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海をゆく物語

#アリスラビリンス #猟書家

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●空の国
 此処は不思議な空の国。名前がないのは、必要ないから!
 何故ってこんなに果てしなく美しい世界に名前を付けるなんて、野暮じゃない?
 ふわふわ雲の絨毯の上、今日も星のきらきらさんと雲のふわふわさんはのんびり空を眺めて。

 すると、ふたりの視界にひょろりとした影が映り込む。
 星は瞬き、あなたはだあれ? 不思議そうに『彼』を見上げた。
 その世界に不似合いな黒に身を包んだ不思議な紳士は、腰を折り、被っていた帽子を胸元へ引き付けるようにして頭を下げ。

『私は猟書家。あなた方を、素敵な物語の世界へご招待しましょう』

●本の世界『海をゆく物語』
 気づけば貴方たちは、海の上に立っていた。
 広がる波の綾は、誰が落とした涙のせいでもない。
 足元は確かに水。海面。恐る恐る踏み出せば、その上を歩むことが出来るだろう。
 空は何処までも青く、果てなどないようで。
 仰げば耀く太陽には、矢印の隣。『1』と頁数が刻まれているのが見えた。
 そして海もまた、その青を映し美しい彩を持って。
 しゃがみ込み覗けば透き通るその海は、まるで宝石箱。
 あらゆる花が海の中でゆらりと芽吹き、そして彩りの石が煌く。
 美しい花を求めてさまようのはステンドグラスの蝶々に、翼のような鱗を持った鳥。
 彼らは色も種類も大きさも様々で、どの子もとても人懐こい。

 その海の中は、まるでもうひとつの空だった。
 水面を揺らし、近づいてきた星がきらきらと笑う。
『わあ! 君も此処に迷いこんだのかい?』
 彼らは貴方たちを心から歓迎し、そしてとあるお願いをした。
『ねえ、ボクたち、手伝って欲しいことがあるんだ』

●海をゆこう
「とある空の国に、猟書家って呼ばれる人が現れるみたいなんだ」
 不思議な『黒尽くめの紳士』。彼は自分を『猟書家』と名乗り、手に持つ本を開く。すると、その不思議の国いた住人たちは見たこともない別の世界――本の世界に放り込まれてしまうのだという。
 本の世界では、空に浮かぶ太陽に矢印と頁数が描かれていて、矢印の方向に進むとページがぐんぐんと進み、情景が変化していく。けれど、別の方向へと進むと、急速に生命力を失い、本の世界の住人になってしまう。猟書家が何者なのか、彼らか持っている本とは何か――それは未だ解明されていないけれど、まずは住民達をその本から生還させて欲しいのだとエール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)は告げた。
「それでね、愉快な仲間たちはあるものを探しているみたいで」
 ある物とは、『ねじまき』だ。それはこの世界に放り込まれた時に、何故か住民たちが手にしていたもののようで。きっと大切なものだから――と、みんなの分まで預かっていたしっかり者の風のそよそよさんだったけれど――寝ぼけていた時にひゅるひゅると吹き飛ばし、海の中へと落としてしまったのだ。
「そこは本の世界だから」
 泳いでねじまきを探すのも良し、大きなステンドグラスの蝶々や鱗の翼を持つ鳥に乗って探索するのも良し、そしてねじまきを探しながらも海の花を楽しむと良いだろう。現実に存在する花も、存在しない花もきっとある。
 でもその海の中に行くには? そう、この世界は普通にしていれば水面をぴちゃぴちゃと歩くことが出来るのだけれど――泳ぎたいと願えば、足を沈め、そのまま海面の下の世界にもいくことが出来るのだ。海の中では呼吸が出来るし、会話をすることも出来る。海の中にいるという感覚以外は、地上にいるのと変わりないという。心配なら愉快な仲間たちに協力して貰えばいい。きっと手を繋いでくれるはずだ。
「ねじまきだけじゃなくって、海の花も、先で何かの鍵になるかもね? なんて」
 だからあなたが思うとびきり綺麗だと思う花を摘んで、持っていくのもいい。

 そしてどうか、その先にいる敵と戦って。無事にまたこの世界に戻って来てほしいと、エールは集まってくれた猟兵達へと頭を下げるのだった。


紗綾形
 紗綾形(さやがた)と申します。
 どうぞよろしくお願いします。

 ふんわりした海シナリオです。頂いたプレイング次第ではございますが、多分心情よりの描写になると思います。

●第一章/冒険『愉快な仲間が落とした鍵を探してあげよう』
 海面を歩いたり、潜ったりして先に進む為の鍵となるねじまきを探してください。また、海中には様々な花が咲いています。花を摘む際は、どんな想いでその花を手にしたのか教えて頂けると嬉しいです。愉快な仲間たちは空の国の住民で、太陽のぽかぽかさん、星のきらきらさん、風のそよそよさん、雲のふわふわさんがおります。ひとりで寂しい時などに、声を掛けてみてください。

( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=19352 )
 此方のシナリオに登場した子たちですが、確認しなくても全く問題ございません。

●第二章/集団戦、第三章/ボス戦
 詳細は追加する断章をご確認下さい。

●採用人数について
 大変恐縮でございますが、スケジュールの都合上、成功度達成までの少数採用を予定しております。
 お手数をおかけし申し訳ございませんが、各章プレイング受付期間に関する情報はMSページをご確認ください。
 有難くも多くのプレイングを頂けた場合、内容に問題がなくとも採用を見送らせて頂く場合がございます。

 それではご参加、お待ちしております!
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第1章 冒険 『愉快な仲間が落とした鍵を探してあげよう』

POW   :    とにかくくまなく辺りを探す

SPD   :    辺りを見渡し広い範囲で探す

WIZ   :    周りの人の話を聞きながら探す範囲を絞って探す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

メリル・チェコット


ここはあの子たちの世界じゃない
あの世界が大好きな子たちを別の世界に攫ってしまうだなんて
なんてひどいことをするんだろう
――ねじまき、早く見つけなきゃ!

からだを沈めてゆっくりと海底へ
わ、海のなか、すごい!
ここもたしかに素敵な世界なのかもしれないな
でも、どんな理由でも無理やりはいけないよ

ふわふわと白い綿毛を纏った花
このお花、あの時のふわふわさんたちみたい
ひとつ摘んで、手で大切に包み込む

作戦を考えて、協力して敵を倒したこと
おかえりって出迎えてくれたこと
一緒に朝焼け空を見たこと
どれも心がぽかぽかする思い出
ゆっくりと反芻する

あの時の子たちも攫われちゃったのかな……
会えるといいな、探してみようかな




 延々と続いているかのように見える青。
 けれど見上げる太陽の矢印と頁数が、此処は本の世界だということを、おひさまを纏う少女、メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)に知らしめた。
 仰いだ青は美しかった。綺麗で、ずっと見ていても飽きないと思うくらい。足元の青も空を映し、やはり同じように鮮やかだった。でも、けれどと首を振る。
(「……ここはあの子たちの世界じゃない」)
 あの子たちの世界。空を迎えに行く世界。一緒に空を迎えに行った世界。此処はその世界とは似て非なる。恐る恐る足を進めれば、海面が綾を作るのがその証拠。ふわふわと、あたたかな雲は此処にはない。
 メリルは思う。あの世界が大好きな子たちを別の世界に攫ってしまうだなんて、なんてひどいことをするんだろう。あの世界で、楽しげに無邪気に手を繋いでくれたあの子たちのことを想う。メリル自身も大好きになったあの世界。早く、早く取り戻して、また一緒に――と思うから。
(「――ねじまき、早く見つけなきゃ!」)

 海へ入りたいと願えば、それだけで海の中へと身を沈めることが出来ると聞いていた。純真なメリルは言葉を疑うことなく、何かを決意したようにひとり頷き、沈めと強く思う。すればゆっくりと、足元が海面に沈んでいく。少しだけ慌てて、足を持ち上げようとしたけれど。気づけばその海面には誰の姿もなくなっていた。ちゃぷんと音だけが残り、大きな波紋が広がるだけになっていた。

 ぷくぷくと、気泡が空に向かっていく。反射的にぎゅっと閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げれば、長い睫毛の向こう側に見えたのは、海中の世界。
「わ、海のなか、すごい!」
 思わず声に出せばこぽこぽ、慌てて両手で口を抑えるけれど。呼吸をすることも、言葉を話すこともできたから。不思議な感覚に、「……海のなか、すごい」と繰り返すように呟いた。
 目の前にはステンドグラスの蝶が翅を揺らし、メリルの眸のおひさまに別の彩を映す。
 此処も確かに、素敵な世界なのかもしれない。でも、と優しい少女は思う。
(「……どんな理由でも、無理やりはいけないよ」)
 景色に眸は煌き瞬くけれど、少しだけ。本当に僅かだけ歪んで映ったのは、此処が海の中だったせいかもしれない。

 海の中をすいすいと泳ぎ移動すれば、目についたものがあった。それは、ふわふわと白い綿毛を纏った花。思い出すのは彼らのこと。美しい海に身を委ね、ゆらゆらと愛らしく揺れる。この花はまるで、あの時の――あの空にいたふわふわさんたちのようだ。
 ひとつ摘んで、あたたかな手のひらで大切に包み込めばより鮮明に思い出される。一緒に作戦を考えて、協力して敵を倒したこと。敵を倒したあとのメリルを、おかえりと出迎えてくれたこと。一緒に朝焼け空をみたこと――短い、たった一日の出来事だったけれど、どれもメリルにとって、心がぽかぽかとあたたまる思い出で。ゆっくり、ゆっくりと反芻する――。
(「あの時の子たちも、攫われちゃったのかな……」)
 とても心配で、胸の奥がざわつくようで。怖い思いをしていないか、怪我はしてないだろうかなんて考えて。
 綿の花を大切に仕舞うと、メリルはまた海の中を泳ぎ出した。ねじまきを探しながら……また会いたいと思う、あの子たちを探しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ

おーい、みんなー!大丈夫かー!
ぜんまい?それを持ってくればいいのだな?
もちろん、お安い御用だぞ!

ぜんまいを探しつつ海底を散策
海の中を歩けるなんて夢にも思わなかったのだ
わわわ、海なのに花も咲いてる!

