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竜槍

#アックス&ウィザーズ #戦後 #群竜大陸 #宿敵撃破

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●竜の国
 怖い。恐ろしい。助けて。
 きゅうきゅうと響くのは、まるで救いを求めるような仔竜達の悲鳴。恐怖に満ちた鳴き声が、美しい花々が咲き乱れる地に木霊している。
 仔竜達が迷い込んだのは『約束の地』と呼ばれる群竜大陸の領域。
 此処は大陸内で最も危険な場所のひとつだと云われている。何故なら、この地に咲くすべての花には恐怖を齎す力が宿っているからだ。
 恐怖に押し潰された存在は花に寄生され、意思なきものとなってしまう。花の魔力に抗うことの出来ない仔竜達はそのまま苗床になるのみ。
 しかし、そのとき――。
「大丈夫だ」
 約束の地の奥から現れた竜騎士が仔竜達に手を差し伸べた。
 後ろに氷雪竜と極炎竜を伴っている彼女は、怯える仔竜をそっと撫でてやる。
「きゅ……?」
「仲間を失うのが怖いのか。それならば私達が仲間になろう」
 特に怯えていた仔竜を抱き上げた竜騎士は、穏やかな笑みを浮かべた。そうすると竜達の恐怖も次第に和らいでいく。彼女の言葉がとても力強かったからだろうか、周囲の花が齎す恐怖よりも安心の方が勝ったらしい。
「ほら、もう怖くないだろう」
「きゅ!」
 竜騎士は恐怖を乗り越えた仔竜に微笑みかける。
 そうして、彼女は自分達が来た方向を示した。騎士が連れていた氷雪竜のフィナンシェと極炎竜のカヌレが先んじて其方に向かっていく。
「私達と一緒においで。向こうに拠点を作っているんだ」
 ――共に竜の国を作ろう。
 未だ準備段階であり建国さえしていないが、どんなドラゴンも等しく幸せに暮らせる国にしたいのだと彼女は語った。その後ろについた仔竜達は竜騎士を追って駆け出す。
 それはとても穏やかな光景だった。
 竜騎士たる槍榴鬼マグダレンと仔竜達が、オブリビオンでさえなければ。

●喪失と恐怖
 オブリビオンとは、明確な世界の敵。
 それは存在するだけで世を滅亡に導く。即ち、世界を『過去』で埋め尽くすように活動する宿命を持つものだ。
「罪のないドラゴンが迫害されない竜の国をつくる。聞こえはいいですが、いずれは彼女もドラゴンも世界を滅ぼす脅威になってしまいます」
 ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は哀しげに瞳を伏せる。
 竜を愛するがゆえに竜を守りたいと願う気持ちは悪いものではない。だが、放っておけばドラゴン達の生きる場所を得るために彼女達は様々な土地へ侵攻を開始するだろう。そうなれば無辜の人々の血が流れてしまう。
 群竜大陸の一角、約束の地を拠点としはじめた『槍榴鬼マグダレン』についての話を語ったミカゲは、討伐に向かってくれないかと仲間達に願った。
「幸いにもまだ、彼女の軍勢は氷雪竜と極炎竜の二体と、仔竜達だけです」
 勢力を増やす前に討ち取る。
 今はそうするしかないのだと告げたミカゲは、約束の地について詳しく話していく。

「そこには『失うことへの恐怖』が満ちています」
 友達、家族、恋人との縁や関係。大切な人の死、形のない約束や想い。宝物や形見。自分が大切に思っているものを喪失したらという想像、或いは失くしてしまったも同然の恐怖が、周囲に咲く花から否応なしに与えられる。
「恐怖を乗り越えなければ、この地での活動はできません。ですから皆さんはまず与えられた恐怖に打ち克ってください!」
 喪失への対処法はひとそれぞれであり、解決方法も千差万別。
 強い心で抗う、誰かと共に支え合う、或いは自分なりの方法を試すなどの策が取れる。一度でも恐怖を克服してしまえば後は自由に動けるようになるという。
「槍榴鬼マグダレンも竜と支え合って恐怖に勝ったらしいです。けれど……」
 抗えなかった竜もいる、とミカゲは告げた。
 恐怖に負けた仔竜は凶暴化しており、目に映るもの全てに襲いかかってくる。救うにはかれらと戦うしかなく、行く手を阻む仔竜を倒さなければ首魁であるマグダレンの元には辿り着けない。
「凶暴化した仔竜との戦いを終えたら、次は槍榴鬼マグダレンとの戦闘になります。彼女は凄腕の槍の使い手でもあるうえに、元から連れている二体の竜や、新しく仲間になった仔竜と一緒に戦いを挑んできます」
 彼女は竜を愛するがゆえに竜を傷付ける者を酷く厭う。
 竜の国を作ろうとしている理由も、冒険者をはじめとした人間がドラゴンを殺す存在だと認識しているからだ。佇まいや性格から見るに、おそらくオブリビオンになる前は立派な騎士だったのかもしれない。
 しかし現在、彼女は世界の平和を乱す者でしかない。
 そして、ミカゲは猟兵達に願う。
「お願いします。理想が歪んでしまう前に……彼女を止めてあげてください」


犬塚ひなこ
 今回の世界は『アックス&ウィザーズ』
 群竜大陸に現れたオブリビオンの退治が目的となります。

 章ごとの受付状況をマスターページに明記しております。
 たいへんお手数ですが、ご参加の前にご確認頂けると幸いです。

●第一章
 冒険『群竜大陸の探索』
 場所は約束の地。
 OPでも説明していますが、詳しい情報は下記にあります。
 https://tw6.jp/html/world/event/012war/012_dragonlord.htm

 辺り一帯に『失うことへの恐怖』が満ちている領域です。
 大切に思っている物や人を喪失することへの恐怖が与えられます。強い意志の力で抵抗する、同行者さんと一緒に気持ちを確かめあうなどの方法で恐怖を克服してから進んでください。
 一度、克服すれば後は普通に行動できます。

●第二章
 集団戦『戯れる仔竜』
 約束の地に満ちる恐怖に抗いきれなかった小さな竜達。
 見た目は可愛らしいままですが、花の力によって物凄い戦闘力を得ています。倒す以外で救う術はないので全力で戦ってください。

●第三章
 ボス戦『槍榴鬼マグダレン』
 竜を愛し、守る為に戦う女騎士であり凄腕の槍の使い手。
 基本的にドラゴン以外に興味はない無愛想な女性。竜を傷つける者に容赦はせず、跡形も無く消し去ろうとする存在です。ただし自身が認めた相手には誠実で、敵味方関係なく敬意を払うようです。
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第1章 冒険 『群竜大陸の探索』

POW   :    地道に歩き回って情報を集めたり、あえて危険な場所に踏み込んで捜索する

SPD   :    潜伏するオブリビオンの痕跡を見つけ出し、隠れ場所を突き止める

WIZ   :    オブリビオンの行動を予測して網をはったり、偽情報で誘き出したりする

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユヴェン・ポシェット
またこの地へ足を踏み入れるとはな

大丈夫だ、ミヌレ。
しかし返事はなく俺にしがみ付いて離れない


恐怖は過去の記憶をもって俺を包む

会いたかった人は俺を覚えてはいなかった
目の前で割れた

共に生きたいと思った者は燃えて灰となった

そして
“ユヴェン・ポシェット”にとって
ミヌレにとって、大切な者も…
以前此処へ来た時姿を捉えた
逢ってなどいない。遠くに視界に入った。それだけだ

見間違う筈がねぇんだよ…俺が、ミヌレが、アイツを。
約束はもう…果たせない


ロ…ワ。
恐怖に呑まれる中絞り出したのは、失わなかった家族の名。
現れた姿に安堵する

今では
タイヴァス
テュット
クー
だっている

…ミヌレ。
行こう。







俺は、やるべき事を………やるだけだ。



●果ての涯
 群竜大陸、約束の地。
 其処には美しい花が咲き、風が吹いていた。
 ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)は花咲く地を往く。
「またこの地へ足を踏み入れるとはな」
 思い返すのは帝竜戦役の時分。その際にこの場所に訪れたことは比較的、まだ記憶に新しい。足元で揺れている花の中にスイートピーに似たものがあると気付きながらもユヴェンは其方に向かおうとはしない。
 そうしない理由はただひとつ。恐怖が心に滲んでいるからだ。
「きゅ……」
 ユヴェンの耳に槍竜ミヌレの声が届いた。花々が齎す感情もあるだろうが、ミヌレはオブリビオンと対峙するという現状に恐れを抱いている。
 彼女――槍榴鬼マグダレンことマドレーヌが、ただの敵であるならばどれほど良かっただろう。そう、ユヴェン達は彼女の名を知っている。
「大丈夫だ、ミヌレ」
 ユヴェンは槍竜に呼び掛けたが、返事はない。ミヌレはユヴェンに強くしがみ付いて離れないまま。
 だが、無理もない。ユヴェンの声も微かに震えていたからだ。
 ミヌレにもユヴェンにも約束の地の花が齎す恐怖が襲いかかっている。精神に直接作用する力は防ぎようがなく、恐ろしさが心に覆い被さるように巡った。
 恐怖。それは過去の記憶をもってユヴェンを包む。
 会いたかった者がいた。
 しかし、そのひとは自分を覚えてはおらず、目の前で割れた。
 共に生きたいと思った者がいた。
 されど、その者もすべて燃えて灰となった。
 自分にとっては、別離とは悲しみそのものであるように思えていた。別れが怖い。二度と会えなくなることが恐ろしい。
 ユヴェンの裡に憂惧にも似た感情が少しずつ、されど確実に降り積もっていく。
 考えを巡らせた彼は俯いた。
 ――“ユヴェン・ポシェット”
 この呼び名は彼女に付けられたものだ。自分にとっても、ミヌレにとっても、大切な彼女とも別離が訪れた。
 そして、現在。以前に此処へ来たときにマグダレンの姿を捉えた。
 そのときの自分は彼女には逢っていない。遥か遠くで戦うマグダレンの姿が視界に入ったという、ただそれだけだ。
 マグダレンこと、マドレーヌのことを考えると更に感情が募る。
「見間違う筈がねぇんだよ……俺が、ミヌレが、アイツを」
 約束はもう果たせない。
 交わす約束が不確かなものであると解っていても、そのことが恐ろしくて怖い。ユヴェンは腕の中で震えるミヌレを強く抱いた。ミヌレもまた、ユヴェンや彼女を失うことへの恐怖に耐えている。
 家族や親しい者、大切だと思った者はみな失われていく。
 ユヴェンがそのように考え、花園に力なく膝をつきかけたとき。
「ロ……ワ……」
 意識が恐怖に呑み込まれてしまう直前。無意識に零れ落ちた声は、失わなかった家族の名となって紡がれた。ロワ、ともう一度だけ呼ぶと、獅子がユヴェンの傍に現れる。
 その姿に安堵した瞬間、ユヴェンの心に光が射した。
 そうだ、マドレーヌに逢わずして此処で潰れてしまうわけにはいかない。失うことが怖いからといって、その前に己が折れてどうするのだ。
「そうだな、未だ失っていない」
 ロワとミヌレだけではなく、今ではタイヴァスにテュット、クーだっている。次は震えてなどいない声でユヴェンは槍竜を呼ぶ。
「……ミヌレ」
 もう大丈夫だと告げた二度目の声には確かな強さが宿っていた。その言葉を聞いたミヌレは、自身の裡にある精一杯の勇気を振り絞るように尾を振る。きっとミヌレも恐怖を乗り越えたのだろう。
 完全な覚悟ができたと問われればすぐには頷けないが、進む切欠は出来た。
 ユヴェンはミヌレを伴い、傍に寄り添うロワを呼ぶ。頭上にはタイヴァスが飛翔しており、テュットもクーも変わらずに傍についていてくれるはずだ。
「行こう。俺は、やるべき事を………やるだけだ」
 美しく可憐な花々が風に揺れる横を通り抜け、ユヴェンは然と進んで往く。

 彼女と逢うために。
 どのような結末になろうとも、己の成すべきことを見極め、果たすために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

私はいつか竜になる、理性や記憶を失うかもしれない、それは怖くない、でも、何もかも忘れて仲間を獲物だと認識して襲ってしまったら……怖い、仲間を思う気持ちを失うのが怖い。

……貴方はこの前の猟兵さん?
そうだ、猟兵、万が一私がそうなってしまった時に止めてくれるであろう人達、よかった、この人達といればきっと忘れてしまってもなんとかしてくれる、もしかしたら思い出させてくれるかもしれない。

『一緒に行ってもいいですか?……ありがとう』

貴方は何を失うのが怖いと思いました?そう聞けば無言で口だけを動かして「家族を失うこと」と伝えてくれました。

アドリブ協力歓迎です。



●二人の竜
 風が花を揺らしている。
 瞳に映った景色は、美しく穏やかだと表すに相応しいものだ。
 しかし、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)の胸裏には抗えない恐怖が滲んでいた。これが約束の地の力であると分かっているが、心の内から溢れ出してくる恐ろしい気持ちは抑えきれない。
 サフィリアは見た目の上では恐怖などしていないように見えた。
 だが、内心では恐れを引き起こす考えがぐるぐると巡っている。
 ――私はいつか竜になる。
 それに伴って理性や記憶を失うかもしれない。竜になれば自分が自分ではなくなってしまうかもしれない。それ自体は怖くない。
 これまでにサフィリアが歩んできた道程を思えば、受け入れることが当然だ。
 しかし、怖いことはその先にある。
 何もかも忘れた後、竜としての自分が仲間を獲物だと認識したら。そして、本能のままに仲間を襲ってしまったら――。
「……怖い」
 気付けばサフィリアは思いを言葉にしていた。
 花は足元でさやさやと揺れている。綺麗でしかないというのに、今は花自体が歪んだ怖いものに感じられてしまう。
 仲間を思う気持ち。実験施設にいた頃とはまた違う感情。
 それを失うことが、とても怖い。
 身体に実害を与えてこない力とは厄介なもので、抵抗は容易ではない。サフィリアは次第にそのことしか考えられなくなり、ぺたんと膝をついてしまう。
 精神が摩耗していく。
 それと同時に身体にまで痛みが響いていくかのようだった。このままではサフィリアの身は竜になるよりも先に花の苗床と化してしまう。
 しかし、そのとき。
 サフィリアの傍に誰かの影が差した。その正体は白い鱗を持つ初老の男性だ。竜派の竜人らしい彼は黙ってサフィリアの横にじっと立っている。
「……貴方はこの前の猟兵さん?」
 確か水葬の街でも傍にいてくれた、名も知らない猟兵のひとり。サフィリア自身はそのように認識していた。
 そこではたとしたサフィリアは顔を上げた。
「そうだ、猟兵」
 それは万が一、自分が竜になってしまった時に止めてくれるであろう人達。よかった、と安堵を抱いたサフィリアの心から恐怖が離れる。
 この人達といれば、自分の大事なものを忘れてしまってもきっとなんとかしてくれるはず。それに、もしかしたら記憶を思い出させてくれるかもしれない。
「一緒に行ってもいいですか?」
「……」
「……ありがとう」
 サフィリアが問うと彼は無言のまま頷いた。お礼を告げても返答は戻らなかったが、彼からは優しい雰囲気が感じられる。
 そして、立ち上がったサフィリアは彼に問いかける。
「貴方は何を失うのが怖いと思いました?」
 すると彼は無言で口だけを動かし、『家族を失うこと』だと伝えてくれた。
 頷いたサフィリアは彼の横顔を見つめる。恐怖が満ちる約束の地であっても、この人と一緒なら大丈夫だと感じた。
 少なくとも、この戦場にいる限りは彼と一緒に戦えるだろう。
 自分と同じ色の彼の瞳が約束の地の向こう側をしかと見据えていた。
 その姿を見ていると、どうしてか不思議な力と思いが湧いてきた。そうして、サフィリア達は敵が待ち受けるという奥地へと進んでいく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュテム・ルナール
竜の為の国、永遠に安寧が約束された国、もしそんなものが実現すればどれほど良いか…。
我とてそれを考え無かった訳ではない、だが不可能だと知ったのだ。
自身は永遠でも全てが永遠な訳はなく、竜の為とばかり過ぎればいつかそれ以外を排斥し…いつしか守りたかったものすら傷つけてしまうのだから。

・打ち克つ
我に恐怖はなく、失って惜しいものなど無い…と言いたいところだが最近は違う。
世話になっているモンテカルロ…その宿での日々、出逢った人との記憶を失う事を恐れている。
幾千の刻の中で記憶さえ擦り切れた我が、だ。

だが恐れは裏を返せば力だ、失いたく無いからこそ強くなれる。
あの場を思い出せば脳裏に蘇る光景が我を勝たせるのだ。



●皇として
 竜の為の国。
 其処はきっと永遠に安寧が約束される、そんな理想が掲げられた国だ。
 約束の地に訪れたジュテム・ルナール(魔皇・f29629)は、オブリビオンの槍榴鬼が掲げる国について思いを巡らせた。
「もしそんなものが実現すればどれほど良いか……」
 ジュテムはそれがただの理想に過ぎず、現実的ではないと知っている。それゆえにこうして溜息にも似た言葉を零したのだ。
 自分とてそういったことを考えなかった訳ではない。
 だが、いつしか不可能だと知った。魔皇としての己は幾千の刻を生きてきた。永遠に薙がれる時間の中で生きられる存在は多くはない。
 たとえ自身は永遠でも、全てが永遠なわけはなく――。
「竜の為、と……」
 そればかりを思って、時を重ねればどのような結果が待っているか分かる。いつかはそれ以外を排斥し、いつしか守りたかったものすら傷つけてしまうのだから。
 ジュテムは肩を竦めた。
 その間にも周囲の花が齎す恐怖が裡に染み込んでくる。
 先程に考えを巡らせていた竜の国への懸念はあれで終わるものだ。何故ならジュテムも、あのオブリビオンも、まだ国を手に入れてなどいない。
 其処に喪失の恐怖などは滲まない。
 だが――。
「……これが恐怖か」
 ジュテムの中には失うことへの恐ろしさが満ちていた。
 自分に恐怖などはなく、失って惜しいものなどない。以前まではそのように自負していたが、近頃は違う。
 ジュテムの胸裏にはこれまでに出逢った人々の姿や、世話になっている宿で過ごした日々の光景が浮かんでいた。
 しかし、その姿や景色が次々と消えていく。
 それは出逢った人との記憶を失うことの疑似体験のようだった。其処でジュテムは気付いた。自分はそのことを恐れているのだ、と。
(可笑しいものだな。幾千の刻の中で記憶さえ擦り切れた我が……)
 大切だと思っているものがある。
 失くしたくないと感じている日々がある。
 己の中にあるものを実感できたといっても過言ではないだろう。そのことにも気が付いていたジュテムは自らが抱く考えを深めていった。
「だが、恐れは裏を返せば力だ」
 失いたくないからこそ強くなれるのだと思えば、このような恐怖にも打ち克てる。
 記憶は未だ消えていない。
 あの場を思い出せば脳裏に蘇る光景。愛おしい世界が彼処にある。
「そうだ、これが――我を勝たせるのだ」
 ジュテムは顔をあげた。
 薄く笑む貌には自信が満ちており、もう何処にも恐怖など宿っていなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
POW

一応警戒。
まだ帝竜戦役が終わってから半年もたってないんだよな。
あの時はこの地で戦う事はなかったけど…。

失う事への恐怖、かぁ。
無くしたら嫌だ、まだ持っていたいと思う感情はあるけれど…俺はヤドリガミとして意識がはっきり生まれた時にはすでに主を亡くしてる。
そのせいか、命あるものはいつか死ぬもの。形あるものはいつか壊れる、心もいつか変わるものだと思ってるからなぁ。
幾ら永遠を誓ったとて、まったく変わらない事はあり得ない。良い意味で変わる事も多いだろう。
だから恐怖をそのまま受け入れ流す。

だってしょうがないじゃないか、俺は無くしてばっかだったんだ。



●孤独と恐怖
 花々が咲き乱れる地。
 とても美しく穏やかな景色ではあるが、此処は群竜大陸だ。
 この大陸を支配した帝竜が倒れたとはいえど、土地の特色はまだ色濃く残る。
 まだ敵の姿は見えないが、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は警戒を緩めず、花の間を掻き分けながら進んでいった。
「まだ帝竜戦役が終わってから半年もたってないんだよな」
 それなのに少し懐かしい。
 時は早く過ぎ去り、今では別の脅威と戦う日々だ。あのときはこの地で戦う事はなかったけど、と呟いた瑞樹は手にした得物を確かめる。
 右手には胡、左手には黒鵺。
 いつものスタイルで構えているので少しは落ち着く。しかし、少しずつではあるが瑞樹の心の裡に恐怖が忍び寄ってきた。
 失うことへの感情が増幅されていく。これがこの地の恐ろしいところだ。誰にも等しく恐怖を齎す花は、とても危険なものとして認識されている。
 失うことへの恐怖。
 それは瑞樹にとって漠然としたものではあるが、心を蝕むものとなって巡る。
 無くしたら嫌だ、まだ持っていたい。
 そう思う感情はあれど、自分はヤドリガミとして意識がはっきり生まれた時にはすでに主を亡くしていた。
 そのせいだからだろうか、思うことがある。
 命あるものはいつか死ぬもの。形あるものはいつか壊れるもの。そして、心もいつか変わるものだということを。
「怖い……のか、これが――」
 否応なしに侵食してくる恐怖を感じながらも、瑞樹は取り乱したりはしない。
 だって、そうだ。
 幾ら永遠を誓ったとて、まったく変わらないことはあり得ない。それは失くすという意味だけにはならず、良い意味で変わることも多いだろう。
 不変であるものなどない。
 物であればいつかは朽ちる。心であっても揺らぐことがある。
 それゆえに瑞樹は考えを纏めていく。
 喪失は必ずしも恐怖と繋がるものではない。だから、恐怖をそのまま受け入れた。
 そうすれば徐々に感情が流されていく。
 次第に恐怖は薄れ、いつもの瑞樹としての感覚が戻ってきた。
 こんな乗り越え方しか出来ぬ自分を思い、瑞樹は肩を竦める。そうして、誰に言うでもなくそっと独り言ちた。
「だってしょうがないじゃないか、俺は失くしてばっかだったんだ」
 その声を聞いていたのは風に揺れる花々だけ。
 そして、瑞樹は独りで歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、失うことへの恐怖ですか。
本当なら怖くて一歩も歩けなかったかもしれませんが、怖いとも思えないんですよね。
不思議ですよね、ただ失った先は何もないのではなく、失った先にも世界が広がっているって知っているだけなのにですよね。

