迷宮災厄戦⑨~凍りゆく時の泉(作者 滝戸ジョウイチ
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 あなたが落としたのは、この金の斧ですか?
 それともあるいは、こちらの銀の斧ですか?
 ああ、答えていただかなくても結構です。
 だってここは、時間が凍りついた恐るべき氷の城。
 あなたの答えを待っていたら、首を刎ねるのが間に合わないでしょう?
 どうせあなたは、嘘つきなのですから。

 ☆ ☆ ☆

「アリスラビリンスのみならず、多くの世界を揺るがす戦いが始まりました」
 帽子を取って一礼してから、クララマリー・アイゼンバウム(巡るメルヒェンの旅人・f19627)は今回の大異変――『迷宮災厄戦』のあらましについて語り始めた。
「既にご存じの方もいらっしゃるでしょうが、『猟書家』を名乗るオブリビオン達が、アリスラビリンスのオブリビオン・フォーミュラ『オウガ・オリジン』から現実改変の力を奪い、既に支配者が倒されて平和になった世界へと侵略を行おうとしています」
 猟書家とオウガ・オリジンがそれぞれの思惑で動き、状況は混迷を極めているが、猟兵達のすべきことは変わらない。目の前の壁を一つ一つ乗り越えていく、それだけだ。
「まずは私の予知した戦場をご案内しましょう。いずれその先を目指すために」
 クララマリーが掌を掲げると、宙に浮かぶ銀時計が空中に幻影を映し出した。

「皆さんに向かっていただくのはこの氷の城……『時間凍結城』と呼ばれる場所です。
 ここではその名の通り『時間』が『凍結』され、城の外とは時の流れが異なるのです。
 あらゆる速さが10分の1になってしまうため、普段と同じ感覚では戦えないでしょう」
 時間凍結の影響は、肉体の動きなど物理的なものだけでなく、ユーベルコードを含む全ての現象に対して働く。城の中に入れば、何もかもスローモーションに感じるはずだ。
「ただし、どういう原理かは不明ですが、幸い『思考速度』だけは影響を受けません。
 お互いの動きが10分の1の速さになっても、考えることだけは普段通りに行えます。
 考えようによっては、思考だけが普段の10倍の速さだと言えるかもしれませんね」
 この思考速度をいかに有効活用するかが、この戦場での勝敗を分けることになる。
 10倍の時間をかけて敵の一手を見極め、それを元に自らは最善の一手で動く。
 当然敵もこちらの攻撃を見切ろうとするだろうが、対策だって可能であるはずだ。
 何もかもが遅い世界の中でどれだけ考えを巡らせられるか。全ては猟兵次第だろう。

「今回の予知で相対することになる敵は『泉の女神』。いわゆる金の斧銀の斧、ですね。
 もっとも時間凍結城では言葉すら遅くなりますから、いつもの問いはしてきません。
 代わりに躊躇なく斧による攻撃を仕掛けてきますから、どうかご注意ください」
 泉の女神は空間を飛び越えて斧を放つ能力を持ち、この距離を無視する特性は時の流れが遅くなる戦場と相性がいい。攻撃までのタイムラグを極限まで小さくできるためだ。
「ですので、突然迫り来る敵の強襲をどう凌ぐかも重要なポイントになることでしょう。
 大変そうな相手ではありますが、皆様ならば成し遂げてくれると私は信じています」
 クララマリーは改めて居住まいを正し、集った面々へともう一度頭を下げる。
「私も一人のアリス、一人の猟兵として尽力します。皆様の力をお貸しください」
 そう言って微笑みかけると共に銀時計の針が回り、猟兵達を氷の城へと送り出した。


滝戸ジョウイチ
 お久しぶりです、滝戸ジョウイチと申します。
 遂に始まりました、アリスラビリンスが舞台の迷宮災厄戦。
 混沌とした戦況ですが、いつも通り一歩ずつ進んでいきましょう。
 私もグリモア猟兵共々、そのお手伝いを出来たらと思います。

