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迷宮災厄戦⑦〜幸福にさよならを

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●黒薔薇の悪夢
 想いを遂げるときがきた。
 何のために生まれてきたのかと問われれば、この悪を果たすためと胸をはって言える。
 何のために息をしているのかと問われれば、この憎しみを伝えるためと大声で言える。
 だから女は幸せの徒(ともがら)を呼ぶ。
 だから女は笑顔を浮かべた生者を招く。
 そうして招待状もなく招かれた力なき者たちへ、かの者が重たげに瞼を押し上げた。麗しき女の姿ゆえか、長い睫毛の奥に秘された魅惑の眼差しは、生者を捉えて、悪夢を生み出す。
 悪夢は、ここへ招かれた者の恐怖を具現化したもの。だから女はほくそ笑む。
 絶望に招待客が震えていると、女にはわかる。逃げ出したいのに動けない招待客の苦悶も、女にはわかる。それでもかの者は、悪夢を生み出すことをやめない。
「そう、それが貴方の悪夢」
 かたちづくった悪夢に襲われてしまえば、つい先ほど得たはずの幸せも瞬く間に忘れてしまうだろうと、女は微笑む。恐るべき悪夢の前に、幸福に満ちた笑顔でいられる者など居やしない。
 少なくとも女は、そう信じている。自分も、かつては同じだったから。
「安心して。すぐには殺さない」
 女はそうっと薔薇色の唇を歪める。
「じっくり味わって食べてあげる」
 食べ終えれば胸が空くはずなのに、今までいくら食べても空かなかった。それどころか、更なる飢えが沸くばかりで、ああ、と意識せず溜め息を零す。もっと幸せを奪わなければ、胸も腹も満たされない。
 だからまたひとり、もうひとり招こう。このフルートの美しい音色で。

●グリモアベースにて
「これが遠くない未来の光景よ。放っておいたら大変だわ」
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は開口一番にそう告げた。
「今までも、フルートで迷い込んだアリスを呼び寄せて、食べてきたみたいなの」
 言葉の尾だけ少しばかり言いにくそうに、ホーラは話した。
「瞼を閉ざしたそのオウガは、薔薇姫と自称してるわ」
 幸せに育った者を憎み、幸せに浸る日々を送る者を恨む姫君。
 今の薔薇姫は、『世界征服大図書館』にて書物により強化された、厄介な存在だ。
「図書館には、名前の通り世界征服に関する様々な本があるの」
 悪逆非道の限りを尽くした暴君の伝記、殺戮や拷問の歴史、民衆の不安を煽り人に人を狩り取らせる手段について記した本。それらはとにかくオブリビオン――オウガの力を高めるものでしかないが、かといって書物を隠したり焼くといった行為で、力を奪うこともできない。
 それでも対抗手段はあるのだと、ホーラはにっこりと笑った。
「図書館のどこかに『正義の書』があるはずよ。それを探し出して読んでほしいの!」
 図書館に入ったタイミングや人物によって、見つかる『正義の書』の内容は変化する。
 開いたページには、読んだ当人に適した言動が記されている。
 そして記された『正義を行使する者』としての言葉や動きに沿うことで、オウガへ効果的に攻撃できるようになる。
「つまりね。本を読んで、正義の味方らしい振る舞いで戦ってほしいの」
 うまくいけば、薔薇姫も早いうちに倒せるはずだ。
「もちろん、向こうは向こうで悪役っぽい素振りをしてくるだろうから、気をつけて」
 負けないでね、と最後に明るく付け足して、ホーラは転送準備にとりかかった。


棟方ろか
 お世話になっております。棟方ろかです。
 一章のみのシナリオとなっております。

●プレイングボーナスについて
 当シナリオでは、「正義の味方」っぽい行動をすると有利になりやすいです。
 シリアスでも特撮テイストでも、ご自由にどうぞ!
 「本に書かれたことだから……」というていで動けるので、うちの子らしくないな、という台詞や行動でも、是非チャレンジしてみてくださいね。
(ちなみに薔薇姫が口にした悪役っぽい台詞は、オープニングの「すぐには殺さない」です。なんか、そんな調子でいいのです)

 それでは、いってらっしゃいませ!
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第1章 ボス戦 『憎悪の人喰い薔薇姫』

POW   :    貴方の悪夢を教えて?
【自らの瞳を開くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【具現した対象の悪夢】で攻撃する。
SPD   :    私の想いはただ一つ
自身の装備武器を無数の【黒い薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    悪夢迷宮
戦場全体に、【悪夢を再現する透明なガラス】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は満月・双葉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エヴィエニス・オケアノス
【心情】早速、お仕事か。色々な争いに巻き込まれてきたんだ。今回は巻き込む側で行くとしよう。
【目的】
『憎悪の人喰い薔薇姫』の撃破
【行動】
 巨体だからな。もうばれてるよな。
「よう、お嬢ちゃん、俺とデートでもどうだ?」と軽く一瞥してから行動開始。基本は、POWで攻撃します。
「俺は、すべての可能性にかける、たとえ、この身が滅ぼされてもだ。」とハイキックを決めながら、攻撃をしていきます。
 ある程度、相手が弱ったところで口上を付けて、ユーベルコードを撃ちます。
「さぁ、そこに居座るなら、俺はお前を倒す。未来を切り開くためにな。勝利は未来を切り開くための第一歩だ、喰らえ【マート・ド・ポベダ】!」



 荒海に乗り出せば、いかなる困難が待ち受けているかはよく知っている。
 灘を櫓櫂で突き進む大変さは、海を愛するエヴィエニス・オケアノス(蒼海を揺蕩う巨人・f26230)にとってごく当たり前のことだ。そんな蒼海で繰り広げられる諍いも、戦いも、その巨躯に刻まれてきた。思えばいつも巻き込まれる側だったなと、エヴィエニスは輝き失わぬ瞳を揺らめかせて笑う。
「さ、お仕事だ。今回は巻き込む側で行くとしよう」
 道中で拾った本を置き、エヴィエニスは麗しき見目を持つオウガ――薔薇姫へ声をかける。
「よう、お嬢ちゃん。俺とデートでもどうだ?」
 包み隠さぬ言動に、しかし姫君の心身は揺らがない。これがオウガでなければ、反応ぐらいは楽しめただろうにとエヴィエニスは喉の奥でくつくつと笑った。元より、敵に期待なぞ抱いてはいない。
 軽い一瞥ののち、彼は波よりも固く、つまらないぐらいに安定した床を蹴る。
 勇猛な振るまいを、伏せた目で薔薇姫が追う。飛び込んできた巨人に恐れもせず、ひらりとヴェールを靡かせて一打をいなす様は、まるで戯れているかのようで。
「逢瀬のお誘いは、私に勝ってから言うことね」
 誇る自信はオウガゆえか、それとも姫君だからか。薔薇を溶かして塗りこんだ唇で笑みを刷いたかの者の随分のんびりした返答に、エヴィエニスは喉をさらけ出して笑声を鳴らした。揺れる船体の軋みよりも微かで、波濤よりも穏やかな物言いだが――自分を巻き込もうとしているのが分かる。
「ああそうか、あんたもそっち側なんだな」
 エヴィエニスの双眸が、海上をゆく嵐よりも激しい情を燈した。
 ぐっと腰を低めて均衡を強固なものにし、ニィッと笑みで顔を飾る。
「そうくるなら、俺は、すべての可能性にかける。これだけは譲れない」
 蹴り上げればエヴィエニスの足に衝撃が走り、踏み込めば靴音が異様に響き渡った。
 瞼を伏せたままの女もまた微笑を絶やさず、攻め込むエヴィエニスに真正面から応じる。
「たとえ、この身が滅ぼされてもだ」
 潮吹きの威を、彼は力に換えた。鯨が吹き上げる凄まじさを知るからこそ――すべてをそこへ篭める。
「そこに居座るなら、俺はお前を倒す。未来を切り開くためにな」
「やってごらんなさい」
 不敵に言ってのけた薔薇姫が次に踊らせたのは、無数の黒薔薇だ。
 本の海を飾るには生と死のにおいが強すぎるその中を、エヴィエニスが突き抜けていく。
 慣れた波飛沫ではなく花びらを浴びているというのに、構わず全速前進、そして。
「勝利は未来を切り開くための第一歩だ、喰らえッ! マート・ド・ポベダ!」
 エヴィエニスの一撃が、薔薇ごと女の憎悪を呑み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒城・魅夜
「悪夢の滴」たる私の前で悪夢を囀るとは身の程知らずの愚か者
たっぷりと思い知らせてあげましょう
真の恐怖と悪夢がいかなるものかを

