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迷宮災厄戦⑨〜キラーターン・スロウダンサー

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●Whatever murderer
 ――きっとあなたは此処へ、来るのでしょう?
 トントン靴音、鼓動の音とは釣り合わない。
 聞こえ方なあべこべな音が耳を叩いてる。
 踊れ、狂えスロウダンサー。
 ――誰かは来るの。知ってるの。私。
 心の内側で、訪れる誰かを待つ。
 くるりと、スローモーションなターンを決めて、遅れて揺れるスカートが続く。
 私が直に口に出す言葉がほしいのなら、――優しい殺しで誘いましょう。
 凍った床を蹴る靴音。遅れて揺れるスカートが、漸く現実に追いついた。
 理不尽な拷問ならば、彼女は幾つでも饒舌になれる。
「………な"ん"て"ね"ぇ"え"ええ?クソくらえよそんなのは!」
 心の内はまだまだ整う綺麗な音色。
 口に出した音は、雑音だらけ。絶望の国から堕ちた元アリス、エルヴィラに親しく問いかけ、願うこと自体が間違いだ。

●エンドレスノックノックミュージック
「静寂であり、時間すら凍結する城に、招待しよう」
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が伝えた事はそれだけだ。
「『時間』が『凍結』された城なんだと。想像が難しいか……?」
 ふむ、と悩むように少しして。
 ではこれならどうか、と紙を提示してみせる。
「まず、前提として場所はアリスラビリンスの不思議の国。つまりだ、他の世界では想像できないようなフシギな事になッてるわけ。俺様の予知は、"氷の城"だ」
 透明質な氷から、壁を形成する氷まで。
 何から何まで凍った城。
「そこの空間の中で"時間"も国の素材として扱われ、凍ッている。故に、……とてもじャないが自由に動き回れないだろう。気づかれる前に暗殺、とか絶対できないだろうな。実行しようにも身体が"はやさ"ぶんの時間を使えない」
 一分一秒、些細な動きでも行動には"時間"が使われるもの。
 身体の動きが制限される。
 具体的な数字なら、常に十分の一の速度ほどになるはずだ。
 敵味方が使うユーベルコードの速度も、喋る事ですら同様の枷が嵌るだろう。
 赴く城はそんな制限の付いた国ということだ。
「平等な制限は、氷の城で踊っている敵にも同じく降りかかる。お前らだけが理不尽を追うわけじャねェさ。……心の内で思う事に制限はないし」
 猟兵にも、敵にも言えること。
 攻撃が届くまで、攻撃を避ける間"思考する事は時間の凍結に含まれない"。
「考える時間だけはあり続けるッつーこと。俺様から言えることは、"考えることをやめるな"。オーケー?」
 紙を一時的にくるくると丸めて、状況の説明を終えたといわんばかりのフィッダ。
「氷の城の凍った床のうえで、たったひとりの敵が靴音だけのダンスを披露している」
 その姿は踊り子。ただし、動きはとても緩慢で、ふわふわと無重力を楽しむ少女にしか見えないだろう。
「絶望に絶望を重ね、理不尽な死を体験した奴ッぽいな。元アリスだが、帰り先のない強い執念だけでその場に『凍結』している亡霊のようなものだ。死の前後誰にも救われなかッたことを理不尽に感じているんだろ……だから、今は自由だと自由を踊る」
 エルヴィラは、恨んでいる。
 死ぬ前に助けの手が一切訪れなかったこと。
 それが気がつけば、誰にもいない城の中、――たったひとり。
「踊り子はなんとしても、理不尽な死をあたえようとしてくる。それが元アリスの恨みだからな。見ず知らず?そんなのお構いなしの通り魔思考だろうよ」
 交渉などしたところで、話など聞かないだろう。
 話を重ね合う"時間"もない。
「敵対者と話す話さないはお前さんの自由なわけだが……倒す方法は、任せる」
 心理戦に持ち込むことも可能な時間凍結城で、猟兵が何を見たのか。
 その報告を楽しみにしているといわんばかりに、目を細めてみせた。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 この依頼は、【一章で完結する】戦争系のシナリオです。

 普段の口調がとんでもなく汚いかんじのヤクザみたいな元アリスが、氷の城の大広間。
 広い広い氷のステージでひとり、すろーもーしょんでおどっています。
 たったひとりの、はくちょうの、みずうみってかんじ。

 このシナリオ上では、対話はあまり望まない感じが良いと思います。
 心の声的なのは、相手が勘が良ければ届くかも知れません。
 思考時間を活かし、戦略的に戦うなんて、たまにはいかがでしょう?

 上記を踏まえた上で、グリモア猟兵がプレイングボーナスになりそうなことや、敵ってこんなひと!って感じのことを告げているとも居ますので、よおくお読みいただきお考えいただけると幸いです。

 場合により、全採用はできないかもしれません。
 ご留意いただけますと、幸いです。
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第1章 ボス戦 『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』

POW   :    魔女殺し
【猛毒の呪詛】を籠めた【マンチニールの果実の投擲】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    狼殺し
【スナバコノキの実の破裂】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【高速でまき散らされる種子】で攻撃する。
WIZ   :    悪魔殺し
自身の装備武器を無数の【ゼラニウム】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大宝寺・風蘭です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

勘解由小路・津雲
 氷は得意のつもりだが、こいつはちょっと俺の知っている氷結とは違うようだな。

【戦闘】
 まずは【御神水】、ひょうたんの水を相手に向け投げつけつつ【属性攻撃】で凍らせ、鏡面のように。
 このスローな世界なら、投げた水はゆっくり広がり、とどまり、相手の視線をさえぎる充分な煙幕になってくれるだろうさ。
 それから【白帝招来】を使用。スピードと反応面で少し優位に立とうか。変身速度もゆっくりだろうが、目隠ししながらなら意表もつけよう。
 そして水と共に近づき、一撃を加えよう。いずれも時間の遅延を利用した戦術というわけだ。

