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暗い森を走る

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 はあ、はあ、はあ。
 真っ暗な森の中を裸足の少女が走る。おそろしい何か、その爪が宙を切り裂く気配を、悲し気に聞こえる獣の遠吠えを背中に聞きながら。泣きたいのはこっちの方だ、と彼女は思う。せめて領主のように愉悦に溺れながら殺戮を行ってくれたなら憎しみを強く抱けるのに。
 親友を残してきた古城を振り返る度胸も、死んで詫びる勇気も出ない。
「だれか、助けて……」
 心の奥に悲鳴を封じ込めて。滲む目元を手の甲で拭い、少女はさらに走った。
 血だらけの足にはもうすでに感覚はない。

 その村には言い伝えがあった。それは絶対に守るべきルールであり、風化しない教えだった。けれど、ルールに守られて悲劇から遠ざけられて生きてきた者には、その一線をこえてしまった先にある現実は作り話のように遠い。
 安全圏からわずかに踏み出したその足を、死が捕らえた時にはもう手遅れなのだ。


「ダンスは好きかい?」
 マカ・ブランシェ(真白き地を往け・f02899)がグリモアベースにいる猟兵達に声をかける。足を止めた猟兵の存在を確認すると、マカは地図を広げながら話を続けた。
「ダークセイヴァーのとある村ではね、毎月満月の夜に18歳になった少女たちを集めて領主にダンスを披露する祭りを行うのだよ。領主はその中から好みの少女を数名選んで城に連れて帰るっていう……まあよくある話なのだよ」
 当然、愛する人を手放したくない村人達は武器を手に城へ向かったが、領主はおろか城の周辺をうろつくオブリビオンに次々と殺され、村に帰ってはこなかった。
「選ばれたら最後、確定した死からは逃れられない……そのはずだったのだ。けれど、囚われた城から逃げることに成功した少女が予知されたのだよ。彼女は、満月の日に村の周辺へオブリビオンが集まることに気付いて、警備が手薄になった隙をついて城を抜け出すのだ」
 無論、城の警備が全くのゼロになるわけではないが、祭りのない日に警備を突破して城を強襲するよりは成功率は格段に高い。
「この生贄を捧げるクソッたれの慣習にはもうひとつ話があってね。生贄が万が一城から逃げ出したら、明朝、村は滅ぼされるのだよ。生き延びるために結んだ……というより、強引に結ばされた協定なのだろうね」
 少女の逃走が予知された以上、村を救うためには先手を打って城に飛びこみ、領主を滅ぼすしかない。どうか村人達を救ってほしい、とマカは猟兵達に静かに呼びかけた。
「そうそう、この祭りは元々満月に祈りを捧げるために村人全員で踊るものだったらしいのだよ。だから、領主を倒せた暁には、村人達と楽しく踊ってあげてほしいのだよ。猟兵達との新しい記憶で、村人達の心の傷も少しは和らぐだろうからね」


Mai
 Maiです。ヘビーめな内容となりますが、よろしくお願いします。

 第一章は城への突入後から始まりますので、潜入については特に書かなくて大丈夫です。囚われている少女達に関しても、オブリビオンを倒しさえすれば身の安全は確保されますので救出せずに進んで大丈夫です。
 第三章では、村人やお誘いあわせたキャラクターさんでダンスを楽しんでください。
(マカは基本的にひとりでぶらぶらしておりますので、声をかけられれば応じるかもしれません)
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第1章 集団戦 『オルトロス』

POW   :    くらいつく
自身の身体部位ひとつを【もうひとつ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ほえる
【悲痛な咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    なかまをよぶ
自身が戦闘で瀕死になると【影の中から万全な状態の同一個体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

種子島・友国
【心情】
助けてと望まれるなら応えよう
血と鉄にまみれることになったとしても、人の願いを実現する為に作り出された
つまるところ、僕達はそういうものだからね

【SPD行動】を選択
オルトロスに対しては【千里眼射ち】を使用し、相手のUCの射程外から攻撃する

仲間が攻撃に移る時や防御を行う時には【援護射撃】でもってサポートしよう


アネット・レインフォール
◆心情
成る程な…。少女を保護するにしても先ずは派手に陽動として動くとしよう。
可能なら城内部の見取り図を手に入れる事が出来ればいいんだが…あるなら書物庫か?

◆行動
【POW】流水戟で攻撃(霽刀・葬剣を主軸)

単車で突入して、その後の戦闘では派手に行こう。
敵の数が多いのである程度の広さのある部屋で対処出来れば、
まとめて相手する事が出来るかもしれない。

戦闘では葬剣を無数の鋼糸状にし足場に変え、空中戦を取り入れることで
縦横無尽に変則的な攻撃を心掛ける。
固まっている敵等をなぎ払いながら効率的に事にあたるとしよう。

時折、壁・天井・扉を狙って派手な物音を立てて注意を引く事も検討。

◆他
連携・アドリブは歓迎


フォルク・リア
「まったく、良くある話だ。
眩暈がするほどにな。」
やりきれない思いを抱えつつ。
「それを悪い夢っだったように
忘れさせるのが俺の役目だ。」

敵の数や配置、周辺の地形や攻撃範囲を確認して
囲まれない様にしつつ距離を取り
リザレクト・オブリビオンを使用。
基本的に騎士に自分を守らせつつ蛇竜に攻撃を任せ。
できるだけ複数の敵を同時に相手にしない様にして
自身が攻撃を受けて解除されない様に立ち回る。
敵に与えたダメージを良く確認して
敵が瀕死の状態になりそう、若しくはなっていたら
二体に攻撃させて一気に確実に仕留め。
「なかまをよぶ」を使わせない様にする。
仲間が一緒の時も敵の状態を確認し
同様にダメージの多い敵から仕留める。


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
生贄を喰らい続けた領主か
さぞ血と怨念が染みついているだろう
我等が糧として申し分なし
まずは獣共の血肉で腹ごなしとしよう

【行動】
「暗視」「視力」「第六感」も働かせる
効率よく殲滅できるよう「戦闘知識」を活かして立ち回り

【戦闘】
「先制攻撃」で「影面」を一体に使用
命中したら「殺意の炎」「なぎ払い」で周囲の敵を牽制
「ダッシュ」で「串刺し、「二回攻撃」「傷口をえぐる」で始末
周囲の敵が牽制に怯まない場合「怪力」で一体を引き寄せ「二回攻撃」
拘束したまま寄ってくる敵に叩きつけ、その地点に「ダッシュ」
周囲の敵を「範囲攻撃」で「なぎ払い」
残った敵には「くし刺し」と「傷口をえぐる」の「二回攻撃」


蘭・七結
城から逃げ出す少女…まるでサンドリヨンのようね。
現実は、そんなおとぎ話のように甘くて美しいものではないようだけれど。
領主を驕る敵を倒して、本来のカタチを取り戻しましょう。そちらのほうがずっと美しいわ。

