2
山に棲む鬼、里に住む鬼

#サムライエンパイア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア


0




●山中の洞穴にて
「おっかあ、外に出たら駄目だ。鬼に喰われるぞ!」
「大丈夫だ、洞穴の入り口の雪を持ってくるだけだ。おみちを冷やしてやんねえと」
 おさとは唇を噛んで、母の疲れた背中を見送った。
 視線を落とせば、熱で赤い顔をした妹の苦しげな寝顔。

 ――どうして、こんな目に遭わなければならないのだろう。
 村の人たちは、どうして急に自分たち一家を疎んじるようになったのだろう?

 おさととおみちの父親は、一昨年の冬に死んだ。マタギだった父は、村を襲った狼と戦って命を落としたのだ。
 そんな死に方だったから、村の人たちは母娘だけになった一家を様々に助けてくれた。畑を手伝ってくれたり、反対に手間仕事を回してくれたり……。
 だから、貧しいながらも母娘3人でなんとか暮らしてこれた――のに。
「突然、村八分にするなんて……」
 今、母子がいるのは村の奥から登った山中にある洞窟だ。村人たちに追いやられたのである。
 しかもこの山には、ここのところ鬼の群がうろついているという噂なのだ。
 洞窟の中には最低限の寝具と煮炊きの道具、小さな焚き火しかない。
 おさと達のお籠もりは節分までと言い聞かせられているが、あの調子ではどうだかわからない。食料は3日に一度届けられるので、飢えることだけはないだろうが……。
『お前たちは鬼遣らいの鬼になるのだ。お前たちが村にいては村が穢れる。だから節分まで、鬼の山に籠もるのだ』
 そう命令した庄屋の冷たい無表情な目が忘れられない。
「どっちが鬼だよ……」
 おさとは冷たい手を、妹の熱い額に載せた。

●グリモアベース
 集った猟兵たちを前に、月殿山・鬼照(不動明王の守護有れかし・f03371)が語り始めた。
「サムライエンパイアでは、もうじき節分という年中行事が行われまする」
 節分は立春の日。冬から春になるとされている日だ。季節の変わり目の日には悪霊が沸くとされ、それを追い払うために『鬼は外』などど唱えながら、炒り豆を撒くのが一般的だ。
「悪霊の象徴として、鬼が追い払われるのでござるな」
 鬼照は苦く笑った。
「今回貴殿らに行って頂くのは、とある小さな村」
 その村でも節分は例年、庄屋の肝いりで豆まきを行ってきた。鬼役を立てることはせず、村や各家の鬼門などに豆をまき、魔除けのお守りを飾る等のごく普通の穏健なやり方で。
「されど、今年は鬼役を立てると庄屋が言い出しまして」
 鬼役に仕立てられたのは、母娘3人の一家だという。
「この一家の主は村に尽くして亡くなったのでござる。ですからその恩があり、残された妻子は村人に様々助けられ、何とか暮らしていたのですが」
 しかし新年になった頃から、徐々に村八分にされるようになり、
「鬼役は穢れているから節分まで山に籠もれと、とうとう山中の洞穴に追いやられてしまったのでござる。しかもその山に鬼の群が現れたという噂もござる」
 鬼照はそこまで言うと、スッと目を細めた。
「この村人の突然の変貌と鬼群の出現、オブリビオンの仕業と思われまする」

●1章:隠密行動で洞窟の情報を得よ
「すぐにでも母子を助けに行ってやりたいところでござるが、洞窟の場所は村人の一部しか知りませぬ」
 元々マタギや木こりの避難用洞窟なので、山仕事に従事している者しか場所は知らないのだ。
 しかも村人は母子に関わることを避けている……というより怖れているようで、猟兵とはいえ余所者に洞窟の場所を教えてくれそうもない。
「そういうわけですので、此度はまず、隠密に情報収集をしていただきたい」
 村内にオブリビオンやその手下が潜んでいる可能性もあるので、余計に隠密行動が望ましい。
「洞窟の情報収集の過程で、母子の村八分の状況や、その理由も見えてくるかもしれませぬ。山中の鬼群の情報も、得ておきたいところ」
 村人の中でも山仕事をするものや、特に庄屋の家の者には、特に注目すべきだろう。
 急がば回れだ。気の毒な母子を救出するためには、しっかり情報を集めなければ。
「では早速、村の近隣へと貴殿らをお連れ致します」
 鬼照の掌で、グリモアが光り出す。
 見えてきたのは、うっすらと雪をかぶった白い山と茅葺きや藁葺きの家々。
 さほど雪の多い地域ではなさそうだが、それでも山の洞穴はさぞかし寒かろう――。


小鳥遊ちどり
 猟兵の皆様、こんにちは。
 今回はサムライエンパイアでの節分のお話です。

●シナリオの最終目標
 村の異変を引き起こしているオブリビオンの撃破。

●1章の目標
 隠密行動で村民から情報を得る。
 この章で出来るのは村内での情報収集だけで、まだ母子を探しに山に入ることはできません。
 庄屋の家や、山仕事に従事している者は、既に鬼照が特定していますので、情報収集の隠密行動からプレイングをかけて大丈夫です。
 村で一番偉い人は庄屋です(小村なので代官等の役人は常駐していません)

●シナリオの構造
1章:隠密行動による情報収集(冒険)
2章:1章で得た情報を元に洞窟を目指しながら、鬼の群を掃討する(集団戦)
3章:ボス戦

●洞窟にいる一家について
母:おえん。気丈な美人ですが、少し影がある感じ。
姉:おさと。12歳。歳の割にしっかり者。
妹:おみち。8歳。母と姉が大好き。

 少々心に痛いストーリー展開を想定しておりますが……それも皆さんのプレイング次第です。どうぞよろしくお願い致します。
90




第1章 冒険 『壁に耳あり障子に目あり』

POW   :    密談の何時間も前から潜入しておく、人間の限界に挑戦しありえない体勢で情報収集

SPD   :    人の死角を突いた隠密、読唇術等の技術で情報収集

WIZ   :    サムライエンパイアではありえないオーバーテクノロジーや魔法で情報収集

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナハト・ダァト
WIZ重視

こういう行動でハ、透明化が適しているだろウ
私の外見ハ少々不気味なのデ、目立つことは避けないとネ

武器改造、情報収集

身体から触手を生み出しテ、聞き取らせよう
気になる言葉ハ世界知識から解明出来たり、ヒントにする事も出来るだろウ

怪しい対象を調べる時ハ
【六ノ叡智・美麗】の出番ダ
UCの特性を利用しテ、対象にした者の心の声や深層心理が調べられルからネ

聞き取れそうであれバ、村全体が例の家族を心の奥ではどういう風にとらえているカ、聞けるだろウ
…まア、どういう結果でもとる行動を変える訳ではないがネ
理解しがたい風習ダ。もっといイ発展の方法があるというのニ
勿体無い事をするヨ

※アドリブ歓迎


ハヤト・ノーフィアライツ
SPD分野で。
夜を待って、目立たない色のマントを着て、【迷彩】【目立たない】で木の上や屋根の上に伏せて隠れつつ、情報収集をするぜ。
【クライミング】【ジャンプ】【ロープワーク】を駆使して、必要であればファルコンフラップを使って登ろう。

まぁ、空き家があるなら、空き家に忍び込んでもいいかもな。

場所が決まったら【視力】【暗視】【失せ物探し】【聞き耳】で探索だな。
怪しげなところが見つかったら、そっとそっちに近づいてみるかね…

バレた時にゃあ、【ダッシュ】【ジャンプ】に【ファルコンフラップ】を駆使して飛んで逃げるかな。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、まぁ鬼が出んだろうけど。



 村の近隣への転移が完了するなり。
「私の外見ハ少々不気味なのデ、目立つことは避けないとネ」
 ナハト・ダァト(聖泥・f01760)は、
「AL」
 ユーベルコード【四ノ叡智・慈悲】を発動した。白い光を放つ漆黒の体がみるみる透明になっていき――僅かの間に、彼のいた場所には、うっすらと積もった雪の上に足跡が残っているだけとなった。
 ナハトは雪の無いところを選びながら村へと入っていく。
 冬ということもあり、村内の人気は少ない。田畑でやらねばならぬことも少ない冬、この村では藁細工や木工の内職に精を出す家が多いという。
 洞穴の一家の燐家へと忍び寄ったナハトの方を、牛小屋から農耕牛がうろんそうにちらりと見た。動物ならではの鋭敏さで、微かな気配を感じたのかもしれない。
「(静かニしていてくれヨ……)」
 牛を遠巻きにしながらナハトは薄い板壁に身をよせ、聞き耳を立てた。
 トントン、と藁を叩く音と、ボソボソとした男女の話し声が聞こえてくるが、内容までは聞き取れない。
 ナハトは身体からにゅにゅにゅ……と触手を伸ばし、その先を聴覚器官とした。もちろん触手も透明である。その触覚を板壁の隙間から家内へと滑りこませる。
「……寒いのう」
 中年の女の声が言った。触覚の感度は良好である。
「ああ、寒いのう」
 同じ年頃くらいの男の声もした。夫婦だろうか。
 囲炉裏で粗朶がパチパチはぜる音も聞こえてくる。
「山はもっと寒かろうのう……なあ、山の洞ってのはどのへんにあるんだい?」
「大滝の裏手に入った大岩の陰じゃが……口では説明できん。説明できたとしても、絶対に行かせんぞ」
 男の声がとげとげしい。
「節分が過ぎるまでは、山の洞には行っちゃいかん。お前まで穢れを背負うぞ」
「わかってるよう……でもさあ」
 はあ、と女は溜息を吐いた。
「ナルホド」
 ナハトはひとり頷いた。【六ノ叡智・美麗】をも使って村人たちの内心を探ろうと考えていたが、この夫婦の会話にはその必要もない。
 村人たちは、洞穴の母子に多少なりとも罪悪感を抱いている。
 そして彼女らが穢れを背負っていると思っている――。
「――モシクは、思ワされてイル? どちらニしろ理解しがたい風習ダ。もっといイ発展の方法があるというのニ、勿体無い事をするヨ……まア、何れニしろ、作戦を変えるツモリはないがネ」
 ナハトは静かに触手を引っ込めると、もう何人かの村人の声を聴いてみようと、再び動きはじめた。

日のあるうちは件の母子の家……つまり一時的に空き家……に潜んでいたハヤト・ノーフィアライツ(Knight Falcon・f02564)は、とっぷりと暮れてから行動を開始した。
まずは、
「隼の名は、伊達じゃないぜ! 空でだってやりあって見せるさ!」
【ファルコン・フラップ】で空中を何度も蹴り、急な藁葺き屋根へと上がった。そこからは、迷彩等で自らの姿を闇と雪景色に紛らせ、クライミングやロープワークの技術を駆使して、屋根から屋根へと村の空を駆け回る。
 真冬だし、そうでなくとも山村の夜は早い。全く人気は見当たらない。気をつけねばならぬのは、むしろ家畜や番犬などの動物たちと、村に潜んでいるかもしれないオブリビオン。
 ハヤトは、昼のうちにナハトが目をつけてくれた――体力の限界まで透明で村を歩き回ってくれたのだ――ある家の屋根にとりついた。件の母子の次女、おみちと同じ年頃の娘がいる大家族の家だ。夜に家族が揃った団らんの場ならば、村人の本音が聞けるかもしれない。
 茅葺きの急角度の屋根に降り立ったハヤトは、恐れ気もなく身を乗り出し、囲炉裏の煙が上がってくる煙出しから、聞き耳を立てた。狙った通り夕飯時らしい。煙と一緒に味噌の煮える香りが漂ってくる。
 そうして寒さを堪えながらしばらく待っていると――。
「……お母ちゃん、おさとちゃんとおみっちゃんとは、いつ会えるの?」
 娘の声が件の母子について言及した。
「節分に会えるって言ってるだろ」
 母親らしき声がつっけんどんに答える。
「どうして山から下りてこないの? 2人と遊べなくてつまんないよ」
「あの一家は穢れを背負ってるからだよ。お父ちゃんが恐ろしい亡くなり方をしたろ」
「けがれってなに?」
「穢れってのは……」
 母親が言いよどむ。子供にどう説明していいか迷うのだろう。
 見かねたらしい老爺の声がした。
「祟りみたいなもんだな。その祟りが村全部に広がらないように、邪気を払う節分まで、山に籠もってもらってんだ」
「たたり? ……おみっちゃんとおさとちゃんは、たたられてるの?」
 泣きそうな子供の声。
「うーん……じいちゃんはそうは思わんのだけんどなあ」
「爺ちゃん、それ以上は口にすんな」
 老爺の声を壮年の男の声が遮り。
「庄屋さんがそう言ってんだから、そうなんだ。オレらがつべこべ言うこっちゃねえ」
 ピシャリと会話を封じた。
「ふうん……やはり庄屋が言い出したことなのか」
 ハヤトは小雪が降り始めた中、小さく唸った。
「こりゃあすぐ皆に知らせた方がよさそうだな」
 再びユーベルコードを発動し、技能をフル活用してハヤトは宙を駆けた。自らが所属する【特務情報調査局】のメンバーはじめ、仲間たちに最新情報を知らせるために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎
心情:マタギの父…か、これも縁という物かの。
それとも…お主が呼んだのかの?
懐かしき我が飼い主殿…柄にもなくしんみりしてしまったのじゃ。
母娘3人なんとかして見せようではないか。これも【恩返し】のうちよ。
さぁマタギ共…案内してもらうからの?

