8
薄明へ祈りを

#グリードオーシャン

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン


0




 ずっと、あの退屈な島が嫌いだった。
 冷えた心臓が再び動き出せば、骨の軋む音がする。それをはっきりとしない頭で聞きながら、思い出すのは生まれ育った故郷の事。
 穏やかな人々と、美しい海。陽が沈むと共に眠って、昇れば目覚め。安寧ばかりが続く日々を繰り返すだけの島。
 ずっと、ずっと、大嫌いだった。
 何も楽しいとは思わなかった。どうして誰も彼もが同じことばかりで飽きぬのかとすら思った。物心ついた時から心の内で燻った火種が、終えた生命の灯火の代わりに男の内から燃え上がるかのように膨らんでいく。
 吹き出す炎の代わりに、歪に形を変える肉が皮膚を突き破って形を変えた。おかしくも無いのに口が笑みの形に引きつてて、開いた隙間から鋭く牙が生えていく。

 ――あんな島、なくなってしまえばいい。

 悲鳴が聞こえた。
 誰のものかは分からない。もう、判断するほどのものは残っていない。
 己の姿が怪物へと成り果てた事にすら、男が気付くことはない。
 ただ、全てを壊せと囁く声だけが大きく膨らんで、淀んで昏くはじけた。

 ――おれはくらやみになったのだ。
 ――今一度、この島をのみこむために。

 男の意識が消え去るのと同時。
 星夜の海辺に、低い咆哮が響き渡った。


「繰り返しばかりは飽きてしまいますが、けれどそれこそが平和というものです」
 広大な海原へ落ちてきた島々を奪い合う戦乱の世界。そこには呪われし秘宝「メガリス」があちらこちらに眠っている。触れて力に目覚めれば覚醒者として島の統治を行う海賊へ。けれど死んでしまえば、全てを滅ぼそうとするコンキスタドールとなり果てる。
 その性質を利用したのが「メガリスの試練」。大きな力を手に入れる事が出来る危険な賭け。秘宝を手に入れることが出来た海賊達は、まだ未覚醒の部下達にその試練を挑ませる。
 そして此度その賭けに――その男は負けたのだ。
「コンキスタドールへと成ってしまった方は、ご自身の島があまりお好きでなかったようなのです」
 キディ・ナシュ(未知・f00998)が予知を見た彼らのいる島は、元はダークセイヴァーから落ちてきたものだという。晴れぬ暗闇で生きてきた彼らの目に映る、朝日の輝きはどれ程までに美しかったのか。かつての先祖に尋ねることは出来ぬとて、今なお残る風習がそれを物語っていた。
 一日の始まりに白む空へ、祈りを捧げる。
 なんて事のない日々の幕開けは、それを手に入れることが出来なかった者達にとっては変え難い宝物。暗闇ばかりの日々が、もう関わりのない遠い世界のことになったとしても、語り継いできた。
 けれどいくら想ったところで、やがて薄れてくるのは仕方のないこと。この世界では日は当たり前に登って、当たり前のように沈んでいく。目の前に当然のようにあるものを受け取り続ければ、それをつまらないものだと思ってしまう。
 今回、魔獣へ成り果てたその男もそうだったのだろう。
 変貌した彼は巨大な魚を引き連れ、まだ星夜の内に祈りの場たる浜辺へと姿を表す。御伽噺に聞いた暗闇こそが己だと、島を滅ぼす一つの災害としてその力を振り下ろす。
 海賊達が掟に従い、試練に負けた彼を倒そうとも力は及ばず。美しい砂浜は赤い血に染まり、破壊尽くされることだろう。
 最後には島そのものを呑み込んで、当たり前は呆気なく消えてしまう。
 だからそうなる前に彼を倒してきて欲しい。今から向かえば、丁度海賊達が殺されてしまう前に着くはずだ。浅瀬での戦闘は足場が多少悪いが、数多の冒険を潜り抜けた皆さまならば大丈夫でしょう、と人形の少女は明るく笑う。
「それで無事に終わったなら――朝日を見に行きませんか」
 何年も、何百年も。飽きるほどに繰り返されたとて、不変たる陽の輝き。
 一日の始まりに。
 夜の終わりに。
 ゆっくりと、けれど確かに空の色を変えゆく。その煌めきを見に行こう。
「あと、浜辺近くの屋台で魚介スープか、そのお出汁で炊いたリゾットが売られているそうです。それが島での朝ごはんの定番だとか!」
 ぱちぱち目が覚める弾ける炭酸のレモンスカッシュも添えれば完璧だと言う少女の声は、どちらかと言えば食欲旺盛の方に傾いているかもしれないけれど。

 穏やかに変わって行く空の色。
 尊い光は、きっと誰もを照らして行くものだから。
「それでは皆さま、行きましょう――変わらぬ朝日を迎える為に」

●夜明け前
 海賊達が小舟に掲げた篝火が、辺りを明るく照らす。
 沈みゆく月を背に、迎えるは浅瀬をものともせずに泳ぎ暴れる魚達。
 響くは悲鳴と剣劇。
 漂うは悲愴と諦念。

 空にはちらちらと瞬く星々が、まだ明けぬ夜の帳へとぶら下がり。
 祈りの朝は、まだ少しばかり遠くへあった。


砂上
 はじめまして、こんにちは。
 砂上(さじょう)です。

 今回の舞台はグリードオーシャン。
 コンキスタドールをやっつけて、朝日を見に行きましょう。

●一章、二章
 夜の浅瀬でコンキスタドール達を蹴散らして頂きます。
 今回は速度重視、最低達成数での予定です。

●三章
 今回のメインです。水平線から昇る朝日を見に行きます。
 浜辺で散策か、朝ごはんを食べながらか。思い思いに過ごしていただければと思います。
 この章に関しましては一、二章の参加者様+上記の期間にプレイングをお届けしてもらった方を優先に、余力がありましたらそれ以外の方も、となります。なるべく全員描写をしたいと思いますが、キャパオーバーしたら返してしまうかもしれませんのでご了承下さい。(暑さに負けるとぐっと数が少なくなってしまうかもしれません)
 またこの章のみ、お呼びがあればキディが出てきます。

 一章の受付はOP公開すぐからとなります。断章追加はございません。
 以降はお手数ですが、マスターページかTwitterにて受付、〆切等のご確認をして頂ければと思います。

 それでは素敵なプレイングをお待ちしております!
91




第1章 集団戦 『巨大魚』

POW   :    船喰らい
【頭部からの体当たり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【鋭い牙によるかみ砕き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    テイルフィンインパクト
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    ウォータービーム
レベル×5本の【海水】属性の【水流弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

おお、おっきな魚じゃの
せーちゃん、あれともお喋りするんか?
なーんかそういうのできそな感じじゃない顔しとるが
なるほど、お喋りする気がないとできぬ…わしひとつ勉強した

ま、この浜を血まみれにするわけもいかんしやってしまお

まーっすぐ向かってくるなら、正面から受ける――と見せかけて避けよう
あの鋭い牙でがぶっといかれたら確かに痛そうじゃし
あんなんに尻尾噛み付かれたら…(ごくり)
海にくるとただでさえじっとりするしの!
はは、せーちゃんが尻尾守ってくれとるから好きにしよ

避けるの難しければ虚の爪で弾いて返そう
陸に上がった魚などおそるるものではないわ!
と、油断してやられんように気を付けよ


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

お魚さんか
相手にお喋りする気があれば出来るが
このお魚さん達は聞く耳を持たなそうだからな

ああ、危害成す魚は三枚に下ろして捌いてやろう

特に初撃喰らわぬよう、体当たりの動作を確りと見切る
残像を駆使し翻弄、避けられぬ時は広げた扇で受け流す
当たらねば問題ない、反撃の機にもなるからな
らんらんの動きに合わせ、刀の連撃と衝撃波を魚の群れに見舞ってやろう
む、らんらんの尻尾は極上のふわもこ、噛みつかせやしない(きり
ああ、好きにするといい、俺も好きにする(微笑み

俺は箱だ、食しても美味ではないぞ(お喋り
まぁこのお魚さんも美味ではなさそうなので、油断せず捌くのみ
海は海でも、骸の海に還るといい


ネーヴェ・ノアイユ
今は……。記憶を失っている私には様々なことが新鮮で楽しく映りますが……。いつか多くを知り、それが当たり前となった時には私もあの殿方と同じような想いを抱いてしまうのでしょうか……。
っと……。今物思いに耽っている場合ではないですね。この場所を暗闇に染めぬよう私も微力ながらお手伝いします。

どうやらあのお魚様も手数での攻撃がお得意なようですね。では……。私も此度は手数で攻めさせていただきましょうか。
私の得意とする属性攻撃……。氷を扱ったこの技とお魚様の放つ水流弾……。どちらが勝るか勝負ですよ。


ユニ・エクスマキナ
静かな海を照らす、煌めく朝日――
この島の人たちにとっては当たり前の光景かもしれないけど
ユニからすれば想像するだけでとってもステキなのね!
海賊さんたちはもちろんだけど、そんな島の平和な光景を
壊すなんて、飲み込むなんて――絶対にダメでしょ!

…お魚とは聞いていたけど
なんか、思ってた以上に大きいし…何よりも全然かわいくない!全然!

ショックを隠せぬままバシャバシャと浅瀬を逃げつつ

きゃー、こっちに来ないでっ!
ユニは美味しくないのねー!
敵の水流弾を必死に避けつつ
…あ
ユニもお返しできるんだった!

【Record & Play】でコピーした水流弾を撃ち返す

ふぅ、なんとかなった…って
これいつまで続ければいいのー!?


