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迷宮災厄戦⑤〜脆い甘味は魂を込めて

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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「皆、集まってくれてありがとう。……アリスラビリンスにて勃発している『迷宮災厄戦』についてはもう把握しているかな。今回はその戦場へ向かってもらいたいんだ」
 クッキーをひとつ片手に、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)は集まった猟兵達へ語り掛ける。食欲をそそる甘い香りが漂うものの、彼女はそれを口元へ近づけようともしないままもう片方の手を動かした。
「早速だけれど、これを見てほしい」
 ぽん、と光らせたのは小さなモニター。
 映りだすのはアリスラビリンスの光景――にしては、やけに色褪せたように見える空間であった。
「ここは『遠き日の憧憬の花園』。簡単に言ってしまえば、草木や空が全てセピア色をした『不思議の国』のひとつだよ。この光景自体に注意する点はないのだけれど……」
 言葉を切ってネルウェザがモニターの映像を動かせば。

 色褪せた国の中、パステルカラーのエプロンドレスを纏った人影。そのどれもが大きな盾を構え、そしてその裏に何か銃のようなものを携えているのが見えた。
 現地の住人達――ではない。周囲で跳ねるうさぎや愉快な仲間達を見るや否や、人影はその銃で蒸気らしき何かを振り撒き、遠くへ、遠くへと追いやっていく。
 その映像を一度止めつつ、ネルウェザは話を再開した。
「察しているかもしれないけれど、彼女達は『ビスケットシールダ―』というオウガの集団だ。厄介なのは彼女達の『銃』……アルダワではお馴染みの『魔導蒸気機関』というやつだね。彼女達はここから瘴気を纏った蒸気を射出して、不思議の国を汚染している。猟兵の皆にとっても有害なものだろうから、これを喰らわないよう対策は考えておいてほしい」

 そしてもう一つ、とネルウェザはモニターの中心、オウガが構えている大盾を拡大する。
 よく見ればそこに描かれているのは人型――苦悶の表情で固まった少年少女の姿であった。
「……彼女達の盾、これは『元々アリスだったもの』だ。今から向かう皆がこの姿にされても、すぐに回復手段を取れば助かるだろうけれど……この子達は既に手遅れらしい」
 彼女は苦い顔でそう告げて、片手に持ったままのクッキーを前に出す。
 指に少し力が入れば、クッキーはあまりにも容易くぼろりと砕けた。
「大盾は焼き菓子とそう変わらない、本当にこのくらいの硬度――というか、焼き菓子になったアリスそのもので出来ている。当然脆くて壊れ易いし、遠距離からでも簡単に破壊できるだろう。それでも……既に命が奪われているとはいえ、アリスを傷つけたくない意思があるのなら。この盾を破壊してオウガに攻撃を仕掛けることはお勧めしない」

 ――勿論、作戦に必要なら止めはしないけれど。
 ネルウェザは一言そう付け足し、モニターとクッキーを自身の後ろで浮かせて目を離す。
 空いた手にふわりとグリモアを浮かべれば、彼女は猟兵の方へ向き直った。
「それでは転送を開始するよ。皆、健闘を祈る」
 金色の光がくるくると回りだし、やがて猟兵の身を包んで輝き出す。僅かな目眩にも似た感覚のあと、猟兵達は『迷宮災厄戦』の戦場へと送り出されていった。



 見渡す限りのセピア色。
 古い写真のような、どこか懐かしさを覚えるような光景の中に――早速、彼女達は現れる。
「クッキー作りに邪魔な子は皆お掃除ですぅ!」
「早く逃げないと貴方もクッキーにしちゃいますよぉ〜!」
 バシュッ、バシュッと真っ白な蒸気を振り撒いて、オウガ『ビスケットシールダ―』達がけらけらと笑い駆けていく。周囲と同じセピア色をした愉快な仲間達は彼女達に怯え、悲鳴を上げて何処かへ散らばっていった。

 この地を開放するため、早くあのオウガ達を討伐しなければ。


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はアリスラビリンス『遠き日の憧憬の花園』での戦いです。
 こちらは集団戦一章のみ、戦争シナリオとなります。