というのが私の偽らざる心情ですが
……これでは悪役、とは言わずともダークヒーローですね……

しかし、私を支えてくれる言葉はまだあります
見つけたこの本にあるように
――それは「希望」
未来を信じ明日へ向かって歩み続ける力の源
悪夢から何度でも立ち上がる力のね

ふふ、これなら正義の味方っぽいですよね

悪夢の迷宮?
宿敵と私が同一に近い存在であったことが私の悪夢
しかしそんな悪夢はとうの昔に撃ち砕きました
それこそが希望の力です

さあ今度は私の迷宮の番
あなた自身の悪夢を思い出しながら斬り裂かれなさい



 嗚呼、なんと愚かなのでしょう。
 吸い上げるばかりで滴らせる魅力を持たぬ薔薇姫を前に、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は嘆いた。
「私の前で悪夢を囀るとは、身の程知らずと呼ぶ他ありませんね」
 そう紡ぐ魅夜の眼が捉えた愚か者は、彼女の言にも揺らがず佇んでいる。堂々としていられるのはオウガゆえか。それとも恐れを知らずに生まれ育ってきたのか。いずれにせよ魅夜の胸中で沸き上がる想いには、一片の曇りもなく。
 ――たっぷりと思い知らせてあげましょう。
 魅夜は小さく息を吐いて、一歩踏み出した。彼女の歩みに反応したのか、薔薇姫がドレスを揺らして笑う。くすくすと聞こえた微かな声に、魅夜は再び呼気を吐き出す。今度はわかりやすいよう、ふ、と笑いの音を含んで。
 するとさすがに気付いたのか、女は声を飲み込んで魅夜を見やった。
 閉ざした瞼越しでも、魅夜にはわかる。芽吹いた憎しみが、今まさに咲こうとしていると。それなのに。
「あなたは、まだ知らないのですね」
 問い掛けにも似た言葉を、魅夜はそんな薔薇姫へ向ける。当人は僅かに首を傾ぐばかりで、零れる憎悪を隠そうともしない。美しき薔薇をどこまでも濃く、深く染め上げるその感情の色を持ちながら、かの者は知らない。あるいは、見ることが叶わないのか。
 一度は思考の色に沈んだ魅夜も、すぐに底から意識を引き揚げる。
 そして唇で薄く繋げていくのは、薔薇の姫君が見知らぬもの。
「私を支えてくれる、大事な言葉です。この本にもありました」
 手に馴染む重みのある本を掲げて、魅夜が頬を少しばかりもたげる。
「……希望。未来を信じ、明日へ向かって歩み続ける力の源となる言葉」
 魅夜の綴った一文に、ぴくりと薔薇姫の指先が震えた。
「幾度と無く悪夢に襲われようと、悪夢に引きずられようと、立ち上がる力をくれる」
「何を馬鹿なことを」
 取り付く島もない女の物言いは、魅夜の胸を踊らせた。
 これこそが正義の味方と悪役らしい立場の違いだと、それっぽく振る舞えた事実が彼女の目許を緩ませる。
 けれどそんな彼女の様相にも疎いかの姫君は、悪夢を再現するための迷宮を築き出した。館内を覆うガラスに光が反射し、自分たちの姿ではなく迷い込んだ者を苛む悪夢を映すはず――だったのだが。
「そんな悪夢、とうの昔に打ち砕きました」
 魅夜は容易く断言し、鏡の森を生やしていく。哀しき記憶の葉を散らせる、心の芯を抉る森だ。
 今度は私の番だと告げる魅夜の面差しは、ひどく美しく、そして艶やかに微笑むのみで。
「やはり、わからないのですね。それこそが希望の力だと」
 悪を果たすため、熟した機に奮い立った姫の心身を、居座るオウガを、魅夜の作った迷宮が容赦なく切り裂いていく。
「これこそが真の恐怖。本当の悪夢です」
 そう囁きながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
正義の書を探して読む
セリフと行動をしっかり覚えていく
うむ…これは、私に適した正義の形、ならば…
そう、しましょう
あくまで、演出上の必要、だからね…?(小首傾げ)

待雪草の力で純白な天使に変身
「暴虐非道な薔薇姫、君の悪行は、ここで裁いてやる」
堂々と彼女の前に舞い降りて登場し、凛々しく告げる
そして炎の矢…今度は炎の聖剣の形にして、彼女に裁きの剣雨を降らせる

迷路が出来たら
「大罪の人、君の足掻きはこれぐらいしかないか?」と、ふんと軽く嗤う
真白の鈴蘭の花びらを吹かせて、悪夢を再現してるガラスを遮り、白い花の道で出口を指示

「可哀想な罪人、君も自分の悪夢から目覚めるがいい、救ってやろう」



 満天の星空にも似た本に四辺を囲われ、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は何気なく手にした一冊を読み耽っていた。
 まなこで文字を追えば、本がにおわせる正義の香はわかる。内容を呑み込もうと頷けば、本が伝えたい正義の在り方も感じ取れた。
 登場人物の台詞も行動も、想像してみるとひとつひとつがレザリアには新鮮で――どことなく夢心地だ。物語を夢と呼んでも差し支えないのだろうと実感し、少女はそっと本を閉じる。
「……私に適した正義の形、ならば……そう、しましょう」
 ただ、しっくりこない。
 そうした感覚は拭い切れぬまま、しかし演出として必要ならと意を決して歩み出す。
 少女が歩を運んだ先、何を窺うでもなく薔薇姫は立っていた。入ってきたレザリアに気付きながらも、興味の矛で突きはしない。それでも湛える笑みは穏やかに。滲む憎悪の影は、陰らせず落ちていく。
 レザリアへ、絶え間なき悪夢を披露するために。
 かの者が仕向ける悪意は、疾うにレザリアも感じていた。だからすぐさま待雪草をふぶかせて、夜よりも深い漆黒から、明けの空よりも白く目映い天使へと変姿する。翼からはらはらと散りゆく雪の結晶は、薄暗い館内でひときわ強く輝き、白雪の色で姫の眼を眩ませた。
「暴虐非道な薔薇姫、君の悪行は、ここで裁いてやる」
 舞い降りて堂々と告げた彼女の様相は、黒薔薇を纏うオウガよりも遥かに凛々しく、鮮烈に図書館へ痕跡を残す。オウガが動揺のひとつでも見せると思いきや、白い、と薔薇色の唇で呟くばかり。
「なんて白いの。そんな色はだめ。染めてあげないと」
 悪夢で。夢の色で。
 繰り返したオウガの足元から、ガラスが生み出されていく。瞬く間に周囲はガラスの迷宮と化し、美しいはずのガラスには悪夢が染み込んだ。悪夢の壁が、レザリアの持つ純白を掻き消そうとした。だが彼女も黙って受け止める性分ではなく、ふん、と軽く鼻で嗤うと。
「大罪の人」
 そう呼びかけた。透る声音はいつになく明瞭に、まっすぐ薔薇姫を射抜く。
「君の足掻きはこれぐらいか? この程度なのか?」
 本で知り得たままを、少女は演じ続けた。
「これで終わりなら、もうまもなく裁きの時間だ」
 言いきった直後、レザリアは四顧から圧しかかってくる悪夢の障壁を――鈴蘭の花嵐で遮る。悪夢がいかに色濃く映ろうと、花で遮断されては心侵すことも叶わない。またもや阻む白色に、姫君の眉根が寄る。
「受け入れれば楽になれるのに。苦労せずいられるのに」
 女は嘆いた。しかし今更レザリアの心身を崩すほどの力など、女の言葉にはない。
「可哀想な罪人」
 新たな呼び名をレザリアは口にする。
「君も自分の悪夢から目覚めるがいい。救ってやろう」
 宣言と同時、真白の花びらと共に少女は悪夢の迷宮を打ち砕く。
 消えゆく悪夢のガラス片に降られながら、こんな感じでいいのだろうかと、レザリアは自身の演技にこてんと小首を傾げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニオ・リュードベリ
正義の書ってなんだか格好いい!
何が書かれているかも気になる!

