迷宮災厄戦④〜ウルフ・ハント
●咆哮
彼女はアリスだった。しかし力への執着が彼女を変えた。
『ええ、矢張り……』
目の前には屍山血河――全て彼女がやった事。暴虐こそ我が生業と、遠くに輝く月を見て狼が吼える。何度も、何度も。
『矢張り……暴力は全てを解決する……フフッ』
「というとてもヤバい予知を視た」
グリモアベースの会議室、虻須・志郎(第四の蜘蛛・f00103)は溜め息を吐いて、スクリーンに映し出された雑多な情報を、順を追って説明する。
「敵はアリーチェ・ネラ。力を暴虐に使うことに快楽を覚えオウガになったアリス」
見た目は可愛らしい人狼めいた少女が大写しになる。中々強大な戦闘力を誇る、見た目に反して凶悪なオブリビオンだ。
「これがな……厄介な力を手に入れて、暴れようとしてるらしい」
続けて映し出されたのは戦場の情報。『PB王国』と書かれたそこは、ユーベルコードにも匹敵する特殊な事情があった。
「この不思議の国にやってきた『愉快な仲間』は、身長が2倍になって、しかも『背中にチャックのついたきぐるみ化』してしまうんだ」
着ぐるみ化――つまり開けば中の人がいるアレになるのだ。
「このチャックを開いて誰かが入り込むと、乗り込んだ奴の戦闘力が数倍にパワーアップしてしまうんだ。その力を、このオウガは手に入れた」
だが、中の人などいない。中の人になるのは自分自身――故にオウガは、オブリビオンは着ぐるみ化した愉快な仲間に入り込んで、圧倒的な暴虐の力を手に入れられたのだ。スクリーンにはでかでかと、闇色の人狼を模した巨大な着ぐるみの姿が映っていた。
「奴を倒して欲しい。放っておいたらそこら中が血の海になっちまう」
そりゃそうだろう、と誰かが呟く。だが敵は強化されている――どうすればいいと質問が飛んだ。その言葉に志郎はスクリーンの映像を変えて、真剣な表情で説明を続ける。
「俺達も『愉快な仲間』の力を借りて、パワーアップして戦えばいい。幸い色んな着ぐるみの仲間がいるから、自分に合った奴を探すのがいいだろう」
つまり猟兵自身が中の人になればいいのだ。そうすれば圧倒的な力を手に入れて、愉快な仲間と共に戦う事が出来るのだ。
「全てのダメージは『着ている人』に通るから、きぐるみはダメージを受けない。だから存分に戦ってくれ」
着ている人――中の人がダメージを受けるから、着ぐるみ化した愉快な仲間は無事だという事。無論、愉快な仲間の猟兵も同じ事になる。誰かと連携して戦えば、更に力を発揮する事が出来るだろう。
「それじゃあ行くぞ。今回の戦争は厄介な事ばかりだ……皆の力を信じてるぜ」
蜘蛛の巣のようなグリモアが赤黒く輝いて、不思議な香気に満ちた世界と繋がる。
甘い果物の香りと、血の臭い。最早のんびりしている時間は無い。
ブラツ
ブラツです。このシナリオは1フラグメントで完結し、
「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、
特殊な戦争シナリオとなります。
本シナリオはアリスラビリンスのとある不思議の国において、
力を得て暴れようとしているオブリビオンの討伐が目的です。
以下の点に注意する事で、非常に有利な状況になります。
●プレイングボーナス……『きぐるみ愉快な仲間』の許可を得て、乗り込んで戦う。
以上です。着ぐるみの愉快な仲間は怪獣、怪人、超人、ロボットなど、
愉快な仲間の定義に当てはめられれば何でもいいです。
指定があれば可能な限りそれに沿ってシナリオを進めますし、
無ければこちらで良きように手配させて貰います。
但し『着ぐるみである事』を留意して下さいませ。
●今回の注意事項
幕間公開後、プレイングを募集します。
アドリブや連携希望の方は文頭に●とご記載下さい。
単独描写を希望の方は文頭に△とご記載下さい。
同時描写希望時は何がしかの識別子の記載をお願いしますが、
なるべく早めにシナリオを進めたいと思いますので、
余り大人数の連携は採用が難しくなる場合がありますのでご注意ください。
それでは、よろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『アリーチェ・ネラ』
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POW : 暴虐の魔狼
【魔狼形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【立場であると自覚させるような威圧感】を放ち続ける。
SPD : 暴君の狩猟場
自身の【敵対する相手の戦闘力】を代償に、【配下のオウガや無理やり従えているアリス】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【アリーチェ・ネラを愉しませるやり方】で戦う。
WIZ : 暴虐王の呪い
自身からレベルm半径内の無機物を【呪い、触れた相手を無力な姿(幼子や動物)】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リカルド・マスケラス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
虎鶫・夕映
なるほど…いや着ぐるみ種族を着て戦うとは
中身がないのかどうなっているのか非常に気にはなるもののそれは後でいいからとりあえず協力者を募って着せていただこう。
特に指定はしないけどなるだけ動きやすいタイプの方がいいかな
問題は着ぐるみ着たらメガリス使えないことだけど…UCで強化してカバーするしかないよねぇこれ
あとはどれだけ同調できるかかな…
あと、自分が弱いという自覚はそれしかない(という言うか基本へっぽこなので)からあまり効果はないかなぁ
●魔の狼を討て!
「なるほど……いや着ぐるみ種族を着て戦うとは」
それはいいのか色々な意味で。虎鶫・夕映(サルトラヘビ・f28528)は想像だにしなかった事態に面食らいながらも、うっそうと茂る木立を抜ける。
「――とりあえず協力者を募って着せていただこう」
中身がないのかどうなっているのか非常に気にはなるものの、それは後でいい。今は眼前の危機を乗り越えなければ、恐るべき血の海が広がるというのだから。そんな事はさせない――同じ思いの愉快な仲間を探し、力を借りよう。出来るだけ動きやすい奴。うん、先ずはそこだ。流石に下半身がキャタピラとか片腕がドリルとか三つの形態に分離合体変形とか常軌を逸したあれやこれやは望まない。シンプルに、戦いやすい仲間を――それは多分、相手も同じ事だろうと胸に秘めて。
『……ククク、この力』
薄暗い森の中、片手を一振り――たったそれだけで美味し気た木々が吹き飛ぶ。闇色の魔狼は禍々しい斧槍を手に我が物顔でゆっくりと歩を進める。
『この暴力があれば、世界は』
「そんなこと、させませんよ」
不意に光条が魔狼を襲う。跳ねた火花が禍々しい闇色の輪郭を露わにして、間一髪避けられた光の束が足元の地形を粉々に打ち砕いていた。
『何者だ……』
「正義の味方、といった所でしょうか」
来たぞ、我らのと言わんばかりに眩い光に包まれたシンプルなシルエット――銀色の表皮はまるで魔狼と対を成す様な神々しさに満ちていた。
『成程、同じ力か――面白い!』
瞬間、跳ねた魔狼が烈風と共に銀色の戦士へ――夕映えの元へ一気に間合いを詰める。
「面白いで済みませんよ。この力は」
凄いんだから。飛び掛かる魔狼の一撃を強靭な胸で受け止めて、そのまま返す刃の足刀が首筋に凄まじき一撃を放つ。
『な……馬鹿な!?』
「馬鹿はあなたですよ。さあっ!」
吹き飛ばされた魔狼を今度は夕映えが追い、左ストレートからのコンビネーション――無数の拳の乱打から、仕上げに放たれた光刃が魔狼の表皮を問答無用で抉り切る。
『そんな、たかが愉快な仲間の分際で――』
「それだけじゃあありません」
確かに、一人一人は弱いかもしれない。だが夕映えの超常は、そんな牙無き者達の祈り。その祈りが束となればあり得ない奇跡すら生み出す事が容易なのは、猟兵の戦いならばもはや常識!
