらう。急ぎ起動させたゴーグルで拾い上げた情報からみればーー炎と矢のトラップだ。
「お前はホントなんも考えてねぇな?!」
「いーんだよ! 次の扉に辿り着いたらゲームクリアなんだからよ!」
 見事、禄でもないトラップを引き当てた悪友の前をひらり、と何かの破片が舞う。
「紙……?」
「焦げてんな。リカ」
 どう見てもさっきのトラップ解除しなかったからじゃねぇの? と投げた視線の先、う、と小さく理嘉は息を飲んだ。
「あったってのが分かったのも一つだっての! つーか……変わった厚さだな」
 とりあえず、次からは危険なタイプのトラップに気をつけた方が良さそうだ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

糸縒・ふうた
アドリブ・絡み・改変等歓迎

これが噂のちょこれーと!
でも、なんか思ってたのとちょっと違う……かも?

【喚び聲】でみんなを喚んで、手伝ってもらうぜ
オレ自身もだけど、コイツらの方が鼻が利くから
ほかのものよりちょこれーとのにおいが強いものとか
なんか別の、違うにおいのするやつを探してみる

もしめちゃくちゃ怪しいこれだ! っていうのがあったら、気を付けながらあけてみるぜ

どうせならおいしいちょこれーとが入ってたらいいのになぁ、なんて


宵鍔・千鶴
正直、このふわふわ漂う甘い匂いは既に色々誘惑に負けそう、
(鼻孔擽る大好きなそれ、思わずお腹の虫も鳴きそうで)

……まあ、でも。
本当に欲しいものが与えられない、手が届かないなんて茶飯事、俺には些末なこと
誘惑されて揺らぐ感情は、なんというか、…羨ましい

まずはこの宝箱をさくっと片付けねぇとな。不可解なものを紐解いて暴くのは好きな分野だ。腕が鳴る
安全そうなものは蹴飛ばし避けながら慎重に解錠
ひとつ微かに中からカチカチと時計を刻む音が聴こえる。罠かはたまた唯のフェイクか、周囲に警戒を呼び掛けながら対象物は不明だが咎力封じの準備を

心臓が脈打つ
ああ、なんて愉しいのだろう
これだから宝探しは止められないと笑うのだ


終夜・凛是
たからの、やま。
宝ってなんだろうな。きらきらするもの、とか?
よくあるのは金銀財宝……古い書物、とかか?
何が出てきてもそれは俺にとって宝物には、ならないしな。
俺の宝物は……にぃちゃんからもらったもの、だけ。
だから、出てくるものには興味がない。
けど、まぁ。何が出てくるか、っていう楽しみはちょっとくらい、持てる、かな。

【POW】
罠も何も気にしない。ちょっとくらい痛いのも問題ない。
宝箱はそのまま、みつけたら開ける。
鍵がかかってるなら、拳で破壊。めんどい。どうやってあけたりとか考えるの果てしなくめんどい。

それにしても……あまい。
このにおいすきじゃない。あの扉の先はもっと甘そう……(渋い顔)



「うーん……」
 これが噂のちょこれーと! と思って来たのだが、なんというか思ってたのとはちょっと違う気がする。チョコレートの匂いはしている。けどチョコレートの宝箱があるかと言われればーーどうだろう? と糸縒・ふうた(朱茜・f09635)は思うのだ。
「おいで」
 喚び聲で、みんなを喚ぶ。ふうた自身もだが家族と仲間の方が鼻が利くのだ。
「ほかのものよりちょこれーとのにおいが強いものとかありそう?」
 ひとつ、ふたつ。すんすん、と臭いを頼りに探してみるがーーどうやら、チョコレートの匂いがする宝箱は無いようだ。
「ん……、でもなんか、少し似たような匂いがするのが……ある?」
 チョコレートの、という訳では無く。幾つか、似た匂いのする宝箱があるのだ。似たようなものが入っているのだろうか。とりあえず一つ、手に取った箱を気をつけながら開けるとーー。
「器……?」
 色は銀色。でも金具や何かとは違う。そう、里で見たものに似ている。これは、料理道具、だろうか。
「チョコレートでも鍵でもないけど……なんでだろう……?」
 すんすん、と匂いを確認してみたところで、食べ物の匂いがするわけでもない。
「ちょこれーとの匂い、どこからだろう?」
 こてり、とふうたは首を傾げた。
「正直、このふわふわ漂う甘い匂いは既に色々誘惑に負けそう」
 鼻孔を掠るそれは、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の大好きなものだった。きゅるる、と思わずお腹の虫も鳴きそうで、ふるり、と千鶴は頭を振る。はらはらと、漆黒の髪が不健康そうな程に白い頬に触れた。
「……まあ、でも」
 本当に欲しいものが与えられない、手が届かないなんて茶飯事、俺には些末なこと。
 口の中、一つ作った言葉に緩く笑う。敷いた笑みは自嘲か微笑か。誘惑されて揺らぐ感情は、なんというか。
「……羨ましい」
 言の葉は音となって響いたか、舌の上に溶けて消えたか。ふ、と息を一つ落とす頃には瞳の紫は、宝箱の山を見据えていた。何にしろ、この宝箱を片付けるのが先だ。不可解なものを紐解いて暴くのは好きな分野だ。腕が鳴る。
「こいつは無し、これも無し……」
 安全そうなものは蹴飛ばし、避けながら千鶴は慎重に宝箱を解錠していく。ひとつ、ひとつ多少時間がかかるのは既に安全ではないものを『選んで』いるからだ。
「ーーん?」
 その中のひとつ、微かに中からカチカチと時計を刻む音がした。
(「何がある……?」)
 罠かーーそれとも、ただのフェイクか。
「この宝箱、おかしな音がしてる」
 時計を刻む音だな、と千鶴は告げる。距離を、と告げたのは解除する気があるから。他の猟兵たちへの警戒を告げ、手の中に器具を落とす。
「さて、何が出る」
 心臓が脈打つ。知らず、口元が笑みを刻む。ーーああ、なんて愉しいのだろう。
「これだから宝探しは止められない」
 は、と落ちた息が笑みに変わる。錠前に触れれば、カチリ、と宝箱はひとりでに開き、カチカチと響く時計の音が大きくなりーー、キュイン、と光った。
「ーー」
 瞬間、振り上げた腕に沿ってロープが舞う。しゅるり、と巻きついた器具に宝箱の中、光が押し込められーーユーベルコードが封殺される。
「爆発するかと思ったが……、なんだ、光だけか?」
 目くらましーーにしては、強すぎる光だった、と千鶴にしても思う。眉を寄せて見た先、宝箱の中にあったのは時計盤。
「懐中時計……、じゃねぇな」
 見目だけで言えば懐中時計のそれに似てはいるが、そうであればこの竜頭はいらない筈だ。
「秒時計か、いや。普通にタイマーか?」
 僅かに眉を寄せ、息をつく。また可笑しなものが出てきた訳だ。
「なんか、濃くなってきてるか?」
 甘い、匂いが。
 ふわりふわりと漂う甘い香りが、ガウン、と衝撃と共に弾ける。衝撃が床に伝わりーー一拍の後に風が来た。
「めんどい」
 指が、少し裂けていた。吹き抜けた風に、毒は無くーーただ衝撃だけが、終夜・凛是(無二・f10319)の肌に伝わっていた。
「どうやってあけたりとか考えるの果てしなくめんどい」
 はぁ、と何度目か知らぬため息の結果、罠も何も気にせず拳で叩き開けた宝箱が凛是の前に大口を開いたまま転がっていた。
「何も入ってねぇし」
 見つけた宝箱をそのまま開けて、開けて、空箱の山を背に凛是は息をつく。まぁ、確かにまだ開けていない宝箱はある。うず高く積み上がった宝箱は、確かに山のようにあるのだから。
(「たからの、やま」)
 宝ってなんだろうな、と凛是は思う。
「きらきらするもの、とか? よくあるのは金銀財宝……古い書物、とかか?」
 周りを見る限り、どうにもそれっぽいものは見えないけど。ーー例え、何が出てきたとしてもそれは凛是にとっての宝物にはならない。
「俺の宝物は……にぃちゃんからもらったもの、だけ」
 吐息を零すようにして、凛是は紡ぐ。たったひとつの事実に、その身を浸すように。空っぽの宝箱の山を背に、落とした呟きは他の猟兵たちに届かぬまま、次の宝箱を見据える。
「……」
 だから、出てくるものに青年は興味がない。
(「けど、まぁ。何が出てくるか、っていう楽しみはちょっとくらい、持てる、かな」)
 緩く、ゆるく、狐の尾が揺れる。今度の箱はさっきより少し小さい。躊躇いなく手をかければ、パカンと思ったより簡単に開いた。
「……何これ」
 銀色のスプーンだ。食器? と眉を寄せたそこで、そう言えば、と凛是は思う。似たような色の破片を、さっき壊した宝箱の周りで見た気がする。
「道具が入ってるってこと?」
 呟いた先、ふわり、ふわりと甘いチョコレートの匂いが漂う。先の一撃で結果的に払った空気が返ってきたのか。
「それにしても……あまい。このにおいすきじゃない。あの扉の先はもっと甘そう……」
 渋い顔をした凛是の耳がふいにぴん、と立つ。
「扉……溶けてる?」
 最初に見た時よりも、あの板チョコの扉の表面が大分変わってきていたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ジゼル・スノーデン
【wizで行動】
宝箱いっぱいか
この間はキラキラの箱を開けられなかったからな。これは好奇心を刺激されるな!