現場についたらすぐに本を探して手に取るね
ふむふむなるほど……
だいたいわかった!

気持ちが整えばオウガの前へ
堂々と胸を張り、彼女に戦いを挑むよ
あなたの好き勝手にはさせない!

迷宮には囚われちゃうだろうね
見える悪夢は……予知にあったみたいな、アリス達が殺される光景
すごく辛くて頭の中がざわざわする
けれど折れちゃ駄目
それを防ぐために来たんでしょ!
他のアリスを守る
それが猟兵でアリスのあたしの正義だよ!

【勇気】を胸に悪夢をはね除けUCを
光の翼で迷宮を駆け抜ける
勢いを殺さないよう【ダッシュ】で飛んで
脱出の勢いでオウガに【ランスチャージ】だよ!



「正義の書。いいね、なんだか格好いい!」
 明けの空で滲む金色に似た双眸をきらきらさせてニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)は勇み立つ。心の赴くがまま手をとったのは、他の本と同じ素知らぬ顔で並んでいた一冊だ。
 ふむふむと唸りながら読み進めていけば、次第に少女の瞳で光が増す。
「うん、だいたいわかった!」
 ぱたんと本を閉ざした拍子に、声援代わりの風が鼻をくすぐった。
 小さく笑ったニオは、本の教えを胸にオウガ――薔薇姫の前へ踊り出る。
「悪さを企むオウガ! あなたの好き勝手にはさせない!」
 簡明直截なニオの宣言は、誇らしげに張った胸から朗々と飛び出す。
 真っ直ぐな正義の口上に、しかし女は狼狽せず微笑むばかりだ。余裕を食んでいるのだろうかとニオがじいっと見つめてみるも、薔薇の姫は顔を逸らさず視線を返してくる。すると女はうっそりと微笑んで。
「折り甲斐があるわ」
 短く答えた。
「壊す楽しみがある。いいわね、そういう明るさ」
 連ねた言の葉の先端がニオへ届く頃にはもう、周辺の景色が一変していた。
 いつのまにか彼女を取り囲んだガラスの壁たちが、無愛想に見下ろしてくる。かれらが映すのは心の淀み。ニオの内で眠る恐れをずるりと引きずり出して、かたち作る。
「あ……っ」
 ニオの顔から一瞬で色が引く。鮮やかだった世界が、どろりとした感情で満たされていく。
 ――これが悪夢の迷宮、なんだね。
 こくりと嚥下した息すら、熱くて重い。悪夢が映し出された迷い路で、どこからか悲鳴が響く。声を辿って振り向いた先で、手の平がガラスに張り付いた。伸ばされた腕はしかし、ニオへ決して届くことはない。
 浮かんではずり落ちて消えゆくアリスたちの姿が、恐ろしいオウガの咆哮に呑まれていく。
「駄目ッ!!」
 思考を断ち切るべく、彼女は叫んだ。
「折れちゃダメ! 何しに来たのあたし!」
 べちん、と歯が痛む強さで両頬を挟んで叩く。
 尚もざわつきは頭の中で起き続けた。眼前で起きた事態に感化されたのか、迷宮の力によるものかはニオにもわからない。だが、棒立ちのままではいられなかった。
「それを防ぐために来たんでしょ!」
 崩れていくアリスの人影をひとつ、またひとつと双眸に映して彼女は――跳んだ。
 纏った空明の鎧でガラスの壁を押し返す。そうして広げた双翼の輝きがガラスへ幾重にも反射し、迷宮を真白の世界に変えていく。
 まもなくニオは迷路を脱した。飛翔によるはばたきで女の姿勢を乱し、すかさず槍を構え突き進むと、穂先が女のヴェールを剥ぎ、纏う薔薇の衣を裂いていった。
 何故、と薔薇姫が戦慄する。
「何故折れないの!? あんな悪夢の中、どうして……」
「他のアリスを守る」
 勢い止んだ着地点で、ニオはくるりと振り向く。
「それが、猟兵でアリスのあたしの正義だよ!」
 かんばせに色が戻る。彼女が見せた光明は、オウガの表情をどこまでも歪ませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
これが『正義の書』っていうやつかな。どれどれ、
…(頁を捲る)……(捲る)
なるほどね、理解したよ。完璧に。

そのフルートを吹くのをやめたまえ!
“白馬の王子様”を使用するよ。文字通りだね。
どこかから現れた知らない白馬に跨り、薔薇姫君の前に現れるよ。
それとこの白馬はなぜかとてもキラキラと輝いている。不思議だね。

馬に跨ったまま、薔薇姫君へと駆け抜ける。
この方が映えてカッコいいと本に書いてあった。
黒い花弁は剣で払い、間合いを詰めたなら《捨て身の一撃》

ちなみに黒薔薇の姫に対して私は赤薔薇の王子様。
そういう対っぽい構図も悪に対する正義のようで
結構良しと書いてあった。
流石は世界征服大図書館。面白い本だったなあ~



