3
【旅団】OX-MEN:婚活大作戦

#キマイラフューチャー #【Q】 #旅団

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#キマイラフューチャー
🔒
#【Q】
🔒
#旅団


0




『これは旅団シナリオです。旅団「OX-MEN:フォース・ポジション」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです』

「……戻ったか、OX-MEN」
 パラドックスマンの卑劣な罠により、たった一人での戦いを強いられていたオックスマン。
 華麗なる戦術と剣さばき、そして魔術により互角に渡り合っていたものの、やはりここは敵地。地の利は相手にあり、攻め手に欠けていたのが実情であった。
 しかし、仲間たちは戻ってきた。
 獣壊陣の危険で困難な試練を突破し、見事陣を破ったのだ。
 一つ結界がその力を失えば、その分パラドックスマンの力も封じられる。ここまで強大な力を操る事ができているのにも、そこに理由があった。
「カカカッ! 見事見事! しかしまだ陣は六つ残されているぞ? 残りのオックスメンもそう思い通りにこの地へ舞い戻ることができるかな?」
 パラドックスマンは笑い、辺りに雷鳴が走る。
 激戦を乗り越えてきたのであろうメンバーに、連戦を強いるのは心苦しいところではあるのだが。
「すまない、俺一人では限界がある……君たちの力を貸してくれ」
「無論だ。俺も奴のやり口には不快感を覚えている」
「信じましょう。仲間たちの帰還を。全員が集えば必ず勝利への道は開けます」
 弾けた光が岩をも砕く。その陰で、ガチャリと銃に弾丸が装填される音がした。
「要は皆が戻ってくるまで時間を稼げばいいんだよね。やってやろうじゃん」
「こういう方がわかりやすくて助かる……倒しちゃってもいいんでしょ?」
「皆が戻ってくるまでは様子を見た方がいいんじゃないかな。何が起きるかわからないし」
 そんな軽口を叩きながらも彼らは真剣だ。

 OX-MEN。
 己の立ち位置を示すもの。破壊する者、守護する者、回帰する者……。
 その立ち位置は様々だが、その力を猟兵として振るい、世界の危機を救う。
 これは、そんな彼らの戦いの。記されていなかった一ページである。


納斗河 蔵人
 遅れてすまない。状況は理解した。このシナリオは旅団シナリオだ。
 参加できるのは【OX-MEN:フォース・ポジション】の旅団員のみとなります。

 例によって詳細は旅団掲示板でご確認を。
 皆さんの立ち位置をこれでもかと見せつけてください。
 今回のオックスマンは基本OPのみ。最後にちょっと出てくる可能性はあります。

 頑張っていきますのでよろしくお願いします。
76




第1章 冒険 『ライブ!ライブ!ライブ!』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!

SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!

WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!

👑1
🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「うおっ、なんだなんだ。ここは祭りか!?」
 クーガーが驚きの声をあげる。
 獣壊陣によって、通常とは異なる異世界に引きずり込まれたオックスメン。
 彼らがたどり着いたのは活気にあふれた街であった。
「さあさあ、食べていってくれ、闇光饅頭!」
「名物カレービーフンで力をつけて、ポンカンさんの試練を突破してみせるんだ!」
 屋台が建ち並び、人々は口々に声をかける。
「もぐもぐ……よく分からない名前ですが饅頭は美味しいですね。肉まんです」
「このビーフンもなかなかのものです。あ、もう一皿ください」
 アリッサやくしなは早速食べ歩きを開始したようだ。
 素早い行動に、マルコははぁ、と息をつく。
「適応が早いのは流石と言うべきなのかな」
「これまでの傾向からして危険はないでしょう。腹が減っては戦はできぬ、とも言いますから」
 その横で、アマータは平然と辺りを見渡す。人々の喧騒の中からこの催しのもとがなんであるのか、探っているようだ。
 と。
「うーん、これは……」
 新兵が唸る。スナイパー故か、その目の良さはこの陣の作り出した世界で取るべき行動を見出したようだ。
 その視線の先にあったもの。
 巨大な幕が下げられ、そこには「婚姻相手大募集」「困難な試練」「全財産継承」などと字が並ぶ。
「なるほど……どうやらこの盛り上がりは、資産家の結婚相手を探す催しの為のようですね」
「お見合いってことか。それがこんな祭りになるんだな」
「資産家ともなれば、一大事ですからね」
「それはいいけれど。ボク、ちょっといやな予感がしてきたな」
 その時、ジャーン、と銅鑼の音が鳴る。
 目を向ければ、巨大な屋敷のバルコニーには、一人の男。
「皆様、よくぞこの地にお集まりいただいた。私はこの街の市長にして資産家、ポンカン・チーである!」
 そして、彼の背後には美しき娘が二人と、少年が一人。
「私は近い内に引退する。この地位と資産は継承されなければならない! だが……」
 ポンカンは辺りを見渡す。そして、全員に向けて言うのだ。
「その為には伴侶が必要だ! これは我がチー家の家訓である!」
 よく分からない家訓ではあるが、そうだと言われれば従うしかない。それほどまでに彼の権力は絶対的なのだ。
「故に私はこの場を作り上げた! 私の出す試練を乗り越え、我が子の心を射止めた者に、継承の証したるこの勾玉を授けよう!」
「お? 今回はあれを手に入れればいいってことか?」
 クーガーが肉を喰らいながら視線を向けた。
 既に三度、獣壊陣に取り込まれたオックスメンはこの世界から脱出する術を既に知っている。
 事件を解決し、宝具を手に入れること。
「おお、間違いありませんね。この陣を破るにはあれを手に入れればいいわけです」
「いちいち探し回らなくて助かりますね。で、手に入れるにはどうすればいいんです?」
 チャーハン、春巻、揚げ鶏……様々な食べ物を手にアリッサとくしなも問う。
「いや、これは……」
「どうすればいいんだろう?」
 だが、新兵とマルコは困り顔だ。
 今、答えを返すことができるのは、アマータだけだった。
「つまりこういうことです……元の世界に戻りたければ婚活をしろ、と」

 その後、オックスメンはなんとか勾玉を手に入れられないかポンカンに直談判した。
 が、その答えは、彼の子と婚約するものにだけ与えられる、それ以外はあり得ない。というものだった。
「まあ、これまでも裏技みたいなのは封じられていたしね……」
 新兵はぼやく。だがこれに従うならば、宝具のためだけにポンカンの子を誘惑しなければならない、ということだ。
 気がすすまないのも当然と言えよう。そして、懸念はそれだけではない。
「そもそも、その婚活をするのが俺、っていう前提が……うん」
「難しく考えるものでもありませんよ。婚約をしても結婚しなければいけないわけではないですし」
「そうだね。あの勾玉を手に入れるための手段だからやるだけだよ」
「そう割り切るのも、ちょっとなぁ」
 しかし、アマータとマルコはこういった事柄にも抵抗はないらしい。
「こういった催しは嫌いではないですしね。婚活が一番スマートならそれでいいかと」
「とはいってみたけれど婚活なんてしたことないから、不安ではあるけどね」
「……狙い撃ちは専売特許……と、狙撃主としては言いたい所だけれど……こればっかりはなぁ」
 はあ、とため息をつく。何か他の方法はないものだろうか、と考えたところでふと気付く。
「あれ、メディックとクルセイダー、それにトラベラーは?」
 三人の姿が見えない。ポンカンに会いに行ったときは一緒だったはずなのだが。
「……いけません。出遅れてしまいましたか」

「よくわからねーが、とりあえず娶って結婚すれば万事おっけーなんだろ? まかせとけだぜ!」
 バチン、と手を打ち合わせてクーガーは屋敷を行く。彼の理解は言葉通りである。
 だが、もう一つ気にかかることがあった。
 先の演説で、ポンカンの後ろに立っていた女性の一人。おそらく長女だろう彼女の顔色だ。
「あの美人はあんまり体がよくなさそうなんだよな」
 クーガーは何よりも癒やす者なのだ。その姿を放ってはおけなかった。会って確かめなくては。
「~♪」
「お?」
 そう考えたところで聞こえた歌声。視線を向ければ、花畑の中には探していた女性ではないか。
「~♪……けほっ、けほっ」
 が、その歌声は唐突に止まる。冷たい風が花弁を舞いあがらせ、その横顔を覆い隠す。
 その姿に、クーガーは一も二もなく駆け寄った。
「けほっ……あ、あなたは……?」
「無理するんじゃねぇ。ちょっと待ってろ……」
 差し伸べた手からは光。彼の持つ、癒やしの力だ。小さな光がしばらく辺りを包んだ。
「これは……」
「俺は癒やす者だからな」
 にっ、とクーガーは笑ってみせる。その姿に彼女は深く頭を下げた。
 纏う服の長い袖がふわりと舞い、頭に飾られた櫛がしゃらりとなる。
「助かりました。そして名乗りもせずにごめんなさい。私は、ディエンともうします」
「おう、俺はクーガーってんだぜ」
「ありがとうございます、クーガー様。私、ずっと体が弱くて……」
 曰く、幼い頃からこの病は続いているらしい。どのような手段でも治ることはなく、クーガーの癒やしも一時的なものに過ぎない。
「だから、父はこのような……あなたも、今回の催しに?」
「そうだぜ! 俺はあんたを口説き落としに来た!」
「まあ、冗談がお上手なんですね」
「冗談じゃないんだがなぁ」
 ディエンは微笑む。しかし、その笑みもすぐに暗いものへと変わる。
「ですが、どうか気になさらないでください。父の出す試練は……きっと私の体を治すための秘薬を手に入れろ、というものでしょう」
 どうやらこの街から南には火山が存在し、そこにはどんな者も癒やす秘薬が眠っているとか。
 婚活にかこつけて彼女を救おうというのがポンカンの狙いのようだ。
「ですが、あの地はとても危険な場所……生きて帰ったものはいないのです」
 自分のためにそんなことはさせられない。
 しかし、そんな彼女の言葉にクーガーはより闘志を燃やしてしまう。何故ならば。
「それを聞いちゃあ余計に引き下がれねぇな! 俺はオックスメディックなんだぜ!」

「はぁ……」
 屋敷の一角。一人の少年……青年と呼ぶべきだろうか。
 ポンカンの長男にして末っ子の、ランザンはため息をつく。
 資産家の家に生まれ、何不自由なく暮らしてきた。
 父に言われるまま過ごし、結婚を強制されている現状が自由であるかのはわからないが。
「僕はまだ、何も決められていないのに」
 婚活という催しは彼の鬱屈とした感情をさらに深くしているようだ。
 変わらない日常と、答えのでない悩み。
 だが、何度目かわからないため息をついたとき、変化が起きた。
「魔法少女羅刹破戒僧アイドル☆くしなん、ただいま参上ッ!」
「わー、ぱちぱちぱち」
「……は?」
 ジャジャーン、というギター音と共に現れた少女。そこにいたのはくしなであった!
 どうやらヒーローズアースで人気?の美少女戦士が活躍するアニメを模しているらしい。
 トレードマークは鬼棍棒(魔法少女のステッキ)。
「伴奏はお任せください」
 アマータが奏でる音楽に合わせ、くしなは歌い、踊る。アリッサはその横で紙吹雪をばらまく。
 その光景にランザンはぽかんとするばかり。
 そうする間にも一曲が終わり、くしなは彼の手を握り、ぶんぶんと振り回す。どうやら握手会らしいぞ。
「あなたのハート、撃ち抜きに参りました!」
「えっ、あの、ちょっと、手、離して……」
 そんな勢いのある出会いであったが、彼の顔は真っ赤である。
 アマータの目がキラリと光った。
(どうやら女性に対する免疫がまるでないようですね。やりやすそうでいいです)
「くしな様、スマイルです」
「はい! あなたもにっこり笑ってー!」
「いや、まずは離れて!」
 パシャリ。真っ赤になったランザンとくしなのツーショット写真がそこにあった。

「……で、あなたたちも婚活に?」
「はい。私はアマータともうします。どうぞお見知りおきを」
 さりげないボディタッチと共にアマータは名乗る。ランザンはぎこちない動きでじりじりと距離を離していく。
「私は先ほど名乗りましたね! くしなんです!」
 ばっ、とポーズを取りながら正面に立つ。青少年にはいろいろと刺激的な光景である。
「そして私がアリッサなのです。婚活しに来ました」
 淡々と告げられる言葉に、彼も少し落ち着いたらしい。
 ふう、と息を吐きだし、少し震えながら。しかしはっきりと言った。
「こうしてきてもらって申し訳ないのだけれど、僕は結婚する気はないんだ」
「なんと」
 そんなことをいわれては前提から覆ってしまう。そうなれば彼を通じて勾玉を手に入れることはできなくなってしまうが……
「僕はいま、自分で何一つすることができない。そんな僕があなたたちと釣り合えるとはとても思えないよ」
「真面目なのですね」
 少なくとも、権力を笠に着たりするよりはいい。
 鬱屈した感情がその表情を曇らせているが、本来は好青年なのだろう。
「それに……僕はこの街からでたことがない。一度くらい外をみておきたいんだ」
「わかります。外の世界の空は、みていて飽きることがないのです」
「だろう? それに、姉さんの病を治すための秘薬を手に入れることを、父さんは試練にしようとしている……あれは本当は僕がやらなきゃいけないはずだ」
「ほう?」
 出てきた意外な言葉にくしなが反応する。
「ならば、行けばいいではないですか」
「父さんが許すはずがないよ。自覚がないのか、とかそういうことを言うに決まってる」
 アマータの提案にランザンは首を振った。
 しかし、アリッサがその言葉を押しとどめる。
「ああいう頑固な爺は相手にするだけ面倒です。ひとまずはいはい言っておけばいいのです」
「いや、しかし……」
「いいですか、息苦しい事は後でいいのです」
 ランザンのしたいこと。それが大事なのだ。
「今は全力で遊んで遊んで遊び倒して楽しんで、その後少しだけ考えるくらいでいいのです」
「……僕は難しく考えすぎていたのかな」
 黙り込む。拳に汗がにじむ。思えば、父に反抗したことなど一度もなかった。
 そうと決まれば。
「それに、私たちがお手伝いしてもいいですし! これも婚活という奴でしょう!」
「そうですね。為すべきことを為したあとに結婚相手を選んでもらえれば」
 くしなとアマータはここぞとばかりにアピールするが彼は既に聞いていない。
 立ち上がると同時、勢いよく駆けだした。
「ありがとう! 僕は行ってみる!」
「ええ、お気をつけて……って、ちょっと待ってください。いくらなんでも一人では無理があるかと」
「思い立ったら即行動、ですか。これは追いかけて恋愛イベントを起こせと言うことですね」
「ん? ということは私たち三人、ライバルという事でしょうか!」
 そんなことを言いながら、予想外のスピードで走り去るランザンを追いはじめる三人なのであった。
 
「さて……婚活、とは言うけれど」
 一方、マルコは仲間と別れ街を歩いていた。
 その足取りは鈍い。婚活をすること自体には特に何も思わない。だが。
「何をすればいいんだろう?」
 考える。考えるが答えは出ない。試練が出るとは言うが、それをクリアするだけでいいのだろうか?
 そんな思考に気を取られたか。
 ドンッ、という音と共に衝撃。
「きゃっ!?」
「おっと」
 普段ならばまずしない失態だ。ぶつかり、バランスを崩した女性の手を引く。どうにか転ぶ前に食い止めることはできたようだ。
「ごめん、考え事してた」
「いやいや、こっちこそ。私もよそ見してたから……むっ」
 と、その時。彼女は何かに気付いたように辺りを見渡す。
 そして、そのままマルコの手を引いて走り出した。
「ついてきて、早く!」
「え?」
 誘われるままに、開いた扉へと押し込められる。そこは倉庫のようで、彼女と二人で入るには狭すぎる。
 必然、抱きしめられるような形となった。
「……あのさ」
「しっ、静かに!」
 扉の外には複数の人影。誰かを……おそらく彼女を探しているらしい。
 息苦しいが、動けば触れてはいけないものに触れる。マルコだってそれくらいはわかっている。
 だから身じろぎもせずに待っているしかない。
 そうして、幾許かの時間が流れたあと。ようやく解放される。
「……行ったか。いや、ごめんね。巻き込んじゃって」
「どうでもいいんだけど、ボクまで隠れる必要なかったんじゃない」
「言われてみれば確かに!」
 はははと笑う姿には見覚えがあった。ポンカンの背後にいた女性だ。
 チャイナドレスのスリットからはすらりと伸びた脚が覗く。
「あ、名前も言わずに! 私はシーシュオっていうんだ。よろしくね」
「知ってるよ。ボクはマルコ。まあよろしく」
「あら、ってことは君もお婿さん候補?」
 と、そこでシーシュオはしめた、という顔をする。その理由はマルコにはわからなかったが。
「まあ、そうかな」
 この状況は渡りに船と言えるかもしれない。期せずして婚活相手の一人と接触できたのだから。
「ほーほー、そうかそうか。お姉さんの魅力にやられちゃったか」
「……そういうことにしておくよ」
 否定する必要もないだろう。
 答えを聞いた彼女はマルコをつま先から頭のてっぺんまで眺めると、ぽんと彼の頭に手をやった。
「うん、君ならいいかな。あのさ。父さんの試練を乗り越えて私のところまで来てよ。絶対だからね?」
 耳元でささやくように告げ、シーシュオは風のように去って行く。
「……なんなんだ」
 あっけにとられた表情でマルコはつぶやくのであった。
 
