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この電車は本日も遅延しております

#UDCアース

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#UDCアース


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 つい、眠ってしまっていたようだ。
 学生服の襟を緩め窓の外を見やると、後ろへ飛んでいく景色は暗く夜闇に沈んでいる。受験の為に夜更かしをしすぎたせいか、電車の断続的な揺れについつい微睡んでしまったらしい。居残りで遅くなってしまったし、根を詰めすぎて応援してくれる両親を心配させてもいけない。たまには帰ったらゆっくり休もう。

 ―――まさか、寝過ごしていないよな?
 電光掲示板の案内を見るため、顔を上げた。

 「【繧上◆縺励→縺翫↑縺倥↓縺ェ縺」縺ヲ】」

 地球上には存在しえない、なのに理解できる、できてしまうコトバが、耳に目に頭に脳に染みて届いて僕は俺は私は自分自分は私俺僕私俺僕私わたしわたしわたし。

 誰にも届かない短い叫び声が、閑散とした車内に木霊する―――。

 そして、数分後。電車は何事もなかったかのようにホームに停車した。一斉に開く扉からは、出てくる客も、乗り込む客もいない。ただ無機質に、録音されたメッセージが誰もいないホームに響いた。

「電車が遅れまして、大変ご迷惑をおかけしております―――」

●時間厳守
「皆様、定刻通りにご参集頂きまして誠に有難う御座います」
 オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は、慇懃な物言いで一礼すると、手早く手元の資料を猟兵たちに配布していく。

「……UDCアースにてオブリビオンの発生が予知されました。場所は、電車で御座います」

 手元に配られた資料によれば、最近UDCアースの主要な交通機関の一つである電車の運行中、様々なトラブルが発生しているとのこと。だがそれは重大な事故や事件ではなく、ほんの些細なものばかりで、つい最近まで看過されてきた。
 しかし、猟兵の協力者である組織、UDCの調査で、それらトラブルの最中に何名もの失踪者が出ていることが判明した。全容解明の為、詳細な調査を行おうとした矢先にオブリビオンが観測された―――という経緯があるらしい。
「電車のトラブルとオブリビオン。両者の因果関係こそ明瞭であるものの、敵の全貌などの肝心な情報は未だ発見できていないのが現状です。そこで、まずは皆様に現地での情報収集に当たって頂きたいのです」

 用意された資料を捲っていくと、最後のページに手書きで記されたいくつかの情報が添えられている。
「参考になるかどうかは定かではないのですが、電車のトラブルが多発した時期と重なるように、電車をご利用になる方々の中で【とある噂話】が飛び交っているようです。内容は不明ですが、調べる価値はあるかと愚考致します」

 依頼の詳細を話終えると、オクタは猟兵たちを改めて見据えた。死骸の黒々とした眼窩の中で薄っすらと光る紅い光が、瞼を閉じるように消える。

「電車のダイヤ、というものは非常に緻密なスケジュールで動いているようで、一つがずれれば全てがずれる、というのも珍しくはないとか。時間に限らず、一見すれば些細な歪みが、やがて巨大な捩れに繋がるモノ―――どうか、皆様のお力で、この歪みを正して下さいませ」


佐渡
 お初にお目にかかります、佐渡(さど)と申します。
 初のシナリオとなりますが、精一杯務めさせていただきます。

 今回のシナリオはUDCアース。
 電車の小さなトラブルの調査から物語が始まります。
 原因となるオブリビオンはいったい何なのか。正体不明の敵を探し当て、完膚なきまでにぶっ倒して下さい。
 また一章では、ペア、グループの参加を除いて個別のプレイングとさせて頂きますので予めご了承ください。

 長くなりましたが、皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『電車は止まるよいつまでも』

POW   :    トラブル時に急行し、現場を抑える

SPD   :    不審な行動をしている者を尾行する

WIZ   :    トラブルが起きやすい時間帯、パターンを分析する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

モン・サンシン
(POW)で

うみゃー、待ってる間にタコさん型ウィンナーやたこ焼き食べていくといいよー!
(調査するであろう仲間の邪魔にならぬ範囲で誘導しつつ軽食を配布してどうにか落ち着かせようとする。)
みゃー、更に試食用漬けマグロもあるよー(第二段階の誘導も怠らずにフォローし続ける)



「うみゃー、待ってる間にタコさん型ウィンナーやたこ焼き食べていくといいよー!」
 トラブルの発生と同時に現場に駆け付けたモン・サンシン(f00444)は、遅延で苛立つ乗客たちに様々な軽食を振る舞う。他に調査を続ける猟兵たちの妨げにならぬよう、乗客たちの気を宥めているのだ。