 さよなら、救えなかったアリスさん。せめていつか、骸の海から抜け出さんことを願っているよ。


ルパート・ブラックスミス
事前に大剣を構え、青く燃える鉛の翼で【空中浮遊】し突撃。
一切の挙動に時間がかかる以上、剣を構え踏み込む間すら惜しい。

敵の果実の投擲には、こちらも短剣を【投擲】し【武器落とし】。
時間はある、弾道を【見切り】【誘導弾】である短剣を当てるのは容易。
そのまま迎撃しつつ接敵、UC【心暴き唄う音叉剣】を起動した大剣で
時の流れのままゆっくりと【串刺し】【生命力吸収】する。

白馬の王子を名乗れるほど酔狂でもない。
死神としてその生命を刈り取ろう。
此処で叫べぬ絶望ならばこの呪剣に遺すがいい。
連れ出した外の世界で聞いてやる。
…俺が用意できる『救い』などその程度だ。



●遅延の合わせ鏡

 ――此処の氷は……。
 氷の扱いが得意な勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)。
 津雲にとっても"凍結"する概念が異なること氷だと、すぐに理解した。
 不用意に触れれば身を凍らせる方向のものではない。
 ただひたすらに、動くことを許さない"拘束"を目的とする"凍結"だ。
 ――そうであれば、この場の寒さが理由で凍るものではないな。
 すすす、と津雲が取り出したるは、持ち歩いているひょうたんだ。
 想像よりも遥かにゆっくり、のんびりとしか身体が動かない事を多少奇妙に思いながら、気ままに踊り続ける元アリス・エルヴィラへと中身の水を投げかける。
 これは御神水。ただの水ではなく、清められたものだ。
 津雲はこの場で踊る踊り子に、上から下まで穢れしかないと見て取った。
 ――……というのは、僅かな建前。俺の狙いは少々別だ。
 ぶち撒けられた水が、エルヴィラへ降りかかるまでの時間は、まだまだある。
 投げかけた水がアリスに掛かるまでの滞空時間。
 エルヴィラが津雲へ反撃に転じるまで。思考だけが先をいける。
『水でオレを窒息死させる気か"よ"ォ"オ"エゲツねえなあ"あ"』
 ――"水である"。そう認識した後が重要だ。
 水の属性を書き換えて、氷へと転じさせる。
 凍った水は鏡面のように、視線を惑わすものを作り上げた。
 少女の手荷物たる籠から、何かがゆっくりと、瞬きする速度でこぼれ落ちる。
 コロコロと南瓜のような見た目の、拳骨ほどの実か。
 フロアに転がり落ちた瞬間に、見た目からは想像できないほどの爆発を見せた。
 少女が視認していたのは、津雲ただひとり。
 破裂した木の実から、おびただしい量の榴散弾となって激しく飛び散った。
 ――投げた水はまだ伸びやかに浮遊している。
 ――偶発的な攻撃ではになら、狙いは俺。丁度水が俺の前を横切るだろう。
 飛び散った円盤状の弾丸は、……鏡面化させた氷に突き刺さるように群がった。
 刺さるような音が連続し、木の実が爆発した音と連続した弾丸の音が、後に耳へと届く。
 ――相手の視線は遮られ、攻撃の妨害に成功した。
『卑怯だぞ、今すぐ死に晒せぇええ"え"!!』
「それは難しい相談だな」
 津雲の姿は、星界の欠片の力を此処に現したことで、白虎の姿に変じている。スピードと反応速度に制限が掛けられているなかでも、爆発的に上昇させれば話は別だ。
 敵を上回る速度で駆ける事ができ、敵を緩慢な時間の向こうへ置き去りに出来る。
 想像通り、津雲の変身速度も同様にゆっくりであったが、敵の目を欺くほどに十分な時間はエルヴィラ自身が用意してくれた。
「水にだけ気を取られていたのは」
 ――殺しという名目の、憂さ晴らしをしたかったに過ぎないだろう。
「失礼する」
 白虎の手が水と共に近づいていた。
 木の実の時限爆弾を意図していなかったなら、彼女はただこちらに殺意を向けていただけの踊り子だ。
「"さよなら"、救えなかったアリスさん。せめて、この言葉は贈ろう」
 ガッ、と殴りつけた一撃が少女の身体を大いに揺らして引き裂いた。
 過去に言われなかっただろう言葉。
 これは一方的な虐殺ではなく、"終わった者"に"ただの終わり"を突きつけるだけのことなのだと。
「せめていつか、骸の海から抜け出さんことを願っているよ」
 ちらり。別の方向に影があるうちの、ひとつ。
 津雲の灰色の瞳が、よーく見慣れた鎧姿を映していた。