行動:疲労をいとわぬ【覚悟】で【陽炎の術】を使いマタギや山仕事をしている者の中から情報を集めます。
【世界知識】【第六感】【野生の勘】で聞いているの会話の中で隠語に使われていそうな言葉を【見切り】ます。
可能であれば食事を持っていく役目の者を尾行します。


江戸川・律
ネリッサのサポートとして参加
◆罠使い 情報収集 言いくるめ コミュ力 使用

ちぐはぐなんだよな
庄屋の想定できる目的と家族が置かれている状況が合って無いんだ
3日間に1度の食糧と危険な山に届けれるだけの技量ね
その辺りから切り崩してみるか

至急に狩猟肉が必要になり買い付けに来た商人の体で
今は無理と断られるのを承知の上で
マタギの中で
特に一家と仲の良かった人の元を訪ねます

それとなく外に置いてある
道具の使用具合
保存食の量などに目をやり
シレっとした顔でカマをかけます

「ここだけの話ですが…」
「なんで庄屋様に禁止されているのに、鬼役の家族に食料を?」
「もしかすると何かお手伝い出来るかもしれませんよ」

アドリブ歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
【SPD:隠密に情報収集】

SIRD所属で参加
同所属員と密に情報共有

事前に幕府に協力要請し
一般的な行商人の着物・背負行李と
良い銘柄の強いお酒を準備。

現地に着き次第、
旅の行商人を装い村を遠目に監視
山仕事従事者の中から子供の居る人間を狙い
村から離れ山際等で休憩中一人になったところで
偶然を装い接触。

自身も休憩装い雑談しつつ頃合いを見て
自分は下戸だけど良ければと酒を勧め、
酔いが回ってきたら、最近この村の庄屋さん変に厳しくなったとか、
この辺に鬼が出るとか。近辺の街で噂になってると伝え。
貴方も大変なんじゃ?と同情するフリで様子を見ます

その後は普通に立ち去りつつ物陰へ
影の追跡者召喚し念のため動きを監視します



 夜が明けて。
「ちぐはぐなんだよな……」
【特務情報調査局】江戸川・律(摩天楼の探求者・f03475)は、商人を装った姿で村へと足を進めながら呟いた。
「俺が想定する庄屋の目的と、家族が置かれている状況が合って無いんだよな……」
「ああ、一家を迫害しておきながら、餓死させたりするつもりはないようだ。この矛盾が、切り崩し処なのかもしれないのう」
 何の姿もないところから応じる声がした。蜂蜜院・紫髪(怠惰な蜂蜜屋・f00356)だ。彼女は陽炎の術で身を隠し、同行している。
 2人が向かったのは、洞穴の一家とも関係の深いマタギの家だ。亡くなった主人の仕事仲間だったという。
 紫髪は、毛皮で窓を防寒した家を前にして、ふと感慨にふける。
「(マタギの父……か、これも縁という物かの。それとも……お主が呼んだのかの? 母娘3人なんとかして見せようではないか。これも【恩返し】のうちよ)」
 だがすぐに、紫髪は恩人の思い出としんみりした気分をふりはらい、商人のなりをした律に続いて家内に滑り込んだ。
 律は、至急に狩猟肉が必要になり買い付けに来たというテイで、巧みにマタギの家の土間に入り、上がりかまちへと腰をかけた。
「肉を買ってくれるってのは、ありがてえ話だが」
 毛皮のチャンチャンコを羽織ったマタギは困った顔で。
「今はなかなか猟に出らんねえんだよ」
「おや、雪はあっても、天候はさほど悪くないんじゃ?」
 マタギは言い渋っていたが、ついには山に鬼群が出るという噂があるのだと話してくれた。
「わしはまだ目にしたことはねえが、何人もが赤い鬼が森をうろついてるのを見てんだ」
「どなたか襲われたりしたんですか?」
「幸いそれはまだ無いんだがな」
 律はさも深刻そうに相づちをうちながら、紫髪が土間にかけられた簑笠や雪靴、そして鉈や鉄砲などを観察している気配を感じていた。マタギ道具なら彼女が詳しい。確かにここ何日も使っていない様子である。
「だからよ、ある程度頭数揃えて武装してじゃねぇと、おっかなくて山に入れねえのよ。だから急に言われても困るんだ」
「そんな事情がありましたか……ところで、あの方はどうなさってます? まだ若いが腕利きのマタギの方、市でも全然見かけませんが」
 と、さりげなく洞穴の一家の主の話を出す。
「ああ……吾吉(ごきち)のことか。ヤツなら一昨年死んだよ」
「えっ」
 と、律は大仰に驚いてみせる。
 亡くなった主は吾吉というようだ。
 マタギが話してくれたところによると。
 一昨年の冬はいつになく雪が深く、狼も山で得物を獲るのが難しかったようで、群からはぐれた若い雄が村まで下りて来て、牛や鶏を襲った。その狼と吾吉は死闘を繰り広げ、相打ちのようにして亡くなったという。
「ほう……そんなことが。ならばご家族にお悔やみをして、お参りさせてもらいたいですね。吾吉さんのお家はどこでしょう?」
「う……いや、今は……行っても家族に会えねえんじゃないかな……」
 マタギはもぞもぞと言いよどんだ。
 それはそうだ。遺族である妻子は山に封じられているのだから。
 そこは敢えて深入りせず、律は梁に吊され、囲炉裏で燻された干し肉を見上げ。
「そんな状況なら仕方ない。干し肉だけでも少し分けてもらえますか?」
「ああ、それは構わねえよ。ウチで食べる分だけ残してもらえれば」
 律は、マタギ仲間が母子に食料を届けているのでは、と、うっすら予想していたのだが、保存食である干し肉を快く分けてくれるということは、少なくともこの男ではないらしい。紫髪がこっそりと台所と納屋を見に行ったが、他の保存食も不自然に減っている印象はない。
 それでも新しく得た情報はたくさんある。
 少々の干し肉を買い上げた律は、紫髪と共に、商人であるテイを崩さぬまま仲間の元へと急ぎ戻る。
「どうだ、何か気になる情報はあったか?」
 小声で紫髪に尋ねる。
「色々有意義じゃったが、特に鬼の群を怖れて、マタギですら単独では山に入れないというあたりが」
「だよな……食料を運んでるのは、マタギたちではなさそうだ」
 先に仲間たちが得た情報によると、件の洞窟は口で説明しただけでは辿り着くのは難しい場所にあるという。しかも百戦錬磨のマタギたちも、集団で武装しなければ山に入らないほど、鬼を怖れているようだ……では、いったい誰が洞穴まで食料を届けているのか?


【特務情報調査局】灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)は、行商人を装い、村へと通じる道でひとりの中年男性と話し込んでいた。この男性は炭焼きで、町のお得意さんに炭を卸してきた帰り道だ。休憩中のところを偶然を装って通り掛かり、話しかけたのだ。
「私は下戸ですが、良ければ一杯どうぞ。良い銘柄のお酒なんですよ」
「おお、姉さん、すまないねえ、わっしゃ酒には目がなくて」
 彼女は昨日から村の監視を遠目におこなってきており、更に仲間たちの集めた情報のお陰で、この炭焼きの家族構成や、酒好きなことまで調査済みなのである。
 酒をどんどん勧め、炭焼きが良い気分になってきたところで、灯璃はじわじわと懸案について切り込みはじめた。
「あの、奥の山に」
 すっと雪を被った山を指す。
「鬼が出るというのは本当なんです? 町で噂になってましたよ」
「えっ、村の外で噂になってんのか。そりゃ参ったなあ」
 酔って口の軽くなった炭焼きが言うところによると、まだ人的被害は出ていないが、鬼の姿を遠目で見かけた者は何人もいるという。
「だからわしの仕事も上がったりでなあ。山には仲間となるべく大勢で入るようにして、さらに鉄砲持ったマタギについてきてもらってんだが、ヤツらも渋ってな」
「それは、大変ですね」
 灯璃はさも同情したように。
「それもあるのかしら、最近、この村の庄屋さん、変に厳しくなったということも小耳に挟んだんですが、どうなんです?」
「うーん、厳しくなったっつーか、信心深くなったっつーか……」
 信心? それは初耳だ。
「信心もあんまり過ぎると、周りに迷惑ですものねえ。何かきっかけがあったんでしょうか?」
「この冬から庄屋さんのとこに入った女中がな、お絹さんていうえれえべっぴんなんだけどよ」
 と、炭焼きは嬉しそうに笑って酒をまた一口飲み。
「そのお絹さんが、巫女さんの修行をしたことがあるとかで、卜占をよくするんだ」
「卜占……占いですか……!」
 もしやその占いに庄屋が取り込まれ、今回の事件につながっているのでは……!
 またひとつ事件につながる手がかりを得たと感じた灯璃は、その後は当たり障りない世間話をすると、炭焼きとは反対方向の町の方へとさりげなく立ち去った。
 念のため、影の追跡者を召喚し、炭焼きにつけることは忘れなかったが。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ユト・リーィング
狐の姿になり密談の前から潜む。狩りをする狐はすごく機敏なんだぜ?軒下にでも隠れるか・・・・・・野生動物がいても不信には思はないはずだからな。
【野生の勘、第六感】をときすませ、狐も匍匐前進だぜ。
【殺気】を少しでも感じたら【女神の祝福】で危険かどうか判断、危険なら少し離れて聞き耳するとするか。
真下にいるとさすがにバレるかも知んねぇから油断大敵だよな。
聞いた内容は密会が終わったあとに安全な場所で人姿に戻って他の冒険者と協力するぜ。


シュシュ・シュエット
村の様子も気になりますが、おみちさんのお体の具合も心配ですね……っ!
オブリビオンさんを倒して一日でも早く村へ帰れるよう、がんばりましょう。

村内では猟兵と疑われぬよう、念のため*変装しておきましょうっ。
もし身分をお尋ねされても「お薬の行商人のお弟子さん」と弁明できるような身なりにして、
かんたん*医術も頭の片隅に置いておきます。

移動中も気を配り、庄屋さんのお屋敷の近く……人目につかないような場所へ着いたら、
【縁の下の力持ち】のネズミさんたちに庄屋さんのお屋敷へ忍び込んでいただき、密談を梁で盗み聞きしてもらいますっ。
その後はネズミさんの*お話をお聞きし、得た情報は他の猟兵の皆さんと共有しましょうっ。



 猟兵たちは、ここまでの調査で、母子の迫害行為の大元は庄屋のところにあるようだと目星をつけた。
「おみちさんのお体の具合も心配ですし……っ! ここはまずわたしに行かせてください!」
 と、意気込むシュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)は、薬の行商人スタイルで庄屋の屋敷を訪問した。薬屋の弟子という設定だ。
 一見なので、さすがに主人には面会叶わなかったが、彼女の可愛らしさにほだされた女中たちと厨房で話すことができた。
 入れてもらったのが厨房というのは、彼女の目的にとってはむしろ好都合。
「あたしらじゃ、高いお薬は置けないけど、あかぎれに効く軟膏をもらっとこうかね」
「ありがとうございます! 1包みにつき1つ、おまけに生姜糖をおつけしますね。風邪気味の時とかに白湯に溶かして飲んでください。温まりますよ!」
「あんた小さいのによく勉強してるねえ。おまけに商売上手だ」
「はい、医術の勉強もしてるんですっ」
 彼女は簡単なものなら【医術】のスキルも持っている。
 女中たちと楽しく語らい、少々の商売をもして、シュシュは庄屋の家を辞した。
 但し、去り際に、こっそりと。
「大丈夫、信じていれば叶えられるわ」
【縁の下の力持ち】を発動し、数多くのネズミを屋敷中に放った。
「ネズミさんたち、梁の上や床下で、しっかりお話を聞いてくるのですよ……!」

 同じ頃、ユト・リーィング(蒼き鎧の剣豪妖狐・f00959)は、庄屋の屋敷の床下へと忍び込んでいた――狐の姿で。
「狩りをする狐はすごく機敏なんだぜ」
 それでも、もしオブリビオンが屋敷内に入り込んでいたら、と考えると、居間や主人の寝室などの真下に待機するのは避けた方がいいだろう。ユトは屋敷の外れの廊下の下らしき空間に身を落ち着けた。怪しい密談や行動が屋敷のどこかで行われたら、シュシュが放ったネズミが知らせにきてくれるはずだ。
 我慢強く待ち続け……また日が暮れた頃。
 チュウチュウ……チュウ……。
 やってきたのは可愛らしいネズミ。
「おう、きたか」
 誰にも発見されることなく床下に潜み続けたユトであったが、それでも野生の勘や第六感を研ぎ澄ませ、用心深く匍匐前進で奥へと進む。
 ネズミに連れられていったのは……。
「旦那様、お茶でございます」
 床越しに涼しげな女の声がした。
「お絹か、そこへおいてくれ」
 そして応えたのは初老の男の声。これが庄屋の声だとすると……。
「(お絹……噂の卜占をするという女中か!)」
 ユトは耳をピンと立てた。
 女の声は言う。
「明日また、山の洞へ食料を届けに参ります」
「そうか……ご苦労なことだな」
「いいえ、大したことではございません。節分までにあの一家に倒れられるわけにはいきませんもの」
「(食料を届けていたのは、この女中だったのか……!)」
 ユトは思わずばさりと狐の尻尾を振るわせた。
「しかしお絹」
 男の声が心配そうに続く。
「大丈夫なのか。お前ひとりで山に入って、鬼に襲われたりしないのか?」
「ホホホ、大丈夫でございますよ。巫女の修行は伊達じゃありません」
「(巫女の修行……この女、破魔の力でも持っているというのか?)」
「それに洞穴に鬼除けの結界を張れるのも、あたしだけでございますし」
「(なるほど結界か。それで洞穴の中まで鬼が入ってこないのだな)」
――その時。
 ダンッ!
 頭の真上が強く踏み鳴らされた。
「どうした、お絹!?」
「(しまった、気づかれたか!? 我が女神よ……先を見る力を与えたまえ……っ!)」
 ユトは、咄嗟にユーベルコードを発動し、ここは獣のままで逃げるに如かずと判断すると、コーーーーン、と狐の声で一鳴きし、脱兎の如く床下から飛び出した。
 
 気づかれてしまったろうか、と怖れたユトであったが、天井裏で様子を窺っていたシュシュのネズミの報告によると、お絹は怪訝そうながら、
「狐が入り込んでいたようですわ」
 などど言っていたようなので、とりあえずは大丈夫であろう。
 それにしても、獣に化け、あれだけ気配を殺していても気づくとは――お絹という女中、ただ者ではあるまい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ネリッサ・ハーディ
聞いたところ、どうやらかなり排他的な村の様ですね。
その様な村人たちに直接話を聞いても、情報収集としてはあまり効率的とは言い難いでしょう。
そこで、あえて村人達とは接触せず、ある程度距離を置いて庄屋の家等を視界に収められて、村人の目につかないポイントを選び出し、そこを拠点に村人の動き等を監視します。監視任務は過去の経験から、お手の物です。
事前情報では3日に1度、食料を届けられるとのことですから、村人達の動きからその食料を運搬する役割の人間を割り出し、食料を届けに行くのを察知したら、夜鬼を召喚、そのまま追跡させて母娘がいる洞窟を割り出します。

※アドリブ・他PCとの絡み歓迎


ラザロ・マリーノ
【SPD】
どこの世界にも似たようなことはあるが、オブリビオンの仕業なだけマシ…なのかぁ?

