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清掃業務:紫紺孕むは虚事の胎動

#UDCアース

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#UDCアース


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●初めソレを目にした時、脳裏に浮かんだのは揺蕩う蚯蚓の塊だった。
 邪教の定義は数あれど、客観的に判断すれば、現在私の所属するその集団は明らかに邪教と呼ばれるシロモノだった。
 近日では、オレオレ詐欺だの振り込み詐欺だの阿呆らしい、いや、現実的な嘘に騙される者は一定数いるものの、神とか奇跡とかそういうものは、『実例』を見せなければ騙され、いや、信じる者は極端に少ない。虚々実々の現世は、人々の想像力とか脳の一部とかついでに神様とか、色々と死んでいるのだろう。
 だか、それは裏を返せば『実例』があれば信じる者は簡単に信じるという事でもある。

 そう、例えば、こんな。

 薄暗い部屋の中心に信者の円陣に囲まれて、全裸の女――今回の『儀式』の対象者がうつ伏せで寝かされている。何故全裸なのかと言われれば、教祖の力の妨げにならぬように一切の着衣を禁じられるのだそうだ。もっともらしい理屈だが、九割九分目的は単純な品定めだろう。家畜か何かか。

 仰々しく奥から現れた教祖の手には、聖油が――【〓編集済〓の可能性があるため、『儀式』内容は〓編集済〓により〓編集済〓されました。当該情報に接続を試みる職員は〓編集済〓の影響を受けたと認識され〓編集済〓されます】――快楽が最高潮に達しようという頃。

 ぬるり、と。紫紺の触腕が、教祖の指の隙間から這いずり出でた。

 何度となく見た『実例』。
 どこぞとなしに人の体からぬらりぬらりと触手が這い出る様はかなり食欲の失せるものではあったが、案外癪の虫取りと同じようなものなのだろう。別に誰かが死ぬわけでもないし、『儀式』の終わった信者は皆恍惚とした顔をしている。美人や美形の信者はその後奥に連れ込まれるのは、邪教特有のご愛嬌というものだろう。割とどうでもいい。

 しかし、思う。一体コレに何の意味があるのだろう。
 『儀式』によって快楽を得られたとしても、それは何の証拠にもならない。
 人を救う力を教祖が持っていたとしても、教祖が人を救う人格者である証明にはならない。
 自身が何かに選ばれた者であるとしても、自身が世にとって特別である証明にはならない。
 何の証明にもならないモノを、己の利益の為に信じ込ませるのは色々と罪じゃなかろうか。
 いや、仮にも同じ集団に属する私も同類であり同罪か。どうでもいいことだが。

 『儀式』が終わり、教祖がいつもの演説を始める。
 悪魔は去った。誰それの魂は救われた。我々以外は全員地獄へ落ちる。
 何度繰り返されたかわからない文句を神妙な顔で拝聴する信者の群。
 多分、あの女は奥へと連れ込まれるのだろう。それもいつもと同じ事。
 ああ、本当に、どいつもこいつも脳味噌パープルテンタクルでなかろうか。

 ……『唄』が、響いた。
 透き通る叫び声のような、転落する間に漏れる呟きのような、美しい声だった。
 呼応するかのように辺りにわらわらと這いずり出でる、紫紺に染まった触手の原。

 どうでもいい。

 教祖がなにかを喚いている。信者どもはなにかを叫んでいる。
 他人が慌てふためく様はまるで奇妙な踊りのようで。
 見ていて中々痛快なものだが、それもすぐに飽きてしまった。

 どうでもいい。

 いつの間にやら、踊り手は全員人の姿を失っていた。
 ひょっとしたら私もすでに、もうこの紫紺の原の一部なのかも知れない。
 確認しようかとも思ったが、やめた。

 どうでもいい。


「猟兵、今回の業務を説明する。」
 グリモアベースにて、一つ目を輝かせる鋼の巨躯――グリモア猟兵『鶴飼百六』は、猟兵達を前にして事件の詳細の説明を始めた。
「今回の業務は邪教団体の支部にて発生したオブリビオンの駆除だ。以上。」
 説明終了。

 ……。

 そんな訳もなく、猟兵の一人に小突かれ、説明を再開するグリモア猟兵。
「……わかった、分かったよ、説明な……あー、詳細は不明だが、どうせ相手は触手とか頭のデカいアイツらだ。お前らなら楽に下せる相手だろう。で、人命救出だのと余計な仕事はない。まともな生存者などいないからな」
 居たとしても無視しろ、と、最後に小さく物騒な事を付け足して、言葉を続ける。

「…関連して、猟兵、一つ言っておく事がある。今回の業務は現場も駆除対象も目的も明確に判明している。だから、『これ以上何も調べようとするな』。俺は余計な事に首を突っ込んで余計な仕事を増やしたくはないからな。後は現地世界の担当に任せればいい。…もう一度言う」

「『 決 し て 、 何 か を 探 ろ う と す る な 』」

「…んじゃ、猟兵諸君、健闘を祈る」
 グリモア猟兵はそれ以上何も語らず、その巨躯の傍らでポータルは静かに輝いていた。


romor
 こんにちは、romorです。

 皆さん興味津々であろう儀式内容はレーティング的にアレがナニなので〓編集済〓されました。内容は聖油を身体の隅から隅まで塗り込んでいるというだけなので別に依頼内容に関係はありません。

 また、グリモア猟兵は何も探るなと言っておりますが、今回は謎が向こうから助走をつけてフライングボディプレスをかましてくる感じの依頼なので、気にする必要はありません。やるなって言われている方が俄然やる気になる事を利用した、カリギュラ効果を悪用した感じのただのフレーバーです。

 今回のボスは途中で形態変化を行い、基本判定が2段階低下します。具体的に言えば🔵が6つ溜まった段階で基本判定が大成功から苦戦になります。失敗はしません。
 ボスの弱点を突くことにより判定結果を上げる事が出来ますので、ご留意ください。

 🔵の数的に残りが苦戦判定になろうが絶対依頼失敗しない程度の戦闘演出のフレーバーだって事は内緒です。いいですね?

 それでは、皆様の自由なプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『パープルテンタクルズ』

POW   :    押し寄せる狂気の触手
【触手群】が命中した対象に対し、高威力高命中の【太い触手による刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    束縛する恍惚の触手
【身体部位に絡みつく触手】【脱力をもたらす触手】【恍惚を与える触手】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    増殖する触手の嬰児
レベル×5体の、小型の戦闘用【触手塊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●イマワシロ湖北――イマワ市街雑居ビル群
 みっしりと隙間なく建ち並ぶ、テナント不明の雑居ビル群。
 その中の一つに、邪教団のフロント組織――そのヨガスタジオはあった。

 健康・美容・妊活――そんな胡散臭い甘言が記された扉を猟兵が蹴破ると、甘ったるい匂いが鼻を掠める。
 眷属共から分泌された淫毒だろう。床の上には毒々しい桃色の粘液が広がり、泥濘の様にぬるぬると猟兵達の靴に絡みつく。その量からこの場所で何が行われ、そして何があったのか、推察するのは難くない。
 だが。

 猟兵達の前に広がる異界染みた光景、それとは裏腹に眷属の姿は見当たらず。
 獲物を待ち構え辺りに潜伏しているのだろうか、それとも獲物を求めて既にこの場所から散ってしまったか。この場所に眷属が存在したことが明らかである以上、何方にせよ、早々に追跡をしないことには始まらない。

 探索を続けようと猟兵が歩を進めた、その時。
「………はい、此方は終わりました」
 小さく響く、話し声。
 見れば部屋の隅――非常口と思しきドアの前で、くたびれたスーツ姿の男が、一昔前の二つ折りの携帯電話を耳に当てている。日常的とも思えるその姿は、非日常の広がる光景の中で奇妙に浮かび上がって見えた。

「……ええ、12体程確保しました。はい、今から其方に向かいます」

 男が、此方を見やる。

「……いや、少し問題が発生しました。少しばかり遅れそうです。……いえ、心配いりません」

――どうでもいい事ですよ。

 言葉と共に。
 紫の雷光と共に虚空から出現する6体の紫紺の眷属共。世に在らざりし化け物共は、ぬらりぬらりと獲物を物色するように触手を揺らめかせ――

――猟兵達の前に立ちはだかった。

【眷属:パープルテンタクル×6】
【耐性:物理半減/??弱点】
アイ・リスパー
「触手を使役する邪教団ですか。
その程度の相手に負けるはずありませんね」(フラグ

触手使いごときに小細工は不要です。
正面から乗り込んで、力ずくで制圧しましょう。

【チューリングの神託機械】で電脳空間の万能コンピュータにログイン。
情報処理能力を向上させ【マックスウェルの悪魔】による炎の矢で触手の群れを焼却処分です。

触手の反撃は【ラプラスの悪魔】で行動をシミュレート。
予測された軌道から身体を逸して回避です。

「……って、なんですか、この触手の密度っ!?」

ツイスターゲームのような体勢で攻撃を避けようとしますが……
運動音痴の私に避けきれるわけがなく
全身触手に絡みつかれて恍惚を与えられてしまうのでした。



「触手を使役する邪教団ですか」
 蠢く触手を前にして、電脳の天使――『アイ・リスパー』は、使役者の男を睨みつけた。
「その程度の相手に、私が負けるはずありませんね」
「いえ、我々を邪教団と一緒にしてもらっては困ります。我々はむしろ彼らを駆逐する側の存在ですよ」
 一緒にするなと嘯く男。しかし、使役する者が同一である以上、彼女にとっては同一の、討伐するべき存在でしかない。男の戯言にも聞く耳持たず、正面から乗り込んで力ずくで制圧せんと、アイは自らのユーベルコードを起動する。

「――【チューリングの神託機械】起動。」

 電脳空間への接続を確認。
 万能コンピューターへログイン――

――オペレーション、開始します。

 それは、自身への代償と引き換えに高度な演算処理能力を得る諸刃の剣。だが、 姑息な触手使いごときに小細工は不要と、躊躇いなくアイは眼前の敵を見据えた。

 はぁ、と。
 ……対して男は、割とどうでもいいと言わんばかりに、小さくため息を吐いた。
「……ま、確かに。現在のアナタ方の敵であることに変わりはありませんがね」
 戦意を露にする猟兵に対して、男がパチリと指を鳴らす。
 呼応するかのように、並んでいた眷属共は自らの触手を結び合わせ、男を中心とした半円陣を形成――天井まで届かんばかりのそれは、ゆらりゆらりと触手を揺らし、男を護るかのように猟兵の前に聳えたつ。

「小細工を弄しても無駄です! 焼き尽くしなさい、【マックスウェルの悪魔】!」
 それは情報演算能力を応用した、現実へと干渉する異能の力。原子の運動エネルギーの動きへ干渉する事によりエントロピーを収縮させた、高熱の炎。
群がる眷属を焼き尽くさんと、紅く燃ゆる炎の矢が、男に向かって放たれた――

 ――されど。

 確かに、アイの放つ炎の矢は、全体で見れば眷属一体を優に焼き滅ぼす程度の力はあった。そして、触手の群に対し、確かにその程度のダメージは与えただろう。
 だが、聳える眷属の壁は、表面が焼け爛れようともその陣形を崩してはいなかった。

「パイロキネシス――我々からすれば、さして珍しいものでもありません。色々と存じておりますよ。仲間との共闘の場合、遠距離であまり派手な技が使えないという事も」
 反撃と言わんばかりにパチリと男の指が鳴り。
 触手の壁にはじき出されるように、眷属がアイに向かって撃ち出された!