都槻・綾
水温む浅瀬で跳ねて暴れて
まるで
思う通りにならぬと駄々を捏ねるこどものよう

飛沫舞う跳躍は
月影に映えて美しくはあるけれど
やがて風に曝されれば乾いた鱗は罅割れ
痛みが身を焦がすに違いないのに

柔い薄布の如きオーラを纏い
自他共に防御
逃げ遅れた海賊さんが居れば背に庇って
魚の前に立ち塞がろう

対峙する魚の横暴さを気に留めた風も無く
優雅に一礼

帛紗をふわりと風に漂わせたら
潮の香に混じるのは
軽やかで甘やかな夏薔薇の薫香
馨遥で暴れん坊さん達を眠りへと誘う
在るべき骸の海への航路を香りで示しましょ

例え眠りに堕ちなくとも
僅かな隙を得られれば重畳
足取りは優美なれど
研ぎ澄ました第六感で得た機を逃さず、抜刀
風斬る音を最期の手向けに


コノハ・ライゼ
嫌う気持ちもソレはソレでいいンじゃナイって思うケド
獣になってしまったのならお好きにどうぞ、とは言えねぇのよネ

ま、最高の時間を血で染めない為にもしっかり蹴散らしてきましょか

*第六感で攻撃の気配探り水の流れを*見切って
敵の水流弾に*カウンターで【彩雨】を降らせていくわ
暑い夏にぴったりなアメをあげる
凍らせ、落とし、*範囲攻撃で海面をも凍らせていけば攻撃の手も鈍るでしょう
凍らせ損ねた分は*オーラ防御展開し威力を削いで
当たっても*激痛耐性で凌いでいくねぇ

魚本体を捉えたらその大きな口へもアメをご馳走しましょ
*2回攻撃でしっかり*傷口えぐり、*捕食して*生命力を吸収
コッチの傷分は頂かないとネ



●星月夜の海で
 襲いくる巨大魚の群れ。海賊がいかに嵐の大海原を渡る屈強さを持っていたとしても、その巨体と水中に特化したものを相手取るには分が悪過ぎた。
 ついに一人の海賊が膝をつく。それを見逃すほど敵も甘くはない。巨大魚の口が、ぱかりと開いた。行儀が良いとは言えない歯並びの牙が、篝火の灯りで鈍く凶暴にギラつく。一口だけで、命を容易く持っていかれてしまうだろうことは明らかだった。予想するまでもない結果は見えていて、けれども満身創痍の海賊にはもう避けるほどの体力は残ってはいない。目を瞑る事も出来ずに、飛沫を上げ飛びかかってくる痛みと死の恐怖を受け入れるだけしか彼は出来ない――はずだった。
 嫋やかに薄布が翻り、舞う。
 ばしゃん、と軽い水飛沫をあげて割り込む都槻・綾(糸遊・f01786)がその身に纏った力が、星夜の下で淡く揺らめいて両者の視界を奪った。海賊に飛びかからんと飛び跳ねた巨大魚の勢いをそのままに、まるで踊るかのようにその腹を押してやる。軌道をずらされ、派手な水飛沫とともに魚が落ちるはただ揺れるだけの水面。狙っていた海賊の姿は無い。
 邪魔しやがって。
 威嚇に牙鳴らし、魚がぐるりとその身を正し振り返ろうとも――さて。
 相手の獰猛さなどどこ吹く風と、平時と変わらぬ笑みすら浮かべ。何処か芝居がかった仕草で、悠然と一礼する綾の姿が其処にはあるのみだ。
 では海賊はどこへと消えたのか?
「おお、おっきな魚じゃの」
 答えは幕開けの場から少し後方。
 巨大な魚へと、どこか呑気に感嘆の声漏らす終夜・嵐吾(灰青・f05366)が、その襟首掴んで飛び退っていた。五体満足の無事を確認できれば妖狐の手が離されて、慌てた声とともに水音ひとつ。
 突然の出来事に目を白黒させる海賊を、今度は筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が浜辺へと背を押した。ようやく状況が把握できたのか、慌てたように波をかき分け「援軍が来た!」と叫ぶ海賊の声。暗闇に喰われそうな希望は、再びこの場で咲いたようだ。
 それにひらりと手を振り見送れば、視線は再び荒れ狂う魚の方へと流れていく。
「せーちゃん、あれともお喋りするんか?」
「相手にお喋りする気があれば出来るが、このお魚さん達は聞く耳を持たなそうだからな」
 嵐吾の問いかけへの返答は、以前出会ったからくり仕掛けの魚の時と同じもの。その時は生き物から遠くにあるものだからというのもあったが、今回はそもそも相手にその気が無い故らしい。まぁ駄目もとだ。友人の、常にゆったりとした穏やかな表情とはまた別の険しさが、分からないわけでは無かったのだから。
「わしひとつ勉強した」
 したり顔で深く頷くが、動物との対話を知る道のりはまだ少しばかり遠かったか。ぴんと立った耳を揺らせども、届くのは未だ少し遠くからの魔獣の低い声のみを聞くだけだ。全て食い荒らせと、空気を揺らし命令するその声に、魚達がぐるりと旋回しては猟兵達の隙を窺う。