村の決定で隔離されてるってんなら、その食料は村共有の食糧庫か庄屋から出てるんじゃねえかな?
だとしたら村から山入る道で待ち伏せてれば、食料を運んでる奴が通るはずだ。

構造可変体鱗による【迷彩】で周囲の自然に溶け込んで、【忍び足】で後を尾けるぜ。
猟師よりは木こりのほうが尾行が楽なんだけどな…まあ何とかなるか!



 ネリッサ・ハーディ(ナイフ・アンド・コーツ・f03206)は、村人の目に止まらぬよう、村の外周を回り込むかたちで、奥の方……問題の山への登り口へと向かっていた。
 彼女は、排他的な村人に直接話を聞くのは非効率だろうと、少し距離を置いた大木の上から、根気良く監視を行っていたのだ。監視任務は過去のキャリアからお手の物である。
 同時に【特務情報調査局】のメンバーはじめ、仲間たちが集めてきてくれた情報をまとめることもしえいた。
 そして、食料が洞穴へと運ばれる日、ネリッサは重点観測ポイントのひとつである庄屋の家から、風呂敷包みを背負った女が山の方に出かけていくのを発見したのだ。
 ネリッサは、その女を追いかけることにした。
 女はやけに足が速く、ネリッサが山の登り口に到着した時には、すでに山道に消えていたが慌てることはない。
ザッ。
「ネリッサ」
 登り口脇の茂みが揺れ、姿を現したのはラザロ・マリーノ(ドラゴニアンのバーバリアン・f10809)。彼は、いずれ食料を運ぶ者が通るだろうと、構造可変体鱗による【迷彩】で周囲の自然に溶け込み、この登り口でじっと見張りをしていたのだ。
 当然、今登っていった女も見ていた。
「ラザロさん、山へ入っていったのは、やはりお絹でした?」
「ああ、お絹だった。皆の調査通りだ」
 猟兵たちはここまでの調査結果から、庄屋の家の女中、お絹が事件の大元ではないかと推理していた。

 つまりは、こういうことではないかと――。
 巫女の修行をしたことがあるという触れ込みで、お絹が庄屋の家に入り込んだのが冬のはじめ。
 すぐに美貌と卜占の腕で、庄屋はじめ家の者を操りだした。
 庄屋の家をコントロール下においた上で、件の一家が『穢れている』という託宣を下し、庄屋を通して村人たちをも操り、村八部がはじまったのが新年すぐ。
 そしてついには『穢れを祓うために、節分の鬼役をさせろ』『それまで山に籠もらせろ』と言い出して……。

「どこの世界にも似たようなことはあるが、オブリビオンの仕業なだけマシ……なのかぁ?」
 ラザロはそう吐き捨ててから、真顔で戦友を振り返り、
「お絹は何のためにこんなことをしている? そして最終的には何がしたいんだ?」
 問われてネリッサは首を振り。
「それはまだ分かりませんね。とにかく今は、洞穴を見つけて一家を助け出さねば……偉大なる深淵の主の下僕よ、我が召喚に答えよ」
 ネリッサはユーベルコードを発動し、夜鬼を召喚した。極めて発見されにくく、ネリッサと五感を共にする存在である。
 夜鬼は命令されるまでもなく、即座にお絹を追っていった。
「俺が尾行してもいいんだぜ」
 ラザロがちょっと悔しそうに夜鬼を見送った。
「そうおっしゃらず。お絹はただ者ではないでしょうから、夜鬼にやらせるのが無難でしょう」
 ラザロもメリッサも、この場にいない仲間たちも口には出さないが、お絹はオブリビオンかもしれない――と考えている。今の時点では、猟兵自らが接近しないにこしたことはない。
 そこでメリッサが思い出したように、
「ラザロさん、山の鬼をご覧になったとか」
「ああ」
 今朝のこと、どうしても焚き付けが足りなくなったのだろう、農家の夫婦が山にやってきて、登り口から少しだけ登ったあたりで急いで粗朶を拾っていったのだが……。
「心配で木の上から見守ってたのさ。そしたら遠くに、3体の鬼がいて」
 2人は気づかないまま帰っていったが、赤鬼は夫婦を見張っていたようだった、とラザロは言った。
「襲ってくる気配はなかったのですか?」
「大分遠かったからな。でも近づいたらわからんぞ」
「洞穴に近づいた者だけ襲うよう、コントロールされているのかもしれませんね」
 今まで村人に人的被害が出なかったのは、冬の山は比較的見通しがいいので鬼の姿を見つけ易く、気づいたらすぐ逃げていたからかもしれない。
 鬼群を操っているのも、もしかしたらお絹なのではないか。だから彼女だけは鬼を怖れることなく洞穴に通えるのではないか……猟兵たちはそうも考えている。
「あ……夜鬼がお絹においついたようです」
 メリッサが遠い目をした。
「それはよかった。このまましっかり追ってくれ」
 母子がいる洞穴までもう一歩だ……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

寺内・美月
共同参加【SIRD】
・事前にこの村を管理する藩から、対象の村について見識がある『老』武士を一人参謀役として連れてくる(老武士には先に軟禁されている親子の事を話す)。
・一応『戦闘団召喚』を発動し、20人程の霊を甲冑姿の騎馬武者に変装させる(霊は村の外で待機)。
・入村するときは『【将軍直轄の伝習隊】の鬼退治』として大義名分を掲げる。
・先ず庄屋に会って老武士とともに鬼の話を聞く(鬼退治を拒否させないように『天下自在符』を見せつつ道案内等の支援を取り付ける)。
・山師に道案内の支援を頼みつつ、山での遭難時の目印や拠点を聞き出す(村人にもさりげなく聞き込みを行う)。



 その少し後。
 寺内・美月(地獄雨の火力調整所・f02790)は、作戦開始時から【特務情報調査局】をはじめとする仲間たちとは別行動を取っていた。
 彼は、この村が属している藩の老武士を城下より伴い、庄屋の屋敷を訪れていた。老武士はこの地域の役人をしていたこともあり、庄屋や村についてある程度の見識を持っている。
 武士は、下座でかしこまる庄屋に、
「こちらの猟兵殿の話によると、奥の山に鬼群が出没しておるとか。奇しくも現在、将軍直轄の伝習隊が、演習のため当藩を訪れておる。この際、演習を兼ねて鬼退治をして頂こうと思うのじゃが」
 村の外には20人ほどの甲冑姿の騎馬武者が控えているが、実は美月のユーベルコード【戦闘団召喚】による霊体である。
「その際には、案内に山に詳しい者をつけてもらいたい。マタギや木こりなどな」
 武士にしゃべらせながら、美月は、お上からの要請なのだから断れないだろう? とばかりに、これみよがしに天下自在符をちらつかせた。
 だが。
「はっはっはっ、何をおっしゃいますか、加内様ともあろうお武家様が鬼退治などと、おとぎ話のようなことを」
 庄屋はこともなげに笑い飛ばした。
「なっ……何を笑うか」
「確かに村には鬼の群が山にいるという噂がございます。しかしそれはあくまで噂。今のところ村の者が怯えているだけで、何の被害も出ておりませぬ。おそらく冬籠もりしそこねた熊を見間違えたのではないでしょうか」
 ううむと、武士……加内は唸り、ちらりと美月の方を見た。加内も鬼群が突然沸いたなどという話を、いまひとつ信じ切れていないのだろう。被害が出ていないので、切迫感がいまひとつなせいもあろう。
 と、そこに。
「失礼致します、お膳を用意致しました」
 涼やかな女の声がして。
「入りなさい」
 庄屋の声に応じて入ってきたのは――美しい女。雛には希な……いや、京や大阪、江戸にいても必ずや人目を引くであろう美形である。歳は三十頃であろうか。切れ長の瞳は怪しく光り、地味な着物に前掛けを締めた女中姿なのに、うなじからは隠しようもない色香が漂ってくる。
「(もしやこれがお絹……?)」
 もう山から戻ってきていたのか……ということは、仲間の夜鬼による尾行はお絹に気づかれなかったということで、おそらく洞穴の場所も確認できたのでは。
 クールな表情のまま、女を密かに観察する美月の前に、
「失礼致します」
 豪華なお膳が並べられた。もちろん加内の前にも。
「心ばかりでございますが、どうぞお召し上がりに……おお、そうだ」
 と、庄屋は給仕を始めようとする女を振り向き、
「この者は、件の山から戻ってきたばかりでございます。お絹、山に鬼はおったか?」
「鬼でございますか?」
 ホホ、とお絹は袖で口元を隠して上品に笑い、
「あら失礼致しました、お武家様の前で笑うなど……でも可笑しくて。もちろん鬼などおりませんでしたわ」
「斯様に」
 庄屋は美月たちの方に向き直り、
「か弱い女がひとりで山に入ることができるのですから、鬼なぞおらぬと存じます。もちろん、山での演習は実施なさいませ。案内にはこのお絹をつけましょう」
「おなごをか?」
「はい、お絹はマタギや木こりが鬼の噂に怖じ気づき山に入らぬ今も、3日に1度は山に入っておりますゆえ」
「節分の鬼役のため山ごもりをして下さっている、ありがたいご一家に食料を運ばせて頂いているのですわ」
 殊勝げな顔で洞の母子に言及したお絹を、美月は思わず一瞬睨み付けた。
「(この女……っ)」
 加内にも道々母子のことは伝えてあるのだが、先手を打ってこう言われてしまっては、追求するのは難しい。庄屋にもお絹にも、のらりくらりと言い逃れされるだけだろう。
「ともかく、日も暮れてくる時間でもございますし」
 庄屋が話に区切りをつけるように大げさに手を広げた。
「演習も明日以降のことになりましょう。今日のところは、田舎料理でございますが存分にお召し上がりになり、このお絹の酌でおくつろぎ下さいませ」
「ささ、お武家様」
 お絹が阿吽の呼吸で酒を差し出し、加内の方もまんざらではなさそうに杯を取った。
「そ、そうじゃな。今夜の処はゆるりとさせてもらうかの」
 ちっ、と美月は心の中で舌打ちをした。使えない侍だ……!

 ――ならばどうする?
 お絹は、今夜は接待のために屋敷に留まるだろう。そしてまだ、猟兵が複数人のチームでこの村を見張っていることに気づいていないはずだ。いかに猟兵といえど、美月ひとりでは何もできまいと、あなどっている様子もある――。

「猟兵様は、ご酒ではない方がよろしいですわね」
 お絹が微笑みかけてきたが、それを美月は冷静な表情でかわしてスッと立ち上がった。
「今夜は待機ということでしたら、先に私は伝習隊に野営を申しつけて参ります。少しの間失礼をば」
 美月は庄屋たちに口を挟む隙間を与えず、屋敷を飛び出した。
 そして走った。
 向かうのはもちろん仲間たちの元。
「オブリビオンと目されているお絹が、庄屋の屋敷に留まっている今こそ、山に入り鬼を掃討する好機です!」
 そして一気に、洞穴の母子の元へ向かうのだ――!

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『棍棒鬼』

POW   :    鬼の金棒
単純で重い【金棒】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    怨念疾駆
自身の肉体を【怨念の塊】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ   :    死武者の助太刀
【落ち武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●2章
 猟兵たちは今こそ好機と、一気に山へと駆け上った。
 地道な隠密調査のおかげで、今回の事件のいきさつも、洞穴の在処も把握できたので、母子をも救出することが出来よう。
 しかし行く手には鬼の群がいる。
 山の入り口付近では様子を窺っているだけの鬼たちも、予想通り、洞窟に近づいていくと躊躇無く襲いかかってくるようだ。何者も洞窟に近づかせるなと命じられているのだろう。
 帰途の安全確保を考えると、洞窟の母子に接触する前に、鬼をある程度退治しておかねばならぬ。
 また、いずれボスのオブリビオン――おそらくお絹――を撃破する時のことも鑑み、敵援軍となりそうな鬼は出来るだけ減らしておくにこしたことはない。
 鬼は、個々はさほど強くはないが、20体ほどもおり、それなりに組織だった行動をとってくる。
 お絹が気づかぬうちに事を済ませてしまいたいが、ここも急がば回れだ。
 母子を無事に山から下ろすために、まずは鬼を掃討するのだ――!
 
