恋香る(作者 空色
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●香り屋
 帝都の片隅に、小さなお店があった。
 「香り屋」という看板が掲げられたお店は、お香の専門店だ。お香は勿論のこと、匂い袋や茶道・香道に使う香木などが所狭しと並べられている。
 人気は自分で香木を調合して作る匂い袋だ。その匂い袋にはひとつの噂がある。
 このお店の店主、羽住・薫と共に匂い袋を作ると、恋が叶うという。
 実際に恋が叶ったなどの話もまことしやかに囁かれ、小さなお店は連日大盛況だった。

 羽住・薫は二十代後半の女性だ。
 近所にある女学校の生徒たちの恋の話を聞いているうちに、叶えてあげたいと思うようになった。
 でも、自分には香りの調合しかできない。
 もどかしい思いをしているとき、ふと古びたランプを購入した。
 始めは店に飾ろうかと思っていた。けれども、自室でランプをつけたとき――「彼女」は現れた。
 恋まじないを使う「彼女」が人でないことはわかっている。
 けれども、自分がその力を使うことができれば、恋に悩み、苦しむ少女たちを救うことができるのかもしれない。

 薫は「彼女」の力を借りた。
 悪いことだとは百も承知だ。
 だけど、お願い。呪われるなら、私だけにして。
 私を頼り、恋を成就させたいと願う少女たちは悪くないのだから。

●恋香る
「あー……力を貸してもらえねえか。ちょいと人を選ぶ事件なんだが」
 グリモア猟兵のアルベルト・ハルトマンが頭を掻きながら言った。
「舞台はサクラミラージュ。近頃話題になってる『籠絡ランプ』の事件だ。とある女性が、影朧の力を利用してユーベルコヲドを使用している」
 アルベルトはそこまで言ってから視線をさまよわせた。
「それがなんつーか、恋が叶う匂い袋とかを売ってるんだ。なんで、まあ、恋とかそーゆーもんに免疫のあるヤツに行ってもらったほうがいいな」
 恋をしているかどうかは問題ないという。問題はそういう話にうまく合わせられるかどうかだ。
「行ってもらうのは、籠絡ランプを使ってる女性、羽住・薫の店だ。香りの店らしい。そこで買い物をするふりをして、薫に籠絡ランプのカマをかけてくれ。ヤバいと思ったら、たぶんそこでランプを出してくる。そうしたら、影朧をなんとかすればいい。転生させるか否かは行ったやつらに任せる」
 アルベルトはそこまで淡々と言ってから、小さくため息をついた。
「問題は、薫ってやつがどうも悪気があってランプを使ってるんじゃねえってことなんだよな……。ただ、やってることは悪いことだ。その辺、きっちり説教してきてくれねえか。とは言え、店の売上も信用もガタ落ちするだろう。フォローも頼むわ」
 アルベルトはグリモアを光らせた。
「慌ただしい時期に悪いな。よろしく頼むぜ」


空色
 空色と申します。よろしくお願い致します。
 サクラミラージュでの事件となります。籠絡ランプの始末をお願い致します。

 舞台は帝都の片隅にある香りのお店です。
 1章は日常となります。香りのお店にてお買い物をするふりをして、籠絡ランプの持ち主である店主の羽住・薫に接触してください。ただ、お買い物をお友達と楽しむだけでも構いません。
 2章はボス戦です。詳細は断章をご確認くださいませ。
 3章は日常です。ユーベルコヲドを失った薫のアフターケアをお願い致します。

 一部の章だけのご参加、大歓迎です。
 ご友人同士の参加ももちろん歓迎致しますが、迷子にならないように気をつけてくださいませね。

 他、受付や詳細などは当方のマスターページをご確認いただけますと幸いです。
 みなさまのご活躍を丁寧に執筆できるよう、頑張ります。
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第1章 日常 『香煙を薫らせて』

POW元気の出る香りを楽しむ
SPDリラックスする香りを楽しむ
WIZロマンチックな香りを楽しむ
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔴

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 此処は香りのお店、「香り屋」。
 女学生たちに混じってお店に入ると、ふわりといい香りが漂ってくる。
 店主は奥のほうに座っている。黒髪をひとつに結わえた、とても地味な女性だ。
「いらっしゃいませ。どのような香りをお探しで?」

 ……さあ、どうやって彼女に問いかけよう。
ヴィクター・グレイン
アドリブ、連携等ご自由に。

「(はぁ、またランプか…。)」
つい先日もランプの件を終えたと言うのに、一体全体どうなってやがる?
奥に進み店主と思われる人物に話しかける。
「お前が羽住薫か?」
いつでも身構えられる様に警戒する。
「単刀直入に聞く、ランプは何処だ?」
一切の表情を変える事なく更に問う。
「大人しくランプを渡せば危害を加えるつもりはない、何処で手にしたかは知らないがな。」
付け加える様に薫に言う。
「まぁ、お前らは他人の為にその力を使っているんだろうがな。だがそれは悪しき物だ。お前ら普通の人間が手にしていい物ではない。さあ、寄越せ。」
そう言って薫に迫り寄る。


(はぁ、またランプか……)
 ヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)は思わずため息をついた。
(つい先日もランプの件を終えたと言うのに、一体全体どうなってやがる?)
 それだけ、帝都に籠絡ラムプが出回っているということだろうか。だとしても、ヴィクターのやることはひとつだけだ。
 真実を追い求める。正確に言えば、「正義という真実」をだろうか。
 他とぶつかったとしても、愚直なまでにまっすぐに真実を追い求めていく。それがヴィクターのやり方だった。
 店の戸を荒々しく開けると、中にいた客たちが驚いたようにヴィクターを見た。狭い店を奥へと進むヴィクターに、皆、静まり返って道を開けるようにする。
「お前が羽住薫か?」
 ヴィクターがいつでも身構えられるように警戒しながら声を発すると、店の奥にいた店主、羽住薫は少し怯えたような表情を作った。
「そうですが、何か……」
「単刀直入に聞く、ランプは何処だ?」
「え?」
 突然の問いかけに薫は反応できないようだ。ヴィクターは表情を変えることなく更に問いかける。
「大人しくランプを渡せば危害を加えるつもりはない、何処で手にしたかは知らないがな」
「あの……何をおっしゃっているのか、わかりかねますが……」
 さすがに単刀直入すぎたのだろう。薫は、自室にある籠絡ラムプのことだとすぐにはわからないようだった。ヴィクターは重ねて言う。
「ランプだ。最近、お前に力を与えたランプがあっただろう」
「……」
 ようやく、薫にもヴィクターが何を出せと言っているのかわかったらしい。顔色が変わる。
「まぁ、お前らは他人の為にその力を使っているんだろうがな。だがそれは悪しき物だ。お前ら普通の人間が手にしていい物ではない」
 薫は唇を噛み締め、うつむく。店内の客がヴィクターの言葉にざわついているのがわかる。大半は突然入ってきて買い物の邪魔をしたヴィクターに否定的なようだった。
 だが、ヴィクターはそれでも構わない。彼の求めるものはひとつだけなのだから。
「さあ、寄越せ」
 ヴィクターが薫に迫ると、薫は咄嗟に黒電話を掴んだ。
「け、警察を呼びますよ。突然、お店の邪魔をされるのは困ります」
「お前がランプを渡せば出ていく」
「ラムプなんて、知りません! お店の邪魔です、出て行ってください!」
 ヴィクターを超弩級戦力だとは知らぬ者たちが、そうだそうだ、と薫を支援する。
 この状況では、買い物客にはどちらに正義があるかはわからない。それならば、自分たちが買い物をしやすい状況を選ぶのは当然と言えた。
 買い物客たちに追い出されるようにして、ヴィクターは店の外に出た。舌打ちするしかなかった。
(いつかあいつは必ずランプを使う。その時まで、ここで張っているしかないか……?)
 とは言え、薫を警戒させたことは効果があっただろう。彼女は疑心暗鬼になっているに違いない。
 ヴィクターはその戦果を持って今後どうするかを考えるのだった。
成功 🔵🔵🔴

御影・龍彦
店主さんは心根が真っ直ぐな方のようだね
店が繁盛しているのは
彼女の人柄と商才、双方があるからこそだろう
さて、問題は影朧だ
人に仇なす存在なのか、或いは――

見定める為にも買い物を
店主さんに声をかけて
匂い袋作りを手伝ってもらおうかな

相手は僕より少し年下の女の子
異国から来た、フランス人形みたいな子でね
それでいて和の文化にも馴染みがある
どんな香りなら気に入ってくれるかな?
え、彼女との関係?
うーん、まだまだこれからとだけ

…うん、嘘はついてない
ダシに使ってしまったし
匂い袋は本当に弟子へと贈ろう

手渡された商品に
店内に
辺りに満つ香りに
魔の気配がないか確かめた上でね

「ねえ、店主さん。恋の魔法って、あると思うかい?」


 からり、と戸を開けて『香り屋』へと入った御影・龍彦(廻る守護龍・f22607)は綺麗に整えられた店内を見渡して、ひとつ頷いた。
(店主さんは心根が真っ直ぐな方のようだね)
 乱れたところのない展示品、高くない値段設定の品々……それは、羽住薫という人間の人となりを表しているかのようだった。
(店が繁盛しているのは彼女の人柄と商才、双方があるからこそだろう)
 店内は女学生たちが思い思いに品定めをしている。それだけ居心地のよいお店でもあるのだろう。そうなると、龍彦は心配になる。
(さて、問題は影朧だ。人に仇なす存在なのか、或いは――)
 それを見定めるためにも、今は買い物をして羽住薫を探るべきだろう。
「店主さん、匂い袋を作りたいのだけど、手伝ってもらえるかな」
 龍彦の言葉に薫は人の良さそうな笑みを浮かべた。
「ええ、勿論です。ご自分のものですか? それとも……」
「いえ、噂の匂い袋を」
 少し声を潜めて龍彦が言うと、薫は屈託なく微笑んだ。
「かしこまりました。お相手さまはどのような方で?」
「相手は僕より少し年下の女の子。異国から来た、フランス人形みたいな子でね。それでいて和の文化にも馴染みがある」
 薫はうん、うん、と微笑んで頷きながら、香木や香原料を選んでいく。
「どんな香りなら気に入ってくれるかな?」
「そうですね……あまり高いものですと、貰う方も気が引けてしまうでしょうから、白檀を主にして……龍脳を少しと桂皮を少し……乳香も混ぜましょうか。乳香は、異国の教会で焚かれることもあると聞きますから」
 薫は混ぜ合わせた香り袋を龍彦へと手渡す。どこか涼やかな香りがした。
「ちなみに彼女さまとのご関係は?」
「え、うーん、まだまだこれから」
 龍彦は少し後ろめたい思いをしながらも微笑む。
(……うん、嘘はついてない。ダシに使ってしまったし、匂い袋は本当に弟子へと贈ろう)
 そんなことを思っているときだった。
 薫が混ぜ合わせた香り袋の上で手を広げる。そして何かを結ぶような仕草をした。
 その瞬間、龍彦はたしかにユーベルコヲドが使われる気配を感じた。禍々しいものではない。けれども、そのユーベルコヲドには「魔」の気配がある。
「はい、ではこちら、匂い袋になります」
 薫から手渡された商品に、店内に、辺りに満つ香りに、先程にはない「魔」がうっそりと忍び込んでいる。
 龍彦は警戒しながら、薫をまっすぐに見て尋ねた。
「ねえ、店主さん。恋の魔法って、あると思うかい?」
 尋ねられた薫は少しだけうつむいた。
「あると思います、きっと。だって、そうでなきゃ恋する人たちが可哀想じゃないですか」
 彼女には「恋を自分で叶える」という当たり前の考えがないのかもしれない。優しすぎて、人の恋の手伝いをついしたくなってしまうのかもしれない――。
 龍彦は、薫の答えを聞いてそんなことを思ったのだった。
大成功 🔵🔵🔵

ラナ・スピラエア
香りものは香水を普段から使っているけれど
お香という文化には触れたことが無いのでワクワクします!

折角なので、匂い袋を
サシェみたいなものですかね?
全く分からないので…
薫さんにアドバイスを頂きたいです
わあ、落ち着いた香りですね
香水とは全く違っていて、なんだか不思議です
お花の香水が好きなんですけど
私に合うのってどの香りでしょう?
詳しい薫さんに選んで頂きます
袋も合わせて、私らしいものを作りたいです

その、…恋が叶うって本当ですか?
あ、いえ
おまじないが本当なら、嬉しいなって思って…
勇気を出す、手助けになってくれたらって
恋が叶う、何か特別な香りとかあるんですか?
尋ねる言葉は
調査よりも好奇心が勝っている気が


 お店で、お香の独特の香りをすぅと吸い込んだラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は、その苺色の瞳を輝かせた。
(香りものは香水を普段から使っているけれど、お香という文化には触れたことが無いのでワクワクします!)
 『香り屋』の店内を眺め渡すも、ラナが知っているような香水瓶に入っているような香りは見当たらない。少し考えてから、折角なので匂い袋を手にしてみようと思った。
(サシェみたいなものですかね?)
 それっぽいものを見渡すが、やはりラナが知っているようなものは見つからない。ラナは思い切って薫に声をかけてみた。
「あの、匂い袋が欲しいのですが、全く分からないので……」
「ええ、ご案内させていただきますね」
 薫は店の奥から出てくると棚からぽってりとした巾着袋を手にとって、ラナへと渡した。
「これが、基本の匂い袋です。よかったら香りを聞いてみてください」
「聞いて?」
「ええ。香りは聞く、と言うのですよ」
 ラナが感心しながら香りを聞くと、ふわりと香りが立ち上った。
「わあ、落ち着いた香りですね。香水とは全く違っていてなんだか不思議です」
「ふふ、海外の香水とはやっぱり違いますか? 私は逆に香水を一度しか嗅いだことがなくって」
「そうなんですか。えっと……」
 屈託なく微笑む薫に、ラナは少し考える。
「お花の香水が好きなんですけど、私に合うのってどの香りでしょう?」
「お値段が少し高くなってもいいかしら。貴女なら、きっと伽羅が似合うと思っていたの」
 人のために香りを選ぶのが好きなのだろう、薫は嬉しそうに香原料を選んでいく。
「少し甘めの乳香と、隠し香りに丁字を加えて……甘松で安定させましょうか。匂い袋でよろしいかしら?」
「ええ……その」
 薫が嬉しそうにラナに合わせて桃色と苺色の巾着を選んでいる中、ラナは声を潜めて尋ねた。
「……恋が叶うって本当ですか?」
 薫の手が止まり、少し怯えたようにラナを見る。ラナは慌てたように言葉を続けた。
「あ、いえ、おまじないが本当なら、嬉しいなって思って……」
「え、ああ、でも……噂だから、ね?」
 薫はラナから視線を逸し、苺色の巾着に香原料を入れていく。ラナは調査よりも好奇心のほうが強いのを感じながら、言葉を紡いだ。
「勇気を出す、手助けになってくれたらって」
 ラナの言葉に薫は手を止める。
「恋が叶う、何か特別な香りとかあるんですか?」
「特別な香りは……特にない、かな。その……おまじないがあるだけで。叶えたい人がいるの?」
 薫は匂い袋の上で何かを結ぶような仕草をした。瞬間、ラナは薫がユーベルコヲドを使ったことを知る。それは、落ち着いた店内に「魔」が忍びこんできたような、そんな背筋の凍るような感覚だった。
 ユーベルコヲド自体は禍々しいものではない。だが、これは影朧の力だ。
 ラナは差し出された匂い袋を受け取って、こくん、と息を飲んだ。
大成功 🔵🔵🔵

ヒュー・アズライト
●WIZ/アドリブ連携おまかせします

なるほどなるほど。それなら俺は少し猫を被って対応してみましょう。
店内をゆっくり見て回って、物思いにふけるように溜息を吐きましょう。店主さんと目が合えば、縋るように
「このお店で匂い袋を手にすれば恋が叶うと聞きました。『私』の恋をどうか、叶えてもらえませんか?」と

俺は残念ながら恋に縁が無いのですが…適当に「相手は年上で『私』はまだこどもだから相手に…どうか、あの人に振り向いて欲しいのです」とでも伝えましょう。

演技するのは初めてですから少し不安ですが、ランプが出てくるならよし、出なければ会話中の様子を窺ってみましょう。
それにしても良い香りですね…お土産欲しいなあ。


(なるほどなるほど)
 グリモア猟兵の話を聞いたヒュー・アズライト(放浪家出人・f28848)は大きく何度か頷いた。
(それなら俺は少し猫を被って対応してみましょう)
 『香り屋』の店内へと入ったヒューは、まず、店内をゆっくりと見て回る。そして、匂い袋の前で、物思いにふけるように溜息を吐いた。
 そのあまりにも切々とした溜息に、奥から店主の薫が心配そうに出てくる。演技に不安のあったヒューだったが、なかなか、堂々たる演技力だ。
「どうかなさいましたか?」
 薫が尋ねると、ヒューは縋るように言った。
「このお店で匂い袋を手にすれば恋が叶うと聞きました。『私』の恋をどうか、叶えてもらえませんか」
「え……」
「お願いします、どうか」
 縋るヒューに、薫は少し考えてから頷いた。
「……その、お手伝いならできるかと思いますが」
「本当ですか!」
 ヒューはぱっと笑顔になる。薫は決意したように頷いた。
「お相手はどのような方ですか?」
 尋ねられて、ヒューは少し返答に困る。残念ながら、ヒューにはまだ恋に縁はない。だが、それを見破られては逆に怪しまれてしまう。
(適当にでっちあげましょうか)
「相手は年上で『私』はまだこどもだから相手に……どうか、あの人に振り向いて欲しいのです」
「ああ、それは……お辛いでしょう」
 薫は心底から同情したように胸に手を当てると、香原料を選び始めた。
「伽羅を主にして、桂皮、丁字などを組み合わせてみましょうか。少し高貴な香りを出せればよいのですが」
 ヒューは薫の手付きを注意深く眺める。ランプが出てくるならよし、出てこなくても、会話中の様子を窺うつもりだ。
(それにしてもよい香りですね……お土産欲しいなあ)
「このような香りでいかがですか」
 差し出された匂い袋には不審な点はない。高貴な色とされた紫色の巾着に入れられた、普通の匂い袋だ。
「ええ、素敵な香りですね」
「ありがとうございます。ではこれでお包み致しますね」
 薫はそういうと、匂い袋の上で何か結ぶような仕草をしてみせた。瞬間、ヒューは薫がユーベルコヲドを使ったことを察知する。
(これは……ランプの力!)
 籠絡ラムプは別の場所にあり、今はその力を借りているだけなのだろう。籠絡ラムプらしいものは店内には置いていないようだ。
(けれども、影朧の気配がします。これは……)
「どうかなさいましたか?」
 薫が心配そうに尋ねてくる。ヒューは慌てて演技に戻った。
「いえ、思いが通じるかと思って……少々そわそわしてしまったようです」
「そうでしたか。この匂い袋でお手伝いできればと思います」
 まったく悪気のない薫の言葉に、ヒューは胸が痛くなる。なんと言えば、彼女はこの行為が「悪」だと納得するのだろうか――。
大成功 🔵🔵🔵

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

俺の匂い…か?
夏だからな…汗臭いだろうにと
照れくさげに瞳を細めながらも俺の選んだ香を宵が纏う、か。責任重大だなと笑いながら頷こう
その…宵の言う様恋は叶っているのだがな
宵に似合う香りを共に選んで貰えるかと薫へと声をかけよう
宵は矢張り爽やかな香が似合うだろうとベルガモットとシダーウッドの香を手にしつつも、近くに置かれているフランキンセンス…乳香を見ればそれも併せてみようと思う
俺はなんだ、使われていた場所故か元々沈香や乳香の様な香が染みついては居るからな…と
…俺の匂いも纏って欲しい等口には出さんが…気付かれぬならば良かろう
造り終えたならば宵と共に購入
宵の質問のフォローを出来れば幸いだ


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

香りのお店、ですか
僕はきみの匂いが気に入っているのですが……
きみに似合う香をこの機に新しく探してみるのも良いですね

かれが常に纏うムスク系の香りをベースに
オリエンタルでスパイシーな香を添えてみましょうか
ふふ、僕の恋はもう叶っていますけれど
かれの纏う香と考えればこそより香選びに力が入るというものです
……少しだけ、ソープ系の香りも入れておきましょうか
変な虫がつかないように、僕の匂いをつけておきたいものです
そうすればいつでも一緒にいられますからね

薫さんには最近買ったもののことについて聞いてみましょうか
ええ、使命を帯びた面差しをされているので
良いものを買われたのかな、と


「香りのお店、ですか」
 逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は店構えを見てから、隣に立つザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)に微笑みかける。
「僕はきみの匂いが気に入っているのですが……」
 宵が鼻を動かすと、ザッフィーロは照れくさそうに瞳を細めた。
「夏だからな……汗臭いだろうに」
「そのようなことはありませんよ。ですが、きみに似合う香をこの機に新しく探してみるのも良いですね」
「俺が選んだ香を宵が纏うか。責任重大だな」
 宵とザッフィーロは互いのために香を探すことで一致し、店の戸をくぐった。
「いらっしゃいませ。どのような香りをお探しで?」
 仲睦まじい二人の様子に目を細めながら、店主の羽住薫が声をかける。
「香作りをさせていただければと」
「かしこまりました。香原料はこちらから、入れ物はこちらからお選びくださいませね」
 和のものだけでなく、洋のものも揃った香原料がずらりと並ぶ。宵とザッフィーロは並んで考え込んだ。
(そうですね、かれが常に纏うムスク系の香りをベースに、オリエンタルでスパイシーな香を添えてみましょうか)
 宵がザッフィーロを見ながら香りをイメージすれば、ザッフィーロは少し悩んでから薫に声をかけた。
「宵に似合う香りを共に選んで貰えるか」
「ええ、もちろんです。何かイメージはございますか?」
「宵は矢張り爽やかな香が似合うだろう」
 ザッフィーロはベルガモットとシダーウッドの香を手にしつつも、近くに置かれているフランキンセンス――乳香を見ればそれも併せてみようと思う。薫もザッフィーロの選んだ香に頷いた。
「ええ、爽やかな香りになりますね。よろしいかと思います」
「ふふ、僕の恋はもう叶っていますけれど、かれの纏う香と考えればこそより香選びに力が入るというものです」
 宵は自分であれこれと香原料を手に取り、混ぜ合わせる。
「その……宵の言う様恋は叶っているのだがな」
 ザッフィーロも照れくさそうに言えば、薫はふふ、と幸せそうに微笑んだ。
「ええ、仲睦まじそうで何よりです。ごゆっくりお選びくださいね」
 順調に香を集めていた宵は、ふと手を止めた。
(……少しだけ、ソープ系の香りも入れておきましょうか。変な虫がつかないように、僕の匂いをつけておきたいものです。そうすればいつでも一緒にいられますからね)
 オリエンタルな香りに爽やかな香りがほんの少し混ざり合う。
 ザッフィーロもまた薫が香原料を混ぜるのを見て、少し考えていた。
(俺はなんだ、使われていた場所が故か元々沈香や乳香のような香が染み付いては居るからな……)
 だからこそ、フランキンセンスの香が気になってしまう。
(……俺の匂いも纏って欲しい等口には出さんが……気づかれぬならば良かろう)
 そっと薫が混ぜる香原料にフランキンセンスも入れた。薫は驚いた顔をしたが、ザッフィーロの纏う香りに気づいたのだろう、幸せそうに微笑む。
 そして何も言わずに香を混ぜザッフィーロに差し出した。
「こちらでよろしいですか」
 爽やかな香りの奥深く、フランキンセンスが囁くように匂う。ザッフィーロは微笑んだ。
「ああ、これでいい」
 宵はムスク系の香をベースにして、時折ソープ系の爽やかな香りが漂う香になった。嗅いでみて、軽く頷く。
「ザッフィーロ、どうですか」
「ああ、いい香りだ。俺のも気に入ってもらえるだろうか」
「ええ、選んでもらえたと思うと嬉しく思いますよ」
 互いに自分の香りを添えたとは言わず、香を小瓶に詰めた。小瓶は、二人同じ藍色のものだ。まるで天球儀のような飾り細工が施されている。
 二人揃って購入すると、薫はサービスなのか、藍色のリボンと紫色のリボンをそれぞれに結んだ。
「小瓶が同じなのでお間違えないようにと思いまして」
「ありがとうございます。よい買い物ができました。ところで……」
 宵は優しい笑みを崩さぬまま薫に問いかける。
「薫さんも何か最近買われたものなどあるのでしょうか?」
「え、どうして……」
「ええ、使命を帯びた面差しをされているので良いものを買われたのかな、と」
 ザッフィーロもまっすぐに薫を見、返答を待つ。
「良い買い物をすると、良い眼差しになるものだからな」
 薫は困ったようにうつむいた。
「あの……大事なものを、買いました」
「そうですか。それはよろしいことです」
 宵は小さく頷く。ザッフィーロも手の中の小瓶を見ながら、頷いた。
「大事なものを買うと幸せになれる。幸せになれたのだろうか」
「私は……」
 薫は困ったように言葉を詰まらせた。
「私は、幸せにならなくてもいいんです。皆が幸せになってくれれば」
 そう言うが早いか、薫は店の奥へと姿を消した。宵とザッフィーロは顔を見合わせる。
 人を幸せにするには、自分もまた幸せにならなくてはならない。その思いは二人とも同じだ。だからこそ、二人は幸せだし、相手の幸せを疑っていない。
 それが、恋が叶うということなのだから。
 だが、薫の場合は――。
「嫌な予感がしますね」
「ああ」
 宵とザッフィーロは小瓶を握りしめながら、店の奥を眺めるのだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『『恋まじない』のうらら』

POW ●はい、縁切った♡
【呪い】を籠めた【鋏】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【恋心】のみを攻撃する。
SPD ●恋煩い、苦しいよね?
【恋煩い】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【恋愛に関する幻から】から、高命中力の【不安になる言葉】を飛ばす。
WIZ ●おまじないはお呪い♡
自身が【仲を引き裂きたい気持ち】を感じると、レベル×1体の【人形(ひとがた)】が召喚される。人形(ひとがた)は仲を引き裂きたい気持ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は永倉・祝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 『香り屋』の店舗の二階は薫の住居となっていた。
 薫は部屋の隅に置かれていたランプの前にへたり込む。

 ランプを出せと言ってきた客。
 いつもより多い、匂い袋のおまじない。
 そして最近したよい買い物の話。

 悪いことをしているとわかっているからこそ、薫は怖くなった。まだ明るい時分だが、ランプを灯す。
 すると彼女――うららが現れた。
「助けて、うらら。あなたのことがバレてしまう。バレてしまったら、もう恋のおまじないは使えなくなってしまうのでしょう?」
 薫が影朧にすがりつくと、うららはにっこりと微笑んだ。
「もちろん。じゃあ、私がちょっとお相手してこようかな。あとね、薫」
「なに、うらら」
「私、もう人の恋を応援するのは飽きたの」
 影朧の言葉に薫は呆然とする。影朧はにんまりと微笑んだ。
「これからは貴女に貸していた力も、縁切りにしか使えないようにするから」
「そんな、うらら、考え直して……!」
「しーらない。じゃ、行ってきます」
 影朧は階下へと下りていく。客と猟兵のいる、店のほうへ。
 薫は呆然とそれを見送るしかなかった。

 かくて、猟兵たちの前に影朧は現れる。
「縁を切ってほしいのは誰ー?」
 店内の客が悲鳴をあげるのが、店の外にまで響いた。
ヴィクター・グレイン
アドリブ、連携等ご自由に


「でやがったな。」
店の外からドアを蹴り破り、影朧に向けて火炎放射を放つ。
空になったら投げつけ距離を詰める。
「どいつもこいつも身勝手な奴等だ、お前ら影朧もそれに取り憑かれた者も。」
近くにある商品を的確に影朧に投げつけながら近づき、相手の腹に一撃を喰らわす。
「こいつを喰らっておねんねしてな…。」
あとは影朧が止まるまで殴り続ける。
簡単な話だ。


御影・龍彦
影朧にも恋を実らせることに執着する理由があるのでは
なんて可能性も考えたけど
これは、容赦せずとも良さそうだね

とはいえ、お客さん達や店内に被害が及ぶのは困るな
大声で避難を呼びかけ、影朧の注意を引こうか
加えて、買ったばかりの匂い袋を
これみよがしに懐にしまいつつ、僕自身も店外へ
おまじないを信じていると見せかけ
敵の『おびき寄せ』を試みるよ

戦闘では基本、精霊杖を振るっての杖術と
杖先から放つ魔弾にて攻撃

敵のUCは『オーラ防御』でダメージを軽減しつつ
あえてこの身で受け止めるよ
【降魔憑装】の効果を上げる為にね

影朧よ、君の行いは人の心を弄んでいるに過ぎない
弄ばれる痛みを
せめて身を以て知るがいい

※連携、アドリブOK


(影朧にも恋を実らせることに執着する理由があるのでは、なんて可能性も考えたけど)
 御影・龍彦(廻る守護龍・f22607)は「縁を切る」と騒いでいる影朧を前にして、首をゆるく振った。
(これは、容赦せずとも良さそうだね)
 とは言え、ここは狭い店内。まだ逃げられずにいる客も何人かいる。被害が及ぶのは困ると考えた。
「皆さん、避難をお願いします。ここは僕たちが守りますから――」
 龍彦が大声で避難を呼びかけたときだった。
「でやがったな」
 声を上げ、店の外からドアを蹴破り入ってきたのはヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)だ。手には火炎放射器。それを放つことがどれだけ危険なことか、龍彦には一瞬でわかる。
 ここはお香のお店だ。いくら火炎放射器が直線に炎を放つとは言え、火の粉は跳ぶ。お香や香木といった燃えやすいものに火が移ったら、店は全焼を免れない。ちなみに言えば、ここは木造家屋だ。
 龍彦は火炎放射器を影朧に向けたヴィクターの前に立ちふさがった。客がヴィクターの手のものを見て、悲鳴を上げて逃げていく。
「そこをどけ」
「火を放させるわけにはいかない。店が大変なことになる」
「店がどうなろうが知るものか。その影朧を止めることが仕事だろう」
 ヴィクターの意見は理にかなっている。だが、猟兵としてそれでいいのか、と聞かれれば龍彦は否、と首を振った。
「店は薫さんのものだよ。僕たちがどうこうしていいものじゃない」
 ヴィクターは頑として譲ろうとしない龍彦の態度に舌打ちをした。
「……五分待つ。どうにかするならどうにかしろ。五分後、俺はその影朧を殴り殺す」
 影朧を倒すことには龍彦も同意した。だから、ヴィクターの渋々の譲歩に頷く。
「ありがとう」
 客はあらかたが逃げた後だ。龍彦は影朧を眺めた。
「お話済んだなら、縁切っちゃうよー」
 影朧がにっこりと笑うと、何体もの人形(ひとがた)が龍彦とヴィクターへと攻撃してきた。ヴィクターはそれを殴り落とすが、龍彦はわざと攻撃を受け、精霊杖エイスを精霊から杖にし、時々人形を叩き落とすに留める。
「そっちのお兄さんのほうが戦いやすそう!」
 反撃の薄い龍彦を影朧は狙うことにしたようだ。龍彦は客がもういないか確認をしてから、買ったばかりの匂い袋をこれみよがしに懐にしまいつつ店外へと移動する。
 その姿はあたかもおまじないを信じているかのよう。影朧には気に障ったようだ。
「そんなもの、私が力をあげなきゃただの匂い袋なのに。信じるなんて愚かななの!」
 影朧は笑いながら、おびき出されるように店の外へと出た。
 それを確認し、龍彦は『降魔憑装』を使う。彷徨える悪魔たちの魔力が龍彦を覆い尽くし、今まで影朧から受けた負傷の分、戦闘力が上がる。
 そして、龍彦は精霊杖エイスを翻した。杖から魔弾が放たれ、影朧を攻撃する。反撃など予想していなかった影朧はもろにそれを食らって足を止めた。
 龍彦はさらに魔弾を放つ。
「影朧よ、君の行いは人の心を弄んでいるに過ぎない」
 放たれた魔弾は、まるで影朧を弄ぶかのように右に左にぶつかり、ふらつかせる。
「弄ばれる痛みをせめて身を以て知るがいい」
「こんな攻撃に、私が屈するわけ……」
 影朧がさらに人形を繰り出そうとした瞬間だった。
「――時間だ」
 ヴィクターがいきなり火炎放射器を放った。炎の龍のように真っ直ぐに飛ぶ炎。それは影朧の体を舐め尽くす。影朧から悲鳴が上がった。
 やがて火炎放射が空になるとその缶を影朧に投げつけ、ヴィクターは距離を一気に詰める。
「どいつもこいつも身勝手な奴等だ、お前ら影朧もそれに取り憑かれた者も」
 そのまま拳を握りしめると腹に一撃を食らわせた。それは『殺意を込めた一撃』。ただ殴った以上の強さが拳に乗る。炎が消えた影朧がげふり、と上体を折った。
「こいつを喰らっておねんねしてな……」
 そして、あとはユーベルコードなど使わず、ひたすら殴り続ける。
 龍彦は殴り続けるヴィクターから視線を逸し、周囲を見渡した。焼けたものは影朧しかなさそうだ。被害を最小限に食い止めることに成功している。
(よかった。店をどうするかは、この先に決めることだから)
 ヴィクターの手が少し休まると、龍彦も精霊杖で魔弾を放つ。この分なら、さほど大きな災いを起こさず、影朧も消えるだろう。
 遠巻きにこちらを見ている客のことは、また考えるしかなさそうだ。
 龍彦は殴られ続ける影朧を見ながら、懐にいれた匂い袋に軽く触れるのだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ラナ・スピラエア
縁を切る、だなんて
悲しいことを言うんですね

貴女は薫さんと一緒に
人々の幸せを願いたくて
協力しているんだと思っていました
でも…違うんですね

力を求めた、薫さんの優しさを感じたからこそ
その事実がなんだか残念で
この現状を見ている薫さんのことを想うと
心がきゅっと苦しくなる
恋に悩む人々を救いたいと
彼女が願ったことは、真っ直ぐな想いだったはずだから
私はその気持ちに、感謝をしたいです

一般の人がいるのなら
被害が出ないよう注意をしつつ
春咲ノ花片で攻撃を
共に過ごしてきた薫さんのことを考えて
影朧だとしても優しく包み込みます

私の大切な人との絆は
貴女には絶対に、引き裂かさせません
私には切られたくない、縁があるから…


(縁を切る、だなんて悲しいことを言うんですね)
 ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は胸の前できゅっと手を握りしめた。
 戦いの場は店に被害を与えないために、店外へと移動している。
 ラナは店の戸の付近で立ち止まり、影朧をじっと見つめた。
「貴女は薫さんと一緒に人々の幸せを願いたくて協力しているんだと思っていました。でも……違うんですね」
「はじめはね、ちょっとは楽しかったけど。でも人の幸せなんて見てて楽しいものじゃないもの」
 そう言って笑う影朧を見る、ラナの表情が曇る。
 力を求めた、薫の優しさをラナは感じていた。だからこそ、影朧のこの事実がなんだか残念でならない。
(この現状を見ている薫さんのことを想うと、心が苦しい)
 きゅっと痛む心。ラナはもう一度胸の前で手を握りしめる。
(恋に悩む人々を救いたいと彼女が願ったことは、真っ直ぐな想いだったはずだから、私はその気持ちに、感謝をしたいです)
 ラナは目を伏せ、薫のことを想う。ラナの匂い袋を嬉しそうに作っていた薫。そこには人の幸せを祈る気持ちしかなかったはずだ。
 幸い、既に客は遠巻きに影朧を見守っている。邪魔するものは何もない。
 ラナは、戸口から一歩前に進み出た。影朧がラナに沢山の人形(ひとがた)を襲わせようと指を向けた。
 同時に、ラナはふわりと両手を広げた。『春咲ノ花片』。甘く香る春色の花びらが舞い上がる。香るは、匂い袋とは違う、春の花の香り。柔らかな春の色。
 その花びらが人形を落とし、影朧を優しく包み込む。それは共に影朧と過ごしてきた薫のことを考えればこそ。
 二人の間にあったはずの絆――それを反故にしようとすることは悲しいことだから。
「私の大切な人との絆は、貴女には絶対に引き裂かせません」
 ラナは宣言するように声を上げた。春色の花びらが柔らかく舞う。
(私には切られたくない、縁があるから……)
 影朧の声は花びらの中からでは聞こえない。けれども、ラナは花びらを止めない。
 春色が踊る。幻朧桜の花びらが舞う。淡い色彩の中、ラナは大事な縁のことを想い、唇を噛み締めたのだった。
大成功 🔵🔵🔵

ヒュー・アズライト
●WIZ/アレンジおまかせ

さてはて、縁切りねぇ…。
恋に未練でもあったのかと思いましたが、縁切りに振り切れるのは予想外でした。

しかし場所が外に移ったのは幸いです。
一般人にだけ気をつけて全力魔法を起動の上指定UCを使用。
「俺に切られて困る縁はないけれど、放置するのはいささか問題があるので」
人形は全て撃ち落とすつもりですが、無理ならエレメンタルロッドでなんとか、なるといいですねぇ。

「一応念のため聞いておくけど、転生する気はないんだよね?」
これは薫さんに免じての問いです。
あると言うなら使えるものは使ってその手伝いをしますが…ないと言うなら、まぁ仕方ないですね、またの機会に。


(さてはて、縁切りねぇ……)
 ヒュー・アズライト(放浪家出人・f28848)は喚き立てる影朧を眺めながら、頭を掻いた。
(恋に未練でもあったのかと思いましたが、縁切りに振り切れるのは予想外でした)
 とは言え、戦いの場が外に移ったのはヒューにとっても幸いだった。気をつけるのは一般人だけでいい。一般人はこちらを見て悲鳴を上げているが、影朧と超弩級戦力の戦いということは理解しているようだ。
 つまり、思い切りやっても大丈夫。
「何よ、何よ、縁切りの何がいけないの! もう幸せそうな人を見るなんてまっぴら御免よ!」
 喚いてヒューへと人形(ひとがた)を放つ影朧。人形は舞うようにヒューへと押し寄せてくる。それがヒュー自身に届く前に、ヒューは全力を込めて【ミゼリコルディア・スパーダ】を使用した。人形も巻き込むように五百本近くの魔法剣が幾何学模様を描き飛翔する。
「俺に切られて困る縁はないけれど、放置するのはいささか問題があるので」
 ヒューは淡々と言うと、魔法剣を指で影朧へ飛ぶように指示した。魔法剣は人形に刺さり墜落させ、影朧にもざくざくと刺さった。万が一のためにエレメンタルロッドも握っていたヒューだったが、人形はすべて始末できたようだった。
 影朧は魔法剣の刺さった状態でヒューを恨めしそうに見る。ヒューは再び魔法剣を浮かばせると、ゆっくりと、影朧が理解できるように聞いた。
「一応念のため聞いておくけど、転生する気はないんだよね?」
 それは薫に免じての問いかけ。薫はこの影朧を大事に思っていたらしいことは伝わってくる。それこそ、絆を覚えるくらいに。
 だからこそ、ヒューは薫のためなら、使えるものは使ってでも転生の手伝いをしようかと思ったのだ。けして、影朧のためではない。
 影朧の答えはヒューの予想したものだった。
「転生なんてして、また人の幸せなんて見たくないわ」
「それなら、まぁ仕方ないですね、またの機会に」
 ヒューは再び指を動かす。幾何学模様を描いて飛んでいた魔法剣は、一斉に影朧へと刺さる。影朧の体はぼろぼろに傷つき、その場に膝をついた。
 縁切りは怖いものではあるが、超弩級戦力を前にしてはいかんせん威力に落ちる。戦局は猟兵側に圧倒的優位に動いていた。ヒューはエレメンタルロッドを構えたまま、一歩下がる。転生の意志がないことも知れたし、あとは叩きのめせばいいだけだ。
大成功 🔵🔵🔵

亞東・霧亥(サポート)
身に纏う装備等からも解るように、目立たない、暗殺の技能が主軸の暗殺者です。
ソロでも絡みでもいけます。
また、大概の依頼に参加出来る様に、様々なUCを揃えています。
武器指定のUCでも自由に解釈して、大雑把でもどうぞ。

ネタからシリアスまで何でも来い。
ゴアも首と命が飛ばなければOK。
ただし、重度のエロは御勘弁。

口調は寡黙からおちゃらけまで幅広く。
でも、後々問題になる様な変態発言はやめてください。
特にセクハラ、パワハラ、男女関係無くダメ絶対!


 亞東・霧亥(峻刻・f05789)は懐中時計のヤドリガミであり、暗殺者だ。
 黒の髪、黒の瞳、身にまとうのは闇のような黒装束。
 彼は、この戦いを店の陰に隠れて見ていた。自分の能力が必要となるその瞬間を見極めるために、息を殺しただ影朧を見据える。
 霧亥が見ている影朧は、かなりぼろぼろの姿になっていた。それでも未だに「縁を切る」と喚き続けている。それだけ執念を持っているのかもしれない。
(こういうヤツが一番怖いんだよな)
 霧亥が思っていると、影朧は逆上したのか突然店のほうへ――霧亥が隠れているほうへと駆け出した。
「わかったわ、私がこの店の品物にみんなおまじないをかけてあげる! 縁なんて切れればいい! そしてこの店も潰れればいいんだわ!」
 一般人を背にするようにしていた猟兵たちは、店のほうへ駆け出した影朧に反応が一拍遅れる。
(なるほど、店に入れることはこいつの思い通りになるということか。そうはさせない)
 霧亥はすっと影朧の後ろへと付いた。影朧は霧亥の気配に気づく様子はない。それを確認して、霧亥は影朧の背後を思い切り踏みつけた。【激震脚】。大地を踏みつけた、ただそれだけなのに衝撃波が影朧の背中に命中する。
「ぐっ」
 影朧は前に倒れ込むように足を止めた。霧亥のほうへと振り返るが、その動きさえ霧亥には鈍い。
 霧亥はすでに雷迅――刀を手にしていた。本当に素早き者と対峙するときは、瞬きでさえ命取りなのだ。
 振り返った影朧を斬る。影朧は驚いたように目を丸くした。
「な……!?」
「店には入れない」
 霧亥は一瞬のうちに影朧との立ち位置を入れ替えた。店を背にするように立つ。
「貴様は、あの場で消えるがいい」
 霧亥の指す場所は多くの猟兵たちが武器を構える場所。
 つまり、死に戻れということだ。
「私は……」
「御託は無用。それとも」
 霧亥は雷迅をこれみよがしに構えてみせた。
「この場で潔く消えるか。それもいいだろう」
「……くっ」
 もう影朧に生き延びる道はない。けれども霧亥を相手にするよりはましだと思ったのか、影朧は一歩ずつゆっくりと後ずさっていく。
 霧亥は雷迅を鞘に収めた。それを見ても、抜刀の速さを影朧は知っている。霧亥のほうには戻らない。
「あ、あなたに負けたわけじゃないんだからね……!」
「いくらでも言うがいい。お前の鈍さなら、三度は殺せる」
 影朧は悔しさに顔を真っ赤にしながら、霧亥から離れた。霧亥はまた店の陰へと隠れる。暗殺の腕が必要となれば、また現れようと思いながら。
成功 🔵🔵🔴

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

おやおや、これはまた奇妙な影朧がいらしたものですね
ええ、そのとおりですザッフィーロ
きみと僕の絆は、縁は どのような輩にも……
天に坐するという神々すらにも、裂くことはできません

『多重詠唱』『全力魔法』『一斉発射』を付加した
【天撃アストロフィジックス】で、飛ばされたひとがたを撃ち抜きましょう

己を守るように前に立つかれが敵の言葉を毅然として対処するのを見たらば
そのとおりです、ザッフィーロ
惑うことはありません
僕がきみを正しく導くのですから

影朧の狙いは素直には褒められませんが
世の中には悪縁切りというご利益もあるのです
次の生では、あなたに星の導きがありますように


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

…縁切り、だと…?
繋いだ絆を断ち切る事が面白いとは…性根が曲がっているな
そう眉を寄せながらも、隣の宵が瞳に映ればきつく刻まれていた皺は緩むやもしれん
まあ、俺と宵の絆はどの様な者とて断ち切る事など出来んだろうが
宵、行くぞ

戦闘時は宵の前に立ち『かば』い行動
攻撃は【stella della sera】…メイスの鎖を伸ばし宵の傍を離れぬよう遠距離から敵へ武器を振るおう
攻撃を受け不安になる言の葉を飛ばされたとて大丈夫だ
すぐ傍に宵が居ると思えば惑う事などないのだからな
導きの星が居ると言うに何を惑う事がある?
お前には俺と宵の絆を断つ事など出来ん
解ったならば大人しく骸の海に帰ると良い


「……縁切り、だと……?」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の声が思わず低くなる。眉をきつく寄せた。
「繋いだ絆を断ち切る事が面白いとは……性根が曲がっているな」
「おやおや、これはまた奇妙な影朧がいらしたものですね」
 逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は逆に呆れたような口調で肩をすくめる。そんな宵の姿が銀の瞳に映り、ザッフィーロは眉にきつく刻んでいた皺を緩めた。
「まあ、俺と宵の絆はどの様な者とて断ち切る事など出来んだろうが」
「ええ、そのとおりですザッフィーロ」
 宵もまた紫の瞳にザッフィーロを映し、微笑んだ。
「きみと僕の絆は、縁は、どのような輩にも……天に坐するという神々にすらも、裂くことはできません」
 二人の視線が重なり、二人は頷き合う。
 けして切れぬ絆、そして縁。それを信じること。それが二人の強さであり、証だった。
 ザッフィーロはふっと微笑むと、柄に鎖を仕込んだメイス――stella della seraを握りしめた。
「宵、行くぞ」
「ええ、いつでも」
 信頼をこめた宵の言葉にザッフィーロは宵の前に庇うように立つ。
 けれども、そんな二人の縁を憎く思うのは影朧だ。
「許せない、許せない! そんな縁なんて切れちゃえ!」
 ピンク色の髪を振り乱し、宵を――そしてその前に立ちふさがるザッフィーロをめがけ、人形(ひとがた)を大量に放つ。ザッフィーロはそれを見ても、微動だにしない。
 それが、ザッフィーロから宵への信頼。
 宵はそれに何重にも重ねた詠唱で応えた。【天撃アストロフィジックス】。まるで流星のような矢が大量に人形へと降り注ぎ、撃ち抜いていく。
 すべての人形が撃ち抜かれ、地に散らばったのを見て、影朧は地団駄を踏んだ。
「なによ、なによ! 縁なんて切れたほうが面白いのに! それに――」
 影朧はじっとザッフィーロを見た。
「思うだけの恋なんて、苦しいよね? 私なら楽にしてあげられるよ?」
 ザッフィーロは片眉を上げて影朧を見た。影朧は続ける。
「思っても思っても、独りよがりかもしれない――そんな疑念に囚われたりしない? あなたが守ってる人は、自分ほど自分を思ってないかもしれない。ねえ、不安だよね?」
 影朧の甘い毒のような言葉の数々。けれどもザッフィーロは表情を変えることはなかった。内蔵の鎖を伸ばして射程を上げたメイスを影朧へと振るう。【stella della sera】。重い一撃は影朧に命中する。
 ザッフィーロは宵の傍から離れない。彼は宵を守ると誓っている。
「その程度の言の葉を飛ばされたとて大丈夫だ」
 影朧の攻撃は発動しない。
 ザッフィーロは驚きの表情を作る影朧に、冷静な表情で言った。
「すぐ傍に宵が居ると思えば惑う事などないのだからな」
「嘘よ、どうしてそんな落ち着いてるの!?」
 影朧はふらつきながら、呆然と問い返す。ザッフィーロと宵の顔を見比べて、首を振った。
「どんな恋だって、恋煩いはあるんじゃないの!?」
「導きの星が居ると言うに何を惑う事がある?」
「そのとおりです、ザッフィーロ」
 宵は両手を胸に当て、微笑んだ。
「惑うことはありません。僕がきみを正しく導くのですから」
「嘘よ、嘘よ!」
 ヒステリックに何度も首を振る影朧。彼女にはひとつ、間違いがあった。
 この二人の間にあるものは、もはや「恋」ではない。それ以上のものなのだ。
 それは「絆」や「縁」という言葉では足りない「信頼」以上の「大切」な――。
「お前には俺と宵の絆を断つ事など出来ん」
 ザッフィーロはstella della seraを再び構えた。
「解ったならば大人しく骸の海に帰ると良い」
 宵を庇いながらの痛烈な一撃。影朧はよろよろとよろめく。
「嘘よ、なんで……」
「あなたの狙いは素直には褒められませんが」
 宵が宵色と星の意匠が凝らされた宵帝の杖を握りしめ、振り仰いだ。
「世の中には悪縁切りというご利益もあるのです。次の生では、あなたに星の導きがありますように」
 再び、流れ星のように流星の矢が舞う。それはすべて影朧を貫き、煌めきを残した。
 その煌めきと共に影朧は消えていく。最後まで信じられないという表情をしたまま。
 宵が宵帝の杖をしまうと、ザッフィーロは振り返った。
「怪我はないか、宵」
「ええ、きみが守ってくれましたから」
 当然というように答える宵にザッフィーロは微笑む。
 この二人に敵うような影朧ではなかったのだ。それは、それだけの話。

 影朧は骸の海に還った。
 見守っていたお客たちから安堵の息が漏れると同時に、今度は不穏なざわめきが沸き起こる。
 まだ、店を巡る仕事は残っているようだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す
SPD事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)
WIZ偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――影朧は無事に消えた。

 だが、周囲にいる客には知れてしまった。薫が影朧を匿っていたこと。その力を借りて「おまじない」を使っていたこと。
 薫にどんな意図があったとしても、それは事実。
 ざわざわと店に対する悪評が広がっていく。中には匂い袋を投げ捨てる者もいた。
 それを薫は店の戸口の前で見、そして聞いていた。
 自分を罵る言葉を聞きながら、薫は戸口で座り込んだ。

 猟兵の最後の仕事。
 それは、正しいユーベルコヲドの使い方を教えること。
ヒュー・アズライト
●WIZ/アレンジ◎

まずは謝罪からですね
「嘘をついて薫さんに近づいて申し訳ないです。ですがあなたに作って頂いた匂い袋、俺はとても好きですよ」
まだ座り込んでいるようなら手を貸します。打ち捨てられた匂い袋も拾いながら猟兵であることや依頼の経緯全てお話しましょう
その上でユーベルコヲドは誰かを幸せにする為に使うべきで今回の件は間違いだったと説きます
ラムプの力は必ず破綻し今回の様な不幸しか呼びません、が…俺の匂い袋を作ってくれた時の薫さんの願いは本物だったと信じています
「あなたの作ってくれた匂い袋大切にします。きっとあなたの思いは通じます!」
だから俺は負けずに店を続けて欲しいと思います
必ずまた来るので!


 ざわざわとした空気。薫に対しての悪意が充満していく。
 そんな中、真っ先に薫に近づいたのはヒュー・アズライト(放浪家出人・f28848)だった。座り込んでいる薫にそっと手を差し出す。
「嘘をついて薫さんに近づいて申し訳ないです。ですがあなたに作って頂いた匂い袋、俺はとても好きですよ」
 ヒューはそう言って、柔らかく微笑んだ。薫は少し不思議そうな顔をして、それでも申し訳なさそうにヒューの手を取って立ち上がった。
 ヒューは足元に転がってきた、打ち捨てられた匂い袋を拾う。
「俺達は猟兵なんです。今回は、薫さんが手に入れた『籠絡ラムプ』を壊して、影朧をどうにかするという任務を負ってました」
「猟兵……超弩級戦力の……」
「はい。ここにいる皆さん、全員がそうです。すみませんでした」
 真っ先に謝罪を選んだのはヒューの人柄もあるだろう。それに、きちんとした事情と素性を話すことによって、これから先の皆の言葉も薫に届きやすくなる。
 薫はすべて見透かされていたとわかったのだろう、うなだれるようにヒューに頭を下げた。
「いえ、私のほうこそ謝るべきです。すみませんでした」
「そうですね。ユーベルコヲドは誰かを幸せにする為に使うべきです。今回の件は間違いでした。それはわかりますか」
「はい」
 薫の足元にまたひとつ、匂い袋が投げ捨てられる。ヒューは丁寧にそれを拾い上げ、埃を払った。
「ラムプの力は必ず破綻し、今回の様な不幸しか呼びません」
 ヒューは手元にある匂い袋を薫に見せた。そしてもうひとつ、自分の匂い袋を加える。
「ですが、俺の匂い袋を作ってくれた時の薫さんの願いは本物だったと信じています」
 ヒューは拾い上げた匂い袋、二つを薫の手に返すと、自分の匂い袋は懐へとまた収めた。そしてそれをぽん、と叩いてみせる。
「あなたの作ってくれた匂い袋大切にします。きっとあなたの思いは通じます!」
 薫はぎゅっとヒューから返された匂い袋を握りしめた。泣きそうなのを堪えるように唇を噛みしめる。
「でも……」
「だから俺は負けずに店を続けて欲しいと思います。必ずまた来るので!」
 ヒューの激励に薫は顔を上げた。店をやめる気だったのかもしれない。匂い袋を握りしめた手が震える。
「……頑張ります。よかったら、また立ち寄ってください」
「ええ、勿論です」
 ヒューは微笑んだ。薫はそんなヒューの笑みを眩しそうに眺める。そして深々と頭を下げたのだった。
大成功 🔵🔵🔵

亞東・霧亥
信用を得るのはとても大変だけど、失うのは一瞬。

ランプの力が無くても、普通に店を続けていたのだから、ちゃんと信用はあったはず。
失った信用を再度築くのは並大抵では無いけれど、リスクを犯してでもやり遂げようとした意志の強さがあれば、いつかやり直せる。

【UC】
1日の始まりは元気良く。
道行く人に笑顔で接する。
ただそれだけでも、心に残る。
顔を上げて、悪評に立ち向かう勇気を持てるように。

「少しだけ元気をあげよう。その後は君次第だ。」


 亞東・霧亥(峻刻・f05789)は戸口で打ちひしがれたように立つ薫にそっと近づいた。
「信用を得るのはとても大変だけど、失うのは一瞬」
 霧亥の言葉は的を射ていた。薫は深く頷く。
「ええ。祖父の代から続いていた店なんです。ですが……私が、すべて台無しにしてしまいました」
「ランプの力が無くても、普通に店を続けていたのだから、ちゃんと信用はあったはずだ」
 霧亥は薫に説くように、ゆっくりと話しかける。
「失った信用を再度築くのは並大抵では無いけれど、リスクを犯してでもやり遂げようとした意志の強さがあれば、いつかやり直せる」
「意志の強さ……」
 薫は顔を上げた。
「私にあるのでしょうか」
「それは君が一番よく知っているだろう」
 ランプを手にして、影朧を匿って、それでも叶えたいと思ったこと。
 それを霧亥は「意志の強さ」と評してくれた。
 よくないことだ、と断じるだけなら誰でもできる。けれども、霧亥は薫を尊重してくれた。
 薫が、その優しさを身にしみて感じているときだった。
「ユーベルコヲドはこういう風に使うものだ」
 霧亥はそういうと【鼓舞激励】を起動した。朗らかな明るい声がどこからか聞こえる。声が『今日も一日よろしくお願いします!』と訴えかける。その声は他世界の将軍様の声なのだが、勿論、そんなことは薫にはわからない。
 ただ、わかるのは気持ちが明るくなる、それだけ。
 一日の始まりは元気良く。
 店を開けたら、道行く人に笑顔で接する。
 ただそれだけでも、心に残ることを、霧亥は知っている。
 だから、薫が顔を上げて、悪評に立ち向かう勇気を持てるように。
「少しだけ元気をあげよう。その後は君次第だ」
 まるで、背中をそっと押すように。霧亥はそう言って、薫から離れようとする。
「あの」
 薫は慌てたように霧亥を呼び止めた。彼のユーベルコヲドのおかげで、薫は笑顔を作れた。
「ありがとうございます。今の私では、何もお返しできないけれど……」
 薫は、少し言いよどんで、笑顔で頭を下げた。
「よろしければ、また遊びに来てください。その時までには、きっと、もう少しよい状態にしておきます」
 霧亥は薫の言葉に頷いた。
 そして、霧亥はすっと人影に消える。まるで、今までそこにいたのが夢だったかのように。
 薫は、もういない霧亥へともう一度頭を下げた。
大成功 🔵🔵🔵

ヴィクター・グレイン
※アドリブ、連携ご自由に

さて、これからお前をどうするか決める。
(戸口に座り込んでいる薫の前に立ち)
本来ならお前の指を数本へし折り、警察に差し出すか豚箱に入れるが今回は他の奴等(猟兵)に任せる。
奴等ならまだ救いがある筈だ。
だが一つ忠告してやる。
これに懲りて二度と同じ過ちを繰り返さない事だ。
もし同じ事をしてみろ。
お前に生き地獄を与えてから豚箱にぶち込んでやる。
いいな?
じゃあ後は任せた、好きにしろ。
(その場を後にする)


 ヴィクター・グレイン(真実を探求する者・f28558)は、戸口に座り込む薫の前に立った。
「さて、これからお前をどうするか決める」
 その言葉と、薫の前に立ちふさがる動作は、容赦なく威圧感を与えるものだった。薫は怯えるようにして戸口に隠れようとするが、ヴィクターの視線からは逃げられない。
「本来ならお前の指を数本へし折り、警察に差し出すか豚箱に入れるが、今回は他の奴等に任せる」
「え……」
 思わず指を隠した薫は、ヴィクターの言葉に驚いたように顔を上げた。
「俺も他の奴等も猟兵だ。奴等ならまだ救いがある筈だ」
 厳罰は覚悟していたのだろう。ヴィクターには初対面でラムプを出せと言われたこともある。だからこそ、薫はかなり驚いたようにヴィクターを見上げる。
「だが一つ忠告してやる」
 ヴィクターはそんな薫にキツい声で言った。
「これに懲りて二度と同じ過ちを繰り返さない事だ」
 薫はごくりと息を飲み込む。
「もし同じ事をしてみろ。お前に生き地獄を与えてから豚箱に打ち込んでやる」
 それは真実を、正義を、真っ直ぐに追い求めるヴィクターの本心だ。
 正直に言えば、他の猟兵に任せるだけでもヴィクターにとっては大きな譲歩だ。指の二、三本をへし折ってから他の猟兵に引き渡したっていいのだ。
 だが、それをしなかったのは、立ち直る救いが見えたからか、それとも。
 どちらにしろ、籠絡ラムプの件の真実は明らかになった。最初に隠そうとした薫の態度は不服ではあるが、罪人は皆、罪を認めないものだ。
「いいな?」
 青白い顔になって頷く薫を確認し、ヴィクターは薫に背を向けた。あとは他の猟兵がうまくやるだろう。
「じゃあ後は任せた。好きにしろ」
 もう、この場に用はない。ヴィクターが歩き出すと、薫の声が追いかけてきた。
「ありがとうございました、あの」
 ヴィクターは振り返らない。薫の声さえ聞こえないかのようだ。だが、薫の声は続いた。
「貴方が叱ってくださらなかったら、私はきっと甘えていました。だからこそ、ありがとうございます」
 ヴィクターは振り返らない。別に叱ったつもりはない。ただ、事実を述べたまでだ。
(……つまらん真実だったな)
 ヴィクターはそれだけ思い、人混みに姿を消した。また、彼の真実を追求するための戦いが始まる。
大成功 🔵🔵🔵

御影・龍彦
少し、薫さんと話がしたいな

派手に暴れてたから
お客さん達にも僕が事件解決に来た者と分かるだろう
「ちょっと、話を聴かせてもらえるかな」
翼を出し、薫さんを隠すよう包み
取調べを始めるかのように振る舞おう

本当は、薫さんへ
不必要に悪意が向かぬようにする為
これで皆が落ち着いて
一先ず鉾を収めてくれれば万々歳

さて、薫さん
貴女は今も誰かの恋路を応援したいかい?

懐から取り出すは、購入した匂い袋
彼女が僕の話を元に作ってくれた、世界に一つの

貴女が作った匂い袋で、必ず僕と相手の子に絆が生まれる
生まれた絆は、僕ら二人で育てていくよ

特別な力などなくとも
薫さんは既に、自身の成したいことを成せていたのだと
そう、伝わるといいけれど


(少し、薫さんと話がしたいな)
 御影・龍彦(廻る守護龍・f22607)は周囲の喧騒を感じながら、ゆっくりと薫に歩み寄った。
 派手に暴れたこともある。周囲のお客さん達にも龍彦たちが事件解決に来た者だということは知れたようだった。
「ちょっと、話を聴かせてもらえるかな」
 その上で、龍彦は龍の翼を出しその翼で薫を隠すように包み込む。それはまるで、猟兵が取調べを始めるかのように見えた。
 だが、龍彦の意図は別にある。
(本当は、薫さんへ不必要に悪意が向かぬようにする為)
 合わせて使うユーベルコードは【請願ノ儀】。それは、このサクラミラージュに生きるすべての人々の無意識に呼びかけるもの。
 龍彦は薫を救いたいと願った。無意識下で賛同する者に応じ、周囲は静かになっていく。
(これで皆が落ち着いて一先ず鉾を収めてくれれば万々歳)
 お客さん達は立ち去りはしないが、ひどい罵りなどは減ったように思える。まだ猟兵たちの様子を見ているというのが本音だろう。
 今はそれで十分だと龍彦は判断した。翼に隠した薫へと視線を向ける。
「さて、薫さん。貴女は今も誰かの恋路を応援したいかい?」
 薫は困惑したように下を向いた。おそらく、彼女はこの状況になっても人の恋路を応援したいと願ってしまうのだろう。
 龍彦は黙ったままの薫に見えるように、懐から先程購入した匂い袋を取り出した。それは薫が龍彦の話を元に作った、世界に一つ、唯一無二の匂い袋。
「貴女が作った匂い袋で、必ず僕と相手の子に絆が生まれる」
 龍彦のその言葉に薫ははっとしたように顔を上げた。龍彦は微笑んだ。
「生まれた絆は、僕ら二人で育てていくよ」
 特別な力などなくても、ユーベルコヲドなどなくても、薫は既に自身の成したいことを成せていたのだと、そう伝えたい。
 龍彦の祈りのような想いに、薫は泣きそうな笑顔を作った。
「私は、これからも人の恋路を応援してもいいのでしょうか」
「それは、薫さんが決めることだよ。僕が決めることじゃない」
「では――」
 薫は祈るように手を重ねた。
「貴方と相手の方の絆が、よいものとなりますように」
 それは薫の純粋な祈りであり、成したいことを成した瞬間でもあった。
 祈りは目に見えない。絆も目に見えない。だからこそ、確実なものを求めてしまうけれど。
 本当は、いつだって傍にあるもの。
「……ありがとう」
 龍彦は薫の言葉に笑顔を見せた。翼を開き、薫を解放すると龍彦は翼をしまう。
(どうか、今の気持ちを薫さんが忘れずにいてくれますように)
大成功 🔵🔵🔵

ラナ・スピラエア
大丈夫、だなんて
それを私が言うのは、無責任な気がして
けれど、私の幸せを
私の想いが実ることを
きっと薫さんは真っ直ぐに願ったくれたと思うんです

先程作って頂いた匂い袋を握り締めて
私は助けて貰ったことを伝えたいです
この香り…私のことを想って作ってくださったんですよね?

私、この香りが傍にあると
確かに勇気が出るんです
それは、不思議な力ではなくって
薫さんが私のことを考えてくれたからなんだと思うんです
沢山の香りから選ぶ薫さんは、とても楽しそうでした
その姿と、貴女の想いに私は勇気を貰ったんです

だから…私も頑張るので
薫さんも、一緒に頑張りませんか?
また、匂い袋を作って下さい
今度は一緒に、選びたい人がいるので…


(大丈夫、だなんて)
 ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は戸口に立つ薫をまっすぐに見られない。立ちつくし、俯いた。
(それを私が言うのは、無責任な気がして)
 だからこそ、優しいラナは立ちつくす。優しいからこそ、安易な言葉を投げることは失礼だと思って。でも。
(けれど、私の幸せを、私の想いが実ることを、きっと薫さんは真っ直ぐに願ってくれたと思うんです)
 ラナは顔を上げた。先程、薫に作ってもらった匂い袋をきゅ、と握りしめて、一歩、薫へと近づく。薫はラナに申し訳なさそうな顔を向けた。罪悪感。それが薫の浮かべた表情から推測できる感情。
(私は助けて貰ったことを伝えたいです)
 ラナは薫へと微笑んだ。
「この香り……私のことを想って作ってくださったんですよね?」
 優しく問いかけると、薫は小さく頷いた。
「とても可愛らしい方だったから……でも、その奥にしっかりとした芯があるようにも思えて。だから可愛らしい甘い香りだけじゃなく、奥にしっかりとした香りをって……」
「私、この香りが傍にあると、確かに勇気が出るんです」
 ラナは匂い袋を両手で握りしめた。ふわりと甘く、それでいてしっかりとした香りが残る。
「それは不思議な力ではなくって、薫さんが私のことを考えてくれたからなんだと思うんです」
「私が……?」
 薫はどこか信じられないように目を見開いた。ラナはええ、と頷く。
「沢山の香りから選ぶ薫さんは、とても楽しそうでした」
 それはその人一人のために似合う香りを作る作業。ラナのためにたったひとつの香りを作る薫は、とても楽しそうだった。
「その姿と、貴女の想いに私は勇気を貰ったんです」
 たった一人のために。その想いが届くように。ひたむきなまでの願い。
「私は……」
 俯く薫に、ラナは首を振った。
「だから……私も頑張るので、薫さんも、一緒に頑張りませんか?」
 それが、優しいラナの精一杯の励ましの言葉。
 大丈夫、とか、頑張れ、とか安易な言葉は選べない。まるで責任を放り出したように思えるから。安心させるだけ安心させて、自分はこの世界から離れてしまうのだから。
 そんな無責任はできないから。ラナは自分のことのように微笑む。
「また、匂い袋を作って下さい。今度は一緒に、選びたい人がいるので……」
 その言葉に、薫はようやく笑顔になった。そっと祈るように両手をあわせる。
「ええ、貴女とその人のために、是非。その日まで、頑張るわ」
「約束、ですよ」
「ええ、約束」
 ラナと薫は顔を見合わせ、微笑みあったのだった。
大成功 🔵🔵🔵

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
彼女を罵る人々はかれに任せ
僕は薫さんに向き合いましょう

どう思われましたか
薫さん、あなたのなされたことはいけないことでした
でも、あなたは希望を胸に店にいらした方々の背を、ご自分にできることで応援して差し上げたかった、その一心だったのでしょう

そのこころは尊いものです
尊ぶべきものです
これからは、あなたはあなたご自身のお力で
叶えたいものがある方の背を、押してゆけばよいのです
大丈夫、あなたにはできます
想いをかなえたい人の味方でありたいあなたなら
振り返ったかれに視線を向けて、ゆるく微笑みましょう
だって、あなたに背中を押してもらった幸せな恋人たちが、ここに二人いますからね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

無事倒せはしたが…広がる悪評と共に罵る人々の声を聞けば思わず眉を寄せ宵へと目配せを
己と同じ心持ちだろう宵へ薫は任せ戸口と人々の前に割り込む様進まんと試みよう
お前達も香りによる利益を求めこの店に来たのだろう
…ならば、願いを叶え様とした店主を責める出来んのではないか?
それに…大事な者を想い香を選ぶ時間は嫌な物だったかと、そう声を
少なくとも俺は楽しく良き思い出になったと、宵と薫を振り返ろう
宵の声には微かに笑いながら顎を引き頷こうと思う
方法は間違えたやもしれんが己を犠牲にしても他者の願いを叶えたいと思う心持ちは嫌いではない故に
前を見て進んで行けるようになってくれると良いと、そう思う


 店の周囲は、未だざわざわと落ち着かない。主に、薫への罵りと店への悪評の言葉で満ちていた。
 俯き、それをただ黙って聞いている薫。
 逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)とザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は同時に形のよい眉を寄せ、頷き合う。
 互いに心持ちは同じだろう。どちらがどちらへ向き合うか、それだけの問題だった。
 ごく自然に宵は薫に向き直り、ザッフィーロは周囲の人々の前へと立ちふさがった。店に押し寄せようとしていた客の間にザッフィーロは体を割り込ませる。
「お前達も香りによる利益を求めこの店に来たのだろう」
 ザッフィーロの凛とした声が響くと、周囲は静かになった。
「……ならば、願いを叶え様とした店主を責めることは出来んのではないか?」
 そんなことはない、影朧に頼むつもりなんてなかった、と次々と声が上がる。あんなに噂を信じて、この店に押しかけたのにこの言い草だ。ザッフィーロは少し眉を寄せ、額を押さえた。
 こんな香りなんて、という声が上がった。ザッフィーロはその声に被せるように言った。
「それに……大事な者を想い香を選ぶ時間は嫌な物だったか」
 その問いかけには、誰もが黙った。たった一人を想い、その想いを香に託す。それは、この上なく幸せな時間だったはずだ。
 それを思い出したのだろう、周囲の客は黙り込み、手の中の匂い袋や小瓶を見つめる。香りは、想い人のための、世界にひとつの香り。
「少なくとも俺は楽しく良き思い出になった」
 そう言ってザッフィーロは宵と薫を振り返った。

「どう思われましたか」
 宵は薫に向き合う。そして真っ直ぐに尋ねた。薫は俯く。答えられないのだろう。
「薫さん、あなたのなされたことはいけないことでした」
 宵はその事実をしっかりと伝える。
 そう、間違ったことをしたのは、事実。それはけして覆らない。それを告げることが今回の任務でもある。
 だが、宵は優しく続けた。
「でも、あなたは希望を胸に店にいらした方々の背を、ご自分にできることで応援して差し上げたかった、その一心だったのでしょう」
 心の中にあった願いを、祈りを、宵に見抜かれた薫は手で顔を覆った。小さな嗚咽が聞こえる。我慢していた涙が、溢れたかのように。
 宵は黙って、薫が落ち着くのを待つ。それには少しの時間がかかった。それだけ、彼女の中での動揺は大きかったのだろう。
 薫が落ち着くと、宵は微笑んだ。
「そのこころは尊いものです」
 薫が涙で濡れた目を上げる。驚いたように宵を見る。宵は頷いた。
「尊ぶべきものです」
「でも……」
 薫は首を振った。
「私は間違えました。できること以上の力を望みました。私は……」
「それをわかっていらっしゃるのでしょう?」
 宵は微笑む。
「これからは、あなたはあなたご自身のお力で、叶えたいものがある方の背を押してゆけばよいのです」
「私の力で……」
 薫は自分の手を眺めた。もうユーベルコヲドを持たない手を。
「私にできるでしょうか」
「大丈夫、あなたにはできます」
 宵は力強く言う。それは聞く者の背を押すような、慈愛と強さに満ちていた。
「想いをかなえたい人の味方でありたいあなたなら」
 それこそがきっと、奇跡を叶える力なのだから。

 宵が視線を感じて振り返ると、ザッフィーロがこちらを振り返っていた。
 互いに言いたいことは同じだった。
 薫に対しても、無責任に罵る人々に対しても。
 だから、互いに託せた。そして、想うことを言ってもらった。
 宵はいつの間にか静まり返った周囲を見渡し、そしてザッフィーロへとゆるく微笑む。
「だって、あなたに背中を押してもらった幸せな恋人たちが、ここに二人いますからね」
 幸せそうな宵の声音に、ザッフィーロも微かに笑いながら顎を引き頷いた。
(方法は間違えたやもしれんが己を犠牲にしても他者の願いを叶えたいと思う心持ちは嫌いではない故に)
 宵がこちらへと歩いてくる。ザッフィーロは薫に軽く会釈をして、それから宵を迎え入れる。
(前を見て進んで行けるようになってくれると良いと、そう思う)
「ザッフィーロが告げることはありませんか」
「すべて宵が言ってくれた。宵はないか?」
「ありません。きみの言葉ですよ? あるわけがないでしょう」
 宵はまるで自分自身のことのように微笑む。ザッフィーロも微笑んだ。
 薫はそんな二人を見て、そしてまた涙ぐんだ。
 恋を叶える力。それは人の理を超えたことであり、許されないこと。
 けれども、背中を押すことは誰にだってできる人を幸せにする力。
 宵とザッフィーロが薫を振り返ると、薫は深々と頭を下げた。少し迷ってから、万感の想いを込めて送り出す。
「どうぞ、末永くお幸せに」

 籠絡ラムプの件はこうして決着をみた。
 『香り屋』は一時期客足が途絶える。だが、店主、薫の変わらぬ明るい笑顔とひたむきに香りを選ぶその姿に、少しずつ客は戻り始めているという。
 そんな『香り屋』にひとつだけ変わったことがあった。店先に『サアビスチケット使えます』という張り紙が出たのだ。
 それは、彼女なり精一杯の猟兵へのお礼なのかもしれなかった――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年08月10日
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