 敵は全員『魔導蒸気機関』付きの銃を手にしており、そこから放たれる『瘴気の蒸気』で猟兵を蝕もうとしてきます。これを喰らわないような対策がプレイングに有れば、有利に戦うことが出来るかもしれません。

 プレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『パティシエ『ビスケットシールダー』』

POW   :    怖いですぅぅ~~!!
【アリスが封じられたクッキーの盾】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【複数のクッキーシールダー】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    使い捨ての犠牲者
【アリスが封じられたクッキーの盾】による素早い一撃を放つ。また、【攻撃や防御によって盾が破壊する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    貴方もクッキーに…!
【装飾がないクッキーの盾】から【甘い不思議な粉】を放ち、【クッキーの盾へ封印すること】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:保志乃シホ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アニエス・ベルラン
ほほう、君らはアリスをクッキーにして食べちゃうのかい?
可愛い顔をして、中々残酷なことをするじゃないか
このぼくが君たちにお仕置きしてあげよう
西洋妖怪の端くれとして、君たちに存分に恐怖を与えてから倒すよ

WIZ

ぼくのユベコ【ミゼリコルディア・スパーダ】はこういう集団戦において非常に重宝するものだ
ある程度距離をとり【高速詠唱】で素早く呪文を唱え、魔法剣でズタズタにしてあげよう
君らにこの複雑な動きを対処できるかな?

ぼくに博愛精神なんてものはないから、そのクッキーを砕いても罪悪感はないよ。もう手遅れみたいだしね
クッキーからユベコを発動するのなら、それごと打ち砕いてあげよう
銃なんて撃たせる隙、与えないよ



 愉快な仲間達が逃げろ逃げろと駆けていく中、彼等とは真逆――今まさにオウガが武器を振り回す方を向く少女が一人。アニエス・ベルラン(自称知識人の幼い老婆・f28971)は蒸気の届かぬ地点からオウガの盾を見遣りつつ、静かに頤を押さえた。
「ほほう、アリスをクッキーに……可愛い顔をして、中々残酷なことをするじゃないか」
 そう呟く彼女の姿は、見た目だけで判断するならば齢十つかその辺り、だが。

「このぼくが君たちにお仕置きしてあげよう。――西洋妖怪の端くれとして、君たちに存分に恐怖を与えてからね」
 自身有り気な顔で言い切り、アニエスは携えていた長杖をそっと構え直す。
 その小さな唇を素早く震わせ、紡ぎ詠うのは魔術呪文。ほんの一瞬に唱え終えた言葉はユーベルコードを起動させ、アニエスの周囲へ百本の魔法剣を出現させた。

 先に告げた言葉通り、彼女は『西洋妖怪』。
 ――八十年以上の長い時を生きた、『魔法使い』である。

「君らにこの複雑な動きを対処できるかな?」
 に、と笑んで長杖を振れば、魔法剣は瞬時にオウガの方へと飛翔を始める。
 彼女達がその剣に気づいた頃には、既に大きなクッキーの盾――アリスを封じた巨大な焼き菓子を、いとも容易く粉砕していた。
「――っ!?」
「私達の特製クッキーが!?」
 慌てて蒸気を射出しようと構えるも、幾何学模様を描く剣の軌道に銃口が追いつかない。アニエスの放った『ミゼリコルディア・スパーダ』は次々にオウガの盾を貫き、更にオウガ本体の銅へ深々と突き刺さった。

 逃げた愉快な仲間達以上に甲高く悲鳴を上げるオウガ。
 彼女達は剣を操るアニエスの姿を目で捉えた瞬間、地面に落ちたクッキーを指差し命乞いのように叫び出す。
「か、可哀想とか思わないんですか―っ!? 死んだアリスちゃん達がす〜っごく悲しんじゃいますよっ!?」
 その命をはじめに奪ったのは自分達であることは棚に上げ、オウガはクッキーの破片に顔を隠すようにして縮こまった。
 しかしアニエスは何とも無い顔で杖を動かすと、そのままクッキーの破片ごとオウガの体を貫く。彼女は息ひとつ乱さぬまま魔法剣を操り、視界に残るオウガを一気に攻撃した。

「ぼくに博愛精神なんてものはないから、罪悪感はないよ。もう手遅れみたいだしね」
 淡々とそう告げると同時、ついにオウガの声がぷつりと途切れて。
 息絶えたオウガ達が骸の海へと還って行けば、アニエスのいる周囲は粉々のクッキー片が散らばるのみとなっていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

姫川・芙美子
犠牲者を盾にするなんて悪趣味ですね。
きっとあの人達を倒す事は正義と呼べる事なんでしょう。でしたら、私が成すべき事ですね。

あの銃から出る瘴気を防がないと近寄る事も出来ませんね。
【百鬼夜行】で各装備に封印された妖怪の力を解放し強化。「正義女学生服」が無数の護符に戻り、周囲に展開して【破魔】【呪詛耐性】の【結界術】で瘴気を遮る防御結界を形成します。
首に巻いた「霊毛襟巻」が大蛇の様に伸びてうねり武器と化します。【なぎ払う】様に攻撃。
【フェイント】です。盾で防ごうとしたら襟巻の布で柔らかく包み保護。壊させませんよ。
「髪の毛武器」が蟹の足の様に伸びて盾を迂回し【貫通攻撃】で敵本体を四方から串刺しにします。



 逃げ惑う愉快な仲間達、犠牲者を盾にしながらそれを攻撃するオウガの集団。
 そんな悪趣味な光景が広がる中、姫川・芙美子(鬼子・f28908)がオウガへ刃を向ける理由は――『自分が助けたいから』などという、物語のヒーロー然としたものではなかった。
 どちらが救うべき人々で、どちらが倒すべき悪か。
 それが明白であるからからこそ、彼女は『そう動くしかない』。
「きっとあの人達を倒す事は正義と呼べる事なんでしょう。でしたら、私が成すべき事ですね」
 ひとり頷くように呟けば、芙美子は向こうのオウガが持つ銃を見遣る。射出される『瘴気の蒸気』、あれをどうにかしなければ近寄ることも叶わないだろう。

 深い黒の瞳を揺らし、ほんの少し思考を巡らせたのち、彼女はするりとその身を包む学生服へ手を触れた。
「封印限定解除」
 その一言で、彼女の纏う女学生服は無数の護符へと姿を変える。ばらりと分かれたそれらは芙美子の周囲へと広がり、瘴気を遮る結界となって展開された。
 同時に首元を覆う襟巻も命を宿したかのように震え、大蛇の如くぬるりと伸びてうねり出す。
 ――ユーベルコード『百鬼夜行』。
 その力で、身に纏うものへ封じられた妖怪を覚醒させ――彼女は踏み出した。

「さぁさぁ逃げるです〜!」
「全員クッキーにしちゃいますよぉ〜!」
 そう蒸気を撒き散らしながらけらけら笑うオウガ達。しかしその背後で軽い足音が響いた瞬間、彼女達は咄嗟に身を屈める。
「――っ!」

 ぶん、と芙美子の霊毛襟巻が低く唸る。更に薙ぎ払うように襟巻の一撃が繰り出されれば、防御の間に合わないオウガ達の体が容易く真横へと吹き飛ばされた。
 続きもう一撃、芙美子は一歩前へと踏み込んで襟巻を動かす。
 それが迫る中、オウガはクッキーの盾を思い切り前へ出して。
 ――かかった!
 そう言わんばかりににやりと口角を上げるオウガだったが、しかし。
「壊させませんよ」
 芙美子はクッキーを粉砕することなく、それを襟巻でふわりと柔らかく包みオウガの手から奪い取る。その瞬間心なしか、苦悶の表情で固まっていたはずのアリスの顔が僅かに和らいだような気がした。

「このッ……!!」
 片手に握った蒸気銃を構え、オウガは躊躇いなくその引き金に触れる。
 直後芙美子の正面へ大量の蒸気が噴射されるが、結界により瘴気が掻き消されたそれはただの目眩ましでしかなかった。

 そうとも知らず嘲笑うオウガは――ぐさり、と腹に何かが突き刺さる感覚に襲われる。
「!?」
 目を見開いたまま、それこそクッキーに封じたアリスたちのように。
 苦悶の表情を浮かべたオウガは、地から伸びた『髪』――盾を迂回してオウガの足元へ回り込んでいた芙美子の髪に四方から貫かれ、理解も追いつかぬままに骸の海へと還されていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
……己の行為の残虐さを知らず、無邪気にやっているのかと思えば
そうでもないようですね
より性質が悪いと考えます
何れにしても、犠牲を出している事には変わりはありませんが……

前進し、己自身の身ひとつでお相手します
あえて攻撃を誘い
瞬間、この身を非実体とすることで盾を空振りさせ
体勢を崩したオウガ本体を仕込み杖で深々とひと突き
これならなんとか盾を壊さずに戦えるかと

……地道ですしミスひとつで怪我をしかねないのは重々承知
『騎士』の力で一掃すれば、恐らくは楽だったのやもしれませんが
彼を頼みとすれば、恐らく幾つも砕けてしまうから
クッキーの正体を知り
手遅れであると解っていても
割り切るのは……私には少々難しいようです



 不思議の国を汚染しながら、少年少女を封じた盾をくるくる愉快そうに回すオウガ達。その口が紡ぐのは楽しげな笑い声であり、自分達がしていることへの罪悪感などは塵一つほども感じられない。
 彼女達が幼い少女であるが故に、その残虐さを知らず無邪気にしている行為なのか、と言えば――きっとそうではないだろう。
「ほらほら、早く逃げないとクッキーにしちゃいますよ〜」
「沢山増やして皆のおやつですぅ〜!」
 けらけら笑う少女の顔は、嘲りと愉悦を混ぜたように歪んでいる。それは『アリス』を自ら望んで食べるオウガの顔そのものであり、その行為を楽しんでいる表情に他ならなかった。

 犠牲を出していることに何ら変わりはないにせよ――より、性質が悪い。
 思わず帽子の鍔をそっと下げながら、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)はオウガ達の元へと進んでいく。
 僅かに震える紫瞳が、オウガの姿を正面に捉えた瞬間。オウガはにまぁと静かに笑い――右手の蒸気銃を躊躇いなく動かした。

 瘴気を纏う蒸気が広がり、ファルシェの体をもわりと包む。
 しかし彼は動きを鈍らせることもないまま、勢いよく一歩前へと踏み出した。
「ッ!?」
 迎え撃つように、咄嗟に真横に振り抜かれるクッキーの大盾。脆い焼き菓子とはいえ、これを正面から喰らえば多少のダメージはあるだろう――そう、思った筈が。
 ぐぉん! と空気を鳴らしたクッキーはファルシェの顔面をただすり抜け、大きく宙へと放り出される。オウガはわけもわからぬままその勢いに引かれ、無防備な体を曝して体勢を崩してしまう。
 ファルシェは一瞬その身を蜃気楼のように歪ませながらも、すぐに元の形を取り戻し――刃へと変化した杖を、真っ直ぐに前へ突き出した。

 致命傷を受けてぐらつくオウガの背後から、更にもう二体。
 ファルシェは杖を構え直すと、ユーベルコード『ジェットミューテーション』を己の身へと掛け直す。そうしてもう一度真正面から突進を仕掛け――盾が空振ったところへ、一撃。

 それは非実体となることで瘴気の影響を受けず、且つ出来る限り『クッキーを壊させない』為の戦い方だった。
 とはいえ地道で危険なことは明らかであり、宝石を媒体に喚び出す『騎士』に協力を頼めばオウガの殲滅自体はずっと容易かった筈だ。
 ――しかし、そうすれば。恐らくはあの『盾』が、幾つも砕けてしまっただろうから。

「――」
 断末魔を上げてオウガ達が姿を消せば、放り出されたクッキーの盾が重力のままに降下を始める。ファルシェはそれが地面へ触れる前に受け止めると、割ってしまわぬようそっと近くの木へ立て掛けて息をついた。
「手遅れであると解っていても。割り切るのは……私には少々難しいようです」
 そう零せば、ほんの僅かに。
 クッキーの表面、苦悶の表情で固まるアリスの表情が心なしかほっとしたように柔らかさを帯びた――ような気がした。
 ファルシェは頷くようにゆっくりと瞼を綴じ、くるりと踵を返す。
 セピア色の国にそれを残して、彼は静かに帰路へつくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
死体は物でしかねえし、クッキーはクッキーでしかねえよぅ。見た感じタマシイはなさそうだし、ぶっ壊しちまっても問題ねえな。
瘴気ねえ。俺はまったく問題ねえさ。だてに《毒》と《病》の権能持っちゃいねえよ。眷属共にゃ体表に結界を張っておくか。
《獣・鳥・虫》を向かわせて、追加で…おいで、ちびども。ああ、ここにあるもの――猟兵はだめだが、あいつらはみィんな食っていいぜ。クッキーも肉も血も骨も。《過去》は消費されるものさ。
眷属どもが盾を破壊すりゃ、あいつらァ捷くなる。だがタイミングずらしてイナゴの群れがぶち当たンだ。遅かれ早かれ食い尽くされるさ。