「ううん、長女はこの試練に否定的。次女は表面上は乗り気、長男は結婚自体をいやがっている……」
 新兵は、どうにか婚活せずに勾玉を手に入れることはできないかを考え続けていた。
「もう少し納得のいくやり方で行きたいんだけどな」
 試練のことはともかく、他のメンバーはそれぞれ狙いを定めたのか、交流を深めているようだ。
 長女、ディエンの病を治すことができれば話は変わってきそうだが、それ自体が結婚の条件。
 火山への道が開かれるまでは今しばらくの時を必要としていた。
「なんとか八方丸く収まる……ん?」
 と、その時ドローンに反応が入る。どうやら当のディエンのところで何かがあったらしい。
「フートゥン、あなたまでこんな……怪我をしたり、死んでしまったらどうするの?」
「ディエン、俺は黙ってみてなんかいられないんだ! よそから来た人に託すなんて!」
 彼女と言い争っているのは一人の男。話から察するに彼も試練に挑戦するようだ。
「それに、試練を突破できれば君の体は元気になって、結婚の許しももらえる。こんな機会を逃せるものか!」
「だからといって……」
「止めても行くよ。吉報を待っててくれ。今日はそれだけをいいに来たんだ」
「フートゥン、待って! ……けほっ」
 引き留めるディエンだったが、駆けだしたフートゥンは止まらない。
「私は……あなたを……」
 彼女はその背を眺めることしかかできずにいた。
「……なるほど」
 その光景を目の当たりにした新兵はしめたぞ、と思う。
 勾玉の譲渡を条件に彼に協力し、ディエンと結婚させればいいのだ。
 クーガーには悪いが、こういったことに疎い新兵の目から見ても二人の想いは明白だ。
 それを成就させた上で目的を達成できるのならばそれに越したことはない。
 そうして、新兵はフートゥンに接触するべく動き出したのであった。

「試練の内容を発表する!」
 ポンカンの声が響く。
 危険な火山へ向かうとあっては多くのものが棄権を表明し、挑戦者はかなり少なくなっていた。
 祈るように空を見上げるディエン。
 火山へ向かって出発する参加者たちを見つめるシーシュオ。
 挑戦者に紛れ、意気をあげるランザン。
 それぞれの想いを知ることもなく、火山はもうもうと煙を上げ続けていた。

 OX-MENよ!
 危険な試練を乗り越え、ターゲットの心を射止めよ!

 以下の行動は例です
 POW:火山を突き進み、秘薬を手に入れる
 SPD:婚活の裏にあるかもしれない謎を追う
 WIZ:ガチで口説き落として婚約する
支倉・新兵
フートゥンに協力…だけど狙撃屋が直接同行しても寧ろ足手纏いになりかねないからね…やるのはいつも通り後方からの狙撃

火山内を見渡せる位置に陣取りドローン展開
フートゥンや他挑戦者達、火山内の地形情報や…『試練』と言う限りは火山以外の脅威もあるだろう…それらを索敵の後狙撃で排除・迎撃するのが基本方針…『見え』てさえいれば跳弾狙撃[※UC]なら問題ない
彼への援護が最優先だけれど、此方に協力してくれるらしいメディックや他の参加者が危険なようなら…流石に見過ごせない、か


…俺が援護するとは言え飽く迄立ち向かうのは君だ
と言うか俺なら火山に乗込んでいく勇気なんてない
だから何というか…君の勇気は誇っていい…と、思う



●婚活、それは

「フーン、婚活ってこういうものなんだね」
「いや、多分これは特殊だと思うよ」
 一斉に火山に向けてスタートする候補者たちを眺めながらつぶやくマルコに、新兵のツッコミが入る。
 ともあれ、ポンカンの娘と息子の結婚相手を見つけるための催しは始まった。
「ま、やらなきゃ勾玉が手に入らないのなら、やるしかないね」
「それはそうなんだけども」
 新兵がスコープを覗き込めば、その向こうに映るのはフートゥンの姿だ。
 少し視線をずらすとランザンもいる。その後を追いかける女性陣も。
「どうも彼女たちは本気で競い合ってるように見えるんだよなぁ」
「いいんじゃないの。なりゆきとはいえ、僕もシーシュオって人と約束しちゃったし。危険とか困難な試練って言われたら、クリアするしか無いよね」
 とん、と靴を鳴らしマルコはゆっくりとした動作で屋根から飛び降りる。
 そして新兵の方を見上げて言った。
「じゃ、行ってくるよ。ここからはライバルってやつだね」
「ん、気をつけて。といっても、俺は後方支援がメインだけどね」

「素敵な話じゃねェか、おい!」
「お、おう……?」
 クーガーは火山に現れたフートゥンの肩を叩きながら言った。
 彼は最初、ディエンとの婚約を目指して行動していたはずだ。フートゥンもそれを知っている。
 ライバルに対する態度としてはいささか不可解だ。
「ディエンはいい娘じゃねぇか。心配してたぜ?」
「それは……わかっている。でも俺は必ず彼女の病気を」
「あー、わかる。わかるぜ。恋人を助けたいって気持ちはよ!」
「こいっ……!? おい、他の候補者に聞かれたらディエンの立場が」
 慌てて口を塞ぐ。構わず話し続けようとするクーガーであったが、やがて大人しくなったところでフートゥンはようやく塞いだ手を下ろす。
 まだまだ先は長いのに、早速疲れることを……これも妨害か?
「まあとにかく、俺はお前に協力する。ディエンにも頼まれたしな」
「彼女が?」
 クーガーの言葉にフートゥンが首をかしげた。
 彼女の性格を考えると違和感があるが、この火山が危険なことは確かだ。なりふり構わず強そうな人にすがったのかもしれない。
 彼はそう考えたが、実際は新兵から話を聞いただけで特にディエンから改めて頼まれたというわけではない。嘘も方便という奴だった。
「ニイチャンは何があっても迷わずに突き進め、全部俺が助けてやるぜ」
「いや、俺は自分の力で……」
 新兵の支援は受け入れたが、それはあくまでサポート。
 クーガーの力を借りてしまって、ポンカンは認めてくれるだろうか? ディエンに顔向けできるだろうか?
「……!」
 ディエン。彼女の顔が浮かぶ。そうだ、確かに結婚はしたい。だが彼女の病気を治すこと以上に大事なことがあるだろうか?
 ならばどんな手段を使ってでも、秘薬を手に入れるべきではないか。それ以外のことは後で考えればいい。
「……協力に感謝する。知っているだろうが俺の名はフートゥンだ。君は?」
「おう、俺はクーガー・ヴォイテク。癒やす者、OX-MEDICだ!」
 差し出した手を堅く握り、二人は火山へと歩を進める。
 その先に待ち受ける脅威も知らずに。

「むむむむむ、わかるわかりますよ。くしなんセンサーがビンビンに来ています」
「何がでしょうか?」
 くしなの言葉にアマータが首をかしげた。
 ランザンは既に火山の麓に到達。街からでたことがないという割に、彼は険しい道を難なく進んでいた。
 これまでに幾度か襲撃の気配はあったが、こちらは三人居るのだ。
 ランザンに気付かれる前に処理は済ませている。差し迫った危険はないはずだが。
「私の察知していない脅威を感じ取りましたか?」
「脅威……ある意味そうかもしれません。ランザンさん攻略婚活ヒロインレースは現在アリッサさんが単独トップに違いなし!」
「ふむ……」
 アマータは少し先、ランザンの横に浮かぶクラゲの上から声をかけるアリッサを見る。
「へいユー。私のクラゲと一緒にいかないです?」
「ありがとう、アリッサ。でも、僕はできるところまで自分でやってみるよ」
「そうですか……」
 その答えに少し彼女は気落ちしているように見える。
 そうやって考えると、ランザンの方も少しばつの悪そうな顔をしているような気もしてきた。
 くしなの言うとおりなのかもしれない。名前を呼ばれているのも今のところ彼女だけだし。
「冒険に憧れる少年は、やはりミステリアス美少女に弱い……!」
「ふむ……女性に免疫がない様子は見て取れましたが、クリティカルな攻め方はそこでしたか」
 まだ自分たちには一歩引いたところもあるランザンだが、確かにアリッサには気を許しているのだろう。
 本人は意図しているのかどうかはわからないが、最大のライバルには違いない。
「ところでランザンさん、旅行の経験は?」
「本当に街からも出たことがなかったんだ。だから正直心が躍っている」
「それは何より。折角の旅です、しっかり楽しみましょう」 
 三歩後を、などといっている場合ではないのかもしれない。
 こうしている間にもアリッサは会話を重ねている。
「まだまだ我々も負けてはいません。この冒険で婚活ヒロイン逆転劇を狙うのです!」
「無論です。まずはお話をするところから、ですね」
 第一歩は、自分を知ってもらうことからだ。
 恋とは、愛とは、婚活とは。
 誰が証したる勾玉を手に入れるのか、ランザンが誰を選ぶのか。
 それは最後までわからない。

●君が見た闇
 
「ううん、資産目当ての奴は大分減ったものだと思っていたんだけどな」
 スコープの向こうで男が倒れた。
 金だけではない何かが秘薬や、勾玉にはあると言うのか。
 息子が一人、娘が二人。三等分だとしてもポンカンの持つ財産は莫大だ。
 ライバルを減らすために強硬手段にでるものがいてもおかしくはないのかもしれない。
「むしろフートゥンみたいなのの方が珍しいのか」
 自分とクーガーは自身が結婚する気はない。
 マルコも約束があるからと言うだけで積極的に動いているわけではないし、目的は勾玉だ。
 純粋に、資産目当てではなく結婚したいからといって動いているのはフートゥンくらいなのかもしれない。
「……それにしても、もう5人目だぞ」
 そんな彼とクーガーを狙うものは多かった。
 ディエンとの関係を知る者が居たのだろう。協力者の存在もあって脅威と感じたか、彼を排除しようと動くものは後を絶たない。
「金は人を狂わせるとはいうけれど」
 そこまでに魅力的なのだろうか? どうにもそれだけとは思えない気持ち悪さを感じる。
 だが、迫る脅威を放っておくわけにもいかない。新兵はライフルの照準を合わせ、ゆっくりと引き金を引いた。

「ここまで来てしまった以上は仕方がない! その命を山に捧げよ……!」
「そういわれても『はいわかりました』って答える人は居ないと思うよ」
 迫り来る刃をひらりとかわし、マルコはあきれ混じりの答えを返す。
 彼もまた幾度となく襲撃を受けている。
 しかし、敵の様子も言っていることも、どうにも婚活に参加する者といった感じではない。
「……あ」
 そこではたと気付く。今倒した男。この声は、シーシュオを追っていた者の声だ。
 彼女を追っていた理由。山への侵入を阻む理由。
 そこには繋がりがあるように思えるが……
 婚活やら、ディエンの病気を治すやら。ここには様々な思惑が存在している。
「結局は行ってみるしかないのかな」
 この火山に眠るという秘薬。
 きっと手に入れれば謎も解けるはずだ。
「その命を山に捧げよ……」
「その命を山に捧げよ……」
「またそれ?」
 次なる襲撃者にも動じることなく、マルコは着実に火山へと歩を進めていくのだった。

 さて、その頃南瓜頭の人形、ネロは街に潜んでポンカンの子、シーシュオを見張っていた。
 アマータが命じたのは、この婚活の裏を探ること。
 ディエンはその病弱さ故に屋敷から出ることはない。ランザンは自ら火山に乗り出した。
 必然的に何かあるとすれば、彼女としか考えられないからだ。
「本当なんだよね。あの火山から秘薬を手に入れられなければ呪いは……」
 そんなシーシュオは路地裏で、誰かと話し込んでいた。
 いや、それは正確ではないかも知れない。返事は聞こえてこないのだから。
「わかってる。私だってそんな事にはなってほしくないんだ。約束は果たすよ」
 彼女の話し相手の姿も声も辺りにはない。これはどういうことなのだろう。
 この婚活騒動、やはりただ結婚相手を見つけるだけではないらしい。
「その為に……やってもらわなきゃいけないんだ」
 シーシュオは噛みしめるように言う。
 そして深く息を吐き、しゃがみ込んだ。
「はあー……」
 空を見上げて、目を閉じる。
「マルコくん、ホントお願いだよ。君の活躍にかかってるんだから」
 ここまでの計画も、目論見が外れれば全て火に飲まれることになる。
 父親を動かしてこんな騒動を引き起こした以上、後戻りはできない。
「ここまでやって……失敗したときどうなるかは、考えたくないな」
 そうつぶやくとシーシュオは踵を返してその場を立ち去った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朝倉・くしな
わかるわかりますよ
くしなんセンサーがビンビンに来ています

ランザンさん攻略婚活ヒロインレースは現在アリッサさんが単独トップに違いなし!
冒険に憧れる少年はやはりミステリアス美少女に弱い…!

しかしまだまだ我々も負けてはいません
アマータさん!色仕掛けから隙を作ってから
そう必殺の『既成事実』で婚活ヒロイン逆転劇を狙うのです!

行きましょうアマータさん!アリッサさん!

この火山の試練でピンチを助けたり(無意味に胸に抱き込んで危険を回避とか)
困難を助けたり(ジャッジメント!/あ、脱がないと早く撃てないんです

三方向から励ましたりして既成事実を作ってしまいましょう!


いざ既成事実くるせいどー!



●僕が見た苦悩

「ふむ、埴生が変化してきましたね」
「埴生……ああ、草木の事か」
 火山に足を踏み入れたとはいえ、まだまだ植物は多い。
 どちらかといえば冷え込んでいた道中とは違ってだんだんと感じる温度も高くなってきている。
「そうか、当然といえば当然だけど環境が違うと生える植物も変わるんだな」
 ランザンは驚愕にも近い感情を覚えてしまう。
 些細なことではあるが知識としては知っていても実際に見て、体験するのは別物なのだ。
「ほう、ランザン様は植物に興味がおありで?」
「植物というよりは食物かな。料理には野菜を使うだろう?」
「料理! お得意なのです?」
 その発言にアリッサが食いついた。
 そういえば街に出ていた屋台もなかなかバリエーションに富んでいた。美食に通じる場所であったか。
「ああ、交易の要衝として街にはいろんな食べ物が集まるんだ。おかげで腕の方はそれなり……だと思う」
「これは帰ったらご馳走してもらわなければなりませんね……」
「なるほど、そういうことでしたら食べられる植物などを解説させていただきましょう」
 これは好機だ。アマータは自らの持つ知識から辺りの食べられる植物を探し始める。
「見た目ではわかりにくいですが掘り出してみると……」
「ああっ! 自然ではこのように生えているのか!」
 市場に並んでいる姿は知っていても、こうしてみればまた違った姿を知ることができる。
 今まで見たことのない世界。自分は今まで自分がどれほど狭いところに居たのか。
「おっと、そのキノコは毒があります。食用のものと間違えられやすいのでお気を付けください」
「……なんだか恥ずかしいな。町から少しはなれただけでもこんなに教えられることが多い」
「わかります。私も空の色が移り変わるのに憧れた口ですから」
 それを知れただけでもここに来た価値はあったのかもしれない。
 振り返れば木々の隙間から小さく覗く生まれ育った街。なんだか好きになれそうだ。
 一方。くしなはそんなランザン達の様子に一人危機感を覚えていた。
「むむむ……アマータさんにも先を越されましたか」
 二人とランザンは距離を詰め始めている。だが彼女に対してはまだ遠慮が感じられるのだ。
 それは最初の出会いやくしなの格好(青少年は難しいのだ!)に起因するものではあったが……
「ここはひとつ荒療治!」
 むしろそちら方面を攻めるべき! 方向性を変えなければ先んじることはできない!
「とはいえ、ランザンさんは唐突なイベントには心動かされない模様。いいシチュエーションに持ち込まなければ……」
 むむむ、と考え込むくしな。
 と、その時だった。
「おっと……」
 ランザンが石に足を取られて躓く。とっさにアマータが抱きとめ大事には至らなかったが、不慣れな道で疲れがたまっているらしい。
 そこでくしなに電流走る……!
「これです!」
 耳をすませば水の流れる音もする。これはチャンスだ。
 火山地帯に川があるならば必ずあれがあるはずだ。
「無理はいけません、ランザンさん! この先で休憩しましょう!」
「いや、僕はまだ……」
 とっさに駆け寄り、腕を掴む。
 くしなの意見に二人も同意のようだ。
「ですね。旅は長いのです」
「体力を温存することも長歩きには必要なことですよ」
 三人に言われてもランザンもかなわない。
 実際、疲労はかなりたまっているのだ。
「……わかった、少し休もう」

 ちゃぽん、と湯に波紋が広がる。
 疲れ切った体が温められ、思わずランザンは息を漏らした。
「……すごい人たちだな」
 そう、これは温泉である。
 くしなが指を指すと同時に光が溢れ、あいた大穴から吹きだした時には腰が抜けるかと思った。
 同時に人が吹き飛んでいたような気もするが、気のせいだろう。
 その時叫んでいた『既成事実くるせいどー!』という言葉の意味はよく分からなかったが。
「まさかこんなところで風呂に入れるとは思わなかったよ」 
 火山の熱によって地下水が温められたものが温泉なのだという。だからこういう場所ならば沸くのも不思議ではない、とアマータが教えてくれた。
 じんわりとした熱に疲れが流れ出ていくようだ。
 そうしてぼんやりしていると、つい考えてしまう。
 初めての反抗。そして、姉を救う秘薬。
 ……三人にも思惑はあるのだろう。
 父の資産は莫大で、自分と結婚すればその一部が手に入る。
 とはいえこの先はさらに危険も増すだろうに、彼女たちは文句ひとつ言わずついてきてくれる。
 立場を利用しているようで情けない気持ちもあるが、それでも。
「出てきて良かった。本当に」
 そしてここまで、自分は既に何度となく助けられている。
 結婚という事について深く考えたことはなかったが……
「仮に結婚するとして……僕はあの人達と釣り合う男だろうか」
 口にせずはいられない。
 答えは出ないまま、時は過ぎる。
 ……体も十分に温まった。
 何度目かもわからないため息をついて風呂から上がろうとしたその時だった。
「ああーっと、足が滑りましたー!」
「えっ?」
 ばしゃん、と大きな飛沫を上げて、くしなが温泉に飛び込んできたのは。
「うわわわわ」
「おおっと、岩場なのに痛くありません!」
「僕に抱きついてきたからだろう!? ちょっとあからさますぎるよ!?」
 ランザンだって男なのだ。こういうことをされると、困ってしまう。
 心臓の鼓動が速くなった。
「うわー前が見えませーん」
「目を閉じてるからだろ! いいから早く離れて! 既成事実ってこういうことか!」
 ばしゃばしゃと音を立てながらランザンはどうにかくしなを振りほどく。
 顔を真っ赤にしながら彼はため息をついた。
「最初からだけど、君の行動は何というか……心臓に悪い」
「それは失礼しました。ですが、思い悩んでいたようなので」
 どきり、とする。その通りだ。
 悩んでいるのは彼女たちのことで、自分自身のこと。
 そんなにわかりやすかっただろうか。
「お二人も言っていましたが、難しいことは後で考えればいいのです! 選ぶのは最後ですよ」
 ドン、と大きな胸を張りながら言われると、怒る気も失せる。
 だが、確かに彼女の言うとおりだろう。
「……そうだね、今は姉さんのためにも秘薬を手に入れよう。あと服はちゃんと着て」
 ランザンの顔は、吹っ切れたように見えた。

 フートゥンとクーガーは火山を行く。
 しかし、火山には予想を超えた危険が満ちあふれている。
「あぶねぇ、ニイチャン!」
「う、うおーっ!」
 突然に頭上から迫る落石にフートゥンは悲鳴をあげた。
 体が動かない。こんなところで、ディエンも救えずに終わってしまうのか。
 そんな思いがよぎった瞬間、ものすごい勢いで体が横へと吹き飛ばされた。
「ぐぇっ……」
「ぬおおおおおっ!」
 ずうん、という激しい音。
 たちこめる砂埃。
 ぼやけた視界の中で、フートゥンはクーガーが身を挺して自分を救ってくれたことに気付いた。
 疑っていた自分を恥じる。彼は本当に自分のために行動してくれていたのに、信じ切れなかった。
「くそっ、すまない……クーガー……」
 目の前には巨石だけがある。クーガーはこの下敷きになってしまったのだろう……とてもではないが自分の力では救い出せそうもない。
 涙が溢れた。ここまでしてくれた彼のためにも、必ずディエンを……
「うりゃあっ!!」
「なっ?」
 目を疑う。目の前にあったはずの岩が吹き飛びそこにあったのはクーガーの姿。
「おー、危ねえあぶねぇ。無事か、ニイチャン?」
「なんてことだ! すごいぞ、君は!!」
 にやりと笑うクーガーに、フートゥンは驚きと喜びに包まれる。
「言ったろ? 必ず助ける、ってな?」
 
「ディエンとの出会いは街の花畑でな。その頃はまだ彼女の体も悪くなくて……」
 命の危機を乗り越えて、二人の距離は急速に縮まっていた。
「美人なのに影があるって感じだからなー! そこがいいんだけどよ」
「でもやっぱり俺は心から笑った姿を見たいんだ! あの頃の笑顔を!」
「俺も見たいもんだぜ。その為にはお前も無事で帰らねーとな、フートゥン!」
「その通りだ! 必ず秘薬を手に入れて彼女のところへ帰る!」
 しばらく襲撃もない。ライバル達も他人に構ってはいられないということか。
 既に二人は火山にぽっかりと口を開けた洞窟へと足を踏み入れている。
 眼下には赤い溶岩がうごめき、吹き上がる熱が頬を焦がす。
「それにしても、秘薬は本当にこんなところにあるんだろうか」
「お宝ってのはこういう場所にあるのがお約束ってもんだぜ」
 疑問を呈するフートゥンだったが、クーガーの答えは単純明快。
 彼の力を持ってしても治すことのできない病。それをなんとかしようというのだから、これくらいの無茶はやってのけねばならないのだろう。
 頭上で彼らを見守るように飛ぶドローンを見上げ、クーガーは胸の前で十字を切った。
 ディエンも、フートゥンも必ず救ってみせる。
 それこそが『聖者の誓い』なのだ。

「……なかなか深いな」
 ドローンから送られてくる映像に新兵は眉をひそめた。
 跳弾による狙撃は障害物をものともしない。射程距離も並のスナイパーでは比較にならないほどだ。
「それに、このルート……どんどん火口へと降りていっているみたいだ」
 それでも、ターゲットまでのルートが複雑化すれば弾着までの時間は延びていく。
「さっきの落石も二つ目以降は阻止できたけど」
 先の落石は偶然ではなかった。何者かが二人を狙って引き起こしていたのだ。
 新兵は素早く対応し追撃を全て防いでいた。今は襲撃が止んでいるのも彼のおかげ。
 これ以上距離が離れればとっさの危機に対応が間に合うかどうか。
「それにしても、彼らは秘薬を守っているのか? それとも……」
 こんなところに隠された秘薬。
 おそらくは医術というより魔術的な力が秘められているのだろう。
 ランザンやマルコも別のルートから火山へと突入している。
 猟兵、OX-MENならば大丈夫だろうが……一般人には危険が多すぎる。
「さて、どう対応していくかな」
 ドローンからめまぐるしく送られてくる情報を視界の端に納めながら、新兵はスコープを覗き込んだ。

 火の粉は高く舞い上がり、侵入者を呑み込もうと溶岩は弾ける。
 足場は狭く、小さい。落ちればひとたまりもない。
 そんな状況でもマルコは『竜飛鳳舞(リュウトビオオトリマウ)』の動きで火山洞窟を進んでいた。
「……しつこいね。火山に入ってから何か殺意が増した気もするし」
 洞窟に足を踏み入れてからも襲撃は続いていた。
 だが彼は跳躍を繰り返すことで攻撃をものともせずに進んでいく。
「我らが竜の道を阻む者よ」
「炎の中で世界を紅く染めよ」
 男たちはよく分からぬ言葉を口にするが、投げた槍もマルコには届かない。
「火の巫女の選びし鳳よ」
「贄となりて山の怒りを呼び起こせ!」
「竜の目覚めはもはや止まらぬ!」
「……」
 どうにも物騒な話だ。
 マルコはその言葉の意味を考えながら、ふたたび火山の奧へと跳躍するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アマータ・プリムス
さて、婚活を頑張りませんといけませんね
まずはランザン様を追うとしましょう

婚活も大事ですがランザン様の今後を考えるとやりたい事のお手伝いをした方がよさそうでもあります
というわけで頼みましたよ、ネロ
危険がないように裏方をしてください
それとこの婚活の裏も探りなさいね

その間に当機はイベントをば
ランザン様の三歩後ろを歩きお話相手になります
街の外が初めてとのことですしあれこれ説明して差し上げましょう

地道に好感度を稼ぎながら足場の悪いところなどでは手を繋ぐ
「危ないので。ただそれだけです」
そしてにっこり笑顔これでばっちりですね
当機はできるメイドですので婚活もお手の物です

最後は婚活の謎解きといきましょうか



●それは願いの心

「さあ、ランザン様、お手を……」
「ああ、ありがとうアマータ」
 火山の熱気はさらに増し足場もどんどん狭くなる。街の外を歩いた経験のないランザンには厳しい環境だ。
 差し出されたアマータの手を取り見上げれば、そこには女神が如き笑顔。
 思わずドキリとしてしまう。
 どうにも、この三人の女性は心臓に悪い。ごまかすように咳払いをするとランザンはふと疑問を口にした。
「それにしても……大分進んで来たけれど、秘薬とはどんなものなんだろうね」
「おや、知らないのですか?」
 アリッサが首をかしげる。
 ディエンの病を治す秘薬。婚活の条件にするくらいなのだからポンカンの家に伝承くらいあっても良さそうだが……
「シーシュオ姉さんの方は何やら父さんと話をしていたから知っているのかもしれないけれど」
「ふむふむ、カギはシーシュオ様ですか」
 やはりネロを彼女につけておいたのは正解だったようだ。
「秘薬というからには草か、液体……そういう類いのものでしょうか」
「これでそんなものがない、なんてことになったら婚活自体が成り立ちませんしね」
「それはいいのですが、アマータさんはいつまでランザンさんの手を握っていらっしゃるのです?」
「えっ……あ」
 と、そこでランザンが顔を赤らめる。手を貸してもらったままの状態だったのだ。
「危ないので。ただそれだけです」
「いえいえいえいえ、アマータさん。ここぞとばかりに好感度を稼ぎに行きましたね」
「当機はできるメイドですので、ランザン様の身の安全を最優先に行動しています」
 しれっと言うが、できるメイドは婚活もお手の物なのだ。油断はできない。
 それはさておき。
「ところで、いくら何でも暑すぎはしないでしょうか」
「それは……火山だからね」
 それくらいはランザンにもわかる。
 しかも溶岩が蠢く内部へと入ってきているのだから当然だろう。
 彼も限界は近いが、それ以上にアリッサは火山の熱を感じているようだ。
「こんなに暑いとパプンもサメも私もへばります」
「サメ?」
 サメなんてこんな火山にいただろうか……
 そんな疑問を感じるよりも早く、彼女は行動に出た。
「わっ、これは一体……」
「ふむ、アリッサ様の操る根底の泡ですね。これならば……」
「なるほど、伝わる熱をブレイクするというわけですね!」
 ぷかりと浮かび上がった水泡が彼らを包み込む。
 アマータの解説に続き、アリッサがどや顔。
「ですので火山を実家に変えます」
「はい?」
 言うが早いか、アリッサの髪から水が滴った。
 ぽたりと波紋を作ると同時、赤く染まっていた景色は深い青へと変わり辺りは海底へと変化する。
 これこそがセイレーンの秘術、『シェイプ・オブ・ウォーター』!
「その泡が水圧から守ってくれます。これで快適に進めますね……」
「いけません、この場所でそれは!」
「え?」
 この魔法は辺りを深海と同じ環境に変える。
 深海に、火山。それはすなわち海底火山と同じだ。
 激しい水蒸気爆発が、火山の中心で巻き起こった。

「……ン。地震かな?」
 マルコが突然の振動に警戒を強くする。
 こんな場所で地震。噴火の前兆なのではと考えずにはいられない。先ほど聞いた山の怒りという言葉が頭に浮かんだ。
 だが、幸いにして眼下の溶岩だまりの活動が激しくなるなどということもなく、ほっと胸をなで下ろす。
 だって、目的の秘薬を前にして引き返すようなことになれば無念の一言では片付けられない。
 彼の視線の先。広大なるマグマの中心には、小さな祭壇が。
 その中心では紅い宝玉が眩しく輝いているのだ。
「わかりやすくて助かるね」
 このような環境でも祭壇には傷ひとつない。
 きっと宝玉の持つ力なのだろう。あれならば確かに不治の病も治してしまうに違いない。
 既に襲撃は振り切った。
 しかし、これまで以上にあの祭壇へとたどり着くのは困難なようだ。
「足場は……ないか」
 祭壇に続く道は存在していない。本当にぽっかりと、溶岩の海の真ん中にそれはある。
 ふう、と息を吸う。
 猟兵とはいえあそこに落ちれば命はないだろう。
 この世界を脱出し、元の世界に戻る。
 その為には試練を乗り越え、婚活の資格を持つ証しである勾玉がどうしても必要だ。
 だが、ここで彼が命をかける必要はあるのだろうか?
 この世界は幻だ。ポンカンもディエンもシーシュオもランザンも彼らがこの獣壊陣を抜け出せば消え失せてしまう。
 それでも誰かの命を救う為に、自らの命をかける必要があるのだろうか。
 マルコが虚空を踏みならし、跳躍できる回数は100に満たない。
 祭壇まで届くかはギリギリと言ったところだろう。
 しかし、マルコはためらいもせずに一歩を踏み出した。
「約束しちゃったしね」
 ――父さんの試練を乗り越えて私のところまで来てよ。絶対だからね?
 シーシュオの顔が浮かぶ。
 理由なんて、それくらいで十分なのだ。
 一歩一歩、宙を駆ける。
 壱――弐――
 舞い上がる火の粉が頬を焼き、弾けるマグマが裾を焦がす。
 四拾壱――四拾弐――
 自分が飛んだ数を数えながら、時に吹きだした火柱をかわしながら祭壇へと飛ぶ。
 その姿は灼熱の世界を舞う竜か、それとも炎の中から蘇る鳳か。
「これで……最後……!」
 最後の一歩を踏み出すと同時。ユーベルコードの力が失われていくのを感じる。
 そして。
「ギリギリだったね。でも、これでゴールだ」
 マルコは力を放つ宝玉の前へと降り立ったのだ。 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリッサ・ノーティア
へいユー。私のクラゲと一緒にいかないです?いらない?そうですか……

パプンの力で徒歩の消耗を抑えつつ、他の方のサポート役としてゴーです。
しかし、こんなに熱いとパプンもサメも私もへばります。

ですので火山を実家に変えます。
事前にランザンさんや希望された方に根柢の泡での保護をしておき、髪から水を発射。のち水を細かく雨へ、そのままこの場を深海に変え、溶岩を冷やし熱さを和らげて探しましょうか。
あ、その泡がそのまま呼吸は続けられるので。割らないようにご注意を。

所でランザンさん。秘薬とはどういう物?旅行の経験は?
ない?ならいいです。折角の旅です、しっかり楽しみましょう。
此処は色々あって、不思議で楽しいですよ。



●幸せの青い鳥
 
「いやあ、危ないところでしたねぇ」
「うう、助かったけど苦しいよ、くしな……」
 胸の中に抱きしめられる形でランザンは呻きをあげる。
 先の爆発によって飛び散った岩石やマグマは彼らを一斉に襲った。
 その大半はアリッサの作り出した深海環境と冷気を籠めた根底の泡で食い止められたが、それでも全てを防ぎきることはできなかったのだ。
「やってしまいました」
「何とかしのげましたが、よもやこのような事態になろうとは当機も予測できませんでした」
 荒れ狂う火山のエネルギーはこうも怖ろしいものなのか。
 正直ランザンは死を覚悟した。
 しかし、彼女たちは必死で彼を守ってくれたのだ。
 特にくしなは自身の体を盾にしてまで!
「本当にありがとう、三人とも」
 どうにか解放されたランザンは向き直り、まっすぐに見つめる。
 アリッサは外の世界に踏みだす切欠をくれた。
 アマータは外の世界のことを教えてくれた。
 くしなは進むべき道を示してくれた。
 だが、だからこそ言わなくてはならない。
「ここまでこられたのも君たちのおかげだ。だから言うよ。ここで引き返そう。これ以上君たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない」
 姉の病を治すこと。自分の心に従うこと。
 全て為したとは言わないが、それは彼女たちを危険に晒してまで手に入れるものではない。
 そう選択できるようになったのも、一緒にここまで来てくれたおかげだ。
 ランザンの言葉に彼女たちは顔を見合わせる。
「帰り道も君たちの手を借りることになるとは思うが……」
「ええ、ええ。これ以上進む必要はありませんとも」
「はい、当機たちの目的は達成したと言えるでしょう」
「これも日頃の行いのおかげですね」
 と、そこで違和感を覚える。
 これ以上進む必要はない? 目的は達成? 日頃の行い?
 どういうことだろうか。結婚を狙っているのならば秘薬の入手が条件のはずだが……
「気付きませんか? 暑くないでしょう、周りを見てください!」
 くしなが笑う。
 そういえば先ほどまでのうだるような暑さは微塵も感じられない。
 慌てて辺りを見渡せば、そこは小さな横穴のようだった。
「私が見つけました。この状況を予測して爆発を起こしたのです」
 ふんす、とアリッサが胸を張る。
 先の爆発によって火口の一部が崩壊し、この場所が口を開けたのだ。
 洞窟の天井には反射した光が煌めく。
「何らかの力によって封じられていたようですが……このような火山の奧で枯れることなく湧き出す水。ここに生命エネルギーが宿らぬはずがありません」
 アマータがボトルをランザンに差し出した。
 震える手で受け取り、一歩を踏み出す。
 その中央に設えられた、天使の刻まれた祭壇の中心から滾々と湧き出る泉の水は冷たく、生命力に満ちあふれている。
「僕は……やったのか」
「そうですとも! 良かったですねランザンさん!」
「このような不思議な光景が見られるので、旅はやめられません」
「さあ、どうぞ。正真正銘、ランザン様の努力によってここまでやってきたのです」
 深い深い青。この水があれば、きっと病気も治るに違いない!

「うおおおおおおおっ」
「クーガー!」
 クーガーの、フートゥンの叫びが火山に響く。
 吹き上がるマグマはまるで意思を持ったかのように彼らへと襲いかかる。
「メディック、聞こえないの!? それ以上は無理だ!」
 新兵は通信機に呼びかけるが、聞こえているのかいないのかクーガーは退くことをしない。
 火山の外から奧まで銃弾を届かせるのはどうしたって時間がかかる。
 蛇の頭部のように伸びたマグマがはじけ飛んだ映像が届いたが、それだって何射前のものだか知れたものではない。
 高速で軌道を計算し、跳弾による狙撃を続けるがこんな戦い方がいつまでも続けられるものか。
「あと少し……目の前なんだ!」
 肉の焦げる匂いにフートゥンの喉に苦いものがこみ上げる。
 だが、彼も退くわけにはいかない。
「そうだ! 俺が全部引き受ける!」
 彼らは遂に見つけだした。
 灼熱の火山で、切り立った崖の上にある祭壇の中心に、一輪だけ咲いた白い花を。 
 あれこそが秘薬に違いない、と駆け寄ろうとした瞬間、火山はそれを守るように彼らへと牙をむいたのだ。
「お前は絶対にあの花を手に入れろ! ディエンを助けるんだろ!」
「ああ、そうだ! 俺はディエンを助けるまで立ち止まらない! クーガー、いくぞ!」
 押し寄せる炎と岩の濁流にも屈せず二人は歩を進めた。
 喉は焼け、頬は焦げる。
 絶対にディエンを救う。それだけのために。
 竜の叫びが、聞こえた気がした。
 
「……」
 新兵は遥か遠くからその姿を見つめる。
「……すごいな」
 惚れた人のため。フートゥンは文字通り命をかけている。
 クーガーもそれに同調し、彼の盾となってその目的を果たそうとしている。
 ――狙撃屋が直接同行しても寧ろ足手纏いになりかねない。
 事実その通りだし、こうして援護するのが自分に取れる最良の手段だ。
 それはわかっている。だが。
「俺なら火山に乗り込んでいく勇気なんてない」
 覚悟がないわけではない。懐の拳銃の重みはよく分かっている。
 それでも、思わずにはいられない。
「君はすごい奴だ。だから」
 もう退けとは言わなかった。
 この一射は、彼らを進ませるために。
 
「よし、あと少しだぜ! 頑張れよフートゥン!」
「おう!」
 あと少し。あと少しで花に手が届く。
 だが襲撃はますます激しくなっていく。
 クーガーがその身を盾にすれば、弾けた炎が舞い上がった。
「うおおおおおおおっ! 行けっ! フートゥン!」
「ぬあああああああああああああああっ!」
 クーガーもフートゥンも全身やけどだらけ。
 だが、心はひとつ。
 体が焦げる匂いに耐えて、花へと手を伸ばした。
「よし、クーガー!」
 その花は生命力に満ちあふれ、炎の熱の中でも優しい暖かさに心が安らぐ。
 これならば、きっと。
「ああ、戻るぜ!」
「メディック、急いで! 後ろがまずいことになってる!」
 ドローンの向こうから新兵の声がする。
 吹き出すマグマは勢いをさらに増し、彼らを呑み込もうと荒れ狂っていた。
 もはや一谷の猶予もない。
「走れ走れ走れ!」
「おおおおおっ!!」
「そこを右だ! 今度はまっすぐ!」
 必死に駆ける二人であったが火山の勢いはすさまじく、やがてその手を届かせようとする。
「いいか、フートゥン! 何があっても立ち止まるんじゃねぇぞ!」
「!? ……ああ!」
 何があろうと絶対守る楯となる。
 その誓いと共にここまで来たのだ。終わりになどさせるものか。
 クーガーは突如として立ち止まり、溶岩へと向き直る。
 そして自らを盾として紅い灼熱を食い止めた!
「うおおおおっ!」
 叫びが響く。
 だがフートゥンは振り返らない。
 ディエンを救うため。
 クーガーの誓いを果たすため。
 駆け抜けた先に光が見える。
 すれ違うように、『銀の弾丸』がクーガーへと向けて飛んでいった。

 洞窟は遙か遠く。ここまで来ればもう大丈夫だろう。
「クーガー……」
 ゼエゼエと息を吐きながらフートゥンは振り返り山を見上げ、手の中の白い花を見る。
 心が痛む。だが、あのとき立ち止まったりしていたら、それは彼への裏切りとなる。
 たとえ見捨てることになったとしても……
 だが、いつまでもこうしては居られない。この花をディエンに届けるのだ。
 息が落ち着いてきたところで、ようやくフートゥンは立ち上がった。
「お疲れ様。これで後は街に戻るだけだね」
「おうよ、これでディエンも治るんだろう?」
 背後からクーガーの声が聞こえた気がする。彼には感謝してもしきれない。
「だが俺は振り返らないぞ。君のためにも街へ向かわなければ」 
 強い決意と共にフートゥンは一歩を踏み出す。
「それにしても間に合ってよかった。銃弾が届くまで保たせるとは、流石はメディックだ」
「おう、助かったぜ。あそこで弾が飛んでこなかったら俺も危なかったんだぜ」
「……え?」
 フートゥンを逃がした直後。新兵が放った強力な特殊弾頭が溶岩を吹き飛ばし、クーガーの脱出する隙を作り上げていたのだ。
「クーガー!」
 まさかあの状況からも生還するとは。
 振り返り、思わず駆けだしたフートゥンにクーガーは笑いながら言った。
「よう、フートゥン。早速ディエンを治しに行こうぜ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

マルコ・トリガー
フーン、婚活ねぇ
やらなきゃ勾玉が手に入らないのなら、やるしかないね
なりゆきとはいえ、シーシュオって人と約束しちゃったし
しかしまあ、ただのお見合いって感じじゃなさそうだよね
シーシュオを追ってた奴らも気になるし
それに危険とか困難な試練って言われたら、クリアするしか無いよね
子どもだと思ってボクをナメてもらったら困るよ

火山は地に足をつけないで【竜飛鳳舞】で跳んで移動
なるべく目立たないようにね
武器を使う必要があるなら誘導弾で確実に狙おう
変なとこに当たって落石落盤とか困るし
あとはOX-MEN以外の参加者に注意かな
もし、妨害でもしてくるようなら……まあ、わかってるよね?

事件を解決して早く元の世界に帰ろう



●騒動の果てに

「ランザン! お前は……なんということを!」
「ごめんなさい、父さん。でも姉さんの事だ。僕がやらなきゃいけないと思ったんだ」
 どうにか無事屋敷へと帰還したランザンをポンカンは怒鳴りつけた。
 当然だろう。書き置きひとつ残して飛び出して、火山に向かったなどと聞かされれば。
「でも、行った意味はあったよ。多くのことを知って、多くのものを手に入れた。これも、そのひとつだ」
「これは……」
 差し出したボトル。それこそがあの火山に眠っていた秘薬。
 灼熱の溶岩の中でも決して絶えることなく湧き続ける泉の水だ。
「これで姉さんは治るんだろう?」
「ああ、そのはずだが……」
「そうなの? なら、僕が取ってきたこれは何なんだろうね」
 と、そこで戻ってきたのがマルコだ。手には紅い宝玉。
 燃えさかるマグマの中心で輝きを放ち続けた、祭壇に供えられていた逸品だ。
「宝玉だと? 確かにものすごい力を感じるぞ!」
 ポンカンは驚きを隠せない。
 確かに、あの火山には秘薬が眠っていると聞かされていた。
 だが、それだけだ。彼自身もどんなものであるか知らずに婚約志望者達を送り出していたのである。
「マルコくん、ありがとうね。約束守ってくれて」
「ま、言ったからには仕方ないよね」
 マルコの帰還と共にシーシュオも屋敷へと戻ってきた。
 少しほっとした顔で、にっこりと笑う。
「シーシュオ! どう言うことだシーシュオ!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえてるってば」
 そう、 全てを知っているのは彼女だ。次女の彼女こそがこの婚活騒動をポンカンに持ちかけたのだ。
「ちゃんと説明するからもうすこしまって……」
「ポンカンさん……ディエンの病を治す秘薬、確かにこのフートゥンが……」
 最後に現れたのはフートゥンだ。
 全身にひどいやけどを負って体を引きずるように部屋へと入ってくる。
 その手には白い花。
 紅く染まる世界で、ただ一輪白く裂いていた力強い花だ。
「ああ、フートゥン! なんて無茶を……こんな怪我まで……ゴホッ、ゴホッ」
「ディエン……そんなふうに苦しんでいる姿を見るのも、今日で終わりにできる!」
「……今度は白い花だと? 一体秘薬とは……」
 今にも崩れ落ちそうなフートゥンを支えるディエンを見ながら、ポンカンは疑問を覚える。
 一体、どれがディエンの体を治す秘薬だというのか。

「全部必要だったんだよ」
「何?」
 唐突に、紅い光が部屋を包んだ。シーシュオがふう、と息を吐く
「ディエン姉さんの病気は普通の病気じゃない。呪いみたいなものだったの」
 その手にはマルコが持ってきた物とそっくりの宝玉があった。
「あの火山には祀られていたのは、これの対になる宝玉」
 シーシュオは語る。あらゆる手を尽くしてディエンの病を治す方法を探したことを。
 そして、白い花を泉の水で煎じればそれが為されることを。
「何と……私も方々手を尽くしたが」
 ポンカンさえその事実を知らなかった。シーシュオが『あの火山に秘薬がある』と伝えてきたときも半信半疑だったのだ。
「私だって知ったのは偶然みたいなものだよ。とにかく、全部手に入れるためには多くの人手が必要だった」
「……それで婚活を利用した、ってわけか」
「ごめんね、巻き込んじゃってさ」
 マルコの問いにシーシュオはばつの悪そうな顔をする。
 だがまずは秘薬だ。シーシュオが二つの宝玉を手にすると、白い花と泉の水が浮かび上がった。
 そして光の中で混ざり合い、ひとつの雫がぽたりと落ちる。
「さ、姉さん。言いたいこと、聞きたいことはあるだろうけどまずは飲んでよ」
「シーシュオ……」
 振り返り、フートゥンの、マルコの、ランザンの顔を見る。
 意を決して飲み干せば、みるみるうちに顔に赤みがさしていくではないか。
「ああ……苦しさが嘘のように……」
「ディエン!」
「ディエン姉さん、本当に……」
 猟兵たちがこの街を訪れてから。
 いや、ずっとずっと前から見せることのなかった笑顔でディエンは笑った。
「ああ、良かった……姉さん……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーガー・ヴォイテク
火山へと向かおうと進む最中に新兵(f14461)にフートゥンの話を聞き
「そいつは素敵な話じゃねえか。しょーがねえな、助けてやるとするぜ」
人生の節目はハッピーエンドであってほしいってもんだぜ。と呟きながら火山へ先行。フートゥンを待ち構える

「恋人を助けたい気持ちはわかるけどな。心配してたぜ?」
ディエンから助けてほしいと依頼を受けた体にし接触

空を見上げ、ドローンを確認し
十字を胸の前で切り、祈り、覚悟を決め自らを鼓舞するように気合をいれ"聖者の誓い"を捧げる

「ニイチャンは何があっても迷わずに突き進め、全部俺が助けてやるぜ」
何があろうと絶対守る楯となる為、患者の心まで癒すため
OX-MEDICが突き進む!



●婚活大作戦

 それから、ディエンの回復を祝って街は上を下への大騒ぎ。
 宴会は夜遅くまで続いていく。
 そんな中シーシュオは一人空を見上げていた。
「何やってるの? こんなところで一人でさ」
「うわっ!?」
 突然の声。振り返れば、そこにいたのはマルコだった。
「びっくりした……あー、その、ね」
 どう説明したものか。シーシュオは目を泳がせる。
「あいつら、噴火を起こそうとしていたんでしょ? なんでみんなに言わないのさ」
「げっ、何で知ってるの」
「僕も聞いちゃったんだよね。あの宝玉を持って帰る途中でさ」
「ああ……そりゃそうか。これが話すんだからそっちも喋るよねぇ」
 そう。シーシュオの持つ宝玉とマルコの手に入れた宝玉。
 これらは意志を持ち、持つ者に語りかけてくる。故にマルコもまたこの騒動の裏を知ったのだ。
 シーシュオは観念したように語り出す。
「さっきも言ったけどこれを手に入れたのは偶然なんだよね。で、いろいろ教えてくれたってわけ」
 宝玉のひとつはあの男たちが手に入れ、噴火を引き起こすために火山に祀っていた。
 そして彼らが探していたもう一つはシーシュオを手に渡り、彼女へと男たちの企みを阻止してくれと語りかけてきたのだ。
「それで姉さんの病気……呪いもあの山の噴火を引き起こす儀式の余波だって知ったんだ。話を聞いていく内に呪いを解く為に必要なものもわかった。でも……」
 男たちはシーシュオの宝玉を狙っていたし、宝玉を持つ彼女が火山に近づくわけにはいかない。 
「なるほどね。追われてたのはそういうことだったのか」
「うん、だから火山に向かう人を集めたんだ」
 噴火を食い止め、姉の冒された呪いを解く、一石二鳥の大作戦。
 それこそがこの婚活だったのだ。
 手にした宝玉を見つめ、シーシュオはつぶやく。
「あるべき場所に返してあげるって約束したんだ。だから君とすぐには結婚できないな」
「気にしないで。僕も結婚する気ないし」
「つれないなぁ。そこは僕も一緒に行くよーとかいうところじゃないの?」
 マルコの返事に、シーシュオは小さく笑った。
「本当にありがとうね、マルコくん。君のおかげで姉さんは助かったし宝玉との約束を果たすことができたよ」
「よかったね。まあ僕も目的があってやったことだし」
「わかってる。ほしいのはこれでしょ?」
 手を取り、何かをマルコの手に握りこませる。
 それはこの世界を脱出するために必要な宝具、勾玉だった。
「ありがと。じゃあ、僕は行くよ」
「うん、またね」
 勾玉を少しだけ見つめた後、マルコは振り返り仲間の元へと戻っていく。
 あっさりしたものだ。その背を見つめながらシーシュオは小さく漏らした。
「あーあ、結構本気だったんだけどな」

「よお、フートゥンにディエン! よかったじゃねぇか!」
「ぎゃああああああ!」
「フートゥン! しっかりしてフートゥン!」
 バシン、とクーガーがフートゥンの背を叩く。
 だが、そこはやけどのひどい場所で、激痛に彼は悲鳴をあげてしまう。
「ひどいぞ、クーガー……」
「ははは、悪ぃな。だがお前の根性には俺も恐れ入ったぜ」
「本当に、ありがとうございます。フートゥンのことも、私のことも助けてくれて……」
 ディエンの顔色は本当に色艶がよく、最初にあったときとは比較にもならない。
 その顔が見られただけでもこの世界に来た甲斐があったというものだ。
「っと、ところでもう一人の功労者は?」
「功労者なんて言わないでくれ。あくまで立ち向かったのは君だ」
 帽子で表情を隠しながら、クーガーの後ろで新兵が答えた。
 こうして顔を合わせたのは街を出る前に交渉して以来だが、新兵からの情報や援護がなければこうして生きて帰ってはこられなかっただろう。
「いいや、君とクーガーのおかげだ。こうしてディエンが元気になったのも」
「その……うまく言えないけれど、よかった。なんというか……君の勇気は誇っていい……と、思う」
「そうなんだぜ、あのときは俺も驚いた」
 ははは、と笑い声が響く。
 そうしてやがて時は過ぎ。
「さあ、持って行ってくれ。約束通り勾玉は君たちに譲る。これが必要なんだろう?」
「おう、ありがとうな!」
 勾玉を手に、彼らはあるべき場所へと向かって行くのだった。

「シーシュオ姉さんがいなくなったんだ」
「むむむ、それは大変ですね」
 夜が明けて、ポンカンの屋敷は騒然としていた。
 上の姉の完治と結婚を祝っていたかと思ったら、もう一人の姉が行方をくらましてしまうとは。
 この旅でたくましくなったランザンも流石にこれには動揺を隠せない。
「まあ、そんなに心配はしていないけど……なにもこんな日に出て行かなくても」
「自分の意思で出て行かれたようですし、いずれまた戻っていらっしゃいますよ」
 実のところ、アマータはシーシュオの事情を知っている。
 が、これを知らせてしまえば彼らの心に傷を残すことになってしまう。
 いつか当人が帰ってくるまで、このことは秘密にしておいた方がいいだろう。
「それはそうと、ランザンさん! どうするのですか!」
 くしなが声をあげる。
 無理もない、昨晩は「まだ待ってくれ」といわれてこの時間まで待ちぼうけを受けたのだから。
 ランザンが勾玉を見つめる。
 結婚の許しを得た証し――すなわち、これを渡したものにプロポーズをしたと言っても同然なのだ。
 既にマルコと、クーガー新兵のコンビが勾玉を手に入れているが、獣壊陣から彼女たちは解き放たれていない。
 ランザンが持つ最後の勾玉も入手しなければならないのだろう。
「わかっているよ。僕も覚悟を決めた。アリッサ、アマータ、くしな。目を閉じてくれ」
 言われるがままに、三人は目を閉じる。
 そしてそれぞれが言葉を紡いでいく。
「ランザンさん、旅はどうでしたか? 不思議で楽しいものは見られましたか?」
「ランザン様、当機を選んでくれるものと信じておりますよ」
「ランザンさん! くしなんと一緒にいればきっと毎日楽しいです!」
「ああ、本当にありがとう。君たちは僕なんかには勿体ないよ。だから必ずそれに見合う男になる」
 それぞれの手に、何かが触れた。
「これはその誓いだ」
 その言葉を最後に、意識が遠くなっていき――

 目を開ければそこは双星山であった。
 獣壊陣は崩壊し、彼の地に送り込まれたメンバーは元の世界に戻ってきたのだ。
 アリッサは眉をひそめ、アマータは淡々と。しかしほんの少し困ったような表情で口を開く。
「むう、結局ランザンさんは誰を選んだのですか」
「これではわかりませんね」
 何と驚くべき事にそれぞれの手には同様に、勾玉が握らされていた。
 マルコとフートゥンは秘薬をそれぞれ一人で届けたが、ランザンは三人と共に戻った――彼を狙っていた三人分の勾玉をポンカンは用意していたのだ。
「いえ、これは私たち全員をという気概と受け止めましょう」
 くしながぐっ、と勾玉を握りしめる。一夫多妻の世界だってあるのだ。
「それはいいけれど、先に戻ってきたみんなは戦っているみたいだよ」
 マルコの声に視線を向ければ、そこには雷鳴が光る。
「まったく、戻ってきて早々こんな事態になってるとはね」
「どんな状況でも関係ねぇ! 俺は守るだけだ!」
 新兵がぼやき、クーガーはいつものように拳を打ち付ける。
 戦いは既に始まっている。仲間の元へと戻らなくては。
 
 婚活という場で繰り広げられた騒動は、心を癒やす戦いでもあった。
 病に沈んでいたディエンに笑顔を取り戻したこと。
 シーシュオの覚悟に応え、あの街と彼女を救ったこと。
 閉ざされていた心を開き、ランザンの世界を広げたこと。
 あの世界は幻だったのかもしれないが、そこで得たものは確かにあったのだ。
 そのことを胸にオックスメンは戦場へと駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月13日


挿絵イラスト