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けものがえり

#キマイラフューチャー #戦後 #挿絵 #宿敵撃破

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#キマイラフューチャー
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#戦後
#挿絵
#宿敵撃破


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 おかえりなさい。おかえりなさい。おかえりなさい。
 お前たちの故郷にお帰りなさい。
 おかえりなさい。おかえりなさい。おかえりなさい。
 そして獣に、お返りなさい。
 そして――……。

●キマイラフューチャー
 見渡す限りに広がる美しい花畑だ。
 ポツポツと散らばり座るのは、動物の特徴を併せ持つキマイラ達。
 皆一様に、むしり、摘み取り、花を喰んでいる。
 とろんと夢見心地の表情は、正気のそれではない。
 花弁を口に含むたびに、彼等の顔から人間らしさが消えていく。

 ウワーオ、ワーオ。クウクウクウ。
 獣達の鳴き声は、親を求める子猫のように不安と幸福に揺れている。
 その声はキマイラ達から発せられていた。

 ――おや、もう言葉も忘れてしまったようだ。
 だんだんと人らしさを失くすキマイラ達を見物するように。
 くつくつと笑う、仮面の男が佇んでいる。

●グリモアベース
「キマイラ達が姿を消す」
 クック・ルウは、猟兵達に緊急を告げた。
「キマイラフューチャーにある花畑に集められたキマイラ達が、何処かへ呼び寄せられるように移動している」
 その様子は微睡むように従順で、何者かの誘惑に惑わされているという。
 オブリビオンの仕業であることは間違いがない。

「誘惑の力は強く、花を食べたキマイラを正気に戻すことは叶わない」
 そして今すぐに現場へ向かっても、キマイラ達が花を食べる前には間に合わない。
 厄介なケースだが、他にも幾つか解っていることもある。

 1つ、花を食べれば理性が薄れて思考力が低下する。
 1っ、花の芳香は望郷の念を駆り立てる作用がある。
 1つ、花畑は広大で、焼き払うことなどは無理だろう。

「この誘惑は、キマイラにだけ作用するのではない。敵は『人間らしさ』を失わせようとしているのだ。この場合は『知性』や『理性』と捉えても構わない。多種多様な種族である我々にも、力は働きかけるだろう――そしてそれは元凶であるオブリビオンを葬るまで止まらない」
 被害が広がる前に止めてほしい、とクックは頭を垂れた。

「美しい花畑もオブリビオンが消えれば、唯の花へと戻るだろう。獣となった者達を正気に戻す事ができるのは猟兵だけだ。どうか、よろしく頼む」
 グリモアが閃き、景色が花の色へと変わっていく。


鍵森
 舞台はキマイラフューチャー。
 シリアスな雰囲気になるかと思います。

 要するに「鎮まれ俺の中の獣」ってする感じです。
 お色気はないです。

●構成
 1章:日常。
 キマイラ達の後を追い、お花畑を進みます。
 花の香に望郷の念が湧くと共に、
 野生が疼き、理性が削られるような感覚を覚えるでしょう。
 敵の場所がわからなくなるので、キマイラ達を保護したり離脱させることは難しいです。
 2章:集団戦。
 仮面の怪人との戦いになります。
 3章:ボス戦。
 生きとし生けるもの皆獣とそれは言います。

 ここまでお目通しありがとうございます。
 皆様のご参加お待ちしております。
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第1章 日常 『フラワー・フラワー・ハッピーデイ』

POW   :    お花を見ます

SPD   :    お花を楽しみます

WIZ   :    お花を愛でます

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 色とりどりの花に覆われた大地はどこまでも続いている。
 見た目だけならば美しい。
 一度迷えば右も左も分からなくなる様な光景だけれど。
 キマイラ達は同じ方を向いて、どこかを目指して歩きだしていた。
 ふらふらとした足取りは鈍く、後をつけるのには都合がいい。
 唸り、鳴く、彼等の心に正気はない。
 話しかけてもまともな返事は返ってこないだろう。

 花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 花を食べたい。衝動が心をかき乱すだろうか。
 かえりたいと、花の香に思うだろうか。
御形・菘
美しき花々を悪用する輩を、妾は決して許しはせんぞ?
妾がさっくり解決してくれよう!

薄汚れたドン底のような故郷など、妾にとっては思い出したくもないものでな
…この沸き上がる感情が、どうにも甘く優しくて、だからこそ忌々しくて仕方ないのう
それに、妾の理性を完全に喪わせることなど不可能であるよ
画面の向こうの視聴者に、そんな醜態を見せるわけがあるまい? それは妾の…私の絶対の禁忌だからな?

せっかくだ、気を強く持つために楽しくいこうか
皆は反応してくれんのか? なら勝手に妾とツーショットして回ろう!
はっはっは、すべて解決した後に写真をプレゼントしてやろう! 良い思い出としてな!



「はーっはっはっは!! 本日の『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』の時間である! 今日はここキマイラフューチャーの事件を追っておるぞ!」
 高らかな笑いと供に配信開始。
 御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)が今日も征く。
 花に彩られた景色を背景にカメラへポーズを決めて、
「美しき花々を悪用する輩を、妾は決して許しはせんぞ? 此度の事件も妾がさっくり解決してくれよう!」
 リスナーへ向けた勝利への宣言は力強い。

 キマイラの群れは、年齢も性別もばらばらといった様子で、なんとなく纏まった列を作っている。
 一応様子を確かめようかと菘が近づいたのは、一人の青年だ。服装などから察するに、普通の若者といった印象を受ける。
「さてそこの青年、妾の声は聞こえるか?」
 毛足の短い犬のよう見目をした彼は言葉の代わりに、ぬうぬう、唸り声を発するばかり。話しかけても視線はぼんやりと進行方向を向いたまま。
「反応は芳しくないであるな。どれ……」
 試しに大蛇の下半身をうねり這わせ、進行を邪魔するように前に回り込んでみると、拒絶というにはのっそりとした動きで菘を避けようとする。
「うむ、完全スルー! こんなに無反応なのも珍しい、記念にツーショットを撮ってやろう」
 その場の思いつきのように菘は犬の青年の横に並ぶと、その肩を抱いて写真を撮った。
 さて、出来栄えは如何に。
 画面で写真を確認してみれば。そこにはキメ顔をした菘と撫でられるのを渋るペットがする(面倒くせえなあ)な表情をした犬の青年が写っており。花畑の幻想的な美しさも相まって、なかなかにカオスな出来栄えとなっていた。
「おお……なんというぶちゃかわフェイス……。この状態でも撮れ高を作り出してしまう、これぞキマイラフューチャーの民よな」
 わはは。明るく一笑すると、では折角だから他の者とも写真に撮っておこう、そんなノリと流れで、ぱしゃしゃしゃー! 景気のいいシャッター音を鳴らしながら、次々とキマイラとのツーショットを撮りためていく。なお、配信掲載許可は後で取るとして。
「はっはっは、今撮った写真は事件がすべて解決した後にプレゼントしてやろう! 良い思い出としてな!」
 菘が来たからには、終わりよければ全てよしとなる。
 どんな事態も楽しく盛り上げ、万事任せておけよと邪神が絶対無的な顔をして笑う。

 配信画面に映る菘の姿はそうだ。

 渦巻く、渦巻いている、花の香は菘をしっかりと蝕んでいる。
 薄汚れた、ドン底のような故郷。
 脳裏に過る思い出しくもないあの場所が、どうにも甘く優しいものに浸されて。
 ふつふつと煮えるような苛立たしさが、胸臆を満たし膨らんでいく。
 ああ、けれど。
 笑え、笑え、高らかに笑い飛ばしてやれ。
 画面の向こうに見せていいのは真の蛇神にして邪神である菘の姿。
 胸の内にあるものを曝け出すことは断じてならない。
 そうであらねばならい。
 だからこそ理性は確固として崩れないのだ。
 醜態を晒すことは即ち"私"の絶対の禁忌なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

雪羽銀・夜
アドリブ歓迎

オーラ防御、浄化、結界術重ねて夜銀衣の神威で自我を保ちキマイラたちに同行。夜の竜の肌に月光は合わない。僅かに輪郭が薄れる。

ああ、嫌な香りだな。懐かしいだなんて…あの村の事なんて。
郷愁に思い出すのは、自分を信仰の生贄に差し出した古い村の景色。戻れたら、なんて思うのは、この花の香りのせいか。

奥歯を噛みこんで、野生の疼きを堪える。いや、この歯を噛み締めるなんて強引な手も理性が削られてるってことかもしれないな。
キマイラ連中と同じように、この花を食い散らかせば、こんな面倒くさい思考からオサラバ出来るんだろうけど。

は、上等だ。ごうごうとウルサイ連中の仲間になるのは御免こうむる。
堪えてみせるさ。



 キマイラの群れが列をなして行く。
 花の道は鮮やかなれど、その先に待ち受けるは不吉に違いない。
 それはいつか何処かで目にしたような光景だろうか。
 ふっ、とゆらめくようにして。
 深い夜闇色をした体に月の光を纏った少年が、列の後ろに加わっている。

 雪羽銀・夜(つきしろ・f29097)の輪郭は、月光の影響を受けてぼんやりと薄らいで、儚げに彷徨う様な姿をしていた
 踏みしめる度に舞い上がり薫る花の香りが、古い村の景色を脳裏に蘇らせてくる。
 まるでこちらを誘うように、甘くおだやかに記憶が浮かび上がる。
 あそこに帰ればきっと優しく迎えてくれると、錯覚を覚えさせる。
「こんな事をオレに思わせるか」
 屈辱でしかない。
「ああ、嫌な香りだな」
 戻れたら、なんて。
 帰れるのなら、なんて。
 ああどうしてそんな事を思える?
 自分の身に起きた出来事を、忘れる筈もない。
 胸を締め付けるほど懐かしいだなんて、思う訳がない。
 身体と心に刻まれた苦痛や恐怖をなかったことのようにできるわけがない。
 全てはこの花の香りの仕業なのだ。

 ざあざあと小さく喚くような疼きを堪えるように。
 きつく奥歯を噛み込めば、ギシリと竜の牙が軋んで。
 その自分らしくもない強引な手段に、理性の撓みを自覚する。
 赦せる筈のない忌まわしき場所を淡く思う、相反する気持ちはひたすら面倒で。
 花を。この甘い香りごと。
 てのひら一杯に浚って口に放り込んで、けだもののように食い散らかせば。
 こんな面倒くさい思考からオサラバ出来るんだろうけど。
「は、上等だ」
 冷たく、息を吐く。
 ぐるぐる。ちうちう。獣達は啼いている。
 自分が何者であるか忘れて愚鈍に成り果てた。
 あの姿を幸せそうだとは思うまい。
「ごうごうとウルサイ連中の仲間になるのは御免こうむる」

 いつかの生贄だった少年は、自分の意志と足で以て列を追う。
 夜の自我は、堅く彼を繋ぎ留めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

浅海君・惟春
【藤春】アドリブ連携OK

大丈夫です。もしもの時は斬って差し上げますから。痛くはありませんよ?
なんて冗談交じりに言いますが懐古も欲求も私の方が強いのか。先達のつもりで来たはずが情けない話ですね。
意地張りですが、隠れて自分に刃を立ててこの異常を晴らしながら進みましょう。
甘い香りには弱いもので。思うのは學徒兵であった時分。思えばよい青春でした。やんちゃもしましたし、淡い恋にうつつを抜かして。

ですが。

戻りたいとは思えません。思う事を私は否定します。
私は今の私が好きですしあの日々が戻らない事を知っています。刻まれています。
淡い恋を終わらせたのは、他でもない私の未熟さなのですから。
さあ、行きましょう。


藤十山・大峰
【藤春】浅海君さんと

ひゅ、ひゅお…ゾンビを見てる気分っす…亡者って言えば亡者なんすかね…
って、絶対痛いじゃないっすかー嫌っすよ!

【狂気耐性】をUCで強化して、うぅ、なんかこの匂い、頭がぐるぐるして気味悪いっすね
浅海君さんは平気そうだし、流石っすね。
この花ぜんぶがこの匂い出してんすよね、確かに焼き払うとか無理っすね、地平線まで続いてそうっす

あー、おばあちゃんの西瓜シャーベット食べたくなってきたっす、甘じょっぱくて好きなんすよねえ
はいっす、なんかヤな感じっすもんね、行きましょー。花なんて食べてないでもうちょっと早く歩いてくれると助かるんすけど
そう言うわけにもいかないっすもんね

アドリブなどご自由に



 花々が咲き乱れる大地を獣の群れが行く。
 朦朧とした足取りはおぼつかない、呻くように唸り歩くキマイラの姿を見て。
 ひゅ、ひゅお……!
 恐ろしげに息を呑んだ藤十山・大峰(UDC特殊臨時職員ヒロミネ・f29173)は大きな体躯を竦ませた。
「ゾンビを見てる気分っす……亡者って言えば亡者なんすかね……」
 ね。浅海君さん。
 ひそひそと小声で隣の男へ話しかける。
 常からの柔和な笑みを顔に漂わせ、浅海君・惟春(帝都桜學府所属ホテルズドアマン・f22883)は、大峰へ丁寧にたしなめるような視線を向けて、
「そうですね。彼等は心を無くした状態ではあります。……けれどそう気味悪がるのは失礼かもしれません」
 お客様へ対する礼儀正しさを説くように、そう答える。
 先達としての軽い苦言といったところだが、大峰はシュンとして肩を落とした。
 惟春はそっと苦笑して、つけくわえる。
「まあ、ゾンビという喩えは言い得て妙ではありますね」
「! そっすよね。そう見えますよね?」
 同意を得られたことで大峰の顔には、素直な笑みが浮かぶ。
 一喜一憂するその様子は、まるで懐っこい大型犬を思わせた。
 見えない尻尾がブンブン振られているような、そんな気配すらする。