味方の方と距離を取り〝紅恋華〟を使用。
アネモネの花時雨の味は、いかがかしら。
仕留め損ねた敵がいれば間合いを詰めて【生命力吸収】で弱体化させ、愛用の斬首刃と白刀で【なぎ払い】や【フェイント】を駆使しながら倒すわ。
相手の咆哮は、ナユの双子人形たちを使って【敵を盾にする】ことで回避できたら。

月明かりに〝あか〟いアネモネの花弁が重なって、とってもキレイだわ。
さあ踊りましょう。そして〝あか〟に歪みなさい。


リネット・ルゥセーブル
さて、この度ばかりは言わなければいけない事と、言わなければならない相手が2つずつある。
犬っころ、君ではない。過去は過去に還るといい。

『謂れなき呪詛返し』をにより、【呪詛】弾で相手の体力を削りつつ、少しずつ、呪いの糸でワイヤートラップを仕掛けていく。(【罠使い】)
攻撃は【フェイント】を交えて回避を狙い、被弾しそうになったらフィーネを【盾受け】として使い、ダメージは受けないように。

他の猟兵がいれば【支援射撃】のていを取る。
そうすればより【目立たない】だろう。

ワイヤートラップを踏めば、召喚する間もなく拘束できる。
それを一つずつ潰していくとしよう。

レッドチェックの時間だ。


篁・綾
…黒い獣。
…そう。この場所に相応しい姿なのね。
加減はしないわ。
【属性攻撃】【範囲攻撃】【目潰し】【見切り】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【呪詛】を駆使して、ユーベルコード【桜花葬煌】を発動。
桜吹雪を巻き起こし、花弁に触れた黒い獣を焼いていくわ。
攻撃には【残像】【フェイント】【見切り】で間合いを調整しながら対応し、近くに踏み込まれた場合は
【武器受け】【オーラ防御】【カウンター】【激痛耐性】等でなんとかするわ
…この子達に恨みはないのだけれど、ね。
…悪いけど、押し通らせて貰うわ。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。この獣、悲しんでいる?
何故嘆いているのか私には理解できないけど…
そんなに悲しいなら、私が骸の海に還してあげる
そこで安らかに眠るがいい

事前に防具を改造
第六感に訴えて存在感を消す呪詛を付与
…獣の嗅覚や聴覚を誤魔化すのは大変
だけど、それが小石のように認識し辛い存在なら…

敵の行動を暗視を頼りに見切り【限定解放・血の波濤】を発動
吸血鬼化した怪力を瞬発力に変えて敵の懐に潜り、
大鎌をなぎ払い、生命力を吸収する血色の衝撃波を放つ
力を溜めた血色の魔力が体内で爆発、傷口を抉る2回攻撃で追撃

…ん。そう、仲間を呼ぶの
確かに厄介だけど…一匹ずつ確実に仕留めていけば良い
…波濤は逆巻く。轟き砕け。血の怒涛…!



●嘆きの獣
 湿り気を含んだ冷たい空気を纏ったその古城は、まるで棺のように見えた。オブリビオン――オルトロスとの遭遇を避けるように森の中を進み、古城の裏口へと辿りついた猟兵達は、周囲への警戒を強めながら重い木製の扉を開く。城内に明かりは少なく、申し訳程度にともされているオイルランプの火もじりじりと揺らいで今にも消えそうだ。幸い、月の明かりは申し分なく差し込むようで、照らされ青白く浮かび上がる廊下に致命的な死角はなさそうだ。
「まったく、良くある話だ。眩暈がするほどにな」
 廊下を進みながら村の現状を思い返し、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はこみ上げるやりきれない思いを押し殺し奥歯を噛む。それを悪い夢っだったように忘れさせるのが俺の役目だ、と気を立て直してオルトロスの気配を探るフォルク。
「城から逃げ出す少女……まるでサンドリヨンのようね。現実は、そんなおとぎ話のように甘くて美しいものではないようだけれど」
 城の装飾を一瞥しながら蘭・七結(恋一華・f00421)も現状を憂い、首から提げた柘榴石の指輪をそっと握り込む。城から迎えにくるのが王子ではなくオブリビオンだなんて、なんてつらい話だろう。
「助けてと望まれるなら応えよう。血と鉄にまみれることになったとしても、人の願いを実現する為に作り出された……つまるところ、僕達はそういうものだからね」
 種子島・友国(ヤドリガミのアーチャー・f08418)は二人の後ろを歩きながら、帯同している自身のルーツである火縄銃に触れた。歴戦の傷を癒すように改造を多く重ねたそれは、一般的な火縄銃とは少しかけ離れた姿をしていて、鋭い眼光の友国とよく似ている、と突入前よりフードの奥から密かに観察していたフォルクは思う。
「生贄を喰らい続けた領主か……さぞ血と怨念が染みついているだろう」
 西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は古城の主に思いをはせる。殺戮を重ねているというオブリビオンだ、我等が糧として申し分なし、と引き締めた表情の裏に殺意と狂気をふつふつとたぎらせていた。
「領主を驕る敵を倒して、本来のカタチを取り戻しましょう。そちらのほうがずっと美しいわ」
 ゆらりと廊下に横たわる柱の影が揺れたのを七結は見逃さなかった。
「……黒い獣」
 篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)も同時に異変に気づき刀を抜く。影で出来た大きな犬のようなオブリビオンが2頭、猟兵達の行く手を阻んでいた。
「さて、この度ばかりは言わなければいけない事と、言わなければならない相手が2つずつある」
 リネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)は古ぼけたくまの人形を腕にしっかりと抱きなおし、ついと手をオルトロスに掲げる。
「だがそれは犬っころ、君ではない」
 過去は過去に還るといい。リネットの放った呪いを込めたエネルギー球が戦闘開始の合図だった。

「踊れ、踊れ、葬送の桜よ 送り火となりて総ての不浄を灰燼と化し、涙の運命を焼き尽くせ」
 綾が桜吹雪を巻き起こし、オルトロスを焼く。桃色に燃え上がる炎にうめき声をあげる仲間の姿を見ていきり立ったのか、もう片方のオルトロスが綾めがけてくらいつく。攻撃を見切り、刀で押さえた頭部に代わり刀にかけられた前足も頭部へと変形しなおも噛みつこうとオルトロスはあがいた。
「そうはさせない」
 リネットの呪いの糸が第二の頭部を縛り上げる。天井から伸びた無数の糸に釣り上げられたオルトロスはまるで操り人形のようだ。
「……あなた達に恨みはないのだけれど、ね。……悪いけど、押し通らせて貰うわ」
 身動きを封じられたオルトロスを、再び綾の桜吹雪が燃やす。うめき声に同調するように先ほどまで焼かれていたオルトロスが遠吠えをすると、影の中からもう一体のオルトロスが現れた。
「ある程度傷を負わせた後は、一気に畳みかけてしまわないといたちごっこだな」
 フォルクは仲間達の後方で敵の動きを見極めながら、リザレクト・オブリビオンで死霊騎士と死霊蛇竜を召喚する。前衛に出ている仲間達の守りは固く、恐らく自身がダメージを受けることはないだろうと判断したフォルクは、各個撃破と増援を防止するために騎士と蛇竜に仲間達と同じオルトロスを……綾の桃色の炎が焼いていた個体を攻撃するようにと指示を出した。友国の援護射撃も加わり、集中攻撃を受け仲間を呼ぶ間もなく倒れたオルトロスは、影に溶けるようにかき消える。ほっと息をつき現状を把握し直すく間もなく一行の目に映ったのは、戦闘の気配を察知して通路の奥から駆け寄ってくる三体のオルトロスだった。