 喰らって喰らって全て飲み干して消してしまえ。

 本来ならば穏やかな筈の浜辺で、今まさに行われる生者への深い怨嗟。
 その声に、気配に。ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は、氷雪象った衣服の胸元を思わずぎゅっと握りしめる。
「いつか多くを知り、それが当たり前となった時には私もあの殿方と同じような想いを抱いてしまうのでしょうか……」
 今は空っぽの記憶。何ももたぬことは、触れる全てが初めてで。喜びも、悲しみも、驚きも、その全てが新鮮で楽しいものばかり。けれど記憶が積もっていけば、そんな事すら分からなくなって消えてしまうのだろうか。
 この気持ちも、やがてあの恐ろしい声のように変貌してしまうのだろうか。
「嫌う気持ちもソレはソレでいいンじゃナイって思うケド」
 否。それ自体は否定されるべきではない。単一でつまらない世界を望むのでなければ、様々な考えというのは必要だ。
 けれどコノハ・ライゼ(空々・f03130)の声には少しばかり苦い色が浮かんで消えない。
「獣になってしまったのならお好きにどうぞ、とは言えねぇのよネ」
 例えどんな感情であろうとも、それに飲まれて周囲へと危害をばら撒いてしまうのならば話は別だ。気に入らないからと壊していいものなんて、世界にはひとつだって無い。それが骸の海から帰還した者達が引き起こすことだというならば、止めるのは自分達猟兵の役目だ。
 ひとつ大きくため息ついて。よし! と気持ちを切り替える早さは、揺蕩う雲が風に吹かれて進むように。浮雲じみた青年は、ネーヴェへと片目をつぶって笑って見せた。
「ま、最高の時間を血で染めない為にもしっかり蹴散らしてきましょか」
「っと……はい。今物思いに耽っている場合ではないですね。この場所を暗闇に染めぬよう私も微力ながらお手伝いします」
 小さく頷く少女から、ほんの少し緊張が消える。大きく息を吐いて、吸って。まだ見ぬ未来を不安がるのでは無く、今自分にできることをと前を向く。
 そのやり取りを見ていた嵐吾と清史郎も、互いに顔を見合わせればその目に浮かんだやる気も十分に。
「この浜を血まみれにするわけもいかんしやってしまお」
「ああ、危害成す魚は三枚に下ろして捌いてやろう」
 そして、彼らの友人たる元気な少女もまた同じく。
「島の平和な光景を壊すなんて、飲み込むなんて――絶対にダメでしょ!」
 本来ならば、星月夜の夜だって穏やかで静かな海。朝になれば煌めくその水面は、きっと美しい光景だろう。
 島の人たちにとってみれば日々の、当たり前になってしまった光景。けれど、少女――ユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)にとってみれば、想像するだけでワクワクとドキドキの素敵が詰まったな光景だ。
 島も、海賊さんたちだって、もちろん守って見せる! そんな意気込み十分に、ユニが勢いよく駆け出していく。さぁ狙うは巨大なお魚さんだと近づいて、ぴたりと止まる。
 そして、そのままくるっと背を向けて走り出す!
「全然かわいくない!全然!」
 思っていたよりも大きい図体。色は明るいが、愛らしいというよりは毒々しさの方が強い。写真映えするどころか、載せたらドン引きされること請け合いだ。威嚇するようにむいた牙だって、ちっとも全然愛らしさの欠片も見当たらない。
「きゃー、こっちに来ないでっ! ユニは美味しくないのねー!」
 派手に海水蹴り上げ逃げるユニ。後ろに続くは、この娘であれば容易く倒せるのではないかと嬉々として追いかけ回す魚達。それも、容赦のない水流弾つきだ。水鉄砲より何倍も威力がありそうなそれが、水面にぶつかって派手な音と水飛沫を立てていく。
 攻撃方法も、これっぽっちもかわいくない!
 前方からやってくる悲鳴あげる少女に、よし来たと妖狐の男が真正面から魚を迎え撃とうと身構えた。右目からどろりと影のような茨が戯れに這って右手に伝ったなら、大きな獣の前脚へとその形を自由に変える。魚の牙よりなお獰猛で、美しく。負けぬ迫力は確かにあった。
 けれど、受け取るのは悲鳴あげる少女だけ。ひょいっといつも通りの左腕で抱え上げ、大きく横に飛べばガチン! と硬質な音だけが聞こえてくる。
 近くで響いた凶悪すぎる音。思わず、二人揃って身を震わせる。
「ひぇ……」
「あんなんに尻尾噛み付かれたら……」
 想像するだに恐ろしい。ユニを下ろしながらもごくりと息呑み、すんでのところで回避した無事な尻尾を己にくるりと巻きつける。
 本日ばかりは海水でちょっとばかり失われてはいるが、常ならば手入れがきちんと行き届いた毛並みはふさりと豊かに、自慢の立派な狐の尾である。本人は勿論のこと、その質は当然友人も気に入っているので。む、と清史郎の眉間に皺が寄る。
「らんらんの尻尾は極上のふわもこ、噛みつかせやしない」
 至って真面目に言い放ち、清史郎の振るう蒼刀が不届きな巨大魚を斬った。頭と尾の二つに分かれた魚が宙を舞い、飛沫をあげて沈んでいく。
「はは、せーちゃんが尻尾守ってくれとるから好きにしよ」
「ああ、好きにするといい、俺も好きにする」
 頼もしい護衛に思わずと吹き出す嵐吾に、こちらもマイペースな清史郎の答え。そんな間にもやってくる体当たりは優然と躱してみせて、魚達が喰らうのは精々瞬きの間も残らぬ残像のみ。鬼事のような気儘さで翻弄する二人の動きに、次第に彼らも熱くなる。鰭で泳ぐ水音は激しくとも、魚の顔踏みつけ飛ぶ狐にも、舞う花弁のように掴みどころのない男の動きにも、一つだって届きはしない。
 嵐吾が囮と避けて、隙だらけになった魚が清史郎に斬られていく。息のあった役割分担も、時に避けきれないものもある。けれどその時ばかりは嵐吾の右目の主が容赦はしない。触れさせてなるものかと、その手を握って離さぬ黒き茨が形作った大きな爪の一振りが、魚にきつい仕置きをする。ぱっと散る命の色が、上がる水飛沫と混じって夜の海へと落ちていく。
 遊んでいるように見えて、けれど当たらなければ何一つだって問題はあるまいて。清史郎が舞いて扇揺らせば巻き起こるは突風。散る花の優雅さよりは随分と激しいその衝撃で、面白いように魚の群れは吹き飛ばされる。時に粘る頑固者もいるようだが、それは閃く蒼が数度走れば立派な活け作りの出来上がりだ。
 狐が跳んで、桜舞うように剣劇疾る。
 御伽草子の一頁のような友人二人の戦闘。思わずとユニが赤い目をきらきらと輝かせた。
 すごいのね! と素直に声に出したところで、冷静さを取り戻してきた頭ではたと気付く。
「……あ。ユニもお返しできるんだった!」
 言うやな空中へと展開されるディスプレイに指を滑らした。電子の海から探し出す記録は、一秒だってかからない。
 防戦一方、逃げ回っていたからといって何もないわけではない。本物の海ではないけれど、電子の海ならお任せあれ。中身が旧式だとはいえ電子の妖精たる少女が、情報処理のスピードでたかがお魚に負けるなんてことはあり得ない。チカチカと明滅する電子の流れを読み取るコンマ数秒。開いた口も並んだ牙ももちろん怖いけど、立ち向かう武器があるなら振りかぶって見せましょう。
「ばっちり見ました! もう一回再生しちゃうのねー!」
 さぁ狙うは未だ追いかけてくるしつこいお魚さん! 飛び上がったそれを見据えながらパチリと弾けるノイズが少女の中に響いて、再生されるは水流弾。勢いよく放たれたそれは、反撃を喰らうと思っていなかった魚の顔面に見事命中して吹き飛ばす。数メートル吹き飛んで、水切りの要領で数度跳ねたそれが、ぷかりとお腹を見せて浮かんできたなら大きく一息。
 なんとかなった――と、額の汗を拭う仕草をするユニだけれども。まだ、波間を縫って向かいくる背鰭は、1、2、3……
「これいつまで続ければいいのー!?」
 悲鳴を上げての追いかけっこはもう暫く続く模様。
 彼女の反撃に、怒りのまま水流弾をいくつも放つ巨大魚達。水場はこちらが得意とするもの、ならば手数の多さで乗り切ってしまえと渦巻く水流があちらこちらから放たれる。
 けれど、それを遮り飛ぶのは冷ややかな氷の刃。
「降り注ぐ氷の刃……あなた達に避けきれますか?」
 あちらが頭数による手数で押し来るというのなら、こちらも同じく手数を増やそう。ネーヴェが複製し飛ばす小さな氷鋏。けれどもその鋭さは水流を、魚達を切り裂いてなお降り注ぐ。負けじと放たれる水流も凍てつかせて押し返す、彼女が最も得意とする氷の魔法。
「どちらが勝るか勝負ですよ」
 幼い青い瞳に、灯る決意の氷炎は静かに揺れて。吐く息が夏に似合わず白くくもる。
 けれど一人だけでは押さえきれぬ数に、ぐっと水流が勢いを増す。遠く聞こえる獣の声。違う、私が知りたいのはそんな恐ろしい未来では無くて。きっと、水面に揺れて煌く氷のような――
 放たれる氷鋏が押し返されんとしたその時。彼女の術と共に飛んだ針が、水流に刺さって氷花を作る。
 そう、この場で氷雨降らすは彼女だけではない。
 暗い夜の波間に、ぷかりと浮かぶ紫雲の青年。コノハは常と変わらぬ自由さで、流れに逆らわぬまま水中でステップ踏んで。戦場見つめる瞳だけが冷静に、狙う先を見定める。渦巻く海水、今にも放とうとする忙しいその巨大魚の一匹に狙いを決めたのならば――暑い夏にぴったりな煌くアメを、さぁドウゾ。
 真っ直ぐに降り注ぐ水晶の針が、雨糸のそれに良く似て渦巻く海面へと突き刺さった。星空の光を写すそれは、流れ星のようにも見えただろう。星が落ちる、針の示す先。それは背後にある島ではなく、この海の中。此処から先にお前達の路はもう無いのだと、通行止め代わりと凍てつき水面を停滞させていけば少しずつ減っていく水流の数。それでも相殺しきれなかった幾つかが、コノハの肌を裂くけれど。その痛みで水晶の雨の勢いは削がれることは無い。
 痛みはより冴え冴えと、薄氷の鋭さだけを増していく。
 けれど泳ぐ場所を囲われたとて、未だ勢いを殺さぬ魚達だ。冷たく揺れぬ波へ尾鰭を叩きつけて跳ね上げて、体をしならせ牙鳴らし。無理やりにでも移動を試みる、わがまま放題の暴れん坊。
 幼子の駄々のようなその姿のもとへ、ふわりと帛紗が舞う。夏の夜のまだ冷えぬ温い潮の香りに、甘い薫香が混じる。
 踊るように軽やかに、手招くように甘やかに。黒薔薇の香りが、吉兆紋の刺繍と共に舞い踊る。
「神の世、現し臣」
 足場のどれほど悪い海の中であろうと、綾の足取りは崩れない。波の勢い殺さず重心を移動させ、流水の一部のようにくるいくるりと巨大魚をあしらって見せる。彼らの跳躍と共に舞う飛沫が星月夜に照らされ煌めいて、落ちていく。それは緑の瞳に美しく映れど、綾が見据える先はその先だ。
 既に風に晒された背鰭からは、罅割れ剥がれた鱗が落ちていく。きっと、こんな暴挙をしなければ。骸の海からこちら側へ来なければ。知らずのまま済んだ痛みだろうに。
「涯なる海も――夢路に遥か花薫れ」
 ならば眠らせてあげましょう。柔かな帛紗が馨りを運ぶ。否、それ自体が馨りというべきか。幾つもその形と香りを増やして、魚達の敵意を奪って眠りの淵へと誘っていく。
 荒れ狂う様を緩慢に、それでも尚敵意を削がれぬままの数体がやけくそ気味に凍る海原を進もうとするのを、嵐吾と清史郎が然りと阻む。最後の力か自棄故か。彼らの肉を喰らわんと口を開けるが、しかし。
「陸に上がった魚などおそるるものではないわ!」
「俺は箱だ、食しても美味ではないぞ」
 闇色した爪の一撃が、蒼い残像残す鋒が、隙なく彼らを刻んでいく。同じ海でも、彼らが還るべきはここでは無い。
 お帰りは彼方、骸の海へ。
 ユニが放つ複製水流弾の最後の一発が、氷上の魚を再び押しとどめて水中へと返した。黒薔薇の香りが一際濃く香る。それに似合いの綾の足取りは、波に邪魔されぬまま静かに、美しく。流れるままに、花舞う鞘から引き抜かれた刀身は冷え冷えと月に輝いて。
 凛と風斬り、一刀。
 手向けの音と、手を取って踊るのは雲ひとつ。
 残った最後の一匹が放つ水流弾は薄布に阻まれ、雲に惑わされて薄れ、水晶に散らされ霧散した。
 間髪置かず、凍てつく雨は更に降る。寸分違わず、大きく開けた最後の一匹の口の中へ。痛みを感じて閉じる間も無く、針は重なり内へと進んでいく。巨体が一度大きく揺れて、その内側から凍てついて。強制的に与えられたアメの分だけその命を喰まれていく。

 そしてひび割れる音が高く、澄んで響けば。
 星月夜に照らされた氷の煌めきと共に、巨大魚は全て遠く、骸の海へと帰っていったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『魔獣』

POW   :    ブレイクダウン
単純で重い【物理】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    カラミティ
自身からレベルm半径内の無機物を【有機物を切り裂く竜巻】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    ミーティア
【無数の隕石を召喚し、それら】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメイク・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●魔獣
 巨大魚達の消え去った海に、その声は大きく低く響いた。
 踏み出す一歩は海底を揺らし、その巨体が進めば大きく水面が波打つ。
 やがて現れるのは災害が形を成したような、歪な獣。名も無き魔獣。
 滅びを願った男の、成れの果て。
 嘗ての男の意識はもう無い。呼びかけも無意味だろう。
 大きな手足、太い尾。繰り出してくる一撃が強烈だとは、誰の目にも明らかだ。

 けれど彼を倒さなけば――朝を迎えることは出来ない。
ネーヴェ・ノアイユ
これはまた……。随分と様変わりをされてしまったようですね……。これではお話を聞く……。と、いうことは不可能でしょうし……。引き続き猟兵としてこの島の防衛に専念すると致しましょう。

あれほどの巨体であればその攻撃もかなり強力なものとなりそうですね……。ともなれば……。氷壁を展開し攻撃を盾受けしながらその後ろでスノウストームの詠唱を。
十分な詠唱時間を確保出来たようでしたら魔獣様の足を目掛けてスノウストームを発動します。足にダメージが通ればあの巨体を支えるのは困難になるでしょうから……。
もし……。詠唱時間の確保が難しい場合は氷壁を駆使して猟兵の皆様。そして島の防衛に盾受けとかばうで専念致しますね。


都槻・綾
嘗ての意思を持たぬ骸になって尚
怨嗟の咆哮だけが響いている

せめて
憎しみの理由を抱えたままでいれば
己の「正義」を振り翳せただろうに
自身を救えただろうに
ただの負け犬の遠吠えとして討たれることを
嘆くことさえ叶わないなんて、

――虚しいですねぇ

呼び掛けでも憐憫でもなく淡々と
首を傾いで巨躯を見る

くらがりを望むのなら深い海の底はなおのこと
居心地がいいに違いない
其れが骸の海ならば
あなたに、私達に、
何の不都合がありましょう

ね、と艶やかに浮かべる笑み

研ぎ澄ます第六感で敵の挙動を把握
軌道を読んで躱すか
避け切れぬ時は扇状に開いた符を薙ぎ
衝撃波で勢いを削ぐ

ゆるり優美に
遥かな海原を指さし
詠い紡ぐ鳥葬

逝くべき澪を標しましょう


ユニ・エクスマキナ
うわぁ、大きい…っ!
今度の敵もやっぱり可愛くないなと思いつつ
貴方の思い通りになんてさせないんだから!

きゃっ…!
こんな攻撃を受けたら、ユニは…(がくぶる)
しかし頼もしい友たちの姿が目に入れば
なんとかなる!と一転気楽に

トリセツ構えて果敢に敵へ挑むも
きゃー!や、やっぱり怖い~っ!
無理、無理~っ!
バタバタ必死に逃げ回って
―はっ!?
もしかして、今ユニって囮みたいだった?
怖いけど、皆の役に立つなら…頑張るのねっ(グッ
再挑戦!こ、こっちなのねー!
きゃー!来ないで!
隕石は反則でしょ!?

敵を倒すことは仲間に任せ
あ、危ない…っ!
仲間がピンチの時は急いで敵の攻撃をコピーして再生
ユニ、これしか出来ないけど…頑張って!