「……っ!」
 刹那。
 されどそれは、アイにとっては十分に演算可能な時間。

――早く、【ラプラスの悪魔】を――!

 集積された多大な情報を演算する高精度の未来予測。それによって得た敵の攻撃の軌道情報。それにより、ユーベルコードの代償、呪縛を受けた身でも辛うじて眷属の攻撃を躱す――いや、躱したはずだった。

――……って、なんですか、この触手の密度っ!?

 アイが感じた違和感の正体――迫ってきていたのは『2体』のパープルテンタクルス。
 未来予測の欠点――それは、予測したところで避けられないモノは、どうしようもないという事。先行する眷属の、後ろに控えたもう一体。アイがその事実に気が付いた時には既に、少女の四肢には触手が絡み、その自由を奪っていた。

「やめっ! 放しなさ……んむっ!?」
 手足を絡め捕られるも必死に抵抗を見せるアイ。されどそれは蟷螂の鎌、完全に捕縛された今、その行為は悲しいほどに意味を持ってはいなかった。それでも煩わしいと感じたのだろう、眷属の触手の一本が、無理矢理少女の口にねじ込まれ。

「んんーっ!! …ん…ぐ…っ…! ……ん…っ…❤」
 どく、どくと触手から淫毒が分泌され、直接アイの咥内に流し込まれる。少女の白い喉がごきゅり、ごきゅりと動く度、零れ落ちる涙と共に段々と瞳からは光が失われていく。勝利を確信した眷属共は、更にその身体を貪らんとぬらぬらと触手を揺らめかせ、纏う衣の隙間から少女の肢体を――

「いつまでもサカってねェで――」
 触手の『行為』を遮るように。
 男の、明らかに怒気を孕んだ低い声が響いた。

「――さっさと陣形、組みなおせ」
 殺すぞ、と小さく付け足す。
 使役者からすれば戦闘中の駒の単独行動などリスクでしかない、最低限の無力化さえしてしまえば十分と考えているのだろう。男の声に怯えるかのように、潮が引くように少女の身体から触手が離れた。

「……あ……❤」
 じゅぽん、と湿った音をたて、小さな口から太い触手が糸を引きながら引き抜かれ。恍惚とした表情を浮かべながら、アイは糸の切れた人形のように力なくその場にしゃがみ込んだ。
 彼女が肌に感じるのはアルコールを塗られたような熱さと寒さ、胸の内では心臓が早鐘のように高鳴って。
「……あついぃ……❤ ……あ……つい、よぉ……❤」
 体の奥がむず痒いような、そんな感覚に少女は座ったまま身体をもじもじと捩らせて。荒く吐き出される吐息は熱く、熱を帯び紅潮した肌にはじわりと汗が滲む。
 潤んだな瞳は虚ろになにも映すことはなく、その口元からは、注がれた淫毒がとろりと流れ出していた――

――。

 どうでもよさそうに猟兵を一瞥すると、はぁ、と小さくため息一つ。
 呼び戻した触手を加え、男は陣を組みなおす。
「……ええ。侵入者を一人、無力化しました。はい、正気に戻る前に、他のもカタを付けます。」
 何事もなかったように、報告を続ける。

――何も問題はありません。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜谷・ひびき
一応現地世界の担当っちゃ担当だけど……わざわざ「何かを探ろうとするな」って釘を刺されちまった
……って、あの男は何だ?
何がどうでもいい?
くそ、いきなり気になる事ばかりじゃねぇか
兎に角あの触手どもをどうにかしないと

物理攻撃に強いみたいだから……俺が他に出来る事といえばこれしかない
『ブレイズフレイム』を使って触手達を燃やすぜ
よく燃えそうなら中心部分を、そうじゃないなら末端からしっかり燃やしていこう

相手の攻撃には【野生の勘・ダッシュ】も使って回避していく
万が一捕まったら【激痛耐性】で耐えてから、接近してる状態のやつを燃やしていくぜ
ほんとこいつら、ヌラヌラしてて気持ちが悪い
全部灰になっちまえ



 業務を説明する際。
 グリモア猟兵は駆除以外の業務は現地世界の担当に任せておけと嘯いていた。

――わざわざ「何かを探ろうとするな」って釘を刺されちまった。

 猟兵『茜谷・ひびき』は、心中でグリモア猟兵の言葉を反芻する。
 現地担当――おそらくは現地世界のUDC組織、彼らと茜谷は並々ならぬ縁がある。
 生まれ育った場所、そして家族。『焔』に全てを奪われた彼にとって、UDC組織は大恩のある存在だった。

 故に。
 もし、この業務が彼らにとって危険なものであったなら。
 掌を広げ――己の『力』で小さい火を灯らせ、思う。
 もう、あの時と同じではない。
 奪われるだけだった、あの時とは。

――それに、俺も現地担当って言えば担当だしな。

 何にせよ、まずは眼前の眷属の群を排除するのみ。
 ユーベルコード【ブレイズフレイム】――紅蓮の炎で形成した刃を己の腕に纏わせると、持てる俊足の技能を駆使し、眷属の壁に一気に距離を詰める!

「おや、これは驚いた。普通でしたら淫毒を恐れ、誰も近づいては来ないのですが。」
「今、俺が出来る事といえばこれしかないからな!」
 ぱちり、と男が指を鳴らし。
 槍衾が如く突き立てられる数多の触手――茜谷は『第六感』で飛びのきこれを避けると、返す刀で眼前のソレを焼き尽くす。男の陣は確かに、遠距離攻撃相手であればある程度効果的ではあった。だが、今となっては――

――男の眼前の眷属、その中心からあふれるように焔が噴出した。

 まずは、一匹。
 崩れ落ちる眷属の後ろに、少しばかり吃驚したような男の姿が見えた。

――いける――!

 【ブレイズフレイム】による焔は自在に消去が可能だ。狙いは殺す事ではない、飽くまでも男の戦意を刈り取り、探るなと言われた情報を男の口から引き出すこと。
 茜谷は腕に絡む触手の形をした炭を払いのけ、男の身体を焔の刃で薙ぎ払う――

――その、はずだった。

「―――――ッ!!」
 刃を振るおうとした瞬間、叫び男と青年の間に割り込む一体の眷属。そのまま焔を自身の身体で受け止めながら、茜谷の腕に絡みつき、触手による刺突を放つ!
顔、腕、腹、数多の触手で雨霰の様に殴打されるとも、己の技能により痛みに動じることなく青年は眷属に炎の刃を突き立てる!

「…っ! 全部、灰になっちまえ!」
「―――――――――――――ッ!」
 猟兵が、眷属が、叫ぶ。
 何方が先に崩れ落ちるか、それは防御など考えぬ不退転、捨て身の勝負。
 だが、先の炎の矢のダメージと重なり、とうとう耐えきれなくなったのだろう。眷属は断末魔のように触手をばたつかせ、炎を吹きながらそのまま灰燼と化していった……。

 灰と化す自らの駒を眺め、男は考える。
 もし眷属が優勢ならばと、あえて間合いを取らずにいたが。欲をかいたのが裏目に出た。
 これで、失った眷属は二体。
 眷属を用いた集団戦において、自身の使役する駒が相手よりも減るという事は、単純にあぶれた頭数が直接頭を叩いてくることを意味する。
 ならばここからは、男自身が前に出るより他にない。

 既に、互いの攻撃が重なり合う間合い。
 茜谷は焔の刃を、男は傍らに眷属を。
 無言の緊張の中、ただ、視線だけが交差する。

――。

 茜谷の心中で、疑問が巡る。
 元々、この業務は気になる事ばかりだった。眼前の男は何者なのか、何がどうでもよいのか、グリモア猟兵が探るなと言ったのは何故なのか。沈黙の中、ただただ疑問がぐるぐると回り続け――

「――アンタ、何者だ?」
 抱き続けてきた疑問が、思わず、口を吐いた。

「……?」
 拍子抜けしたのか、男の口からおやおや、と言葉が漏れる。
 好機とばかりにそのまま後ろに飛びのくと、眷属共も使役者の後に続いた。
「……知っていて此方に来たのではないですか? 私は『便利屋』。次々とすげ変わる頭の意のままに動く、安心安全いつもニコニコ、エガオをツクロウな『便利屋』さんです」
 企み等々御座いましたら、是非ご利用ください。
 自身の指で口角を上げ、笑顔を繕いながら。冗談なのか本気なのか判然としない言葉を男は猟兵に投げかけた。

 口調とは裏腹に、警戒自体はしているのだろう。
 青年が間合いを詰めようとじわりとにじり寄ると、合わせて男も喋りながらもゆっくりと動く。
「ま、何も知らされていないところを察するに、アナタ方も信頼されていないという事なのでしょう。失っても惜しくない捨て駒か、それとも実力だけは評価されている傭兵か、それは私のあずかり知る事では御座いませんが」

「……大方、アナタ方の依頼主は『眷属が必要数集まらなければなんとかなる』とでも考えているのでしょう。邪魔をしつづけていれば、いつか諦めるだろうと、いつかこんなバカな事はやめるだろうと」
 甘い、実に甘い。
 吐き捨てて、言葉を続ける。

「眷属に対する貴方の嫌悪を見る分に、貴方も理解しているのではないですか?」
 喋りながら、傍らに居る眷属、その触手の上に足を置く。
「こいつらに対する嫌悪は」
 置いた足に力が入る。
「憎悪は」
 強く。
「激情は」
 更に強く。
「憤怒は」
 もっと強く。
「殺意は」
 殺意を込めて。
「決して収まる事はない。例え何があろうが、どんな手段を使ったとしても」
 痛いと言いたげに眷属は小さく鳴いて、やっと男は足を外す。
 憎しみを語る男の言葉。されど、男の顔に浮かんでいたのは――

――終始、笑顔だった。

――。

 猟兵達と距離を取り、四体の眷属を従えて。耳に当てた携帯電話に、男は囁く。
「……ええ。ユニットは二体失いました。はい、そちらの試験運転に切り替えようかと。……分かりました」
 何事もなかったように、報告を続ける。

――何も問題はありません。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千崎・環
連携アドリブ歓迎です!