「その力、お借りします!」
『シャアッ!』
祈りを一身に受けた銀色の戦士は叫びと共に、その身に七色の光を滾らせて再び凄まじき光条を放つ。地形ごと吹き飛ばす必殺の一撃だ――直撃すれば、魔狼と言えどただでは済まない。
「一人で暴れるあなたと一緒にしないでもらいたい……ですね!」
己を奮い立たせ、弱気を押し殺して、恐怖を乗り越えて――放たれた奇跡の一撃は遂に魔狼の胸元へと辿り着く。それは大瀑布の様に魔狼を彼方へと押し飛ばし、遅れて聞こえた大地が抉れる音と共に世界を極彩色に塗り替えた。決して正義は破れない。二つの心が重なって放たれた超常の一撃は、有無を言わさず歪んだ暗黒に鉄槌を下したのだった。
成功
🔵🔵🔴
マグダレナ・クールー
人狼の着ぐるみ、ですか。童話のように、お腹に石を詰めたいものですね
どなたか、わたくしに力を貸してくださいませんか?
わたくしはあの怖い狼を退治することができます。しかし、それにはあなた方の協力が不可欠なのです
…………思っていたよりも、動きづらいですね。それに、この手では武器を持つのは……滑りますね?!
《ギチギチニ。ウゴケナイカ!?》
リィーは引っ込んでいてください! この着ぐるみは一人用です!
着ぐるみさん、なにか武器をお持ちではありませんか!
頭を使えと。……ず、頭突きですかね!?
着ぐるみという鎧を無視して、本体に貫通するようにオウガへ頭を叩き込ます!
弱い立場の者から受ける暴力は、さぞ不快でしょう!
●狼なんて怖くない
「人狼の着ぐるみ、ですか。童話のように、お腹に石を詰めたいものですね」
いの一番で処刑方法を思いつくあたり、猟兵とはかくも恐ろしい存在――マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は強烈な精神を発露して、強者の輪郭を問答無用で露わにする。
「どなたか、わたくしに力を貸してくださいませんか?」
『お腹に石……』
『そんな恐ろし』
「あなたいい身体してますね一緒に戦いませんか?」
ヒィ、と後ずさる温厚そうなマッスル風着ぐるみに詰め寄って、マグダレナは静かに語り掛ける。
「わたくしはあの怖い狼を退治することができます。しかし、それにはあなた方の協力が不可欠なのです」
そう、目には目を、歯には歯を、暴力には暴力を――確実に手を下すには、最早形振り構ってなどいられない。
「お願いします、世界の為に」
『……分かり申した』
誠実の中に孕んだ狂気――だがそれこそ正義の本質、かもしれない。そして二つの影は重なった。正義を執行する為に。
『全く、何という……』
瓦礫の中から身を起こし、魔狼は辺りを伺った。随分と遠くへ飛ばされたがまあ、この姿でいられるという事は未だ不思議な国の中なのだろう。ならばさっさと暴力を――刹那、岩が跳んで来た。
『な、危ないじゃない!?』
「ははは、失敬」
それはマグダレナが投げ飛ばした巨岩。身の丈以上の質量を、力を合わせたマッスルな着ぐるみ戦士と共に投げ放ったのだ。余りにも唐突な奇襲に魔狼が面食らったのも無理はない。
「大分正気が抉られてるみたいですね。暴力はどうしました?」
『言われ……なくても!』
煽る様に言葉を続けるマグダレナへ烈風と共に飛び掛かる魔狼。その挙動を一瞬たりとも見逃さず、マグダレナはその攻撃をがっぷり四つで受け止めた。
《ギチギチニ。ウゴケナイカ!?》
「リィーは引っ込んでいてください! この着ぐるみは一人用です!」
ストロングスタイルにはストロングスタイルを。大丈夫見た目も能力も分かり易い分私の勝機はこの正気と共にある。しかしバタバタとわめく毛蟹の様なオウガが――リィー・アルが事あるごとにやかましい。だがリィーの言う通り動きにくいのは確か。武器は持ちにくいし、相手の拳を受け止めて握り返すのが精一杯……こうなったら、とマグダレナの脳裏に閃光が走る。
「着ぐるみさん、何かいい方法は……頭ですか、頭突きですか!?」
『いやまだ何も言ってない』
『おいバカ止めろ』
《セマイ! セマイ!》
組んだ腕をぐるりと下方へ強引に捻りこんで、露わになった上半身――禍々しい狼の頭部に狙いを定める。剥き出しなのは自分も一緒、だがピンチはチャンスに他ならないのだ!
「こうなれば止むを得ません……ですが!」
ぐい、と握る手に力を籠めて。思い切り敵を拘束したマグダレナは意を決し、必殺の威力を籠めて首を大きく後ろに振り被る。
「弱い立場の者から受ける暴力は、さぞ不快でしょう!」
『止めろと言ってるだァーッ!?』
一閃――互いの視界に星が落ちる。ダメージは素通りだがマグダレナの異能は着ぐるみの表皮すら貫いて届く狂気の産物。物理的に正気度を抉られた魔狼は最早、酩酊し千鳥足でその場を後にする他なかった。
「1、2、3……私達の勝利ですね!」
そしてそれはマグダレナも同じ。フラフラと片手で頭を押さえながら、空いた手を高々と天に掲げる。尋常の暴力が狂気を孕んだ正義に敵う訳など、元より無かったのだ。
成功
🔵🔵🔴
ニコーリア・ビクティムロール
【アドリブOK】
僕もキミと同じような愉快な仲間だけれど
果たしてキミに入ってもよいのかな?