 年代性別様々な人々が、謎のサービスに首を傾げながらも感謝の言葉を残しながらそれらをつまんでいる中で、たこ焼きを食べていたサラリーマンたちが口々に愚痴を吐いていた。
「最近この線は遅延が多すぎる! 他の線では問題がないというのに、全く最近の駅員は一体どこを整備しているんだ!」
「まあまあ係長、遅延と言っても、【例のトンネル】を過ぎれば気にならないじゃないですか」
「だとしたら尚更怠慢だ!原因がわかっているというならとっとと直せばいいだろう! 全く、これだから公的機関というものは……」
 その立ち話に興味を持ったモンは、そのサラリーマンに話を訊くべく追いかけようとしたのだが……。

(うみゃ!?もうウインナーもたこ焼きもないよ!?)
 乗客を繋ぎとめる料理が、早くも底を尽きかけていたのだ。人の集まる駅の、しかも乗客の多い朝の通勤ラッシュ。更にSNSの情報などが合わさり人が想定以上に集まってしまっていたのだ。
 だが彼女も猟兵。想定外の事態への準備は決して怠っていない。

「みゃー、更に試食用漬けマグロもあるよー!」
 急ぎ次の軽食を準備する中で、サラリーマンたちは見失ってしまったものの、彼女の記憶には【例のトンネル】、という言葉が強く刻まれた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンペル・トリックボックス
はてさて、一見すると些細な事件の積み重ねでしかないように思えますが──その『些細さ』が返って不気味です。早いうちに芽を摘み取っておくべきだと、そんな予感がいたしますねぇ、えぇ。
ここは紳士的に【コミュ力】を活かして駅員や関係者への聞き込みによる【情報収集】の後、【WIZ】技能で解析を試みるとしましょう。
トラブルの起きている時間帯を種別毎に分け、『噂話』を加味した上で人為的なものか超常存在によるものかを見極めます。
次点で複数のトラブルによる運行の合計遅延時間が最も大きくなる時間帯を割り出し、その時間内に運行する電車へと実際に乗車して更に情報収集。現状、【第六感】をしっかり働かせて臨みます。



「一見すると些細な事件の積み重ねでしかないように思えますが──その『些細さ』が返って不気味です」

 今回の事件をそう評したヘンペル・トリックボックス(f00441)は、多角的な調査をもって臨んだ。
 駅員、関係者への聞き込みから始まり、時間、トラブルの種類、運行への影響の多寡、さらに起こった事案が人為的なモノなのか、超常的なモノなのかを精査するべく実際に現場へ足を運ぶなど、いくつもの要素を拾い集めていく。
(早いうちに芽を摘み取っておくべきだと、そんな予感がいたしますねぇ、えぇ)
 猟兵としての直観か、或いはUDCに触れてきた故の経験か。彼の神経は、いつも以上に尖っていた。

 収集した情報を総合し分析した結果、わかった事は二つ。
 一つ目は、一口に些細なトラブルと言われていた問題が、大別してしまえば二種類だけだということ。
 線路内への【不審物】、あるいは【動物】の侵入による急停止。そして、そこから副次的に発生する車内での転倒などによる怪我、物損、あるいは遅延。ただそれだけだ。
 ダイヤは確かに乱れるが、【ある地点】を過ぎてしまえば修正は容易いらしく、今では半ば名物のようにさえなってしまうほど。乗客も、駅員でさえも、「よくある事なんだよ」、としか思っていない。

 二つ目は―――失踪者は、夜間にその【ある地点】を通る電車を利用した人間であるということ。
「どうやら、ここに何かがあるのは間違いないようですねぇ」
 情報をしたためた地図に、赤く丸印を付けられた場所。
 それは、トラブル発生の直前に、解体が決定した【トンネル】だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

長坂・リン
POW

電車はあまり乗ったことないからよく知らないけど、あんな予定通りにいくつも動いてるものを丸ごとすり替えるとかは難しいんじゃないかな。
電車に何か細工してるやつがいないか、現場で探してみる。

現場に怪しい奴がいなくても、何か痕跡がないか調べるよ。
車内の目に映るもの、吊り革とか座席とか乗客が触れるもの、変な感じがするものがないか。

些細な歪みが、やがて巨大な捩れに繋がるって話。
事件の起きた電車と普通の電車で少しでも何か違いがあれば、それが敵の正体のヒントになるかも。



 実際に遅延が頻発している電車に乗り込んで、じっくりと調査を続けているのは長坂・リン(f12981)。

 これだけ大きな車両で何かしらの事件が起きているとなれば、痕跡はどこかに残っているに違いない。そう考えた彼女は、目を皿にして証拠を洗った……のだが。
「ダメだ……」
 残念な事に、車両そのものには一切の証拠が残っていなかった。しかし逆に言ってしまえば、電車ではなく線路、或いは路線にこそ今回の事件の本質が潜んでいることになる。

