IKA”Summer”GAME
「いつもお疲れ様。皆にはこうして集まってもらったわけだけれど……今回は事件解決やオブリビオン退治を依頼する為ではないから、肩の力を抜いて聞いてほしい」
からん、と音を立てて片手の椀を揺らし、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)は集まった猟兵の方へ向き直る。彼女はもう片手に持ったモニターを起動させると、何処かの風景――サクラミラージュを思わせるような島を映して話し始めた。
「今見せているのはグリードオーシャンの島、『ハリコマ島』。少し前まではとあるオブリビオンが島の人々を操り、イカサマだらけの賭け事をさせてメガリスを狙っていた……なんて事件もあったのだけれど。今は無事解放され、単なる『賭け事が盛んな島』として活気づいている」
そう言って画面を二本指で広げるようになぞれば、映像はぐいっと拡大され島の人々の様子がはっきりと映し出される。
人々は今ネルウェザが持っているような椀と賽で何かを当て合ったり、カラフルな札を並べたり取り合ったりと様々な『賭け』を楽しんでいるようだった。
「そして今はグリードオーシャンも夏真っ盛り。刺激的な娯楽を求めるハリコマ島の人々は、この季節を目一杯楽しもうとある企画を立てているようなんだ」
その言葉と共に、彼女が再びモニターの画面をぽんと変えれば。
見える景色は街の中のような場所から、白い砂浜に『真夏のギャンブル大会! 特設カジノビーチ』という極彩色の文字が描かれた大きな看板が立っている場所へと変わる。そして看板の下、わりと本格的なイベント設営を行う島民たちの姿も見えた。
「……真夏にギャンブルが関係あるかはともかく、ハリコマ島のビーチで一日限定のちょっとしたカジノのようなものをやるらしい。一度猟兵に助けられたこともあってか猟兵だと身分を明かせば入場料は免除してくれるとのことだし、それに申し訳程度の真夏要素か『水着で来場すればゲーム参加用のチップを多めにプレゼント』なんてイベントらしいこともしている。イベントの盛り上げも兼ねて、皆にはこの島でひとつ遊んで来てほしいんだ」
――ただし、と彼女は一度間を置いて。
「ハリコマ島の人々は皆イカサマがやけに上手い。イベントとなれば本気で勝ちに来るだろうし、得意のイカサマもやってくるだろうねぇ。皆も勝つつもりなら、策は考えておいた方が良いよ」
例えば、とネルウェザは片手に持っていた椀を二度振って見せる。中に三つ入っていた賽はランダムに転がり――ぴたり、とすべて一の目を出して止まった。
「まあ、これはただの念動力だけれど。あの島の人々はこんな力が無くても、『技術』で同じ結果を出せる。……とはいえイカサマ、だからねぇ。ユーベルコードを使用して彼らを上回っても、文句を言う者はいないだろう」
そう笑って話を切ると、ネルウェザはモニターと椀を仕舞ってグリモアを浮かべる。
ふわりふわりと金色の光を強めつつ、彼女は再び口を開いた。
「さて、それでは島へ皆を転送するよ。今回は危険も無いし私もその辺で見物させてもらう。大人数でやるゲームだとか、手が足りないときは声を掛けてくれ」
●
光で真っ白に染まっていた視界が、だんだんと薄く紅や蒼を増やしていく。
その輪郭が鮮明になれば、そこには桜舞う真夏のビーチ――と。
軽やかに響く音はビーチボールや浮き輪の跳ねる音ではなく、賽が転がりルーレットが回り、札が捌かれ混ぜられる音。
賑やかな声は海を楽しむ人の声、ではなく、負けた、勝ったと『ゲーム』の結果に一喜一憂する人々の声。
それは燦々と輝く太陽の下、暑さに負けず行われる『ギャンブル大会』の光景。
グリモア猟兵の話通りなら、近くのスタッフらしき島民に猟兵であることを明かせばすぐにでもゲームに参加させてもらえるだろう。
会場にはぬいぐるみや装飾品などの景品を並べた棚やテントもあり、うまく勝てればあれを手に入れることも出来そうだ。
平和なビーチでひと夏の思い出を。
今は難しいことは忘れて、めいっぱい遊びつくそう。
みかろっと
こんにちは、みかろっとと申します。
今回はグリードオーシャン『ハリコマ島』での夏休みシナリオです。
こちらは一章「日常」パートのみのシナリオとなります。そのため獲得EXP・WPが少なめとなりますのでご注意ください。
猟兵の皆さんには島の人々と様々なゲームをして頂きます。
チンチロリンや丁半、ルーレットやポーカー等、『賭け』になるゲームは大体ありますのでそのどれかに挑戦してください。
但し島の人々は皆イカサマをしてきます。見破ってイカサマを指摘する、もしくは見破った上で利用する等、こちらが勝つ・有利になるよう仕向けてください。
チップは猟兵であれば無料、水着であれば更にプラスされます。
見事勝てば景品と交換でき、持ち帰ることもできますが、アイテムとしての発行は出来ませんのでご了承ください。
皆様のプレイングお待ちしております!