 ――仲間が繋いだ"時間"ができた。
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は白虎の視線に頷いて応える。スロウな空間の中で、事前に大剣を構えている鎧。
 その姿は地上にあらず。青く燃える鉛の翼で飛翔していた。
 ――……一切の挙動に時間が掛かる以上、大変、助かった。
『うるせえうるせえうるせええ!!』
 今度は確かに意図的に、大事に抱えた籠の中身をばら撒き始めた。
 りんごに良く似た果実のような、実を握り、上空のルパートへ投擲する。
 落ちてくれば自分に当たるが、りんごは浮遊感を伴って空間を進んでいく。
 ――木から落ちるような風景ですよね。
 ――どんなものでも、引力に従って落ちるんです。
 ――このフロアは私が一番よく知っています。こうすれば、あなたの貴重な"時間"を使わなければ対処できないですものね。
「煩いのは、貴殿だろう」
 ボールを投げるようなフォームから、たくさん投げられた実。
 攻撃としてどのような、効力を出すのかは不明だが、飛来してくる実が届くまでの、長い時間が存在する。
 ――こちらも、短剣を投擲することで防がせてもらおう。
 彼女が触った木の実はどす黒い炎のようなものを纏っていた。
 実の内側にあるべき猛毒の呪詛が外に漏れ出している。
 エルヴィラが体験した理不尽なものへの恨みが籠めれているのだ。常人がすることではない。
 彼女は生前ただの"アリス"から異端な方向へ踏み外していたのだろう。
 呪いを形にする術を手に入れた異端者は、"魔女"でしかない。
 人の枠から外れた魔女は、普通の人の群れに馴染めなくなる。
 彼女が理不尽な目に遭うことになったのは、必然だったのかもしれない。
 ――……侮る事はしない。攻撃が飛んでくるというなら、ただ落とすまで。
 ――時間がこれほどにあるならば、作戦を選ぶ時間も合った同義。
 惹きつけるように暫しの"時間"を使って、鎧の内より格納している短剣でそれらを撃ち落とすと決めた。
 狙いしまして撃ち抜き、木の実の接近を阻む。
 近くにまで迫っていれば、短剣に狙いを逸らされて標的であるルパートに、攻撃の手は届かない。
 大剣を振るまでの"時間"……それは、今ではないはずだ。
『踊りの邪魔だ、帰れ帰れ!!!』
 帰れという意味に、死に晒せという内容が含まれる。
 ――私の踊るフロアに来たからには、踊らないなら死んで侘びて下さい。
 ――詫びられても困るのですが、兎に角死んでもらえたら嬉しい気がするんです。

 ……リィイン…………。

 遠距離からの迎撃の間に鳴り響く控えめな音。
 唯一の鈴がついた短剣が、エルヴィラの肩口に刺さっていた。
「地だけが踊りの場ではない」
 ――時の流れは遅い。刺さったそれを抜こうとするのはもはや必然。
 ――しかし……。
 清く鳴り響く鈴に導かれ、木霊する音は少女の肩から外れない。
 エルヴィラがルパートに仕掛けようとした事を、そのまま返されて生命力を奪われる。
『ぬ、ぬけな……!?』
 ――ああ抜けぬだろう。貴殿の思念に寄り添い呪剣と化した。
 引っ張ろうとしても動きが遅いために、直ぐにとはいかない。
 並行して奪われる生命力に、エルヴィラの膝が笑って崩れる。

『――』

 ひとりでに喋る心暴く音叉剣の語りは、嘆きの音色に変わって響く。
 喋るは思考。故に時間の流れから外れて、ただただ少女の心の嘆きを吐き出し続ける。

『――』
『――――魔女狩りなんて、あんまりよ!!!』

 ――白馬の王子様を名乗れるほど、酔狂でもない。
 これはあまりに、辛辣なことをする。
 ――"死神"と評するならそれでもいい。その生命の欠片を刈り取ろう。
 どんどん顔を二重の意味で青く染めていく少女にルパートの大剣を避ける術はない。腹部にぐぐぐ、と怪力で力任せに突き刺す。
 ――此処で叫べぬ絶望のようだ。
 ――誰にも届かぬ、報復の悲鳴。
 言の葉は確かに聞き届けた。これが、元アリスの、恨み節。
 一部しか聞こえなかったが、連れ出した外の世界で聞けばいい。
 ――……俺がが用意できる『救い』など、その程度だ。
 突き刺した大剣を横薙ぎに振るって、ルパートは踊り子の羽(心)を折って――切り捨てた。

 ――隠し事はいつかどこかで暴かれるもの。
 ――暴かれなかったのなら、それはアリスさんが言う機会を逃したから。
 白虎化から戻った津雲が涼しい顔で見た、フロアにばら撒かれた水。
 凍らずに水気はそこにただ、撒いた分の水が薄く広がっていた。
 ルパートが少女を切り捨てたことで、滴る赤が点在している。
 大広間に広がる青と、性質の違う陰気しかない紅。御神水に、入り込んだ赤は、少女の存在が奏でる不協和音が水の波紋として幾重にも反映されていた。
 これは、この後も彼女または――この場所に災害を喚ぶ知らせに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
(花びらは躰に雷(属性攻撃)を纏い
動きを観察して確実に灼き落としていく
スローであろうが雷ならまだ速い筈

雷であなたを攻撃はしませんよ
どうぞ思う存分踊ってて下さい
今のあなたは自由なんでしょう?
灼け焦げた花びらでは演出としては似つかわしくないでしょうがね
私は見ているだけです
この双眼と、躰中の目が見てるだけ
そうすれば、ゆっくり、されど確実に、あなたの終わりが来るでしょう

見てるだけで苦しませるなんて卑怯だとか理不尽だとか罵られますかね
……別にいいですよ
そういう言葉は慣れてます
私は、元『アリス』であれど"怪奇"
あなたのこころに寄り添う術を持ち合わせていない
あなたのこころを救う術を持つことが出来ませんから)