 ●特殊ルール
 今回のシナリオでは、下記の特別なプレイングボーナスがあります。
 =============================
 プレイングボーナス……思考時間を活かし、戦略的に戦う。
 =============================
 OPで言及されている通り、十倍の思考時間が勝利の鍵です。
 普段は不可能な戦い方も、発想次第では出来るかもしれません。

 なお、敵との会話は望まないほうが良いかと思われます。
 会話にかかる時間も十倍になり、言い終わる前に決着がつきかねないので……。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『泉の女神』

POW ●あなたが落としたのは、この金の斧ですか?
【距離を無視して首に迫る一撃】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【金の斧】で攻撃する。
SPD ●それとも、銀の斧ですか?
【亜空間】から【銀の斧】を放ち、【四肢を斬りつけること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ ●それとも…
自身が装備する【あらゆる斧】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニィ・ハンブルビーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ローズ・ベルシュタイン
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との共闘歓迎

■心情
時間が十分の1に感じる世界ですか、不思議な世界ですけど
その分、充分に思考を巡らせられるのは便利ですわね。

■行動
白銀勇霊装(UC)を使用して戦いますわ。
十倍の思考時間を活用し
【視力】で敵の操作する斧を見定め、斧が飛んでくるスピードや
飛んでくる角度などを計算し、【見切り】で避けるように動きますわね。
避けきれない斧は、良く動きを見ながら【武器受け】や【盾受け】で防ぐ。

此方からはUCの甲冑を身に纏い、
【2回攻撃】で攻撃。
自身が負傷したらUCの能力の戦闘力増強効果と
【生命力吸収】攻撃で傷を癒しつつ戦いますわね。

「殺戮の為の斧は、此方から願い下げですわ」


 時間凍結城の大広間。その中央には妖精の泉を模した噴水があった。
 噴き出した水は空中で散らばって水滴となり、普段の10分の1の速度で落下する。
 その光景にはスローモーションならではの美があったが、鑑賞している暇はない。
 泉の前には金髪の美女――『泉の女神』が立ち、侵入者に視線で問いかけていた。

(不思議な世界ですけど、その分、充分に思考を巡らせられるのは便利ですわね)
 ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)は声に出すことなく、心の中だけでそう呟いた。夕焼け色のロングソードを抜き放って敵目掛けて駆け出す、その一連の動きが全てスローに感じられる。泉の女神がこちらに視線を向ける動きすら遅い。
 だが、相手の肉体の緩慢さとは対照的に、攻撃の開始は迅速そのものだった。
 金の斧、銀の斧、鉄の斧。無数に複製されたそれらの斧が瞬きひとつの間で一斉に空間転移し、ローズ目掛けて一斉に殺到する。泉の女神お決まりの二択すら問われはしない。
 だが転移こそ一瞬だったが、斧そのものは十倍の時間を掛けて飛来する。攻撃の開始を認識したその直後、ユーベルコードを割り込ませるのは決して難しいことではない。
(薔薇の気高さに等しき極みの鎧……凍りゆく時の中で、なお麗しく!)
 纏うのは『白銀勇霊装』。それを彩るのはアルヌワブラン――聖乙女の甲冑に由来する名を持つ白い薔薇。輝ける鎧に身を包み、地を蹴って体を前へ。じれったいほど遅いその一歩を踏み出すまでの間に、ローズは肉体の十倍の速度で思考を巡らせてゆく。
(軌道を読むには十分な猶予ですわね。躱すべきは躱し、受けるべきは受けるまで!)
 飛来する斧の角度を計算し、少しでも被弾の少ないルートへと足を進める。10分の1のスピードの全力疾走。同時に薔薇の印章が刻まれたラウンドシールドが背後からの攻撃を弾き返し、長剣「夕の憩い」が正面から迫る斧を切り払う。だがその直後、肩口に鋭い痛みが走った。死角からの刃がゆっくりと鎧の隙間に食い込み、傷口を開いていく。
(……っ、巧く仕掛けたおつもりでしょうが……!)
 女神の表情が喜悦の笑みへと変わりつつある。それが驚愕へと移行するだけの時間をも与えない。ローズは力強く大広間の床を蹴った。『白銀勇霊装』は自身の負傷に呼応して身体能力を上昇させる。次に踏み出す一歩は女神の想像を凌駕する速度を持つものだ。
(……殺戮の為の斧は、此方から願い下げですわ!)
 肩の傷は鎧の効果で既に治癒している。女神が斧を再操作するよりも一手先に、ローズは愛剣の刃を振るった。十倍の時間を掛けて、美しき夕焼け色の軌跡が敵を斬る。
成功 🔵🔵🔴