 オウガ達が構える大きなクッキーの盾。その表面には、封じられたアリス達の表情が生々しい程にくっきりと輪郭を見せていた――が。
「死体は物でしかねえし、クッキーはクッキーでしかねえよぅ」
 そうけらりと言ってのけ、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はすたすたオウガの元へと歩き出す。要は、ひとの形をしただけの物言わぬクッキーを、クッキーとして見られるかどうかだ。割れた瞬間に悲鳴を上げるでもなく、オウガの手から離れようと元に戻らない『あれ』に、”タマシイ”が残っているようには見えない。

 ――ならば。
「ぶっ壊しちまっても問題ねえな」
 逢真はオウガ達が撒き散らした瘴気にも、彼女達が笑いながら掲げる盾の顔にも顔色ひとつ変えず、平然とした様子で前へ前へと進んでいく。
「おやおやぁ、正面から向かってくるとは〜……え?」
「……って、『コレ』効いてないんですぅ!?」
 彼の姿を捉えたオウガ達は思わずぎょっと目を見開くが、当然だ。

 パティシエ然とした少女の姿に見合わぬ蒸気銃は、恐らく昨日今日で彼女達に与えられた文字通りの付け焼き刃。仕組みも分からずただぽんぽんと撃ち出しているだけの毒が、病毒の神を蝕むなど有り得る訳が無い。
 しかし、オウガ達はそれを知る由もなく銃を次々撃ち続ける。
 もわりもわりと濃さを増していく『瘴気の蒸気』の中――逢真はくいと手を広げ、自らの『眷属』を喚び出した。

「と、追加で……おいで、ちびども」
 その言葉と共に現るは『獅鷲の王風』。
 吹き荒れる風がセピア色の草木を揺らし、その影や隙間を縫うように無数の小さな何かが飛び回る。逢真を包むように広がった蒸気は瞬時に四方へ払われ――そして。

 ぶわり。
 蒸気が晴れた視界を一気に埋め尽くす、結界纏った獣や鳥、そして虫。数え切れない程の数で現れた彼等が突進する勢いは当然凄まじく、彼女達がもつクッキーの盾などいとも容易く噛み砕いてしまった。

「……ひぃぃぃっ!?」
 目の前を覆う盾を失った彼女達が次に見たのは、夥しい数の『蝗』。
 年端も行かぬ少女の精神であれば、大抵はそれを恐れ怯えるものだろう。案の定オウガ達は蒼白の顔で震えていたが、それでも反撃をと――それが無意味だとも知らずに――素早く銃を握り直し、瘴気の射出をと構え始める。

 対する逢真は眷属や蝗達へ語りかけるように、やわらかな笑みで口を開いた。
「ここにあるもの――猟兵はだめだが、あいつらはみィんな食っていいぜ。クッキーも、血も、骨も」

 告げれば、獣の唸り声が低く響く。
 鳥の羽撃きが激しさを増す。
 小さな虫の羽音が、辺り一帯を震わせる。

 一瞬の間を置いて『彼等』が無防備なオウガ達へと飛び掛かれば。
「……いやぁぁぁぁああッ――」
 甲高い少女の悲鳴が、ほんの数秒でぴたりと止んで。
 眷属や蝗達がふっと何処かへ姿を消せば、そこにはオウガの姿も、あのクッキーも無く――ただただ、何もない剥き出しの地面だけが残されていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミア・ミュラー
いろんなオウガを見てきたけど、こういうやつは、特に嫌い。

