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迷宮災厄戦⑨〜リアル・チェス(フリースタイル級)

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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 時間を凍りつかせた城の一角に、住まうは『スノーホワイト・プリンセス』。
 本来知られる『白雪姫』が運命に流され彷徨う少女であるとしたら、彼女は他者の運命すらも握り物語を、世界を統べることへと目覚めた『傲慢』の姫君。
 思考は常と同じまま、10分の1に落ちた速度でしか動くことも攻撃を放つこともできぬ不自由なる場所、けれど彼女は「まるでチェス盤のようね」と笑った。
 統治者たるべき己には、相応しい戦場にして舞台に他ならない、と。

「アリスラビリンスでの迷宮災厄戦、始まったばかりではあるが非常に多くの猟兵が協力してくれている。まずは皆の尽力に感謝を」
 集まった猟兵達に一つ頭を下げた仙堂・十来は、壁に広げた戦場図の中の一箇所を指し示した。
「今回皆に頼みたいのは、時間凍結城に現れたオブリビオン『七罪』傲慢のスノーホワイトの討伐だ。この城は特性として『時間の凍結』……思考速度を除き、肉体の動きからユーベルコードの発動に至るまで、全ての行動速度が10分の1となる。戦況の流れに対して戦術を考える時間が多いとも言えるが、『攻撃が10分の1の速度で放たれても防御しようとする自分の動きも10分の1になる』……自分の思考よりも身体の動きをかなり遅く感じるだろう、そこは厄介とも言えるな」
 ある意味ではチェスや将棋といったボードゲームのような、行動と行動の間のタイムラグ。
 これをいかに生かして自分の戦術を組むかが、この戦場を制する鍵となるはずだ。
 もちろんチェスや将棋のような動きの制約があるわけではない。ただ、自分の考えを口に出すのも10分の1の速度でしかない。何らかの手段がなければ、意思疎通もままならない戦場でもある。
 相手もそれは同じはずだが、単独にして強力なオウガであり戦場の特性を理解し実感しているという点で、利は相手にあると言っていいだろう。

「普段とは勝手の違う戦い方や、別の臨機応変さが求められる戦場と言えるかもしれない。だが、このたびの戦いで必ず押し通らなければならない戦場でもある」
 そう、相手にとっては盤上の戦いであっても、猟兵達にとっては盤の先まで進むべき戦いだ。
「どうか、よろしく頼む。チェックメイト、あるいは詰みの先に至るために……だな」
 自分で言った励ましに「ちょっとキザかな」と照れたように笑ってから一礼し、十来はアリスラビリンスへの転移の準備へと取り掛かった。


炉端侠庵
 こんにちは、炉端侠庵です。
 最近将棋が楽しい炉端侠庵です。実況聞いてるだけですけど!

 というわけで今回は時間凍結城の戦いです。
 プレイングボーナス条件は『思考時間を活かし、戦略的に戦う』ことです。
 攻撃速度も10分の1なら防御速度も10分の1なので、相殺して命中率は同じくらい。上手く作戦を立てたり、あるいは相手が使ってくる作戦を予想してカウンターを仕掛けるなど、いろんな戦略の立て方があると思いますので頑張って下さい!
 それでは、よろしくお願いします!
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第1章 ボス戦 『『七罪』傲慢のスノーホワイト』

POW   :    常時発動型UC『世界で一番美しい者』
【世界で一番の美しさによる魅惑の魔力 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【美貌による魅了・洗脳効果と常時全能力低下】で攻撃する。
SPD   :    勇猛で忠実なる七人の小人(レジェンド・ゴブリン)
【高い戦闘力と殺戮技能を持つ七人の小人 】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    スノーホワイト・ストーリー(白雪姫の物語)
【全てを魅了し、虜にする世界一の美貌 】【毒林檎に込められた魔女の魔力と魔法技能】【王子の愛による超再生、不死能力と身体強化】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。

イラスト:栗山チオ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフレミア・レイブラッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鈴桜・雪風
なんとも摩訶不思議な空間…
流石に面食らいますわね
水飴の中を泳いでいるかのような遅さです

条件は敵も味方も対等
長考ができる特性は、将棋盤を眺めるが如くの戦略性を相手に与えますか
しかし、相手の攻撃を見切り反撃の手を組み立てる『後の先』なら、わたくしも少々覚えがあります
それに
(あちらの攻撃は速度一割。わたくしの回避も速度一割。ですが――わたくしの剣速は速度一割にはなりませんので)
襲いかかってくる子鬼達の動きを確認し
それを回避しつつ女王に迫る道筋を導き出します
女王を剣の間合いに収めたら【桜純流剣術『鈴鳴』】
あちらの想定を超えた剣速が走ります
(人数が八倍になろうとも、わたくしの刃は九倍まで対処できますわ)


鞍馬・景正
すのーほわいと――聞いた覚えがあります。
その才智を母に疎まれ、幾度も命を狙われるも、最終的には他国の後ろ盾を得て下剋上を成し遂げた女傑、と。

そんな相手と戦を交わせるとは冥加というもの。
特殊な戦場なれど全力を尽くしましょう。


将棋、チェス。
どちらも王を討てば勝利でしたな。

然らば馬に【騎乗】し、そのまま【鉄騎走舞】にて太刀を担いだまま姫君目指し駆けさせて頂く。

その頃には小人らも狙いを察し、突撃を阻止すべく立ち塞がるでしょうが、脚は緩めずそのまま飛び込ませましょう。

馬だけを。

衝突前に跳躍し、予め掲げていた太刀を振り下ろし、斬撃の【衝撃波】で姫を上空から薙がせて頂く。

後で馬から怒られそうだが――許せ。



 そこは、一国の姫、あるいは王妃が住むに相応しいような、広く趣向を凝らした一室であった。
 典型的な、とも言えるだろう――その部屋に流れる『時』の遅さを除けば。
(なんとも摩訶不思議な空間……流石に面食らいますわね)
 水飴の中を泳いでいるかのような、と鈴桜・雪風は目を細める。その僅かな動作すらも、空気そのものが纏わりつき抵抗するかのように、重い。
 思考通りに肉体が動かないという感覚は、まさに水飴を掻き分けるような『重さ』を感じさせた。
 ――けれどそれは、この場にいる誰にとっても対等。
(長考ができる特性は、将棋盤を眺めるが如くの戦略性を相手に与えますか……)
 それを熟知しているのであろう――この部屋の主たるオウガ『傲慢のスノーホワイト』は、ただ嫣然と微笑むのみで、ゆっくりとその手を持ち上げようとしていた。
 会話一つとて、この時を遅らせた空間では道化じみたことになろう。『傲慢』の名を冠するかのオウガのプライドが、そのようなコメディを許すとは思えない。

(すのーほわいと――聞いた覚えがあります)
 そのような女王然とした姿に、ふむと鞍馬・景正は記憶を探る。
(その才知を母に疎まれ、幾度も命を狙われるも、最終的には他国の後ろ盾を得て下剋上を成し遂げた女傑、と)
 あー。
 うん。
 だいたいあってる。
 実際よく知られている原作でも『耐毒訓練でも受けてるのか』ってくらいすぐ蘇生するし。
 隣国の王子との婚姻とか確かに『他国の後ろ盾』そのものだし。
 母親への復讐は要するに家中における下剋上とも言える。うん。
 そう言うと一気に国盗り物語になってきた。
 しかも今目の前にいる『傲慢』のスノーホワイトは、おそらく景正の『まだ戦国の気風を色濃く残したサムライエンパイア的江戸時代』目線で見たこの白雪姫物語を体現するような威風を湛えている。
(そんな相手と戦を交わせるとは冥加というもの。特殊な戦場なれど全力を尽くしましょう)
 むしろこの時の遅さすらもまた一興とばかり、景正はその涼やかな口元を僅かに、けれど確かに戦い楽しむ武人としての獰猛さを宿して吊り上げた。

 後の先。いわば相手の攻撃を見切ってのカウンターは、日本刀を用いる剣術では多くの流派の重要な概念であり、技術である。
(『後の先』なら、わたくしも少々覚えがあります)
 なお武術家において『少々覚えが』と言った場合、だいたいは既に実戦で使える領域まで到達済みである。無論雪風も例外ではない。
 ――それに。
(あちらの攻撃は速度一割。わたくしの回避も速度一割。ですが――)
 いつでも抜けるようさりげなく仕込み傘を構え、腰を落としつつ前へと進む。スノーホワイトが呼び出した小鬼達も一歩、また一歩と雪風に迫ろうとしているが、その目、その足、その身体の向かう方向を観察する時間は常の10倍、それだけあれば手にとるようにその動きがわかる。己が女王へと迫るその一歩ごとに小鬼はどこに来るかと予測し、その手の届かぬ場所へと動く。気付いて方向転換しようとしたならば、己もさりげなく足の向きを変え軌道をずらす。
 白き繊手がすぅっと掲げたレイピアの軌道を、雪風は気取られぬ程度に重心を移しつつ見つめ続けた。振り下ろされた刃の生み出す衝撃波、もちろん雪風とちょうどぶつかり合うようにスノーホワイトとて計算して放ったそれは、けれどすっと右足から力を抜いた雪風が崩れ落ちるように倒れ込んだことで空色から桜色に変わる髪先を掠めたのみに終わった。好機と思ったか駆け寄ろうとする小鬼より先に姿勢を立て直し、すれ違うようにかわして進む。一歩、一歩、歩むごとに重く、けれど普段よりも『視える』状況にはむしろ『動きを見て動ける』利点が勝る。
 そして。
 蹄の音よりは硬く、石の床に重く金属を叩きつけるような――けれど確かにそれは、馬の駆ける足音に他ならない。雪風を阻止しようとし見事かわされた小鬼達が、今度は景正の乗る駿馬の夙夜、速度を一切緩めぬその蹄に捉えられ、蹴散らされていく。ユーベルコード『鉄騎走舞』、本来は景正に合わせて作られた甲冑を今は愛馬が鎧と化して、子鬼を蹴散らしたくらいではびくともせぬようその馬体を守っている。
 音の近づく早さを計算し、すっとまた雪風は重心を変えた。低く、そして簪に似た桜の枝が邪魔にならぬよう顔を真横に向けるように。真っ直ぐに腰を落とした雪風の上をさぁっと美しい馬体が跳躍し、スノーホワイトの傍にいた小鬼を蹴散らす。
 けれど主たる姫は、夙夜の蹄をあっさりと避けていた。
「――!?」
 だがその馬上に既に乗り手がいないことは、気がついてはいなかった。
(将棋、チェス。どちらも王を討てば勝利でしたな)
 景正の姿は、それよりのさらに上にある。夙夜の跳躍の最高地点で自分だけさらに跳び上がり、掲げた太刀に衝撃波を乗せて、白雪の女王ただ一人を薙ぎ払う。
 時を遅めたこの城で、落ちる鮮血は風に舞う花のように見えた。その花弁を受けることなく、とうに万全の体勢で雪風が和傘を鞘の如く掴み鯉口を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前――」
 桜純流剣術『鈴鳴』、桜色にその刀身が染まる時、一刀両断の気迫と斬撃を九度浴びせる必殺の剣技が荒れ狂う。本来ならば熟練の武芸者ですら全て見えるかどうかという超速の剣筋は、時の遅れゆえに通常の斬撃と同じ程度にまで緩やかに見える。
 けれど、見えたとして10分の1の速度でしか回避できぬ敵に、それが何の救いとなるだろう。
 ただ己が斬られる様が、よりはっきりと感じられるのみ。

 す、と音すら立てずに景正が地へと降り立つ。既に鞘に刀を納めた主へと、忠実なる愛馬が近づき――、
「ブルルルルル!!」
 怒った。
 思っきり前足をガンガン踏み鳴らして怒っていた。
「……夙夜、許せ」
 無茶しやがって、とでも言いたげな目をする愛馬に、景正はぽんぽんと何度も首筋を撫でてやってその怒りを宥めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレイング。お好きなように。
汝が為したいように為すがよい。

なるほど、逆にいえば意識だけは時に囚われない。ならば、意識を幽界に拡散するアストラルプロジェクションで挑みましょう。悪霊たる私に肉体などもはや飾りよ。
そして、アストラル領域は物理に囚われない、精神のみの世界に時間など意味をなさない。精神の行動速度は思考速度とイコールだ。アストラル体たる私を視認出来るのは同じくアストラル体だけだ。
では、スノーホワイトに憑依(降霊)して、精神を略奪して夢の世界(結界術)に囚えて(捕縛)、スノーホワイトの精神を情熱の炎で料理して蹂躙、快楽エナジーや感情エナジーを捕食するわ♡
ふふ、いい夢見せてあ・げ・る♪



(なるほど、逆にいえば意識だけは時に囚われない)
 アリス・セカンドカラーはにっこり悪い顔で微笑んだ。
(そして、アストラル領域は物理に囚われない。精神のみの世界に時間など意味をなさない。精神の行動速度は至高速度とイコールだ)
 ――さらに。
(アストラル体たる私を視認出来るのは同じくアストラル体だけだ!)
 ここまで3秒。
 思考速度は落ちないと言ったってあまりにスピーディである。悪い笑顔がまだ出来上がりきっていないくらい。
「dlrow lartsa llewd tcartnoc ni siht tirips eht ydob 我が意識は幽界にあり」
 ユーベルコード『アストラルプロジェクション』、要は『現実世界と重なり合った精神領域』たるアストラル領域に己を溶け込ませる技術。ダンピールにして悪霊の力もばっちり得ているアリスにとって肉体などもはや飾りなのだ。
 というわけでアリスの精神は、スキップせんばかりの足取り(比喩表現)でスノーホワイトに近づくと勝手に降霊して憑依した。悪霊なので!
 さらに夢の世界を結界化してスノーホワイトの精神を捕縛、『情熱の炎で蹂躙クッキング♡』と手をわきわきさせて(比喩表現)スノーホワイトの精神の芯へと(アストラル領域の精神座標的に)迫る。
「ふふ、いい夢見せてあ・げ・る♪」
「きゃあああああけだものおおおお!!」
 アストラル界で夢の世界なのでもう現実世界の時間とか関係なくリアルタイムで響く良い悲鳴。だってこれスノーホワイトの脳内だもん☆
 つまりは思考速度で繰り広げられているんだもん☆
 ちなみに現実の時間凍結城では、立ったままゆっくりと指先を震わせ、表情を驚愕と恐怖に染めつつあるようにしか見えない。表情が確認できない程度に遠目から見たら、新たな敵が来るのを待機しているようにしか思えないかもしれない。
 だがその精神はアリスがハッキング済み、ついでに快楽エナジーや感情エナジーを絶賛捕食中である。

「やっぱり洗脳使いには洗脳返しよね」
「やめなさい! 私の頭の中で好き勝手するのはやめてちょうだい!!」
「ねえねええどんな気持ち? 魅了しようとしたのに明らかに年下の小悪魔美少女に魅了されちゃうのどんな気持ち?」
「み、魅了なんてされてない! 一番美しいのは……あ、アリス、さ……違うアリス様じゃない私よ!」
「アリス様って呼んでる地点でもう手遅れ♪ さ、スノーホワイトちゃん、跪こ?」
「あ、あ……」
「跪いて四つん這いになって3回まわってワン辺りかしら」
「やってたまるかああああ!!」
「む、ちょっと生粋のS相手には最初から飛ばしすぎたかしら。えーっとそうねじゃあ……」
「やあああめえええてえええ!!!」

 現実時間にして20分ほど後、アリス・セカンドカラーは大変つやつやした様子で時間凍結城を後にする。
「夢。これは夢、単なる悪夢。忘れなさい傲慢のスノーホワイト……」
 まだアストラル領域との僅かに残った繋がりから、仄かに疲弊した心の声が聞こえる――その声に、とてもとても満足げにアリスは微笑んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
時間の流れの遅い城か。まるで竜宮城みたいね。
それじゃあ、悪の乙姫様を討滅しましょうか。

まず戦場内の配置を確認。
「降霊」で執金剛神降臨。「式神使い」で偶神兵装『鎧装豪腕』起動。
両者は主に防御に使いながら、圧されてるように徐々に後退していくわ。バルコニーのある方向へ向かってね。

『傲慢』がバルコニー――屋根の無いところまで出てきたらこっちのもの。
「全力魔法」で、本命の九天応元雷声普化天尊玉秘宝経の雷撃を『傲慢』に叩き込む。
電撃は高速で走るわ。光速度は変えられない。

落雷の余波から、あたしは「電撃耐性」と「オーラ防御」で身を守る。
『傲慢』が体勢を立て直す前に、執金剛神の金剛杵で貫いて、チェックメイトよ。


鬼桐・相馬
【POW】
確かに見目麗しいとは思うが、魅了される程ではない
だが万が一を考え[結界術]で己の周りに魔力遮断の障壁を張り、持ち前の[落ち着き]でも抵抗
むくれた相棒の姿が脳裏に浮かぶが、まあこれも効果あるかな

[戦闘知識と視力]で敵の動きを分析し[武器受け]を試みる
この時点で装備へ己の悪意を能動的に流しながら、相手の表情、目線、攻撃時の癖や足の運びを確認
幸い時間は沢山ある、あらゆる特徴を[情報収集]して行こう

情報を集めたらUC発動、自我が消える瀬戸際まで感情と悪意を流し込み
時間の許す限り[力溜め]した[怪力カウンターによる串刺しと焼却]の成功率を上昇させる

頭脳戦と見せかけて力押し――ある意味頭脳戦か?



 鬼桐・相馬は非常に真面目な顔をしていた。
 見た目としては普段と一切変わらないが、今の相馬はとてつもなく真剣であった。
 10分の1となった互いの動き、流れる空気、その中で思考だけがリアルタイム。妖艶に微笑む『傲慢のスノーホワイト』から、一度とて目を離すことなく相馬はその美貌と、その魅了と向き合っていた。
 ――そして。
(確かに見目麗しいとは思うが、魅了される程ではない)
 そう結論を出していた。
 せっかく時間があるので、敵の動きを観察ついでに熟慮してみた。そのくらいのノリだった。一応魔力遮断の障壁結界を展開しているし、常より凪いだ精神を維持することには慣れているだけにこういった魅了・精神干渉には滅法強い。
 つまり割と純粋な感想だった。
(そんなに見つめて相馬は! ああいうのが好みなんですか!)
 そうぷっくり頬を膨らませてむくれる相棒の姿がふと脳裏に浮かぶ。その動きから声色までもう完全に再現できた。
 この膨れた頬挟んでぷしゅってやりたい。
 とりあえず目の前のオブリビオンの美貌より、そっちの方が魅力的だなと思った相馬であった。

(時間の流れの遅い城か。まるで竜宮城みたいね)
 そう村崎・ゆかりはよく馴染んだお伽噺を思い浮かべる。あちらは体感時間に変化はないまま外での時間だけが先に経過していく分、ある意味では悪質かもしれない。
 もちろん戦場という意味では、慣れぬ分だけこちらが不利だが――思考時間に対して実際の時間の流れも動きも10分の1なのは同じ。条件自体は同等だ。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る。其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
 普段よりも意識としては早口に、けれど実際には緩やかに、はっきりとした詠唱が響いた。音そのものが意味を持つ真言を組み込んだ咒の詞はむやみに省略すべきものではないが、その音と響き、霊力がしっかりと調和さえすれば普段と異なる時間の流れの中であろうと発動する。ゆかりのその身に甲冑と纏い金剛杵を掴んだ身の丈3メートルほどの執金剛神が重なり、さらにその身を守るように偶神兵装『鎧装豪腕』――籠手の形取る式神が現れる。執金剛神を重ね下ろしたゆかりは『鎧装豪腕』を従えて、傲慢のスノーホワイトへと真っ直ぐ――ではなく、バルコニーのある側に幾分弧を描くようにして迫る。同時に相馬が真っ直ぐにオウガへと向かったがゆえに、おそらくは自然な動きに見えただろう。互いにリーチの長い2人が、それぞれ邪魔にならない進路を選んだように。
 自分で動いているのに、どこか動かされているようにも感じる――むしろ押さえつけられているとも言えるかもしれない、10分の1という動きの遅さ。しかしそれは同時に、充分すぎるほどの観察時間ともなっていた。スローモーションのように駆け抜けながらも、相馬は『観る』。炎の揺らぎもゆっくりとした冥府の槍は、けれど相馬の悪意をとっくに吸い始めている。悪意は思考の一部――つまりは普段の10倍速で悪意を流し込んでいるようなものだ。
 ほぼ同じ速度で前に出る執金剛神を身に宿したゆかり、そして2人を迎え撃つようにゆらりと進み出たオウガと、ぶつかり合うまでは普段なら数秒、けれど今はそれが数十秒となる。敵の目線がどのように動き、手が剣先までどう力を伝え、どうやって踏み込もうとし、その表情がいかに変わり、重心をどこに変化させ、攻撃へと映るのか。普段であれば直感や経験にも頼る部分を、余すところなく見て取ることのできる状況を、相馬は己の知識と照らし合わせ、そして合わせるように槍を持ち上げた。馬上槍に似た長く強靭な穂先でレイピアを受け止め滑らせるその間も、一切見つめることを、頭に叩き込み覚えていくことを止めない。普段なら僅か、今は十秒ほど遅れて『鎧装豪腕』が攻撃後の隙を突くように浴びせようとした拳を、スノーホワイトは逆に巨大な両腕の間に滑り込むことでいなしてみせた。速度を一割に落としてすらも素早い突きを金剛杵で受け止めながら、ゆかりと執金剛神が下がる。相馬がレイピアを跳ね上げフォローする間に、ゆかりが『鎧装豪腕』も己に引き寄せて守りを固める。
 ――どうやら相手は、すぐに下がったゆかりの方が崩しやすいと見たらしい。あしらうように相馬にも時折攻撃しながらも、身軽さを生かした剣技でゆかりを徐々に下がらせていく。無理に攻め込もうとはしないのが仇となってか、籠手で受け止めつつ下がり、金剛杵を振るおうとしつつもやはり素早く入りかけた突きを止める方に移り――執金剛神の巨体がバルコニーへとついに下がる。もはや柵までは幾許もない、それを確かめて傲慢を称するオウガはニィと唇を歪め、再び巨大な両の籠手の間を抜けてレイピアを振りかざす――、