終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と

おお、でかいのがきたのー
あの足に踏まれたらぺちゃんこじゃろか
踏まれるようなへまはせんけど
確かに尻尾もぺちゃるの、気をつけよ

さてどう攻めるかの~
足止めるのが一番か
んでは踏まれんように気を付けながら、足を潰しにいこか

あの爪にあてたら虚の爪、割れるじゃろか
心配いらん?そじゃね、汝は一等強くて美しかったの

友と共に戦うはどうすればええのかわかっとる
互いに好きに戦うのが一番調子良く
気配感じたら道開けて、踏み込むの感じたら合わせよう
息を合わせるんも、考えんでええし
攻撃重ねて仕留めよか

汝の名は知らんし、抱えたもんはええもんとは思えんけど
ここにおるんは確かじゃね
悪いが倒させてもらおう


筧・清史郎
らんらん(f05366)と

ふふ、らんらんがぺちゃんこか
そうなれば、折角の極上のふわもこな尻尾も台無しだ
それはとても困るな
そうならぬよう、気合を入れて参ろうか

敵の攻撃は重いが単純な動き
その動作をまずは確りと見切り
残像等も駆使し躱して、攻勢に転じよう
そのような単純な攻撃が俺に当たるとでも?

友が足を狙うならば
俺は急所狙い命中率重視UCでまずは斬り込んでいこう
特に言葉交わさずとも、友がどう動くかは自然と分かる
相手に隙が生じれば、同時に踏み込んで
攻撃力重視UCの一太刀を見舞ってやろうか

様々な事情や思い等があったのかもしれないが
その存在は今や怪物だ
ああ、憂い無き朝日を迎える為に、此処で確りと討ち取ろう


コノハ・ライゼ
ふふ、よっぽど美味しそうなのが出て来たじゃナイ
……ナンて、不謹慎かしらネ

敵の挙動*見切り隙見出し、*オーラ防御纏って懐に飛び込むわ
さあそのおっきな図体でどう出るか、見せて頂戴な
オレさえ上手いコトののみこめない様じゃ、ナニものみこめなくてよ

降る隕石には*カウンターで【天片】展開
刃も右目に仕込んだ刻印も、全てを花と変え石を包み砕きましょ
多少の仕留め損ねは気にせず……そうね、少し位壊されても*激痛耐性で凌いで
*2回攻撃で花弁の渦を獣へと向けマショ
*傷口抉ってアンタの命で癒してもらうわ

つまらなくたって、嫌ったってイイけど――八つ当たりはダメなのよ
ようく覚えたらコレまでとは違う世界で、オヤスミ



●闇夜を砕いて
 現れた巨体に、ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は青い瞳を見開いた。
「これはまた……随分と様変わりをされてしまったようですね……」
 もはや人の面影などは何処にもなく。
 低い咆哮と唸り声は対話からは程遠い。
「うわぁ、大きい……っ!」
「おお、でかいのがきたのー……あの足に踏まれたらぺちゃんこじゃろか」
 並んで見上げる、終夜・嵐吾(灰青・f05366)とユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)の感想も驚きまじり。見上げる首が痛くなってしまいそうなその巨大。視線をすっと下げて、その体を支える足四本を嵐吾の金瞳がじっと見つめる。
 どう考えても、平穏な結果は想像出来やしない。現にあれが近づく振動はどんどん大きくなるばかりだ。
「ふふ、らんらんがぺちゃんこか。そうなれば、折角の極上のふわもこな尻尾も台無しだ」
 けれども、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の零す笑いは和やかなままだった。とても困るな、と続ける声にも嘘偽りは無く真剣だがいつも通りのマイペース。巨大な敵に臆すそぶりも慌てるそぶりも見られない。だがそれは目の前の脅威が分からぬわけでも、侮っているわけでもない。
「そうならぬよう、気合を入れて参ろうか」
 友が、自慢の尻尾を踏ませるような失態をしないと知っている。
 そして、そうはさせないとも思っている――否。させはしない。
 だから声音は一言一句落ち着き払って、ふわりと浮かぶ笑みは信頼の証なのだろう。
 赤、赤、金色。電子少女と妖狐、それから器物の三人で瞳を見合わせ、その奥宿る思いは一緒だろう。
 ここは戦場。気を抜かず、気をつけて。倒す気概は、十分に。
「貴方の思い通りになんてさせないんだから!」
 電子少女がビシッと魔獣を指差し、高らかな宣戦布告。
 何度目かの咆哮は低く空気を震わせての返答のようにも聞こえたか。
 だが響く声から見える意思は、ただ純粋な破壊衝動。人であった時には数多の感情が入り混じっていたであろうそれは、既にどこまでも昏い闇色へと塗り潰されていた。
 恨み、つらみ、憎しみ。空気を震わせる思いは純粋なれど、のしかかるように不安を煽る。
 せめて、と都槻・綾(糸遊・f01786)は心中で呟く。その憎しみの根源が残っていたのならば。例え間違っていたとしても、生者としての「正義」を振り翳せもしただろう。人らしい感情のままに、自分の想いを言葉に乗せて。
「――虚しいですねぇ」 
 小さく首を傾げ、魔獣見上げる彼の言葉は、しかして哀れみの色はない。呼びかけというには小さすぎる独り言は何の色も乗せず、ただ静かに夜の海へと溶けていく。
 もしも、人のままであったのなら。猟兵たちに己が「正義」を砕かれた後に泣けただろう。悔いて、嘆いて。自分の論がただの負け犬の遠吠えだと分かったとしても――そうする事で救われる心も、あっただろうに。
 けれどひっくり返った水はもう元には戻らない。
 なら、その全てを飲み干してしまおうか?
「ふふ、よっぽど美味しそうなのが出て来たじゃナイ……ナンて、不謹慎かしらネ」
 食いごたえなら十分だろう巨体。楽しげに薄氷の瞳細めて、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が手にしたナイフをくるりと回す。
 さて、どこから食べるのが美味しいだろうか。凶悪な爪ごと振るわれる大きな腕? それとも強く重く踏み躙る太い足? いやいや、それとも全てをなぎ倒しそうな立派な尻尾? どれだった美味しそう。なら隙を縫って端から順に食べましょう。
 喰らい付く算段を組み立てたのなら海底蹴って走り出す。ゆら、ゆら。波が大きく揺れて飲み込みに来ようとも、流る雲を捕まえることなど出来はしないのだ。
「さあそのおっきな図体でどう出るか、見せて頂戴な」
 それすらも、全部綺麗に捌いてあげるから。
 開戦の合図となった、たなびく雲の影を果たして魔獣が攻撃の意思と捉えたのかは定かではない。破壊の化身にとって小さな人影は、島へ向かう進行上ただ邪魔な小石程度の思いだったのかもしれない。けれどもその大きな腕を、煩わしそうに振りかぶったのは確かだった。当たればひとたまりもない一撃が、風を切る音と共に水面へと叩きつけられる。
 轟音じみた水音。しかし飛び散るのは赤では無く、飛沫と透明な青。巨大な腕阻むように展開したネーヴェの氷壁が、一息足らず耐え、高い音と共に砕けて舞て煌めいた。大きな冷えた塊が、水面に大きな音たて飛び込んではぷかりと浮かぶ。
 意思の疎通が断絶されているのであれば、もう。魔獣と化した彼をこの島にもは近づけさせはしない、そして誰も傷付けさせてなどさせやしない。
 幼くも猟兵の一人として彼女の意思は強く、流れる魔力に応じるように氷壁が再び海中から立ち上がった。
 明確な拒絶に、魔獣がぐるりと回ってその尾を苛立たしげに振るったのなら、その一撃で氷は先程よりも呆気なく砕かれてしまう。ならば、もう一枚。それから壊される間に、更に一枚。彼女の魔力に応じて、海の上に氷の壁がいくつも並んで巨獣の行手を阻む。一枚で耐えれないのならば重ねて、重ねて強度を増して。
 それはまるで花弁のように、少女を中心に開花する大きな氷花のようでもあった。散らせと方向と共に隕石が降り注げども、その数に負けぬと砕かれる側から開いていく。
 数多の降る石の数は止まねども、間に合わぬのならば吹く風とともに空色の花弁が包み込む。柔く、けれども強さを持って勢いを殺し。最後には呆気なく砕ける音すら殺し切るように包んで包んで、青い風蝶草の花弁は幾重にも。
「オレさえ上手いコトののみこめない様じゃ、ナニものみこめなくてよ」
 舞う花の出所はコノハの手にしたナイフ、そしてうすいアオの右目から。それは潮風に舞う蝶の羽ばたきにも似て、流れる星を包んで砕いてまわる。夜空の下、海の上。自分の近くに降ったのならば、落とすよりも獣の鼻っ面を叩く事を優先に。渦巻く花弁がコノハの意思のままに、彩る花弁が星と踊って、その悪意を落とし行く。
 たかだか花。その程度、その程度に負けてなるものか。
 思うように行かぬ様に、いよいよもって魔獣が呼ぶ星の雨はその苛烈さを増していく。
「きゃっ…!」
 間近で氷の砕ける様を見たユニが小さく飛び上がった。こんな攻撃、もしも直撃してしまったのなら……と想像しては青褪め震えてしまうけれど。いつもよりほんのちょっぴりぺしょりとした尻尾と、水の中でも美しい夜桜の錦が舞うのを見たならば勇気は自然と湧いてくる。
 頼もしい友人達が近くにいるのなら――きっと恐れなくっていいはずだ。
 なんとかなる! なんて分厚い己の取扱説明書を手に、持ち前の前向き精神で勢いよく一歩を踏み出せば。
 ドォン。
 間近で鳴るは着弾音。きゃー!? と思わず悲鳴が口から飛び出して。
「や、やっぱり怖い〜っ!」
 ドタバタ、ザバザバ。
 波をかき分けて逃げの姿勢。感情素直に口に出すユニはよく目立つ。無理、無理〜っ! と半泣きで逃げ回る動きは自然と囮りじみて目を引いた。巨大魚と同じく、魔獣が抱く思いは同じ。倒せそうな者から狙いを定めようと、彼女へと隕石も降り注げば、氷の壁が防いで花弁が砕き落とす。どこに攻撃が来るのか分からぬよりも、随分と防ぎやすいことを大きな彼はまだ分かっていないようで。
 だから魔獣の意識が持っていかれているうちに、嵐吾と清史郎が魔獣へとそろり距離を詰めていく。狙いは一先ずの足止め。もはや地震かと思うほど揺れるその一歩、大きな踏み付けを喰らわぬようにと左前足へ接敵する。
 近くで見るとより頑丈そうな皮膚と、岩のような爪。あれに当てたら、虚の爪も無事では済まないかもしれない――嵐吾が振りかざした獣の腕が、その思考で躊躇いそうになる。だが、いとしい右目の主はそれを許さない。
 強く、繋いだ嵐吾の右手を予定通り敵へと虚が引く。手応えは確かなものであったが、それは敵を引き裂いた感触のみ。黒い爪は欠けること無く美しいままの鋭さを保っている。
 心配ご無用。
 ピンと立てた耳にその言葉が音として届くわけではなかったけれど。
(そじゃね、汝は一等強くて美しかったの)
 狐の内には間違いなく伝わった。思わずと、妖狐が尾を振り口元に笑みを浮かべてしまうほどには。
 与えられた傷は予想外の痛みを魔獣へと与えた。不快感から巨大な足を踏み鳴らせば、波立つ音とともに派手に飛沫が舞う。動き自体は単純明快、ただの力技だがその間は隕石が降り注ぐのも止まってしまう。
 そうして逃げ惑っていたユニも、止んだ攻撃に思わず敵の方を振り返って――はっ、と気がついた。
(もしかして、今ユニって囮みたいだった?)
 敵意を向けられて攻撃されるのはとても怖い。怖い、けど。
(皆の役に立つのなら……!)
 足踏みで起こる波で思うように動けぬ友人の姿が、はっきりと敵に捕らえられてしまう前に。
「こ、こっちなのねー!」
 勇気を振り絞って、大声で叫んだ。両手をぶんぶんと振り回し、より目立つようにと跳ねる動きもつけたのなら。
 魔獣の大きな目が、ぎろりと少女へ再び向く。ひっ、と声が出そうになるまま、見つめあって一秒間。
 巨大な咆哮。からの、再びの流星。
「きゃー!来ないで! 隕石は反則でしょ!?」
 となれば、鬼ごっこも再開だ。
 けれども彼女の頑張りは、確かに次繋げる大きな一手をもたらした。
 刀を振るう清史郎が踏み込み、一閃。その斬撃が深々と、正確に友が傷つけた箇所を大きく抉る。途端、上がる声は悲鳴じみた怨嗟の咆哮。空気を強く震わして、無事な尾が水面を薙ぐように大きく打った。
 荒れ狂う波が、走ってくる。夜の水は仄暗く、まるで深い海の底じみて。闇が全てを飲み込まんと、猟兵達へ迫りくる。
 嗚呼、けれど。
 彼が真に望むくらがりは、きっとこの海では無く。きっと。
「其れが骸の海ならば――あなたに、私達に、何の不都合がありましょう」
 ね、と艶やかに笑む器物の男が囁いた。手にした霊符を広げる様も、鮮やかな手つきで寸分に狂いなく。まるで上質の扇もかくやという麗しさ。そこに赤く、縫い綴られた星は五行に籠目。共に魔除の意味成すそれを、下から上へ大きく振り上げれば。
 ごう、と風が大きく吹き抜ける。
 放たれた衝撃波が波を見事に撃ち抜いて、水玉雫に変えていく。星月に照らされ落ちていく様は、隕石よりも遥に天上の星々に近いようにも見えただろう。ざぁ、と細やかな水滴が水面を叩く音と共に波は大きくも穏やかに、猟兵達を揺らすのみ。
 とはいえ、海の波は止まるものでもなく。それは猟兵達の体勢を大きく崩した。
 波に流された彼らに降る咆哮。流れる星が落ちる。彼ら目指して、真っ直ぐに。今度こそ、滅びを与えんと。
 いいや、させはしない。氷雪の魔法使いの意思に応じ、氷壁が立ち上がる。砕ける音は今日何度目か分からぬまま高く鳴る。けれど、一撃さえ凌げば十分だ。あとは各々が自由に、先程まで囮りをしてくれたユニのおかげで壊されぬまま残っている予備の氷壁の裏へと逃げ込めばい。
 まだ邪魔をするのか。こんなにも、脆いというのに!
 いくつも重ねた氷壁に、魔獣の呼び出した隕石が飛来する。咆哮と共に解き放たれたそれらが分厚い氷に阻まれながらも砕き、辺りに透明の破片を撒き散らしていく。
「束ねるは妬み、放つは憎悪」
 壁は破られはしない。大丈夫。
 自分にそう言い聞かせながらネーヴェは詠唱を口に乗せる。
 ともすれば震えそうになる喉。けれど、信じている。いくつも壊されて、タイミングはもう測った。だから氷の魔法使いたる少女は、間に合う筈だと信じる。己の操る氷の力を。その精度を。
 そして、持つ術の中で唯一詠唱を必要とする、この魔法こそが――あの巨大な魔獣を挫く一手になるのだと。
 意識を氷壁から外せばただただ数は減っていく。呆気ない程に砕かれて、けれど彼女の詠唱は止まらない。
「万象奪う力となれ――総て凍てつく猛吹雪!」
 眼前の氷壁を壊されるとほぼ同時。正しく最後まで紡がれた言葉、そこに乗った魔力が冬を呼ぶ。
 凍てつく風が吹き荒れ、夏夜の空気を引き裂いた。白い雪が激しく舞う道筋は、ただ真っ直ぐに。海面を疾って凍てつかせ、喰らいつくのは魔獣の右前脚。
 霜が這い上がるように白く染めて、氷雪が覆いきるまでほんの数秒。冷たさも、痛みを覚える暇すらも無いほどの、わずかの間。
 魔獣にとって何が起こったのかすら分からなければ、当然。島への歩みを進めいていた力をそのままに、その脚を大きく動かそうとして。