銃から出てくる瘴気は危ないから、杖から風を放って吹き飛ばしちゃう、よ。敵のユーベルコードも粉を放つものだから、同じように吹き飛ばせばいい、かな。
わたしもアリスだから、たとえクッキーになっちゃっても、あのアリスは助けてあげたい、な。だから、横から回り込むように飛ばしたソリッドダイヤをオウガにぶつけて、【己が罪を思い知れ】を、使う。ん、クッキーにされたアリスたちは怖くて悔しかったと、思うよ。だからあなたに教えて、あげる。闇がオウガを覆って攻撃してる間に、わたしは近寄ってクッキーの盾を奪って離れる、ね。ん、後は気が済むまでやっちゃって、いいよ。



 平和だったであろう不思議の国を楽しげに壊し、犠牲となったアリスを冒涜するオウガ。今も尚その被害を広げ、犠牲者を増やそうとする姿に、ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)はほんの僅かに眉を顰めていた。
「……いろんなオウガを見てきたけど、こういうやつは、特に嫌い」
 感情も希薄に見える彼女だが、しかしその声色は言葉通りの明らかな嫌悪を帯びて響く。
 たとえクッキーになったとしても、同じアリスである彼等を助けてあげたい。その意志と共に長杖を握る手へ力を込めながら、ミアはオウガの方へと向き直った。

「クッキーにぴったりな子、発見ですぅ〜!」
 ミアの姿を捉えたオウガが、狂気を含んだ声でそう叫ぶ。
 そしてけらけら笑って銃を構えつつ、アリスの装飾がないクッキーを取り出して。
「さあ、そのまま大人しくしててくださいね〜!」
 オウガが歪んだ笑みで告げた直後、装飾なしのクッキーから放たれる甘い香り、そしてふんわりと漂い出した粉がミアの方へと流れ出す。同時にもう片手で銃の引き金に触れれば、香りと粉を加速させるように大量の蒸気が噴射された。

 しかし――その瞬間、ミアの持つ杖から広がるように強力な風が吹き荒れる。
 瘴気の蒸気も、クッキーの粉も、全て跳ね返すように。風はそれらがミアへ近づく前に遠くへと吹き飛ばし、何処かへと散らしてしまった。
「ぐぅっ……!!」
 オウガが思わず目を瞑った隙に、ミアは素早くクッキーの盾の裏へとソリッドダイヤを飛ばす。繰り出された打撃はそう大きなダメージではなかったが、ミアはその『一撃が当たった瞬間』を見逃さなかった。

 ――『己が罪を思い知れ』。
 その呪いが発動すれば、ようやく目を開けたオウガの脚が固められたように動かなくなる。
「なっ……動けない、ですぅ!?」
 それでもじたばたと上半身で抵抗するオウガにふっと近づき、ミアはクッキーの盾――そこに封じられたアリスを奪い取って。
「クッキーにされたアリスたちは怖くて悔しかったと、思うよ。だからあなたに教えて、あげる」
 オウガが顔を顰めて首を傾げる中、数歩離れたミアはオウガの足元を見遣って頷く。
「ん、後は気が済むまでやっちゃって、いいよ」
「……何、です?」
 恐る恐る真下を見たオウガは、びくりと肩を震わせた。

 ――やだ、こわい、こわい。なんで、なんで。
 ――しにたくない。クッキーになっちゃうなんて、いやだよ。

「ひっ……!!」
 己がクッキーへと変えたアリス達が脚へとしがみつき、泣き叫びながら上へ上へと登ってきている――そんな光景を、『幻覚』を見てしまったのだ。
 そして甘い香りがふわり、漂ったかと思えば。
 アリス達の幻覚は『自分がクッキーへと変えられていく幻覚』へと変わる。固まり脆くなっていく手足、呼吸が浅くなる肺。アリス達が味わったであろう苦しみを再現した幻覚の中で、オウガは悲痛な声を漏らすことしか出来なかった。
「嫌……嫌、ごめんなさい、やめて……!!!!!」
 やがて、オウガは突如ばたりと地面へ倒れる。その身はクッキーに変わってこそいなかったが、幻覚によって精神が崩壊した所為か――既に骸の海へと還り始めていた。

 ミアはクッキーの盾、もとい救い出したアリス達を安全な場所へ並べて小さく息をつく。
 もう元に戻れないとしても、せめて安らかに。セピア色の木の下でそっと目を瞑り、彼女はゆっくりと踵を返すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月02日


挿絵イラスト