オル・フィラ
速さが10分の1で、考えることだけはいつも通り…?
まあ、行ってみれば分かりますよね

普通に撃っても、この環境では簡単に見切られそうです
敵を確実に撃つため、まずは亜空間から現れる斧を迎撃します
射撃を斧に当てた時にどのように弾かれるのか、ゆっくりな時間を利用して観察したいです
敵には迎撃で精一杯なように見える感じに、射撃と弾の軌道の確認に集中
敵が狙い易い斧を出してきたら好機、跳弾での攻撃を試み、怯んでくれたところに【泥流弾】を撃ちます

考えることは苦手ですが、射撃に集中するだけなら得意です
遅い時間の中での戦闘、折角ですし色々な撃ち方を試してみたいですね


(速さが10分の1で思考だけはいつも通り……? まあ、動いてみれば分かりますよね)
 オル・フィラ(Rusalka・f27718)は、複雑な思考を早々に放棄した。元より難しいことを考えるのは好きでも得意でもない。慣れない戦略を練るよりも、敵も味方もスローモーションで動くというこの環境に10分の1秒でも早く適応することのほうが先だろう。

 愛用の強化人間用自動拳銃「MUD-CP」を油断なく構え、オルは床を蹴って動き出した。そのスローな動きを女神の視線がゆっくりと追うのを確認した直後、野生の勘が不穏な気配を捉える。視線だけを下に落とすと、空間を飛び越えた銀の斧がオルの足首を切り飛ばそうと迫っていた。遅い時間の中だからこそ、このタイムラグの無さは脅威的だ。
(もっとも、十分に目で追えるわけですが。せっかくですから色々試してみますか)
 最小限の動きでMUD-CPの銃口を向け、発砲する。弾丸を撃ち込まれた銀の斧は進路を斜め下へと逸らされ、そのまま床に突き刺さった。直後に亜空間が開くのを目視して体を引くと、先程まで銃を構えていた手を切り落とす軌道で新たな斧が出現する。
(さっきの感触を踏まえると……この角度でこのタイミングなら、2発)
 オルは続けざまに銃爪を引き、ちょうど2発で目の前の斧を弾き落とした。その後も次から次に襲い来る銀の斧をひたすらに銃弾で防ぎ、凌ぎ、阻んで、猛攻を抑えていく。

 泉の女神がゆっくりと目を細めた。それはオルを追い詰めている実感で笑みを浮かべようとしているのか、それとも思うように痛打を与えられずにいることへの苛立ちの表情なのか、この時間の遅さでは分からない。だがいずれにせよ、自分が優位に立っていると考えている時の表情だ。こちらが迎撃に追われていると思いこむ、その慢心を突く。

 オルがあえて踏み出した足を狙い、新たに銀の斧が転移した。十倍の体感時間の中で相手が焦れているのか、徐々に狙いが甘くなってきている。オルが劣勢を演じながらも待ち続けた好機――角度も速度も理想的だ。今なら、完璧なタイミングで仕掛けられる。
(考えることは苦手ですが、射撃に集中するだけなら……!)
 地面すれすれから振り抜かれようとする斧の刃を狙い、オルはMUD-CPを続けざまに発砲した。先ほどまでのような防衛のための射撃ではなく、明確に敵を狙った反撃の弾丸だ。
 刃に直撃した弾丸は完璧な角度で跳ね返り、泉の女神を狙い撃つ跳弾となった。体感時間が十倍であろうとも、不意打ちの射撃など躱せるものではない……そして。
(水霊術式、起動。いくら考えたところで、この弾は防げません)
 ユーベルコード『泥流弾』。跳弾で怯んだ女神の肉体を、土と水との属性複合弾がズタズタに引き裂く。それは計算でも知略でもなく、極め抜いた技量の勝利だった。
成功 🔵🔵🔴