【ブリキの木こりのような見た目の仲間にきぐるみとなって入る】
エキストラのみんなと一緒に演劇を演じながら
戦闘を仕掛けに行こう。
舞台劇のような華麗な動きと
エキストラのみんなでも多少の戦いができるようになるはず。
これで全力で戦おう。
なにか武器を持っていればそれを振り回して戦うことにするよ。
●復讐するは我にあり
「僕もキミと同じような愉快な仲間だけれど、果たしてキミに入ってもよいのかな?」
ニコーリア・ビクティムロール(キャスト「被害者A」・f19336)は戸惑っていた。この国は『愉快な仲間』の身長が二倍になりチャックが生える――それは自身も一緒だった。
「大丈夫、痛いのは僕だからね――だから」
だが彼女は猟兵、ただ大きくなるだけではない――自らの意思で、強大になったその力を振るう事が出来るし、何より彼女は演者だ。
「だから、よかったら力を貸してほしい」
何者にもなれるし、何者でもない。故にどのような『愉快な仲間』にもなれるのだ、彼女なら。
「だから果たそう、僕達の世界を取り戻す為に」
彼女ならきっと、物語の主役も果たせる。誰よりも世界を知っているのだから。
『おのれ……次から次へと……』
先の戦いのダメージが抜けて、魔狼の意識がようやく明瞭になる。前の戦いでは思いもよらぬ奇襲を受けたが次はこうはいかないぞ、と息巻いて。しっかりした足取りで月光冴える森の中をそろり、そろりと進んでいた。
「さあさお立合い――」
不意に涼やかな声が魔狼の耳に入る。少女の様な、老女の様な、あたかもこの世の外側から聞こえる様な不思議な声が。
「ここに愛を忘れた悲しきブリキの人形が一つ――」
がらん、と長大な木剣を手にした巨躯が――悠に4mはあるだろうか――不気味な影と共に魔狼の前へと姿を現す。それはブリキの人形めいた、屈強な男の姿(シルエット)。
「立ち塞がるは、愛無き狼、力に飢えた哀れな存在(モノ)」
『何だ、貴様……誰だ、その声は!?』
芝居がかった前口上――全てニコーリアの成すが儘。ブリキの中で淡々と台本を読み上げる様に、一言一言が魔狼を精神的に追い詰める。
「それでは始まる一世一代の大勝負。願いましてはこの男に幸多からんことを」
同時にうっそうと茂った木々が姿を変えて、立ちどころに神殿めいた古戦場の風景が現出する。それはニコーリアの超常、姿なきエキストラが舞台を整え役者を迎えたのだ。
『その手で幾つの命を喰らったか』
そして歌が聞こえる。呼び出されたエキストラはまるで歌劇の様に勇壮な呪いの歌を紡ぎ上げ、その調べに乗り巨大なブリキの男は果敢に魔狼へ立ち向かった。
『馬鹿め、そんな形では!』
瞬間、淀んだ風が辺りを支配した。魔狼の超常――無機物を呪い、触れたモノを無力な姿へと変える悪魔の風。
『その足で幾つの命を踏み躙ったか』
その風が荒れる度に、ニコーリアが呼び出したエキストラ達が塵芥の様に吹き飛ばされる。くるりと回って舞台の袖へ――一人一人が退場する度、勇壮な歌が徐々にその音を消していき、やがて風の音が歌声を飲み込んでしまう。
『許されざるは、たった一つ――』
しかし、それでも――それこそが、舞台の最高潮。ブリキの我が身を軋ませて、振るう木剣が容赦なく魔狼を襲い続ける。圧倒的な膂力の差に抗う事は許されず、魔狼は遂に一歩ずつ、奈落の方へと歩みを向ける。
『目に映らない愛を知らずにここまで来た、罪』
そして音が消えた――歌声も、風の音も、悲鳴も、怒声も、何もかもが無くなった静寂。荒涼とした大地に唯一変わらず映えるのは、天より降り注ぐ月光のみ。
「裁定は下される。月光が証人となろう」
『何が愛だ、何が罪だ。暴力こそが……!』
静かにニコーリアが告げた刹那、大上段に振り上げた木剣の切先が、月光に包まれて姿を隠す。端から見れば角度の問題だろう。だが魔狼にしてみれば、見えざる裁定の鉄槌が――自ら信仰する暴力が自らを下さんと、その威をしたためる姿に恐れ慄く以外、最早成す術が無い。
「さあ、お前の罪を……」
そしてニコーリアが審判を下す。静かな声と共に風が――赤が、世界を覆った。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・ひかる
暴力……心なき力。
それは何かを解決するかもしれませんが、より深い傷や悲しみを生み出します。
……これ以上、放っておくわけにはいきません!
着ぐるみは何でもOK
接敵後即座に、でもこっそりと【風の精霊さん】を発動
410体の不可視の風の精霊さん達を呼び、潜んでいてもらう
当初は精霊銃を用いた射撃戦を行う
獣っぽいので火炎弾を主力に、竜巻弾を合わせて近づかせないように
焦れてコード発動して来たら、対抗手段はありませんのでそのまま受けます
ですがここで伏せていた風の精霊さん達にお願いし、鎌鼬や内部に潜り込んでの本体周辺の真空化等で一斉に仕掛けてもらいます
わたしを無力化した所で、精霊さん達は止まりませんよ!
ツムギ・オーギュスト
●
力こそジャスティス!なるほど一理はありそうだよね!
しかーし!…果たしてこの姿を見てもそう言い切れるでしょうか?
暴力という一言では表しきれない恐怖と混乱を人々に与えるモンスター!
その名は…サメ!サメぐるみ…!
サメちゃんの着ぐるみに乗り込んだら【貴方に風の口づけを】!精霊ちゃんの加護で嵐を巻き起こしちゃえ!
現代のサメとは陸海空あらゆる場所に現れるもの!
呪いの範囲でもなんのその、今のサメちゃんとあたしはどんな環境でも暴れ回れるハイパーシャークなのだ…的な!
力だけじゃ押さえ込めない物がある、動かせない心がある!
ラビリンスの外には知らないこと敵わないものがいっぱいだってことを…嵐と一緒に教えてあげる!
●風よ光よ
「暴力……心なき力。それは何かを解決するかもしれませんが、より深い傷や悲しみを生み出します」
これ以上放っておく訳にはいかないと、荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は静かに森を進む。この世界では大きな着ぐるみとなった『愉快な仲間』が力を貸してくれるらしい。現に先程から。
『キミは凄い力を持ってるね。良かったらボクと契約して』
「間に合ってます」
『世界の危機なんだ! 早くこのジュエルなんとかで』
「大丈夫です」
元は可愛らしい小動物めいた愉快な仲間だったのだろう。それらがおよそ二倍のサイズに巨大化してひかるを勧誘してくる。ぶっちゃけ圧が怖い。精霊に愛された少女は愉快な仲間――世界が生み出した心優しき疑似生物――をも魅了するのだろうか。しかし。
(力を貸してもらえるのは嬉しいけど……何か違う)
敵の手管はある程度見切っているのだ。であれば最も有効な仲間の力を借りたい――そしてひかるは見つけた。この戦いに相応しいであろう、最高の相棒(ともだち)を。
「力こそジャスティス! なるほど一理はありそうだよね!」
血塗れのまま地に伏せた魔狼の前に、ゆらりと怪しい影が近付く。
「しかーし! 果たしてこの姿を見てもそう言い切れるでしょうか?」
『何を……その、姿は……!?』
それはツムギ・オーギュスト(dance légèrement・f19463)――否、超常の海洋生物、大海の覇者、興行収入推定ナンバーワン。全コメが泣くのも無理はない。
「現代のサメとは陸海空あらゆる場所に現れるもの! そして!」
様々な二つ名を持つ最強の生命体、暴力という一言では表しきれない恐怖と混乱を人々に与えるモンスター『サメ』の着ぐるみを纏った最強のツムギ。
「その名もサメぐるみ! 今のサメちゃんとあたしはどんな環境でも暴れ回れるハイパーシャークなのだ!」
血の滴る大顎を開いて、恐怖の代名詞が宙を舞う。否、それこそツムギの超常――風の精霊の加護を受けた彼女はサメの能力をそのままに、立体的な戦闘を展開する超絶モンスターとなったのだ!