とはいえ、そんな簡単に開けたりしちゃダメぽいのか
とりあえず、手に取れそうな小さなものから。開けずに振ってみたりしよう
【第六感】も働かせて
危なそうなものは、ガイストくん。槍でつついてみてくれ、だ

何が出てくるかも楽しみなんだけど、そもそもこの部屋自体がなんなのかも気になるしな
チョコレートの匂い、と言うのは、部屋全体からなのか。指向性を持って漂ってくるのか。それとも、チョコでできた宝箱があるのか?炙ってしまわないよう気をつけよう。


東雲・咲夜
んと、チョコレートに関する炎魔はんの手掛かりが
どれかの宝箱にあるちゅうことかしら

うーん…どれも同じに見えますけど
せや、白狐ちゃんを召喚して一緒に探してもらいましょ
被布姿で人懐こい、うちの大切なお友達
ぎゅ〜っと抱きしめたら手を繋いで
宝探しの始まりやね

まずはチョコレートの扉を調べましょ
鍵穴はあります?
変わった匂いがするとかはどうやろ

一通り調べ終わったら今度は宝箱やね
狐はんはイヌ科やし匂いには敏感
うちの【第六感】も頼りにしつつ
同じ匂いがしそうなものや
扉の手掛かりと照らし合わせて探していきましょ

それにしても、甘い香りはお菓子が食べたくなりますなぁ
帰ったら何か作ってあげましょね

🌸京言葉
🌸アレンジOK


ヴィクトル・サリヴァン
扉が板チョコの形、ねえ。
その前には形は違えど大きさは同じ宝箱の山。
まあ探してたらいずれは答えに辿り着けるだろう、と気楽に挑む。

いくつかの箱の外観を確認、共通点がないか調べる。
例えば料理道具の絵だとか紋様だとか。
一応持ち上げてみて底の方も確認しておく。
一通り見たら中身の確認。開けたら爆発とか変なガスや矢が出て来るとかの罠には注意。
中身と外観で共通点ないか確認しよう。
もし何か気付いたら他の猟兵に伝える。
これだけ数があるなら少しでも絞れる所は絞りたいしね。

それにしてもこの匂い、なんなんだろうね。
…宝箱の中にチョコが入ってたりして、その匂いとか?
匂いの特に濃い所ないかにも注意。

※アドリブや絡み等お任せ


ライヴァルト・ナトゥア
【POW】寄りです。第六感、鍵開け、破壊工作技能を使います

(先の顛末を見て)
さて、力押しは少々分が悪いかな?
(ユーベルコードで大量の狼を召喚。とりあえず外観そのものに罠が無いかを精査する為に狼に接触させる)
さぁ、頼んだよ
サクサク進めていこう
(結果の惨状をみて)
うわぁ、これはえげつないな。欲望を糧にするはよく言ったものだ
(残ったものを破壊工作で罠解除、鍵開けで開けてゆく。罠の兆候は第六感で感知して、少しでも危険なら安全を第一にして立ち回る)
とりあえずはこんなものかな
ん、これは?
(手がかりになりそうなものを見つけたら)
これは何か意味があるのかな
もう少し調べてみるとしようか
役に立てばいいのだけど



「さて、力押しは少々分が悪いかな?」
 ライヴァルト・ナトゥア(巫女の護人・f00051)は少しばかり考えると、薄く口を開く。
「汝らは影の映し身、地に満ちたる狼の軍勢……」
 謡うように、喚ぶように。左手に封印した天狼の小型複製を大量に召喚する。
「さぁ、頼んだよ。サクサク進めていこう」
 外観そのものに罠が無いか、確認する為に狼に接触させたのだがーー。
「うわぁ、これはえげつないな」
 爆発が一度。火矢や毒の類が無かったのは幸いかーーそれともあれは『開けなければ』出てこないタイプのトラップなのか。赤茶の瞳を細め、ライヴァルトは息をついた。
「欲望を糧にするはよく言ったものだ」
 残ったものを開ける前に、他の猟兵たちにも声をかけておいた方が良いかもしれない。ひとつ、ふたつ、選びとった先、ピン、と張られていた糸を丁寧に引く。罠を解除した先、見えたこの瓶は、毒のタイプか。
「揮発したら少し面倒だったかもしれないな」
 とりあえず、解除はできた。中身はーー空だ。護人の勘か。細かく罠に気がついた先、解除は順調に進むがーー如何せん、それっぽいものに出会わない。
「ん、これは?」
 解除した宝箱の中、一枚少し厚めの紙が入っていた。
「これは何か意味があるのかな」
 掠れてはいるが、文字は書いてある。罠を解除した分、無事に読めそうだ。
「……工程表、かな?」
 番号が振られ、何か作業が書き込まれている。扉を開ける為に必要な順番、というよりはこれはーー。
「料理、かな?」
 ならばこの紙はーーレシピだとでもいうのだろうか。
「もう少し調べてみるとしようか。役に立てばいいのだけど」
 さて、とあたりを見渡したライヴァルトの向こう、ジゼル・スノーデン(ハルシオン・f02633)は相変わらず積み上がった宝箱の山を見上げていた。
「これだけ開けてもまだ、積み上がっているとはな」
 しかもそのどれもが、ぴっちりと口を占めている。宝箱に金銀財宝。迷宮の付き物の展開から言えば、少しばかりは溢れて見えそうなのだが此処にはそれがない。ぴっちりきっちり、全ての宝箱が閉まったままだ。
(「この間はキラキラの箱を開けられなかったからな。これは好奇心を刺激されるな!」)
 モフィンクス達との出会いと別れーーの先にあったフロアにあった箱は開けられなかったが、これは違う。開けても良いし、壊しても良いらしいがーー如何せん数が多い。
「ふむ」
 とりあえず、手に取れそうな小さなものから、ジゼルは箱を一個選んで見る。開けずに振ってみればーーうん、音はしない。
「空か。あまり小さな箱は関係ないのかもしれないな。ならあっちの箱は……」
 ちょっと大きい。別段すごく大きい訳ではない。ジゼルが両手で持てる程度ではあるが、なんというか絶妙なサイズなのだ。
「いくつか似たサイズのものはあるが……、何だろうな」
 少し、気になる。見た目で言えば普通の、なんというか一般的な宝箱の形だ。だがサイズがちょっと小さく、何というかーー。
「丁度良すぎる……? うん。確かめてみるか」
 オール状の杖をゆるり、と振れば、溢れるのは淡い光。ふわり、と起きた風と共にジゼルの足元に陣が描かれる。
「ガイストくん。槍でつついてみてくれ」
 召喚されたのは古代の戦士。ジゼルの依頼に、静かに頷いたガイストが槍で宝箱をつつく。
「!」
 ぱふん、と音がした。それはもう、なんだかポップな音楽で。まず間違い無く、宝箱からはしなさそうな音をたてながら、小さな宝箱は開きーー。
「リボンに……、これはカードか?」
 小さく、ジゼルは首を傾げる。カードからはほんのりと甘い香りがする。チョコレートの香りだ。
「招待状……?」
 親愛なる貴方へ。皆様を最愛の時へと誘います。
 流れるように描かれていた文字がそう『読める』その文字をジゼルが知っている訳でも無いのに、だ。
「成る程。これも鍵のひとつか」
 ワクワクしてきた、と少女人形は笑った。
「そういえば、部屋全体からチョコレートの香りがするんだな」
 指向性を持って漂っているーーという訳ではなさそうだ。
「そうやね。その中でも一番はやっぱり……扉やろか」
 ゆるり、と考えるように東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)は首を傾げる。匂いは、どんどんと濃くなってきていた。充満するような強く甘い香りは、複数の出所があっても不思議は無い筈なのに指向性は無い。その上、相変わらずの宝箱の山だ。
「うーん……どれも同じに見えますけど。せや、白狐ちゃんを召喚して一緒に探してもらいましょ」
 ひら、と伸ばす指先。紡ぐ声は清冽な歌声を紡ぐもの。
「現世より常世へ 白銀の友よ……」
 ふわり、と姿を見せたのは被布姿の狐耳の幼女だ。ぎゅ~っと抱きしめて、手を繋げばーーさぁ、二人で宝探しの始まりだ。
「鍵穴は……あや、無さそうやね」
 変わりに、と言っては何だが『溶け始めて』いる。だが、鍵穴もなく、見ればドアノブも溶けている。
「いらないんやろか……? チョコレートの匂いは、此処が一番強そうやな」
 溶けてきったところで開くとでもいうのか。変化があったのは、宝箱を開け出してからのことだ。扉自体に何かをするよりはやはりーー宝箱だろう。
「これは……違うやろか。うん、こっちも……。おんなじ香りがしはるもんは無さそうやね」
 眉を寄せた先、ついつい、と咲夜の手を狐の少女が引いた。これは? と言うように、見せられたのは小さな宝箱。他のものと似ている気もしたがーー違う、と咲夜は思う。
「色と、凹凸が同じやね」
 扉のチョコレートと、色味と凹凸が似ている。宝箱の装飾のひとつ、と言われてしまえばそれだけだがーー咲夜は拾い上げた感覚を信じ、その宝箱を開いた。
「これは……本、やろか?」
 表紙はチョコレートと同じ色。革だろうか。持ち上げれば、不思議と分厚さに反して軽い。だが、開く雰囲気が無い。
「開きそうな雰囲気はあるんやけどな」
 まだ、ということだろうか。
 ついつい、と突く白狐にふ、と咲夜は笑った。
「それにしても、甘い香りはお菓子が食べたくなりますなぁ。帰ったら何か作ってあげましょね」
「本、か……」
 その微笑ましい光景を視界に、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は考えるように息をつく。シャチのようなキマイラである青年の瞳は、正面の扉を見据えた。
「扉が板チョコの形、ねえ」
 その前には形は違えど大きさは同じ宝箱の山。
 見る限り、扉のチョコが『溶けて』きているのは確かだ。
(「あの本では変化は無かった」)
 とりあえず、今の状態ではまだ開く様子は無い。次へと続く扉の鍵はやっぱり宝箱の中、か。
「似たような宝箱はあるんだね」
 サイズや、見目はバラバラだがーーそれでも共通点はある。紋様だ。
「料理道具の絵は無さそうだけど、鍵の部分の細工が細かいな」
 そっと、持ち上げてヴィクトルが底の方を確認すれば鍵の部分と同じ細工が描かれていた。描き込みがひとつ。
「ハート……、かな。これは」
 持ち上げて見た限り、重さは普通だ。宝箱と思えば少しばかり軽いような気もするがーー大きさを思えば不思議は無い。片手で持てるほど小さい、という訳では無いが、小ぶりだ。
「中身は、と……、あぁ、やっぱりカードか」
 ぱふん、と起きた小さな風。爆発も矢も無くーーだが、真っ白なカードには文字が浮かび上がる。見たこともない筈のその言葉は、だがするりとヴィクトルの頭に入ってきた。
 そう、どうしてか『読める』のだ。
「これが、招待状だから、かな」
 親愛なる貴方へ。皆様を麗しの時へと誘います。
 浮かび上がった文字をなぞり、ヴィクトルは他の猟兵たちに声をかけた。
「招待状があったよ」
 どうも鍵に細工があって、底にもマークがある宝箱に何かが入っているらしい。
 ヴィクトルがそう声をかければ、ジゼルが先に見つけていた宝箱の底を見る。
「あ、本当だ。こっちにもあった」
「この分だと、他にもありそうだね」
 頷いたそこで、ふと、ヴィクトルは気がつく。甘いチョコレートの匂いが、濃くなった気がしたからだ。
「あや、本が……」
 咲夜の手の中にあった本が、ひとりでに開く。ぺらぺらとページが捲られーーぶわり、と一瞬、宝の間を包む匂いが、濃くなる。
「これは……、チョコレートかな」
 随分と甘い、とライヴァルトは呟く。頷いたジゼルが扉を見れば、どろり、と板チョコの扉が溶けていくのが見えた。
「おー招待状が飛ぶのか!」
 ふわり、とジゼルとヴィクトルの手にあった招待状が、扉の向こうに消えていく。こっちだ、ということか。残されたのは、宝箱のあちこちから見つけられた料理道具と、数枚のレシピ。
「この中に入ったのは、見つけた分やろか」
 おたまに、ボウル。フォーク、と咲夜は本の中、描かれた道具をなぞっていく。いくつか、埋まっていないのもあるがーー明確の分かるのはひとつ。お菓子のレシピが出来上がっているのだ。
「成る程、これが鍵だったようだな」
 頷いたジゼルの前、描かれていたのはチョコレートのお菓子のレシピ。とっておきの時には、と強い文字が踊っていた。
 宝箱に、あれだけあった罠とは不釣り合いなほど、明るく、可愛らしい文字で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『どうしても抗えないものがある』

