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迷宮災厄戦⑧〜きらきら、ちょうだい

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●きらきらをさがして
 きらきら大好き、きらきらびっと。
 今日もアリスを追いかけて、きらきら出そうと跳ね巡る。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 アリスをさがして跳ね巡り、きらきらの国にたどりつく。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 高い所からきらきらさがそう。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 ぴょんと跳ねたら、望遠鏡のある塔の上。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 きらきらさがして、覗き込む。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 おほしさまになんて、興味はないの。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 欲しいのは、あの子のおなかの中のきらきら。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 ―――――すてきなきらきら、みいつけた。

●きらきらの国へ
 此度の戦いの舞台を連想させるような四色の翅を持つグリモア猟兵は、火をつけたばかりの煙草の煙を吐き出すのもそこそこに、集めた猟兵たちへの説明を開始した。

「アリスラビリンスの中に更に色んな国があるってのは知ってるな」

 そう話し始めた彼の手のひらから、一枚のカジノチップが弾き飛ばされる。
 ぼうっとした淡い光が映し出すヴィジョンこそが、今回猟兵たちの向かう戦場だ。
 一体どんな戦場で、そしてどんな敵が待ち受けているのかと全員が固唾を飲んで見守る中、グリモアの輝きは一層増して、徐々にその全貌を映し出していく。

 ――きらきら、きらきら。
 映し出されたのは、満天の星空が広がる不思議の国。
 そして高い塔のようにそびえたつ、真っ白い天文台。
 その最上階には、辺り一面の星空を余さず観測できるように、
 ぐるりと一周、何台かの望遠鏡が並んでいた。

『へぇ、綺麗な国だな。……あれ、でもこの望遠鏡って……』

 その幻想的な光景に、集まった猟兵たちの何人かは感嘆の息を漏らした。
 しかし一人の猟兵が違和感に気づく。
 きらきらを眺めるため、届きそうもない空に焦がれ、見上げるための望遠鏡。
 それなのに、ぐるりと並んだ望遠鏡、そのどれもが『下にレンズが向いている』。
 そしてそれを覗き込んでいるのは、兎耳を生やした、大人しそうな黒髪の少女たち。

「きらきらしたモンが大好きな、その名もきらきらびっと、だそうだ。
 つっても、コイツらにとってのきらきらは、この国の星空なんかじゃないらしい」

 彼の感じた違和感に答えを出すように、クロヴィスは説明を再開する。
 今回の敵である彼女たちは、もちろんオウガ。
 望遠鏡を覗き込んで探しているのは、もちろんアリス――と、敵である猟兵たち。

「上から見下ろすってだけでヤベぇ視野なのに、おまけに望遠鏡。
 コッチが後入りなのをイイことに、思い切り地の利をとられてる、ってカンジなんだよなァ……っつーワケで、なるべくこの望遠鏡に見つかンねーようにように、敵に補足されねーように。うまーく天文台の最上階に到達して、コイツらを片付けてきて欲しい」
『なるほどね。……でも、この子たちが居るのは天文台の最上階なのでしょう?
 余程の遠距離攻撃があるわけでもなさそうだし、見つかるだけなら問題ないんじゃ?』

 もちろん見つからないのに越したことはないのだろうけれど、という尤もな猟兵の質問に、クロヴィスはいよいよもって苦笑交じりの溜息を吐く。

「それがさァ……この望遠鏡、めっちゃくちゃでさァ……。コイツを覗き込んでる間なら、どンな近接攻撃だろうが、『敵が目の前にいるかのように』その技を使えるンだと」

 そういうわけで、極力見つからないように上手く工夫してくれ、と眉尻を下げたクロヴィスは、手のひらにカジノチップを模したグリモアを取り出した。
 その数は、集まった猟兵たちと同じだけ。

「……ま、どンだけ相手がズルしてようが、勝たなきゃなンねーんだからやるしかねェ。
 加えて、オレぁ負けると思う勝負にゃ挑まねェ主義でな。だから今回だって、ちゃんと勝ちの目があると踏んでアンタらに賭けてる。そこンとこ、忘れないでくれよ」

 言い終えるが早いか、四色の翅を持つ小さな賭博師はベットタイムを開始する。
 一枚、また一枚と弾かれる小さなカジノチップが放つ大きな輝きは、あっという間に猟兵たちを、不思議ですてきなきらきらの国へと飲み込んでいった。


黒羽
【プレイング送信推奨期間:公開後、随時】

 おんなのこは、だいたいみんな、きらきらがだいすき。
 黒羽です。オープニングをご覧頂き有難うございます。
 以下、オープニングの補足です。

●オブリビオンについて
 きらきら大好き、きらきらびっと。
 探すのは、欲しいのは、お腹の中身と真っ黒なきらきら。

 塔のような天文台の上に何体かいます。
 お集まりいただいた猟兵の皆さんの数によって変動します。ふぃーりんぐ。

●プレイングボーナス
 望遠鏡に発見されない工夫をする。
 該当するプレイングにはプレイングボーナスを出します。

●複数人で参加される場合
 プレイングにご一緒される「お相手の呼び名(ID)」の明記をお願いいたします。
 キャパシティの都合で、2名様までが限界な気がします。

●その他
 連携やアドリブ等の目安表記をマスターページの雑記に記載しております。
 執筆状況などをツイッターアカウント【@msf0000592】にて呟いております。
 それぞれ宜しければご覧ください。

 青丸優先、人数少な目採用になるかと思いますが、宜しくお願い致します。
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第1章 集団戦 『きらきらびっと』

POW   :    きらきら
技能名「【部位破壊(三半規管)】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD   :    きらきらびりんす
戦場全体に、【吐き気を催すきらきらモザイク】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    まっくろなせかい
自身からレベルm半径内の無機物を【真っ黒な星々】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アストラ・テレスコープ

いいね!キラキラ!私、キラキラしたの好きだよ?
でもね、望遠鏡は下に向けるんじゃなくて、上に向けて星空を観るものだから……ちゃんと使ってあげてほしいかな?

腰のミニロケットを噴射して「空中浮遊」して迷路を強引に突破!
ほら、上て上!!
望遠鏡がこっちを向くより早く上昇して、「流鏑流星(メテオリックストライク)」で敵を撃ち抜くよ!




