迷宮災厄戦⑥〜魔空原城~(作者
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●魔空原城~苦悶の影~
 ぱらいそ預言書はかく語れり。
 選ばれし者に死後の祝福を宿らせ給う。
 ぱらいそ預言書はかく語れり。
 我等が主の救世を、我等にも与え給え。
 
 虚空に浮かぶ西洋の城、その本丸から、怨嗟と絶望を無理矢理束ねた様な、へばりつく様な呻き声が、もがき苦しむ様に、或いは、狂っている様に、人ならぬ人の声で、それこそが唯一の救いで有ると言うように、城主の言葉を聖歌の様に繰り返す。
 形容するならば、影から生まれた黒き馬。
 それも、どうにか身体を保っているのか、発生の度に身体が地面に溶け落ち、粘ついた粘液の様なそれが零れる度に、這い上がり、追い縋り、元の身体を保とうとする。その一つ一つが、誰かの怨嗟であり、絶望だった。ぐちゃりと落ちる度に、一欠片の悲鳴と苦悶が俄に響き渡る。時に果ての無い嫌悪、時にとうに壊れてしまった心の狂った独り言。
 永遠に救われる事無く、他者をも巻き込み、災厄を運ぶ馬、アルプトラオム。
 狂信者と成り果てるのも自明の理、自身にも分からず、統合もされぬ記憶、得られぬ自我、痛苦のみを供として、駆け回る狂獣。主、クルセイダーの扱う秘術によって、付き纏う者はそれに留まらず、もたれ掛かる亡霊を糧として、苦悶を撒き散らす悪意は、際限なく膨れ上がり、増殖する。

●グリモアベース
「もう知っとると思うけど、アリスラビリンスがカタストロフの危機に見舞われとる。良かったら、手を貸して欲しい」
 海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は戸惑いと僅かな焦りを含ませた声で、猟兵達に声を掛ける。
「皆にも見えたと思うけど、過去例に見ん程の予兆じゃしな。おまけに、向こうにも見られとったらしい。今回は三つ巴じゃが、詳細は資料に書いとる。各自確認してな」
 会議の場も、此処ではないが、グリモアベースに用意されてあると最後に付け加え、資料に目を落とし、世界の概要を説明していく。
「アリスラビリンスは現状、オウガが支配する世界じゃ、オブリビオン・フォーミュラは予兆で見たオウガ・オリジンじゃな。人肉が好物で、この世界にアサイラムからアリスを呼び寄せ、それを食らおうとしとる」
 不思議の国は別々の小さな世界が寄り集まった世界であり、愉快な仲間達が自然発生し、世界で暮らしていた様だ。
「所謂お伽の国みてえに、綺麗に整えるんじゃが、オウガ達に隷属を強いられとるし、それを歪めて、美しい地獄を作っとる、というのが世界の現状じゃった」
 帳面を捲り、今回の戦争、迷宮災厄戦の概要を説明する。
「此処に猟書家って存在が介入して、オウガ・オリジンを拘束。世界改変のユーベル・コードを奪った後、今回の戦争が起きた。アリスも住民も、果ては戦争の終わった世界にまで、とばっちりよ」
 眉間の辺りを二指で揉み、煎れていた緑茶を少し喉に流し込み、もう一度帳面を捲る。
「皆に向かって欲しいのは、その猟書家の一人、クルセイダーが統治する魔空原城の本丸じゃな。仕掛けらしい仕掛けは無えみてえじゃけー、安心して。ただ……」
 召喚されたオウガは、全て不完全な秘術、魔軍転生によって、クルセイダーの狂信者と化しており、捨て身の覚悟で向かってくる。
「反面、冷静では無えと思う。逆に利用する手を考えてみると良(え)えよ」
 相対するオウガはアルプトラオムの群れ、数は魔軍転生と相性が良く、不明。アリスの負の感情や記憶で構成された集合体であり、自意識が無く、負の感情を引き摺り、苦悶する影の馬だ。痛苦から逃れるように駆け回り、負の感情や記憶をばら撒く厄災でもある。
「クルセイダーの呼び掛けに応えたのも、道理じゃろうな。個体という枠組みで捉えられん相手じゃ。救おうとしても、救えたとしても、意味が薄ぃとは、伝えとくよ。と、送ることしか出来ん儂が言う事じゃねえな。思う通りに動いてみて。今回はアリスラビリンスだけじゃ無うて、各世界の命運が、皆の手に掛かっとる。宜しく頼む」
 帳面を閉じ、鎮は深く頭を下げると、猟兵達を送る準備をし始めた。
 



