迷宮災厄戦②〜嚆矢/砕かれた書架牢獄強襲戦(作者 灰色梟
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「アリス、アリス、アリス! そうよ、まだまだ、もっと、アリスを呼ぶの! 嗚呼、なんて素敵な日なのかしら!」
 見上げんばかり、山のような蔵書を収めた図書館に、狂気に濡れた喝采が響き渡る。
 感じるのだ。わかるのだ。今までとは比べ物にならない、数え切れないほどのアリスたちが刻一刻とこの世界に引き寄せられていることが。
 『材料』に不足はない。いったいどんな『芸術』を生み出そうか。彫刻刀を携えた『アリスアーティスト』は表情を蕩けさせてうっとりと目を細めた。


「『迷宮災厄戦』か。まったく、災厄とはよく言ったものだよ」
 そう言って京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)は眉を顰める。グリモアベースの一画に集まった猟兵たちを前にして、彼は顎に指を当てながら状況の説明を開始した。

「アリスラビリンスで大規模な戦争が発生した。確認されているだけでも、オブリビオン・フォーミュラ『オウガ・オリジン』と正体不明の『猟書家』達がそれぞれの思惑で活動しているらしい」
 そう語る伏籠の口調はどこか困惑気味である。というのも、オウガ・オリジンと猟書家達は一枚岩ではないどころか、ともすれば敵対関係にもあるようなのだ。
 大規模戦争においてオブリビオンたちが明確に反目しあっているという状況。猟兵たちを含めた三勢力の巴戦ともなれば、展開の予想は困難だ。

 ほんの数瞬だけ、グリモア猟兵は思案に暮れるが、すぐに顔を上げて猟兵たちに向き直る。
「考えることはたくさんあると思うけど、まずは目の前の脅威から対処していこう。……これを見て」
 伏籠のグリモアが発光し、何処かの光景を猟兵たちの視線の先に投影する。
 それは『迷路のような図書館』の国だった。砕かれた書庫牢獄。『予兆』を感じ取った猟兵であれば、そこがオウガ・オリジンの捕まっていた場所だと気付くだろう。
 グリモアが映し出した図書館迷宮には、数え切れないほどの『オウガの大軍団』が集い、それぞれに蠢きながら怪しい呪言を唱えていた。

「『アリス召喚の儀式』だ。とんでもなく大規模な、ね」
 あれはなんだ、と問う猟兵に伏籠が応える。オウガ・オリジンの大号令によるものか、彼らは『食糧』となるアリスをかつてない規模でアリスラビリンスに呼び寄せようとしているのだ。
 召喚されたアリスたちがこの戦争に巻き込まれれば、間違いなく無事では済まないだろう。無用な犠牲を出さないためにも、絶対に解決しなければならない案件だ!

「いいかい? この戦場はとにかく敵の数が多い。オウガ軍団をいちいち相手にしていたらキリがない」
 では、どうするか。先を促す仲間たちに伏籠のグリモアは新たな情報を提示する。
 映し出されたのはブロンドの芸術家風の女性。オブリビオン・『アリスアーティスト』の姿だった。
「彼女が召喚儀式の首謀者のひとりだ。オウガ軍団との乱戦を掻い潜って目標に接近。奇襲攻撃で彼女を撃破して欲しい」

 シンプルな速戦速攻。乱戦下における猟兵たちの判断力が重要となるだろう。
 転送先はアリスアーティストに察知されないように、図書館の離れた地点になる。そう付け加えて、伏籠は戦場に繋がる転送ゲートを開いた。

「この戦争がどう転がるか、今はまだわからない。けど、救える命があるなら、必ず救っていこう。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 いよいよ始まりました迷宮災厄戦。こんばんは、灰色梟です。
 本シナリオでは下記のプレイングボーナスが適用されますので、まずはご確認ください。

●プレイングボーナス……オウガの群れを潜り抜け、司令官に素早く接近する。
 戦場となるのは並行して行われている『戦争サバイバルの舞台』です。
 サバイバルに参加する猟兵とオウガの大軍団が激突していますが、当然、こちらに気付けば敵も我武者羅に攻撃を仕掛けてくるでしょう。乱戦を潜り抜けて、司令官に強烈な一撃をお見舞いしてやってください。
 ロケーションは『迷路のような図書館』で、事前の【Q】の成功により猟兵サイドは敵の陣容を掴みやすいポジションを確保しています。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。大事な緒戦、一緒に頑張りましょう!
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第1章 ボス戦 『堕ちた彫刻家『アリスアーティスト』』