ネモフィラの花が一面咲き誇っていて
海の中にまた海があるみたいだ

ネモフィラの花を一つ摘んで
花言葉は確か
『可憐』、それと『あなたを許す』
…記憶を失くす前の俺は、許されたいこととか許したいこととかあったのかな
わからないけど、きっとあるのかも
…むむ、辛気臭いのはやめやめ!
そうだ、ふわふわさんやそよそよさんに花冠作ってやろう!

あっ!遊んでる場合じゃなかったな!
早くしないと空の国のみんなが大変なことになるのだ!




 少女は青の中にいた。

 ぴちゃぴちゃと海面を走る。海の上を歩いている、そんな感動よりも先に、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)の眸を輝かせるものが、其処にはあって。
「おーい、みんなー! 大丈夫かー!」
 大きく、大きく手を振って駆け寄った。ゆきんこヴァーリャの明るい声が、青の世界に轟けば、海の上で途方にくれていた風のそよそよさんと、雲のふわふわさんが彼女の方を向いた。
「まあ、ひえひえさんだわっ」
「わ、お久しぶりです」
 ひゅるひゅるぴゅるると周りを吹き抜ける風に、ヴァーリャは擽ったそうに笑う。柔らかな藍白の髪が、ふわふわと揺れた。
「覚えていてくれたのだな!」
 嬉しげに言う少女に「もちろん、覚えていますよ」そう頷いたのはふわふわさん。空を取り戻してくれた恩人を、優しい少女の事を、あの日一緒にみた空を忘れることはないのだと、控えめながら少しだけ得意げに告げて。
「あの、あのね、ヴァーリャさん――」
 再会を懐かしむのも束の間。そう、ヴァーリャが此処に訪れたのにはわけがある。申し訳なさそうに経緯を説明するそよそよさんに、ヴァーリャは気にすることはないぞとどーんと胸を叩いて見せた。
「それを探して、持ってくればいいのだな? お安い御用だぞ!」

 沈めと願えば、身体は海の中へと沈んだ。その感覚が不思議で、わわと声をあげたものの、気づいた頃にはちゃぷんと身体は全て海の中。見上げれば頭上には心配そうにそわそわとするふたりがいて、ヴァーリャは彼らを安心させるように「大丈夫だぞー!」と笑顔で手を振った。ゆっくりと両手で水を掻けば、ぐんぐんと進む。けれど探しものをするなら海の底を歩いた方がいいかもしれない。そしてそうっと海の中の地面へと足をついた。
 岩影を、海藻を、きらきらと光る宝石のような石を眺めながら歩んでいく。海の中を歩けるなんて、夢にも思わなかった。なんだか無性に感動して「すごい」と小さく呟けば、こぽこぽと泡が空に向かって上昇していくのを見上げる――ああ、本当にすごい。彩りの魚が、ステンドグラスの蝶が、海の鳥たちが青いだけの海をこんなにも美しく魅せる――と、視線を下ろした先に見えたのは、何処か見覚えのある花。空の青に似た、海の青に似た花。
「わわわ、海なのに花も咲いてる!」
 駆けるように、ふわんふわんと花畑に向かう。海底を埋め尽くさんとする青の名は、ネモフィラ。
(「――まるで、海の中にまた海があるみたいだ」)
 衝動的に、その花をひとつ。白い指先が、優しく摘み取っていた。
 その花に託された言葉を知っている。花言葉は確か――。
(「可憐、それとあなたを許す」)
 少女は、数年より前の記憶を持ち合わせていない。いつもは気丈に振る舞う少女だけれど――否。いくら考えないようにしても、まだ幼さを残す小さな少女が、それを不安に思うことがないわけではなくて。
 記憶を失くす前の自分は、許されたいことだとか、許したいことがあったのかな。ふと、そんなことを考えてしまう。分からない、今はまだ思い出せないけれど、あるのかもしれない――そんな思考を振り払うように首を振る。辛気臭いことを考えるのはやめよう、と。手に持つ花を見て思いついたのは、これであの子たちに花冠を作ってあげること。
 不安そうにしていたから。これをあげたら、少しは元気になってくれるかもしれないと考えて。花を優しく摘んで、一生懸命に編んでいく。笑顔になってくれますように、早く元の世界に帰れますように――と、そこで。
「あっ」
 ただ遊んでいる、というわけではなかったけれど、他にもやらなくてはならないことを思い出したから。あの国を取り戻す為。作った花冠を大切に仕舞って。

 少女は青の、先をゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか


久しいね、お前達
同じ世界に再訪する事はままあれど、同じ国に向かうのは珍しい

再び相対す君は変わらずきらきら眩しくて
もう少し輝きを抑えてくれいないか
君の眩さは僕には少し痛いから

矢継ぎ早に降りかかる会話も程々に
僕らに助力を乞うた目的を忘れてはいないかい?
さぁ、今回も僕を手伝って
今度は「はい」と言ってくれるでしょう?

歩める水面に靴底沈め
お前の光で以って海中を照らそう
これかい?
あっさり見つかった螺子巻に拍子抜け
これで仕舞いと浮上しようとした矢先
お前が裾を引くものだから

花を?
……そう
ならば、これを
冬を越せぬ華憐な夏花を一輪手折り
流れて行かぬよう、しっかり胸元へ

何故この花にしたかって?
理由は――、内緒だよ




 星が瞬いた。

 一面に広がる青の中で、星がきらきらと輝いた。
 此処は夜ではないけれど、見上げる青と、見下ろす青の真ん中。
 華奢な身体に柔らかな髪を揺らして青の上に現れた少年、旭・まどか(MementoMori・f18469)の姿を円らな眸に映して、星はただ、嬉しさを綻ばせるように煌いた。
「久しいね、お前達」
 同じ世界に再訪する事はままあれど、同じ国に訪れることは珍しい。――此処はあの時の空の国であって、でも立っているのは本の中の世界だけれど。すべてが終わればまたあの雲の上なのだろうから、同じこと、と。
 それよりも。再び相対す彼は変わらずきらきら眩しくて、まどかは青空に輝くおひさまにするように、双眸を細めた。
「もう少し、輝きを抑えてくれないか」
 君の眩しさは、僕には少し痛いから。続ければ星は慌てたように、少し困ったようにして。
「いたいの?」
 心配そうにまどかを見た星だったけれど、君が痛いのは嫌だと、ぎゅっと目を瞑ってひかりを抑えようとする。すれば、ぱちぱちと花火の様に煌いていた輝きはやや収まって、ふんわりと優しい月のようなひかりに留まる。目を開き、どうだとばかりにぴょんぴょんと跳ねる星。嗚呼、また輝いてしまう。でもそれがお前なんだろうねなんて、半分諦めたように視線を落として。海面に映る輝きを呆れたように受け入れた。
「ねえ、僕らに助力を乞うた目的を忘れてはいないかい?」
「あっ、そう! そうだった」
「さぁ、今回も僕を手伝って」
 今度は「はい」と言ってくれるでしょう? あの時、質問を質問で返してきた彼らに、諦めにもにた感情を持って「いいよ」と頷いたのはまどかの方だった。でも今回は違うだろう。そう問いかけるのだ。
 星は頷いた、きらきらと輝いて。嗚呼、だから眩しいと言っているのに。そう思いながらも。平坦に見える表情は、微かに柔らかさを孕んでいた。

 一歩、二歩と水面を歩む。まるい波紋が、水面に広がる。
 願いながら三歩目を踏み出せば、ずくんと沈んでいく感覚。体が傾くのも気にせずに、静かな海の中へと身を委ねていく。
 ――海中の中を、ゆうらりと揺蕩う感覚。この世に、生まれ落ちる前のような、不思議な感覚。口を開いても海水が身体を侵すことはなく、ただこぽこぽと気泡が天へと向かった。そうした方が、目当ての物を探しやすいだろう。星に願えば、海中は明るさを増す。ふわりと海底に降り立てば、みつかる金古美の螺子巻。まどかの手のひらに収まるくらいの大きさのそれに、星は驚いたように声をあげ。
「わあ、こんなにちかくにあったんだね!」
 すごいすごいとはしゃぐ彼。あっさり見つかったそれに拍子抜け。これで仕舞いにしようと地を蹴り、浮上しようとした矢先。星がまどかの裾を引いた。
「あのね、お花っ」
「――花?」
「お花、きれいだからっ」
 摘んでいこうと笑う。確かに――海中に花が咲くというのも珍しい。広がる海の中、彩る数多の花の中から、まどかは目についた彩を一輪手折り、流れて行かぬようにと胸元へ、抱き留めるように。
 選んだのは、冬を越すことが出来ない、けれど可憐な夏花。何故その花を選んだのかと問われても、内緒と星の口元に人差し指を当てるだけ。
 花を抱く少年の口から、それ以上の言葉は零れない。開きかけた口から、気泡だけが天を向いて登っていく。

 太陽に、焦がれるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
願うだけで自在に泳げるなんて素敵な話だ
では、落とし物の捜索ついでに海中遊覧と洒落込もうか

嗚呼、ところで駅員さん達(【駅の護り手達よ、我が招集に応えよ】)
ねじまき探しを手伝ってほしいんだ
線路の上じゃないけど、お客様がお困りだからね

さて、ボクも探すのを手伝う訳だけど
これが本の中の海の世界か
なんとも幻想的だ
水の中を蝶が舞い、花が咲くなんてね

キミ達は、嗚呼、空の国の人達だね?
お名前は?
――フム、とても素敵な名前だね!
ご安心を
キミ達の落とし物は、ちゃんと見つけてみせるとも

おや、アレはベルフラワーかな
前に友人が蕾を贈ってくれた花だ
そうだね、折角だから一輪摘んで行こう
此度の戦いでも、友に恥じぬボクで在る為に




 青い海の上、やや控えめに両手を広げた。足元の海は地を、線路をゆく感覚とは異なっているものの、不思議と彼女を受け入れるように凪いでいる。
(「願うだけで自在に泳げるなんて、素敵な話だ」)
 案内にあった言葉の通り、海中へ足を沈めることを望めば、今まで水面の上にあったはずの足が、ゆらりと水中へと沈み身体が傾いた。このまま海の中へ――ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)はゆっくりと青の中へと墜ちていく。

 波紋が海面に広がった後、完全に海中へ身を沈めれば。留め具があるとはいえ、感覚的に片手で帽子が浮かないように頭の天辺を抑えた。帽子が離れていく感覚はない、手を放しても帽子を被っている感覚は変わらず、そのことに安堵する。
 彼女が海底へと沈む傍ら、招集に応えた駅員達も同じように海の中にいた。
「駅員さん達、ねじまき探しを手伝ってほしいんだ」
 此処は線路の上ではないけれど、お客様がお困りだから。ジュリアの言葉に、駅員達はぴ、と右手を帽子のつばにやり、敬礼をしてみせる。そして辺りをくまなく探索すべくすいすいと泳ぎ――或いはテキパキと海底を歩いてゆくのだった。
「――さて」
 ボクも探すのを手伝う訳だけど。
 駅員達を見送り、こつんと海底に降り立てば。改めて広がる景色を目に、ジュリアは眸の太陽を燦々と輝かせた。これが本の中の世界、なんとも幻想的だと思う。
「っわ、ははっ」
 驚きに声をあげつつも、からからと笑みが零れた。ぐわんと目の前を通り過ぎていく大きな蝶の翅は、ステンドグラスのように鮮やかに透き通って、それらが向かう先には地上でも珍しいほどに、数多の彩りの花が咲き綻んでいる。
 ふと。花の傍ら、きらきらと揺れるのは海星――ではなく、空の星だろうか。煌くそれの傍へと寄れば、不思議そうに身体を傾けるから。
「キミ達は――嗚呼。空の国の人達だね?」
 ボクはジュリア、ジュリア・ホワイト。紳士たる彼女は、礼儀正しく一礼をして見せ、それから彼らの名を尋ねた。
「きみはジュリア……ボクたちは……みんなはきらきらさんって呼ぶよ!」
 彼らに、それぞれの固有名詞は存在しないようだ。すべての星は平等にきらきらと呼ばれているらしい。それでもジュリアは、からりと笑んで。
「――フム。とても素敵な名前だね」
 きらきらと輝く、君たちにとても相応しい名だと告げた。星たちは煌く。褒めてくれたことが嬉しくて、そして。安心して欲しいと言い放つ、頼もしいジュリアの言葉が嬉しかったから。
「キミ達の落とし物は、ちゃんと見つけてみせるとも」

 ねじまきを探しては歩き、探しては泳ぐ澄みきった青の先。見覚えのある花が視界に映った。ゆうらりとその花の手前まで泳げば、嗚呼、確かにあの時の花だと。表情が自然と和らいで。
 その花は、以前友人が蕾を贈ってくれた花だった。髪へと優しく飾られた、少しくすぐったい様な、不思議な感覚。贈られた蕾に込められたる意味は、明日咲くかもしれない花――花咲く、共にある未来に芽吹く言葉の意味を、優しく受け止めるように、一輪。
 託された意味は、ヒーローたる彼女に抱かれた希望か、或いは。
(「此度の戦いでも、友に恥じぬボクで在る為に」)
 いずれにせよ、彼女の想いは真っすぐに。
 花咲く未来だけを向いているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

本の中か。なんかこうして飛ばされるなんて不思議だな
聞いた通り頭上には矢印があるなと見上げ
は、調子乗ってミスすんなよ、騎士様

さって、ねじまきだったな
足元は海…海の上を歩くってのはなかなかできるもんじゃないな
ちょっと楽しんでいこうぜ、っつーか
そんなこと言う前から楽しそうだな、お前は
おい、はしゃいでこけたりすんなよ

愉快な仲間たちから話聞くのはヒメに任せて、俺は足元に視線を巡らせる
潜らねェとわかんねェ事もあるか
ヒメ、海ん中いってみるか?
地上とかわらねぇみたいだし…泳げるだろ?
自信なけりゃ手ェつないでてやるよ
はァー?迷子になるのは、お前だろ!(差し出された手を乱暴に叩き繋いで)


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

わ、すげェな與儀!
本の中とか、何かドキドキするし…!
俺の配役は、主を護るイケメン騎士だな(どや

海の上に立ってる…!
海の上を歩けるとか、めっちゃわくわくするなっ
早く行こうぜ與儀!

お、懐かしい仲間たちが
話を一通り、うんうんって目線合わせて聞いた後、色々訊ねてみる
そよそよさんがねじまき落としたのどの辺かわかるか?
何か他に気になった事とか
大丈夫、俺達に任せとけ!

海の中、行く!
ああ、俺はバッチリ泳げるぞ(どや
でも手は繋いどく!
だって與儀が迷子になったら困るからなっ

與儀!キラキラしてて綺麗だなっ
近寄って来た鳥さんに、こんにちはだぞ!とか挨拶しつつ
また主と、今度は海の空を一緒に泳ごう




 広がる青の中、紅葉に似た赤が揺れる。
「わ、すげェな與儀!」
 名を呼ばれれば、従者もしっかりと傍に転送されたことを確認して。英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は眸の、緑を溶かしたような優しい青に、その見慣れた焔を映した。
「本の中とか、何かドキドキするし……!」
 な! 與儀もそう思うだろ? そんなふうに明るく笑う。太陽の如き男は姫城・京杜(紅い焔神・f17071)。京杜のはしゃぎようにくつりと仕方ねぇやつ、なんて思いながらも足をすいと持ち上げて海面を踏みなおした。まあるい波紋が広がっていく感覚を確かめるように。
「本の中か。なんかこうして飛ばされるなんて不思議だな」
 見上げる空は眩しく。眸の青を細めて見やれば、矢印に頁数。嗚呼、聞いていた通りだと。先ずはどう行動するか。ヒメ、と相棒を見上げれば、同じように太陽を仰いでいた京杜の視線が優しく落ちて。それから、なあ與儀。本の中ならさ――と。
「俺の配役は、主を護るイケメン騎士だな」
 ふふりと顎を抑える従者に、主は笑った。
「は、調子乗ってミスすんなよ、騎士様」
 ミスなんてしないぞ。そう思う心もあっただろう。けれども與儀に託されてしまえば、それだけで頭がいっぱいになるのだ。当然だと思いながらも、気づかぬうちに生まれる不安さえ、掻き消すように紡がれる信頼が嬉しい。俺はお前だけの騎士だと、叫びたくなるくらい。たったそれだけで、世界中に自慢して回りたくなるくらいの気持ちになるのだ。
「……さって、ねじまきだったな」
 何に使うんだろう。そんなことを考えながらも足元は海――先ほども確かめたけれど、一歩二歩と進めば、やはり言い表すことが出来ないような不思議な心地がして。本の中の世界とはいえ、海の上を歩くという体験は中々出来るものではないから。
「ちょっと楽しんでいこうぜ、っつーか」
「海の上を歩けるとか、めっちゃわくわくするなっ」
 ぱしゃぱしゃ、控えめに音を鳴らして海面を歩く京杜。
「そんなこと言う前から楽しそうだな、お前は」
 早く行こうぜと名を紡ぎ、手を上げる京杜の後をゆっくりと追いながら。はしゃいでこけたりすんなよ、と。――従者の想いを知ってか知らずか、呆れたように言う。
 與儀がいたら、何処だって楽しいに決まっている。
 特別なものじゃなくたって、與儀がいるだけで――いてくれさえすれば。京杜にとってそれは、特別でかけがえのないものに姿を変えるのだ。

 暫く海面の散歩を楽しめば、以前共に戦った懐かしい姿が映る。
 相手の方も、ふたりに気づけばわあと嬉しそうに近寄って。
 積もる話もそこそこに、目的を果たすべく彼らの話をうんうんと親身になって聞くのは京杜だ。
「そよそよさんがねじまき落としたのどの辺かわかるか?」
「落としたのは、あっち……!」
「何か他に気になった事とか――」
「ほか……ほか……あっ」
「お、何か思い出したか?」
 話を聞くのは京杜に任せ、足元に視線を巡らせ「潜らねェとわかんねェ事もあるか」なんて考えていた與儀だったが、ぽかぽかさんが何かを思い出したようにぴかぴかと光れば首を傾げ。
 続けられた話はこうだ。ねじまきを落とした時、近くを飛んで――泳いでいたのは数羽の鳥たち。辺りを探したけれど、ねじまきを見つけることが出来なかったことを考えれば。
「ヒメ」
「嗚呼、それだな!」
 こくりと頷き合って互いの意思を確かめて。
「大丈夫、俺達に任せとけ!」
 彼らを安心させるようにどーんと言い放ち。
「ヒメ、いってみるか」
「海の中、行く!」
 地上とかわらねぇみたいだし……泳げるだろ? 尋ねる主に、俺はバッチリ泳げるぞと胸を張るも。自信がなければ手をつないでてやるよと告げられれば、断るのも惜しくて――否。断る理由なんて見つからなかったから。バッチリ、バッチリ泳げる。そう思うのは嘘ではないのだが。
「でも手は繋いどく!」
 続けられるのは、だって與儀が迷子になったら困るから、なんて減らず口。
「はァー?」
 見た目は少年のようでも、お前にそんなことを言われるとは。不満そうに顔をゆがめ、「迷子になるのは、お前だろ!」なんて言い放った與儀だったけれど。
 差し出される、自分より幾分も大きい手のひらに、その小さな手のひらを叩くように乱暴に重ねて――引いて。不意打ちの様に沈めと願えば、京杜も巻き込まれるように海の中。主の行動に瞬く従者だったけれど。嗚呼、そんなふうに。してやったりと嬉しそうにされてしまっては、どうにも敵わなくて。困ったように、幸せそうに笑んで。
「與儀! キラキラしてて綺麗だなっ」
 沈んだ海の中。手の温もりを感じながら、広がる景色を楽しみながら。
 近寄ってきた鳥にふたりまた頷き合う。丁寧に挨拶をして、彼らの住処にお邪魔しよう。そこで見つかる何かが、きっとあるはずだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『星屑のわたし達』

POW   :    パ・ド・ドゥをもう一度
【ソロダンスを披露する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
SPD   :    我らがためのブーケ
いま戦っている対象に有効な【毒を潜ませた美しい花束】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    そして、わたし達は星になる
【星のような煌めきを纏う姿】に変身し、武器「【白銀のナイフ】」の威力増強と、【魔法のトウ・シューズ】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ねじまきを見つけた後、太陽に描かれる矢印の方向へ進めば、海中にいた者のも、海上にいたものも、ぴちゃんと元いた海の上に降り立っていた。はじめにいた頁と違うことと言えば、其処に青は存在しなかったこと。見上げれば真っ暗で、星すら瞬くことはない。空と海の境界が、酷く曖昧で。頁の描かれた太陽すら、此処にはない。代わりに暗闇に浮かび、ぼんやりと世界を照らしたのは、「戦闘番地」という崩れかかった文字だった。

 暗闇の先で、人の形をした……出来損ないの星が瞬いた。
 彼女たちは物語の主役、「星」になれなかった娘たち。
 王子様から、花を、花束を貰いたかった。踊りに誘われたかった――。

『ねえ、わたし、輝いてる?』

 だって此処は本の世界。けれどもアリスはいない。
 夜空に瞬く星も、ひとつだって存在しない!
 それならば、それならば。この世界の主役に――。

 踊る娘と戦いながら頁を進んでも、待っているのは真っ暗なページのみ。どうやら娘たちをすべて倒さない限り、その先に進むことは出来ないらしい。
 彼女たちひとりひとりの戦闘力は其処まで高いわけではない。しかし厄介なのは「我らがためのブーケ」――毒を潜ませた美しい花束を召喚する技だ。例えそれに触れることがなくとも、広がる香りによって、毒の効果が現れる者もいるだろう。毒の効果は人によって様々だが、それはきっと貴方に有効な毒だ。例えば耐えられないほどの激痛が身体にはしったり、例えば大切な人を忘れてしまったり。対応する技を使用するなら、毒にどう立ち向かうか、受け入れて戦うかを考えて行動する必要があるだろう。けれど、彼女たちは「星」になれなかった娘たち。もし花を手にしてきたものがいるならば、それを使えば或いは。少女たちの隙をつくことも、出来るかもしれない。
ヴァーリャ・スネシュコヴァ


舞い踊るような敵の攻撃に
こちらも踊るように滑って攻撃し対抗を

ふと気づけば、毒の花束が相手の手に握られていて
その香りを嗅げば、思うように身体が動かなくなって
息が苦しくなって、身体中が痛くて痛くて
思わずその場でしゃがみ込んでしまう

息を荒げながら、汗をかきながら
動け…動け、動け動け動けっ!
痛む身体に鞭打って
あの時摘んだネモフィラの花びらを
《冬ハツトメテ》で風を起こし、舞いあげる
ごめん、今だけ…俺を助けて、お願い

花で意識を引かせられたら
そのまま『霜の翁の怒り』で花束ごと凍らせてやる!

こんな暗い何もない世界で主役になったって
誰かが振り向いてくれるわけじゃない
でも、俺もこうなってたかもしれないんだよな…




 ぴちゃりと黒を踏む、弾く、跳ぶ。真っ暗闇のステージの上で。くるくると舞い踊る星に対抗するように、ヴァーリャもまた、踊るように水面を滑る。敵の攻撃力は高くないと聞いている。油断をすることこそなかったが、夜空には星すら瞬かぬ、此処はとても暗い場所。
 ふと気づいた頃には、相手の手の内には美しい花束が握られていて、口元を、鼻を覆うように手を当てた頃にはもう遅かった。
 ドクンと身体が崩れ落ちる。全身が痛い。呼吸が乱れるほどにその香りを深く吸いこんでしまって、全身を駆け巡るようにより強い激痛がはしる。震えるような呼吸を繰り返して、ぱちゃりと暗い海の境界に膝を、手をついてしまう。
 膝が沈んでいく。このまま堕ちて、戻ってこられなくなるような。
 そんなことは願ってなんかいないのに、望んでなんかいないのに。
(「心の何処かでは、望んでいるのか……?」)
 激痛は少女の意識を朦朧とさせた。ひかりが見えない。ぷくぷくと空気が浮かんで、黒の中へ――。
 と、ふわり浮かぶ。ネモフィラの青。
 優しい青が、霞む視界に浮かぶ。
 ヴァーリャは瞬いた。沈んでいる場合じゃない。
 滲む汗は海へと溶け、呼吸はあぶくとなって消えるだろう。
 それでも動け、動けと強く願う。その華奢な腕を精一杯伸ばして。
 そして少女は。

 ――青を、掴むのだ。

 沈んで息絶えたと思われた少女が、暗闇から浮かびぱしゃりと水面に立てば、驚いたように脚を止めた娘たち。その隙を逃さないとばかりに、花を空へ……冬の名を持つ扇で舞い上がらせた。
(「ごめん、今だけ……俺を助けて、お願い」)
 嗚呼、嗚呼。その青は、何て美しいのだろう。
 娘たちは目を奪われる。わたしたちが、欲しかったもの。
 わたしたちだけに贈られる花。
 花を見上げる娘たちの隙をついて、未だ痛む身体に鞭を打ちながらも、歩みを止めることはない。こんなに暗い、何もない世界で主役になれたとして、誰かが振り向いてくれるわけじゃないから。
 それに、何より――終わらせてあげらければ、と思うのは。
 その時、娘たちの前に霜が降った。生物の息吹を止めてしまうほどの冷たいそれによって、娘たちの動きは鈍く、けれども花を見上げる姿は、何処か――切なくも幸せそうにも見えて。
(「でも、俺もこうなってたかもしれないんだよな……」)
 ひらりと落ちる青だけが、哀しげに凍り付いた地へと墜ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

旭・まどか


さっきとは違って随分と、暗いね
眩しすぎて痛いよりは馴染みがある分幾らかましだけれど
否応なく押し付けられるのはあまり好ましくないな

ねぇ、君たち
“借り物”の主役と成った気分は、如何かな?

喉から手が出る程欲した其
けれど、その胸に沸いた感情は本当に悦びなのかな
生憎とその手を誘って一曲踊れるような心得は無くてね
代わりといっては何だけれど、これを、あげる

舞姫には少しばかり子供っぽいかな
けれど、太陽を望むこの花の姿は
スポットライトを求める君に似ていると思わない?

さぁ、出番だよ
あの花ごと苦しまぬ様、一息で仕留めておしまい
喉元食らいつき星と花弁を、散らすんだ

願わくは、次は舞台の上で踊る君が、観られますように




 薄暗い、黒に似た景色の中で思う。
 海の底だって、星の瞬きがなくとも、もう幾分か明るい。
「さっきとは違って随分と」
 暗いね。ぽつり零した言葉が黒に堕ちれば、水面がさざめいて。
 ざわざわと心を侵していくような、言い表すことのできないような感覚。
 眩しすぎて痛いよりは馴染みがある分、幾らかましだとは思うけれど、否応なく押し付けられるのはあまり好ましくないと思う。
 誰の為でもないよ、なんて涼しい顔をしながら考える。それが自分が戦う理由。だから目の前の娘たちを還すのだと。たったそれだけだと凛と前を見据えて。
「ねぇ、君たち」
 ――“借り物”の主役と成った気分は、如何かな?
 こてりと首を傾げる。その言葉に、娘は握るナイフに力を込めた。空色のリボンが震える。それでもまどかは、言葉を紡ぐことをやめなかった。自分が間違っていることを言っているとは思わない。君たちのすべてが間違いだとは思わなくとも。
 喉から手が出る程欲した其れ。けれど、その胸に沸いた感情は本当に悦びなのかと問う。自分はそうは思わないと、だからこうして、娘たちに言葉を掛けているのだ。
「生憎とその手を誘って一曲踊れるような心得は無くてね」
 代わりといっては何だけれど。
 そっと暗闇の上を歩いた。偽りの空の中、自らの輝きを魅せようとする娘の元へ、一歩、一歩と。
 否定ばかりを口にする少年に、くるりとその切っ先を向ける。
 けれど――小さな背に隠した一輪。
「これを、あげる」
 舞姫には少しばかり子供っぽいかもしれないけれど。でもねと。
「太陽を望むこの花の姿は、スポットライトを求める君に似ていると思わない?」
 その言葉は優しく、娘の心に落ちるのだ。
 認められていく、自分じゃない誰かが。舞台の上で瞬く一番星に成りたかったのに、わたしたちはいつも輝きの足りない星屑だったような気がする。そんな記憶もとても曖昧で、それなのに、嗚呼――。
 波紋を作ったのは、彼女の一歩ではない。
 ぽたり落ちる、ひとしずく。
「さあ、出番だよ」
 捧げられた花は、あたたかく、美しかった。
 太陽に焦がれているからこそ、高みを目指していたからこそなのだとしたら――。
 あの花ごと、苦しまぬ様に、一息で仕留めておしまい。まどかが命を課せば、傍らの狼が駆けた。小さく吼えたその声は、「大丈夫、痛くないからね」そんな言葉を宿しているような、慈愛に満ちたもののように聞こえたのは気のせいだったろうか。
 娘は抵抗しなかった。ナイフを手放した手には、花しか抱かれていなかった。
(「願わくは、次は舞台の上で踊る君が、観られますように」)
 いつのまにか娘は消え、あたたかな花びらだけが水面に揺れていた。

 それはまるで、小さな星空の様だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
毒か……
ヤドリガミたるボクにも有効とはね!
身体がきしむ、関節が錆びつく、ボイラーの火が弱まっていく
だけど!ヒーローはそんな程度では音を上げていられないのさ!
「助けを求める人がいる限りはね!さあ、反撃の時間だ!」

毒のせいであまり時間をかけていられない
【プラチナムハート・オプション搭載形態】で追加の火器を山程召喚、接続
撃って撃って撃ちまくるよ
それこそ、暗闇の中輝く星のように!

キミ達が望む輝きを得られなかったのは不幸なのかもしれない
主役を望むなら、誰かの道を阻むのも必然なのかもしれない
だが、こんな所で主役を気取っても意味はないだろう!
日の当たる所へ出たまえ、咲き誇る花のように
(髪に刺した花を見つつ)




 暗い暗い、夜の中。
 海の上には線路なんてものは存在しなくて、それでも彼女は其処に立っていた。
 娘が美しい花束を召喚すれば、その頁中に蔓延する毒が、白いパワードスーツに身を包む彼女をも侵していく。踏み出す足がきしむ、持ち上げた腕が鈍く錆付いていく。搭載されたボイラーの――熱い熱い正義の炎が弱まっていくのを感じる。
 まさか、ヤドリガミたる自分にも有効だとは。普段の何倍も重く感じる身体。自由が利かない感覚。けれど。下を向いたのはその重みから、ほんの一瞬だけ。ギシギシと関節が音を立てるのも気にせずに、前を見据え。からりと笑みを携えたのは――彼女が、ヒーローであるからだ。ヒーローはこんな程度で音をあげてはいられない。何故って? 聞かれるまでもない。
 そこに助けを求める人がいる。この世界でいえば、本の中に閉じ込められてしまった空の国の住人たち。
「さあ、反撃の時間だ!」
 花の香が少しでも弱い場所を探り、移動しながらもロケットランチャーを構え、娘へと照準を合わせる。時間をかけるほどに不利になってしまう。毒をより多く取り込んでしまう前に、一気に終わらせる。
 そんな思いで此処だと思った瞬間を狙い、山ほどの追加火器を召喚。本体へと接続し、途切れることなく銃弾を放つ。
 それはまるで、彼女へと降り注ぐ――暗闇の中輝く流星のよう。
 攻撃を躱そうと、娘たちは水面を蹴り跳ねあがるも。
 ジュリアの攻撃に隙は無い。ずらりと並ぶ火器から放たれる数多の弾丸たちが、娘たちの身体を射貫いていく。
 ヒーロー・オーヴァードライブに慈悲はない。
 彼女たちが望む輝きを得られなかったことは、不幸であったのかもしれない。
 主役を望むなら、誰かの道を阻むのも必然なのかもしれない。
 だけど、とジュリアは思うのだ。
「こんな所で主役を気取っても意味はないだろう!」
 叫んだ先で、零れ落ちる花。
 すべてが消滅したことを確認すれば、ぱちゃりと水面を歩んで、その花びらを見下ろした。
(「日の当たる所へ出たまえ、咲き誇る花のように」)
 髪に刺した花に触れ、祈るように瞼をとじた。

 花筏は沈んでいく。まるで誰かが望んだように。
 骸へと、還るように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

真っ暗、だな
そんでもって――戦わないといけねェらしい
けど、不安はない
傍に従者の気配があるから

輝いてる? って聞かれても、俺はお前のこと知らねェしな…
主役になりたいなら、それ相応の輝きがねェとな
でもそれは、お前の場合戦いじゃねェと思うんだけどな…

ヒメ、お前の火を灯してくれ
……そのドヤがなければほんとにな。王子にだってなれるだろうに…
けど、それがねェとお前じゃねェか

踊るなら、舞台は必要だろ
嵐の舞台であれば用意してやれる
髪紐をはずして竜巻に
この嵐の中を踊れたなら、輝けるかもしれねェけど――
俺の従者の方が眩しい
俺が輝けるように、なんて言うが、お前がいるからそうあれる、とは口にせず


姫城・京杜
與儀(f16671)と

なんか暗いな…
與儀守れる様に、傍を離れないようしねェと
俺は與儀の守護者だからな!

お前の人生はお前が主役だろ、と言いたいけど
もうオブリビオンか
星…そっか、エトワールになりたかったんだな
それなら與儀の言うように、戦いじゃねェだろ

おう、俺の神の炎で暗闇も照らしてやるぞ!
王子様じゃねェけど、王子様みたいに俺はイケメンだから
花は花でも、炎の花をくれてやる

悪ィな、俺はお前は照らしてやれねェ
俺は守護者、俺の炎が輝かせるのは主である與儀だけだ
主が輝ける舞台を確り整える!
てか俺は別に輝かなくてもいいな…
與儀の事をこうやって傍で照らせれば、それだけで

風に煽られた炎の花で、きっちり送ってやるぞ




 暗い、真っ暗だ。
 その頁に訪れた主と従者は、広がる暗闇をそれぞれの眸に映しながらも同じ感想を抱いた。
「そんでもって――戦わないといけねェらしい」
 見上げた先にぼんやりと浮かぶ文字。「戦闘番地」というその文字に與儀はそう零すけれど。先が見えない暗闇の中にいても、不安なんてものはひとつも存在しなくて。何故ってそれは。
 傍に居る。気配を感じる。絶対に離れることはないと知っている。
 そこに信頼を寄せる従者の、京杜の存在があると分かるから。
「與儀守れる様に、傍を離れないようしねェと」
 暗闇の中にいたって、見失うなんて有り得ない。今はたったひとり、京杜のひかりとも呼べる存在。それでも思わずにいられないのだ。
「俺は與儀の守護者だからな!」
 何より大切だからこそ。そう言い放って、からりと笑んで。
 そんなふたりの視界の先。真っ暗闇を灯すように現れたのは星屑の娘たちだった。娘たちは踊る。滑るように軽やかにステップを踏めば、水面が揺れ波紋が広がった。
 自分達は輝いているか。星の様に――きらりと瞬く一番星のように。
 娘から零れ落ちた問いに、與儀は冷たくも取れるような無機質な音で告げた。でも、それも当然だ。輝いているかと問われても。
「俺はお前のこと知らねェしな……」
 確かに暗闇に存在する彼女たちは、ひかりを纏うように踊る娘たちは輝いているかもしれない。でもそれはあくまで、視覚的にそう見えるというだけのこと。
「主役になりたいなら、それ相応の輝きがねェとな」
 誰かに認めて欲しいのなら、そう在りたいと願うのなら。
 でもそれは、お前の場合戦いじゃない。そう真っすぐと前を見据える姿は頼もしく。
 隣にある京杜もまた、娘たちに抱く感情がある。お前の人生はお前が主役だろうと、そう言いたいけれど。
「もう、オブリビオンか」
 星のような煌めきを纏う姿。娘の、憧れた姿。
「星……そっか、エトワールになりたかったんだな」
 誰よりも輝く主役に。
「それなら與儀の言うように、戦いじゃねェだろ」
 京杜が口にすれば、頷くまでもない、と。
「ヒメ、お前の火を灯してくれ」
 この暗闇に、あの娘たちよりも輝くものがあるとするなら、それは京杜の火をおいて他にない。言葉を聞けばそれこそ輝きを宿したように笑った。言われるまでもないけれど、その声で、その言葉を聞けることが嬉しいから。
「おう、俺の神の炎で暗闇も照らしてやるぞ!」
 真っすぐに答える。
「王子様じゃねェけど、王子様みたいに俺はイケメンだから!」
 そのドヤがなければ本当に王子にだってなれるだろうに。
「けど、それがねェとお前じゃねェか」
 呆れたように見上げる表情には、隠せぬ愛情が滲んでいた。
「花は花でも、炎の花をくれてやる」

 踊るなら、舞台が必要だ。
 こんな何もない暗闇が舞台なんてとしゅるり解いた髪紐を手に、天へと掲げた。嵐の舞台であれば用意してやれる。
 凪いだ海が、激しく渦を巻いていく。
 生まれるのは天と地を結ぶような、強大な竜巻。
 巻き込まれぬように飛び立たんと、水面を蹴った時にはもうすべてが後の祭りだろう。
「この嵐の中を踊れたなら、輝けるかもしれねェけど――」
 続く言葉を並べる前に。
「悪ィな、俺はお前は照らしてやれねェ」
 俺は守護者、俺の炎が輝かせるのは主である與儀だけだ、と。
「主が輝ける舞台を確り整える!」
 舞い踊れ、紅葉――。紡ぐ言葉の先、影敷く燃え盛る数多の焔が、竜巻により自由を失い、ふわりと宙に浮かんだ娘を巻き込む。焔の嵐となって。
 嗚呼、ほら、やっぱり。俺のヒメの焔の方が。
(「――俺の従者の方が眩しい」)
 俺は別に輝かなくてもいい、與儀の事をこうやって傍で照らせれば、それだけで――。
 そんなふうに口にする京杜に。「俺が輝けるように」なんてお前は言うけれど、と。
 弱まっていく風の中、揺れる炎はまるではらはらと舞う花びらのようで。
 その赤があたたかく滲んだのは消えていった星屑たちだけであるわけがなく。
(「お前がいるからそうあれる」)
 そんな想いを秘め、あたたかな赤を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミア・レイシッド


王様は使い魔のカラス


星になれなかったむすめたち。
無礼者。王様に跪きなさい。
あなたたちがなぜ星になれなかったのか
わたくしは知らないのだわ。
わたくしは王様の手となり足となり働くのよ。

どうして星になりたいのかわたくしが聞きたいのだわ。
星になっても一番きれいに輝く事は大変なのだわ。
わたくしは星になりたいと望んだ事は一度も無いのだわ。
王様はいつもわたくしたちの上に立つ星よりもとうとい存在。
だから輝くのは王様だけで良いのよ。

あなたがたのブーケはいらない。
王様からの花束をあげるのだわ。
わたくしと踊りましょう。その後に王様と踊ってくださる?
茨の道を踊り狂って進むのだわ。




 暗闇の中、輝き踊るむすめたち。
 星になれなかった、星屑のむすめたち。
 小さな水音を鳴らしながら、しなやかにソロダンスを披露するそれに、黒を纏う少女、ミア・レイシッド(Good night・f28010)は冷たく深い青の双眸を向けた。
「無礼者。王様に跪きなさい」
 王様を前に、輝いているか問うなどなんという無礼。
 なんという恥知らず。
 嗚呼、これだからヒトは――嗚呼、今はオウガだったかしら。
 あなたたちがなぜ星になれなかったのか、わたくしは知らないのだとミアは言う。
「わたくしは王様の手となり足となり働くのよ」
 娘は跪けと言われて素直にはいと跪くことはなかった。
 今はただ踊ることに、暗闇の中でひかることに集中しているようだ。
 そんな娘たちに心底呆れたと、けれども表情は変えずにミアは告げる。
「どうして星になりたいのかわたくしが聞きたいのだわ」
 だって、星になっても一番きれいに輝くことは大変なのだと考えるから。
 自分は。星になりたいと望んだ事はただの一度だってない。
 理由はひとつ。
 王様はいつも自分たちの上に立つ星よりもとうとい存在。
 星が輝いたところで、王様のとうとさに変わりはないのだけれど。
 星の輝きがあることで数多の中のひとつとなってしまうのなら、そんなものは在るべきではないと思う。だから。
「輝くのは王様だけで良いのよ」
 抱かれるブーケ、毒を孕むと知っていてなお、恐れることもない。
 娘の抱える花束は、ミアにとってはなんの価値もなかった。
 それより、と当然のように言い放つ。
「王様からの花束をあげるのだわ」
 光栄に思いなさい。そう言いたげに、黒の衣の先から伸びる白い手を、さあと差し出した。
「わたくしと踊りましょう」
 闇に紛れ近づいたミアに、一瞬驚いたように目を見開いた娘。
 掴まれる手を振りほどくより先に、娘の背後で黒き羽が舞う。
 鋭い嘴がドレスを裂きその身を貫けば。星の如き彩を持つ娘の眸から、一本の棘が生え痛みを生んだ。嘘なんてない、星になりたかった、ただ、ただ。
 そう思うのに、浸食するようなこの痛みは一体なんだと思うのに、踊る足は止まらない。
 その姿に、ミアは零す。王様に嘘を吐いた罰ね、なんて。
 あなたに残された道はひとつ。
「茨の道を踊り狂って進むのだわ」

成功 🔵​🔵​🔴​

メリル・チェコット

せんとう、ばんち
……暗い
太陽も、月も、星もない空
こんな寂しい所で……

憧れるよね、物語のお姫様
小さい頃はわたしもよく絵本の世界に入りたいって思ってた
幼いわたしを眠りに誘う、母の優しい声で紡がれる絵本の世界に

どうしてか思い出せないの
天国にいるお母さんの声も、顔も
大切な記憶、思い出が
わたしが戦う理由が抜け落ちていく
これが、あなたの毒?
そのお花にこんなさみしい毒があるの?

お花ってね、ほんとはそんな悲しいものじゃなくて
ただそこに在るだけで心が安らぐような
見て見て、このお花
ふわふわしてて素敵でしょっ
ね、触ってみて?
あなたにあげるよ

わたしは王子様じゃないけれど
この寂しい場所から、あなたを連れ出しにきたよ




「せんとう、ばんち」
 暗闇の中にぽつりと落ちたのは、少女の、消え入りそうな声だった。
 見上げるおひさま色の眸には、何も映らない。
 ただ、ただ果てしなく広がる、くろ。
 嗚呼、此処にはないのだ。
 燦々と輝く、眩しいほどの太陽も。
 夜を優しく包んでくれる、柔らかな月も。
 きらきらと楽しげに輝く、鮮やかな星たちも。
(「……こんな、こんな寂しい場所で」)
 空とは思えぬような暗闇から視線を落とせば、その先に立っていたのは。
 星のティアラを、ピアスを身に着け、空色のドレスを纏う娘だった。
 ぱちゃり。水面を蹴る。波紋が広がっていることすら曖昧で、何かを間違えてしまえば自分すら消えてしまいそうな闇の中で。それでもメリルは、対峙する星屑へと向かって。
「憧れるよね、物語のお姫様」
 小さい頃はわたしもよく絵本の世界に入りたいって思ってた。
 幼いわたしを眠りに誘う、母の優しい声で紡がれる絵本の世界。
 そこは不思議に、煌きに溢れていて――。
「分かる、よ……」
 ――あれ。
 思考が、記憶がぼんやりと滲んで、闇へと溶けていくような感覚。
 あなたの気持ちが分かる。そう協調して、少しでもその寂しさを溶かしてあげたかった。それなのに、どうして。
 思い出せない。
 天国にいる……大好きなお母さんの声も、顔も。
 何より大切な記憶が、かけがえのない思い出が抜け落ちていく。
「ぁ……」
 困惑するように、けれど紡ごうとする言葉もきちんと意味を為すものにはならなくて。嗚呼、これが。
「――あなたの、どく?」
 そのお花が、こんなに寂しい毒を孕んでいるなんて。
 かなしい。くるしい。――おかあさん。
 おひさまの少女が、俯きそうになった時――。

 視界に映った、花があった。

 やわらかな、雲のような花。仕舞いこんだ花を取り出せば、さみしさに囚われそうになっていた心に、あたたかな蕾が生まれる。
 そう、そうだ。忘れていたわけじゃない、ただちょっとだけ、さみしい気持ちになっていただけ。
 だって、花はそんなに悲しいものじゃない。
 少なくともメリルにとっては、ただそこに在るだけで心が安らぐような、そんな小さくとも、尊いものなのだ。
「見て見て」
 このお花。ふわふわしてて素敵でしょっ。
 心の蕾が花開く。ふわりと、柔らかに笑む少女の表情はまるで花のようで。

 ――あなたにあげるよ。

 その言葉が、どんなに嬉しかっただろう。
 わたしは王子様じゃないけれど。
「この寂しい場所から、あなたを連れ出しにきたよ」
 毒を恐れず手を伸ばす少女を前に、娘の眸が煌いた気がしたのは気のせいだったのかもしれない。
 ぽとりと落ちた雫はすぐに暗闇に消えてしまったけれど。
 その輝きは、メリルにだけは一等澄んで映った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『泡沫の天使』

POW   :    儚い命の残した歌
【美しい結晶】から【絶望的な断末魔】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    全ては泡沫、幸福は来世に在り
【あらゆる空間を泳ぎ回る事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【泡で包み込み、死角からトライデント】で攻撃する。
WIZ   :    その美しい遺品を、私にください
【トライデント】から【『声』を結晶化させる魔力を纏った雷】を放ち、【相手の『声』を奪う事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠知念・ダニエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 星屑の娘たちが消えた先にあったのは、数多の星が輝く空だ。
 煌く星空の下、広がる水面にも同じように煌く星が映る。
 此処には在るのは星空だけなのだろうか。
 猟兵達が歩む先、捲られた頁の向こう側。
 海の上にあったのは、何本もの線路だった。
 そして何処までも続いているかのようなそれの手前に存在したのはトロッコだ。大きさは人間の大人がふたり乗り込めるくらいのもので、木製で出来た小型のそれは、資材を運搬する為だけにあるようなとてもシンプルな作りをしている。普通のトロッコと違うところといえば、後ろに小さな穴が空いていることくらいで。猟兵達はその穴を見ればぴんと来るはずだ。それぞれ見つけたねじまきを差し込み、いちにとそれを回しただけで、何故かゆっくりと動き出す。
 瞬間、現れた影。美しいエメラルドの尾鰭が視界に、けれどもすぐに水面の中へと消えていく。

 その天使は、あなたへ断末魔を浴びせるかもしれない。
 その天使は、あなたを泡で包み込んでしまうかもしれない。
 その天使は、あなたの声を奪おうとするかもしれない。
 その攻撃が、天使の得意とする水中から放たれてしまえば防ぎぎるのは難しく……此処は本の中。本来遡ることは出来ない。だからそうすることであなたの生命力を奪うべく、時間を巻き戻すように辿ってきた頁へと投げ飛ばそうとするだろう。

 天使が潜った先――線路は水中へと続いていた。
 トロッコが角度を変えて降下すれば、そこで線路は途切れているようだった。
 此処は本の中。「あの天使を追って」そう願うだけで、まるで身体の一部の様に、自身を乗せたそれは自在に動くだろう。
 勿論それを使わなくたってかまわない。
 海の中にはステンドグラスの蝶や、鱗の翼を持つ鳥だっているかもしれない。それに、あの空の住人たちも――。手を貸して貰うのは自由だ、自ら歩むのも勿論自由。あなたが道を作る。理由はなんだって構わない。ただ、この世界にずっといるわけには行かないから。天使を――天使の姿を借りた魔女を追おう。

 ――あなた自身で、海をゆくのだ。
ミア・レイシッド
進まなければいけないみたいなのだわ。
トロッコに螺子を差し込んで右に二回。
もっと回した方が良いかしら。

王様。この物語はわたくしたちが終わりまで導くそうよ。
おかしいと思うの。
わたくしたちがこうやって物語を終わりまで進むなんて。

王様もそうおもわない?
わたくしたちはあやかし。
本に登場することすらできない影のモノなのだわ。

……邪魔をされるのは嫌いよ。
うつくしい歌声で王様を誘惑するのなら
わたくしが許さないのだわ

王様は常に上にいる者
わたくしたちを導いてくださるお方
それを邪魔するのなら、わたくしたちが抗うまでよ

王様。ゆきましょう。
物語を終わらせるのならそうするまでよ




 人魚の尾鰭が、ミアの深い青にひらりと映って水中へと消えていく。
 嗚呼、進まなければいけないようだ。本当はそれを可笑しなことだと思っていても仕方ない。手に持つ螺子を穴に差し入れ、かちかちと音を確認しながら右に二回。
(「もっと回した方が良いかしら」)
 だってこれだけで遠くまで進むことが出来るとは到底思えなかったから。もう少しだけ回してみようかしら、なんて右にあと数回。
 するとゆっくりと動き出すトロッコへ。身を委ねれば、王様も、と視線を向ける。傍らの王はトロッコの枠組みではなく、当然のようにミアの肩へ。
「王様。この物語はわたくしたちが終わりまで導くそうよ」
 ガタガタと音を立てて進んでいくトロッコの乗り心地の悪さなど気にしないように、淡々と言葉をつづけた。おかしいと思う、自分たちがこうやって物語を終わりまで進むなんて。
「王様もそうおもわない?」
 何故って、わたくしたちはあやかし。
 本来ならば、本に登場することすらできない影のモノ、と。
 王が軽く翼を揺らしたのは否定か肯定か。その意味はきっとミアにしか分からない。
 線路は海へと続いていた。下降すればトロッコは海への中へと消えて、そして線路にも先はない。不意打ちのようなものだった。ミアと王が水中へと身を浸して数秒。自在に泳ぐ人魚はトライデントを構えると、身につけた美しい結晶から、絶望へと誘うような断末魔を放つ。しかしその結晶化した音は、ミアの黒い衣を僅かに裂くだけに留まる。動けと願えば、人魚と同じように自在に海中を移動するトロッコ。使い方は理解した。けれど。
「……邪魔をされるのは嫌いよ」
 うつくしい歌声で王様を誘惑するのなら、わたくしが許さないのだわ。
 海の底のような、冷たく深い青が人魚を見据える。
 王様は常に上にいる者。
 わたくしたちを導いてくださるお方。
 なんという無礼。この本の中には、無礼者しかいないのかしら。
 もしそうなのだとしたら、早くこんな物語は終わらせて、元の世界に戻るべきだと王様をみる。
「さあ、あなたの嘘はいくつあるのかしら」
 それを邪魔するのなら、わたくしたちが抗うまで。
 あなたの存在こそが、きっと嘘なのだと思う。王の進むべき道を切り開かんとするように、海をゆく。この海の中はまるで夜の中にいるようだ。黒を纏う自分たちが身を隠すのには好都合。
 物語を終わらせるならそうするまでと、決して焦らずその時を見極めて。
 王の嘴が僅かでも獲物を掠めたならば、その眸の奥の嘘を暴くだろう。
「王様。ゆきましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか


――嗚呼
綺麗だ、とても
それこそ、ずっとこの世界に在っても良いと思えるくらいには

塒の夜も悪くは無いけれど
解説を主立てる彼処は情緒からは少し離れてしまっているから

…ねぇ、きらきらさん
アレはこの世界には不要なものかい?
在ったら困るものなのかな

…そう
なれば、空の世界から墜とそう
アレが泳ぐに相応しい海は、この世界の海では無いから
在るべきものを、在るべき場所へ

ねぇ、君
僕の声が欲しい?
どうあったって男の声だ
王子に振り向いてもらえる要素なんて欠片も無いけれど
“ことば”を伝えられる手段が欲しいのなら、あげる
その雷だって悦んで受けよう

けれど
その代償はきちんと払ってもらうよ
僕の声の対価は、“君のいのち”そのものだ




 黒の中に星が瞬く光景は、どうしてこうも美しいのだろう。
 星空に包まれている、そんな錯覚すら覚える。
 小さく足を踏み出せば、星の映る水面が揺れた。
(「――嗚呼。綺麗だ、とても」)
 それこそ、ずっとこの世界に在っても良いと思えるくらいには。
 まどかが過ごす世界の片隅に在る、偽りの星々。
 塒の夜も悪くは無いけれど、解説を主立てる彼処は情緒からは少し離れてしまっているからと考えて。
「……ねぇ、きらきらさん」
 彼らもまた、矢印を進んで来たのだろう。傍らで瞬くそれらに向かって、まどかは声をかけた。
「アレはこの世界には不要なものかい?」
 在ったら困るものなのかな。
 あれとは何か、なんて尋ねなかった。幼子のような星たちでも、まどかの言いたいことは分かる。自分たちにとっても脅威となるもの。例えそれが美しい人魚の姿をしていたとしても、あれがオウガだということをしっかりと認識していて、だから頷く。とても困る。あの人魚も、この本の世界も美しくあるけれど、自分たちが住む世界は此処ではないからと。
「……そう」
 なればと提案する。
「空の世界から墜とそう」
 アレが泳ぐに相応しい海は、この世界の――煌き希望に満ちた海ではないからと。君たちの望みを叶えるわけではない、自分がそうすべきだと思ったから何て告げながらも、眸に宿る彩は僅かに優しく。この本の結末を見送ったならば、君たちのとっておきの空をみせてだなんて。認めぬ優しさを、見返りに隠すようにして。
「還そう。在るべきものを、在るべき場所へ」

 人魚が潜む水面に注意を払うのは傍らの風の子ら。放たれる攻撃を躱し続ければ軈て痺れを斬らせた人魚が出でる。
「ねぇ、君」
 まどかは問う。僕の声が欲しいかと。
『――ええ、私は導くのです』
 歌うような声。
 王子に振り向いてもらえる要素なんて、欠片も無いけれど。
「“ことば”を伝えられる手段が欲しいのなら……なんて思ったけれど、持っているじゃない」
『あなたはとても優しい子なのですね』
 人魚は続ける。自分が欲しいのは言葉じゃない。あなたは此処で亡くなる運命にある。そんなあなたを憐れんでいる。だからこそ、そんなあなたを幸福な未来へ導くために。あなたが生きた証を、声を結晶化させ残すのだと。
 その言葉に、嗚呼、なんて偏屈で、独りよがりな考えなのだろうと。自分が生きた証なんて、いらない。でも、それを言葉にしたとして、君には通じないことも分かってしまった。
「……あげる」
 けれど、その代償はきちんと払ってもらう、自分の声の対価は、“君のいのち”そのものだと告げて。その雷を受ければいいのかと放たれるいかづちを受け入れる。
「――、」
 焼けるような痛みが全身に奔る。痛みにあげそうになる声を押し込めようとも。噛み殺すまでもなく、声は奪われていた。
「    」
 傍らの太陽が不安げにまどかを見た。送り出す言葉がなければ歩き出せないほど弱くはなくとも。うんと寂しがりなことは識っている。眩い月光の輝きが包めば、ほら。少しは和らぐだろう。
 少年は太陽を孕む風の仔を、いっておいでと柔く撫でた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュリア・ホワイト
ふん、無論ボクは臆したりしない
一直線に追いかけて、皆のために戦うんだ

投げ飛ばされないようにする為には簡単な対策がある
「相手の力以上の質量と速度で突き進むのさ!」
【そして、果てなき疾走の果てに】を発動
本来の器物の姿で体当たりをしかけるよ
なぁに、ここは絵本の世界だ
水中を進む機関車が有ったっていいだろう?

この策の欠点は……元から対処しにくい相手の攻撃もまともに受けてしまうことだね
だが、なんのそのこれしき!
正面からぶつかり合うんだ、相手の技とボクの技、どっちが強いか力比べだよ!




 星空とそれを映す海の境界に立って、人魚の尾鰭が水中へと消えていくのをみた。ジュリアにはトロッコは必要ない。だって彼女自身が、皆を運び、敵を追うことができる、それよりももっと優れた蒸気機関車であるのだから。
 臆したりすることだってありはしない。抱く感情は真っすぐに。
「一直線に追いかけて、皆のために戦うんだ」
 あの時青空の下でしたように、線路の先で沈めと願った。
 すれば沈んでいく身体。でもただ考えもなく人魚のテリトリーに足を踏み入れたわけではない。投げ飛ばされ、他の頁へと飛ばされてしまわないようにするための策はある。
「相手の力以上の質量と速度で突き進むのさ!」
 人魚を視界に捉えれば、避けられることがないよう目前へと召喚する踏切結界。
 列車が通るタイミングに合わせ、内側に閉じ込められる人魚は一瞬行き場を失ったようにジュリアをみて、その身を飾る美しき結晶からこの世のものとは思えぬ断末魔を放った。
 嗚呼、そう。この策の欠点といえば、元から対処が難しいこの断末魔、音による攻撃をまともに受けてしまうことだった。
 けれど、そんなことは関係ないとでもいうように、ジュリアは凛然と笑う。
 ここは絵本の世界だ。水中を進む機関車が有ったっていいだろう。だから本体の器物で、体当たりを仕掛けるのだと。
「――っ、なんのそのこれしき!」
 水流さえ作るような鋭い音による斬撃が、黒い虎の名を持つ機関車の軌道を掻い潜って襲っても、ジュリアは腕を掲げ真っすぐに受け止めてみせる。衝撃に踏ん張りか利かず後方へと押し出されることがあっても、肌を裂く痛みに僅かに眉を寄せることがあっても。この程度でヒーローたる自分が屈するわけもない。

 さあ、もう一度、列車が通るよ。

 自分がこの攻撃を受けとめることしか出来ないように、彼女も同じ。
 正面からぶつかり合うんだと高らかに。
 君の技とボクの技、どちらが強いか、力比べだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ

あれって人魚…天使か?
誰がどう立ちはだかってこようと
必ず皆を助けてやらなきゃ

全速力でトロッコを走らせ、相手へ迫る
まずは敵の尾びれを凍らせるために、氷で【先制攻撃】をしかけてやる

もし声が出なくなったって
俺には氷の上を駆ける足があれば十分
敵が水中を泳ぐことが得意なら
俺も得意な氷に乗って戦えばいい

水中の中に氷の足場を作り
トロッコからそこに飛び乗る
氷の足場を細く長く伸ばして、氷の滑り台のようにして
【ジャンプ】で敵に蹴りを放つと共に、『悪魔の鏡』を付与する
そうすれば、敵は体内からじわじわと凍っていくはず

この世界は確かに綺麗だけれど
でも決して本物の空や海には敵わない
だから、本物の空の皆を返してもらうぞ!




「わ、あれって人魚……天使か?」
 他の猟兵達が戦闘を始める中、ヴァーリャもまたその頁へと訪れていた。先程とか違う、暗闇に散りばめられた星が煌く戦場。でもそれを菫色の眸に映して想うのは、やはり空の国のことで。
 ヴァーリャにとって、それが人魚であろうが天使であろうが関係はなかった。だってそれがオウガであるなら、やることに、やるべきことに変わりはないから。
(「誰がどう立ちはだかってこようと、必ず皆を助けてやらなきゃ」)
 そんな想いを胸に、動きだすトロッコに乗り込んで、もう一度海中をゆく。
 視界にとらえるエメラルド。あの人魚を追えと強く強く願えば、その想いの強さを表すように、人魚との距離は縮まっていく。
 狙うのは尾鰭。水中を凍らせ突き抜ける冷気で、僅かにその尾鰭の動きがしなやかさを失った。
 水中では自分が有利。だからこそ、泳いで隙を狙っていたのだろうけれど。凍りかけた尾鰭をみて、人魚は哀し気に睫毛を伏せて、それから先ほどまでとは変わってトライデントを掲げる。
『その美しい声を――遺品を、私に』
 放たれるいかずちの速さに、避ける隙は無い。
「――、」
 痛みに声をあげようとも、やはりそれは叶わなくて。
 でも、そんなことは関係ないと、ヴァーリャは歯を食いしばった。
 止まっている暇なんてない。声が出なくなったって、自分には氷の上を駆けるこの足があれば十分。
 そして、敵が水中を泳ぐことが得意なのであれば、自分も得意な氷に乗って戦えばいいと。
 水中に作るのは氷の足場。みなぞこに広がっていく冷気の下に作られるのは、ヴァーリャだけの舞台。
 トロッコから飛び降りて氷で出来た海をゆく。
 高く長く伸ばした氷の滑り台の先、勢いのままにジャンプし、蹴りと共に放つのは砕けた氷の欠片たち。
 底から冷えていく感覚に、人魚は微笑んだ。
『可哀そうに。けれど、大丈夫。折角あなたの生きた証を残して差し上げます』
 声を奪うのは、過去を失い彷徨う者を憐れみ、幸福な来世へと導く為。
 その者の生きた証を、結晶として残すため――。
 嗚呼、なんて勝手なのだと。
(「――俺の幸福は、俺が決める!」)
 怒りにも似た想いを孕み、少女が攻撃手を止めることはなかった。
 この世界は確かに綺麗であるけれど、でも決して本物の空や海には敵わないと分かるから。
 奪われた声を――結晶を、ヴァーリャの氷が砕いた。
「だから、本物の空を返してもらうぞ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリル・チェコット

ふわふわさんっ
無事でよかったー!
もう大丈夫だからね、助けにきたよ!
そうだ、あのねあのね
海のなかであなたみたいなお花を見つけて摘んで……あっさっきの子にあげたんだ!

とにかくとにかく!
もっとあなたたちとお話をしたいのだけれど、今は海の中にいる敵を倒さなくちゃいけなくて
……メリルと一緒に、来てくれる?

敵は泡でわたしたちを捕らえようとしてくるんだって
このトロッコで避けるから、しっかり捕まっててね!

相手の武器にも気をつけなきゃ
死角をとられるのは困っちゃうな……
……ふわふわさん
わたしの背中は、あなたたちに任せてもいいかな
あの時みたいに、一緒に世界を取り戻そうよ!




 滲んで、何処か遠くへ消えてしまったかのように思えた大切な、大好きな母の記憶を取り戻した。
(「――よかった」)
 いくら真っすぐ前向きであっても、不安を覚えないわけじゃない。
 頁を進めば、霞みがかかった心を晴らすように、目の前の景色にもひかりが満ちる。
 星が輝く、空の下。
 瞬き映す、海の上。
 ふわふわなあの子たちを、漸く。
「ふわふわさんっ」
 駆けだしていた。
 ぱちゃりと水面を揺らして声を上げる少女を目にしたなら、その子たちもふわりと、あの時のようにメリルへと飛びついただろう。
「――おかえり、メリル!」
 おかえり……嗚呼、確かあの時も。そのふわふわが、言葉がくすぐったくて、けれどとてもあたたかく思えて。「ただいま」と、メリルは花のように綻ぶ。
「無事でよかったー!」
 心配してたんだよ。ぎゅうと抱きしめたその子に視線を合わせるように、少しだけ身体を離し語りかける。その声がとても優しくて、ふわふわさんたちは安心したように笑った。
「もう大丈夫だからね」
 助けに来たことを告げられれば、あの時のことを思い出したのだろう。メリルに絶対の信頼を置くように、ふわりと頷いて見せた。
「そうだ、あのねあのね」
 海のなかで、あなたみたいなお花を見つけて、摘んで。
 仕舞いこんだはずの花を取り出そうとして、はっとなる。
「あっ、さっきの子にあげたんだ!」
 ぼくらみたいなお花? ふわふわと浮かんで不思議そうに揺れるふわふわさんに、もっとあなたたちとお話をしたいのだけれど、今は海の中にいる敵を倒さなければならないと説明して。それから、真っすぐに彼らを見た。
「……メリルと一緒に、来てくれる?」
 少女が問えば、当たり前のように――。

 動き出したトロッコへと共に乗り込めば、次第にそれは下降し水中へ。敵は泡で此方を捕らえようとしてくることを説明し、だからしっかり手すりに掴まっているようにと。
(「相手の武器にも気をつけなきゃ。死角をとられるのは困っちゃうな……」)
 ひとりではきっとその攻撃を防ぎきることは難しい。でも、と考える。
「……ふわふわさん」
 なあにと尋ねる彼らに。
「わたしの背中は、あなたたちに任せてもいいかな」
 また怖い思いをさせてしまうかもしれないけれど、でも、メリルだってもう分かっているのだ。彼らの答えを。
「まかせてっ。ぼく、きみとまた戦いたいっ」
 自在に水中を泳ぐ人魚が、眸に映した少女たちを泡で包みこむ。
 ぶくぶくと泡立つその死角を縫って光る切っ先。
 大丈夫。ひとりじゃないから。
 ふわふわと放つ雲が、その切っ先を柔らかく受け止めるように威力を弱めて。
 嗚呼、今だと。雲が、泡を跳ね除ける。
 その先にいたメリルの手から放たれる矢が、人魚の腕を射貫いた。
 動きが鈍る人魚に、メリルと雲は顔を見合わせて微笑む。
 この調子で行こう。きっと大丈夫だと。
「また、一緒に世界を取り戻そう!」
 あの時のように。
 だって、確かに想うから。
 故郷の、見上げる空はいつも優しかった。この子たちにとっての、大切なそれ。そこにあるだけで安心できるような大切なものが。またこの子たちの空が奪われてしまうようなことがあれば、同じように立ち向かって取り戻したい。そしてまた。

 あの朝焼けの空を、一緒にみたいと想うから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

なんか通って行ったな
魚の尾鰭に、翼が見えた
ヒメ、乗れよ
こういうの、お前は前が好きだろ
俺は後ろでいい
捕まれって?気が向いたらな

行きたいところっていうならさっき見た相手を追うだけ
そう願うだけでそっち言ってくれるなんていい子だなって褒めとけばいいか
なんにせよ攻撃を受けて後ろに飛ばされないようにしねェとな

声を奪われても、どうってことない
言葉が無くてもわかるだろうから
その前にその雷を受ける気はねェんだけどな
それに届かねェか、俺には従者がいるからな

雷をも跳ね飛ばす嵐を巻き起こして向ける
そのまま、お前の方がどっかにいっちまえ
ヒメが釣り上げるならそれに合わせて

そうだな、幸せな終わりがいい


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

おう、じゃあ俺が先に乗る!
ちゃんと俺に掴まってろよ、與儀っ

與儀の言う通り、翼生えた魚みたいなの追ってくれ
願ったとこに運んでくれるなら、俺は全力で盾になるぞ!
泡の槍も雷も全部、この神の焔で成した盾で確り防ぐ!
防げない攻撃あれば、身を挺してでも與儀は絶対に庇って守る
俺は守護者だ、掠り傷ひとつだって與儀にはつけさせねェ
俺がやるべき事を、いつも通りやるだけだ

それに俺は器用だからな
敵の槍をシールドバッシュや鋼糸の連撃で弾いたり
與儀が攻撃しやすい様に敵を鋼糸で絡めとったりする!
泳ぎ回れないよう水中から引き釣り出してやるぞ
人魚の一本釣りだな!

海をゆく物語も終幕、これでハッピーエンドだ




 頁を進めば空を彩るのは、満天の星だった。
 真っ暗だった空が煌きを放てば、それを映す海もまた輝きを孕む。
 けれどそんな景色を綺麗だと眺めている時間はないようだ。白き翼を持つ、人魚。泡沫の天使がふたりの前に姿を現したのだから。
 天使はふたりを誘い込むように、海中へと姿を消した。既に他の猟兵によって与えられたダメージが蓄積しているのだろう。出来るだけ優位に動く為、選ぶのは勿論、海上での戦いではなかった。
「なんか通って行ったな」
 魚の尾鰭に、翼が見えた。與儀が呟けば、確かに尾鰭と翼だったなと京杜も頷く。不思議な姿をしていた。翼が生えているならば天使。魚の尾鰭があるのなら人魚――でも二人にとって、それがどちらであるかなんて些細なこと。相手がオウガであるのならば、やはりやることは決まっている。
「ヒメ、乗れよ」
 トロッコを示して、與儀が言う。與儀はと京杜が尋ねる前に。
「こういうの、お前は前が好きだろ」
 俺は後ろでいいと。
 言葉を聞けば滲む。単純に表すならば、それは「嬉しい」でいいのだと思う。與儀が自分のことを考えてくれたことが嬉しい。分かってくれることが嬉しい、信頼して、任せてくれることが嬉しい。たったひとつの言葉で、たくさんのものを与えてくれる。
「おう、じゃあ俺が先に乗る! ちゃんと俺に掴まってろよ、與儀っ」
 与えられた言葉を大切に抱くようにして、だから京杜は笑うのだ。與儀の好む、その色を宿して。
「捕まれって? 気が向いたらな」
 そして與儀も。京杜が乗ったことを確認してからねじまきを回し、トロッコへと、再び海中へと身を身を委ねるのだった。

「與儀の言う通り、翼生えた魚みたいなの追ってくれ」
 行きたいところなら、さっき見た相手を追うだけ、と與儀は思うけれど。そう願うだけで其方へ向かってくれるのならば。
「いい子だな」
 與儀が呟く。良い働きをするものは褒める、それは主として当然のことで、身に沁みついているのだろう。だから京杜も、そんな與儀の姿に、これが自分の主だと何故か得意に胸を張った――トロッコに対して。
 二人の願い通り、トロッコはいい子に「翼生えた魚みたいなの」目掛けて海をゆく。引き付けて引き付けて、隙を狙って攻撃を放ち頁を逆戻りさせる気なのだろう。
 俺は全力で盾になる。
 泡の槍も雷も全部、この神の焔で成した盾で確り防ぐ。
 そして防げない攻撃であれば、身を挺してでも――。
「俺は守護者だ、掠り傷ひとつだって與儀にはつけさせねェ」
 自分がやるべき事を、いつも通りやるだけ。当たり前のように紡がれるものであっても、その言葉は時として重くのしかかるようなものだろう。それでも與儀は主として、その言葉を確りと受け止める。受け止めながらも、攻撃を受けて後ろに飛ばされないようにしなければと冷静に。
 それには簡単に追いついた。それだけ、弱っているということでもある。けれど、だからこそ泡沫の天使は力を振り絞るように二人を狙う。
 二人よりやや空に近い場所にいたそれが放ったのは、雷。トライデントから放たれた雷が、京杜の背後の與儀を狙った。
(「――声を奪われても、どうってことない」)
 だって、言葉が無くてもわかるだろうから。
 でもその前にその雷を受けるつもりも毛頭ない。
 だって自分には――いるのだ。従者たる、彼が。
 主の信頼にこたえるように、その雷を盾を持って受け止めようとする京杜。けれど瞬間、埋まれる嵐が雷を巻き込んだ。
「悪ィな、仕事奪っちまって」
 彼の想いは分かっていても、守られてばかりではいられないから。共にあるのだと主が笑めば、ああこれだからと浮かぶ笑みを隠せずに。
 それならば、自分のやることは? 主が動きやすいように、主の攻撃が命中するように――鋼糸を放ち、絡めとろう。
「人魚の一本釣りだな!」
 身動きがとれなくなった人魚を海面へと投げ飛ばして、大きな音を立てて出でるトロッコ。
「そのまま、お前の方がどっかにいっちまえ」
 操る竜巻が人魚を巻き込めば、それは泡の様に――。

 この本って結局、どんな話だったんだろう。
 否。オウガが宿る本に、きちんとした筋書きなんてなかったのかもしれない。それでも思わずにはいられないから。あの本も、ちゃんとハッピーエンドを迎えたと。

 幸せな終わりだったならいい。
 共に迎える、あの日のような空のもと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月13日


挿絵イラスト