●挨拶
 紫と申します。
 今回は戦争シナリオ【迷宮災厄戦⑥〜魔空原城~】となります。

●シナリオについて
・オウガ【アルプトラオム】との【集団戦】となります。
・捨て身の覚悟で掛かって来るオウガの撃退となります。
・捨て身を利用する手を考えて見て下さい。
・基本的に連携やチーム等の記載が無い場合、描写は個別とする予定です
(※模索中です)。
・PSW気にせず、好きな様に動いて見て下さい。

●ギミック
・時間帯は夜です。
・アルプトラオムは馬の形をしていますが、実態は影状のエネルギー体であり、全と個の差がありません。個を潰す度に全体割合が減る、と言った感じであり、明確な敵数は不明瞭です。また、個々に形作られていても、それぞれの連携意識は非常に薄いです。
※使用UCは下記項目となります。

●オウガ『アルプトラオム』使用UC
・POW【劈く嘶き】
 命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。

・SPD【狂い駆ける】
 【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

・WIZ【もがき苦しむ】
 攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。

●最後に
 なるべく一所懸命にシナリオを運営したいと思っております。
 宜しくお願い致します。
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第1章 集団戦 『アルプトラオム』

POW ●劈く嘶き
命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD ●狂い駆ける
【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ ●もがき苦しむ
攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


樫倉・巽
向こうが命亡き者なら
生きながら死んでいる戦場の刃なら
その行動を読むことは容易い
ただ向かってくるだけ
炎のように川のように
理に従いただ真っ直ぐに

ならば、どちらが覚悟を決められるか
それだけの戦い
斬り続けられなくなれば斬られる
ただ、それだけ

我が心は刃そのもの
ただ、斬り捨てることのみがある

退路を断ち
川もしくは崖を背に立つ
前から来る敵のみを相手にすればいい状況を作り
覚悟と気合いを持って臨む

やってくる敵を静かに見つめ
足捌きより太刀筋を見切り
瞬時に抜刀して斬り捨てようとする
刀を納めるのは気取られぬため
己の見知り相手には知らせぬため
抜けば斬る
いかに刃を受けようとも
命ある限り
一振りの刃として
敵を斬るのみ


春乃・結希
…私も、怖いものが沢山あるんだ
こうやって戦うのもそうやけど
私が一番怖いのは、人と関わる事
相手の本当の想いなんてわからないから
いつか裏切られるかも知れない
好きになった人に
2度と会えなくなるかもしれない
それが本当に怖い
…だから私は、『with』を選んだ
何よりも信じて、誰よりも愛するこの剣
『with』と一緒なら、どんな恐怖にも負けたりしない
『最強の私』でいられる

UC発動
向かって来るならこちらから動くことも無いです
飛びかかって来た勢いも利用して
『wanderer』で蹴り飛ばし
『with』を叩きつけます【怪力】【重量攻撃】
確かに早いけど…『with』と私の方がもっと早い

恐怖は、ここで終わらせてあげます


三上・桧

猫又の火車さんを連れて現地入り

なにやらすごい場所に来てしまいましたね、火車さん
末法過ぎて逆にテンション上がってきました
『何処にテンション上がる要素があるのじゃ』

馬が走り回っていて危ないので、まずは『ガラスのラビリンス』で閉じ込めてしまいましょうか
馬ですし、捨て身で向かってくるのなら、迷路の壁にぶつかって勝手に負傷してくれることでしょう
後は、迷路から出てきたところを【破魔】の力を込めたロケットランチャーを撃ち、【除霊】します

『……なんでもかんでも【吹き飛ばし】て解決しようとするのはどうかと思うぞ』
爆発音のせいで何言ってるか聞こえませんね!