「計4体……相手の数に対して、通路が少し狭い。これでは皆で存分に戦えないぞ」
 後方より敵の配置と仲間の動きを見ていたフォルクが仲間に告げる。前衛の仲間を援護射撃で支援していた友国も短く同意した。範囲内の全員を攻撃してしまうユーベルコードの使い手である七結に、攪乱攻撃を得意とする織久は敵や仲間との距離の近さに本領を発揮できず苦戦しているらしかった。
「大体の城には開けたホールがあるはずよ。けれどここから最短で行く方法は分からない」
「後退したとして、袋小路に迷い込んではこちらが不利になる」
 少年と少女の人形で駆けつけたオルトロスの悲痛な咆哮を防いだ七結と、くまの人形で同じくダメージを回避していたリネットが応える。この状況で敵に背を向けるのも自殺行為に等しい……誰もがそう考えていたときだった。
 オルトロスの群れの後方から、単車に乗ったアネット・レインフォール(剣の家庭教師・f01254)が派手な音を立てて飛びこんできた。
「お前たちの相手はこっちだぜ!」
 追い抜きざまにオルトロス達へ流水戟を食らわせるアネット。反射的に噛みつこうとしたオルトロスだったが間一髪、角を曲がって通路に飛びこんだアネットには届かなかった。
 陽動にと派手に音を立てて城内を探索していたアネットは、同時に城内の見取り図を探していたのだ。無事書物庫へ辿りつき目的のものを発見した彼は、複数のオルトロスを相手にするならば広さのある部屋がいいだろう、と再び爆音を響かせて城中央付近を目指していた最中に、仲間達を発見するに至った。挑発的な彼の剣戟と、動く標的に対する狩猟本能からかオルトロス達は反転し彼の跡を追う。
「……ん。この獣、悲しんでいる?」
 単車の後部座席から、追ってくるオルトロスの数を数えながらリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が首を傾げた。
「何故嘆いているのか私には理解できないけど……そんなに悲しいなら、私が骸の海に還してあげる」
 ぽつり、誓いのように呟いた彼女の声は単車のエキゾーストノートにかき消される。

●影となりて
 大きなシャンデリアと緩やかなカーブを描く階段、意匠をこらした柱は埃をかぶってもなお美しい。かつての城主達がダンスを楽しんでいたのだろうホールに、爆音を響かせて四体のオルトロスを引き連れたアネットとリーヴァルディを乗せた単車が突っ込んできた。ひらりとふたりが単車から飛び降りて戦闘態勢に入ると、ホールに飛びこんだ勢いのままオルトロスがアネットめがけて飛びかかる。だが、
「そこで安らかに眠るがいい」
 そこには、事前に防具に第六感に訴える呪詛を施し、自身の気配を小石のように認識しにくくなるまで消したリーヴァルディがアネットとの間に立ちふさがっていた。 
「……限定解放。薙ぎ払え、血の波濤……!」
 一瞬だけヴァンパイア化した彼女は、急激に上昇した怪力を瞬発力に変え、向かい来るオルトロスの懐に潜り込む。防御する隙を与えず大鎌をなぎ払うと、血色の波動を放って追撃を加えた。大鎌に切り裂かれた傷に潜り込んだ波動が体内で爆発し、ダメージを加算されたオルトロスは壁にぶつかるまで弾き飛ばされ、もんどりうって倒れた。だが倒すには至らなかったようで、その足元の影からもう一体のオルトロスが現れた。
「……ん。そう、仲間を呼ぶの」
 リーヴァルディは大鎌を構えたまま、一匹ずつ確実に仕留めていけば良い、と再びオルトロスを見据える。
「何人たりとも死の影より逃れる事能わず」
 彼女が戦っている間に追いついた織久は、ホールの入り口から一番近いオルトロスに黒い影を叩きこんだ。爆破し影の腕で自身とオルトロスを繋いだ織久は、こちらに振り返り噛みつこうと飛びかかってきたオルトロスのうち一体を、自身に宿る怨念と殺意の炎で燃やし、もう一体の跳躍し宙に浮いた状態のオルトロスをなぎ払いって吹き飛ばして牽制した。
「〝あか〟に歪め。……アネモネの花時雨の味は、いかがかしら」
 織久が作った間合いを見逃さず、七結が牡丹一花の花時雨を放ってオルトロス達を攻撃する。月明りにアネモネの花弁が重なり、まるでおとぎ話の一ページのような光景に、七結はうっとりとキレイだわ、と呟く。
「まずは一体、っと」
 アネモネの嵐を切り裂くように、オルトロスめがけて友国は意識を集中させて矢を放った。断末魔を上げて、花時雨が宙に溶けて消えるのに紛れてオルトロスが一体消滅する。
「我が罪を以てかの者を断罪する。其は裁きを下す者。其は自らの理にて自らの臓を貫く者。地よりも深く、穿て」
 リネットは呪いの糸を幾重にも放ち、三体のオルトロスの動きを封じようと試みる。拘束を逃れた一体のオルトロスはアネットの流水戟とリーヴァルディの大鎌に切り伏せられ、弾け飛ぶように消滅した。
「あと二体ね」
 七結は斬首刃と白刀を構えると手近なオルトロスに接近し、生命力を吸収する。そのままリネットの呪いの糸と共にオルトロスの体をなぎ払った。
 織久は自身と繋がれているオルトロスを怪力で引き寄せると、手にした闇器で一息にくし刺しにする。そのままの勢いで傷口をえぐり、攻撃を加え続ける。
「まずは獣共の血肉で腹ごなし、だな」
 犠牲者の血肉を啜る拷問具に語り掛ける織久が手を止めた時。生命力の尽きたオルトロスは闇に溶けて消えたのだった。

 アネットが手に入れてきた羊皮紙の包みをほどく。城の内部を示したその図を見ながら、猟兵達は領主がいるであろう最上階への進行方法を思案していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『子ども遣い『チャイルドマン』』