 そうと決まれば別の切り口から調査をしなければ―――そう思った矢先。
 彼女の乗っていた電車が急停車した。

 急ぎ運転席の方へ走ると、底には疲れた顔の運転手と車掌がアナウンスを鳴らす寸前だった。
「ご乗車のお客様、大変申し訳ございません。只今線路上に不審物がございましたので、確認のため電車を停車させて頂いております―――」
 すぐに進行方向の線路を見れば、レールの間に敷かれた木材……枕木、と呼ばれる部分に人の頭程の大きさの石が転がっていた。アナウンスを終えた運転手と車掌は電車から降りると、その石をすぐに拾い車内に持ち込んで電車を発進させてしまった。
 迷いなく行われた一連の作業に半ば呆然としつつ、次の駅でリンは運転手たちに事情を尋ねる。

「ああ、最近多いんですよ。ああやって線路の上に石がごろんと乗ってることが」
「警察とかに言っても人が置いてるわけじゃない、との事でしたので、後続の列車等の妨げにならないよう、一度最寄りの駅に持ち帰ってから廃棄しています」

 後ほど、電車に置かれていた石を回収することに成功するリン。当初の目的とは違ったものの、別の情報を得ることには成功した。

(些細な歪みが、やがて巨大な捩れに繋がる―――か)
 自分の目の前に置かれた、一見すればただ黒々としているだけの、電車の運行をほんの少し遅れさせただけの石が―――【月の岩石の成分】に酷似した性質を持っている、だなんて。
 歪みを手繰り、捩れの根源に、確かに彼女は近づいている。

成功 🔵​🔵​🔴​

アスティリア・モノノフィシー
SPD
電車といえばUDCアースの便利で生活に密接したものという認識です。そんな大切なものにオブリビオンが関係したとなれば一大事ですね。

私は不審な動きをするものや違和感をチェックしていきます。
視力はいい方なのである程度遠くまで確認できるかと。
もちろん不審人物でなくても困っている人がいたら手を差し伸べます。
そこで何か情報を得ることだって出来るかもしれませんしね。



 彼女にとって、電車とはかの世界において生活に密接したもの。
(そんな大切なものにオブリビオンが関係したとなれば一大事ですね)

 アスティリア・モノノフィシー(f00280)は、気合を入れて調査へと乗り出した。不審な人物はいないか、不審な動きはないか、不審なものは存在しないか。自慢である視力を活かして隈なく探す……がどうもそれらしい人物は見当たらない。
 空振りか。そう思った時、ふと視界の隅に捉えたのは、きょろきょろと周囲を見回す小さな子供だった。
「―――どうしたのですか?」
 困っている人がいたら、手を差し伸べる。考えずとも決まっていたその行動指針。彼女の優しい問いかけに、子供はつまりつまりに答える。

「【うさぎ】さんをね、さがしに来たの」

 子供の証言曰く、両親と電車で移動していた際に電車が急停車してしまった。ここまでは話によく上がる軽微なトラブルの一つでしかなかった。
 だが、その子供が言うには、そこで窓の外を見たときに小さな【うさぎ】がいたのだという。しかし両親にも、駅の職員にも信じて貰えなかったため、もう一度【うさぎ】を見つけて自分の言ったことは本当だと証明したいのだ、という。

「おねがいおねえちゃん、【うさぎ】さんを見つけて」
 その頼みを了承し、駅員に子供を預けて両親に迎えに来てもらう。その間も、彼女は子供の言った【うさぎ】について真剣に考えていた。
 事前の情報収集によれば、この地域に野生の【うさぎ】が生息しているという事はまず考えられない。飼育施設も近隣にはなく、ただの偶然とは決して考えにくい。

 子供の勘違い。そう言ってしまえば片付く話ではある。しかし。
(―――見つけると、言いましたしね)
 彼女の足は、次の目的地を定めていた。
 子供が【うさぎ】を見たという、【トンネル】まで。

成功 🔵​🔵​🔴​

チガヤ・シフレット
電車のトラブルってのは面倒なものだよな。
まぁ、電車で律義に行くよりバイクでもかっ飛ばしていきたいものだが!
今回はそういう話じゃないな。
なにか企んでるやつをぶっ飛ばしに、まずは手掛かりを探すとするか。

【SPD】
スマホ使って軽く【情報収集】して、電車の運行状況とかは調べるか。
トラブってたり遅延してたりとか、そういうところに足を向けてみるとしよう。
妙な行動をしてる奴がいないか、念入りに調べつつ……奇妙な格好だとか、おかしなこと言ってるとか……。そこまでわかりやすいと助かるなぁ。
噂ってのも気になるよな。女子高生とかその辺の学生とか、噂話好きそうなやつらの近くで耳をそばだててみるか。

さて、何が出るかねぇ



(電車のトラブルってのは面倒なものだよなぁ)

 回転率はいいとはいえ、時間を待って移動する電車に痺れをきらすチガヤ・シフレット(f04538)。だが、彼女は作成した珍奇な形状のスマホを操り、情報を仕入れていた。

 曰く、異星人の陰謀。曰く、古いトンネルで行われていた悍ましい邪神崇拝。曰く、死体を引き摺る音が聞こえる電車。曰く、幸せを呼ぶ白兎。
(くっだらね)
 話題になっている電車に関するトラブルについて、インターネット上に飛び交う根も葉もない噂話の数々。大多数が彼女の評した通り、不安を煽るだけのものや、面白半分に書きしたためたものでしかない。
 が、ほんの僅かないくつかには、今回の事件と関係があるように思えてならないもの、あるいは実際に体験したかのような真実味を帯びたものもちらほらと存在する。
 そうして電車に乗ったりして客を見ていたものの、明確に怪しい人物であったり、きな臭い行動をとるような人間は少ない。しかし、若い学生達の噂話に耳をそばだてていると、興味深い話を一つ聞いた。

「ねえ知ってる、【うさぎ】の祟りって?」
「えー?電車が止まった時見られたら幸せになるんじゃないのー?」
「それが違うんだって!【うさぎ】を見た人が、夜【トンネル】を通る電車に乗ると……消えちゃうんだって!」
「―――なんかオチ弱くない?またネットで見つけたやつ?」
「えへへ、バレたー?」

 話自体は単純だ。だが、どうにも気にかかる。
 噂話を搔き集めたような流れ、それに、『消える』という顛末―――。
 疑念を確信にするために、チガヤは【トンネル】へと向かう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『月の兎』

POW   :    満月
【透明化】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    新月
自身と自身の装備、【騎乗している浮遊岩石】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    朔望
【油断や庇護欲】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【仲間】から、高命中力の【装備武器による一撃】を飛ばす。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●【うさぎ】

 日没後。得た情報を元に猟兵達が集ったのは、寂れたトンネルだった。様々な要因で解体が決定したその場所は、寂れ朽ちる寸前であるせいか、えも言えぬ不気味さを感じさせる。

 意を決し、トンネルの中へと踏み込もうとしたその直後。
 ずり、ずり、ずざざ。

 何か、重いモノを引き摺るような音で一斉に猟兵たちが振り向いた先。
 純白の毛皮に小柄な体躯―――そして小さな手で持つ鈍重な槌。線路に落ちていた石塊に乗りながら、一切口を開かずただ爛々と紅い瞳を輝かせた兎たちが、ぞろぞろと暗闇から姿を現したのだ。

 この【うさぎ】たちこそ、今回の事件の主犯なのか―――?疑問を抱きながらも、猟兵たちは武器を取り、赤黒い染みのある得物を構える異様の白兎へと挑む。
ヘンペル・トリックボックス
なるほど、やはり渦中の現場はこのトンネルで当っているようです。

「これは──一見すると可愛らしいですが、危険な匂いがプンプンとしますねぇ…えぇ。」

【第六感】を働かせながら、注意深く臨戦態勢をとります。透明化が厄介な敵のようですので、トンネル内部という【地形を利用】して、ステッキで地面を叩く音の反響から敵の居場所を察知し、戦闘に臨みます。基本は招雷符を【高速詠唱】で連発して一匹一匹確実に倒していく戦法でいくとしましょう。紳士的に他の猟兵とも連携をとりながら、全体の損害を減らす方向で立ち回ります。
「さて、少々目と耳が痛くなるやもしれませんが──ご勘弁を!」


モン・サンシン
うみゃー、相手が分かればイタズラしてやるー!電車が遅れたらそれだけイタズラ道具やおやつを手に入れるのも遅れちゃうし…オブリビオンと分かれば遠慮しないもんねー!

イタズラ大作戦「不味いもので止めちゃえ!」を早速試すような具合で相手の口に放り投げる。



「これは――一見すると可愛らしいですが、危険な匂いがプンプンとしますねぇ…えぇ」

 周囲を取り囲む異様の兎。仕込み杖を握り直すヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は警戒を厳にする。
 いつ襲い来るのかという緊張に反し、宵闇に光る紅い目が、次々と黒に呑まれ姿を消していく。恐れをなして逃げたのだろうか? しかし、彼は第六感でこれが決して退却や撤退を意味していない事を察しとる。
(ならば……)
 彼は、手にした杖を地面に強かに打ち付ける。猟兵の持つ人を外れた膂力によって線路のレールに加えられた衝撃が、空気の振動―――音を生み出す。
 閉所という環境、跳ね返った音の差異。視界に入る姿のみを隠しても、そこに存在するという痕跡全てを欺く事できない。

 未だ自分が隠れ通せていると勘違いする愚かな敵を捉えたヘンペルが、札を取り出そうとしたその時。
「うみゃー、相手が分かればイタズラしてやるー! オブリビオンと分かれば遠慮しないもんねー!」
 横をすり抜け意気揚々と飛び出したのはモン・サンシン(イタズラ大好き猫・f00444)。その手には、彼女の得意であり大好きなイタズラのための道具が詰まった袋。彼女もまた鋭い聞き耳を持ち、耳敏く消えた敵の居場所を特定していたのである。
『みゃふふ…美味しくたべれるかな?おしおきのじかんにゃー!』
 敵に向かって次々と、モンは袋の中の珍奇なモノを投げ付ける。
 ある兎には黒いグルグルの何か。口にした兎はそのえも言えぬ味と臭いに石から落ち、透明化が解除される。
 またある兎には苦くて体に悪い漢方。口にした兎は耳をでろんと垂らし、苦さと倦怠感に思わず槌を手から離す。ごとりという重い音は、注意を向けずとも聞き取れるほどに明瞭だ。
 またある兎には死ぬほど辛い激辛スパイス。口にした兎は狂ったように跳ねながら、味を誤魔化すため鉄製のレールに食らいつく。当然、透明になり続けるための集中力や余裕など、残っていようはずがない。

 そういった様々なリアクションに大満足しげらげら笑うモン・サンシン。それを見ていたヘンペルは自身のポリシーとは逆を行く彼女のアシストに衝撃を受けながらも、自らのやるべき事までを失する事はない。
「さて、少々目と耳が痛くなるやもしれませんが──ご勘弁を」
 聞こえているのかいないのか、隣の彼女に警告すると、印を組み意識を集中する。
『遍く帝釈天に帰命し支え奉る!其の権威を以て悪しきを尽く焼き滅ぼしたまへ!』
 彼の手にした呪符が稲妻を帯び、逃げも隠れもできない怪異へと次々に雷が降り注ぐ。味方が塵となる姿を目撃し、焦り媚びうる兎たち。成程確かに外見を見れば愛らしいだろう―――だが、彼の中には油断も隙も生まれない。
 魔性を逃がさぬ電光が瞬くたびに、猟兵を取り囲んだ兎たちは数を減らしていく。

 ―――同時に、耳のいいモン・サンシンもまた、近くから放たれる雷の轟音に悲鳴を上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

長坂・リン
POW

標的の数が多くて、狙わなくても撃てば当たりそう。
袋叩きにされたくないし、早めに減らさないとね。

ユーベルコードの橄欖魔弾は攻撃力重視で敵に撃ち込むよ。
狙うのはあたし達の近くに寄ってきた奴から順に。
回り込んできたリ捨て身で飛び込んでくる奴もいるだろうから、技能のクイックドロウと零距離射撃で迎撃するつもり。

一緒に戦ってくれる人達とはお互いの死角を補うように立ち回れたらいいな。
戦況が余裕な感じなら、仕留めた数で競争するのも楽しいかもね。


アスティリア・モノノフィシー
SPD
うさぎが電車のトラブルや失踪者を出しているのでしょうか?

可愛いですが、先程小さな子とうさぎを見つけると約束しましたしね。
トラブルの原因の一つであるならば排除して、後であの子に君が見たうさぎは間違いではなかったと、君の言葉が情報が役に立ったのだと伝えに行かないとですね。
「そのためには全力で排除です!」
ユーベルコードを使用して絶え間なく攻撃して行きます。とは言ってもトンネルを荒らして後々電車の運行の妨げになっても仕方ないので被害損害をださないように気をつけます。
新月の際は何もして来ない逃げないようならじっと待ちましょう。


チガヤ・シフレット
うさぎが事件を引き起こしていたのか……?
ふむ、まだもう少し裏もありそうだが、ひとまずはうさぎ狩りと行くか。
可愛い顔しててもダメだぞー(悪い笑みを浮かべながら)

ガジェットを展開して、攻め立てるとするか。
まずは一気に【一斉射撃】でもかまして、ダメージを狙ってみるとしよう。
その後は様子を見つつ、他の仲間への【援護射撃】などをしながら、着実にダメージを積み重ねるように。
敵が透明化したら、派手な音を立てないようにして、索敵。発見次第撃ち抜いていこう。
まぁ、どうしても見つからないなら、一気に広範囲を吹き飛ばせばそれですむかもしれんがな!

ハンマーで殴られる前に、こっちが殴り倒してやるとしよう



 少し離れた場所で戦い続ける長坂・リン(涼風猟兵・f12981)は、堅実に敵の数を減らしていた。透明化を解除し、兎の皮を破って狂気的な本性をむき出しに襲い掛かる怪物を、ゼロ距離で打ち込む弾丸で貫く。

 しかし、彼女の戦略に気付いた兎たちは、彼女から距離を取って隙を伺う方向に切り替える。姿を消した相手を見つけ出す術を持たない彼女は、どうしても攻めあぐねる。攻撃に特化させたユーベルコードがもし老朽化した建物に当たろうものなら―――あとは言うまでもあるまい。
 じりじりとした緊張の均衡。それを崩したのは派手な銃声だった。

「おらぁ、吹っ飛べ!」
 驚き目をやれば、そこではチガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)が、ガジェットショータイムによって作成した魔導蒸気による巨大なガトリングガンを構え、一斉掃射をかましていたのである。
 当然の事ながら周囲への被害は推して知るべし。確かに多くの兎を駆逐する事こそできてはいるものの、老朽化したコンクリートを穿つ弾丸も数多い。

 慌ててそれを制そうとするリン。だが、獣の本能は僅かな隙にも目敏く反応した。
 背後から迫る殺気に反応できないリンではないが、しかし僅かに敵の方が早い。何もないはずの虚空から飛び出した白兎は、眼前で人を喰らう狂気の相へと変わる。
 覚悟を決めた瞬間―――近づく異形の下顎が、炎を纏う弾丸によって吹き飛ばされた。
「ふう、間一髪でしたね」
 そう言いながら近づくのはアスティリア・モノノフィシー(清光素色の狙撃手・f00280)。焼かれた顎を必死に短い前腕で掻き毟る兎『だった』もの。それに向け、躊躇い無く引き金に指を掛ける
 彼女の愛用にして相棒である拳銃【SRP】が乾いた音と共に硝煙を二度、三度と吐き出す。避けようのない怪異は、全身を灼かれ崩れ去った。
「――ありがとう」
「気にしないでください、それよりも」
 背中合わせになり、リンとアスティリアは銃を構え直した。互いの死角を補う為の戦略であり、同時に何故かはわからないが迫る敵の数が増えていることに気が付いたからである。彼女の脳裏には、子供との約束が思い浮かぶ。あの情報は役に立ち、そして君の言葉は間違いでなかった、と伝えなければならない。
「そのためには全力で排除です!」

 そんな二人を遠巻きに見ながら、チガヤは自分の目論見が成功した事を感じた。最初の派手な一斉射撃により、兎たちは自分以外の猟兵を狙うだろう。攻撃をするために透明化を解除する必要がある、そしてそこを狙い撃つ。
 ややダーティーな戦略ではあったが、かといって被害を受ける事はないようきっちりと援護射撃で数を減らす。
(まぁ、どうしても見つからなかったら、一気に広範囲を吹き飛ばせばそれで済んだかもしれないがな!)
 そんな事を考えながらも決して実行はせず、援護と誘導に力を注ぎ続ける。

 逃げに徹すれば掃射で蜂の巣になり、かといって攻め立ててれば黄緑と赤の弾丸によって消し飛ぶ。人を殺戮する力を持った兎はしかし、この場においてはただ狩られる獲物に過ぎなかった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『残響の女神』

POW   :    信者の供物
自身の装備武器に【生贄になった者の身体部位の一部 】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD   :    叫ぶ
【絶叫 】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    凝視
小さな【狂気 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【トラウマに応じてダメージを与える空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●残響
 全ての兎を退けた猟兵たち。奴らが今回の事件の元凶だったのか―――。
どこか煮え切らないながらもその場を後にしようとしたその時。

【「繧上◆縺励→縺翫↑縺倥↓縺ェ縺」縺ヲ」】
 猟兵たちの頭に響く、この世のものならざる声。振り向くと、トンネルの壁が崩れた先が露になる。冒涜的な文様や装飾だったものが雑然と並ぶ儀式場。そこに積み上がる、嘗て哀れな生贄となったのであろう人々の亡骸。そして、失踪した人々の真新しい死体。
 啜り泣くような声と、背筋が凍りつくような怖気。虚空が歪み、そこから現れる、亡骸を継ぎ接ぎにしたような、歪な女神。悍ましきその姿は、正しく邪神に相違ない。
【「繧上◆縺励→縺翫↑縺倥↓縺ェ縺」縺ヲ」】
 続く呼び声は脳が理解する事を拒絶しているのにも関わらず、その正気のフィルターを抉じ開けて、意味が、意図が、巨大な影のように這い迫る。

【「わたしとおなじになって」】
 怨嗟と悲哀を練り固めたようなその声に、猟兵たちは抗う。
 最後の戦いが、始まろうとしていた。
長坂・リン
POW
うるさい奴が出てきたけど、何発撃ち込んだら静かにしてくれるのかな。

ユーベルコードの橄欖魔弾は攻撃力重視で敵に撃ち込むよ。
技能のスナイパーで、声を出してるっぽい頭を狙いたいな。
あたしの射撃が有効でなくても、味方の攻撃に合わせて援護射撃して一気に叩きたいね。
敵がこっちに近接してくるなら、技能のクイックドロウと零距離射撃で迎撃するつもり。

先の戦闘から引き続き、共闘してくれる人達と連携して攻撃の手を緩めないようにしたいな。
あんな気持ち悪い奴と長期戦はやりたくないからね。


モン・サンシン
「みゃぁぁぁ!?おばけぇー!?そりゃ怖がって電車遅れるよー!」

おばけが出たと勘違いして『イタズラ大作戦「不味いもので止めちゃえ!」』をあっち行けと言わんばかりに放つ。さっきの雷も怖かったけどオブリビオンも怖…あれ?
みゃふ、それなら倒したら後でマヌケなオバケと紙に書いて顔に貼っちゃお。

電車が遅れたのはおばけのイタズラだったことにしようかみゃー…


ヘンペル・トリックボックス
あわよくば失踪者の救出もと考えておりましたが、どうやら既に手遅れ。これはまた、随分な厄ネタが後に控えていたものです…!
『凝視』に凝視をもって抵抗しつつ、『木行歳星符』で敵の周囲の酸素を急激に膨張させます。次いで相手の周囲にUCで火属性の呪符を連続展開、一斉発火。暴風によって勢いを増した業火で荼毘に臥すとしましょう。

真に憎むべきは、この醜悪な神を作り出すに至った狂気そのものでしょうか。骸を継ぎ接ぎにして弄ぶばかりか、その魂すら歪めて眇めて贄にするとは…!貴方がたと同じにはなれませんが──せめて完膚なきまでの引導を。それが紳士として出来る、最大限の弔いです!


チガヤ・シフレット
兎狩りが終わったと思ったら。
おぉおぉ、これはまた御大層な女神さまの登場だな。
悪いがアンタみたいにはなれないな。ここできっちり滅んでもらうとしよう

全身の内臓兵器とガジェットを起動して、一気に押していこう。
基本は中程度の距離から、ガンガン撃ち込む形で。【二回攻撃】等しつつ、死体の継ぎ接ぎなら【属性攻撃】で炎にして焼いてみるかぁ?
キレイに火葬してやりましょう、ってなぁ。

他の猟兵たちへの【援護射撃】も続けながら、隙を見て一気に接敵。
【零距離射撃】をぶち込んでやろう。
叫ばれたらたまらん。その口黙らせるためにも、頭を狙って行ってみるかぁ!

最後にはちょっとくらい死者を弔ってやるか。それくらいしか出来ないな


アスティリア・モノノフィシー
SPD

わたしとおなじになって、ですか…
私には今の貴方と同じになることは出来ませんし、貴方がどんな過去を持っているのかも想像出来ませんが、これ以上の被害を出さないためにも全力で挑むのみです!

ユーベルコードを使用し離れた位置から攻撃です。
トンネルを真っ赤に照らすくらいのほのかで攻撃していきます。
沢山の遺体には目を背けたくなりますが、間に合わなかったことを後悔してばかりではいけないですよね。
後できっとちゃんと葬いをしますので、今はしばしばお待ちください。



 迫る狂気の腕。しかし、正気を失うことなく、武器を取り、そして真正面から向き合う猟兵たち。
 ―――ただし、一人を除いて。

「みゃぁぁぁ!?おばけぇー!?そりゃ怖がって電車遅れるよー!」
 狂乱に陥るとはまた違うが、モン・サンシン(イタズラ大好き猫・f00444)は兎にも使った最早劇物同然の食べ物を投げ付ける。生贄の体を切り貼りされ、辛うじて人の形を保ちながらも本来のそれとは大きく異なる体格の女神の口には、残念ながら届かない。
 モンの行動を、自身への拒絶と受け取った異形の女神。崩れ歪んだ顔を掻き毟り、絶叫する。
 呼び声に応える者はいない。だがその慟哭は、間違いなく目の前の者たちを「敵」と認識した合図に他ならない。

 だが、その女神の叫びと同時であろうか。女神の顔にあたる部分に弾丸が撃ち込まれる。黄緑色の光を纏うた銃弾の主は長坂・リン(涼風猟兵・f12981)。
「何発撃ち込んだら静かにしてくれるのかな」
 顔を顰めるそのわけは、目の前の敵の醜悪さや悍ましさ故ではない。かのものの上げる奇声が、ただただ鬱陶しいから。
 あくまで冷静に、多くの生物にとって急所となりうる頭部を、繰り返し狙い撃つ。ユーベルコードの特性を攻撃へと特化させた攻撃に、残響の女神は不安定な体を揺らした。
 ……効果あり。そう思った瞬間、女神は自身の腕を千切り取ると、巨大な武器の如く振り翳す。屍人の身体であろうが痛むのか、血涙を流しなお殺意を剥き出す姿は、邪神に相応しい。
 滅茶苦茶に腕だったものを振り回す残響の女神に、猟兵たちは距離を置かざるを得ない。しかし、悲しいかな。今回相手にする猟兵は皆、距離を置いたとしても力を発揮する面々ばかりである。

「悪いがここできっちり滅んでもらうとしよう」
「これ以上の被害を出さないためにも全力で挑むのみです!」
 チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)、アスティリア・モノノフィシー(清光素色の狙撃手・f00280)の両名は、遠距離からの弾幕を絶やさない。
 チガヤは、サイボーグの体に内蔵された兵器に加え、ユーベルコードで作成されたガジェットによって集中砲火。更に撃ち出された弾丸には、炎の属性を纏わせてある。亡骸ならば火は効くに違いないだろうと踏んで。
 アリスティアのユーベルコードは、元々から炎の力を弾丸に宿すもの。熱された金属が如き赤々とした光を帯びた弾を、銃弾が切れれば別の銃へ持ち替えながら何度も何度も叩き込む。