有栖川・夏介

相手は冷静な判断ができないとのことですし、その勢いを利用します。
精神に干渉する攻撃は【狂気耐性】で耐えます。

手にした懐中時計の音で敵を【おびき寄せ】
ある程度の数は引きつけておきたい
敵がこちらにむかってきたら、ぎりぎりのところで高く【ジャンプ】して回避
この時、敵同士で食い合うような形になってくれるとありがたいのですが……。
着地のタイミングで【血を欲す白薔薇の花】を発動し、周囲の敵を巻き込み攻撃
敵の動きが鈍くなってきたら、ユーベルコードを解除し処刑人の剣を手に構え、敵の首を刎ねる
「……サヨナラの時間です」


村崎・ゆかり
捨て身の相手ね。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり。厄介だわ。

愛奴召喚でアヤメを呼び出して、分身で足止めしてもらいつつ、太歳星君降臨で星君にオウガの行動成功率を落としてもらいましょう。
捨て身でまともな判断が出来なくなっているなら、ひたすら行動の失敗を繰り返し続けるはず。

そうしてオウガの攻撃を封じたら、「高速詠唱」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「範囲攻撃」「破魔」「浄化」の不動明王火界咒で一気に焼き払う。

死兵は所詮死兵ね。馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるだけ。
何度でも焼き払ってあげるから、いくらでも突っ込んできなさい!
アヤメは援護をお願いね。星君様も引き続きお力をお貸しください。
さあ、殲滅戦よ!


ルムル・ベリアクス
これは……。見ただけでアリスの怨嗟が伝わってきます……。アリスの絶望を開放することに意味がないとしても、放っておけません。
UCでフォーチュンカードから蜥蜴の悪魔ラケルタを召喚。全身をアメジスト結晶の鎧で覆います。敵から伝わる感情を逆に利用し、全身から剣を生やした如き形状へと結晶を成長させます。捨て身の敵がわたしに触れるたびに傷つくことでしょう。
……敵から受けた凄まじい絶望に、胸を衝かれます。しかしわたしの感情もこのUCの糧。さらに結晶を成長させます。
捨て身であれば動きは読みやすいはず。カードの【投擲】【乱れ撃ち】での遠距離攻撃、カードをナイフの如く振るっての近距離攻撃を織り交ぜ、撃破します。


●摺り合わせ
「なにやらすごい場所に来てしまいましたね、火車さん。末法過ぎて逆にテンション上がってきました」
「何処にテンション上がる要素があるのじゃ」
 月光る夜の元、三上・桧(虫捕り王子・f19736)に毛深い黒毛の猫又が、呆れたような語調で、無駄と知りながら、マイペースな発言を窘める。
 それもその筈、城下は絡み付く様な粘ついた空気と、遠からずから聞こえる不吉な輪唱の繰り返しで溢れている。無理に人の声帯を模写したような、この場に滞留する瘴気、邪念の類と同質で、原因がそこにあると如実に告げている。
「自分、仏教ななので、勧誘とか速やかにお帰り頂きませんと」
「捨て身でこそ浮かぶ瀬もありってね。厄介だと思うけど、算段は有るのかしら?」
「纏めて吹き飛ば……いえ、そうですね……迷宮を作りますから、出口に誘導して、纏めて此方で浄化、というのは如何です?」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)の言葉に、七分袖から覗く細身の色白からは想像し難い、背負った鉄の重量兵器を彼女に見せる。ゆかりは呆れと驚きの入り交じった表情を見せてから、不動明王が掘られていたのを見て、一つ頷いた。
「良いわ。貴方と合わせて動きましょう。アヤメは護衛をお願いね」
「何時も通りの流れ、でしょうか。では、その後は、皆様の援護に回りましょう」
「ええ、お願いするわ」
 頼られるのが嬉しい様で、アヤメは満面の笑顔で了承の意を示した。
(生きながら死んだ亡者の群れ、即ち、抜き身の刃であるならば、その剣閃を読むことは容易い。導線は用意され、惑いながらも出口に逝く……か)
 捨て身、つまり一の太刀を疑わず、と有れば、示現流の気炎だと解釈出来る。猿叫を張り上げ、自身を鼓舞しながら、大上段から一刀のみで切り捨てる。そういう類であれば、此方は理に従い、動くのみだと、樫倉・巽(雪下の志・f04347)は結論付ける。
「一つ、出口の先に要望が有る、聞いてくれるか?」
 緑鱗の着流しが、二人の会話に、小さく爬虫類の口を開く。この場所が浮遊し、且つ城であるならば、断崖か川、もしくは水堀が有る筈だ、と。
「回り込みを防ぐ算段かしら」
 ゆかりの言葉に、巽は静かに頷いた。
「迎え撃つなら、私も其方に」
 佩いた超重量の大剣の塚を強く握り、瘴気と狂信の輪唱に、後退りたがる心を、彼に支えて貰う。視線を落とし、黒剣に目をやると、頬を伝う冷や汗が自ずと退いていく。春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は心中で感謝を淡く述べ、迎撃に心を決める。
「迷宮内の誘導……私に案があります。引き受けましょう」
 有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)が感情を宿さない人形の様な風体の侭、僅かに白亜の口唇を動かした。
「一人では、些か心許ないでしょう、僭越ながら、私も同行致します」
 紋章の刻まれた紫の札を1枚手に取り、何やら頷いて、仮面の男、ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は夏介に同行を申し出る。
「……占いですか?」
「ええ。これでも結構、当たるんですよ……?」
 人形に填め込まれた宝石の様に、動かぬ赤瞳に、仮面の下から覗く、生気の無い赤瞳が柔和な笑みを形作ると、抜き出された1枚が、独りでに札の束へ戻って行く。
 狂信の輪唱が徐々に近付き、あらゆる負の感情に、取り巻く死霊に取り憑かれた影馬の、悲鳴の如き嘶きが、夜闇を引き裂いた。馬蹄が地面を怒号の如く打ち鳴らし、実体の無い筈のそれが、土煙を巻き上げて。波濤の如く猟兵に向かい、押し寄せる。

●灰色王子の虫籠迷宮(ガラスのラビリンス)
「本当に分かり易いですね」
「代わりに速いぞ、のんびりしとる暇は無さそうじゃ」
 一先ずの迷宮図を他の猟兵に渡し、以降の連絡は通信用の符は即興でゆかりが仕上げた。音のする方向を、灰色の瞳で、のんびりと確認し、聖痕を人差し指でなぞる。
「オン、カカカ、ビサンマエイ、ソワカ」
 少しだけ面倒そうに、軽快な拍子で、歌うように真言を繰り返し、口遊む。、1度目で宵闇に映し出された暗褐色の地面が透明な硝子に変わり、二度目で硝子の障壁が立ち上がる。三度の拍子で月下に蓋をして、4度目に、間近に迫った影馬を、硝子の障壁が阻み、迷宮へと閉じ込める。
「はい、彼等には後で残念賞を進呈したいと思います」
 自身も一応、出口の中に足を踏み入れ、迷宮を何時でも改変出来る様に、のんびりと身構え、仕事はこなしたと言わんばかり、提げた虫籠の住人に餌をやる。住民はお気に入りのクワガタか、それとも別か。
 隔てられた影馬の群体は、藻掻き苦しみ、黒紅の靄を撒き散らしながら、細い迷宮通路のあちこちに身体をぶつけ、群れにすら気遣う事無く、その身をぶつけ合いながら絶望を硝子に当て擦り、植え付ける。砕けた端から、粘性の液体に似た思念が、曇りのない硝子の迷宮に黒い斑点を残す。鏡にアリスの絶望の念が染み込み、絶望の記憶を鮮明に映し出す。断頭台で首を落とされた者、生きながらオウガに食われた者、大量のオウガに追われ続ける者、目前で巡り会った友人を殺された者、ダイジェストの様に狂々と、場面が移り変わる。終幕は何れも、クルセイダーへの狂信を呟き始め、失踪の度、一帯に狂信の爪痕を残す。

●子年に木星(凶兆の太歳星君)
「あの虫籠には、どなたがいらっしゃっていたのか、少し気になりません?」
 迷宮内の隔離された一室で、主の様子を見守りながら、アヤメが問い掛けると、大きな紫色の瞳で睨み付けられる。無言で有りながら、何となく言わんとする事が伝わって来たので、アヤメはやり取りに満足したように、親指を立てた。
 溜息を吐く様に目を伏せながら、ゆかりは白一色の術符を12方に展開し、子の方位から時計回りに霊力を注いで行く。木生火から、火生土を経て金生水、水生木と一週、相生を霊力光で描き、相克の五芒星を描く。
「地の底巡る大いなる厄災の神、太歳星君よ。我が願いに応え、怨敵を調伏せしめんがためこの地へと出でまし給え! 疾!」
 俄に汗を滲ませながら、術式を解放すると、見事な髭を蓄え、官服を纏った木星の神が、尊大に、彼女へと問い掛けた。
「娘、何故、予をこの様な形で呼び出した? 気に入る答えであれば、今宵三つだけ、汝の願いを叶えよう」
 解答を伺うように目を閉じ、太歳星君は持った羽扇で口元を数度扇ぐ。
「畏れ多くも、この様な形で謁見の機会を下さり、有難う御座います。不本意だと言うのも承知致します。太歳星君様の畏れが、未だ未熟な術師である私に、必要なのです。どうか、そのお姿で、力をお貸し下さい」
 凶兆として恐れられた一面を特に強調する為に、悪魔という体で呼び出したことを、ゆかりは正座し、目を閉じ、丁寧に頭を下げて、謝罪をしてから、訳を語る。
「……良かろう、娘、面を上げよ。違わず、其方の術式は今の謝罪と同じく真摯な物あった。許す。願いを申してみよ」
「有難う御座います」
 髭を撫でる太歳星君に、面を上げ、先ずは、影馬の群体に凶兆の呪詛を振り撒くように願う。
「まず一つ、確かに聞き届けた。その願い、違い無く叶えて見せよう」
 交渉の成立と同時に桧へ通信、迷宮の障壁を退かせ、アヤメに視線で合流を促すと、正座からしなやかな所作で立ち上がり、迷宮内の二人の居る方へ向かう。太歳星君はその場の硝子を暫し見つめると、髭を数度撫で、手を当て2,3言程、呪詛を呟く。鏡の迷宮の呪詛の残滓を追跡し、その場からの逆探知を経て、遠間に居る影馬の群体の進路に呪詛を張る。
「異国の術式に見える。中々に愉快な余興だと、言っておこう」
 張られた呪詛を踏み、或いは浴びた影馬の群体が、次々とその場で転倒しては立ち上がろうと藻掻く。立ち上がる事すら成功する事は希で、構成する四肢が立ち上がりに失敗し、あらぬ方向に力が掛かり、あっさりと砕け折れる。瘴気による修復を試みるも、過剰供給を起こし、身体が膨れ、水風船の様な音を立てて、影色の液体を撒き散らして弾けた。四散した影が他の馬に追い縋り、取り憑き、延命を繰り返し、痛苦と苦悶を増幅させ、それも構わず、迷宮を邁進し続ける。
「哀れよのう」
 その一切を感じ取ったのか、太歳星君は哀れみながらも、愉快だと唇を釣り上げた。

●フォーチュン・ラビット・ハート
「相手は冷静な判断が出来ない……情報通りですね。利用して行きましょう」
 白兎に赤い華が遇われた懐中時計が、心音の様に規則正しく時を刻む。他の音が存在しない硝子の迷宮の中で、緑の髪と赤の瞳、異物が映り込んだ事と、耳障りな音に影馬の群体が夏介という猟兵を認識し、押し潰そうと、黒紅の靄をまき散らしながら、痛苦に藻掻くように、身体を振り乱し、邁進する。
「これは……見ただけでアリスの怨嗟が伝わってきます……」
 アリスの絶望を解放することに意味が無いと知りながらも、放っておけないと、同行したルムルは1枚のアルカナを手に取る。狂気の染み込んだアルカナが、使用者の意思に応え、脈動する。
「蜥蜴の悪魔よ、砕けない想いの強さを今、形と成せ!」
 引き込み、呼び出された蜥蜴の悪魔がぐっぐっと喉を鳴らし、自身の紫水晶の鱗でルムルの身体を覆う。敢えて前に出れば、藻掻き苦しむ影馬が吐き出した紅靄を受け、その凄まじい記憶と感情に、口元を苦悶に歪めながら、向き合う。生きたまま踊り食われる欲望、信じていた住民に、オーガの絶対的な力に圧倒され裏切られた絶望、訳も分からぬまま、この地に召喚され、何をするでもなく、オウガに捕獲され、玩具を壊すように手足を引き千切られ、目前で咀嚼するのを見せ付けられる絶望。肥えた肉が好みだと何ヶ月も幽閉され、暇潰しに脅迫され続け、白雉の様にうわごとを繰り返す様になったアリス。何れも人格が崩壊しても可笑しくない物ばかりだ。死後、彼等の痛苦を和らげたと思しき、クルセイダーに狂信を抱き、経典の一節を延々と繰り返す。
 全てに胸を衝かれながらも、その濃度によって紫水晶の鱗は急速に成長し、ルムルの身体を分厚く覆い、水晶の全身甲冑へと変貌する。先頭の数体を抑え込む様に、アルカナ十数枚程を操作し、投擲する。剃刀の様な鋭利さを以て、影馬の身体を削ぎ、ラケルタが爛々と目を輝かせ、込められた負の感情を吸い取り、構成する力そのものを吸収していく。同時に、アリスの抱えた絶望と記憶がルムルに容赦無く流れ込む。痛みに似た感覚が本体の仮面を苛み、思わず顔を顰め、唇を噛む。水晶甲冑の輝きが増し、その力を増強する。然し、まだだ、まだだとルムル。
「教えて下さい。私に……!」
 彼等の中身を分解し、内面をより厚く、詳細に語って欲しい。死して尚、生きたがるのならば、その生きた轍を覗き見る。生きる人間こそが愛おしいと、エゴを糧に、滝のように流れてくる密度の高い絶望を、紫水晶に変えながら受け止める。次第に、肥大した非実体の結晶が、不透明が混じる黒紫色の水晶として物質化し、硝子の迷宮に甲高い音を立てて、零れ落ちて行く。
「十分ではないです、か?」
 迫る影馬を一瞥し、ルムルの様子を伺い、夏介は痛ましさに思わず、苦く声を漏らした。ルムルに攻撃を誘導しつつ、夏介は隙を見て影馬の頭を処刑人の剣で切り落とし、影馬の注意を引きながら、変化する迷宮内を通信で変化を把握し、駆け抜ける。ゆかりからの通信を機に仕掛ける時期を決める。張られた凶兆の罠は視覚的に分かり易い。途中、斜め向かいに食いつかれそうな所まで縋られながらも、感情を揺らさず、拍子を見計らい、跳躍、互いが互いの喉を食い合う形に持ち込み、身体を宙空で翻し、天井を蹴る。
「紅く染めよ、と女王が言った」
 赤の瞳が怪しく光る。懐に忍ばせた匕首が、白薔薇の花弁に姿を変え、食い合う影馬の周囲に吹き荒れる。血を求める様に影馬の身体を裂き、群体の四肢を容赦なく刈り取って行く。修復を冷静に見極め、食い合う二匹の頭を、蹴った勢いそのままに、一刀で切り落とす。結果も確かめず、僅かに鈍った群体の速度を見切り、足を止めずに血震い。程なく、張られた罠に掛かり、動作が拘束された影馬の首を、無慈悲に、刈り取って行く。端から修復が始まるも、幾つかは呪詛に阻まれ、弾け散り、他の馬に取り憑いていく。
「……厄介ですね」
「お手伝い致しますね」
「……有難う御座います」
 合流したアヤメが数十の分身体で影馬に苦無を振るい、ルムルもアルカナを放ち、3人で総体を削り取り、永らえた影馬を更に出口に向かって誘導していく。

●砲火界
「こっちも合流完了ですね。皆さんから通信ですよ。もうじきだそうで」
 夏介達の誘導の隙に、ゆかりは作られた抜け道から出口へと先回り、残る霊力で次の術式を組み上げる。残る霊力は、そう多くない分、彼女との協力でどうにかという所だ。
「ノウマク、サラバタタ、ギャテイビャク、サラバボッケイビャク、サラバタタラタ、センダマカロシャダ、ケンギャキギャキ、サラバビギナン、ウンタラタ、カンマン」
 浮遊城の断崖に、五芒星と共に早口で真言が紡がれ、鉄の近代兵器に彫られた不動明王に、火気を強く帯びた霊力が集約し、射出口にゆかりの霊符が霊力で五芒星を描き、滞空する。霊力の欠乏に視界が眩み、気を失いそうになるのを、どうにか堪えた。
(アヤメが来るまで……我慢ね)
 荒い息を吐きながら、どうにか意識を保つ。稔が起きた真言と現象に、合点が行ったと、ぽんと手を叩き、砲弾を込め、屈んで発射体制を整える。誘導を買って出た3人が迷宮を抜けると共に、引き金に指を軽く掛け、怒濤の如く押し寄せる影馬の群体に向け、掛けた指に力を掛ける。
 砲弾燃料が点火、肩に伝う反動が稔の上半身を軽く揺らす。五芒星とゆかりの術式で付加の掛かった砲弾が、一瞬で最高速に到達し、影馬の群体へと突き進み、着弾する。爆発音と黒煙が、黒灰色の倶利迦羅龍へと転身し、猛り吠えながら、影馬の不浄を端から食い散らす。物理的な熱気は無く、不浄が触れた端から発火し、痛苦に苦しむ怨念その物を根本から焼き切って行く。
「……なんでもかんでもそれて解決しようとするのはどうかと思うぞ」
「爆発音のせいで何言ってるか聞こえませんね!」
 黒猫とやり取りをする合間、ゆかりを合流したアヤメが抱えている間にも、修復と再生を繰り返し、群再び形作られた小規模な影馬の軍勢が怨嗟を上げ、断崖に展開する。総体はかなり減少したのか、今までと比べれば、随分と小規模だ。ゆらりと、一つの影がゆっくりと前へ出る。

●断崖に砂塵が渡る
「心を一振りの刃とす」
 後に残るは剣の閃きと、何れかの亡骸のみ。猛進を始める群体に、藍染めの着流しに佩いた愛刀に緩く手を掛け、狂奔疾走する影馬の速度を見切り、殿の一刀に目標を定め、後の先気味に、入る。砂塵を渡る風の音と共に、目視出来ぬ早抜きからの横薙ぎが、胴体を真っ向から、裂いて斬る。抜くのがそれなら、納めるも目には留まらず。断崖から向き直り、八方を群体の一部に囲まれ、狂う眼に何処吹く風と、爬虫類の黄色の瞳は揺るがず、体現するように、無形の構えを崩さない。技が心を映す鏡であるならば、是は正しく、一振りの刃と言って良いだろう。間合いに捉えれば、心を残さず、悉くを切り捨てる。
 次の取り掛かりは巽にとっては長く、常人であれば瞬きする程度の時間だった。暴れ馬と成り、狂い嘶きながら八方同時に仕掛けられるのを、正面に踏み入り、首を切り落とす。納刀しつつ身体を強引に捻って振り向き、ぶつかり、揉み合いながら襲来する7頭の重心をを捉え、効率的に四肢を削ぐ。鈴鳴りを置き去りにし、纏めて縺れながら転げる7頭の首を跳ね飛ばす。臆すること無く、修復の終わった一頭が、背後から噛み付こうと迫るのを、上顎と下顎を分かつ様に、振り向きざまの回転を加え、刃を斬り入れ、滑らせる。口を起点に頭が上下に裂かれ、巽は感触の無さを得心した。
「骨が無く、硬質化は必要な部分のみ。然し、理には逆らえず、と言った所だな」
 事実を確認し、独りごちる。命尽きるまで果たし合おうと、渡る砂塵が人の足跡を消していく様に、刀が納められる。