POW   :    気合で耐える。見なかったことにして突っ切る。

SPD   :    誘惑に負けてしまう前に走り抜ける。罠の影響を受けない手段を用意する。

WIZ   :    帰った後の自分へのご褒美を想像する。罠に屈しない理屈を組み立てる。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●誘惑の間
 毛足の長い絨毯が、長く続いていた。凡そ迷宮の中とは思えぬ環境に、違和感がつきまとう。そもそも、あれだけの罠を仕掛けておきながら出てきたのは料理道具に本ーーそして招待状だ。
 チョコレートの痕跡は、作る方だったのか。だがそれにしても解せない。
 その招きに、どれだけの意味があるのか。
 その誘いに、どれほどの不可解があるのか。
 身を隠している筈の災魔は何をしようとしているのか。
 可能性であれば幾らでも思いつきーーだからこそ、絶対の答えは未だ手に出来ぬまま、猟兵たちは次のエリアへと辿り着く。辿り着いた、とそう感じたのは目の前にあった空間が『変わった』からだ。そう、確かに変わった。だってこれはさっきまでとはあまりにも違う。
「ーー」
 抗いがたい『誘惑』が、猟兵たちの前に現れていた。甘い、チョコレートの香りとともに。
 猟兵たちを、このエリアに押しとどめるように。
糸縒・ふうた
アドリブ・絡み・改変等歓迎

あったかいお部屋と、あったかいごはん
そこには当然父さんと母さんがいて
ぽかぽかうれしくて、たのしくて

当たり前のはずのそれが、なんでだろ
なつかしい、なんて

裾を引かれて気づく
顕現していた傍らのかぞくとなかまが心配そうに見上げていて
ごめんね、もうだいじょうぶだから

鼻先を撫でて安心させて
すっかり手の中でぬるくなったボウルを握り直す

オレにはお前たちと、ともだちがいるから、平気
さぁ行こって促して、先へ

本当の目的地は、この先だ


ジゼル・スノーデン
【wiz】
ふわわわわっ
目の前にふかふかあったかモフモフィンクスと、大好きあまーい蜜ぷにが!!
なんだ、ここは楽園なのか。約束された楽園の地なのか!?
やーめーてー!!そんな可愛い目で私を見るなー!

うううう、カノープス、カノープス助けてくれ!あっちに私の目がいかないように、ピカピカしててくれ!
そ、そうだ、わたしはつよいこ、負けない子だ。ちゃんとガマンして、岬に帰ったらみんなといっしょに甘いの食べるんだ。
こ、こんなとこで一人でもふもふしたり、甘いの食べたりしないぞ!わたしは、みんなでする方がいいんだ!

大丈夫。ちゃんと、分かってる。私はわたしの守護する岬が一番で、そこにいるみんなが大好きなんだ


ヴィクトル・サリヴァン
麗しの時、か。
まったくもって嫌な予感がするんだけど気のせいかな。

ここは…ああ、新天地に向かう友達を見送った部屋かな。
丁度誰かを迎えるように料理と秘蔵のワインまで準備されてる。
10年後ここで会おう。約束通りに来るから座ってて、と言った所か。
青春は麗し、友との日々は確かに――

まあともかく。
ここにあるのは単なる誘惑、だって故郷と世界が違うのにあるわけないじゃないか。
何より――誰も帰らなかったんだから。
そりゃまあ夢見ていたけれど…こういうのは待ち続けた寂しさを思い出させられるだけだし。
また同じように待て、とかいう意味なら趣味が悪い。
まあここで足を止める道理にはならないよね。うん。

※アドリブ絡み等お任せ



●穏やかな時
「麗しの時、か。まったくもって嫌な予感がするんだけど気のせいかな」
 ほう、と落とす息が揺らいだ。
 件の招待状は二種あったがーー果たして、そこに意味があるのか、どうか。何にしろ楽しい招待状という訳でもなさそうだ。
 そう、思ったのは目の前にあった迷宮が『変わった』からか。ヴィクトル・サリヴァンは漆黒の瞳を細め、薄く、口を開く。
「ここは……ああ、新天地に向かう友達を見送った部屋かな」
 丁度誰かを迎えるように料理の並べられたテーブル。秘蔵のワイン。
 その香りを、味をヴィクトルは覚えている。
「……」
 気がつけば、その『空間』には自分一人しかいない。周りの猟兵たちの姿も無くーーただ、この部屋だけがある。窓の向こうから差し込むのは光だっただろうか、それとも星々の瞬き? 慣れ親しんだ空気が一瞬、頬を撫でる。
「10年後ここで会おう。約束通りに来るから座ってて、と言った所か」
 青春は麗し、友との日々は確かに――。
 遠く、声がする。あの日、交わした言葉が頭をよぎる。
「まあともかく。ここにあるのは単なる誘惑、だって故郷と世界が違うのにあるわけないじゃないか」
 何より――誰も帰らなかったんだから。
 薄く開いた口からこぼれ落ちた言葉。温厚的な見目の向こう、知らず落ちた声は低くあったか。
(「そりゃまあ夢見ていたけれど…こういうのは待ち続けた寂しさを思い出させられるだけだし」)
 落とす息はふいに白く染まり、漆黒の瞳は目の前の光景を『誘惑の幻』と認識する。
「また同じように待て、とかいう意味なら趣味が悪い」
 その言葉に、目の前の『空間』が歪む。目に見えていた光景が煙のように揺らぐ。
「まあここで足を止める道理にはならないよね。うん」
 ひとつ頷けば、それを『鍵』としたようにヴィクトルの目の前、広がっていた幻は完全にーー消えた。