「うぅ、それにしてもなんかこの匂い、頭がぐるぐるして気味悪いっすね」
 漂う花の香りにスンと鼻を鳴らして、大峰は顔をしかめた。
 この香りがキマイラ達を可怪しくしているのだと思うとつい不安になる。
「おれもあんな風になったらどうしよう」
「大丈夫です。もしもの時は斬って差し上げますから。痛くはありませんよ?」
「って、絶対痛いじゃないっすかー! 嫌っすよ!」
 大峰が首を大きく横に振って後退した。
 香りから身を守らんと現れた天輪が、頭上で輝き出す。
 その姿を眺めて、惟春は帯刀に手を置くと、いたずらっぽく微笑んだ。
 もちろん、冗談ですよ。
 ふっくらと言葉を紡いで、先を促すように首を傾ぐ。
「さあ、行きましょう」
「はいっす、なんかここヤな感じっすもんね、行きましょー」
 しかしキマイラの先導に合わせた移動は、思いの外のんびりしていた。
 ときおり立ち止まって、花を食べ出すキマイラまでいる。文字通りの道草を食うというやつだ。
 めううー。呑気な鳴き声まで聞こえてくると、ゾンビというよりも、だんだん草食動物の群れを相手にしている気がしてくる。
 羊とか、そういう。牧歌的なそれ。
「花なんて食べてないで、もうちょっと早く歩いてくれると助かるんすけど」
 じれったそうに呟く大峰の様子は、駆け出すのを我慢して散歩をしている犬を彷彿とさせる。体を動かすのが好きなのだろうな、と思わせるそわそわした気配をさせながらも辛抱強く足並みを合わせて堪えているような。
「そう言うわけにもいかないっすもんね」
「ええ、焦らずに参りましょう」
 花の香りはそうしている間も、じわじわと肌に目鼻に染み込んでゆく。
 甘く、甘く。
 前を行く大峰の後ろに付いて歩く、惟春の瞳が揺れた。

 舞い遊ぶ花弁が視界の中で桜の色へと変わる。
 浮かぶのは、學徒兵であった頃の記憶。
 輝くような青春時代。
 見慣れた学び舎には、遠い日に葬った顔ぶれが並んでいる。
 思えば、随分やんちゃもした。
 ああ、淡い恋にうつつを抜かしたりもした。
「……思えばよい青春でしたね」
 ほろほろと浮かび上がる記憶に、呟いて。
 惟春は刀をすこし鞘から抜き手を滑らせた。
 前にいる大峰が気づかぬほど静かに握りしめて、あの頃に戻りたいと思うことを否定する。
 ――私は今の私が好きですし、あの日々が戻らない事を知っています。
 ――刻まれています。
 淡い恋を終わらせたのは、他でもない己の未熟さ故に。
 そうして、傷ついた過去だけを斬る。
 痛みのない筈の自傷は血の代わりに桜の花を落とす。

 大峰は、少し立ち止まって。
 不意に惟春の方をぐるりと大きな動きで振り返った。
 惟春がもう刀を納めているのを、茶色の瞳でじっと見てから、
「あー、おばあちゃんの西瓜シャーベット食べたくなってきたっす、甘じょっぱくて好きなんすよねえ」
 へへへっ、と笑った。
「なんか夏休みのこととか思い出してきたんすよ。この香りのせいっすかね」
「恐らく、そうでしょう……他には何か思い出しますか?」
「懐かしいっす。夜は花火見たりー。あっ、川で遊んだりもしたっす!」
「素敵な思い出ですね」
 大峰が楽しげに語るのへ、惟春は静かに耳を傾けた。
 楽天的な明るい声が。
 いまは少し、心地が良い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)

今は引き戻せないのなら割り切るしかないか
互いに邪魔にならない距離を取り
周囲を警戒しつつキマイラ達を【追跡】

かえりたい、か
思い浮かぶのは、友人達の姿
現在自分が住んでいるアパートの一室、白いシンプルな部屋
以前、実験体として囚われていた研究所
それより前は…ぼんやりしたイメージはあるけど、あれがどこなのか、はっきりしない

歩むキマイラ達の獣じみた表情を見ているうちに
意識が「彼らを助けたい」から
次第に「あの中に混じりたい」に変わっていく

この花を食えば、オレも、楽に、なれるだろうか
自ら獣になってしまえば、命を獣に食われる事に、苦しまずに済むだろうか
気付けば花を毟って食らっている



 そこはまるで果てのない花の海。
 何処へ向かうかもわからない彼等の姿は、けれど幸せそうで。
 キマイラ達からは少し距離をおいて、皆城・白露(モノクローム・f00355)はその列について歩く。
 道すがら浮かんでくる心象風景は、花の香りが運んでくるのだろうか。

 アパートの一室。
 まだ埋まりきらない本棚に、自分だけの寝床。
 友人たちの姿もある。
 無茶をすればまた心配させてしまうかもしれない。
 研究所は、あまり思い出したくない。
 あとはぼんやりと、どこかのイメージが。
 見覚えがあるような、あれは、どこなのだろう。
「かえりたい、か」
 そういう場所が自分にも在るということだ。

 歩く内に、甘く優しく、招かれている感覚がつきまとう。
 満月の夜に感じるのとは違う、穏やかに病が疼く気配。
 獣であることを赦してくれると。
 受け入れてくれると。
 そう、囁かれているようで。
 牙がうずいた。
 欲しいのは血がしたたる肉ではなく、花だ。
 足元で咲き誇る花が、糧になさい、と自分へ差し出されているようにすら感じる。

 命を獣に食われることが恐ろしかった。
 食って食って食らい尽くされて、いつか消えるその日が恐ろしかった。
 けれど今ここで選べば、救われるのだろうか。
 だって獣になろうとしているキマイラは、あんなに幸せそうだ。
 人をなくそうというのに、彼等はあんなに――……。
 いつのまにか、白露は助けたい筈のキマイラの群れに混じりたいと思うようになっていた。
 そうすればもうきっと解放される。
「……あ、」
 駄目だ。と理性の訴える声が遠くなる。
 花の中に膝をついて、沈むように手を這わせた。
 震える手が小さな白い花を毟る。
「ぐ、ウゥゥ……ッ」
 苦しげに喉が鳴って、噛み付くように食らっていた。
 がぶ。
 細く儚い花を噛む毎に、脳髄をじんじんと溶かすような多幸感に満たされる。
 おかえりなさい。

 微睡むような心地が、疲れた心を包み込む。
 常人ではない猟兵である白露なら、抜け出せるだろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(支援要請の信号を受信・受諾し駆けつければ、電子の鎧越しに異様なまでに甘い香りを察知した。)

(デジタルなこの身体越しではきっと相棒ほどに効果は受けないのだろうが そして、「僕」には故郷といえる場所などハナからないが それでもなお追憶は巡る。)

(ハル。「僕」を助けて骸の海の果てに消えた君。唯一の友達だった君と過ごした日々が、「僕」が郷愁に駆られる唯一の過去。守るべき約束を紡いだ一人。)

(――ザ、ザ)
……支援要請に応じて馳せ参じた、ロク。

君は本機の相棒で 森番で
本機と共にヒトたるを志した友で
レグルスの片割れだ。

立てるな相棒。
いつも通り行こうか。
レグルス、行動を開始する。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

(還る者たちを【追跡】しながら)

(強い酒のような、花のような、懐かしき森の芳香
この匂いを己は、よく、知っている)
(どんなに焦がれて、そして)
(――こんなにも、狂おしいほどの、ものだったのか?)

…ととさま。
(今ならわかる。これはひとを誘い酔わせる匂いだ)
ととさま
(ひとのこころを擦り減らす毒だ)
……と…ま
(森に招かれたあねごは、どんなに、耐えて
森で育まれた己は、どんなに)

(はじめから、病み果てていたんだろう)

(爛れ潰れた喉が喘ぐ)
(キミがくれた小さなボタンで、助けを求めよう)
…ジャック
(ひとを共に志した友よ)
おれを
…ひとだと、呼んでくれ。


行こう。
この果てに、ととさまが。
…森が、待ってる。



 強い酒のような、花のような、懐かしき森の芳香。
 それが、焦がれる程に求めていたものだと気づいた瞬間。
 ロク・ザイオン(月と花束・f01377)の瞳はゆっくりと見開かれた。
「……ととさま」
 爛れ潰れたような喉から絞り出した、声は、震えている。
 ロクはもう無知で無垢だったロクではない。
 歩んできた道によって。
 学び得た知識によって。
 教えられなくても、今ならわかる。
 これはひとを誘い酔わせる匂いだ。
「ととさま」
 ひとのこころを擦り減らす毒だ。
 いつから……。いつから……?
「……と…ま」
 声にもならない喘ぎが、引き攣るように溢れる。
 森に招かれたあねごは、どんなに、耐えて。
 森で育まれた己は、どんなに……。

 ああ。

 はじめから病み果てていたのだろう。

 還る者たちを追おうとする足がもつれて、視界が揺れた。
「……う……ぁ゛……ぁ……」
 花の中へ膝から崩れ落ち、ざりざりと呻く。
 溶けた鉛を飲まされたでもしたように胸の中が重たく、熱く、痛い。
 一人ではもう、立つことすら。
「……ッ、……」
 キミは。
 必要な時は、助けを、呼びなさい。
 そう言ってくれたね。


 支援要請の信号を受信・受諾したジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は、発信者の位置情報を元に咲き乱れる花の中へと降り立った。
 途端、電子の鎧越しにも感じる程の甘い芳香を察知する。
 フラッシュバックのように廻る追憶。
 眩むような夏の季節、かつてあった光景の中に。
 赤縁眼鏡を掛けて茶色のくせ毛をした少年の姿が在る。
「ハル」
 記憶の中で彼は笑っていた。あのまぶしいような明るい笑顔で。
 "僕"が郷愁に駆られる唯一の過去。
 "僕"を助けて骸の海の果てに消えた君。唯一の友達だった君。
 守るべき約束を紡いだ一人。
 ――。
「これは、幻を思わせるのか」
 確かに心は揺れたかもしれない。
 けれども、この様な事態は初めてでもない。
 悪趣味な手を使うと、そう分析する冷静さがまだあった。
 ジャガーノートは信号を寄越した相棒の姿を探し。
 見つけた。

 そうか。と思う。
 そうなんだな、ロク。

 ロクは、花畑の中に蹲り、声もなく時折震えていた。
 目を離せば花に埋もれてしまいそうな、姿だ。
 祈るように握りしめた手の中に、小さなボタンがある。
 事態を悟るのにそれ以上の情報はいらなかった。

 正面に立つ。

「……支援要請に応じて馳せ参じた、ロク」
 呼びかけに、ビクリと肩が跳ねて。
 返事があるまでに、すこし時間があった。
「…………ジャック」
 弱々しくか細い、声。
「おれを……ひとだと、呼んでくれ」
 願いは、あまりにも深く狂おしい。
 砂嵐の音が鳴る。
 平坦な機械の声は、しかし一音一音を確かに伝えようと、答える。
「君は本機の相棒で 森番で」
 ザザッ。
「本機と共にヒトたるを志した友で」
 ザザッ。
「レグルスの片割れだ」
 ザ、ザッ。
 どんな時もそれは変わらないから。君が望むなら、何度だって言ってやる。
 けれど立ち上がるのに手は貸さない、その慰めは、きっと君を傷つける。
「立てるな相棒。いつも通り行こうか」
 頷きがあって。
 重たい動作で立ち上がると、ロクは一度天を仰ぐように顔を上げた。
「行こう。この果てに、ととさまが


 ……森が、待ってる」
 ――レグルス、行動を開始する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
帰る場所などなくても、望郷の念というものは煽られるらしい
花の香りの効力による不思議な感覚のまま、キマイラ達を追跡

そのうち、ほとんど無意識に花へと意識を向けてしまう
あんな物を食べようとは思わない、普段なら思う筈がない
しかし、しばらく歩くうちにぼんやりと
あれを食べてみたいと、そんな事を考えはじめる
食べるべきではない、なぜだっただろう
たくさんあるのだから一つくらい
衝動的に花に手を伸ばし…

…俺は、何をしようとしている
これを口にしたキマイラ達がどうなったのか、目の前に結果があるというのに
衝動を否定して強く抗う
理性を失くして、人である事を手放す
それは人狼である自分がこれまでずっと、何より忌避してきただろう



 前を歩くキマイラ達は、すっかり動物の言葉しか発しない人の形をした獣となっているようだった。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、そんなキマイラ達の様子を鋭い目つきで眺める。あいつ等はどこへ帰りたがっているんだろう。
「それにしても面倒だ……」
 帰る場所などなくても、望郷の念というものは煽られるらしい。
 貧民街の思い出したくもない光景だとか、今はもういない奴の姿だとか。
 そんなものが脳裏で泡立つように掠める。
「これもこの花の所為か」
 花に彩られた道無き道は長く、遠い。
 いつまでこれが続くのかと思わずにはいられない程に。
 それでも歩き続ける。
 花の香りによる不思議な感覚は、いつまでも消えず。
 ふ……と。最初は気の所為のようにぼんやりと。
 けれど、だんだん、だんだん……。
 生えている花から視線が外せなくなった。
 あれがどんな味がするか、気がつくと考えている。
 瑞々しい花弁を、一枚でいいから……。
 そう、考えたのは何時だった?
 あれを食べるべきではない。なぜだっただろう?
 食べてはいけない。どうしてだ?
 たべるな。
 た。

 ――――……。

 これは、糧にしていいものだ。
 そうだと、告げている。
 そのためにあるのだとわかる。
 たくさんあるのだから一つくらい。
 俺の分もあるはずだ。

 ひざまずくように花の上にかがんで、手を伸ばした。
 もう少し。あと少しで届く。
 白くて美しいあの月に手が届く。
 俺はけものになる。
「嫌だ」
 それだけは許さない!!!!!!!!
 轟々と込み上げる怒りが、正気を取り戻した。
「……俺は、何をしようとしている」
 目の前のものを払いのけて立ち上がった。衝撃に辺りの花が散る。
 心臓がバクバクと嫌な音を立てていた。

 ちがう! 俺はそうはならない!
 衝動のままに獣となる事を何よりも忌避してきただろう!
 人狼の病に抗い続けてきたのは何のためだ!