●観客と赤い靴

 血まみれの踊り子は笑う膝を推して立ち直す。
 服装も、点々とフロアを彩る赤も、気にする"時間"などはない。
『は、ハハハ、……これが、お似合いってかァ?』
 苦痛に歪んだ表情を、嗤ったエルヴィラは、ふらつく足で踊り続けようとしていた。身体が再び死ぬまでは、彼女にとって時間凍結した城は、どこまでも彼女の自由を許す。
『オレは汚い恰好しか合わねぇって?』
 とーんとーんと緩慢な時間の中、無防備に跳ねて、アリスは跳ぶ。
 一人のワルツに急激なターンを加えて。
 ノックノック。離れたところで、床を叩いた音が遅れた届く。靴音だけを音楽に弾むアリスの表情は、喜びも悲しみも浮かんでは消える。
『……じゃあ』
 ――飛び跳ねる度に溢れた赤い靴跡。
 ――女は武器は、身振り手振りだけではないのですよ。
 エルヴィラの流血が、無数の花びらに変わっていく。花びらの中で、ふわふわと、深手を負った鳥が舞う。
『そっちも……相応な恰好をしろよ"よ"お”!!』
 声にわずかに遅れて、花びらが、エルヴィラが認識した方向へ殺到していく。赤いゼラニウムの花びらが、狙い定めたのは、長身の男。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)のほうへひらひらと、殺戮の赤い鳥となって飛びついていく。
「残念ながら、止り木にはなれません」
 花びらが留まる場所を欲するような動きをする、と認識し、スキアファールはそれを自身の躰から溢れだす雷で焼いた。
 動きをただ観察し、不思議と他人に触れたがるようにする、幼子の手のような雰囲気すら持つ花びらを、確実に灼き落としていく。
 ――まるで、怪奇。しかし、似ていて違う。
 スローで進む花びらより早く、雷は空間を疾走っていた。"時間"の壁を貫き通り抜けるように、攻撃的な光が上回って爆ぜるのだ。
「恰好をあなたに合わせるつもりも、ありません」
 雷はただ、攻撃をあしらうことに用いた。
 ――あなたを攻撃はしませんよ。
 ――攻撃してきたから、的確に迎撃させて頂いただけですからね。
「どうぞ、思う存分踊ってて下さい。お気になさらず」
 続けて、と手振りも合わせて示すスキアファールに、エルヴィラは意表を突かれる。血まみれで踊る様に何かを言うわけではなく。
 理不尽な攻撃を加えるではなく。
 男はただ、見ているだけの姿勢を、崩さない。
「今のあなたは自由なんでしょう?」
 ――焼け焦げた花びらが唯一の演出になりますね。
 ――称賛する花は持っていませんし、まだまだあなたは踊るつもりだったはず。
 ――まだ、終えるつもりでもない。ささやかながら、趣向を変えた贈り物です。
『オレはどこまでも自由だ!ただのオーディエンスを気取るのね』
「観客が欲しいかと思いまして」
 放ったゼラニウムが焦げた花びらと散っても尚、エルヴィラは踊る。
 用途の違うトウシューズが、きゅきゅ、と音を立てて、氷を踏む。
 ――たった一人の観客、ではない事は否定できません。
 ――この二つの双眸以外にも、躰中の目が見ています。
 スキアファール一人から感じる量ではない、威圧感に、エルヴィラも気がついた。胸にこみ上げるものは、"認めてくれる""共感してくれる""誰かがいる"という、仄かな喜び。
 反面、……それはエルヴィラの勘違いだ。
 少女が欲した喜びに摩り替えられた癆、見られているだけで植え付けられた廃疾の欠片。
『……そんなもの誰が望んだよ』
 ――ああ、嬉しい。あなたは見ていてくださるんですね。
 ――誰からも不必要と理不尽に存在を抹消された、私なのに。
 貰ったモノは少女が過去に与えられた死と同様に、重く、理不尽の塊だ。それでも、彼女は嬉しがるように、スローモーションの大広間でスカートをこれでもかと揺らす。
 じわじわと、感情が病魔に書き換えられていく。
 取り返しのつかない浸透するには十分すぎるゆっくりとした"時間"の中で、見えない猛毒を飲まされ続けている。
『なら好きにすれば?これが踊り終わったら一番に、殺すけどな』
 ――苦しみを苦しみと思えなくなっているんですか。
 ――これを卑怯とも、理不尽とも思えなくなるような環境、とは……?
 アリスの体験は、スキアファールの行動を上回る。
「……別に、いいですよ」
 ――もっと強く罵りを受けたんでしょうか。そういう言葉に慣れてしまうほど……?
 ――絶望は人を変えますね。私は、元『アリス』であれど、"怪奇"。
「あなたのこころに寄り添う術は持ち合わせていない」
 ――あなたのこころを救う術を持つことが、できませんから。
 殺したいと望むなら、殺せばいい。
 ただし、猛毒を幸福だと錯覚しているのなら。
 幸せ(理不尽)をその身体に死ぬほど受けて、――嗤えばいい。
 ゆっくり回る毒素に魅入られて、不意に咳き込むエルヴィラが吐き出す色は――どす黒く己の死を予告するかのような赤い花だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラピタ・カンパネルラ
【仄か】

(何もかも凍る世界できらきらきら。視力の弱い目に、反射した光やエルヴィラの舞が、ぼんやり届いている。
綺麗。だからもっと綺麗を思考する。夢中になる。花も、氷も、踊りも、ただ助けて欲しかった痛切な声も)
(綺麗)

氷結耐性
焼却
【藍焔が哭く】
炎が溢れエルヴィラを追う
炎は花弁を焼いて、尚鮮明に僕に全景色を届ける。美しいと思うほど数多溢れる炎は、きっとこの『時間』にさえ追い付いていける

ーーカロン?
いま
きみ、に
炎が、向かったの、見えた

カロン
エルヴィラと同じように、痛いんだね
大丈夫
痛くて苦しくても
立って、舞える、二人とも、
綺麗だ

カロンの事まで追う炎が溢れた
ごめんね、カロン
走って
エルヴィラのところに


大紋・狩人
【仄か】
(靴音、硝子の音が
重なり過ぎた
助け無く、独りで敵相手に踊る姿
少女はオウガに堕ちきった僕
ラピタに逢えなかった僕のよう
思考に付随する近親憎悪
有り得た可能性への拒絶が
思考飽和
駆けずり回って奔流へ!)