●朱糸
 ゆらり、ゆらり揺れる。
 湯気だと糸縒・ふうたは思った。あったかいごはんの湯気。あたたかい部屋の空気。きゅ、と身を縮こめる必要なんて何もない。そこには当然、ふうたの父と母の姿があった。
「父さん母さん」
 ぽかぽかうれしくて、たのしくて。
 当たり前のはずがそれが、何故か懐かしい、とそう、ふうたは思った。理由は分からない。ただただひどく、心の底の方がざわついた気がしてーーふと、気がつく。ついつい、と裾をひくかぞくとなかまが心配そうにふうたを見上げていた。
「ごめんね、もうだいじょうぶだから」
 鼻先を撫でて安心させて、すっかり手の中で緩くなったボウルを握り直す。
 あの宝箱の山。それにこの誘惑。
 その向こうには確かに、何かがいるのだ。
「オレにはお前たちと、ともだちがいるから、平気」
 その言葉を『鍵』とするように、目の前の『光景』が消えていく。ゆらゆらと、あたたかな空気と湯気が最後、ふうたの頬をなで父と母の姿も見えなくなる。
「さぁ行こって」
 帽子を被りなおして、息を吸う。
 促して、歩き出す。本当の目的地はこの先にあるのだから。

●碧瑠璃
「ふわわわわっ」
 それは、それはもうーー息を飲む程の『誘惑』がジゼル・スノーデンの前に広がっていた。迷宮めいた空間はそのままに、てっしたっしもっふもっふと移動してくるのはーーモフィンクスだ。
「もっふー」
「もっふもっふ」
「もふ?」
 そしてそのふかふかあったかモフィンクスの向こう、ひょいと姿を見せたのはーー見せたのはーー……。
「ぷに?」
「ぷにぷに?」
 あまーい蜜ぷにさんたちだった。ぷにっぷ? ぷにぷに? と蜜ぷには集まる。円を作る。なんだかちょっと考えるようなポーズをとって、ぷにっぷにとジゼルを振り返りーー。
「ぷに!」
 積み重なってみた。
「ぷにぷに♪」
 ついでにちょっと揺れても見ている。
「もっふー」
「もっふもっふ!」
 モフィンクスたちはてっしてっしと歩いていて。短い足ではあんまり移動できなくてそう、つまり此処はーー。
「なんだ、ここは楽園なのか。約束された楽園の地なのか!?」
「ぷに?」
「もっふー」
「やーめーてー!! そんな可愛い目で私を見るなー!」
 じぃっと、それはもうじぃっとじぃっと注がれる視線にジゼルはふるふると頭を振った。ちょっとばかしよろよろとしてしまう。だって、だってこんな光景。こんな世界。こんな楽園……!
「うううう、カノープス、カノープス助けてくれ! あっちに私の目がいかないように、ピカピカしててくれ!」
 光を宿すクラゲの霊がぱふん、と姿を見せる。ふわり、ふわりと浮かぶカノープスがジゼルの周りをピカピカと光りながら回れば少しずつ心が落ち着き出す。
「そ、そうだ、わたしはつよいこ、負けない子だ。ちゃんとガマンして、岬に帰ったらみんなといっしょに甘いの食べるんだ」
 闇夜の灯台。ピカピカと光るカノープスにジゼルは、す、と息を吸う。
「こ、こんなとこで一人でもふもふしたり、甘いの食べたりしないぞ!」
 ジゼルの言葉に、蜜ぷにとモフィンクス達が首を傾げる。
「ぷに?」
「ぷにぷに?」
「もっふ?」
 う、と思う。でも、でも違うんだ。すぅ、と息を吸い、ぴかぴかと光るカノープスにジゼルは頷いた。
「わたしは、みんなでする方がいいんだ!」
 その言葉を『鍵』とするように目の前の『光景』が煙のように消えていく。ふわり、揺らぎ、光の中にモフィンクスと蜜ぷに達が消えていく。
「大丈夫。ちゃんと、分かってる。私はわたしの守護する岬が一番で、そこにいるみんなが大好きなんだ」
 一度、伏せた瞳を開けば広がるのは、覚えのある迷宮の壁。宝箱が山のようにあったフロアを思い出しーージゼルはその向こうに続く、扉を見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【HSC】
そういや、誘惑があるって言ってたっけか
リカー、判ってんな?
誘惑に負けたら殴ってでも正気に戻してやっからよ


誘惑……?
エンパイアにある故郷への望郷って奴かな?
UDCアースから帰れないと思ってたガキの頃ならいざ知らず
今の俺は猟兵だし、帰ろうと思えば帰れるんだぜ?
それに、故郷にゃパンがねぇもんよ
パン

俺、この仕事終わったら自分ご褒美にメロンパン買い占めるって決めてる
行きつけのパン屋の焼きたて、出来立ての甘くて美味いやつ
カリカリサクサクの表面とふわふわもっちりな中身のギャップ

それが故郷にゃねぇんだよ
残念な事にさ!

危険が迫った場合はエレクトロレギオンと華焔刃で対応

補足
無類のパン好き
一番はメロンパン


百合根・理嘉
【HSC】
ひでぇ目に遭った……
誘惑、なぁ……
るっせ、りんたろも誘惑に敗北したら俺が殴って正気に戻してやる
いっそ、Silver Starで轢いても許されるに違いないぜ
(真面目にうんうん)

誘惑、な……
ッ!……んなもん、ある訳ねぇだろ……
俺に優しい両親とかよ……
あー!ねぇねぇ!んなもんねぇわ!ぜってぇねぇし!

イライラすっから、Silver Starでとっとと駆け抜ける
りんたろも乗っけてく

まぁ、俺が誘惑によろめいたら
殴ってでも正気に戻すつってたのは信用してっから

最悪の場合は、ゴッドスピードライドで最速で抜ける!
りんたろ、舌噛むから黙ってろよ?

補足
育児放棄されていた為、親類に引き取られて育った過去を持つ


ライヴァルト・ナトゥア
【SPD】、ダッシュ、ジャンプ、第六感を使います

凄まじく甘ったるい匂いだなぁ。これはさっさと抜けるが吉か
(ユーベルコードを起動。息を止めてダッシュ技能、第六感で出来る限り濃度の薄い部分を駆けて、飛び跳ねて移動する)
流石に見えはしないが、空気の流れくらいは把握できないと、な!
(息するときはひらりとした自らの服を口元に当てて勤めて香りを吸わない様に心掛ける。特別な服なので、防護性はかなり高い)
そこそこの遮断性があるはずだけど、流石は迷宮産、そこらの香料とは勝手が違うなぁ
(ゴールに着いたら)
ふぅ、やっと終端か。さて、このお騒がせな騒動の大元に会いに行くとしようか


宵鍔・千鶴
変化した空間にぞわりと全身が逆立つ感覚
いっそチョコレートの山なら簡単に釣られる自信はあるのだけど俺達に作らせる心算ならほんと面倒
さあさあ、何がお目見えしてくれるのやら

【SPD】
ふわりと甘い香りとともに
眼前には一本の古びた鍵
嘗て自分が最も欲した自由になるための
或いは幸せな場所へ帰るための
触れようとすれば幼き日の自身の幻影
なあ、お前は今の俺がどう映る?
描いていたモノになれているのだろうか

けれど握った鍵をそのまま地へ落とし
…お上品に鍵で開けるなんざ御免だ
ぶっ壊して奪った方が性に合う
だからもう大丈夫

幻影が消える間際に対峙した自分が
そっと微笑んだような気がしたけれど
赦されたのか、嘲笑か

俺はもう止まれない


終夜・凛是
甘い匂いが……

俺の心揺らしてくるのはにぃちゃんだけ。
ここにいないってわかってる、けど。
誘惑でもなんでもいい。一目でいいから、その姿を……見たい。

灰青の毛並みの、にぃちゃんは。
きっと俺の方なんてむいて、くれないんだろう。その後ろ姿が誘惑でもなんでも、現れたなら俺は息を飲む。追いかける。
誘惑でも、なんでも、いい――とは、思わないから。
きっと色々、思う事はあるけど俺はそのうち足止める。
本当に、誘惑でもこっち向いてくれないから、にぃちゃんなんだ。
やさしくない。この誘惑は、よくわかってる。だから惑わされそうだし、そうならない。

……やばい。
びっくりする。ひとすじ左眼から涙でた。
誰にも見られてない……よな。


東雲・咲夜
ここは…双子の弟のえっくんのお部屋?
せやけどこのチョコレートの香り…
嗚呼、幻なんやね

ベッドで読書するえっくんは落ち着きはって見慣れた感じ
うちもいつもみたいに何気なく隣に座ってみます

何読んではるの?
手元を覗こうとしたら本を閉じられて
うちと同じ藍色の双眸と視線が交錯する

胸の奥が震えて、締めつけられるみたい
この感情は……拒絶と、期待
……やめて
そないに真っ直ぐ見つめんといて
ずっと見ないふりをしてきたのに
うちはその感情の名前に気付きとうない
だってうちらはーー

……そうや
これはうちの心が、この迷宮が魅せる夢幻
えっくんはお家で待っててくれはる
触れそうになる手を抑え立上ります

行かなきゃ…うちが逢いたいひとの処へ



●現世に幻
 甘い、香りがした。チョコレートのそれに、宵鍔・千鶴は息を吐く。ただの甘い香りというには、周りがあまりに異常すぎた。迷宮の灰色の壁からは匂いの出所など見えぬまま、気がつけば周りに他の猟兵の姿は無い。変化した空間に、煙のようにかかる靄にぞわり、と全身が逆立つ。
「いっそチョコレートの山なら簡単に釣られる自信はあるのだけど俺達に作らせる心算ならほんと面倒」
 宝箱の中、見つけた物品は料理道具に、レシピ。それと、謎の招待状だった。あの誘いにどれだけの意味があるのか。
「さあさあ、何がお目見えしてくれるのやら」
 吐いた息ひとつ、千鶴の前にあった景色がーー歪む。薄墨に似た煙は、ふわりと甘い香りと共に空間を変えた。先の見えない薄い闇。眼前には一本の古びた鍵。それは、嘗て自分が最も欲したもの。自由になるためのーー或いは幸せな場所へ帰るための。
「ーー」
 知らず、手が伸びた。触れようとすれば、ふわり姿を見せるのは幼き日の千鶴の幻影。白く不健康な顔を晒す幼子。
「なあ、お前は今の俺がどう映る?」
 描いていたモノになれているのだろうか。
 紡ぐ声に応えはないまま、ただただ向けられる視線に。姿に。一度握った鍵を、千鶴は落とす。
「……お上品に鍵で開けるなんざ御免だ」
 吐き出した声ひとつ、低く落とした声に、落ちた筈の鍵の音が遠く聞こえる。
「ぶっ壊して奪った方が性に合う」
 口の端に乗せたのは不遜か。ひとつ息を吐きーーそうして、千鶴は幻影を見た。
「だからもう大丈夫」
 その言葉を『鍵』とするように、空間が歪む。煙のように燻り、幻影が消える間際、対峙した自分がそっと微笑んだような気がした。
「ーー」
 赦されたのか、嘲笑か。
「俺はもう止まれない」
 
●終わりの夜
 甘い匂いが、した。ゆら、ゆら、煙のように揺らぐ空間が『なに』を写すものか終夜・凛是は知っている。幻だという。足を止めるものだという。そう言う場所であると、正しく理解している青年はオレンジの瞳を細めた。
「俺の心揺らしてくるのはにぃちゃんだけ。ここにいないってわかってる、けど」
 煙が揺れる。靄が歪む。
 ぽつり、落ちた言葉に波紋を描くように世界が揺らぐ。紛れもない事実は胸の奥に確かにあるのに、そのことを凛是は理解しているというのに瞼の裏、浮かぶ姿に願うような声が落ちた。
「誘惑でもなんでもいい。一目でいいから、その姿を……見たい」
 空間を歪ませていた波紋がーー止まる。靄の向こう。さわさわと灰青の毛並みが揺れていた。
「ーー」
 空が歪む。景色が変わる。振り向くことのない後ろ姿に、凛是は息を飲みーー追いかける。足は、転がるように前に出て、にぃちゃん、と呼ぶこともないまま、乾いた喉の奥、かける声も見失ったまま、持たないまま、追いかけて追いかけてーーそうして、足を、止めた。
「……」
 誘惑でも、なんでも、いい――とは、思わないから。胸の奥、渦巻く思いは幾重にも絡み合って沈んでいく。
 ふ、と凛是は息を落とす。本当に、と吐息を零すように凛是は言った。
「本当に、誘惑でもこっち向いてくれないから、にぃちゃんなんだ」
 やさしくない。
 この誘惑は、よくわかってる。
「だから惑わされそうだし、そうならない」
 すぅ、と一つ息を吸って顔を上げる。その一言を『鍵』とするように、空間が歪みーー何かが頬を濡らした。
「……やばい」
 頬を伝い落ちるそれ。左目から流れた一筋の涙。頬が濡れて、伝い落ちて漸く気がついたそれに、ぱち、と凛是は瞬いた。
「びっくりした」
 ぐい、と拭う頃には、眼前の誘惑は消え見慣れた迷宮の通路が広がっていた。
「誰にも見られてない……よな」

●花に霞の
 ゆらり、歪む景色に一瞬の眩しさが東雲・咲夜を襲った。ゆっくりと目を開けば見慣れた部屋。
「ここは……えっくんのお部屋? せやけどこのチョコレートの香り……」
 嗚呼、と咲夜は息をついた。
「幻なんやね」
 ベッドで読書をする双子の弟は落ち着いた見慣れた姿をしていた。いつものように何気なく、咲夜も隣に座る。
「何読んではるの?」
 手元を覗こうとすれば、ぱたん、と本が閉じられて藍色の双眸と視線が交錯する。咲夜と同じ藍色。胸の奥が震えて、締め付けられるように痛む。
「ーー」
 この感情は……拒絶と、期待。
「……やめて」
 息を飲む。僅か、震えるような声が、咲夜の唇からこぼれ落ちる。
「そないに真っ直ぐ見つめんといて。ずっと見ないふりをしてきたのに、うちはその感情の名前に気付きとうない」
 胸の奥、確かにあった感情には名前は無いまま。けれど朧げに描かれる形は知っている。気がついては駄目だと、そう思う声があるのも。
「だってうちらはーー」
 真っ直ぐに、ただただ真っ直ぐに注がれる視線に、超えかけた一線。だが、その一瞬に、咲夜は『今』を掴む。
「……そうや。これはうちの心が、この迷宮が魅せる夢幻」
 えっくんはお家で待っててくれはる。
 触れそうになる手を抑え、咲夜は立ち上がった。
「行かなきゃ……うちが逢いたいひとの処へ」
 その言葉を『鍵』とするように、空間が歪み誘惑の景色がふわり、と消えていく。瞳の色彩を最後に残し、強くなった甘い香りに咲夜は小さく息を吸った。

●遠き日に、二人
 ふわり、ふわり、揺れる景色が篝・倫太郎と百合根・理嘉の眼前ーー行先を歪ませていた。向こうの通りが見えるのに、ほんの僅か煙ったかのように見えにくい。成る程、これが『誘惑』の空間か。
「誘惑、なぁ……」
 思わず息をついた理嘉に、倫太郎は、に、と笑う。
「リカー、判ってんな? 誘惑に負けたら殴ってでも正気に戻してやっからよ」
「るっせ、りんたろも誘惑に敗北したら俺が殴って正気に戻してやる。いっそ、Silver Starで轢いても許されるに違いないぜ」
 真面目にうんうん、と頷く相棒を横に、なら、と薄く開いた倫太郎の唇が言葉を止めた。
「……誘惑?」
 靄のかかった景色。何かが見えてくる。あれは、街の光景だろうか。エンパイアにある故郷への望郷か。
「UDCアースから帰れないと思ってたガキの頃ならいざ知らず、今の俺は猟兵だし、帰ろうと思えば帰れるんだぜ?」
 蜃気楼のように見えた景色が、その輪郭を得る前に、青年は言った。
「それに、故郷にゃパンがねぇもんよ。パン」
 そりゃぁもう力一杯言い切った。
 そう、無いのだ。メロンパンが。あれが。倫太郎の故郷には無い。
「俺、この仕事終わったら自分ご褒美にメロンパン買い占めるって決めてる」
 行きつけのパン屋の焼きたて、出来立ての甘くて美味いやつ。
「それが故郷にゃねぇんだよ。残念な事にさ!」
 自分へのご褒美を掲げ、絶対的事実をつきつけた倫太郎の言葉を『鍵』とするように、見えていた景色がふわり、と歪んで消えていく。
「……」
 その声が遠く、理嘉の耳に届く。あぁ、倫太郎の声だな、と思うのに、遠い。
「誘惑、な……」
 歪んだ景色の向こう、墨のように何かが揺らぎーー姿を、為す。声がする。やわく、甘い声。優しく、ただただ優しく己を呼ぶその声はーー……。
「ッ! ……んなもん、ある訳ねぇだろ……」
 指先が手招く。あやすような声。今更抱きしめて愛しているとでも囁くというのか。
「俺に優しい両親とかよ……」
 落ちた声が、ほんの僅か、掠れた。そうであれば、もし、そうであったとしたら自分は引き取られることなど無かっただろうに。
「あー! ねぇねぇ! んなもんねぇわ! ぜってぇねぇし!」
 その言葉を『鍵』とするように目の前の景色が歪みーーふわり、と消える。重ねた否定に、滲む墨に似た幻覚はかき消え、理嘉はバイクに手をかける。イライラする時は駆け抜けるに限るのだ。
「りんたろ」
 声を投げた先、メロンパンを熱く語っていた男が慣れた様子で後ろに乗った。

●青き護人は駆け
 疾走するバイクが、煙の中を消えていく。彼らは既に誘惑の幻を突破したのだろう。
「凄まじく甘ったるい匂いだなぁ。これはさっさと抜けるが吉か」
 ふ、と息を吐き、ライヴァルト・ナトゥアは腰を低めた。
「封印限定解除、此処に来るは大いなりし蒼き狼」
 ぶわり、と空間が歪む。誘惑の幻が、顕現しようとする。未だ形を得ないままのそれに、ライヴァルトは己の力をひとつ、解放する。
「地を駆け、空駆け、獲物を屠れ。疾くあれかし、《限定解放・天狼疾駆せし戦場幻景》」
 蒼狼の外装を纏い、床をーー蹴った。飛ぶように一気に。息を止めて、予想より少しばかり高い天井を目指す。
「流石に見えはしないが、空気の流れくらいは把握できないと、な!」
 天井にて、くるり、と身を回し、歪む空気を払うように壁を蹴る。瞬間、追いかけるようにぶわり、と甘い香りがした。
「そこそこの遮断性があるはずだけど、流石は迷宮産、そこらの香料とは勝手が違うなぁ」
 やれやれと息を吐き、口元に服をあてる。香りを吸わないように、ライヴァルトは一気に奥を目指した。追いかけてくるのであれば、多少躱すこともできる。魔力によって流し込まれているというよりは、この空間自体に設置されたトラップのようなものなのだろう。
「よ、っと」
 着地して、そのまま身を前に飛ばす。ぐ、と勢いよく加速すれば、香りの方が遠ざかる。
「ふぅ、やっと終端か」
 息を吐いた先、迷宮らしい大きな扉が出現していた。見れば、他の猟兵たちも無事に辿り着いている。
「さて、このお騒がせな騒動の大元に会いに行くとしようか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『迷宮ショコラティエール』