 きらきら、きらきら。
 ――すてきなきらきら、みいつけた。

 空を見上げれば満天の星空なのに、前後左右はモザイクの壁。
 やはりあちらに地の利があるのは否めない。
 加えて、サクラミラージュのお屋敷の窓辺で、長いこと星を眺めるお手伝いをしていた彼女は、地上でも一際きらきらしていた、というのも理由のひとつだろうか。
 アストラ・テレスコープ(夢望む天体望遠鏡・f27241)の姿を早々に補足したきらきらびっとは、すぐさま彼女をモザイクの迷宮に閉じ込めてしまった。
 迷宮からの出口はたったひとつ。
 きらきらというよりはビカビカと、幻想的どころか気味悪く蠢く壁は、見ているだけで胸がざわざわして、頭もなんだかくらくらする。
 出口を探し歩くのに、ずっとこの壁を見なければならないのかと思うと気が重い。

「私も、キラキラしたのは好きだけど……」

 このきらきらは、ちょっと違う。
 かといって、ぐったりもしていられない。
 居場所を補足されてしまっている以上、いつ攻撃が飛んできてもおかしくない。
 ――それに、空を見上げるはずの望遠鏡を、下に向けて使っているあのオウガたちに、天体望遠鏡のヤドリガミとしては一言、物申しておきたい気持ちもある。

「よーし、それなら……!」

 ぎゅっと目を瞑って、まずはこの嫌な迷宮の壁をシャットダウン。
 そしてすぐさま、四つのミニロケットをセットした、腰のベルトへと手を伸ばす。
 ひとつひとつのロケットは小さくても、全部で四つ、一気に噴射させれば――……

「いっ、……けぇーーーっ!!」

 アストラの身体が勢いよく地面から離れて、高く高く飛び上がった。
 本当はきらきらの星空を見上げたいところだけれど、ぐっと我慢。
 お屋敷の窓から高く、遠くまで見渡していた瞳で捉えるのは、天文台の最上階。
 そこには、獲物を強固な迷宮に閉じ込めたことで油断しきっていたきらきらびっと達が、思いもよらぬ手法で突然迷宮を突破してきたアストラの姿に慌てふためいていた。

「望遠鏡は下に向けるんじゃなくて、上に向けて星空を観るものなんだよ! ちゃんと使って上げてよ、ほら、上だって、上!」

 満天の星空に向かって上昇を続けながら、大きな声で呼びかける。
 慌てて望遠鏡のレンズを上に向けるきらきらびっと達が見える。
 アストラに照準を合わせようとしているのだろうけれど、もう遅い。
 手を伸ばせば届いてしまいそうなほどに美しいきらきらの星空は、あの吐き気を催すようなきらきらモザイクと違って、アストラに力を与えてくれる。
 かつての持ち主がずっと焦がれていた宇宙への想い。
 しっかりと受け継いだその想いを、ありったけ詰め込んで、弓矢を引く。

「何処までも……飛んでけっ!」

 アストラの手から放たれたきらきらの弓矢は、まるで流れ星のように、きらきらと美しい弧を描き、きらきらびっと達を撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

春霞・遙
えーと、位置を捕捉されなければ居るんだってことはバレてもいいんですよね?
完全に隠密でいなければならないならほかの方に頼みます。

巨大な紙飛行機を何枚も折ります。
それを、地上が見えないように下から見たら天を埋め尽くすように、天文台の周囲を回るよう【仕掛け折り紙】で飛ばします。
常に同じ紙飛行機の下にいないように、上から見える紙飛行機に近づきすぎないように、適度に移動しながら同じように紙飛行機で最上階へ登ります。
先行させた紙飛行機が減るようだったら適宜追加します。

最上階に攻撃できる距離になったら「クイックドロウ」で「呪殺弾」の「弾幕」を浴びせかけます。




 きらきら、きらきら。
 ――すてきなきらきら、さっきまでそこにあったのに。

 天文台の最上階で、きらきらびっと達は困惑していた。
 見上げた空にはいっぱいの、きらきら素敵なお星さま。
 地上にはいっぱいの、もっと素敵なきらきらをお腹に抱えた猟兵たち。
 大好きなきらきらがたくさんで、とってもわくわくしていたはずなのに。
 望遠鏡を覗き込んだ先に見えるのは、真っ白な無数の紙飛行機。
 だめ、だめ、こんなのいらない。
 欲しいのは真っ黒のきらきらなのに、何もきらきらしていない真っ白なんて。
 苛立ち混じりに望遠鏡の角度をいじるきらきらびっと。
 そんな中、紙飛行機と紙飛行機の間にほんの一瞬、きらりとなびく焦げ茶色の髪――春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)の姿が飛び込んでくる。

『きらきら、みいつけた……!』

 きらきらのラビリンスに閉じ込めてしまおう。そう思ったのに。

『……あれ?』

 望遠鏡の向こう側はまた、真っ白な紙飛行機で埋め尽くされてしまった。

「ふぅ、危なかったですかね」

 あちらからこちらへ、こちらからあちらへ。
 紙飛行機の下から紙飛行機の下への移動に成功した遥は、これまた紙飛行機の上で安堵の息を漏らした。
 遥の折りあげたいくつもの巨きな紙飛行機は、天文台から見える地上という地上、すべてを覆い尽くすかのように飛び回っている。
 遠くまで見渡せる望遠鏡も、折り紙の下を透かして見ることまでは叶わない。
 今のきらきらびっと達に与えられた情報は、この戦場に敵がいることくらいだ。

 また見失った、きらきらを見失った、ときらきらびっと達が望遠鏡を覗き込んでいる間に、静かに、ゆっくりと、着実に天文台への距離を詰めていく。
 時折、余りにも苛立ったオウガから望遠鏡を通した攻撃が飛んできて肝を冷やすものの、そこは不思議な力で強化された折り紙の飛行機。
 数発程度なら防いでくれるし、減ってしまったとしてもまた折ればいい。

 ――そうして音もなく辿り着いた最上階。
 高くそびえたつ天文台の最上階ともくれば、見上げた星空の美しさもひとしお。
 だというのに、きらきらびっと達は空のきらきらには目もくれず、既に背後に忍び寄っている遥のことを探すのに夢中で、望遠鏡越しに地上を眺めるばかり。
 構えられた拳銃の、冷たい音に振り向いた時にはもう遅い。
 夜空を埋め尽くす星々のように、地上を埋め尽くした紙飛行機のように、あっという間に呪殺弾の雨が、天文台の最上階を埋め尽くしてしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケンタッキー・マクドナルド
……ケ、良いぜ、やってやる。