セルマ・エンフィールド
凍結するのが時間ではなく物理的な意味であれば得意とするところなのですが。
まぁ、やりようはあります。

この状態では防御することになる側が有利、敵の能力はこの状況に適しているとはいえ、そうそう当たるものではありません。
迫る斧を「見切り」回避し、またフィンブルヴェトからの氷の弾丸で撃ち落とすことで複数の金の斧に囲まれて回避や防御が間に合わない状況を作らないように立ち回ります。
普段ならそれで手一杯ですが、今は思考の余裕があります。回避しながら【褪せぬ氷晶】で見えないほど透明な氷の刃を作り包囲、包囲しきったら一斉に泉の女王を襲わせます。

今更気づいてももう手遅れです。


 時間凍結城。その名の通りに時間が凍りつく、恐るべき氷の城。
 城そのものも氷に覆われてはいるが、内部の気温はせいぜい肌寒い程度に過ぎない。
 大広間中央の泉を模した噴水が、今もこんこんと水を湛えているのがその証だ。
(凍結するのが時間ではなく物理的な意味であれば、得意とするところなのですが)
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が主力とするのは冷気を用いた攻撃。仮にこの氷の城が見た目通りに冷気で満ちていたならば、有利な戦場だったはずだ。
(まぁ、やりようはあります)
 周囲の全てがスローモーションで流れていく感覚の中で、セルマは愛銃フィンブルヴェトの感触を確かめた。握り慣れた銃把はよく手に馴染み、この遅く流れる時の中で一瞬の差を詰めるためには大いに役立ってくれるだろう。後は、使い手次第だ。

 泉の女神がセルマを目視した。直後、金色の斧が女神のすぐそばで浮遊する。だが振り下ろされたその刃は、両者の距離を一気に飛び越えてセルマの首筋を狙っていた。目の錯覚か、あるいはトリックにすら思える冗談じみた軌道。だがその刃は確かに実体だ。
(戦場に適した能力とはいえ、この状況では防御側が有利。そうそう当たりはしません)
 正面切っての不意討ちをセルマは冷静に見切り、回避行動に移った。斧が振り抜かれる速度が通常の10分の1ならば、目視での対応は十分に可能。それに外界の10倍の速度で巡る思考を元に動くということは、反応速度が10倍になっているのと同じことだ。

 金の斧は、セルマの喉の皮を掠めるように振り抜かれた。迅速な回避によって完全に外れたかと思われた凶刃だが、回転の勢いはそのままに再び首筋を狙う位置へと転移する。
(不意を突いてきたつもりでしょうが、こちらにも思考の余裕はあります)
 冷気を放出しつつフィンブルヴェトを構え、躊躇わずに発砲する。十倍の体感時間は、斧を弾くのに最適なタイミングを見極めるためにはむしろ好都合。一射で的確に撃ち落とし、更なる追撃も冷気を発しながらの見切りとピンポイント射撃とで凌いでいく。

 女神が目をすがめた。直後、セルマの周囲へと金の斧が次々に転移していく。連続で斬りかかるだけでは埒が明かない、同時攻撃ならば仕留められると、そう判断したのか。
(……ですが、やるならば先んじて手を打つべきでしたね)
 金の斧が自身を包囲するよりも先に、セルマは攻撃の意志を念じた。その時になって初めて、泉の女神はようやく自らの状況を自覚する。セルマが発する冷気が、視認できないほどに透明な氷の刃――『褪せぬ氷晶』となって、とっくに自身を包囲していたと。
(今更気づいても、もう手遅れです)
 いくら十倍の思考時間があろうとも、完全な包囲の前では回避も迎撃もありえない。引き伸ばされた時の中で、不可視の氷刃が女神目掛けて殺到し、その身を切り刻んだ。
大成功 🔵🔵🔵