 静寂が揺蕩うはずの図書館で響く、笛の音。
 音を楽しめる生き物であれば、誰もが心惹かれるはずとエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は顎を引く。美しい音色だ。穏やかに館内を流れる音楽――ただそれだけで休まる心地もあるだろう。
 事実、本を開き頁をめくるエドガーの思考を音は阻まない。
「なるほどね、理解したよ。完璧に」
 おかげで正義の書に記された文も、無事に記憶へ刻めた。近いうちに剥がれ落ちてしまうかもしれないが、少なくとも今のエドガーが心配するようなものではない。
 揚々と再出発した彼はやがて、長らく待たせていた奏者の元へ至る。
「そのフルートを吹くのをやめたまえ!」
 アリスを呼び寄せるための音色は、肝心の獲物を招待することも叶わなかった。
 代わりに訪れたのは――言葉に違わぬ、白馬に乗った王子様。
 空も海も翔けそうなほどの希望に輝く白馬は、眩しい笑みを湛えた少年と共に、薔薇姫の前へ現れる。宛ら物語の登場人物のような精彩を放ちながら。しかし黒き薔薇のドレスを纏う姫にとって、彼らの光輝さは憎しみの的だった。
「よくも邪魔をしてくれたわね」
 姫君の声音は低く、眼差しこそ静かな憎悪を滲ませているが、自分たちを突き刺すには脆いとエドガーは感じる。
 感じたものもすぐに置き、さあ行こう、と彼は白馬を撫でて。
「風の終わりか、雨の向こう側か、キミはどちらがお好みかな」
 馬へ向けて囁いた直後、旅の連れは嘶きで応じて駆け出した。
 疾駆する馬に迷いはない。そしてエドガーの剣筋にも躊躇いはなかった。パカラ、と蹄音が高鳴るのに合わせて、エドガーの心持ちも希望に浮き立つ。だが姫君の心は真逆で、そんな彼へ悪意の切っ先を突きつけた。
「邪魔者は消し去るだけよ。さようなら、王子様」
 かの者の切っ先は薔薇の花びらだ。ひどく淀んだ黒で染め上げられた薔薇たちが、一斉にエドガーへ襲いかかる。
 だが白馬は速度も落とさず、騎手も姿勢を崩さなかった。本から得た光景をかたち作るため、彼は花弁を剣で払いのけて姫君へ迫る――近寄るまでは、まばたきほどの時間だった。
 花を切り払ったばかりの刃を軽やかに戻し、白馬が起こした風による衝撃と共に、憎悪を斬る。
「黒き薔薇には、私の赤を贈ろう。姫君が望むままにね」
 王子は潰えることを知らぬ笑顔で、苦しげに見上げてくる女と対になるよう会釈をする。
 そして会釈したあとは赫々たる戦果をよそに、ひらりと踵を返した。
「流石は世界征服大図書館。面白い本だったなあ~」
 本に記された通りに再現を終えた彼は、頬をふくりと上げ、上機嫌のまま立ち去っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・イオア
悪夢を再現する、か。
誰も救えずにただ犠牲が出ていくのを見るのは辛いよ。
でも、背中の聖痕が痛みを伝えてくれる。
誰かの痛みを、救いを求める祈りを。
ガラスなら炎で溶けたりしないかな?
だめなら地道にクリアするか空気の流れとかおってみるかなんだけど。

【その拳に愛はあるか?】
正義って力は難しいよね。
強すぎる力は暴力になることがあるもの。
【見返りを求めないで為せることが愛】
愛の炎よ、彼女の悪夢を焼き尽くせ!
【愛、サイコー!】
え、この本なんか変なの混じってない?



 迷路の恐ろしさはシホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)も重々承知している。ただでさえ恐るべき舞台に追い討ちをかける「悪夢」という存在が、彼女の表情をますます強張らせた。再現される悪夢。それも、迷宮を生み出した鏡によって創られる光景だと聞けば。
(そんなの辛いよ)
 考えれば考えるほど思考の渦に囚われてしまいそうで、きゅっと唇を噛み締めて、シホは薔薇姫と対峙する。
 瞑目の向こうから滲んでくる憎悪の情は、女の穏やかな表情からは想像もつかぬほど濃く感じ、シホの肌がぴりぴりと痛む。
「いらっしゃい、ゆっくり殺してあげる」
 手招く薔薇姫が呼んだのはガラスの迷路。小さなフェアリーにとって圧倒的な大きさを誇る場で、あっという間にガラスの壁が聳えたつ。ガラスは見えるままを映さない。姫君の言葉通り、再現した悪夢で来館者を少しずつ、少しずつ追い詰めていく。
 シホもまた、例外ではなかった。
 ガラス越しにはばたく音が聞こえる。翅の音に乗って、誰かの叫び声が届く。
 耳を塞いでも変わらない。徐々に近づいてきた声が、音が、シホの心を蝕む。
(助けたいのに、できないんだ。見てるだけだなんて……こんなの)
 願って手を伸ばしても、壁の向こうに辿り着けない。迷路という閉鎖的な空間は、こうして重い空気を寄せ集めて彼女に圧しかかるばかりだ。ずっしりとした重さゆえに、飛ぶことさえ忘れそうだった。
 辛い、辛いと胸中で止まず繰り返される情が、悔しさにも似た熱となってシホの背へ集う。
 そうだ、とシホは俯いていた顔をもたげる。
 背負った聖痕が、痛みを伝えてくれる――誰かの痛みを教えてくれる。救いを求める祈りを、響かせてくれる。
 だからシホは、噛み締めて飲み込んだものだけはずっと胸に抱いたまま、風の行き先を手繰った。いかに頑強な迷路でも、空気の流れさえ掴めれば道は拓ける。
 やがて悪夢という名の暗がりから脱出を果たした彼女は、元凶である姫君へ向け、こう問うのだ。

 その拳に愛はあるか、と。

「正義って力、難しいよね。強すぎると暴力になったりするもの」
 うんうんと頷き同調したシホが、立ち尽くす薔薇の姫へ言葉を連ねて贈る。
「見返りを求めないって大事だよ。それが愛だって、この本にも書いてある」
「愛なんて、そのようなまやかしを……」
 戸惑いにか眉根を寄せた女へ、シホは証の炎を生む。彼女の言をかたちに換えた愛の炎だ。それもひとつだけではない。無数の愛が形を成して、シホの意志をエネルギーに舞い踊る。
「愛の炎よ、彼女の悪夢を焼き尽くせ!」
 少女の編み上げた愛情は、迷路の残滓もオウガも赤々と彩っていく。
 熱さに苦しむ敵の眼前、シホはよしと意気込んで再び正義の書を開く。ここまで来たなら残るはキメの台詞だ。参考にした本から、正義の味方らしい一文を引っ張りだそうとする。
 ――愛、サイコー!
「えっ、え?」
 ラストを締め括った変な一言に、シホはぱちぱちと瞬くことしかできなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
悪夢らしいよ。
嗚呼。針は人に向けてはいけないよ。
これは悪い奴を懲らしめるための針だ。

君たちも一緒に正義の本を読もうか。
これを読んで正義の味方のような立ち振る舞いをするのだよ。
さて、今回は君たちが主役だ。
ふわもこたち、行けるね?

幸福である者が羨ましいかい?
幸福に浸るものが妬ましいかい?