POW ●素敵な彫刻にしてあげる♪
【手に持つ彫刻刀】が命中した対象に対し、高威力高命中の【彫刻化の呪い】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD ●大理石へと変わり果てなさい♪
【腕輪】から【呪いの瘴気】を放ち、【大理石化】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ ●石膏まみれになっちゃえ♪
【粘液状化したドロドロの石膏】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が深い石膏の沼に変わり】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠テフラ・カルデラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ライカ・ネーベルラーベ
敵を潜り抜けて、指揮官を……
難しくはないよ、むしろ簡単
「雷を止めることなんて、誰にも出来やしないから」

【マクスウェルの方程式】を発動
雷と化して敵軍の頭上を走り抜けていく
雷は音よりも早いんだ、地上でのたのた戦ってる連中がどうこうできるはずがない
というか物理攻撃はすり抜けるし

指揮官にたどり着いたら、そのまま雷で攻撃していこう
こっちを大理石に変えようが、大理石に変わった身体が変えられた側から雷に変換されていくから無問題
「焼かれて砕けて消えちゃえ!アーティスト気取りの三流石膏屋が!」


 書架牢獄における戦闘は、まさしく、『数の戦い』だった。
 待ち受けるオウガの軍団は雲霞の如く。数えるのも馬鹿らしくなるような大軍勢で図書館に陣を張っている。
 対する猟兵たちも多数の戦力を動員して書架牢獄に侵攻してきている。オウガたちと比べれば数で劣るとはいえ、それぞれが一騎当千の精兵だ。彼らが雪崩を打って突き進んできたとなれば、当然、戦闘の激しさは筆舌に尽くしがたいものとなった。
 両陣営から強力な魔術と武技が吹き荒れ、書架を砕き、天を焼く。嵐のような力の応酬に大地が捲り上がり、空間そのものが悲鳴を上げる戦場で、『一筋の雷』に注意を払えるものが果たしてどれだけいただろうか。

「敵を潜り抜けて、指揮官を狙う。難しくはないよ、むしろ簡単」
 物憂げな表情を崩すこともなく、ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)はあっさりとそう言ってのける。強がりでもハッタリでもない。彼女にとって、それは純然たる事実でしかなかった。
 転送された先の巨大本棚の陰から彼方の敵を見据え、彼女は気負いもなく呟く。

「雷を止めることなんて、誰にも出来やしないから」
 バチリ、と空気が爆ぜる音が響く。障害物となる書架を透かすようにして、遠方のアリスアーティストを指差したライラのその指先が蒼光に弾けて稲妻となった。
 半人半機、メガリスボーグ。全身のほとんどを機械化した疑似蘇生体。それがライラだ。
 心臓のメガリスを核として、ライラは残りの身体を電流と同化させる。『マクスウェルの方程式』と呼ばれる異能を行使して変異・変換した彼女は、もはや人の形を脱ぎ去り、一塊の蒼雷としてそこに存在していた。

 竹を裂いたような音が書架の間に木霊する。その瞬間には既に、雷となったライラはオウガたちの頭上を飛び越えて戦場を疾駆していた。
 音さえも置き去りにする雷光のスピードに、地上のオウガたちはほとんど反応することができない。あるいは、反応できたオウガがいたとしても、彼らは雷を避けることを選択するだろう。なにせ、敵方に集った猟兵には電撃を武器にする者もいるのだから。

「ふふふ。いいわね、いいわね。戦場! 混乱! 破壊! 創作意欲が湧いてくるわ!」
「――見えた」
 時間にして僅か十数秒。障壁となる最後の本棚を飛び越してアリスアーティストを視認したライラは、ノータイムで実体を取り戻す。背後の本棚を足場にして、鋸剣を構えた彼女は鋭くオブリビオンへと躍りかかった。
 チェーンガンブレードの駆動音が戦場に高らかに響き渡る。アリスアーティストの視線が頭上に向けられ、猛進するライラの姿を捉えた。
 距離、10m強。オブリビオンの口が三日月のように歪む。堕ちた彫刻家の左腕がスッと持ち上がり、瑪瑙の腕輪をライラに突き付けた。

「あらあら、わざわざ『素材』になりにきたの? いいわ、大理石へと変わり果てなさい♪」
 嘲るような言葉と共に、腕輪から放たれた瘴気がライラとの間に膜を張る。それは、肉体を大理石へと変える呪いの罠だ。いかに猟兵といえども、迂闊に突っ込めば身動きが取れなくなってしまうだろう。
 ……だが、その程度のカウンターはライラも想定済み。むしろ、その攻撃を『待っていた』と言ってもいいくらいだ。