さて、見えない様に建物のなかにいる兎の寝首かけばイイってんだろ。……ならこォだ。
どっか木の背中にでも隠れとく。(物を隠す)
此処から「一歩たりとも動かなくても問題ねェ」。……動かすのァ指先だけだ。

【アダム】使用。指先に紡いだ五本を操って天文台へと糸を進める。――糸先に伝わる振動と感触だけで大体どの辺に糸があるのかも どの辺進んでるのかもわかる。見る必要もねェ。(アート×パフォーマンス×操縦)

お目当の兎とやらにまで糸が伸びたら――甚振る趣味ァねェ、身体を操って首を思い切り一捻り。
こちとら神の手だ、一瞬で済ましてやる。

――精々痛みなく逝けや。




 きらきら、きらきら。
 ――すてきなきらきらが、みつからない。

 きらきら大好き、きらきらびっと。
 望遠鏡のレンズを左へ右へ。
 オウガとしての嗅覚が、オブリビオンとしての嗅覚が。
 確かにきらきらの匂いを突き止めているはずなのに。
 覗き込んだレンズの向こう側に見えるのは、夜空のきらきらに照らされる草原。
 それから所々に生えている、きらきらの実った不思議な樹。
 ちがう、ちがうの、私が欲しいのは、こんなきらきらじゃないの。
 ああ、なんて可哀想なきらきらびっと。
 背後に迫る神様の糸が、きらきらしているのに気付かない。

 ――カジノチップから放たれたグリモアの光が、視界を真っ白に埋め尽くす。
 次に目を開けると、空に、大地に、無数のきらきらがある真っ黒な世界だった。
 ケンタッキー・マクドナルド(神はこの手に宿れり・f25528)が転送されてきたのは、小さな身体を隠すのには充分すぎる大樹の根元。

「さて、見えない様に建物のなかにいる兎の寝首かけばイイってんだろ」

 グリモアベースで聞いた説明を思い返す。
 あの説明通りなら、この大樹の陰からヒョイとでも顔を出したら最後、どんなに遠くで輝く星の輝きも捉えてしまう望遠鏡は、自分の小さな身体であっても、たちまち捕捉するはずだ。

「……なら、こォだ」

 足は一歩たりとも動かさず、ボロボロの翅をひらりともさせず。
 ありとあらゆる感覚を、神業の宿る五本の指に集中させた。
 その指先から伸びるのは、目に見えないほどに細く、しかして頑丈な無数の糸。

 指先から、木の裏へ。木の裏から、だだっ広い草原へ。
 するすると伸びていく糸は、見えていないけど見えている。

 だだっ広い草原から、天文台へ。天文台から、その最上階へ。
 ゆっくりと登っていく糸は、聞こえていないけど聞こえている。

「……着いたな。こちとら神の手だ、一瞬で済ましてやる」

 するりするりと音もなく、しゅるりしゅるりと気付かれぬ内に。
 見えることなき神の糸は、着実にきらきらびっと達の運命を機織って。
 最上階に辿り着いた無数の糸が最後に向かうのは、きらきらびっと達の細い首。
 頑丈で堅固な神の意図は寸分狂わず、勝利をその手に手繰り寄せた。

 ――甚振る趣味ァねェ。精々痛みなく逝けや。

 ああ、なんて幸福なきらきらびっと。
 神様の意図は慈悲深く、こきり、ぽきん、と夢の中。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
えぇ、メアリもきらきらは好きよ?
それがオウガに流させた血ならなおの事!

見つからない方が良いのなら
事前に【私を飲んで】で小さくなって
それに【逃げ足】で陰から陰へ
【目立たない】ように進みましょう?
だけれど、この姿で天文台を登るのは一苦労かしら
見つからないところでは解除して
また必要なところで小さくなって
……あんまり繰り返すとお腹たぷたぷになってしまいそう

そうして近くまで辿り着いたなら
【ジャンプ】で跳び付き【足場習熟】駆けあがり
目なり腱なり弱いところを【部位破壊】
痛みのあまりに悲鳴を挙げて
大きく口を開けたなら
すぐさま飛び込みお腹の中に
あなたの中のきらきらを
さらけ出してあげるから




 きらきら、きらきら。
 ――きらきらが好き? おそろいね。

 きゅぽん。物陰でそっと、小さなガラス瓶のコルク栓を抜く音。
 甘ったるい液体を飲み干した途端、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)の身体はみるみる内に小さくなっていく。
 やがて小さなドアをくぐれるほどに縮んだメアリーは、一目散に駆け出した。
 夜空に輝く星々は言わずもがな、そしてそんな星明かりに照らされた草の大地もきらきらしていて、所々に生えている木にはきらきらした果実が実っている。
 あちらもこちらも、たくさんのきらきら。
 けれど、そんなきらきらには目もくれず、メアリーは天文台まで一直線。
 おんなのこはみんな、きらきらが大好きなはずなのに。

「(えぇ、えぇ。メアリもきらきらは好きよ?)」

 きらきらとした背の高い草。きらきら光る大きな花びら。
 幹までもきらきらと輝く不思議な樹。
 たくさんのきらきらに身を隠しながら、少しずつ、確実に。
 天文台の最上階に待ち受ける、大好きなきらきらに向かって進んでいく。

「だけれど……この姿で天文台を登るのは一苦労かしら」

 天文台の真下まで辿り着いたメアリーは、首を真上に向けて呟いた。
 ただでさえ大きくそびえたっている天文台。
 小さくなったメアリーの目からは更に大きく、高く見える。
 大変だろうし、疲れるし、何より時間がかかってしまう。
 ああ、はやく、はやく。大好きなきらきらをこの目に焼き付けたいのに。
 焦がれるような視線で最上階を見上げると、あることに気が付いた。

 ――なるほど、灯台下暗し。

 この広大な大地を監視する望遠鏡、そのどのレンズも真下には向いていない。
 せっかく遠くまで見渡せる望遠鏡で、近くを見ようとは思わないというわけだ。
 もうすぐそこに感じるきらきらの匂い。
 逸るような気持ちでメアリーは変身を解いて、天文台へと忍び込む。
 もしも足音が響くような場所があれば、またあのお薬を飲めばいい。

「……あんまり繰り返すと、お腹たぷたぷになってしまいそう」

 ――ちょっとだけ気にするように、柔らかな腹を撫でるのだった。



 最上階に辿り着いたメアリーは、そうっと物陰から覗き込む。
 きらきらびっとは望遠鏡を覗き込むのに夢中で、もうすぐそこにメアリーがやってきているのに気づいていないようだった。