POW   :    チョコレート・ソルジャーズ
レベル×1体の、【頬】に1と刻印された戦闘用【チョコレートで出来た兵隊】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
SPD   :    チョコレート・コーティング
【溶かしたチョコレート】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    チョコレート・グラフティ
【溶かしたチョコレート】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を自分だけが立てるチョコの沼にし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠御剣・誉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●迷宮ショコラティエール
 チリン、チリン、とベルが鳴る。来客を告げるように、店で聞くようなひどく可愛らしい音が響き渡った。ドアベルだろう、と猟兵たちは思う。だが、扉など誰も開けてはいなかった。何もしていないというのに響き渡った音。迷宮には凡そ不釣り合いな歓待を告げる鈴の音が三度響きーー猟兵たちの前にあった扉が『変わった』
「あぁ、いらっしゃいませ! ようこそおいでくださいました!」
 木製の可愛らしいドアからは甘いチョコレートの香り。きぃ、と音を立てて、ひとりでに開いた扉の向こう、ひとつの影が君たちを待っていた。
「チョコレートの素晴らしさを感じていただけましたか?」
 そこにいたのは、チョコレートの香りを纏う一人の娘であった。それが普通の人間では無いことを猟兵たちは知っている。溢れる笑みはどれだけ甘くとも、柔らかく見せてもーー何かが、おかしい。
「チョコレートに勝るお菓子なんて存在しないんです。チョコの香りと共に誘惑に浸るなんて、素敵な世界だったでしょう?」
 こちらの言葉など、求めてはいないのか。聞く気など最初から無いのか。迷宮ショコラティエールの無邪気な声は滲む狂気と共に笑みと変わる。
「チョコがこの世の、どんなお菓子でも敵わないところにあるのはちゃんと理解していただけたと思います。えぇ」
 あぁ、勿論。と迷宮ショコラティエールは言う。此処まで辿り着いた皆様でも、嫌だと仰るようなことが万に一つおありなら、と。
「ご理解いただけない場合は理解いただくまで付き合っていただきますわ。チョコレートの彫像になるなんて如何ですか?」
 時間ならたっぷりご用意できます。この空間を閉じてしまえば良いだけのこと。
 にっこりと微笑んで、迷宮ショコラティエールは踵を鳴らす。ふわり、と迷宮の壁が変質しーーカフェが出来上がった。迷宮の中とはまず思えない箱庭。チョコレートでできた椅子が人数分。甘い香りがぶわり、と濃くなる。
「息ができないほど、甘い甘いチョコレートに包まれてくださいね」
 死んでしまっても、えぇきっと、甘くて素敵なチョコタイムになりますから!
篝・倫太郎
【HSC】
まぁ、チョコレートが美味いのは否定しねぇけども
一番かどうかはそれぞれじゃね?
俺?嫌いじゃねぇけど、一番でもねぇよ

後、俺はチョコよりもメロンパンがいいなー
菓子パンの括りだから菓子だよな?あれも

後、チョコレートの彫像はご遠慮願います……ってな!

先制攻撃からの二回攻撃!
華焔刀でなぎ払い!

ソルジャーズにはエレクトロレギオンで召喚した機械兵器で対応
コーティングとグラフティも機械兵器を命中阻止の身代わりに
チョコレートの沼とか底なし沼みてぇでぞっとするつーの!

仲間の攻撃支援、陽動撹乱で行動
必要なら理嘉の宇宙バイクに載せて貰って
攻撃と回避の精度を上げてぇなぁ

補足
割と甘いものは好き
そして、辛い物も好き


百合根・理嘉
【HSC】
好き好きだしなー
俺もチョコレートは一番じゃねぇや

メロンパンはパンじゃねぇの?
や、良く知らねぇけど

コーティングされて像になるんじゃねぇの?
それって、彫像じゃなくね?

先制攻撃からの二回攻撃!
りんたろとはタイミングずらしていくぜ!
ついでにフェイントも織り交ぜてくー!

敵の攻撃には
バトルキャラクターズで召喚した『にーさん』らで対応ー
ソルジャーズは兵隊対にーさんの図式!
他の攻撃も、にーさんらに身代わりになって貰うぜー
沼とかあったらSilver Starでの移動がし難いからよ

りんたろとタンデムで撹乱と陽動ー
支援はすっから、ばしっと決めてくれな!

まぁ、チャンスあるなら遠慮なく殴る!
にーさんらが!



●チョコとパンと?
「まぁ、チョコレートが美味いのは否定しねぇけども、一番かどうかはそれぞれじゃね?」
 篝・倫太郎は小さく首を傾げた。問う、というよりは幾分か、不思議そうな色を残した声に微笑を浮かべた迷宮ショコラティエールが顔を上げる。
「成る程。ではお好きなものは?」
「俺? 嫌いじゃねぇけど、一番でもねぇよ」
「好き好きだしなー。俺もチョコレートは一番じゃねぇや」
 災魔の視線に百合根・理嘉が口を開く。僅かに、その視線が色を違える。僅かに濃くなった香りに小さく理嘉が眉を寄せていれば、ショコラティエールを名乗る災魔相手に倫太郎がパンの名を告げた。
「後、俺はチョコよりもメロンパンがいいなー」
「……」
「菓子パンの括りだから菓子だよな? あれも」
 黙した迷宮ショコラティエールの前、ちょっとばかし自信が無くなって、倫太郎は相棒へと視線を向ける。
「メロンパンはパンじゃねぇの? や、良く知らねぇけど」
 お菓子、と菓子パンの間にどれだけの隔たりがあるのかは分からぬままーーただ、その言葉が、チョコよりも、と告げた言葉が迷宮ショコラティエールの纏う気配を変えたのはーー確かだ。
「成る程、成る程成る程。チョコレートよりもお好きなものがあるのですね。えぇ大丈夫です。大丈夫ですとも!」
 迷宮ショコラティエールが踵を鳴らす。ぶわり、と甘い香りが濃くなると同時に、纏うチョコレートが蠢く。それそのものが、まるで生きているかのように。力があるかのように。迷宮ショコラティエールの指先に招かれ、迫り上がる。
「チョコレートに包まれれば、きっとこの素晴らしさを理解していただけますわ!」
「っと、チョコレートの彫像はご遠慮願います……ってな!」
 溶かしたチョコレートが蠢く気配に倫太郎は床を蹴った。身を前に飛ばし、薙ぎ払う刃がチョコレートの壁が出来上がるより早くーー届く。
「……っく、さすがはチョコを認めない方ですね」
「そこかよ!」
 瞬間、ぶわりと周囲の空気が熱を帯びた。甘い香りに、パチン、と指を鳴らす。至近にて、飛び上がったのは小型の機械兵器だ。びしゃり、とチョコを代わりに浴びた兵器が地面に落ちる。
「チョコレートの沼とか底なし沼みてぇでぞっとするつーの!」
「いえ、いえいえ。きっときっと素敵な場所ですよ!」
 外れた一撃が、チョコが床に沁みる。二度、三度と波紋を描くように『床』が震えーー変わる。
「チョコレートの沼かよ」
 あっま、と理嘉が息をつく。
「つーか、コーティングされて像になるんじゃねぇの? それって、彫像じゃなくね?」
 言ってーー床を蹴る。飛ぶように前に。二歩目で一気に顔をあげたのは、迷宮ショコラティエールがその腕を、振り上げたのを見たからだ。
「いいえいいえ彫像ですよ。似合う形に私が腕によりをかけて直して差し上げるのですから」
 貴方がチョコレートを一番に思うまで!
 歌うように告げた迷宮ショコラティエールが、腕を伸ばす。
「貴方を捕まえます」
「遠慮しとく……!」
 ひゅん、と伸びたチョコレートの波に、理嘉は身を横に振る。きゅ、と踏んだ床と同時に、迫るチョコレートに、手元の端末に触れた。
「にーさんたち」
「な……!」
「宜しく」
 理嘉の手の中にある黒い携帯用ゲーム機が、淡い光を帯びていた。改良と改造が施された専用の端末は、短な動作でゲームキャラクターたちをこの地に召喚していたのだ。
 伸びたチョコレートの波が、ゲームキャラクターたちに阻まれる。息を飲んだ迷宮ショコラティエールが腕をひく。甘い波がぶわり、と揺らぐがそれでは理嘉には届かない。
「いくぜ」
 身を飛ばした先、Silver Starにエンジンをかける。飛び乗った先、チョコの合間を縫い『にーさん』達が迷宮ショコラティエールへと一撃を届けていた。
「りんたろ!」
「——あぁ」
 声を上げた先、相棒を後ろに乗せて。理嘉は他の猟兵たちへと声を上げた。
「支援はすっから、ばしっと決めてくれな!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

糸縒・ふうた
アドリブ・絡み・改変等歓迎

たしかにちょこれーとはきっとすごくおいしくて、しあわせになれる食べ物なんだろうけどさ
そういうのって、食べたいなってときに食べたい分だけ食べるからそう思える気がするんだ
だから、ちょこれーだけっていうのには反対!