鈴木・志乃
あぁ……もぉァ……。
私の持つユーベルコード、軒並み女神さんとの相性悪いんだもんなァ。考えるだけでかなり時間使っちゃったよ。

多少のダメージは必要経費と割り切った上で、『敵の攻撃をキャンセルし』『思考を無意味にして』無理矢理『隙を生み出して攻撃を叩き込む』ことにする。

開幕UC発動、オーラ防御展開
無機物の斧はこれで嵐と化すから、敵の攻撃はある程度防げるはず。そのままUCで精神攻撃。心にハッキングでも仕掛けるとしますか。
・消した斧を私が奪った幻想
で精神の動揺を誘い
・敵背後から他の仲間が攻撃する幻想
で半ば強制的に後ろを向かせます

一瞬思考が奪えれば良いです
本命はUCでの全力魔法衝撃波なぎ払い攻撃ですので。


 この時間凍結城においては、ただ思考だけが本来の時の流れに沿って行われる。
 つまり肉体の速度を基準にすれば、本来の十倍の時間をかけて考えられるということ。
(あぁ……もぉァ……。私の持つユーベルコード、軒並み相性悪いんだもんなァ)
 鈴木・志乃(ブラック・f12101)はその時間的猶予を限界まで使い、この状況を打破する方策を探し求めた。泉の女神の能力は空間を飛び越えて斧を放つというもの。強引に距離を詰めて先手を取ってくる相手に対して予備動作の必要な搦め手は通じにくく、また歌や詠唱を伴うユーベルコードは否応なしに時間凍結の影響を受けてしまうだろう。

(やっぱり、多少のダメージは割り切るしかないか……!)
 志乃は覚悟と共に護りのオーラを纏った。敵が空間を越えて必ず先手を打ってくるのなら、一旦それを受けた上で無理やりにでもこちらの行動を押し通すしかない。
(今一時銀貨の星を降らせる、世界の祈りの風よ――)
 その言葉は声に出さず、ただ心の内だけで呟く。その時には既に、志乃の周囲を無数の斧が取り囲んでいた。通常の10分の1の速さで流れる時の中で、金・銀・鉄の凶刃が一斉に斬りかかる。回避は困難――最も近くに出現した斧が、志乃の肩に食い込んでいく。
(……っ、これくらいは必要経費!)
 だが、その刃がそれ以上斬り込むことはなかった。周囲の無機物を変換するユーベルコード『流星群(メテオストリーム)』が、周囲の斧を次々に分解して嵐へと変えていく。接近する斧を変換し続けられる限り、泉の女神が放つ斧は志乃を傷つけることはない。

 そして、変換された嵐が持つ特性は「祈りと浄化」。善なる願いを乗せた風が、女神目掛けて吹き付ける。たとえ十倍の思考時間があろうと、その特性を見切れるはずはない。
(見せるのは幻想。たった一瞬、それだけでいい)
 祈りと浄化の風を介して、泉の女神の思考へと干渉する。敵が展開した無数の斧をそのまま志乃が奪い取った……そう認識させることで動揺を誘い、攻撃を躊躇わせる。

 女神は虚空をゆっくりと見回し、即座に新たな斧を呼び出そうとした。ただし攻撃ではなく、自身を「志乃の斧」から守るためだ。少なくとも今この瞬間、『流星群』による精神ハッキングは成功している。敵が看破するより先に、決定的な駄目押しが必要だ。
(背後からの奇襲――このイメージからは逃れられない)
 その直後、泉の女神は背後に有りもしない別の猟兵の気配を感じ、緩慢な動きで振り返った。その視線の先には当然何もない。女神が違和感を覚えるよりも僅かに早く、志乃は渾身の力でユーベルコードの風を叩きつけた。これまでの精神ハックではなく、衝撃波を伴う物理的な攻撃。斧で身を守る猶予すら与えない。全てはこの一瞬、これこそが本命。
 吹きすさぶ嵐が10分の1の速度で敵を捉え、衝撃波が周囲の盾もろとも砕き散らした。
成功 🔵🔵🔴