出遅れた…!UDCは一匹たりとも逃がさない!って、かなり酷いことに…。

現場に到着したなら残存したパープルテンタクルスを排除するよ!
警棒で殴っても駄目そう…なら拳銃で!
触手からの攻撃は盾で躱しながら近づく触手を撃ち抜いてやる!5発撃ち切ったら弾を込めて再度!

見た目通りの生命力…なら!

弱点が何処かはっきりしないけど、何処かが本体のはず!
盾を前面に押し出して突撃!触手の群生する中心部に腕ごと拳銃を突っ込んでUC発動、残弾全部撃ち込んでやる!

何この変な感じ…毒?ちょっとヤバいかも…。
ってあの男は?触手を指揮してる?なら容疑者だ、動くな!

男に拳銃を向けて投降を促してみよう!


トリテレイア・ゼロナイン
何かを探ろうとするな
精神汚染の危険も承知していますが、索敵の必要性もある以上無茶を言ってくれますね

まともな生存者で無い以上、男性は邪教団体関係者の可能性が大
生かして確保し、UDC組織に引き渡したいところですが…

あのキャンプ地を想起させる紫紺の触手…
こうした相手には騎士として格好を気にせずとも良いのは幸か不幸か
格納銃器での掃射…効果が薄いですね

触手を●盾受け●武器受けで迎撃し防御しつつUCに弾種変更
薬剤で凍結させ柔軟性を奪い●怪力で振るう剣や盾で粉砕

12体という言葉が気がかり
センサーでの●情報収集による索敵で奇襲等にも警戒

携帯端末が型遅れな物だったのは電子的に足がつくのを遅らせる為か…別の理由か




 何かを探ろうとするな。
 この世界へと転送する前、確かにグリモア猟兵はそう言った。その言葉は猟兵の身を案じての事なのか、それとも他の理由があるのか、意図は依然として分からない。

――索敵の必要性もある以上、無茶を言ってくれますね。

 機械騎士――『トリテレイア・ゼロナイン』は、説明不足のグリモア猟兵に対し、何度目かもわからぬ言葉を心中で呟いた。世界が世界だけに、トリテレイア自身も精神汚染の危険も承知していたが、それでもなお、グリモア猟兵への猜疑は消えない。

 一方で、説明通りの事柄もある。
 淫毒に塗れたこのフロアに男以外の――まともな生存者の姿など見受けられない。眷属を使役している事から、男は邪教団体関係者の可能性が高い。幸か不幸か、こうした相手には騎士としての格好を気にせずとも好いだろう。即ち、思想のない機械として、眼前の敵を下すという意味合いで。

――生かして確保し、UDC組織に引き渡したいところですが…

 男を護るは、あのキャンプ地を想起させる紫紺の触手と人を狂わす淫毒、機械であるトリテレイアに後者は通用しない者の、変幻自在の触手の巨躯は単体で対処する事は非常に困難であるように思われた。
「私が先行します――」

――援護をお願いできますか?
 だが彼は、単騎ではない。
 鋼鉄の騎士は傍らの、仲間の猟兵に声をかけた。


「分かりました、援護します」
 漂う淫毒に口を押えながら、UDCエージェントの婦警――『千崎・環』が機械騎士の言葉に答える。UDCを一匹も逃さぬというUDCエージェントとしての決意がその目には宿っていた。
 ……されど。

――何この変な感じ…毒?

 それは出遅れからくる焦りからか、それとも淫毒と思しきその甘ったるい匂いにあてられたのか、千崎の思考は少々高揚し、浮足立っていた。先の猟兵の有様を見る限り、長くこの場にいる事は、状況を悪化させるだろう。

 重ねて言えば、群れる触手に対し、千崎が実行できる有効な選択肢はそう多くはなかった。
 こん棒での殴打は元より、拳銃での応戦でさえ、ユーベルコードの使用を前提にしたものか、もしくはほぼほぼ捨て身でなければその効果は薄いだろう。
 故に、今できる事は、先行する猟兵の為の枝払い――多方向から迫る触手を打ち払う援護こそが、自身に出来る最善の行動だと千崎のUDCエージェントとしての経験が告げていた。

――…少し、歯がゆいですが。

千崎は心中で、そう、呟いた。


「遠隔操作型のドローン……いや、強化型外骨格に、婦警が一人」
 今更警察が介入してくる筈ないのですがね、と小さく付け足して。二人の猟兵を前にして、男は指をパチリと鳴らす。呼応するかのように触手の群は男の右腕に集い、絡み、うねり、伸びて――

――男の右腕から長く伸びるは、紫紺で編まれた異形の蛇。
 巨躯ゆえに腹は地面に接してぬらりと淫毒の跡を残し、頭はゆうらりゆらりと揺れながら猟兵達の姿を捕える。されど、その頭には目も口もなく、あるのはただただ相手を捕えんと揺らめく触手があるばかり。

「――喰え」
 男の言葉をきっかけに。
 蛇が這いずるが如く身体をうねらせ、猟兵達に襲い掛かった。

「――させません!」
 同時。トリテレイアが盾をかざし、紫紺の大蛇に向かって駆ける。
 盾と機械騎士自身の巨躯を用いて大蛇の進行を食い止めると、絶対に外しようがないその距離で、身体に内蔵された銃器を眼前の敵へと向けた。
 狙うは自身のユーベルコード【超低温化薬剤封入弾頭】による触手の凍結。柔軟性を失いさえすれば、物理に対する耐性も意味を為さない。

「氷の剣や魔法ほど華はありませんが……武骨さはご容赦を」
 機械騎士の胸部と肩部から放たれる特殊弾頭。全弾が命中、炸裂すると、蛇の巨体が白く染まり、彫像と化し――

――た、次の瞬間。
 凍った表層を破り、その強靭な生命力で、伸びた触手が新たに機械騎士の前に生い茂る。
「……外部からでは凍らせきれませんか……!」
 分離した状態の眷属に対しては、トリテレイアの戦術はおおいに効果を発揮しただろう。しかし、巨体に対して撃ち込まれた超低温化薬は肉体を凍らせきる前に、その多くのエネルギーを空気に奪われ、その本来の力の半分も発揮できていなかった。

――ならば、内部から凍結させるまで!

 掃射による攻撃は効果が薄いというのなら、直接体内に打ち込むのみ。超低温化薬を敵内部にて炸裂させたなら、そのエネルギーは余すところなく対象の身体を凍結させるだろう。トリテレイアは己の胸部から取り出した特殊弾頭を拳の中に握り込んで。
 そのまま蛇の頭部に突き入れんと、その腕を振るいあげた――


 それは千崎が援護射撃の為、状況を俯瞰して観察する事が出来た事、そして、千崎自身のユーベルコード【拳銃操法】が超視力を得る類の力であった事、その二つがなければ気が付かない程に、細やかな変化だった。

「……笑ってる?」
 トリテレイアの拳が振り下ろされる――自身に対しての攻撃が行われる直前。
男は、確かに笑っていた。


 この話の結論から言えば。
 触手に対するトリテレイアの攻撃は有効だったと言えるだろう。
ただしそれは、攻撃が成功する事を前提とした話。

 男の声が響く。
「パープルテンタクルズ、この眷属の最大の特徴は対象を捕縛する能力にあります。彼らの抱擁は何物をも殺さない程度、そして、何物をも逃がさない程度の力の加減を有しております。即ち――」

「――アナタのような、中々壊れない玩具が欲しかったのですよ」
 千崎の目には、触手で構成された蛇――その頭部には逆さ吊りにされた機械騎士、本来であればあり得ない筈の光景が、広がっていた。
 反撃せんともがく鋼鉄の巨躯を触手は器用にあしらう。この状況でトリテレイアが銃火器を使用すれば、仲間の猟兵に被害が及ぶことは想像に難くなかった。

 攻撃の隙をついた捕縛。理屈の上でなら可能だろう。
 だが、百戦錬磨の機械騎士が、その馬力からしても一介の眷属に後れを取る事など普通に考えればあり得ない。
「邪神が、何故信者を得ようとするか分かります?」
 この状況を楽しんでいるのだろう。疑問に答えるかのように、男は軽妙に話し始める。
「そうあれかしと人は望み、望みに答え神は在る。それは邪なものとて同じこと。例えば、彼らが『淫毒』と称するこの物質も、その効果を望むが故に影響を及ぼし、服用者の望みを叶えているにすぎません。このイマワ市は、そういう理で動いている。故に信者は邪神の力を定める、その源泉とも呼べるのです」
 逆もしかりですけどね、と、男は小さく付け足した。

「――ッ! 今助けます!」
「離れてください! 今、私の傍にいると危険です!」
 男の言葉など聞こえていないと、千崎は叫び、トリテレイアが離れろと答える。だが、何方にせよ離れたところで、男はみすみす眼前の猟兵を逃す程甘くはないだろう。
 千崎は機械騎士に絡みつく触手に狙いを定めた。
 一発。
 二発。
 銃弾を撃ち込まれようとも、機械騎士に絡む触手はビクともしない。

 男は話を続ける。
「そうあれかしと、否、そうであれと人が現実を定めるならば、現実の方がその形に歪む。鋼鉄の巨躯とこの身一つで張り合えると狂人の如く信じるならば、鉄塊の如きその身体を退ける事が出来ると心の底から神の恩寵を信じるならば――」

「どこか、何処かに、弱点があるはず……!」
 男の言葉など意にも返さず、千崎は盾を前に出して蛇へと詰め寄り、腕を突き入れ銃弾を撃ち込む。
 三発。
 四発。
 小さな銃弾如きでは大蛇の巨躯はびくともしない。

「――それは、現実のものとなる」
 それでは、さようなら。男の別れの言葉と共に。
 千崎の頭上に、機械騎士の巨躯が振り上げられた。

……。

 仲間の猟兵を玩具のように咥え、振り上げられた蛇を眼前にする。その死の直前とも形容できる状況を眼前にして。
 千崎・環は不可解な事に冷静だった。

「…………」
 触手の群に対し、彼女の弾丸は悲しいほどに無力。
 仲間の猟兵を助けるどころか、敵に満足にダメージを与える事すらできなかった。
 彼女は無力だった。眼前の触手に対しては。

 ……そう、触手に対しては。

「……今度は、外さない」
 放たれた、五発目。最後の弾丸は――

――男の持つ携帯電話を、確かに、撃ち落としていた。


「ッ!?!?!?!?ななななななななんて事を?!」
 予想外の事態に、今までになく激しく動揺する男。
 慌てて触手の群からその右腕を引き抜くと、携帯電話を拾い上げ、その状態を確認する。
「……ああ、よかった」
 壊れてはいない事を確認できたのか、ほぅ、と吐かれた安堵のため息は――