 割って入れる距離と速度。けれど、相馬はその地点で足を止めた。
 まだ敵へと迫る前、バルコニーの方向と構造を確認するようにゆかりが視線を走らせたのを相馬は覚えている。
 バルコニーにも時間凍結の効果が及んでいるのは、髪の揺れる速さ、布の揺れる速度、そういった己の力では操れないものすらゆっくりと動いているから、わかる。けれど異なるのは、バルコニーの上は露天。
 空が、ある。

 相馬が槍を持った手と片方の足を下げながら、その冥府の炎へと一気に悪意を流し込む。
 もはやよけられぬと確信したように、スノーホワイトがバルコニーへと踏み出す直前。
 その時から、ゆかりの唇はもう咒を紡いでいた。
「九天応元雷声普化天尊! 疾っ!」
 神の御名を読み上げ、方向性を示すだけの単純な言の葉。けれど力を借りる対象は『雷帝』とも称される、雷神がうちの最高神。
 ゆえにその雷霆は、単純にして強力――そして、光速。
(光速度は変えられない)
 陰陽道が古来より様々な知識を蒐集し、組み上げてきた術であるとするならば。
 その『理論』は世界を物理で解き明かす基礎となったもの。UDCアース西暦1915年から1916年に発表されたその名こそ――『一般相対性理論』。
 いついかなるときでも、光速度は変化しない――!

 密かに展開していた対電撃の魔力防壁で、『九天応元雷声普化天尊玉秘宝経』、壮絶な落雷からゆかりは身を守る。その間に相馬は床を蹴っていた。
 この瞬間だ。
 ユーベルコード『赫ノ七廻り』、この瞬間のために自我すら揺らぎ消えかける瀬戸際まで、悪意ならざる感情までも流し尽くした。
 相棒のふくれっ面がまた脳裏に浮かぶ。その表情が、存在が、相馬を『鬼桐・相馬』として繋ぎ止める。
 もはや豪雷に視界を遮られてすらも、スノーホワイトの動きが『視えた』。ゆかりの全力にて呼び降ろした神雷が直撃すればどのようにどの体勢でどの位置にいるか、視えているかのように推測できた。
 だから突き刺す。
 そのまま燃やす。
 それだけでいい――事足りる。
 3人を乗せたバルコニーが、崩れ落ちる。執金剛神が金剛杵を振り上げ――振り下ろし、貫いた。
 地面に釘付けにするかのような勢いで、紺青色に燃え上がるドレスごと、全力で。その存在が完全にこの場から消え、骸の海へと還るまで。
 一瞬遅れて地面へと降り立った相馬が、ちゃんと自分の中に残っている『己』を確かめるように目を閉じ、息を吸い、吐いた。
 既に城の外、時の感覚は普段通りに戻っている。
 盤すらも叩き割るかのようにして掴んだ勝利に、会心の笑みを浮かべてゆかりはそっと呟いた。

「――チェックメイト」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月06日
宿敵 『『七罪』傲慢のスノーホワイト』 を撃破!


挿絵イラスト