迷宮災厄戦⑥〜醜悪な信奉者~
●悪役三姉妹
赤いドレスの女は言う。
何もかも食べ尽くしてしまえばいいのだと。
青いドレスの女は言う。
誰も彼も品もなく無知ばかりなのだと。
緑のドレスの女は言う。
妬ましく思うくらいなら奪い取ってしまえばいいのだと。
女達は口々に言う。
『ぱらいそ預言書』はその全てに通じていて、全てを肯定するのだと。
「わたくしが誰より一番預言書を信奉しているのよ!!」
だからこそ、その理念に従って喰らうのだ。罵るのだ。奪うのだ。
嗚呼、そのためなら命なんて惜しくはないわ!
謎の亡霊に取り憑かれた女達は、狂ったように哄笑していた。
●狂信者の根城
「わたくし、何事も節度が大切だと思っておりますの」
ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)は呟くように言って、うん、と頷く。
そうして、ペコリと一礼して後語るのだ。
「アリスラビリンスの一角、その虚空に、洋風めいたサムライエンパイアの城……『原城』と呼ばれるものが浮かんでおりますの」
その城内にいるオウガは、全員が『ぱらいそ預言書』なるものを信奉しているのだそう。
その度合いが正にソフィアの言う節度を越した狂信っぷりで、ぱらいそ預言書を信じて行動する限り何も間違っては居ないという思考に支配されているというのだ。
「狂信の要因とでも言いますか、オウガを駆り立てているのは猟書家『クルセイダー』の扱う秘術が呼び寄せた謎の亡霊ですの」
件の秘術は、かつてサムライエンパイアでの戦争において魔王織田信長が使っていた魔軍転生……の、不完全バージョンだと言う。
不完全であるがゆえ、特定の誰かの憑装ではなく、不特定多数の一つである『謎の亡霊』を纏っているに過ぎないが、不完全とは言え秘術を施された者が強化されていることに変わりはない。
「ぱらいそ預言書を信奉するあまり、オウガ達は自身の負傷や死すら厭わず、捨て身で襲いかかってきますわ。何より問題と言えるのは、この点かと」
多少の攻撃では怯むことのない敵の群れに襲いかかられるというのは、決して容易く切り抜けられる状況ではないだろう。
しかし、逆に言うならば。敵が捨て身であることを理解し、利用することが出来たなら、こちらに都合の良い状況に持ち込むことも、不可能ではないはず。
「手段は皆様にお任せ致します。謎の亡霊諸共、オウガを屠ってくださいまし」
今回相手となるオウガは、赤と青と緑のドレス姿の三姉妹だ。
それぞれが自身の欲求に限りなく忠実に行動し、それによって肉体を強化し、ダメージを与え、新たな部位を呼び寄せるといった技を行使する。
そうすることでぱらいそ預言書をより深く理解し、信奉者として相応しくあれると言う謎の理念で、姉妹間ですら競い合うように自身の狂信っぷりを披露する始末だ。
そこに第三者の猟兵が飛び込んだなら……集中的に攻撃されることは必至である。
「オウガを殲滅することもですが、皆様が無事で戻ることも大切ですのよ。どうぞ、お気をつけくださいまし」
そう、再び深く礼をして、送り届けるための道を繋ぐのであった。
里音
きっと流行の悪役令嬢ってやつですね。
今回のシナリオではオウガの捨て身を逆に利用することでプレイングボーナスを得られます。
カウンター攻撃や自滅を誘うなど、思いつくままにご提示ください。
敵が3種類居るという状態です。
一人の猟兵に対し同時に別々の敵が襲いかかってくることはなく、また催眠など特殊な状況下でない限りは同士討ちは発生しません。
ただしグループ参加の方で、指定UCの属性がバラバラだった場合のみ、敵が複数種類群れて襲いかかってくることがあります。
当シナリオは人数控えめでスピード重視の運営となる可能性が高いです。
時間の許す限りの随時お届けとなり、多くを採用できない場合がありますので、予めご了承くださいませ。
皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 集団戦
『意地悪な三姉妹』
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POW : 長女の飽くなき食欲
【あらゆる物を貪り尽くす暴飲暴食モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 次女の罵詈雑言の嵐
【悪意と侮蔑に満ちた心ない悪口】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 三女の羨みの手
自身が【羨望心】を感じると、レベル×1体の【相手の物を無理矢理奪おうとする無数の腕】が召喚される。相手の物を無理矢理奪おうとする無数の腕は羨望心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:渡辺純子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アルデルク・イドルド
「欲しいものは奪い取れ」ってのは海賊のモットーにもあったりするんだが。
なんでも行き過ぎは良く無いな。
俺ならもう少し品よくスマートにこなすぜ?