POW   :    理不尽な言いつけ
【攻撃】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    財産喰らい
自身の身体部位ひとつを【対象の親もしくは同じくらい信頼している人】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    操り人形
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【一時的に幼い頃の姿】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はステラ・リトルライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●愛しい子
 錆びた鉄の匂いが鼻をつく最上階の一室。領主のためにと職人が丹精込めて作った豪奢な椅子に座りながらチャイルドマンが見ているのは、赤黒く汚れた浴槽だった。
「まだ足りないのかい? 仕方ない子だね……」
 浴槽に浮かぶ、物言わぬ子供の人形に愛しそうに話しかけ、そのオブリビオンはくっくと笑う。
「村の娘が全員いなくなってしまう前に、お前には満足してほしいのだが。これだから育ちざかりは手がかかる……」
 芝居がかった仕草でため息をつき、チャイルドマンはそうそう、と話を続ける。
「昨晩契約を破って逃げた小娘がいるんだよ。だから夜が明けたら、城を空けるよ。約束だからね、皆殺しにするって。ああでも皆殺しにしてしまったらお前の食事がなくなってしまうね。まあいいか、血だけ抜いておけば」
 ぴちゃん。浴槽の上から下たる滴が赤黒い水面に波紋を作った。その音に、会話を邪魔され心底不愉快だというように領主は顔を上げる。
「まあ、人間など放っておけば鼠のように増えていくだろうしな。どうでもいいか、細かいことは」
 天井につるされた数えきれないほどの少女達の死体を、そろそろ処分しなければ。不快感をすべて吐き出すように、チャイルドマンは大きくため息をついた。
リネット・ルゥセーブル
随分と倒錯しているな。
だからこそ、古い盟約<のろい>が呪詛返ししたのだろうが。

そう。これは君が嘗て村を呪ったことによる呪詛返しだ。
だから、君が恨むべきは嘗ての君自身になる。諦めてくれ。

死霊使いで人形使いという訳か。カテゴリとしては私に似ているな。

だからこそ、打てる手がある。
この場で死んでいった者たちの怨みを蒐集し、二塊の死霊として呼び起こし、攻撃させる。
そうすれば、君が呼び起こせる死霊は総てデッドコピーだ。本来の性能は発揮できまい。
私への攻撃は人形を使った【フェイント】と【盾受け】で防いでいく。

その呪い<おもい>に相応しい力は与えた。好きに振るってくれ。
その【呪詛】を今こそ形にするといい。


篁・綾
悪趣味の極みね。お前も。この場所も…ッ!

【おびき寄せ】【(レア素材的な)誘惑】【残像】【フェイント】【見切り】【第六感】
及び、ユーベルコード【桜花絶影】、【目潰し】を駆使して
回避力と機動力で相手を撹乱するわ。
鬼は追いかけっこに乗るかしら?

乗る乗らないにせよ、相手の攻撃の隙を狙って、【カウンター】【衝撃波】【マヒ攻撃】【呪詛】【なぎ払い】【鎧砕き】【鎧無視攻撃】【2回攻撃】を駆使して鉄傘で殴りつけるわ。

もし攻撃を受けてしまった時は【激痛耐性】【オーラ防御】【呪詛耐性】で耐え忍ぶわ。…気分のいいものではないけれど。

…ここは現し世、……お前のような黄泉の悪鬼にも劣るようなものが居てよい道理はないわ!


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
血の臭い、死の臭いがする
我等が狩るべきオブリビオンに相応しい
犠牲者の血肉と怨念ごと我等の糧となるがいい

【戦闘】
「先制攻撃」で「影面」を使用
拘束が成功したら「怪力」引き寄せる
同時に自分も「ダッシュ」して勢いを乗せた「串刺し」
つけた傷を「二回攻撃」「傷口をえぐる」

敵の攻撃は「視力」「暗視」「第六感」捉える
「残像」「フェイント」を利用した「見切り」
「怪力」での「武器受け」
どちも「カウンター」を狙い攻撃の手数を増やす


蘭・七結
むせ返るような血のかおり、ね。狂いそうなほどだけれど、ナユは一等のかたの血にしか興味無いわ。
惨劇について、敢えて何も言わない。
…けれど、この惨状から目を背けないわ。

操り人形になる少女たちと、人形遣いに〝嘲笑の惨毒〟
効果がない時は【生命力吸収】を。隙を狙って仕留めていくわ。
愛用の武器を使って【なぎ払い】や【2回攻撃】で1人ずつ倒していきましょう。
いたい?…今も、あの時もいたかったわよね。
無慈悲な行為であろうとも、ナユは手加減しない。
あなた達はもう、その愛らしい顔で笑わないって解っているから。

彼女たちを殺めたあなたの罪は重いわ、人形遣い。
この惨劇を降ろしましょう。
さあ、ラストダンスの時間だわ。


種子島・友国
【心情】
前座も終わっていよいよって訳だね
面白くもない話だ、さっさと終わらせるとしよう

選択したUCでの攻撃を行い、これに援護射撃、2回攻撃を併用して効果的な射撃を心掛ける
特に自分以外に向けられた攻撃には妨害するように援護射撃を行い、先手を打てる場合はUCと2回攻撃の手数を生かして両手の糸を集中狙い

自分が狙われた場合はみっともなく這いずってでも避けるとしよう

(理不尽な言いつけにはダメージ覚悟で)
僕は君の言うことは聞きたくないなぁ
(財産喰らいに対しては)
僕が忘れちまった持主達の顔を思い出させてくれるって言うのかい?君が?ハハハハハハハ!!
と、笑いながら受ける


アネット・レインフォール
◆心情
よし、最上階へのルートは確保出来そうだ。
念のため建物外観と見取り図上で不自然な差がないか比較しておくか。
もし違和感や事件の原因(領主の部屋で日記等)が分かりそうなら戦う前に少し探りを入れておこう。

◆行動
【POW】葬剣・霽刀を主軸

途中からの参戦になることを想定し攪乱&遊撃として動く。
フェイントも加えつつ常時移動しながら遠近問わず【雷帝ノ太刀】で居合を飛ばすことで応戦。
敵の注意を引くことで、他の仲間へのフォローも兼ねよう。
念のため生命力吸収の準備も忘れない。

もし刀剣を封じられたら単車から別の武器を射出し換装して対応する。
余力があれば【雷刃衝】で追撃を。

◆他
連携・情報共有を重視、アドリブ歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…ん。天井に少女たちの遺体…ね
あの人形遣いは確か、死体を操る力があったはず…
…これ以上、お前に彼女達を玩弄させはしない

改造した防具の呪詛を継続
第六感に訴えて存在感を消し、目立たないように行動
天井の遺体を【常夜の鍵】に回収して回る

敵に攻撃された場合は可能な限り見切り回避
命令は防具の呪詛耐性を信じて自身を鼓舞して耐える

…この程度で、止められると思わないで…!

敵の隙を突いて【限定解放・血の聖槍】を発動
吸血鬼化した怪力で掌打と同時に生命力を吸収する血杭を放ち、
力を溜めた血杭から無数の棘を炸裂させて傷口を抉る2回攻撃で追撃する

…聖槍は反転する。喰らい抉れ、血の魔槍…!