【人狼咆哮】でちょこれーとの兵隊を壊すことを中心に
狭くて避けづらいだろうけど特にこーてぃんぐ? が厄介そうだから、
溶かされたちょこれーとに当たらないように気を付ける!

オレだけだと間に合わなくて避けられそうになかったら、
【疾風】に咥えて助けてもらおうかな

これだけちょこれーとの香りをかいでると、
ちょっとしばらくいいかもって思っちゃいそうだぁ


ライヴァルト・ナトゥア
いや、正直君とは気が合いそうだよ。俺もお菓子の中じゃチョコレートが一番好きだからね
(満面の笑顔で言った後にスッと目を細めて)
けれど、チョコレートだけっていうのはいただけないかな。チョコレートは至高だが、その組み合わせのバリュエーションもまたチョコの魅力であるはずだ。ただそれだけでなんて、悲しすぎると思わないか?
(ユーベルコードで幻霊を纏って)
聞き届けてもらえないというならば、残念ながらこの話は決裂だ。一人のチョコ好きとして、君のあり方は認められない
(【2回攻撃】の手数でチョコレートを斬り払って前へ進む。【ジャンプ】【空中戦】で逃げ場を確保)
さぁ、俺と君。どちらのチョコ愛が強いか、勝負といこう!



●チョコレートは良いけれど
「わかった!」
 駆け抜けていく二人を視界に糸縒・ふうたは、地を蹴った。どろりと溶けたチョコレートが少しばかりこちらに迫っていたからだ。とん、と飛びのいて、あら、と落ちた迷宮ショコラティエールの声に顔を上げる。
「たしかにちょこれーとはきっとすごくおいしくて、しあわせになれる食べ物なんだろうけどさ」
「えぇ、えぇ勿論ですとも」
 ふうたの言葉に、迷宮ショコラティエールが蕩けるような笑みを零す。狂気じみた色彩に、だが臆すことなくふうたは告げた。
「そういうのって、食べたいなってときに食べたい分だけ食べるからそう思える気がするんだ」
 だから、と少年は告げる。
「ちょこれーだけっていうのには反対!」
「ーー成る程、成る程成る程。そうであれば、えぇそうであれば!」
 迷宮ショコラティエールが両の手を広げる。展開されたチョコの沼がゆらゆらと動き出す。
「チョコレートこそ至高であり最高であると、それ以外は何もいらぬと教えさせていただきますね!」
 さぁ、と災魔が歌うように告げれば、ざぁあっと波のように溶けたチョコレートたちがーー動き出した。空間が、熱を帯びる。さすが、溶けたチョコは熱いのか。甘い香りより強く届いた熱に、ふうたは身を横に飛ばす。
「っと、疾風!」
 勢いはチョコの方があるか。手を伸ばした先、ふうたの影から出てきた狼がわふり、とふうたを咥えてーー飛ぶ。跳躍は高く、チョコの波を避けきれば向けられた指先。チョコの兵隊の姿は幸いまだ無いがーーならば、先にひとつ。
「いくよ……!」
 人狼の咆哮がーー響く。習うように疾風の遠吠えが響き渡れば、這うように向かってきていたチョコレートの波が崩れる。
「っく、この程度。まだチョコレートは作れます……!」
 さぁ、兵隊たち。と迷宮ショコラティエールが声を上げる。とんとん、と踵を鳴らせば、その音を合図とするようにチョコレートの兵隊たちが続々と姿を見せた。
「ちょこれーとの兵隊はまかせて」
 この咆哮は、チョコレートに届いた。溶かされたチョコレートに当たらないように気をつけて咆哮を響かせれば、上手く数も減らしていけるはずだ。
(「うん、それにしても……」)
 あまい。とにかくすごく、甘い香りがいっぱいする。
「これだけちょこれーとの香りをかいでると、ちょっとしばらくいいかもって思っちゃいそうだぁ」
 ついつい、と疾風に裾を引かれて、ふうたはわかってる、と頷いた。
 咆哮がーー響く。力強いその声に、チョコレートの兵隊が砕け散れば、さすがの迷宮ショコラティエールの声にも焦りが滲んできていた。
「まだ、そう。まだこの程度では、チョコレートの素晴らしさの前には……!」
「いや、正直君とは気が合いそうだよ。俺もお菓子の中じゃチョコレートが一番好きだからね」
 満面の笑顔で告げーースッ、とライヴァルト・ナトゥアは赤茶の瞳を細めた。
「けれど、チョコレートだけっていうのはいただけないかな」
「また、そのようなーー……」
 ことを、と眉を寄せた迷宮ショコラティエールに、ライヴァルトは告げた。
「チョコレートは至高だが、その組み合わせのバリュエーションもまたチョコの魅力であるはずだ。ただそれだけでなんて、悲しすぎると思わないか?」
「なーー……!」
 息を、飲む。驚愕に似た声を耳にライヴァルトは幻霊を纏う。はた、はたと揺れる蒼狼の外装。その奥でゆるり、とライヴァルトは目を細める。相対した災魔の瞳が揺れていた。葛藤、だろう。そんな、いえ、でも。いいえ、チョコレートだからこそ、と言葉は幾重にも重なりーー鈍い音を立てる。見目のままの少女の声は歪み、ざわざわとチョコレートの沼が揺れる。
「ーーいいえ」
 ゆっくりと、迷宮ショコラティエールは顔を上げる。瞳が、鈍く光る。
「いいえ、いいえ。組み合わせもまたチョコレートを輝かせるのは事実。ですがえぇ、その結果至高のチョコレートを貶める結果となるものが存在するのも事実」
 ですから、そう、ですから。と迷宮ショコラティエールは言った。
「チョコレートのみが至高なのです。えぇ、お分かり頂けるまで、貴方もこのチョコレートに沈めさせていただきましょう……!」
 ざぁああ、とチョコの沼が揺れ、チョコレートの兵隊たちが次々に姿を見せる。
「残念ながらこの話は決裂だ。一人のチョコ好きとして、君のあり方は認められない」
 息を吐き、ライヴァルトは踏み込む。足裏、掴む床を蹴れば疾駆に相応しい速度で前へーー飛ぶ。至近の一体、振るう鎌で斬りはらい、宙に浮いた体から落下の勢いさえ利用して鎌を振り下ろした。
 パシャン、とチョコレートの兵隊が崩れる。ライヴァルトの背に追いすがるチョコは、ふうたの咆哮が打ち崩した。援護の攻撃は、先に飛び込んだ二人の猟兵からも届いている。
「さぁ、俺と君。どちらのチョコ愛が強いか、勝負といこう!」
「……っえぇ、思い知って頂きましょう!」
 今こそ、と災魔は吠えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

終夜・凛是
俺、この甘い匂い、あんまり好きじゃない。あますぎ……
あの誘惑は……まぁ。悪い気はしなかったけど、優しくてそうじゃなかったから。
俺はあんたのいうチョコレートじゃ浸れない。だから包まれても、やらない。
あんたにとってはチョコレートがいちばん、なんだろうけど。
俺はそうじゃないから、ここで倒す。

チョコレート、そんなに固くないだろ。
全部全部、でてきたものをただ拳叩き込んで砕いていく。
なんか流れ作業、みたい。
でも、あまい。ただただあまい。
こんな中で死ぬなんてありえない。死に場所はもうあるからやっぱり、ここじゃない。それにしぬときは…まぁ、いっか。

しょこらてぃえーる? のおねーさん。
ここはあんたが沈む場所。


ヴィクトル・サリヴァン
確かにまあ、素敵ではあったね。
個人的にはビターな方が好みだからそこは個人差だけれどもチョコは中々。
苦い夢を誘惑として見せてくれて有難う、けれどもお茶会は終わるもの。
もうお開きにしようじゃないか。

基本は支援中心に立ち回る。
地形を塗りつぶす溶かしたチョコにはUCで氷と嵐を混ぜて極寒の吹雪で対抗。
空中のは冷やしきれないけど沼ぐらいなら凍らすには十分だろう。
流石にこの沼を泳ぐのはね…
兵隊達も吹雪で動きを鈍らせられないか試してみるけど、もし合体して個体数減ったら額の数字の大きい兵士を大海より来たれりでぶち抜く。

溶かす方も考えたけど逆に溶けたチョコ増えて厄介になりそうなので冷やしで。

※アドリブ絡み等お任せ


東雲・咲夜
えぇと…無理に誘惑とセットにせんでも
うち、充分チョコレート、好きですよ?
せやけどみんながみんな同じ嗜好とは限りまへんし
押し付けはあかんと思うの

あのチョコの沼は少々厄介やね
【属性攻撃】【範囲攻撃】で彼女の足場に水の渦を発生させましょ
うちの周りに沼が出来ても、風の神霊の加護があるさかい
【空中戦】は得意やし大丈夫