アルトリウス・セレスタイト
厄介そうだな
打つ手が無ければ

受ける攻撃は『絶理』『刻真』で自身を異なる時間へ置き影響を回避
此方の全行動は『刻真』で無限加速し目標が存在する時間へ向け実行
戦況は『天光』で常に把握
必要魔力は『超克』で“世界の外”から汲み上げる

破界で掃討
目標はオブリビオン及びその全行動
それ以外は「障害」故に無視され影響皆無

高速詠唱に多重詠唱を重ね『再帰』で無限循環
瞬きの間もなく天を覆う数の魔弾を生成、全て『解放』で全力の魔力を注ぎ干渉力を最大化

斧が迫っていれば斧を、それ以外の分はオウガへ
『天冥』で因果を歪め過程を省略、「命中させた」状態で斉射する

最初から届いているなら遅い事に意味は無い
狙いを定める時間も十分にある


(時間凍結……厄介そうだな)
アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、自身の周囲に漂う淡青色の光の粒子を確認しながら、淡々と思考する。この時間凍結城における時間の鈍速化は、アルトリウスの操る世界根底の法則『原理』よりも優先される概念であるらしく、例えば自身を本来の時の流れへ置くことで時間凍結の影響を回避するといった手段は不可能に近い。
(もっとも、厄介なのは打つ手がなければの話ではあるが)
 泉の女神がこちらを認識し、攻撃を開始しようとするのに合わせて、アルトリウスは淡青色の輝きをその身に纏った。用いる顕理輝光は『刻真』。自分自身に流れる時を加速する原理。最終的に10分の1の速度になるとしても、加速自体が有用性を失うことはない。

 女神が何かを問うような視線を投げかけた。その直後、アルトリウスを完全に包囲する形で無数の斧が空間を飛び越えて出現する。時の流れが遅い戦場であるからこそ、タイムラグの無い空間転移は脅威といえる。常に万象を見通す『天光』で戦場を把握するアルトリウスには、斧の転移が万分の一の狂いもなく同じ瞬間に起こったのが理解できた。
(世界の外より『超克』で汲み上げた魔力を元に、詠唱を『再帰』で無限循環)
 たとえ斧の転移が瞬間的であっても、その刃が標的に届くまでは本来の十倍の時間がかかり、こちらにはそれに対応するための十分な猶予がある。アルトリウスは完全に包囲された状態であっても焦りを浮かべることなく冷静かつ迅速に『原理』を組み立て、反攻の一手に最大限の威力をもたらすべく『解放』を介して全開の魔力を注ぎ込んでゆく。

 獲物の全身を斬り刻むべくゆっくりと迫り来る無数の刃。それら全ての位置を『天光』で再確認し、本体を含めて目標として設定。それに対する影響のみを最大化。
(――『破界』)
 全方位に向けて斉射される蒼光の魔弾。それは目標と定めた物体以外に対しては一切干渉することなく、ただ対象のみに影響をもたらす創世の権能、その具現。
 魔弾が直撃した金の斧が、その存在を掻き消される。『原理』の究極、根源からの消去により、アルトリウスを狙う凶刃は次々とこの世界から喪失していった。因果を歪めて既に命中した状態で放った魔弾は、ただの一発も撃ち損じることなく斧を撃つ。
(最初から届いているなら、遅い事に意味は無い)
 狙いは斧だけではない。本体へと放たれた魔弾が女神へと直撃し、その部分を世界から削り取っていく。いかに時の流れが変化しようとも、世界の理が変わることはない。
成功 🔵🔵🔴

メアリー・ベスレム
ふぅん。なんだか面倒臭いのね?
敵を殺すのにいつもよりもうんと考えないといけないだなんて!

