迷宮災厄戦⑨〜『時』既に遅しと狸が嗤う
●そこは狸の狩場
その城は見渡す限り氷で覆われていた。寒さはあるが動けなくなるほどではない。ただし、動けなくならない程にはその城は動きを鈍らせる。寒さでかじかむというレベルではなく、この城では「時間」がとても鈍いのだ。凍り付いた時計の針が少しずつしか進まない様に。その動きの凍結は猟兵もオウガも等しく働く。故にそこに関しては平等である……と思える。
(でもそれも、先に準備しとけばいい話だよね?)
狸の少女がゆっくりとした動きで『仕込み』を終え、ゆっくりとにやついた笑顔を作り出した。そう、ここはオウガたちの領域。この城の先に進みたい猟兵たちを待ち構えるオウガたちには、この城における準備時間が先に存在している。故に、先に潜むオウガは城において時間をかけて準備ができてしまう。罠を仕掛けたり、仲間であるオウガたちを近くに集めて置いたり。
(さあ、おいで猟兵。あたしが皆美味しく食べてあげるからさぁ!!)
狸のオウガはゆっくりと舌なめずりしながら猟兵を待ち受ける。猟兵がここを越えて向かう先にいるのが、自分達の上に立つオウガ・オリジンにとって憎らしい敵であったとしても、そしてオウガ・オリジンが生き延びた先に待つのが自分をも巻き込んだ『無』であったとしても。
●凍結城に潜む狩人
「ま、こっちはその、『準備してる』っていうのを予知できるからやっぱりお互い様ではあるんだよね!」
オウガの思惑を少し潰しつつ、九十九・サイレン(再誕の18不思議・f28205)は猟兵たちに迷宮災厄戦の1戦場の解説を始めた。
「皆に行って貰うのは『時間凍結城』!綺麗な氷の城なんだけど、なんとそこは時間までも凍りついちゃってて、皆の動作も放ったユーベルコードも全ての行動速度が1/10になっちゃうんだって! つまり言葉も『わぁれ わぁれ はぁ いぇえ がぁ だぁ』みたいな感じになっちゃうから、まともに話もできないんだって! ピエロとしてはすっごく嫌! でもそういう時はボディランゲージさ! 皆もオウガに何か言いたかったらそんな感じでよろしく!」
縄を引いたり、壁を押したりするパントマイムを披露しながら、ピエロの恰好のサイレンは猟兵に笑顔を向けた。
「皆が向かう場所にいるのは、狸女の子って感じの『かちかち山のお染』って子だね。人肉を食べたがってて普段はアリスだけど今回は城を通ろうとする猟兵たちを食べてやろうって待ち構えてるみたい。手に持ってる猟銃やナイフも厄介なんだけど、今回の状況はそれ以外の武器が怖いかも。
お染は身体を泥に変える事ができるんだって。勿論城の中だから変化速度も遅い。でもね、もし皆の攻撃が単純な物理攻撃だったらそれも遅くなるでしょ?そうなると、お染はその軌道を読んで自分の体のどこに当たるかを読めちゃう。そしたらそこだけを泥に変えられて、物理無効ないし回避されてカウンターを喰らっちゃうかもしれないんだよ。
それから、お染は爆発系が多い罠を重点的に仕掛けている狩場を用意してて、相手によってはそこに誘い込んでくるみたい。そしてその準備はもう皆が転移してる時には終わっちゃってる。つまり、罠には予備動作は殆ど無くて、お染が動いて作動させる必要のない、猟兵に反応する自動罠。だからお染の動きの遅さは関係なく発動して、作動してる時にはもう回避が不可能、なんて事になってるかもしれない。しかも爆発した所は泥だらけになって、そこに足を突っ込んだりしたら更に動きにくくなって、逆に泥の上だと強くなるお染に嬲り殺しにされかねないから本当気を付けてね!
更に更に、お染は自分と同じように獲物を調理して美味しく食べようとしてるオウガを集めてる場所も用意してて、そいつらと共にどう調理するかを決めてそれを獲物に実行してくるんだよ。怖い! 丸焼きって決めたら猟兵を炎で囲んだり、鍋物って決めたら猟兵を大きな鍋で掬い取ってぐつぐつ煮込んできちゃったり、揚げ物ならもう油で……うん、後は皆の想像に任せよう!!
これの厄介なのは、思考速度は皆そのままで、これは願って他のオウガに賛同を求めてオウガ達も考えて賛同を思い浮かべるだけだから、動作低下は関係ないんだよね。調理自体の速度は遅くなるだろうけど、お染やオウガたちの準備動作は無いと思った方が良いだろうね! 後オウガたちも調理に協力しようと襲い掛かってくるだろうからそっちにも注意してね!
かなり厄介な相手だけど、攻略の鍵はさっきも言った、『思考速度はそのまま』って事。考えたり、願ったりするだけなら速度はそのままだから、それで相手への対策やら攻撃やらを考えまくって戦略的に闘ったり、さっきの調理技みたいに考えたり願ったりで使えるものなら動かずに使えるから、相手の意表を突くこともできるかもしれない! 勿論それに縛られない攻略もありだから、とにかく考えて考えて考えてみよう!」
こめかみをクリクリする考える動きをしてから、サイレンはくるっと振り返った。
「オウガ・オリジンとか猟書家とか色々考える事も多いけど、まずはこの冷たい時間をぶち破ってみよう! じゃあ、 よぉ ろぉ しぃ くぅ」
最後にスローモーションでセルフスローで激励するピエロであった。
タイツマッソ
どうも新人MSのタイツマッソです。初めての戦争シナリオとなりますができるだけ速度重視で頑張ろうと思います。
オウガであるお染は罠の部屋やオウガたちの部屋を作っており、相手により部屋に誘い込んだり、身体の泥化で対応します。要はUCのステータスに応じたものとなり、罠は既にその時点で設置され、オウガたちも既にいますのでその設置や集合の阻止はできないものとお考え下さい。
プレイング募集はオープニング投稿直後から開始し、確認次第判定と執筆、順次返却を目指します。
速度重視となりますので、判定はソロが単独多めとなり、達成次第の完結を目指しますので不採用は多くなるかもしれません故ご了承ください。
プレイングボーナスは『思考時間を活かし、戦略的に戦う』です。思考時間がそのままなのを利用されていると判断すればボーナスを加えます。
それでは凍結城に待つ狩人の返り討ち、プレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『かちかち山のお染』
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POW : つーかまえたー。もう逃さない…一緒に泥に沈も?
肉体の一部もしくは全部を【大量の泥 】に変異させ、大量の泥 の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
SPD : 食材が逃げたじゃん!あたしの邪魔をしないで!
【予め仕掛けておいた多種多様な罠 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【は罠の爆発でメチャクチャな泥地と化し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 何料理がいい?丸焼き?鍋物?揚げ物もイイかな!
【アイツをおいしく調理してしまいたい 】という願いを【周囲に詰めかけたおびただしい数のオウガ達】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
イラスト:いぬひろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「月・影勝」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
罠が面倒だなー……
その上時間が10分の1になってるとなるとほぼほぼ踏んだら引っかかっちまうな……で、罠が爆発したら相手に有利になる……んー、これは相手の罠を利用した方が逆に倒すの早そうな気がした。やってみるか……!
まずは相手の誘導に敢えて乗って罠に【おびき寄せ】られる。
そして罠が起動したら【指定UC】だ。罠も相手のUCの一端なら巻き込まれさえすれば俺の『黒竜の爪牙』が触れるという発動条件は満たせる。そして俺も罠によってできた泥地の恩恵を受けることができる!
追い打ちにかかってきたところを【怪力】【グラップル】で【カウンター】をお見舞いしてやるぜ!
まさに策士策に溺れるってなァ!
●汚泥の穢れに竜は吼える
(チッ、本当に体の動きが遅ぇな……!)
白髪に黒い角、黒い竜鱗を持つドラゴニアンの少年、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は城に突入するとその不慣れな感覚に体が戸惑うのを感じた。何せ思考はそのままなのに、体だけがまるで海の中や重力が強い場所にいるかのようにのろのろと動く。この感覚はまず普通では体験できないものだろう。
前を見れば、そこには狸の尻尾が廊下を曲がる場所に見えており、それがゆっくりと曲がり角へと消えていく。どう見ても誘っているのは明らかだ。
(罠が面倒だなー……その上時間が10分の1になってるとなるとほぼほぼ踏んだら引っかかっちまうな。罠地帯か、オウガ達が待ち受けてるか……俺にとって悪いのは前者。なら、きっとそっちだ)
凌牙はそう確信した。泥化でないなら2択。そして自分が嫌だとより感じるのは罠地帯。ならばそっちだと予想した。なぜならそちらならそれは自分にとって『不運』なのだから。
(で、罠が爆発したら相手に有利になる……んー、これは相手の罠を利用した方が逆に倒すの早そうな気がした。やってみるか……!)
彼は曲がり角にたどり着くまでにそう思考し、そして脳内で準備を始めた。敵を追いかける間にこんな作戦タイムができるのも、この場所ならではだな、と凌牙は思った。
●
そして実際の時間では程なくして、爆発音が城の中を揺らした。凌牙が罠地帯に足を踏み入れたことに反応した接触性地雷が大爆発を起こしたのだ。しかも、罠地帯に足を踏み入れて僅か一歩目である。これにはお染もゆっくりと口を開けていく。わかりにくいが、感情的には大爆笑しているのである。
(なんて『不運』な奴! あたしも歩くから全部には仕掛けてないのに、たった一歩で引っかかるとか! 足が吹っ飛んでたら喰う場所が減っちまうけど仕方ないか! 早速一匹仕留めてやろう!)