焼却
限界突破
【おそれは零時に熔けて】
悪感情の思考は、黒炎は少女へ駆け
花弁ごと凍る時間を
激情の分だけ熔かしていく

ラピタ
(きみの炎は
感情は
みるものは
何でこんなにも澄んでいるの
覚悟、炎の一つは己へ
一心に自由を踊る
苦しんだ少女に
負を向けた己への憤懣)

驚かせてごめん
ラピタ
そう思ってくれるの
……うん

(火炎耐性
属性攻撃
綺麗な炎を受け止め
刃に纏い走る)

エルヴィラ、スローダンスを
僕らの舞いを
愛でてくれる子がいるんだ



●綺麗で仄かな

 吐いた息が目に見えて留まって、消える……気がした。
 大分長い時間留まって、息する事すら時間がかかりすぎる。
 ――何もかもが、凍る世界。そんな国。
 "時間"を筆頭に、どこにも進まず氷に全てを閉ざしたような城。
 氷に反射する光を、ラピタ・カンパネルラ(薄荷・f19451)の瞳が、微かに拾っていた。
 ここは明るい場所であるらしい。此処で構わず踊るエルヴィラの存在も、ぼんやりと光を通して、その目に届いている。
 ――綺麗。
 大広間全体に、きらきらと、時々眩しいほどの輝きがあった。
 それは自由を謳歌したがる存在の、瞬間的な命の煌めき。
『見惚れてると怪我するぜえ"え"え"?』
 理不尽な殺意を言の葉に乗せて、女の武器を自称する流れ落ちた血を元アリスは花びらに変えていく。魔女と言われ殺された元アリスの血は、理不尽の汚濁に浸された持ち物(アクセサリー)。
 他者が触れれば猛毒に相違ない。
 絶望は彼女の死に際にも、そうしてエルヴィラを抱いて離さなかった。
 血が変じたゼラニウムの花は、意図的なのか、白い。
 心の有り様を色に映した、自由の花がふわりとフロアに溢れ出る。
 ――私は、あなたの信じられません。
 ――どうかどうか、理不尽なことは辞めて。
 ――此処で花を踏み荒らすように散って欲しいのです。
 氷の氷壁にまぎれて見えなくなるほどの、白い花弁。
 嫌がらせのような悪意の色が、ゆらゆらと、じわじわと差し向けられる。
「見惚れるほどには"見えない"から」
 ラピタの眼には、ギリギリ見えるかどうかの、悪意の欠片だ。
 音はある。迫ってくるが……だからこそ、大丈夫。
 ――心配する部分は、どこにもない。もっと"綺麗"を思考する。
 ――踊る靴音を始めとして、花も、氷も、当人の踊りも。
 ――そして、欲しかった"痛切な声"も。
「そのままおいでよ。きっと、そうしたらもっと」
 ――よく"見える"かもしれないから。
 ラピタの抱く感情の座標に、藍焔が空間を焼いて灯る。
 空間を砕き、"時間"の流れを熱量として燃やし尽くし、無視して燃える。
 フロアを支配する、スワンへと炎の群れが追い立てていくのだ。
 それは大変美しい炎の行進。
 本来の時間に迫りアリスの退路を進みたい道を、囲うように閉ざして迫った。
『続く言葉は、殺しやすいとか?ああ”ナメてんのか!?』
 逃げ遅れたスカートの隅をじりじり焦がし、少女の肌を舐めるように焼く。
 怪我を気にせず、炎の壁を突き破り、ステップを刻んで少女は躍り込む。
 壊れかけのドールのように、相手の死を切実に願いながら。

 近づく踊り子の気配。笑い声などはないが、悪意とごちゃまぜの殺意だけが頬を撫でてくるうような気がした。
 ――ああ、この靴音。まるでそう、硝子の音。
 ――重なり過ぎる。
 大紋・狩人(黒鉛・f19359)にとって、それは悪夢の再来にようにも思えた。
 ――助け無く、一人で敵相手に踊る姿。
 エルヴィラの姿が、どうも重なる。
 何に。いや、誰に。
 ――少女はオウガに堕ちきった、僕。
 ――いいや……より正確さを求めるならば、ラピタに逢えなかった僕のよう。
 欲しいものは、助けの手。
 欲しい時に欲しい言葉が届かなかったことで、少女は人の生きる道から突き落とされた。自由は得たが憎悪が少女を二度と戻れぬ闇の海へ突き落とした。
 狩人は、ほしい時に"唯一が"届いた。救いの手が、存在した。
 それが今、目の前に広がる光景との違い。
 思考に付随する近親憎悪。
 あり得たかも知れない可能性を思考したくないのに、"時間"の成約があるせいで目を即座にそらせない。
 見たくない。どうしても思考が引きずられる。
 ――ああ……。
 拒絶する想いが思考が溢れ出し、途絶した。
 飽和して溢れ出した感情は、踊り狂う少女を停める手段に使える。
 迫る脅威を拒絶する情動はどす黒い黒炎となって――接敵を拒んだ。
「……ラピタ」
 狩人の激情は元アリスにだけで留まらない。
 留められない。飽和したぶんが、余分が溢れ出てしまう。
 ――きみの炎は、感情は。
 ――みるものは。なんでこんなにも、澄んでいるの。
 自分と少女は、全く違うものだと理解している。
 ただ、どこまでも嫌悪が自分を駆り立てた。
 数ある炎を少女へ向けてを尚、ただ、"感情"を塗りつぶしきれない。
 ――……ああ、どうして。
 自身の黒炎に巻かれる覚悟を持って放ったのは、戯れではない。
 一心に自由を踊る少女に、他人事であるはずの負の向けた己への……憤懣。
「――カロン?」
 炎の向こうに押し退けたエルヴィラではない、方へ。
 動きを見て取った、ラピタ。
 ――いま。ねえ、いま。なにを?
「きみ、に、炎が、向かったの、見えた」
 ――ねえ、カロン。
「"見ていて"、とても痛いんだね?」
 ――エルヴィラと同じように。
「驚かせて、ごめん」
「大丈夫。痛くても、苦しくても」
 ゆっくりとした時間に続く短い会話。
 ラピタが顔を上げて、狩人を見上げる。
 どんなに距離を経立てたところでエルヴィラが、そろそろ炎の向こうから襲ってくるはずだ。
 だがまだもう少しだけ、伝えたいことがある。
「そう思って、くれるの……?」
「立って、舞える、二人とも、綺麗だ」
「……うん」
 突き放すような説得ではなく、ラピタは肯定で応じた。
 それだけで、狩人の激情の向きが、変わる。
 ――ああ、綺麗。とっても。
 ラピタの炎が、ラピタの感じた想いに応じて波打つように、狩人に絡んだ。
 ――うつくしいものを、いま、みている。
 絡んだ炎の熱が、惹かれ焦がれた意味を狩人が感じたかは、わからない。
 ただ、綺麗な炎を受け止めて、刃に纏うことで返答とした。
「ごめんね、カロン。さあ走って」
 ――エルヴィラのところに。
『黙って聞いてりゃあ"あ"よぉお"お"お"』
 遠くから床を叩く靴音のノックノックが、近づいてくる。
 ラピタへ頷きを一つ。
 靴音を重ねるように、灰かぶりが向き合った。
 綺麗な炎を手に、強烈な悪意と別れの舞踏を刻もう。
「エルヴィラ、スローダンスを続けよう」
『赤い赤い血で、フロアを染めろクソ野郎どもがあ"!』
「僕らの舞いを愛でてくれる子が、いるんだ」
 花びらを携えた少女が、一方的に過激に攻めて……二人の影が重なった。
 少女に突き刺さった刃が、きらり。狩人の刃が先に届いた。そこからゆっくりとだくだくと滴る死の音が、凍えるフロアの熱を更に盛り上げる――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノエル・フィッシャー
【WIZ】
ボクにキミは救えなかった。そして今回も救えないだろう。
なればせめて、その憎しみからだけでも救おう。即ち、死だ。