距離を無視して攻撃されるなら
逃げ回る意味はないかしら
最速最短距離を詰め、肉切り包丁振りかぶる
四肢を狙う銀の斧は【野生の勘】【継戦能力】で
動けなくなる致命傷だけは確実に避けながら
【激痛耐性】で痛みに耐える

本当ならほんの短い痛みでも
いつもの10倍、それを感じ続けるのなら
いつもの10倍、殺す瞬間が待ち遠しい!
その【雌伏の時】を乗り越えて
メアリがあなたを殺してあげる
とろり煮詰めた復讐心を刃に乗せて
首を刎ねんと【部位破壊】
言葉が通じないのは残念だけれど
いつもよりうんと長い筈の死に至るその瞬間を
笑顔で見送ってあげるから


 この時間が凍りつく恐るべき城での戦いにも、終わりの時が近付きつつあった。
 猟兵達の猛攻で少なからぬ傷を負った泉の女神は、既に当初の余裕を失いつつある。
 言葉にこそしていないものの、表情からは憤りと悔しさが滲み出ているようだった。

(ふぅん。なんだか面倒臭いのね? 敵を殺すのにうんと考えないといけないなんて!)
 一方、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は普段通りのペースを崩さないまま、この特殊な戦場での感覚を確かめる。あらゆる動きが10分の1の速さになる上、敵が距離を無視して攻撃を放ってくるとあっては、逃げ回りながら戦うのは難しいだろう。
(もっともメアリはアリスだけれど、逃げるばかりのアリスじゃないわ)
 かつて不思議の国に召喚された時から今までずっと、メアリーは無力な羊なんかではない。愛用の分厚い肉切り包丁を片手に構え、まっすぐ女神目指して走り出す。十倍に引き伸ばされたその足取りはじれったいくらいに遅く、あまりにも無防備に見える。

 泉の女神は正面から距離を詰めに来るメアリーを一瞥し、躊躇うことなく攻撃へと移行した。亜空間を通してメアリーの足元に銀の斧が出現し、足払いを掛けるように振り抜かれる。それを野生の勘で察知しながら、あくまで進路はまっすぐ敵のほうへ。
(動けなくなったら困るのだけれど、そうでないなら望むところよ)
 斧の刃先がメアリーの足を掠め、鋭い痛みが走る。10分の1の速さで鮮血が飛び散ったが、見た目ほどには傷は深くない。致命的な傷にならないよう、敢えて受けたのだから。
 続けて畳み掛けるように放たれる、四肢を狙った銀の斧。それらの刃が閃くたびにメアリーの体には傷が増え、新たな血が流れ落ちる。だが何よりも、その痛み。全てが遅い世界の中で思考だけが普段のままということは、痛みを感じる体感時間もまた同じ。

(本当ならほんの短い痛みでも、いつもの10倍、それを感じ続けるのなら――)
 けれど、メアリーの顔に浮かぶのは笑み。獲物を駆り立てる獣の、喜びの表情。
(――いつもの10倍、殺す瞬間が待ち遠しい!)
 引き伸ばされた時間の中でひたすらに苦痛を味わい続けながら、メアリーは走る。これが彼女の『雌伏の時(リヴェンジフルモーメント)』――受けた痛みが大きければ大きいほどに、復讐は甘く芳醇な味わいを持ち、いかなる障害をも乗り越える意志を生む。

(とろり煮詰めた復讐心を刃に乗せて、メアリがあなたを殺してあげる!)
 切り裂かれた四肢の傷などものともせずにメアリーは女神の懐に飛び込んで、そのまま一撃のもとに首を刎ねてしまおうと、渾身の力で肉切り包丁を振り抜いた。
 刃が喉に食い込んでいくにつれて、泉の女神の表情が徐々に歪み始める。感じているのは痛みと恐怖。これから十倍の時間をかけて、迫り来る死を味わわなければならない。
(大丈夫、死に至るその瞬間まで、メアリは笑顔で見守ってあげるから)
 死にゆく表情に甘美な味わいを感じながら、メアリーは楽しそうに微笑んだ。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年08月06日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