そのような気持ちは捨てたまえ
いくら恨んでも妬んでも、悪夢を見せようとも
君は満たされる事は無い。

嗚呼。ふわもこたち、行こうではないか。
この悪を沈めて、悪夢をなぎ払おう。
君たちの針と糸は正義の証
鋭い針で未来を切り開こう。

隊列は乱さずに、気をつけたまえ。
正義の味方はいついかなる時も美しく登場していた。



 鏡にあるがままの姿が映るとは限らない。緩やかな湾曲が姿を美しく見せるのかもしれないし、光の屈折が肌の色や衣服を綺麗に見せるかもしれない。なら、硝子にだって同じことが言えるのではないか。
「悪夢らしいよ」
 考証する価値など大してなさそうに榎本・英(人である・f22898)が呟けば、ふわもこたち――毛糸玉じみた愉快な仲間たちがほわほわと身を揺らす。
「硝子はともかく、彼女がもたらす悪夢とやらで、彼女自身は果たして満たされるんだろうか」
 悪夢に興味があるのか、それとも悪夢が映るという硝子の迷路に興味があるのか、あるいは単に今が楽しいだけか。彼らの口数は少なすぎるほどだが、なんとなく英には察することができる。彼らはこの奇妙な図書館を堪能していると。
「嗚呼。針は人に向けてはいけないよ」
 正義について記された書の文字を英が辿る間も、じっとしていられないのだろう。彼らはわたわたと針を指揮棒のように振るい、毛糸を転がして遊び出した。だから彼らの気が四辺へ散ってしまう前に、広げた手の平でそっと制する。
「これは悪い奴を懲らしめるための針だ。さあ一緒に読もうか、この正義の本を」
 代わりに提供した興味へと、ふわもこたちが集まっていく。
 英が読み進めていくのに合わせて、彼らはぽよんと身がぶつかり合うほど夢中で言葉に聴き入る。英が『正義の味方』について想像する度、彼らも面白そうに揺れた。そんな仲間たちの一部始終を眺めた英は、ふ、と短く息を吐く。
「さて、今回は君たちが主役だ。……いけるね?」
 囁きかければ、彼らが全身を使って頷いてみせた。
 本を閉じるときが来たようだ。
 そうして物語から離れ、再び歩き出した彼らの前に現れたのは、図書館を居城とする薔薇の姫君。悲嘆に暮れて泣き止まぬ日々を送るでもなく、かの者は薄い笑みを湛えたまま、来館者を出迎えた。
「あなたたちに悪夢を差し上げるわ。素敵でしょう?」
 薔薇姫は一方的に憎悪の影を押し付けてきた。微笑みと優しげな声音に似つかわしくない、悪夢という言の葉を。
 そして直後に開かれたのは女の双眸だ。常に伏せてあった瞼がゆるりと押し上げられ、瞼越しのときよりもはっきりと、憎しみで英たちを見つめて来る。
「幸福である者が羨ましいかい?」
 同情とも嘆きとも異なる音で英が尋ねた。女の見つめた先から悪夢が形作られるのをよそに。
「幸福に浸るものが妬ましいかい?」
 どろりとした悪夢の塊が、英たちを飲み込もうとする。口などありもしない闇色の物体が、おいしく平らげようと迫った。英はどうにか襲い来る異形から距離を置き、かぶりを振る。
「そのような気持ちは捨てたまえ」
 かの姫への話は、止まぬまま。
「いくら恨んでも妬んでも、悪夢を見せようとも、君は満たされる事は無い」
「そんなはずないわ」
 女は迷わず言い返してきた。だからこそ英は、嗚呼、と溜め息を吐く。
 ――鏡が必要だったのは、どうやら君の方らしい。
 行こうではないか、とふわもこたちの背を押す。
「君たちの針と糸は正義の証。鋭い針で未来を切り開こう」
 その為にあるのだからと英が連ねれば、歪んだ悪夢へふわもこたちが突進していく。一緒に針が踊り、仲間たちの行進も一糸乱れず薔薇姫の体勢を崩させた。
 隊列を乱さず進む彼らの勇姿を、英は瞬きせずに眺める。
 いついかなる時も、正義の味方は美しく登場していた。
 だから最後まで見届けるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
サフィーくん(f05362)と

正義を行使する者と聞いて(きりっ)
ヒーローズアースのヒーローのひとりとして
この世界を守るために戦います!
サフィーくんは案の定、あんまりやる気がなさそうだけど…
きっとサフィーくんにだって正義の心はあるはずだし!
俺のカッコいい戦いぶりを見て
ちょっとでも目覚めてくれたらいいな~…なんて
サフィーくん、もうちょっと感情込めたほうが良いと思うな…!

未来を信じ、戦い抜くこと
それは正義の書も教えてくれた、俺にとっての正義のひとつ
恐怖も悪夢も、絶望だって打ち砕ける力が俺達にはあるから
硝子の迷宮に閉じ込められたって何も恐れることはない
行こう、サフィーくん!
悪夢を終わらせる星を降らせて


サフィー・アンタレス
月居(f16730)と

正義、な
特別自分の中にそういった感情は無いんだが
適当に開いた本で知識を叩き込む

世界を滅ぼすのなら許さない
ここでお前の悪事を止めてやる
零れる言葉は、さっき読んだ本の文字
心の乗らない棒読みで、面倒だがルールには従う
感情?これで十分だろう

…まあ戦争となれば戦って来たから
少しは俺の中にもこういった感情はあるのかもな
敢えて意識はするなと、書かれていた文言を思い出す

まあ、本よりも
すぐ目の前の奴の振る舞いこそが正義か
…コイツは根っからの、ヒーローだからな
だからといって真似は出来ないが

雷雨で攻撃をしつつ
属性を変えれば少しは月居の手助けになるだろう
特に怖いものは無い
夢よりも現実が全てだろう



 サフィー・アンタレス(ミレナリィドールの電脳魔術士・f05362)は考えた。正義とは何かを。
 感情だと言われれば、そうだろうと首肯できる。生き様だと言われても、そうだろうと納得する。己の内に滾ることなきものだからこそ、サフィーにとって正義というものは不可思議な存在に映った。 
 ただ、わからないから見て見ぬ振りをするというのもまた、もやもやと纏わりつく何かで心を覆われる気がして、落ち着かない。纏うのは白衣だけで充分だ。
 そうして本を一冊手に取り、読み耽る彼の傍ら。
 月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)には、正義を行使する者、という音のひとつひとつがきらきらと輝いて聞こえていた。しかも一冊の本が示した正義を、自分の信念に合わせて表現できるのなら。蒼汰にとってこの上なく打ち震える状況だ。
 ヒーローズアースのヒーロー、そのひとりとしても。
 守りたいものと世界を瞳に映せた、ひとりの男としても。
「この世界を守るため、戦います!」
 蒼汰の放つ言葉さえも煌めいた。
(サフィーくんは案の定、あんまりやる気がなさそうだけど……)
 無理に押したり引いたりしたところで、いつもの姿勢はそう簡単に揺らがないだろう。しかし蒼汰の心に諦めの二文字はない。
(きっと、サフィーくんにだって正義の心はあるはずだし!)
 ふんふんと蒼汰が鼻を鳴らす。そして彼は見ていてほしいとは口にせず、ただ光を呼び集めた。感化される、ということはある。もしかしたら戦う自分を視て、格好良く駆ける自分を知って、スイッチが入ってくれるかもしれない。ちょっとでも目覚めてくれたらなんて、薄いようで分厚い期待を胸に蒼汰は光を走らせた。
「愚かな子たちね」
 薔薇姫はどこか楽しげに呟く。悪人らしい台詞ののち、かの女が生み出したのはガラスの迷路。右も左もナニカを反射する奇妙なガラスの世界。星月夜の瞬きに似た魔法の矢ごと、迷路は二人を呑み込んだ。
 ふ、と鋭く息を吐いたのはサフィーだ。今こそ、正義の書に記された一文を紐解くときだろう。
「世界を滅ぼすのなら許さない」
 サフィーの言に迷いはなかった。ただ淡々と紡がれるだけの、音の連なりでしかなくとも。
「ここでお前の悪事を止めてやる」
「サフィーくん、もうちょっと感情込めたほうが良いと思うな……!」
 抑揚は大事だと、硝子の壁に挟まれながら蒼汰が声を張り上げた。
 サフィーから零れた言葉のすべては、読んでまもない本にあった文字だ。正義とやらを行使する者としては、道から外れていないだろうと鼻先をすんと鳴らす。――無い、とも言いきれない。ある、という証拠もないけれど。
 戦争が起こり、世が荒れ始めたときには戦ってきた。力を使い、自身の日常を蝕むであろう存在を討ってきたのは確かだ。なら多少なりとも、自分の中にあるのかもしれない。正義と呼べる感情が。あまりしっくり来ない音だが、考えの点と点を繋げていくと否が応でも意識してしまう。
 しかし敢えて意識はするなと、本に書かれていた文言を思い出してサフィーはゆるゆるとかぶりを振った。
(……まあ、本よりも)
 ちらとサフィーが見やったのは共に戦う彼の、蒼汰の姿だ。
 くじけず姿勢を正し、俯かず前を望み、双眸に光を宿した彼の存在。
 どれだけ本の情報に呑まれても、目の前の彼が織る『正義』ほど、明瞭にかたちを為すものはない。やはり現実は夢より強いと肩を竦め、サフィーは唇を震わす。
「月居」
 呼びかけた声は心なしか、本から一文を引用したときよりも弾む。
「雷雨に打たせる」
 宣言と同時、サフィーは蒼い雷を招く。前兆も予告も敵には必要ない。くるりと指先で示した先、薔薇姫の元へその蒼を降らせた。空気も時間も切り裂かんばかりの蒼い稲光が図書館中を伝い、悪夢織り成す迷路の隅から隅まで照らす。
 こくりと肯った蒼汰が、総身を巡る想いを乗せて星を降らせた。
 ――未来を信じ、戦い抜くこと。
(正義の書も教えてくれた、俺にとっての正義のひとつ)
 大事なものだから、蒼汰は握り締める。大事なものだから、蒼汰の喉が鳴る。
 自分たちの姿ではなく、悪夢を映し出すガラスに囲われながらも、打ち拉がれることはない。そんな現実、今の彼らには訪れなかった。悪夢が呼ぶ恐怖も、悪夢によって覚える絶望だって、打ち砕けると信じているから。
「その力が、俺達にはある。だから……!」
 蒼汰は迷いなきまなこで、歩みの鈍いサフィーを振り返る。
「行こう、サフィーくん!」
 朗々とした掛け声に、サフィーの口端が微かに緩む。
 ああ、やはり、コイツは根っからの――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セト・ボールドウィン
悪夢を見せて苦しめて、最後は喰い殺す…って。何だそれ
モヤモヤ嫌な気持ちになるのは
多分それが理不尽だって思うから

