迷宮災厄戦⑨〜時をも凍る氷城と身をも焦がす憤怒の炎獄
●氷の城の広間にて
――ああ、このアリスも救えなかった。
水晶のような巨大な氷の中で眠るように息絶えたアリスを、彼女は救えなかった後悔の念に駆られながら切歯扼腕した。
せめて、この氷からでも救えないか。
彼女…オブリビオン、オウガでありながらもアリスの保護を行う『『七罪』憤怒のアリス』は氷の牢獄からアリスの骸を開放するべく、触れる篭手に魔焔を纏わせた。
――解けろ。
そう念じれば、焔は一気に燃え盛る。
だが、焔の揺らめきが普段と異なるのを彼女は気づいていた。
それもそのはず、この程度の氷などすぐ溶かせるはずなのに。
――解けろ、解けろ、解けろ、解けろ!!
一向に溶けない氷に苛立ちが募り、瞳に宿した炎が、心に宿した炎が憤怒で激しく燃え上がる。
だが、氷と篭手の間から雫が1適2適、重力に沿ってカタツムリのように緩やかに伝って流れ落ちるだけだ。
――なんで、なんで溶けないのよ!?
時をも凍てつかせる冷気が氷の城内を包む中、声にならない慟哭がホールに響いた…。
●グリモアベースにて
「お集まり頂きありがとうございます。とうとうアリスラビリンスにて『迷宮災厄戦』が勃発しました。来たるべくカタストロフを防ぐため、早急に事態の収束に務めなければならないオブリビオンとの『戦争』です」
緊迫する空気のもと、集まった猟兵たちの前でシグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)が静かに告げた。
「私がこれより皆さんを転送する場所は、『時間が凍結』された氷城です。ああ、大丈夫です。時間が静止している訳ではありません。時間が通常の10分の1に流れており、動きこそは緩慢になってしまいますが思考速度のみは通常通りという不思議な戦域です」
どうやらこの城を突破しなければこの戦争で暗躍している『猟書家』という存在への道が切り開けないと、シグルドは語る。
「『オウガ・オリジン』を討伐すればカタストロフを防げるのですが、彼らの動向を見逃す訳にも行きません。確かサムライ・エンパイアの諺で、急がば回れ、でしたか。まずは彼らの捜索を優先したいと言う所です」
そして、と彼は予知したオウガの情報を猟兵たちに伝達する。
「この氷城を守る…と言っていいかは定かではありませんが、元アリスであったオウガが行く手を塞ぐことでしょう。彼女はアリスを救うという珍しいオウガなのですが、我々猟兵には敵意を剥き出しにして襲うでしょう。類まれぬ速さを誇る彼女ですが、我々のUCが緩慢になるのであれば敵のUCも緩慢となります。通常通りの思考速度で対策を講じ、こちらが有利になるよう心がけて下さい」
では、とシグルドは静かに目を瞑ると、掌にフォースを集中させる。
そしてゲートを作り出し、猟兵たちを氷の城内に転送したのであった…。
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
ついにアリラビでの戦争となりました。
今回も完全勝利を目指して頑張りましょう。
●戦場情報
「時間」が「凍結」された、恐るべき氷の城です。
肉体の動き、放たれたユーベルコードなど、敵味方の全ての行動速度が10分の1になります。
幸い思考速度だけはそのままなので、攻撃の一手毎に充分な思考時間があります。
これを有効活用した者が勝者となるでしょう。
また、体の動きが遅くなっているので、声を出す速度も合わせて遅くなります。
なので、戦闘中に敵と長話する事は出来ないので注意してください。
●プレイングボーナス
このシナリオにおいて、以下のプレイングボーナスが存在します。
これに基づく行動をして貰えれば、判定が有利となります。
『プレイングボーナス:思考時間を活かし、戦略的に戦う。』
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちします。
第1章 ボス戦
『『七罪』憤怒のアリス』
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POW : 憤怒に染まる真実の剣/ヴォーパルソード
【無敵の鎧と真実の剣を持つ最強の騎士姫 】に変身し、武器「【あらゆる防御を無効化するヴォーパルソード】」の威力増強と、【憤怒の魔焔と魔力を操り、想像の天翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD : 憤怒を宿す勇者
全身を【全てを焼き尽くす憤怒の焔と真実の剣の力 】で覆い、自身の【世界への怒りと他のアリス達を守る強い意思】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ : 真なるアリス
無敵の【困難に打ち勝ち希望に満ちた無垢な自分 】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「雛菊・璃奈」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ワイルディ・フェジエア
「おいおい冗談だろ?この譲ちゃんと戦うのかい?気が乗らねーぞ」
この事件に対してこう感じ、猟兵として参加します。
戦闘中、陸戦戦術機『剛毅』に搭乗して介入します。
『七罪』憤怒のアリスの「憤怒を宿す勇者(SPD)」に対し、ユーベルコード「実験体の頭脳(ジッケンタイノズノウ)」を使うことで、主砲の回数を増加させます。
最大の目的は、戦闘を有利に進め、勝利に導くことです。
その為なら、ある程度の機体の破損はやむを得ないものとします。
『思考時間を活かし、戦略的に戦う。』
か……正直対策なんて難しいだろ
まぁ……こっちが偵察で隠れつつ気長に好機を待つか
あー、タバコねーかな
あったあった。これがあると落ち着く
「おいおい冗談だろ? この嬢ちゃんと戦うのかい? 気が乗らねーぞ」
突如と氷室のホールに響いた声に、憤怒のアリスがハッと我に返り振り返った。
そこには声の主、ワイルディ・フェジエア(戦場猟兵『小隊長』・f07949)がよれよれのシケモクを咥えながら、全長5Mの量産型マシンウォーカー『剛毅』に搭乗していた。
『ッ!? イェーガーか!!』
ワイルディの姿を視認するや否や、憤怒のアリスは腰にぶら下げた自身の身体と同じぐらいはあろう刀身を有するブロードソードを抜刀する。
巨大な氷の結晶の中で眠っているかのようなアリスの骸を背にしたその姿は宛ら、氷の墓標を護る墓守のアリスと言ったところか。
だが、彼女はアリスであってオウガである。
猟兵に向けられた感情が沸々と燃え上がる憤怒となって焔となり、ブロードソードの刀身から燃え盛り始めた焔が彼女の身体をも覆ったのだった。
『貴様らに…貴様らに、このアリスを渡すもんか!』
明らかに敵対している相手への感情を吐きながら、問答無用とばかりに憤怒のアリスが一気に距離を詰めかけに出た。
時の速さが10分の1となっている事は、先程喋ったら相手に届くのに間があったのでワイルディは実感できていた。
だが、この憤怒のアリスは何時ものような速さでこちらに向かってくる。
一瞬彼女にだけ時の制約が掛けられていないのでは、と勘ぐってしまったが、声の伝わりがこちらと同じであった事から彼女も凍てついた時間の中の住民であろう。
――『思考時間を活かし、戦略的に戦う』か。……正直対策なんて難しいだろ。
唯一時の呪縛に縛られていない意識が、緩慢な彼の身体に反して走馬灯のような速さでよぎる。
相手は至って普通に動いているように見えるが、相手もこちらと同じ土俵に居る。
――つーことは、ここでなけりゃあの10倍は速ぇってことかよ、クソッタレが。
刻一刻と接近する憤怒のアリスを前に、ワイルディが口に咥えていたシケモクをぷっと吐き捨てると、操縦桿を握りしめて不敵に笑みを浮かべた。
「ンなら簡単だ。普段の10倍分働けば良いわけだ」
徐々にであるが、彼の頭がだんだんとクリアになっていく。
薬物による投与も時の制約を受けるようであったが、ようやくこちらもエンジンが温まってきたと思えばいい。
煙草による薬物の摂取、生と死の間で分泌される脳内麻薬が『弄られた脳みそ』を活性化させ、ワイルディの瞳には狂気が宿り始めていた。
――音の速さが遅れるなら、光の速さはどうだ!
操縦桿のスイッチを押すと、既に発射準備を終えていた主砲から閃光が迸った。
砲身から発射された光が凍てついた時をも切り裂き、憤怒のアリスが纏う魔焔を穿つ。
それに回避行動を取った憤怒のアリスの姿を目で追い、処理能力が増大された彼の脳は予測、準備、発射を次々とこなしていく。
だが、機体の方はと言うと、10分の1の速さで動いてはいる物の、操作は10倍、いやそれ以上になっていたのかもしれない。
度重なる急速チャージと連続発射を繰り返したことで砲身がオーバーヒート寸前である警告灯がコンソールに表示されると、ワイルディは舌打ちをして操作盤に手をかける。
すると、スモークディスチャージャーから発煙弾が一斉に発射され、スローモーションのように緩やかな弧を描きながら空中で炸裂する。
そこから発生した煙は氷城の巨大ホールを埋め尽くすように広がり、ワイルディは駆動音を限りなく抑えながら床を滑るように愛機ごと煙の中へ隠れた。
『小賢しい真似を…。どこだ、イェーガー!』
煙幕で視界を遮られた憤怒のアリスの叫び声が氷城に響く。
時間の流れが10分の1であれば、煙幕が有効な時間は体感的にではあるが10倍となる。
それまでに反撃態勢を整えなければと、身を隠せる場所に落ち着いたワイルディはごそごそとポケットからくしゃくしゃになったタバコ箱を取り出す。
そしてタバコを1本取り出すと火を点け、コンソールの画面とにらめっこしながら警告灯が収まるのを静かに待つのであった…。
大成功
🔵🔵🔵
紅月・美亜
「時間経過だけが10分の1か。それは私にとっては好都合だな」
支援次元空母を召喚し、操縦席に座る。私はここから動けん。故に、私を討ち取れれば終わりだ。出来るならな。
FAITHを盾に、BLACKを前衛に。Rの波動砲を矛とし、KAMUIの上空からの雷撃支援、FRONTIERを遊撃に使う。数の力で圧殺する。普段ならばここまでの数を同時制御は出来ない。いくらFINAL BOSSの力で演算力を強化されていても全機直接制御の負荷は重い。
だが、今回はその負荷が10分の1で済む。ならば、展開できる戦力は10倍になる。私にとっては最適の戦場だ。
才堂・紅葉
「まったく。正面から当ると危険な相手ですね」
アリスを守る性質に対して心情的なやり難さもある
会敵と同時に迷いは捨てる
分水嶺は最初の一合だ
方針は遮蔽を取り自動小銃と榴弾で銃撃戦
突撃を誘えば、「機甲召喚符」の投擲から召喚術を行使し、「セット」と召喚したネットでの【捕縛】を狙う
まず相手の選択肢を狭め、思考時間を活かした詰将棋に持ち込む事だ
後は流れだ
「コード・ハイペリア」
真の姿の【封印を解き】、【オーラ防御】を纏った手で剣に接触し、重力【属性攻撃】を加えて死に体にし、【グラップル】で腕関節を極めて剣を【盗み】、無刀取りめいた柔術技から重力を乗せて斬り付けを狙う
無敵の鎧と真実の剣の力比べだ
『くっ…どこだ、イェーガー!』
煙幕が立ち込め視界が遮られた氷城のホールに憤怒のアリスが、今その場に居るであろう猟兵に向けて叫んだ。
意思に反して身体の動きが緩慢になるこの城内では、必然的に視界へ頼る事となる。
僅かな音、僅かな異変を逃せば、それこそお互いに命取りとなるだろう。
憤怒のアリスの目の前で煙が不自然に歪むよう燻る。
彼女が何かを察知して咄嗟に身構えたその矢先、何かが煙の中からイノシシのように飛び出して来たのを、手にしていたブロードソード…あらゆる防御を無効化する真実の剣ヴォーパルソードで横に薙ぎ払う。
しかし、手応えはあったが『それ』は何処かに消えてしまっていたようだった。
――先発させたFAITHが迎撃されたか。
亜空間の中に潜水艦宛ら潜航している支援次元空母の中で、紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)はコンソールに表示された艦載機の内ひとつが迎撃されて次元の海に没したのを静かに確認していた。
「まぁ、いい。盾としての役割は果たせた。肝心なのはここからだ。前衛としたBLAC。Rの波動砲を矛とし、KAMUIの上空からの雷撃支援、FRONTIERによる遊撃。形振り構わぬ数の力頼みだが、勝負はここからだ」
椅子に座りながら、美亜は意識を展開させている各機の直接操縦に専念させる。
とは言え、普段であればここまでの同時展開はFINAL BOSSの力で演算力を強化されていても、全機直接制御の負荷は重すぎる。
だが、意識を除いて時間の流れが10分の1となるこの城内に限れば問題なかった。
勝手にスピードが落ちてくれれば造作はない。
彼女の負担が10分の1となれば、展開できる戦力は10倍になるのだ。
『次から、次へと…ッ!』
その飽和攻撃に、憤怒のアリスはヴォーパルソードで突如現れる次元戦闘機を斬り、繰り出される攻撃を盾にしてどうにか凌いでいた。
だが、度重なる攻撃への憤怒により感情が昂ぶると、身体から噴き出した魔焔が焔の天翼となって彼女は飛翔した。
煙幕の中に居ては防戦のままであると踏んでの行動であった。
しかし、そのように動くだろうと煙幕の中で身を潜めていた才堂・紅葉(お嬢・f08859)による「機甲召喚符」が、その行く手を遮った。
次元戦闘機群による攻撃で舞い上がった薄い金属板は、機雷のように憤怒のアリスを感知するや否や爆発するようにネットが展開された。
思わぬ障害物に一瞬戸惑いを見せた憤怒のアリスに紅葉が迫る。
「まったく。正面から当ると危険な相手ですね」
美亜が操作する次元戦闘機を足場に、紅葉も煙幕の中から突き抜けるように抜けて憤怒のアリスと正対したのだ。
上と下からの奇襲で、憤怒のアリスは選択を迫られた。
ネットをどうにかしなかれば捕縛される。
しかし、下から現れた猟兵を無視できない。
映画のワンシーンのようなスローモーションで駆け巡る思考の末選んだ行動は、その身を憤怒の焔に包むことだった。
焔がネットを燃やし、剣で猟兵を斬れば良い。
――なるほど。やはりそう来ましたか。
紅葉が考えてくれた通りに彼女は行動を選択した。
魔焔を纏った如何なるものも断ち切るヴォーパルソードの一閃を、彼女はその拳で刀身を打ち払う。
高温を帯びた剣の熱によって顔が苦痛に歪んだが、控えさせていた重力の重みを帯びさせた左拳が憤怒のアリスの水月へと叩き込まれた。
思わぬ一撃に苦悶の表情を浮かべながらヴォーパルソードを握る手が緩んだのを、紅葉は見逃さなかった。
油を注いだかのように燃え盛るヴォーパルソードに手を掛け、それを奪い取って見せたのだ。
だが、その焔は剣を手にした紅葉の身体をも包み込む。
その焔を打ち消すように紅葉が気合の一声を上げて剣を振るうと、意識を一瞬奪われていた憤怒のアリスが身に纏う焔から無敵の鎧を瞬時に創造させあげた。
――一合一離だが、無敵の鎧と真実の剣の力比べだ。
矛盾。
それはとある商人が、如何なる強固な盾も突き通せる矛と如何なる鋭利な刃物でも突き通すことがない盾を宣伝したのに対し、その矛でその盾を突いたらどうなるかと尋ねられたら返す言葉がなかった故事に由来する言葉だ。
剣が振られ、鎧と激突する。
あらゆる防御を無効化するヴォーパルソードと無敵の鎧の勝負は、お互いが砕け散る事で決着が付いた。
所持者自身もどんな結末になるか分からなかった勝負に負けた上に目の前で愛剣が砕かれた喪失感と共に憤怒のアリスは翼を失い、彼女は氷床へと墜落したのだった…。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
イヴ・クロノサージュ
●心情
こんにちは。憤怒のアリスさん。
あなたは……守る為に居られるのですね。
……ですが、私たちは此処を突破しなければなりません
名乗りましょう。私の名前は――イヴ
時を操る魔術士、機甲天使
……此処の戦場は、私にとって圧倒的な有利な場所なんですよ…?
●戦闘
《時ノ魔術》で世界ごと「時間を停止」させます――
停止した時間で、「思考」し
時間停止中は、光の槍を複数作り出し
時間が動き出した時に、光の槍がアリスに降りかかる様に白銀の聖槍を振って(合図)攻撃します。
「無駄です――。
立ちなさい――。その能力(UC)で」
私はまだ…本気《機械鎧兵》を出していないのですよ?
空中浮遊しながら待機している
まるで女王と挑戦者の様に
木常野・都月
アリスを守るなら、いい人のはずなのに…敵なのか。
でも、俺は猟兵。オウガは敵。今回の仕事はオウガを倒す事。
この人を倒さなきゃ。
貴女は、アリスを守ってくれる、いい人、いいオウガみたいだけど……この世界を守るために、俺は貴女を倒さなきゃいけない。
ごめんなさい。
[野生の勘、第六感]を最大に、敵の動きを把握したい。
ゆっくりとはいえ、早く考えて動き出さないとこっちがやられる。
UC【精霊の瞬き】を氷の精霊様の助力で使用したい。
敵がゆっくり高速で近づいてくるなら、こちらも最速の精霊術で対応したい。
敵の攻撃は、[高速詠唱]を乗せた氷の精霊様の[属性攻撃]の[カウンター]で対処したい。
『ぐっ…かはッ』
煙幕が消え去り、氷によって作られた豪華な装飾品らが無残にも破壊された氷城のホールの中心に憤怒のアリスが横たわっていた。
鎧を失い、剣を失った彼女だったが、よろめきながら立ち上がると、ホール奥の祭壇に祀られているように安置されている氷晶の中のアリスに視線を向ける。
あの攻撃の中、傷一つも付いていない彼女の無事を確認すると胸を撫で下ろすと同時に、心の中に再び憤怒の焔が再び灯り始めた。
だがその怒りは他者に向けられたものでなく、無残にも猟兵の手によってアリスを護るための装備を失ってしまった自身への怒りだった。
――例え剣が失われようが、私には焔がある。
憤怒のアリスの瞳に精気が戻ると、身体に噴き出た魔焔が鎧となり焔剣となる様を、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は悩んだ様子で眺めていた。
「アリスを守るなら、いい人のはずなのに…敵なのか」
本来であればお互いに利害が一致するのであれば猟兵にとって彼女は協力者になりえるのだろうが、オブリビオンと化すれば呪いのような呪縛により水と油のような相容れない存在となってしまう。
「でも、俺は猟兵。オウガは敵。今回の仕事はオウガを倒す事…」
それは猟兵である都月も理解していた。
故に葛藤し、悩む。
暫く目を閉じていたが、迷いを振り払うように静かに瞳を開いたのだった。
この人を倒さなきゃ、と。
――貴女は、アリスを守ってくれる、いい人、いいオウガみたいだけど……この世界を守るために、俺は貴女を倒さなきゃいけない。…ごめんなさい。
氷の精霊の力により造られた氷の矢が、憤怒のアリスに向けられ放たれる。
限りなく最速の氷矢を憤怒のアリスが焔剣を振るい溶かし落とす。
だが、万全の状態ではない彼女が切り払えきれなかった1本の氷矢が肩を貫く。
苦悶に歪む憤怒のアリスであったが、それが闘志を再び燃え上がらせて都月に迫った。
より一層燃え上がる魔焔が氷矢を溶かし、彼女のスピード矢の製造が追いつかずに接近を許してしまう。
都月が杖を構え咄嗟の反撃を取ろうとした瞬間、彼女は焔剣を振りかざした。
――私は、私は! このアリスを護らねば! 『また』敗れる訳に…また?
突如蘇る喪われた過去の記憶と共に剣が下される。
しかし焔剣は空気を焦がしただけで、そこに居たはずの都月が消えていた。
いくら身を動かす時間が遅くなる場所といえども、緊急回避はできないはず。
憤怒のアリスが理解が追いつかない中、上空から声が響いたのだった。
「こんにちは。憤怒のアリスさん。あなたは……守る為に居られるのですね。……ですが、私たちは此処を突破しなければなりません」
憤怒のアリスがはっとした表情で上空を仰ぎ見ると、声の主イヴ・クロノサージュ(《機甲天使》――『二つの歯車』・f02113)が両手で黒狐となっている都月を抱き抱えながら浮遊していた。
「名乗りましょう。私の名前は――イヴ。時を操る魔術士、機甲天使です。……此処の戦場は、私にとって圧倒的な有利な場所なんですよ…?」
時を操る魔術師。
それは都月が今そこに居ることが真実であることを物語っている。
時ノ魔術で『時間を停止』したお陰で助かったのだが、彼も時間が再び動いた時に何が起きたのか把握できていなかった。
しかし、イヴが重たそうにしているのに彼女に助けられたことだけを理解し、今はこうして黒狐となって軽くなっているわけである。
苦虫を噛み潰したかのような顔持ちで憤怒のアリスが歯噛みすると、彼女の周囲に幾つもの光の槍に囲まれているのに気づく。
「無駄です――。立ちなさい――。その能力で」
『また…また、私の前に立ち塞がるのか…イェーガー!』
まるでこの城の女王と挑戦者のように、二人と一匹は対峙し合う。
彼女が飛翔すると、イヴは手にしていた白銀の聖槍を振るう。
そして、光の槍が一斉に憤怒のアリスめがけて放たれた。
――また? またと言ったのか、私は?
光の槍が迫りくる中、憤怒のアリスの記憶が再び蘇る。
女王…そうだ。私はこの城を治めていた氷の女王のオウガに挑んだのだ。
全てのアリスを救うべく、諸悪の根源『オウガ・オリジン』を討つべく…。
光の槍を切り払いながら、憤怒のアリスが身を魔焔に包ませながらイヴに迫る。
――以前もこのように戦ったのだったな。
1槍の光の槍が憤怒のアリスの身体を貫くと、氷のように輝く光槍が次々と彼女の身体を貫く。
氷の女王を滅ぼしたのだが消滅する前に呪いを掛けられ、氷漬けになって、そこで意識が途切れて…。
そして私はオウガとなり、この城の防人と成り果てた。
――そして、あのアリスは私だったのか。
次第に霞んでいく視界の中、彼女の喪われていた記憶が氷解する。
最後の一槍が心臓を穿つと、憤怒のアリスは塵となって虚へと消え去えた。
憤怒のアリスを討伐し終えた猟兵たちが彼女の代わりにアリスの骸を救い出そうとしたが、その時には既に氷晶の中に封じられたアリスは影も形もなく、まるでそこに居なかったかのように消え去っていた。
猟兵たちは周囲を捜索したが発見には至らず、首をかしげながらも氷の城を後にしたのであった…。
大成功
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