 氷の軋む、大きな音がした。

 刹那、巨大な体が大きく傾いた。軋む音は砕ける音に変わって、それが凍った足の砕ける音だと誰もが理解する頃には。
 魔獣は悲鳴じみた咆哮を上げる事しか出来ずに、海へと倒れ込んだ。大きな波が起こって、スコールもかくやという水飛沫が猟兵達に降り注ぐ。先程のように波は大きく起こるが、しかしてその勢いは凍てついた海面が殺していく。
 身を起こそうと、魔獣は腕と残った三本足に力を入れる。だが、そこへ黒い獣の爪が迫りくる。左前脚を深く、抉る三度目は支える腱を引き裂く。
 再び水へと倒れ込む魔獣が、嵐吾を払い除けようと腕を振るった。だが遅い。切り裂く爪の勢いのまま、宙返りをするように狐が跳んでその巨体を駆け上がれば、巨大な腕は虚しく空を切る。そうして開けた道へ、桜花纏し男が今度は滑り込んだ。魔獣の傷口を足場に登って狙うは、届く距離まで落ちてきた首筋。再び払い除けようとした腕も、掴むは淡色の夜桜の気配のみ。
「そのような単純な攻撃が俺に当たるとでも?」
 跳んだ男が蒼刀を確りと構える。宙に浮かんだ清史郎を捕まえようと手が伸ばすよりも、先の登っていた嵐吾が魔獣の目を抉り飛ばす方が早い。ぴたりと息のあった連携は、言葉を交わし合うなど不要。自然と好き勝手に動いた方が、互いに一番調子がいい。
 唸り声を上げる魔獣の喉が動くのは近くならば金の瞳によく見えた。名の知らぬ者が抱えた悪意。決してそれは、良いものとは思わない。けれど今流れる血が、その存在を示している。
「悪いが、倒させてもらおう」
 だからこそ。どれほどの事情があったのだとしても、抱えきれぬほどの思いを内に持っていたのだとしても。怪物に成り果てたものを放って置くわけにはいけなかった。繰り返しを重ね、次に続く空に憂いを残さず新しい朝日を見るために。
 もはや見えぬ瞳でがむしゃらに振るわれる腕の一撃も、危ないと叫んだユニがそっくりそのまま打ち返す。パン、と大きく甲高いクラップハンズが鳴り響く。
 その喝采は猟兵達への祝福にもとれて。
「――頑張って!」
 これしか出来ないけどと叫ぶユニの声援受けて、桜花舞う太刀筋は蒼々と。そんな事はないと、柄握る清史郎の気持ちには迷いなく。
 明日への道を切り開くため。渾身の力乗せた一撃が、魔獣の喉を斬り裂いた。

 怨嗟はもう、聞こえない。空気震わせぬ喉が、けれども残った力がまだ星を呼ぶ。
 つまらない、つまらない。何も怖せずに消えてしまうだなんて。
 せめてもの道連れに、邪魔する者達も一緒にと願われた星。けれどそれは飛ぶ風蝶草の花弁が包み込む。ばらばらと石を静かに砕く花嵐は、魔獣の傷口へとも飛ぶ。
 滴る赤をたっぷり吸って、巡る命が花開くように咲き誇っては、幾重にも花が舞う。
「つまらなくたって、嫌ったってイイけど――八つ当たりはダメなのよ」
 暴れん坊に子守唄でも聞かせるかのように、命をいただくその声が優しく潮風に乗る。
 よくよく覚えたのなら、これでもうおしまい。これまでと違う世界でゆっくりとオヤスミ。
 その眠りを妨げず、最期に逝く路をどうか間違えないように。綾がゆったりと詠い紡いで示す先は、遥か遠くの沖の向こう。骸が眠りし海へ、どうか真っ直ぐお還りなさい。整えられた指先を伸ばす様は優美で、きっとこれならばもう彷徨うことはないだろう。手にした符の五芒星から導きの鳥が現れて、魔獣を連れていく。
 疾てなる鳥の羽搏きが、海原の上で旅立ちの合図を送る。

 ――命運ぶ美しき彩の鳥が遠く、見えぬほどに旅立ったのなら。
 静かに戻った海は、きっとこの島のいつも通りの風景だ。

● 朝の手前、夜の終わり
「なんとか、朝までに終わりましたね……」
「良かったけど、つかれたなのー……」
「いやあ、ずいぶん大きかったからの」
「ふふ、でも皆がぺちゃんこにならず良かった」
「沢山動いたらお腹空いちゃったわネ」
「……コノハさん、最後に沢山食べていらっしゃいましたよね?」

 ずぶ濡れの猟兵達を、島の住民達が出迎えた。夜明けまではもう少しあるからと、ふかふかのタオルも、飲み水も、甘い果実もあちらこちらかと差し出される。
 あなた方は、まるで太陽のようだったと一番最初に救われた海賊が言えば、周囲の皆にも笑顔が咲いた。何もないところだけどゆっくり休んでと、ありったけのクッションまで持ってこられたのならば、特等席の出来上がり。横になっても座っても良し。休息を取るには最適な場所だろう。

 そして空の端が、白く色づいてくる。
 かつて、暗闇ばかりの中にいた者達が見つけた希望と変わらぬ色の――夜明けが来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『浜辺のひと時』

POW   :    砂浜を歩く

SPD   :    貝殻拾いをする

WIZ   :    友と語らいあう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一日の始まりに、祈りを
 水面の上を、光が踊る。
 新しい朝が来る頃には、すっかり戦いの痕も波が洗い流したようだった。寄せて返す波の音は夜と変わらない。ひそやかな人々の声と共によせて返すさざめき。
 静かな、いつも通りの、一日の始まり。