「…………クソっ」
 慚愧の念に顔を覆う、きっと誰にも見せたくない顔をしていた。
「誰が負けるかよ」
 吐き捨てる。
 花の香りは忌々しいほどに甘く芳しい。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
この世界のオブリビオンは被害を加えるとしてもユーモラスな方法を取る傾向が多いのですが…どうやら此度はそのケースに当てはまらぬようですね

理性を失った果てに何が残るのか…騎士として最悪の事態は防がねばなりません

●防具改造で関節部に覆い施し気密性確保
花の香の悪影響を鑑み臭覚センサーもカットし●環境耐性整え
機械馬に●騎乗
UCの●情報収集も合わせ元凶の元へ急行

対策整え、野生など無いウォーマシンと言えども微弱な影響がありますね
不必要な戦闘体勢への移行やターゲットの選定が電子頭脳内の行動候補に常に挙がるとは…

自己●ハッキングで悪影響をフィルタリング

(道中のキマイラ達を見)
申し訳ございませんが、暫しの辛抱を…



 色とりどりの花が咲き乱れる花の絨毯を。
 獣達の群れが列をなして、ぞろぞろと何処かへと向かう。
 彼等を守るためにこの地に現れたのは、機械馬に乗った鎧の騎士と妖精達。
 ああ。それはまるで、おとぎ話のような光景だった。

「この世界のオブリビオンは、被害を加えるとしてもユーモラスな方法を採る傾向が多いのですが……」
 キマイラフューチャーの地に降りたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、事件の概要と現場の様子を確認して独り言ちた。
 過去のデータと照らし合わせて対処法を探るも、
「どうやら此度はそのケースに当てはまらぬようですね」
 類似データに合致するものがない。
「理性を失った果てに何が残るのか……」
 様々な予測が立つだろう、所謂嫌な想像というものだ。
 ただ一つ確かなのは。
 招かれる先に何が待ち受けているのだとしても。
 獣と成り果てたキマイラをこのまま黙って行かせれば、誰一人として帰っては来ないという事。
 それが、この事件に猟兵が介入しなかった場合の未来だ。
「騎士として最悪の事態は防がねばなりません」

 その為にトリテレイアは出来ることをする。

 集まったキマイラは、女もいれば男もいた。
 若者が多いが中には子供もいれば、年をとった者もいる。
 ふわふわとした毛を纏い、翼や、鱗を持つ者もいた。
 ターゲットは無差別、と推測される。
 さらに探索範囲を広げて警戒を続けた。
 広範囲の探索を担うのは近くにいる筈の元凶を探るべく呼び出された妖精型偵察ロボだ。
 騎士を理想とするトリテレイアだが、現実はおとぎ話のように都合良く事が運ばないと心得ている。
 ゆえに、彼は合理的だ。

 不意に兜の下で光るエメラルド・アイが、警戒するように瞬いた。
「これは……」
 発信者不明の命令信号だ。
 事前に嗅覚センサーを切っていたため、花の香りを感じることはなかったが。
 信号の発生源は明らかにこの花々から立ち昇っている。
 花を媒介にして、分泌された香りや花そのものに触れたものへ、種族を超えてあらゆる対象に働きかける力が発生している。ここまでは予想できたことだが。
「野生など無いウォーマシンと言えども微弱な影響がありますね」
 不必要な戦闘態勢への移行。
 ターゲットの選定が電子頭脳内の行動候補に常に挙がる。
 そういった不具合が確認できた。
「自己ハッキングを開始。悪影響をフィルタリング……」
 プログラムが受けた不正なアクセスを切る。
 瞬時に対処したおかげで、それ以上の不具合は防ぐことができたようだ。
 しかし、外気を遮断し嗅覚センサーを切り、入念に対策をしていたトリテレイアでさえ、こうした影響を受けるのだ。はたして機械馬と妖精型ロボには、影響はないだろうか。
 予断なく確認をして、
「申し訳ございませんが、暫しの辛抱を……」
 騎乗しながら、トリテレイアはキマイラ達へそっと声をかける。
 不明瞭な鳴き声が上がるが、返事ではなさそうだ。
 それでも、
「何者にも手出しはさせぬよう、必ずお護り致します」
 誓うように告げた。

 彼方より来たりし護衛の騎士を引き連れてキマイラ達は進む。
 彼等の結末は、はたして。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『模倣怪人ノッペロイド』

POW   :    倒錯のマスク
自身の【なりきっている役柄にふさわしい振る舞い】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    対策のマスク
いま戦っている対象に有効な【役になりきれる絵柄の仮面】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    贋作のマスク
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使い手の猟兵の顔が描かれた仮面に変換して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「あのまま行かせてあげてはどうです」
 キマイラ達の後を追おうとする猟兵達の前に、仮面の男が現れる。
 どこか親切ぶった言葉遣いは、あなたにどう聞こえただろう。
 怪人は、獣になりかけたキマイラ達を見やり。

「人の仮面を脱いで、彼等、幸せそうじゃありませんか」

 そう、言った。

「あなたも、委ねてしまっては如何です」

 そう、誘った。
白鐘・耀
無理やり連れてきた同行者:ムルヘルベル/f09868

セイッ!!(接敵即顔面にハイキック)
チッ避けるとかめんどくさいわね。喰らいなさいよ雑魚なんだから!
こっちはねえ嫌な予感がビンビンしてんのよ、あんたらの相手してる暇ないの!
……それにこの匂い、ムカムカしてくるわ

ムルヘルベル! あんたこれなんとか出来ないの!?
いやお言葉とかいいから! こいつら手強いのよ割と!
だからお言葉とかはーーは?

ああ、そうね。あの子がもし此処にいるなら、運命の糸を辿ればそれで十分か
(ノーガード状態で手招き)
同時にかかってらっしゃいハゲ頭!
全部避けて全員顔面蹴り飛ばしてやるわ!
失敗したら?
そんときゃ後ろのチビがなんとかするわよ


ムルヘルベル・アーキロギア
無理やり引っ張りやがった同行者:耀/f10774

酩酊作用をもたらす花畑に、役柄を演じる仮面の怪人か
幸いワガハイの装備はある程度芳香の影響をシャットアウトしておるが……耀! オヌシ素面であろうな!?
迂闊に攻撃するでない……ああもう言ってるそばから乱戦状態ではないか!

「妙に嫌な予感がする」と勝手に引きずってこられたが、戦いとなれば致し方なし
耀よ! 【賢者の箴言】をくれてやる!

オヌシのやりたいようにおもいっきりやれ。
オヌシには、その「運命の糸」で繋がった相手の未来を読む第六感があろう?
つまり尻拭いはワガハイがしてやる!
といってもまあ、その場合はあやつごと魔法で吹っ飛ばす感じになるが……



 妙に嫌な予感がするわ。今すぐ出るわよムルヘルベル!
 なんだ、いきなり。こら押すな!
 いいから速く! 間に合わなくなるじゃない!
 わかったわかった! せめて何処へ行くかだけでも説明してくれ。
 きっとあの子のところ! 私の予感は当たるんだから!

 そうした、やり取りがあった。

 セーラー服の娘は、花畑を駆け抜けて。
 マスクの怪人達の集団を見るや迷わず、近くの一体の懐に飛び込み、その顔面を蹴り上げる。
「セイッ!!」
 裂帛の気合と共に放たれた足蹴りは、しかしかわされた。
 奇襲とはいえ動きが大きすぎたか、それも焦り故だろうか。
 舌打ち。
「避けるとかめんどくさいわね。喰らいなさいよ雑魚なんだから!」
 高く上げた脚を戻し、白鐘・耀(可憐な猟兵・f10774)は、ふてぶてしいまでの宣戦布告を叩きつける。
「耀! オヌシ素面であろうな!?」
 数歩遅れた場所から、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)が思わず叫んだ。
 酩酊するに等しい作用をもたらす花に埋め尽くされた原野。芳香から逃れるすべはない場所で、幸いにもムルヘルベルは装備によって、漂う香りの影響を受けづらい状態だが、耀がそうとは限らない。
 できればもう少し慎重に行動すべきだと思っていたのだが、
「迂闊に攻撃するでない……ああもう言ってるそばから乱戦状態ではないか!」
 戦いは始まってしまった。
 迫る敵を蹴り飛ばし、耀は叫ぶ。
「こっちはねえ嫌な予感がビンビンしてんのよ、あんたらの相手してる暇ないの!」
 その表情に、隠しきれない焦燥の色があった。
「……それにこの匂い、ムカムカしてくるわ。ムルヘルベル! あんたこれなんとか出来ないの!?」
「できるならやっているのである。これは、元を絶たねばなんともならん」
 言い争うような二人の様子を面白がるように。
 は は は。軽薄な笑い声が上がった。
「ずいぶん勇敢なお嬢さんですね。ここには事件を追って? それとも誰かを探しにいらしたのでしょうか?」
 同じ様な姿が並ぶ中、声はあちらこちらから聞こえる。
 『模倣怪人ノッペロイド』は素顔を持たない仮面の怪人だ。
 仮面の数だけ役柄を演じ、仮面に応じた力を持つ、そういう存在である。
 その能力の一つは、戦う相手に有効な役柄の仮面を召喚すること。
「ねえ、お嬢さん。その探し人とは、こんな顔じゃありませんでした?」
 耀の前にぬっと現れた怪人の仮面に浮かび上がる。燃えるような赤髪の――見覚えのある相貌。
「こ、の!」
 仮面に描かれた人物は問題ではないまだ予想がついていた、しかしその表情を見た瞬間、耀の目つきは険しくなる。ああ、それはなんて。かなしい。
 だが。
「そんな安い挑発に乗ると思うんじゃないわよ!」
 湧き上がる激情を抑え込みながら、怪人の胴体を蹴りつける。しかし一人で相手をするには数が多い。攻撃が途切れぬ中、息をつく暇もない。
 その時、ムルヘルベルが口を開いた。
「……耀よ! 『賢者の箴言』をくれてやる!」
「いやお言葉とかいいから! こいつら手強いのよ割と!」
 今欲しいのは援護であって、苦言を聞いている暇はない。
 物申す耀にしかしムルヘルベルは落ち着いた様子で続ける。
「よいか、耀」
「だからお言葉とかは」
「オヌシのやりたいようにおもいっきりやれ」
「――は?」
 パチクリと瞳を瞬いた。
 驚く。
 それが、古めかしい文言でも教訓めいた引用でもなく。
 ムルヘルベル自身の言葉だと気がついて。
 そしてその言葉が、どれほど自分に力を与えるのかという事に。
 信を置いた人へと向け、ムルヘルベルは力強く言い放つ。
 知性を、理性を、人間性を奪おうとする者達へ、賢者たるムルヘルベルは言葉で語りかける事で相対してみせた。
「オヌシには、その『運命の糸』で繋がった相手の未来を読む第六感があろう?」
 それは、戦う力であり、変える力。
 耀が縁を結んだ相手を想うなら、糸は必ず応えるだろう。
「ああ、そうね。あの子がもし此処にいるなら、運命の糸を辿ればそれで十分か」
 頭がすうっと、冴えていく。まるで悩んでいたことへの答えが見つかった時のように。体が軽くて、今なら何でもできそうな気がした。
 口元に笑みを広げ、耀は後ろへ跳んで敵陣から距離を取る。そして肩の力を抜いて無防備な態勢から、ちょいちょいと怪人達へ手招いてみせた。
「同時にかかってらっしゃいハゲ頭! 全部避けて全員顔面蹴り飛ばしてやるわ!」
 おもいっきり、やってやろうじゃない!
 失敗したら? そんときゃ後ろのチビがなんとかするわよ。

 駆けつけるための脚は強く、掛けるための言葉は強く。
 声なき声も聞きつけて、道無き場所にも道を繋ぐ。
 例えその先に、なにがあろうとも。


 よし、片付いたな。
 ……あんた思いっきり私ごと魔法で吹き飛ばしたわね!
 ちゃんと避けたであろうが。それ、急ぐぞ!
 あっ、こら! 待ちなさいよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
理性の失せた目で穏やかな笑みを浮かべ、キマイラ達の群れに混じり進むが
戦闘音を聞き振り返る

白い花に囲まれて眠る自分のイメージと
「一人でどこかにはいかないで」という誰かの声が過る
(だいじょうぶ、けものはほかにもいっぱいいる
それに、いくんじゃなくて、かえるんだから)
なのに何故か足が止まる、胸が痛む

(オレは、かいほうされたはずなのに、なぜくるしい?
ここちいいはずなのに、なぜさむい?)
(ああ、まだ「たべたりない」のか、きっとそうだ)

目の前に現れた仮面の男を「獲物」と捉え襲い掛かる
【人喰い灰白】使用、人と獣がまだらに混ざったような姿になり
仮面の男に白い炎を叩き込み、倒して喰らう



 ふわふわと、心地良さがあった。
 皆城・白露(モノクローム・f00355)の顔には穏やかな笑みが漂う。
 心細さが遠のいて、もう大丈夫だと言われているようだった。迷い子が家を見つけた気持ちはこんなだろうか。
 キマイラ達の群れは、白露を迎え入れていた。物言わずとも一緒のところへ行くのだという安心感で繋がっているような気がした。
 何処へ行くかも、もう解っている。花を食った白露にしか知り得ぬことだ。森へ行こう。一緒に、みんな一緒に。

 導かれるままに歩く内に、いつしか現実と夢とが交差して混じり合っていく。
 もはや正気ではないのだ、起きながらでも夢ぐらい見る。
 夢の中だというのに白露は眠っていた。
 白い花に囲まれ、子供のように体を丸めながら。
 無垢で純真な真っ白に包まれて、白露の姿は今にも溶けてしまいそうだった。
「一人でどこかにはいかないで」
 そう、誰かが囁く。心配そうだ。誰が言っているのだろう。
 わからないけれど、安心させてやりたくなった。
 微睡むような意識の中で、言葉を紡ぐのが少しむずかしい。ゆっくりと胸の中で唱えるように、白露は声に向かって語りかけた。
(だいじょうぶ、けものはほかにもいっぱいいる)
 ここから行く先に、人はいない。
 みな獣だ、独りじゃない。
 それはどんなにか嬉しいことだろう。
(それに、いくんじゃなくて、かえるんだから)
 大丈夫。と繰り返す。
 声がまた何かを言っているような気がしたが、上手く聞き取れない。

 白い花の夢が遠ざかる。
 なにか危険な音があちこちからしていた。
 戦う、音だ。
 引き止められたように足が止まり、胸が張り裂けそうに痛かった。
(オレは、かいほうされたはずなのに、なぜくるしい?)
 あんなにも求めていたはずの、安寧があるのに。
(ここちいいはずなのに、なぜさむい?)
 振り返った先に、男がいた。仮面をつけた男は、じっと白露を見ている。
 なにかをすべきだと思った。
 どうすれば良いのだろうかと鈍くなった頭を巡らせる。

 ああ、まだ『たべたりない』のか、きっとそうだ。
 食べたいなら獲物を狩ればいい。
 寒いなら、炎を点せばいい。
 獣じみた結論は、あるいは戦うための本能だったのかもしれない。