 ――あなたのきらきら、わたしにちょうだい。

 ウサギのようにぴょん、と跳ねると、お腹の中でちゃぷんと水が跳ねた。
 構わずに脚の腱に飛びついて、肉切り包丁を突き刺して。
 がくりと崩れ落ちた脚は、そのまま駆け上がるのにとっても便利ね。
 あら、あら、痛かったのかしら。
 口を開けても声が出せないほど、痛かったのかしら。
 でも、入口があるなら入らなくてはね。
 だってあのお薬は、小さな入口をくぐれるようにするためのお薬だもの。

 すぐさまオウガの口の中へと飛び込んだメアリーは、小さな包丁で喉の肉を裂きながら、御伽噺の少女のように、下へ、下へ、下へ――。

「あなたのお腹のなかにもほら、こんなにきらきらが詰まってた」

 入口とは違う場所から出てきたメアリーは、満足そうに笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

波紫・焔璃

せっかく立派な天文台があって
望遠鏡もあって
お星さまも綺麗なんだからちゃんとお星さまのきらきら見てれば良いのに

ほー、隠れんぼしながら近付けばいいんだね?
ふふふ、昼間じゃなくて良かったよ
だって……
闇に紛れ、静かに近付くのはあたし達妖怪の得意分野だもの
空中浮遊で移動すれば足音もしないしさ

危ない時は残像で躱してみようかな
で、その隙に接近して破魔を込めた爍華で鎧無視攻撃!

あたしはそんなきらきら嫌
みんなのきらきらした笑顔の方がずっと好き

だから、それを曇らせるっていうなら…
閻魔様の焔で焼却されて灰になってらっしゃい!!
爍華を鎧砕きの要領で振り下ろしちゃお


煙草・火花


好んで使いたくはないのでありますが……この異世界の危機に小生の都合で躊躇っていては帝都を守護する學徒兵の名折れというもの
使えるモノは使っていくでありますよ!

望遠鏡がこちらを向くのに合わせて、体の一部を可燃性ガスに変化
敵の視野を遮り、こちらを見失っている内に駆け抜けるのであります
いざという時は全身をガス化させれば完全に見失いましょう
ガス化すれば部位破壊も意味をなさないであります

後は首尾よく塔に辿り着き、懐に潜り込めばこちらの物
小銃の霊力弾で牽制しながら、軍刀で斬りかかり、ガスを着火して炎の【属性攻撃】であります!
小生は外套と【火炎耐性】で耐えれるでありますから、もう派手に燃やすのであります!




 きらきら、きらきら。
 ――あなたにとってのきらきらは、なあに?

 夜空の広がる不思議の国。
 満天の星空がもたらしてくれるのは、わずかばかりの星明かり。
 そんなささやかな明かりだからこそ、この星空は美しい。
 そして、もしもあれらが真昼の太陽のように燦々と照っていたのなら、波紫・焔璃(彩を羨む迷霧・f28226)の進軍は、きっとこんなにスムーズにはいかなかっただろう。

 すっかり暗がりに溶け込んだ焔璃の姿は、望遠鏡越しには見つからない。
 もっとも、きらきらびっと達がもっと注意深く、焔璃に興味を持って目を凝らしたのなら、藍鼠の髪はともかくとして、あの空で光る星のような、茜色の瞳くらいなら、見つけられたのかもしれないけれど。
 せっかく天文台に居て、せっかく望遠鏡もあるというのに、こんなにも美しく輝く夜空の星には目もくれないオウガ達が、それを見つけられるはずもない。

 ほんの少し身体を浮かせたおかげで、足音も鳴らない。
 鳴らない以上は、あの長い耳にだって届かない。
 目指すはあの大きな天文台の最上階。
 望遠鏡のレンズの向きを注意深く観察しながら、静かに静かに忍び寄る。
 もう少し、あと少しで天文台の真下に辿り着く――その瞬間。
 ふわりと香ったガスの匂いに、焔璃はピタリと足を止めた。

「……おや、気付かれてしまいましたか。ああいえ、そう身構えなくとも」

 聞こえてきたのはひそひそ声。
 ここは天文台の真下。灯台下暗しとは良く言ったもので、遠くを見渡せて、遠くまで攻撃を繰り出せる便利な望遠鏡のレンズは、依然遠くを見つめている。
 その状況を確認すると、可燃性のガスに身体を変化させていた煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)が、焔璃の前に姿を現した。

「驚かせてしまったのなら申し訳ない、少々特異な体質でして……。ご安心ください、小生も猟兵、名を煙草・火花。つまりは貴殿の味方であります!」
「えっ……あ、あなた、あなた……」

 何もない所から声がして、突然その姿を表した少女。
 びっくりしたのか、目を丸くする焔璃の反応に、火花は少しだけ眉尻を下げる。
 ――やはり猟兵と言えども、致し方ない。この奇怪な体質は受け入れ難いもの。
 世界の危機とあらば方法を選ぶわけにはいくまいと奮起して、本来ならば使用を避けている自身の特異体質を存分に活かしていく作戦をとった。
 そして敵の本拠地を目前にして自分の存在に気づいたらしい焔璃を見つけ、共闘できるのであれば心強い、と姿を現したのだが、……彼女の反応を見るに、怖がらせてしまったのだろう。
 共闘どころか、恐怖で足を引っ張ってしまうのは本意ではない。
 至極残念だが、互いに健闘を祈り、火花が彼女から離れようと思ったとき――焔璃から、思いもよらない言葉が出てきた。

「あなた、あたしが見えるの!?」
「……それでは、互いに健闘を――……えっ?」

 茜色の瞳をきらきらと輝かせた焔璃の表情はとても嬉しそう。
 興奮気味になってしまう声をなんとかひそひそ声に抑え込んで、焔璃は続ける。

「身体を透明にできちゃうなんて凄いね! しかも、これから最上階に行こうって所で会えるなんて心強い! あたしは焔璃だよ、一緒に頑張ろうね!」
「は……、はいっ、もちろんであります!! 宜しくお願いします、焔璃殿!」

 ひそひそ声だけど、元気な声で。
 ぐ、と拳を握り締めながら笑顔を浮かべた火花が、大きく頷く。
 その笑顔がきらきらしていて、とっても素敵だったから――ほら、もうお友達。