 長い夜から目覚めた体に、おはようと声かけるような美味しい香りは立ち並ぶ屋台から。白身魚に海老や貝、イカの身がたっぷり入ったスープは塩味でシンプルにあっさりと。物足りない人には米の入ったリゾットもいいだろう。揃いの素焼きのカップに弾けるレモネードを入れてもらったのならば、定番の朝食セットの出来上がりだ。
 近くにあるテーブルでも、波近くの砂浜でも、海岸端の岩場でも。朝日を眺めながら、その日最初の活力を頂こう。

 浜辺には、光のかけらにも似た白い貝殻があちこちに落ちていた。うんと白いのを探して、子ども達が拾い上げる。小さな手で握り込んで、ささやかな願い事と共にポケットに大事に大事に仕舞い込む。
 願ったのは一体何? 秘密だよ――大事なものだからね。
 笑う声が軽い足音ともに、日々の暮らしを祈る大人達の間をすり抜けていく。
 誰しもの願い、祈り、想い。水面の煌めきはまっすぐに伸びて、それらを陽のもとへと導いていく道筋にも見えた。

 おはよう、おはよう。
 あなた達のはじまりが、どうか素敵なものになりますように。
都槻・綾
光のかけら探しに

桜色がかったもの
レモネードのように鮮やかな黄の模様が遊ぶもの
ぴったりと口を閉ざした頑固者

貝も個性豊かですねぇ

拾いあげては薄明の空に翳し
手のひらに転がす

とびきりの白い貝が見つけられない、と肩を落とす子が居れば
一緒に探して回るのも良い
貝探しは得意と胸を張る探偵少年も居るなら
茶目っ気たっぷりに一礼して協力要請

漸う拾い上げた欠片は
空のひかりを映す程に澄んだ白

やぁ、綺麗
此れならきっと
祈りは届くでしょう

屈んで視線を合わせ
前途を祝す

笑んで駆け行く子等の背は
沢山の可能性と未来に耀いている

自身もひとつ拾い
皆の祈りが天に届きますよう
そっと願ったなら
海へと返上

放物線を描いて飛ぶ貝は
まるで流れ星みたい



●薄明に流れる

 乙女の指先にも似た薄桜。鮮やかな黄色模様が踊るのは、誰かが海辺へ零したレモネードを飲んだのかもしれない。誰にも染まらぬと頑なに、ぴたりと口を閉ざすものまで。白む空へと翳しては、都槻・綾(糸遊・f01786)は物言わぬ貝達をその掌で遊ばせた。
 水面で揺れる光のかけらが、波に運ばれ浜辺へと流れ着いたのかもしれない。個性豊かなこの色も、姿も、暗闇の中では分からない。
 潮風が、穏やかに波音を耳へと届ける。
 そして子供達の声も。
「これでいいじゃん」
「ええー……もっと白いのがいい」
「なんだよ、早くしないとお昼になっちゃうだろ」
「もうちょっと待ってよう」
 兄弟だろうか。少年二人が並んでああでもない、こうでもないと、砂浜を並んで歩いていた。背の低い方の子が、懸命に貝を探すものの、どうやらこれといった物が見つからない様子。
「私も、ご一緒して宜しいですか?」
 しょんぼりと肩を落としている姿に、思わずと声をかけた。ぱっと振り向く瞳は四つ。まあるく見開かれたそれが、数度瞬きをして。大人達にするように仰々しく一礼する綾が、先程の魔獣退治の英雄と分かるまで一拍足らず。
 茶目っ気たっぷりに笑み浮かべるその顔へ、子供達が元気に頷くのも、すぐのこと。
「うん、いいよ!」
「毎日やってるから俺らは得意だし、いっぱい見つけよう!」
「それは頼もしい」
 はしゃぐ声に歩み引かれるまま、浜辺を行く。
 子供の歩幅で一跨ぎする短い距離にだって、両手の指ほどの貝がまだ多く眠ったまま。どれもきらきら輝けど、とびきりの白となれば話は別。どの貝殻もほんのりと色づいているものばかり。真昼の海の子、珊瑚と共にいた子、仰ぎ見る島の緑に憧れた子。あれがいい、これはダメ、もっと他にも良いのがある。賑やかな子らの声は、島を救った英雄と共にならば常より弾む。登りくる朝日に似た明るさと共に綾の手を引いて、けれど探す目つきは皆真剣。次第に白熱しては、これっぽちの妥協も許さない勢いだ。
 微笑ましさに緩む綾の青磁の双眸が、寄せて返す波が運んできたばかりの白を見つけたのは、朝一番の目覚めを迎えた海鳥の羽ばたきと同時だった。海が再びそのかけらを沖へと連れ去る前に、美しい指先がそうっと拾い上げる。
 夜から朝。変わりゆく空のひかりを写し込んで、まるで空から落ちてきたかのよう。

 ――やぁ、綺麗

 つるりと澄んだ一欠片に、思わず息を吐いた。それから、前行く子らを呼び止め手招き。視線の高さを合わせるように屈んだのなら、そっと差し出す握った手のひら。ゆっくりと指を解けば、出てきたそれに彼らは瞳を輝かせる。
「わぁ、まっしろ!」
「すごーい!」
「此れならきっと、祈りは届くでしょう」
「うん、ありがとうおにいちゃん!」
 潰さないようにと、小さな手がそうっと摘み上げてひかりを受け取った。さぁ行っておいでと背中を押してやれば、もう一度ありがとうと二人は大きく手を振って駆けていく。祈りの願いを抱え行くあの小さな背も、やがて大きく育っていくのだろう。先など分かりはしない、だからこそ彼らは可能性そのものだ。
「……眩しいものですね」
 走っていく小さな背に光が踊って輝く様は、まるで空と島からの祝福のようにも見えた。

 見送りが終われば、綾自身も貝を一つ拾い上げる。先程のような目の覚める白では無いが、ごく薄く青緑が先の方に染まっていた。それを手のひらへゆるく握り込んで、手の甲を額へ当てて目を閉じて、祈る。
 ――皆の祈りが天に届きますよう
 静かな祈りは、短くも柔らかに。胸中でだけで告げて、ゆっくりと瞳を開く。それから、手にしたそれを海へと高く放って返上した。

 朝日を受けて煌く白が、放物線を描き落ちていく。
 それはまるで、願いを叶える流れ星のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
クッションの特等席にてボーっと救えなかったあの殿方のことを考えておりましたが……。答えが出そうにもありませんし……。気持ちを切り替え浜辺へと白い貝殻を探しにいきましょうか。
その際にお見かけしたナシュ様にお声がけさせていただき……。ご都合がよろしければ共に貝殻を探していただければと。

貝殻探し……。と、いうのも中々難しいですね。気づかずに踏んでしまわないか心配です……。ナシュ様は……。見つかりましたか?
貝殻が見つかれば……。ナシュ様の隣にて白い貝殻を手で包み込みながらお祈りを。
ナシュ様は……。何をお祈りされたのですか?
私は……。幸せという輝きが……。いつまでも皆様の隣で灯り続けますように……。と。



●幸せを灯して
 敷き詰められたクッションはどれも鮮やかな色をしていた。そのうちの、翡翠色に極彩色の鳥が刺繍されたクッションを抱きしめてネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は整えられた特等席に座ったまま、何度目かの息を吐いた。
 ――救えなかった。
 大きな魔獣へと変質してしまった名も知らぬ人。いつか、誰しもがああなってしまうのかもしれない。己には、何か他に出来たことはあっただろうか。例えばもっと事前に分かっていたのならば、或いは。
 座り込んだ青いクッションは、操る氷とは違って何処までも沈んでいきそうな柔らかさで彼女の思考を受け止めてくれる。けれど、もしもの話に意味はなく。同じように先の事だって、何一つとして分からないものだろう。
 どれだけ悩んだって答えは出そうにない。一際大きなため息をついて、ゆるく頭を振る。ふわりと揺れた白い髪が、陽の光に照らされて白波にに似て朝日に照らされた。息を深く吸えば、爽やかな潮の香りが胸を満たす。
 ぺちりと自分の頬を両手で軽く叩いてネーヴェは空を仰ぎ見る。白む空。夜から朝へ。移りゆく天幕の切り替えを、青い瞳に映して立ち上がった。
 一歩踏み出せば、砂が鳴る。小さな足跡つけてゆっくりと進んでいけば、砂浜の上に多くの貝殻が眠っていた。色とりどりのそれは落ちた星のかけらか、はたまた水面で煌めく陽の光から溢れてきたかのよう。暗い時には見えなかったそれらから、島民に聞いたおまじないを思い出し、白いものをと探す彼女の視界に橙が翻った。
 視線をやれば、此度ここまでの案内をした少女人形の姿。ナシュ様、と声をかければ結った髪が尾のように二つ勢いよくネーヴェへと振り返った。
「ネーヴェさん! しっかり休まれましたか?」
「はい。あの、もしよろしければ……一緒に貝殻を探していただけませんか」
「! はい、よろこんで!」
 ばっちり良いものを探しましょう、と二人でいざ探索へ。
 とはいえ大小色形、様々な貝殻が浜辺には落ちている。これは、と思って拾ってみれば丸く削られたただの小石だったり、砂に埋もれていた部分が派手な色だったり。なかなかに難しいと二人は唸る。それに意外と貝殻は薄くて脆い。うっかり踏んで壊してしまわないかと歩く速度すら慎重になってしまう。
 そろり、そろりと爪先で踊るように移動する人影二つ。けれどなかなか、目的のものは見つからない。
「ナシュ様は……見つかりましたか?」
「ううーん、なかなか難しいですねぇ……あっ」
 声上げて、キディが指差した先。そこにはキラキラと輝く小さな白い貝殻がひとつ、ふたつ。やりました! と元気よく叫ぶキディの声を聞きながら、ネーヴェも微笑んで貝殻を拾い上げる。つるりとした小さなそれは、欠けることなく美しい曲線を描いていた。
 小さな掌で、包み込むように握り込む。壊してしまわぬようにと、力は込めすぎないように。
 波打ち際、並んだ乙女二人が朝日へ祈りを捧ぐ。風に吹かれる白と金がふわふわ揺蕩って、煌めいた。先程までの騒がしさがなりを潜めた少女人形へ、魔法使いがちらりと視線を投げる。
「何をお祈りされたのですか?」
 酷く真剣そうな姿に刺激された好奇心。そっと問い掛ければ、再びキディはぱっと明るい笑顔を彼女へと向けた。
「今日も一日、良い日になりますように、です!」
 ネーヴェさんは? とベリーピンクの瞳が同じ好奇心を浮かべ、少女へと問いを返す。
「私は……」
 祈りに、ほんの少し過ぎるのは滅びを願った人の事。
 でも、こんなに明るい陽の下で願うのなら、きっと。
「幸せという輝きが……いつまでも皆様の隣で灯り続けますように……と」
 それは前を向いて進んでいく事が似合うのだろうと思う。滅びではなく幸福が、皆に変わりなく輝きをもたらせばいい。

 冷たい魔法使いの、あたたかな祈り。
 それはきっと、彼女の未来をも明るく照らす灯となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
キディちゃんに声掛けて
良ければ貝殻探し、付き合ってもらえないかしら

ナニカに祈るモノなんて持ち合わせちゃいないケド
こんな綺麗な朝焼けの下でなら
御利益のおこぼれにもありつけそうじゃナイ?

キディちゃんは与りたい御利益や
お祈りしたいナニかとかあるのかしら
ふふ、勿論乙女のヒミツなら詮索しないケド

波打ち際で波かき分けながら
薄明より明るい淡黄の混ざる貝殻を拾い朝陽に翳す
所でコレって誰かの為に拾うのでもアリ?
じゃあキディちゃん、コレは付き合ってくれたお礼にアゲル
アナタに御利益ありますように

アタシは見付けれただけでじゅーぶん
あ、でも一生懸命探してたらお腹空いちゃったから
あったかいごはんは貰いに行きましょ



●誰かの為の
「良ければ貝殻探し、付き合ってもらえないかしら」
「了解ですとも!」
 にっこり笑ってコノハ・ライゼ(空々・f03130)のご提案。
 返事は良い子に、両手をあげての人形の少女も迷いのない即答。いつもお世話になっていますから、とやる気も十分だ。
 波打ち際。寄せて返す波が砂を踊らせ沖へと手を引いて。その度に小さな貝殻も一緒にコロコロと転がっていく。それほど速くないはずの繰り返しではあるのに、今見た白がはたして泡か貝かはたまた別か。瞬きほどの間に分からなくなって、二人揃って真剣に掴めぬ波をかき分けた。
 ざぁ、と吹く潮風。下ばかり向く視線をリセットするように、コノハが顔を上げれば明空色に染まった雲がふらり揺蕩い流れていく。白から黄色、橙から薄紫に夜の彼方へ百面相。けれどあと数時間もすれば、青々と高い真昼の空。今日はきっと、良い天気だろう。
 ナニカに祈るモノなんて、空っぽなのだと嘯く自分には持ち合わせてなどいない。
 けれど、遠く水平線から顔を出した朝日が染める空は暗闇を切り裂く鮮烈さ。世界の果てまでも照らさんとする光は強く、広く。だからひょっとしたら――人々が捧ぐ祈りが花開いたその時に。花弁一枚ほどのご利益ならば、縁遠くある自分の上にも落ちてくるかもしれない。
「キディちゃんは与りたい御利益や、お祈りしたいナニかとかあるのかしら」
 再び貝殻拾いに戻り、眼鏡がおちぬようにブリッジを軽く押しながら問う声はのんびりと。
 勿論乙女のヒミツなら詮索しないケド。笑いながら人差し指で内緒のジェスチャーで、付け足された言葉は紳士だが。
「わたしは乙女ですが、ヒミツはないですよ! 良き日でありますようにだとか……あ、おいしいご飯をずっとたくさん食べれますようにというのも、ありですね!」
「ふふ。良いわね、ソレ」
 尋ねた先はぴかぴか笑顔の元気な子供。色気より食い気に全振りである。御利益というには随分と俗物的ではあるそれに、コノハも思わず吹き出した。けれどもまぁ、食べることと言うならば分からなくもない気持ちだ。コノハだって珍しい食べ物には目がない方なのだから。
 ぱしゃんと何度目かの波音が耳に心地よい。キラキラ跳ねる水の揺らめきは海の目覚めの声にも似て、ともすればそれに紛れてしまいそうな白を見つけたのは薄い氷の瞳だった。踊る光と砂に埋もれてしまうより早く、コノハの長い指がそれを摘み上げる。
 翳した空よりもなお明るい、淡い黄混じりの小さな白い貝殻。水から引き上げたばかりのそれは、朝陽を受けて輝くように煌めいた。
 ぽたり。滴は真珠のように丸く落ちて、再び海へと還っていく。
「所でコレって誰かの為に拾うのでもアリ?」
「よいと思いますよ。禁止されてるなどは聞きませんでしたし、お土産にも――」
「じゃあキディちゃん、コレは付き合ってくれたお礼にアゲル」
 え、と顔あげた少女人形の手に、アナタに御利益ありますようにと落とされる貝殻。
 いいんですか!? と驚きのあまりに掌の貝とコノハの顔を交互に見てしまうキディに、当の本人は笑って肩を軽くすくめるだけ。
「アタシは見付けれただけでじゅーぶん」
「な、なんと! さすがコノハ店長さんは素敵な大人……!」
 尊敬の目でキラキラ見つめるキディの視線も、にこりと笑って受け止める柔らかな紫雲の男。空の雲にも似て、一際強く吹く風に髪が穏やかに踊る。
 と、海の香りとはまた違う香りが鼻へと到着した。すん、と鼻鳴らして視線を向ければ簡素な屋台の姿が目に入る。
「一生懸命探してたらお腹空いちゃったから、あったかいごはんは貰いに行きましょ」
「! はい! おなかぺこぺこです!」
 腹の虫が鳴いたのは果たしてどちらのものか。けれど、思うことは一緒だろう。
 でも、その前にと少女は貝殻を握って、朝のひかりへ祈りを捧ぐ。

 ――どうかこれからも、コノハ店長さんが作るのも食べるのも、美味しいものばかりでありますように!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユニ・エクスマキナ
【朝】

うわぁいい匂い
レモネードの甘酸っぱい香りも期待しかないのね
浜辺で朝日を見ながら食べる朝ごはんなんてステキ!
けど、砂に足をとられて歩きにくい…
二人とも待って…!(ヨロヨロ

朝日を映して光る海に感動しつつ
美味しい朝食にも感動
魚介のお出汁がじんわり沁みるのね…!
はぁ~美味しい

みんな何してるの?
へぇ~、白い貝殻!ユニも探してみたい~!
うーん、なかなかないなぁ…
あ、これは結構いい感じ!どう?
そういえば貝殻を耳にあてると波の音が聞こえるっていうけど…
ホントだ!(感動

これからもいろんな新しいことを体験出来たらいいな
お友達と一緒ならきっと楽しいと思うのね
それがユニの願い…あ!
今の聞かなかったことにして~!


筧・清史郎
【朝】

清々しい良い朝だな
美味な海の恵みを存分に堪能しようか
俺もらんらんと同じ朝食セットで頂こう

ああ、朝日が見える特等席で頂こう
ユニは砂に足を取られないようにな(歩み緩め微笑み

リゾットも磯の香と深い魚介の味わいが美味だ

子供達の話聞けば、友たちと並び屈んで
ああ、俺も探してみよう
ふふ、まるで宝探しの様で心躍るな(微笑み
これも中々に美しい白ではないか?
ほう、貝殻を耳に、か
掌の真白をそっと耳へと誘えば
心地良く響くのは、寄せては返す波の音

願い事か
俺は正直、今が楽しければそれでいいと思っている
なので直ぐには思いつかないが
この様に、美味な物を食べ、友と楽しく過ごす
そんな『今』が、今後も沢山あるといいとは思うな


終夜・嵐吾
【朝】

シンプルながら美味しそな匂いしかせん…!
スープに、リゾット。レモネードももらっていこ

さてどこにいくか、いい場所あるかの~?
岩場もええけど
浜辺に座って食べるかの?
朝日も綺麗に見えそうじゃし

あったかスープを口にしつつ、ほっと一息
だしが美味い…
おお、リゾットも食べよ
うん、美味い

朝日眺めて、心うきうき
きらきらじゃね~
海に輝いておる
おや、子供らがなんか拾っておるの
わし、聞いてこーよお

なるほど、うんと白い貝殻を探して願い事か…
わしも探そ
ふたりも一緒にやるかの?
お、これなんかよさげな…
願い事は何にしよ
また一緒にこうして朝日をみたり…あれ、言うたらダメじゃったか
じゃあ違うことをもひとつ探して願おうか!



●これからも、これからを
 海からの潮風が、悪戯に駆け抜けた。
 星月の明かりと入れ替わるように白む空のひかりを受けて、艶やかな藍色の髪がさらりと揺れる。
「清々しい良い朝だな」
 少しばかり乱れたそれを、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が指先で整えた。
 先程までの脅威など無かったかのように、空気はどこまでも静かに穏やかで。聞こえてくるのは波と人々のさざめき。それから。
「うわぁ、いい匂い」
「シンプルながら美味しそな匂いしかせん……!」
 お腹を空かせた友人達の声だ。赤い瞳を輝かせるユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)と、海から上がってすっかり元のもふみを取り戻した尾を揺らす終夜・嵐吾(灰青・f05366)が覗き込む屋台。海鮮がこれでもかと入った大きな鍋を、よく日に焼けた親父がゆっくりかき混ぜている。その横では女性が、これまたよく似た大鍋でリゾットをくつくつと炊きこんで。
 そして、彼らの子だろうか。屋台の奥で、一人の少女が朝日のような色した檸檬二つに切ってはぎゅっと絞って作られるレモネード。
 海の香り漂わせる鍋二つに、ふわりと広がる柑橘の甘酸っぱい爽やかさ。屋台の前にいるだけで、もう美味しいへの期待でユニの胸はいっぱいだ。きっと、だって、すごく美味しい!
 そんな彼らを眦緩め微笑ましげに、どちらを召し上がりになりますかと女性が問いかけた。横に立つ親父も、今日のは良いアラが入ってるから旨いぞと口の端を上げる。
 となれば、どれかなんて選ぶのは野暮というもの。嵐吾の大きな耳がぴこりと立って、全部いただこうかの、と言えば清史郎とユニもその後に続く。
 よしきたと笑って親父がスープを碗に注ぐ。透明のスープに、ふっくらとした白身魚の身が泳ぐ様。ぱかりと口開け目覚めたばかりの貝も、ぎゅっと身大振りに身が詰まっている。そして最後に、頭がついたままの大きな海老がごろりと一つ入った。
 その横に、艶やかな白さが眩しいリゾットの碗を女が差し出す。こちらの具材は細かく刻まれて、お行儀良くお米と並んで混じり合い。上に乗せられたバターがとろりと黄金色に溶けていく。仕上げにと振りかけられた黒胡椒の刺激的な香りが、空いたお腹を優しくノックした。
 そうして一番最後に娘が渡すレモネード。シュワシュワと炭酸のたてる小さな音も心地よく。からんと氷も涼やかに音たて、浮かべられたミントの緑も夏風に合う爽やかさ。縁に引っ掛けられたくし切りのレモンの黄色が、朝日の中でも明るくつやつやと輝いている。
 木のトレーに三つ揃えば素敵に美味しい海の朝食セットの出来上がり。美味しく食べてねと手を振る屋台の親子へ、勿論と三人それぞれ確りと頷き手を振り返した。