私はアリスです。
アリスラビリンスに着く前の全てをなくしましたが、こうしてアヒルさんと一緒に猟兵をしています。
何かをなくしても、その先で新しい何かと出会えるんです。
だから、私は一歩ずつ前に向かって歩き続けます。



●喪失の先
 この地に満ちるのは恐怖。
 それも、大切なものを失うことへの恐ろしさが募るのだという。
 フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は美しく咲き乱れる花の景色を眺め、その奥に続く道を見つめる。
「ふええ、失うことへの恐怖ですか」
 今もじわじわと心に何かが侵食しているようだ。
 フリルはふるふると首を横に振り、不可思議な感覚を改めて確かめてみる。普段からそうであるようにフリル自身はとても怖がりだ。
 極度の人見知りで、いつもおどおどビクビクしているのが彼女の常。
 それゆえに本当ならば怖くて一歩も歩けなかったかもしれない。しかし今はどうしてか怖いとも思えないのが現状だ。
 恐怖というものは確かに齎されている。
 周囲でさやさやと風に揺れている花々が宿してくる感情は喪失へのものだ。されどフリルはその先がどうしても怖いとは感じられなかった。
「不思議ですよね、アヒルさん」
 帽子の上に乗ったガジェットに呼び掛けたフリルは、思ったままの言葉を口にする。
 ただ失った先は何もないのではなく、失った先にも世界が広がっている。それを知っているだけだというのに、竦むような恐怖は訪れない。
 気付けばフリルは、すたすたと道の先へと歩いていっていた。
「……私はアリスですから」
 多分、きっとそうだ。もう既に失くした後だから必要以上の恐怖は覚えない。
 アリスラビリンスに着く前の全てをなくしたフリルだが、こうしてアヒルさんと一緒に猟兵をしているという今がある。
「何かをなくしても、その先で新しい何かと出会えるんです」
 だから――。
 フリルの瞳は真っ直ぐに前に向けられていた。
「私は一歩ずつ前に向かって歩き続けます。ねぇ、アヒルさん」
 少女の言葉にアヒルさんが満足気に頷く。
 言葉はなくとも、ちゃんと互いに通じ合っているのだと示すようなやりとりが、ひとりと一匹の間で交わされた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

なんてかなしい竜の声
ええ、ゆぇパパ
あの子たちを還してあげなきゃ
手を繋いで、先へ

大切なもの
家のパパとはちがう
あたたかい「パパ」を教えてくれたひと
もしパパを失う事になったら?

大切な娘と言って下さるパパ
けれどもし、もっと大事な人が出来たら?
「娘」なんて
ルーシーなんて要らないって言われたら
いいえそんな筈無い、のに

もしもが止まらず
ふるえが走る
こわい

強く握られた手に、ハッとなる

今は、この温かさだけを感じよう
手をつないでくれて
傍にいると言ってくれる
それだけを信じよう
そうよ
何が有ってもパパが大切な事は変わらない
ルーシーも離れない
傍にいるわ

この身が砕けそうな程の恐怖は
大切の裏返しだもの

ぎゅっと、握り返す


朧・ユェー
【月光】

ここは竜の国
仔竜達の声が聞こえますね
助けてあげましょうね、ルーシーちゃん
手を繋ぎ前を進もうする

ふと何か不安がよぎる
この手がこの小さな手がいつか離れてしまうのでは無いかと

今はまだ小さな手
僕を父親として慕い信頼してくれている
しかし遠い未来、綺麗でしっかりとした女の子に育つだろう
その時この子に大切な者が出来た時
父親ある僕は必要無くなるのでは無いか?
離れていく彼女が見える

温かい手の温もり
いや、どんな事があろうとも僕の娘
それは変わる事の無い未来

この子は何を見ているだろうか?
強く手を握って
大丈夫、傍にいるよと伝えると

手を握り返してくれる
嗚呼、大丈夫。
僕の可愛い娘



●離れずにいること
 遠くから悲痛な声が聞こえた。
 あれはきっと竜の声だと感じたルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は、恐怖に囚われたらしい仔竜を思う。
「なんてかなしい竜の声かしら」
「仔竜達の声が聞こえますね。助けてあげましょうね、ルーシーちゃん」
「ええ、ゆぇパパ。あの子たちを還してあげなきゃ」
 ルーシーは見上げ、ユェーは見下ろす。そうやって視線を交わした二人は、いつものように手を繋いで、先へと進んでいく。
 辺りに咲く花は美しい。
 しかし此処は約束の地。綺麗なだけに見える花には恐怖が宿っている。
 手を繋ぎ、前に進もうするルーシー達の心に奇妙な感覚が滲んでいった。何方ともなく歩みを止めた彼女達は足元の花を見つめる。
 そして、恐怖が巡りはじめた。

 ふと思ったのは大切な人の姿。
 ――パパ。
 少女の裡に、家のパパとはちがう人物の笑顔が浮かんだ。ブルーベル家とは関係のない別の、あたたかい『パパ』を教えてくれたひと。
 すぐ隣にいるユェーだ。
 手を繋いでいるというのに、彼を失くしてしまうような感覚がルーシーを襲う。
 もし、パパを失う事になったら?
 不安が浮かび、すぐにでも彼が何処かに消えてしまう想像が広がった。手を握っている感覚がない。見上げて彼の顔を見ることも出来ない。
 ただ暗い考えばかりがルーシーを支配していた。
 大切な娘と言ってくれるパパ。
 けれどもし、彼にもっと大事な人が出来たら?
 血の繋がっていない、言葉としての繋がりだけの『娘』――ルーシーなんて要らないといつか言われてしまったら。
 最悪の想像ばかりが浮かんでは消え、また巡っては押し込められる。
「……いいえ、」
 そんなはずはないのに、言葉がそれ以上続かない。手を振り解かれて、もう二度と会うことはないよと告げられてしまったら、きっと何も言えない。
 もしも、もしかしたら。
 ただの懸念に過ぎないというのに震えは止まらず、こわい、と漠然と思った。

 同様にユェーにもふとした不安が過ぎっていた。
 ちいさな手の平の温もりが遠くなっていく気がする。錯覚だと分かっているが、花々が齎す恐怖が感覚までも鈍くしているようだ。
 この手が、この小さな手が――いつか離れてしまうのではないか。
 抑えようとしても嫌な考えが次々と浮かびあがる。ユェーはあいている片手で額を押さえ、違う、と微かに呟いた。
 今はまだ小さな手。
 仮であっても、自分を父親として慕って信頼してくれている少女。
 しかし遠い、或いは近い未来。彼女は今よりも更に綺麗でしっかりとした女の子に育つだろうことは分かる。
 そのとき、この子に大切な誰かが出来たら。
 ただの仮初の父親としての自分は必要がなくなるのではないだろうか。
 想像の中で、己から離れていく彼女が見えた。今のままの関係がずっと永遠に続くことはないのは明白だ。
 それはもしかしたら、決別という名の終わりかもしれない。
 ユェーがそう考えたとき、不意に手を繋いでいることを思い出した。その温かい手の温もりが教えてくれる。
(いや、どんな事があろうともこの子は僕の娘。それは変わる事の無い未来で――)
 ユェーは傍らの少女を見下ろす。
 花が宿す恐怖の中で、この子は何を見ているのだろうか。心の内側までは覗けないが、確かめるように少女の手を強く握った。
「大丈夫、傍にいるよ」

 その声にハッとしたルーシーは我に返った。
 ようやく手の感触が戻った気がする。強く握られた手をそっと握り返したルーシーは、ゆっくりとユェーを見上げた。
 優しい笑顔が其処にある。何も変わらない、穏やかな眸も見えた。
「……パパ」
「はい、ルーシーちゃん」
 呼び合う言葉があたたかい。今はこの熱だけを感じていればいい。手をつないでくれて、傍にいると言ってくれる。それだけを信じよう。
「そうよ、何が有ってもパパが大切な事は変わらないもの」
 ルーシーも離れないから。
 傍にいるわ、と伝え返した少女は淡い笑みを彼に向けた。握り返してくれる掌にいとおしさを感じながら、ユェーももう一度口をひらく。
「嗚呼、大丈夫。僕の可愛い娘」
 そうして二人は穏やかに恐怖を乗り越えた。花に与えられた偽の恐ろしさなど、傍にある温もりに比べたら脅威でも何でもないものだ。
 それに、とルーシーは思う。
 この身が砕けそうな程の恐怖は、大切の裏返し。それだけ強い思いが自分にあるのだと分かったから一緒に進んでいける。
「パパ、あの悲しそうな声は向こうから聞こえるわ」
「行ってみましょうか」
 次はぎゅっと手を握り返したルーシーは花園の先を指差した。救うべきもの、戦うべきものは其方にあるとして、二人は歩き出す。
 恐怖を越えた先で、猟兵としての役目を果たすために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
今の私は、何を失うことに恐れを感じるのだろうか。
私の矜恃か?
このランタンか?
父との思い出か?

どれも失いたくないものではある
だけど、どれほど大切であっても
いずれは時の移ろいと共に
全てが失われることを知っている

全てを失った私は最早私ではないかもしれない
ああそれは、嫌なことだし少し困るね
……でも、それだけさ

全てが無に帰るからといって
全てが無意味になるのではない
喪失に痛みはあっても、恐怖に囚われるつもりはない

少なくとも、今の私はそう信じている
勿論、痛みは少ない方がありがたいが
痛みだけを理由に立ち止まることはない

ランタンを灯して先へ進もう
それこそが今、私のなすべきことなのだから。



●灯を點す
 白い花が咲いている。
 何色にも染まっていない真白な花だ。可憐な花は見ているだけならば美しいが、それが恐怖を齎すものだと朽守・カスカ(灯台守・f00170)は識っている。
 ――今の私は、何を失うことに恐れを感じるのだろうか。
 花園に踏み入ったカスカは疑問を抱く。
 じわり、じわりと心に何かが侵食してくる感覚をおぼえた。
(私の矜恃か?)
 踏み出しながら考える。この胸に宿る思いか、それとも。
(このランタンか? 或いは、父との思い出か?)
 どれも失くしたくはないものだ。喪失してしまったとしたら、哀しみや嘆きが訪れることは想像に難くない。
 しかし、カスカはもうひとつのことを知っている。どれほど大切なものであっても、どんなものであれいずれは時の移ろいと共に全てが失われる、と。
 歩く度に恐怖が滲む。
 もしも、という遠い未来のことに思考が傾いていく。ただそのことにしか考えが巡らないのも、この約束の地に咲く花々のせいだ。
 全てを失った自分は最早、私自身ではないかもしれない。
 そう考えるとカスカの胸裏にも、これまでと違った思いが浮かんだ。
「ああそれは、嫌なことだし少し困るね。……でも、」
 それだけさ。
 独り言ちたカスカは歩を進めていく。白い花の名前は思い出せない。何かに似ているのだが、よく見れば見るほど何の花にも似ていないない。もしかすれば地上にはない、此処だけに咲く花なのかもしれないが、今のカスカにはそれを探る気はない。
 思考は更に深くなる。見た目にはあらわれておらずとも、心の裡に或る思いが根差す。
 それは紛れもない恐怖だ。
 されどカスカは何事もないかのように約束の地の奥へと進み続ける。
 いつかは全てが無に還る。
 だからといって、全てが無意味になるのではない。
 喪失に痛みはつきもので、避けられるものではないことも解っていた。だが、痛いだけでは終わらない。生きている限りはその続きがある。
 或いは、そう――壊れ、死したとしても継がれる意志や思いも存在する。
 それゆえに恐怖に囚われるつもりはない。
 少なくとも、今のカスカはそのように信じている。
「勿論、痛みは少ない方がありがたいが――」
 喪失から齎される痛みだけを理由に立ち止まることはない。恐怖は恐怖として、己の中に抱いていけばいい。
 このランタンの中に揺らぐ灯のように。
 カスカは手にしたランタンを掲げ、其処に心を重ね合わせて燈してゆく。
 今はただ先へ進もう。
 それこそが、此処にいる己のなすべきことなのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
沢山の者を失い、弔ってきた。
今更恐れる事など、何もないのだよ。

嗚呼。恐れる事など無いと云うのは
私の認める事の出来ない感情だね。
何かを失う事は、とても恐ろしい。
けれども、この恐怖は誰もが持つ感情だとも思うのだよ。

失う事が恐ろしくない者などいるものか。
恐ろしいのであれば、共に手を取り
共に背を合わせて歩めば良い。
私が守るのではなく、皆で補い合えば良いのだ。
大丈夫だよ、大丈夫。

失う事への恐怖、この感情を認める事は出来ないだろうね
しかし、打ち勝つことはできる。
私はこの恐怖に抗う。

膝をついている場合では無いからね。



●ひとの歩み
 喪失への恐怖。
 風に揺れる花が齎すのは、抗いきれない恐ろしさに続く感情だ。
 約束の地という聞こえの良い土地には嘗てどのような謂れがあったのだろう。恐怖が満ちる理由は、と考えても今は答えを探すことは出来ない。
 榎本・英(人である・f22898)は花々が咲き乱れる地に踏み入る。それと同時に心を冒すような違和感が襲ってきた。
 これまで沢山の者を失い、弔ってきた。英は喪失をよく識っている。
「今更恐れる事など、何もないのだよ」
 英は敢えて言葉に乗せて、己の中にある感情をあらわした。
 しかし、すぐに首を横に振る。
 恐れることなど何もない、というただの言い回しでであり、それは恐怖がまったくの零であることと同義ではない。
「嗚呼。そうであるようで違うね。これは……」
 私の認める事の出来ない感情。
 言の葉にすることによって、そうであると定義しようとしているだけの話だ。英は周囲の花を見渡し、あかい花弁を湛える一輪の元に歩んでいく。
 あのあかい花がもし、目の前で散って消えてしまったら。それもまた喪失であり、取り戻せないものとなっていく。
 何かを失うことは、とても恐ろしい。
 当たり前にあると思っていたもの、やっと手に入れたもの、自分と共に在ると確信していたものやひとが己から遠ざかっていく。
 なんと忌避したくて、なんと畏怖すべきことだろうか。
「けれども――」
 胸に手を当てた英は、恐怖には負けてなどいない。もしも、もしかすれば、と想像する未来への思いや、喪失への感情は誰もが持つもの。
 怖いものも、恐れるものもないと意地を張るよりも受け入れればいい。
 そのうえでどうするのか。何を考えるのか、どう乗り越えるのか。失った先にあるものを見出そうとすることこそが、ひとである。
 喪失が恐ろしくない者などいるものか。跳ね除けることは簡単だが、それは逃避だ。
 怖いのであれば、共に手を取り、共に背を合わせて歩めば良い。
「私が守るのではなく、皆で補い合えば良いのだ」
 ――大丈夫だよ、大丈夫。
 今はひとりだが、英にはもう隣を歩くひとがいる。共に歩んでくれるものも存在している。己の心の証があるのだから、出来る限り胸を張って生きていきたいと思えた。
 失うことへの恐怖、この感情を本当に認めることは出来ないだろう。
「しかし、打ち勝つことはできる。私はこの恐怖に抗う」
 英が宣言した瞬間、それまで心を蝕もうとしていた花の魔力が揺らいで消えた。美しい花々が咲く景色を見つめ、英は歩みを進めていく。
「膝をついている場合では無いからね」
 打ち克つのは意志の力。
 未だ識らず、届かぬことは多くとも――此処で立ち止まることは、出来ない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟迎櫻

ヨルウウウ!
どこ行っちゃったんだよぉ
喪失感が胸を刺し刻むよう
僕がヨルのぷりんを食べたからだ
ヨルがいなくなった
すんすん泣きながら居なくなった子ペンギンを捜す

あ!ヨル!
カグラに抱っこされて…機嫌がいい
カグラの家の子になっちゃうよぉ

ありがとう、カムイ
カムイから手渡されたヨルに頬擦りをする
また櫻にぷりん作ってもらおうなヨル

喪う痛みは知ってるよ
とうさん
僕の、家族

けれど
ふわり飛んできたカナンとフララに微笑む
終わりじゃない
またあえる

何で櫻じゃないかって
櫻宵はいなくならないから
失わないからね
もしその時がきても一緒

恐くても怖くない
魂の絲はちゃんと繋がってる
だからカムイ
怖くないよ

二人の姿に笑う
さぁ行こう!


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

サヨ!リルが泣いているよ
どうしよう…
ヨル?
ヨルならカグラが抱えているよ
カグラ、リルにヨルを返してあげて
うちの子にする?駄目だよ
ほら
(見かねたカラスが三つ目の子ペンギンに変化)

……

まぁいいか
リル…ヨルだよ
ヨルを手渡し泣き止んだ姿に安堵する

サヨ、よかったね
櫻の姿を心にうつせば

喪うこと無くなること
深い哀しみと嘆きに襲われる

やっと見つけたのに
また逢えたのに
『また』
きみを失うの?
『いつか』のように
きみがいない
何処にも

そんな世界がいつか必ず

しらないはずの孤独に震える
嫌だよ
『また』見送る
きみがいない世界に遺される

櫻宵いなくならないで

春の温度と
結ぶ言葉に頷く
独りではない

約束だ
噫いこう
路はまだ途中だったね


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

あらもう、リルったらイケメンが台無しよ!
涙を拭いてあげながら理由を聴けばヨルが行方不明と
カグラが抱っこしてるのは違うかしら
カムイ、カグラを説得よろしくね
……
カラスが三つ目の子ペンギンに…
大喜びするカグラに少し頭を抱える

カムイ、ありがとう
一件落着ね!

リルったらヨルを失うのが怖いのね
少し唇を尖らせ
しってる

大切な存在を喪う
私もしっている
ぽっかり穴があき塞がらない

視線をカムイに向けて微笑み
震える神の手を握る
大丈夫
いなくならない
こうしてまた逢えたのだから
巡り廻ってまたかえってくるわ
あなたのいる世界が私の居場所なの

約束
ちゃんと御魂の絲は繋がってる
だから怖くない
一緒よ

旅はまだ始まったばかりなんだから



●続く旅路
 白い花と黒い花が混じりあって咲く、約束の地の一角。
「――ヨルウウウ!」
 悲痛な声を響かせているのはリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)だ。その眸には涙が浮かんでいる。既にこの地の魔力に囚われているリルは、自分の腕の中から居なくなってしまった式神ペンギン、ヨルを思っていた。
「どこ行っちゃったんだよぉ」
 もしも、という想像ではなく実際にヨルが消えている。
 喪失感が胸を刺して、まるで身体がお刺身にされて刻まれたような痛みが巡った。
 ヨルは自分を捨てて違う誰かの元に行ったのだろうか。リルがヨルのぷりんを食べてしまったから、きっとそうだ。
「ヨル……」
 溢れる涙を拭うこともしないまま、リルはぐすぐすと幼子のように泣きながら、居なくなった子ペンギンを捜す。
 嗚呼、ヨルは一体いずこに――。
 なんて捜索するまでもなく、ヨルはすぐ近くに居た。
「サヨ! リルが泣いているよ、どうしよう……」
「あらもう、リルったらイケメンが台無しよ!」
 朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)と誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は泣きじゃくっているリルに歩み寄る。
「大変なんだ、ヨルが……!」
 すると人魚はあっちへふわふわ、こっちへぴるぴると右往左往しながらヨルを呼び続けていた。櫻宵はリルの涙を指先で拭ってやりながら、リルの慌てようを理解する。
「カグラが抱っこしてるのは違うかしら」
「え?」
 櫻宵の言う通り、ヨルはカムイが連れている絡繰人形の腕の中にいた。
「ヨル? ヨルならカグラが抱えているよ」
「きゅ!」
 カムイが示した先からヨルの声が聴こえる。どうやらリルが気付かぬうちに人形の後ろ姿を見つけたヨルは一目散に駆け寄って飛び込み、それをカグラが受け止めてやった結果がこの現状らしい。
 ひさしぶり、という意味のヨルの鳴き声があったことは誰も知らないが――。
 カムイはカグラに手を伸ばし、そろそろいいだろうと問いかける。
「カグラ、リルにヨルを返してあげて」
『……』
「うちの子にする? 駄目だよ」
「あ! ヨル! カグラに抱っこされて……僕が抱いてるときより機嫌がいい……そっちお家の子になっちゃうよぉ」
 そんなことはないのだが、今のリルにとっては何でも恐怖だ。よしよし、とリルを撫でてやった櫻宵はヨル取り戻し作戦をカムイに託すことにした。
「カムイ、カグラを説得よろしくね」
 どうやらこの状況の中、カグラもヨルを失うちいさな恐怖に囚われているらしい。どさくさに紛れてヨルを朱赫七ファミリーに迎え入れようとしているカグラの行動も、約束の地の力だと思えば頷ける。素かもしれないが。
「ほら、カグラ」
『…………』
 リルにぱたぱたと羽を振っているヨルをぎゅっと抱くカグラは首を横に振る。すると見かねたカラスが三つ目の子ペンギンに変化した。
「きゅ!?」
 びっくりしたヨルがぴょこんとカムイに飛び移った。
 当のカグラはというと、三つ目の子ペンギンカラスに大喜びしている。そんなカグラに少し頭を抱えた櫻宵はちいさな溜息をついた。
「リル、ヨルだよ」
「ありがとう、カムイ。また櫻にぷりん作ってもらおうな、ヨル」
「きゅきゅ!」
 リルはカムイから手渡されたヨルに頬擦りをする。そうすればヨルもリルにくっつく。すっかり泣き止んだリルの姿に安堵したカムイは、櫻宵と微笑みあった。
「サヨ、よかったね」
「カムイとカラスのおかげでヨルの行方不明事件は一件落着ね! それにしても、リルったらヨルを失うのが怖いのね」
 元凶がカグラだったことはさておき、櫻宵は少し唇を尖らせる。
 ――しっている。
 大切な存在を喪うということは櫻宵もよく解っている。ぽっかりと穴があいて、塞がらないものになる。そう考えると不意に櫻宵にも恐怖が巡ってきた。
 自分達にもやっとこの地の魔力が侵食してきたのだろう。
 カムイは、どうしたの、と櫻宵に問いかけようとした。しかし、己の巫女の姿を心にうつせば、言い知れぬ感情が浮かんだ。
 喪うこと、無くなること。
 もしも、また彼を亡くすことになったら――。
 また、という感覚に気が付かぬまま、カムイは深い哀しみと嘆きに囚われそうになる。
 やっと見つけたのに。また逢えたのに。
(二度も、三度も、きみを失うの?)
 あの『いつか』のように。
 きみがいない、何処にもいない。そんな世界がいつか必ず訪れる。しらないはずの孤独に震え、カムイは櫻宵とカグラを見つめた。
(嫌だよ。嫌だ。『また』見送って、きみがいない世界に遺されて――)
「……カムイ」
 はたとした櫻宵は視線をカムイに向けて微笑み、震えるその手を握る。何を考えているのかは何となく解った。櫻宵にも同じ恐怖が巡っているからだ。
「櫻宵……どうか、いなくならないで」
 私を置いていかないで。
 縋るような眼差しを受け、櫻宵は頷く。
「大丈夫、いなくならない。こうしてまた逢えたのだから」
 巡り廻ってまたかえってくる。
 あなたのいる世界が私の居場所で、リルもヨルも一緒にいる。櫻宵は自分にも言い聞かせるようにカムイに言葉を伝え、リルにもそっと笑みを向けた。
 リルも遺される怖さを知っている。
 喪う痛みも解っていた。
 とうさん、と自分にだけ聞こえる声で囁いたリルは家族としての彼を懐う。胸が刺し貫かれるような痛みがあったが、すぐに消えていった。
 リルは傍にふわり飛んできたカナンとフララに微笑み、指先を伸ばす。
「失っても、終わりじゃない」
 またあえる。
 指に止まった蝶々達がそれを教えてくれた気がする。それに櫻宵はいなくならないと信じているから、何も怖くなかった。
 もしその時がきても一緒に泡になってとけるから、リルは何も失わない。
 恐くても、怖くはない。だからね、と淡い笑みを浮かべたリルはカムイに告げていく。
「魂の絲はちゃんと繋がってるんだ。カムイ、怖くないよ」
「約束は果たされたわ。ちゃんと御魂の絲は繋がってるの」
 一緒よ、と櫻宵は笑った。
 二人の笑顔と言の葉を聞き、カムイは顔をあげた。いつしか花から齎された恐怖は何処かに消え去っている。
 カムイはもう平気だと感じた櫻宵とリルは、彼に手を差し伸べた。
「旅はまだ始まったばかりなんだから」
「さぁ行こう!」
 その手を取ったカムイは、仔ペンギンカラスを抱いたカグラと共に踏み出していく。
 春の温度と結ぶ言葉。
 独りではない。果たした約束と、これから叶えていく約と巡りがある。そう思えば仮初の恐怖など振り払って進んでいけると思えた。
「噫、いこう。路はまだ途中だったね」
 三人と二羽と一体。
 何とも大所帯だけれど、これが今の彼らの在り方。
 そうして、一行は先へと進んでいく。繋いだ縁も絆も取り零さぬように。いつか訪れるかもしれない終わりまで、共に過ごしていく為に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
おー、キレイな草原か
──ン? 何だろ、この花

触れれば最期
漂う香りは恐怖に満ちてる

ぐらり、と世界が歪んだ

そんな気がしただけかも知れない

気付けば、ひとりぼっち
一人は好きだ、でも独りは嫌いだ

だから、オレは何時だって
軽薄に愛を紡いで言葉で騙して
愉しい事だけを考えて生きてきた

仲間を、トモダチを、
失う事は、こんなにも怖い

何の取り柄もない
オレなんかに構うヤツなんて──


ゴツン!


鈍い音と共に額へ痛みが走る
いッてえ、と低音が漏れて
原因であるそれを見付け

何だ、ナイトか

赤くなった場所を押さえながら
黒炎の竜の名前を呼んだ

嗚呼、そうか、そうだろ

オレにはお前が居るのか
変わらず傍に居てくれるだろ

──何があっても、お前だけは、



●いつも傍には
 翠の彩と様々な花の色が広がる草原。
 一見すれば此処は美しい場所だ。何の脅威もなく、自然に満ち溢れた大陸の一角。そのように思えても恐怖は確実に忍び寄っている。
 ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は何の疑いもなく花園に踏み出した。
 吹き抜ける風が花々を揺らしている光景はとても穏やかだった。
「おー、キレイな草原か。――ン?」
 ふと目に留まったのは、不思議な形をした一輪の花。名前まではわからないが複数の花の特徴が組み合わされたようなものだ。
「何だろ、この花」
 きっとこの地独特の種類なのだろう。咲く花に何気なしに手を伸ばしたルーファスは、ふわりとした花弁に触れた。
 されど、それに触れれば最期。
 それまで心地好かったはずの雰囲気が一変する。否、周囲は何も変わらないのだが、ルーファス自身がそのように感じるようになってしまった。
 漂う花の香りは恐怖に満ちていて、花弁もおどろおどろしく思える。
 ぐらり、と世界が歪んだような感覚があった。
 明確に何かが起こったわけではなく、そんな気がしただけかもしれない。解っていても、ルーファスは思わず地に片膝をつく。
 怖い。
 どうしてか恐ろしい。この感情が花から齎されているのだと悟ったときにはもう、何もかもが遅かった。
 気付けば、ひとりぼっちだった。
 一人は好きだが、独りは嫌いだ。
(だから、オレは……)
 何時だって軽薄に愛を紡ぎ、言葉で騙しては独りにならぬよう立ち回ってきた。常に愉しいことだけを考え、孤独に押し潰されないようにこれまでずっと生きてきた。
 何故なら、仲間を、トモダチを。
 失うことはこんなにも怖い。自分には何もないから、何かを持っている者には到底、敵いやしない。
 渦巻くような感傷や感情がルーファスの胸に巡り続ける。孤独、喪失。そういったものへの恐怖が消えてくれない。
「何の取り柄もない、オレなんかに構うヤツなんて――」
 そして、ルーファスが弱音にも似た言葉を落とした、次の瞬間。
 鈍い痛みが響いた。
「ン!?」
 ゴツン、と音までしたほどの衝撃にルーファスが我に返る。痛みが走った額を擦った彼はその原因を知った。
「いッてえ……何だ、ナイトか」
 黒炎の竜が自分を見つめていた。先程の痛みもナイトによるものだ。
 ルーファスはまだ痛む頭を押さえながら、この鈍い感覚も悪くないと感じていた。
 ナイト、と竜の名前をもう一度呼ぶ。そうすれば黒炎の竜は何処か誇らしげにルーファスを見つめた。
「嗚呼、そうか、そうだろ」
 たとえどうしようもなく孤独になっても自分の傍にはナイトが居る。幼い頃から変わらずにそう在ったように、きっと。否、絶対に。
 ――何があっても、お前だけは。
「行くか、ナイト」
 立ち上がったルーファスは竜と一緒に歩き出した。この先に何が待ち受けていようとも、共に立ち向かえるはずだと感じながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『戯れる仔竜』

POW   :    じゃれつく
【爪 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    未熟なブレス
自身に【環境に適応した「属性」 】をまとい、高速移動と【その属性を纏わせた速いブレス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    可能性の竜
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ちいさな竜
 美しく咲く、約束の地の花々。
 それらが齎す恐怖を乗り越えた猟兵達は更に奥地へと進んでいた。
 先程から時折、草原を吹き抜ける風に乗って鳴き声が聞こえてきている。それはこの地に囚われてしまった仔竜のものだ。
「きゅう!」
「きゅきゅー!」
 鳴き声自体は可愛らしいものであっても、声そのものに宿るのは何かに怯え、すべてを忌避するような悲痛さだった。
 花が齎す恐怖に負け、槍榴鬼マグダレンについていかなかったもの達。それこそが今、目の前に現れた仔竜だ。
 威嚇の姿勢を取った仔竜は今にも飛びかかってきそうだった。
 おそらく戯れるように、或いはじゃれつくかの如く襲ってくるだろう。
 中には蔦や花が巻き付いている個体もおり、寄生されているであろうことがありありとわかる。悪しき花の苗床とされた彼らはもう二度と元の竜には戻れない。

 オブリビオンである仔竜を花から解放し、救う方法はただひとつ。
 かれらを屠る、ということだけ――。
 
榎本・英
……嗚呼。この光景は。
僅かな希望にかけてみたかった。
この子たちを救いたい。
ナツを助けることが出来たように、この子たちも……。

いや、あの時とは状況が違うね。
悲痛な叫びがあちらこちらから聞こえてくる。
このような時、己の無力さを呪うよ。

この世は、失う事への恐怖だらけだね。
これからを歩むべき仔竜らの命すら、救う事が出来無い。
ナツも、結局救ったのは私ではなかった。

救うなど大きな口を叩いたものの、一人では無理だった。
救いのない戦い、いや、ある意味救いのある戦いなのかもしれないね。

著書の獣を呼び出し、花を身から引き離そう。
苦しいかい?
私は君たちにこれから先を生きて欲しかった。

……戦う事は得意ではないのだよ。



●救済
 声が聞こえる。
 恐怖に怯えたまま、その身を花の宿主にされた仔竜の声が、幾つも。
「……嗚呼。この光景は」
 英は紡ぎかけた言葉を途中で止め、それ以上は何も言わなかった。花に寄生されたちいさなもの。目の前の光景を見て思い出すのは自らが連れる猫の使い魔のこと。
 この竜達のようにナツも一度、死に添う花に囚われた。
 しかしちいさな命は懸命に支配に耐え、無事に生還することが出来た。それゆえに僅かな希望にかけてみたかったのだが――。
「もう手遅れなのだね」
 この子たちを救いたかった。
 ナツを助けることが出来たように、この子たちも。態々確かめずとも猟兵としての勘が告げている。間に合わなかった、と。
 英は僅かに瞳を伏せたが、俯きかけた顔をあげる。
「いや、あの時とは状況が違うね」
 今も悲痛な叫びがあちらこちらから聞こえていた。明確な言葉ではなくとも意味は自然と理解できる気がする。
 怖い、こわい、誰か助けて。
 大事なものが奪われる。それなら奪われる前に壊せばいい。
 きっと仔竜達はそんな思いを抱えている。それが間違っているとも気付けず、花から宿された恐怖と破壊衝動に従って動くのみ。
「このような時、己の無力さを呪うよ」
 いつもより深い自嘲めいた言葉を落とし、英は身構えた。真っ直ぐに立つ彼の片手には己の著書がひらかれている。
 さあ、と一言を本に向ければ其処から情念の獣が現れた。
 仔竜は英に向けて掛けてくる。光を受けて鈍く光った爪はおそらく、じゃれつくように英を引き裂こうとするのだろう。
 だが、それよりも先に獣の指が向かってきた竜を穿った。
 きゅう、という声があがるが英は容赦などしない。否、してはいけないと知っていた。
「この世は、失う事への恐怖だらけだね」
 本当はこの仔竜達もこれからを歩むべき命だった。その道筋すら示せず、救うことが出来無い。
 ――ナツも、結局救ったのは私ではなかった。
 救ってくれた皆の気持ちは最大限に受け取っているが、きっとあの救出劇は自分ひとりだけでは成せなかったのだと思う。
 救うなど大きな口を叩いたものの、結局は。
 沈みそうな思考を巡らせることを止め、英は狙いを定める。
「救いのない戦い、いや、ある意味では救いのある戦いなのかもしれないね」
 仔竜が仔竜でなくなる前に、永遠に偽の恐怖を抱いて生き続けなくてもいいように、終わらせられる。
 著書の獣の指先が仔竜に絡まった花や葉を引き剥がしていった。
 既に花と一体化していた竜は悲鳴をあげる。それでも獣は止まらず、英は更に情念の化身を巡らせていった。
「苦しいかい? 本当は、私は君たちにこれから先を生きて欲しかったんだ」
 それは叶わない。
 救いという言葉を当てはめた終わりしか与えられない。英が著書の頁を静かに捲った瞬間、指先に貫かれた仔竜が花の中に倒れた。
 一体目、二体目、そして三体目。次々と崩れ落ちる仔竜はやがて、その命を終えた。
 骸の海に還るかれらを見下ろした英は本を閉じる。
 そして、竜が消えた後。
「……戦う事は得意ではないのだよ」
 束の間の静けさが訪れる。
 静寂の中で英が落とした言葉を聞いていたのは、花を揺らす風だけ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュテム・ルナール
やはり、こうなるか。
これが現実、これが夢想の果て、出来ぬ事を掲げた代償の具現化。

哀しい、あまりに虚しい、しかし彼らを…同じ竜の血を持つ眷属達を救うならばやるしかない。

せめて我の全力で痛みさえないまま焼き尽くしてやろう…。

空中に浮遊し、高速詠唱を用いて我が究極の【竜言語魔法《絶炎滅》】による滅び炎雨を降らせ仔竜らを焼き尽くす。
雨を逃れ我に辿り着いたとて容赦はせぬ、竜宝具を大剣へと変化させ一刀に薙ぎ払ってやろう。

魔皇ジュテムが咎も哀しみも全てを受け止め、そなたらに赦しを与えてやろう…安らかに眠るが良い!

アドリブ大歓迎である



●理想と現実
 花園の更に奥へと進んだ先には幾つもの気配があった。
 響き続ける竜の鳴き声は痛々しい。
 花は依然として美しいままだが、それらの一部が仔竜に寄生している様は異様だ。
 恐怖の花の宿主となった仔竜は悲しげに鳴きながらも敵意を向けている。絡みついた花や茎、蔦などが竜を支配していることは一目瞭然。
「やはり、こうなるか」
 ジュテムは片目を静かに伏せ、緩く頭を振った。
 竜の国。
 それはどのような竜であっても幸せに暮らせる場所だとされるはずだ。しかしどうだろう、現に此処に取り零された竜がいる。
 何も建国の志を掲げた者を必要以上に責めるつもりはない。だが、ジュテムにはすべて最初から解っていたことだ。
 これが現実で、夢想の果てであり、出来ぬ事を掲げた代償の具現。
「哀しい、あまりに虚しい」
 叶わなかったことが、決して叶えられないことが――。
 ジュテムは閉じていた瞼をひらき、此方を見つめている仔竜を見据え返した。助けて、怖い、壊してやる。そんな相反した意志が感じられる。
 おそらく前半は仔竜の僅かに残った感情。後半は寄生花のものだ。
「しかし、彼らを……同じ竜の血を持つ眷属達を救うならばやるしかないな」
 来い、と花仔竜達を呼んだジュテムは身構えた。
 元に戻すことは出来ないと分かっている。何故なら、花はもう仔竜の身体に食い込むように根を張っており、分離させるだけで竜が痛手を負うと予想できたからだ。
 ならばせめて、とジュテムは竜言語魔法を紡いだ。
 ジュテムの身は静かに空中に浮き、周囲に炎が巻き起こっていく。
「我の全力で、痛みさえないまま焼き尽くしてやろう……」
 絶炎滅――アニヒレーション。
 其れは究極の力。ジュテムが標的へと視線を向けた刹那、滅びの炎雨が空から降り注ぎはじめた。仔竜達を焼き尽くし、一瞬で葬送するために。
 触れたもの全てを焼き尽くす紅き雨は容赦なく、仔竜に襲いかかった。何頭もの竜が雨に穿たれて蒸発していく。
 だが、その中にも炎滅をすり抜けて駆けてくる個体がいた。
「きゅう!」
「骨のあるものもいるのか。しかし我に辿り着いたとて容赦はせぬ」
 雨を逃れたとて、ジュテムには次の一手がある。敢えて至近距離まで近付かせた彼は仔竜を迎え撃ち、竜宝具を大剣へと変化させた。
 竜の爪がジュテムを裂こうと振り上げられた瞬間、仔竜は一刀の元に薙ぎ払われる。
 きゅ、という小さな断末魔が響くと同時に竜は倒れた。
 されど周囲にはまだ敵がいる。
「来るがいい。魔皇ジュテムが咎も哀しみも全てを受け止め、そなたらに赦しを与えてやろう……そして、安らかに眠るが良い!」
 ジュテムは仔竜達を炎で包み、或いは斬り裂きながら屠っていった。
 哀しみや恐怖、苦しみに囚われ続けぬように――。
 降り続ける雨や苛烈な一閃の裏側には、魔皇としての慈悲と意志が宿っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

可愛い声が聴こえ可愛い姿を目にする
ルーシーちゃん、仔竜ですよ。

彼女と握る手が強くなる
悲しい鳴き声とてもつらいのでしょうね。
こんな可愛い子なのに何て酷い事をするのでしょうか
助けれるのなら命あるままで救いたかったのですが

せめて今の苦しみから解放しましょうね
背中からルーシーちゃんの優しさが伝わる
彼女の優しく温かい、それに応える様に
【暴食グール】が【屍鬼】に変化させ
ぱくりと一口喰べていく
大丈夫、痛くないですよ

ゆっくりおやすみ。良い夢を
ルーシーちゃんの願いという子守唄
そして二人の子守唄


ルーシー・ブルーベル
【月光】

ええ、パパ
仔竜さんたち……あの悲しい声は、あなたたちだったの
あの怖さが、怯えがずっと続いているなんて
なんて辛い事なの

握る力が強くなったパパの手をぎゅうっと
もう片方の手で包む
うん、うん
まだこんな子供なのに
本当は助けてあげたい
けれど無理、なのね
ならルーシーたちの出来る事をしてあげましょう
せめて怖さを取り除いてあげましょう

おいで
怖いの全部
こちらにぶつけておいで
【かっこいいお友だち】
パパの背面を守る様に駆け
パパの鬼さんといっしょに仔竜さんたちを飲み込んで
高めるは攻撃力
これ以上痛くしないように
眠る様に旅立てるように

おやすみ
よくがんばりました
もう怖い事がありませんよう
それなら二人の願いの、子守唄よ



●喰らう命の果て
 耳に届いたのは愛らしい鳴き声。
 現れた仔竜達もまた可愛く、ユェーとルーシーはかれらを見つめる。花は風を受けて揺れているが今は不穏さしか感じられなかった。
「ルーシーちゃん、仔竜ですよ」
「ええ、パパ」
「とても可愛いですが悲痛ですね」
「仔竜さんたち……あの悲しい声は、あなたたちだったのね」
 二人は痛々しさを感じる鳴き声だと感じて、仔竜の様子を窺った。竜達の身体には花や茎が巻き付き、根まで張っているようだ。
 ユェーとルーシーが握りあう手の力が自然に強くなる。
「この鳴き声、とてもつらいのでしょうね」
 仔竜の声に耳を澄ませるユェーが感じた思いを言葉にする中、ルーシーは先程に花から齎されていた恐怖を思い出していた。
「あの怖さが、怯えがずっと続いているなんて……なんて辛い事なの」
 自分の悲嘆に対して、ユェーが握る手に更に力が込められる。ルーシーも彼の手をぎゅうっと握り返し、もう片方の手で包み込んだ。
「こんな可愛い子なのに、何て酷い事をするのでしょうか。助けられるのなら命あるままで救いたかったのですが……」
「うん、うん。まだこんな子供なのに」
 頷くルーシーの眸には鳴き続ける仔竜の姿が映し出されている。
 本当は助けてあげたい。
 けれどもこの地の魔力は子供であれ、大人であったって何も変わらない。救うことが無理であると理解したルーシーは決意を固めた。
「それならルーシーたちの出来る事をしてあげましょう」
「せめて今の苦しみから解放しましょうね」
「そうね、怖さを取り除いてあげましょう」
 それは仔竜達を倒して還すということになるが、自分達が取れる方法はただそれだけしかない。ルーシーはオオカミのぬいぐるみを掲げる。
 その動きと同時にユェーが己の身を裂き、紅血の雫を滴らせた。
 ルーシーは彼の背面を守ろうと決め、かっこいいお友だちを駆けさせていく。
「おいで。怖いの全部、こちらにぶつけておいで」
 呼び掛けた声は仔竜に向けられている。その言葉に敵意はなく、救いへの僅かな希望が込められていた。
 背中から彼女の優しさが伝わってくるようで、ユェーは薄く口元を緩める。
 ルーシーの思いはあたたかい。それに応えるようにユェーは暴食のグールを屍鬼に変化させていった。そうして、近付いてきた仔竜をぱくりと一口。
「大丈夫、痛くないですよ」
 次々と竜を喰べてさせていくユェーに合わせ、ルーシーもオオカミに願う。
「パパの鬼さんといっしょに仔竜さんたちを飲み込んで」
 その際に高めるのは攻撃力。
 これ以上、痛くしないように。静かに眠るように旅立てればいいと祈って――。
 屍鬼とオオカミが仔竜を喰らっていく。
 死という救いを与えるために、ただひたすらに。やがてルーシー達を襲っていた仔竜達は一匹も残らず喰らい尽くされた。
 この結末を救済と呼べるのか。それは喰われた竜達しか知らない。だが、恐怖からは解放されたはずだ。
「ゆっくりおやすみ。良い夢を」
「おやすみ。よくがんばりました」
 ユェーが暴食のグールを見下ろし、ルーシーも消えた仔竜達への思いを語る。そして、ユェーは少女がその心に宿している優しさについて改めて思った。
「これはルーシーちゃんの願いという子守唄だね」
「それなら二人の願いの、子守唄よ」
「二人の子守唄か……うん、そうだね」
 いつものように視線を交わしてから、二人は静けさが満ちる花の世界を見つめた。
 寂しく冷たい風が吹いている。
 哀しいと感じるのは、この先にも別離が訪れるのだと予想できるからだ。
 約束の地に巡る物語。
 それは果たして、どのような結末を迎えるのだろうか。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

仔竜たちの鳴き声は何となく見知った人とそのそばに居るものを思い起こされてしんどいな。
確かにオブリビオンは骸の海に帰すべきだ。けれど人に害なさないなら、と少し思ってしまうのも理由だろうか。

存在感を消し目立たない様に立ち回る。
恐怖に囚われている状態の相手に、気配を絶つ事がどちらに転ぶかわからないけど
そして隙をついてマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。なるべく苦しまないよう一刀で倒したい。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。



●根差す恐怖に別れの刃を
 この声を悲痛だと言わずに何と呼ぶのか。
 約束の地に響き渡る竜の鳴き声には恐怖と憎悪が入り混じっていた。前者は仔竜、後者は寄生する花のものだろうか。
 瑞樹は敵意を向けて駆けてくる仔竜を見据え、得物を構える。
「きゅう!」
「子供の竜か」
 右手の胡で相手の攻撃を受け止め、左手の黒鵺でその身を弾き返した。素早い二刀の対応で初撃をいなした瑞樹だが、どうしてか胸が傷んだ。
 仔竜が花に寄生されて助からないから、という理由もあるが――。
「やっぱり似てるな」
 仔竜達の鳴き声や姿からは何となくではあるが、見知った人とそのそばに居るものを思い起こされる。しんどいな、と呟いた瑞樹は黒鵺を更に振るいあげた。
 放たれるのは剣刃一閃。
 標的が刃を受け、きゅっと苦しげな声を零す。その見た目は随分と可愛らしくいたいけだが、既に仔竜は過去の存在となっている。
 世界を滅びに導くもの――オブリビオンは確かに骸の海に帰すべきだ。
(けれど人に害なさないなら……)
 少しだけ、その続きを想像してしまう。相手を攻撃して斃すという行動に息苦しさを感じるのは、きっとそれが理由だからでもあるはず。
 されどそうすることは出来ない。
 相手がオブリビオンであることを変えられないように、此方も猟兵として戦う在り方を違う形にすることは不可能だ。
 たったひとりで世界の敵に回れるほど自分は器用ではないから、と胸中で独り言ちた瑞樹は刀を振るい続ける。そうすることしか今は出来ない。
 恐怖を残し、操られるままに戦う仔竜。
 かれらを助けるにはこの刃で以て倒し続けるしかない。
 巡りゆく戦いの中で瑞樹は背の高い花の影に隠れ、存在感を消した。
 そうすれば仔竜は瑞樹の行方を見失ってしまう。そのまま目立たないように立ち回り、瑞樹は敵の背後に回った。
 そう、相手は敵。ただの敵でしかない。
 自分に言い聞かせた瑞樹は恐怖に囚われている状態の仔竜を狙う。この仔竜相手に気配を絶つことがどちらに転ぶかわからないが、これが瑞樹のやり方だ。
 そして、隙をついた暗殺の一閃がひといきに見舞われた。
 なるべく苦しまないよう一刀で。
 慈悲にも似た思いと共に振り下ろされた刃が、仔竜の息の根を一瞬で止めた。断末魔は苦しげで、瑞樹は思わず耳を塞ぎたくなる。
 しかしその悲鳴さえもかれらが生きた証であり、紛れもない最期の声だ。
 花咲く地に響く鳴き声を聞き届けながら、瑞樹は次々と仔竜を屠っていく。胸に刺さる棘のような感覚には意識を敢えて向けないまま――。
 黒鵺の刃はただひたすら、悲しき存在を過去の海へと還していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、この子達はもう助けられないんですね。
お洗濯の魔法でお花を落としてもダメなんですよね。
近付いたら怖がらせてしまいますね。
もう、喪失の恐怖だけではなくて全てに怯えているんですね。

でしたら、私がしてあげられることは気づかれないように隠れて、大きな岩をサイコキネシスで持ち上げて上から落としてあげるだけですね。

けど、これでマグダレンさんに以前と同じ方法は使えなくなりましたね。
でも、オブリビオンさんとはいえ仔竜さんの魂が救われたのならよかったのかもしれませんね。



●最期は一瞬で
 恐怖を越えて奥に進んだフリルとアヒルさん。
 変わらぬ美しさと可憐さを湛えた花々が揺れる先には仔竜がいた。きゅうう、という可愛らしい鳴き声が聞こえたが、その奥底には恐怖が宿っている。
 フリルは立ち止まり、敵意を感じ取った。
 竜の体には花が寄生している。ただ操られているだけなら救うことも出来ただろうが、花は竜と一体化している。
「ふええ、この子達はもう助けられないんですね」
 フリルは尾を激しく揺らしている仔竜を見つめ、現状を悟った。根が竜の身の奥深くまで潜り込んでいるのが分かる。
 痛々しくも感じられる様相から、すべてが手遅れなのだと理解できた。
「きっとお洗濯の魔法でお花を落としてもダメなんですよね」
 フリルが確かめるように呟くと、頭の上に乗っているアヒルさんが同意するように首を縦に降る。ふぇ、と口にして少しだけ俯いたフリルだったが、すぐに顔を上げた。
 敵意を向けてはいても、仔竜の中には恐怖が残っている。
「近付いたら怖がらせてしまいますね」
 フリルはこれ以上の恐怖を与えないよう、適度な距離を保つことにした。
 おそらく仔竜はもう、喪失の恐怖だけではなく全部の事柄に怯えている。フリルにはそのことがよく解っていた。
 それならば、とフリルが考えたのは自分に出来ること。
 幸いにも仔竜はまだ此方には気付いていない。まずは気配を悟られぬように背の高い花の影に隠れる。それから仔竜との距離をはかり、大きな岩をサイコキネシスで持ち上げていき――そして、フリルは一気に勝負をつけにかかった。
「ごめんなさい、すぐに終わらせますから」
 後は大岩を上から落とすだけ。轟音と共に仔竜が違和の下敷きになり、きゅ、という断末魔が僅かに聞こえた。
 殆ど状況を理解することなく仔竜は葬られたはず。
 フリルは周囲にもう仔竜がいないことを確かめながら、大岩をじっと見つめた。
「けど、これでマグダレンさんに以前と同じ方法は使えなくなりましたね」
 複雑な気持ちはあるが相手はオブリビオンだ。
 仔竜も恐怖に縛られ続けることはなく、世界の破壊も止められる。フリルは先へと進むことを決め、マグダレンを探していく。
「オブリビオンさんとはいえ……きっと、仔竜さんの魂が救われました。それならよかったのかもしれませんね」
 フリルが零した言葉を聞き、アヒルさんは最初と同じように首を縦に振った。
 それが猟兵としてやるべきことだった。
 そのように肯定するが如く、アヒルさんはフリルの頭をぽんぽんと軽く叩く。そして、フリル達は更なる戦いを目指してゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

『猟兵さんお願いがあるんです』

【白竜の角笛】を取り出して構えます。私を守りつつ敵と戦ってください、勝手なことを言っているのは承知です。でも、負の感情に支配されたままの彼等をそのまま送りたくないんです。

親竜が子供を慰める時の音を再現します。せめて安らかに送ってあげたい。

ありがとうございます、はい、大丈夫です、ここからは私だけで大丈夫です、だからこれから来る他の方を手伝ってあげてください。

涙が止まらない、悲しい、できることなら今回の敵である竜人を倒したくない、だって、私も竜の平和を願う者だから。

アドリブ協力歓迎です。



●竜笛の葬送
 悲痛な鳴き声が耳に届く。
 言い知れぬ恐怖を宿していると同時に、その声には鋭い敵意が混ざっていた。
 なんて痛々しい。
 そのように感じたサフィリアは傍に立つ白鱗の竜人にそっと願った。
「猟兵さん、お願いがあるんです」
 何だ、というように彼が此方を見下ろす。その眼差しがとても優しいものだと感じながら、サフィリアは作戦を伝えていく。
 まずは白竜の角笛を取り出して構える。その上でサフィリアは彼に告げた。
「私を守りつつ敵と戦ってください」
『……』
 彼は無言だが、その雰囲気に否定の意志などは見えない。少しほっとしたサフィリアは、仔竜が此方に気付いたことを感じながら身構えた。
「勝手なことを言っているのは承知です。でも、負の感情に支配されたままの彼等をそのまま送りたくないんです」
 寄生された仔竜は倒すことでしか解放できない。
 それはつまり、死を与えること。かれらに根差しているのは寄生花だけではない。与えられた恐怖も消えないまま残っているようだ。それゆえに命と共に恐怖も消してやりたいとサフィリアは感じていた。
 すると竜人は、分かったと告げるように頷く。
 無茶でも勝手でもない。そのように言われた気がして、サフィリアの心に強い意思が巡っていく。そして、二人は仔竜を見つめた。
 サフィリア達を視認した竜は一気に駆けてくる。鋭い眼差しから感じる敵意は強いものだったが、その瞳の奥には悲しみが潜んでいるように思えた。
 竜人の彼が素早く前に立ち、飛び掛かってくる仔竜を迎え撃つ。
 その背の頼もしさを感じたサフィリアは自分の役目を全うすることを決めた。折角こうして彼が守ってくれているのだから、しくじったりは出来ない。
 横笛に口元を寄せ、サフィリアは音色を奏でる。
 白い竜の折れた角で作られた角笛からは竜が鳴くような音が響くものだ。サフィリアは親竜が子供を慰める時の音を再現して、静かに願っていく。
 安らかに葬送してあげたい。
 先に待っているのが死という終わりだとしても、せめて最期くらいは。
 鳴き声めいた音が響き渡った瞬間、凶暴になっていた仔竜の動きが鈍くなった。それまで襲い来る花竜の一閃を受け止めていた竜人の彼は、サフィリアに視線を送る。
 彼の凛とした紫色の瞳はこう語っていた。
 ――送るならば今だ、と。
 頷いたサフィリアは彼と共に竜槍を構えた。そして、二人は周囲の仔竜に終わりを与えるために槍を振るい、かれらを貫き穿つ。
 暫し後。
 二人の足元には何体もの仔竜の亡骸が転がっていた。
 骸の海に還るように消えていく仔竜を見送ったサフィリアは顔をあげる。
「ありがとうございます」
 サフィリアは震えを抑えた声で竜人に礼を告げた。
 対する彼は心配そうに此方を見遣る。どうやら大丈夫かと聞いているようだ。
「はい、大丈夫です、ここからは私だけで大丈夫です、だからこれから来る他の方を手伝ってあげてください」
 平気だと答えたサフィリアは彼にそっと背を向けた。その言葉を聞いた竜人はサフィリアの言う通りに踵を返していく。
 ありがとう、ともう一度言葉にしたサフィリア。その頬には涙が伝っていた。
 泣いているところを彼に見られたらもっと心配されてしまっただろうか。まだ泣いてはいけないと分かっていたが、それでも涙が止まらない。
 悲しい。それから、少し怖い。
 できることなら今回の首魁である竜人の彼女だって倒したくなどない。
 だって――。
「私も竜の平和を願う者だから」
 平穏な竜の国が実現するならば、それが一番だと思う。
 されどサフィリアは知っている。理想の国を作るという望みは、決して叶わない夢物語でしかないという、非情な現実を。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
その見た目も、鳴き声の響きも、所作も愛らしいが
…心は深く恐怖に囚われているのか
幼い身では辛いだろうに

君達とは相容れぬ以上
私は君達を討たねばならない
もう充分だろう、痛みや恐れは

言葉は届かないかもしれないが
語りかける声色は穏やかに
仔竜が襲いかかってこようとも気にせず
ランタンを掲げ仔竜に手を伸ばそう

【微睡の淵】
優しく、温もり伝わるようにそっと撫で
これ以上、恐怖に苦しまぬように
安らかに眠れるように
あるべきところへ

ああ、でもその花は連れてゆくな
君達には相応しくない
此処に置いていくといいさ

(触れた花の恐れが私を蝕もうとしても)
仔竜から花を取り除き
静かに、苦しみ少なく送ってあげよう

さぁ、もうおやすみ



●睡りに救いを
 花の香りが風に乗って流れてきた。
 その先を見遣れば、香りの元は仔竜の身体に纏わりついている花だと分かる。
 きゅ、という鳴き声がカスカの耳に届いた。その見た目も、鳴き声の響きも、駆けてくる所作すらも愛らしい。
 しかし、カスカには解っている。あの鳴き声が恐怖からくるものだということを。
「……心は深く恐怖に囚われているのか」
 恐ろしいと感じる心と鋭い敵意。
 負の感情だけに支配されている仔竜を見つめたカスカは、瞳を伏せた。
 相手はオブリビオンとはいえ未だ幼い身。恐怖だけを感じ、近付くものを攻撃するという状況は辛いだろうに。
 だが、カスカは手心を加えるつもりは微塵もない。
「きゅう!」
 仔竜が鳴く。意味はわからないが、鳴き声の可愛さに反して害意があることだけは理解できた。身構えたカスカはランタンを握る手に力を込める。
「君達とは相容れぬ以上、私は君達を討たねばならない」
 痛みと恐れ。
 そのようなものを宿し続けるのは、もう充分だろう。カスカは自分の言葉が決して仔竜に届かないことも解っていた。それでも、敵でしかない存在になったからといって無慈悲にはなれない。
 語りかける言葉は穏やかだ。そして、カスカは仔竜が飛び掛かってこようとも自分からは明確な攻撃を行わないでいた。
 未熟なブレスが浴びせかけられたが、即座に躱したカスカは仔竜に手を伸ばす。そのとき、掲げたランタンの灯が揺れた。
 魔導蒸気の霧が満ちていく中、カスカは噛みつかれることも覚悟で竜を撫でる。
 ただ優しく、温もりが伝わるように。
 これ以上は恐怖に苦しまぬように。どうか、安らかに眠れるように。
 かれらをあるべきところへ還すため、カスカは子守唄を紡ぎはじめた。耳に届く歌に反応した仔竜が尾をそうっと下げる。
 するとそれまで見えていた凶暴さが少しずつ収まっていった。
「優しい場所にお帰り。ああ、でもその花は連れてゆくな」
 仔竜を撫で続けるカスカは、その体に絡まった寄生花を払い除けた。花弁が散ったが、茎や竜の身に埋まった根までは取り払えない。
 それでも、花だけは摘み取ろうとしたカスカは更に手を伸ばした。
「これは君達には相応しくない」
「きゅ……」
「そう、じっとして。此処に置いていくといいさ」
 たとえ触れた花の恐れが自分を蝕もうとしても構わない。そのような強い思いで以て、カスカは仔竜から花を取り除き続けた。子守唄を再び歌い出したカスカは向ける眼差しに思いを籠める。
 ――静かに、苦しみ少なく送ってあげよう。
 力を封じられた仔竜はやがて眠るように目を閉じ、花園に倒れ伏した。淡い灯に照らされた仔竜は骸の海へと還っていく。
「さぁ、もうおやすみ」
 消えゆく竜を最後そっと撫でたカスカはその最期を見送った。
 穏やかな死は救いにもなる。そのことを声を大にして言いはしないが、此度の仔竜にとってはきっとそうだったはず。
 そうして、カスカは地に散った花を瞳に映す。
 散った花弁は強く吹き抜けた風に乗り、遥か天空へと舞い上がっていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

あ、竜がいるよ
ヨルみたいに鳴いている…可愛いな……痛い!
大丈夫、少し噛まれただけだよ
寂しそうな声で泣いているね
この子達は哀しみに呑まれてしまったんだね
私だってサヨが、リルがいなければ呑まれていたかもしれない

カグラ、防御結界をサヨとリルに
カラス…まだ子ペンギンか
偵察は難しそうだから、カグラを手伝って

私はあの子竜達を悲しみの厄から解放する
噫、いこうか
サヨ
苦しませないように、一刀のもと哀しみごと切断する
リルの歌はゾッとする程綺麗だね
舞うように斬るサヨに続いて、切り込んでいく
心は痛むけど、きっと救いに繋がると信じて

もう大丈夫だよ
あんなに怖かったのにそなた達はよく頑張ったよ
えらいね
ゆっくりおやすみ


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

カムイ、気をつけて!その子達は
あらもう。大丈夫?噛まれただけかしら
怪我はない?
リル、ヨルが近寄らないように見ててね

こわかったのね
かなしかったのね
抜け出せないくらいに
悲しみも恐怖も、全て屠り咲かせてあげる
美しい桜としてね

リルの歌は迷わず響く
鼓舞され駆ける
そうねカムイ、いくわよ
あの竜達の心を解放するために
守るために斬るのよ
優しい神様ね
カムイの心まで哀しみで満たさせないわ

浄化の斬撃を放ち、なぎ払い
苦しまぬよう一撃で仕留めていくわ
生命喰らい桜と代える神罰を吹雪かせて

私の桜にお成りなさい
『喰華』
せめて最期は怖くないように
リルの歌に合わせて桜を舞わせて春色に染める

ほら、もう怖くない
ゆっくりおやすみ


リル・ルリ
🐟迎櫻

櫻!カムイが竜に食べられてるよ!
ヨルも近寄るのはダメだ

気をつけて、この子達は恐怖で我を忘れてしまっているようだよ
怖いという気持ちに支配されてしまっている
何とか助け出したいのにな

恐怖や悲しみは心を支配する
だから
怖い気持ちも恐れも、何もかも
忘れてしまえば穏やかになれるのかな
受け止められないそれらは苦しみでしかない

歌うのは「忘却の歌」
辛いことを歌にとかして
花が齎す望まぬ悲しみを歌に散らせていくよ

優しく慈しむみたいに、恐怖をとかしていく

サヨ、カムイ
あの子達をかえしてあげよう
もうこれ以上この子達が怖がる必要なんて無いんだ

最期は、優しい子守唄でおくってあげる
もう怖くないよ
悲しくないよ

おやすみ、君よ



●浄華
 きゅ、きゅう。きゅうう。
 可愛らしい鳴き声が近くから聞こえたことでカムイは其方に歩を進めた。カグラが止めようとしたことにも気付かず、彼は嬉しげに双眸を細めた。
「あ、竜がいるよ。ヨルみたいに鳴いて可愛いな」
「きゅ!」
「カムイ、気をつけて! その子達は――」
 彼の手が仔竜に伸びたことに気が付いた櫻宵は、慌てて声をかける。だが、そのときにはもう竜がカムイの手に噛み付いていた。
「……痛い!」
「櫻! カムイが竜に食べられてるよ!」
「きゅう!?」
 リルが驚いて瞼を瞬く間に、たいへんだ、というように素早く駆けたヨルが仔竜をぺちんと叩く。それによってカムイの手が竜の口から離れ、事なきを得た。
「きゅー!」
「きゅきゅー!」
 よく似た鳴き声の仔竜と仔ペンギンの間に火花が飛び交っている。リルは次はヨルが噛まれてしまうと感じて、その身をすくいあげて抱いた。
「ヨルも近寄るのはダメだ」
「きゅ……」
 ちぇ、と頭を振るヨル。その間に櫻宵の元に下がったカムイは痛む手を軽く振った。彼の手元を覗き込んだ櫻宵は、大事がないことを確かめる。
「あらもう。大丈夫かしらカムイ。怪我はない?」
「平気だよ、少し噛まれただけだから」
「良かったわ。リル、ヨルが近寄らないように見ててね」
「大丈夫。ほら、ヨルは向こうだよ」
 カムイと並び立った櫻宵は、背にいるリルに願う。するとリルはカグラに抱っこされているヨルを示す。カグラ自らが守ると示して受け取ってくれたらしい。
 これならば安心だとして、カムイとリルは仔竜を見つめた。
 かれらはとても寂しそうな声で泣いている。
「気をつけて、この子達は恐怖で我を忘れてしまっているようだよ」
 リルの呼び掛けにカムイと櫻宵が頷いた。
 カグラに防御結界を張るように願い、まだ子ペンギン状態のカラスにその補助を願ったカムイは喰桜に手を掛ける。
「この子達は哀しみに呑まれてしまったんだね」
 何故だか、竜達の状態がよくわかった。
 遠い記憶の中でカムイも何かに呑み込まれつつあった。今はこうして凛と立っていられるが、もしも櫻宵やリルがいなければ呑まれていたかもしれない。
 同時に櫻宵が屠桜を抜く。
「こわかったのね。かなしかったのね。其処から抜け出せないくらいに」
 怖いという気持ちに支配されてしまっている仔竜達はもう元には戻らない。絡みついた花は根を張り巡らせ、完全に竜と一体化しているようだ。
「何とか助け出したいのに、もう遅いんだね」
 リルは俯きかけたが、それならば倒すしかないのだと思い直す。
「悲しみも恐怖も、全て屠り咲かせてあげる」
 そう、美しい桜として。
 そんな寄生の花よりも、と告げた櫻宵は地を蹴り上げた。それに合わせてカムイも刀を構えて駆け出していく。
「私達の役目はあの子達を悲しみの厄から解放することだね」
「そうねカムイ、いくわよ」
「噫、いこうか。サヨ、リル!」
 カムイの言葉に櫻宵が答え、両側から迫った二人は仔竜を挟撃する。その背後ではリルが花唇をひらき、忘却の歌を紡いでいった。
 恐怖や悲しみは心を支配する。
 だから、怖い気持ちも恐れも、何もかも忘れてしまえば穏やかになれる。失うことが怖いという状況だが、無理矢理に齎された恐怖など彼方に沈んでしまえばいい。
 受け止められないそれらは苦しみでしかない。
「こころ、白に塗り替えて――」
 リルは謳う。辛いことを歌にとかして、花が齎す望まぬ悲しみを歌に散らせていく。そうして優しく慈しむようにリルは仔竜の恐怖をとかしていった。
 リルの歌は迷わず響く。
 カグラとカラスの結界も、その腕の中にいるヨルの応援も櫻宵を鼓舞するものだ。振るう刃が竜の身や花の茎を斬り裂いていく。
 しかし、これは殺戮ではない。
 あの竜達の心を解放するために、守るために斬る。苦しませないように、一刀のもと哀しみごと斬り伏せるカムイは真剣だ。
 心は痛むけれど、きっと救いに繋がると信じて――。
(本当に、優しい神様ね)
 櫻宵は彼の心を思い、その胸裏まで哀しみで満たさせないと決意する。
 リルの歌を聞くカムイは、ぞっとする程に綺麗な歌だと感じていた。舞うように斬り込む櫻宵に続いて、カムイも一閃を見舞っていく。
 そして、櫻宵は浄化の斬撃で以て襲い来る仔竜を薙ぎ払った。
 カムイと同じように苦しまぬよう一撃で。相手の生命を喰らい、桜へと代える神罰が約束の地に巡っていく。
「私の桜にお成りなさい」
「サヨ、カムイ。あの子達をかえしてあげよう」
 せめて最期は怖くないように。
 もうこれ以上、この子達が怖がる必要なんてない。
 櫻宵はリルの歌に合わせて桜を舞わせ、周囲を淡く美しい春色に染めあげた。竜達はリルの歌によって恐怖や戸惑いを忘れかけているようだ。
 其処へカムイが斬り込み、最後の一体を真正面から貫いた。
「もう大丈夫だよ。あんなに怖かったのにそなた達はよく頑張ったよ」
 えらいね。よくやったよ。
 だから、もうゆっくりおやすみ。
 幼子をあやすように告げたカムイの言葉は、きっと仔竜に届いている。櫻宵もやさしく双眸を緩め、倒れた竜に手を伸ばした。
「ほら、もう怖くない。大丈夫、大丈夫よ」
 刃ではなく、掌で仔竜に触れた櫻宵はその瞼を閉じさせてやる。殺戮衝動の消えた櫻宵は少し変わった。そんな風に感じながら、リルは紡ぐ歌を優しい子守唄へと変えた。
 もう怖くないよ。悲しくないよ。
「――おやすみ、君よ」
 ルルリ、ララ、ルリリ。睡りと祈りを込めた歌が約束の地を満たした。
 桜花と歌声、送る想い。
 重なりあった三人の心はひとつ。こうして、彼らは哀しき竜の魂を浄化してゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
更に奥地へと進む
吹き抜ける風に乗り
可愛らしい鳴き声が届く

振り返って見れば
音の通りに愛らしい姿

それでも、
どこか痛ましく見えるのは
身体に巻き付く花や蔦の所為だろうか

ナイト、来いよ

相棒の名前を呼ぶ
オレには、こいつが居る
だから恐怖も乗り越えられた

だけど、目の前に居る仔竜は──

敵の気持ちを考えると
寂しさが胸に沸いてくる

オレの気持ちを察したのか
擦り寄ってきた竜の頭を一撫でし
戯れるよう、じゃれるように
向かってくる仔竜に視線を移す

オレと一緒に遊ぼうか

明るく笑って誘う
竜は槍へと変貌を遂げ
慣れた動作で構えて地を蹴った

屠りが救いになるのなら
全力で相手してやるよ

寂しさを感じないよう
抱いた恐怖を忘れて

──おやすみ、仔竜



●黒炎竜と哀しみの仔竜
 幾つもの鳴き声が聞こえてくる。
 その愛らしい響きを辿り、ルーファスは約束の地の奥へ進み続けた。
 吹き抜けていく風は穏やかだが、心做しか冷たいものに思える。耳に届く仔竜の声もまた、愛らしくとも悲痛な響きを孕んでいる気がした。
「きゅ!」
「そこに居るのか」
 花の影から気配を感じ取り、ルーファスは振り返る。見れば聞こえていた音の通りに愛らしい姿が其処にあった。
 しかし、ただ単に可愛いとは感じられない。その理由は仔竜達の身体に花や蔦が巻き付き、鱗の下にまで根が張っている様が見て取れたからだ。
 その様子が伝えてくるのは、かれらを助けることは出来ないということ。
 痛ましくて苦しげで、何よりも恐怖に怯えながらも敵意を宿している。ルーファスは寄生する花に目を向け、己の相棒を呼ぶ。
「ナイト、来いよ」
 その名を呼べば黒炎の竜がルーファスに寄り添った。
 仔竜達は未だに与えられた感情に身を蝕まれているが、ルーファスはそうではない。ナイトが傍にいる。
(オレには、こいつが居る)
 だから恐怖も乗り越えられたと己を律し、ルーファスは目の前の仔竜を見つめた。
 かれらは終わりのない怖れを抱いている。更には望まぬであろう戦いを強いられているのだと思うと、ルーファスの胸に寂しさのような感情が巡った。
 すると黒竜が擦り寄ってくる。
「ああ、ナイト。心配してくれたのか?」
 ルーファスが仔竜の気持ちを想像したように、ナイトも此方の気持ちを察してくれたらしい。先程に恐怖に囚われそうになったことでルーファスを案じているのだろう。
 ナイトの頭を一撫でして、視線で礼を告げた彼は身構えた。
 きゅう、という声と共に仔竜達が襲いかかってきたからだ。地を蹴り、ちいさな翼を羽撃かせた仔竜はルーファスを狙う。
 花が操るままに、一見は戯れるように。或いはじゃれるように爪が振るわれた。
 即座に仔竜に視線を移したルーファスは双眸を鋭く細める。
「オレと一緒に遊ぼうか」
 迫る竜爪。対するルーファスは口許を緩め、腕を伸ばす。
 刹那、傍に居たナイトが槍へと変じた。振り下ろされた小さな爪は竜槍によって防がれ、一気に弾かれる。ルーファスは地を踏み締め、体勢を崩した仔竜――否、オブリビオンへと反撃に転じた。
「怖いなら全力で向かって来い。そうだ、勇敢に戦えばいい」
 敢えて明るく笑って誘うルーファスは槍鋒を仔竜に差し向ける。そのまま慣れた動作で地面を蹴り、悲痛に鳴く仔竜へと一閃。
 その身に絡みついていた花や蔦が疾い一撃によって切り落とされていく。それでもやはり、竜の皮膚に潜り込んだ根までは払えない。
 更に振るい返された竜爪を受け止め、ルーファスは槍を握る手に力を込めた。
 屠りが救いになるのなら、自分も全ての力を出して相手をしてやるのみ。ルーファスは握る槍越しにナイトの意思を感じた。
 いつまでも一緒に。今も共に、という思いが伝わってくる。
「きゅうう!」
 対する仔竜は叫ぶように鳴いた。助けて、助けて、もういやだ。戦いたくない。怖い、恐いよ、と泣いているかのようだ。
 しかし、寄生花はかれらに戦えと命じるように蠢く。
「分かった。決着を付けてやるよ」
 ルーファスは竜槍を素早く回転させることで、浴びせかけられた竜の吐息を相殺しながらひといきに踏み込んだ。
「寂しさを感じないように、抱いた恐怖を忘れて眠れ」
 次の瞬間、振るわれた槍から顕現した黒炎竜の咆哮が約束の地に響き渡り、仔竜達は真正面から貫かれた。
 倒れゆくかれらを見下ろしたルーファスは自分なりの葬送の言葉を贈る。
「――おやすみ、仔竜」
 安らかに。
 やがて、散った花は強い風を受けて空へと舞い上がっていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
取り出すのは小さなハーモニカ。
ruutuを手に、使用するのはUC「tyyny」

アイツはアイツのやり方で竜を助けた。
なら、俺は俺のやり方で…恐怖から解放してやりたい。
大切な仲間を想い、かつての友を想い、…そしてお前達を想う。
手遅れなんだってわかってる。わかっているよ。

だが、最期は恐怖なんて忘れて思い切り、戯れてからそうして骸の海へ還しても良いだろう?
お前達に最後まで付き合うから、思い切りやり合おうぜ。
だから、せめて恐怖を幸せに塗り替えて。

そして、俺が、ミヌレが、ロワが、タイヴァスが、テュットとクーが、全力で迎え撃つ。


……次はお前だよ。マドレーヌ。
なぁ、何でお前は…

否。今、行くから待ってろ馬鹿野郎



●マドレーヌ
 ――幸せを願う。
 たとえ思いを言葉でうまく伝えられなくとも、この音色で。

 約束の地に木霊するのは哀しみと恐怖に満ちた仔竜の鳴き声。
 しかし、其処にハーモニカの音色が混ざりはじめた。それはユヴェンが奏でる獣奏器による穏やかな曲だ。
「きゅ?」
「きゅう……」
 花に寄生された仔竜達の耳にもユヴェンの演奏が届き、かれらに不思議な心地が宿されていった。安らぎと幸せ。そういったものに似た感情が恐怖を書き換えるように巡り、不安を打ち消していく。
 しかし、約束の花に宿された恐怖とて強いものだ。
 仔竜達は苦しみもがき、どうすべきなのか戸惑っているようだ。それでもユヴェンは演奏を止めず、己の力を廻らせ続けた。
(アイツはアイツのやり方で竜を助けた。なら、俺は俺のやり方で……)
 この竜達を恐怖から解放してやりたい。
 きっと槍榴鬼マグダレン――マドレーヌも、花に囚われた仔竜達をどうにかして救い、自分達の仲間に入れようと考えていたのだろう。
 竜だけを救い、竜のみを生かす。
 そのような志はオブリビオンとして歪んでしまっているのかもしれない。しかし、ユヴェンは彼女の本質自体は変わっていないと踏んでいた。
 マドレーヌの心の奥底には、大切な仲間を慈しむ気持ちが残っているはずだ。
 ユヴェンも仲間を想い、そして、かつての友を想う。
「……マドレーヌ」
 些か可愛らしすぎる名前こそが彼女の名。対峙すれば、その名で呼ぶなと睨まれてしまうだろうか。だが、それすらも今は懐かしい。
 ユヴェンとマドレーヌ。
 二人は以前、同じ国に仕える騎士だった。
 騎士の中では歳も近く、様々な理由から訓練や実地任務ではよく二人で組まされることが多かった。あの頃から彼女は竜以外の相手にはとことん無愛想で、ユヴェンと共によく子供のような口喧嘩をしていた。
 しかし、いつしか二人は同僚以上の存在――友人として互いを認めた。
 ユヴェンは今も友だと思いたいと願っているが、槍榴鬼としてのマグダレンはどうだろうか。ふと過ぎった思いが胸裏に沈む。
 ユヴェンはハーモニカをそっと下ろし、周囲の仔竜達に語りかけた。
「アイツだけじゃない。お前達のことも想っている」
 幸せと恐怖。安堵と不安。
 相反するものを抱えている仔竜はすぐには襲いかかってこないようだが、寄生花が根差している様子は痛々しい。
 最早、倒すことでしか救えない。手遅れだ。
(わかってる。わかっているよ)
 マドレーヌはどのようにかれらを救う手立てを考えていたのだろうか。倒すのか、オブリビオンの力を使うのか。
 されど猟兵達は屠ることしか救済の方法を見出せていない。
 それゆえにユヴェンは更に演奏を続けた。最期くらいは偽りの恐怖などを忘れ、安らかに眠りについて欲しい。
「来い、思いきり戯れてから還ろう」
 そうして骸の海へ戻ってもいいはずだ。ユヴェンは出来得る限り、この音色を響かせ続けようと決めている。
「お前達に最後まで付き合うから、やり合おうぜ」
 ――だから、せめて恐怖を幸せに塗り替えて。
 花の支配を受けた仔竜は苦しみ、戸惑いながらも駆けてきた。不安定な心のままではあるが、じゃれついて戯れるように爪を振りあげる。
 その瞬間、ミヌレとロワが仔竜達を迎え撃った。空からはタイヴァスが、防御にはテュットが回り、クーがミヌレ達の補助に入る。
 約束の地で攻防が巡る。
 これはただ破壊を尽くし、蹂躙するための力ではない。せめてもの救いを与えるための大切な思いが宿った戦いだ。
 響き渡っていくハーモニカの優しい音色。
 竜の爪や牙、獅子の一閃。鋭い滑空と包み込むような閃き、懸命に揺れる尾。戦い続ける相棒達の中でも、特にミヌレが果敢に立ち回っていた。
 もう恐怖は乗り越えた。
 後は彼女に――ミヌレの元の主人であるマドレーヌに会うだけ。
「ミヌレ、恐いか?」
 戦いの最中、ユヴェンは相棒竜に問いかけた。尾が少しだけ震えていたが、ミヌレは大丈夫だと示すようにユヴェンに視線を向け返す。
 これまで、魔法や罠による幻想や偽物のマドレーヌには会ってきた。しかし今、あと少しで本物の彼女に逢えるのだ。
 頑張るしかない、といった意思を見せたミヌレの瞳の奥には決意が宿っていた。
 対峙すればどうなるのか。
 その先を考えないわけではないが、心に決めたこともある。仲間と共に哀しき仔竜を屠り、骸の海へと還していくユヴェンは前を見据えた。
「……次はお前だよ。マドレーヌ」
 寄生する花を散らし、倒れた仔竜達は消えゆく。かれらを見送った彼は気を引き締めると同時に、浮かんだ疑問を言葉にしかけた。
「なぁ、何でお前は……」
 されど、その思いが最後まで紡がれることはなかった。
 否、と自分を律したユヴェンはミヌレ達を呼んだ。ロワやテュット、タイヴァスとクーも些か緊張しているようだ。
 漸くだ。間もなく彼女と対面することが出来る。
「今、行くから待ってろ」
 馬鹿野郎、と言葉にしたユヴェンの声には確かな思いが宿っていた。
 
 そして――彼らは約束の地の最果てを目指していく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『槍榴鬼マグダレン』

POW   :    Coquelicot
戦闘用の、自身と同じ強さの【白鱗の氷雪竜「フィナンシェ」】と【黒鱗の極炎竜「カヌレ」】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    Pivoine rouge
【敵味方関係なく、戦場のドラゴンへ攻撃】を向けた対象に、【触れるだけで鉄を溶かす極熱の黒槍】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    Grenadier
全身を【漆黒の竜鱗】で覆い、自身が敵から受けた【望まぬ言葉や攻撃による負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はユヴェン・ポシェットです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●人と竜
 剣と魔法と竜の世界。
 嘗ての勇者達が帝竜や数多の竜と戦った伝説があるように、ドラゴンとは往々にして悪しきものであり、勇者や冒険者によって倒される存在だ。
 洞窟の奥で金銀財宝を独り占めする黒き竜。
 火山に巣食い、訪れた人を喰らうという炎の竜。
 水域に棲み、洪水を起こして街を滅ぼす水の竜など。
 この世界には数多のドラゴンに纏わる冒険譚や討伐の話がある。竜とは危険なものであり、人との共存は出来ない。
 それゆえにたとえ幼い竜であっても、脅威となる前に殺されることが多かった。
 少なくとも、彼女が生きていた場所では。

 ――やめろ、殺すな!
 ――そいつは違う。優しい竜なんだ! やめろ……!

「……あの時の記憶か」
 約束の地の最果てにて、竜騎士マグダレンは顔をあげた。
 うたた寝をしていた中で不意に巡ったのは、最初にこの地に訪れた時分に齎された恐怖の記憶だ。罪なき竜や、未だ生後間もない幼竜が人々によって殺されたときの喪失感が身を苛んだのだった。
 しかし、マグダレンは既に約束の花の恐怖を乗り越えている。竜が害されない国を作るために立ち上がった意思は揺らがない。
 そのとき、彼女は猟兵達の気配を察する。
「招かれざる客が来たな」
 マグダレンは手にした槍を握り、自分達の拠点に近付く気配に意識を向けた。
 
●竜槍と願い
 恐怖を払い、花を踏み越え、哀しき仔竜達を還した後。
 猟兵達が辿り着いたのは花に囲まれた野営地のような場所だ。
 炎が消えた焚き火の跡。柔らかな草で作られた竜用の寝床があり、其処では恐怖に囚われなかったらしい仔竜達がすやすやと眠っていた。
 未だ国とは呼べないが、其処には竜が穏やかに暮らせる場所のように思える。
 だが、平穏は或る一声によって破られた。

「其処から誰も、一歩たりとも通すな。フィナンシェ、カヌレ!」
 凛と響いた声と同時に、氷雪竜と極炎竜が大きな翼を広げて舞い降りてくる。敵意を宿した眼差しを向けたドラゴン達が、瞬く間に猟兵達の前に立ち塞がった。
 その物音に驚いた仔竜達が目を覚ます。
 おろおろするもの、小さく唸るもの、震えて怯えるもの。
 様々な反応をする仔竜達を守るようにして槍を構え、布陣したのは――先程の声の主、槍榴鬼マグダレンだ。
「お前達を驚かせてしまったか。敵襲だ。しかし、お前達は戦わずとも……」
 下がっていろと告げようとした彼女だったが、敵襲と聞いた仔竜達がそれぞれに立ち上がり、マグダレンの横で戦闘態勢を取った。
「そうか、一緒に戦ってくれるのか」
 静かに微笑んだマグダレンは仔竜達と共に身構える。
 彼女が猟兵達を睨み付けたときには、それまでの穏やかな表情は消えており、鋭く厳しいものへと変わっていた。

「其方が訪れた理由は分かっているが、一応は問おうか。……何の用だ」
 マグダレンは問いかけながら、全身に力を巡らせる。
 すると、それまで何もなかった髪の間からは竜の角、背には黒く鋭い翼と竜の尾が現れた。おそらく竜人としての力を解放したのだろう。
 猟兵達はオブリビオンを屠りに来たと答えるしかない。
 やはりか、と答えたマグダレンは手にしている竜槍の鋒を向けた。
「私と貴様達は相容れない。戦うしかないことは理解できている。御託を並べあうよりはやりやすいだろう?」
 此の地に踏み入り、自分達の邪魔をするなら戦うのみ。
 説得などは聞く気はない。何より、竜を害する者――先程に寄生仔竜を傷つけて倒してきた猟兵には容赦などしない。
 彼女の強い眼差しはそのように告げていた。マグダレンの意思に呼応するように、立ち塞がっている氷雪竜と極炎竜が吼える。
 その背後では十数匹の仔竜が尾を立てて威嚇していた。
「勝った方が正義だ。私は竜が虐げられない世界を作る。そのために戦う」
 槍榴鬼マグダレンは宣言する。
 彼女が掲げた漆黒の竜槍が天空からの光を受けて鈍く輝いた。勝者こそが正しきものであり、未来に生きる権利があるのだと語るように――。

 竜を護る騎士たるマグダレン、氷雪竜と極炎竜。更には仔竜達。
 相手の数は多いが、この戦いは真っ向からの力競べとしての勝負となるだろう。
 そして、正義を勝ち取るための戦い幕があがる。
 
ジュテム・ルナール
正義と信じ、愚直にも理を聞かず、その果てにある終局から目を背けるか…哀しき竜よ。
ならばそなたの業、我が祓ってみせようぞ!

【多重詠唱・高速詠唱】を用いて【竜言語魔法《幻影刃》】と竜宝具の【空中浮遊】盾への変身を同時展開、飛翔突撃の【空中戦】を行い、【盾受け】の守りで竜らの攻勢を防ぎながら不可視の刃を用いて雪竜と炎竜を【薙ぎ払い】マグダレン本人を斬り裂く。

そなたが作り出すは一時の安寧に過ぎぬ、滅びへと向かっている事がなぜ分からぬか!

言葉は無意味、されど問わずにはいられない。
彼女も我も、根にある思いは同じなのだから。

我は戦うぞ、もう1人生きる事はせぬ…守るべき者達の為に戦うのだ!

アドリブ歓迎である



●竜の力
 正義とは。悪とは。
 その概念や定義の答えを出すには、永遠に近い時があっても容易ではない。
 何を正しい、間違いだとするのかは時代でも違い、国の在り方や、個人の価値観によって百八十度も変わる場合がある。
「正義と信じ、愚直にも理を聞かず、その果てにある終局から目を背けるか……」
 ジュテムはマグダレンを見据えた。
 例えば竜を倒すことも、その地域に住んでいる人々の正義だっただろう。竜側に立つならば人間が悪であり、自分が正義とされる。
 世界は不安定だ。
 永きを生きたジュテムは自ずとそのことを理解していた。竜の国を作るという理想は叶えられやしないということも、最初から解っている。
 対する槍榴鬼マグダレンは槍を掲げ、二体の竜を解き放った。
「フィナンシェ! カヌレ!」
 その名を呼ばれた氷雪竜と極炎竜は羽撃き、ジュテム達に襲いかかってくる。構えたジュテムは竜達が吐く氷と炎のブレスを受け止めた。
 この程度なら耐えられると察した彼は、少し後方に下がったマグダレンに呼びかける。
「哀しき竜よ」
「お前も竜人か。だが、同族とて容赦はしない」
「ならばそなたの業、我が祓ってみせようぞ!」
「ふん、出来るものか」
 マグダレンはジュテムの言葉を一蹴する。しかし彼は不敵に双眸を細めてみせた。
「どうかな。やってみなければ分からぬだろう?」
 次の瞬間、ジュテムは鋭さを感じさせる詠唱を紡いでいく。
 竜言語魔法、幻影刃。
 ――微塵に斬り裂け、ファンタズム・ブレイド。
 ジュテムの魔力が膨れ上がったかと思うと、虚空より現れた不可視の刃が顕現していく。されどそれは一度だけではなく、十重二十重にも繋げられていった。
 刃は氷雪竜と極炎竜を斬り裂く。
 その間にジュテムは竜宝具に宿る浮遊魔力を発動させ、同時に盾への変化させた。
 展開した盾で反撃のブレスを受けた彼は、上空へと飛翔する。その動きに氷雪竜と極炎竜は付いて来れず、マグダレンまでの射線が見出だせた。
 ジュテムは不可視の刃を用いることで追い縋ってくる竜達を薙ぎ払い、一気に槍榴鬼本人へと迫っていく。
「く……やるな、お前」
 黒槍で頭上から降る刃を受けたマグダレンは唇を噛み締めた。対するジュテムは頭を振り、冷静な一言を彼女に向ける。
「そなたが作り出すは一時の安寧に過ぎぬ」
「安寧を求めて何が悪い」
「言っただろう、一時でしかないと。滅びへと向かっている事がなぜ分からぬか!」
「私の邪魔を……するなッ!」
 刹那、マグダレンは大きく槍を振るうことでジュテムを遠ざけた。
 言葉は無意味だと解っていた。それでも、問わずにはいられない。きっと彼女も自分も、根にある思いは同じなのだから――。
 ジュテムはマグダレンとの距離を計り、いつでも更なる詠唱を紡げるよう身構えた。
 理想を突き崩すことは心が痛む。
 されど、もう決めたのだ。決して揺らぎはしない、と。
「我は戦うぞ、もう一人きりで生きる事はせぬ……守るべき者達の為に戦うのだ!」
 失くしたくない記憶。
 喪いたくない人達との絆。
 その思いを胸に懐き、ジュテムは此処から先に巡る攻防への意思を固めた。
 そして、戦いは続いていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

大事な存在が害されない
おだやかに暮らしていける国
そんな所があればどんなに良いかって
ルーシーも思うわ

ルーシーはね
ここに居る竜さんたちの気持ち
少し分かる気がするの
このコたちも騎士さんの事が大切なのよ
だから傍に居る
そこが戦場であっても
守られるだけは、イヤだものね
ルーシーも、そうだから

でもあなた達はもう人間の敵
……いえ、
パパを害するかもしれないひとだから
わたしが戦う理由は十分
ええ、ええ
行きましょう、パパ

青花を舞わせ
鎧のような鱗を穿つ
僅かな隙間でも作れれば麻痺の力を届けましょう
闇からの手が捕まえやすいように
ありがとう
パパも気を付けて

説得はしないわ
正義も知らない
ただ存分に互いの大切をぶつけましょう


朧・ユェー
【月光】

竜を死なせない、竜の為の国
それは彼女の理想なのだろうね
それはとても素敵でそんな所が出来ればと
ルーシーちゃんも想うかい?

でも、その理想が歪みかけている
君は竜を大切と言いながらこの子達を戦いの場に
そして全ての人間をこの子を傷つけるというならば戦わないといけないね
行こうか、ルーシーちゃん

紅炎蒼氷演舞で氷雪竜と極炎竜の攻撃を防御しつつ攻撃する

ルーシーちゃん気をつけて

獄導
相手の悲しみや怒りの感情で
闇へと導く

戦いは避けれない、けれど
どうか、間違った道へと歩まないようにと



●譲れない存在
 大事な存在が害されない場所。
 彼女――槍榴鬼マグダレンにとっての竜は、自分にとっての大切な人と同じ存在。
 竜を死なせない、竜の為の国。愛するものが穏やかに暮らしていける国。そんな所があればどんなに良いかと、ルーシーは思う。
 掲げた志が叶えば良い。
 どの竜も人も悲しみを負わない世界があればいい。
 竜騎士の思いが素直に実現されたならば、どれだけ良かっただろう。だが――。
「それは彼女の理想だけの話なのだろうね」
「えぇ、そうねパパ」
「とても素敵で、そんな所が出来ればと僕も思うよ。ルーシーちゃんも想うかい?」
「……うん」
 そっと問いかけたユェーも、幼い仕草で頷いたルーシーも知っている。
 槍榴鬼マグダレンの意思は叶えてやることも応援することも不可能だ。此処に集った仔竜の思いだって摘み取ることしか出来ない。
 少女は前を見据え、他の猟兵と戦うマグダレンを片眼に映す。
「ルーシーはね、ここに居る竜さんたちの気持ちが少し分かる気がするの」
「仔竜やあの竜達の?」
「そう、このコたちも騎士さんの事が大切なのよ」
 だから傍に居る。
 怖くても怯えていても、彼女の力になりたい。たとえ其処が戦場であっても。
「守られるだけは、イヤだものね」
 ルーシーも、そうだから。
 そのように語ったルーシーはユェーを見上げた。そうだね、と答えた彼もまた槍榴鬼マグダレンを真っ直ぐに見つめている。
「きっと理想が歪みかけているんだね」
 最初は竜の国を作るという言葉通りの崇高な志として事が行われるのだろう。だが、彼女も傍にいる竜達もオブリビオン――過去の存在だ。
 今を侵食して未来を喰らう悪の竜になる結末は視えている。
「でも、あなた達はもう人間の敵」
 少女がマグダレンに語りかけると、向こうが此方の気配に気が付いた。ユェーはルーシーを庇う形で一歩を踏み出す。
「君は竜を大切と言いながら、この子達を戦いの場に出した」
 ユェーは敵を非難するが、マグダレンは首を横に振る。仔竜達も違う違うというようにきゅーきゅーと騒いでいた。
「いいや、これはこの子達の意志だ」
 マグダレンとて本当は仔竜達に下がっていて貰いたいらしい。だが、誇り高き竜として戦いたいという望みを無下にすることこそ失礼だ。告げられた言葉は短かったが、そういった思いがマグダレンから感じられた。
「……成程、そうですか」
「やっぱりこのコ達は、そんな思いを抱いているのね」
 ユェーが頷く最中、ルーシーは自分の感じた仔竜の意思が合っていたと悟る。されど二人はこの戦いから退く気はなかった。
「でも、いつか全ての人間や、この子を傷つけるというならば戦わないといけないね」
 身構えたユェーは獄導の力を紡いでいく。
 対するマグダレンは全身を漆黒の竜鱗で覆い、氷雪竜と極炎竜達に呼び掛けた。
「最初からそうやって問答無用で掛かってくればいいものを。行くぞ、皆」
 彼女は竜達に突撃を願い、ユェーに槍を向ける。確りと敵を見据えたユェーは傍らの少女を気に掛けながら迎撃の体勢を取った。
「行こうか、ルーシーちゃん」
「ええ、ええ。行きましょう、パパ」
 複雑な気持ちはあれど、彼女はユェーを害するかもしれないひとだから。
 ルーシーが戦う理由はそれで十分。
 彼が紅炎蒼氷演舞で氷雪竜と極炎竜の攻撃を防御しつつ反撃に入る中、ルーシーは周囲に青花を舞わせた。
 少女の狙いはマグダレンが纏う鎧のような鱗を穿つこと。
 僅かな隙間でも作れればいい。一瞬の隙を突いて麻痺の力を届けていくだけだ。ユェーが操る闇からの手が捕まえやすいように、と遣わせた花が舞い散る。
「ルーシーちゃん気をつけて」
「ありがとう。パパも気を付けて」
 ユェーとルーシーは互いを案じつつ、巡る攻防に集中していった。
 獄導の力は相手の悲しみや怒りの感情で闇へと導くもの。この力で倒すことでどうか、間違った道へと歩まないように、と願うユェーは真剣だ。
 隣に立つルーシーもまた、己の力を揮っていた。
 説得はしない。
 彼女が語った正義というものも知らない。きっとそれは自分達の間で雌雄を決することではないから、或る意味でどうだっていいとすら言えることだ。
「ただ存分に互いの大切をぶつけましょう」
「良いだろう」
 ルーシーの凛とした言葉にマグダレンが頷き、双方の力が衝突していった。
 闇への導き。
 そして、世界を青に染めあげる妖精花の舞。
 竜鬼と化した騎士と猟兵との戦いは、此処から更に続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

俺にとって龍とは竜神水神さんで、月読さんと同じぐらい身近な存在だから悪しき物とされるのがわからない。
だけど今は。少しでも彼の助けになれば。

伽羅と陸奥を呼び出し二体の竜の相手をしてもらう。
体躯は大きくなくとも力は十分。でも倒す事より目を惹く優先、攻撃は回避専念で。
少なくとも能力が相殺しあう相手より、水雷の伽羅と風土の陸奥のコンビは悪くないはずだ。
同時に俺は存在感を消しマグダレンに接近、マヒを乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。確実に当て少しでも伽羅と陸奥の負担が減るように。
基本敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものはオーラ防御、火炎氷結激痛耐性で耐える。



●未来のために
 竜の聲が約束の地に響き渡った。
 その咆哮の主は白鱗の氷雪竜と黒鱗の極炎竜。フィナンシェとカヌレと呼ばれた彼らは威圧感と共に、去れ、という意思を発している。
 同時に感じられたのは、彼女――マグダレンを傷付けるなという思い。竜達の言葉は分からないが、瑞樹はそのように察していた。
「俺にとって龍とは竜神水神さんで、月読さんと同じぐらい身近な存在だからな」
 瑞樹には別段、竜が悪いものとは思えないでいる。
 しかし、此処はアックス&ウィザーズ。
 伝説に帝竜ヴァルギリオスの跋扈が残り、以前の戦争にて様々なドラゴンが敵として立ち塞がった以上、善として認めることも出来ない。
「お前達まで悪しき物とされるのがわからないが……この世界ではそうなんだろう」
 瑞樹が頭を振ると、炎竜と雪竜が滑空してきた。
 来る、と感じた瑞樹は右手の胡と左手に構えた黒鵺をしかと構える。
 槍榴鬼マグダレンも今やオブリビオン。
 彼女や連れる竜に何があったのかは、今の瑞樹には分からない。想像できるのは、悲しく苦しいことがあっただろうことだけだ。
 本当は竜の国を興す理由を問い、その答えを聞きたくもある。されど相手が答えてくれないことも理解できた。
 ――だから今は。少しでも彼の助けになれば。
 自分が何かの一助になれればいいと考え、瑞樹は自分に付き従ってくれる二体を傍に呼び出した。
「伽羅、陸奥。あの竜達の相手を頼む」
 水神の竜は伽羅。額に宿る青が印象的な黒いサーペントだ。
 白虎は陸奥。風を纏った精霊の仔は、瑞樹の声を聞いて地に爪を立てた。
 二体とも、対する竜と比べて体躯は大きくなくとも力は十分にある。しかし、倒すことより目を引くことを優先して欲しいと瑞樹は告げた。
 少なくとも能力を相殺しあう相手より、水雷の伽羅と風土の陸奥のコンビは悪くないはずだ。すると白の氷雪竜には白虎が、黒の極炎竜には水神の竜が向かい、瑞樹の助けになるべく行動を始めた。
 迫りくる竜の攻撃を二体が躱し、引き付けていく中で瑞樹はマグダレンに目を向ける。
(……あと少し)
 マグダレンの相手をしている猟兵とは別の方向に行き、瑞樹は存在感を消す。
 敵に視認されず、会話も出来ないがこれでいい。
 握る刃に麻痺の力を乗せた瑞樹はマグダレンに一気に接近した。一閃を与えればこれ以上は隠れることは出来ないだろうが、この一撃に全てを賭ける。
 ――剣刃一閃。
 振り上げた胡で以て一撃。しかしマグダレンはその気配を察して身を捩った。しかし、瑞樹には左手の黒鵺がある。
 振り下ろした二撃目は確実に当て、瑞樹は即座に後ろに下がる。それは少しでも伽羅と陸奥の負担が減るようにとの一撃だ。
「……っ!」
 マグダレンが麻痺の力を受け、僅かによろめいた。
 相手も対抗しようとしているため完全に動きを止められたわけではない。それでも瑞樹には解った。
 この一閃が、戦局を左右する確かな一手となっていくことを――。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

朽守・カスカ
別に、私は正義ではないさ

安寧の地を求めることは悪ではない
それを求めた結果がどうしても相容れないだけ
そして、それを見過ごせば
いずれは悲しみが世界を覆うことになる

此処は君達の安寧の地ではない
標を灯そう
還るべき先を示す標を

ただ、標を灯したとて
納得するつもりもないだろう?
全力で相対して、その果てに届かなくとも
納得はしないだろう?

竜の守護者よ
互いの役目を果たそうか

【還す標】
眩くとも、柔らかな温もりを齎す光を灯そう
もう、痛みも苦しみも怯えもないように
手向けと弔いになるように
この灯は仲間達と共に在るべきところを示す標だ

竜の守護者よ
君が手を引き光の示す先へ
導いてくれない、か
その役目を君に任せたい

勝手な願い、さ



●導くものは
 ――どちらが正義か。
 マグダレンと呼ばれる竜人は、自分達と猟兵と示してそう語った。
 しかし、カスカは悪だ正義だという雌雄を決する心算はない。何が悪くて何が良いのかなど、個人の価値観で判断されるものだからだ。
 それゆえにカスカは首を横に振り、マグダレンへと己の思いを告げた。
「別に、私は正義ではないさ」
「お前がそれを重要視していないなら、それで構わない」
 その声を聞いたマグダレンは頷いたが、戦う理由は消えていないと返す。カスカもそれに同意しながら身構える。
 先程、猟兵達は恐怖に堕ちた仔竜を骸の海に送ってきた。
 マグダレン達から見ると此方は竜を傷つけた者だ。極熱の黒槍を振り被った相手がカスカを狙い、ひといきに投擲する。
「安寧の地を求めることは悪ではないよ」
 カスカは軌道を見極め、地を蹴ることで直撃を避けた。
 互いに相容れないのは求めた結果が違うからだ。そして、それを猟兵たる自分達が見過ごせば、いずれは悲しみが世界を覆うことになると解っている。
 本当に竜の国が平穏に築かれれば良い。
 叶うならば、叶えさせてやりたいとも思えるが不可能だ。
「此処は君達の安寧の地ではないんだ」
 言葉だけを聞くならば無慈悲ではある。されど、此処で止めておかなければ更なる苦しみが彼女や仔竜を襲うことになる。
 安寧を求める先で殺戮が起こっていく。
 一方的な蹂躙にはならないだろう。人間とてドラゴンに対抗し、多くのものが戦って死ぬ。そんな未来しか訪れない。
 だから、と言葉にして顔をあげたカスカは戦う意志を固めている。
「標を灯そう」
 ――還るべき先を示す標を。
 カスカがランタンの灯を翳すと、閃光が幾重にも瞬いた。マグダレンは槍を構えて光の軌跡を受け止めようとしたが、全てを躱すことは出来ないでいる。
 その隙にカスカは上空を飛ぶ二体のドラゴンや、マグダレンの周囲にいる仔竜達にも光の標を解き放っていった。
「ただ、標を灯したとて納得するつもりもないだろう?」
「……ああ」
「全力で相対して、その果てに届かなくとも、納得はしないだろう?」
「そうかも、しれないな」
 カスカや他の猟兵の力によって仔竜が倒れていく。マグダレンは唇を噛み締めながら彼らの死を悼み、確かな反撃の機を窺った。
 どちらも譲れないものがある。
 言葉だけではもう解り合えず、戦いで決着を付けるしかない。
「竜の守護者よ、互いの役目を果たそうか」
「――望む所だ」
 マグダレンがカスカへと再び黒槍を向ける。今度は投擲ではなく、直接の一閃を叩き込みに来る心算のようだ。
 カスカは還す標を掲げ、その狙いを眩ませようと試みる。
 眩くとも、柔らかな温もりを。
 齎す光を灯して葬送の為の準備をしよう。もう、痛みも苦しみも怯えもないように。これが手向けと弔いになるように。
 この灯は仲間達と共に在るべきところを示す標だから。
「竜の守護者よ」
「何だ、燈火の導き手よ」
 互いを見据えた二人の視線が光の中で交錯する。カスカは迫りくる槍が己の身を貫くと知りながら、真っ直ぐな眼差しを返し続けた。
 刹那、眩い光を穿つようにして極熱の槍が突き放たれる。
 灼ける衝撃を感じつつもカスカは地を踏み締め、先程の言葉の続きを紡いだ。
「君が手を引き、光の示す先へ導いてくれない、か……」
 あの仔竜達を。
 その役目を君に任せたいと告げたカスカの瞳は真剣だ。対するマグダレンは無言のままで鋭い視線をカスカに差し向けていた。
「…………」
「答えなくていい。勝手な願い、さ」
 するとマグダレンは強く地面を蹴りあげ、自分が連れていた氷雪竜と極炎竜の元へ跳躍する。痛みの熱を確かめたカスカも体勢を整えた。
 戦いは未だ巡っていく。
 現状の形勢は猟兵の有利。勝利はほぼ確定していると言える。
 仔竜も、そしていずれは二体の竜やマグダレンも地に伏すことになるだろう。しかし、ただそれだけにはしたくない。
 カスカは最後の最期まで自分も戦い続けると心に決め、その行く末を見据えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
勝ったほうが正義。
正論だね。
私には君のその言葉を覆す事など出来ない。
言葉で分かり合えないのなら、刃を交えるしかない。

私は戦う事が苦手でね。
君の槍を避ける事も困難かもしれない。

しかし、だね。
情念の獣たちはそうではないのだよ。
苦しみの果てに破れてしまった獣の意思もあるかもしれないね。

竜も君も、あまり傷付けたくは無いのだよ。
生半可な気持ちかもしれない。
それでも、今の私には君たち全員が納得の行く方法を、最善の策を取る事ができない。

狙うのは竜を操る本人。
竜の召喚を直ちに解除したい。
なるべく本人を狙う。

嗚呼。このような戦に意味はあるのだろうか。



●相容れない意志
 争いの歴史。
 それは人も獣も、植物であっても積み重ねてきたものだ。
 人間は戦争を行い、獣は縄張りや生存競争を。草花は環境に適応できなかったものから淘汰されて滅んでいく。
 生き残ることが勝利。即ち、勝ったほうが正義。
「正論だね」
 英はマグダレンが語ったことを否定しなかった。本当ならば良し悪しなど測れるものではないのだが、言葉で表すならばまさにそう。
「私には君のその言葉を覆す事など出来ないよ」
 そして、互いの言葉と意思を交わしても到底は分かり合えないであろうことを、英はよく知っている。それならばやはり簡単だ。
 言葉で解決が出来ないならば、刃を交えるしかない。
 されど、英は軽く首を振る。
「私は戦う事が苦手でね。君の槍を避ける事も困難かもしれない」
「怖気付いたのか?」
 英が落とした声に気付き、マグダレンは槍の鋒を此方に向けた。だが、先程の言葉とは裏腹に英は怯んでなどいない。
「しかし、だね」
「戦う術は持っているということか」
 著書をひらいた英の周囲に情念の獣が現れ始める。警戒を抱いたマグダレンはすぐには打って来ず、周囲の竜達に気を付けるよう伝えていった。
「嗚呼、この獣たちはそうではないのだよ」
 かれらが抱く情念は様々。
 苦しみの果てに破れてしまった獣の意思もあるかもしれないのだと告げた英は、片手で書の頁を捲った。
 刹那、獣の指先がマグダレンに差し向けられる。
「――フィナンシェ! カヌレ!」
 白鱗の氷雪竜と、黒鱗の極炎竜を呼んだ騎士は素早く後方に跳んだ。今しがたまで彼女が居た箇所に獣の指が振り下ろされる。
 流石は騎士。良い反応だという感想を抱いた英は己の力を獣に注いでいく。
「竜も君も、あまり傷付けたくは無いのだよ」
「……どの口がそれを言う」
「裏腹であべこべだね。君にとって、私の意思は生半可な気持ちに思えるかもしれない」
 それでも、と英は攻撃を続ける。
 対する竜達は情念の獣をマグダレンに近付けまいと向かってきた。二体の竜だけではなく、愛らしい仔竜達までもが獣に対抗している。
「今の私には君たち全員が納得の行く方法を、最善の策を取る事ができないのだよ」
 その言葉はマグダレンだけではなく、竜達にも向けられていた。
 きゅう、という声が戦場に響く。
 獣に太刀打ち出来なかった仔竜が地に伏していった。これではどちらが悪役か分からないな、なんて自嘲を抱きながら、英は獣達を迸らせる。
 仔竜が倒れたことによって、マグダレンへの射線が一瞬だけひらいた。
 狙うのは彼女本人。
 竜の召喚を直ちに解除したいが、フィナンシェもカヌレも英に負けじと対抗してくる。
「どうやら、そう簡単にはさせてくれないようだね」
「私達も存亡を賭けているのでな」
 英とマグダレンの視線が重なり、双方の距離がひらいた。されど猟兵達の猛攻によって徐々に槍榴鬼達が押され始めている。
 其処へ解き放たれた情念の獣達は、戦いを終わらせるために指先を振るった。
 ――嗚呼。このような戦に意味はあるのだろうか。
 答えの出ない思いが、英の中に巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻

竜は人を屠り破壊するものと定義されているなら
人は竜を殺し己を守る
人喰いは人の世には受け入れられない
竜殺しが竜の世に受け入れられないように
守りたいものがあるが故にそのエゴとエゴのぶつかり合う

私は私の守りたい存在を守るために戦う
守護龍だもの

大きな立派な竜ね
あなたを信ずる意志を感じる

龍華
変ずるは完全な桜龍
炎と氷雪たる竜からリルとカムイを守る為
私が盾になる
かぁいい子龍達まで屠るのは心が痛むけどここは戦場

させないわ
神と人魚を庇い桜化の神罰纏い思い切り薙ぎ払い、生命喰らい咲かせる衝撃波と桜嵐を吹雪かせて

爪と牙で引き裂いて二人には寄らせない

竜の国
いつかどこかで叶うといいわね

人と竜共に暮らせる理想郷が


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

私も龍はいっとうに好きだよ
特別な生き物だ―大切な

吹き荒れる桜吹雪
桜龍の櫻宵を撫で
噫そうだね
リル
私達の龍を守ろう

リルは歌で
私は刀で

サヨを見上げるカグラは懐かしそう
カラス(子ペンギン)はやる気だ
結界とオーラでの守りは二人に任せる

私はそなたを否定しない
哀しみに呑まれ堕ちた子龍達を置去りにしたのか
救わなかったのか
掬えなかったのか

ひとの想いも竜の想いもそなたの想いも同じ
大切な存在を害するものは許さない
私も同じだ

そなたの心根はとても美しい
だが
私の龍を害するなら赦さない

サヨの体躯上り駆け
槍が身を傷つける前に切り込み切断する
サヨの神罰に同様の神罰を重ねて咲かせる

そうだね
何処かで人も竜も
共に過ごせればいい


リル・ルリ
🐟迎櫻

僕も龍好きだよ

櫻が、龍に
何度見ても美しい春の龍だよね
僕とカムイを守るために盾になるだなんてさ
なら、カムイ
僕らは僕らの龍を守ろうか

国とかむつかしいことはわからないけど竜の国には――竜、だけじゃダメなんだ
この世界にはひとが生きているから
ひとと竜
分かり合えなければ本当の安寧はなかったんだ
多分ね

正義…むつかしい
僕は守るよ
僕の大切を
君と同じだから戦うんだ

櫻とカムイを鼓舞する歌を歌おう
カグラとカラスの守り、その隙間に水泡のオーラを巡らせて支援して
歌う
「薇の歌」
―何も無かったんだよ
僕らの大切な存在を傷つけるものは、何にもね

何度でも守るために否定しよう

否定しないのはひとつ
竜を守りたいと願った君のこころ



●龍と桜と泡沫
 竜の咆哮が戦場に響き渡る。
 激しい風圧と共に巡った闘争の意志の中には、哀しみが溢れているように思えた。
 竜は人を屠り、破壊するもの。
 この世界ではそのように定義されているとするならば、竜たる槍榴鬼マグダレン達はどれほど生き辛かったのだろうか。
 櫻宵は人を憎むまでになったマグダレン達の軌跡を想像していく。
 人は竜を殺し、己を守る。
 人喰いは人の世には受け入れられない。
「大きな立派な竜ね。あなたを信ずる意志を感じるわ」
 氷雪竜と極炎竜を見上げた櫻宵は、マグダレンへの言葉を紡いだ。
 竜殺しが竜の世に受け入れられないように、守りたいものがあるが故に、そのエゴとエゴは衝突しあう。
 戦いを避けて解決することは叶わないのだと櫻宵が考える最中、カムイとリルも空を舞う竜達を見上げる。警戒を強めながらも、二人は櫻宵と竜達をそっと見比べた。
 マグダレンは竜を好いている。
 それは語られずとも、彼女が纏う雰囲気や掲げた理想からよくわかる。
「私も龍はいっとうに好きだよ」
「僕も龍が好きだよ」
 龍とは二人にとって特別な生き物。そして――大切なひと。
 もしも大事な存在が危険に晒されるなら。そう考えれば、槍榴鬼マグダレンの行動原理も解ってくる。
「二人共、少しだけ下がっていてくれるかしら」
「サヨ……」
「わかったよ、櫻」
 櫻宵からの呼びかけにカムイとリルが答える。目を閉じた櫻宵は力を己の中に巡らせていき、槍榴鬼達に対抗する術を呼び覚ましていった。
 自分を想ってくれる二人を護る。
「私は、私の守りたい存在を守るために戦う。だって、守護龍だもの」
 ――龍華。
 その言葉と共に、櫻宵の身体が桜龍へと変ずる。角と背の翼に桜が咲き誇り、完全なる龍体に成っていく。
 炎と氷雪。迫りくる竜からリルとカムイを守る為に己が盾になる。懸命な仔竜達まで屠るのは心が痛むが、此処は戦場。かれらも覚悟の上で向かってきているはずだ。
「櫻が、龍に。ふふ、何度見ても美しい春の龍だよね」
「噫、そうだね」
 リルは桜龍から自分達への意志を感じ取り、そっと微笑んだ。カムイも目を細め、吹き荒れる桜吹雪の中で櫻宵を撫でる。
「リル、私達の龍を守ろう」
「うん、カムイ。僕らは僕らの龍を守ろうか」
 リルは歌で。
 カムイは刀で。
 そして、櫻宵は桜龍の力で。互いを護ると決めた。
 氷雪竜と極炎竜がそれぞれのブレスを吐いて戦場を氷と炎で満たしていく。
「させないわ」
 尾を棚引かた櫻宵が飛び立ち、氷炎をその身で受け止めた。それも神と人魚を庇う為の敢えての行動だ。
 桜化の神罰を纏い、龍腕を思い切り薙ぎ払った櫻宵は雄々しく舞う。
 生命を喰らって花として咲かせる。その衝撃波と桜嵐を吹雪かせた櫻宵を見上げているカグラは妙に懐かしそうにしていた。
 カムイはその雰囲気を感じ取りながら、カラスとカグラに結界を張るよう願う。
 これで自分とリル、そして櫻宵への衝撃は幾らか緩和できるはずだ。リルは神達の加護を受け、詩を紡ぐ準備を始めた。
 カムイ自身も喰桜を構え、飛び掛かってくる仔竜達に狙いを定める。
 本当は無残に倒したくはないが相手はオブリビオンだ。倒して骸の海に還すことこそが救いになる。
「私はそなたを否定しない」
 カムイはマグダレンに向けて己の思いを向けた。
 哀しみに呑まれ堕ちた子竜達を置去りにしたのか。救わなかったのか、それとも掬えなかったのか。
 どちらであろうと自分達が敵対することは変わらない。
「ひとの想いも竜の想いもそなたの想いも同じ」
 大切な存在を害するものは許さない。自分も同じであるゆえに、大事な存在を護るために動く。対象が違うゆえに相容れない。そういうことだ。
 リルもマグダレンを見据え、思いを伝えていく。
「国とかむつかしいことはわからないけど竜の国には――竜、だけじゃダメなんだ」
 この世界にはひとが生きている。
 竜だけの国を作るなら、ひとを排除しなければならない。それがきっと新たな悲劇の始まりなのだと語ったリルは二竜と対峙する櫻宵を振り仰ぐ。
 ひとと竜。
「分かり合えなければ本当の安寧はなかったんだ。……多分ね」
 そして、リルは歌う。
 正義を語るのは難しいけれど、自分は守ると決めた。
「僕の大切を守るよ。君と同じだから戦うんだ」
 とても皮肉ではあるが、似ているからこそ譲れない気持ちがある。リル達の声を聞きつつ、櫻宵は爪と牙を駆使して竜を穿っていく。
 引き裂いて、引き付けて、決して二人には寄らせない気概だ。
 その間にリルは歌を響かせた。
 先ず櫻宵とカムイを鼓舞する歌。カグラとカラスの守りの隙間に水泡のオーラを巡らせ、普段と変わらぬ守護を広げていった。
 そうして次に歌うは薇の歌。
 ――何も無かったんだよ。
 僕らの大切な存在を傷つけるものは、何にも。紡がれていく力は仔竜の突撃を打ち消し、マグダレンが解き放とうとしていた黒槍の疾駆を止めた。
 なに、と彼女が驚愕した隙を感じ取り、カムイが一気に駆けていく。
「そなたの心根はとても美しい。だが――」
 私の龍を害するなら赦さない。
 凛と告げたカムイは朱桜の花弁と成り、桜龍への言祝ぎと共に覚悟を巡らせた。鋭い一閃が朱色の軌跡を咲かせ、マグダレンを穿つ。
 それに合わせて櫻宵も神罰の桜嵐を放つことで追撃としていった。
「竜の国、いつかどこかで叶うといいわね」
「そうだね。何処かで人も竜も、共に過ごせればいい」
 人と竜が共に暮らせる理想郷が――。
 今は叶わぬと知っていても、櫻宵とカムイはマグダレンへの思いを示した。小さく呻いたマグダレンはフィナンシェとカヌレを呼び、上空へと一時退避する。
 だが、追い縋った櫻宵がそうはさせない。
 カムイ、と呼ぶ声に答えた神は櫻宵の体躯を上って駆けた。此方が迫ってくることに気が付いたマグダレンが槍を構える。
「此処まで追ってくるとはな」
「逃さないよ。決着を付けるためにもね」
 カムイは鋭く跳躍して、槍が己が身を傷つける前に切り込んだ。櫻宵の神罰にカムイの神罰が重ねられ、桜が咲く。
「く……」
 しかし、耐えたマグダレンは更なる一閃を解き放とうとした。されどリルの薇の歌によって、極熱の黒槍から放たれる衝撃が打ち消される。
「何度でも守るために否定しよう。でもね、僕達は全部をこわすわけじゃないよ」
 否定しないのはひとつ。
 竜を守りたいと願った、マグダレンのこころ。
 リルの歌が響き渡る中で槍榴鬼は極炎竜達と共に地上に降り立った。桜龍の櫻宵と然と佇むカムイ、宙に揺蕩うリル。
 一行は未だ戦いが続くことを悟り、竜騎士を真っ直ぐに見つめた。
 倒すべき相手であっても――どうか最期は救いを。
 刻々と迫る最後の刻を見守るように、桜の花と泡沫が戦場に広がっていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

貴女に竜を殺す覚悟はある?その覚悟がなければ貴女の夢は叶わない、竜は強大な者になればなるほど縄張り意識と闘争本能が強くなる、全ての竜が平和に暮らすためには世界を全て捧げても足りない。

だから選ばなきゃならない、だから私は選んだ、理性と記憶がなくなって荒れ狂う仲間を私は殺した、私もそうなったら誰かに……。

四つ足の飛竜になり青い炎を吐いて威嚇します。

来い竜騎士、私に相棒の竜はいない、私自身が竜騎士であり竜なのだから、さあ、どうした?擬きすら殺せないのか!

ああ、同志よ、貴女が“過去”になる前に会いたかった。

アドリブ協力歓迎です。



●竜と竜
「――貴女に竜を殺す覚悟はある?」
 巡る戦いの中、サフィリアはマグダレンに問いかけた。
 白鱗の竜は氷雪を、黒鱗の極竜が極炎のブレスを解き放つ。熱と氷の波状攻撃を避け、サフィリアは敵である彼女達を強く見据えた。
「……」
 マグダレンは無言のまま鋭い眼差しを向け返してくる。対するサフィリアは己の思いを告げるべく、更に言葉を続けた。
「その覚悟がなければ貴女の夢は叶わない」
「どうして言い切れる?」
「竜は強大な者になればなるほど縄張り意識と闘争本能が強くなる、全ての竜が平和に暮らすためには世界を全て捧げても足りないから――」
「足りない? 試してみたのか、それを」
 マグダレンは不愉快そうに問い返す。竜の国など敵わないと断じたサフィリアの言葉を否定したいようだ。
 するとサフィリアは首を横に振る。
「いいえ。でも、選ばなきゃならない。だから私は選んだの」
 理性と記憶がなくなって荒れ狂う仲間。
 彼を、彼女を、私は殺した。そして、自分もそうなったら誰かに殺して貰うという覚悟を抱いた。そうして今、此処にいる。
 たとえ同志であれど世の理を乱し、平穏を壊すのならば斃す覚悟が必要だ。
 しかし、マグダレンはどうだろうか。
 恐怖の花に取り込まれた仔竜を倒さないまま、約束の地に蔓延らせていた。おそらくはどうにか助ける方法を探っていたに違いない。
 だが、サフィリアからすればマグダレンこそが仔竜を屠るべきだったのだと思えた。
「覚悟がないのなら――」
 サフィリアは己の中にある竜の魂を巡らせ、四足の完全なドラゴンに変じる。
 白銀竜の力は解放された。
 飛竜となったサフィリアは地を蹴り、青い炎を吐いて竜達を威嚇した。そして、マグダレンに真っ直ぐな眼差しを向ける。
「来い竜騎士」
「そうか、お前も……」
 マグダレンは複雑そうな顔をしたが、黒槍をしかと構えた。
 自らサフィリアへと槍撃を放つ心算だ。覚悟はあるかと問いかけた答えの代わりに、その槍で以て己の思いを示すらしい。
 迎え撃つサフィリアは高く吼えるように呼びかける。
「私に相棒の竜はいない、私自身が竜騎士であり竜なのだから、さあ、どうした? 擬きすら殺せないのか!」
「私は――この理想を貫くために戦う!」
 槍榴鬼の槍。白銀竜の青き炎。
 衝突する力と力は拮抗し、激しい火花を散らすように交わっていく。鋭い攻防が繰り広げられていく中でサフィリアは言葉にしない思いを胸に抱いた。
 ああ、同志よ。
 貴女が“過去”になる前に会いたかった。
 されど過ぎ去りし時は戻せない。それゆえに未来を変えるのだとして、サフィリアは己の竜の力を最大限に解放し続けた。
 そして――戦いは終局へと向かいはじめる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
槍に変化した儘の悪友
不敵に笑って得物を構え
見据えるは二匹の竜

お前らが主を慕う気持ちは分かる
オレもコイツを傷つけられたら怒るからな
──否、何でもねえよ、黙れ、ナイト
そこ、食い付くんじゃねえよ

竜言語は他人に聞こえない
でもオレには確り届く
ふ、と口角を吊り上げた

そして歯を立て指を噛む
溢れる血を相棒へ捧げ
荒々しい竜の姿が露となった
何もかも喰らい尽くす黒炎の竜

確かにコイツと暮らせる国は悪くない
竜の背を撫で目を細めた
直ぐ鋭い眼差しを敵に送り

ただオレにとっては
ナイトが居れば何処でも楽園だから

それでもオブリビオンにさせてまで
一緒に居たい、とは思わない

だから容赦なく敵を討つ

オレとナイトの絆を甘く見んじゃねえよ



●血と炎
 氷雪竜の白鱗が空に煌めき、極炎竜の黒鱗が鈍く光る。
 約束の地に大きな影を落とすドラゴン達は高く飛びながら、地上の猟兵達に氷と炎のブレスを解き放っていた。
 可愛らしい菓子の名を付けられていても竜達の羽撃きは雄々しい。
「なかなかだな。けど、ナイトの方が凄いんだぜ」
 ルーファスは迫り来る炎と氷を避け、槍に変化した儘の悪友の名を呼んだ。彼は竜槍を構え、次は此方の番だと不敵に笑む。
 見据えるは頭上、二匹の竜。
 マグダレンの邪魔をするな、と云うように二体は鋭い視線を向けてくる。
「お前らが主を慕う気持ちは分かる。オレもコイツを傷つけられたら怒るからな」
『!』
 ルーファスが槍の柄を握ると、その言葉を聞いていたらしいナイトが反応した。本当に? と問いかけるかのような意志が槍越しに伝わってくる。
「――否、何でもねえよ。黙れ、ナイト」
 このままだと煩そうだったので、ルーファスは頭を振った。今の言葉通りだ、と彼が付け加えるとナイトは更に反応する。
『! ――!!』
「そこ、食い付くんじゃねえよ」
 ルーファスがそう告げた刹那、氷雪竜と極炎竜が空中で旋回した。同時に攻撃をしてくる心算だと察したルーファスは、どうする、とナイトに問う。
 すると槍竜は答えた。
 真正面から向かって貫くだけだ、と。
 その竜言語は他人に聞こえないが、ルーファスには確りと届いている。了解、と口にした彼は薄く笑う。
 ふ、と口角を吊り上げた彼は歯を立て、己の指を噛んだ。
 指先を伝う血は相棒へと捧げるもの。赤い血が槍に触れた途端、荒々しい竜の姿が露になっていく。
 それは何もかもを喰らい尽くす黒炎の竜。
 ルーファスは二体のドラゴンを見据え、相棒の背を撫でた。行くぞナイト、と呼ばれた声に応える形で羽撃いた黒炎竜はひといきに飛翔していく。
 吐き出されるブレスを避けながら疾く飛ぶ黒炎竜はとても凛々しい。
「確かにコイツと暮らせる国は悪くないな」
 マグダレンが掲げる竜の為の国が実現するなら、彼女らと共に過ごすのも良いだろう。目を細めたルーファスは、僅かにそんな未来を夢想した。
 だが、それは叶わぬと識っている。
 直ぐに鋭い眼差しを敵に送ったルーファスは己の血を更にナイトに分け与えた。それによって黒炎の力が増していく。
「ただオレにとってはナイトが居れば何処でも楽園だから」
 場所も立場も関係がない。
 それゆえにマグダレンの理想に付き合うことも出来なかった。
 オブリビオンにさせてまで一緒に居たい、とは思わない。だから容赦などしない。今はただ、立ち塞がる敵を討つのみ。
 疾風の如く空を翔けるナイトはひといきに竜達の元に吶喊する。
「オレとナイトの絆を甘く見んじゃねえよ」
 次の瞬間、血のように紅い炎がフィナンシェとカヌレを貫いた。二体はあまりの熱と鋭さに咆哮をあげ、地に落ちていく。
 されど未だ倒れてはいない。
 マグダレンの元に戻るのだと察したルーファスは黒竜と共に敵を追う。
 決着は間もなくだ。
 槍榴鬼達にどのような運命が訪れるのか。
 それを見届けて、終わらせる為に――紅蓮の瞳は竜の姿を映していた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
お前達の事を解っている、誰よりも。
敵対しても自分だけは傷付けないと。
だから小さな竜は平気で二頭の竜にちょっかいを掛け、会いたかった者の元へ飛び込んでいく。

全く…追いかけるぞ、ロワ。
お前も、会いたいんだったな…

よぉ、久しいな。
まさかこんな形で会いたくはなかったが。

俺もお前も大事なもの取られちまったもんな…
お前がやりたい事、否定しないが肯定はできない。
本当は解っているんだろ
だから胸を張って名前名乗ってねぇじゃねぇか
俺と違い、大事なものなんだろ。手放してんじゃねぇ。
…もう頑張らなくて良い。「マドレーヌ」で良いんだよ。
お前の悲しみ受け止めるから全部。

ミヌレ、行くぞ……
決着つけようぜ、想竜姫マドレーヌ。



●ユヴェンとマドレーヌ
 彼女と初めて出逢った時のことはよく覚えている。
 無愛想で素っ気なく、愛嬌のひとつもない眼差しが此方に向けられていた。
 同じ国に所属する騎士であり同僚だというのに、彼女は馴れ合う心算などないと言ってすぐに何処かに行ってしまった。
「……懐かしいな」
 胸裏に過ぎった最初の記憶を思い、ユヴェンは呟く。
 あの頃とは違って、今の彼女は竜人としての角や翼、尾をあらわにしていた。それだけ本気だということなのだろう。
 彼女との記憶を意識してしまったからか、次から次へと思い出が溢れてきた。
 あれは最初の実践訓練の時だった。
「お前の名前は妙に長いな」
「無理に呼ばなくてもいい。それに馴れ合うつもりはないんだろう?」
「お前、初対面のときに私がろくに挨拶をしなかったことを根に持っているのか?」
「しない方が悪い」
「何だ、拗ねているだけか」
「誰が拗ねて……」
「隙あり! 訓練であっても油断はしないことだ」
「――!?」
 ユヴェンが未だ略称かつ愛称ではない本名を名乗っていたとき、名前が長すぎるという話から喧嘩に発展した。訓練として刃を交えつつも口喧嘩と本気のやりとりをするという、これからの二人の関係性を形作る最初の出来事だった。

 騎士団は二人以外は殆どが年長者だった。
 年若いユヴェンとマドレーヌは何かにつけてよく組まされ、その度に共に行動した。
 彼女は人間嫌いかつ誰にでも態度が悪いことと、若い女子であったから。ユヴェンの方はお偉方のお気に入りであり、騎士団の誰もが扱いに困っていたという理由からだ。
 二人とも自分達が組まされる訳をよく知っていたので文句は言えなかった。
 そして、あの日の記憶が蘇る。
「お前の名前、やっぱり長ったらしくて苛々するな」
「そうか?」
 曰くがあるうえに長過ぎる彼の名前に辟易していたマドレーヌは或る日、本名を縮めた良い呼び名を思いついたのだと言った。
「もうお前はユヴェン・ポシェットで良いだろ」
「構わない」
「おい……良いのか? 言ったのは私だが、即答かよ」
 驚く彼女に対し、ユヴェンは頷いた。
 即答した理由は響きが良かったからだ。これまで名を呼んでくれなかった彼女が、その名で呼んでくれるのだろうと思うと、妙に嬉しかったのだ。
 そうして、ユヴェンもそれまで「お前」とだけしか呼んでいなかった彼女をちゃんとした名で呼ぶことにした。
「マドレーヌ、次の任務の通達だが……」
「気安く呼ぶな」
 しかし彼女は呼ばれると睨んだ。ユヴェンはというと、その頃には睨まれることにも慣れきっていたので構わずに通達内容について話した。
「――以上だ。何かあれば団長へ、ということらしい。分かったか、マドレーヌ」
「呼ぶなと言ったのが聞こえなかったか、ユヴェン」
「聞こえたが……まぁいいだろ」
 ふ、とユヴェンが笑ったことで彼女は更に睨みを効かせた。されど、これもいつもの二人のやりとりになっていた。
 やがて、ユヴェン・ポシェットという名は騎士団内に浸透した。
 敬遠していた騎士達もいつしかユヴェンと呼びはじめる。本来、彼は元の名前では呼んではいけないと言われていた。しかし、別の呼び方であれば問題がないということで、この呼び方が定着したのだ。
 マドレーヌは名を呼ばれることを恥ずかしがるが、彼女なりに名前を大切にしていることは分かった。それゆえにユヴェンはこの愛称を大事に思っている。
 この呼び名は、名前を尊ぶ彼女が付けてくれたものなのだから――。

 そうして時は過ぎ、或る夜。
「ん?」
 自室で休んでいたユヴェンはベッドの中で何かが動いていることに気付いた。
 ちいさな膨らみは猫か何かか。何処から迷い込んだのだろうと思い、シーツを捲ると――其処には仔竜が居た。
「きゅ!?」
 驚いたらしい仔竜の身には様々な鉱石が宿っている。
 もしそのときのユヴェンに仔竜ミヌレの言葉が分かったなら、「マドレーヌじゃない!?」と言っていたと理解しただろう。
 だが、何故に仔ドラゴンが此処にいるか見当もつかないユヴェンは困っていた。どうするべきかと考えあぐねていると、自室の扉が荒々しく開かれた。
「ミヌレ、ここか!」
 息を切らせて訪れたのはマドレーヌだった。鳴き声を聞きつけたのか、大急ぎで飛び込んできたといった様相だ。
「もしかしないでも、コイツはお前のところの仔か」
「ああ、そうだ」
 ユヴェンが仔竜を見遣るとマドレーヌはバツが悪そうに答えた。臆病な子なんだ、と鉱石竜を示した彼女はそっとベッドに手を伸ばす。
 ミヌレは、マドレーヌがいた! というように嬉しげに腕の中に飛び込んだ。
 その様子を見ていたユヴェンは肩を竦める。
「迷子だったのか。しかし、竜がいるとなると拙いんじゃないか?」
「……そうだな。頼む、他の者には黙っておいてくれ」
 問いかけたユヴェンに対し、なんとマドレーヌは頭を下げた。頼むと言われたのもそのときが初めてであり、随分と驚いたものだ。
「言い触らす心算はねぇよ。何か理由がありそうだからな」
「恩に着る。さぁミヌレ、行くぞ」
 持参していたマントの中に仔竜を隠したマドレーヌは、ユヴェンに礼を告げる。その瞳が真剣であったのでユヴェンもそれ以上は何も言わなかった。
 彼女の去り際、ミヌレがひょこりとマントから顔を出す。
 少し不安そうな視線を受けたユヴェンは、別れの挨拶として手を振った。するとミヌレは目を輝かせ、きゅうっと鳴いた。
 その出来事こそがユヴェンとミヌレの最初の出会いであり、マドレーヌと秘密を共有した初めての日だった。

 それから、ユヴェンを取り巻く日常は少し変わった。
「またか……」
 あるとき、遠征の準備として自室で荷物を纏めていたユヴェンは溜息をついた。
 きゅう? という可愛らしい鳴き声が鞄から響いてくる。鞄の中から尾を振るミヌレはとても上機嫌だ。
 あの日から仔竜はユヴェンに興味を持ったらしい。
 そうして、ちょくちょくユヴェンの部屋に忍び込むようになったのだ。
 部屋やベッド、今回は鞄。
 此度も遠征に付いてこようと思って鞄に入っていたらしい。
 いつの間にか抜け出して潜り込んで来るミヌレに、マドレーヌもユヴェンも随分と手を焼いた。もしドラゴンが騎士団内で見つかってしまえば大変な騒ぎになる。
 こうしてミヌレが遊びに来る度に二人は気が気ではなかった。されどユヴェンも慣れたもので、鞄の中で仔竜を遊ばせたままマドレーヌの部屋に向かった。
 ノックをしてから、扉越しに彼女に声をかける。
「マドレーヌ、居るか?」
「ユヴェンか。どうした?」
「また俺の所にアンタのが紛れていたから後で来てくれ」
「ミヌレ!?」
 どうやら今回はマドレーヌも気付いていなかったらしく、すぐ行く、と言って立ち上がる気配がした。女性の部屋ということもあるが、ユヴェンが扉をすぐにあけないのには理由があった。
 どうやらマドレーヌはミヌレ以外にも他の竜を隠しているらしい。
 敢えて聞いてはいないし、その竜達に会ってもいないが、ユヴェンは秘密の共犯者として出来る限りは隠し続けたいと思っていた。
 竜を隠していることが見つかって下手を打てば、反逆罪になるかもしれない。
 しかし、ユヴェンは決してこのことを露顕させやしないと誓っていた。
 その理由はたったひとつ。
(アイツは、ミヌレの前だと本当に嬉しそうに優しく笑うからな……)
 いつも無愛想で睨みを効かせる、あのマドレーヌがだ。人間が嫌いだと時折語るのも竜関係で何かがあったからだろう。
 ユヴェンには友としてある程度は心を許してくれているが、マドレーヌは素直になれないらしく、すぐ悪態をつく。
 言葉にはしないが、ユヴェンもそのことは何となく感じていた。
 友として、仲間として傍に居られればいい。この関係もまた心地好い。
 そう思っていたのだが、平穏は長くは続かず――。

●再会
 約束の地で竜達が空を舞う。
 氷雪竜のフィナンシェ、極炎竜のカヌレ。そして、鉱石竜のミヌレ。
 ユヴェンは一目散に二体の竜の元に飛んでいったミヌレの背を見送っていた。一匹で敵竜の元に飛び込むのは危険と思われたが、ミヌレは何の不安も抱いていない様子で飛び出していった。それならば大丈夫だろうと判断したのだ。
「あの竜達がマドレーヌが隠していた子達か」
 ユヴェンは空を見る。
 彼女にミヌレを託されてからこれまで、知ることの出来なかった竜仲間を眺めた。
 きっとミヌレはかれらのことを誰よりも解っている。
 マドレーヌと共に過ごした兄貴分として、竜達は敵対しても自分だけは傷付けない。ミヌレにはそんな確信があったに違いない。
 ミヌレはフィナンシェの頬に擦り寄り、カヌレの頭にぴょこんと飛び乗って再会を喜んでから、主だった竜騎士の元に向かった。
「きゅきゅー!」
「ミヌレ?」
 槍榴鬼マグダレンこと、マドレーヌの腕に飛び込むミヌレ。ずっと、ずっと会いたかったひとだ。ユヴェンと巡った冒険の旅の中で見せられた幻や偽物などではない。
 本物のマドレーヌだ。
「そうか……私も会いたかったよ。大きくなったな、ミヌレ」
 鉱石竜を抱きとめた彼女は戦場に現れてからはじめて、笑顔を見せた。その光景に猟兵達の攻撃の手が止まる。
 誰が見てもそれが感動の再会だったからだ。
 それに加えて、マグダレンはあんな顔もするのか、という驚きもあった。ユヴェンは黄金の獅子を呼び、ミヌレの後を追う。
「全く……追いかけるぞ、ロワ。お前も、会いたいんだったな……」
 獅子を撫でたユヴェンは槍榴鬼を見据えた。
 対するマグダレンは此方に気が付いたらしく、それまで緩めていた口許を引き結ぶ。
「お前も来たのか、ユヴェン」
「よぉ、久しいな。まさかこんな形で会いたくはなかったが」
 双方の視線が重なった。
 マグダレンの眼差しは鋭く、ユヴェンを仲間ではなく敵対者として見ている。それは元より覚悟の上だった。
 ユヴェンは真っ直ぐな視線を返し、彼女を瞳に映す。
「何をしに来た、とは問わない。分かっているさ。私を倒しに来たんだろう」
「ああ。俺もお前も、大事なもの取られちまったもんな……」
 マグダレンは過去の存在。
 即ち、一度は死して――否、殺されてこの世を去った者。ユヴェンには痛いほどにその事実が分かっていた。
「ミヌレと会わせてくれたことには礼を言う。だが、お前相手であれど加減はしない」
「それでいいぜ。お前がやりたいことを否定しないが、肯定はできない」
「……そうか」
 彼女の腕の中でミヌレは尾を下げた。大好きなひと同士の間には相容れぬ大きな壁があるように感じており、ミヌレも最後の戦いの気配を察しているようだ。
 ミヌレは自分から元主と離れ、地面に降り立つ。
 すまない、と鉱石竜に告げたマグダレンは黒槍を手にした。同じくユヴェンは青凪の剣を構え返す。
 そして――二人は同時に地を蹴った。

●結末への導き
 それまで一時的に収まっていた戦いが再び巡りはじめる。
 マグダレンが槍を振るったことに呼応した氷雪竜と極炎竜は、其々に吐息を轟かせていった。残った仔竜達も彼女に報いる為に猟兵達に突撃してくる。
 ジュテムは最終決戦の火蓋が切られたのだと察し、幻影刃を顕現させていった。
「ここでカタを付けるしかないな」
「禍根を残すなら葬るだけだ」
 竜語魔法を紡ぎ続けるジュテムに合わせ、瑞樹が胡と黒鵺を振り下ろす。そうすれば仔竜達が次々と倒され、骸の海に還されていった。
 ルーシーも仔竜をすべて葬ろうと決め、ユェーと一緒に力を振るい続けた。
「パパ、やりましょう」
「そうしようか、ルーシーちゃん」
 青花が舞う中でユェーは先程と同じ方法で仔竜を喰らう。やがて、ジュテムをはじめとした彼らの力によって仔竜は一匹残らず地に伏した。
 きっと、これも運命。
 こうする他なかったのだとして、カスカはランタンの灯を掲げる。
 カスカは燈した灯を在るべき場所に還る為の標とした。その光を受け、空を見上げたルーファスと英は、自分達の役目を察する。
 氷雪竜と極炎竜の相手だ。
 マグダレンとの宿縁があるユヴェンは、頼む、という視線をこちらに向けていた。
「嗚呼、引き受けようか」
「私達で彼らを導いてみせよう」
 英が情念の獣を竜達に向かわせ、カスカも灯を揺らめかせることで援護に入る。黒炎竜ナイトと共に先陣を切ったルーファスも一気に攻め込んでいった。
「行くぞ、ナイト。正面からだったよな!」
 ルーファスの声に応えた黒竜が疾駆する。そして、ナイトは極炎竜の相手をするべく翼を大きく広げた。
 同様にカムイとリルは氷雪竜へと攻撃の矛先を変える。
「サヨ、リル。最後の仕上げのようだよ」
「大丈夫、最期まで歌うよ。櫻のために……それから、皆のためにも!」
 カムイからの呼びかけにリルが頷き、激しいブレスの攻撃を護りの歌で緩和していく。桜龍としての力を振るう櫻宵も花を吹雪かせていった。
「かたちは違っても、同じ龍としてあなた達を見送るわ」
 櫻宵の力と共にカムイの剣戟が氷雪竜を貫く。カスカや英、ルーファスの攻撃も極炎竜を深く穿っていった。
 そして、其処にサフィリアによる青炎が広がる。
「私も、覚悟を示す」
 竜であるがゆえに、竜を殺す。それこそがサフィリアの矜持だ。冴え冴えとした美しい炎が白鱗のフィナンシェと黒鱗のカヌレの身を包み込む。
 衝撃を受け、大地に落下した二体はそのまま其処に伏した。
 周囲には倒れた竜の亡骸や瀕死の竜達しかいない。猟兵以外で此処に立っているのは、ただひとり――槍榴鬼マグダレンのみ。

●竜槍
 鋭い槍撃と剣戟が巡っていた。
 後はユヴェンとマグダレンの一騎打ちだ。誰も手出しは出来ない。否、猟兵やユヴェンの仲間も敢えて見守る姿勢を取っている。
 槍と刀が衝突して甲高い音を立てた。何度も重なった刃には双方が抱く、決して譲れぬ思いが宿っている。
「本当は解っているんだろ」
「何がだ」
 ユヴェンは鍔迫り合いめいた攻防を交わしながら、彼女に言葉をかける。
「だから胸を張って名乗ってねぇじゃねぇか」
「私の名か。いいや、私は――槍榴鬼マグダレンだ」
 返された言葉には、何としてでもユヴェンに勝つという意志が見えた。既に勝敗は分かっている。倒れた仔竜やフィナンシェ、カヌレが戻ってこないことも、竜の国という理想が叶わないことも彼女は理解できているはずだ。
 それゆえに最早、竜の国という言葉はマグダレンから出ない。今はただ、倒された仲間の仇討ちとして戦っているのだろう。
 激しい槍の突きがユヴェンの腹を掠めていく。身を穿たれようとも、彼は怯むことなくマグダレンに語りかけていく。
「俺と違って、大事なものなんだろ。あの名前を手放してんじゃねぇ」
「手放してなど……!」
 彼女が叫んだ刹那、ユヴェンが手にしていた刀が槍によって弾き飛ばされた。しかし、彼は刀を拾いには行かない。
 何故なら、刃の代わりにミヌレが駆けてきたからだ。
「「ミヌレ!」」
 その瞬間、二人の声が重なる。そしてミヌレはユヴェンの腕に飛び込み、その身を竜槍に変えた。行こう、という声が槍の中から伝わってくる。
 ――マドレーヌを、在るべき場所へ。
 鉱石竜の確かな思いを感じ取ったユヴェンは竜槍に呼びかけた。
「ミヌレ、行くぞ……」
「良いだろう。見せてみろ、お前達の力を」
 マグダレンはユヴェン達を迎え撃つ姿勢を取る。幾度も刃を交えた故に双方とも疲弊しており、次が最後の一撃になるだろう。
 やるか、やられるか。騎士団での訓練などではない、本気の槍撃勝負だ。
「決着をつけようぜ。――想竜姫マドレーヌ」
「来い、ミヌレ。そして……ユヴェン!」
 槍榴鬼などではない。マグダレンでもない。竜を想う者として彼女を呼んだユヴェンは地を蹴り上げた。強く握る竜槍からは確かな決意を感じている。
 マドレーヌ、いくよ。
 大好きなきみ。大切なきみ。
 もう大丈夫。ありがとう。ごめんね。
 どうか、この一閃で――。
 ミヌレの思いを受けながら、ユヴェンは槍の切っ先を差し向けた。マグダレンも極熱の黒槍を構え返し、勢いよく駆けてくる。
 刹那、ふたつの影が交差した。
 竜槍に貫かれたのはマグダレンの方だ。胸を穿たれた彼女の口から血が溢れていく。かは、と苦悶の息を吐いた竜騎士は自分を貫くミヌレの槍を見下ろした。
「強く、なったな……ミヌレ……」
「……もう頑張らなくて良い。『マドレーヌ』で良いんだよ」
 お前の悲しみは、全部受け止めるから。
 ユヴェンは槍を握る手に力を込めたまま、静かに微笑んだ。
「ああ……」
 槍榴鬼――否、想竜姫は黒槍を地面に突き立てる。ミヌレ、と彼女が名を呼ぶとユヴェンの槍は元の竜の姿に戻った。
 胸に空いた傷口はもう塞がらない。間もなくすればマドレーヌは骸の海に還る。
 永遠に。
 もう二度と蘇らぬ者として葬られる。
 しかし、彼女は最期まで立ち続けようとした。おいで、と片手を伸ばしたマドレーヌへとミヌレが擦り寄る。
 ユヴェンも猟兵達も彼女を見守った。そして、マドレーヌは言葉を紡いでいく。
「私の夢は……叶わなかったが……良いこともあったな」
「何だ、マドレーヌ」
 最後の力を振り絞ってミヌレを抱き上げた彼女に向け、ユヴェンが問う。
 マドレーヌは鉱石竜を撫でた。
 まるで別れを惜しむように。それから、成長を喜ぶように。
 同時に彼女の傍にカヌレとフィナンシェが寄り添ってきた。傷だらけで今にも命の燈火が消えそうだというのに、二匹はマドレーヌと共にミヌレを見つめる。
「あの臆病だったミヌレが、こんなにも強く育ったんだ。それから、お前も……」
 彼女はユヴェンを見て、そっと微笑んだ。
「ユ……ド……――」
 マドレーヌはユヴェンの本当の名を囁き、双眸を細める。何が伝えたいことがあるのだと知った彼は続く言葉を待った。
「ミヌレ達を頼む、だとか……やっぱり名前が長いな、だとか……お前には言いたいことがたくさんあるが、もう時間がないようだ。……だから、ひとつだけ伝えよう」
 ――ありがとう。
 これで伝わるだろう、と言い遺した彼女はゆっくりと目を閉じた。
「マドレーヌ……。マドレーヌ!」
 逝くな、とは言えなかったが、ユヴェンは消えゆく彼女に腕を伸ばす。最後に一度だけ、もっと自分も話したかったのだと告げるようにその身を掻き抱いた。
 ミヌレごと抱かれた彼女はふと何かを思い立ち、口をひらく。
「ああ、そうだ。ミヌレにはこの力を……」
 柔らかく笑ったマドレーヌは鉱石竜に黒槍を触れさせる。そうすると槍はミヌレと同化するように揺らいで消えた。
 同時に鉱石竜に彼女が操っていた極熱の能力が宿る。竜自身が望めばマドレーヌの黒槍めいた姿に変われるようになったはずだ。
「最期に逢えて、託せて……本当に、良かった――」
 消える間際、マドレーヌは穏やかな笑みを浮かべた。
 こうして一度も地に膝を付かぬまま、誇り高き想竜姫は消滅していった。
 氷雪竜と極炎竜と一緒に消えて逝った彼女の代わりに、ユヴェンはミヌレを強く抱き締める。顔を伏せたミヌレは哀しみの涙を流しながらも、己の中に残された新たな力を確かめているようだった。

 やがて、顔をあげたユヴェンは空を振り仰ぐ。
 其処には何処までも続くような蒼穹が広がっていた。果てしない理想を描いた彼女はこの空で自由に竜達が飛び回る夢を見たのだろうか。
 夢を果たすことは出来ずとも、今日此処でユヴェンは竜を想う志を継いだ。
「行こうぜ、ミヌレ」
 ユヴェンは相棒の名を言葉にしてから、皆もな、仲間達に呼びかけた。
 ひとつの決着がついたが、これからも戦いは続いていく。果てしない空の下、世界を越えて巡る旅路は未だ終わっていないのだから。
 進める限りは歩き続けようと決め、ユヴェンは遠い未来を見つめる。

 そうして、猟兵達が去った後。
 此処で散った者を弔うような一陣の風が吹き抜けていく。
 約束の地に咲く花々は、やさしい風を受けて静かに揺れていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月05日
宿敵 『槍榴鬼マグダレン』 を撃破!


挿絵イラスト