 ――――――
 ――――
 ――

 最上階に待ち受けていたきらきらびっとは二体。
 天文台のそれぞれ東と西、お尻を向け合うようにして望遠鏡を覗き込んでいた。

「それじゃ、三つ数えたら一気に行こう」
「はい、了解であります!」

 腹話術に近いほどのひそひそ声と視線で合図を送り合い、頷き合う。
 焔璃の指が、一本、二本と立てられて、三本目がたったその瞬間。
 焔璃は鬼棍棒『爍華』を力いっぱいに振り上げて、火花は『七◯◯式軍刀丙』を抜刀しながらオウガ達に襲い掛かる。
 流石のオウガもこれには驚いたか、望遠鏡から咄嗟に背後を振り返り、すぐさま部位破壊の力を込めた禍々しい星を放った。

 けれど、猟兵ふたりの動きはフェイク。
 振りかぶった鬼棍棒の遠心力を利用した焔璃は、残像を残しながらその身を躱し。
 怖がられないことを知った火花は、焔璃の前でも躊躇いなくその身をガス化する。
 東のきらきらびっとが放った黒い星は、焔璃に躱されて西のきらきらびっとへ。
 西のきらきらびっとが放った黒い星は、火花を擦り抜け東のきらきらびっとへ。
 まさかのフレンドリーファイアに目を見開く間もなく、東西そろってきらきらびっと達は平衡感覚を失い、たちまち足元から崩れ落ちた。

「好んで披露したくはないのでありますが……焔璃殿!」
「オッケー、火花! あたしは、あなた達の好きだっていうきらきらは嫌。そんなのより、みんなのきらきらした笑顔の方がずっと好き! だから、それを曇らせるって言うなら……」

 火花の放った可燃ガスが充満する最上階に、焔璃の怒声が響き渡る。

「閻魔様の焔で焼かれて、灰になってらっしゃい!!」

 棍棒に嵌め込まれた紅玉髄が、焔のような、明るい尾を引いて。
 力いっぱいに爍華を振り下ろした途端、破魔の力を纏った炎が、火花のガスを伝って、地獄の業火の如く一気に燃え広がった。

「さぁ、早くこちらへ!」

 耐燃性の外套を広げた火花が、すぐさま焔璃を避難させる。
 断罪の焔が飲み込むのは、罪を犯した者たちだけで充分だ。
 きらきら、ぱちぱち、きらきら、ぱちぱち。
 ――目もくれなかったあの星のように、灰になるまで、真っ赤に燃えろ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オニバス・ビロウ

ここに陣取っているにも関わらず星に興味がないとは嘆かわしい
ならばここに星がなくても良いのだろう

持っている花冠に祈りを捧げ術を呼び起こす
天花星墜、周辺の星を墜として完全な暗闇とする
完全な暗闇にした後、木苺を食して環境耐性と地形耐性を得て行動を開始する
真っ暗闇であるならば相手に気取られることなく、だが明るい月夜の如く動けよう
まっくろなせかいで動けるのは貴様のみと思うなよ

ん、暗闇の中で黒い星が動いている…?
何にせよ『星を墜とす』の言通りにする、させるのみだ
暗闇の中でも見えているのだから星を見切ることなど容易い

その上でただ切るのみだ、そこの星もろとも兎ごと!




 きらきら、きらきら。
 ――すてきなきらきら、見えなくなっちゃった。

 昼夜問わずに星空が天を覆う不思議の国。
 太陽の代わりに、夜空から絶えず降り注ぐ星々の輝きが大地を照らす。
 天高く輝くあの美しいきらめきに、わずかでも近づきたい、手を伸ばしたいと思ってしまうのは、もはや人の性というべきものだろう。
 そしてそんな願いを受けて、あの塔のように高い天文台は出来たのだろう。
 ――だというのに、きらきらしたものが大好きだというオウガ達は、頭上のきらきらには目もくれず、望遠鏡のレンズを大地に向けて覗き込んでいる。

「そこに陣取っているにも関わらず、星に興味がないとは嘆かわしい」

 オニバス・ビロウ(花冠・f19687)は嘆息交じりに呟いた。
 あの兎たちにとって、この美しい明かりは必要ないということなのだろう。
 星明かりを浴びる事で蕾を開くという、アリスラビリンスの不思議な花で作られた冠を取り出すと、オニバスは静かに祈りを捧げる。
 すると、ひとつ、またひとつ。
 きらきらと輝く星々が、次々とその明かりを落とし始めた。
 あんなにきらきらと大地を照らしてくれていた空は、あっという間に真っ暗闇。
 天高く伸びる天文台も、その最上階に陣取るきらきらびっと達も、他の猟兵の姿も、そしてオニバスの姿も、総てが真っ黒な世界に飲み込まれてしまった。
 どんなに望遠鏡を覗いた所で、何のきらきらも見えやしないだろう。
 あの兎共は今頃、ようやくあの星空の恩恵を痛感しているに違いない。
 そんなことを思いながら、オニバスは懐に忍ばせていた果実を口に運ぶ。

「“まっくろなせかい”で動けるのは貴様のみと思うなよ」

 甘酸っぱい香りが口腔に広がると同時、オニバスの視界が、オニバスの視界だけが、月明かりに照らされたかのように広がっていく。
 実際に明るく照らされている訳ではなく、不思議な木苺のもたらす力だ。
 これで気兼ねなく動けると、オニバスは自身の名前を冠した打刀を握り直す。
 目指し走るは前方一直線の天文台、その最上階。

 一方その頃、空も、大地も、望遠鏡の向こう側も。
 急に見えなくなってしまったきらきらびっと達は、揃いも揃って大混乱。
 何とかきらきらを捉えようと、真っ暗な世界に真っ黒な星を飛ばす――が。

「そんな出鱈目な攻撃が当たるものか、星ならば墜としてくれる!」

 真っ暗闇の中、塔を駆けあがる。
 当てずっぽうに飛んでくる黒き星は、見切り、時には打ち払い。
 最上階まで登り切った頃には、流石に階段を踏み鳴らす音で気付いたか、きらきらびっと達は望遠鏡を覗き込んではいなかった。
 だが、依然状況は変わらない。
 すぐそこに居るのは分かっているのに、どこに居るのか分からない。
 すぐそこに異国の王子様がきらきらしているのに。
 もうすぐそこで、白刃が、きらきらと、振り下ろされようとしているのに。

 きらきら、きらきら、――――――凶つ星は、みな墜ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル


――夜の闇に満ちた不思議の国、だなんて。
戦いとは無縁の状態で、いつか訪れたいものね。……その為にも、今は。

予知のおかげで、敵の攻撃の予測はついている、けれど。
……どこか、覚えのある攻撃方法ですこと。
その上、向こうから見つけてくれるとあれば……私のために仕立てられたかのような戦場ではなくて?

隠れるのではなく、あえて高らかに歌声を響かせる。「夜との闘い 第3番」の旋律を。
当然、多数の望遠鏡が私を補足するでしょう。そして、星々をこちらへ差し向けようとする。
それは、他の猟兵への目を反らすためでもありながら。

残念ね――ここはもう、私の舞台なの。

さて、どちらの星が夜空を制するのか……勝負といきましょう?


ヴィクティム・ウィンターミュート


要は、スナイパーが狙ってる場を突破するかだろ?
だったら余裕だ、何回やってきたと思ってる?
俺を相手に愚策を講じたことを、骨の髄まで後悔させてやる

まずは身を低くし、望遠鏡から反射させる光で見ている方向を推察
遮蔽から遮蔽へ【早業】【ダッシュ】
半ばほどでクロスボウを展開、使うのはスモーク・ボルト
足元に撃ち込んで煙幕を発生させて、ユーベルコードを起動
『Team UP』──体の良いデコイさ
それぞれ左右に行かせ、意識を向けさせるミスディレクション
俺自身はステルス【迷彩】でゆっくり接近し、左腕のワイヤーアンカーを使用
最上階まで一息で跳び、独り捕まえて【暗殺】
隠すように下に堕としておく

さぁ、独りずつ消してやる




 きらきら、きらきら。
 ――隠そうともしないのね、あなた達の素敵なきらきら。

「スナイパーが狙ってる場を突破する、か。オーケイ、余裕だ。そんなこと何回やってきたと思ってる? 俺を相手に愚策を講じたことを、骨の髄まで後悔させてやる」
「ふぅん……どこか、覚えのある攻撃方法ですこと。夜の闇に満ちた不思議の国。その上、向こうから見つけてくれるとあれば……私のために仕立てられたかのような戦場ではなくて?」

 四色の翅を持つフェアリーと良く見知った仲のふたりは、それぞれにそれぞれの自信を持って不敵に笑い、ギャンブラーからのベットを請け負った。

 手を伸ばしたところで届きそうもない星たちが照らす不思議の国。
 手を伸ばそうなんて思いはしないが、それに目もくれずに下ばかりを眺めまわす望遠鏡は、勿体ない使い方をしていると思う。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)は転移が完了するなり、慣れた動作で姿勢を低くし、まずは無防備な状態で見つかるのを防いだ。
 それと同時に素早く電脳ゴーグルを降ろし、僅かな星明かりの反射から、敵陣の望遠鏡の角度を推察する。
 天文台へ向かって派手に走り抜けるなら――今だ、と機を察知した瞬間に走り出した。
 幸い、道中に遮蔽物はいくつかある。この国、いやこの世界らしく、何やらきらきらと光った不可思議な実をつけた大樹が数本。
 それだけあれば充分だ、とばかりに樹から樹へと身を隠しながら、ヴィクティムは確実な任務の遂行を目指し、侵攻を進めていく。

 そんな彼の一部始終を、大樹の影からゆるりと観察していたミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は「慣れたものね」と独り言ちる。
 彼と戦場を共にしたことは幾度かあるけれど、共闘やコンビネーションというよりは、互いにやろうとしていることを好きにしている、という感覚だ。
 だから今回もそのつもりでいきましょう、と思いながら。
 もっとも、今日の――この、星空の下に降り立った自分であれば。
 きっとどこかで噛み合って、少しは彼の助けになるだろう、とも思いながら。
 令嬢らしく、華やかなドレスの裾を、両手でゆったりと持ち上げた。
 片手が塞がっていないというだけで、こんなにも心と動きに余裕が生まれる。
 先ほど駆けて行ったヴィクティムとは対照的に、ゆるりと一歩。
 緩慢ながらも品に満ちた所作でもって、大樹の陰からその身を曝け出す。

「あン? 何してンだあのお嬢様は……? ……まぁいいや。下手を打つようなヤツじゃねーだろうし、何か考えがあるんだろ。俺は俺の仕事をするだけだね」

 背後で何かが動き出した気配を察知しながらも、ヴィクティムの足は止まらない。
 走り出してから天文台までちょうど半分ほどの距離を詰めた辺りで、機械化した右腕からクロスボウを展開する。
 すぐさま異変を察知した望遠鏡のレンズが自分に向くのに気付いたが、そんなことは構いやしない。というより、今さら気付いた所でもう遅いのだ。
 バチリという派手な音と共にスモーク・ボルトを足元へ打ち込み、濛々と立ち込める煙幕に身を隠す。
 今の自分が何をしようとしているかなんて、望遠鏡越しには分かるまい。
 ――『Team UP』。
 煙幕が切れるよりも先に、素早い動きで煙幕から飛び出す影が二つ。
 左右それぞれに散ったその影を、令嬢は後ろから確かに見ていた。

「あれは……ヴィクティムが、ふたり……?」

 片方はユーベルコードによる分身、そしてもう片方が本体だろうか。
 ヴィクティムの操るユーベルコードの詳細を知らないミーユイは考える。
 自分とそっくりなコピーが現れ、召喚してくれるユーベルコードがあったはずだ。
 確かに囮には使えるかもしれないが、もしも敵が当てずっぽうに攻撃をしてきたとして、万が一本体が傷つけられてしまっては……でも、それだったら尚のこと。
 今から自分のしようとしている事は、彼にとって大きな助力になるはずだ。
 遠く、天文台の最上階を見据えて。ミーユイは、改めて背筋を伸ばした。
 そして「ふぅ」と小さく息を吐いて呼吸を整え、『スイッチ』を入れる。
 煙幕から飛び出した二人のヴィクティムのおかげで、すっかり染みついたこの一連の動作も、かなりの余裕をもって行うことが出来た。

 ――夜空の星々こそは、自分のための舞台照明であると。
 ――星々に照らされた大地こそは、自分のための舞台であると。
 言葉ではなく振舞いで。
 敵に、そして自分自身に宣言をするかのように、凛と立つ。