UC【王子様の尊き御言葉】を使用、言葉も遅くなるからね。「勅、火の嵐」と簡潔に唱えるよ。
敵目掛けて全方位より炎の嵐を巻き起こし、敵の花びら攻撃を焼き尽くして防ぎつつ、凍れる城諸共溶かし尽くす面による圧殺攻撃を試みるよ。
UCの暴走可能性も、十倍に引き伸ばされた主観時間なら安定して制御出来るからね。
どんなに考えようが逃げられない理不尽なキリングフィールドの中で、ゆっくりと焼かれ、押し潰される二度目の死の気分を味わってもらうよ。

共闘・アドリブ歓迎だよ。


樹神・桜雪
なんだろうね、すごく悲しそうな踊り。見ていてキュッとなる。
……それでいて今は自由だって喜んでいるようにも見える。悲しいね。

ここは時間の流れが遅いんだね。ちょっと困った。
純粋な力押しだけではダメ、か。

動き出す前にでUCを発動させておく。現れた刀はそっと天井に設置。
それを確認しつつエルヴィラに切りかかろう。
大きく薙ぎ払うけどそれは牽制。彼女が避けそうなタイミングで桜の刀を天井から降らせよう。
すべてがスローモーションだけど動きは頑張って見極めるよ。
動きが遅いというなら攻撃の前兆も分かりやすいはず。
反撃の兆しを見切りで見極めたらもう1回UCを発動させる。

……僕も理不尽な死を与える側、だね。ごめん。


木霊・ウタ
心情
可哀そうな奴なんだな
哀しい踊りが辛いぜ
エルヴィラを海へ還してやろうぜ

戦闘
果実は防御
毒や呪詛は獄炎が喰らい無効化

獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
避けられるかもな
スローモーだし
けど振るう度に氷へ広がる獄炎が
敵の背面左右を塞ぐ