「さてどこにいくか、いい場所あるかの~?」
 すぐに食べたい気持ちもぐっとこらえ見渡す広い砂浜。
 どうせなら、より美味しく食べれる場所だって大事だ。あちらに見える岩場も座りやすそうだけれど――ふむ。と嵐吾の尾が一振り。
「浜辺に座って食べるかの? 朝日も綺麗に見えそうじゃし」
「ああ、朝日が見える特等席で頂こう」
「浜辺で朝日を見ながら食べる朝ごはんなんてステキ!」
 選んだのは砂浜真ん中。前を向けば何も邪魔するもの無く。海と空の境界へ、すっと線を引いた所から昇ってくる陽が空を染めていくのが見えるだろう。
 砂を踏み、光に導かれるように進んでいく。その眩さに、清史郎が目を細めていれば。
「二人とも待って……!」
 戦闘時もかくやという少女の悲痛なユニの声。振り返れば、砂に足を取られてよろよろ進む電子少女の姿。歩幅の違う2人について行くのぐらい、普段ならば何ない事だけれども。両手に朝ご飯を持った状態ではそうもいかない。よろめく度に持ったトレーもぷるぷる震えてしまうけれど、溢してなるものかと一歩一歩慎重に、真剣に。
「ユニは砂に足を取られないようにな」
「うん、だから、ゆっくりお願いしたいのね……!」
「がんばるんじゃよ〜」
 清史郎が歩調を緩め、先に進んでいた嵐吾も声援を飛ばす。走れば十秒足らずの距離。けれどもかける注意は細心に。
 たどり着く頃には、呼吸をするのも忘れていたのか大きく息を吸って、吐いて。気の抜けたように砂浜へとへたり込む。お疲れ様とかけられる友人二人の声に、うんと応えて前向けばキラキラ光る海がユニの瞳に映った。
 電子の海の煌めきとは違う、自然のひかり。まるで、海一面にたくさんの宝石をまいたようでいて、ここに至るまでの短い苦労も吹き飛ぶよう。
 それに努力の甲斐あって少しも溢していない朝ご飯も目の前にあるのだ。冷めないうちに、匙を握っていざ挑まん。まずは朝の中で薄く黄金に光るスープを一口。
「――! 魚介のお出汁がじんわり沁みるのね……!」
 はぁ~美味しい。ふわりと広がる優しい味に、今度こそユニの頬がへにゃへにゃと緩む。
 嵐吾もまた、温かなスープにほうと大きく一息ついた。
「だしが美味い……」
 あっさりしとした塩味はシンプルだ。だが、海鮮の旨味がぎゅっと詰まった出汁は薄味だと感じさせない強さがある。具材は大きく派手な反面、それぞれの味が喧嘩せずに成り立つ海の恵みの良いバランス。ごろごろ入った海の幸も、火が通り過ぎずに柔らかで、それぞれの味がしっかりと残っている。殻のついた海老も、なるほど一度炙ってあるらしい。香ばしいそれをむけば、赤と白の色した甘い身が出てくる。
「リゾットも磯の香と深い魚介の味わいが美味だ」
 清史郎が先に食べるリゾットも、ほどよく微かに残る芯の絶妙な炊き上がり。こちらに入っている魚介は細かく刻まれているが、その分米と配分がちょうど良く。ふわりとした魚も、ぷりっとした海老の身の歯応えも混じり合って楽しめる。
 旨そうに食べる友人につられてリゾットに手を伸ばした嵐吾も、一口食べればスープとはまた別の、甘い米と海の香りに満足げ。優しく包み込むバターの風味も相性バッチリだ。
「うん、美味い」
 夜明けを守れと戦い抜いた猟兵達のお腹に染み渡る、優しい朝ごはん。三人並んで海を眺める穏やかなひと時。
 爽やかに喉を通り抜けるレモネードの炭酸が弾けるのに似て、水面の煌めきはきらきら光って踊っている。美しい夜明けのそれと同じように、跳ねて踊るような子供の笑い声を嵐吾の耳が拾ったのはその時だった。
 声の出所へと視線をやれば、波打ち際で何かを拾う小さな子供達の姿。随分と楽しそうだけれど、会話の内容までは、さて。大きな耳でも拾いきれ無い。
「わし、聞いてこーよお」
「あ、ユニも行く!」
 ふさりと尾を揺らし好奇心につられるままに軽い足取りで立ち上がる男と、その後ろに続くのは同じく好奇心旺盛な電子の精霊。そんな友人らの後ろ、器物の男は相変わらずのマイペースさでついていく。
「みんな何してるの?」
 ぴょんと跳ねて輪に入り、しゃがんで子供らと目線を合わせたユニの無邪気な質問。貝殻拾いだよと帰ってくる声は、先程までと変わらずにきゃらきゃらと楽しげに波間に踊る。この島の祈りの仕方に、おまじない。簡単とも言えるようなそれを、三人揃って子らから教えて貰ったなら。
「なるほど、うんと白い貝殻を探して願い事か……」
 楽しげに見えるそれを、やってみたくもなるもので。
 同じようにしゃがんで話を聞いていた嵐吾の口元が、にんまりと楽しげに弧を描く。
「ふたりも一緒にやるかの?」
 振り返って、友二人に投げる質問。形こそは疑問系だが、帰ってくる返事は聞くまでもなく分かっている。
「ユニも探してみたい~!」
「ああ、俺も探してみよう」
 賛成! と二人の答えは予想通りで、朝焼けの中で花咲くように。
 
 とはいえ砂に落ちている貝の中から、白ばかりを探すというのは思った以上に難しい。様々な色形から、ほのかに色付くものまで、代償様々なものばかりが点々と落ちて転がっている。いいなと思って拾って見ても、薄く脆い貝では随分と欠けてしまったものだって少なくはない。
「ふふ、まるで宝探しの様で心躍るな」
 それでも、皆と一緒ならば探して回るのも楽しい。願いを叶える伝説のお宝、というほど大それたものではないにしろ。次第に色付き明るくなる世界で、光のかけらを探してまわる――まるで、おとぎ話の冒険譚のようではあるまいか。
「うーん、なかなかないなぁ……」
 むむっと唸るユニの前に、波は変わらず寄せて返すを繰り返すだけ。けれど砂の形は見るたびに少しずつ形を変えて、彼女の前に白い欠片を示した。
 ちょこんと飛び出たそれを、彼女の小さな手が掘り返す。
 出ててきたのは、内側にほんの少し薄紅があるだけの真白の巻貝一つ。
「あ、これは結構いい感じ! どう?」
 丁度掌にすっぽり収まる程度の大きさのそれを、じゃーんと掲げて振り返った。それを見た清史郎も、ゆるく微笑んでうんうんと頷く。
「おお、良いな……ん、これも中々に美しい白ではないか?」
 そう言ってひょいと拾い上げたのは、ユニのものよりもつるりと丸い貝殻。大きさは小ぶりだけれど、色は良い。
「そういえば貝殻を耳にあてると波の音が聞こえるっていうけど……」
「ほう、貝殻を耳に、か」
 じっと手にした貝を見つめてポツリと呟いたユニの言葉に、清史郎も初耳だと視線を貝に落として目を瞬かせる。そうっと、手にした貝を耳元へと誘ったのならば。
 さぁ、さぁ、さぁ。
 細波の音が寄せて返して。微かに聞こえる心地よいそれは、眼前に広がる海原ではなく、確かに貝の中から。
「ホントだ!」
 すごい! とはしゃぐ声上げるユニ。同じように、清史郎もまた自らの貝を感心したように見た。
 掌の中にもう一つ、海がある。
 眼前に広がる海は、太陽が顔を出すところまで続くほどに広いのに。こんな小さな中にもあるのだろうか。
 なんだか不思議な感覚がする。
 赤い目が四つ、宝物を見つけたかのようにきらきらと、水面に負けぬほどの輝きで白を見た。
「二人はもう見つけたんか。お、これなんかよさげな……」
 遅れて嵐吾が見つけたのは二枚貝の片割れひとつ。細かく波打つ表面とは裏腹に、内はつるりと滑らかな白い子。拾い上げようと屈んだところで、
「らんらん、凄いぞ」
「波の音がするの〜!」
 友人二人から三角のお耳へ押しつけられた。不意打ちの攻撃に、思わずひっくり返りそうになるのをなんとか踏みとどまる。波が貝をさらう前に、なんとか拾い上げる事には成功して胸をひと撫で。
 貝の内に広がる波音を堪能したのなら、本命の願い事。
「これからもいろんな新しいことを体験出来たらいいな。お友達と一緒ならきっと楽しいと思うのね」
 両手で貝をきゅっと握りしめて、ユニが朝の海へと静かに告げる。
「願い事か」
 それを聞いた清史郎も、ふむと少し悩みこむ。
「俺は正直、今が楽しければそれでいいと思っている……なので直ぐには思いつかないが」
 心の奥にある思いは、急いても出てきはしないもの。潮風に載せる言の葉を、ゆっくりと選ぶ。
「この様に、美味な物を食べ、友と楽しく過ごす。そんな『今』が、今後も沢山あるといいとは思うな」
 今までも、これからも。特別な事ばかりで無くていい。いつもの日々があればそれで良い。
 それは狐の男も同じようで。二人の願いに穏やかに笑みを浮かべて、ぽつりと願いを口に出す。
「そじゃな。また一緒にこうして朝日をみたり……あれ、言うたらダメじゃったか」
「……あ!」
 はた、と嵐吾がそこで気がついた。同じように、並ぶ二人もはっとした顔になる。
「今の聞かなかったことにして~!」
 ユニが思わず手に持った海に叫ぶ。けれど、時間は巻き戻らないのが現実だ。どうしよう、と三人で困ったように顔を見合わせるけれど、それもなんだか可笑しくて。すぐに誰からとも無く笑みが溢れて光る。
「じゃあ違うことをもひとつ探して願おうか!」
 手にした貝への願いは、二度目はちゃんとそれぞれの心の中で呟かれ。
 叶うか叶わないかは分からなくとも、朝のカケラのような白い貝は何とか役目を果たせたとか。

 一番最初の願いも、三人にとって大事なものではあったけれど。
 それは朝陽へ祈らなくとも、きっと――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト