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ロンリー・アンサンブル・カーテンコール(作者 硅孔雀
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●アリスは最初から
 絵本の中のお姫様が嫌いだった。
 私なら月からの迎えは皆殺しにしたし、継母が私を恐れるなら死んであげたし、いつまでも灰に塗れて舞踏会になんていかなかった。
 どうしてもハッピーエンドが理解できなかった。物語の世界にも私の幸福はなかった。
「それは君が悪いから。気味が悪いからあっちいっちゃえか。確かになあ」
 森の中の音楽堂。天井代わりに広がる満点の星空へと手を伸ばす。
『いっしょにおどってうたってはなをつもうよ“   ”!ぼくらのともだち!』
 私の名前を最後に呼んでくれた不思議なお友達。けれど。けれどけれどけれど。
 私が喋ったら、皆が冷たい視線を向けたり反らした後に怯えていた。
 結局私はどの世界にいても孤独なのだ。
 皆から切り離されて、お腹が冷たくなるその気持ち悪さを『思い出した』瞬間。

 うらがえりました!うらがえったのよ!うらがえったわ!

●グリモアベースには紅茶の匂いが満ちている
「アリスラビリンスに絶望の国が生まれてしまったの」
 グリモア猟兵ジェット・ホークスアイはカップに紅茶を注ぐ。
 絶望の国。アリスがオウガに堕ちれば唯一の帰り道である自分の扉はもう決して開かぬ絶望の扉へと変わる。絶望の扉を抱く絶望の国ではオウガが無尽蔵に産み出され、目覚めの時、弾け飛び出るのを待つばかり。
「オウガのゆりかごといった所かしら。物語を真に終わらせる方法はたった一つ。オウガになったアリスを殺し世界も殺す。アリスはもう助からない」
 ジェットが紅茶を一口飲む。
「終わりの始まりのきっかけはアリスの絶望。私が予知したアリスは自分の扉を開く前に失っていた記憶を取り戻して『絶望』したわ」
 何故アリスは絶望したのかと問われたジェットは少し考え、口を開いた。
「アリスは酷く『孤独』の感情に囚われ、それが絶望へと誘った」
 人々が目を背けるような血と暴力の折り重なりにアリスは共感と陶酔と興奮を覚え、賢いアリスはそれが異常だと知っていた。自分の感性と価値観はあらゆる世界では受け入れられないと迷い込んだ世界で悟ったその瞬間孤独が絶望と交じり合った。
「どうか。どうかオウガと化した彼女に出会ったら、せめてもの慰めに孤独に囚われたその絶望に寄り添ってあげて」
 絶望を糧に膨れ上がるオウガの群れにこれ以上餌を与えないように。
「主たるオウガを失えば、絶望の国の崩壊が始まる。内包していたオウガの群れも溢れ出る……元アリスの絶望が少しでも和らげれば、産まれるオウガの群れもきっと減るわ」
 いつの間にかグリモアベースは夜空に覆われ、満月が猟兵達の頭上に輝いていた。同時に黒いドレスを纏った少女の幻影が浮かび上がる。
「アリスはもう自分の名前も忘れてオウガ『ネガ・アリス』として絶望の国の中心、音楽堂の舞台の上にいるわ。これから絶望の国、元人形劇の国へと皆を転送するわ。本当なら人形のゆかいな仲間たちが面白おかしくみんなを迎えているだろうけど月の光で皆みんな狂っている。森の中、花畑を抜けて音楽堂の舞台の上まで。まずはそこまで向かって欲しいの」
 満月の光が狂気を膨らませ住民も木々も花も星空も心から狂ってる。
 互いを罵り、何かに怯え、自傷他傷で原型を留めていない残骸が飛び散り、誰かが笑い転げる。目を覆いたくなるような惨状こそがアリスが孤独を感じない理想──絶望の国だとすれば、それに足を踏み入れる猟兵達にも狂気の招待状は直ぐに届くだろう。
「今宵皆様をご案内するのは狂気が正気だったアリスの終わった物語」
 転送ゲートが開かれた。
 満月が輝いている。

●ざまあみろ!みんなくるってせいじょうになってやがる!
 いつねるのもじゆうです。どこでわめこうがじゆうです!だれをなぐろうかじゆうです!なにをしようとぜんぶぜんぶつきのひかりのもとにじゆうです!
 せかいでふどうとくとふたをされてきたきょうきがこのせかいのしょうきです!
 おんがくどうでまっています!ちゃんとしょうきできてくださいね!!