「さて、どちらの星が夜空を制するのか……勝負といきましょう?」

 ヴィクティムの放った煙幕、そしてそこから飛び出した二つの影を追いかけていた望遠鏡のレンズの内いくつかが、木陰から姿を表したミーユイに気付き、照準を合わせている。
 ――ああ、けれどまだ足りない。
 せっかく、自分のために誂えたかのような舞台で歌えるのだから。
 満天の星空を見上げた彼女は、夜の祝福を受けたかのような歌声を奏で始めた。
 どうせならば、あの疎ましいレンズ――その全てを、釘付けに。

「なるほどねぇ……確かにアレなら、姿を見せちまっても構わねぇ。つーか、姿を見せて、敵意を向けてもらわなきゃ意味がねぇのか」

 戦場一帯に響き渡る、高らかな夜の歌。
 その歌によってミーユイの存在に気付いたオウガ達は勿論、天文台の最上階から一斉に黒い星を発射する。
 それこそは紛れもない敵意。すぐさま夜空から降り注いだ星々の煌きが、ミーユイに襲い掛かろうとする黒い星達を撃ち落とす。
 視認できた限りでも天文台に陣取るオウガは少なくとも三体。
 恐らくは死角にあと二体。
 その全てが一斉にミーユイに攻撃を仕掛けているのにも関わらず、今の所その全てを撃ち落としているミーユイの手腕、もとい歌唱力は流石と言うべきか……なんて暢気に戦況を把握できる程度には、ヴィクティムには余裕があった。

 何せ、煙幕から左右に飛び出した二人のヴィクティムはコピープログラム。
 本体である自分はというと、あの後すぐにステルス迷彩を施して、あとはゆっくりと敵の本拠地に忍び寄るだけ。今さらコソコソする必要もない。
 加えて、ミーユイが派手に囮を引き受けてくれたおかげで、うっかり早い段階でコピープログラムがダストボックス行きに、なんて恐れも各段に減っている。
 お礼というわけではないが、デコイの必要がほとんどなくなった以上、二人のコピーはミーユイの援護へと向かわせた。

 悠々と敵陣の下に辿り着いたヴィクティムは、摩天楼のごときそれを見上げる。
 あちこちの窓から望遠鏡のレンズが突き出ている最上階は、ヴィクティムに言わせれば「どうぞお入りください」と招待状をばらまいているようなもの。
 なんてのびのびとやれる仕事だ、と欠伸が出そうになるほどだが、肝心の詰めで慢心、ミスをするなんていうのは三流以下のやることだ。


「そんじゃ、…………いきますかね、っと!」

 左腕からワイヤーアンカーを飛ばして一息に最上階へと飛び上がるとそこは、ちょうどオウガの覗き込む望遠鏡の目の前だった。
 突如として超至近距離に現れた敵影に、当然オウガは目を見開く。
 一体どこから。このままじゃまずい。
 あの歌う女を相手取っている場合じゃない。
 ねぇ、みんな―――――なんて、声を上げるのを許すわけがない。
 肝心の詰めで慢心、ミスをするなんていうのは、三流以下のやることだからだ。

「そんなにきらきらが好きだってんなら、ほら、楽しんでこいよ。アイツの歌のおかげで、外はめちゃくちゃきらきらしてるぜ」

 喉笛にざっくりとナイフを突き刺し、きらきらとした血潮を払い。
 窓の外からポイと投げ捨てれば、星空から降り注ぐきらきらの奔流が、たちまち物言わなくなった肉体を焼き尽くして、証拠隠滅完了。
 残るオウガは全部で四体だが、そのどれもが今なおミーユイの歌声に夢中になっているのか、必死になって望遠鏡を覗き込み、暗殺者に無防備を晒している。

 ――妬けるねぇ、とおどけたように肩をすくめて、口端を大きく釣り上げた彼が、仕事を終えるまであと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


えー…視界が射程になるとか、何それずっこい…
あいつら片づけたら手に入ったりしないかなぁ…しないわよねぇ…

望遠鏡を下に向けてるって話だし、上方向への警戒は薄そうかしらぁ?そっちから奇襲しましょ。
閃光手榴弾をバラ撒きつつ、ミッドナイトレースに○騎乗してテイクオフ。ラド(車輪)のルーンと●轢殺で速度上げてVTOLで一気に上昇するわぁ。この子こんな見た目でもUFOだし、こういう芸当もできるのよぉ?
見られてなきゃ問題ないし…見られてたとしても、望遠鏡でフラッシュバンの閃光まともに見たりなんかしたらタダじゃ済まないでしょぉ?
そのまま突っ込んで〇爆撃と流鏑馬で〇蹂躙してやりましょ。




 きらきら、きらきら。
 ――まっしろなきらきら、きらい、きらい。

 ここは愉快で素敵なワンダーランド。
 昼も夜も関係なしに、星々の輝く夜の国。
 いつだって真っ暗なこの国にもたらされる明かりといえば、柔らかな月の光と、ささやかな星明かりの二つだけ――の、はずなのだが。

 燦然と輝く星々の下。そしてこの国のものではない、真っ白な閃光の上。
 フラッシュグレネードを思い切り地面にばらまいたティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、涼しい顔で颯爽とバイクを駆り、真昼のような明るさの中、夜空と同じ色の髪をなびかせる。
 メルヘンチックな不思議の国とはどうにも不釣り合いなそのバイクは、しかして名をミッドナイトレース。『夜』をその名に冠しながら夜の国の上空を走り抜けるそれこそは、とある筋から拝借してきた、此度のティオレンシアの相棒だ。
 見た目こそ完全なる二輪車なのだが、その重厚感あふれるボディをものともせずに、ヴィトール機がごとく夜空へとテイクオフ。
 それは決してこの世界が不思議の国だから、というわけではなく、このミッドナイトレースにはバイクの他にもう一つ、UFOという側面もあるが故。
 加えて、五番目のルーンによる智と、ユーベルコードによるブースト。
 それらを組み合わせることでティオレンシアは、星明かりをバックに空を走り抜けるバイク、という、何ともロマンに満ちた絵を描いていた。