俺の『正義の書』は…えーっと
「とにかくカッコよくあれ」
えっ、そういう感じなの?

高いとこから光を背に
びしっと指差して敵に呼び掛ける

そこまでだ!
お前の悪事…天が許しても俺が許さない
いくぞっ!

俺は毎日幸せに生きてるって言いきれる
こいつにとっては俺も「獲物」なんだと思う
恐いけど…正義の味方なら、勇気をもって立ち向かうはずだから

獅子の機動力を活かして相手を翻弄
隙をついて弓で攻撃だ
相手の攻撃は可能な限り獅子に受けてもらう
お願い、俺と一緒に頑張って

覚めない悪夢なんてない
だからお前も、ここで終わりだ!



「何だそれ」
 セト・ボールドウィン(木洩れ陽の下で・f16751)が思わず零した一言だ。
 相手に悪夢を見せて、苦しめる。苦悶に喘ぐひとを見届けて、最後は喰い殺す。
 オウガがオウガたる所以か。
 図書館を訪れる前から、セトの中でぐるぐると巡る不快さがある。
 靄がかかったかのような、嫌な気持ち。それを覚えてしまうのは――多分、それが理不尽だって思うから。
(だからそんなのダメだ)
 風を味方にセトは走る。正義の書に記された、目映いほどの一文を胸に抱いて。
 そして突きつけるのだ。理不尽の権化である薔薇姫へと、揺るぎなき指先を。
「そこまでだ!」
 響き渡った声は思いのほか朗々として、薔薇の姫を振り向かせる。
 書架の上、高所に立ったセトは陽光にも似た輝きを背負って、悪党へ宣言する。
「お前の悪事……天が許しても俺が許さない! いくぞっ!」
 とうっ、と掛け声に合わせて少年は跳び、スマートな着地を披露する。着地した先は黄金色のライオンだ。セトが跨がった瞬間から獅子は命を帯び、駆けだす。蔵書も棚も何のその、館内を疾駆する獅子へと、薔薇のドレスを纏った姫君は躊躇いなく薔薇を向ける。黒き薔薇が綻べば、散った花びらが波のように押し寄せる。
「それぐらい、どうってことない!」
 強い姿勢を崩さずセトが叫び、獅子が走った衝撃で花弁を跳ね退けた。撒き散らされた黒い花びらたちは、行き場もなくはらはらと床に落ちては消えていくばかり。
 さすがに女も眉根を寄せた。瞼だけは、固く閉ざして。
「あなたに許されなかったとしても、私は私のままよ」
 不遜な振る舞いを止めない姫君へ、セトが返すのは言葉よりも明確な――意志。少年の眼差しはしかと敵を射抜くのみだ。
(俺は、毎日幸せに生きてるって言いきれる)
 女が幸福を憎むのなら、自分も獲物なのだろう。喰われる側だと自覚した途端、指先が冷える心地だ。
(恐い、けど……正義の味方なら……)
 足を止めない。勇気をもって立ち向かうはずだ。それは正義の書から得たというより、セト自身の経験と想像が起こしたもの。だから崩れない。折れたりしないものだ。
「お願い。俺と一緒に頑張って」
 囁きと共にライオンを撫でれば、セトの意図を感知したらしくかれは女の周りをより速く巡りはじめる。縦横無尽を形にした獅子の機動力は、薔薇姫の意識を右へ左へと踊らせていく。そして、翻弄されたかの者に生じるのは隙だ。
 それこそがセトの狙っていた、獲物。
 番えた矢は、宙に放たれたときにはもう行き先を定めていた。セトの一矢は決して狙いを過たない。
 覚めない悪夢なんてないのだと、悪夢で心身を貪る女へ報せるために。
「悪夢も、お前も、ここで終わりだ!」
 突き抜けた矢が薔薇姫から生命を噴き出させる。血とも体液とも言い難い、過去に生きた者の力が溢れ、徐々に失われていくのを、セトはライオンに騎乗したまま見守った。
 ――とにかくカッコよくあれ。
 本が示した言葉を彼は、セトはかたちに換えたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
正義…正義には常日頃から嫌な思い出が…
戦艦に変形するようなお姫様とは別の道を行かせて貰うよ
鵜飼章は正義の味方じゃない
【アンチヒーロー】役だ
本にもそう書いてある

UCで闇の賭博王に変身
闇の賭博王ブラックレイヴンは違法賭博による負債で家族を失い
全てのカジノを滅ぼすまでいかれたギャンブルに興じ続ける復讐者になった…
迷路にはそういう『お話』が映っているね

これはブラックレイヴンの悪夢
僕自身の過去とは無関係だ
映画化したみたいでちょっと楽しい

僕の悪夢って何だと思う
この世界すべてさ
だから、壊すよ

鴉に薔薇姫の居場所を探らせ
壁を破壊する速度のトランプを【投擲】し【暗殺】を謀る
悪に耽溺するいらない子
おしおきの時間だよ



 馴染みすぎてあまり聞きたくない言葉だった。
 少なくとも鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)にとって正義と書いてジャスティスと読むなんてその物言いも、それを良しとする風潮も、あまり快いものではないらしい。正義とやらが悪いのではない。ないのだが。
(頭が痛くなる。正義、正義か。常日頃から嫌な思い出が……)
 いっそ忘れてしまえば楽になるだろうが、忘れさせてはくれない存在が近くにいる。インパクトという点で言っても、彼の知るお姫様は――戦艦に変形するような勇ましい姫君は――あまりに強く記憶へと刻み込まれていた。刻まれすぎだ。
 今にも笑い声が聞こえてきそうなほどで。
「……いや、やめておこう。考えると引きずり込まれる」
 言い聞かせるように呟いて、章は前を向いた。
 とにもかくにも今の彼が歩むべきは、静かな図書館だ。思考をもっていかれてはならない、と幾度か繰り返したのち、彼は正義の書にあった言葉を自ら象る。
 鵜飼章は正義の味方ではない。
 悪役を担う薔薇姫を前にしても、彼が正義を振りかざすことはなかった。
 代わりに呼び覚ますのは、闇の賭博王の姿だ。薔薇姫の築いた硝子の迷路で、賭博王の生き様が映し出されていく。
 暗部に生きる猛者が生み出した違法賭博は、負債を背負い込ませるものでしかない。家族を失わせる毒と化した賭博王の末路は、すべてのカジノを滅ぼさんとする復讐者だ。明るい未来など有り得ぬ、いかれた姿。
 哀れだとの所感を抱くか、自業自得だと突き放すかは、物語を知った上での個人の自由。
 そう、あくまで章が抱くのは感想だ。何せこれはブラックレイヴンの見る悪夢。
(映画化しないかな……そうしたらきっと、演出や照明も入って綺麗だろうに)
 悪夢の上映を終えた迷路で、章はううんと唸る。
「僕の悪夢って何だと思う?」
 友たる鴉を通じて、迷路の主へ問い掛けた。硝子が染めた悪夢の色の中、一羽が飛ぶ。そして鴉を追って章も床を蹴る。どんなに頑丈な迷路でも、脱して、居場所がわかってしまえば後は簡単だ。
 脆くなった箇所へ狙いを定めて、トランプを放つ。
 力を得たカードは瞬く間に出口を生み、姫君の衣を裂いた。
「答えを教えてあげるよ」
 佇む薔薇姫へ、章が告げる。
「この世界すべてさ。だから、壊すよ」
 悪に耽溺するいらない子へ、今から紡ぐのはおしおきの時間だ。
 そう章は宣言する。薔薇姫が憎悪を口許に刷くのも、見届けて。
 鵜飼章は正義の味方ではない。成り得ないからこそ、悪意の根源は彼の動きを見誤った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリル・チェコット
ふむふむ
人を襲う鬼と、その鬼をお供の動物達と一緒に退治しにいく男の子のお話
古い昔話だね