 文字通りの集中砲火―――それでもなお、残響の女神は祓えない。響き渡る絶叫は痛みを訴え、悲しみに嘆くものであっても、断末魔には程遠い。
 ……身体が削れても、新たにカラダにできる【部品】が傍にある。削れた肉体を千切り取った遺骸で埋め、またも元通り、いやそれ以上の異形へと変貌していく。そして、何より、理不尽な悲劇によって命を奪われた無念が、すぐそばで今なお存在する。ここは悲劇の舞台の上、悲嘆の残響が最も似合う独壇場に他ならないのだ。
 
 これを斃すには、それこそ、圧倒的な力が必要だ。
 そう、舞台さえもを粉砕するような―――!

『対象認識。解析開始。属性定義。弱点把握。霊符連続展開完了───』
 ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)にはその手段があった。ここまで声を潜め、着々と機会を伺っていたのだ。
 彼が放った札は、酸素を急激に膨張させるための札。それを、最も効果的に対象へダメージを与えるために計算し配置する。そしてその巻き添えを他の猟兵たちに出さぬように距離も置いた。後は起爆するのみ。

 しかし、ここで計算外の事が起きた。ヘンペルと視線のかち合った残響の女神は、周囲に小さな黒点を大量に発生させていく。
 空間は歪み、内部では狂気と観測した猟兵達それぞれの過去に関係するトラウマが顔を覗かせる。【凝視】と呼ばれるそのユーベルコードはじわりじわりと範囲を広げ、ヘンペルの作り出した札を飲み込まんとさえする程だ。
 通常の法則の効かないユーベルコードの中に形成された世界に入られてしまえば、爆風の効果も薄れてしまう。
「いけない、皆様どうか動きを止めて下さいませ!」
「言われなくたって逃がすかってんだ!」
 ヘンペルの声に苛立ち交じりに応えるチガヤ。
「―――くっ」
「待ちなさい!」
 続けて、アスティリアとリンもまた、次弾を装填し次々と放つ。
 しかし、先程同様に命中しても次々に、亡骸を自らの体に張り付けては再生し、今度は抵抗なく発射され直進するだけの銃弾は黒点に吸い込まれ消えていってしまう。そうしている間にも、女神の半身は黒い世界へ沈み、完全な消失までのカウントは着々と進んでいく。このままでは―――そんな焦りが猟兵たちに渦巻き始めた、その瞬間だった。

「うにゃあああああああああああ!」

 突如女神の顔面に張り付く小動物のようなシルエット。そう、モン・サンシンだ。最初の攻撃こそ効果を為さなかったが、痛みを感じるような素振りを見、感覚があることをなんとなしに理解していた彼女は、隙を見計らい天井まで這い上り、女神の頭上に潜んでいたのだ。
 大きさという障害はなくなった。もう、これで外れることはない。

『おしおきの、じかんにゃーっ!』

 背後から波紋による人型のようなものが見える勢いで手持ちの不味い苦い辛い食べ物を口いっぱいに押し込んでいくモン。
 袋の中身が空になるころには、残響の女神の崩れた顔面の口は齧歯類の頬袋並みにぱんぱんになっていた。
 ―――一拍おいて、頭部を振り乱し苦悶に満ちた声を上げる女神。飛び降り愉快気に笑いながら、しかしモンは叫ぶ。「今だ」、と。

「―――爆ぜろ!」
 隙を逃さず、酸素を膨張させていた札の効果を変化させ、炎を生み出すヘンペル。
「いい加減、くたばりやがれッ!」
 近接しての射撃はできなかったものの、くどいほどに立ち上がった敵に対し持ちうる弾丸を全て叩き込むチガヤ。
「どうか、安らかに」
 肉体の一部となった人々、それに悲嘆と苦悶によって生まれた女神への餞の祈りを胸に、残った力と弾丸を撃つアリスティア。
「最後までうるさかったね」
 予期せぬ長期戦になってしまったが、確実なとどめのために気を緩めず、ただ事務的に急所を狙うリン。

 各々の持つ全身全霊が、女神に命中したその瞬間。閃光が、辺りを包んだ―――。

 後日。予期せぬトンネルの崩落は「爆破解体」ということで処理され、現地の組織にトンネル内部に存在した不可解な儀式場の調査は預けられた。
 今回の件に関わった者たちは過去からの傍迷惑な贈り物によって失われてしまった命を弔う。だが、彼らの活躍によりこれ以上の犠牲は出ることはないだろう。
 また、崩落したトンネルであったが、幸か不幸か失踪者の分の遺体は無事に発見され、家族の元へ戻るだろう。哀しい結末ではあるが、消えたままであるよりは幾分かましであるはずだ。

 今日も、電車は走っている。人と、その人生、そして彼らの作る明日を乗せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月31日


挿絵イラスト