『だがサメは所詮サメだ! 陸に上がれば!』
「甘い、甘いよハチミツよりも!」
精霊の加護が巻き起こした嵐が、咄嗟に放たれた魔狼の超常を吹き飛ばす。そのまま勢いに任せて飛び込んだツムギが一噛み、二噛みと魔狼の表皮を食い千切れば、魔狼の中の人――アリーチェ自身を刻み付ける。
「力だけじゃ押さえ込めない物がある、動かせない心がある!」
優雅に空を舞うツムギが、圧倒的な力をもって勝利を宣告する。だが戦いは終わらない――狼の牙は一つでは無いのだ。
『いいや、まだだ! まだ終わらん!』
「いいえ、終わりです」
終わるらしい。突風が――竜巻が悪態を突く魔狼を巻き上げて、空中高くへと放り投げた。それを追う青白い影が、騎士めいたひかるの着ぐるみが火炎弾を放ち追撃の手を緩めない。
『炎だと!? だがその程度で!』
この風で延焼すれば着ぐるみなどただでは済まないだろう。すかさず炎を振り切らんと加速する魔狼を追いかけて、風の様な騎士の着ぐるみも更に己の速度を上げる。しかし。
『馬鹿め。これで……どうだ!』
単調な動きになれば迎撃も容易――狙い通り真っ直ぐに飛び込んできたひかるへと狙い澄まして、魔狼は急制動と共に呪いの超常を送り込む。
「フフ……わたしを無力化した所で、精霊さん達は止まりませんよ!」
そしてそれこそがひかるが待ち望んでいた瞬間。呪われて無力化されたひかるの周囲から、姿を隠して配された無数の風の精霊が一斉に牙を剥く。
『ば、馬鹿な、貴様の力は……!?』
「精霊さん、お願いね」
既に発揮されていた超常は止まる事を知らない。紡がれた風は竜巻に、そして嵐となる。
「ラビリンスの外には知らないこと……敵わないものがいっぱいだってことを、嵐と一緒に教えてあげる!」
全て遅すぎたのだ。風が呼んでいる――それも二つ。超常の風は嵐となって魔狼を捕らえ、サメと騎士を埒外の存在へと昇華する!
「「風の精霊よ、輝け! 嵐の中で!」」
翼を生やした巨大なサメと、まるで鳥の様な姿へと変形した騎士が螺旋を描いて空を舞う。荒れ狂う嵐に捕らわれた魔狼は動く事すらままならず、そして叫ぶ事も叶わない。
『グ……ガガ……!?』
「「精霊二重奏・疾風怒濤!!(エレメンタル・ダブルタイフーン)」」
三つの影が交差して僅か、サメと鳥が高々と天を翔けた。そして地には呪われた魔狼が一つ、力無く落ちていった。悪しき暴力に自由の風を振り切る事など、出来はしないのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
着ぐるみの愉快な仲間か……ふぅむ
《空中戦》の機動力を活かす為にも空を飛べるタイプなら有り難いね。他の要素はアタシの方で合わせるよ
まずは《コミュ力+礼儀作法》で愉快な仲間と打ち解け連携を強固に。
ねぇ、正義の味方に興味はあるかい? ってね
使うUCは【喰魂神域】。魔神の魂が勝手に唱えるいつもの詠唱はヒーローっぽくないから今回はカット!
味方や脅されてるアリスは攻撃対象から除外しつつアタシの方からもオウガにアリーチェ、その攻撃のエネルギーを分解して奪い取っていくよ
敵UCの戦闘力奪取にも魔法陣を通じ術式自体に《ハッキング》して阻害しよう
仕込みが済めば飛翔して本命に肉薄、《早業+怪力》の一撃を叩き込もうか!
●天を越えて
「着ぐるみの愉快な仲間か……ふぅむ」
立ち昇る大小無数の竜巻を見やり、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は空より勇ましき戦いを覗いていた。
「想像以上じゃないか、皆も彼女も」
猟兵も、敵も、埒外の力が彼彼女らに極限のパワーアップを。話はどうやら本当らしい――表面上まるでギャグみたいに煤けた着ぐるみだが、その周囲の地形は尋常ではない程大きなダメージを受けている。強化された力は本物みたいだ。そして程無く、カタリナの視界より魔狼が姿を消した。
「だが、まだ終わってないみたいだ。どうだい?」
そして、足元で羽ばたく蜂のような着ぐるみへ優しく声を掛けるカタリナ。正義の味方に興味はあるかい? と。
「ヒーローらしく、世界を救おうじゃないか」
全ては彼女の、猟兵の使命を果たす為に。ニヤリと口元を歪ませ、カタリナは堂々と宣った。
『おのれ、何度も何度も……だが』
間一髪、嵐の中でボロボロに吹き飛ばされた魔狼はその手から逃れる事に成功し、起死回生のタイミングを伺って着々と準備を進めていた。最早斧槍は取り回しが悪いと新たに禍々しい剣を手にして、自らのダメージを癒すべく無数の眷属――配下のオウガや無理やり従えているアリスを呼び出し、その傷を癒していた。確かに何度も戦っては敗れた。それでも、と力強く天を仰ぐ魔狼。
『最後に、立っていればいい!』
「全く――同感だね!」
不意に涼やかな声が聞こえた。それと共に魔狼の頭上に巨大な光の魔方陣が、甲高い音と共に広がっていく。
『またか――猟兵ッ!』
ガチャリと剣を手に立ち上がり、眷属を一斉に周囲へ放つ魔狼。魔方陣自体はまだ何もしてこない。だが間違いなく誰かいるならば――捕まえさせてこの手で斬り飛ばしてくれよう。
『隠れてないで出てきたらどうだ! 別に照明係という訳でもあるまい!』
「成程、揶揄う元気くらいは戻ったみたいだね!」
再び、凛とした声色が強くなる。否――違う。僅かだが癒えた傷口が開いて、呼び出した眷属の――オウガの動きがやけに鈍くなった。魔方陣だ。あの魔法陣は時間を置いて、徐々に我等の力を蝕んで……!
『こんな、戦い方など……!』
「どうした、もう終わりか?」
返す刃を振るうにも、戦場に広がった魔法陣からの干渉が十全に力を発揮させない。既に、あの魔法陣が発現した時点で勝敗は決まっていたも同然だったのだ。
「それじゃあ本命を叩き込もうか――!」
そして三度風が舞う。それは超常でも精霊でもない。理不尽に抗う為のただ一つの純粋な――暴力。ブンと羽音が空に響いて、いつの間にか魔狼の前に姿を現した着ぐるみの蜂は――カタリナは、手にした槍めいた長物をブンと振り回し、思い切り魔狼へとブチ当てる!
「言ってたろう、暴力が全てを解決するって」
だからそうさせてもらう、と。無数の連打が魔狼に突き刺さり、そして。
「最後くらい、正義の味方らしくあえて言おう。これが止めだ――ッ!」
特大の怪力が、風よりも早い尋常の業が、遂に魔狼を彼方へと吹き飛ばした。
成功
🔵🔵🔴
レナータ・バルダーヌ
中に入れてくれそうな愉快な仲間の方なら、わたしも心当たりがあります。
彼らもこの国に来れば着ぐるみ化するのでしょう。
では早速、謎のゴボウ生物の亜種『愉快なゴボウさん』を呼んで……。
はっ!?よく考えたらゴボウさんはゴボウサイズ、2倍の大きさになっても乗り込めません……!
こうなったら最後の手段、【最後のゴボウさんフィーバー!】です!
ゴボウなので威圧されるまでもなく弱いですけど、この姿でこそできることもあります。
敵の着ぐるみにしがみつき、スリムボディを活かしチャックの隙間に入り込んで、文字通り“お邪魔”しましょう。
味方の攻撃に巻き込まれる可能性はありますけど、【痛みに耐え】るのは得意なので平気です。
●彼方より
「ああ……何か飛んできて……きゃっ!」
ふらふらと不思議の国を散策していたレナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)の前に、空から女の子ならぬ巨大な狼が落ちてきた。それは巨大化した着ぐるみこと魔狼――アリーチェ・ネラ。
『おのれ……何を見てる!』
頭を振って辺りを見渡し、目が合ったレナータを威嚇する魔狼。その行為そのものが既に超常の発露――自らの優位を示す、威圧の顕現だ。だがレナータは怯まない。彼女は決して一人では無いからだ。
「やらせませんよ。愉快な仲間の方なら、わたしも心当たりがあります」
そう……レナータの背後から、ひっそりと『愉快なゴボウさん』――愉快な仲間っぽい様な何かが恐る恐る顔を出した。
「さあ、私を中に――!?」
頑なに、ふるふると頭を振るゴボウさん。確かに微妙に大きくなったような気もするが所詮ゴボウはゴボウ。元より小さすぎるのだ。これでは中へ入る事など出来はしない。
『それで、終わりか?』
「――こうなったら最後の手段です!」
嘲る魔狼を前に、決死の覚悟を秘めた表情でレナータが顔を上げる。ゴボウさんに入れないのならば、自分がゴボウさんになればいい。自身の倍近い体躯の魔狼が相手ならば、こうすれば戦い様はあると――超常を以って自分自身を細長く歪なゴボウの様な、マンドラゴラの形へと変異させる。
『何を、虚仮脅しか!』
確かにただのゴボウとなった自身は決して強い存在ではない。むしろ威圧されるまでも無く弱い。それでも、そんな自身だからこそ出来る事がある。
『そんなもので、どうにか出来るとでも……!』
容赦なく振り下ろされる魔狼の剣をその身で受け止めて、表皮が削られる度に真新しい白い肌が――ゴボウの身が露わになる。だがそれこそがレナータの狙い。我が身を削り、更に細くし、隙間より魔狼の着ぐるみへと潜り込んで――!
『止めろ、入るな貴様、何をする! あ、そこは』
隙間から這い寄ったゴボウは、その本質はマンドラゴラ。そして痛みに耐える事には慣れているレナータが取る行動はただ一つだった。
『止めろと言っている』
「いいえ止めません! あなたがその行いを止めるまでは!」
マンドラゴラを抜けば何が起こるか……それは魂を奮わせる慟哭。密閉空間たる着ぐるみの中でそれは、惨劇は遂に起こった。元の姿を取り戻し、抉られた傷口を押さえてそっとその場を後にするレナータ。その背後では魔狼が泡を吹いて倒れている。至近距離での死の叫びを直に受けたのだ――最早ただでは済まないだろう。
成功
🔵🔵🔴
玉ノ井・狐狛
●
ナリの割におっかねぇ――いや。ソレ(魔狼形態)が本性ってヤツかね。
きぐるみは……そうだな、敵が飛び回るってんなら、飛行系か、すくなくとも跳躍系の能力に長けてるヤツがイイ。(ウサギとかカンガルーとかか?)
で、なんだったか。
弱さを自覚させてくれるんだってな?
あいにくと、アンタにどうこう言われるまでもなく、そんなコトはようく分かってらァ。
こちとら傭兵や用心棒じゃない、ただの遊び人でな。
現に、こうやって小細工(きぐるみ利用)をさせてもらってるくらいだ。
……相手の嘲りや侮りを誘ってUCの出力に転換。
きぐるみとUCでバフれば、あとはシンプルだ。
飛んでるアイツに、体当たりでもかましてやりゃァいい。
メアリー・ベスレム
●
まぁ、あなたメアリにそっくりね
かつて哀れで惨めなアリス
今は力に溺れた獣のオウガ
えぇ、だったら獣の誼で、メアリがあなたを殺してあげる
メアリ、あなたが気になるわ
蒼白い毛並みの大きなあなた
メアリとおんなじ狼のあなた
内臓(なか)はどうなっているのかしら?
ねぇ、メアリをお腹の中に入れてくれる?
蒼白い狼の着ぐるみに身を包み
メアリ自身も狂月の徴で【ヴォーパルの獣】に変身して
【野生の勘】で立ち向かう
こちらの力を奪うみたいだけれど
月の光を、狂気を、そう簡単に奪い切れるかしら?
捕まらないよう【逃げ足】活かして立ち回り
【継戦能力】で負傷は最低限に留めながら
隙を見つけ次第【咄嗟の一撃】で食い破る
トリテレイア・ゼロナイン
●
この世界の危機を救う為、着ぐるみになってくれる方は…
あの方はお強そうですね
(怪獣王ゴ●ラっぽい方に)
どうかこの世界を護る為、お力を…
怯えていらっしゃる…
いいえ、貴方のお力があれば必ずや勝てます!
(ゴ●ラの皮被った昭和メカゴ●ラ風、尻尾は内部でワイヤーアンカーを束ね●ロープワークで操縦、●防具改造で頭部開閉機構にUC取り付け充填開始)
私達には切り札があります
威圧されることはありません!
上空からの攻撃を覗き穴からの●情報収集で間合い●見切り回避
同時に●怪力の●なぎ払いテールスイングで弾き飛ばした相手へUC解放
故郷を蹂躙された怒り、今こそぶつける時です!
放射熱線状巨大光剣で攻撃
(着ぐるみさん咆哮)
●蒼き獣達は機械の獣と共に
――メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)の場合
「メアリ、あなたが気になるわ。蒼白い毛並みの大きなあなた」
小柄なアリスの目の前には、大きな大きな青い狼が一匹。その手に煌びやかな剣を持ち、鎧を纏った様な大きな体躯で小首を傾げる。
「メアリとおんなじ狼のあなた。内臓(なか)はどうなっているのかしら?」
内臓はどうなっている? 分からない事もあるけれど、この子と自分――狼は同じ、あの魔狼に憤っていた。
「ねぇ、メアリをお腹の中に入れてくれる? メアリと一緒に遊んでくれる?」
理不尽を齎す魔狼に、同族を虐げる暴力に。だから一緒に遊ぼうと、狼は背中をがぱりと開いた。
――玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)の場合
「……そうだな、敵が飛び回るってんなら、飛行系か、すくなくとも跳躍系の能力に長けてるヤツがイイか」
ちらりと辺りを見渡して勝負師は狙いを定める。この一局を乗り切る為の、最高の手符を探して。そして見つけた、埒外にも匹敵する存在を。
「そう、アンタみたいな奴だ。中々いい動きをしそうじゃねえか」
蒼い衣を身に纏い、瞳は正に虚無そのもの。だが狐狛が視線を向けるや否や、尋常ならぬ運動能力で木陰に隠れた動きは一線級のモノだった。
「大丈夫だ、痛みはこっちで引き受ける。アンタは力を貸してくれりゃあいい」
だから乗らないか――いいや、乗せてくれと狐狛が頼む。虚無の獣は最早何も語らず、座り込んで背中を開いた。
――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の場合
「この世界の危機を救う為、着ぐるみになってくれる方は……あの方はお強そうですね」
トリテレイアの目の前には、原初の時代の恐竜めいた恐ろしげな姿の着ぐるみの獣がいた。重々しい足取りと分厚い表皮は見るからに強靭そうだ。
「どうかこの世界を護る為お力を……いや、怯えていらっしゃる?」
早速声を掛けるトリテレイア――だがその巨竜は見た目とは裏腹に、争いを望まない穏やかな性格だった。それでも、とトリテレイアは強い言葉で説得を続ける。
「いいえ、貴方のお力があれば必ずや勝てます! 貴方と私の力があれば!」
火力も機動性もトリテレイアの【VFX】でどうにでもなる。今はその強き竜の力が欲しいと願い……渋々、巨竜は背中を開けた。
『……ハッ!?』
恐るべき慟哭を耳にして気を失っていた魔狼ははたと起き上がり、キョロキョロと周囲を見渡した。幸い猟兵の追撃は無かったし、どうやら自身も無事の様。気を取り直して剣を手にゆっくりと立ち上がった魔狼は、最早月の出かかった夜空を見上げ小さく吼える。
『大丈夫、だな』
「いいや、そろそろ幕引きだよアンタ」
不意に声が聞こえた。いつの間にか魔狼の背後に腕を組んで立つスタイリッシュな虚無の獣が。まるで体操選手かくやの動きで一気に魔狼へ間合いを詰めると、ざっと指を差して魔狼へと宣戦を布告した。
「ナリの割におっかねぇ――いや。ソレが本性ってヤツかね。で、だ」
その中で狐狛がニヤリと口端を吊り上げて、煽る様に魔狼を捲し立てる。
「弱さを自覚させてくれるんだってな?」
『馬鹿にして……ああそうだ、やってやろう。これが我が力!』
瞬間、突風と共に魔狼の威圧感が戦場を制圧する。これまで以上の禍々しい闘気が恐るべき圧を放ち、風と共に魔狼が空へと舞い上がった。だが、その攻撃を受けてすら狐狛は平然と悪態を突く。
「あいにくと、アンタにどうこう言われるまでもなく、そんなコトはようく分かってらァ」
誰が弱いって、そりゃあ……アタシさ。鉄火場を潜り抜けた数は段違いでも、真っ向正面から切り抜けた事など殆どありゃしない。
「こちとら傭兵や用心棒じゃない、ただの遊び人でな――現に、こうやって小細工(きぐるみ利用)をさせてもらってるくらいだ」
『だったらここが、貴様の死に場所だよ――!』
されど間断なく魔狼を嘲る狐狛に対し、空を舞う巨悪は遂にその怒りの矛先を狐狛に絞った。先ずはこの生意気な虚無の獣を、文字通り虚無へと返してやろう。
『遊び人らしく踊るがいい!』
一閃――剣先から飛ぶ衝撃波を華麗なステップで躱す虚無の獣――狐狛。想像以上の運動性だ。そして何よりやる気の無い面構えが魔狼を苛つかせて、追撃の手はついぞ止まる事は無い。そしてごく単調な手管など狐狛にしてみれば朝飯前――そんな技を見切るのは造作も無い事だった。
「やなこった」
一瞬、両者の距離が僅かに詰まった刹那、不意の跳躍が、昇り竜の様な拳の一撃が地面から空中へ、魔狼を叩き落としたのだ。
「中々なモンだろう、ええ?」
それこそ、煽るに煽って手にした琥珀の超常の片鱗――逆境をバネにする逆襲の一撃の賜物だった。そしてその隙に狐狛は、攻撃の本命にバトンタッチを。
「それじゃあ旦那、任せるぜ」
「承知しました。では参りましょう!」
瞬間、紫色の熱線が空を裂いて、落下する魔狼を迎え撃つ様に直撃。そのまま無数の火線が巨竜の着ぐるみ――その中のトリテレイアより放たれて、躱す間も無く爆光が魔狼を包み込む。
「私達には切り札があります。その程度で威圧されることはありません!」
そんな超常何するものぞ。孤狛が合わせて受けた威圧の分、身軽な巨竜は大きく尾を振って――ドローンの操演と内臓筋電繊維があたかも本物の竜のような動きを再現し――魔狼を大地へと叩き付けた。
『この、紛い物の魂の分際で……!』
「それが何だと言うのでしょう。故郷を蹂躙された怒り、今こそぶつける時です!」 トリテレイアの叫びに応える様に、光を纏った巨竜が関節を軋ませて仁王立ちする。元はといえばウォーマシンのトリテレイアと疑似生命体の愉快な仲間、どちらも根源は似たようなモノかもしれない。されど、造られたものだとしても、その魂に偽りなど無い。震わせた鼓動が力となって、巨竜は怒りの咢を大きく開く。
「古式にのっとりここは正面から……焼き尽くします!」
アイセンサ同軸改造放射熱線状巨大光剣――トリテレイアの超常を即席で改造した、正に荒ぶる竜の怒りを体現した蒼光の一閃は、大地ごと貫いて伏せる魔狼を更に彼方へと追いやった。
「では幕引きは……」
「フフ、凄いね。メアリも負けないよ」
そしてその先にはもう一人の狼が――蒼狼とメアリが待ち伏せていた。
「あなたメアリにそっくりね。かつて哀れで惨めなアリス」
内に静かな怒りを秘めて、お道化る様に言葉を紡ぐ。
「今は力に溺れた獣のオウガ。えぇ、だったら獣の誼で――」
がしゃり、と着ぐるみの鎧が音を立て、曲刀が月明りを浴びて妖しく光る。
「メアリがあなたを殺してあげる」
『やって……みろ……!』
魔狼の言葉に込められるは怒りのみ。ありとあらゆる暴虐をこの闇色の狼と共に――それは終ぞ叶わず、自身を追い立てるように現れた猟兵に蹂躙され、自らが信奉する暴力そのものに捻じ伏せられようとしていた。
「もう言葉も出ないか。そうだよね」
そしてメアリも、力を以て力を制すのだ。だからこそ、それが振るわれる時を魔狼は待っていた。
『そうだ……来い、お前達!』
「そうやって――こちらの力を奪うみたいだけれど、月の光を……狂気を、そう簡単に奪い切れるかしら?」
しかしそれすらも、怪物をも食い殺す獣が撒いた罠に過ぎない。飛び掛かる眷属を容易く切り伏せて、ぶつかる狼の剣と剣――火花散る絶死の間合いで、世界はひっくり返った。
「もう夜は終わり。飽きちゃったわ」
音がした。否、暗がりの中で蒼狼の影が変わる。筋骨隆々の上半身は歪に盛り上がり、スラリとした下半身もまるで丸太の様に丸々と太く――まるで神話の怪物の様に、メアリと着ぐるみは変容したのだ。その狂気は、超常の発露は、鋒鋩の体の魔狼が食いきれる量では無かった。
『そ、その姿は……!』
「さあお片付けよ」
ぐしゃり、とメアリが触れた魔狼の肩が抉れる。無理も無い――琥珀とトリテレイアの渾身の一撃を受けて既にボロボロ、立っているだけで精一杯なのだから。これ以上メアリの攻撃を受けきるなど、不可能なのだ。
「……駄目よ、逃げちゃ駄目よ」
だらりと地と腕を垂らしたまま駆け足で逃げる魔狼を、巨大な蒼狼が更に早く駆け出して押さえ込む。まるでホラー映画の様……この圧倒的な追跡者から逃れる術は、最早どこにも無い。
「それじゃ、いただきます」
皮(着ぐるみ)は剥いで中身だけ。嬲る様に抉られた四肢を一つ、怪物殺しは当然の様に喰い千切る。暴力の終わりが今、始まった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●独り芝居
魔狼は――アリーチェ・ネラは思い出していた。かつて自身が力無きアリスだった時、戯れに数多のオウガに生命の奪い合いをさせられていた時、こういう事は何度もあった。他人の生命をすり潰し、喰らい上げ、ただひたすらに生存する為だけに存在していた日々――それらはある日、突然無くなった。いや、終わらせたのだろう。
『まだよ……まだ……』
たかが不能になった片腕一つ喰らわれただけ。まだ三本も残っている。
『私は……生き残る』
これまでも、これからも、アリーチェはたった一人で、そうやって生きて来たのだから。
『私は…………』
だらりと伸びた空っぽの片腕が風に揺れる。幸い、あの地獄から這い上がる事は出来たのだ。これまで立ち塞がった数多の猟兵に思いを馳せて――ゆっくりと目を開く。
あと少し、ここを抜ければ私の勝ちだ。そう信じて、魔狼は戦場へ躍り出た。
ヘスティア・イクテュス
●
リア(f04685)と
戦争、今回は猟書家と厄介ね…
この戦場を超えればプリンセス・エメラルドに届く…
リア!さっさとこの障害を乗り越えましょうか!
乗り込むのはジンベエザメの着ぐるみね!力借りるわよ!
ティターニアの出力で『空中戦』!
着ぐるみ着てて流石にいつもの高機動は無理だけど、浮くくらいなら!
その巨体で頭上で視線を惹きつけて、マイクロミサイルの『乱れ打ち』!
気分は爆撃機ね!
高所からのミサイル、無力な姿にしても動物が上から振ってくれば脅威よね!
完全に上に注意を取られてる内に
パーティーには歌姫の歌の彩りをってね!
リア!今よ!!
リア・ファル
●
WIZ
ヘスティアさん(f04572)と
暫しの間、ヘスティアさんに前衛を任せるね
着ぐるみロボットに乗り込み、大地に立つ
「電脳魔術を付与。システムリンク。
それじゃ皆、ボクと…歌おうか」
着ぐるみ達に一体づつ独唱詠唱してもらう
その間にボクも攻撃の機会を演算して窺う
(情報収集、学習力、時間稼ぎ)
上空のヘスティアさんは無機物の呪いは触れないはず
ボク? 外見が幼子になろうが、ボクの電脳制御には問題はないよ
ロボの右手に荷電粒子砲を召喚
最後にボクが詠唱すれば、
「それじゃいくよ、今を生きるアリス達の明日の為に(詠唱)」
束ねた詠唱でUC【極光のアリア】の発射だ!
力に溺れた魔狼よ、骸の海に沈め
ヴィクティム・ウィンターミュート
●
なんだこりゃ、随分と奇妙な味方が居るようだな
…有能ならなんでもいいさ。人型でスピードタイプ、軽武装搭載型のロボットがいいな、乗らせてもらうぜ
システムの動機を開始、コンバットMODをインストール
さて、ハンティングといこう
おっと、単騎でやると思ったか?勿論"僚機"に出てきてもらうぜ
『Extra』──有能な演者は多いほど良いもんだ
ユーベルコードジャマーを展開、散開して捕縛をメインに攻撃させる
ここはお前の狩場だとでも思ってんだろうが、勘違いも甚だしいぜ
"追い込まれた"のさ、致命的にな
戦いは数を揃えた方が圧倒的に有利なんだぜ
──さ、動くなよ。腹と顔面に一発ずつ叩き込んでやる
狩場じゃなくて、墓場だったな
●狩人たち
「戦争、今回は猟書家と厄介ね……ただ」
暗い空を巨大なジンベエザメの着ぐるみがゆったりと進む。それはヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)が纏った愉快な仲間――自らのジェットパック『ティターニア』の推力までも増幅し、あたかも空中要塞の威容で風を切って進む。その上に、まるで甲板めいた平たい頭上に白いマシンの影が――それも同じく、白い装甲を纏いし着ぐるみ、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)の着ぐるみロボットだった。
「この戦場を超えればプリンセス・エメラルドに届くわ。リア!」
「分かってる。言われるまでも無いよ」
二人はスペースシップワールドからの猟兵。かつて最初にして最大の戦争が巻き起こり、辛うじて勝利を手にした世界は、今や未踏査宙域の探査を始めとした様々な復興事業が進んでいる。そんな彼女らの故郷に、この世界に現れた新たなオブリビオンが争乱の元を送り出そうとしているのだ。それを聞いて黙っていられる程、宇宙の民は寛容ではない。
「新たな火種を僕らの世界に運ぶわけにはいかない。だろう?」
「そういう事――じゃあ、さっさとこの障害を乗り越えましょうか!」
風を切って進む二つの影はやがて魔狼の直上へ。そして全ての影が重なった時、最後の戦いが始まった。
『お嬢様、会敵します。敵影一つ、ユーベルコード発動確認』
「アベルからのデータを受領。キルゾーン設定完了、エンゲージ」
「ラジャー。それじゃあ行くわよ……ターゲット・インサイト!」
支援AIのアベルから双方向にデータをやり取りし、ヘスティアが銃砲を放つと同時にリアは着ぐるみに火を入れた。宇宙戦艦のインターフェース型AIたる自分にしてみれば、着ぐるみと言えどマシンの操作はお手の物。尚且つ情報支援まであるとなれば――不思議の国だというのに、これではいつもの非対称戦だ。苦笑しつつ背中に伸びた一対の巨大なバーニアを切り離し接敵。武装のセイフティを解除して、その巨体を囮とする様に火線を浴びせるヘスティアの――ジンベエザメの支援を受けて、間隙を縫う様に自らのマシンを滑り込ませる。
『鬱陶しい……猟兵めが!』
だらんと空洞の左腕を垂らして魔狼が吼える。残る右腕で剣を構え、一太刀、二太刀と猟兵達の攻撃を往なしながら呪いの超常を浴びせ続ける――しかしリアは動じない。何故ならばバーチャルキャラクターたるリアにしてみれば、外見がどうなろうと然程大きな影響は無いからだ。
「そんなもの、ボクの電脳制御には問題はないよ。それに」
「この距離なら何も出来ないでしょう? さあ!」
『全ミサイル発射――まるで空爆ですね恐ろしい』
更に、いつの間にか高空へ浮かび上がったヘスティア――ジンベエザメがまるで戦略爆撃機の様に底部のハッチを開放。無数の砲架が――ヘスティアの超常を放つミサイル発射台が針鼠の様なその姿を露わにして、他人事めいたアベルの言葉と共に無慈悲な空爆を開始する。
「それじゃあボクも行こう――って!?」
近接信管が派手な火柱を上げながら、それでも魔狼には全ての攻撃は届かなかった。放たれた超常は『無機物を無力な姿に変換する』類のモノ。爆発前に爆弾そのものを無力なブリキ人形へと変えてしまえば、想像していた爆発は起こせない。
『そんな花火でどうにかしようとでも――笑止!』
口元を歪ませて忌々しげに面を上げる魔狼。これ以上好きになどさせるものかと、無力化したブリキ人形を掴み、空に漂うジンベエザメ目掛けて投擲の姿勢を取った。
『泣いたり笑ったり出来なくしてあげるわ』
「いいや……」
不意に男の声が聞こえた。瞬間、手にしたブリキ人形がガタガタと暴れ始める。その姿がブリキ人形から再びミサイルとなって――慌ててそれを投げ飛ばす魔狼。
「お前だよ、泣いたり笑ったり出来なくなるのは」
静かに男の――ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)の声が続く。その声が、徐々に輪郭が露わになって、現れたのは一体のロボット。
『抜かせ、たった一人で何が出来る!』
「おっと、単騎でやると思ったか?」
ヴィクティムはやたら目立つ真紅の人型ロボットめいた着ぐるみを纏っていた。そしてその背後にそろりと同じ様な一団が並び――まるで鋼鉄の軍勢。その中央でヴィクティムが宣う。役者は揃い、準備は整った。
「システム同期、さて――ハンティングといこうか」
そして無数の着ぐるみロボットのアイセンサが、一斉に点灯した。
(こりゃ、随分と奇妙な味方が居るようだなと思ったら……)
「ちゃんと僚機はいるぜ――リア!」
「ありがたく使わせてもらうよ、ヴィクティムさん」
偶然の連携、レコードの共有、戦術の再構築。成程と口端を歪め、二人の魔術師は戦場を掌握すべく再びタクトを振るう。
「アベル、全体の連携を。艦のマニューバは任せて」
『承知しました。キルゾーン再設定、ジャマー展開確認』
更にその上、全てを見通す上空でアベルが情報を束ね、より鮮明にプランをヘスティアへ提示した。やるべき事は変わらない。ただ、順番が少し早くなっただけだ。
『お嬢様、残りの花火を三十秒後に一斉点火。派手に行きましょう』
「電脳魔術を付与。システムリンク。それじゃ皆、ボクと……歌おうか!」
アベルが宣うと共にリアが叫ぶ。ヴィクティムの超常――着ぐるみを纏った無数のアンドロイドに自身の電脳魔術の詠唱(プログラム)を付与。二つのユーベルコードが折り重なって、一つは魔狼の超常を完全に阻害する。そしてもう一つ、リアが伝えた大いなる歌が折り重なって、より強大な超常を呼び起こさんと空を震わせた。
『何故だ、何故力が……!?』
「有能な演者は多いほど良いもんだ。だろう?」
そのまま、真紅の着ぐるみを纏ったヴィクティムは両脚からパルスを吐いて自在に滑空しつつ、両手から斉射した光弾と共に魔狼の動きを抑え続けた。
「ここはお前の狩場だとでも思ってんだろうが、勘違いも甚だしいぜ」
ヴィクティムの超常は戦場掌握用の戦術工作術式。呼び出したアンドロイドに捕縛の指令と、敵の超常を阻害するジャマーとしての機能を振るわせ、更には無数の着ぐるみを纏わせる事で単一の戦闘能力も上昇させた。
「戦いは数を揃えた方が圧倒的に有利なんだ――さ、動くなよ」
光弾の弾幕と阻害の術式に阻まれて、魔狼は最早自在に動く事は叶わない。そしてそれは先の攻撃の再来を止められないという事。
「パーティーには歌姫の歌の彩りをってね! リア! 今よ!!」
『ターゲットロック、全ミサイル斉射』
再び放たれた無数のミサイルが再び魔狼へと牙を剥く。無機物を無力化する超常はヴィクティムに阻まれて――追尾する殺意が一斉に殺到し、地形ごと魔狼に深々と重爆の手傷を負わせる。
『させる、ものか……!』
「それじゃいくよ、今を生きるアリス達の明日の為に!」
無数の爆風を浴びても尚、歪んだ剣を杖代わりにかろうじで立つ魔狼。その姿を捉えたリアが、アンドロイドと共に紡ぎ上げた仕上げの超常を放たんと、自らの前に巨大な重砲を顕現させた。
<<<警告、不明なユニットが――>>>
『問題無い! 一発で仕留めるよ!』
悲鳴のようなアラートを無視して、不安定な照準を魔狼へと定めるリア。物理的な挙動は割り込み演算で強引に補正し、紡ぎ上げたエネルギーの奔流は重砲のチャンバーへ全て流し込む。そして光を湛えた白いロボットの凶悪な姿を眺め、魔狼は忌々しげに口を開いた。
『今を、生きる……だって……』
生きる、事が、この世界でそれが如何程の不自由であろうか……過去を思い魔狼が歯軋りする。それを繰り返して、自分はここに立っているのだと。だから。
『いずれ死ぬ、誰もがそう……』
「だが、それはお前が決める事じゃない」
バズ・オフ(消えろ)――ヴィクティムが冷たく言い放つ。いつの間にか懐に入り込んだ真紅の着ぐるみは、そのままジェット噴射の様なアッパーカットで魔狼を空高く放り上げた。生きる者の明日を決めるのはお前たち死者ではない。だから、黙れ。お前は“追い込まれた”のさ――致命的にな。
「力に溺れた魔狼よ、骸の海に沈め」
想いを乗せ、束ねる詠唱(アリア)を――極光が、破滅の光が過去を飲み込んで。最大出力の荷電粒子砲はあたかも天へ上る雷の様に大きく伸び上がり、魔狼を塵芥へと変えていく。更に。
「あなたの自由にはさせないわ。じゃあね!」
ガクンとジンベエザメの大口が開いて、中より長銃を担いだヘスティアが魔狼へと狙いを定める。艦ならぬ着ぐるみの制御はアベルに任せて、止めの狙撃を――二つの光が交差して、遂に魔狼は、アリーチェは己の限界を超えた。
『そう……だった……』
最後に彼女が見たモノ。かつて己が生命を落とした逃避行。逃れられぬ宿命、アリスとして――オウガとして。物語の結末、化物のは人の手によって屠られる。
『これが……暴虐……』
これが、王の呪い。狼は死して皮を残し、自らは骸に還ったのだ。
「ありがとう着ぐるみさん。その、本当に大丈夫……?」
「何だか体の変な所が痛いわ……」
『そりゃそうです。人なのにサメの振りをしていたのですから』
呆れた様にアベルが返し、わめくヘスティアを宥めるリア。
「……狩場じゃなくて、墓場だったな」
ぼそりとヴィクティムが呟く。作戦終了――暴力は何も解決しなかった。まるで荒ぶる魂を鎮める様に光の粒子が漂って、三人の猟兵を静かに照らしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