ゆっくりとした爆発が広がり切ったのを確認してから、お染は把握している安全地帯を踏みながら『ゆっくりと』走っていく。走りながらナイフを取り出し、広がっているであろう泥の中へと向かう。お染は泥に適性があるオブリビオンなので、自分だけはその恩恵を受けて強化される。まさに攻撃と追撃を両立できるユーベルコードなのだ。
ただし、今回はそれが裏目に出る事になる。
(——え?)
煙に向けて走っていたお染の前に、その煙を突き破り、黒き竜鱗を生やした腕が拳を握りしめて突っ込んできた。ゆっくりではある。だが、お染め自身もゆっくり、かつその攻撃を予測もできていなかったが為、回避はとても間に合わない。
(え、なんで拳なんで吹っ飛んでるはずなんで動けない筈なんで泥ある筈なんで泥を動けないとなんでここまでなんで来れない筈なんでなんででええええええええええ!?)
お染が迫りくる拳を避けられもできず絶望しながら顔に拳を喰らうまでの間に種明かしをしよう。凌牙は罠にかかるであろう前に拳を足元にかざしながら踏み込んだ。そして、踏むと同時に違和感、そして爆発の兆候、そこまでゆっくりと目に見えたなら思考は間に合う。そしてユーベルコード【【喰穢】魔力復誦(ファウルネシヴォア・レペティレンズコード)】を発動した。これは凌牙の「黒竜の爪牙」でユーベルコードを受け止め、そのユーベルコードを爪牙から発動できるというもの。この罠は設置したとはいえユーベルコードを使用して作った物。故にその効果を受け止めてコピーする事は可能。更にそれはその後の『泥土の上に立ち戦闘力を高める』もまた範囲に入るので、凌牙は戦闘力を引き上げる事にも成功したのだ。
だが問題がある。あくまで受け止めるだけであり、無効にする訳ではない。果たして彼はそれをどうしたのか。まず1つは彼の装備、ブラックインパクトブーツ。衝撃耐性を備えており、これが彼の脚を吹っ飛び欠落するのを防いだ。そしてもう1つは彼の耐性。彼には火炎への耐性がある。爆発とは炎を少なからず伴う為、それにより彼は爆発を凌ぐ事が出来た。そして、更にもう1つの耐性。それは――
(ああ、いってえ! くっそいってぇ! 覚悟はしてたがまさかの1歩目かよ! だがこれくらいの不運の『穢れ』なら喰らい甲斐もねえし仕方ねえ! そして、まんまとノコノコと近づいてきたな、ああいってえ! でもな、痛み如きで!!)
俗に言う『激痛耐性』。つまり爆発のダメージはある。だが、それを耐性、そして爆発の後形成された足元の汚泥による戦闘力増強で無理矢理凌ぎ抜いて、そして近付いてきた足音向けて第六感で今渾身の怪力で拳を振り抜いているのである。
(てめえへのこの拳、鈍らせてたまるかクソ狸!!!)
そしてついにお染の顔面に拳が突き刺さり、お染がゆっくりと吹き飛ばされていく。届かなかったナイフもゆっくりと宙を舞い、そして凌牙は反対方向へとゆっくりと駆けだし始めた。
(流石にこのダメージで追撃は無謀だよな。一歩目だった分、すぐ戻れば罠はねえだろうし)
そして曲がり角を曲がりしばらく進む。程なくして、もう1度爆発音が聞こえてきた。どうやら、吹き飛んだお染がぶつかった場所にも罠があり、それが爆発したらしい。
(ハッ、あっちも中々不運だな。でも罠をたっぷり仕掛けたのが悪いんだ。まさに策士策に溺れるってなァ!)
敵のユーベルコードの両立を利用し、思考時間を利用して受け止めを成功させやすくした。まさに彼の作戦勝ちであった。
(にしても、穢れを喰らい自分の力にする、ってだけなのに……不運を引き寄せてるんじゃないか、ってのは、気のせいだよな……?)
《穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)》。不運や呪いを生み出す穢れを喰らう、彼の固有特性。これがあるなら、もしかしたら不運な方が出やすいのではと思い罠地帯を想定はしたが、それは本当に発動し、しかも1歩目で罠を踏み抜いた。
穢れを喰らう為に不運を呼ぶのか、不運に近づき穢れを喰らっているのか。彼の特性はその因果すら曖昧にしている、のかもしれない。
成功
🔵🔵🔴
木々水・サライ
[絡み・アドリブ歓迎]
思考時間はそのままで、その他の行動10分の1、か。
それなら、思考速度を利用したコイツの出番かねぇ。
アイテム【黒い眼の四白眼】で見て、思考を全て戦闘知識に切り替える。
罠を仕掛けるならどこか、罠が発動した場合巻き込まれるのは何処か…。
そういうのを全て演算処理で叩き出し、殴りかかるぜ。
同時にUC【黒の物真似人形(イミテーション・ブラックドール)】起動。
黒髪の複製義体に頼んで、泥を封じてもらおう。
そうだな・・・弱点は"泥に土を混ぜれば固まりやすくなる"ってところかァ?
……っつーか、泥って……今回のは…水分多くない、よな?
水分が多くない泥でありますように……。
●思考を補助する思考
(思考時間はそのままで、その他の行動10分の1、か)
手術を受けコンピュータ並みの思考ができるようになった男にとっては、果たしてそれはどんな気分であろうか。木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)は、身体だけが人間だったかのような感覚に戸惑いつつも、視線の先にて顔をゆっくりとした動作で摩りながら待ち構える狸を見詰めていた。
(あの態度、表情、そしてそこに辿りつくまでのこの廊下。そして微妙に壁に残った煤と泥の痕跡……導き出したぜ。ここは罠地帯、だな)
彼の脳は自身の目「黒い瞳の四白眼」から抽出した視覚情報からその答えを導き出した。ここに至るまでの間に彼が歩いたのはわずか一歩。通常でもこれほどの差はないので、やはりこの城の環境が異常なのだと思い知らされる。
(なら次だ。『罠はどこか』そして『爆発した場合どこまでの範囲が爆発するか』。敵の視線、廊下の構造、残った痕跡から再設置は明白故にその方向も痕跡から導き出せる。完全じゃあないが……よし、無い可能性が高いルートは読めた!
だが、爆発の範囲……これは流石に材料がねえ。何しろ誘爆してもあっちは困らないはずだから、あの位置までは届かないというだけしかないな。となるとどのくらいになるか、目算でルート通りにいくしかないか)
彼の思考は確かにコンピュータ並だが、割りだそうとするものには少々ズレがあった。罠はどこか、は罠がない地帯を歩こうと言う方向性。爆発した場合どこまでの範囲が爆発するか、は爆発があったと判断したらどう回避するかという方向性。プランとしてはどちらかに絞り方向性を出した方が良かったと言える。
そして彼は罠が無いであろうと演算したルートを『ゆっくり』走った。果たしてしばらくは罠をかいくぐり、突き進むことができた。だが、流石に何のアプローチもなしの視覚だけからの割り出しでは、完全に予想はできない。
(ッ!! センサー罠!)
接触ではなく、巧妙に隠したセンサーによる作動罠。爆発性の矢がゆっくりと飛来するが、それは避けるのも困難な死角からの矢。なんとかゆっくりとジャンプし、直撃は回避できた。だが、足元が泥に満たされ、更にそこにお染が走っていくのが見えた。
(だが、泥で染まった時の対策も思考済みだ! 【黒の物真似人形(イミテーション・ブラックドール)】で、奴のユーベルコードの弱点を指摘して実証、俺に似た人形に泥を封じて貰う! 弱点は、『泥に土を混ぜれば固まりやすくなる』だ! ……っつーか、泥って……今回のは…水分多くない、よな? 水分が多くない泥でありますように……)
そう思って着地前に飛び散った泥を手に取った彼だが……流石にその想定は甘すぎた。そもそも此処は氷の城。故に、土など泥地にしか存在し得ない。泥に泥を固めても固まりはしない。そもそも、ユーベルコードの弱点は泥でなくても構わない。別の弱点を指摘し実証すれば泥も無効にできるのだから。その点でも彼の判断は思考の速さに反してズレてしまっていた。そして実証が出来なければ、複製義体も出す事が出来ない。
(まずいっ、このままじゃ泥にそのまま落ちて嬲り殺しにされる。こうなったら……!!)
彼は一か八か咄嗟にソーシャル・レーザーを取り出した。SNSで人々に知恵と知識を借り、高出力のレーザーを発射する物。そしてSNSには行動低下はかからない。つまり、余裕をもって使用する事が出来る。落ちる僅かな間に、導き出された答えは。
(そうか、これだ!!)
レーザーから高出力レーザーが放たれる。それがゆっくりと下の泥地に届く。泥がレーザーに焼かれ、水分が高熱で蒸発し乾燥していく。戦闘知識をフル稼働させたサライは着地と同時に拳を思いきり振りかぶった。お染はレーザーに驚いて下がろうとしたが、だが彼女もまた動作がゆっくりで、回避は間に合わなかった。結果、またしても顔面を――ただし先とは反対方向の頬——を派手にぶん殴られる結果になってしまった。そしてサライはその反動を利用し、来た方向へと大きくジャンプしそのまま撤退に入る事にした。
(運よくSNSの知識を借りるのをヒラメいたから良かったが……少し見立ては甘かった、か)
泥に土を混ぜ込むならば、どう土を用意するか。そして悪く考えた通り、水が多い場合はどう対応するか。そこまで具体的に出さなければ、弱点を指摘し実証できた、とは言えないだろう。今後の為に彼は脳にこの記録を記しておくことにした。
成功
🔵🔵🔴
宇宙空間対応型・普通乗用車
☆
なるほど1/10。
法定速度で走ったら、6km/h程度のスピードしか出ないわけだな。
むしろ時間が10倍で60km/10hか?…まぁどっちでもいいか!
どちらにせよオレの【瞬速展開カタパルト】なら、
予備動作無しの1/72*10=0.13秒で車体を発射可能!
発生2F未満で攻撃判定は車体全体の画面端まで高速移動!
格ゲーなら壊れ認定待ったなしのクソユベコだぜぇ!
回避し切れるもんならし切ってみやがれこの狸耳美少女ちゃんがよぉ!
折角だから通り過ぎた後の罠の爆風も利用して加速・方向転換しつつ、
小まめにハンドル切ってギリギリまで軌道修正入れて直撃さしてやんぜ!
質量×速度の純粋な暴力を食らいやがれオラァァァァ!
●スピードの向こうへ!
ここまで2回もぶん殴られたお染。もうこれ以上はぶん殴られてたまるか、と凝りもせず罠地帯を整えて次に来る猟兵を待ち構えていた。果たしてその願いが、オウガ・オリジンに届いたのか、彼女の願いは叶えられた。今現れた相手に殴られる事は無いだろう。
(な、なんじゃありゃああああああああ!!!)
なぜなら、それは腕などない、どう見てもセダンにしか見えない乗用車、ウォーマシンの宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)だったからだ。
一方、その向かってくる車はといえば。
(なるほど1/10。法定速度で走ったら、6km/h程度のスピードしか出ないわけだな。むしろ時間が10倍で60km/10hか?…まぁどっちでもいいか! つまり、法定速度を更に突き抜ければ速いってことがわかればいい!)
とか考えながら走って来ていた。車と言えどその速度はやはり低下はしている。だが、やはり元の速度の違いからかその速度は今までの猟兵に比べれば格段に速く見えた。
(とはいえ、でかい分、罠はじゃんじゃか踏んじまうだろうなぁ。オレは全地形対応車両だから氷の城くらいはスタッドレスタイヤ無しでも行ける。だが流石に泥地は不利だろうな……だが、そんなの関係ねぇ!! 要は、罠が反応して爆発し泥地が広がるまでの間に走り抜けちまえばいいんだよぉ!! これこそ車的完璧理論だ!!)
堂々と廊下を走ってくる――セダンでもいいらしいのでここからはセダンと呼称――セダンは接触性地雷とセンサー反応を同時に反応する。だが彼は思考速度により、それを感知してからユーベルコード【瞬速展開カタパルト】を発動した。その効果は極めてシンプル。今の彼ならば、1/72秒で自身を撃ち出す、というもの。では、仮に今が速度低下で6km/hのセダンだとしよう。もしこれを1/72秒ごとに撃ち出していったならば。
(予備動作無しの1/72*10=0.13秒で車体を発射可能!発生2F未満で攻撃判定は車体全体の画面端まで高速移動!格ゲーなら壊れ認定待ったなしのクソユベコだぜぇ!回避し切れるもんならし切ってみやがれこの狸耳美少女ちゃんがよぉ!)
自身を撃ち出す、そして1/72秒でまた撃ち出す、1/72秒でまた撃ち出す。これをずっと繰り返していく。そうすればあっという間に加速していく。車にしては遅かった速度が、どんどん本来の速度を取り戻していく。当然そうなれば、爆発が遅くなっている罠などもはや無意味でしかない。罠が感知しても爆発が彼の後ろで爆発していく。それどころか。
(慌てて逃げようとしてやがるがそれは無理だぜ! 行くぜ、ヘヴンズカウントダウン式、バックトランクオープン!!)
セダンの後ろのトランク部分がゆっくりと開く。決して蓋が壊れた訳ではない。開いた事で風を受け止める形になっていくトランクで、爆風を受け止めさらに加速、そしてタイヤで細かく修正する事で方向を転換し逃げようとする狸耳美少女ことお染を逃がすまいと迫っていく。
だがお染もまたなんとか回避しようともがき、そして思考で見つけた道筋。尻尾でゆっくりとだが地面を叩きつけ、そして飛びあがる。迫るセダンをギリギリで飛び越えようというつもりだ。
(そうはさせねえ!!)
セダンもそれは読んでいて、後輪のみを制動。ゆっくりとだが、タイヤが止まっていき、そしてそれに合わせて車体がウィリーするように上へと跳ね上がっていく。それはまさに、飛び越えようとしたお染の軌道を邪魔するかのような状態であり、お染めの顔が絶望に染まる。
(直撃させてやんぜ!!質量×速度の純粋な暴力を食らいやがれオラァァァァ!)
そして車の車体という弩級の重さ×加速を続けての圧倒的速度が、お染めの全身を直撃。ナイフがわずかにボディに傷をつけたものの、結果は変わらない。お染めは童話のようなこの世界にて信じられない、驚異的な交通事故に遭いまたも吹っ飛ばされてしまった。
(フッ、今日もまた、世界を縮めちまったな)
こうしてセダンはUターンすると、また爆風を加速に使い、泥地を飛び越えながら氷の城を悠々とドライブし帰還するのだった。
本日のアリスラビリンス交通事故 死者(まだ)0 軽傷1
成功
🔵🔵🔴
雷田・水果
☆
SPD
●準備
予め【アリスランス】を想像力で【光学迷彩盾の付いた光線銃(ガンシールド)】に進化させる。
●行動
人派ドラゴニアンの水果は【目立たない】ようにガンシールドに隠れつつ、罠が届かないであろう上空から様子を窺う。
「こちらは準備万端です」
ユーベルコード「Alice Dance」でガンシールドを複製し、敵や罠に対しての【制圧射撃】を試みる。敵の攻撃は【見切り】による回避を試みる。
「光の速さは10分の1でも割と速いのです(キリッ)」
●車よりも速いもの
(くっそなんだあれ! 猟兵って全員美味そうなのじゃないのかよ! 途中のはまだ一部が硬そうだったくらいだけど、アレもう全部カチカチじゃん! 食えねえよ!!)
殴られて殴られて更に理不尽な交通事故に遭い、かなりズタボロのお染。だが彼女は負けじと、再び罠を設置し終えた廊下で待ち構えていた。よく時間があったものである。そして他に手は無いのか、と思うかもしれないが仕方ない。お染の勘がここで相手をするべきと囁いてばかりなのだから仕方ない。
(今度こそ、今度こそ美味そうな奴……!!)
そう願うお染が曲がり角を凝視し続ける。…………だが、一向に来ない。よほど足が遅いのか、とお染が思いかけたその時だった。
突然空中から次々と大量の光が発生したと思えば、それがお染たちに比べれば圧倒的な速さで次々と罠に当たり、次々と爆発していったのだ。
(な、な、なあああああ!?)
再び混乱の極致に陥るお染だが、爆発で飛び散った泥のいくつかがべちゃべちゃと空中で何かにくっつくのが見えた。何かが見えない様に存在している、と理解できた。
(何物だ一体!)
お染は猟銃を構えると空中へ次々とゆっくりだが連射していった。すると当たった部分で何かがバチバチと電流を立てたと思えば、それは見えないようにしていた何かが消えるように盾付の槍型の光線銃になると、落下して泥地の中に沈んでいった。
(あれが隠れてるのか! ならこれで!!)
再び銃を撃つと、それは泥地に沈みかけていた地雷に着弾。爆発で泥が飛び散るとそれが空中に次々と付着。どうやらあれと同じものがいくつも存在し、それが一斉にレーザーを発射し、罠を次々と吹き飛ばしていたらしい。全て飛んでるので、泥地にも影響は全く受けない。
(いや、あの中1つに本物がある筈だ! ……! 1つだけ動きが機敏な泥がある。そしてあれから感じる、なんか威光のある感じ……! アイツが獲物だ!!)
お染はその泥に猟銃を向けると次々とゆっくりではあるが連射していく。金属音を立てていくその泥の周り。やがて、その光学迷彩が消えていき、盾付の槍光線銃、そして盾に隠れた翼を広げるドラゴニアンの少女、雷田・水果(人派ドラゴニアンの姫騎士・f19347)の姿が現れた。彼女は無意識の威光を放つ癖があり、抑えはしたのだが今回もそれをお染に気付かれてしまったようだ。
彼女はまず転移する前、想像力でアリスランスを【光学迷彩盾の付いた光線銃(ガンシールド)】に進化させておいた。そして曲がり角の直前、【Alice Dance(アリスダンス)】の効果でそのアリスランスを65個複製し空を飛べる自分のように浮遊。更に光学迷彩盾で全てを迷彩させて近づき、お染までの途中の廊下に手当たり次第にレーザーを発射して罠を制圧しようとしていたのだ。ちなみにレーザーも速度低下を受けるだろうが、光の速度は1秒間に、約30万km。1/10しても、1秒で3万km。ほとんど影響がないと言っても過言ではないスピード差である。そしてそれはこの状況でも。
(貴方の動きは、既に見切りました)
自分の迷彩を故障させたお染が自分に猟銃を向けても水果は冷静だった。銃撃を受け続けたのはお染の銃撃のタイミングと癖を見切る為だったのだ。思考速度はいくらでもあるからその見切りは十分に機能した。結果、羽根に当てようとした銃弾は水果に回避され、リロードの前に水果の盾槍銃からレーザーが発射される。
(ガハッ!!)
当然やや下がった程度の光速を低下した速度で回避できる訳もなく、よりダメージを与える為に見切りで回避して近づいた水果のレーザーが過たずお染の身体を貫いていた。それを確認するや水果はすぐに離脱を開始する。そうしながら水果はちら、とお染を見て。
(光の速さは10分の1でも割と速いのです)
と、キリッとした顔で見下ろし盾槍銃を見せつけてしっかり防護しながら離れて行った。
彼女の持つ槍銃に付いた盾。そこには何故か、この季節には似合う、とても見事なスイカの絵が描かれていた。
成功
🔵🔵🔴
シン・ドレッドノート
ふむ、なかなか厄介ですね。
得意の手品も動きが遅いとタネがばれてしまいます。
「…まぁ、今回は手品を披露する必要はありませんか」
逆に考えれば、計算する時間は通常の10倍もあると言うことですし。
罠にかからないよう、貴紅に乗って宙に浮かんで距離を取りつつ、射撃準備をしましょう。
「ハンドレットガンズ…」
心の中で呟いて、敵を包囲するように真紅銃、精霊石の銃、ライフルビットを複製召喚。
敵の動きを読み、どちらに逃げても避けられない射線になるように弾道計算、全ての銃を必要最小限の動きで照準と発射タイミングを合わせます。
「目標を狙い撃つ!」
準備が出来たら一斉射撃。エネルギー弾や炎の精霊弾を着弾させて焼き払います!
サフィリア・ラズワルド
POWを選択
【白銀竜の解放】で四つ足の飛竜になります。
私は思いました、泥になっても逃げ場を失くせばいいのでは、と
目をギラギラ光らせながら敵を見つめて涎を垂らしながら青い炎を放ちます。食べたいけど今回は我慢、でも敵からは噛みついてくるのか炎で攻撃してくるのかわからなくて迷うはず。
でも私は迷いません、炎で攻撃、その一択です。
『食べられないのが残念です。ええ、とても残念です。』
アドリブ協力歓迎です。
●ルビー&ラピスラズリ
(はぁ……はぁ……! 次こそ食べてやる、食べてやる、脳みそも足も腕も全部、食べてやるぅぅぅ!!)
再び罠地帯を作り終え、その奥に座り込んだお染。その体には傷も大分多く、ほぼ限界は来ていると見えた。だが、だからこそ今回の罠地帯は今までとは違う。
(空対策に天井、横の壁、全部設置した……! 接触ではなくセンサーも万全。今度こそ、今度こそ喰う……!!)
目を血走らせたお染の目に、飛んでくる姿が見えた。どうやらまた相手は空中を選んだようだ。だがその人影は、今度は2つ。1つは白い銃がついたような箒に乗った妖狐の男性、シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)。そしてもう1つは、青い色の鱗に金色の部位のあるドラゴンだった。その正体は【白銀竜の解放(ドラゴン・リベレーション)】で変身したドラゴニアン、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)である。
2人は転移前に連携の打ち合わせをし、転移。すぐにサフィリアがユーベルコードを使用しゆっくりした変身を終えてからここまで2人で飛んできたと言う訳だ。
(しかし、飛行速度もここまで遅くなるとは。ふむ、なかなか厄介ですね。得意の手品も動きが遅いとタネがばれてしまいます)
手品は手先の動きの速さこそが1つの武器。それが遅くなってしまっていてはトリックも簡単にばれてしまうというもの。
(……まぁ、今回は手品を披露する必要はありませんか。逆に考えれば、計算する時間は通常の10倍もあると言うことですし)
彼には思考だけでも使える武器が充分にあるのだから。
そして彼は後ろのサフィリアとアイコンタクトをかわした。彼女にはまず自分が先に向かうので、フォローと追撃をお願いしたいと伝えている。それに頷く様子にシンはまず安堵する。というのも、実は事前の打ち合わせでサフィリアがこう言っていたのだ。
『私、戦闘になると闘争本能がむき出しになっちゃって……特に、変身した時は更に……だからいざという時は、逃げた方がいいかも……』
そう言って不安そうにしていたが、少なくとも今はまだ大丈夫のようだ。もしかしたら、凍結の効果がその闘争本能の進行にも及んでいるのかもしれない、と予想していた。
(彼女の為にも、長引かせる訳には行きませんね。怪盗・紅の影として、この城の突破という戦争での宝、丁重に頂きましょう)
そう心の中で宣言し、箒に乗りまっすぐお染向けて突き進む。彼の策を実行するにはある程度近づく必要がある。最も効果的な距離が。
(! センサートラップ!)
盗賊稼業をしている彼はそれに気づく。本来なら宇宙世界技術の詰まったモノクルで見抜くなどできるが、機械動作も低下してしまっている為発見が間に合わなかった。回避には間に合わぬ爆破と泥の塊がゆっくりと迫り――
そして、すぐに彼の背後から放たれた青い炎に包まれた。爆破は青い炎の壁に阻まれシンに届く事はない。
(回避には確かに間に合わない。ですが、私も経験上設置起点の予測はある程度立てていたので、その時は後ろ手に合図をする事にしていたのです)
合図でドラゴンサフィリアに知らせ、合わせて彼女が炎を周りに放つ、という手はずだったのだ。これでシンは、驚いていくお染の顔を見ながら彼の有効射程まで近づく事が出来た。
(これでチェックです。【乱舞する弾丸の嵐(ハンドレット・ガンズ)】……)
その途端、お染を包囲するように次々と何かが現れていく。ある物は白に赤いラインの入った量子ビーム銃「真紅銃<スカーレット・ブラスター>」、別の物は精霊を宿す石が装着された「精霊石の銃」、また別の物は蒼い宝玉が嵌った「ライフルビット」。それぞれが複数ずつあり、合わせて計84丁。全てがお染向けて向けられている。そして、全てがシンの意思で動作される。つまり、多少の低下はあったとしても、全てを撃つ事自体にはほとんど時間はかからない。この包囲を完成させるために、一定距離が必要だった。
そして現れる間にもシンはお染を見詰め、冷静に思考を進めていく。
(位置取り、視線、足の運び、罠の位置を計算。照準を調整、発射タイミングのズレを設定、どちらに逃げても必ず命中する弾道)
やがて銃全ての顕現が終わり、それと同時に。
(————計算終了)
お染も逃げようとし猟銃を取り出すが、それももう計算に入れた事項。つまり、無駄な足掻き。
(ターゲット、ロック…計算準拠一斉射、開始!)
まずお染を襲ったのは真紅銃<スカーレット・ブラスター>。先の通り、量子ビームの速度は1/10になってもほとんど影響がない。それらが回避しようとしたお染の脚を、反対側や周辺の床ごと撃ち抜いた。
激痛に悲鳴をゆっくりと上げながら、更に精霊石銃やライフルビットの炎の精霊弾やエネルギー弾、速度低下の影響が低いと考えた弾が次々と周囲ごと、反撃の猟銃の銃弾ごとお染の身体を貫いていく。氷の城は次々と炎やエネルギーに晒され、周囲の氷の一部が溶けだしていく。
(これだけやれば……!?)
ほぼ全ての命中を確認し、シンは勝利を確信した。だが、次の瞬間、攻撃による煙がゆっくり晴れて行った時――そこにいたのは、身体中が穴だらけ、頭も欠けており、足もほとんど残っていない。だが、それでも猟銃を握りそれを間違いなくシンに向けているお染の姿だった。
(バカな、あれほどのダメージであんな真似が……!?)
シンが見たお染の目、それはもはや意識のある物ではなく、だがそれは間違いなくシンを捉えていた。そして、その口は、舌を突き出し、血を大量に吐き出したその顔が表す表情。それは夕食の時に誰かが見せるような、『食欲』の表情。何が何でも喰ってやる、その為にお前を必ず殺してやる。そうお染の顔は言っていた。
(これが、食人に取りつかれたオブリビオン、オウガか……! その異常な食欲を、見誤ったか)
あれで決まったと思っていたシンに回避行動はできない。修正も容易な状況で、今お染の猟銃が――。
だが、お染は忘れていた。この場にはもう1人いた事を。
「ぁ」
突然自分の周りが暗くなり、お染めは思わず上目で見上げ、一言だけの短い声をあげた。そこには青色の竜が、閉じた口から涎を垂らし、目をギラつかせ、自分目がけて爪を向けて降りてくる光景だった。
だがそれでもお染は狂いそうながら冷静だった。爪なら問題無い。あの速度なら恐らくあたしの左肩あたりに直撃だ。なら、そこを泥化させれば問題無い。それで避けてからあのドラゴンを食べてやろう。意識をシンからすぐサフィリアに切り替えたお染は泥化を開始する。
だが、その判断は早計――いや、どの道もう無駄だった。何故ならサフィリアの狙いは爪では無かった。
(炎で攻撃、その一択です)
これまで閉じていた口、それをゆっくりと開けばそこには蓄えられた青い炎。それが開け切るのを待たずに発射される。
お染が避けようとするが、それは遅い。炎はお染へと迫り、泥化しかけた部分を――一瞬で乾かし回避のための分離など不可能にする。そう、炎とサフィリアが決めていた時点で、彼女の泥化は無駄だったのだ。泥は炎で渇き、土塊となる。彼女がそこまで読み切っていたのかはシンには分からない。ただ、転移前に彼女がぽつりとこう言っていたのは思い出した。
『食べられないのが残念です。ええ、とても残念です。』
果たしてそれが、炎で泥を無効化するからか、それとも、これ以上本物の竜として目覚めない為に捕食や直接攻撃を禁じていたのか……それは流石に彼には分らない。
そして彼の視線の先で、お染は炎に包まれ、ゆっくりとその身体を灰にしていった。燃える速度も低下していたため、恐らく地獄のような苦しみを味わって逝っただろうが……彼女も同じようにアリス適合者を調理し食べていたかもしれないと思えば、これはまさに因果応報、なのかもしれない。
(ともあれこれでまた一歩、この凍結城の突破が進みました、ね)
ふと見れば、いつの間にかドラゴンサフィリアが城の壁を見詰めていた。その方向はまさに、この城を越えた先、書架の王『ブックドミネーター』がいると予想されている方向だった。青いドラゴンは、果たしてその方向に今、何を感じているのだろうか……。
大成功
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