――完全に凍結した『蛇』が崩れ逝く轟音に掻き消された。

 男が、振り返る。
 凍り付いた触手を腕に纏わせる『トリテレイア・ゼロナイン』。
 決して外さぬとに銃口を向ける『千崎・環』。
 もはや、男を彼ら二人の猟兵から護るものは何もなく。

「…おそらくは邪教の関係者と思われますが――」
「そこの男、動くな!」

「「――貴方の身柄を、拘束させて頂きます!」」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『■/■:プロトコル「不完全な儀式」』

 猟兵達の活躍により確保され、膝を床についてぐったりと俯く男。
「ああ、この身体はもう少し使いたかったのですが……」
目を伏せたまま残念そうに、誰に言うともなしに呟くと。
『……仕方がありませんね』
 続けるように、初めて携帯電話の向こうから聞こえた声。
 それは紛れもない、目の前の『男』のものであった。

「……あれ?」
 同時に、目が覚めたように男が顔を上げる。
 猟兵達を見上げるとあんたら誰? と、小さく呟いて。
 きょとんとした表情で周りを見回すと、混乱したかのように言葉を続けた。
「ちょ、ちょっとまって、俺、何でこんな所に―――」

『プロトコル「不完全な儀式」の開始――』
 憑代に対し、データーのインストールを開始します。
 そう、男の言葉を遮るように、携帯電話が呟いて。
 同時に、男の形が歪んだ。
「――いぎっ!? 何だ!? 何だよコレェ!! 痛い、痛いいたいいたいいたいいたいいたい!!!」

 ぼこり、ごきり、めきめきと。肉は膨れ。骨は歪み。
 叫び、唸り、猟兵達の眼前で異形へと変じていく男。
「イギィ、イギダイ、死ニ゛、死ニ゛ダギナイ、イアダ、イア、イアダァァァァァァッ!!!!!」

『インストール、完了。』
 何も、問題はありません。

――。

「……ウォ、ウォマエ、ウォマエラァ―――ッ!!!」
 頭の膨れた異形が叫ぶ、人としての意識は既になく。
 もはやソレは、人の最もドス黒い欲望のままに動き、その手に在る『使役者』に操られるただ一体の駒に過ぎなかった。

「――ゴロジデ!」
 手にした経典から燃え上がる焔。

「――オガジュデ!!」
 胴から伸びた触手が虚空を割く。

「 ミ ィ ン ナ ミ ン ナ、 グ ッ デ ヤ ル ! ! !」

 顕現せしは『邪神:頭の膨れた人間』、呪詛にも似た欲望の言の葉をまき散らし――

 ――穢れた邪神が、猟兵の前に立ち塞がった。
朝霞・蓮(サポート)
●キャラ
人間の竜騎士 × 探索者 17歳 男
口調:(僕、呼び捨て、だ、だね、だろう、だよね?)

●戦い方
至近:アイテム『百膳』を使用して切り結んだり、竜言語で身体強化して格闘したり
近中:槍投げしたり銃で射撃。その時に機動力を求められるなら竜に騎乗
遠:攻撃手段がないので接近

●その他できること
錬金術でいろいろ

●長所
探索者として狂気に免疫があるので逆境に強く、恐怖と威圧に動じない

●短所
詰めが甘く、天然

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用
多少の怪我は厭わず積極的に行動
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「ウ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 猟兵達の眼前で、怨嗟のままに吼え猛る邪神。
 双子龍を携えた竜騎士――『朝霞・蓮』は、その目に見える程の威圧の中、一人先駆けていた。その手に携えたるは超常の力を宿せし刀『百膳』。邪神はとっさに胴の触手を重ね合わせ、己が身を護る盾とする。
 銀の軌跡が閃いて、触手の防御ごと邪神の胴を薙ぎ――

 ――バラバラと、盾とした触手が地に墜ちた。
「ッ!? ウ゛ァ゛ッ、ウ゛ア゛ォ゛ッ!?」
『……アーティファクト、ですか。厄介な代物です』
 決して芳しくはない状況に、邪神の使役者は思考する。
 早々に受けた決して小さくはない被害。あの刀はおそらく何らかの特異性を帯びたアーティファクト。こちらから有効な攻撃を行えない以上、このまま戦闘を続けても――

――問題はない。

 【異形なる影の降臨】――かの能力により、瀕死になればこの傀儡の戦闘能力は上がる。どうせ『コレ』は捨て駒だ、このまま攻撃を続けるようならば、止めを刺す直前が最高の好機となる。

 邪神は猟兵に対し、何も手が無いようにあえて距離を取り、構えた。
 無論これは演技。狙うは、刀も振るえぬ至近距離での『力』の発動。猟兵が再度距離を詰めてきたならば、そして、邪神を瀕死に追い込むまでの攻撃を繰り出してきたならば。その時が、相対する猟兵の最期となろう。

「……アナタの能力には『発動条件』がある、違いますか?」
 動じることなく、朝霞は静かに邪神に問うた。
 そのまま、独り言ちる様に言葉を続ける。
「アナタは今まで能力を使用していない。故に、攻撃型の能力ではない」
『百膳』の刃先を鯉口に当て、言葉を続ける。
「今の攻撃で発動しなかったところを見ると、攻撃を受けた場合に発動するものではない。仮にそうだったとすれば、無駄と分かっていても能力を使用して防御するはずですから」
『……仮にそうだとして、それがなんだと?』
「つまり、私の攻撃は」

『―――っ!?』
 朝霞の言葉と共に。
 邪神の影に浮かび上がるは光り輝く『封』の文様。
 それは、古き神々による言の葉の理。
 かつて、古き鬼が真名を言い当てられ力を失ったように。
 かつて、子を求む妖精が名を言い当てられ去ったように。
 朝霞のUC【達人の智慧】により――

――邪神の力は封じられた。

「既に、終わっているという事です」
 チン、と、『百膳』の鞘が鳴った。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ(サポート)
「私の力が必要なら喜んで手を貸しましょう」
「人々を傷つけるというのであれば、私が斬る」
「護る為ならば、この命惜しくはありません」

◆性質
『暗黒』と呼ばれる闇の力を操る黒騎士。闇を纏った冷たい風貌から誤解されがちですが、人々を護り抜くという強い信念を持っている隠れ熱血漢。味方には礼儀正しく優しく接しますが、敵には一切手加減せず非情です。無茶な行動や自己犠牲も必要と判断すれば躊躇しません。

◆戦闘
『暗黒剣ダークスレイヤー』と共に力任せに暴れます。ダメージや怪我を恐れず、代償を伴うユーベルコードの使用を躊躇しません。非戦闘員が戦場にいる場合は護衛・救出を優先します。



「――人々を傷つけるというのであれば、私が斬る!」

 狂飆の暗黒騎士――『セシリア・サヴェージ』はその銀髪をなびかせながら、『暗黒剣ダークスレイヤー』を携え駆ける。疾風のような身のこなしで一気に邪神の懐まで詰め寄ると、諸刃の暗黒剣を振り払った。
 とっさに経典を構え、防御する邪神――だが、それは斬られたというには余りにも暴力的だった。巨岩が激突したかと錯覚させるような衝撃にたまらず態勢を崩し、後退した。

『……基本性能が違い過ぎる……!』
 邪神『頭の膨れた人間』――その基本的な身体能力は、他の邪神と比較して決して高いものではない。一時とは言え【異形なる影の降臨】の封じられた現在、セシリアの力任せに振るわれる刃に為す術はなく、その身体は徐々に傷つき、じりじりと後ろへ下がる。

――今が、好機――!

「殺意が……私を黒く塗り潰す」
 邪神の能力が封じられた今、反撃の心配をする必要はないとみて、セシリアは自身のユーベルコードを起動させる。ユーベルコード【血に狂う魔剣】――それは、自身の理性を代償に『暗黒剣ダークスレイヤー』の封印を解き、一騎当千の力を得る能力。
 禍々しい、焔にも似た黒い揺らめきが暗黒騎士の身体を包んだ――

――邪神の眼前に立つは、己の命すら意に介さぬ闇の化身。
 もはや、不完全な邪神に、勝ち目などありようがなかった。

 矢継ぎ早に放たれるは暗黒の刃の嵐。
 暴風のように吹き荒ぶ攻撃に、邪神の身体は刻まれ、削られ、その部位を失っていく。
 胴から伸びた触手は、既に一本も残っていない。
 右腕も既に失われ、残るは経典を握る左腕のみ。
 紙一重で経典で防御しつづけるも、いつまでも持つはずもなく。
 大きく振るわれた一撃に邪神はバランスを崩し、続く斬撃に吹き飛ばされた――

――邪神の使役者は思考する。
 かの猟兵達の理性をも超えた強い『意思』は、淫毒なる小手先の拙い手も、『力』無しの傀儡の身体能力も通用しないだろう。これ以上の無策な戦闘は得策ではない。

――今、使うべきか。

 使役者は今、決断を迫られていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
意志が力となる理…『虚構元素』
敵味方を問わずその類の力をこれまで幾度も目撃しましたが、やはり演算と論理を恃む私とは相性が悪いですね…

ですが退く理由にはなりません
利用されたと思しき男性の為に、背後の存在を捉える為に

いつかの攻略本は…敢えて無視し銃弾や打撃も攻撃手段に
戦闘リスクは上がりますが、有効打だからと他の選択肢の模索を放棄する理由にはなりません

センサーの●情報収集で敵味方の位置を把握
眷属に捕縛されぬ為スラスターでの●スライディングで素早く躱し、●怪力の武器●なぎ払いで一掃

教典の向きから炎を●見切り回避し、目潰しとして盾を投擲
本命はUCでのロープワークと電撃の拘束
そのまま引き寄せ教典を攻撃



――意志が力となる理…『虚構元素』。

 これまで数多の世界を渡り歩いてきた機械騎士――『トリテレイア・ゼロナイン』にとって、その類の力は珍しいものではなかった。世の理を捻じ曲げると言った意味合いでは、猟兵達やオブリビオン共の持つユーベルコードも、それに類した力だろう。
 さして珍しいものではない。故に、対処も難しくはない。

 だが、それが『意志』の力によるとなると、少々話は変わってくる。
 演算、論理、幾重に計算を重ね、生きている者の感情にも似た挙動を示そうとも、それは飽くまでも計算の結果、一から十まで観測され決まりきったものに過ぎない。
 そして、どんなに緻密な演算を駆使したところで人間の動向や感情の予想は誤差がともなうものだ。感情、意志、そう呼ばれる人間を構成する要素――それらの余りに不安定・不確定な要素を加味した上でその動向を完全に演算し、予想しきるのは不可能に近い。
 故に、機械であるトリテレイアにとって、『虚構元素』の持つその予測不能な挙動も、観測不能な性質も、決して相性が良いとは言えなかった。

「ですが、退く理由にはなりません」

 利用されたと思しき男性の為に、背後の存在を捉える為に。
 それは、トリテレイアの持つ騎士としての矜持。
 何故インストールされたかも不明なソレは、確かに人間の持つ『意志』とは異なるものかも知れない。だが、その内にあるにも関わらず演算しきれないソレは、『虚構元素』を動かし得る『意志』の力――その萌芽と呼べるものである事は、機械騎士自身も今は知らない。

 邪神を眼前にして機械騎士は思考する。
 『バベル図書館』で入手した『攻略本』の情報――それによれば、眼前の邪神は一定のダメージによりその姿と耐性を変化させると、そう記載されていた。
 だが、眼前の邪神の弱り切った姿はそのような形態変化を行う余裕があるようには見えなかった。当該の情報が虚偽である可能性も含め、有効打だからと他の選択肢の模索を放棄する理由にもならない。

――戦闘のリスクは上がりますが……。

 キュイン、と小さく音をたて、機械騎士のセンサーが周囲の状況、敵味方の位置情報の収集を開始する――

    〓SEARCHING〓

――現在、友軍は先行して攻撃を行った近距離攻撃型の猟兵が二名。
 敵性対象に対し、遠隔攻撃を行っている友軍は確認できません。
 敵性対象は友軍の攻撃により前方へ移動し、近距離攻撃の射程外に存在。
 遠隔攻撃を行えば、追撃する猟兵へのフレンドリーファイアの恐れあり。
 敵性対象への接近、および近距離攻撃を推奨――。

 状況解析を終えた機械騎士は、スラスターを起動させ邪神に向かって駆ける。
 これ以上近づけさせまいと邪神は経典から炎を放つも、トリテレイアは当たる直前に態勢を変更、スライディングする機械騎士の上方を火球は通り過ぎ、後方の壁を焦がして消えた。

「その攻撃は、既に予測済みです!」
『……ぐっ……』
 トリテレイアの言い放った言葉に、もはや迎撃は不可能と判断したのだろう。迫りくる機械騎士に対し、邪神は残された左腕で防御の態勢を取る。トリテレイアもまた防御されることは織り込み済みだったのだろう、そのまま邪神に鋼鉄の巨躯を衝突させ――大きく手にした盾で薙ぎ払った。
 もはや、傷ついた身で機械騎士の馬力に抗えるわけもなく。

「アギィッ!!!? ……イ゛ガッ……」
 もはや、満足に防御しきる力も残されていないのだろう。
 邪神の身体が宙に舞い、そのまま地面にたたきつけられた。

……。

 苦境の中、邪神の使役者は思考する。
 『不完全な儀式』によって造られた邪神の基本性能は決して高いとは言えない。このまま苦戦が続けばこの傀儡も簡単に壊されてしまうだろう。切り替えしの手段も、あるにはあるが――

――最大限の効率で発動できなければ意味がない。

 心中で呟く。
 飽くまでも今回の戦闘は試験運転。中途半端な状態で起動したところで何の意味もない。必要なのは敵戦力の適正な把握と、傀儡にかけられた封印の解除。
 なれば距離の離れた今が好機、一旦敵の視界から外れ、態勢を立て直さなければ。

 機械騎士の方を見れば、かの者が手にしていた盾をこちらに投擲するのが見えた。
 問題はない。弱った傀儡の身体でも、この程度は避けきれる。
 そう判断し、使役者の操る傀儡は盾の当たらぬ前方へと身を投げ出した――

――身体に、ワイヤーの感触を感じた瞬間。
 この時、使役者は完全に理解した。自身がもう、詰んでしまっている事に。

「少し、大人しくして頂きます!」
 防御する余裕も、回避する時間もなく。
 強烈な電撃がワイヤーを伝い、邪神の身体を駆け巡った!
「ア゛ギガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…ッ!!!!」
『――――――ッ!!!』
 邪神とその使役者は、痛苦に耐え切れずに叫びをあげる。
 満足に抵抗できぬまま、ワイヤーが巻き取られ機械騎士に引き寄せられ――

――鋼の拳が、邪神の力の根源たる経典を穿った。

 ……。

 邪神の使役者は改めて思考する。
 床に倒れ伏した邪神は、もはや指一本動かせず瀕死の状態。
 その手には、もはや動作するかどうかも分からぬ穿たれた経典。
 もはや、攻撃の手段も、防御の手段も、邪神とその使役者の手には残されていない――

『……間に、合いましたか』

――『力』を封じられてから180秒。
 丁度今、この時までは。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●『虚神鋳造プロトコル「唄騙り」』

『――プロトコル「唄騙り」起動』

 邪神の手に在る携帯電話――使役者の言葉と共に。
 吹き出したおぞましい輪郭の影が邪神の身体を包み込み、新たな肉体を形成する。
 其処までであれば通常の邪神の能力の範囲内。【異形なる影の降臨】によるものに過ぎない。
 ……だが。

 ……『唄』が、響いた。
 透き通る叫び声のような、転落する間に漏れる呟きのような、美しい声だった。
 呼応するかのように辺りにわらわらと這いずり出でる、紫紺に染まった触手の原。

 猟兵達の眼前で、何かに導かれるかのように。
 穢れた眷属はおぞましい輪郭の影にまとわりつき、その触手を蠢き、絡め、纏わせて――。

『三位一体――』

 蠢く紫紺の胎の中、携帯電話――使役者が語り始める。
『――世ではごたごたとデコレーションされておりますが、異土の地の神と現世の生物、そして入力する制御命令を表した言葉です。噛み砕いて言えば操り人形が操り手の意思の元でまるで生きているかのように振る舞うように、思想や己の力の一部を用いて異土の神々が現世の生物を己の意のままに操る制御・顕現プロトコルとでも申し上げればよろしいでしょうか。もっとも、現実の設定を現実に生きる者が完全に理解する事が無いように、これが本当か嘘かどうかは私には判断付きかねますがね』

『そして、何もこのプロトコルは単一の神が用いるものでは御座いません。邪神の呼ばれるかの者共も同じく神と呼ばれる身。神の力を注ぎまれその一部を顕現した器たる存在――人の信じる神であれば使途や御遣い、そして、邪神であれば眷属と呼ばれる者達――は、アナタ方もご存知の通りだとは思います』

『我々の技術は、邪神そのもののデーター化および、かのプロトコルで使用される制御命令を上書きしその主権を我々へと書き換えるもの。これにより我々は眷属を僕とし、不完全ながらも邪神の力を流用する事に成功いたしました。素晴らしいとは思いませんか? 人類は火から文明を起こし、また邪神の力によって新たなる一歩を踏み出すのです!』

『……とはいえ先ほどの戦闘からもお察しの通り、我々の技術は所詮不完全なもの。少しばかりかの者らの力を行使できたとしてもそれは蟷螂の鎌、「完全なる邪神」に対抗する程の力を我々は持ち合わせておりません。故に、我々が望むのは、「完全なる邪神」をもしのぐ人に造られし邪神――いえ、邪な自我など我々には必要ありません。望むのは己を持たぬ虚ろなる神、「虚神」とでも申しましょうか。かの存在を鋳造する事。これは、その試作の試験戦闘となります。皆様のご協力――』

『――まことに、感謝いたします』

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――――――――ン……」
 タンカーの警笛のような、地の底にまで響くようなうなり声。
 影を素として触手により形成された巨躯、申し訳程度にその頭部には『頭の膨れた人間』の名残が残る。その巨躯ゆえにはんば這いつくばる様に、精製されたソレは虚ろに猟兵達を見下ろして。
 眷属と邪神を組み合わせたそれは、邪な本性さえ持たぬ虚ろな存在――

――虚神『頭の膨れた人間』が、猟兵達の前に立ちはだかった。
アイ・リスパー

「くっ、先程は触手ごときと油断しましたが……
今度はそうはいきませんっ!」

ようやく頭がハッキリしてきました。
……まだ腰が立たないので座り込んだままですが、低級な邪神ごときに遅れはとりません!

「あなたも炎で灼き尽くしてあげますっ!」

電脳魔術【マックスウェルの悪魔】を再起動、炎の矢で攻撃しますが……

「って、炎が吸収されましたっ!?」

しまった、相手は炎を操る邪神。炎では効果がないという事ですか!?

身動きができないところに邪神の落とし子が迫り……

「きゃっ、きゃああっ!」

淫毒の効果が残り、いまだ火照った身体に落とし子が絡み付いて……

「せめて……一撃……」

堕とされながらも氷の弾丸を邪神に撃ち込みます。



 恍惚の中で、ようやくはっきりとしてきた意識。
 少々淫毒の効果残る中でも、電脳の天使――『アイ・リスパー』は、眼前の邪神、否、使役者ののたまう「虚神」に憤っていた。

――先程は触手ごときと油断しましたが……。

「今度はそうはいきませんっ!」
 少女は自らを奮い立たせるように叫ぶ。
 されど、男はその様子を一瞥するも、此方を警戒するという事もなく――その侮った態度が、更にアイの逆鱗に触れた。
 確かに、未だ淫毒の影響で体の自由は効かず、その場から動くことも出来ない。
だ が、その程度で『低級の邪神』に後れを取るアイではなかった。

 【マックスウェルの悪魔】起動――

 ――エントロピー・コントロール・プログラム、起動します。

 開始される情報演算と共に、少女の上部の虚空に生成されるは数多の炎の矢。
 眼前の敵を燃やし尽くさんと、煌々と輝きを放つ――
「ん……くぅ……っ❤」
 ――同時に。
 情報演算の影響で淫毒の効果も増し、少女の身体を襲った。
 思わず声を漏らすも、だが、まだ耐えられない程ではない。
「…くっ、あなたも炎で灼き尽くしてあげますっ!」
 快楽を堪え、いけ! と掛け声をあげる少女。数多の炎の矢は、吹き荒ぶ雨のように、嵐のように、全てを薙ぎ払う暴風となって、虚神に向かって放たれた――。

――って、炎が吸収されましたっ!?

 思いもよらぬ眼前の光景に、アイは動揺する。
『……大人しくしていなさい』
 どうでも良さそうな男の呟きと共に、放たれた炎が渦を巻き、壊れかけた経典へと吸い込まれる、悪夢のような光景。元々相手は炎を操る邪神、ならば、それを無力化したとしてもおかしくはない。正確には、その力を持つ経典自体は先に猟兵によってダメージを受けてはいたが、 焔を吸収する能力は完全に失われてはいなかったらしい。

 ならば今度はと、アイが第二の矢をつがえる前に。
 既にその両足は、伸ばされた落とし子の触腕によって掴まれていた。

「きゃっ、きゃああっ!」
 触手状の落とし子を組み入れて、蛇のように変形した虚神の腕――長くのばされたソレによって、身動きの取れないアイはあっけなくその身を絡め捕られ、抵抗空しく腕の持主の元へと引寄せられる。

「や……ぁ……っ!」
『淫毒に侵されながらも頑張りましたね。しかしながら、アナタからは有効な戦闘データーはもう採れそうにありません。命までは奪いませんので、諦めて頂けると助かるのですが――』
 諭すような口調で少女を侮る男の言葉――反骨して、アイの心がいきり立つ。

――せめて……一撃……っ!

 堕ちゆく心に抗うように、自らの使命を貫くように。
 再度アイは【マクスウェルの悪魔】を起動する。炎が駄目ならば、その逆を試すまで。
 邪神の懐、至近距離から放たれた極低温の氷の弾丸。
 白く輝くその軌跡が、経典を完全破壊した――

……。

 完全に不意を突かれた攻撃に、男は静かにアイの行動を褒めたたえる。
『……今の攻撃は、少々驚きましたよ。わざと懐に潜り込み、弱点と思しき点を狙う。素晴らしき判断力です、感服しました。……もっとも』
 もう、聞こえていないでしょうけれど。

「~~ッ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」
 ――声にならない叫びをあげ、少女の身体が弓なりに反る。
 アイの身体を貫くは、耐えがたき電撃のような甘い甘い快楽。
 【マクスウェルの悪魔】の使用に伴う高度な演算処理は、その身を侵食する淫毒の快楽をも、より効果的にアイ自身の身体へと伝えていた。電脳の存在と言え二回目のソレは、もはやその情報量は処理しきれるものではなく。

――……も…ぉ……あたま……まっしろぉ……❤

 処理能力を超えた快楽に、完全にショートする少女の思考。
 紅潮した白い柔肌には汗の玉が輝き、淫毒と共に滴り落ちる。吐息は熱く艶を帯び、抵抗する力も失ったアイの身体に、虚神の一部と化した落とし子共の魔手が迫った……。

「……ふー……っ…❤ ……ふー……っ…❤ ……や……ぁ……❤」
 淫毒の粘液にべっとりと塗れた衣服は未発達の肢体を強調するかのように貼り付き、てらてらと光沢を帯びる。四肢に絡んだ触手は他の猟兵に見せつけるかのように少女の身体を持ち上げ、そのまま、その肉体を味わうように絡みつく。
 ぬちゅりと触手がゆっくりとその身体を這いずる度、少女は小さく嬌声をあげ、抵抗するかのようにもじもじと体を捩る――否、それは既に抵抗ではなく、ただ、これでは物足りないと快楽を貪る為の行動であることを、その切なげな表情が物語っていた。

 完全に堕とすつもりなのだろう、更に淫毒を齎さんと口元に触手が伸びる。
「ふぁ……? ぁ……は……❤」
 忌むべきはずの眷属を前にして、大好きなお菓子を与えられた子供の様に、アイの顔に崩れた喜びの表情が浮かぶ。蕩け切った笑顔でからかうようにちろちろとその先端を舐めあげて――躊躇いもなく口に含んだ。
「……ん……ちゅ……❤ ……んん……っ❤ んく……っ……❤」
 むちゅると音をたて、貪る様に咥内の触手と舌を絡めて。流し込まれる淫毒にこく、こく、と白い喉を鳴らして。うっとりと、恍惚とした表情を浮かべるアイ。熱に浮かされた虚ろな紅玉の瞳に、既に一片の光もない。

「ぷはっ……❤ しょくしゅ……にゃんかにぃ……まけないんだからぁ……❤」
 ろれつの回らない抵抗の言葉。だが既に少女の意思はない。
 それは、抵抗すれば更に快楽を得られるという、欲望が故の反射反応。
 少女の欲望に答えるかのように、絡みついた触手はとうとう少女の奥を蹂躙せんと、服の中へと這いより――

『その辺にしておけ』
 ――留めたのは、怒気を孕んだ男の言葉。
 その意のままに、虚神は拘束するのに最低限の触手を残し、少女に這いよる触手を退ける。

 使役者にしてみれば、既に十二分に無力化した対象を更に辱める行為などただのリスクでしかない。拘束した今、これ以上の行為は無用と判断したのだろう。その巨躯――携帯電話の在る胸部付近に少女を絡め捕ったまま、虚神は猟兵達に向き直った。
『もう十分でしょう。我々の目的は戦闘のデーターを取ることにあり、辱める事ではありません。もっとも、これも試行すべき能力の内の一つですので――』

 淫毒によって齎される恐怖・欲望。
 そのどちらでも構わない。
 重要なのは、眼前の敵に十二分にそのイメージを植え付ける事。

『――活用されて頂きますがね』
 虚神の使役者は猟兵達の眼前で、静かに嗤った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

茜谷・ひびき
チッ……この男はただの被害者だったのか
こうなっちまったら倒すしかない
……凄く嫌な予感がするけど、行くしかない!

どこかの図書館であいつに関する情報は見た気がする
そうすると……多分俺との相性はさっきのテンタクルス以上に悪いな
出来る事をして削っていくしかないか

刻印を起動して腕を殺戮捕食態に
そして【ダッシュ】で接近して一気に食らいつくぜ
仲間がつけてくれた【傷口をえぐる】ように【怪力】も乗せた拳でぶん殴る
下手に半殺しにすると厄介だ
出来る限り畳み掛けて、余計なことをさせないうちにぶっ殺すぞ

もし怪しい動きが見えたら【オーラ防御】でしっかり身を守る
……あの経典は何だろう
気になるけど、構う暇はないかもな


アレクシア・アークライト
・UDCからの応援

あの声が本当のことを言っている保証なんて何処にもないけど……自己顕示欲の強い奴であることを願うわ。

・3層の力場を情報収集用に展開し、敵の動きや力の流れを把握。残りの力場は防御に回す。
・UCで携帯電話への電磁波を遮断又はその回路を破壊(後者は回収を諦めることになるため次善策)。虚神への使役者の制御を外すことで隙を作り、念動力で人質を救出する。
・救出できたなら、敵の攻撃を見切って接近し、UCを集束した攻撃を叩きこむ。

眷属に対する制御の奪取――。
その技術も確かに凄いけど、むしろ私は眷属の見つけ出し方に興味があるわね。
そうすれば、予知だなんて不安定なものに頼る必要がなくなるもの。



●すべて変えて差し上げます

――あの声が本当のことを言っている保証なんて何処にもないけど……。

 対UDC組織からの応援で駆け付けた、サイボーグのUDCエージェント――『アレクシア・アークライト』は、その紅い瞳で眼前の虚神を見据えて思考する。
 仮に、もしあの使役者が真実を語っているとすれば、その情報はそれなりに役に立つ。
 先ほどまでの行動を考えるに、その倫理観は別として話自体はできる相手だ。それならば。

「眷属に対する制御の奪取――」
 仲間である猟兵を取り込み、戦闘態勢に入った虚神。
 その巨躯を前にして、アレクシアは言葉を紡ぐ。

「――その技術も確かに凄いけど、むしろ私は眷属の見つけ出し方に興味があるわね」
 その『技術』のお話、聞かせてくれないかしら?
 対峙している虚神の使役者の自己顕示欲が強いことを願いつつ、アレクシアは眼前の異形に向かい、問いかけた。

『――おやおや、我々の技術に興味があるのですか? 素晴らしい質問です。お嬢さん』
 アレクシアの質問が、よほど彼の自尊心をくすぐったのだろう。
 あっさりその傀儡の戦闘の構えを解くと、虚神の使役者は勿体ぶりながらも赤髪のUDCエージェントに対し、彼の持つ『素晴らしい技術』の説明を始めた……。

『お答えしましょう。先にも申し上げた通り、邪神と呼ばれる存在が、信者・贄を必要とするのは、自身の存在を信者の願いと言う意思で固定化し、現世に適応した肉体を得る為――少なくとも、このイマワ市内ではそう――ですが、これらの存在を確保するための先駆けとして眷属が存在します』
 同調する虚神の演技じみた手ぶりを合わせ、使役者は言葉を続ける。
『彼らの役割は主に心身ともに人間を堕落させるか、もしくは自らと同じ眷属へと変える事。これは憶測ですが、そちらの方が邪神顕現に必要とされる贄としては都合が良いのでしょう』

『そして眷属もまた異土の地の存在である以上、邪神と同じ方法を用いて召喚する事が可能です。当然、彼らの肉体を構成する為に最低限の「十分に堕落した贄」は必要ですがね。重要なのは眷属を発見するのは確かに労力がかかりますが、邪神により堕落しきった人間など何処にでも存在するという事です――』
 眷属を召喚するには「十分に堕落した贄」が必要。
 邪神の力で堕落しきった人間など何処にでもいる。
 その使役者の言葉の意味は、つまり。

『――此処に、「12人」存在したようにね』
 まぁ、6体は既に消費してしまいましたが。そう、事も無げに男は言い放った。

 ……何が、技術だ。
 グールドライバーの青年――『茜谷・ひびき』から怒気の篭った呟きが漏れる。
「やってることは邪神共と同じじゃねぇか……!」

 対峙していた男はただの被害者の一人だった事。
 そして、この場にいた人間を贄として使用した事。
 技術と称した非道な行いに怒りで震え、声を荒げる茜谷に対して、使役者は諭すように言葉を続ける。
『いえいえ、我々は常に全体の利益を考え、人々の願いを叶えるために行動しています。この男にせよ、此処を拠点にしていた教団にせよ、彼らは淫毒より精製されたドラッグを用いて人々を堕落させる、はっきり言って不利益な存在でした』

 人を人とは思わぬ、仰々しく虚神による手ぶりを添えた説明、慇懃無礼なその所作がかえって茜谷の神経を逆なでする。
『仮に私がアナタの仲間に対して行った行為を指して発言しているのであれば、誤解です。先にも申しました通り、私の目的はあくまで戦闘データ。そして、この試験体に備わっている能力を最大限活用しているだけです。更に言えば、この「淫毒」なる存在はその効能を願う者にしか効力を発揮しません』

『つまり、これ自体も彼女自身が望んだ「だったら」
 茜谷が、使役者の言葉を遮った。
「だったら、あんたは『死にたい』と願う奴がいたら――」

――殺すのか。

 茜谷はまっすぐに眼前の虚神を睨みつけ、問う。
『……私はその方の自由意志を尊重し、その願いが叶うように手助けをするまで』
「……そうかよ」
 問いかけに、端的に言えば「YES」と答えた使役者。
 その返答に、茜谷は想い返していた。
 眼前で全てが炎に包まれ、絶望したあの時の事を。
 それでもなお生きろと救ってくれた彼らの事を。
 人の願いを叶える事と、人の幸せを願い行動する事は決して同一のものではない。 それ故に。
 グールドライバーの青年は、一人の人間として眼前の敵を許せなかった。
 決して許すわけには、いかなかった。

 ……今、分かった。
 茜谷は静かに呟く。
「あんたは誰一人幸せになる事なんか望んじゃいない。ただ他人の幸せを願うふりをして何一つ背負おうとしない臆病者、己の目的の為に他人の不幸を利用する屑野郎だ」

 茜谷の言葉に続き、アレクシアも虚神の使役者に向かい、言い放つ。
「あなたの回答によっては、予知だなんて不安定なものに頼る必要がなくなると思ったのだけど――」
 はぁ、と呆れたようにため息を吐き、アレクシアは言葉を続ける。
「――自作自演では意味がないわね。むしろそんな技術、無い方がいいのではないかしら?」

 二人の猟兵の拒絶の言葉に。
『……どうにもご理解頂けないようですね。残念な事です』
 使役者と同調する虚神は、残念そうに――本当に残念そうに、頭を振った。


●『■/■:記録―試験戦闘』

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――――――――ン……」
 眼前の虚神が唸り声をあげる。腹の底からびりびりと響くそれはもはや音と呼べるものではなく、振動の塊とでもいうべきものだった。

――……凄く嫌な予感がするけど、行くしかない!

 聳える虚神の巨躯を前にして、グールドライバーの青年――『茜谷・ひびき』は思う。こうなってしまっては、何をしても眼前の敵を倒すしかない。
 同時に、脳裏に掠めるのはかつて訪れた奇妙な図書館――その内にあった『攻略本』の内の記載。もしあの記載が正しいものだとすれば、眼前の異形に対し茜谷は非常に相性が悪いと言わざるを得なかった。

「出来る事をして削っていくしかない、か……」
「……大丈夫、好機は必ずあるはずです」
 独り言ともとれる茜谷の呟きに、傍らでアレクシアが答える。
 彼女の念動力により展開された3層の力場。情報収集を目的としたそれは、敵の動きや力の流れを把握し、好機を掴むためのもの。
 防御の為に残りの力場を自らの周囲に展開すると、茜谷と共に眼前の虚神を見上げた。
 問題は二つ。
 一つ目は、あの巨躯に対して弱点――多分、あの携帯電話がそうなのだろう――は極めて小さい。それを考えれば闇雲に攻撃を行ったところで有効打になるとは思えない。
 二つ目、仮にあの巨躯全体に対して有効な攻撃を行おうにも、かの異形の身体には先に囚われた猟兵が存在している。それを考えれば仲間を巻き込むような攻撃は行えない。

 攻めあぐねる中、アレクシアの力場が、虚神の動きをとらえた。
「――ッ! 攻撃が来ます!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――――――――ン……」
 汽笛にもにた唸りと共に、振るわれるは腕と呼ぶには巨大すぎる、絡みあった触手の塊。風切り音と共に迫りくる攻撃を、二人の猟兵は紙一重で躱す――それは、アレクシアの警告と見切りがあってこそ可能な事。
 だが、避けてばかりでは好機が訪れないこともまた、明らかだった。

「俺が先に出ます、援護を頼みます!」
 このままでは埒が明かないと、返答を待たずに虚神に向かい駆ける茜谷。
 同時に、彼自身のユーべルコードである【ブラッド・ガイスト】を起動する――自身の血液を代償に刻まれた刻印を起動、自らの腕を殺戮捕食態へと変形させる。
行く手を阻まんと展開される触手の林、アレクシアの念動力により動きの鈍ったそれらの間を、するりするりとすり抜けて、茜谷の腕が紅く閃く度、枝葉が切り落とされるようにばさりばさりと触手が落ちる。
 紅く輝き鋭く並び立つ十本の刃を携えて、黒き獣は異形の巨躯、その弱点があると思しき胸部へと迫る。
 いくら身体が大きくとも、司令塔は一つ。
 そして声の大きさからして胸部にある事は間違いない。
 ならば、その弱点を、ピンポイントで破壊することが出来れば――

『――当然、そうきますよねぇ?』
 見透かしたように使役者の声が響く。
 同時に茜谷の眼前に現れるのは、先に囚われた猟兵のあられもない姿。
「―――ッ!?」
 仲間である猟兵を傷つける事を避ける為、当然、茜谷は攻撃を中断し――

――その体を、虚神の触手が薙ぎ払った。

 仲間を盾とした卑劣な不意打ち。
 されどその威力は決して軽んじられるものではなく、茜谷は人形のように吹き飛ばされて、アレクシアの傍らにある壁へと打ち据えられる。
「ッ!! 大丈夫ですか!?」
「……大丈夫……です。……ぎりぎりで、防御が間に合いました」
 アレクシアの呼びかけに、ふらふらと立ち上がる茜谷。
 無防備に攻撃を受けたように見えて、彼は直前に自身のオーラで行っていた。とはいえ、そのダメージは決して楽観視できるものではない。
 大丈夫、と呟き立ち上がったその口の端からは、つぅ、と血が一筋流れていた。

――あと少し、だったのですが、でも。

 アレクシアは今、茜谷が攻撃を行おうとした虚神、その胸部を見て思う。
 現在、弱点と思しき携帯電話は見当たらない。だが、味方の猟兵の姿は先の茜谷の 攻撃により露出している。彼女を救出できさえすれば。

―――力場を収束、猟兵の救助を優先します。

 判断を変更し、3層の力場、そして、自身の防御に使用していた分も含めて、囚われている猟兵の周囲に収束させ、そのまま引きずり出そうと試みる。
 アレクシアの念動力により触手の動きが鈍り、囚われた猟兵の姿がある程度引き寄せられ、その半身が引きずり出された。
『……なるほど、仲間の救出を優先した訳ですか。しかしながら、若干出力が足りていないようですねぇ!』
 ――されど、使役者の言葉通り、それ以上動くことはなく。
 かといって無差別にユーベルコードを使えば味方の猟兵さえ巻き込みかねない。そして、今念動力を止めればまた、かの猟兵は虚神の胎内へと引きずり込まれることだろう。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――――――――ン……」
 虚神の唸りが響く。もはや攻撃が来るのは明らかだった。
 力場を再展開しようとも、ダメージを負った茜谷は愚か、アレクシア自身も回避できるかわからない。そして、当然今念動力を解除すれば囚われた猟兵も救い出せない。

 虚神の唸りが響く――もはや攻撃が来るのは明らかだった。

……。

「――おどりゃあああああああッ!!!!」
 ――叫びと共に。
 囚われていた猟兵、その周囲の触手が紅く輝く刃によって抉られた。
 仲間が作ってくれた絶好の好機。力づくでつかみ取るように怪力を乗せた拳でぶん殴り、触手の中から囚われていた猟兵を引きずり出し、腕に抱える。
 先ほど不意打ちを受け、決して小さくはないダメージを受けた茜谷――その怪我は決して癒えている訳ではない。
 されど。

――こんな傷、あの時に比べれば――!!

 その身に備わった激痛への耐性と共に、目的へ対する決意が茜谷の身体を奮い立たせていた。奪い返した仲間を抱え、駆けながら茜谷は思う。
 人の願いを叶える事と、人の幸せを願い行動する事は決して同一のものではない。 それ故に。例え欲望に堕ちる事が、腕の中の猟兵の望んだことだとしても。
 グールドライバーの青年は、一人の人間として眼前の敵を許せなかった。
 決して許すわけには、いかなかった。

『なっ!? 馬鹿な、まともに戦闘が出来るような状態ではなかったはずだ!!』
 狼狽した様子で叫ぶ使役者。これで、かの身を守っていた生きた盾はもういない。
 だが、まだ、近づかせさえしなければ勝機がある。

 そう、使役者が考えた時には、既に。

 抉られた胸部のすぐそばに立つは、紅髪紅眼の女の姿。
「あなたは果たして――」
 アレクシアは静かに微笑んで。
「――ギガボルトの電撃に耐えられるかしら?」
 自らのユーベルコード――【電磁操作】を、起動した。

――。

『ッ!!?? ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛―――ッ!!!!!』
 虚空に、虚神の使役者の叫びが響いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

千崎・環
連携アドリブ大歓迎です!

いきなり怪物に…!?一体これは…。
とにかく何とかしないと!

回転式拳銃の弾丸を再度装填、撃鉄を起こし狙いを定める!けど…他の猟兵が捕まってる状況だと誤射が怖くて撃てない。
しかもあの頑丈な触手と一体化した…警棒も効かなそう。どうすればいい?
…痛いし苦しいし、終わった後に吐き気で死にそうなくらいダウンするけど、体内のUDCの力を使うしかない!
気合いで叫びUC発動、皮膚と服を破り、見に余る巨大な触手が溢れ出す。
後は力任せ。他の猟兵にさえ当たらなければ邪神を薙ぎ払って絡んで引きちぎってやる!
まだ真の姿には遠いけど、こうさせたからには叩き潰してやる!



●『戦闘試験-終了』

「……ウ゛……ア゛……ア゛……」
 巨躯が崩れていく。構成していた眷属共が解け、素早く何処ぞへと去っていく。
 弱点である携帯端末に強烈な電撃を喰らい、操作系統に致命的なダメージを負った虚神。

――せ、とう、データ、タタタタタタ……。

 もはや、操り手にもまともな理性は残ってはいない。
 こうなってしまった今、かの存在はただただデータを求めその力を振るうだけの存在と成り果てた。半分程度にまで縮み、今もなお崩壊し続ける身体を起こすと、猟兵に向かい、力なく腕を振るいあげ――

――銃声が、響いた。
 同時に、腕を構成している触手から小さく体液が吹き出し床を汚す。
『……Na、んで、すすすすすか……?』
 だが、大してダメージはないのだろう。使役者の言葉と共にゆっくりと傀儡の巨躯は、攻撃の北方向を向き直る――その、虚ろな視線の先に在るのは一人の婦警の姿だった。

 崩れかけた虚神を前にして、UDCエージェントの婦警――『千崎・環』は思考する。眼前にありしは突如として変貌を遂げた邪神の姿――かの使役者は虚神と称していた、巨躯のバケモノ。

――だけど、どうすればいい?

 改めて、回転式拳銃の弾丸を再度装填、撃鉄を起こし狙いを定める。
 囚われていた猟兵が解放された現在、他の猟兵を巻き込む心配はない。
 されど今は弱体化しているとは言え、今見たようにあの頑丈な触手と一体化した巨躯に銃撃は効果が薄かった、ならば警棒も同様だろう。

『…けけ、警察?……など、なんのなんのなんの役にもたたななななな……』
 意味のない言葉を呟きながら、千崎の方へと迫る虚神。
 再度銃撃を行うも、虚神の巨躯は全く動じる事もなく。丸太の如きその腕が、婦警に向かって振り下ろされた――。

「――ッ!! うぁあぁあああああああ―――――ッ!!!」

 叫びと共に。
 千崎の皮膚と服を破り、露になる肌を覆い隠して見に余る巨大な触手の奔流が溢れ出す!
 噴き出たソレは虚神の腕を逃がさぬと言わんばかりに絡め捕り、喰らうようにプチプチと音をたて侵食していく。

――…痛いし苦しいし、終わった後に吐き気で死にそうなくらいダウンするけど…。

 千崎は思う、その出自と共に決して好ましいものではない己の力。されど、怪物に相対するにはそれに伴う力が必要なのであれば――今は、この力を使うしかない!

『……い、いたいたいたいたいたいやめめめめめめめめ……』

 侵食される痛みに使役者が悶える。それは明らかにダメージを与えている事を示していて。
「殺さないと……殺さないと……!」

――私が、殺される。

 譫言のように、己の内のソレを漏らすかのように、殺意を呟き続ける。
 UDCエージェントである千崎のUC――【叩き付けて引きちぎる】。
 自らの身に宿す異形の触手で打ち付け、絡み、引き千切る、単純にして強力な力。
 効果が確認できた以上、後は力任せだった。虚神――その一部を薙ぎ払い、絡み、引きちぎって。

――まだ真の姿には遠いけど――

「――こうさせたからには叩き潰してやる!」
 人造の異形に対し、半身の異形は吼えた。

 その身体を薙ぎ払い。
 絡め捕り。
 侵食し。
 引きちぎり。
 そして、叩きつけて。

『あ、あ……や、め、や……め……』
 使役者の愛玩も空しく、虚神のその巨躯は完全に分解されて。


 後には、古びた携帯端末。
 ただ、それのみが残っていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『黄昏の音楽会』

POW   :    気合で関係者を説得して話を聞く。

SPD   :    特技を駆使して情報収集をする。

WIZ   :    魔法や賢い方法で情報収集をする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 『唄』が響いていた。
 何も起こらず、ただただ、『唄』が響いていた。

――トゥールルルルルルン……ルルルン……

 割入るように、コール音が響く。

『はい……こちら………………です』

『戦闘データは……送りました、何も……問題は、ありません……』

『何も………何も……』

 猟兵達の前で譫言のように、携帯端末はただ『問題ない』と繰り返す。
 かの者が壊れかけている今ならば、何か情報を得られるかもしれない。
 されど、早めに止めを刺さなければ何かしらの手段を講じられるかもしれない。

 猟兵達は――



――どうしますか?

【問いかける】
【壊す】
トリテレイア・ゼロナイン
胴部格納部に収納したUC箱状●ハッキングツールを腕に装備
アンカー先端の形状可変合金製ジャックと携帯端末の端子を強制接続●情報収集
出来うる限りのデータを吸い出し
電子的汚染も鑑み自身ではなくツールにデータを蓄積
異常時の強制中断用電子●破壊工作もツールに構築
こうした作業は専門外ですが…やるしかありません

作業しつつ雇用主の事と口走った「全体の利益」の全体とは?と質問

血塗られた技術革新
その結実でもある私/戦機にとって貴方達の試みは否定しきれぬ点もあります
ですがこのビルの惨状
この1点を持って悪と断じましょう
SSWの時代遅れの元銀河帝国の戦機から、UDCアースの恐れ知らずなプロメテウス達への…宣戦布告として


茜谷・ひびき
何が問題ねぇんだよ
問題だらけじゃねーか、この変態野郎

相手の動きはじっと観察しておく
下手に何かしようとしたらすぐにぶっ殺しに行くが……少しくらいなら話を聞けるかもしれねぇな

まずはそのデータとやらで何をするつもりだ
贄を増やす手がかりにでもするのか?
それで眷属を召喚して何をする?
この市で……一体何をしでかすつもりなんだよ

相手が話している時は黙ってようか
どれだけ気に障る事を言われても気にしない
挑発してくる余裕があるかは分からねぇけどな

怪しい動きは見えたらすぐに相手を殺しに行く
誰かに止められたら止めるけど……できればきっちりトドメは刺しておきたい
……こいつが死んでも、きっと手がかりは他にあると思うから



●■■共は、夢の跡。

―――何が、問題ねぇんだよ。

「問題だらけじゃねーか、この変態野郎」
 グールドライバーの青年――『茜谷・ひびき』は打ち倒した敵を前にして、独り言ちるように呟いた。この壊れかけた携帯端末の喋くる事が何にせよ、人命が贄とされ、奪われたことに違いはない。

 外道に染まった敵に対して茜谷は思考する。
 そのデータとやらで何をするつもりなのか、贄を増やす手がかりにでもするのか、眷属を召喚して何をするつもりなのか――駆け巡る疑問は数あれど。

『わた我々ワレワレの望み願望望みははひひひ人の願いをかなかなかなかな……』

――この様じゃ、単純な質問にしか答えられそうにないな。

 一つだけ聞く。
 静かに茜谷は前置きして。
「――お前らはこの市で、一体何をしでかすつもりなんだよ」
 はっきりと、そう、問いかけた。

……。

 しばしの静寂。
 たどたどしくも携帯端末は雑音を交えながら、答え始めた。
『……ワレワレ、のののののの、目的、テキは……「       」召喚のの、礎である堕した人間の駆除による封じ込め……』
茜谷は押し黙り、携帯端末から流れる声を聴いている。
挑発する余裕もないのだろう、ただ携帯端末は淡々と自らの持つ情報を語り続ける。
『……およ、び……封じ込め失敗時に戦力たり得る「キ■■・九九式業力巨大歩兵(仮称)」の製造、その要である眷属確保――この付近にて、同様の作業が予定されれれれれ……』

 同様の作業、その言葉に茜谷が動いた。
「その作業の現場は何処だ? おい、答えろ!」
『……情報開示は不可能。当該情報は個々nO端末の判断に委ねられてイマス』
「――っ、肝心な所は言わねぇのかよ……!」

 怒りに震える茜谷をよそに、言葉を続ける。
『回答ヲ完了。――他に、質問は御座いまスカ?』

 続けて、機械騎士――『トリテレイア・ゼロナイン』が問う。
「アナタが口にした「全体の利益」――その、全体とは誰の事をさしているのですか?」
 機械騎士の問い、「全体」とは誰かと言う問いに、携帯端末が回答する。
『全体、とは、在るべくシて在る全テノ善き人間達。自らノ欲に溺れるコトなく、自らの知ニおごるこトナく、他者の幸せを望むことガ出来る人々全て。彼ラヲ護れと我々は望まレタ』

 淡々と、言葉を続ける。
『故に、いかナる手段を用いても護らなけレバ。それガ、我々に望マレた役目。我らは望マレて此処に在ル――』

 いいえ。
 機械騎士はまっすぐに携帯端末を見つめ、否定した。

「兵器である身では、貴方方の血塗られた技術革新は否定しきれぬ点もあります」
 トリテレイアの装備――彼自身ともいえるそれらは、元々兵器として造られたものである以上、眼前のソレの所業を否定しきる事は難しい。
 されど。

「このビルの惨状。この1点を持って、貴方方を悪と断じましょう。SSWの時代遅れの元銀河帝国の戦機から――」

――UDCアースの恐れ知らずなプロメテウス達への…宣戦布告として。

『……御理解頂けない事、まことニ残念デス』

 残念そうに答える携帯端末、だが、もはや口頭による問答は無用。
 答えることなく眼前の『敵』を手に取ると、機械騎士は自身のユーベルコード【特殊用途支援用追加装備群】を起動した。

 外部干渉に対する不可視の力場を展開――展開完了。

 胴部よりハッキングツールを展開――腕部に装備完了。

 対電子・情報汚染対策用情報保管媒体をセット――セット完了。

 ツール内に、強制中断用電子破壊工作を構築しています――構築完了。

 後残された手順は当該の端末への接続。ともすれば、情報災害や電子汚染の危険のある危険の一手。だが、それは出来うる限りのデータを吸い出し、後々へとつなげる為に。
「こうした作業は専門外ですが…やるしかありません、ね」

 アンカー先端の形状可変合金製ジャックを露出、当該携帯端末の端子と強制接続――

――。

「…………?」
 違和感を、感じた。
 それはまるで、糠に釘を打ち込んだようなまるで手ごたえを感じない感触。

――これは。

 予想外の事態に動かないトリテレイアに対して、茜谷が声をかける。
「気を付けて下さい、トリテレイアさん。こういった奴らは情報災害を仕込んでいる事もありますから。」
「……いえ、その心配はなさそうです」

 それはUDCに対しての経験から発せられた問いではあったが――トリテレイアの返答に、茜谷は怪訝な表情を浮かべた。
 その様子を察したのだろう、機械騎士は言葉を続ける。
「この携帯端末……ただの見本だ。中に何も存在していません」
「……なんですって?」

 機械騎士は、もはや何の特異性もないソレをグールドライバーの青年に手渡す。
 掌に感じる重みは、それが何の変哲もない中空のプラスチックである事を確かに伝えていた。特異性はおろか、これでは通話する事すら叶わない。そのはずだった。
「……じゃ、さっきまで俺らが戦ってたのは……?」
「いえ、確かに彼は存在していました。……私達が『敵』として認識していた、そのままの形で」
「――クソッ!」
 思わず起動した【ブラッド・ガイスト】。
 変形した腕で、茜谷は掌の中の残骸を握りつぶす。元々劣化していたのであろうソレは、紙細工のように容易に砕け散り、砂のように散った。

 トリテレイアは思い出す。
 『図書館』にて聞いた『虚構元素』――かの物質の性質を。
 観測者の望むままに挙動し、それ自身を見定めようとすれば形を失う夢のような存在。同時に、グリモア猟兵ののたまった『探るな』という言葉の意味も理解する。

――探るな、というのはこういう意味ですか。

 その姿を見定めようとすれば消えてしまう、幻のような物質。もしそのようなものが実在するとして、それによって構成された存在が在るとすれば――正しく、アレがそうだったのだろう。

 先ほどまで戦いが行われていた雑居ビルの一室。
 いつの間にか床を覆う粘液も消え果て、一連の出来事はまるで夢の如く。
 猟兵達の間を、一陣の風が吹き抜けていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月12日


挿絵イラスト