 あなたがしたくないことは、ほんとうはあなたがしたいこと!
 あなたがみたくないことは、あなたがほんとうはみたいこと!


硅孔雀
 ここまで目を通していただきましてありがとうございます。
 硅孔雀です。
 終わってしまったひとりぼっちのアリスの物語を。

 流血、不道徳、後味の悪い結末が進行しますので苦手な方はご注意ください。

●目的
 オウガ『ネガ・アリス』の撃破(2章・ボス戦)及び絶望の国で生まれるオウガの群れの掃討(3章・集団戦)

●構成
 第1章:冒険『狂気に満ちた満月の下』。
 夜空の下、森の奥の音楽堂を目指してください。道中はいかなる行動中でも月の光が降り注ぎ、普段猟兵の皆様が抱えていた狂気が沸き上がります。
「自分が見たくない存在・事象」または「猟兵の皆様がしたくない行動」が露悪的に歪められ、幻覚の様に目の前に広がります。具現化した狂気に耐えるか身を委ねるかはご自由に。
 絶望の国の住民達の五感を通じて元アリスは猟兵の皆様を見ています。話しかければある程度は会話できるでしょう。

 第2章:ボス戦『ネガ・アリス』。
 既にオウガになっているアリスとの対峙。決して元には戻りません。
 しかし、アリスの抱えていた絶望を和らげることが出来ればそれは救いになるでしょう。第3章の開始条件に影響します。

 第3章:集団戦『???』。
 オウガが撃破された後、絶望の国が崩壊する中オウガが溢れだし戦闘します。
 第2章でアリスの絶望が和らいでない場合、シナリオ上では成功しても大量に生まれたオウガの大半は逃がしてしまう結果になります。

●絶望の国
 アリスがオウガへと落ちた事により生まれた世界。
 元は『人形劇の国』。喋るぬいぐるみやパペットの愉快な仲間達が暮らしあちこちで寸劇やミュージカルが開かれる楽しい不思議の国でした。現在はアリスの絶望に合わせて夜空に浮かび上がった満月により皆狂っています。言葉は喋れますが意思疎通は難しいでしょう。戦闘力はありません。

●注意事項
 各章につきまして断章の追加以降、プレイングを受付いたします。執筆状況につきましては大変お手数ですがMSページを参照していただけますと幸いです。
 文体はですます調で統一。流血含む過激な描写が含まれます。ご注意ください。
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第1章 冒険 『狂気に満ちた満月の下』

POW狂気にただひたすら耐える。
SPD狂気を紛らわせたり軽減するような方法を取る。
WIZ狂気に陥っても問題ないような対策をとっておく。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


・断章追加後プレイングの受付をいたします。
●月の光の所業にして構いませんので楽しみましょう!
 くまのぬいぐるみの養蜂家さんお元気?ガラスの目玉が取れそうですねごきげんよう。ええ、ええ。蜂さんとあんなに仲良しだったのに、手で握りつぶしてしまったから自分の目玉を抉り出したの?
 いいじゃない。本当はあなた、蜂さんが好きだったのよ。
 好きだったからこそコロシタクナイ。なんていうのはもう月の光の下では通用しないわ。殺したのはあなたの正気。
 悲鳴をあげないで大切な蜂さん。なんていうのはもう満月の下の元では御法度よ。あなたは愛する人の絶叫と命乞いが大好き。

 結論!
 貴方がしたくないと心に思うことは全て本当は貴方が実行したい事!
 貴方が見たくないと目を背けたいことは全て本当に貴方が見たい事!

 ……口から血が出てきた。腫れてくる前に次のお友達探さないと駄目ね。
 お腹が減ったから針だらけの鉢さんを食べ始めたの。そんなことしたくないって?
 ……ああ。ああ!ようやく新しい正気を手に入れたのね!それじゃあ私が中にいる間歌いましょう。
 『親友をなぶり殺しにして肉体すら残さず踏みにじる夜空』を!


 
 猟兵達が転送ゲートをくぐり、アリスラビリンス──すでに終わった絶望の国へと足を踏み入れます。
 絵本の中にありそうな色とりどりの可愛い木造の家が燃えていました。
 ふかふかの芝生は誰かにはぎ取られ、剥がしたばかりの緑の服ごと誰かが引き裂かれています。
 自分達で動けない花達はお互いに花びらで他害の首を絞め合っていました。
 悲鳴に怒号、泣きわめくそれを心の底から莫迦にするような笑い声。
 だれもかれもが夜空の下、満月の光が降り注ぐ中くるっていました。

 手の中の黄色と黒の縞模様の何かを食みながら、己の体をがりがりとかきむしっているくまのぬいぐるみがいました。恍惚とした表情で歌っていました。
「貴方がしたくないと心に思うことは全て本当は貴方が実行したい事
 貴方が見たくないと目を背けたいことは全て本当に貴方が見たい事
 ああ幸せだ 幸せだ 殺したくないは狂気でころしたいが正気、正気」

 猟兵の立っている地へと月の光が降り注ぎます。
 誰かの心のざわめきを表現しているかのように木々と花と住民皆がげらげら笑っていました。

 狂気に満ちた満月の光は決して貴方をにがさないわ!

◆◇◆

※7月29日8:31分よりプレイングの受付をいたします※

※猟兵の皆様が「自分が見たくない存在・事象」または「猟兵の皆様がしたくない行動」が露悪的に歪められ、具現化して目の前に現れます。
 具現化した狂気に耐えるか身を委ねるかはご自由に。
 元アリスは皆様の様子を観察し、話しかければ応えてくれるでしょう。最も、彼女は既にオウガで狂気を歓喜しています。

◆◇◆
アハト・アリスズナンバー
メアリー(f24749)と共に。◎
この国では見たくない物が正しい。
我々アリスズナンバーはアリスの物語を幸せに導く者。
ならば、目の前のアリス殺しはこの国では正しいのでしょうね。

UCで狂気を遮る透明な鎧を纏いつつ、【狂気耐性】で目の前の惨劇を無視します。
これは所詮、月の光が放つ罠。見ているアリスを殺さねばいけません。
けれどメアリは、喜んでアリスを殺すのです。
狂気に復讐の味を絡ませて、さぞかし喜んで殺すのでしょう。

ならば私も、いっそ狂ってみましょうか。
此処じゃ誰もが狂ってる。襲われた哀れなアリスは、助けに来た猟兵がオウガごと【破魔】の力で一緒に殺して、幸せになりましたとさ。
――次の哀れなアリスへ続く


メアリー・ベスレム
◎アハト(f28285)と一緒に

なんて素敵な国かしら
なんて醜悪な国かしら
えぇ、そうよ
見たくないものだからいいの!
したくないことだからいいの!

月の狂気が見せるのは
オウガに捕らわれ、弄ばれて
殺され、食べられるアリス達
反吐が出る程に悪趣味で
けれどもありふれたこの光景

メアリ自身は【狂気耐性】で耐えながら
具現化したオウガを殺して進みましょう
あぁ、それとももう既に
メアリは狂っているのかしら?

見たくないものを見せられて
したくないことをさせられて
その苦痛と恥辱は
復讐の味を引き立てる最高のスパイスだから

殺したくない、あわれなアリスだったあなた
殺してやりたい、狂えるオウガであるあなた
今から逢いに行ってあげるから


 迷い込んだけだもののアリスと量産型のアリスの幸せを祈るフラスコチャイルドのお話です。

 メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)の赤い瞳がその瞬間をとらえていました。
 悲鳴と共に真っ赤に咲く生暖かい水飛沫性の花達が美しく咲きました。
 牙と爪で抱き寄せられた彼女達は、引き裂かれながら囚われ、嬲られ、抉られ、最期にぱくん!花が咲いた場所からアリスは生まれ、そしてまたオウガが花を咲かせます。
 繰り返されるオウガの捕食光景。無力な獲物として不思議の国に放たれたメアリーは何より見知っていました。

「メアリ、さあ行きましょう」
 なまぬるい湿気に包まれ鉄錆の香り放つ花──絶命したアリスの残骸。具現化した幻想が質量を持ち侵食を開始しています。
 メアリーと共にその光景を見ていたアハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)がメアリーに声をかけました。
 彼女の銀の瞳もまた、花が開花する瞬間が映っていました。
(我々アリスズナンバーはアリスの物語を幸せに導く者。ならば──)
 アハトは量産型のフラスコチャイルドです。彼女達の共通の記憶が今銀の光の下にいるアハトを動かす最適解を導き出しています。
 絶望の国の女王となってしまったアリスの望むこの国の正常。
(目の前の……アリス殺しはこの国では正しいのでしょうね)
 所詮は月の光が放つ罠。元凶となった見ている「裏返った」アリスを殺さねば物語はいつまでも続くでしょう。
「メアリ、月の光が狂気を運んでいます。それだけです」
 ユーベルコード:アリスナイト・イマジネイションを発動させたアハトが透明の鎧を纏います。それは目の前で無限に繰り返される惨劇をシャットアウトするには十分でした。
「メアリ。これは」
 アハトがメアリーの手を引こうとしたその時でした。
 獣のような大きな牙を生やしたオウガが、幻想アリスの背後からその大きな口を開け。
「この復讐はきっと、甘くて素敵なものになるわ……だから」
 ざくり。幻想のオウガは幻想アリスごとメアリーに殺されました。赤い花が二つ咲きました。ごうごうと風が吹き、赤い花が散っていきます。
「ああ。なんて──なんて素敵な国かしら。なんて醜悪な国かしら」
 メアリーの口から零れる甘い吐息交じりの言葉だけが月の光の下でキラキラと輝いています。
「えぇ、そうよ。見たくないものだからいいの! したくないことだからいいの!」
 暗い森の中、月の光がスポットライトの様にメアリーを照らし出します。
 反吐が出るほど見た悪趣味なアリスが食べられオウガがお腹いっぱいになる光景。
 見たくない殺戮を見せられて、したくない殺戮をさせられるその苦痛と恥辱はメアリーのユーベルコード:雌伏の時(リヴェンジフルモーメント)があらゆる行動に成功するために支払わないといけない対価である以上。
「さあ行きましょう! 目の前にいるオウガは皆、殺して。殺して進みましょう」
 口の端をにいと吊り上げ、メアリーはアハトの手を取らず先へ先へと進みます。
「あぁ、月の光が綺麗……綺麗だから狂う。狂うから綺麗……」
『それとももう既に、メアリは狂っているのかしら?』
 赤い花を咲かせ続けるメアリーに、アハトは何も言わずついていく事にしました。

 メアリーが生み出す光景と行為。そこから引き出される苦痛と恥辱は彼女の復讐の味を引き立てる最高のスパイスだから。
 具現化した殺戮劇を殺戮で塗り潰す狂気の道はどこまでも続きます。
(ああ、メアリは、喜んでアリスを殺すのでしょう。狂気に復讐の味を絡ませて、さぞかし喜んで殺すのでしょう)
 アハトを動かすその原動は『アリスの物語を幸せに導く』と製造体として刻まれた原始の記憶。
 目の前で赤が赤にまみれ、悲鳴と怒号が生まれてはメアリーによって消されていく光景。
 アハトの耳にメアリーが喋っているのか、もしかしたらアハトが狂ってメアリーの声かもしれないその音が耳に入ります。
『殺したくない、あわれなアリスだったあなた。殺してやりたい、狂えるオウガであるあなた』
 ぼたり。オウガだった大きな肉片が地面にぶつかります。
『──今から逢いに行ってあげるから』
 裏返ったアリスの元へ美しく花を踏みつけ進んでいくメアリー。アハトは少しの間考え結論を導きました。

『ならば私も、いっそ狂ってみましょうか』
 此処じゃ誰もが狂っている。そうだ、狂っているよと肉片の中の口が歌っているように。
「襲われた哀れなアリスは、助けに来た猟兵がオウガごと」
 アハトが手を振るうとアリスがごぷりと赤を吐いて崩れ落ちオウガの死体と交じり合います。
「破魔の力で一緒に殺して、幸せになりましたとさ」
 ぐちゃぐちゃと赤と肉をまき散らした幻想は、二人を止めるにはあっけなく消えていきました。
 
 ──次の哀れなアリスへ続く
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

ヘイヤ・ウェントワース


POW判定

・行動
再現される過去の過ちの光景を心に刻んで
彼女との物語を終わらせる覚悟を決める

・狂気の内容

時計ウサギは信じていました
アリスが自分の扉を見つけさえすれば
オウガたちをこの世界から追い出すことが出来ると

時計ウサギは思っていました
アリスはどんな逆境にも負けず、希望の力で道を切り開くのだと

時計ウサギは勘違いしていました
自分がアリスを扉へ案内すればこの世界は救われるのだと

けれどもアリスは
元の世界の辛い出来事を思い出し、絶望の淵に沈んでしまいます

時計ウサギは気付きました
自分はアリスではない彼女自身の事を何も見ていなかったのです

時計ウサギはやってきました
今度こそきちんと彼女と向き合うために


 最後の頁が破れた本を未だ持つ時計ウサギのお話です。

 ヘイヤ・ウェントワース(時計ウサギの王子様(スチームパンク風味)・f19490)は森の奥へと向かいます。

 ある時計ウサギは信じていました。
「アリスが自分の扉を見つけさえすれば、オウガたちをこの世界から追い出すことが出来る」と。
『……いや、いや、何よこれ……!』
 ドレスはほつれ丁寧に磨かれた靴は泥だらけ。涙で汚れたアリスの顔を時計ウサギはそっと撫で、拭います。
 大丈夫だよアリス。キミの絶望はボクが祓って見せる。

 ある時計ウサギは思っていました。
「アリスはどんな逆境にも負けず、希望の力で道を切り開くのだ」と。
 キミが記憶を取り戻す方法も、元の世界に帰る道も『 』は知っているから。希望を持ち続けれていれば何とかなるさ。
『ありがとう……優しい兎さん』

『この怖い世界はどこまで続くのかしら?』
『キミが早く自分の扉を見つければ、……だから立ち上がって』
 時計ウサギはアリスの手を引き進みます。希望に満ちて救いに終わる旅路。
 ですが時計ウサギは勘違いをしていました。自分がアリスを扉へ案内すればこの世界は救われるのだと。
『うさぎさん! 私、花の冠を作ってみたの! きっと似合うわ』
『ありがとう。でも、僕が必要なのは君の笑顔。自分の扉までもうすぐだよ』
『……ええ』

 アリスを自分の扉の元へ送り出した時計ウサギは呆然とします。
 元の世界の辛い出来事が流れ込み、アリスの真っ白な顔色が涙と共に歪みました。
 手にしたしおれた花の冠がぽとりとアリスの手から落ちたその時。
 アリスは裏返りました。
 ああ! 愚かな時計ウサギのヘイヤ! 私は貴方の頭にこれをあげたかったのよ!
 ヘイヤはようやく気が付きました。
 迷い込んだアリスを自分はよく見ていて、何も見ていなかった事を!

 時計ウサギと最初のアリスの物語は永遠に再現されています。
 アリスの抱えきれない絶望がそのまま降り注いでくる狂気をヘイヤは真正面から受け止めます。枯れきった数百万の花の冠を決して踏まないように、歩き続けます。

「大丈夫だよアリス。物語は今日でお終いだ」
 今度こそきちんと彼女と向き合うために時計ウサギはやってきたのだから。
成功 🔵🔵🔴

サァカ・パウロニア
◎ ○
POW

このせかい、とてもひどい。はやく、ありすを、みんなを、らくにしてあげなきゃ。
でも。——でも。わらいごえが、うるさい。うるさい、うるさい、うるさい——!

………………え?
わたしは、いま、なにをしようとした?
どうして、わたしは、めのまえの人(モノ)を、こうげきしようとした?
どうして、わたしは、こうげきしない?
うるさいものは、けさなきゃ。けしちゃだめ。
わたし、は。わたしは、なに?

(サァカは罪の無い人々を無差別に傷つけたくないと思っています)


 美しい赤色と美しい緑色を身に纏ったミレナリィドールのお話です。

 サァカ・パウロニア(ミレナリィドールの闇医者・f28606)の拘束具越しに緑色の瞳に映るのは暗い夜空と木々。そして。
「……おうち?」
 屋根も壁の煉瓦も吹き飛んだ家々。よくよくサァカが見渡してみますと壊れた家は沢山ありました。
「おうい。おうい」 
 サァカは慌てて走ります。
(このせかい、とてもひどい)
 愉快な仲間達が苦しそうに唸っています。
(はやく、ありすを、みんなを、らくにしてあげなきゃ)
「たすけなきゃ。たすけなきゃ」
 サァカの頭上から月の光が落ちてきました。

 わらいごえが、ごうごうとふくかぜよりみみをきりさく。
『あはは!』
 うるさい。
『ふふ!』『来たわね来たわね!』
 うるさい、うるさい、
『『私達を壊す人がやってきたよ! あははは!』』
「うるさい──!」
 ドカーン! ガシャーン!
 
「………………え?」
 サァカはぬいぐるみにのしかかる尖った木をどかそうとしていました。
 木を持ち上げ、勢いよく──尖った先でお腹を刺してあげようとしていたのに!
「わたしは、いま、なにをしようとした?」
 ぬいぐるみがにやにや笑います。
 どうして、わたしは、めのまえのぬいぐるみを、こうげきしようとした?
『どうして、わたしは、こうげきしない?』『一方的に壊してお嬢ちゃん!』
 サァカの狂気が芽吹こうとしていました。
「うるさいものは、けさなきゃ」『けしちゃだめ』『裏返りそうだねお嬢さん!』
 愉快な仲間達が一斉に顔だけをサァカに向けます。
 そして瓦礫の下から這い出て手には割れたお皿やナイフを持ってにじり寄り。
「ちがうわたしこわしたくない、いたいのはだ」「つみのないひとがいっぱいこわれるのたのしいのに」
 誰かの口からサァカの声が聞こえます。
 窓ガラスの破片が足に食い込みます。ばさばさ箒で頭を叩かれます。ナイフの先が肌をなぞります。
「ほら、このひとたちはわたしたちはざいにん。いっぱいこわれてこわしましょうよ」

 ぬいぐるみや人形達──狂った愉快な仲間達が襲い掛かってくる。
「わたし、は」
──わたしは、なに?
 問われたのなら答えましょう。
──罪の無い人々を沢山傷つける善良なサァカ・パウロニアだよ。
 アリスより。

 心と体の痛みに耐えていたサァカの耳に、ぐしゃりと大きな音が聞こえると、後は静寂だけが残りました。
成功 🔵🔵🔴