「わたしの逝く道を照らせ雷光――、不明の闇を照らして砕く!」
 刹那、膨れ上がった白光が戦場を灼く。
 『マクスウェルの方程式』の再使用。瞬時に稲妻となったライラが、呪いの障壁をジグザグに躱してすり抜ける。
 文字通り、閃光の如き強襲。
 アリスアーティストが更なる反撃を繰り出すよりも圧倒的に早く、超高電圧の雷撃が真正面からオブリビオンの胸を撃ち貫いた。

「焼かれて砕けて消えちゃえ! アーティスト気取りの三流石膏屋が!」
大成功 🔵🔵🔵

朱酉・逢真
速攻かァ。そらまた厄介なこって。とりま眷属《獣》《鳥》《虫》どもの群れをどばっと出して周囲を撹乱すっか。そんでその隙、フェン坊を喚ぶ。あとは背中にしがみついてボスまで突貫だ。
図書館だが、この火は任意で消せっから平気さ。拘束されりゃキレて焼き尽くすし、空中も走れっから立体的に駆け回って敵を避けられっしな。届いたら彫刻刀を持つ手を食いちぎっちまえ。腕を食いちぎるンはこいつの特技さ。なぁ坊主? ああ、いいこだ。
よォし、行くぜェ!


「速攻かァ。そらまた厄介なこって」
 そう言いながら口を斜めにする朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の口調は諧謔的で、本当に厄介だなどとは毛ほども思っていない様子だった。
 事実、混沌とした戦場にあって、黒髪緋眼の『神』はあくまでもマイペースに両陣営のぶつかり合いを眺めている。逢真がようやく行動を開始したのは、彼の存在に気付いたオウガの一隊が雄叫びを上げて迫りくるその時になってからだった。

「見つけたぞ、猟兵だ! 取り囲んで圧し潰せ!」
「おうおう、威勢のいいことで。とりま、どばっと撹乱すっか」
 ……あるいは、自身の周囲に敵が集まるのを待っていたのかもしれない。シニカルな笑みを浮かべた逢真は、肩に掛けた羽織をバッと翻して、自身の眷属たちを一息に解き放った。
 『獣』『鳥』『虫』。ざわざわと蟠り蠢くそれらは皆、病毒の運び手たちだ。逢真を中心として満潮のように拡散した恐るべき媒介者たちに、彼を取り囲んだオウガたちが一気に浮足立った。

 混乱する軍勢のその中心で、逢真は虚空に向けてひらひらと腕を振る。泰然自若。慌てふためく軍勢など歯牙にもかけずに、彼は自分自身の運び手を喚んだのだ。
「おォい、フェン坊。こっちだ、こっち」
 その呼び声に応え、四足獣の影が病毒とオウガの波を軽やかに飛び越えた。小さく音を立てて逢真の傍らにしなやかに着地したのは、人を背に乗せて余りあるほどの巨大な怪狼だ。
 無礙の怪狼、フェンリスヴォルフ。陸海空を駆けるというその大狼の首に腕を回し、逢真はわしわしと頭を撫でる。目を細めて彼の胸に頭を擦り付けてきた大狼を軽くトンと叩き、逢真はひらりと『フェン坊』の背に跨った。

「よォし、行くぜェ!」
 大狼の背中で逢真がぎゅっと身体を固定する。直後、狼の健脚が書架牢獄の大地を蹴った。敷き詰められたタイルを砕き、猛加速した怪狼が包囲網の一角を蹴散らして、一直線に走り出す。跳ね飛ばされたオウガが錐揉みで宙に舞い、空中で炎に包まれた。
 逢真とフェン坊が目指すのは、勿論、アリスアーティストの居場所だ。彼らは脇目も振らず、ときに地上を走り、ときに宙を蹴って書架を乗り越え、図書館迷宮の最短ルートを大風となって駆けていく。

 当然、オウガの軍団が逢真たちと遭遇すれば、彼らはすぐさま狼を止めようと駆け寄ってくる。だが、立体的に走り回る狼を捉えるのはそれ自体が難しく、しかも砲弾のような狼の突進は小柄なオウガであれば軽々と跳ね飛ばしてしまう。
 網やロープを投げて拘束しようにも、暴れ狂う怪狼は戒めに炎を放ってすぐさま焼き尽くしてくる始末だ。
 乱戦の中、オウガたちとしても目の前の敵をほっぽりだして、嵐のように去っていく大狼をいつまでも追うわけにはいかない。
 結果として、多分に強引ではあるが、逢真たちは敵の追撃を振り切ってアリスアーティストをその間合いに捉えたのだった。

「ワォ。今度はなにかと思えば立派なワンちゃんじゃない。素敵な彫刻にしてあげる♪」
 接敵。怪狼の巨躯を視認したアリスアーティストが目を輝かせながら彫刻刀を構えた。逢真としても元よりフェン坊の巨体を隠し通せるとは思っていない。――このまま真っ向勝負だ。
 ぐんぐん縮まる両者の距離。逢真の赤い瞳が、一点に狙いを定めて鋭く細められていく。アリスアーティストの構えは彫刻刀の片手持ち。得物を腰だめにした迎撃態勢は、刺突の前兆だ。

「坊主の得意技だろ? ――腕ごと食いちぎっちまえ!」
 轟く咆哮。クロスカウンター上等。猛る怪狼は躊躇いなくアリスアーティストに向けて飛び掛かった。
 逢真の読み通り、彫刻刀の刺突が真っ直ぐに狼の顔面を狙う。大狼が、その刃を、大顎を開くことで口内に飲み込んだ。
 コンマ秒にも満たない一瞬の攻防。彫刻刀の刃が狼の喉に深々と刺さるよりも僅かに早く、ガチリと音を鳴らして噛み合わされた鋭牙が、アリスアーティストの手首を噛み千切った。

「ガッ! こ、のぉ! そこで止まりなさい!」
 オブリビオンの手首から先を奪い取り、大狼はアリスアーティストのサイドをすり抜けて着地する。安堵する間もなく背後から響いたヒステリックな叫びに、逢真はすぐさまフェン坊を走らせる。
 アリスアーティストの彫刻刀は、二撃必殺。狼の口内に僅かに付けられた傷口を目掛けて、背後から『彫刻化の呪い』のオーラが高速で這い寄りつつあったのだ。

「ああ、いいこだ。このまま離れるぞ」
 ぞわりと背筋を震わせる呪いのプレッシャーを感じつつ、逢真は疾走するフェン坊の首筋を優しく撫でる。
 オブリビオンにダメージを与えることはばっちり成功した。……あとは、このしつこい呪いを振り切るだけだ。
成功 🔵🔵🔴

宇宙空間対応型・普通乗用車
アリス娼館の儀式だとぉ!?
呼び出したアリスの美少年美少女達にあんなことやこんなことを!?
なんてけしからん儀式だろうか!
オレは娼館どころか女の子と交際することもできないっていうのに!
許せん!ぶっ潰してやる!

とりあえず【地中走行モード】で攻撃重視の穿孔機マシマシ状態に移行!
そのまま図書館の壁を破壊しつつ最短距離を突っ切って、敵司令官の元まで直行してやるぜぇ!
邪魔するオウガは穿孔機に巻き込んで挽肉にしちまうぞオラァ!
司令官もこの勢いのまま穿孔機に巻き込んでズタズタにしてや…

うわぁぁぁ!美少女彫刻家さんだぁぁぁ!
よくわからんけどオレの車体にもいい感じの彫刻オネガイシマース!
いや攻撃はやめないけど!


「アリス娼館の儀式だとぉ!?」
 誤解ではあるが誤字ではない。素っ頓狂な叫びを響かせて戦場に現れたのは、宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)である。
 ぶおんと唸るエンジン音、白く輝く超重装甲のボディ。ウォーマシンである彼の見た目を一言で言い表すなら……、まぁ名前そのまんまの姿だった。

「呼び出したアリスの美少年美少女達にあんなことやこんなことを!?」
 なんてけしからん儀式だ! と、興奮気味にヘッドライトを激しく明滅させる普通乗用車。果たして彼の頭の中にはどんなピンク色の光景が広がっているのだろうか、ツッコミ不在の戦場で暴走自動車はドンドン妄想を募らせていく。
「オレは娼館どころか女の子と交際することもできないっていうのに!」
 そして、積み重なった妄想がついに決壊する。妄想の中の普通乗用車は、女の子の送迎シーンにしか出番が無かったらしい。
 ……カワイ子ちゃんを乗せて夜の街を走るのは、まぁ悪くはなかったが、それはそれとしてだ。

「許せん!ぶっ潰してやる!」
 激しいクラクション。それは哀しき運命を背負った漢の、魂の叫びだった。
 如何なる技術か、ガシャンゴションと金属が咬み合う音を鳴らして、普通乗用車がその姿を変えていく。
 全身を覆いつくす防圧防塵防熱装甲。動力となる熱力変換型推進装置。そしてフロントには、通常よりもマシマシの掘削用の穿孔機! ハリネズミもびっくりの危険なフォーム。これこそが普通乗用車の『地中走行モード・攻撃重視スタイル』だ!

「最短距離で司令官の元まで直行してやるぜぇ!」
 暴虐的なエキゾーストノートが爆音を鳴らす。超重量のマシンがその存在を誇示するかの如く、穿孔機の合間から放たれたハイビームの光がオウガの軍勢を貫いた。
 戦場は『迷宮のような図書館』だ。普通乗用車が選んだのは、迷宮を踏破するのにもっともシンプルな手段。すなわち、『壁をぶち破って目的地に直線直行』であった。
「邪魔するオウガは穿孔機に巻き込んで挽肉にしちまうぞオラァ!」
 アクセルべた踏み。フルパワーで回転するタイヤがタイル床と摩擦して白煙を噴き上げる。
 まさにロケットスタート。弾丸のように発進した普通乗用車が、まずは手始めにとばかりに目の前の迷宮の壁に穿孔機を突き立てる。ガリガリと岩を削る悲鳴のような音が轟き、ほんの数秒、あっという間に石壁に大穴が穿たれた。

「あ? なんの音ギャアァァ!」
 不幸にも壁の向こう側に立っていたオウガが穿孔機に巻き込まれ、普通乗用車の宣言通り挽肉となって弾け飛ぶ。突然の断末魔に振り返ったオウガ軍団が目にしたのは、返り血を浴びて真っ赤に染まった、悪夢のようなモンスター・マシンの威容であった。
 走行を止める? 進路を妨害する? そんなことは無駄無駄無駄。今の普通乗用車はもはや破壊という概念の具現化だ。高速回転する穿孔機が空気を捩じり切る異様な大音響を引き連れて、加速する暴力が有象無象のオウガたちの群れを轢き裂いて戦場を突っ切っていった。
 そのまま妨害を寄せ付けずに走行すること数分、搭載されたナビゲーション・システムがついに司令官の接近を普通乗用車に伝達する。快速快調、血糊を拭うワイパーの高音もゴキゲンだ。圧倒的な走行を維持したまま、普通乗用車は最後の石壁に躊躇なく突撃した。

「ハッハァ! 司令官もこの勢いのまま穿孔機に巻き込んでズタズタにしてや……」
 不意に途切れた彼の言葉。罅が入り、砕け散った石壁の向こうに覗いたのは、フリフリのドレス(に似た作業着)を纏ったブロンドの美少女の、ぽかんと呆けた表情だった。
 ドルンと跳ねるエンジン音。ヘッドライトの光量が一段階強くなる。
 戦場で出会った二人は永遠とも思える瞬間の中で情熱的に見つめ合う(これは普通乗用車の主観)。

「うわぁぁぁ! 美少女彫刻家さんだぁぁぁ!」
「は、はぁ!? だ、誰が美少女よ!」
 感極まった普通乗用車の叫びが爆発する。司令官の姿はブリーフィングで既に伝えてあったはずだが……、さてはこの漢、アリス娼館の妄想で頭がいっぱいだったな?
 対するアリスアーティストも何故か顔を真っ赤にしている。常日頃から美少年・美少女を注意深く観察して『加工』している分、自分自身が美少女と呼ばれるのには耐性がないのだろうか。
 両者揃って謎のテンション。しかし、だからといって普通乗用車が速度を落とすわけではない。普通乗用車のフロントから突き出た穿孔機の槍衾が、けたたましい駆動音を鳴らしながら猛スピードでアリスアーティストに迫る。

「オレの車体にもいい感じの彫刻オネガイシマース!」
「アナタ、言ってることとやってることが違、グハッ!」
 接触は一瞬。いくらなんでも真正面から受け止めることはできないと跳躍したアリスアーティストに、土壇場で更なる急加速を魅せた普通乗用車が激突したのだ。
 地上に近い位置にあった両脚をルーフに弾かれて、空中で制御を失ったアリスアーティストが前のめりに縦回転する。ぐるんと回った視界。コマのように落下した頭部が普通乗用車の車体に叩きつけられて鈍い音を鳴らした。

 せめてもの抵抗と刃を立てた彼女の彫刻刀が、普通乗用車のボディに真っ直ぐ傷をつける。板金コース、待ったなし。べちゃりと地面に落下したアリスアーティストは、怨嗟の視線で乗用車のナンバープレートに届かぬ指先を伸ばす。
 傷痕を追跡する『彫刻化の呪い』を避けて走り去る普通乗用車の姿。それはまさしく、轢き逃げそのものだった。
成功 🔵🔵🔴

セシリア・サヴェージ
アリスを、人間を食糧として呼び寄せるなどと……。そのような悍ましい儀式は必ず阻止しなければ。

UC【闇を纏いし嵐の軍団】で騎兵を召喚します。私もそのうちの一体に相乗りしてアリスアーティストの元へ向かいます。
騎兵達には【集団戦術】で指示を出しつつ、道中のオウガたちは突撃槍で【吹き飛ばし】ながら突き進みます。
兵は拙速を尊ぶとも言います。少々強引な作戦になりますが必ず首謀者の元へ押し通ってみせましょう。

アリスアーティストの元へ接近し、彼女が迎撃の為に石膏を放ってきたら馬上で【ジャンプ】して避け、そのまま落下の勢いをのせた【重量攻撃】で叩き潰します。


 数で劣る混戦に於いて警戒すべきことはなにか。
 ひとつには『取り囲まれないこと』、そしてそのために『足を止めないこと』だ。

「闇より来たれ、古の暗黒騎士たちよ。蹂躙の時は来た!」
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)の叫びが鬨を告げる。
 ワイルドハントの招集に応えるは、突撃槍を携えたゴースト・ライダーたち。闇を滲ませて召喚された亡霊軍馬に跨る暗黒騎士の騎兵隊が、整然と列を組んで陣形を成す。
 セシリアは馬首を寄せた亡霊騎士の軍馬に、暗黒鎧の重さを感じさせない軽やかさで相乗りする。ひらりとたなびく黒の外套。鐙の上の高所から戦場を広く見渡した彼女は、引き抜いた暗黒剣・ダークスレイヤーを高らかに掲げて嵐の軍団に指揮を飛ばす。

「鋒矢の陣! 敵中を突破して大将首を狙います! 進軍、始め!」
 鋭い指揮に暗黒騎士の軍勢は素早く陣列を組みなおす。矢印状に整列した鋒矢の陣は突破力に特化した陣形だ。左右の守りを捨ててまで前面への突撃力に重きを置いている。間違いなく強引な作戦になるが、敵味方の入り乱れるこの乱戦であれば活路はある!
 セシリアが正面に向けて暗黒剣を振り下ろす。亡霊軍馬が嘶き、冥府の甲冑を鳴らしながら、暗黒騎士たちが突撃を開始した。

「アリスを、人間を食糧として呼び寄せるなどと……!」
 ぐんと加速した軍馬の背にしがみつき、セシリアは烈火のように感情を昂らせる。暗黒剣を握る右の籠手に一層の力が籠った。悍ましき異端の儀式。必ずや阻止しなければならない。
 襲歩に揺れる視線の先に、オウガの小集団が映る。判断は一瞬。相乗りした騎士の亡霊に手綱を任せ、彼女は声を張り上げる。
「陣形維持! 蹴散らして、このまま突き進みます!」
 オウガの陣形は、目に見えて粗い。間隔の空いた集団の合間に『矢先』を捻じ込むように、騎馬の軍勢が一直線に殺到する。

「猟兵だ、ヤツらを止めろ! 止め、グワァア!」
 ランスチャージ。ガツンとした衝撃が暗黒騎士の軍勢に伝播する。
 連携した騎兵の集団は、まさしく一個の生命の如しだ。先頭の暗黒騎士が敵陣に亀裂を作れば、後続の騎士たちが一気に傷口を押し広げる。質量と速度を兼ね揃えた突撃槍の衝撃に、下級のオウガたちは踏み止まることもできずに吹き飛ばされていった。
 小隊を突破したセシリア率いる暗黒騎士たちは、振り返ることもなく戦場を疾駆する。大多数のオウガは他の猟兵たちとの正面戦闘に釘付けになっている。その横腹を食い破りつつ、彼女たちは一気呵成にアリスアーティストの元へと攻め寄せた。

「わかってはいたけど、本当、今日は千客万来ね!」
 彼方から押し寄せる騎馬の軍勢に、アリスアーティストもすぐに気づく。彼女がざっと見ても、騎馬の数は300を下らないだろう。いくらオブリビオンといえども、単騎で真っ向からやり合うなどもってのほかだ。
 アリスアーティストにとっては幸いにも、軍勢との距離はまだ大分ある。暗黒騎士たちの陣形は見事だが、だからこそ、足並みを乱してしまえばそのまま全体が崩壊するだろう。
 口の端を持ち上げたアリスアーティストの足元で図書館の床がぐにゃりと粘性を帯びる。粘液状化したドロドロの石膏が意志を持ったかのように鎌首をもたげ、迫りくる軍勢に狙いを定めた。

「石膏まみれになっちゃえ♪」
 パチンとオブリビオンの指が鳴る。まるで投石器、足元から持ち上がった石膏の粘弾が、やたらめったらに撃ち出され、大雪のようにセシリアたちに降り注いだ。
「この程度! 押し通ってみせましょう!」
 並走する騎士たちにセシリアの檄が飛ぶ。砲撃の狙いは散漫、かつ弾速も遅い。直撃にさえ気を付ければ回避は容易だ。
 だが、むしろ問題なのは軍馬の足元に落ちた石膏だった。べったりと地面に叩きつけられた粘液状の石膏弾は、そのまま図書館の床と同化し、その周囲を『石膏の沼』に作り替えてしまうのだ。
「フフ、ザーンネン♪ 当たらなくても、足が嵌っちゃえばオシマイでしょう?」
 バランスを崩して脱落した軍馬を見て、アリスアーティストが嗤う。一騎の転倒が周囲を巻き込んで広がっていく。それが速度に優れた騎兵隊の弱点だ。

 絶え間なく放たれる石膏の砲弾と徐々に制限される足場、そして脱落していく暗黒騎士たち。しかし、その渦中にあってなお、セシリアと相乗りした暗黒騎士は巧みに障害を避けてアリスアーティストとの距離を詰めつつあった。
 それでも時が経つにつれ、仲間たちが次第に数を減らし、それに反比例して石膏の雨がより集中して降ってくるようになる。敵の喉元まであと僅か、疾風の如く駆け抜けた軍馬が、ついに沼地に足を取られた。
 速度を完全に殺す強制ブレーキ。馬体がガクンと前のめりに崩れ、アリスアーティストの口元がにんまりと弧を描いた。

「――その油断が、命取りです!」
 瞬間、軍馬の背を蹴って飛び出したセシリアが、アリスアーティストを目掛けて一直線に跳躍した。軍馬の速度をその身に引き継いだ大ジャンプ。石膏の沼地を飛び越えて躍る黒影に、アリスアーティストの笑みが硬直する。
 目にも止まらぬ速度で機動する、全員がよく似た鎧姿の騎兵軍団。その中に、まさか『二人乗り』の暗黒騎士がいようとは、さしものアリスアーティストも気づくことは出来なかった。
 オブリビオンの視線が泳ぐ。沼に嵌った軍馬の鐙には、確かにまだ騎手が残っている。思考の混乱が彼女の対応を一手遅らせる。ハッとした彼女が慌てて彫刻刀を構えて迎撃態勢を取るが、もう遅い。
 落下の勢いを乗せた、稲妻のような剛撃。ダークスレイヤーを両手持ちにしたセシリアの唐竹割が、彫刻刀ごとアリスアーティストを叩き潰した。
成功 🔵🔵🔴

龍・雨豪
今回の戦争はよく考える必要がありそうで大変ね。
ただ少なくともこの作戦は、戦場を突破して敵将を仕留めるだけっていう私向けの内容よね。
大局は誰かに任せて、やれることをやりましょ。

それじゃあ、UCで戦場を突っ切っちゃうのが早いかしらね。
途中で立ち塞がるオウガ達は勢い任せて轢いて行くつもりだけど、極力邪魔の入らなそうなルートを選びたいわね。まぁ、地上よりかは空の方が空いてるわよね?

首謀者を見つけたら突撃あるのみね。地形が沼になってる可能性もあるから基本的には宙に浮いたまま攻撃を仕掛けるわ。
後は、呪いが怖いから彫刻刀を持った手を叩き落としつつ、殴って、殴って、殴るだけよ!


「今回の戦争はよく考える必要がありそうで大変ね」
 乱戦の続く書架牢獄を見下ろして、龍・雨豪(虚像の龍人・f26969)はどこか他人事のように呟いた。東洋龍の角を持つチャイナドレスの人派ドラゴニアンは、地上の混戦を避けて図書館の天井近くを飛翔している。
 彼女とて『迷宮災厄戦』が一筋縄ではいかない様相を呈していることは理解している。だが、決闘気質な彼女としては、どうにも物事をシンプルに割り切りたくなってしまうのだ。
 勿論、だからといって、闇雲に暴れ回っても事態は解決しない。ゆえに彼女は、大局的な判断は猟兵の仲間たちに委ねることとした。他人事のように俯瞰した態度も、仲間の頭脳を信じればこそだ。

「けど、この作戦は私向けの内容よね。敵陣突破に敵将との決闘、望むところよ」
 気風の良い笑みを浮かべた雨豪の黒い長髪がふわりと浮かぶ。丹田から溢れ出る闘気が、黄金のオーラとなって彼女の全身を覆っていく。
 戦局の判断を委ねたのなら、あとは自分にやれることをやっていくだけだ。ひたむきで真っ直ぐな彼女の意志が、輝くオーラを介して全身の意気を充実させる。
 準備は万端、調子は絶好。敵将を目指して、いざ往かん!

「まぁ、地上よりかは空の方が空いてるわよね?」
 スリットから覗く脚線が、力いっぱいに虚空を蹴った。スプリングのような急加速。数秒も待たずにマッハの領域に踏み込んだ雨豪は、黄金の軌跡を残しながら図書館の天井スレスレを超スピードで飛翔する。
 線形に引き伸ばされた世界が、あっという間に視界の後方へと流れていく。オウガたちの地上戦力が彼女を捕捉することは、ほとんど不可能だろう。勿論、オウガたちの小隊には空中に陣を張るタイプもいるにはいるのだが……。

「退いた退いた! ぼさっとしてたら轢いちゃうわよ!」
「なっ、ギャアァ!」
 如何せん通常のオウガが迎撃態勢を取るには、雨豪のスピードは速すぎる。黄金色のオーラを彼らが認識した次の瞬間には、超至近距離まで接近した雨豪の体当たりが、不運なオウガを地面へと叩き落してしまうのだ。
 無論、接触後の追撃が雨豪に届くこともない。あらゆる障害を置き去りにして突き進む彼女は、ほどなくして書架牢獄の床に膝を着いたアリスアーティストをその目に捉えた。

「見つけた。なら、このまま突撃あるのみね!」
「……く、次から次へと。休む暇もあったものじゃないわ!」
 雨豪の姿を視認したアリスアーティストが、これまで蓄積したダメージに喘ぎながら彫刻刀を構えて立ち上がった。オブリビオンの周囲は既に石膏の沼地と化していて、オウガの軍団も近寄ることが出来ない状況となっている。
 ――おあつらえ向きの、1対1だ。

「行くわよ、インファイト!」
「来なさい! アナタの鍛えた肉体、ワタシが彫刻にしてあげるわ!」
 気合裂帛。両者の距離が瞬きの間に消える。
 互いに手が届く間合い。沼地スレスレまで急降下した雨豪が右腕を振るい、待ち構えるアリスアーティストの彫刻刀が真っ直ぐに突き出された。
「……っ」
 決着は一瞬。直線距離を穿つ彫刻刀の刃が雨豪に届くよりも僅かに早く、鞭のように振り落とされた彼女の掌打がアリスアーティストの左腕を打ち据えた。
 バシンと皮膚がぶつかる高い音が響く。『スーパー・ジャスティス』によって強化された雨豪の一撃は生易しいものではなく、アリスアーティストの骨を砕き折り、衝撃だけでその手に握られた彫刻刀を弾き飛ばしたのだ。

「もう逃がさないわ! 殴って、殴って、殴るだけよ!」
 目を見開き、大きく息を呑んだアリスアーティストの眼前で、雨豪の肢体がしなやかに旋風を巻き起こす。正拳、フック、ボディブロー。くの字に折れた顎を捉えるアッパーカット。音速を超えた連撃に、打撃音が遅れて木霊する。
 顎を跳ね上げられたアリスアーティストが無防備に全身を脱力させる。その一瞬に、雨豪は己の呼気を整える。酸素と共に全身を駆け巡る活力。金の瞳を鋭く輝かせ、彼女はダメ押しの連撃をオブリビオンに叩きつけた。

「……ダメね。この美しさは、彫刻では残せないわ」
 腕、脚、さらには黒鱗の尻尾まで連携した龍の舞い。あらゆる攻撃が次の攻撃の準備に繋がるという『動の美』をアリスアーティストは今際の際に垣間見た。
 叩き込まれたダメージは限界以上。存在を保てなくなったアリスアーティストは、ほぅと溜め息を吐くような気配を残して、粒子となって消えていったのだった。


 斯くして、猟兵たちはアリス召喚の儀式を統率するオブリビオンの撃破に成功した。司令官を失ったオウガたちの一部が、儀式を中断して散り散りになっていく。
 書架牢獄の激戦は続いているが、ひとまず勝利の天秤は猟兵たちに傾いたことだろう。
 迷宮災厄戦はまだまだ序盤。それでも、猟兵たちは確かな戦果を胸にして、戦場から帰還していくのであった。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年08月02日
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