 空から天文台へと向かいながら、ティオレンシアは目を凝らす。
 一見して瞑っているようにも見える瞼の奥の赤い瞳は、意外と視力がいい。

「望遠鏡のレンズはぁ……オーケー、全部下を向いてるわね」

 ということは、先ほどのフラッシュバンを、あのズルさ極まりない――あわよくばお持ち帰りできやしないかと、ティオレンシアが密かに目論んでしまうほどにはチートじみた――望遠鏡で見たということは、近接攻撃が当てられるほどの超至近距離で見た、ということになる。
 まともな視力を持った者であれば、ひとたまりもないはずだ。
 その証拠に、標的であるはずの自分が上空へと移動したのにも関わらず、スコープの役割を果たすレンズがこちらを向く様子はない。
 恐らくは視力の回復に努めているか、閃光を放った者を大地に探しているのだろう。
 この機を狙わない理由はない。
 ラドのルーンによる叡智、そしてティオレンシアの操舵の元に一際大きな唸りをあげたミッドナイトレースが、天文台の最上階へと辿り着くまでに時間はかからなかった。

「――それじゃ特訓の成果、発揮しちゃいましょうかぁ」

 そう言いながら、しなやかな腕に武器を構える。
 高速で動く乗り物に、それも空中を駆けるという常識外れの乗り物の操縦をしながら、狙った対象に飛び道具を当てるという至難の業――これでもだいぶ特訓したんだから、とは本人の談。

 天文台にぐるりと一周、並んだオウガは全部で六体。
 天文台をぐるりと一周駆け抜ける内に、放った弾はきっちり六発。

「よぉし、せっかくだからオマケしちゃお」

 その全てが綺麗に命中したことに機嫌を良くしながら、仕上げに上空から焼夷グレネードをぽんと放り込んで、気付く。

「あ……やっちゃった、これだとあの便利な望遠鏡も一緒に燃えちゃうわぁ。すぐに回収しにいけば……間に合うかしらぁ……だめかなぁ……」

 ――グレネードが接地するまで残り約1秒。ミッドナイトレースに跨ったまま、ティオレンシアは悩まし気な声をあげるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォーリー・セビキウス


つまり、見えなければ良いのだろう?見えぬまま死んでいけ。

可能ならユーベルコードを用いたスナイプ射撃で、望遠鏡のレンズを破壊する。

視力、スナイパー、一斉発射、二回攻撃辺りの技能を交えてよりスナイプ威力や精度を上げる

不可能なら隠密行動に切り替える。
色素細胞を変化させ、皮膚の色を変えて光を反射する迷彩で背景と同化し、さらに変装技能を用いて、その精度を上げて目立たなくする。
地形を利用して常に移動して場所を変えながらスナイプを行う。

キラキラに塗れて死ぬ気分はどうだ?本望か?

フン、あぐらをかいたな。速さの無い兎に勝ち目はないというわけだ。まあ、私は亀ではないがね。
兎は蛇に喰われる、自然の摂理だな。




 きらきら、きらきら。
 ――わたしのきらきら、ねらうのだあれ。

「つまり、見えなければいいのだろう?」

 四色の翅を持つ小さな顔見知りから受けた予兆の説明に、「わかったから、もういい」とでも言うように、雑にひらりと手を振った。
 それは、彼なりの「任せておけ」という意思表示なのかもしれなかった。

 フォーリー・セビキウス(過日に哭く・f02471)の肌は、夜空の色をしていた。
 まるで爬虫類のように肌の色素細胞を変化させ、皮膚の色を操り、周囲の景色を反射するような肌へと変質させる。
 こんな常闇の国に佇もうものなら、どんなに遠くからでも見つけられるほどに白い肌をしている筈の男は、今ではすっかり夜に溶け込んでいた。

 ――それでも尚、獲物を狙う爬虫類は、念を入れる。
 喉笛に牙を突き立てるその瞬間まで、徹底的に息を殺し切る。
 常に姿勢は低く。樹木などの遮蔽物があるのなら即座に身を隠し。
 なにせ捕食される側というのは、兎角警戒心の強い生き物だ。
 そうでなければ、あんなに遠くまで見渡せる道具に頼りなんてしないだろう。
 だから今は徹底的に目立たずに。徹底的に見つからぬように。
 されど蛇に似た金瞳は爛とぎらつかせながら、獲物の棲み処へと進んでいく。

 やがて白くそびえる天文台までの距離が、残り500mを切った時。

「――充分だな」

 白塔の最上階を見据えた蛇の目が、音もなくすぅ、と細くなる。
 樹木の陰から樹木の陰へと素早く移動を繰り返していたフォーリーは、一本の樹木の影で足を止めた。
 この国に自生する樹木はどれも、きらきらと光る不思議な実を付けている。
 その実が食べられるのか食べられないのか、美味なのか不味いのかは分からないが、今のフォーリーにとっては、幻想的な輝きを放つ未知の果実も、その味も、全くどうでもいいことだった。
 星明かり程の光を放つ果実のおかげで、彼の立つ場所は一層暗く、目立たない。
 獲物を狙って光らせる牙を、標的を狙って引き絞るロングボウを、悟られない。
 大切なのは、ただ、それだけ。

 ――――星空を這う一筋の光は、蛇か、流星か。

 放たれた矢は、軽々と500m近い距離を飛んだ。
 そしてついぞフォーリーを捉えることの出来なかった望遠鏡、その向こう側で。
 長い耳を生やした、オウガと思しき影がぐらりと大きく傾いて、天文台から足を滑らせたように、真っ逆さまに落ちていく。

「……フン、あぐらをかいたな。キラキラに塗れて死ぬ気分はどうだ? 本望か?」

 ――どこかの昔話の兎は、自身の敏捷さの上にあぐらをかき、のんびりと昼寝なんてしたために、のろまな亀に敗北を喫したのだと言う。
 だがその話を聞くに、油断だの昼寝をしていなければ勝利は確実だったのだろう。
 油断こそしたものの、兎自身に脚の速さという勝ちの目はあったのだ。
 だがたった今自らの手で撃ち落としたあの兎はどうだ。
 地の利を得ておきながら、スコープも同然の便利な道具を得ておきながら、ああも呆気なく、成す術なく、一矢報いることすらもなく、ただただ地面に真っ逆さま。

「速さすら持たない。道具も満足に使えない。所詮ただの兎に勝ち目はないというわけだ。……まあ、私は亀ではないがね」

 肌に施した迷彩を解除しながら、誰が聞いているわけでもないジョークにひとり、くく、と喉の奥を鳴らす。
 そしてフォーリーは、戦場であることを忘れてしまいそうなほど静かで、素敵で愉快な不思議の国であることを忘れてしまいそうなほど張りつめた場所から、ゆっくりと帰還を開始するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月04日


挿絵イラスト