第1章 日常
『猟兵達の夏休み』
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POW : 海で思いっきり遊ぶ
SPD : 釣りや素潜りを楽しむ
WIZ : 砂浜でセンスを発揮する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
薄荷・千夜子
【渡鳥】
水着にグラサン装着
まずは形からと言いますからね!
しかし、イカサマ上等とは…
賭け事は苦手ですが技術比べならなんとかなりそうです!クロウさんも少しだけご協力くださいな、とこそっと耳打ち
カジノはポーカーに2人で参加
堂々としてもらってるクロウさんの横で初心者装いUCで仕込み
クロウさんの偽煙草に【罠使い】【毒使い】でごく微量の痺れ薬を香りに混ぜミス誘いクロウさんのアシスト、煙は強めの【迷彩】仕込みこちらの動作を隠し
その隙に【早業】で手札のすり替えを
はい、こちらの役…これでいかがでしょう?
出来うる限り強い役を揃えて
ふふ、イカサマは良くないですがクロウさんの様になってる様子も見れて楽しいですね!
杜鬼・クロウ
【渡鳥】
水着は全身絵
グラサン有
千夜子も様になってンじゃねェか
カジノ、実は初めてだわ
俺がヤるなら正々堂々
イカサマで得た偽りの勝利に価値はねェ
任せろ
白日の下に晒してヤんよ
千夜子と参加
ルール聞く
軽くカードシャッフル(手先は器用
千夜子特製の偽煙草を取り出し片手で火つける
(未成年の前では吸わねェンだが…煙草じゃねェからイイか)
住民へ煙吹き掛けミス誘う
山札の一番上を配らず調整したり、カード2枚重ねや印残す、カード隠す等
住民の手首捻りイカサマ見抜く(第六感、見切り
テメェらナメてンのか?(足組んで机に煙草押当て
真面目にヤれや(悪い笑顔で恫喝
後がねェぞ
千夜子は”運がイイなァ”(彼女の肩に腕乗せ役を見る
景品お任せ
煌々と輝く太陽の下、揃ってサングラスを身に着けた二人。その姿はさながらギャンブル慣れした富豪――若しくはカジノを牛耳る『裏側』の人間、と言わんばかりの様相であった。
――が、しかし。
闇らしさのある雰囲気とは打って変わって、ふと動いた少女の口元から明るい声が響く。
「まずは形からと言いますからね!」
僅かにサングラスをずらし、新緑の瞳を覗かせて。向日葵で彩られた水着に身を包む少女、薄荷・千夜子(夏陽花・f17474)がきらりと微笑んだ。
隣に立つのは人魚や海神を思わせる水着を纏った男、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
彼もサングラスの下でふっと笑みを返し、まるでカジノの雰囲気に慣れたような表情で「様になってンじゃねェか」と千夜子へ囁く、が――彼も実はカジノへ訪れるのは初めてであった。
早速受付に立つ島民へ入場する旨を伝えれば、島民は二人の纏う水着を見るや否やにっこりと笑って小さな半透明の箱を一つずつ手渡す。見た目に反してずしりと重いそれには、二十枚程の赤いカジノチップが入っていた。
「水着で来てくれたお客さんにはこれをプレゼント〜ってね。うまく増やせればあっちで色々交換出来るからね〜。ではでは、ごゆっくり〜」
そう言ってひら、と手を振りかけた島民が何か思い出したように言葉を続ける。
「この際だから言っちゃうけど、イカサマ上等八百長OK、騙されたら自己責任さ〜。まあ、お気をつけて〜」
――イカサマ上等、と聞けば『単なる運では勝てない』と気分を落としそうなものだが、しかし千夜子は寧ろ勝機を見出したように明るい表情を浮かべて。
「賭け事は苦手ですが技術比べならなんとかなりそうです! クロウさんも少しだけご協力くださいな」
こそっと耳打ちすれば、クロウはひとつ頷いて千夜子と共に会場の中へと歩き出す。
向かうのはトランプを描いた看板の立つ方、ポーカー勝負の行われているコーナーだった。
●
「ゲーム、頼むわ」
手慣れたような所作でディーラーの正面の席に着くと、クロウはひとつ隣の席へ千夜子を誘う。堂々としたクロウの雰囲気に対し、千夜子はわかり易いほど慣れない様子で椅子を引き、すとんと収まるように腰を下ろした。
「ふふ、少し緊張してきました」
そう言いつつも笑顔を見せる千夜子の様子は初心者そのもの――実際初心者ではあるのだが――であり、ディーラーもそれを察してか穏やかな声で話し始める。
「ゲームの前に、ルールについてお話致しましょうか」
「はい、お願いします!」
千夜子の声にディーラーは笑顔で頷き、隣のクロウ、そしてもうひとつ隣にいた島の住民らしきケットシーへ了承を得るようにそっと視線を送る。二人が肯定を示したことを確認すれば、ディーラーはトランプを軽く広げながらポーカーの説明を始めた。
「使用するカードは五十二枚……勿論全て揃っていますのでご安心を。こちらをシャッフルした後皆様にお配りしますので、それを――」
そこですっと手を上げ、クロウはディーラーの言葉を止めて。
「シャッフルは俺にヤらせてくれねェか」
告げれば、ディーラーの表情はふっと暗さを帯びる。しかし数秒の思考の後に、ディーラーは笑顔を取り戻してええ、と小さく頷いた。
「当コーナーは此方からのイカサマ無し、誠実なゲームをモットーとしておりますので。……お客様に安心してご参加いただく為であれば、是非」
そうして両者が含みのある笑みを交わしあえば、説明が再開される。
何の変哲もないポーカーのルールを一通り話し終えると、ディーラーは先程答えた通りにクロウへトランプを手渡した。
器用に札を混ぜつつ、『計画が狂った』と言わんばかりに手元を見つめてくるディーラーをちらと見て。
――俺がヤるなら正々堂々、イカサマで得た偽りの勝利に価値はねェ。
混ぜ終えたトランプの山をディーラーへ纏めて返し、クロウは不敵に微笑んだ。
「任せろ。白日の下に晒してヤんよ」
ディーラーが手札を配り始める中、クロウはそっと煙草を一本取り出す。彼は目線でディーラーへ喫煙の可否を確認すると、そのまま煙草を咥え一瞬だけ隣の千夜子を見遣った。
「(未成年の前では吸わねェンだが……煙草じゃねェからイイか)」
片手で火を着け、口に含んだ煙を呑み込まぬようにしてふうっとディーラーの方へ吐く。
一瞬手札を配る手が止まるも、しかしディーラーは気づいていないだろう。
それが目眩ましなどではなく、『毒』を含んだ煙――千夜子が『朔ノ手』で煙草に仕込んだ、小さな小さな『罠』であることに。
「……お客様、大変申し上げにくいのですが……煙を此方へ吹くのはお控えくださいませ」
「おっと失礼」
けらりと笑いクロウが煙の向きを変えれば、ディーラーは何やら不満そうに手札を配り終えた山を整える。そしてディーラーが一瞬目線を動かした先、ゲームに参加していたケットシーも少し不満そうな、納得の行かないような顔をして。
「……にゃあ、アンタが細工してくれるって話はどーにゃったん……」
「お静かに。バレたら全部台無しです。……完璧、だった筈なのですが」
「アンタ、腕鈍ってんじゃにゃあか……」
そんな会話が聞こえた、ような気がした。
●
チップが台の上に増え、トランプが行き交う。説明されたルール通りにゲームを進め、強い役をと手札を交換する中――千夜子は一瞬の隙を狙い、ディーラーの差し出した札と近くの山の札を一枚すり替えて手札へと加えた。
その瞬間、もわりとクロウの煙がディーラーの目の前を覆う。
「お客様」
「悪い悪ィ」
クロウへ注意するディーラーの表情に、貼り付けたような笑みはあまり残っていなかった。
しかし千夜子の動きが一瞬だったこと、そして向こうのケットシーも煙で彼女の手元が見えなかったことが幸いしてか、ゲームは何事もなかったかのように再開される。
そう、何事もなかったかのように――
「……」
ケットシーが手札を交換する、その最中。
ぴく、と眉を動かしたクロウは素早く立ち上がると、トランプを差し出すディーラーの手を掴んだ。
「にゃんっ……」
「テメェらナメてンのか?」
その言葉と同時、クロウの耳元で菫青石が微かに光る。
固まったディーラーの手からぱらり、と落ちたトランプの裏側には――他の札にはない、小さな小さな星のマークが描かれていた。
こちらも固まったケットシーが手札を落とせば、その一枚を加えてストレート・フラッシュの揃う並びであったことが分かる。
それが『イカサマ』であることは明白であった。
ぐいと掴んだ手首を捻り、クロウは呆れたように息を吐きつつ煙草を台ヘ押し付ける。
「真面目にヤれや」
クロウは静かに告げると、足を組んで席へ戻った。
ディーラーとケットシーはぎりりと歯を軋ると、仕方ないと言わんばかりに山を混ぜ直し、手札を揃え直す。最早イカサマが通用しないと察したか、二人の間に不審な動きは見受けられなかった。
それを眺めつつ、クロウはそっと千夜子の肩へ腕を乗せ彼女の手札を覗く。
サングラスの下、夕赤と青浅葱の瞳がほんの少しだけ見開かれたあと。彼は向こうの二人を煽るように言った。
「千夜子は”運がイイなァ”……テメェら、後がねェぞ?」
それがブラフか、本当に強い役が揃っているのか、など――彼等に判断する余裕はない。
焦る彼等はしばらく足掻き続け、ついに万策尽きたような顔でチップを並べた。
「はい、こちらの役……これでいかがでしょう?」
かなりのチップを賭けた千夜子が見せた手札は――ロイヤルストレートフラッシュ。
「へ!?」
「にゃにっ!?」
ぎょっと目を丸くするディーラーとケットシー。イカサマを封じられた彼らが都合よく運のみでそれに勝てる筈など無く、二人の手元には辛うじて揃えたのであろうワンペアとスリーカードが並んでいた。
「ぐぅ……」
ディーラーは渋々千夜子へ大量のチップを返し、睨むケットシーから視線を逸らす。
先に『イカサマ無し』を破った側が『煙が邪魔だったからだ』『シャッフルを任せたからだ』などと言い訳を並べるのはあまりにも滑稽だと察したのだろう。
負けた二人は何も言わぬまま――何も言えぬまま、ぺこりと一礼して千夜子とクロウを見送った。
●
「おつかれさまです、お、たくさんかったんですねえ。おめでとーです」
景品交換所に入れば、箱に収まり切らないチップを差し出した千夜子へスタッフらしき少女が驚きながらもにっこりと微笑む。チップはクロウの分も合わせればかなりの量があり、棚に並んでいる値札の分は軽く払えそうだということが分かった。
どれにしましょうか、と千夜子が無邪気に景品に視線を動かす中、クロウは彼女の一歩後ろへ立って棚を眺める。勝ったのは千夜子だから、と言わんばかりに手を出さない彼へ、千夜子は不意にくるりと振り向いて声を掛けた。
「クロウさんのご協力あっての勝ちですから。イカサマは良くないですが、クロウさんの様になってる様子も見られて楽しかったですし!」
――そんな二人をスタッフの少女がにこにこと眺めていれば。
「これでお願いします!」
チップと共に千夜子が差し出したのは、爽やかな海の香りを纏った向日葵と羽のハーバリウム。そしてもう一つ、同じく小さな向日葵と羽を象ったブレスレットであった。
まいどー、と少女はチップを回収し、景品を白い袋で包んで二人にそれぞれ手渡す。
千夜子とクロウはサングラスをそっと掛け直すと、小さな荷物を揃って抱え景品交換所を出る。眩しい西日に目を細めつつ、二人はゆっくりと帰路につくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ファルシェ・ユヴェール
私の知っているカジノとは随分と様相が異なりますね
日差しの下に出るだけで、まるきり違うもののよう
とは言え
ただの獲物は遠慮したいものです
参加する前に
ターコイズを小鳥に変えて放しておきます
元々目立たぬ子ですが
見つかったところで違和感もありませんし
参加するのは相手の手札が見えれば有利となるゲーム
ポーカー等が良いでしょうか
小鳥の視点からディーラーの手札を覗き見ついでに
イカサマの技術も見せて頂きましょう
しかし声高にイカサマを暴く気はありません
大勝ちせず大負けせず
イカサマ師が釈然としない顔になる迄に
縫いぐるみひとつくらいのささやかな勝ちを狙って
その後会場を見回る彼女を探し、手を振って
お土産ですよ、ネルウェザ
夏の太陽が輝く真下、眩し過ぎる程のビーチへ設けられたカジノ。
欲望渦巻く夜街の娯楽も、日差しの下に出るだけでまるきり違うもののよう――そう、一般的なイメージとはかなり異なる雰囲気に新鮮さを感じつつ、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は入り口近くのコーナーでトランプやダイスを動かす人々の手元へ視線を動かす。
ギャンブルを楽しむ島民の笑顔、そして明るい視界も相まってか、まるで公平で健全なゲームが行われているかのようだが――彼等の手は時折、ほんの僅かに不審な動きを見せてはゲームを乱していた。
「……ただの獲物は遠慮したいものです」
ぽつりと呟き、そっと空を見上げて。
ファルシェは陽の光に目を細めつつ、視界の隅へ青く小さな鳥を捉える。幸運の兆しにも思えるその小鳥は、少し前に彼の手から飛び立ったターコイズ――彼のユーベルコードによって翼を得た宝石であった。
「元々目立たぬ子ですが……見つかったところで違和感もありませんし」
大丈夫でしょう、と彼がひとり頷けば、小鳥は会場の看板の影へぱたたと飛び去っていく。その姿を見送ると同時、少し離れたテントから間延びした男の声が響いた。
「入場はこちら〜、だよ〜」
そう手招くスタッフらしき男の真上、テントの屋根には『受付』の文字が大きく描かれている。ファルシェが早速そちらへ向かうと、男は彼の水着を確認して小さな箱を差し出した。
「水着での来場ありがとうございま〜す、ってね。水着のお客さんにはちょっと多めにプレゼントするから、たくさん楽しんできてね〜。あ、ちなみにトラブルがあっても自己責任だよ〜」
にやりと笑って男が告げた『トラブル』という言葉が、ディーラーや客との口喧嘩、チップの盗難といった『会場で目立つもの』ではなく『ゲーム上でのイカサマ』を指すものであることは容易に察せるだろう。
ファルシェは礼を述べると共に「気をつけます」とだけ告げ、会場の中へと歩き出した。
●
辿り着いたのはポーカーゲームの行われているコーナー。
待機しているディーラー、そして端の席に座るケットシーは何やら不機嫌そうであったが、ファルシェが近づき参加の意思を示すや否や、二人はぱっと切り替えるように笑みを浮かべて姿勢を正した。
「お待ちしておりました。さあ、お好きな席へどうぞ」
「人来なくて退屈してたんにゃ。さー、座った座ったー」
「有難う御座います、では……」
ファルシェはディーラーの正面の席を選ぶと、整った所作で一礼し椅子へ腰掛ける。端のケットシーにも会釈をすれば、肉球付きの手が尻尾と共に数度振られた。
それでは早速、とディーラーはトランプを混ぜ始める。
――先程から背後の棚に、可愛らしい小鳥が止まっていることなど知る由もなく。
「んにゃ……」
ケットシーも『青い鳥なんてラッキー』程度に思っているのか、小鳥が視界に入ってもにまにまと微笑むばかりで疑ったり騒ぎ出したりする様子はない。
二人とも『ファルシェが小鳥を介してディーラーの手元を覗き見ている』など、微塵も思っていなかった。
慣れた手付きでずらりと台の上へ並べたり、半分に割って交互に組み合わせたり。見事なシャッフルを披露するとともに、ディーラーはにこりと微笑んで口を開く。
「ご覧の通り、トランプはしっかりと混ぜてから使用します。このコーナーはイカサマ無し、誠実なゲームをモットーに運営させて頂きますので」
その言葉通り、ぱらぱらと配られる手札におかしな点はない。
但しそれは『ファルシェの視点から』の話であり、ディーラーの背後『小鳥からの視点』で見れば――。
「……!」
ほんの僅か、ファルシェは思わず目を見開く。
一枚ずつ札を配る手は全て先程混ぜたトランプの山を経由しているように見えたが、ケットシーに配るその一瞬だけ滑らかに山の後ろへと動いていた。
丁度山の影に隠れたそこにあったのは、五枚控えられた同じ柄のトランプ。
ケットシーにあれが全て渡るのであればフラッシュ、もしくはストレートフラッシュより上位の役が揃う筈だ。
一方ファルシェの手札は正規のルール通り、混ぜたトランプの山から配られている。
イカサマが行われているのは明らか、であったが――しかし、ファルシェはそれを声高に暴くことなく、笑顔のままで配られた五枚を自分の方へ捲った。
並んでいるのは――フルハウス。
細工無しで揃った其れに目を瞬きつつ、ファルシェは先程ケットシーに配られた札を思い出す。もしあれが只のフラッシュであれば――勝てる。
ならばとファルシェが賭けたチップ、ケットシーが自信満々で一気に賭けたチップは――全て、ファルシェの元へと流れた。
「にゃん!? ……ど、どーにゃってんだ!」
じろ、とケットシーがディーラーを睨むも、ディーラーは困惑した顔で小さく首を振る。そしてイカサマがバレてはいけない、とどうにか平静を取り戻し、ディーラーはファルシェに向き直った。
「……す、凄い『強運』、です……ね……? ええと、続けられますか」
ええ、とファルシェが頷けば、ディーラーはまたトランプを混ぜ始める。
行われるのは同じ細工であり、小鳥の視点から見ればいつケットシーの方に強い役が揃い、いつディーラーのミスが役を崩すかを見破るのは容易かった。
――が、ファルシェは全てのゲームを勝つことはせず、時に少しだけ勝ち、時に少しだけ負ける賭けを繰り返す。
だんだんと釈然としない顔で首を傾げだすイカサマ師達に笑みを向けつつ、ファルシェは箱の中のチップをほんの少し増やしてゲームを終えた。
●
景品交換所から出たファルシェは、迷いなく会場の隅の方へと向かう。
「――でね、彼がくれた宝石の……――が本当に綺麗で……」
海風に揺れる桜の下、小さくも楽しそうな声で何かに語り掛けるのは――片手にグリモアを維持するひとりの女性。その姿を自らの目で捉えたファルシェが更に近づけば、女性の頭で結ばれたリボンがぴこりと耳のように揺れた。
「ちちっ」
ふいに鳴きながら飛び立つ小鳥を目で追い、女性はファルシェの姿に気づく。
彼女が話しかけていた『何か』――数刻前に放したターコイズの小鳥を手元へ戻しつつ、ファルシェは笑顔で手を振って。
「お土産ですよ、ネルウェザ」
「ああ、お疲れ様……って、良いのかい? 君が勝ったんだろう」
問いつつも遠慮なく差し出されたぬいぐるみを受け取ると、ネルウェザは笑顔でそれを抱きしめ――顔を隠す。
「……ネルウェザ?」
ファルシェが小さく首を傾げる中、彼女はおずおずと口を開いた。
「ああ、いや……こ、小鳥……君のだったんだねぇ。てっきりこの島の子かと……」
そう彼女が恥ずかしがる理由は――小鳥の主、感覚を共有していたファルシェには容易に察せた。嬉しそうににこにこと微笑む彼が口を開こうとすれば、ネルウェザは片手に浮かべていたグリモアを一気に輝かせて。
「さあ、そろそろ時間だし帰るよ! 少し集中するから何も言わないでくれ!」
慌てた様子でそう告げると、やや急ぎ気味に転送を始めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