迷宮災厄戦⑤〜花園に散るは……
セピア色の花園がある。
まるで古い写真から跳び出したような、寂しさと不思議な懐かしさが同居したような風景。
その静かな花園に、不釣り合いな駆動音が響き渡った。
嘶きと共に蹄で花を散らすのは、異形の馬たちだった。
黒い靄をまとうソレは、アリスたちの絶望や苦痛から生み出された一種の災厄。
だが、今その背には似つかわしくない、レトロな機械が取り付けられていた。
ド、ド、ド……
動力を伝えるべき機構など無いのに、その機械は瘴気を孕んだ蒸気を撒き散らし続ける。
黒い絶望の記憶と、黒い蒸気。
そのオウガたちが撒き散らすモノは、あっという間に花園を飲み込んでいくのだった……
●猟兵たち
「やあ皆。予兆は確認したかな?アリスラビリンスで戦いが始まるよ」
グリモア猟兵、ロベリアは集まった猟兵たちに呼びかけた。
「オウガ・オリジンに猟書家たち……どうやら三つ巴の戦いになりそうだね。戦略的なことはどうあれ、まずは道を作らないとね」
そういってロベリアは、グリモアを操作してとある花園の風景を映し出した。
「皆にはこの花園のオブリビオンと戦ってもらうよ。ここに居る連中は【魔導蒸気機関】ってやつを埋め込まれて強化されてるみたい」
通常より強化されたオブリビオンも厄介だが、間接的に驚異となるものが一つ。
「この魔導蒸気機関から吹き出す蒸気は、強い瘴気を持ってるみたい。うかつに吸い込むとダメージを受けるから気をつけてね?」
さらに、元となったオブリビオン自体もアリスラビリンスに呼び寄せられたアリスたちの絶望を元に、精神的ダメージを与えてくる強敵だ。
「君たちの前に現れるオブリビオンは【アルプトラオム】。アリスたちの抱いた絶望から生まれた、一種の災厄みたいなオウガだよ。個々の意識はないけれど、自分を構成するトラウマを利用して攻撃してきたり、こっちのトラウマを無理やり思い出させてくるみたい。まずは気を強く持ってね」
「さあ、まずは初戦だ。みんな、覚悟は決まったかな?」
気取った調子で猟兵たちに微笑みかけ、ロベリアは転移を発動させた。
桃園緋色
お久しぶりです、桃園緋色です。
アリスラビリンスの戦争シナリオ、第一弾となります。
オープニングで説明したとおり、敵オブリビオンの魔導蒸気機関から吐き出される瘴気に対する注意が必要なステージとなります。
オブリビオン自体に対する戦闘方法とは別に、瘴気そのものに対して有効な対策がプレイングに書かれれば判定にボーナスが付きます。
それでは、皆様のご参加をお待ちしています!
第1章 集団戦
『アルプトラオム』
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POW : 劈く嘶き
命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : 狂い駆ける
【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : もがき苦しむ
攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
波山・ヒクイ
あー風流だなー…閑静な花園に響くこの…
…エンジン音?暴走族かな?
いや花園にエンジン音はダメだって!ちょっと公衆に迷惑を掛ける暴力的不良行為じゃねこれは!
世界の平和もあるけど別の点でも許しがたいので、ちょっとわっちが成敗しちゃいます!
んでもって敵さんには機械が埋め込まれてるようじゃのう?
つまり…わっちにとってはお誂え向きの敵って事じゃな!
何故ならば、わっちのこの秘術
無機物を材料にわっちの分身をどろん!しちゃうもんじゃから!
さあいでよ蒸気機関で出来たわっちたち!あの暴走族たちをとっちめてやりなさい!
え?わっちは分身に任せて高みの見物ですけど?
だって近づくとホラー映画みたいなヴィジョンが見えるし…
「ほう、中々趣のある場所じゃのう……」
セピア色の花園に嘆息するのは波山・ヒクイ(ごく普通のキマイラ・f26985)。
キャラを作った言い回しで鷹揚に頷きながら、ふと耳を澄ます。
「あー風流だなー…閑静な花園に響くこの……エンジン音?暴走族かな?」
早くも口調を崩しながら慌てて振り向けば、そこには突進する黒い馬の姿が!
「あぶなっ!?しかもなんか見えたし!」
咄嗟に飛び退いたヒクイの側を、数等の馬が走り抜ける。
後には瘴気と黒い煙が尾を引き、思わずそれから逃れるように後ろに下がる。
「いや花園にエンジン音はダメだって!ちょっと公衆に迷惑を掛ける暴力的不良行為じゃねこれは!」
パンパンと着物の汚れを払い、最早キャラ作りを忘れたヒクイは肩を怒らせて花畑を爆走する馬たちを睨みつけた。
「世界の平和もあるけど別の点でも許しがたいので、ちょっとわっちが成敗しちゃいます!」
宣言と同時、先程ヒクイを踏み潰しかけた馬たちの背中に変化が起きた。
爆音と瘴気を放ち続けていた魔導蒸気機関が、見る見る内に形を変え……それは着物を着崩したキマイラの少女となった。
「わっちが一人、わっちが二人…沢山のわっちでおもてなしじゃ!」
無機物を自分の分身に变化させる【秘術・わっちだらけの世界】。
踏み潰されかけた際、咄嗟にヒクイが発動させたユーベルコードは、オブリビオンたちを強化する魔導蒸気機関を消し去り、背中に直接ヒクイの分身を出現させるという結果をもたらしたのだった。
「さあ、成敗じゃ成敗!」
ヒクイの呼びかけに合わせ、分身たちが武器を構え、アルプトラオムたちを攻撃する。
ある分身は叡智のバットという名の棍棒でタコ殴りに、ある分身は薙刀をカッコよく振るい、ある分身は振り落とされないように必死になって馬にしがみつく……。
そうして、アルプトラオムたちはその数を減らしていった。
ちなみに本体たるヒクイ本人は、その光景を悠々と見物していた。
「え?わっちは分身に任せて高みの見物ですけど?近づくとホラー映画みたいなヴィジョンが見えるし……」
当然ながら、分身たちはアルプトラオム自身のユーベルコードによって精神攻撃を受けていた。
「ぎゃあああ!なんかヤバそうな猫が!」
「ちょっ、デカイ芋虫!気持ち悪っ!」
「ホラー実況は予定にないんじゃが!」
大成功
🔵🔵🔵
ノエル・フィッシャー
【WIZ】
ああ、見るからに毒々しい黒い瘴気だね。一息吸うだけでどうかなってしまいそうだ。「しょうき」だけに……ククク。
瘴気を吸わず、正気のまま戦う方法。そして敵のUCである霧を用いた電脳飽和攻撃への対処法――それは風を以って瘴気や霧を吹き飛ばしてしまうことだ。
UC【王子様の尊き御言葉】にて告げし勅は燃え上がる南風。吹き荒ぶ炎の嵐で瘴気を寄せ付けず、同時に高熱によって花畑諸共敵を焼き尽くし、ついでにあわよくば瘴気や霧を逆流させ、敵のみがその脅威を受けるように仕向けるよ。
アドリブ・共闘・追加のオヤジギャグ歓迎だよ。
煌めく王冠に、はためくマント。
見る人が見れば、セピアに染まる花園でノエル・フィッシャー(呪いの名は『王子様』・f19578)の周囲だけが鮮やかに色づくように錯覚するかも知れない。
そんなノエルの輝きに気づいたのか、エンジンと蹄の荒々しい音を響かせ、アルプトラオムたちが襲いかかる。
「ああ、見るからに毒々しい黒い瘴気だね。一息吸うだけでどうかなってしまいそうだ。「しょうき」だけに……ククク」
もしオブリビオンたちに知性と意思があれば盛大にコケていたかも知れない。
幸いというべきか、周囲には自意識を持たないアルプトラオム以外に誰も居なかったが……。
オブリビオンたちは依然変わらず、花園を踏み荒らしながら迫りくる。
しかし臆すこと無く対峙するノエルは、冷静にオブリビオンへの対処方を見抜いていた。
毒の瘴気と、精神を蝕む黒い霧。
それらをまとうアルプトラオムたちに手をかざし、ノエルは声を響かせた。
「天地よ、ボクの声を聞け――王権の下に勅を命ず!」
最初に吹いたのは風。
オブリビオンの意思に従い、ノエルへと襲いかかる絶望の霧が吹き散らされる。
次いでその風が燃え上がった。
燃え盛る南風は瘴気も霧も巻き込んで、オブリビオン諸共燃やし尽くす。
―――――ァアアアア……
アルプトラオムの嘶きが、なぜか少女の悲鳴にも聞こえた。
あるいは、オブリビオンたちを構成する絶望の記憶がそう錯覚させるのか。
「……こんなオウガが生まれるほど、多くのアリスが犠牲になったのか」
口の端から漏れた声音とは裏腹に、その眼光は揺らぐことはない。
絶望が形成した黒い影が炎に消えるまで、ノエルは静かにそれを見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
尾守・夜野
瘴気か…
内蔵へのダメージだろうとダメージならUCで耐性出来るからな
薄い所でそのまま受けて耐性獲得してから行動するぞ
まぁ毒耐性あるから念の為だけど
「今な?別の人格の策略にひっかかり丁寧に人が考えたくなかった事ほじ返されてんだわ
トラウマも苦痛も当初のが思い出されて苛ついてんだよ!」
苦痛&精神的苦痛も耐性で耐えよう
生きながら焼かれたのと裂かれたのと何か諸々越える苦痛があるならやべぇかもしれんが…
だがそれも精神的ダメージ
ならばUCで耐性ができちまうのさ
望む望まず限らずに
「てめぇの絶望など知ったことか
ぬるいんだよ!」
トラウマをトラウマで塗り潰し痛みを痛みで誤魔化して接近して切りつける
「あー…気持ち悪ィ……」
魔導蒸気機関が吐き出した瘴気を吸い、尾守・夜野(墓守・f05352)は顔を歪めた。
本体たるアルプトラオムは未だ遠く、距離がある分薄まった瘴気を吸ってみたが……それでもしっかりと毒によって内臓が侵されていた。
「けどまあ……これで瘴気は問題無ぇな」
ぐちゃり、ぐちゅりと夜野の身体を構成する部位(パーツ)が蠢いた。
ユーベルコード【摂食変換(ダメージコンバータ)】。食らったダメージを『喰らい』、回復と同時にダメージへの抗体を身につけるその能力は、魔導蒸気機関の瘴気への耐性を夜野に獲得させていた。
スラリと剣を抜いた夜野に気づいたのか、エンジンを埋め込まれた異形の黒馬が夜野へと襲いかかる。
「今な?別の人格の策略にひっかかり丁寧に人が考えたくなかった事ほじ返されてんだわ」
静かな声に隠された感情を、意思持たぬオブリビオンは理解できない。それを知った上で、夜野は手にした剣―――怨剣村斬丸を振りかぶる。
「トラウマも苦痛も当初のが思い出されて苛ついてんだよ!」
すれ違い様にアルプトラオムの首が一つ落ちた。
自らを踏み潰さんと叩き降ろされた蹄を躱し、黒剣を一閃。
「オラァッ!」
深々と胴体を引き裂かれた黒馬が叫びを上げる。
それは馬の嘶きであると同時に、少女の悲鳴にも聞こえ……そこに込められた少女の絶望が、夜野へと伝わり苦痛の記憶を呼び起こす。
「ぐ、ぁ……」
一瞬、夜野の体が揺らいだ。
アリスラビリンスで無惨に殺された少女たちの記憶。
生きながらに引き裂かれ、血肉を啜られ、自らの帰る場所を思い出すことすら出来ず死んでいった少女の痛み。
そして悲鳴から想起される苦痛が、夜野の精神を痛めつける。
だが。
「ウゼェ……なあッ!!」
苛立ちを込めて剣を振り下ろす。
胴体を裂かれていたオブリビオンは、今度こそ真っ二つに断たれて消滅した。
「てめぇの絶望など知ったことか!ぬるいんだよ!」
精神へのダメージすら、夜野のユーベルコードは抗体を生み出す。
自らの身体を補うパーツが蠢き、手にした剣から『何故お前だけ』と声が聞こえた。
それは、彼の原初のトラウマ。
自らのトラウマでオブリビオンからの絶望を塗りつぶしながら、夜野は怒りに任せて剣を振るい続けた。
大成功
🔵🔵🔵
鈴木・志乃
開幕UC発動。
自然という自然を降らせて神域を展開。
これでほぼ『不浄』と言えるであろう諸々の対策にはなっていると思うけど、念の為高速詠唱のオーラ防御で身を守っておくよ。黒紅の霧も全部を防げるとは限らないし。
敵そのものが不浄の塊のようにも思える。場合によってはUC自体が敵に大打撃になるかもね。
UCで岩や川を降らせ続け、敵に直撃させて攻撃。さらに浄化の力を持つ精霊ユミトを精霊銃に込め、射撃。これでも祈りとか破魔とか、浄化に関してはそれなりに知識と能力はありますのでね。
……敵自身がこのままだと可哀想だ。
全力魔法でせめて一思いに葬ろう。これ以上苦しまないように。
色あせた花園に、突如として青々とした水が注いだ。
出処のハッキリとしない、虚空から現れたかのような水の流れは即座に滝となって次々に花園へと注がれる。
続いて飛沫を受けてきらめく灰色の岩が。セピアの背景を塗りつぶすような、緑の葉をつけた木々が。
一瞬にして景色が色付き、アルプトラオムたちは警戒に足を止めた。
「さて、これでこの場所は『神域』と同じになった」
静かに告げるのは鈴木・志乃(ブラック・f12101)。
彼女のユーベルコード、■■■■の神域(ナナシノヨリシロ)に影響を受けた場所は、不浄を強制的に取り除かれる。
結果、毒の瘴気は吐き出された途端に浄化され、驚異を失っていた。
―――――ァアアアア…
アルプトラオムが嘶く。それはアリスたちの悲鳴として志乃の耳を打った。
絶望や苦痛の記憶が形無したアルプトラオムは、それ自体が不浄として認識されているのか。
単に過去のリフレインであるはずの悲鳴が、浄化されかかっているオブリビオンに悲鳴にも聞こえた。
「全力魔法でせめて一思いに葬ろう。これ以上苦しまないように」
志乃は、あるいは彼女の体の主導権を借りた『名無し』は、言葉と共に銃を構えた。
天馬の精霊ユミトが弾丸に込められ、銃口から金色の光が漏れ出す。
同時に降り注ぐ水が勢いを増し、更には岩や木々も空から降り注ぐ。
セピアも黒も塗りつぶすそれらは、アルプトラオムから完全に抵抗する力を奪っていく。
「さようなら。もう、嘆く必要はないよ」
精霊の力を込めた銃から放たれた一撃。
金色の軌跡を描く天馬の精霊が黒い絶望たちを浄化し、後には影すら残らなかった。
大成功
🔵🔵🔵
楊・宵雪
同行
神崎・柊一(f27721)
瘴気の蒸気対策
可能なら風上取り呪詛耐性とオーラ防御で耐え
UCの炎の熱で気流を起こし蒸気の流れを誘導
拡散防ぎ味方守りつつ技能破魔で無害化を試みる
さらに、部位破壊で蒸気機関部を狙い
衝撃波の風圧で蒸気から身を守る
敵UC対策
呪詛耐性と鼓舞、相方と励まし合うことで対抗する
「柊一ならきっと乗り越えられるはずよ
絶望の度合いが大きい場合は抱きしめ、技能誘惑でトラウマから気を逸らす
空中浮遊使い、地形破壊で敵の足場崩し足止め
個々の意識がないならば小細工せず火力で押す
多重詠唱、弾幕で一気に畳み掛ける
神崎・柊一
同行
楊・宵雪(f05725)
瘴気の蒸気対応
先制+弾幕+貫通+部位破壊で敵の蒸気機関を狙い
UCの爆発の熱、爆風で蒸気の霧散と瘴気の破壊を狙う
結界術で自分と仲間への蒸気の影響を抑える
結界や砲撃で向こうの音を低減させ影響の度合いを下げる
又、トラウマ等で震える場合は宵雪の手を握り、瞳を見つめて声をかける
度合いが大きければ抱きしめる
「頼りないかもしんないけど…それでも今の宵雪は一人じゃない
二人なら進んでいける、そう信じてるから
励ますようできっと励まされてるのは自分なのかもしれない
だからこそ、ダサい恰好はできない
例え恐怖で震えても、ここで強がらないと…!
空中浮遊で直接攻撃を避け
弾幕と貫通で一気に消し飛ばす
「吹き飛べ……フルバースト!」
毒の瘴気を撒き散らすオブリビオンに対して、神崎・柊一(自分探し中・f27721)と楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)が取った対策は極めてシンプルであり、それ故に効果を発揮した。
戦場となる花園に転移するや否や、アウトレンジからの先制攻撃。
アームドヒーローとして強化を受けた柊一の全兵器開放(ウェポンバースト)は、敵の特定部位を狙う弾道制御によって確実に魔導蒸気機関を捉えていた。
銃撃、ミサイル……数々の武装が虚空に軌跡を描き、次々とアルプトラオムの背中に着弾する。
一拍遅れて響いた爆音が、周囲の瘴気を吹き散らした。
「あら、私も負けてられないわね?」
次いで、呪詛に対して耐性を持つ宵雪が前に出た。
猟兵の奇襲から立て直そうとするオブリビオンに対して、宵雪は背後に伸びた美しい白尾から狐火を打ち出す。
複雑な軌道を経て次々と花畑に着弾した狐火は、アルプトラオムの足場を確実に爆破し、その余波で残った瘴気すらも吹き飛ばしていた。
「ここまでは順調よ。良い腕ね?」
「何とか訓練通りにやれたか……」
額を拭いながら、柊一が宵雪に答える。
2人の視線の先では、足場を破壊されたアルプトラオムたちが、馬としての脚力を発揮できずいた。
既に強化の要となる魔導蒸気機関も破壊され、残されたのは元のオブリビオンとしての力のみ。
何とか穴だらけになった地形から脱出しようとする彼らに対して、2人の猟兵が攻撃を仕掛ける。
「個々の意識がないならば小細工せず火力で押す。……畳み掛けるわ」
「了解だ!」
2人は空中浮遊の技能により、地形に足を取られる事なく次々と重火器と狐火の弾幕を放つ。
放たれた攻撃はアルプトラオムたちの体力を確実に削りながら、さらに足元に着弾させることで地形の破壊と足止めを行っていた。
このまま一方的に勝負が付くかと思われた時、2人の耳朶を少女の悲鳴が打つ。
―――――ァアアアア!!
それは単なるリフレイン。少女たちの絶望から形作られた黒馬の嘶きは、少女の悲鳴と同じ音色を持つ。
だが、それを聞いた2人にの脳裏に、アルプトラオムを形作った苦痛の記憶がトラウマとして突き刺さった。
ある少女は狼に生きたまま齧り殺され。
ある少女は鎧の騎士に首を撥ねられた。
そしてそれらの苦痛よりも強い、孤独の記憶。
ゲームとして延々と、永遠に続かのような時間を追い回され、動けないほどの苦痛と徒労の内に一人死んでいく。
そんな記憶が、2人の猟兵に襲いかかる。
「う、あ…これは……」
「くっ、ああ……」
アルプトラオムの嘶きに2人が意識を奪われ、苦悶の表情を浮かべる。
その隙をついてオブリビオンたちは再び距離を詰めようとする。
そんな状況で、真っ先に動いたのは柊一だった。
ぎゅっと、手を握られる感触。
驚いた宵雪の目の前には、自らを見つめる柊一の顔があった。
「はぁ、はあっ……大丈夫か…?」
見れば柊一自身も額に脂汗をにじませながら、それでも宵雪を気遣って手を握っていた。
強く握られた手に意識が向けられ、脳裏に襲うトラウマが緩和される。
「頼りないかもしんないけど……それでも今の宵雪は一人じゃない」
その一言で、孤独が振り払われた気がした。
あるいは、自分の言葉に助けられているのは柊一自身かも知れない。
柊一の銃撃が、先頭を切って襲いかかる黒馬を撃ち抜いた。
その姿に、宵雪もまた平時の調子を取り戻す。
「ふふっ……ありがとう、助かったわ」
言いながら宵雪は自分の身体を柊一に密着させた。
「わっ、ちょっと……!?」
「これならあなたも気が紛れるでしょう?」
「確かに楽になったけどっ……密着されると銃が撃てないって!」
あら残念、と悪戯っぽく微笑むと、宵雪は柊一から離れ、再び狐火を尻尾に灯した。
「さあ、終わらせましょう」
「……ああ!」
先程よりも勢いを増した2人の攻撃が、アルプトラオムたちを焼き払う。
もはや絶望の記憶は2人を止める事は出来ず……数刻の後、花畑のオブリビオンたちは全て、躯の海へと還ることとなった。
大成功
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