…戦闘後、遺体を一つ残らず回収する



●上へ、上へ
 最上階へ向かいながら、入手した城の見取り図と外観を照らし合わせていたアネット・レインフォール(剣の家庭教師・f01254)はある違和感を覚えた。二階から三階へ上がる際にふと目に留まった小さな窓が、見取り図に記されていないことを仲間達へ告げる。ひとりでも引き返して確認した方がいいだろうかと相談する彼に、種子島・友国(ヤドリガミのアーチャー・f08418)が懸念を口にした。
「万が一アネットが抜けた状態で戦って、火力不足で相手を倒しきれなかったら怖いな……」
「……ん。偉そうなやつ、隠れない」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)もこくりと頷き、じっとアネットの方を見る。確かにリーヴァルディの言う通り、領主を名乗り生贄を搾取しているオブリビオンだ、隠し部屋などに逃げ込むタイプではないだろう……探索は戦闘の後でも良さそうだとアネットはふたりに頷き返し、見取り図を懐へしまった。
 猟兵達は埃っぽい廊下を駆けあがり、領主の部屋を目指す。徐々に部屋数は減り、空気が重く沈んでいく。
 最上階、深紅のベルベットが敷かれた廊下の突き当りに、その扉はあった。
「血の臭い、死の臭いがする。我等が狩るべきオブリビオンに相応しい」
 西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)が殺意と狂気で赤い瞳を爛々と輝かせ、一族に伝わる大鎌を握り込む。
「前座も終わっていよいよって訳だね。面白くもない話だ、さっさと終わらせるとしよう」
 扉の前で立ち止まり、友国は自身のルーツである火縄銃の複製を錬成し、仲間達を覆うように展開すると各々の銃口を散らせて警戒態勢を取った。
「1、2、3、で扉を開けるぞ」
 愛用の剣を構え、仲間達の準備が整ったことを確認したアネットが数をかぞえ、織久と共に扉を蹴破る。

●白い月と黒い部屋
 猟兵達の見立て通り、そのオブリビオンは部屋の奥で椅子に座ったまま月を見ていた。
「これはこれは……随分と荒っぽい来訪だ。さては私の番犬を殺したね?」
 慌てる素振りもなく立ち上がると、オブリビオンは静かに腰を折り名乗る。チャイルドマンという名を表すように、その腕には子供の人形が抱かれていた。
「……ん。天井に少女たちの遺体……ね」
「むせ返るような血のかおり、ね。狂いそうなほどだけれど、ナユは一等のかたの血にしか興味無いわ」
 天井を見上げ、目の前の敵には死体を操る力があったはずだと仲間へ注意を促すリーヴァルディの隣で、蘭・七結(恋一華・f00421)はチャイルドマンと猟兵達の間に鎮座している赤黒い浴槽を一瞥し、視線を目の前の敵へと戻す。繰り広げられている惨状に、積み重なった少女たちの死について何も言わない彼女だったが、その横顔はそれらへ向き合う覚悟を表していた。
「随分と倒錯しているな。だからこそ、古い盟約<のろい>が呪詛返ししたのだろうが」
  リネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)も部屋を見回し、独り言のように呟く。死霊と人形を遣うオブリビオンに自分と似たものを見出し、ならば、と戦術を瞬時に組み立てる彼女の横で、鉄傘を握る手に力を籠めた篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)が吠えた。
「悪趣味の極みね。お前も。この場所も……ッ!」
 金色の狐の耳がぴんと天を向く。炎のように揺れる黒髪が彼女の胸の中で渦巻く怒りを表している様だった。
「犠牲者の血肉と怨念ごと我等の糧となるがいい!」
 織久が黒い影をまとわせた大鎌を振りかざし先制攻撃を仕掛け、友国が17つの銃口を一斉にチャイルドマンへと向けて織久の援護を行う。技能による2回攻撃も織り交ぜての切れ目ない友国の攻撃を少年の人形で防ぎながら、織久の大鎌を片腕で受け止めたチャイルドマンは、爆破を受け影の腕で織久と繋がれてもなお笑みを浮かべていた。織久がその表情に気付いた瞬間、影の腕を手繰り間合いを詰めたチャイルドマンの拳が鳩尾に捻じ込まれ、
「“私を攻撃するな”」
 理不尽な言いつけが織久を縛る。まずはひとり、とチャイルドマンが覗き見た目の前の猟兵の顔は、想像と違い捕食者の顔をしていた。ルールを破っても生きようと銛を走った少女と同じく、この場の猟兵達は誰一人としてオブリビオンの課すルールに従うつもりはなく――織久は大鎌を手放すとその怪力でチャイルドマンをさらに引き寄せると、闇撫と名付けられた拷問具に持ち替え一息にその身を串刺しにする。言いつけを破ったダメージを受けながらも傷口をえぐり、更にダメージを与えた。
「二度は喰らわない」
 反撃の拳は残像を残し後ろへ飛び退きかわす。言いつけが攻撃の抑止力にならないと気付いたチャイルドマンは、僅かに目を細め怒りをにじませながら、その右腕を変形させた。
「目障りな……まるでハエだな!」
 織久の後退により僅かにチャイルドマンの射程範囲へと入った友国を狙ったその右腕の形は、曖昧な人のような形を模すに留まる。敵からの攻撃はどんな醜態を晒すことになろうと絶対に避けてやろうと思っていた友国だったが、右腕の形に興味をそそられ、回避に躊躇いが出てしまった。
「僕が忘れちまった持主達の顔を思い出させてくれるって言うのかい? 君が? ハハハハハハハ!!」
 咄嗟に突き出した左腕を曖昧な形の頭部に飲まれながら、失った過去に痛む胸と、敵に記憶の欠片を期待してしまった自分に声を上げて笑う。複製した火縄銃でありったけの攻撃をチャイルドマンへ叩きこむ友国の抵抗に、アネットの放った見えない稲妻を纏った居合斬りが加勢し、友国は深手を負う前に後衛へと下がることに成功した。
「……あと2年もすれば良い血が採れそうだ」
「まったく……どこまで悪趣味なのかしら」
 友国から生命力を奪った、ギラギラと輝く金の瞳に見据えられた綾はそう吐き捨てる。ターゲットにされたならば丁度良い、攪乱して隙を作ってやろうと鉄傘を敢えてぎこちなく構え直した。綾の狙い通り、その構えを隙と見たチャイルドマンは変形した右腕で彼女に食らいつき生命力を奪おうと飛びかかる。
「はらり、はらり 舞う無数の花よ 地に墜つ影が消ゆより疾く 千千に乱れて宙へと踊れ」
 迎え撃つと見せかけた綾は、自身を無数の桜の花弁に変え、チャイルドマンの右腕をかわした。舞う桜の奔流となって素早く移動すると、味見のつもりだったなら残念だったわね、とせせら笑う。弄ばれ挑発されてプライドを引き裂かれたチャイルドマンは、天高く両手を掲げると声を張り上げた。
「侵入者どもを引き裂き血を啜れ、搾りカスよ!!」
 べちゃり、と天井から降ってきた三つの“何か”は、オブリビオンの手の動きに合わせてするりと立ち上がる。それはちょうど少年の人形と同じくらいの年頃に作り替えられた、生気のない少女だった。操られるままに猟兵の方へと突撃してくる彼女達に真っ先に武器を向けたのは、七結だった。
「耐え難いくらいが丁度いいでしょう?」
 彼女達とチャイルドマンの頭上へ麻痺を生じる神経毒のスパイスを降らせ、その動きを封じる。七結は流れるような動作で、愛用の斬首刃をなぎ払い間近にいた少女を斬った。
「いたい? ……今も、あの時もいたかったわよね。けれど、ナユは手加減しない」
 無慈悲な行為であろうとも。流れる血はなく、ごろりと床を転がる少女の体を見遣る。オブリビオンの術が解け、元の年頃に戻ったその姿に七結は思わず目を伏せた。
「あなた達はもう、その愛らしい顔で笑わないって解っているから」
「……これ以上、お前に彼女達を玩弄させはしない」
 リーヴァルディも、七結と同じ気持ちのようだ。先ほどまで自身の存在感を消し、自身の血液で作成した魔法陣を経由させて常夜の世界の古城へ天井の少女達の遺体を回収していた彼女は、目前でこの手をすり抜けてしまった骸を、止めることで守ろうと決意していた。
「……限定解放」
 一瞬だけヴァンパイア化したリーヴァルディは、そっと手のひらを少女の体にあてる。ふっと力を抜くように変身を解除した余波で魔力を圧縮して作りだした杭を放ち、少女を元の骸へと戻した。そのままチャイルドマンの方へ駆け抜けながら、リーヴァルディは再びヴァンパイア化する。
「刺し貫け、血の聖槍……!」
 チャイルドマンへ体当たりをすると、変身を解除した余波で魔力を圧縮した杭を放った。もつれあい、床に転がるリーヴァルディとチャイルドマンだったが、彼女の行動を瞬時に読み駆け出していたアネットが菫が刻まれた極黒の鋼糸でチャイルドマンの動きを封じ隙を作り、リーヴァルディが体勢を立て直す時間を稼いだ。
「貴様ら……よくもよくも、私と我が子の生活を壊してくれたな!」
 アネットの鋼糸を振りほどき、脆弱な人間の心をついたつもりだった――切り札でもあったユーベルコードを破られ、取り乱して恨み言を吐きながら右腕を変形させようとするチャイルドマンに、リネットが手を叩いた。
「そう。これは君が嘗て村を呪ったことによる呪詛返しだ」
 まったく出来すぎているくらい美しい循環だ、とリネットは言う。だから、君が恨むべきは嘗ての君自身になる。……諦めてくれ、と。リネットはこの場に澱のように重なっている死んだ者たちの怨みを蒐集し、騎士と蛇竜の姿を与えた。操られていた最後のひとりの少女も、がくりと糸が切れたように力を失い崩れ落ちる。リネットがこの場の怨みを掬い上げたことにより、操られていた死霊達はチャイルドマンの支配下から解放されたのだ。
「その呪い<おもい>に相応しい力は与えた。好きに振るってくれ」
 その【呪詛】を今こそ形にするといい。リネットの言葉に応えるように、2体の死霊はチャイルドマンへと襲い掛かる。死霊の猛攻を加速させるように織久が黒い影を放ちチャイルドマンの動きを封じ込め、
「彼女たちを殺めたあなたの罪は重いわ、人形遣い。……さあ、ラストダンスの時間だわ」
 七結もチャイルドマンの頭上へ体の動きを封じる神経毒のスパイスを注ぎ、愛用の斬首刃で斬りかかり、
「……ここは現し世、……お前のような黄泉の悪鬼にも劣るようなものが居てよい道理はないわ!」
 綾が桜の柄を持つ鉄傘でそれに続いた。

●夜明け前
 見取り図に記されていなかった隠し部屋は、村から連れてこられた少女達の中で村との契約に……ルールに従わず、生きようともがいていた者を閉じ込めている部屋らしかった。アネットが扉を開けると、空腹で立ち上がるだけの体力は残っていないものの、目の力を失っていない少女達が、彼の方を見あげていた。アネットは急いで仲間達を呼ぶと、彼女達をひとりずつ外へ連れ出していく。

 一方、チャイルドマンを倒した後も領主の部屋に残ったリーヴァルディは、未だ人の手が及ばず下ろされていない少女達の遺体を魔法陣で古城へ運び、回収していく。村に着いたら村人に相談して、遺体を運びだして良い場所に出口となる魔法陣を書く予定だ。忌々しい浴槽に残されている彼女達の血液も、葬る必要があるだろうと回収する。個人の特定が難しい程に傷んでいる遺体にも、帰る場所が必ずあるはずだと祈りながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『微睡みに溶ける』

POW   :    寝ずの番をする

SPD   :    寝具を用意する

WIZ   :    子守唄を歌う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●焚火を囲んで
 領主の城から助け出された少女達は、村人達に手当てを受け休んでいる。しばらくは人影に怯える癖が抜けない生活が続くだろうと村の医者は語った。犠牲となった者達の葬儀は、夜が明けてから村の外れで行われるという。
 村のルール――領主を名乗っていたオブリビオンとの契約を記した石板の前に呆然と立ち、逃げ出してきた少女は言う。
「こんなぼろぼろの約束、信じてなかった。今まで見たこともないくらい綺麗なドレスを着せられて、お城に連れていかれて。私たち、城に連れて行かれる道中で「もしかしたら本当に幸せになれるのかも」なんて囁き合ってた。遠い国に、助けてくれる誰かのところに連れて行ってくれるんじゃないかって」
 村人の誰も、彼女に声をかけられずにいた。彼女の両親と思しき大人は、少し離れた場所に俯いて立ち尽くしたままだ。
「この世界に、命の心配をせずに生きていける場所なんてないのかな……」
 まだわからないじゃない、とそんな少女に声をかける者がいた。猟兵が救出した少女達の中にいた、見捨てて来てしまったと、暗い森の中少女が何度も名を呼んだ彼女の幼馴染だった。
「私たち、まだこの村のことしか知らないよ。だから、諦めるのは早いってば」
 弱々しくも笑う彼女に、少女は駆け寄り抱き着いて、声を上げて泣いた。
「生きていることを噛みしめられるように。今日はみんなで踊ろう?」
 私はまだ踊れそうにないけど、と笑う少女が猟兵に手を差し出す。猟兵が重ねた彼女の手は、暖かかった。
アネット・レインフォール
◆心情
こういう時、何て言葉が相応しいんだろうな?
言葉の代わりではないが…せめて行動で示すことにしよう。

上手に嘘をつく方法は何だと思う?
…それは嘘の中に何割かの真実を内包させることだ、と昔の仲間が言っていたな。

◆行動
【POW】

寝ずの番と言っても暇だしな。
村人や踊りを見ながらマカと雑談でもしていようか。
今回は世話になった、とか皆を送る時はどんな気持ちだ、とか簡単な事を。

仲間に少し出てくると伝え、周囲の獣を狩って差し入れにでもしよう。
腹が減ると考え暗くなるしな?大きい獲物が見つかればいいんだが…。

後は…助け出した少女達の様子を鑑みて
「世界は広いこと」
「仲間が各地で決起し始めたこと」
を伝えておこうか。


リネット・ルゥセーブル
逃げ出した少女に話しかけよう。
踊りたいというならば付き合おう。心得があるわけでもないが。

逃げた事を、後悔しているのかい?

まあ、安易だったね。
でも、その安易な行動がなければ、私達は此処に居なかったかもしれない。
あくまで結果論だけれど。
願ったり、祈ったりするのは、良いか悪いかは別として、思いがけない効果を生む。
思いは、押し付ければ呪いに通じるものだから。

別に、怒ってなどいないよ。
いつかのわたしに似ているな、と思っただけさ。

わたしは呪うしか能の無い人間だから、思いを残して行くようなことはしたくないけれど。
……どうしてもというなら、そうだな

思いは、託すな。君自身が叶えるんだ。
そうでなければ後悔する。


篁・綾
WIZ分野に参加。
「…遥か昔の契約、か。」
「…辛かったでしょう。…でも、もう、大丈夫だから。…夜はきっと明けるから。」
材料が都合できるのであれば、【料理】で、身体の温まりそうな汁物を作って供する。
その後、【楽器演奏】【パフォーマンス】を駆使し、横笛の【神代桜】を吹いて子守唄を奏でる。
誘われるのであれば、【手をつないで】踊るのもいいでしょう。
【優しさ】と、小さな【祈り】を込めて。
彼女達の未来に少しでも灯りが灯ることを祈りながら。

彼女達の未来を、少しでも拓いていけることを祈りながら。


種子島・友国
【POW行動を選択】
【心情】
上手く事は片付いた、ね
万事めでたしめでたしで済んでくれたらいいんだけども
やれやれ

【行動】
【選択したUC】を起動し、亡霊と共に周りを見張る
とは言っても村人や仲間の視界からは外れないようにするよ
他のメンバーが交代出来るなら折を見て交代しよう

(見張りの最中、亡霊へは視線を向けず)
「まあ、僕にしてはよくやったんじゃないかな?アンタ達のことは忘れた、まんまだけどさ」
と言っても答えちゃくれないかな


蘭・七結
トモエさん(f02927)と。
お呼びするのが遅くなってごめんなさい。
来てくださってうれしいわ。

本来はステキな風習だったのに、あの領主に穢されてしまったのね。
村が元に戻るまで時間が掛かるかもしれない。またみなさんに笑顔が戻るように、最初の一歩としてみんなで踊りましょう?
だってこんなにステキな満月の日なのだから。

村人の方たちとひと通り交流後、トモエさんのところへ。
ここから見上げる満月はいかがかしら。
よかったら、ナユと踊ってちょうだいな。

眠りにつく時間帯になったら、寝具の準備のお手伝いをするわ。
もうあなたたちを脅かすものはいないわ。安心してゆっくりとおやすみなさい。良い夢を。


五条・巴
遅くなったけれど、七結(f00421)の所へ駆けつけるよ。お疲れ様、七結。

皆が助けてくれた少女達に寄り添って、できる限りのケアを。踊れる子とは踊るし、話したい子とは一緒に語らう。少しでも元気になってくれるように。悲観的にはならないように、いつも通りにね。

七結に誘われて、満月の下で1曲。こんな綺麗な月の下で踊れること、そうそうない。ちゃんとエスコートさせてね。

皆が眠る頃には寝ずの番を。
怖い夢を見ても、僕らがいるから大丈夫。安心して眠ってね。



●傷を癒して
 喜ばしい結末にも、村の空気は未だ重いままだ。目前に迫っていた脅威は去ったとはいえ、不安を拭いきれない村人達のために種子島・友国(ヤドリガミのアーチャー・f08418)は周囲の見回りを買って出た。夜明けが来れば少しは村人達の表情も晴れるだろうか、救出された少女達のためにも出来る限り村の緊張をほぐしてあげられれば、万事めでたしめでたしで終われるのだろうけども、と肩をすくめる。村人達の輪から少しだけ離れて、かつての持主達の亡霊を呼び出して見回りの協力を仰いだ。
「お休みのところ悪いけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」
 貌を持たない彼らの気持ちは友国には上手くは読めない。けれど心にじわりと広がる温かさは、お互いにあるものが決して悪い感情ではないと告げていると感じていた。たとえ、それが喪失の傷に触れて痛みを呼び起こす類のものだとしても。
 亡霊達と距離を置いた友国は、足音を極力抑えながら村の端を歩く。暗い森の、深い深い闇の中から獣の遠吠えと木の葉の揺れる音がして……、しばらく耳を傾けてそれがオブリビオンによるものではなく自然によるものだと判断し、ゆっくりとした足取りで巡回に戻る。
「まあ、僕にしてはよくやったんじゃないかな?」
 自分から一定の距離を保ったままの亡霊達の方は振り返らずに、友国は呟く。静かな夜だ、小さな声でも彼らには届いただろうが、予想通り返事はなかった。ふぅ、と息を吐いて月を見上げ、友国は思う。物思いにふけるにはうってつけのこんな夜には、皆、昔のことを思い返したりするのだろうか。真似をしてみようにも自分の記憶の箱には鍵がかかっていて、開けられそうになかった。
「……アンタ達のことは忘れた、まんまだけどさ」
 胸にじわりと差し込む痛みを誤魔化すように、友国は琥珀色の瞳を細めた。

 誰とはなしに踊り始めた村人達のダンスの輪が少しずつ広がり、音楽が奏でられ始めたのを見守っていたアネット・レインフォール(剣の家庭教師・f01254)は、寝ずの番を申し出ていたものの穏やかなこの状況に、少々暇を持て余していた。隣に腰かけて村人達を見ていたマカと猟兵の仕事についてぽつぽつと語りあってはいたが、どうにも落ち着かない。何かが足りない気がする、としばらく考え込んで答えに気付いたアネットは、「腹が減ると考えも暗くなるしな」とマカに告げると、少し席を外すと言い残し村の外へ出た。
 幼馴染から離れ、ひとりでダンスの輪を遠巻きに見ている少女に、リネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)が声をかける。隣に座ってもいいか、と問う猟兵に、少女はこくりと頷いた。
「逃げた事を、後悔しているのかい?」
 気持ちを見透かされたようで、少女ははっと顔を上げてリネットを見る。ぐっと泣きそうになるのをこらえて、少し、と小さく答えた。
「まあ、安易だったね」
「……ッ!」
「でも、その安易な行動がなければ、私達は此処に居なかったかもしれない」
 あくまで結果論だけれど、とリネットは静かに続ける。黒いマントに覆い隠された緑の瞳は真っ直ぐに少女の方を見ていた。
「願ったり、祈ったりするのは、良いか悪いかは別として、思いがけない効果を生む。思いは、押し付ければ呪いに通じるものだから」
「助けてって願ったから、あなた達が来てくれたの?」
「さあ、どうだろう」
 再び俯いてしまった少女。リネットは抱いていたモノクロの猫の人形を操り、その手でとんとんと少女の肩を叩いた。
「別に、怒ってなどいないよ。いつかのわたしに似ているな、と思っただけさ」
 リネットの声色が先ほどと変わらず落ち着いていることに気付き、本当に怒っていないのだと察した少女はようやく詰めていた息を吐く。それでも未だ笑顔には程遠い表情に、リネットはしばし考えて言葉を紡ぐ。
「思いは、託すな。君自身が叶えるんだ。そうでなければ後悔する」
 押し付けた思いは、呪いに通じる……ましてや自分は呪うしか能の無い人間だから、と言葉や思いを場に残すことは極力控えてきた彼女だったが。少女が自分に似ていると感じたからこそ、自らの足で歩き、その手で戦うことを放棄するなと伝えたかったのかもしれなかった。

 篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)は、狩りに出ていたアネットが持ち帰った大きな猪を、彼と一緒にてきぱきと捌き、調理する。材料が調達できれば温かいスープが作れるのに、と考えていたところに齎された自然の恵みだった。
「……遥か昔の契約、か」
 綾は猪の肉を茹で、灰汁を念入りに取り除きながら思う。祈られることもなく消えていった命がどれほどか、愛する人を奪われ続けた人々の気持ちの折り重なったこの地で。願わくば、村人達が恨みや悲しみに囚われることなく、この先の未来を歩んで行けたなら。村人達に相談して分けて貰った香草を刻み入れて味を調え、アネットに味見を依頼する。流石に立て続けの戦闘明けの狩りが堪えたのか、座って休憩していた彼は、小皿を受け取り口をつけると、美味しい、と微笑んだ。
「ここ、入ってもいいかしら? 暗いと不安で寝付けなくて……」
 スープの香りに誘われてか、城から助け出された少女がおずおずと顔を覗かせる。どうぞ、良かったら食べて、と綾はスープを木製の器に注ぎ、少女へと差し出した。助けて貰った上にご馳走まで、と逡巡する彼女の手をそっと取ると、綾は頭を振る。
「……辛かったでしょう。……でも、もう、大丈夫だから」
 夜はきっと明けるから。
 綾の言葉に、ぽろぽろと温かな涙をこぼしながら、少女はスープの入った器を両手でぎゅっと抱いた。
 こういう時、何て言葉が相応しいんだろうか、と黒い髪をかき上げアネットは思案する。上手く言葉は思い浮かばないが、行動で示そうと腰をあげた彼は、少女の元へ歩み寄った。
「俺は今まで、色んな世界を見てきた。これからも、まだ見ぬ世界へ旅を続けるつもりだ」
 かつての仲間が言っていたように。
「各地で、俺達のように戦っている者はたくさんいる。これからも増えるだろうな」
「聞いたことないわ。私、村の外のことは……」
「この世界は広いから。ここまでまだ話が及んでないだけだろう」
 何割かの真実を内包させて。アネットは優しい嘘をついた。悲しみに沈んでいた少女の目に、小さな光が灯る。

 その後、少女や村人達へスープを配り終わった綾は、ダンスの輪へ加わると桜の意匠の施された横笛【神代桜】で子守唄を奏でた。
 未来への祈りを込めた優しい音色に、村人達の空気は和やかに、ステップは軽くなっていく。屋内で身を横たえて休んでいた少女達も、その音色に顔を綻ばせて柔らかな眠りへと落ちていった。

●はじまりのステップを、君と
「本来はステキな風習だったのに、あの領主に穢されてしまったのね」
 蘭・七結(恋一華・f00421)は村人達から本来の祭りの様子を改めて聞き、目を伏せた。あまりにも長い年月捻じ曲げられてしまった風習が、本来の意味と姿を取り戻すまで一体どれくらいの時間がかかるだろう。
「最初の一歩としてみんなで踊りましょう?」
 また村人達に笑顔が戻るように、と七結は気を取り直して周囲に語り掛ける。だってこんなにステキな満月の日なのだから、とダンスの輪に飛びこむ七結に誘われて、それまで躊躇いがちに佇んでいた村人達も踊り始めた。ダンスの輪に加わる村人達が増えるごとに、奏でられる音楽も明るいものへと変化していく。
 少しずつ明るくなっていく空気の中をふわりと舞いながら、七結は待ち人の顔を思い浮かべていた。月を見る度に彼の語った将来の夢を思い出す――いつかその理由が聞けるかしら、と七結が立ち止まった時だった。
「お疲れ様、七結」
 待ち人の声だった。振り返り、五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)の姿を見るやぱっと顔を明るくして、彼の元へ駆け寄る七結。
「来てくださってうれしいわ」
「遅くなってごめん。あっちで皆が助けてくれた子達と話してたから……」
 ふるふると首を横に振った七結は、気にしないでと言い。普段通りなのだろう、その自然体のふたりのやり取りを見ていた村人達の間から和やかな笑い声が零れた。柔らかな物腰の巴と七結は、村人達や少女達と言葉を交わし寄り添って、彼らの心を解きほぐしていく。祭りの参加者は多い方がいい、と村人達は巴の合流を喜んでいた。
「ここから見上げる満月はいかがかしら」
「……とても綺麗だよ」
 会話の切れ目、はにかみながら問う七結に、巴は笑って答える。
「よかったら、ナユと踊ってちょうだいな」
 すっと手を差し出して、七結は巴を誘った。立ち上がり七結の手を取る巴。
「こんな綺麗な月の下で踊れること、そうそうない。ちゃんとエスコートさせてね」
「ええ」
 満月の下、ふたりは少しだけ村人達の輪から離れて。一曲の間、言葉を交わしながらゆったりとダンスを楽しんだ。

 やがて踊る村人達の数が減り、皆が眠りにつく頃。七結は少女達が寝るのを手伝って回った。
「もうあなたたちを脅かすものはいないわ。安心してゆっくりとおやすみなさい」
 外から聞こえて来る子守唄の調べに誘われて、少女達のまぶたが落ちるのを確認して。
「怖い夢を見ても、僕らがいるから大丈夫。安心して眠ってね」
 不安を訴える少女には、建物の外、出入り口のすぐ横に座って寝ずの番をしている巴が外からそっと声をかけた。
 今夜だけはと室内のランプは消されず、オレンジ色の光が彼女達を照らしている。いつか月の光が怖くなくなりますように、とふたりは祈った。
 
 どうか皆、良い夢を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月31日


挿絵イラスト