さてあんたは欲しいのは金貨か?
それともこの美しい深海石の指輪か?
俺の琥珀の髪とルビーの瞳の相棒か?
それともこの俺か?【誘惑】【挑発】
まぁ、相棒だけは誰にも渡す気はないが…。
さぁ、欲しいなら奪って見せな。
あぁ、これは俺からの特別プレゼントだ受け取りなUC【海神の弓矢】だ。
●
あぁ、羨ましい、妬ましい。ぶつぶつと呟くような声でしきりに怨嗟を紡ぐ緑のドレスの三女達は、城にたどり着いたその姿を見止め、ぎろりと狂気的な眼差しを向けた。
「『欲しいものは奪い取れ』ってのは海賊のモットーにもあったりするんだが。なんでも行き過ぎは良く無いな」
あんたはそうは思わないかとため息交じりに肩をすくめ、アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は、キン、と指先で金貨を弾いてみせる。
「俺ならもう少し品よくスマートにこなすぜ?」
金色が宙を舞い、アルデルクの手元に戻るまでを、見開いたような目で見つめる三女は、ぽつり、呟く。
「寄越しなさいよ」
「お?」
「わたくしに、寄越しなさいよ!!」
金切り声と共に、まるで触手の群れのような無数の腕が召喚された。
周囲の三女達もまた、呼応するように腕を召喚しだして。好き勝手に蠢くそれらは、アルデルクが見せつけた金貨を奪い取らんと、襲いかかってくる。
「は、せっかちだな。あんたが欲しいのは金貨か?」
これは挑発するまでもない。けれど、冷静な判断の出来ない猪突猛進を作り出すには、どんどん煽るに限る。
金貨を挟んだ指先をくるりと翻し、その指にはめられた美しい宝石を見せびらかして、再び問う。
「それともこの美しい深海石の指輪か?」
あれも、これも、全部全部。寄越せ寄越せと喚き散らしながら腕をけしかける三女。
好戦的な腕がアルデルクの指先ごと金貨も宝石ももぎ取ろうとするのを躱し、ステップを踏むように距離を置きながら、観察する。
寄越せと喚くのは確かに三女の声だけれど、それとは違う、もっともっとと煽る声が、ひそひそ、囁くように聞こえる気がする。
ゆらり、揺らめくように彼女の周囲に侍るのは、さて、どんな妄執を持った亡霊なのだろう。
考えても仕方がないけれど。話をしてくれる相棒が居ないのだ、多少の思案に耽るのは、仕方がない。
「物では済まないか? じゃあ俺の琥珀の髪とルビーの瞳の相棒か? それとも――」
だん! 一つ踏み込んで、触腕の群れと対峙し、その一本を掴みながら、アルデルクは挑発的に笑う。
「この俺か?」
尊大で、傲慢で。そんな男を振る舞えば、三女はにぃと口角を上げて笑う。
ときめきとは程遠い、自身の欲求が満ちることへの昂揚だけを表すような、醜悪な顔で。
「全部よ!!」
「そりゃ、随分と欲張りなことだ」
腕を掴むアルデルク目掛けて、無数の腕が迫る。
悍ましい触腕の群れに長居など出来ないと身を屈めながら退散すれば、きいぃ、と不愉快な金切り声が響き渡る。
そんなに俺が欲しかったのかと笑ってみせる顔に、三女は地団駄を踏んで狂ったように暴れまわっていた。
「まぁ、相棒だけは誰にも渡す気はないが……」
金貨も宝石も、なんなら自身も対価として求められるなら渡してやらないこともない。
けれど、相棒だけは。求められようが手放す気はないし、奪おうとするならば返り討ちにしてやるのだ。
キン! 意志持つコインが、おかしなところでひね曲がった腕を払いのけるように弾けて。
そうして開けた視界の先、三女へ向けて、アルデルクは手のひらを掲げた。
「さぁ、欲しいなら奪って見せな」
――あぁ、その前に。
「これは俺からの特別プレゼントだ受け取りな」
合図をするように、ぱちんと指を鳴らして見せれば、潮騒の音を響かせる『海』を孕んだ魔法の矢が、無数に放たれる。
「【海神の弓矢】だ」
今度は上手なおねだりの仕方を覚えてくるんだな、と。次々と三女を貫く矢を見送りながら、アルデルクは不敵に笑うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「んー、この前綺麗なおねーさんの敵さんの血を吸ったしなぁ。」
この敵さんは吸えたらで良いかな。
喰喰のUCを発動し、腐蝕竜さんと子腐蝕竜ちゃん達を召喚。
質問は、君らのお肉はこの子らのお腹を満たしてくれるのかって事で。
捨身で来てくれるならありがたいよ。この子達も食事がやりやすいだろうしね。
毒のブレスで弱らせて、もぐもぐ食べて大きくなるんだよー。
僕は親腐蝕竜さんに乗り、上からLadyで狙撃して子供達の食事の手伝いでもしとこうかな。
ヘッドホンをしっかりつけて、ミュージックスタート。悪口も聞こえなければ、なんともないよねぇ。たぶん。
吸血は…、うーん。出来そうなら一応しとこうか。吸った事ないし。
●
胸の内に燻る衝動というものは、決して、完全に満たされることはない。
それを、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)はよく知っているけれど。それでも、代用品でごまかして、満足したふりだって出来るのがヒトの理性というものだ。
――血を、吸いたい。
そんな欲求は、最近少し、満たされた。
「んー、この前綺麗なおねーさんの敵さんの血を吸ったしなぁ」
ぽそ、と。囁くような声で紡ぎ、じ、と敵の姿を観察する。
惹かれるなにかがあるというわけではない。お嬢様という風体だから、ひょっとしたら上質な血ではあるのかもしれないけれど、やっぱりそこまで惹かれない。
吸える機会があれば、で十分だろう。
方針が決まったならばやるべきことをやるだけだ。莉亜は自らの眷属である腐蝕竜へと、声をかける。
「喧嘩しないで仲良く食べるんだよ?」
主の声に応じてずるりと虚空から姿を覗かせた竜に、次女達がわざとらしい悲鳴を上げた。
「まぁ、まぁまぁ! 嫌だわ、なんて醜い姿なのかしら!」
「なんてこと! こんなのが美しい城に居るなんて汚らわしいこと!」
次女の嫌味は本日も絶好調のようだ。一先ずは、ただの悪口でしか無いらしい台詞は右から左に聞き流し、莉亜は彼女達へ一つ、問う。
「君らのお肉はこの子らのお腹を満たしてくれるのかな」
それは、同時に合図でもあった。
大口を開けた腐蝕竜は、自身の腹から無数の子供の腐蝕竜を産み落とし、わらわら、群れるようにして次女達へと食らいついていくのを見送る。
美味しいのかな。食べごたえがあるのかな。興味はあれど、それに応える者が居ないため、莉亜が問いに満足する答えを得られることはない。
竜達獲物を食べ尽くし、美味しかったと満足げな顔をするのを見るまでは。
「もぐもぐ食べて大きくなるんだよー」
いそいそと親竜の背に乗りながら、毒のブレスで弱らせながら捕食するさまを微笑ましげに見守る莉亜。
普通なら、自分を喰らう子竜の群れに襲われればパニックになって散り散りに逃げ出すところだろう。
だがこのドレスの娘達は自身が傷つくことなど厭わない。だから、彼らにとってもとても食べやすい、餌なのだ。
「なんて野蛮なのかしら! 食べることしか脳のないデブねえさまみたいね!」
「これは必要な食事だから一緒にしないでほしいなぁ」
高い位置から見渡して、白い対物ライフルを構えた莉亜に、次女達は扇で口元を隠す素振りをするくせに、堂々と指をさして言うのだ。
「こんなものを飼っているなんて、底辺で生きる存在は違いますわね!」
おほほほほ!
嘲笑うような声は、まるで鋭利な音の刃のごとく、悪意を伴ってこちらを攻撃してくる。
けれど、まぁ。聞こえなければ、なんてことはないもので。
よいしょとしっかりつけたヘッドホンからじゃんじゃか大音量で音楽を鳴らし、莉亜はどこ吹く風と言った様子で、ライフルで敵の体勢を崩したり足止めを図ったりする。
その隙に、子竜達はむしゃむしゃと彼女達を貪り喰らうのだ。
「やっぱり美味しいのかな」
手助けに注力していたけれど、ほんの少しの興味が、湧いて。
ひらりと親竜の背から降りて、中途半端に齧られて虫の息の次女の首筋に、噛み付いた。
まだ吸ったことのない、次女の血の味は。
「……そこまで美味しくもないかな」
吐き出すのも勿体ないとは、思ったけれど。
大成功
🔵🔵🔵
クロード・クロワール
——預言書、か。
全てに通じていて全てを肯定するというのならば……
いや、とうに狂信の至った者に言ったところで意味は無いか
なんか、絵面は濃いんだがな
あれだろう。令嬢とか言う奴だろう
僕の作風じゃないがな
ふん、いいか。
この世は、全て、締め切りがあるか、無いかだ
——そう、きりのあるものがなければ、終わりの無い旅路に飲み込まれる
向こうは捨て身で来る、か
あいつが奪いに来ればそれこそが戦いだ
磔刑書を展開し、魔獣達を呼び出そう。
腕があるなら潰させてもらう。群れに耐えきれるか?
魔獣を掴んだとて——いつまで触れていられる?
死を招く獣は皆狩人だ
僕の創作意欲が尽きぬ限り——獣は吠えるぞ
さぁ、終わりを始めよう
●
預言書、と言う響きは、作家であるクロード・クロワール(朱絽・f19419)にとっては興味深いものである。
とは言え、件のそれは随分と眉唾ものと言うか、宗教のための都合のいい道具と言う感覚しかしないが。
(全てに通じていて全てを肯定するというのならば……)
思いかけ、いや、と考えを改める。
全てと言うならば相反するものさえ肯定されるのだろう。そうなれば主義主張がぶつかり合い、結局は否定が生まれるもの。
ただただ自分にとって都合のいい解釈を許容されているに過ぎないのだが……とうに狂信の至った者に言ったところで、意味などないのだ。
それよりも、対峙した光景はなんと言うか、絵面が濃いとクロードは思う。
絵面っていうか化粧っていうか全身の装丁(むしろ装甲)というか。
「あれだろう。令嬢とか言う奴だろう」
聞いたことはある。ご令嬢が活躍するような創作物語は庶民にとっては憧れになり、貴族にとっては共感と息抜きになる良い娯楽だとぐらいは。
まぁ、クロードの作風ではないから、おぼろげに聞きかじった程度なのだが。
「ふん、いいか。この世は、全て、締め切りがあるか、無いかだ」
どんな作品であれ、世に出されるならば締切が存在する。何よりも恐ろしい、永遠に消えることのない宿敵だ。
けれど、そう。きりのあるものがなければ、終わりの無い旅路に飲み込まれる。
出口のない思考の迷路に陥り、溺れる感覚にきゅっと喉をつまらせながら、クロードは己の著書を写し取る『磔刑書』を展開させた。
(ああ……)
――息苦しくなるほどの、思考。
それこそが、創作意欲というものなのだ。
「君に告げるべきは感謝なんだろう」
親愛なる友へ、などと頭に付きそうな、綴られた手紙の切り出しにも似た文言を唱えれば、クロードの本は、彼が創造中で生み出した魔獣を呼び寄せる。
珍しい容姿の獣達が緑のドレスの三女へと次々襲いかかれば、三女はたちまちそれらをペットにでもと求めだす。
我が身の危険さえ察知できず、ただ欲することだけをし続ける三女の生み出した無数の腕へ、魔獣達は食らいつき、引きちぎり、踏み潰して蹂躙していく。
「勇ましいのね、わんちゃん? ねこちゃん? 狼かしら、それとも熊? なんでもいいわ! 全部わたくしのものよ!」
三女のどこまでも貪欲な欲求に応えるように、果敢に振りかざされた腕が魔獣を掴むが、黒きそれらは、死を招く獣。
生命力を吸い取るか、あるいは触れた傍から焼け爛れさせるか。容姿も、手段こそ様々に、獣は確実に死を振りまいていく。
「大人しくしなさいよ! わたくしのものにおなりなさい!」
醜く叫ぶドレスの女と、咆哮を上げる黒き獣。
――さて、どちらが化け物なのだろう?
(それはあまりにありきたりか……あぁそれならいっそもっとコミカルに……?)
クロードの思考は止まらない。目の前で繰り広げられる光景は、彼の創作意欲を掻き立て、物語を綴ろうと急き立ててくる。
それが満足の行く形になるまで、獣達は止まらない。
「さぁ、終わりを始めよう」
かくして黒き獣は絢爛な城を貪り尽くし、虚空に浮かぶ原城は魔獣の巣窟となりはてるのであった――。
めでたしにはなりそうもない結末にて区切りをつけるのは、まだ少し先の話。
大成功
🔵🔵🔵
佐那・千之助
全肯定?そんな胡散臭そうな本にハマるとは、
なにかつらいことでもあったのか。話くらい聞くぞ…え、いらぬ?
羨まれるものの無い三流猟兵では
物足りぬかもしれぬが、お相手願おう
火花のオーラ防御で負傷を軽減
獄炎を纏わせた黒剣を振るい、腕をまとめて吹き飛ばし
と、攻撃をいなしながら
予め弛めておいた帯飾りの留め具をこっそり外す
珍しい和風の拵えに、とてもやさしく煌めく陽の彩
敵が興味を示して囮となるだろうか…
腕が帯飾りへ集中したら、その隙に三女へUC
細剣を模った黒剣で串刺して生命力吸収の追撃
大切な思い出の地を奪わせぬ
奪われるのはそなたの方
首筋に牙を重ねて吸血
大事な帯飾りなのでちゃんと回収して装備
さて、次のお相手は?
●
全肯定とはあまりに都合が良くて、なんとも胡散臭い。
そんな本にハマるとは、と、佐那・千之助(火輪・f00454)は一種の哀れみさえ抱きながらドレスの女達を見た。
「なにかつらいことでもあったのか。話くらい聞くぞ……え、いらぬ?」
紳士然として声を掛けたと言うのに、緑のドレスの三女はそれを一蹴。話『くらい』では到底満足できぬと喚くのだ。
取り付く島もないということかと肩を竦め、しようがないと、千之助は黒剣を抜く。
「羨まれるものの無い三流猟兵では物足りぬかもしれぬが、お相手願おう」
「立派な剣をお持ちですのね? あぁ、あぁ! なんて羨ましい! わたくしに譲ってくださらないそうだわ譲るべきだわ!」
「おぉ……見境がないな……」
何に対してすらも羨望を抱く三女は、際限なく枠欲望の現れかのような腕を生み出す。
ぱち、と弾ける火花のオーラを纏い、縋り付くような腕からの攻撃をいなしながら。千之助は黒剣に赤々と映える獄炎を纏わせて、せまる腕を纏めて吹き飛ばしていった。
そうして攻撃をいなしながら、千之助は帯飾りの留め具をこっそりと外していた。
緩んだそれは、激しい戦闘の中でふわりとたなびき、華やかに目を惹く。
洋装ドレスの三女にとっては実に珍しい、いわゆる『東方』と称される和風の拵えに、与えられた色はとても優しい陽の彩。
絢爛豪華でなくたって、十分に心を奪う煌めきは、三女の羨望を掻き立てる。
――そのための、囮。
群がるように帯飾りへと腕が集中し、我先にと奪い合うように掴みかかるのを横目に、千之助は残り少ない腕を掻い潜って、三女へと炎を差し向けた。
「狩る」
スッ、と眇められた鋭い視線に応えるように、矢の形状をした炎は次々と三女へと突き刺さり、その身を焼いていく。
それでも三女は止まらない。ドレスを焼こうが皮膚を焼こうが、構わず全てを奪いに来るのだ。
やはり、胡散臭い本になどハマるものではない。
初めに抱いた哀れみを思い返しながら、千之助は細剣を模った黒剣で、三女を串刺しにする。
吸収した生命力は、わずかばかりの傷をも癒やし。それ以上に、三女の命を削っていった。
「大切な思い出の地を奪わせぬ」
柄までずぶりと飲み込んだ三女の爛れた肉を引き寄せて、そっと口を寄せたのは、その首筋。
「奪われるのはそなたの方」
鋭利な牙を重ねたその場所から、命の残りをすべて絞り切るかのように血を吸って。
どさり、音を立てて倒れ伏すと同時に消失した強欲な腕の群れから、帯飾りを大切そうに取り上げた。
囮としての役割を任せたが、大事なものなのだ。捨て置くわけがない。
軽く確かめれば、ちゃんと綺麗なまま。見境がない割に、丁重には取り扱ってくれていたらしいと小さく笑って、千之助は踵を返す。
口元の血を拭い、さて、と見渡して。
「次のお相手は?」
尋ねるまでもないくらいに熱烈な腕が、また、群がった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャグ・ウォーキー
詞が凶器になり得るのは、僕もよく知っている。
喩え罵声がこの身を傷つけようとも、矜持には届かない。
……慣れているからね。
我が儘な子供は、お喋り出来ぬよう首を刎ねてしまえ。
その教えを活かそうか。
時計を取り出し、質問しよう。
さあ、お嬢様。わたくしめの質問にお答えください。
どんな賞賛を得られたならば、満足なさるのです?
品と知とを満たす詞を、無知なわたくしに御教示ください。
暴走した彼女に満足はあり得まい。
無防備に無為な詞を浴び続けるのも愉快ではない。
死神兎と、歌声で罵声を打ち消しながら、僕も剣を手に折檻と行こう。
わたくしめが削ぎ落としたいのは、無意味な詞。
共に推敲し甲斐の或る罵声を紡ぎましょう、お嬢様。
●
耳障りな音が響いている。
それは人の声。女の、甲高い悲鳴にも似た哄笑や、不満げにいきり立つ声。
それよりも何よりも、ジャグ・ウォーキー(詩謔・f19528)の兎耳を不愉快に通り過ぎていくのは、謂れのない悪意に満ちた言葉の数々。
ひそひそと陰口を叩くようでいながら、露骨に、あからさまに向けられる侮蔑の声。
「あら、嫌だわ、野良兎が紛れ込んでしまっていてよ」
「真っ黒で汚らしいこと」
そう言った詞が凶器にすらなり得ることを、ジャグはよく知っている。実際、青いドレスの次女達の囁く言葉は物理的な攻撃としてジャグの身を傷つけようとしているけれど、それだけ。
心に何一つ響かない言葉の羅列は、ただ、耳障りなだけだった。
「……慣れているからね」
自嘲するように呟いて、ジャグは時計を取り出す。ことある事にジャグの身を護ってくれる懐中時計のかちこちと時を刻む音を聞きながら、大仰で優雅な所作で、次女達の前に立つ。
「さあ、お嬢様。わたくしめの質問にお答えください」
王子であり執事でもあるジャグの問いかける声に、次女は片眉を跳ね上げて訝る顔をしつつも、聞いてあげてもよくってよと尊大に胸を張って、ジャグの言葉を待つ。
それこそがジャグの『攻撃』なのだと気づきもせずに。
「どんな賞賛を得られたならば、満足なさるのです? 品と知とを満たす詞を、無知なわたくしに御教示ください」
浅はかな娘たち。奇怪な預言書に惑わされ、冷静な思考を奪われた彼女達は、何処までも己の欲求を満たすためだけに行動している。
容姿を貶め、所作を嘲笑い、言葉を否定して。そうすることで、さも相対的に己の方が価値が高いのだと言わんばかりに笑うのだ。
――そうすることでしか己の自尊心を保持できないほどに、ささやかな賞賛すら得られぬというのなら、それは随分と哀れなことかもしれないけれど。
ともかく、次女達の『習性』を理解して恭しく頭を垂れて見せたジャグの問いは果たされた。
手にした時計からは大鎌を手にした死神兎が現れ、次女達へと襲いかかる。
それを見届けると、ジャグは懐中時計をしまい込み、代わりにその手に剣を持つのだ。
へりくだった態度をころりと改め優雅ながらも高貴な物腰で、罵り以外の返答が出てこない次女達を見渡した。
「我が儘な子供は、お喋り出来ぬよう首を刎ねてしまえと教わっていてね。――さあ、いまこそ。此処に、おそれるべき物語を」
「野蛮な教えにすがることしか出来ないなんて、いっそ哀れなことね!」
「おや、わたくしめを哀れんでくださるので?」
皮肉に皮肉を重ね、傷つくことなく在り続ける矜持に従い、剣を振るう。
「無防備に無為な詞を浴び続けるのも愉快ではない。僕も、折檻と行こう」
共に刃を振るう死神兎が次女の首を落とす傍ら、地を蹴り駆け出したジャグは、口元で歌を口遊んだ。
その歌声が罵声を打ち消すが、次女の悪口は懲りず呆れず、相変わらず短絡的なものばかり。
やれやれと首を振りながら、ジャグは指をさしてせせら笑った次女を斬り伏せる。
「わたくしめが削ぎ落としたいのは、無意味な詞。共に推敲し甲斐の或る罵声を紡ぎましょう、お嬢様」
凶器たる詞を、より鋭利に磨くのは当然のことでございましょう?
薄く笑ったジャグの詞が次女に刺さることはないけれど。代わりと言わんばかりに、死神兎の大鎌が閃いていた。
大成功
🔵🔵🔵
リット・ダイセル
・ここがアリスラビリンス。本当に寓話の世界みたいだ。オウガもそういうのに準じてるっぽいけど……とにかく倒さないといけないか。
・アースジャイアント召喚。かかってくるのは……うわ、大きなお姉さんだな…しかも目がもう正気じゃないし。ただ、その分動きは少し単純だ。これなら俺の技が通じる!
・「存在感」による「おびき寄せ」で攻撃の的を俺に向わせ、そこで「オーラ防御」「武器受け」「盾受け」を使って防御。即座に「カウンター」「シールドバッシュ」での反撃で確実にダメージを与える。ダメージが積もれば動きもそれなりに鈍るだろうから、そこでジャイアントでの「カウンター」を合わせて大打撃を狙う。
・何事も腹八分目、だぜ?
●
虚空に浮かぶ和風の城。その中は絢爛豪華なパーティーホール。
開いた窓から見渡す世界は、綿あめで出来たような甘い香りのする雲から、子供くらいの身の丈でゆらゆらと歌いながら踊る花々、七色に光る湖まで、どこまでも不思議で不思議な空間だ。
「ここがアリスラビリンス。本当に寓話の世界みたいだ」
リット・ダイセル(流浪剣士・f26828)は、初めて降り立ったこの、少年少女が絵本を抱きしめてきらきらと語った憧れを煮詰めたような世界を興味深げに見渡し、そんな中でも明確な悪意に満ち満ちた存在に行き着いて、なるほどと呟く。
オウガもこの世界観に準じているらしい。豪華な広間によく合ったカラフルドレスの女達。おとぎ話のお姫様とは言えないけれど、お姫様を虐める意地悪な姉といった立ち位置なのだろう。
「……とにかく倒さないといけないか」
いざ行かんと踏み出したリットに、赤いドレスの女が口いっぱいにスイーツを頬張りながらギロリと振り返る。
「うわ、大きなお姉さんだな……しかも目がもう正気じゃないし」
ものすごい剣幕というのは男女共に恐ろしいものだが、理性的な要素が垣間見られない上に縦も横もリットより一回りは大きそうなサイズ感(しかも集団)で迫られては、思わず引いても仕方がない。
だが、と。リットは思う。理性的でないその存在の動きは、些か単調に見えるのだ。
(これなら俺の技が通じる!)
……はず! 頷き、リットは大地の巨人を召喚する。
それはリットの二倍の身の丈を持つ存在。いかなリットが小柄なドワーフとて、巨人サイズとなればふくよかな長女をゆうに超える。
「あ、あああ、なによ、なによなによなによ! わたくしの邪魔をするの!?」
自分より大きくいかつい存在が現れた事で、長女は自身が囲う食べ物を奪われると錯覚したのだろうか。
獣じみた食への執着が、そうはさせまいと巨人へと敵意を向けて。
「別に人のもの取ったりはしないけど……それ以前の問題か」
リットがかかってこいと言うように拳を振り上げる動作をトレースした巨人の動きに、まるで貪りつかんとするように、襲いかかってきた。
(食いつき、良すぎ……!)
おびき寄せる作戦を採用したのは我が身だが、巨漢が猛突進してくる光景は先程睨まれた時以上にとんでもない。
だが、やはり単調なのだ。慎重に見定めて、直撃を避ける形で武器や盾で受け流し、どうしても躱しきれないものは展開させたオーラで防いで。
すかさずカウンター攻撃を見舞ってやれば、避けるということを知らないような捨て身の長女はいとも容易く攻撃を受けるのだ。
とは言え、暴飲暴食モードになった長女の耐久は凄まじく跳ね上がっており、致命傷に至るには浅すぎる。攻撃力も同様に上がっている状態では、肉を切らせて骨を断つなんて作戦は自殺行為以外の何物でもないのものだと痛感したものだ。
しかしリットには巨人がついている。リットの攻撃力では足りない重厚な一撃を見舞ってやることだって、出来る。
ゆえに、致命傷なんて狙わなくて良い。動きを鈍らせるための攻撃を繰り返したリットは、目論見通りになるのを見計らって、一際大きく腕を振りかぶって。
「何事も腹八分目、だぜ?」
食事も、それへの妄執も、攻撃の仕方だって。少しの猶予をもたせてこそであろう。
そんな忠告なんて全く耳に届いてい無さそうな長女達を、巨大化した剣で強かに打ち据えて、粉砕ししていく。
「わたくしの、おにくうううぅ……」
令嬢としてはあんまりが過ぎる断末魔を残して朽ちる長女。
そうしてリットが気付いた頃には、姦しい女達はすっかり駆逐され、広間はすっかり静まり返っていたのであった。
大成功
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