●緋色の翼
 分散した影馬から伝わって来る負の感情一歳に、結希は深く息を吸う。覚悟は決めた。後退りはもうしない。ただ、誰かの痛苦が痛ましく、狂い駆ける影馬を凌ぎながら、感情を吐き出していく。、
「……私も、怖いものが沢山あるんだ」
 一言の後、襲来する影馬を黒の大剣で捌き、四肢を浅く裂く。別の方向から突進し、周囲に黒色の球体を撒き散らす。伝播する恐怖と絶望の記憶に、少しの間、目を瞑る。
「こうやって戦うのもそうやけど、私が一番怖いのは、人と関わる事」
 彼等の感じる恐怖に比べたら、それでも、共感を得るには足りないのかもしれない。それでも、それが怖い理由を、そこに存在する魂へと語りかける。
「相手の本当の想いなんてわからないから、いつか裏切られるかも知れない」
 感情を伝える手段が言葉と表情でしか無いのなら、幾らでも取り繕う事が出来る。言葉を修飾し、演技し、相手の心を覗き見る様に、臨む言葉を与えれば、晴れて嘘の信頼が出来上がる。信じ込んだ後に、相手の望む物を与えたら、そこで別れを告げられる、或いは、些細な嫉妬心が大きな利の獲得を妨げようと心無い言葉を浴びせる事も、あるだろう。
「好きになった人に、2度と、会えなくなるかもしれない」
 それでも、そんな事よりも、今生の別れが辛いから、人と関わりたくないのだと、ぐっと堪えるような表情で、噛み付きを黒剣で受け止め、蹴撃で引き剥がす。
「それが、本当に怖い。だから私は……」
 withと名付けた、この漆黒の大剣を選んだのだ。何よりも信じているし、誰よりも愛している。一緒ならばと、彼女を戦場に奮い立たせる自己暗示を深めていく。
「どんな恐怖にも負けたりしない。『最強の私』で居られる」
 最後のキーワード、降り掛かるありとあらゆる感情を撥ね除ける強烈な自己暗示、理想の姿を作り上げる。燃え盛る黄金色の焔が一対の翼を作り上げ、漆黒の大剣の縁が白く染め上げられる。
 何度目か分からない飛び掛かりを見切る。
「確かに早いけど……『with』と私の方がもっと早い」
 蒸気魔導機構を励起。脚力を強化し、拍子を合わせ、足刀蹴りで吹き飛ばす。間髪入れずにwithを上段に構え、前方に飛翔、深まった自己暗示で強化された怪力で超重量の大剣を力任せに叩き付ける。水袋が爆ぜるように、黒色の液体が辺りに散ると、残らず黄金色の翼が発する燐光が浄化し、焼き払い、構うこと無く、胴を丸ごと逆風に切り上げる、半ばから裂け、後ろ足周辺を残し地面に沈み、ずるずると他の固体に縋っていく。

●終幕
 合流した3人も違い無く包囲され、アヤメは分身を利用し、早々にゆかりを抱え、稔と共に一度、迷宮に待避する。すぐさま稔が迷宮を作り替え、出口を別の場所に出現させる。
 夏介は身軽さを活かし、突進を避けながら、ルムルの都合の良い位置に誘導し、十分以上に強化された紫水晶のフルスケイルメイルの特徴を活かし、影馬の四肢を短剣の如く扱い、的確に削ぐ。吸収される生命力が、影馬の自己修復能力を鈍らせ、動きの止まった所に、夏介の剣が首を無慈悲に切り落とす。
「……サヨナラの時間です。もうすぐ、楽になれますから」
 感情を意図的に殺される訓練と、感情によってこの様に苦しみ、破綻する事と、果たして何方が楽なのだろうかと、取り留めの無い考えが頭を過る。過るだけで、葛藤も迷いも無く、これのみが、この存在の救済だと、何時も通り感情を殺して、処刑人の剣を振り下ろす。
 遠間から流れてくる軍馬を、ルムルがアルカナで牽制し、悲鳴を上げて動きが鈍れば、切っ先の無い剣が首を飛ばす。猟兵達が、それを繰り返し、次第に再生が鈍り、頭数が明確に減少する。そうして最後の一体に、withの一撃が重く叩き付けられた。
 最後まで、狂信の言葉を吐き続け、アルプトラオムは消滅する。
 アリス達のラビリンスでの人生を封じ込め、物質化した黒紫色の水晶が、硝子の迷宮が解かれたのと同時、原城の一角に鏤められた。ルムルは一つを拾い上げ、軽く撫でた。他の猟兵は覗き込んだ後、各々が思う様に扱った。
 猟兵達は、それぞれの行動と思考を終え、戦場を後にした。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年08月05日
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