お供のひつじたちを引き連れて
まずはビシッと決めポーズ!
えっと、えっと
民の平和を脅かす、悪いオニめ!
このメリルとお供たちが退治してくれよう!

……こほん
ね、あなたのそのフルート
わたしとおそろいだね
わたしの音色はこの子達と心を通わせるためのもの
この子達を導いて、楽しませて、心を癒すためのもの
音楽ってほんとはそういうステキなものだよね
人の幸せを奪うあなたの音なんて、わたしの音で掻き消しちゃうから!

みんな、勝ったらご褒美のきびだんごだよ!
援護ならわたしにまかせて、どどーんと突撃しちゃって!
がんばろっ、おー!



 こくこくと頷きながらメリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)が読んでいた一冊は、綺麗な大団円を迎えたばかりだ。随分古い昔話だったけれど、いま読んでみても心が晴れやかになる。だからだろう。陽だまりを映すメリルの瞳は、いつにも増してきらきらと輝いていた。
「よーっし、まずは決めポーズ! ビシッと! こう、こうかな?」
 閉じた本を置き、少女は形から入ろうとする。
 待ちあぐねていた薔薇姫を前に、彼女らしいマイペースさは損なわれぬままだ。
 たくさんの羊たちが、めぇめぇと訴えかける。これでいいのか、それでいいのかと問い掛けるような鳴き声が重なる中、メリルもまた唸る回数が増えていく。それでも焦りはせず、しっくりくるまで数パターンのポーズを獲得した。もちろん、羊たちも一緒に。
「えっと、えっと……」
 そうして陣形を組んだメリルと羊たちは、呆然と佇むばかりの姫君へと、お披露目を始める。
「民の平和を脅かす、悪いオニめ!」
 突き出した指先が薔薇姫を指し示す。直後、少女の両腕は宙をぶんぶんと掻き、別のポーズへと切り替わった。
「このメリルとお供たちが退治してくれよう!」
 宣言は高らかに館内に響き渡り、どこからか差し込む日差しがメリルたちをしゃららと照らし出す。
「うん、いい感じだよ!」
 見事にポーズを決めた羊たちへ、メリルがご褒美とばかりに褒め言葉を向けた。
 もうひとつ、もふもふと撫でて喜ばせるのも忘れずに。
 そんな一部始終も薔薇の姫はじっと――閉ざした瞼越しに見つめていて、視線など無いはずなのに視線に突き刺されたように感じて、メリルはこほんと咳ばらいで心身を整える。やがて話し出すのは、悪夢についてでも、薔薇の咲き方についてでもなく。
「……ね、あなたのそのフルート、わたしとおそろいだね」
 アリスを、獲物を呼び寄せるため女が奏でていたフルートについてだった。
「わたしの音色はね、この子達と心を通わせるためのもの」
 羊飼いとしての少女が綴るのは、日常だ。
「この子達を導いて、楽しませて、心を癒すためのもの」
「めへ」
 羊たちが応じる。そうだよ、と相槌を打つかのように、やさしく。
「音楽ってほんとは、そういうステキなものだよね。だから、よくないよ」
 素敵なものを、綺麗な音色を、悪いことに使うなんて。
 ふるりとかぶりを振って語りかけるも、メリルの意思をオウガは嘲笑う。
「よくないのは、周りの方よ。だから私は幸福を盗るの」
「っ、人の幸せを奪うあなたの音なんて、わたしの音で掻き消しちゃうから!」
 薔薇姫の揺らがぬ姿勢に、メリルがぷくりと頬を膨らませた。
 そして次の瞬間にはもう、笑顔を浮かべる。羊たちと楽しむための笑みは、めぇめぇと合唱を始めた彼らを後押しする。
「みんな、勝ったらご褒美のきびだんごだよ!」
「「めぇぇえぇぇ!!」」
 俄然やる気がでたらしく、走り出す構えを各々とりはじめた。
 羊たちの様子にメリルもにっこり微笑んで、がんばろっ、と声援を響かせる。
 薔薇姫が悪夢を形作り、メリルと羊を飲み込もうと迫った。だが、羊はそれを恐れない。メリルという頼もしい味方に支えられ、突撃するのみ。
「成敗ーっ!!」
「めぇっ!!」
 物語に描かれた一場面のように、メリルは羊たちの突進で悪夢を弾き飛ばしていった。
 どんなもんだいと言わんばかりに胸を張ったメリルに、薔薇姫の面差しは険しくなる一方だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゼイル・パックルード
正義の味方なんてまったくらしくないんだけどね
(あぁ、でもやっぱり殺してくれるのなら正義の味方が良い。悪人を否定してくれる正義の味方が)
それはともかく今は戦闘と殺しを楽しませてもらおうか。

本の内容はと
「この刀に秘められた憎悪の力と、そして俺の命―――それを以って悪夢を断つ」
別に寿命が縮むことはなんとも思ってないし、この刀の憎悪の何割かは俺が生み出したんだと思うけど。

後は捕まってる客を庇え、か。適当なガキの壁にでもなっておくか。

相手の口上に対しては
「こっちは遠慮はしないぜ、悪党はすぐに滅びるべきだ」
で、仕留めればいいと
まったくもってその通りだ、いつになったら正義の味方は俺の前に現れるんだろうな?