焔摩天を喰らうか
獄炎に焼かれるか
選択肢はそんだけだ

目を見て独白
アリスのあんたを救えず悪ぃ
辛かったな
もう十分だ
紅蓮に抱かれて休め

駄目押しで急速燃焼の輝きで視界を灼く
うんゆっくりだけど
目を閉じるのもゆっくりだから同じこった
自分の消滅が見えない方がいいだろ

隙だらけの棒立ちの体を炎で送る
苦痛が長引かぬように留意

理不尽を灰へ還し
恨みを赦し穏やかな心での眠りを願う



●赤い靴の白鳥

 ――ふーん?可哀そうな奴なんだな。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は、執念に踊るスワンに、痛みを感じていた。精神的に心を折られても、物理的に血を吐いても。傷ついても。
 自身の服も身体もどんどん赤に染めても尚、それでも大広間で踊る事をやめないエルヴィラ。
 エルヴィラの血で真っ赤に染まったトウシューズは、さしずめ赤い靴。踊ることを辞めないのはアリスだが、恨み節の象徴となって足元での存在感を主張する。
 ――哀しい踊りだ、と思うんだよな。どうしても。
 ――本人からしたら、自由の舞なんだろうけどさ。うん、痛々しい。
 ――エルヴィラ。あんたは踊り続けるよりも、躯の海へ帰るべきだよ。
『どうせ残念そうに思ってるんだろ、……知らないってのそんなのは!』
 蔑み。哀れみ。そんな視線。
 例えどちらでなくとも、エルヴィラにはどうでもよかった。
『この場所は"凍結"しているからな、余計な事を"聞かなくていい"』
 エルヴィラの籠の中身は大分軽くなっていたが、それも気にすることじゃない。
『言わなくていいわ。どうせ"死ね"っていうんでしょ』
 手にした果実は、本来手にするべきではない。
 アリスの呪詛も怨念のように染み込ませた猛毒のマンチニール。
『オレより先に逝けば考えなくもねぇがな"あ"!』
 握りしめて、連続して投擲。
 猛毒の脅威が、ゆっくりとスローモーションで飛んでくる。
「当たれって?ヤダね」
 ウタの手元近くまで来た果実は焔摩天で弾き、剣が纏った地獄の炎で追加付与された猛毒を焼く。
 毒を抜かれた果実が、体に触れる機会を削ぎいで、フロアへ落とした。
 じゅうう、と白色の煙が燻り、果実が焼けたような匂いがあたりに立ち込める。
『焼いたなあ?あーああ焼いちまったな"あ"??』
「しまっ……」
 投擲された果実の真意はぶつけることにあらず。
 猛毒の呪詛は、魔女ですら生命力を喪失させて殺せる。
 ――なんてな。
 ウタは罠に嵌ったように演じて、煙を切り裂き、焔摩天を振るった。
 スローモーションの動きでも構わず、苦しむ素振りを僅かにしながら、ウタは何度も剣を振り回す。
 ――猛毒の効果が、煙にもあったかもしれないけど……。
 ――その効果が来る前に全て燃やし尽くせれば、毒素は無効化できるだろ?
 ――なら、煙を燃えるエネルギーに転換して、使い潰せばいい。
 振るう度に城の中の氷へ地獄の炎が飛んでいく。
 踊るアリスの後方は、もう炎の波が踊り狂っている。

 ――ボクにキミは救えなかった。
 炎の波に道が閉ざされる前に、ダンスフロアへ一度、軽く頭を下げてから入ってきた王子様。ノエル・フィッシャー(呪いの名は『王子様』・f19578)はアリスが気に止めなくとも、礼節に重きを置いていた。
 ――恐らくは、今回も救えないだろう。
 ――なればせめて、その憎しみだけでも救いたいと思う。
 ゆっくりとした時間の中で、頭をあげて、ノエルはエルヴィラと対面する。
『……その目は』
 ――憂うようでいて、全てを割り切っているひとの目ですね。
 ――あなたも私を追い出す気なんでしょう。
 ――私は此処で床を叩いて踊っていただけなのに。
 ――私は凍りついた"時間"の中で、踊り続けているだけなのに。
 優しい視線をノエルに向けるようでいて、エルヴィラの視線に生気はない。
 絶望に身を染めている彼女の目は、誰も信じる事ができなくなった人間不信の猫に、よく似ていた。
 ――即ち、死をもって、救おう。
「勅、火の嵐」
 言葉も遅くなるのだ、ユーベルコードの発動も、伴って遅くなる。
 その流れを逆手に取り、詠唱を短く簡潔に行う術を考えついた。
『見たことある!!』
 エルヴィアの言葉がノエルの耳に届く前に、彼女の視界は圧倒的な炎の嵐に呑まれる。退路も視界も、全てが炎。
『その目がオレを燃やして、殺し尽くすんだ!!!!』

 ――なんだろうね、あれは。
 樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)が見たもの。
 炎の嵐の中で踊るたどたどくおぼつかないステップ。揺らすスカートに振り回されるようなエルヴィラの視線が、炎の群れに紛れた桜雪を捉えるのも時間の問題だ。
 ――すごく悲しそうな踊り。自分に自分で、振り回されているかのような。
 見ていて胸のあたりが、きゅ、と疼くような気がする。
 桜雪の手がほんの少しだけ自身の胸を撫でて、のんびりとした動作で降ろされていく。踊り子の、息が詰まるような痛々しさを、桜雪も存分に見て取った。
 ――……それでいて、今は自由だって喜んでいるんだね?
 ――死後の自由は、本当に自由かな。うん。悲しいものだね。
 どんな子供でも、無邪気さをアクセサリーに楽しく遊ぶように踊るもの。
 どんな大人でも、自虐するような独りよがりのステップは刻まない。
『……ネズミがそ"こ"に"も"か"あ"あ"あ!?』

 気づかれた。

 ――ここは時間の流れが遅いんだね。変な感じ。
 ――でも、ちょっと困ったな。純粋な力押しだけではダメ、ってことだものね。
 エルヴィラが声を発する前に、桜雪は魔を絶つ刃の群れを天井付近に紛れ込ませていたりする。桜雪の上げていた手は、霊力を帯び僅かに光るそれを天井に設置する、のを担った。
 ――求め人を照らす道しるべは、添えられた。
 ――操られてるわけではないんだね。糸を切ったような感覚は、なかったみたい。
 燃え上がった炎のフロアで、敵対者を三人も見つけたアリスは上を眺めている余裕もないようだ。
「いるよ」
 エルヴィラの言葉の最後が桜雪に届くより早く、自身の存在感を肯定。
 愛用の薙刀を携えて鋭く飛び込む。
 桜雪の声が届くと同じくして、刃がアリスに届くように。
『い"る"の"かよォ!!』
 ガッ、と踏み込んだ場所を起点に靴が解けるように花が自由に咲き誇り、花びらとなって舞う。
 踊り続ける自由は、エルヴィラにとって武器に違いない。深紅と黄、二種の色合いの花びらが氷結した城のフロアで舞う様は、幻想的でもあった。
「うん。ちょっとボクと踊ろうよ」
 花びらの群れに飛び込む形になった桜雪だが、それらは全て無視した。
 なにしろ、ノエルの紅蓮の炎が彼女の周囲を埋め尽くし、ウタの獄炎が背後から攻める。二人の火焔で折角舞い上がった花びらは尽くじゅううと燃やされる。
 道が広がっている。
 故に、大きく薙ぎ払って、直接の制裁を狙った。
 ――これは、牽制だよ。どうする?
『知らねぇ奴と手を取り合って?やだね!!』
 籠を囮に切りつけさせて、エルヴィラはバックステップで刃を躱した。
 ゆっくりと、スローモーションであるがゆえにこうよければ、当たらないと予想するのは、容易い。十分すぎるほどの、時間がある。
 ――間に合うかどうか、は話が別だよ。
 避けると考察していた桜雪の読みどおり、エルヴィラは想像通りの場所へ身体をそらしていた。タイミング通り、桜の刀の包囲網に少女は飛び込んでしまった。
「そう?楽しく踊れると思ったけど」
 太刀の群れが幾何学模様を描いて包囲している。刃は全て、包囲する内側に突きつけられており、ステップを刻んだところで跳ねては逃げられない。
 総数は桜の花びらのように、幻想的な群れをなしていたからだ。
「不意打ちで縫い止めるのは簡単だけどね」
 憂うように、桜雪は足元へ視線を逃した。
「……僕も理不尽な死を与える側、だね。ごめん」
 ゆっくりと手が動くことを理解しつつの会話だった。
 今、桜雪の太刀へと、合図が届く――。
 踊り子の羽を本格的に削ぎ落とし、刃だらけの鳥かごに押し込めるために。
 一斉に太刀が少女の身体を蹂躙して突き刺さって、止まった。
 殺すまでには至らないギリギリの、拘束。
 桜雪の太刀の向こう側で、炎の波が踊っていた。
『そ"こ"でぇ突然謝るな"よ"……オレが惨めになるだろ!!』
 アリス……いいや、即席の魔女裁判が、此処に始まる。

 炎の波が壁を撫でれば燃やし尽くされて、何も残らない。
 氷の城も、形状を保てずに溶け出すのも時間の問題だろう。
 少女は動きを制限されて、炎の中に身を投げられた。
 エルヴィアが、理不尽な死を迎えたときと――同じ。
 ――このような場所があるから心も合わせて『凍結』するんだ。
 ――凍れる城諸共、溶かし尽くすからね。
 ノエルの感じている時間の流れは普段の十倍に引き伸ばされている。
 むしろ、誰もが長すぎると思えるほどだ。
 暴走の恐れもあるユーベルコードでも、制御しきれる"時間"が生まれる。
 ――キミの周囲だけを焼くだけだと、思っただろう?
 この場においてノエルの明確な配下、自在に爆ぜる炎の嵐が弾けてエルヴィアの顔に飛ぶ。手をかざす時間も、避ける時間もない。
 顔面にぶつかった炎が荒れ狂うように元アリスの顔面を焼いた。
 じわじわと火種が燃え移り、少女の頭は火だるまと化す。
 ――あちらがどんなに考えようが、逃げられない理不尽は此処にもあるんだ。
 ――静寂のキリングフィールドはお気に召さない?
 じっくり焼かれていくことから逃れる事ができず、輪にかけた理不尽に、責め立てられる。自由を押し潰される気分は、エルヴィアにしかわからない。
『……ァァアア”ア”ア”ア”ア”』
 間延びする悲鳴は絶命まで続く。耳に痛い音だ。
 彼女からすればこの体験は何度目か。一度目以上の、理不尽。
 ――でもね。死までの"時間"は、じっくり味わって貰うよ。

「なあ。早く炎を消さないとこの城、溶け落ちるぜ?」
 ――焔摩天をその身に喰らうか。
 ――それとも、獄炎と制御された炎に燃やされ尽くすか。
「選択肢は2つある。さあどうする?」
 燃える顔のエルヴィラは、絶叫し続けている。
 ウタはそれでも、目がある位置を見て語る。
「アリスのあんたを救えず悪ぃ……俺らみんなそう思ってるんだよ」
 返答は、まだない。
 これはウタの独白だ。
「辛かったな。もう十分だ。紅蓮に抱かれて休めよ。"大丈夫だから"」
 まだ、エルヴィラからの返答はない。
 ――ダメ押しを、重ねるけどさ。
 ――選べる自由は、まだ、あんたにあるんだ。
 急速燃焼の輝きで、視界を灼く。
 もうエルヴィラの瞳は、フロア上のなにも映さないだろう。
『大丈夫だからってなんなんだよ"お"お"お"お"お"お"!!』
「目を閉じていいっていってんだ」
 ゆっくりと、視界の輝きが閉ざされていくだけ。
 目を閉ざすのも、ゆっくりにしか行えないのだから、同じこと。
 ――自分の消滅なんて、見えないほうがいいだろ?

『……ほんとうに?』
「嘘を言ってどうなるんだ」
 隙だらけの棒立ちの少女が、ぽつりとそれだけ尋ねてきた。
「苦痛が長引かないように、送ってやるから」
 周囲で燃え盛る火焔が、エルヴィラを飲み込む。
 灰になるまで燃やすものは、"理不尽な未来"。
 ウタの炎でも過去に受けた理不尽までは手が届かない。
 しかし、躯の海から滲み出した先の未来で、理不尽に絡め取られないようにその"未来"を灼くことならば。
 可能性を摘み取り、焼き尽くし、灰へと還す。
「あんたのそれは、正当な権利だった。少なくとも、俺はそう思う」
 恨みを許し、穏やかな心を見せればエルヴィラは、驚いたような声で言ったのだ。


 ――あの時のではないけれど……殺すことの謝罪も。私の恨みへの許しも。
 ――本来は、同時に貰えるものだったのでしょうか?
 ――私は、"凍結した時間(理不尽)"から、飛び立っても良かったのですね……。

 終焉を認めて、眠るように物理的な火焔の中で存在を消失した少女。
 亡霊は躯の海へ、還ることを選んだ。
 白鳥の飛び立った氷の城も、溶け落ちていく。湖面に残るのは――正常な時間を刻みだした、何の変哲もないただの水だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月03日
宿敵 『枯樹死華のアリス『エルヴィラ』』 を撃破!


挿絵イラスト