チョコレートは食べ物以外の何物でもあらへん
飛び交ったり床に広がってるのを見ると
なんや哀しいきもちになりますね…

水神様をお喚びしましょか
纏う羽衣をつこて舞をくるり、ふわり
僅かでも動きを封じられれば…
ついでに食べられへんチョコも洗い流しておくれやす

実はミルクよりビターの方が好み…

🌸アドリブ可



●迷宮ショコラティエール
「さぁ、麗しのチョコレートの世界を!」
 歌うように告げ、迷宮ショコラティエールが踵を鳴らす。無数の兵隊を崩すように咆哮が響き渡れば、床に落ちたチョコたちが蠢き出す。波のようにせり上がり、蛇のようにうねるチョコレートは甘いだけのものでは無い。
「殺意、か」
 ヴィクトル・サリヴァンは息をついた。
「確かにまあ、素敵ではあったね。個人的にはビターな方が好みだからそこは個人差だけれどもチョコは中々」
「えぇ、チョコレートは良いでしょう!」
 蕩けるような笑みを零す迷宮ショコラティエールにヴィクトルは静かに笑った。
「苦い夢を誘惑として見せてくれて有難う、けれどもお茶会は終わるもの」
 悠然と告げる言葉、息を飲む災魔に風を呼ぶ。吐息さえ白く染まる冷気、招きこまれた風は潮騒を払う嵐。
「もうお開きにしようじゃないか」
「……ッいいえ、いいえ……!」
 絶対に、と迷宮ショコラティエールは吠えた。その声が、不自然に歪む。人のそれとは違う、獣に似た声にチョコレートの波が震えーー立ち上がる。
「チョコレートこそ最高で、至高なのですから……!」
 高い波はチョコの壁か。甘い影の中、ヴィクトルは勇魚狩りの名を持つ三又銛を振るう。凪ぐように一撃。切り裂く為ではなく、顕現させた氷と嵐を操る為。極寒の吹雪がバキ、バキとせり上がったチョコレートの波を凍りつかせる。
「な……ッ」
 冷気は、チョコレートの沼まで落ちていた。冷えた空気が床を走り、迷宮ショコラティエールの足元、生まれていたチョコの沼がバキン、と凍りつく。
「流石にこの沼を泳ぐのはね……」
 溶かす方も考えたが、逆に溶けたチョコで増えて厄介になりそうだと、そう考えたのは正解だったようだ。凍りついたチョコが、キン、と最後の音を立てて消える。アイスクリームにも似た、チョコの破片が床に飛び散りーー淡い光の中に消える。
「そんな、そんな。チョコレートが、こんな……ッ」
 嵐に、と迷宮ショコラティエールは言う。そもそも、チョコレートと嵐は競い合うような物でも無いというのに。その感覚さえ、迷宮ショコラティエールには既に無いのか。
 チョコレートが至高であり、それ以外は何一つ許さぬと。チョコレートに沈めてしまえば、きっと分かると、狂気じみた声が響く。
「この世に、チョコレート以上の誘惑など……!」
「えぇと……無理に誘惑とセットにせんでもうち、充分チョコレート、好きですよ?」
 え、と声が落ちる。ぱち、と瞬いた迷宮ショコラティエールの視線が東雲・咲夜を射抜く。
「せやけどみんながみんな同じ嗜好とは限りまへんし。押し付けはあかんと思うの」
 瞬間、迷宮ショコラティエールの視線が変わった。纏う空気が、揺れるチョコレートたちがざわざわと動き出す。溢れかえる殺気と共に、いいえ、と迷宮ショコラティエールは吠えた。
「これは……これは、迷うことなき唯一の選択肢なのですから!」
 チョコレートこそ、と叫ぶ声がノイズがかる。溶けたチョコレートがぶわりと持ち上がり、新たに形成された沼が迫る。だがその甘い誘惑に、咲夜はふわり舞う。と、と床を軽く叩いて、纏うは風の神霊の加護。足元に迫る沼を飛び越せば、ざぁあっと流れ込む甘い香りが濃くなる。
「チョコレートは食べ物以外の何物でもあらへん」
 床に広がり波打つチョコレートは意思を持つように揺らぐ。敵意だ、とそう分かる程に。
「飛び交ったり床に広がってるのを見るとなんや哀しいきもちになりますね……」
 ほう、と息を落とし、咲夜は指先を伸ばす。纏う羽衣が風を纏い、精霊の加護を宿した衣は淡く光を宿す。
「水神様をお喚びしましょか」
 謳うように、娘は告げる。神々の寵愛を、その歌声で賜る巫女の舞に雫の鎖が戦場へと顕現する。
「な……ッ」
 チョコの波を破り、迷宮ショコラティエールの腕を捉えた雫の鎖が、水の結界を描く。
 りん、と鈴の音が響いた。
「ついでに食べられへんチョコも洗い流しておくれやす」
 水龍の声が高く、響く。神々の声が届くのは巫女たる咲夜だからか。突如生まれた水龍に、再びチョコレートの沼が押し流される。
「こんな……ッこんな!」
 迷宮ショコラティエールの強化が解かれる。操るチョコの波が揺らぐ。びしゃりと床に落ち、光となって消えるのは災魔の力が鈍りだした所為か。
「こんなこと有り得ない。チョコレートこそが唯一至高であるのに、それ以外……!」
 絶対に、と吠える声に、ふぅん、と少年の声が落ちる。叫びも、戸惑いも歯牙にかけぬ様子の息をひとつ零し、終夜・凛是はオレンジの瞳を細めた。
「俺、この甘い匂い、あんまり好きじゃない。あますぎ……」
「ーー」
 好きじゃ無いと告げる。跳ね上がった殺意に、尾を揺らすことも、拳を握ることもしないままに凛是は息を落とす。
「あの誘惑は……まぁ。悪い気はしなかったけど、優しくてそうじゃなかったから」
 追いかけた背中。灰青の毛並み。声は聞こえていただろうか。振り向いてはくれなかった姿はーーけれど“優しくて”そうじゃなかった。
「俺はあんたのいうチョコレートじゃ浸れない。だから包まれても、やらない」
「な……ッ」
 チョコの波が揺らぐ。重なり響いた否定に、戸惑いは隠しきれず、存在の意義が揺らぐ。
「あんたにとってはチョコレートがいちばん、なんだろうけど」
 俺はそうじゃないから、と凛是は告げる。迫るチョコレートの沼に足を引き。
「ここで倒す」
「……ッそのようなこと、なぞ……ッ」
 おいでませ、と迷宮ショコラティエールが声を上げる。踵を鳴らし、沼から招かれたチョコレートの兵隊に凛是は前にーー出た。
「チョコレート、そんなに固くないだろ」
 踏み込む足で身を低め、飛ぶように前に出る。構えた拳を叩きつければ凛是より上背のあるチョコレートの兵が砕け散る。まだです、と叫ぶ災魔の咆哮に応じて伸びた兵の腕を、向けられたチョコの刃を凛是は掴む。
「……!」
「……弱い」
 刃は妖狐の素手に砕かれる。赤く染まった掌にわずか目を細めるだけに、続く拳で兵を砕く。胴を穿ち、腕を払い、砕け散れば地に落ちるチョコレートを吹雪が、水が払っていく。
(「なんか流れ作業、みたい」)
 でも、あまい。ただただあまい。
 こんな中で死ぬなんてありえない、と凛是は思う。ちりちり、と胸の奥を焼く思い。燠火のようなそれが死に場所はもうあるからやっぱり、ここじゃないと告げる。
「それにしぬときは……まぁ、いっか」
 ふ、と零した息は笑みか、それともーー。
 一瞬、穿つ一撃と共に赤い髪が凛是の瞳を隠す。零す吐息ばかりを白皙に、何度目かの拳を握りチョコレートの兵を突破した妖狐は告げた。
「しょこらてぃえーる? のおねーさん」
 沼を踏む。後方、届く水が二歩目のチョコを払う。冷気は災魔の纏うチョコレートだけを砕き、床に落とす。驚愕に見開かれた瞳に、ノイズがかった声に『次』のチョコは万全には用意できない。
「……ッこんな」
 僅かなチョコの沼が這い上がる。兵が顕現する。ーーだが防御など気にせず、打ち砕く拳を叩き込んだまま凛是は踏み込んだ。
「ここはあんたが沈む場所」
 最後の一撃、超高音速、大威力の一撃を叩き込むその為に。
「っく、ぁああ……ッ」
 一撃が迷宮ショコラティエールに届いた。
 チョコの波が揺れる。反撃の為、編まれた筈の兵が砕け散る。ヴィクトルの紡ぐ大海の波が戦場を浚いーー書き換えられた迷宮のフロアが溶けていく。キッチンめいたチョコレートの部屋は石畳のそれに。宝箱のフロアでみた床と、壁と同じ色に。
「こんな、……ッチョコレート、だけが至高の筈で、それ以外、など……ッ」
 ぐらり、と迷宮ショコラティエールが身を揺らす。纏うチョコが崩れ落ち、揺らぐ瞳が一度猟兵たちを捕らえーーまだ、と呟く。だが放つべきチョコは既に無く、伸びた指先に寄り添う甘さが無い事に気がつけば小さな息だけが落ちた。
「チョコ、以外にも……もしか、したら」
 あぁでも、やっぱり譲れない、と呟いて、けれどほんの少しの笑みを浮かべて、チョコレートをたたえ続けた迷宮ショコラティエールは光となって消えた。
 斯くして、迷宮は平穏を取り戻す。襲い来るチョコレートの波は消え、ほんの少し、甘いチョコの残り香と共に穏やかな時間が帰ってきた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト