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迷宮災厄戦③〜とろけあそばせ、ゆうとろどき

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #マイ宿敵

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 夕闇に支配された森に、黒い影が蠢いている。
 記憶を持たぬまま迷宮に放り込まれた哀れなアリス達。ひとたびその森に迷い込めば、文字通り地獄の蓋を開いたような光景に見舞われ、生きたままその魂までをもしゃぶり尽くされる事になる。
 そこに住まうのはオウガ達。ただし美しい女性も、醜悪な化物も、みな等しく歪み、或いは『癒着』し――形容しがたい何かに変貌している。
 その森を名付けた者は誰なのか。運よく逃げおおせたアリスか。あるいはオブリビオン・フォーミュラたる彼女をはじめとしたオウガ達か。それとも未だその全貌の伺えぬ謎の勢力、猟書家達か。
 真実を知る者はいない。ただ夕闇にうつろうこの森には、ひとつの名が存在する。

「――ゆうとろどきの森」

 人形を携えた女、無供華・リア(夢のヤドリギ・f00380)が、まるで美しい歌のタイトルでも口遊むように、聲に出した。
「この森のオウガ達は、みなその身体に何らかの『不気味な身体部位』を付与され、本来持ち合わせているユーベルコードの他に、その身体部位による攻撃を可能としているようです。此度ジェイドが――わたくしの愛しい彼が予知をしたのは、『こどくの国のアリス』を元とした異形のオウガ。両腕の他に無数のクラゲの触手のようなものを生やした群れで御座います」
 その人形の硬質な頬をいつくしむように撫でながら、リアは続ける。

「その触手には強力な神経毒が込められており、刺されると強力な痛みの他に、まるで『自分の身体が溶けて消えてゆくような』幻覚を齎す作用があるようですわ。痛みと幻覚で錯乱した対象を、自身の持つ力で仕留める――そのような『狩り』を得意としているようですわね」
 歴戦の猟兵達が、それだけで動きを止めるとは考えにくい。しかし迷い込んだアリスならば、同じ名を持つ彼女たちに容易く『捕食』されてしまうだろう。
「――こどく。孤独。蟲毒。元より物騒な名を持つ方々です。犠牲となるアリスを減らす為に、迷宮災厄戦を勝ち抜く足掛かりとする為に、皆様の力で討ち取ってくださいませ」
 かの地へ続く道を、人形が拓いてゆく。
 迷宮災厄戦。アリスラビリンスを巻き込む巨悪との戦いは、まだ始まったばかり。


ion
●お世話になっております。ionです。
 プレイングの募集開始日時などは特に設けておりません。追加オープニングなどもありませんので、すぐに送って頂いて大丈夫です。
 終了日時のみ、MSページで案内させていただきますね。

●プレイングボーナス
 このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると判定が有利になります。
=============================
プレイングボーナス……「不気味な身体部位」への対抗手段を考える。
=============================
 今回の集団敵『こどくの国のアリス』は、クラゲの触手を生やしております。
 射程は彼女達の腕二本ほど。遠くまで届くものではありませんが、その毒は強力です。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『こどくの国のアリス』

POW   :    【あなたの夢を教えて】
無敵の【対象が望む夢】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    【わたしが叶えてあげる】
【強力な幻覚作用のあるごちそう】を給仕している間、戦場にいる強力な幻覚作用のあるごちそうを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    【ねえ、どうして抗うの?】
自身が【不快や憤り】を感じると、レベル×1体の【バロックレギオン】が召喚される。バロックレギオンは不快や憤りを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シル・ウィンディア
うにうにしてる…
くらげさんの触手かぁ…

…アリスさん達の為にも、絶対に負けられないよね

敵の攻撃は【空中戦】で飛び回って【残像】を生み出すくらいのスピードで回避
【フェイント】も駆使して撹乱だね

こっちの攻撃は光刃剣と精霊剣の二刀流で
敵の触手を中心に【二回攻撃】で切り裂いていくね

被弾時は…
毒や幻覚ってわかっててもきつい…
でもね、アリスさん達に行かなくてよかったよ
こんな痛みを知る人は、少ないほうがいいしね
わたしで終わるなら、それに越したことはないっ!

【魔力溜め】で魔力を溜めて
攻撃中や被弾時でもUCの詠唱は途切れされないように動くね

敵が一直線上に並んだらね…
選択UCを一気に撃ち放つっ!

痛みを思い知れーっ!



●1st Battle
 無邪気にまたたく青い眸が、うごめくそれを矯めつ眇めつ。
「うにうにしてる……」
 くらげさんの触手かぁ、とシル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)が呟いた。ちょうど先日、海の底での催しに参加してきたばかりのシルだ。友好的なくらげさんとも、或いは出逢ったかもしれない。だが今回のそれは友好的とは程遠いもの。
 死を齎すもの。それも、最大限の苦痛を以て。
「……アリスさん達の為にも、絶対に負けられないよね」
 決意と共に、二振りの剣を握りしめ。
 白鳥の舞姫が如く、白翼衣がはためけば。シルの身体が宙へと舞い上がる。
「シル・ウィンディア! 参りますっ!」
 残像が見える程の早業で、オウガ達への群れへと突っ込んでいく。二振りが閃いて、今まさにシルを捉えようとしている触手たちを切り裂いた。ばらばらになった触手達が地に落ち、オウガ達がそれに気づいた時にはもう、シルは大きく高度を上げて旋回している。
 その表情が引き攣った。触手がほんの少し、腕を掠めていったらしい。
 それだけで焼けつくような痛みと、精神を持っていかれる心地を覚える。みみず腫れのようになったそこから腕が溶けていきそうで、シルは思わず光刃を発現させているロッドをきつく握りしめた。掌でエレメンティアの質感を感じ、それでようやく小さく息を吐いた。
(「結構きついね……でも、アリスさん達に行かなくてよかったよ」)
 こんな痛みを知る人は、少ないほうがいい。わたし達猟兵が、ここで終わらせてみせる。
「ねえ、どうして抗うの?」
 触手を奪われたオウガ達が、バロックメイカーのそれに似た怪物たちを編み出した。捉えきれない獲物に憤り、喰らいつくそうと牙を剥く。
(「もう少し……!」)
 その身を、精神を、蝕まれても尚途切れさせなかった詠唱が身を結ぶまで。精霊剣に宿る六つの霊力全てを解き放つ、その時を。
 光の刃が怪物の巨躯を斬り伏せた。拓けた視界の先、オウガ達が一直線に並んでいるのをシルの瞳が捉えた。
「炎よ、水よ、風よ、大地よ、光と闇よ……六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
 精霊剣がシルに応えるように、激しく六色に瞬く。
 剣を揮う間も、蝕まれた時でさえも、途切れさせなかったシルの詠唱が、直線状に位置したすべてのものを薙ぎ払う強大な力となった。
「なぜ――……」
 茫洋とした眸のまま、アリスと名乗るオウガは圧倒的な力の渦に呑み込まれていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラフィ・シザー
醜いもの美しいも一緒くた。
ある意味この世界らしいかもしれないけれど。
悪趣味なのは確かだな。

孤独も蠱毒も厄介だどちらもじわじわと確実に心と体を蝕んでいく。

とにかくまず狙うのは癒着させられた部位だ。
【部位破損】で触手を切り刻んでいこう。
【ダッシュ】で近づいては離れるそれは【ダンス】のように。

もし、触手を食らっても【継戦能力】で立ち上がる。身体の一部ならまだ戦える。

UC【シーブズギャンビット】発動。
手に持つ武器は一つだけ後の全部は落として体を軽く。Single wingで【暗殺】だ。



●2nd Battle
「醜いものも美しいものも一緒くた。ある意味この国らしいかもしれないけれど」
 黒い耳をぴょこりと揺らし、ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)はくるくると小さな鋏を弄んでみせた。
「悪趣味なのは確かだな。とてもじゃないけど『トモダチ』にはなれそうにない」
 なるつもりもないけど、と呟いた直後、黒き時計ウサギは地を蹴り跳躍していた。大きめの片刃の鋏が、まるでナイフのように触手を切り刻んでいく。
「おっと」
 背後から迫ってきたオウガがラフィめがけて触手を伸ばす。大きく反り返ってそれを躱してみせたラフィは、直後、体勢を崩したばかりとは思えぬ身軽さで身を引いている。
 まるで戦っているというよりも、楽しいダンスに興じているかのよう。事実ラフィの貌には、無邪気とすらいえる笑みが浮かんでいた。
(「孤独も蟲毒も、厄介だ。どちらもじわじわと確実に心と体を蝕んでいく」)
 オウガの脅威に晒され続けるこの世界。住人たる時計ウサギや愉快な仲間たちも、別世界からの来訪者アリスにとっても脅威となるものだ。
 絶望が迷い仔をオウガとする。オウガが新たな迷い仔を孤独と蟲毒、そして絶望に苛んでいく。悪循環だ。
「断ち切ってやるぜ、俺の鋏で」
 負の連鎖も、忌まわしき怪物も。小さな鋏が幾度も投擲され、巨大な鋏がじゃきんと鈍い音を立てて触手やオウガ本体を切断する。はらはら崩れる死骸からは血の一滴すら流れなかった。
 距離を置くために後ずさったラフィの背に、待ち構えていたようにオウガの触手が絡みついた。
「――!!」
 振り払った直後、畳みかけるように四方八方から迫る触手を、よろめきながらも辛うじて避ける。腰につけたポーチからカラフルなお菓子たちが零れ落ちていく。滑りそうになる足で強く地面を踏みしめた。
 大丈夫。たかが身体の一部がやられただけだ。まだ戦える。
「弁償してもらうぜ。その命でな」
 ラフィが告げた直後、片手持ちの小さな刃物達が一斉にオウガ達へと飛来する。重たい金属が落ちる音は、巨大な鋏を放った印。
 ラフィの手にはただひとつ。ダガーのような鋏ひとつ。身軽になるほど疾いシーフなら、幾許かを持っていかれた背の負傷だって力に変えてしまうかも。
 逆手に握りしめたsingle wingが、オウガの頸動脈を掻き切っていた。
 オウガだったものがどさりと地面に斃れるよりも早く、ラフィは次の獲物めがけて地を蹴っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
……苦手意識とまでは申しませんが
毒の効かぬ味方を増やす事に致しましょう

水晶柱をひとつ
其れを元に『水晶の騎士』を創造
援護をお願いします
戦い方としては受け止めて反撃で落とす形が得意なのですが
なるべくなら毒の触手は騎士に受けて貰うよう

さて
私の夢はあったのかどうか
誰も犠牲にせず生きられるならそれで良かったと
それすら叶わなかったというのに
……そんな事を考えれば
犠牲になった方々が無事であった姿が浮かぶのでしょうか

犠牲にしたくなかったのは事実
しかし過去は最早変わらぬ物です

今はこんな私でも
誇りに思って下さる方がいる
友と呼んで下さる方がいる

万一毒を受けても
溶けて消える訳には参りませんから、と
幻覚作用を振り払い



●3rd Battle
「……苦手意識とまでは申しませんが」
 造花と模造石で着飾ったダンピール、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)が長い睫毛を伏せながらそう零す。
 喰らわずに越したことはない。毒の効かぬ味方を増やす事に致しましょう、と。その手に携えたのは水晶柱がひとつ。
「援護をお願いします」
 そう呟いて解き放つのは想像を具現化する力。この世界がルーツとも云われる魔法騎士の力が、毒をも祓う水晶騎士を創り出す。
 騎士は盾であり、矛である。ファルシェが自らの生み出したものを信じられる限り、騎士は無敵の鎧で毒の触手を受け止め打ち払い、手にした得物がオウガ達の群れを蹴散らしていく。
 その陰に身を隠すファルシェは、騎士が触手を受け止めきった直後、彼女達に大きな隙が生じた時のみ、姿を現し鋭利な鋒を振るっていた。敵の餌食とされないタイミングを着実に見極め、反撃に転ずる戦法は元々ファルシェが得意とするものだが、輪をかけて慎重に仕込み杖を振るい、彼女たちの頸を突いて落としていく。
「ねえ、あなたの夢を教えて……?」
 毒の触手が届かぬと見るや、彼女達は戦法を変えた。力の大元はファルシェと同じ。ただしこちらの創造が具現化するのは自分ではなく、対象の心から。
 夢が、記憶が、呼び覚まされる。今もファルシェの心に密かに、けれど確実に残る理想。
 ――誰も犠牲にせず生きられるなら、それで良かった、と。
 それすらもこの身には叶わなかったというのに。そう思えば、犠牲となった人々が、あの日から今までの歳を重ねたような姿で、ファルシェの眼には映っただろうか。
 彼らが無事だったという過程。ただしオウガの配下にある彼らはファルシェに牙を剥く。半魔の男によって未来を滅ぼされる、その可能性を打ち砕くように。
「彼らは無敵です。それよりも、オウガ達を」
 主人を護るべく幻影と立ち向かおうとした騎士へ告げる。想いの強さが力となる幻影たちを亡ぼす事はできまい。それよりも彼らの姿によって自らの騎士に疑念を抱くことの方を恐れるべきだとファルシェは聲を張る。
「またそうして彼らを犠牲にするの? 貴方の心から生まれたのに」
「犠牲にしたくなかったのは事実。しかし過去は最早変わらぬ物です」
 ――今はこんな私でも、誇りに思って下さる方がいる。友と呼んで下さる方がいる。その笑顔を思い出せば、ファルシェの心はひとつ。
「彼らに滅ぼされる訳にも、溶けて消える訳にも参りませんから」
 幻影に苛まれても、その心も戦法も揺るがず。着実にオウガ達の数を減らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
森の狩りか
喰われるのはオレかアリスか……いや、贄になるのはオウガ共になるだろう。

自身には【毒耐性】がある、多少の毒なら問題無い。
だが大量にくらえばどうなるか分からん。
敵の攻撃射程はそれ程長くはない、念の為なるべく近付かずに戦おう。

とはいえ敵のUCで速度を落とされたら容易に接近されてしまう。
まずはあの能力を止めなければ
【先制攻撃】でUC「禍ツ肉蝕」発動
禍つの力にて敵を封じよ!【捕縛】
我が拷問具ソウルトーチャーは屍肉の呪獣
オウガ共はコイツの良き餌だ【捕食】
生きたまま喰われる恐怖を存分に味わい死ねい【恐怖を与える】



●4th Battle
(「森の狩りか。喰われるのはオレかアリスか……いや、贄になるのはオウガ共になるだろう」)
 夕闇の森に紛れる黒衣。じっと身を潜めるナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は、獲物をひた狙う狩人のようでもある。温和な仮面を破壊してしまうほどの強烈な殺戮衝動を胸の裡に押し込め、それに従い武器となる呪いの獣も、主人と同じようにじっと動かずそこに在った。
 ナギはその生い立ちゆえか、或いは鍛錬の賜物か、毒に並みならぬ耐性がある。それでも射程も長いとはいえないオウガを警戒しているのは、彼女たちが群れを成しているからだ。大量に喰らえばどうなるかまではわからない。
 ナギが警戒しているのはもうひとつ。彼女たちが携えた禍々しい砂糖菓子。あれを仲間内で分け合ってしまったら、こちらの動きは大幅に制限され、たちまちに触手の餌食となってしまうだろう。
(「まずはあの能力を止めなければ」)
 血を吸った黒衣の下には無数の暗殺道具が仕込まれている。その中から小振りの刃物を取り出したナギは、己の白い膚に容赦なくそれを滑らせた。
 流れ出る液体を、呪獣が飲み干してゆく。貪るように。それでも渇きが癒えぬとばかり、鋭い歯の生えた顎を揺らしてみせる。
(「いいぞ。禍つの力にて敵を封じよ、『ソウルトーチャー』」)
 咎人の肉と骨で錬成された拷問兵器は更なる糧を求めてオウガの群れへとその力を放つ。屍肉の触手と骨の針を。
「何者!?」
 漸く気づいたオウガが触手を伸ばし、呪獣が操る屍肉のいくつかを刺し抜いた。だが肉塊から生まれた道具には痛覚も、ましてや幻影に苛まれる程の人間らしい感覚は最早なく。止まぬ針の雨と共にオウガの群れを無効化してゆく。
「わたしが叶えてあげるのに。絶望に瀕したアリスを救ってあげるのに」
「死を以て、か?」
 拷問具へ目線を遣る。ごちそうも毒も通用しない哀れな女たち目掛けて飛び込んだソウルトーチャーが、ひとりを顎で捉え、その膚に牙を喰い込ませる。
「いや、ァ、いだい、やめ、やめて……!!」
 虚ろな女の瞳に初めて生気らしきものが浮かぶ。恐怖という生への本能が。だがその時には女は骨の髄まで獣に貪られ、蹂躙され、血も流さぬ仮初の過去は悲痛な叫びを撒き散らすのみ。
「やめて、離して」
「助けて……!」
 女たちの反応は様々だった。恐怖で足が竦む者。仲間を助けようと無謀にも触手を揮うもの。逃げようとしたオウガから獣の餌食となった。
「捕食される側に回る気分はどうだ?」
 生きたまま喰われる哀れな獲物たちへ、ナギは告げる。
「存分に味わい、そして死ね」
 喉元を食い破られたオウガがぴんと身体を硬直させ、そして動かなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蝶ヶ崎・羊
【羊と雀】
ええ、あまり長居したい場所ではありませんね…
さて、狩りの毒をどれくらい耐えられるでしょうか

敵の毒は【オーラ防御】【毒耐性】である程度防ぎつつ
【衝撃波】でワタシとオスカーさんにくる触手を弾きながらUCの子羊の一部と敵に向かい走ります
そして敵の懐に入れば、子羊と共に【鎧無視攻撃】で蹴りをいれます
『溶けてもワタシ達は止まりません…記憶しましたか?』

もう一部の子羊はオスカーさんの攻撃のサポートにまわります
毒に溺れないよう声かけも忘れませんよ
『オスカーさん、大丈夫ですか?』


オスカー・ローレスト
【羊と雀】

ぶ、不気味な森、だね……
でも、あ、アリス達のためにも、頑張らない、と……

体が溶ける幻覚、か……怖いけど、【毒耐性】でなんとか耐えられたら、と思う、よ……あと、基本後衛で戦うつもりだから、射程外にはいると、思うし。

羊と子羊たちが、本体を狙えるよう、に……一部の子羊達に乗せてもらいながら……【暴風纏いし矢羽の乱舞】でバロックレギオン達の対処をして、【援護射撃】するよ……【視力】には自信があるから、夕闇の中でも【暗視】はできると思うし、間違って当てることは無いと……思う。

お、俺は、大丈、夫……(子羊のもふもふに癒されながら羊の呼び掛けに答える小雀



●5th Battle
 たとえ、その森にオウガがいなかったとしても。
 陽が傾き、赤く染まった後の燃え滓のような時間が永遠に続くこの地はおどろおどろしく。不安げに辺りを見回していたオスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)は、風が木々をざわつかせる音にびくりと肩を震わせた。
「ぴ、ぴぃ……!」
「大丈夫ですか、オスカーさん」
 柔和な表情を浮かべたモノクルのミレナリィドール、蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)が気遣わしげに貌を覗き込んでくる。
「だ、大丈夫。でも、ぶ、不気味な森、だね……」
 心配はかけられないとそう答えながらも、オスカーの表情は暗く沈んだまま。どこかで鴉のような鳥がけたたましく叫ぶ聲がして、小さな雀の身体がまた強張った。
「ええ、あまり長居したい場所ではありませんね……」
 災厄の封じられた地下、そのすぐ上で古書店の店長代理に就いている羊は、オスカーに同調するように表情を翳らせる。
「時間の感覚が狂ってしまいそうです。ティータイムに間に合うように帰らなければ」
「ぴ……ティー、タイム……?」
 こんな時にその心配? オスカーがびっくりしたような視線で見上げれば、背の高い機械人形がゆるりと微笑みを返してきた。どうやら場を和ませようとしてくれたらしい。
「……そう、だね……あ、アリス達のためにも、頑張らない、と……」
「出来る限り迅速に、そして負担の少ない戦法で参りましょう」
 そう云いながら羊が呼び寄せたのは彼の名と同じ漢字で表記されるいきもの。そう、子羊たち。咄嗟に数を把握しきれぬほどの群れは、皆おのおのに空を翔ける翼をその背に備えている。
「さて、狩りの毒をどれくらい耐えられるでしょうか」
「何故抗うの? アリスは戦うさだめなの。弱い者から死んでいく」
 歌うように憤りを口遊む『アリス』の名を冠したオウガ達が、こちらもバロックレギオンを呼び寄せる。いかなる障壁をも嗅ぎ分け敵と定めた者を突け狙う怪物が、子羊の群れを蹴散らしていく。
 子羊たちは時に身を寄せ合って主人を護り、時に宙へ身を躍らせて怪物を、オウガをその鋭い蹄で蹴り飛ばす。
「……ぴ、援護する、よ……!」
 その後方、オウガの触手に捉われない距離を心掛けながら、子羊の背に乗ったオスカーが矢羽の乱舞を放つ。一本一本はほんの小さな羽が、風を纏い何百本も飛び交えば、オウガ達を斬り刻み蹴散らす嵐となる。
「助かりますよ、オスカーさん」
 羊が子羊たちと同じようにオウガを蹴り上げた。精巧な機械人形に強靭な蹄は無いが、代わりの靴底がオウガの顎を打ち砕く。
「なぜ……なぜ……?」
 訴えるようなまなざしで譫言を呟きながら、オウガ達は触手と怪物を手繰る。その切実ともいえる声音を耳にすれば、オスカーは自分の心臓が跳ね上がる音を確かに聴いた。
 ――アリス。弱い者から死んでいく。殺すのは、だれ?
 悲鳴が上がる。現実じゃない。記憶の中にある哀れな被害者。
 毒に呑まれてしまったのだろうか? 違う、自分は未だ正常だ。正常な筈だ。過去を射るのはそれが被害をもたらすからで、楽しいわけじゃない――その、筈だ。
 オスカーの動きが止まっていたのは、ほんの一瞬だった。それでもはっと貌を上げた時には、忍び寄ったオウガがその触手をオスカーに差し向けていた。
「オスカーさん……!」
 羊から放たれた衝撃波が触手の狙いを逸らし、咄嗟に翳したオスカーの腕に装着されたクロスボウが障壁となって直撃を避けた。それでも掠めたそこからひりつく痛みと、頭を揺さぶられるような心地を覚える。
 見れば羊も無傷ではない。破れた服に触手の痕。それでも羊は穏やかな笑みを崩さなかった。
「まだ行けますか、オスカーさん」
「お、俺は、大丈夫……そ、それより」
「ワタシも問題ありませんよ」
 こうして交わす言葉が、オスカーを助けるだけでなく、羊自身の正気も保ってくれる。胸の裡で感謝を呟きながら。
 子羊たちの蹴りがとうとうバロックレギオンを打ち砕いた。オウガも着実に数を減らしている。羊とオスカーが畳みかけるのと、追いつめられたオウガ達が猛攻を仕掛けるのはほぼ同時だった。
 オスカーの風羽が触手を切り裂き、オウガの膚に傷を刻み込んでも、触手は猛然と羊を突け狙う。羊は退いてみせるのではなく、敢えて群れと一緒に間合いへ飛び込んだ。
「溶けてもワタシ達は止まりません――記憶しましたか?」
 鋭い蹴りがオウガを吹き飛ばす。地に伏して動かなくなる『アリス』達は、その助言を活かす機会を永劫に失った。

 羊と、雀。共により強大な動物の『狩り』の対象となる生物だ。
 けれど彼らの嘴や蹄は、受肉した過去に立ち向かうほどの力を持っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
可哀想なアリスたち
オウガとされただけでなく、
異形とまで変わり果てるとは
夢問う君にも夢があっただろうに

――ああ、悪いけれど
僕の夢は君に語れはしなくてね
代わりに君に夢を見せてあげる

燈籠で喚ぶのは影の友
彼は僕の親愛なる友だが、
今ばかりは君の友でもある
共に遊ぼうと朗らかに手招いて
召喚された子は友の刃で《範囲攻撃》、
僕も《属性攻撃:氷》で凍らせ妨害を

敵を薙ぐ事が出来たのなら、
影の友で彼女を誘う様に引き付け
触手を断ち切り、炎で灰とし無効化
その後に隙が出来れば、踏み込み
形作る氷刃を心臓に突き立て、抉る

溶けないよう、消えないよう
冷たい氷で留めてあげよう
冬の眠りを融かす柔い温もりが
君を孤独から救うよう、祈って



●6th Battle
 こどく。
 孤独だから蟲毒に呑まれるのか。蟲毒の舞台が孤独を欲しているのか。
 童話のように心躍るこの世界は、同時に驚くべきほどの絶望に満ちている。
「可哀想なアリスたち」
 嘆息と共に、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)がそう零す。
「オウガとされただけでなく、異形とまで変わり果てるとは」
 夢問う君にも夢があっただろうに――その言葉は、虚ろな眸と毒の触手を向ける彼女達には届かない。
「夢。そう、夢」
 ただ歌うようにその言葉に反応した。
「あなたの、夢は?」
「――ああ。悪いけれど、僕の夢は君に語れはしなくてね。代わりに君に夢を見せてあげる」
 燈籠の光が揺らげば、現と幻の堺も揺らぐ。いや、それはライラックにとって真実の、親愛なる友。
「紹介するよ。今ばかりは君の友でもあるからね」
 共に遊ぼう、そう朗らかに手招いて。
 その刃がひらめく頃、ライラックもまた、氷の魔力を放ち『アリス』を凍らせていた。

「どうして、抗うの?」
 彼女の負の心が怪物を呼び覚ます。触手がライラックと彼の友をとかしてしまえと舞い踊る。
「それが君の友だちかい?」
 ライラックは問うた。想像と書物を愛する男にとって、心の裡から生まれたものは親愛に値する。彼女たちが夢を持っていた頃ならば、きっと善き友になってくれたに違いないのに。
 この世界に在る限りアリスは狙われる。誰よりも傍にいた友に気づくことが出来ないまま散ったのだろうか。
 敵を薙いだ直後、彼女たちを誘った友が触手を断ち切り、炎がその残骸を焼き払う。
「つかまえて!」
 声高らかにアリスは『配下』に命じる。忠実な『友』がライラック達を狙うよりも早く、男は踏み込んでいた。
 形作る氷刃を心臓に突き立て、抉る。絶命する過去は血すら零さず、力が抜けてしまえばまるで人形のよう。
 主を無くし、怪物も消えてゆく。こころに突き刺さる刃が急激に体温を奪っていく。
 無慈悲とも見えるその刃は、その真実は――「君がその力で君自身をとかしてしまわないように」。
 消えないように冷たい氷で留めてあげる。ライラックには、それしか出来ないけれど。
「いつか、冬の眠りを融かす柔い温もりが、君を孤独から救ってくれますように」
 様々な世界へ続くこの地ならば、いつか――孤独な魂も、安らぎに巡り合えると。
 祈りを込めて、呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
不気味かァ…それ誰に移植されたんスかねぇ
本人はあんまり気にしないんだろうか…

とはいえその触手に触れるのは拙そうスね
ならば届く前に燃やしましょう
UCの尾先の銃口から放つ熱線で、攻撃の手がいくつ増えても同時に【焼却】

想像の創造も大分厄介っス
(俺の夢の一つは平穏にのんべんだらりと暮らすことなんスけど…)
平穏って何かと壊れやすいっスからね
ほら、今だって戦争が始まったばかりだし

鈍色の眼の解析による【見切り】で回避と攻撃を続け
【言いくるめ】て疑念を与える
燃やし惑わせ本体の懐が開く隙を得られたなら見逃さず
一気に距離を詰め魚骨で切り裂く

まあ、面の皮はがせば俺も似たようなもんスね
今だけは一緒に踊るとしましょうか




「『それ』、誰に移植されたんスかねぇ」
 大して答えを期待しているわけでもなく、ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)は言葉を投げる。
「原因が気になるの? こんなに素敵な結果があるのに」
 しゅるしゅると伸び来る毒の触手に対し、ヤニは廃金属の『尻尾』――文字通り身体に癒着したそれを構える。
「なるほど」
 生成した銃口から熱線が迸る。ヒトの腕より自在に動く尻尾は、オウガが何体いようが引けをとらない。焼いて灼いて、無に帰す。
 狩りに適した能力が齎される。それが大事で、その出所はさしたる問題ではない。その考え方は判らなくもないとヤニは納得した。『人間らしさ』を勉強中のヤニにとっては、それが人間も感じるものなのか、オウガ特有のものなのかまでは判らなかったけれど。
 触手を焼き払われたアリス達が、今度はヤニの心の裡を武器にしようと手を翳す。
「あなたの夢を教えて」
 引き金たる言葉と共に、引きずり出されたのは二足歩行の機械たち。ヤニの尻尾に似ているようで、しかし動くたびにあちこち軋んでいるのは、見た目に依らず随分脆そうにも見える。
「俺の夢の一つが、平穏にのんべんだらりと暮らすことだからっスかねえ」
 怠惰ともとれるその夢は、かつての泥兵器には望むべくもなかったもの。けれど同時にヤニは知っている。
「平穏って何かと壊れやすいっスからね」
 今だってこうして、戦争が始まったばかりなわけで。

 鈍色の眼が冷静に瞬き、機械たちの攻撃を見極め続ける。
「バロックレギオンも、触手付きのオウガも、面の皮はがせば俺と似たようなもんスね」
 なら今だけは、こうして一緒に踊るも一興。うつろいやすい身体を崩せば打撃は簡単に往なせるけれど、敢えて人型のままで避け続けた。
 放たれた灼息が機械たちを熱する。鉄の塊にしてはやけに簡単に溶けていった。
「そんな……」
「武器にしてるって割には、随分と力が夢の質に左右されるんスね」
 挑発めいた言葉は、オウガ達に疑念を抱かせ弱体化させるための策略。ただでさえ脆い機械人形たちは主人の信用を失い、歩いてくるうちに勝手に崩れてゆくほど。
 ――夢はいいものだって云う人は多いけど、そうとも限らないらしいっスね。
 そんな思考がヤミの頭を掠めた。それとも人の夢という曖昧なものを利用するその力が、タールが模る人型よりも不安定なのか。
 ぼんやりとそんなことを考えたのはほんの一瞬。次の瞬間にはオウガへと一気に距離を詰めたヤニが、その尻尾を今度は刃物代わりにしてアリス達を切り裂いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブーツ・ライル
【DRC】
アドリブ、マスタリング歓迎
NG:味方を攻撃する

_

──じゃらり、と音が鳴る。
同時に懐中時計から伸びるチェーンが瞬く間に彼女らの触手を絡めとった。
…いくら敵と言えど、女性を盾にはしたくはない。
死角から伸ばされた触手はメトロに任せる。

燕から捧げられた花冠を被った少女をチェーンで引き寄せる。
彼女の目を覗き込み、耳元で囁く。

「──おてんばが過ぎたな、お嬢さん」

さあ、アリス。
夢の時間は終わりだ。

狙い定めるはその不躾な触手ども。


────懐中時計の赤き宝石が、煌めく。


金白・燕
【DRC】
アドリブ、アレンジ等は大歓迎です

可愛い可愛いアリス
私たちが導かねばならない者
さあ貴女にも【GIFT】を差し上げましょう
花冠が届く位置まで彼女らに近づいて
さあ可愛らしいお嬢様達に差し上げましょう、差し上げましょう

可愛らしい手ですね
でもこれはおいただ
この身が溶かされようと
お仕事が遂行出来るなら問題はありません
それにほら、この毒が2人の力となってくれますから
ね?そうでしょう?
ブーツ、メトロ!

確かににょろにょろは無い方が……ええ、愛らしいかもしれません


メトロ・トリー
【DRC】
アドリブだあいすきだよ!

きゃは!きゃは!きゃは!
アリスと遊んでいいの?
今はオウガさん?どっちでもいーよ!遊んでいいんだもんね?ね!
それに体が溶けちゃうなんて、サイコーじゃあないか!
溶けたあエ!!?
にょろにょろ!アリス????
話が違うよ!かわいくない!

燕くんが贈り物をするなら、ぼくはそれをお手伝いさ
「さあさあ、ショータイムだよ!」

ぼくはよおく切れるトランプくんたちで
にょろにょろ!をちょっきんザックリばっさばっさ!
あーあーにょにょろじゃあどれが首かわかんないなあ

じゃあ、最後はブーツ先輩にお任せ!
お邪魔にょろはぼくはバッサリ!
ほら、にょろがないほうが、かわいいもん!

ばーいばい!アリス!



●8th Battle
 時計ウサギにとって、時間とは切っても切り離せないもの。
 懐中時計を携え、世界の橋渡しをする彼らは、迷宮世界をこわぁい怪物から逃げ回るアリスの導き手でもある。

「きゃは! きゃは! きゃは! アリスと遊んでいいの?」
 僕を追い立てる時間はだいきらいだけど楽しい事はだいすきさ。はしゃいでみせるはメトロ・トリー(時間ノイローゼ・f19399)。ぴんと立った耳までも楽しげにぴょこぴょこと。
「今はオウガさん? どっちでもいーよ! 遊んでいいんだもんね? ね! それに体が溶けちゃうなんて、サイコーじゃないか!」
「ふふ、サイコーですか?」
 穏やかに微笑むは金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)。肩元まで垂らしたふさふさの兎耳は、髪と同じ金色まじりの白いいろ。
「サイコーだとも。ぼくの今の身体じゃ入れないとこまでしゅるしゅる入って行けちゃうようにな……」
 ぶん、と何かが二人の間を掠めていった。燕はにこにこ微笑んだまま、メトロはぴゃあと叫んで飛び退いた。
「溶け……溶けたあエ!?」
 触手の先端がほんの少し太腿を掠めていったらしい。己の脚を見つめて悲痛な叫びをあげる。
「溶けていない。幻覚だ」
 落ち着け、と諭すはブーツ・ライル(時間エゴイスト・f19511)。アリスを護る騎士に相応しい堂々たる佇まい。軍帽の下の兎耳は黒く、対照的にその膚はどこまでも白い。
「うぅ、にょろにょろ! 話が違うよ! あれがアリス????」
「そうよ、わたし達がアリス」
「だから兎さんを追いかけなきゃ」
 云うが早いか地を蹴り跳躍する。しゅるしゅると触手が蠢いて今度はブーツを狙う。焦らずに身を捩って躱し、距離を置いてみせたブーツの、かつて仕えた主人を思わせる紅き眼が冷徹に彼女を見遣る。
「この世界を訪れる者の、道が何処へ続こうとも――導くのみだ」
 そして行く先を阻むものが荊だろうが毒の触手だろうが、ブーツは等しく『踏み抜く』のみ。
「ええ、ええ。可愛い可愛いアリス。私たちが導かねばならない者」
 目を細める燕。その赤はあくまで穏やかに。
「さあ貴女にも【GIFT】を差し上げましょう」
 いつの間にかその手には、同じ赤色をした薔薇の花冠がうやうやしく掲げられている。『アリス』たちのひとりが警戒するように眸を眇めた。刃物を仕込んであるようには見えない。魔術の類を飛ばすものか。
 だが燕はゆっくりと、でもまるで歩く速度までダイヤ刻みのように正確な足取りでアリスに近づくのみ。
「刺されたいの?」
「おや、可愛らしい手ですね」
 アリスが触手をちらつかせる。燕は微笑みを称えて歩み寄るのみ。とうとう間合いに入った直後、無数の触手が一斉に襲い掛かる。
「さあさあ、ショータイムだよ!」
 メトロの聲と共に、刃物の如き切れ味のトランプくんたちが宙を舞った。メトロがいうところの「にょろにょろ」が斬り刻まれ、同じく虚空に散っていく。
 まだアリスには届かせない。ここで頸を刎ねたら燕くんの贈り物が届かないじゃない。
「でもこれはおいただ――私は、」
 得意の得物を喪い目を剥くアリスに、燕は穏やかに語りかける。
「お仕事を遂行できるなら、この身が溶かされようと問題はありませんでしたが」
 けれどその毒が現在の『アリス』たちに向けられる事は許されない。か弱きアリスを捉えるための毒というならば――彼女たちが受けるべき報いもやはり、毒。
「さあ。可愛らしいお嬢様達に差し上げましょう、差し上げましょう」
 黒手袋の細い指が、プリンセスに献上するかのようにうやうやしく、毒に浸された冠を乗せるのだった。

「贈り物は成功だね? じゃあぼくらのショーも盛り上げていこう!」
 ばっさりばっさり、アリスを斬り刻んでいくトランプ兵たちの数は54枚よりだいぶ多い。果たして何があって何がないのか。目にも留まらぬ速さで宙を舞っては何かを刻んでくる殺戮トランプ達をカウントするのは至難の業。そうこうしているうちに、薔薇の毒に浸されたアリス達はみるみるうちに刻まれていく。
 ――触手だったかな、それとも首だったかな? 全部ばらばらにしてしまうから、その区別もあいまいだ。
「どうして抗うの?」
 縦横無尽にその力を揮うメトロとは対照的に、ブーツは燕よりも静かに己に伸びる触手を見据えていた。翳した手には金の懐中時計。チェーンが瞬く間に伸び、彼女らの触手を絡めとる。
 ――いくら敵と云えど、女性を盾にはしたくない。その矜持が時として自分を窮地に陥れる危険をはらんでいることを、ブーツはとうに承知していた。それでも燕に負けず劣らず『仕事熱心』な男は、その危険をも受け止めて踏み砕き進む。
 死角からの触手はメトロが斬り刻んでくれた。共に任務にあたれる存在はとても頼もしく、けれどたとえひとりで彼女たちを相手取っていたとしても、ブーツの戦術は変わらない。毒を受けずに済むか、堅牢な身体の幾許かが毒に蝕まれるか、その程度の差でしかないのだから。
 その触手をチェーンで引き千切るのではなく、静かに自分の傍へと引き寄せた。燕が美しい花冠を被せてあげた女だ。その表情は出遭った時よりもさらに朦朧としていて、毒が回っていることが伺える。無念に散ったいつかのアリスを、導き手はただ静かに見下ろした。
「――おてんばが過ぎたな、アリス」
 帰るべき扉が閉ざされてしまったのなら、彼女達の向かうところはただひとつ。

 さあ、アリス。
 ――夢の時間は、終わりだ。

 耳元で囁かれた低い聲と共に、異形を束縛する懐中時計、その赤き宝石が、ちかりと煌めいた。
 いかなる困難も障害も踏み砕く神速の脚撃。自身の未来さえ削り取る【GIFT】の全てを、不躾な触手達に叩き込んだ。

 耐え切れず散った触手はぱらぱらと地に落ち、アリスがほんの一瞬、『生前』をうかがわせるような人間らしい姿になって――そして、消えていく。
「ほら、にょろがないほうが、かわいいよ!」
「確かににょろにょろは無い方が……ええ、愛らしいかもしれません」
 でしょでしょー、と目を輝かせるメトロの傍で、毒の回り切ったらしい他のアリスたちもゆっくりと斃れていく。海に還りそびれたアリスがいれば、メトロとブーツが確りとご案内。
「ばーいばい! アリス!」
 無邪気な少年のように、メトロは手を振ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
趣味の悪い森のようだな
デザイナーは引退することをお勧めするね…この場合オウガ・オリジンってことになるのか?まぁいいや、全員死んでもらいたいのは同じだ
出し惜しみはしない、最短効率で最も悪辣な札を使う

──Void Link Start
食い潰した分くらいは仕事しやがれよ
クラゲの触手?どうでもいい。向けたところで『消える』だけだ
防御は十分、こっちも能動的にナイフで切り裂いておく
バロックレギオンを出してもいいが、それすら消えることを理解するんだな
で、そっちの攻め手は終いか?では俺の手番だ

中~遠虚栄は右腕の仕込みクロスボウ、近距離はナイフと格闘で急所を狙い始末する
これは"駆除"だ さっさと終わらせてやる



●Final Battle
「随分と趣味の悪い森のようだな。デザイナーは引退する事をお勧めするね」
 一歩踏み込めば、足元で小枝がぱきりと折れる。灰色髪の電脳魔術師ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)がオウガ達を見遣る。
「この場合オウガ・オリジンってことになるのか? まぁいいや、全員死んでもらいたいのは同じだ」
 ――Void Link Start。
 勝利を求める男の身体が、漆黒で覆われていく。
「食い潰した分くらいは仕事しやがれよ」
 これが蝕むものばかりは、どんな技術でも代替が効かないのだから。
 ちっぽけな己の『人間性』を保持したければ、目の前の標的をさっさと片付けるしか――或いは己がさっさと消えるしかない。それも悪くはないかと男は嗤う。けれどそれは今じゃない。

 アリスと名乗るオウガ達は猟兵達の活躍により数を減らしている。今やヴィクティムの周りに集ったものが全てだと、彼自身が装備する、或いはその身体に埋め込まれた技術の結晶たちが告げている。
 そのオウガ達が、四方八方から触手を飛ばしてきた。ヴィクティムを覆い尽くすほどの触手群が、彼の身体を蝕む前に――虚無に吸い込まれていくように消失した。
「な、にが……」
 オウガ達の虚ろだった眸が驚愕に揺れる。その瞬間、生体機械ナイフがひらめき、オウガの頸をぱっくりと切り裂いた――二体のオウガがどうと斃れる。二刀流。
 残るアリスが後ずさり、ヴィクティムから距離を置く。ヴィクティムはすぐさま追いかけるのではなく、ただそこに立ち続けていた。
 態と相手に攻撃させるために。それでもオウガ達は少しでも有効と思える攻撃をするしかない。憤りの心が怪物を生み出す。見るも悍ましいそいつの牙さえも、ヴィクティムの漆黒は呑み込んでいった。
「理解したか? その手は通用しない」
「嘘でしょう……そんな、めちゃくちゃだわ」
 オウガ達が聲を震わせる。
「でも、その力は……猟兵というよりも、まるで」
 あらゆる事象を呑み込む虚無。それはまるで――オブリビオン達の生まれ出る、骸の海のようではないか。
「で、そっちの攻め手は終いか? では俺の手番だ」
 オウガがすべてを言い終わる前に、右腕に仕込まれた強化自動クロスボウが炸裂する。たった一撃でオウガを屠るそれを、外すことなく打ち込み続ける。
 オウガ達は侵入者と『戦っている』つもりだったかもしれないが、ヴィクティムにとってこれは戦闘でも、ましてや彼女達の云う狩りなどでもなかった。只の、"駆除"だ。
 害虫に毒剤を撒くのにいちいち遠慮も躊躇も要らない。たちまち彼女達は偽りの生命活動を止めることとなる。

 ――後に残るのは不気味な森と、死にたがりの男だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日


挿絵イラスト