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薄明へ祈りを(作者 砂上
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 ずっと、あの退屈な島が嫌いだった。
 冷えた心臓が再び動き出せば、骨の軋む音がする。それをはっきりとしない頭で聞きながら、思い出すのは生まれ育った故郷の事。
 穏やかな人々と、美しい海。陽が沈むと共に眠って、昇れば目覚め。安寧ばかりが続く日々を繰り返すだけの島。
 ずっと、ずっと、大嫌いだった。
 何も楽しいとは思わなかった。どうして誰も彼もが同じことばかりで飽きぬのかとすら思った。物心ついた時から心の内で燻った火種が、終えた生命の灯火の代わりに男の内から燃え上がるかのように膨らんでいく。
 吹き出す炎の代わりに、歪に形を変える肉が皮膚を突き破って形を変えた。おかしくも無いのに口が笑みの形に引きつてて、開いた隙間から鋭く牙が生えていく。

 ――あんな島、なくなってしまえばいい。

 悲鳴が聞こえた。
 誰のものかは分からない。もう、判断するほどのものは残っていない。
 己の姿が怪物へと成り果てた事にすら、男が気付くことはない。
 ただ、全てを壊せと囁く声だけが大きく膨らんで、淀んで昏くはじけた。

 ――おれはくらやみになったのだ。
 ――今一度、この島をのみこむために。

 男の意識が消え去るのと同時。
 星夜の海辺に、低い咆哮が響き渡った。


「繰り返しばかりは飽きてしまいますが、けれどそれこそが平和というものです」
 広大な海原へ落ちてきた島々を奪い合う戦乱の世界。そこには呪われし秘宝「メガリス」があちらこちらに眠っている。触れて力に目覚めれば覚醒者として島の統治を行う海賊へ。けれど死んでしまえば、全てを滅ぼそうとするコンキスタドールとなり果てる。
 その性質を利用したのが「メガリスの試練」。大きな力を手に入れる事が出来る危険な賭け。秘宝を手に入れることが出来た海賊達は、まだ未覚醒の部下達にその試練を挑ませる。
 そして此度その賭けに――その男は負けたのだ。
「コンキスタドールへと成ってしまった方は、ご自身の島があまりお好きでなかったようなのです」
 キディ・ナシュ(未知・f00998)が予知を見た彼らのいる島は、元はダークセイヴァーから落ちてきたものだという。晴れぬ暗闇で生きてきた彼らの目に映る、朝日の輝きはどれ程までに美しかったのか。かつての先祖に尋ねることは出来ぬとて、今なお残る風習がそれを物語っていた。
 一日の始まりに白む空へ、祈りを捧げる。
 なんて事のない日々の幕開けは、それを手に入れることが出来なかった者達にとっては変え難い宝物。暗闇ばかりの日々が、もう関わりのない遠い世界のことになったとしても、語り継いできた。
 けれどいくら想ったところで、やがて薄れてくるのは仕方のないこと。この世界では日は当たり前に登って、当たり前のように沈んでいく。目の前に当然のようにあるものを受け取り続ければ、それをつまらないものだと思ってしまう。
 今回、魔獣へ成り果てたその男もそうだったのだろう。
 変貌した彼は巨大な魚を引き連れ、まだ星夜の内に祈りの場たる浜辺へと姿を表す。御伽噺に聞いた暗闇こそが己だと、島を滅ぼす一つの災害としてその力を振り下ろす。
 海賊達が掟に従い、試練に負けた彼を倒そうとも力は及ばず。美しい砂浜は赤い血に染まり、破壊尽くされることだろう。
 最後には島そのものを呑み込んで、当たり前は呆気なく消えてしまう。
 だからそうなる前に彼を倒してきて欲しい。今から向かえば、丁度海賊達が殺されてしまう前に着くはずだ。浅瀬での戦闘は足場が多少悪いが、数多の冒険を潜り抜けた皆さまならば大丈夫でしょう、と人形の少女は明るく笑う。
「それで無事に終わったなら――朝日を見に行きませんか」
 何年も、何百年も。飽きるほどに繰り返されたとて、不変たる陽の輝き。
 一日の始まりに。
 夜の終わりに。
 ゆっくりと、けれど確かに空の色を変えゆく。その煌めきを見に行こう。
「あと、浜辺近くの屋台で魚介スープか、そのお出汁で炊いたリゾットが売られているそうです。それが島での朝ごはんの定番だとか!」
 ぱちぱち目が覚める弾ける炭酸のレモンスカッシュも添えれば完璧だと言う少女の声は、どちらかと言えば食欲旺盛の方に傾いているかもしれないけれど。

 穏やかに変わって行く空の色。
 尊い光は、きっと誰もを照らして行くものだから。
「それでは皆さま、行きましょう――変わらぬ朝日を迎える為に」

●夜明け前
 海賊達が小舟に掲げた篝火が、辺りを明るく照らす。
 沈みゆく月を背に、迎えるは浅瀬をものともせずに泳ぎ暴れる魚達。
 響くは悲鳴と剣劇。
 漂うは悲愴と諦念。

 空にはちらちらと瞬く星々が、まだ明けぬ夜の帳へとぶら下がり。
 祈りの朝は、まだ少しばかり遠くへあった。





第3章 日常 『浜辺のひと時』

POW砂浜を歩く
SPD貝殻拾いをする
WIZ友と語らいあう
👑5

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。