 気がつくと白露は跳び、男の首筋に喰らいついていた。あぎとから白い炎を吹きながら、鋭く尖った牙をぐっと押し込める。
「ああ……あなたはいい子だね。そうとも、それでいいのだ」
 抵抗はなかった。
 仮面の怪人は自身の生死にむとんちゃくな様子で、白露の炎と牙を受け入れる。
 この先にあるものの遣いである怪人達にとって、白露は進路を妨害すべき対象ではなかった。その行動も動物的なものであればそれは受け入れられたのだ。
「先へお行きなさい。迷わずに、おかえりなさい」
 ふふ、ははは。ひしゃげた喉から歪んだ笑い声があふれだす。
 それすら白露の耳には届いていなかったかもしれない。
 口に広がるぐしゃりとした感触は血と肉で出来たものではなかった。炎に燃え仮面が割れると怪人の身体は光の粒子となってボロボロと口の端からこぼれて消えていく。
 飢えた狼がするような荒々しい息遣いがしていた。
 人と獣がまだらに混じり合っていく。
 爪が伸び、牙が尖り、長い体毛が手足を覆う。白露の身体は、人とも獣ともつかぬ姿へと変じていた。

 誰ともわからぬ声の残響が、胸を叩くような痛みをもたらしている。
「どうして」
 寒さが消えない。心細げに白露は呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆POW
※アドリブ、絡みOK

気に入らないな
彼等が本心から望んで『人の仮面』とやらを脱いだわけではない
そうなるよう仕向けておきながら、ふざけた言いぐさだ

そんなものの誘いに乗って自らを委ねるなど冗談じゃない、銃で応戦する
その思惑通り『人の仮面』を脱ぎ捨てかけた事への怒りと慚愧の念は、花の香と一緒に振り切って
敵の強化に対応する為、点で狙うのではなく面を意識してユーベルコードを発動
逃がさないように連続射撃で広い範囲へ攻撃を行う

戦闘行動を取れない者がいれば庇う
…周囲へ気を配る事も、オブリビオン殲滅の一環だからな

この場を切り抜け、必ず元凶を倒して被害者を元に戻す
キマイラ達の帰る場所は、この花畑の先では無い



 まるで人の幸福を知っているような言い草だ。
 オブリビオンの口ぶりはシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の神経を逆撫でる。
「気に入らないな」
 撥ね付けるように言い。
 背に、キマイラの群れを庇うようにして、怪人と対峙する。
「彼等が本心から望んで『人の仮面』とやらを脱いだわけではない」
 あの花から香る誘惑にただの一般キマイラが抗える筈もないだろう。恐らくは、ここに連れてこられた時点であの状態になった筈だ。
 何もわからぬままに連れて行かれる、それのどこが幸せだというのか。
「そうなるよう仕向けておきながら、ふざけた言いぐさだ」
 睨めつける眼に、殺気が籠もる。
「ははは。ずいぶんと憎まれてしまいましたね」
 怪人が笑う。
一体ではなかった、何処からともなく現れて数を増やしながら、しかしすぐには襲ってくる様子もない。
 奇妙だった。
「――でも、貴方だって一度は揺れたでしょう?」
 怪人の一人が指に摘んだ一輪の花を揺らして笑う。
 知っているのだ。
 あの醜態といってもいいザマを。
 その上でシキをまだ連れて行けるかどうか値踏みしているのだ。
「貴方は仮面を脱がなかった。獣になることが、そんなに恐ろしいですか?」
 煮え滾るような激情を堪え、シキは眇た目で怪人を見た。
 手の中に握ったハンドガンの銃口が、狙う。
「仮面仮面と、ずいぶんその言い方に拘るんだな」
 人の持つ弱さを強さを、感情を衝動を。
 そんな薄っぺらなもので括ろうとすることが傲慢でなくてなんだ。
「冗談じゃない」
 胸に渦巻く怒りと慚愧を振り切るように引き金を引く。
 連続する射撃音が鳴り渡った。
 怪人達は飛び道具を持っていないようだった。
 戦いは一方的とまではいかないが、シキは断然有利。
 だからこそだろうか、一人の怪人がキマイラを襲おうとしていた。彼等の役目は明らかにキマイラの誘導だったが、役目と相反する行動をする事によって身体を強化する特性が、そうさせたのかもしれない。
 狙われたのは子供だ。
 気がつけば、跳ねるように体が動いていた。
 シキは咄嗟に駆け寄ると、その少年を庇うように片手で抱きしめる。
 もう片方の手は怪人の頭に銃口を突きつけて、
「お前たちは誰の命令で動いている」
 尋ねはしたが返事があってもなくても、撃つつもりだった。
 クエスチョンマークの描かれた仮面は、小さく喉を鳴らして、
「"森"ですよ」
 とだけ言った。
 放たれた銃弾が、仮面の怪人を撃ち抜く。
 力をなくした身体が沈み、光の粒子となって消えていった。

 元凶を倒し、被害者達を元へ戻す。
 この先にあるのが何であってもやる事は決まっている。
 戦いが一段落した頃。
 少年は何が起こったかも解らないような様子で、呑気に欠伸をしていた。ふさふさした長い尾を振って、シキから離れていこうとする。
 止めても無駄だろう。
 それでもできるだけ寄り添って、他のキマイラ達のところに戻るまでついていってやる。
 しばらく見守っていると、やがて少年は毛色の似た大人のキマイラに近寄って、甘えるようにクウクウと鳴いていた。
 親子といったところだろうか、こんな事件に巻き込まれなければきっと平穏に暮らしていたはずだ。
 食うことにも困らず、命を奪わずとも生きていける。キマイラフューチャーという世界では、それが許されている。
「あんた達の帰る場所は、この花畑の先では無い」
 だから、戻れるうちに戻ってこい。
 過去になる前に、どうか。
 失われないように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤十山・大峰
【藤春】浅海君さんと

難しい事は分かんないっすけど。ダメっすよ!
花火見てる時も、川で遊んでる時も、楽しい時は笑うもんっすから

人のままじゃ幸せになれないみたいに言ってるっすけど、人のまま幸せになったらいいじゃないっすか。

浅海君さんが意識を引いてもらって、おれがぶっ飛ばすっす
おれが出来る事ってこれ位っすから
頭上の天輪からの加護で【怪力】を底上げて、拳で仮面を砕き割ってやるっすよ!

物まねっすか、誰っすかね。
おばあちゃん
大学の友達
それとも浅海君さんっすか
ははっ!みんな笑い方ド下手クソっすね――クソふざけんなって話っすよ

おれ、あんたら大っ嫌いす。
好きになってもらおうとも、してないみたいっすけど

アドリブ歓迎


浅海君・惟春
【藤春】アドリブ連携OK

花吹を構え、対する。

自分が幸せかどうか分からない状態を幸せだというのは、少々傲慢が過ぎるのではないでしょうか?

ええ、まあ。彼らがそれを望み、本当に幸せかもしれませんが、だとしても、それを見て私が幸せにはなれないものでございまして……折角のお誘いではございますが、お断りいたします。

死に別れ、日々を覚えて、そうして手にしたこの仮面、私は気に入っておりますから。
外して楽になるのを倦厭する程度にはね。

さて、啖呵を切ったはいいものの、巧く囮になれているでしょうか?
威力は低くて構いません。桜吹雪にその体感する時間を僅かでもずらして、サポートに回りましょう。

頼みましたよ、藤十山さん。



 抜刀した花吹を構えて、ゆるりと笑う。
 浅海君・惟春(帝都桜學府所属ホテルズドアマン・f22883)は、自分に向けられた問いかけに表情だけは穏和なまま答えた。
「自分が幸せかどうか分からない状態を幸せだというのは、少々傲慢が過ぎるのではないでしょうか?」
 キマイラ達のまるで生きる屍のような姿を幸せだと言うならば、それはあまりにも価値観が違いすぎる。
 仮面の怪人は肩をすくめると、
「なる程。傲慢ですか……しかし、本人が何も言えない以上。幸せでないと言い切ることもまた傲慢なのでは?」
 屁理屈めいた言葉を返してみせた。
「ええ、まあ。彼らがそれを望み、本当に幸せかもしれませんが、だとしても、それを見て私が幸せにはなれないものでございまして」
 丁寧な所作で、切っ先を向ける。
 穏やかな表情、しかしその瞳の奥は笑ってはいない。
「……折角のお誘いではございますが、お断りいたします」
 与えられた偽の安寧に委ねる気など毛頭ない。
 この身は遠の昔に覚悟をしたのだ。
「死に別れ、日々を覚えて、そうして手にしたこの仮面、私は気に入っておりますから」
 ゆっくりと言葉を紡ぐ、時間稼ぎだ。
 言葉は本心からのものだけれど、
「外して楽になるのを倦厭する程度にはね」
 この戦場での役目は先達として、大峰を支えること。

 桜の花びらが舞う。

「頼みましたよ、藤十山さん」
 合図に、後衛から飛び出した藤十山・大峰(UDC特殊臨時職員ヒロミネ・f29173)を桜吹雪が吹き付ける。
 大峰は仮面の怪人へと接敵しながら、
「俺さっき言われた事考えてて、難しい事は分かんないっすけど。ダメっすよ!」
 そう叫んでいた。
「花火見てる時も、川で遊んでる時も、楽しい時は笑うもんっすから」
 理論整然とはとてもいかなかった。
 ただ心に浮かんだ答えを並べ立てていく。
 だってキマイラ達は笑っていない。
 それなのにどうしてそんな自分勝手な理屈で人を操ろうとするのか。
 大峰はまったく理解できないといった表情を浮かべる。
「人のままじゃ幸せになれないみたいに言ってるっすけど、人のまま幸せになったらいいじゃないっすか」
「ははは」怪人が笑う。
「なっ、何がおかしいっすか」
「失敬。あなたには仮面は必要ないのだろうと思いましてね」
「それのなにが悪いっす!」
 天輪がその頭上に輝く、握りしめた拳は驚異的なまでに怪力を持ち。
 居並ぶ怪人達へと向けられる。

 仮面に現れた顔ぶれは、どれも何処かでみた人々の、笑顔。
 おばあちゃん。
 大学の友達。
 そして、惟春の顔もあった。

 どの笑顔も、ド下手クソだ。あたたかさも優しさも、薄っぺらに貼り付けただけの偽物。
「クソふざけんなって話っすよ!」
 拳を叩き込めば、卵の殻を割るような軽い感触で仮面が割れる。
 ためらいはない。けれど、嫌なものだった。
 桜吹雪に加速された時間の中で次々と現れる面影を叩き壊していきながら。
「おれ、あんたら大っ嫌いす」
 真っ直ぐな怒りを込めて、大峰が言い放つ。
「好きになってもらおうとも、してないみたいっすけど」

 きっとそれがオブリビオンというものなのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『幸せ』に関する定義は様々です
仰る通り、あの状態こそが幸せな方もいるのかもしれません

ですが理性無きヒトの行動は得てして周囲に害を齎すもの
騎士としてそれは許容する訳にはいきません
押し通らせていただきます

機械馬から降り集団へ接近戦敢行
センサーでの●情報収集で包囲する敵の行動を●見切り
四方八方の攻撃を●盾受け●武器受けで防御したりUCで操る妖精ロボのスナイパー●レーザーで迎撃
なぎ払う近接武装で一掃

先の勧誘へのお返事がまだでしたね

ウォーマシンにとって演算…理性の放棄など怠慢か機能停止と同義
十全に機能していないという意味では、人の仮面を脱いだ戦機などブリキの玩具にも劣ります

お断りさせていただきましょう



 怪人の言葉に1秒にも満たない逡巡があった。
 機械馬に乗った騎士は答える。
「『幸せ』に関する定義は様々です」
 キマイラ達を見る。
 穏やかな様子で歩いていくあの姿は、彼等が自分から望んだことなのだろうか。
「仰る通り、あの状態こそが幸せな方もいるのかもしれません」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、可能性を一つ一つ考慮するように答える。
 他人の幸せを窺い知ることなどは、結局誰にも出来ないことなのだから。
「ですが理性無きヒトの行動は得てして周囲に害を齎すもの。騎士としてそれは許容する訳にはいきません」
 馬から飛び降りると、トリテレイアは巨大な盾をかざして、
「押し通らせていただきます」
 意志を曲げぬ、固い声で言った。

 周囲の警戒を怠らず、常に偵察を続けていたトリテレイアは戦場の状況を把握するのも早かった。
 どこに向かえば効率よく敵を自分に集めキマイラ達に害がないように戦えるかを心得た動きは合理的で無駄がない。
 盾で守り、時には武器にして怪人達相手に立ち回る。
 しかし四方八方から迫りくる怪人達の集団は、数を増やしているようで、どこから現れるのか探ろうとも感知できないようだった。
 同じ仮面を被った一軍から、誰ともなく声が上がる。
「先程あなたは『周囲に害を齎すもの』とおっしゃいましたね」
 答えるべきか少し迷うが、
「ええ」
 トリテレイアは攻撃の手を緩めずに簡潔に返した。
「ではもしも」
 声は話を続けながらも、あちこちから聞こえてくる。
「完結した理の中に彼等を隔離するのだといったらどうします」
「それが、あなた方の目論見ですか」
「先へ行けば解ることですが、そういうことです」
「なおさら、見過ごす事はできませんね」
 無数の妖精達がトリテレイアの周りを舞い、砲口を敵へ向ける。
 妖精型ロボのレーザーの熱線が、怪人達を撃ち抜き。辺りに眩い光を放った。

「先の勧誘へのお返事がまだでしたね」
 仮面の怪人達の崩壊していく身体が、光の粒子となって消えていく。
「ウォーマシンにとって演算……理性の放棄など怠慢か機能停止と同義」
 考えるだけでおぞましいものだ。
 人を忘れた騎士など、きっと笑い話にもならない。
「十全に機能していないという意味では、人の仮面を脱いだ戦機などブリキの玩具にも劣ります」
 それとも、もっと悪いことになるだろうか。
 そんな想像に、なにも意味はないけれど。
「お断りさせていただきましょう」
 センサーから完全に怪人達の反応が消えたことを確認すると、トリテレイアはその場から背を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
奇遇だのう、妾はキマイラのみならず、キマフュ全ての者たちの幸福を願っておるよ
しかし現状を見るに、お主と妾は幸せのスタンスが決して相容れんようであるな?
その言が真であるなら、邪神たる妾を打ち倒してみせるがよい!

はっはっは、戦法は普段と変えようもない! 左腕で以て全力でボコる!
技をコピーするというのも、時には難儀なものよのう
お主、頭脳派であろう?
この妾に匹敵する素敵なオーラ、強さを得られるかもしれん
だがボコられて蓄積する痛みに、メンタルは耐えられるかのう?

はーっはっはっは! エモく楽しい殴り合いだ!
安心せい! 自分の顔した仮面は殴れんとか、そんな気持ちは欠片もない!
むしろ全力でブッ飛ばしてやろう!



 あれが幸せそうだというのならば。
 幸せにしてやるというのならば。
 愚弄するにもほどが在る。

「奇遇だのう、妾はキマイラのみならず、キマフュ全ての者たちの幸福を願っておるよ」
 喝采するようによく響く大きな声で述べた御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、芝居がかった仕草で大きく両腕を広げた。
「しかし現状を見るに、お主と妾は幸せのスタンスが決して相容れんようであるな?」
 息を呑むような迫力のある笑みを浮かべながら、鎌首をもたげた蛇のように上半身が持ち上がる。
 それは例えばゲームのラスボスが、自分の元へたどり着いた勇者へと対するような姿だ。
 邪神様きたー! なんてはしゃいだコメントが見えてくるような気さえする、画面の向こうは盛り上がっているだろう。
 赤く長い舌を伸ばし尖った牙をこぼれるように見せて笑いながら。
 菘が高らかに告げる。
「その言が真であるなら、邪神たる妾を打ち倒してみせるがよい!」
 禍々しいオーラをまとって仮面の怪人達へ襲いかかるその姿は、凶悪と言っても過言ではなかっただろう、しかしそれこそが彼女の魅力なのだ。

 黒く硬い竜のような腕をかかげる。
 戦いに用いるのはこの左腕一本。
「お主、頭脳派であろう? 殴り合いはいかにも苦手そうだのう!」
 言うが早いか、息をつかせぬほどのラッシュだ。
 浴びせかけるような左パンチが、仮面の怪人を滅多打ちにする。
「……ぐ! ならば、こういうのはどうです?」
 苦しい息を吐きながら仮面の怪人の左腕が大きく膨れ上がり、みるみる内にその形が変化した。
 それは菘の腕だった。
 そして見覚えのある禍々しいオーラが、仮面の怪人を覆う。
 見る者の戦意を削ぐような気配だ。菘は不敵に笑った。
「妾の技をコピーするか、良かろう!」
 しかし、菘のユーベルコードは負傷に比例して戦闘能力が増強するというもの。先程の打撃で仮面の怪人の負傷は、相当だったはずだ。
「はーっはっはっは! エモく楽しい殴り合いだ!」
 ステゴロはこれでなくては盛り上がらん。
 辺りに拳が身体にめり込む凄まじい音が響く。何度も何度も。
 更には仮面怪人の顔――無地の仮面に色が滲み、顔を描こうとするのを菘は見た。仮面は菘の顔を描こうとしている。そこまでがコピーなのだろう。
「安心せい! 自分の顔した仮面は殴れんとか、そんな気持ちは欠片もない! むしろ全力でブッ飛ばしてやろう!」
 視線の先、白い仮面に現れた菘の顔は、まるで今にも動き出しそうなほど精巧で。
 けれど、それはまるで――"私"の顔していた。
 それが見えたのは菘だけだったが。
「はっはははは! なるほどなあ!」
 全体重を乗せた渾身の一撃が、怪人の頭上から振り下ろされる。
 突き刺さるような拳が仮面を貫き、粉々に砕き、破壊する。
 仮面の下には、なにもない。そういう怪人なのだ。だから、血や肉といったものはなかった。
 どうっと倒れた身体は崩壊を始める、その時、声がした。声は、割れた仮面からしていただろうか。薄っすらと笑うような細い響きは皮肉げに。
「あなたは随分と、分厚い仮面を被っておられるようで」
「はっはっは! 嫌味であるな!」
 なるほど頭脳派は、今際の言葉もふてぶてしい。
 仮面の破片が、本体と共に光の粒子となって消えるのを横目で眺めて菘は、少しだけ忌ま忌ましそうに舌をチロリとさせる。

「妾の動画も見ることができん状態の何が幸せか。片腹痛いわ!」
 ふんっ。鼻を鳴らしてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白鐘・耀
同行者:ムルヘルベル/f09868

さっきのクソいけ好かない仮面で確信したわ
あの子は此処に居る。そして多分、この花の、"森"のあるじは……

ってゴラァ!! まーた道塞いでんじゃねーわよこのゆで卵野郎ども!
どうしても私は通したくないって? どうしても通りたくなったわ!
ムルヘルベル! さっきのより派手なやつ、ぶちかませるかしら!?
……よし、なら行くわよ! もっぺん私ごと巻き込みなさい!
私があいつら集めるから、そこにドーン! よ!!
はあ? いいのよ! このぐらいで死ぬほどヤワじゃないわ!

そもそもあんたの炎ぐらい耐えられないと、先へ進む資格がないでしょ。
森を灼き尽くす焔の使い手が、ここにはいるんだから!!


ムルヘルベル・アーキロギア
同行者:耀/f10774

花の影響か怒っておるのか、猪突猛進が過ぎるな……
だがワガハイもだいぶはらわたが煮えくり返っているところだ
オヌシが「いい」というのならば、盛大にやらせてもらうぞ!

彼奴が囮となって敵を集めたところに【ウィザード・ミサイル】を叩き込む!
先ほどの魔法とは違う、最大出力のユーベルコードだ。あれも避けきれまい。
だがあれは……耀は、そういうときほど力を引き出せるタイプだ。
別に日頃の鬱憤晴らしではないぞ! 違うからな! だから後で叩くでないぞ!!!

――ワガハイが"あの顔"を見せられて、怒らぬと思っていたか?
同類の迂闊を呪うがよい。まとめて燃え尽きよ!!



「さっきのクソいけ好かない仮面で確信したわ」
 疾駆する二つの影は、誰かを探す。
「あの子は此処に居る。そして多分、この花の、"森"のあるじは……」
 その先を言うことは出来なかった。
 進路方向に立ち塞がるように現れた無数の影。
 耀は走る勢いそのままに突っ込み、
「ってゴラァ!! まーた道塞いでんじゃねーわよこのゆで卵野郎ども!」
 飛び上がって突き刺さるような飛び蹴りを見舞った。
 仮面の怪人がもんどり打ってふっ飛ばされる。
「花の影響か怒っておるのか、猪突猛進が過ぎるな……」
 ムルヘルベルは唸るように呟いた。
 しかしその胸中を彼は解らぬでもないのだ。

「どうしても私は通したくないって? 尚更どうしても通りたくなったわ!」
 居並ぶ敵を一瞥しながら言い放つ。
 それにしたって数が多いのが厄介過ぎる、押し通るには時間がもったいない。
 耀はムルヘルベルに向かって叫んだ。
「ムルヘルベル! さっきのより派手なやつ、ぶちかませるかしら!?」
「先程よりも強力な威力か? 出せるが、何をする気だ?」
「……よし、なら行くわよ! もっぺん私ごと巻き込みなさい!」
 あの辺がいい、と大体の場所を指し示し、
「私があいつら集めるから、そこにドーン! よ!!」
 指を振り下ろす仕草。
 幸い、花畑は広大でそうした戦い方と相性が良いだろう。
 だがいくら耀とはいえ、最大出力のユーベルコードを避けることは出来ないはずだ。
「……無茶をするのであるな」
「はあ? いいのよ! このぐらいで死ぬほどヤワじゃないわ!」
 だから遠慮なんかするんじゃないわよ、と真っ直ぐな瞳が言う。
「そもそもあんたの炎ぐらい耐えられないと、先へ進む資格がないでしょ」
 この先に起こる事を確信しているからこその覚悟。
「森を灼き尽くす焔の使い手が、ここにはいるんだから!!」
 その通りだな。とムルヘルベルは頷く。
「オヌシが『いい』というのならば、盛大にやらせてもらうぞ!」
 作戦は整った。
 しかし。
 耀はそこで初めてムルヘルベルが自分の意見に意義を唱えていないことに気がついた。
 平素なら、無茶振りへのブレーキ役に徹している男だ。
 らしくない、とまでは言わないが。
「ムルヘルベル、あんた……もしかして怒ってる?」
 ピリッ、と空気が張り詰めた気がした。
 淡い虹色をした宝石の輝きにも、剣呑な光を帯びているようだった。
 ムルヘルベルの指先に炎が灯って揺らめく。
「――ワガハイが"あの顔"を見せられて、怒らぬと思っていたか?」
 はらわたがな。とっくに煮えくり返ってところだ。
 怒気を孕んだ声。
「ははっ、そりゃそうよね」
 快活に笑い、駆け出した耀が戦場を掻き回す。
 鬼さんこちらと手招いて。
 自ら負った不利は、耀に悲劇的な運命を破壊するほどの力を齎す。
 ムルヘルベルが加減なく力を振るえるのは、不利を覆す強さへの信頼が在るゆえに。
「同類の迂闊を呪うがよい。まとめて燃え尽きよ!!」

 放たれた炎の矢は五本。
 仮面の怪人達を囲むようにして着弾した瞬間。
 熱風と共に天高く火柱が起こった。

「…………」
 きっと、思った以上にムルヘルベルの怒りは強かったのだ。
 そして、耀への信頼はとても厚いものだったのだ。
 一群を焼き払うユーベルコードの威力とはそれ程のもので。
「別に日頃の鬱憤晴らしではないぞ! 違うからな! だから後で叩くでないぞ!!!」
 叫ぶムルヘルベルの元へ。
 炎の向こうから、少女が駆け戻ってくる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
★レグルス

何も考えずに、これがあるべき姿だと
御旨に心を委ねる心地よさを知っている
…森に、おれは、還りたかった。

けれど。
(身を苛む、心を崩される恐怖は)
…これは死だ。ひとの、死だ。
幸福なんかじゃない。
ひとは楽園の場所を自分で決められる。
道を惑わすなら――おれは、森番だ。
ひとが見出す道を、守るものだ!

(防ぐ隙は与えない
キマイラ達が巻き込まれないよう敵を引きつけながら
ジャックの狙撃に合わせ【早業】で接近
「烙禍」で面ごと【焼却】する)

お前はこの先にあるものを知ってるのか
……ととさまは。
森は。
(この毒が森から放たれているのなら)
(源であるあの中は、もう)

ひとを。
あねごを。
殺しているんだな。


ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(仮面を被り役割を演じる存在。何処か「僕」の在り方と繋がるものを感じる。
が、「仮面を脱いでは如何か」と聞かれるならば)

(ザザッ)断る。
(否、と端的に答えよう)

何時だってこうして戦い抜いてきた
「この仮面(本機)」もまた自分自身

そして
お前の立つ
その先に用がある

本機は圧倒的破壊(ジャガーノート)
本機は兵士(ジャック)
そして
本機は獅子星(レグルス)、その一柱
星の片割れが進む道を隣で見守り支える者
(荒唐無稽でも何でもない、こう在ってきたが故、在るが侭に敵を討つ。貫通性を高めた狙撃にて防ぐ隙を与えぬ一射を(貫通攻撃×スナイパー)。)

我らの道の前に立ちはだかるならば
お前を退かして進む迄だ(ザザッ)



 仮面の怪人からの問い。
 黒豹めいた機械鎧は、揺らぎもせずに。
「断る」
 端的な即答をしてみせた。
 しかし。
 ロク・ザイオン(月と花束・f01377)は違った。
 喉奥から絞り出すような声を上げて、

「……森に、おれは、還りたかった」そう言った。

 ロク。名を呼ぶ声に、砂嵐のノイズが走った。
 しかしそれ以上は口を挟まぬように、息を詰める。
 ジャックはこの告白を訊かねばならなかった。

「何も考えずに、これがあるべき姿だと。御旨に心を委ねる心地よさを知っている」
 砂礫の上を引き摺るような声は、震えを抑えるように低く響く。
「けれど」
 キマイラが列なす群れを指差す。
 彼等は、けものじゃない、ひとだ。
 毒に侵されたひと達だ。
「……これは死だ。ひとの、死だ」
 ゆっくり首を横に振る。
 否定を、した。
 いつかの自分が信じていたものを。
「幸福なんかじゃない。ひとは楽園の場所を自分で決められる」
 それができる、ひとの強さを知った。
 けれどもそれはたやすく奪われるものでもあるから。
 仮面の怪人達がする事を許してはいけない。
「道を惑わすなら――おれは、森番だ。ひとが見出す道を、守るものだ!」
「ああ、そうだ。相棒」
 その決意を守るためにも、此処にいる。
 ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は願う。

 本機は圧倒的破壊(ジャガーノート)。
 本機は兵士(ジャック)。
 そして。
 本機は獅子星(レグルス)、その一柱。
 星の片割れが進む道を隣で見守り支える者。

 二人は肩を並べて聳えるように立ち。
 敵を見据える。
「お前の立つ、その先に用がある」
 仮面の怪人達は薄ら笑うと、先を塞ぐように数を増やして集まってくる。
「我らの道の前に立ちはだかるならば、お前を退かして進む迄だ」
 赫光一線。
 仮面の怪人達へ向かって放たれた熱線が道を示す。
 ロクは烙印刀を握り、背を低く屈めると地を蹴って、跳んだ。

 狙い撃つ。正確無比な射撃。
 撃ち抜いた仮面は、■/■/■の顔をしていた。
 仮面を被り役割を演じる怪人。その存在。
 それは何処か「僕」の在り方と繋がるものを感じる。
 けれど。
 何時だってこうして戦い抜いてきた「本機」もまた自分自身。
 在り方を選んで決めた、その覚悟は揺るがない。

 灼いて。焼き尽くす。
 ナイフを突き立てた仮面は、ロクの顔をしていた。
 浮かぶ顔に目にも止めずにそれらを割って、潰した。
 それでも己に見られている気がした。
 責めているのか、睨んでいるのか、喚いているのか。
 贋作が作り出す表情が、声も無く燃え落ちる。

 ロクは怪人の最後の一人に馬乗りになり、
「お前はこの先にあるものを知ってるのか」
 そう、訊いた。

 答えはもう聞くまでもないけれど。
 それでも、尋ねたかったのかもしれない。
 あの場所を知る誰かは、もう、己しかいないのなら。
 お前、教えておくれよ。

「……ととさまは」森は。

 記憶の中でぼやけてきていた森の気配があんなにも近づいてくる。
 咲いている花は森の匂いだ。蔓延る毒は森の匂いだ。放たれているのは死だ。
 それならば、その源であるあの中は、もう。

 ひとを。
 あねごを。
 殺しているんだな。

 ナイフを振り下ろす。灰の匂いと、割れる音。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪羽銀・夜
アドリブ歓迎

なら、お前らも、その仮面脱いで幸せになったらいいんじゃないのか?

そうしたくないならそれが答えだ。
それが幸せだって、思ってないんじゃないか。

怪人風情が神様気分か、へそで茶がわくな。

浄化に神罰。UC白雫散花、月光の刃で切り裂いていく。

そこに誰の顔が浮かぼうと、月夜に踊るのはいつも一人だけだ。
誰の役になりきろうと、たたっ切ってやるぜ。
さんざん、嫌な思い出ほじくりかえされて気が立ってんだ。

あんまり、呆気なく終わらないでくれよ。



 仮面の怪人の言葉を、雪羽銀・夜(つきしろおぼろ・f29097)はせせら笑った。
 冴えとした冷たさが輪郭を象るようにして漂う。
 月夜の妖しさをそのまま写したような夜の竜は、花の中に佇んで。
「なら、お前らも、その仮面脱いで幸せになったらいいんじゃないのか?」
 ひたりと、細い指を仮面の怪人へと突きつける。
 キマイラのあの姿が幸せだというのなら、まずは自分達がそうしている筈だ。
「そうしたくないならそれが答えだ」
 なあ、お前。
「それが幸せだって、思ってないんじゃないか」

「なるほど。確かに幸せを求めているならそうすべきだ」
 は、は、は。面白そうに仮面の怪人が笑う。
 気を害した風もなく、夜の言葉を意見として吟味しているようだった。
「痛いところを突かれました。けれど生憎と、私共は……」
 怪人は仮面の端をつまむように顎に指を当て、
「素顔というものが、無いんですよ」
 そのまま持ち上げて少しずらした仮面の下には、なにもない。
 冷たい眼差しで、夜はそれを見ていた。
「仮面の怪、さしずめそんなとこか」
 神のもたらす清らかな月光が、浄化の光となって辺りを照らし出す。
 銀の輝きを帯びた羽衣を、ふわりと振って。
 舞うように廻るその仕草で敵を切り裂く。
 仮面の怪人は自分の体にできた切り口を押さえて、呻いた。
「ひどいなあ。私共は幸せを謳って、人を導いているだけなのに」
 言い草に、夜は鼻白む。
「怪人風情が神様気分か、へそで茶がわくな」
「神様。あなたは、人の幸福を願うものを、そう呼ぶのですね」
 ずるずると足を折ってその場に崩れる怪人は、見上げるように顔を上げて。

「私共は仮面が与える役目を演じる者――ねえ」

 仮面に浮かんだのは、夜の顔。
 けれどそれはずっと昔に消えた面影だっただろうか。
 自分に訪れた死を知らない子供が笑っている。

「オレ、幸せかい?」

 尋ねた声ごと叩き割るように仮面を斬る。
 振り下ろした羽衣は光の花弁となって舞い上がった。
 荒く、息を吐く。
「あんまり、呆気なく終わらないでくれよ」
 さんざん、嫌な思い出ほじくりかえされて気が立ってんだ。

 動かなくなった怪人の身体が崩れて光と消えていく。
 一瞥して、夜はその場を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『森主』

POW   :    自然の猛威
単純で重い【雷槌】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    獣返り
【野生を促す香り】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【凶暴にして同士討ちを誘う事】で攻撃する。
WIZ   :    楽園への帰還
小さな【実から食べたくなる誘惑の香りを放ち、実】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【忘却の香りの満ちた森。故郷を思い出す事】で、いつでも外に出られる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はロク・ザイオンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 おかえりなさい。おかえりなさい。おかえりなさい。
 お前たちの故郷に。
 おかえりなさい。おかえりなさい。おかえりなさい。
 そして獣に、お返りなさい。

 そして森へお還りなさい。

 なおも辺り一面には、咲き乱れる花々。
 四つん這いの巨大な樹木がうごめく。ここが終着点。
 ぞうぞうと覆い茂る枝葉の頭部は輪を描き、向こうに見えるのは輝ける森の風景だ。
 キマイラ達は大人しくなり魅せられたように、森を見詰めている。

 生きとし生けるもの皆獣である。
 獣は森に住まうべきである。
 森(われ)を讃えよ。森(われ)へ還れ。

 『森主』は臓腑に染むような慈愛深き声で招きかける。
 そして楽園への切符として、小さな果実を与えようとするだろう。
 キマイラ達に実を触れせてはいけない。きっと戻れなくなってしまうから。
 青々とした葉の下で、物言わぬ人体が枝に絡まり合い、ひしめいていた。
雪羽銀・夜
ああ、なんだ…うん、やだね。お断りだ。

今更還りたくもねえよ。

にしても、あの赤毛、縁者か。なるほど。

悪霊らしく暴れてやるつもりだったけど、予定変更だ。

お節介かも知んないけど、使えるものは賢しく使えよ、人間。

さて、己は獣ではないと叫ぶなら、己は人間だと吠えるなら――抗いたいと願うなら、くれてやる。

道返白夜。抗う意思もつ者に加護の付与を。
浄化し、闇に紛らわし、香を幽かに。
神罰相殺にオーラ防御、雷は朧ろに。

さて、浮かれたキマイラ連中を月光の結界術で足止め。加護に裂く分、精度は期待薄だ。

まあ、他の猟兵が手早く終わらせてくれるだろうさ。

アドリブ、連携歓迎



「ああ、なんだ……」
 何が待っているのかと思いきや。
 そこにあったのは、成れの果ての過去だ。
 巨大な樹木を思わせる姿、声は風に揺れる梢の音に似ていた。独自の理を持ち、命の廻りを謳う、それは住む者を失った空っぽの森。
 かつては神と呼ばれていたかもしれない存在に思えたが、それはもう力を失くして彷徨うばかりの……。
 雪羽銀・夜(つきしろおぼろ・f29097)は還れと呼ぶ声を聞きながら、
「うん、やだね。お断りだ」
 ため息交じりに一度、目を伏せた。
 瞼の裏に広がる見慣れた闇は、たゆたうような水の底にも似て。
「今更還りたくもねえよ」
 開いた月光を帯びた銀の瞳が、骸の海から再び世界に現れてしまった森主を映す。

「にしても、あの赤毛……、」
 この戦場に、明らかに様子の違っていた者がいる事に夜は気がついていた。
 注意してみれば、断片的にだが状況を悟るには足りて。
「縁者か。なるほど」
 父と子、らしかった。
 浅からぬ因縁によって相まみえたか。
 居合わせてしまったのならば無視もできまい。
「悪霊らしく暴れてやるつもりだったけど、予定変更だ」
 森主は、その力を振るうに足る相手には違いないけれど。
 夜は、掌を宙に閃かせた、動きを追って羽衣が舞う。
「お節介かも知んないけど、使えるものは賢しく使えよ、"人間"」
 その声は聞こえるか。聴こえたか。
 どちらでもいい。
 夜も月もただそこにあって、遍く一切に添うものだ。

 己は獣ではないと叫ぶなら、
 己は人間だと吠えるなら、
 ――抗いたいと願うなら、くれてやる。

 朗々と声を上げる。届いたならば力を与えるだろう。
 望むなら、くれてやる。
 抗う意志持つ者へ、加護を。

 森主の注意が、獣を迎えようとするのに邪魔な夜へ向けられた。
 前脚が掲げられ、大きな動きで振り下ろされる。
 爆ぜるような音がして空を裂くように現れたのは、
「神鳴り、か……どこまでも自然の化身と振る舞うかよ」
 轟く雷鳴、凄まじい速度で雷槌が頭上に叩きつけられる。
「お前の相手はオレじゃない」
 けれども揺るがずに、言った。
 攻撃は、月の光から創られた結界が阻む。
「じっとしてな、危ないだろう」
 夜から発せられる浄化の力によって、誘惑の香りは朧となり、キマイラ達に少しずつ正気を取り戻させるだろう。
 結界の内側、キマイラを傍に置いて夜は戦場を見守る。
 加護へ力を回す分、結界の精度は落ちるものの、さほど心配はしていない。

「まあ、他の猟兵が手早く終わらせてくれるだろうさ」
 月光が共にあるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浅海君・惟春
【藤春】アドリブ連携歓迎

ええ、彼らを導く崖が見えたなら、落ちないように背を掴んでもいいでしょう。

効果があることは、私で試しています。なら、彼らにもこの桜の癒しは、届いてくれるでしょう。

藤十山さん、あなたはどうしますか?

別行動ですね。ご武運を。

花の香りに誘われた方々を、実に近い方から花吹で斬る。
斬るのは過去
彼らがこの森に侵されたという絡み付いた過去を癒します。

あなた方を受け入れてくれるでしょう、拒みなどしないでしょう。
でも、あれは、あなた方を認めてくれはしない。

必要ならば藤十山さんにも、桜の癒しを。

早く出会っていたなら、耽溺に沈めたのでしょうか。
実は惜しい思いもあります。少しだけ、ですけどね。


藤十山・大峰
【藤春】浅海君さんと

これしか出来ないっすから、

おれはこのままアイツを押さえるっす。浅海君さんはどうするっすか?

おっけーっす!

吸い込まれそうっすね。騙し絵でもみてる気分っす

何でも誰でも引き寄せて、自分の物にして。随分過保護で声のデカイ、ガキ大将っす

ゴロゴロ、雷っすか!間に合えば、浅海君さんに飛び込んで、体だけは丈夫っすから
(UCで【電撃耐性】付与)

おれは。へへ、ただいまを言う場所くらい分かってるつもりっす
でも、嫌いじゃないっすよ
あの仮面の奴等より断然、好きっすね

関節狙い、【怪力】込めて動きを止める

帰りたいって思えたんで、だから感謝っす

アドリブとか歓迎



「ええ、彼らを導く崖が見えたなら、落ちないように背を掴んでもいいでしょう」
 往く先は破滅と知るならば尚更。
 還れ、還れ。と、誘う声が偽りのない慈愛が滲む程に。
 その誘惑を断つ力を持つ浅海君・惟春(帝都桜學府所属ホテルズドアマン・f22883)の刀は、キマイラへと向けられるだろう。

「藤十山さん、あなたはどうしますか?」
「おれはこのままアイツを押さえるっす」
「別行動ですね。ご武運を」
「おっけーっす!」
 天輪はかがやき、全身に力が溢れている。藤十山・大峰(UDC特殊臨時職員ヒロミネ・f29173)は森主へ向かって駆け出した。その背を、惟春は見送る。

「吸い込まれそうっすね。騙し絵でもみてる気分っす」
 頭部の輪が見せる森の光景は、青々とした木々がどこまでも続いているようだった。
「何でも誰でも引き寄せて、自分の物にして。随分過保護で声のデカイ、ガキ大将っすね」
 森主がなぜこの様な行いをするのか、大峰には知るよしも無い事だ。
 だから彼は、自分が見て感じたままの事をストレートに言葉にする。
「でも、嫌いじゃないっすよ」
 だから、こう思ったことも事実なのだ。
「あの仮面の奴等より断然、好きっすね」
 腰を低くした体勢から森主の脚目掛けてタックルを仕掛ける。
強化された怪力で以て組み付き、動きを封じる。幾人もの人体を枝に隠した森主の身体は巨大で、全身を使って抱えるだけで手一杯だが。
「おれは、これしか出来ないっすから、……ッ!」
 獣めいた四肢ならば、関節を狙えば有効だろう。狙いは的を得ていた。
 しかし、森主に密着した大峰は【獣返り】を起こす香りをまともに受けてしまう。
 魅惑的な香りに、意識が持っていかれそうになる。覚えたこともない獣の如き凶暴な衝動が湧き上がり「……う……?」ぐらりと、大峰は揺れる。
 そこへ飛び込んできた惟春が、
「大丈夫ですか、藤十山さん」
 穏やかな声をかけ、刃を疾走らせる。
 霊刀による一撃が、野生の衝動を切り払って桜の花を生んだ。
「浅海君さん……」不安げに瞳が揺れる。
「一度下がりましょう」
 そうして、森主の追撃をかわしながらキマイラ達のいる場所まで離れると、惟春は改めて大峰の様子をうかがう。
「平気ですか?」
「へへっ、全然ヘーキっす。おれ体だけは丈夫っすから」
 大峰は胸を叩いて笑ってみせた。
 その様子に頷くと惟春は霊刀を構えて、キマイラ達へ向き直った。
 魅入られて動かない彼等へと、刀を振るう。
「あなた方を受け入れてくれるでしょう、拒みなどしないでしょう」
 滔々と説く、切り払う刃に乗せて。
「でも、あれは、あなた方を認めてくれはしない」
 森主は、決して寛容な存在ではない。
 正気を捨てさせて、都合のいい獣へと変えなければ、あの森は受け入れないのだ。
 暫く経つ頃には、桜の花が辺り一面に散っていた。
「正気づかれましたか」
 呆けた顔をしながらキマイラ達がキョロキョロとしている。
 身体の動きがおぼつかないのか、よろめく者もいた。
「彼等を安全な場所へお連れしましょう、放って置いては危ない」
「はいっす。おれ二、三人担いでも平気っすからね。歩けるっすか、肩貸すっすよ」

 還れ、還れ、と森主の声がする。
 葉擦れのざわめきめいた声は、去っていくものを引き留めようとするような寂しい音をしていた。

 キマイラを連れて振り返らずに、大峰は呟くように答える。
「おれは。へへ、ただいまを言う場所くらい分かってるつもりっす」
 顔に屈託のない笑みが浮かんだ。
「ただいま」といえば「おかえり」と言ってくれる人がいる。
 自分の帰る場所は誰に教えられずとも、見失ってはいない。
 それでもこうして、目まぐるしいような日常を送っているものだから。
 なんて事のないような日々にあった幸せを思い出せたことは、素直に嬉しかった。
「帰りたいって思えたんで、だから感謝っす」

 大峰の言葉に惟春の口端には苦笑めいた表情が掠めた。
 心の奥底に秘めた部分は、少しだけ軋む。
 過去に抱いた想いの深さは、何度斬っても疼くもので。
 感傷めいた心は、今でこそ受け入れてはいるものの。
(早く出会っていたなら、耽溺に沈めたのでしょうか)
 あの森が与えるのが仮初めの安寧なのだと解ってはいても、逃れられぬ苦悩に藻掻いていたあの頃なら、もしかして。

 ……実は惜しい思いもあります。
 少しだけ、ですけどね。

 言葉にしない思いは秘したまま。
 桜の花びらが散るのへ消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御形・菘
溜め息しか出んのう、行きつく先は結局、己を讃えろとは!
いや、妾もそこは同類ゆえ目的そのものは一切否定せんがな
だが誘惑だとか洗脳だとか、イリーガルな手段は看過できん! 一発アウトだ!

右手で、眼前の空間をコンコンコンッと
はーっはっはっは! ようこそ、妾の統べる世界へ! 足らぬ彩りを妾が与えてやろう!
お主相手ならば、特にビジュアルが映えて素晴らしかろう!

状態異常力を重視、花々のエモさによる感動で以て! この場に蔓延る、下らん誘惑など吹き飛ばしてくれよう!
さて、精神攻撃をチャラにしたら、後はド派手な殴り合いをしようではないか?
強大な森の楽園パワー、全力でブチ込んで来い! 妾の左腕が粉砕してやるがな!



 足の生えた巨大な樹木は動物めいた四肢を動かして、ゆっくりと動き出した。どこか年老いたようにも見える緩慢な動きだが、しかしそこにある確かな力強さと迫力は、見るものに畏怖を与えるだろう、
 しかしそこに御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は当てはまらない。

 森(われ)を讃えよ。森(われ)へ還れ。

 森主の行く手をさえぎるように蛇体を巻いた菘は、大げさな仕草で肩を竦めてみせた。これには視聴者に向けたパフォーマンスの意味も含まれている。
「溜め息しか出んのう、行きつく先は結局、己を讃えろとは!」
 大掛かりな行動の目的は、蓋を開けてみれば単純で。
 讃える者を失くした森主という存在は、ただ求めている。
 自分を認めてくれる者たちを。
「いや、妾もそこは同類ゆえ目的そのものは一切否定せんがな」
 双眸は妖しく燦めき、顔中に広がるような笑みは敢然と。
 ズルリ、這う大蛇の半身を蜿蜒とうねらせて、
「だが誘惑だとか洗脳だとか、イリーガルな手段は看過できん! 一発アウトだ!」
 歯切れのいい声でその罪を申し渡す。
「どれ、人を魅了したいなら手本を見せてやろう」
 拳を握り、菘がなにもない空中を叩けば。
 コンコンコンッ。軽快なノックに似た音を共に現れたのは色とりどりの花だ。

 落花狼藉・散華世界。

 ユーベルコードの発動。舞台を彩るような花吹雪が、一面の花畑をより一層鮮やかな景色へと変える。画面に映える超テクニック。足元の花が誘惑の香りを生むというのなら、埋め尽くし塗り替えてやるまで。
「はーっはっはっは! ようこそ、妾の統べる世界へ! 足らぬ彩りを妾が与えてやろう!」
 哄然とした笑い声を響き渡らせて、花の中に浮かびあがる姿は凶悪的なまでに美しい。
「お主相手ならば、特にビジュアルが映えて素晴らしかろう!」
 新たに生まれた花が咲き綻んでいく様子に、森主は動きを止める。
 どうも言葉が通じている様子もないが、自分以外の者が芽吹かせた花を前に、何か思うものでもあったのか。
 なるほど、森の化身ともいうべきその姿には、溺れるほどの花がよく似合う。
「この圧倒的エモさによる感動で以て! この場に蔓延る、下らん誘惑など吹き飛ばしてくれよう!」
 さあこの素晴らしき舞台で散ってゆけ。
 とぐろを巻いた姿勢から尾が地面を叩き、放たれた矢のごとく菘が跳んだ。
「強大な森の楽園パワー、全力でブチ込んで来い!」
 振りかぶった左腕に、力を込めて叫ぶ。
 森主も敵対者と断じた菘を排すべく、腕を掲げて応戦の構えをとった。
 迸る雷を纏った樹木の拳が迫るが、
「はっはー! 雷槌か!」
 森主の繰り出す単純で重い一撃を、拳で殴り返して受ける。
 全身を駆け巡る電流が激痛をもたらす、耐えられる痛みだ。互いの力がぶつかり合う、殴り合いとはそういうものだから、
「いくらでも打ってくるが良い、すべて妾の左腕が粉砕してやるがな!」
 菘の顔から笑みは消えない。
 その時。
 キャー! 離れた場所から上がった声は、悲鳴でなく興奮の歓声だ。
 猟兵達の活躍により、正気を取り戻し始めたキマイラが菘の姿を見て、
 邪神さまー! フルボッコファイトォォオ!
 声援を上げ手に汗握りながら、戦いの行末を見守っている。
 命の危険が迫っているというのに、危機感のない。いやそれとも、絶体絶命の状況だからこそ、エールを送るのか。
「ふ。ははっ、まったく仕方のない奴らよ。」
 声援に、左腕を高く上げて応える。
 彼等が活躍を望むなら、一番格好良いところを見せてやらねばならぬ。
 それが邪神たる菘の矜持。
「妾のリスナー、返してもらうぞ! はーっはっはっはっ!!」

 二つの影は、地面を揺らすような衝撃立てて。
 真っ向からぶつかり合うように殴り合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(他猟兵との絡み・アドリブ歓迎です)
先の戦いの影響で、姿はいまだに人と獣が混じったまま

「ひとりでどこかにはいかないで」
繰り返し過るその声の意味も、もうよくわからない

目の前の樹にひしめく人の身体に、自分が混じっている幻を見る
心地よさそうだ。ああなればきっともう、いたくもさむくもないのだろう

だけど、もりはたぶん、オレのかえるところじゃ、ない
(だって、「かえりたい」けしきのどこにも、もりはなくて)
(オレは、もりへかえれるようなけものじゃ、なかったんだ)

差し出される実ではなく、樹本体に食らいつく
攻撃を受け傷つき倒れたところで【捕食者の守護】発動
現れた黒狼の幻影が暴れまわる

(ああ、そうだな。…帰ろう)


シキ・ジルモント
◆SPD
※アドリブ、絡みOK

獣などではない、俺は…
…まずは仕事だ。キマイラを保護し、敵を倒す

キマイラが果実に触れそうなら最優先で阻止する
ユーベルコードも利用して素早く果実だけを撃ち抜いて弾き飛ばす

なるべく香りを嗅がないように、キマイラの保護とオブリビオンへの攻撃を続ける
花の香りに理性を削られた先の感覚が戻ってくるようだ
倒すべき敵はオブリビオンだけだと強く意識する

それでも駄目なら残った理性で自分の脚にナイフを突き立てる
痛みで意識が戻るならそれで良い
戻らなくても脚を負傷した状態では、誰かに襲い掛かったとしてもまともに戦えない筈
理性を失って誰かを傷付けるくらいなら、返り討ちにでもされた方がまだマシだ



 森の化身ともいうべき姿をした森主が、その巨体を震わせる。
 梢の揺れる音はさざ波にも似ていた。
 葉の間から零れるように、小さな果実が落とされて。
 芳しく痺れるような甘い香りをさせている。
 誘惑の香りを放つ花が、実を結んだのならこういう匂いだろう。

 生きとし生けるもの皆獣である。
 獣は森に住まうべきである。
 森(われ)を讃えよ。森(われ)へ還れ。

 声は謳う。それは自分に向けられた誘いだと、彼等は感じただろう。


「獣などではない、俺は……」
 否定するその言葉の先が、吐息に溶けた。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、眉間に鋭い皺を寄せて奥歯を噛みしめる。
 人狼病が起こす発作とは似て異なるが、きわめて原始的な衝動が呼び覚まされそうになるこの感覚は、どうしようもなく甘美な毒だ。
 暴虐的な本能。理性を捨てて獣になれと、呼びかけているのは外か、内側か。錯覚を起こす程に強力な、訴えだ。
 獣だ、獣だ、お前は獣なのだと。頭にこびりつくような声。
 自分は何者で、何をすべきか。それに集中することで、シキは己を保った。
 ……まずは仕事だ。キマイラを保護し、敵を倒す。
「成すべき事をしろ」
 唱えるように自分に命じれば、銃を構えた手に力が籠もった。

 皆城・白露(モノクローム・f00355)にも、この誘惑は毒のようだった。
 正気を失いかけている身体は、未だ半人半獣のまま。
 意識はじわりと侵食されていく、けれど。
(ひとりでどこかにはいかないで)
 頭の中で何度も繰り返されるその言葉は何だったろう。
 とても大事なものだったんだ。
 心の中から決して消えないほどに、大切な。
 だけど、もう意味もわからない。
 森主の枝葉の下にひしめく人の身体。自分もああなるのだろう。
 心地いいに違いない。いたさもさむさもなくして、きっとおだやかだ。
 そうなりたいと思っていた。
 だけど、もりはたぶん、オレのかえるところじゃ、ない。
 拭いきれない違和感は、やがて確信へと変わっていく。
 輪の中に見えるあんな森など、白露は知らない。
 アパート。友の顔。研究所。その何処にも森など無い。
 オレは、もりへかえれるようなけものじゃ、なかったんだ。

 転がる、丸い果実。

「それに触るな」
 忠告と同時に放たれる弾丸が、果実を撃ち砕く。
 銃声にキマイラは伸ばしかけた手を止めていた。その肩を掴んで後方へ引っ張りその場から引き離す。
 シキのその理性的な行動を揺らがせるように、森主は一際強い香りを放った。
「……ぐッ……!!」
 獣返りを招く得も言われぬ香気、それが鼻先を掠めた瞬間。
 シキの目は守るべきキマイラ達が、獣に見えた。
「やめろ……!」背筋におぞましさが走り抜ける。

 肉を裂き血を啜れ。

 獣は狩りをするものだ。弱肉強食を森は許し、香りで以て野生を説く。
 狼よ。何も恐れる事はない。お前は獲物を狩ってもいいのだと。
「俺は……俺は絶対に、誰も傷つけない!」
 血を吐くような叫び声を上げるやいなや、シキは己の脚へ目掛けてナイフを突き立てた。痛みによって獣の衝動を退けたのだ。
 しかし、その負傷は決して浅くはないだろう。
 巨大な樹木の如き体が、近づいて来る。
 その場を引かずに銃口を向けたシキだったが、そこをゆらりと白露が通り過ぎる。
 その姿は茫洋と、抵抗することを止めているように見えた。

 還れ、獣よ。

 森主が前脚を伸ばして、長い爪の先に載せられた果実を差し出す。
「寄せ」その光景にシキは思わず呻いた。
 白露は与えられがままに、果実を受け取ろうとするかのようだった。
 口を大きく開いて、尖った牙を見せながら――しかし白露は森主の腕に飛びつき食らいつく。
「グウゥゥ……!!」
 喉からなる凄まじい唸り。
 分厚い樹皮めいた皮膚を食い千切るように引き剥がし、吐き捨てる。
 その瞳は、人間の目だ。
 森主は腕を振って白露を払い飛ばした。雷を纏わせたもう一撃を見舞おうとするのを、シキが狙撃で以て阻止する。

 薙ぎ払われ倒れた白露の身体から、狼の幻影が飛び出して森主へと襲いかかる。
「ああ、そうだな。……帰ろう」きっと待っていてくれるから。
 天を仰ぎ、狼が咆哮する。
 高く、遠く、どこまでも届くような声で。
「――この命、くれてやる相手は、お前じゃない!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
私の故郷は真空支配する星の海
鋼と電子の権化たるこの身にとって野生は故郷にあらず
精々、遥かな先祖のようなもの

己が欲のまま人心惑わせるならば、騎士として踏み越え踏破させていただきます

機械馬に●騎乗し突撃
センサーでの●情報収集で周囲の電位差を●見切り雷槌落下地点から退避
●怪力でランスを避雷針替わりに●投擲
落雷を散らします

肩部と腕部格納銃器を展開
●乱れ撃ち●スナイパー射撃でUCを浴びせ、体躯を焼き払い

騎士としては好みではありませんが…ある意味で相応しい武装です

そのまま駆け抜け炭化した脚を●怪力の剣を一閃し移動阻害
近づき過ぎたキマイラの方を回収しつつ離脱

…決着を付けるに相応しい方がおられるようですからね



 人は皆獣。
 貴方の理に私は当て嵌まるのでしょうか。

 私の故郷は真空支配する星の海。
 鋼と電子の権化たるこの身にとって野生は故郷にあらず。
 精々、遥かな先祖のようなもの。

「故に、私は獣ではありません」
 整然と答える。
「そして、ここにいる方々も、獣ではない」
 全て、人であると騎士は言う。
 彼等は皆、獣を祖とすれども理性ある人間だ。
「誰一人、貴方が連れ去って良い者はいない」
 通りを説くように、結論を述べる。
「己が欲のまま人心惑わせるならば、騎士として踏み越え踏破させていただきます」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 花の名を持つ騎士は、咲き乱れる花々のどれよりも気高く凛としていて。
 巨大な森の化身と対峙するその姿は、勇敢なる英雄のようだ。
 これが絵物語の一幕であったなら、人々を守るため騎士は正々堂々の一騎打ちを仕掛けるだろうか。

 ガチリ、内蔵された銃器が金属音を立てる。
「ロシナンテⅡ、目標に向かって突撃を」
 トリテレイアを乗せて機械馬が駆け出した。
 電子頭脳が弾き出した狙撃ポイントを目指し、放たれた弾丸の如くスピードで突っ込んでいく。
 その猛攻に気づいた森主は腕を振るい雷槌を降らせるが、トリテレイアのセンサーは周囲の電位差を感知し、攻撃予測地点を避けて走り抜ける。
「騎士が火攻めとは……笑い話にもなりませんが」
 自嘲めいて呟く。
 肩と腕のパーツが駆動音を立てて変形し、内蔵された武器が顕となる。
 そして森主の胴体目掛けて、無数の弾丸が砲口から吐き出された。
「騎士としては好みではありませんが……ある意味で相応しい武装です」
 手段を選べるほどに、自分は強くないと自負しているが故に。
 トリテレイアは全力を尽くす。
 超高温化学燃焼弾頭による集中砲火。
 薬剤封入弾を撃ち込まれた胴体から、炎が上がる。最新化学兵器による火は、消火するにも手間取るだろう。

 苦悶のような低く重い唸りがあった。

 馬上のトリテレイアを狙って落とされた反撃の雷槌は、避雷針代わりに投げはなったランスが受け止めた。
 機械馬を操り掻い潜って、トリテレイアは走り抜けざまに森主の腕目掛けて剣による一撃を加えると、そのまま馬を走らせる。

 ……決着を付けるに相応しい方がおられるようですからね。
 前線から後方へと向かう、ここはもうすぐ激戦の地となるだろう。ならば、その前にやるべき事がある。

 他の猟兵達の働きや、森主自身がダメージを受けたことによって、キマイラ達は段々と正気を取り戻してきているようだった。
 彼等を危険から遠ざける為に、トリテレイアはキマイラ達へ声をかける。
「こちらへ、安全な場所までお連れしましょう」
 馬上から見渡せば、大人に混じって移動する幼い少女の姿があった、一人で歩かせるには危なげだ。
 抱き上げて馬の背に乗せると、少女は身じろぎ、トリテレイアに向かって何事かを呟いた。
『あ……う、う』
「どうしました? 怖がらないで、大丈夫ですから」
 宥めるように尋ねれば首を小さく振って、少女は懸命に言葉を紡ぐ。
 口の動きが覚束ないのは、言葉を取り戻したばかりだからだろう。
『助けてくれて、ありが、とう』
 チカ、チカ、とエメラルド・アイが瞬いた。
 そして兜の奥で、緑光はやさしい笑みの形をつくる。
 お伽噺の騎士ならば、こんな時、
「当然のことをした迄ですよ、小さなレディ」
 そう答えるのではなかろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◆連携歓迎

(ザザッ)
名前は予々聴いている、相棒の父君。
声が届くかは判らないが
貴君の娘に嘗て「貴君に似ている」と言われたものだ。

無意味な挨拶はこの位にしよう。
任務を開始する。

同じ雷撃遣い、軌道と狙いは読み易い。
戦闘知識と学習力を用い回避しつつ――"FLASH"。
(逃げるキマイラ達に向け放つ閃光。
その足を早めてやりつつ、相棒を目で追う)

本機は此度、(君が"助けを求めた"から此処に来た。即ち)
君が君の為すべき事をできる様、
アトオシ
支援する為に居る。

(辛くとも それは君が向き合い殺すべき咎で
君が灼くべき"病"なのだろう。
だから最後の"閃光"は、君の背を押すようにして放つ。)

行け、ロク。(ザザッ)


ロク・ザイオン
※連携アドリブ歓迎
※負傷上等

(縋りたい、還りたい衝動が
その姿を見て霧散する)
あねご、
(木々に呑まれた顔に面影を探す
ああ、もう、解らない)

いのちを愛しているのではないのですか
それともそれが、あなたの愛だというのか
(飲み込む全てを礎に
森は最早、たったひとつの貴方なのだろう)
あなたが灼けと御旨を下された
病そのものではないのですか

(【殺気】を籠め「惨喝」で【恐怖を与え】キマイラを追い払う
病が、炎が、ここにあるから)

ととさま
これを、お返しします

(「棄果」
己の血で刃を燃え上がらせ
この身に刻まれた言葉ごと
古き森の世ごと、貴方の全てを焚べよう
どうか、よき灰に、土に、
今を生きる世界に)

おかえりなさい。


白鐘・耀
アドリブ連携歓迎

まあ言っちゃえば、私はあの子とそこまで親しいわけじゃないのよ
いや私は大事な友達だと思ってるわよ? そうじゃなくて比較の話
私より言葉を交わして、同じ時間を過ごして、いろんなことを知ってる相手なんていくらでもいるでしょっていうこと

だからって私が心配しちゃいけないってわけじゃないし、そうだったとして知ったこっちゃないんだけど
ただ私は、あの子の戦いに赴く背中を、傷つき帰ってきた顔を何度も見てて、何度も力を借りてきたわけで
ようは……ああもういいか、つまりはね

ーー運命を変えてみなさいよ、ロク・ザイオン!
誰の命令でも義務でもなく、あんたの意思で!!

今回は、私も一緒に痛みを背負ってあげるからさ


ムルヘルベル・アーキロギア
アドリブ連携歓迎

ある詩人は言った
『人の心は自然の一部である、だが人は自然に何をしただろう?
そう思うたび私は悲しくなる』と
獣から進化したヒトは、自然と永遠に分かたれたのか……否
還るもなにもない……ヒトは、いのちは常に”それ“と繋がっている。地続きなのだ

森のあるじよ
還元という間違った合一を求めるオヌシは、もう致命的に「終わっている」のだよ

悩める森番よ、オヌシに詩人の紡いだ言葉を送ろう
『飛び交う小鳥や、風を受け止める枝々の思いは計り知れずとも
私はそこに確かな喜びを感じる
これが自然の計らいならば、私はもう悲しむことなどない
人もまた、自然の一部なのだから』

存分にやるがよい
オヌシは紛れもなく、ヒトであるよ



 還れと森は謂い。
 門の如く環をえがいた頭部の奥に森が広がっている。
 四肢は獣の如くだった、森は這っていた、けれどそれは。
 病の皃ではなかったか。

 縋りたいと、還りたいと、未だ胸の何処かにあった想いも。
「あ」
 目の当たりにした"姿"に微かな憧憬すら、打ち砕かれた。
「あねご、」
 ぞうぞうと目の前の真実が内側を木霊して、全身の毛が総毛立つ。
 青々と伸び生えた枝々の中に呑まれた者達が見える。
 白い肌はなめらかで、眠るように死んでいるあの顔は、ああ彼女らのうたも美しかったのだろうか。一人ではなかった。何人も何人も。あれはなんだ。
 いつからだろう。はじめからだろう。この姿を森の中で暮らしていたロクは知らなかった。知らなかったことを知ってしまった。
 いらっしゃるのだろうか、あの中に、あねごが。
 見開かれた眼は、ほとんど反射的に面影を探している。
 そして、ロクは、もう解らないということに気がついてしまった。

「ある詩人は言った」
 目の前の光景を見つめながら、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)は口を開く。
「『人の心は自然の一部である、だが人は自然に何をしただろう? そう思うたび私は悲しくなる』と」
 滑らかな声は穏やかに、若者を導くように語る。
「獣から進化したヒトは、自然と永遠に分かたれたのか……否。還るもなにもない……ヒトは、いのちは常に”それ“と繋がっている。地続きなのだ」
 思慮深く、長く世を見てきた者の眼差しには、深く複雑な感情があった。
「森のあるじよ」
 言葉づかいにほんの少しの敬意を含ませて、
「還元という間違った合一を求めるオヌシは、もう致命的に『終わっている』のだよ」
 宝石の賢者は、はっきりと告げた。
「ムルヘルベル」ざり。
「悩める森番よ、オヌシに詩人の紡いだ言葉を送ろう」
 ロクの方に顔を向けて、ムルヘルベルは柔く目を細めると謡うように続けた。
『飛び交う小鳥や、風を受け止める枝々の思いは計り知れずとも
 私はそこに確かな喜びを感じる
 これが自然の計らいならば、私はもう悲しむことなどない
 人もまた、自然の一部なのだから』
 ケモノとヒトの間で揺れる子に贈る言の葉は、
「存分にやるがよい。オヌシは紛れもなく、ヒトであるよ」
 確かに進む力を与えただろう。

 細い糸を手繰り、その先にようやく見つけた。
 やはり運命はあるのだ。
「耀」ざりり。
 白鐘・耀(可憐な猟兵・f10774)は溢れ出す感情を咄嗟に飲み込んだ。
(私)(嫌な予感がして)(だから来たのよ)
 でも。
 大事な友達だとは思ってるけど。自分よりもっとロクと言葉を交わして、同じ時間を過ごして、いろんな事を知っている相手はいくらでもいる。
 比較すればの話だけど。多分そこまで親しいわけじゃないのよ。だからって私が心配しちゃいけないなんて話はないし、そうだとしても知ったこっちゃないんだけど。
 纏まらない思考が渦巻いて頭の中を飛び回る。
(此処にいる理由があるとしたら)
 戦いに赴く背中を、傷つき帰ってきた顔を何度も見てて。
 何度も力を借りてきた、運命を変えきた。だから。
(ようは……ああもういいか、つまりはね)
 すう、と息を吸い込んで。
「――運命を変えてみなさいよ、ロク・ザイオン! 誰の命令でも義務でもなく、あんたの意思で!!」
 弱々しい有様を目覚めさせるように、心を揺さぶるように、怒鳴るように言って。
 くしゃ、と表情を歪ませた。
 けれど眼鏡の奥に煌く瞳は、まっすぐとロクを見ている。
「今回は、私も一緒に痛みを背負ってあげるからさ」
 いってらっしゃい、ロクちゃん。
 火打ち石を鳴らして、あげるから。

 人を幾人も呑み込んだ森は巨大で、雄大だ。
 そしてどうしようもなく、怪物だった。
 けれど君が、故郷を、父を、何よりも信じていた事を知っているから。
「名前は予々聴いている、相棒の父君」
 ノイズ混じりの音声が、場に相応しくもない挨拶を述べる。
 ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は淡々と、森主との距離を詰める。
「声が届くかは判らないが、貴君の娘に嘗て『貴君に似ている』と言われたものだ」
 返答はない。
 ただ、還れ還れと同じざわめきを繰り返している。
 壊れてしまっているのだろう、この様子ではロクの事を認識できるかどうかも解らない。
 猟兵との交戦を重ねた事により、森主の身体は浅くない傷を負っている。
 それでも尚、獣を求めて探しているのは、繰り返すばかりの過去故になのだろうか。
 だとしたら、いつから。
 過る疑問は今、思考すべき事ではない。
「無意味な挨拶はこの位にしよう」
「ジャック」ざりりり。
「任務を開始する」
 砂音混じりの短い言葉が、確かな信頼を伝え背を押した。

 赤い尾を引いて、駆ける流星が花々を踏み越える。
 ア゛、ガア゛ア゛アアア゛アアアァァァァァ!!!
 病と炎を恐れよと絶叫する吠え声が鳴り渡る。
 森主は、そこでようやくロクを向いた。
 堰を切ってあふれる。
「いのちを愛しているのではないのですか」
 信じていたのだ。信じ抜こうとしていたのだ。
「それともそれが、あなたの愛だというのか」
 怒りなのか悲しみなのか憎しみなのか、激情を叩きつけて、
「あなたが灼けと御旨を下された」
 どうして! どうして? と子供が親を責める時の苦しみに塗れる。
「病そのものではないのですか」

 投げかけた質問全てに、答えはない。

「ととさま」
 雷鳴が轟く。
 樹木の腕が振り上げられて、接近するロクへ向かって振り下ろされた。
 雷槌の裁きを受けることを、罰を、恐れていた。
 けれど赦しを乞うことはもうできない。
 森番はヒトと森をわけて、やるものだから。
 電に肌を焼かれながら、切り裂く爪を掻い潜り、その掌にたどり着いた。
「ととさま」
 樹で出来た手の甲を蹴って、跳ぶ。
 高く上がるその視界に、豊かな緑が流れていった。
 森の香りが鼻腔を満たして、おかえりと囁く。
「ととさま……!」

 大地に落とされる雷を裂くように、白い閃光が疾走る。

「行け、ロク」
 悲痛に咽ぶロクの背中に、ジャガーノートは電撃を撃ち込んだ。
 辛くとも それは君が向き合い殺すべき咎。
 君が灼くべき"病"なのだろう。
 本機は此度、君が君の為すべき事をできる様、支援(アトオシ)する為に居る。
 迸る電流が身体を駆け巡り、ロクの肉体は敏捷となる。
 刹那。
 ロクは、相棒を思い、友を思った。
 一人ではきっと此処まで来ることが出来なかった。多くを学び、戦い、知り合えたからこそ、今この瞬間がある。
 そうして成長をした、自分はもう。
 きっと、あなたがちっとも望まなかった。
「ととさま……おれは、今、人間です」
 大切なことを伝えながら、樹木の天辺に降り立ち、
「これを、お返しします」
 ロク・ザイオン(λήθη・f01377)は己の胸を裂いた。
 血が迸り、ドッと飛び散る。
 爪と刃が与えられた御旨を、刻まれた言葉を、聖痕"神咒"を抉り取る。
 零れ落ちる血は、火と成った。
 病を灼く火が、ロクの身体から生まれて広がる。
 血を浴びた刀が炎を燃やし、ロク自身すら燃え上がらせた。

「神の罪をひとが裁いて、楽園は棄てられた。――ここで終わりなんだ」

一息に、燃える刀を突き立てて、刺し貫く。父を殺し火を放つ。
 バチバチと爆ぜる音を立てながら、森が燃える。
 森主が、遠くまで響くような慟哭のうめき声をたてた。
 けれどももう、その火が消えることはない。
 赤い炎が森も女も包み込んでいく。
 飲み込む全てを礎に。森は最早、たったひとつの貴方なのだろう。
「古き森の世ごと、貴方の全てを焚べよう」
 祈りを捧ぐ声は穏やかに、
「どうか、よき灰に、土に、今を生きる世界に」
 頬を伝う涙も火に変えて、
「おかえりなさい」
 全てを灼いた。

 気がつくとロクはジャガーノートに掴まれて地面に下ろされていた。
 聖なる光を眩く輝かせながら耀が駆け寄って来て。
 その後ろをムルヘルベルは長々となにかを言いながら姿を見せる。

 ――。

 声なき声が呼んだ。業火の中で僅かにうごめきがあった。
 森主のもう動かぬはずの腕がゆっくりと差し伸ばされ、しかし脆くも腕は途中で折れる。
 ポタリ、と。
 長い爪の間から、焼き焦げた果実が転がって落ちた。
 森主は、尚も獣を求めていたのだろうか。
 それともそれは。
 親が子に糧を与えようとするような、動作だったのかもしれない。



 森主の巨体が、花の中へと崩れていく。
 それは朽ちた樹木が倒れるように。
 年老いた獣が事切れるように。
 自然な事のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月12日
宿敵 『森主』 を撃破!


挿絵イラスト