 自分の仕事が神聖なものであるなどとは微塵も思っていないし、神聖なものにしようと考えたこともなかった。
 ゼイル・パックルード(囚焔・f02162)が揮う凍てついた炎は、夜の底よりも深みを知り、月明かりよりも冴えている。だが、ねじ曲がろうとする己の心をひっぱたいてまで、『正義の味方ぶる』ほど真直な世界を求めてはいない。
 らしくない、と独りごちた口先が苦々しいのは、その所為だ。
 本をめくれば、なるほど正義の味方とやらを読み手が望んでいる事実も知れる。
 どんな物語にも善と悪があるということは、ゼイルもよく理解している。人心と同じく表裏の関係性にあるからこそ、こうした正義に人が焦がれる理由も――わかる。わかるのだが、揺らめく彼の瞳は伏せられるばかりだ。吐いた息には、呆れとも諦めとも違う入り混じった情が篭る。わかったとして、同調するつもりなどこれっぽっちもなかった。
 ふと本から目を離せば、そこにあるのは悪意の権化であるオウガ。麗人を模ったかの者は、場を埋め尽くさんばかりの黒き薔薇を舞わせる。
「たった独りで乗り込んでくるなんて、いい度胸ね」
 端正な顔で女が言うものだから、はっ、とゼイルも呼気で嘲笑った。
「独り、ひとりか。薔薇の花を踊らせて寂しそうにしてる悪党らしい台詞だな」
 ゼイルの一言に、ぴくりと女の眉が動く。
 しかしかの者が動揺しようとしなかろうと、怨魔を振りかざすゼイルに変わりはない。
「秘められた憎悪の力と、俺の命……」
 掲げた刀は、はたから見れば禍々しいと称されてもおかしくないほど、狂おしい死の呪いに満ちている。それもそのはずだ。刀が秘める夥しい憎悪の幾らかは、ゼイル自身が生み出したものなのだから。
 尤も、当人が気にする素振りを見せていれば、疾うに憎悪に飲み込まれていただろう。
 今の彼が、そんな末路を迎えず此処に立っているということは、つまりそういうことだ。
「これを以って、悪夢を断つ。遠慮はしないぜ」
 言うが早いか床を蹴ったゼイルの身は、花びらよりも軽々と宙を舞い踊る。
 ゼイルの双眸に死と戦いの火が滾ったのを見て、オウガが眩しげに目を細める。そして。
「悪党はすぐに滅びるべきだ」
 一撃は、言葉と共に空気へ滲みた。
 同時に靴裏で擦り付けたちっぽけな悪意など、ゼイルにとっては砂利か石ころ程度の存在だ。
 綻ぶ花を惜しみもせず、ゼイルは肩を竦める。
「悪党は滅びるべき。まったくもってその通りだ。な?」
 行き場のない言の葉が宙を泳いだ。
 いったい、いつになったら『正義の味方』とやらが目の前に現れるんだろう。早く出てきてほしいものだ。
 殺してくれるのなら、不特定の誰かではなく『正義の味方』が良い。
 悪人を否定してくれる『正義の味方』の手にかかるなら。
 恐らくこれ以上の幸福は――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

満月・双葉
正義の味方、ねぇ
結果としてそう評されるならまだしも、そんな悪を望むに等しい存在にはなりたくないんですが
とは言え…

ぁぁ、見つけましたよ、ここにも居たんですね、貴女は

貴女を眠らせる為に必要ならば、致しましょう
【野生の勘】で書物の在り処を探り当てます
正義の味方を嫌う正義の味方のお話
僕の正義は何かと問われ敢えて返すとするならば僕の大切な人の未来を護る事
それが結果として他の何かを護るのだとしても、それは僕にとっては如何でもいい話

そう、まさに貴女は悪を演じた人
悪を演じさせられた人
もう良いでしょう?

花弁は予兆を察知したら【オーラ防御】を展開して防ぎます
そしてユーベルコードで目で見極めた狙うのは急所のみ



 図書館の名と蔵書について考えはしたが、ふうん、と他人事のように唸って満月・双葉(時に紡がれた星の欠片・f01681)は歩を運んでいた。
 正義の味方。正義の書。正義を行使する者としての振る舞い。
 耳に染み渡るようで、遠く感じる響きだ。双葉の胸中で渦巻く想いをよそに、図書館は書への道筋を描き出す。踏み入れたからには前へ進むことを止めず、そうして何気なく手にとった一冊が、双葉へ一驚をもたらした。
「これは……」
 開いた本に描かれた人物を、かれらが辿る運命を、双葉は目で追う。
「……正義の味方、ねぇ」
 零したのは、溜め息にも似たあえかな呟き。
 正義の味方と呼ばれる者の多くは、いわば英雄視された存在だろうと、双葉は眉根を僅かに寄せる。
 思うところはある。
 結果としてそう評されるならまだ良い。かといって正義の味方になりたいかと問われれば、今の双葉は間違いなくかぶりを振る。
(そんな悪を望むに等しい存在には、なりたくないんですが)
 正義の書へと別れを告げた双葉は、まもなく静けさの中を流れゆく笛の音に気付く。
「次に辿るのはこれ、ですか」
 頬を掻いて歩き出し、多くのアリスを招き入れようと画策していたであろうオウガの――薔薇姫のもとへ到着した。
「ぁぁ、見つけましたよ」
 漸く。ようやく見つけたと考えた瞬間から感情が綻び、声に顕れる。心なしか躯の内に巡る魔力も熱を帯びた。
 ひとを喰らうばかり、ひとを憎むばかりの目の前にいる女も佇む姿は麗しく、そしてぞっとするほど静かだ。かの者の姿をしかと認めて、双葉は息を吐く。
「ここにも居たんですね、貴女は」
 双葉が話しかけたからか、姫の瞼がひくついた。しかし押し上げはせず、伏せた睫毛を震わせたかの者は薔薇色の唇でさえずる。
「私はいるわ。ずっとここにいたの。ずっと、ずっとよ」
 いつからいたのかは、きっと本人にもわからない。ただ美しいドレスを纏って、美しい笑みを湛えて、奇妙なこの図書館で本を相手に笛を奏でていたのだろう。容易に光景を想像した双葉は、ゆっくり顎を引く。
「貴女を眠らせる為に必要ならば、致しましょう」
 今の彼女が知るのは、『正義の味方』を嫌う『正義の味方』の話だ。
 本で得た色や音をかたちにするため、幾度かしばたたく。そして薔薇姫へ、夢にも似た彩りを宿す双眸を向ける。見つめられたとわかったのか、薔薇姫は突き放すかのごとく口を開く。
「眠らせる? 私を? そんな力が、揮える正義が、あなたにあるというの?」
 油断ともとれる発言は悪役ゆえか、それともオウガであるがゆえか。
 どちらにしても女の紡いだ強い語気に、双葉が応えるものは決まっていた。
「僕は、大切な人の未来を護れれば、それでいいのです」
 正義について語らうつもりは更々ない。たとえば己が動いたことで、他の何かを結果的に護ったとしても――双葉にとっては、如何でもいい話だ。どうでもいいなりに、薔薇姫へ告げる言の葉も持ち合わせている。
「そう、まさに貴女は悪を演じた人。悪を演じさせられた人」
 差し伸べる手は持たないが、差し出せる言へ含む音に偽りは持たない。
「……もう良いでしょう?」
 そう双葉が告げるや否や、黒く染め上げた薔薇が辺りを舞った。
 散った花弁は、夜よりも深いところへ、闇よりも静かな淀みへ、生者を――双葉を引きずり込もうとする。
 館内にふぶく花嵐。その絶佳は幻想的なのに、ただ眺めるだけで済まない現実を双葉はほんの少し、残念そうに呟く。
「どんなに綺麗な花も、こうなっては勿体ないですね」
 憎しみに煽られた黒薔薇が、双葉を裂こうと翔ける。
 傷つけ、怯えさせて、弱らせる。そうすることを女は迷わない。
 だから双葉も気を張り、無数の黒が踊る中をゆく。跳んだ双葉の眼が見極め、狙い定めたのは薔薇姫の心臓部。生命を視た双葉にとって、源から根こそぎ削ぐのは難しくなかった。そうして仕掛けた一矢が、過去の命を落とす。悪を演じ、図書館で立ち続けた哀れな姫君の物語へ、終焉をもたらす。
 これが正義の味方だと言われても、双葉にはやはりしっくりこない。
「……正義の味方、ねぇ」
 またもや零した吐息も、姫の末期を描いた彼女から静かに消えていくだけだ。
 さようならと、別れの挨拶さえ持ち合わせずに。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日
宿敵 『憎悪の人喰い薔薇姫』 を撃破!


挿絵イラスト