●2章捕捉
 この章の主目的は鬼退治です。
 鬼と🔵11個分戦っていただいて章クリアになりますと、母子救出も成功となります。
 苦戦して手こずったりすると、それだけ母子を助けるのが遅くなるということですね。

 鬼が洞穴の母子を襲ったりすることはありません。
 鬼は特に自分の意志というものは持たぬ、殺戮マシーン的な生物です。

 救出プレイングも書いて頂いてもちろん構いませんが、戦闘プレイングが無いと成功度を高く判定しにくくなりますので、お気を付けください。
 章の性質上、皆様のプレイングをできるだけまとめてリプレイに仕上げたいと思っております。
蜂蜜院・紫髪
【特務情報調査局(SIRD)の方と連携】*アドリブ歓迎

心情:困ったのぅ。儂は多数を一度に相手取るのは苦手じゃ…特に急いでおる時はの。
こういう時は人に頼るに限る。このような場所に女子供を長居させては本格的にまずい。
あそこの集団と組ませてもらうかの。

行動:協力先の旅団の前衛を援護します。人形で刀と弓矢を防御し【役受人形】と【呪詛返し】で装備し遠近に対応していきます。
人形は前衛の隙のサポートを本人は狐火で弓矢への対処と落ち武者の排除を行います。
負傷者が出るようであれば【癒しの狐火】で万全に保ちます。

洞窟に行く猟兵が居れば洞窟前で人形で仁王立ちし封鎖【時間稼ぎ】します。


犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)

んー、そうだねぇ
いつもなら飛び込んで大暴れ……なんだけど、あまり騒ぎ過ぎて親玉さんに早いうちにバレるとまずいからね
おや、なら奏ちゃんの演奏を楽しみながら物陰で機会を窺ってるね
殺す瞬間は、出来れば目、閉じてね

【SPD】【忍び足】
奏ちゃんの音に誘われた鬼を背後から奇襲
届くのであれば口を押さえ、首に刃を滑らせる
届かないなら膝裏を姿勢を低くさせるよ

同時に2体以上が釣れた場合は1体目には同上の事をして盾に流用
2体目以降は盾にした物を押し付けて奇襲
倒した敵から見えない場所に搬送

奏ちゃんが狙われた時は隠密とか無視して殺しに向かうよ。
【スナイパー】【2回攻撃】【傷口をえぐる】


織譜・奏
【同行者】犬曇・猫晴(f01003)
(洞穴の方をひょっこりと覗き)
鬼さんこちらとはあまり言いたくないですが……助けを求める人がいるならそれも手ですね。
数も多いですし、今回は私が前に出てみましょう。安全は犬曇さんに任せます!(全幅の信頼)

【SPD】
やや目立つ位置に陣取り、本体の竪琴で奏でるメロディに乗せて『宿運の乱歌』を歌います。
「贈ろう、贈ろう、私の歌を。絶望の結末を、君に!」
音で敵をわざと引き付けて、気ををこっちに向けさせれば、あとは彼がやってくれるはず。
ふふ、括目して見よ私達のコンビネーション!

敵の間合いに入ってしまいそうになったら全力で逃げます。きゃー犬曇さん助けてー!

アドリブ歓迎


ナハト・ダァト
厄払いなラ、聖者に任せたまエ

奥の親子の為にモ、手早く行こウ

【一ノ叡智】デ身体強化
【バウンドボディ】で伸縮・俊敏性の向上
【三ノ叡智】で相手の行動ヲ先読み【ニノ叡智】を用いテ相殺しよウ

手数…ならぬ触手数ハ[武器改造]デ【八ノ叡智】と同じ数まで増やしておこウ

基本的にハ仲間の支援ダ
危ないものが居れバオーラ防御も併用しテかばうヨ
激痛・毒・呪詛耐性ハ持ち合わせているからネ
光を放出しテ目潰し
地形を利用しタ即席ノ罠
世界知識による行動のサポート
早業によっテこなすとモ

そのための触手だヨ

※アドリブ歓迎


シュシュ・シュエット
【ライオンライド】のライオンさんのお力をお借りしますっ。
野山ならわたしよりライオンさんの足のほうが能率的ですし、
*野生の勘を駆使しながら駆け回りましょう。

鬼さんの怨念疾駆の長さを*見切りつつ、山道の高低差……*地形を利用して飛びかかります。
他の猟兵さんと連携しながら、がぶーっと噛みついたり爪でびしばしと叩き伏せてもらいますっ。
ライオンさん、もうひとふんばり! ふぁいとですっ!

……お絹さん、逆に山へいらしてくれないと困ります。
来ないと必然的に衆人環視の中、おみちさんの体調不良も卜占に信用を与え、
庄屋さんを味方につけた現状だとこちらが悪者にされそうです。
お絹さんの動機も、しっかり調べたいですねっ。


灯璃・ファルシュピーゲル
「SIRD」所属として参加し緊密に連携

「まずはセーフゾーンの確保からですね・・」

まずは山岳戦の経験を活かし
「戦闘知識・地形の利用・迷彩」で
木立で相手からの視界を遮りつつ動き回りつつ
牽制射撃。与えた敵意を利用しコードで狼
を召喚。狼達にも味方部隊とは別方角から襲撃させ
敵が集団として兵力を一方向に向けられないよう
攪乱を狙う

突出した敵が居る場合は
「スナイパー・戦闘知識」で足・頭部狙いで
狙撃、敵集団が一気に距離を詰められないよう
圧力を掛け頭を抑え味方の攻撃を支援

弱っている敵が出始めたら
味方と集中攻撃し各個撃破で迅速に敵の数を
削っていくよう戦闘にあたる

戦闘後は母子と洞穴周囲を安全確認
「・・パッケージ確保」


江戸川・律
共同参加「SIRD」

向こうで美月が押さえてくれてる間に
スマートに解決しないとな

まぁ個々はさほど強くないとはいえ
数の脅威は無視できないし気を抜けない状況

山の入り口付近で様子を窺っている鬼たちをサクッと排除して
安全確保の為に俺は俺の【罠使い】としての仕事を進めようかな

「ペンは剣よりも強し」を使用、先読みをしながら
ディテクティブ・ブラスターを構え
歩みを進めます

「レプリカクラフト」で作った仕掛け罠の材料を使い
【早業】【戦闘知識】【地形の利用】を併用
木々の間隙や足元に強靭なワイヤーを張ったりと
様々なブービートラップを迅速に森の中に仕掛け
仲間をサポートして行きます

いつも通り火力は十分だろうし俺は裏方ってね


ハヤト・ノーフィアライツ
【SIRDの仲間と共に出撃】
周囲の味方と連携しつつ動くぜ。
鬼が出てきたな。…ったく、ゾロゾロと雁首揃えやがって。
…まとめて相手をするしかねぇな。

【グラップル】【ジャンプ】【ダッシュ】【見切り】【踏みつけ】【怪力】【鎧無視攻撃】【吹き飛ばし】【範囲攻撃】【空中戦】【早業】【2回攻撃】を駆使して、
UC【アクセレイト・ファルコン・スマッシュ】を発動。
10秒間超加速し、射程内の鬼を片っ端から蹴りつける。

敵への攻撃は【見切り】【視力】で攻撃を見極め、【ジャンプ】【ダッシュ】【カウンター】で対応する。


ラザロ・マリーノ
20か…静かにとなるとちょっとキツい数だな。なら素早く片付けるか。

真の姿を開放(体格が一回り大きくなり、牙・角・翼が生えて、よりドラゴンに近い外見になる)したうえで、
ユーベルコード「竜の再誕」で召喚した恐竜に騎乗。

【怪力】でハルバードをふるって鬼を【串刺し】に、反撃は【武器受け】【オーラ防御】で受け流すぜ。

ただでさえ徒歩で騎兵の相手は不利なんだ、恐竜の牙と爪までは避けられないだろ!


ユト・リーィング
POW寄り攻撃
前衛で戦う、周りの仲間と連携をとるようにする。
自分自身は多少怪我しようとも【激痛体制】で乗り切りながら【串刺し】【2回攻撃】をしながら【生命力吸収】で回復しつつ相手の懐に入る。
入ってしまえば俺の領域だ。【居合斬り】で輪切りにしてやるぜ!
周りと一緒に声をかけながら攻撃をして数を減らしていく!
鬼がもし救護対象に攻撃しそうになったら【かばう】ぜ。
戦うことを前提にする、仲間も傷が深そうな奴が居たら変わりに【怪力】で鬼の攻撃を受け止めよう。
戦うことが好きなのでたくさんの敵を見るとテンションが上がる。騎士として蹴散らして強敵を探すように戦う。
アドリブお願いします。


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの仲間と共に行動

団長からの応援要請で来たぜ。何だよ、随分と楽しそうなコトになってるじゃねぇか。
オーダーじゃこの鬼共を殲滅すりゃいいんだろ?上等だぜ。
「そんじゃ、鬼どもを片付けるとしようぜ。叩き込むのは豆じゃなく、鉛弾だけどな」

真正面から、装備してる機関銃(UKM-2000P)で弾幕を張って鬼どもを追い込む。出来るだけ一箇所に固める様にすれば、味方も倒し易くなるだろうし、第一仕留め損なう可能性も低くなるだろうしな。
必要ならば、味方に援護射撃を行う。

※アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
SIRDの面々と行動
敵の数はこちらより多数、但し母娘に手だしはしないとのことですから・・・まずは鬼を撃滅するのが最優先ですね。
とはいえ、戦闘が始まれば村にいるお絹が異変を察知して洞窟に駆けつけないとも限りません。ここは可能な限り、早急に撃滅するのがベターだと思います。その為、SIRDのメンバーも増員する手筈になっています。

基本的に、後方で状況を確認しつつ味方を支援しつつ戦闘を展開。
可能であれば隙を見て母娘に接触、一時的に戦闘から離れた安全圏に退避する様誘導します。母娘からも色々話を聞きたい所ですが・・・ひとまずは、戦闘が終了するまでお預けですね。

※アドリブ・他者との絡み歓迎



 麓ではさほどではなかった雪も、標高を上げ奥山に入るにつれ、深さを増してきた。とはいえ広葉樹の木々は葉を落とし、夏ならば腰までも埋まりそうな笹藪も雪の重みで低くなっており、見通しは悪くない。
 麓からは見えない、半ば凍り付いた大きな滝を、傍らの岩場をよじ登って越え、その裏の大岩の陰を更に少し登ったあたり――。
 隠密調査で得た情報の通りの場所に、母子が軟禁されている洞穴はあった。洞穴というよりは、太古の火山活動によってこの場に吹き飛んできた、あるいは流されてきた大きな岩が、互いに重なり合って出来た空間で、それとわかっていなければ、岩の隙間にしか見えない、
 加えて動物に入られないようになのか、山仕事の者たちが蔓を編んだ扉で、細い入り口を塞いでいるので、なるほどこれは口で説明されただけではとても見つけられない。
 猟兵たちは、その洞穴の入り口から少しだけ下った、岩場と川に挟まれた小さな平地を戦場と定めた。ここならば洞穴の様子もギリギリ観察できる。
 そうこうしているうち、山中を哨戒するようにさまよっている鬼が10匹ほど、侵入者の気配を察知し、集まってきて――。

 山の日暮れは早い。すでに夕刻を感じさせるぼんやりした光の中、ひとりの女性が岩場に腰掛け、竪琴を奏で、歌い出した。
 歌うは織譜・奏(冥界下り・f03769)奏でるは『宿運の乱歌』。
「罪深き者に贈ろう。私の歌を、絶望の結末を!」
 まるで『鬼さんこちら』とでもいうように歌は広がっていく。その歌はじわじわと鬼たちにダメージを与える。鬼は『美しい歌い手は自分たちの敵なのだ』と気づいたように、彼女目指して一気に距離を詰めてきた……その時。
「厄払いなラ、聖者に任せたまエ」
 パアッ、と日暮れ間近な山の明度に慣れた目には、あまりに目映い光が戦場を照らした。ナハト・ダァトが全身から光を放ったのだ。その光は雪に反射して目映さを倍増し、一瞬鬼の目を眩ませ、立ちすくませる。
 ダダダダダ……!
 その好機を逃さず火を噴いたのはミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)の機関銃・UKM-2000P。
「団長からの応援要請で来てみたが、何だよ、随分と楽しそうなコトになってるじゃねぇか。この鬼共を殲滅しろってオーダーだったよな? 上等だぜ」
 奏を背にし――つまり、鬼の真っ正面に立った彼は、豪快な口調で啖呵を切り、嬉々として引き金を引き絞る。
「とっとと片付けるとしようぜ。叩き込むのは豆じゃなく、鉛弾だけどな!」
 更に同じ方向から、
「儂は多数の敵を一度に相手取るのは苦手じゃが……特に急いでいる時はの……だが」
 蜂蜜院・紫髪も狐火を飛ばす。
「調査で知り合った旅団と組ませてもらったからの、仲間がいれば話は別じゃ。このような場所に女子供を長居させては本格的にまずい」
 激しい弾幕と、嘲弄するように飛び回る狐火は、力を合わせて一定の方向に鬼群を押し込んでいく。
 そして押し込まれた先には――。

「奏ちゃん、すばらしい歌だったよ」
 パートナーをほめたたえると、木々の間から忽然と現れたのは犬曇・猫晴(亡郷・f01003)。彼は音もなく、まずは手近にいた鬼の背後に忍び寄り、膝裏を軽く蹴りつけ姿勢を崩すと、牙を剥く口を抑えた。
 次の瞬間。
 スッ。
 鬼の首に刃が走り、血が噴水のように迸った。無垢な雪が鬼の血でみるみる紅く染まっていく。
 猫晴は刀を振って鬼の血を払い、
「いつもなら飛び込んで大暴れ……なんだけど、あまり騒ぎ過ぎて親玉さんに早いうちにバレるとまずいからね。あくまで静かにいくよ」

「20体か……静かにとなるとちょっとキツい数だな。なら素早く片付けるか」
 ラザロ・マリーノは、スピードとパワーを必要とするとみて、早々に真の姿の片鱗を現した。体格は一回り大きくなり、牙と角、そして翼を生やした堂々たるドラゴニアンの姿だ。
「記憶の彼方に果てたる竜よ! 再び大地を蹂躙しろ!」
 ユーベルコード【竜の再誕】で巨大な恐竜を召還し、軽やかに雪の地面を蹴って騎乗した。タン、と軽く腹を蹴っただけで、恐竜は彼の思うままに走り出す。
「ただでさえ徒歩で騎兵の相手は不利なんだ、恐竜の牙と爪までは避けられないだろ!」
 突然の巨大な敵の出現に、鬼は逃げまどい、恐竜はそれを踏みつぶす勢いで追いかける。その背の上ではラザロが竜騎士の槍斧・ハルバードをぶんと振るい、
「喰らえ!」
 気合いを込めた一撃で、まずは1体の胸を深々と串刺しにした。

 一方。
「村に残った仲間が押さえてくれてる間に、スマートに解決しないとな」
 江戸川・律は、仲間がいる洞穴近くの戦場より、村の方に少し下りたあたりにいた。
「まぁ個々はさほど強くないとはいえ、数の脅威は無視できないし気を抜けない」
 そんなことを呟きながら、ユーベルコード・レプリカクラフトを発動し、ブービートラップをたくさん作りだした。
 迅速さを求められる作戦なので、山中を隠密行動で駆け回って鬼を掃討している時間はない。かといって、20体全部の鬼を全て誘き寄せ、いっぺんに相手にするのは、猟兵であってもなかなかキツいだろう。
「戦場に至る前に、鬼の数を少し減らしてやらないと……減らせないまでも、足止めしてタイミングをずらせば、少しは戦いやすいだろうぜ」
 仲間の元へと到達する敵の数を調節する狙いだ。
 先読みの能力を駆使しながら、律は強靱なワイヤーを張り巡らしたり、落とし穴を掘ったり等のトラップを次々と仕掛けていく。
「お、やっと追いついてきたな」
 少し遠くでガサガサと何者かが近づく音がして、律は素早くトラップエリアが見渡せる木の上に登った。
 現れたのは2体の鬼。登山道入り口付近を哨戒していた鬼のようだ。猟兵のスピードについてこれず、今頃のこのことやってきたのだろう。
「(かかれ……かかれ……よっしゃ!)」
 2体の鬼は、律の思惑通りそれぞれトラップに引っかかった。仕掛けてあった爆薬も効果を発揮し、2体は大きなダメージを負った。だが、それだけで戦闘不能とまではならず、傷ついた体で愚直に戦場へと向かおうとする。
 律は木の上でブラスターガンナーを構え、よたよたと山道を登っていく鬼の背中に狙いを定めた。
「この2体は、俺がサクッと排除してやるよ!」

 その頃。洞穴近くの戦場では。
 囮と急襲が功を奏し、猟兵たちは順調に鬼の数を減らしていった。だが、山中にいるのは最初に集めた鬼だけではない。
 にゅうっ。
「わあっ、なのです!」
 突如、敵が居るとは思ってもいなかった岩場の陰から、鬼の首が蛇のように伸びてきて、シュシュ・シュエットは驚き竦みそうになった。
 どうやら山の更に奥の方にいた鬼が、洞穴に迫る猟兵の存在を察知し、新手として集まってきているようだ。
 だが、騎乗しているライオンは一瞬の隙も見せず鬼を巧みに躱し、岩場の高みへと駆け上った。
 シュシュはライオンのタテガミをわしゃわしゃと撫で、
「助かりましたっ、野山ならわたしよりライオンさんの足のほうがずっと能率がいいですねっ。野生の勘を駆使しながら駆け回りましょう!」
 ユーベルコードで召喚したライオンの力を借り、鬼というよりはろくろ首のような姿の敵に向け、
「ライオンさん、もうひとふんばり!  ふぁいとですっ!」
 ライオンとシュシュは一心同体で飛びかかった。鬼は慌てて首をゴムのように縮めたが、ライオンの方が早い。鋭い爪が顔を深々と切り裂き、力強い顎が伸びた頸へと食らい付いて……。
 鬼の首が、またひとつ宙を飛んだ。

「鬼はこれだけじゃないよな? まだいるよな――ほらいた!」
 数体の鬼の骸を足下に睥睨し、ユト・リーィングは血に汚れた顔でニヤリとした。
 彼を汚している血は、鬼のものだけではない。彼自身も深手はないとはいえ、多くの傷を負っている。
 だが戦いに没頭する彼のテンションは、激痛や流血を軽く凌駕し、全く怯むことなく新手の鬼へと駆けて行く。
 鬼は真っ直ぐに突っ込んでくるユトに向け、金棒を握った手をゴムのように伸ばしてきた。
 ゴツッ!
 ユトの肩を金棒がかすめたが、それも刀の柄で苦も無く振り払い、
「懐に入ってしまえば、俺の領域だ! 殴られた分、取り返してやる……見切ったぜ!」
 生命力吸収の能力を得た刃は、中段から水平に、目にも止まらぬ速さで、一度、二度と走り……。
 ドサッ、ドサ……ドサッ。
 輪切りになった鬼の胸から上、腹、そして下半身が、時間差をおいて雪の上に倒れた。
 これぞ正に剣豪の一刀。
 ユトは満足げに刀の血を払ったが、すぐさま次の得物を求めて鋭い視線を飛ばした。
 
「これで13体……きっと下でも律さんが1,2体は倒してくれていると思いますので、鬼の掃討は先が見えてきましたね」
 後方で支援を主に行っていたネリッサ・ハーディは、特務情報調査局員を始めとする戦友たちが倒した鬼の数を、冷静に数えていた。
「そろそろ母娘に接触しておきたいタイミングです」
 ネリッサは隙を狙って洞穴の入り口へと近づいていく。
 が、鬼たちは、元々洞穴へと近づく者を排除するよう命じられている。彼女の動きに敏感に気づき、1体が岩場の陰から這い出て忍び寄る。すでに片腕を失った姿だが、残った一本の腕をゴムのように伸ばし、ネリッサに迫る。ギラリと血濡れた鬼の爪が光るが、まだネリッサは気づいていない――。
 バシュッ!
 銃声が響き、鬼の頭が吹き飛んだ。
 ネリッサはハッと振り向いた。
 どこから狙撃したのか分からない程の、死角からの見事な狙撃であった。
 岩陰から現れたのは、灯璃・ファルシュピーゲル。灯璃は山岳戦の経験を生かし、迷彩能力と地形を利用して戦場の外周から敵を狙撃していたのだ。
 灯璃は次のターゲットを油断なく見定めながら、局長に。
「母子に会っておくのでしょう? ここから洞の入り口までの場は、セーフゾーンとして私が守っておきます」
 銃声を耳にしたのか、人形を従えた紫髪もやってきて。
「儂も入り口近くで守っておるとしよう」
「ありがとう、では、頼みます」
 2人の戦友に見送られ、ネリッサは洞へと滑り込んだ。
 視界はいきなり暗くなったが、所詮岩の重なりあった隙間のような空間であるので、上の方から細く光が挿しており、全く見えないほどではない。このような隙間が何カ所もあるので、酸欠にならず、洞の奥で焚き火を焚くことができるのだろう。洞窟の入り口は肥満体であれば通れないほど狭く、幾分煙臭いが、思っていたより空気は清浄だ。
 数メートルの岩に挟まれた細い通路を進むと、奥は八畳ほどの、意外に広い空間が広がっていた。真ん中には小さな焚き火、その周りには薄汚れた夜具や調理道具が散らばっている。
 そして、最も奥には――。
「怖がらないでください。私たちは猟兵、あなた方を救出にきました」
 病の末娘を背に庇い、母と姉が怯えつつも強い眼差しでこちらを見つめていた。妹のおみちは熱が高いのか、真っ赤な顔で眠っている。ネリッサのところまで、熱の匂いが感じ取れた。
 洞穴の外からいきなり激しい戦闘音が聞こえてきて、さぞかし母子は不安だったろう。 ネリッサは天下自在符を示し、これまでの調査内容と、今現在行われている鬼の掃討作戦についてなるべく優しい口調で説明した。
「お絹さんは、やっぱり人じゃないかもしれないのか……!」
 姉のおさとが呟いて唇を噛んだ。垢じみてやせ細っているが、口調も目の光も強い。
「どうしてそう思ったのです?」
「さっき、食料を持ってきてくれた時……」
 病のおみちだけでも、山から下ろしてくれないかとお絹に頼んだのだという。だが、お絹はご託宣だからそれはならぬと、とりつく島もなく。
「オラ、思わずお絹さんの袂に取りすがったんだ。そしたら突き飛ばされて」
 おさとは自分の着物の裾をめくってみせた。
「!!」
 左腿の外側が、酷い痣になって腫れている。突き飛ばされ、洞の壁に激突したのだという。
「骨は折れてませんか?」
「歩けるから大丈夫だと思う……でも。すごい力だったんだ。女の力とは……ううん、人の力じゃないみたいな……」
 痛みより恐怖が強かったのだろう。ぶるっ、とおさとは大きく身を震わせた。
 ネリッサは少女の細い肩を抱いて。
「もうすぐ鬼を倒し終わります。そうしたらすぐに山を下りましょう」
「でも、庄屋さんがお許しくださるか」
 母親のおえんが、青ざめた唇で言った。
「鬼を倒し、お絹の正体を暴けばきっと庄屋さんも真実に気づきます」
「でも……」
 おえんは暗い表情でうつむき。
「あたしたちが穢れているってのは……本当かもしれないから」
「……え?」
 それはどういう意味です? と聞き返そうとした時。
 ウワアッ! と、外の戦闘音が一際激しくなった。まるで戦っている人数が急に増えたかのようだ。
「何事でしょう」
 おえんの言葉も気になるが、今は鬼の撃滅が優先である。
 山から下りる準備をして待っていてくれと言い残してネリッサは洞窟から飛び出した。

 突然大きくなった戦闘音の理由は、外に出てみればすぐにわかった。残り少なくなった鬼たちが、一斉に【死武者の助太刀】を発動し、落ち武者の霊を召喚したのだ。いきなり敵数が二倍に増えたような状況である。
 洞窟から飛び出してきたネリッサを振り返り、灯璃が。
「一気に押し込んでしまいましょう」
「ええ」
 紫髪が、2人が攻撃体勢を作れるよう、狐火で射かけられる矢を落としてくれる。
 洞穴を背にし、灯璃とネリッサはユーベルコードを発動した。
「Sammeln! Praesentiert das Gewehr!……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!」
「風に乗りて歩むものよ、その絶対零度の嵐にて薙ぎ払え!」
 灯璃が召喚した漆黒の森を思わせる霧から沸きだしたのは、光すらも喰らい尽くすような黒い影。その影は狼の群となり、ネリッサが発射した100本もの刃のような氷柱と共に、鬼と落ち武者を追い込んでいく――!

 追い込んだ先には当然、戦友たちが待ち受けている。
「そう来るト思ってイタヨ。奥の親子の為にモ、手早く行こウ」
 ナハトは、あらん限りの技と英知を使い、幾本にも増やした触手を一気に伸ばし、果敢に敵に掴みかかる。またその触手はオーラを帯びており、敵の足止めをもし、仲間の攻撃手を守る壁ともなる。
 捕まえられた敵はあがき、ナハトに苦し紛れの攻撃を浴びせかけるが、それでも触手は緩まない。ユーベルコードによって身体を強化し、激痛や毒、呪詛への耐性を持ち合わせている彼は大変しぶといのだ。
「みんな、グッジョブだぜ!」
 ミハイルは側面からの射撃で、触手に捕まらなかった敵の逃亡を阻止する。
 敵を固め撃ちするために戦場の外側から段幕を張り続けていたミハイルだが、それでもあちこちに軽傷を負い、顔にも血がこびりついている。だが、その表情は精悍に引き締まっている。もうすぐ『オーダー』を達成できそうだという自信が、彼のテンションを上げているのだろう。
 弾幕と触手に追い詰められ、集まってくる敵を、ハヤト・ノーフィアライツは、壁になってくれているナハトの触手の間から、ひょいと覗き込んで見回すと。
「……ったく、ゾロゾロと雁首揃えやがって……まとめて相手をするしかねぇな」
 傍らの岩場を踏み台にし、盾となってくれている仲間を越えて跳び、敢えて鬼群の真ん中に飛び込んだ。
 当然敵は、一斉に襲いかかってくる……が、それらを受け流し、あるいは見切りでかわし、
「アクセレイト・ファルコン・スマッシュを見せてやる! さぁて、一気に振り切るぜ!『-accellater on-』『-charge up-』!」
 ここぞとばかりにユーベルコードを発動した。
 スピードと技術を駆使して、超高速の連続キックを見舞い、鬼も落ち武者もおかまいなしに次々と蹴り倒していく。その範囲、約20メートル。コードの持続時間は10秒だけとはいえ、多数の敵を相手にしての効果は絶大だ。
 そしてそこへ、持続時間を完璧に見計らったタイミングで。
「あとは任せてください!」
「トドメを刺してやるぜ!」
 ライオンと恐竜が駆け込んでくる。シュシュとラザロだ。
「はいよ、あとは猛獣にお任せだな!」
 ハヤトはにんまりしながら大きなジャンプで後ろに飛び退いて、大きな岩の上に立ち、2頭と2人の猛攻を見守ることにした。
 ナハトが捕まえている敵の方は、ユトと猫晴が首を掻ききって、次々とトドメを刺している。
 ギャアアァァ……と、獣染みた声が幾度も山に響き渡った。

 これで概ね鬼は撃破したと見ていいだろう。落ち武者も全て消えた。まだ地面に倒れ、蠢いている鬼はいるが、まともに戦える者はいない。
「念のため、確かめてみますね」
 奏は残敵ならぬ残鬼がいないか確認する意図で、大きな岩に腰掛け、再び歌いはじめた。歌声が、控えめに、けれど力強く広がっていく……と、その時。
 シュッ。
 竪琴を弾く奏のすぐ後方に、突如丸いモノが浮かび上がった。丸いモノの下には紐のようなものがぶら下がっており……。
「――奏ちゃん! 見ちゃだめだ!」
 猫晴が血相を変えて、奏が歌う岩に跳び乗った。彼女をひしと抱きしめて庇いながら、丸いモノに向かって、隠密行動を忘れて大胆に刃を振るう。
 ザク……ッ。
 ギャアアァァァ!
 眼窩に刃を受け、丸いモノは……角の折れたボロボロの鬼の首であった……悲鳴を上げて岩の間に落下し動かなくなった――。

 今度こそ、山に真の静けさが戻り、猟兵たちは鬼の撃滅を確信した。
 安全確認ののち、洞窟の母子を迎えにいくと、彼女らは山を下りる荷造りを終え、何かを決意したような表情で猟兵たちの迎えを待っていた。
 その表情を見て、灯璃は。
「……パッケージ確保」
 小さく呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幸せを喰らうモノ』

POW   :    破断掌
【掌底】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    鬼神一閃
【斬馬刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    魂食呪体
対象の攻撃を軽減する【喰らってきたモノの怨念を身に纏った状態】に変身しつつ、【呪詛が込められた斬馬刀】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はベール・ヌイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(2章終了です。ありがとうございました!
 申し訳ありませんが、3章導入文の掲載まで少々お待ち下さい。
 3章プレイングは、導入文をご一読になってからご投稿お願い致します)
●3章
 お絹を山に誘き寄せた方が戦い易いのではないか、村に居させては庄屋を巻き込んで、またのらりくらりと逃げられるだけではないか、と心配した猟兵もいたが、洞穴の母子のやつれ具合、特に妹の病状を見ると、そうも言ってはいられない。出来るだけ早く山から下ろし、安らげる場所に移すべきと意見は一致した。
 猟兵たちは母子を背負い、山を駆け下りた。山を下りるといっても、このまま村の家に母子を戻すだけでは具合が悪い。ほどよく暮れた逢魔が時の村をこっそりと抜け、隣町まで一気に突っ走る計画だ。
 力自慢の者たちがそれぞれ3人を背負い、山を下りる。行きは鬼の姿に注意を払いながら上った道も、帰りは一気に下りるのみ。隣町までも、猟兵の足ならば一気に駆け抜けられよう。すでに藩の方へ話は通してあるので、母子を静養させる環境も用意できるだろう。
 だが。
 山道を駆け下り、村へと入ったそこに――お絹がいた。
「結界が破られたのを感じたのだ」
 キリキリと眉根を吊り上げ、お絹は妙に太い声音で言った。
 声が、変わっている。
 顔つきも、変わっている。
 血走って吊り上がった眼、血濡れたように真っ赤に上気した唇。その隙間から見える犬歯は、牙のように鋭く長い。
「おえい、逃げられると思ったか」
 お絹は凄むように言った。
 遅ればせながらやってきた庄屋も、息を切らせながら、
「おえい、何故山を下りてきた!」
 猟兵の背中にいる母親を叱りつける。
 騒ぎを聞きつけて、村人たちも集まってくる中、
「申し訳ございません」
 おえいは猟兵の背中から滑り下り、雪の地べたに土下座した。
「あたしは確かに穢れた女でございますので、村の穢れを一身に背負って死んでいっても構いません。ですが、娘たちはどうかご勘弁ください」
「おっかあ、なんてこと言うだ!」
 おさとが思わず声を上げるが、猟兵が宥めて黙らせる。
 ここはおえいに本当のところを語ってもらわねばならぬ。鬼討伐中にも、自分は本当に穢れているのかも……というようなことを口走っていたのを猟兵も聞いている。
「そうだ……お前は穢れた女」
 お絹がおえいに詰め寄る。その額に2つの突起が突き出してきているように見えるのは気のせいだろうか。
「夫を見殺しにした女だ!」
 その言葉に撃たれたように、おえいはびくりと身を震わせた。
 いや、おえいだけではない。庄屋も、村人たちも大なり小なりショックを受けたように見えた。
 お絹は容赦なく語った。

 一昨年の冬、はぐれ狼と戦った吾吉は全身に大けがをした。おえいはもちろん、村総出で懸命に手当をしたが、吾吉は亡くなった。
 村には医者はいない。だが隣町にはいる。
 早々に諦めずに医者の元に搬送していたら、吾吉は助かったかもしれないではないか――。

 お絹はギラギラと赤く光る瞳でおえいを睨み付け。
「吾吉は命を取り留めても、体に不自由が残ったろう。それを予想したお前は、マタギとして働けなくなるくらいなら、いっそ死んでくれた方がいいと思ったのだろう? しかも吾吉は酒乱であったしな」
 腕のいいマタギであった吾吉であるが、飲むと豹変し、おえいや娘達に暴力を振るうことがあったという。
 そしてお絹は村人を見回し。
「お前たちも吾吉の酒乱を知っていながら、おえいや娘たちを助けることをしなかった。鉄砲撃ちに逆らうことが怖かったからだ。だから、吾吉が瀕死のケガをした時に、敢えて隣町にまで運ばなかった……そうだな?」
 それは違う、という声は上がらない。
 その時はそんなつもりはなかったのかもしれない。だが、敢えてそう攻められると、反論はし難いのだろう。
「おえい、お前は夫が死んでから幸せだったな? 自分が殴られる心配も、娘が殴られる心配も無い。村人は、吾吉への恩やこれまでの後ろめたさから皆優しくしてくれる……正直に言え。幸せだったのだろう?」
「た……確かにこの2年は幸せでした。でも、あの時は雪は深くてとても隣町まで運ぶことなど……」
「言い訳が通用すると思うてか!!」
 おえいはお絹に一喝され、またひれ伏しガタガタと震えている。
 村人も何も答えない。激昂していくにつれ、変貌していくお絹を目を剥いて見つめているだけだ。
「おえい、私はお前を皮切りに、この村の者たちの、小さな上っ面だけの幸せを喰らうために来たのだ。それなのに――ええい、忌々しい!」
 今や美しかったお絹の姿はどこにもない。血走った目に、血を啜ったように赤い口腔。そして額には大きな2本の角。
 今、猟兵と母娘、そして村人たちの前にいるのは――幸せを喰らう鬼だ。

●3章補足
(お待たせしました、3章開始致します)
 この章の成功条件は、お絹=幸せを喰らうモノ を撃破することです。
 幸せを喰らうモノは、おえい母子以外は村人を狙うことはありません。庄屋だけはそのへんに隠れて残ってますが、他の村人は敵の姿に驚き、すぐに逃げ帰ってしまうので、勘定に入れなくて大丈夫です。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
……あー、はいはいそーゆーコトね。その、ダンナを見殺しにしたのが穢れだと言いたいワケだ。
(煙草咥え、火を付けて紫煙を吐きつつ)で、それがどうした?
世の中ってぇのは、残念だが不公平にできてるんだ。生きる為には、仕方なく、止むを得ず、ってコトもある。俺は過去に似た様なコトを散々見聞きしてきたから別段驚きもしねぇよ。
むしろ俺がムカつくのは・・・そんな母娘や村人を偉そうに非難してドヤ顔かましてる莫迦、つまりテメェだこの野郎。
まぁいずれにせよ、この先ここの村人がどうなるかは、テメェには関係ねぇ。何故なら、テメェは今ここでブチ殺されるんだからな!

戦闘関係は、二章の時のプレと同じスタイルで


ナハト・ダァト
過去が未来を否定するんじゃないヨ
未来は今が決める事サ

親子は八ノ叡智で保護
救助活動、医術、早業の応急処置
生まれながらの光を使用

POW
光を放って目潰し
被弾の恐れの場合、バウンドボディ、一ノ叡智で耐久性を向上
激痛耐性を上げて受け流すようにかばう

SPD
残像を用いたカウンター
三ノ叡智で動きの予測
医術、情報収集から
身体の特性を把握しておく

WIZ
ニノ叡智で相殺
祈りを込めた光で呪詛を払う
呪詛耐性も活用

UC
鎧無視、傷口をえぐる、医術にて
把握した体の弱点を正確に打ち抜く

真の姿使用
全身が白く輝く異質な人型
バウンドボディと同じ射程に光のゲートから触手を召喚して戦う
八ノ叡智、2回攻撃の影響で
215本操作可能

アドリブ歓迎


蜂蜜院・紫髪
【特務情報調査局(SIRD)の方と連携】*アドリブ歓迎

心情:長々と講釈たれて言う事が結局自分の思い通りに行かぬ故の癇癪じゃな。底が浅いことよ。
上っ面しか食えぬ鬼では仕方ないのじゃ。
吾吉の結末は結局は自業自得よ。お主がいくら責め立てようと成した事で受けた報い、今更蒸し返す事でもないわ。

(狼退治を成したからこその英雄としての死でもあるからの)

行動:母娘を守れるよう立ち回り、離れないように努めます。
狐火での援護射撃を軸に護衛人形は常に傍で【かばう】用意
【オーラ防御】【武器受け】【見切り】で攻撃を受け止めます。
可能であればそのまま【厄受人形】【呪詛返し】を発動し【カウンター】で返します。


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD」所属員として行動

不思議ですね.言い訳がどうとか言ってますが・・・
捕食活動で人を襲ってるのに、
不義の幸せを断罪するみたいな事
言っていちいち言い訳するんですね(首傾げ)

まずは仲間と連携し動き回りながら
【戦闘知識・スナイパー】で斬馬刀を持つ腕・脚部
狙いで精密射撃を掛け、仲間への攻撃と移動妨害
に重点置きつつ戦闘。

同時にユーベルコードも使用し狼を召喚し
仲間の影や木立・物陰に忍ばせ、
隙が見て取れる場合は死角から襲い掛からせ
大きいダメージを狙います。

敵が掌底を放とうとする場合も、
狼に飛び掛からせ相殺を狙い仲間を防護する

貴方は所詮、化物で部外者でしかないんですから
余計なお世話でしかないですよ?


シュシュ・シュエット
おえいさん、お顔をあげてくださいっ。
吾吉さんのことで後ろめたさを感じるのなら、今度はおさとさんとおみちさんを救いましょうっ!

……と、おえいさんを*鼓舞。ひとまず、おふたりを連れてお絹さんから離れていただきましょうっ。
疲労で動けないようなら肩をお貸しするか、可能なら【ライオンライド】のライオンさんにもお手伝いしてもらいます。

おえいさんたちは安全だと判断できたら【錬成カミヤドリ】を使用し、ガラスの靴を複製します。
鬼神一閃を受けないように間合いを*見切りながら*援護射撃を行いつつ、他の猟兵の皆さんをサポートしますっ。
お絹さんの死角から複製をぶつけて、*目立たないように不意打ちできたらぐっどですねっ!


クラト・ディールア
【心情】
もう、人ではないのならば、私は斬るだけです。

【戦闘】
『黎明・龍牙刀』を手にしてユーベルコード『弐式・龍牙開眼』を使用します。
『フェイント』してからの『呪詛』を込めた『2回攻撃』をします。
お絹さんからの攻撃は『第六感』と『見切り』で避けるか、武器で受け流します。
「ムハエル、幸せを喰らうモノから、一瞬だけでもいいのでお絹さんに戻しましょう」
距離を開け、『翼竜の槍』を槍携帯にして『槍投げ』をして『串刺し』すると『生命力吸収』します。
「最期は、家族に見送られる方が……幸せでしょう?」


ユト・リーィング
血に飢えた・・・幸せに飢えた悲しき鬼ということか。
その輪廻、俺の刃が打ち切ってやるぜ。

一撃が強そうだからな、あまり懐に入るのは危なそうだ。
周りの仲間と連携しながら目の前にいる醜い鬼を退治しようとしよう。
前もって【力溜め】をしていて正解だな。
攻撃する際は【怪力】で野太刀を振り【2回攻撃】するぜ。
鬼を吹っ飛ばしてやるぜ!
敵が怯んだ隙を見計らい、仲間の援護、母娘を戦いの場から1mでも遠ざけよう。
あぁ、なんと哀れな姿だ。
肉塊に切り刻み・・・邪を祓うのみ・・・。

戦いが終わると肉片を清めて埋めよう。
これは俺のただの騎士道だ、周りに止めるものが居たなら辞めるが、居ないなら埋葬するぜ。
せめてもの手向けだ。


ラザロ・マリーノ
この世に綺麗なだけのやつなんていねぇ。
誰だってやましいことの一つや二つ持ってるもんだ。
だが、そこだけを取り出して人間を語るんじゃあねえよ!

真の姿を開放(体格が一回り大きくなり、牙・角・翼が生えて、よりドラゴンに近い外見になる)する。

ユーベルコード「修羅の業」でお互いを羂索でつなぎ、【怪力】【ロープワーク】【時間稼ぎ】でおえい母子の方に行かせないようにするぜ。

もうこれ以上てめえにゃ何もさせねえよ!!


ハヤト・ノーフィアライツ
親子を後ろに【かばう】

御託を並べちゃあいるが…要するに貴様は、生きている人間が、幸せが、憎いだけじゃねぇか

貴様が何だったかは知らんが…誰一人、貴様の好きにはさせないぜ…!

「グランドファルコン!ファルコン・ユナイトだ!!」
UC【ファルコン・ユナイト】発動。宇宙バイクと合体
「出番だゴリアス!」
更に呼び出した竜を槍に変え構え

【見切り、視力】で動きを見極め、
【勇気、2回攻撃、力溜め、怪力、串刺し、ダッシュ、ジャンプ、早業、鎧無視攻撃】を駆使しUC【ドラゴニック・エンド】を使用
「消えな、過去の幻!受けろッ!ドラゴニックッ!…エンドッ!!」

攻撃へは【激痛耐性、かばう(対親子)、武器受け、カウンター】で対応


ネリッサ・ハーディ
SIRDの面々と行動

大体の事情は把握できました。
しかしあなた(幸せを喰らうモノ)が偉そうに言える事でしょうか。
所詮、母娘や村人の弱みに付け込んで偉そうに御託を並べてるだけにしか聞こえませんね。
いずれにせよ、私達の方針に変更はありません。
あなたを、排除します。

射撃戦を展開、【2回攻撃】【属性攻撃】で確実に攻撃を当てて体力を削っていく立ち回りを展開していく。
その後目標が恐怖を感じた時を狙って黄衣の王を召喚。
残念ながら、あなたに幸せを与える訳にはいきません。その代わり・・・恐怖と絶望を、与えましょう。

最後に母娘へ
「罪の意識を必要以上に卑下する事もありませんが、決して忘れる事は無い様に」

※アドリブ歓迎


江戸川・律
所属「SIRD」

熱弁ご苦労さん、上っ面だけの幸せを喰らうためにね…
なぁ?何時から見てたんだ?
この感じだと…どうせ「はぐれ狼」もお前が手配したんだろ?

食事はじっくり熟成させた美味いものをてか?
本当に良い趣味してるぜ

家族を守るように前に立ちながら
ディテクティブ・ブラスターを油断なく構えます

見え方なんて見方ひとつで何とでもいえる
アンタは俺の目からは少なくてもひどい母親に見えないよ
子供を守る為に身を捧げれる立派な母親さ
今は子供たちのことだけ見てやれ

コイツからは俺たちが絶対守ってやる

大人数の為「罠」の使用は封印し
「ペンは剣よりも強し」で先読みを行いながら
早業・援護射撃・戦闘知識を軸に庇いながら戦います


犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)
やり場がないから恨むんだと思うよ。ぼくだって、奏ちゃんが死んじゃったら世界を恨んじゃうかもしれないし。
それにしても、幸せを喰らうものかぁ
なら、ぼくとは相性抜群かもしれないね?
ぼくの幸せは過去にある。
一歩間違っていたら、ぼくもあんな姿になってたのかもしれないね。

【POW】【2回攻撃】【グラップル】
おえいさん母子の方に行こうとすれば、間を割って入る様にして絶対に近付けない気概で戦うよ。
可能なら敵の視界から外れる様な位置取りを狙って戦闘
奏ちゃんに攻撃が向かえば、全力で【ダッシュ】して【かばう】よ

負傷・アドリブ歓迎


織譜・奏
【同行者】犬曇・猫晴(f01003)
人を恨んで何になるんですか?哀れですね
死んでしまった事は確かに悲しいですが、今ある幸せを奪って良い理由にはなりません!

【WIZ】
『シンフォニック・キュア』で犬曇さんはじめ回復を担当しますね。
【楽器演奏】で本体である竪琴を奏で、柔らかく暖かい気持ちを【歌唱】で皆に届けて。
どちらの言い分が正しいかとか、そんな事は分かりません。でも……今の貴方は、ただの悪です!

おえいさんの護衛が必要なら私が引き受けます。さ、安全なところへ!

犬曇さんとはつかず離れずの位置で戦いますが、危なくなったら【逃げ足】を活かし【ダッシュ】で距離をとります。

アドリブ、絡み歓迎



「お……鬼だ!」
「本物の鬼が出た!!」
 村人たちは、お絹の変貌した姿を目の当たりにし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 だが、鬼と化したお絹は、全くそれを意に介する様子はない。

「――望み通り、今すぐ喰らってやる! 但し娘たちもろともな!!」
 お絹は……幸せを喰らう鬼は、反りの大きな刀を出現させると右手に握り、おえんに飛びかかってきた。
 おえんは動けない。覚悟を決めているのか、それともすくんで動けないのか。
 ――どちらにしろ。
「そうくると思ったわ!」
 ガキッ!
 猟兵たちが、おえんと娘達を守るべく、ぶあつい壁となって立ちはだかる。
 刃を受け止めたのは、蜂蜜院・紫髪の護衛人形であった。

 そして同時に。
「……あー、はいはいそーゆーコトね」
 ダダダダダダダダ……!
 ミハイル・グレヴィッチが紫煙をくゆらせつつ、鬼へと容赦のない段幕を張りはじめる。
「ダンナを見殺しにしたのが穢れだと言いたいワケだ……で、それがどうした?」
 くわえ煙草でうんざりしたような表情だが、その声には怒りがこもっている。
「世の中ってぇのは、残念だが不公平にできてるんだ。生きる為には、仕方なく、止むを得ず、ってコトもある。俺は過去に似た様なコトを散々見聞きしてきたから別段驚きもしねぇよ」
 特殊部隊出身の傭兵である彼は、嫌と言うほど人生の浮沈や機微、そして地獄と極楽を見てきているのだろう。
「むしろ俺がムカつくのは……そんな母娘や村人を偉そうに非難してドヤ顔かましてる莫迦、つまりテメェだこの野郎」
 引き金を引く手に力が籠もる。
 鬼の方も何事か呪を唱えて禍々しい気を集め、紅く燃える瞳でミハイルを睨んでいるが、構わず彼は毒づき続ける。
「まぁいずれにせよ、この先ここの村人がどうなるかは、テメェには関係ねぇ」
 ギリリと煙草のフィルターを千切れるほど噛みしめて。
「何故なら、テメェは今ここでブチ殺されるんだからな!」
「ほざけ! われが猟兵などに滅ぼせると思ってか!」
 鬼が地面を蹴って、銃弾に穴だらけにされるのもお構いなしで、ミハイルへと飛びかかってきた。――!
 ザッ!
「……ぐ」
 振り下ろされた刃の勢いは、先ほどおえんに向けられた刀より数段強い。さしもの百戦錬磨の傭兵でも引き金を引く指が緩み、
 ダダダダダダダダダ……ダダ……。
 段幕が止んだ。
 鬼はニヤリと牙を剥き、数人の猟兵に囲まれて介抱されている母子の方へと、再び目を向けた。
 だが、その瞬間。
 チュイーン! チュイーン! チュイーン!
「ぬっ」
 思わぬ方向から弾丸が飛んできて、鬼の利き腕と足を撃ち抜いた。
 ネリッサ・ハーディと灯璃・ファルシュピーゲルの狙撃である。技能を使い、巧みに物陰を動き続ける2人の位置は、日が暮れてきたこともあり、鬼の目であっても捕らえにくい。
 灯璃は更に、
「Sammeln!Praesentiert das Gewehr!……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!」
 ユーベルコートで影の狼の群を召喚し、木陰や物陰、更に仲間たちの影に潜ませておく。隙を見つけて死角から攻撃を加えるように命じ、灯璃はふと敵の矛盾に首を傾げた。
「不思議ですね。言い訳がどうとか言ってましたが……捕食活動で人を襲ってる存在が、不義の幸せを断罪するみたいな事言って……それも言い訳ではないのでしょうか?」

 ハヤト・ノーフィアライツ、江戸川・律、紫髪の3人は、母子には指一本振れさせぬ、という気迫を漲らせて鬼と対峙している。
「御託を並べちゃあいるが…要するに貴様は、生きている人間が、幸せが、憎いだけじゃねぇか。貴様が何だったかは知らんが……誰一人、貴様の好きにはさせないぜ……!」
 ハヤトがサングラスをちらりとずらして睨み付ければ、
「熱弁ご苦労さん、上っ面だけの幸せを喰らうためにね……なぁ? 何時からこの村を見てたんだ?『はぐれ狼』もお前が手配したんじゃねえの? 食事はじっくり熟成させた美味いものをてか? 本当に良い趣味してるぜ」
 律はあからさまにせせら笑い、
「全くじゃ。結局自分の思い通りに行かぬ故の癇癪じゃな。底が浅いことよ。吾吉の結末は結局は自業自得よ。お主がいくら責め立てようと、成した事で受けた報い、今更蒸し返す事でもないわ」
 紫髪は不快さを露わにして吐き捨てる。

 犬曇・猫晴と織譜・奏も、背後の母子を守る壁のように寄り添っている。
 奏は牙を剥き出す鬼を見上げ。悲しげにゆるりと首を振った。
「人を恨んで何になるんですか? 哀れですね。死んでしまった事は確かに悲しいですが、今ある幸せを奪って良い理由にはなりません!」
 憤りを見せるパートナーを、猫晴は傷ましげに見やり、
「やり場がないから恨むんだと思うよ。ぼくだって、奏ちゃんが死んじゃったら世界を恨んじゃうかもしれないし」
 ぐっと愛刀の柄を握りしめて、蘇りそうになる過去を抑え。
「それにしても、幸せを喰らうものかぁ。なら、ぼくとは相性抜群かもしれないね? ぼくの幸せは過去にある。一歩間違っていたら、ぼくもあんな姿になってたのかもしれないね……奏ちゃんに出会えなければ」

 長広舌ものろけも挑発のうち。仲間が鬼を引き付けてくれる間にと、
「君たちは、早急にここを離れるべきだネ」
 ナハト・ダァトが、いよいよ弱ってきたおみちを動かせるよう、医術の技能を使い応急処置を施していた。
「お願いします!」
 母おえんは今度は猟兵たちにひれ伏した。
「あたしは残って囮になりますので、どうか娘たちを遠くへ」
「そんなこと言わないで、顔を上げてください!」
 召喚したライオンにガードをさせながら、シュシュ・シュエットが涙目でおえんを鼓舞する。
「吾吉さんのことで後ろめたさを感じるのなら、おさとさんとおみちさんを救ってください。それには、おえんさんにそばにいてもらわないと!」
「ソウトモ」
 ナハトが頷き。
「過去が未来を否定するなんて許さなイ。未来は今生きている者が決めるものサ」
 とりあえずの応急処置を終え、逃げるタイミングを計る……が。

「グランドファルコン! ファルコン・ユナイトだ!!」
 ハヤトがユーベルコードを発動し、宇宙バイクと合体し大きなロボットに変身した。更に、
「出番だゴリアス!」
 召喚した竜が槍へと変化し、彼の手に納まる。
「消えな、過去の幻! 受けろッ! ドラゴニックッ!……エンドッ!!」
 槍を構え、全ての技能と力を込めて突っ込んでいく。
「喰らえええ!」
 勇ましく突っ込んでくるロボットから、鬼は逃げようと身をよじるが、律がすかさずブラスターの引き金を引いて牽制し、それを許さない。もちろん、周囲を固めている仲間たちも、ハヤトの渾身の一撃を成功させるため、援護の射撃を続けている。
 ゴッ!
 堅いものに槍が突き刺さる音がした。ハヤトの槍は鬼の腰のあたりに深々と突き刺さっている。一瞬の後、その槍から分離したドラゴンが、防御しようとした左腕に噛みついた。
「ぬ……」
 見事なダブル攻撃に、鬼のうめき声が聞こえた。
 だが、鬼は全身をひねり、
「うりゃああ!」
 ドラゴンとハヤトを一時に振り払った。ロボット化したハヤトをも振り解く、ものすごい力だ。
「げっ!」
 ガシャン!
 ハヤトは振り払われた弾みで、転倒してしまった。
 危ない、ハヤトが反撃されてしまう……!
 猟兵の誰もが仲間の身を心配した、その時。
「逃がすかあぁ!」
 足下に転がるハヤトのことも、傷ついた自らの身もまるで省みることなく、鬼は再び母子へと迫ってきた。
 突き出された掌は、母子を捕まえようというより、叩き潰してしまおうというように見える。ナハトの215本にまで増やした触手はじめ、そばにいる猟兵は体を張って母子を庇う……!
「全くしつこいのう。こんなこともあろうかと思ってはいたがな!」
 ぐしゃり。
 叩きつぶされたのは、紫髪の護衛人形であった。同時に狐火が、ぼう、と大きく燃えさかり、猛る鬼を押し戻す。
 そして、その空いた背中を狙い、
「やはりもう、完全に人ではない、ということですね。それならば心おきなく斬るまでです!」
 鬼の中にお絹の残滓を探していたクラト・ディールア(黎明の黒龍・f00868)が、迷いを振り払い刀を抜いた。一足の元に接敵し、呪詛を込めた刃を、まず一撃。暫時のうちに二撃。
 
 母子から、鬼がまた猟兵たちによって少し遠ざけられると。
「も、もし、猟兵様方」
 這うようにして茂みの中から現れたのは庄屋であった。山側をコソコソと回ってきたのか、着物は雪に濡れ、髷も歪み、貫禄の欠片もない。
 村人たちととっくに逃げたと思ってたのに、まだ残っていたとは、と母子を護衛する猟兵たちは呆れた。
「おえんたちを、わしの家の蔵に隠したらどうでしょうか。節分の用意で蔵には豆がたんと置いてございます。多少の魔除けになるかもしれません」
 節分用の豆がオブリビオン除けに効くとは思えないが、蔵というのは良い隠れ場所であろう。野外よりはよっぽど護りやすいし、風雪も防げる。それに、村外まで逃がさなくてもいいというのも魅力的だ。
「よし、それでいこう。でも庄屋よ、おぬしはお絹の味方だったであろうに」
 うさんくさげに紫髪が聞くと、ぶるぶると庄屋は首を振り、
「あ、あんな恐ろしいモノだとは露知らず雇い入れてしまい……おえん、すまなかったな、勘弁してくれ。私らは完全にあいつに惑わされていた」
 庄屋はおえんに丁寧に頭を下げ。
「今思えば、名前が鬼を示していたのに、とんと気づきませなんだ」
「名前?」
「お絹……きぬ、の文字は、本当は『鬼』『怒』なのではないでしょうか」
「怒れる鬼か……」
 漢字を解す猟兵たちは、なるほど、と一瞬考えこんだが、今はそんな場合ではない。せっかく逃げ場所ができたのだから、鬼の猛攻の隙をついて、なんとか戦場を離れねば。
「あ、あの」
 話が決まり、逃げるタイミングを窺いだす猟兵たちに、庄屋は。
「まだ何かあるのかイ」
「逃げる時は、どうか私もお守りくださりませ……」
「もちろん護るつもりだけれどネ」
 結局自らの保身がメインなのが透けて見え、ナハトは呆れる。
「鬼の眼中に、君は全く入っていないと思うヨ」

 鬼を攻撃している猟兵たちも、母子をこの場から逃がしたいという思いはもちろん同じであった。
「東の黒龍よ、西の黒き魔物よ、我が体に流れる血と肉に宿れ。弐式・龍牙開眼!」
 クラトはユーベルコードを発動し、黒龍の力をまとった。この技は、高速移動と、斬撃により衝撃波を放射することができる。
 だが、母子から鬼を少しでも離さなければ、と考えると攻撃位置が限られる。
「それでも……やるしかないですね」
 突き出された鬼の掌底を見切りでかわす。鉤爪が肩をかすめたが、その程度では必殺技で強化された体躯は揺るぎはしない。
「たあっ!」
 走り込みながらの、気合いの一閃。
 黒龍の力で駆ける足は地を揺るがし、低く薙いだ刀は旋風を巻き起こす。
 グワアッ!
 巻き起こった地吹雪混じりの衝撃波は鬼の足を掬う。
 ドン、と鬼は背中から無様に倒れた。
 もちろんすぐに起きあがろうと動き出すが、
「今だ……少しだけつきあってもらおうか!」
 真の姿の片鱗をみせ、大柄竜人の姿となっていたラザロ・マリーノが、雪の斜面から駆け下りてきた。その勢いを借りて、強烈な拳を、身を起こしかけていた鬼の鳩尾へ……!
 ボムッ!
「ぎゃあっ!」
 殴打がもたらした爆発で、鬼の腹が黒く焦げた。そして、ラザロの手から延びる【羅索】が、その腹にぐるぐると巻き付いた。
 ユーベルコード【修羅の業】だ。
 とうとう鬼を捕まえた!
 ラザロは、吠える。
「もうこれ以上てめえにゃ何もさせねえよ!! この世に綺麗なだけのやつなんていねぇ。誰だってやましいことの一つや二つ持ってるもんだ。そこだけを取り出して人間を語るんじゃあねえよ!」

 ラザロがユーベルコードを発動した瞬間、律も【ペンは剣よりも強し】を発動し、10秒先の未来を予測していた。
 律はパッと目を見開くと、母子と庄屋、そして彼女らを護る猟兵たちに、囁いた。
「今だ、逃げるぞ。ラザロの技は成功する。しばらく鬼は動けねえ」
 仲間たちは頷いて、素早く待避の準備に入った。
 未だ朦朧としているおみちは、シュシュとライオンの背に乗っていち早く逃げる。
 おえんは紫髪が肩を貸す。
 おさとはナハトが抱いていく。
 庄屋は、律がカバーはするが、自力で走ってもらう。
 猫晴と奏は逃走のフォローに入る。
 律は、ラザロと鬼の動きを瞬きもせずに見つめている――。
「――今だ!」
 戦場の縁、鬼の背中側を回りこむように、猟兵たちは走った。
 鬼はラザロとの攻防に気を取られ、こちらをまるで見ていない。
 猫晴と奏は、脱出する者たちを鬼の視界から隠すように動き、自分たちの姿に隠れるようにカムフラージュして――。
 とうとう脱出隊は、無事に家々の間へと駆け込んだ――ここからはもう、身を隠す場所はたくさんある。
 やった、脱出成功だ!
 雨戸までぴっちり締め切った、物音ひとつしない家々の陰を駆け抜ける。村人たちは家にこもり、夜具をかぶって震えているのだろう。
 全身をユーベルコードで徹底的に強化し、常よりも外見の異形度を更に増しているナハトは、走りながら、腕の中のおさとに尋ねてみた。
「私の姿は怖くないかイ?」
 おさとはきっぱりと首を振り。
「ちっとも怖くねえ。兄さんは見た目は奇妙だけど、内は優しい人だ。本当に怖い人は、お絹さんや死んだおっとうみたいに、見かけは普通でも、内に鬼を住まわせてる人だと、オラは思う」
 ナハトは触手を伸ばし、おさとの生真面目に引き締まった頬をそっとなでた。
「君は、本当に賢い子だネ……」

 道中、紫髪もおえんと少しだけ話をした。
「狼退治を成したからこそ、吾吉は英雄として死ねた、とも考えられるのではないかのう」
「はあ」
 おえんは、齢100歳のヤドリガミの言葉を怪訝そうに聞いていた。
「もし、酒の上のケンカででも死んでいたら……そんなことも、あり得る男だったんじゃろ?」
「ああ……それは、はい。正直なところ」
 少しは気持ちが慰められたのだろう、おえんはうっすらと苦笑した。

 当然、おえんたちの脱出には鬼もすぐに気づいた。だが、ラザロが死にものぐるいで縛り付けている索を引っ張り続けている。
「離せ!」
「誰が離すか!」
 もがく鬼は、幸い遠距離に届く技を持っていない。脱出する一行の背中は無事に村の中へと消えていった。
 それを見届けた残った猟兵たちの意気は、一気に上がる。
 ――あとは鬼を倒すだけだ!

 戦場を機敏に駆け回り、確実な射撃を続けてきたネリッサは、村の方に向けて、
「罪の意識を必要以上に卑下する事もありませんが、決して忘れる事は無い様に」
 と呟くと、敵の真っ正面へと踊り出て、
「大体の事情は把握できました。しかしあなたが偉そうに言える事でしょうか。所詮、母娘や村人の弱みに付け込んで偉そうに御託を並べてるだけにしか聞こえませんね。いずれにせよ、私達の方針に変更はありません。あなたを、排除します」
 銃口を鬼にピッタリと向けて進み出た。まだ束縛から逃れられない鬼は、その銃口にわずかながら恐怖の表情を見せた。ここまでネリッサの銃撃の腕をみせつけられているせいもあろう。
 その表情を見て、ネリッサは。
「残念ながら、あなたに幸せを与える訳にはいきません。その代わり……恐怖と絶望を、与えましょう。The Unspeakable One,him Who is not to be Named……さぁ、貪り尽しなさい!」
 ユーベルコードにより召喚されたのは【邪悪なる黄衣の王】。魔王は無数の禍々しき触手を鬼に伸ばし、絡みつく。
「ぎゃあああぁぁ!」
 触手により与えられる恐怖に、鬼といえど悲鳴を上げずにはいられない。
 重ねて、絶妙なタイミングで、
「行け、狼よ!」
 木立や物陰に忍ばせておいた、灯璃の影の狼たちが一斉に襲いかかった。狼たちは、ここまでおあずけをくらっていた鬱憤を晴らすように、容赦なく得物に牙を食い込ませる。
 触手にからみつかれ、狼に貪られるおぞましい姿の敵に、灯璃はクールに言い放つ。
「貴方は所詮、化物で部外者でしかないんですから。余計なお世話でしかないですよ?」
 そして再び、ネリッサと共に冷静で精密な射撃をはじめた。

 そこへ。
 グワアッ!
 いきなり飛び込んできた金色の獣の爪が、鬼の顔をざっくりと切り裂いた……シュシュのライオンだ!
 雪の上に軽く着地したライオン。その背の上のシュシュは、意気揚々と。
「おえんさんたちは、無事に逃げられました!」
 おえん一家は無事に庄屋の蔵に到着したようである。
 ライオンのおかげで機動力のある彼女が、伝令として戻ってきたのだ。
「くッ……よくも我の獲物を奪ってくれたな」
 鬼は幾つものユーベルコードにがんじがらめにされながらも、血を滴らせる瞳でシュシュを憎々しげに睨みつけた。
「呪ってくれるわ!」
 鬼の全身におぞましき怨念が集まってくる。黒々としたエネルギーが漲り、とうとう全てのユーベルコードを振り解いた。
 鬼はすかさず刀を構え、
「憎らしや!」
 ザンッ!
「きゃあっ……ライオンさんっ!」
 ライオンの額がぱっくりと斬られた。残りすくない寿命を削ってまで繰り出された技の一撃は速く強烈で、ライオンも逃げ切ることができず、身を呈してシュシュを庇ったのだ。
「わたし、怒りました!」
 シュシュはユーベルコード【錬成カミヤドリ】を発動し、ガラスの靴を両手いっぱいに複製した。
「えーいっ!」
 一気に投げられたガラスの靴は、キラキラと輝きながら鬼に降り注ぐ。
 キラキラ、キラキラと……。

 その輝きは、弱った鬼の視界を一瞬惑わせた。
 一瞬動きの止まったその隙に、ミハイルの弾幕が鬼の足下を薙ぎ、
「――穿風!」
 猫春が敵の死角から飛び出した。短槍を構えた彼は、突くと見せかけながら、目にも止まらぬ速さで上下を持ち替えると、
 ビシリ! 
 刀を持つ利き手の肘を柄で打ち据えた。
「がっ!?」
 打撃は腕の痛点を的確に捉えたらしく、鬼は刀を取り落としかける。
 だが、しびれていない左手は身を引こうとする猫春を追いかけ、張り倒す。
「……ウッ」
 掌底に殴打され、倒れた猫晴に、
「犬曇さん、大丈夫ですか!?」
 思わず奏は駆け寄ろうとするが、その猫晴に押しとどめられる。
「奏ちゃん、歌うなら、皆のために」
 奏は、ハッと立ち止まり、頷いた。
 すぅ、と大きく息を吸い、歌い出す。
 透き通った声で【シンフォニック・キュア】が戦場に流れる。その美しい歌声は激しい戦いに傷ついた仲間たち全ての傷を癒していく。
 共感したものだけが、癒される歌。『幸せを喰らうモノ』は、決して嫌されることのない歌だ。

 奏の歌声に癒された猟兵たちは体力を取り戻し、弛むことなく鬼を攻め続ける。
「ムハエル、出番です……それっ」
 クラトが翼竜を変化させた槍を投げ、同時にハヤトが金属の体で体当たりするように突っ込んでいく。
「でりゃああ!」
 2本の槍の衝撃で、鬼の体が大きく揺らいだ、その時。
「血に飢えた……幸せに飢えた悲しき鬼よ」
 力を溜め、じっと機会を窺っていたユト・リーィングが、大胆に鬼の懐へと踏み込んだ。
 鬼も死にものぐるいで刀を振り上げ、その切っ先はユトの腿を切り裂き、血が飛沫く。
 だが、ユトは一切怯むことなく、厳しい眼差しで敵を見つめ。
「その輪廻、俺の刃が打ち切ってやるぜ。肉塊に切り刻み……邪を祓ってやる……!」
 剣刃一閃――上段から振り下ろされた野太刀が、鬼の胸をざっくりと袈裟懸けにした。
 大きく開いた胸の切り口から流れ出るのは、深紅の血ではなく――光と闇の入り交じったエネルギー体であった。鬼が貪ってきた、人という刹那を生きる者の、幸せと闇と。
 その中には、鬼が人であった頃の思い出も、含まれていたのかもしれない。

 最期に、かすれた声が、
「……幸せとは……なんだ……」
 問いかけのように囁きかけ、鬼の体は薄く雪の積もる地面へと崩れ落ちた。
 もう、動かない。

 滅んだ鬼をしばし見つめると、ユトは刀を鞘に納め、仲間を振り返った。
「なんて、哀れな姿だ……せめて遺骸を清めて埋めてやりたいのだが」
 敵に対するせめてもの手向けは、彼なりの騎士道なのだ。
 だが、仲間たちは首をふり、その必要はなさそうだ、と言う。
 再び鬼の遺骸に目をやると……。
『幸せを喰らうモノ』は、もはやボロ布のように千切れ黒い塵となりかけていた。塵は風に吹き散らかされ、骸の海へと還っていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月07日
宿敵 『幸せを喰らうモノ』 を撃破!


挿絵イラスト