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滴水成氷エンドウィル

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#アックス&ウィザーズ
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#戦後


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●It's always darkest before the dawn
 樹が、凍り付いている。
 白色に染まった枝に雪が積もり、そこから透明な氷のつららが垂れ下がる。
 氷の向こうに見えるのは暗い夜の色。青とも黒とも言えぬ、人に畏怖と安寧を齎す色。
 白く凍った森を夜の黒が蝕む。そこは人の命を拒む世界だった。
「うぅっ……グスッ……」
 そこに少女の泣き声が微かに響いた。誰にも届かず、今にも消えてしまいそうな声だ。
 声は複数あった。一人が泣き出せばそれが伝播し、恐ろしい光景に、痛ましい冷たさに、次々と涙がこぼれ落ちる。
 ――そこに、獣の高い遠吠えが響いてきた。
 少女たちはひっと喉を鳴らす。そして、獣に聞こえぬようにと声を抑えて泣くのだ。
「……大丈夫。大丈夫よ、みんな……」
 震える声でそう話したのは、栗色の髪を防寒具のフードで覆い、大きなリュックを背負った少女だ。
 周りにいる数名の少女達より幾らか年上の彼女は、何とか勇気を振り絞る。
「きっと今頃、捜索依頼が出ているわ。大丈夫。大丈夫……」
 しかしその勇気は、絶望に閉ざされた少女たちにとっては余りに暗い篝火であった。
 静かな泣き声が聞こえる。夜明けはまだ遠い。

●Nothing venture, nothing save
 グリモアベースにて。黒髪をポニーテールにまとめた少女、白神杏華は慌てた様子で猟兵たちを集めた。
「皆、お疲れ様。今回はアックス&ウィザーズで、緊急の依頼だよ」
 アックス&ウィザーズといえば、先の帝竜戦役の記憶も新しい世界である。
 オブリビオンフォーミュラである帝竜ヴァルギリオスは群竜大陸に倒れ、今や平和を取り戻した世界だ。
 喫緊の事態などはあまり起こらなくなった筈であるが……。
「……ある村で祭りの準備が行われてたんだ。その祭りでは、新しく成人を迎える女性のために花冠が送られるらしいの」
 しかし、その村の付近には冠を作れるほどの潤沢な花が存在しない。
 その為、例年村の少女たちが大人と共に少し遠出をして、馬車でしばらく走った先のアストレイ山の麓にある花畑で花を摘むのだ。
「だけど今回、その花を摘むために山に向かった子の中で、運悪くはぐれちゃった子たちがいたみたいなの」
 彼女らを探して大人たちは山を捜索した。
 しかし少女たちは見つからず、山の深くまで入っていってしまったのだと結論付けられる。
 さらに運の悪いことに、その山は現在、危険な獣「ナーガクーガ」の目撃情報がある山でもあったのだ。
 ナーガクーガは大の大人や冒険者が戦っても苦戦させられる獰猛な獣――とされているが、その実態はオブリビオンである。
 当然それが住み着く山に捜索に行くには、相応の準備や狩りの腕が必要となる。
 それは、平和な村に住まう彼らには到底用意できないものでもあった。
 村人たちはすぐに最寄りの冒険者ギルドに依頼を張り出したが、ナーガクーガと聞いてすぐに腰を上げる冒険者はそう多くはない。
 この依頼が受託される頃には、すでに少女たちは息絶えているだろう。そこで、猟兵の出番だ。

「皆には、この山に迷い込んだ子たちを保護して、周辺に生息するナーガクーガを討伐してほしいの」
 少女たちは現在、アストレイ山の五合目にあたる「エンドウィル氷樹林」に逃げ込んでいる。
 その氷樹林は特殊な磁場に包まれており、ワープなどの空間を移動する能力を阻害する。
 さらに林の気温は常に氷点下を下回り、ただそこにいるだけでも生存者たちの命を奪っていく場所だ。
 それらの条件が合わさり、猟兵たちは基本的に自分たちの力だけで少女を助け、そこから脱出する必要がある。
「……ただ運がいいことに、彼女たちがいるエンドウィル氷樹林は、その危険性からナーガクーガたちも近寄ることができない場所。
 だから皆の救助さえ間に合えば、彼女たちの命を救うことはできる」
 無論、氷樹林は危険な場所だ。あまり長時間滞在すれば、猟兵であってもその身に危険が迫りかねない。
 ゆえに、一度に一人で全員を逃がそうとするようなことはやめたほうがいいだろう。
「こんなところかな。現場に直接は送れないけど、その近くまで皆を転送するよ!」
 くれぐれも気を付けてね、と杏華は念を押し、グリモアによる転送を開始した。


玄野久三郎
 玄野久三郎です。オープニングをご覧いただきありがとうございます。
 今回のシナリオでは、危険極まる氷の森から少女たちを救出するシナリオになります。
 罪なき少女たちを守り抜き、無事に村に送り届けることができるでしょうか。

 第一章は氷の森で少女たちを救出していただきます。彼女たちを勇気づける言葉をかけてあげても良いでしょう。
 第二章では周辺に生息するナーガクーガの討伐をしていただきます。
 少女たちを無事に逃がすためには、ナーガクーガを撃破しなければなりません。
 第三章は、少女たちのいた村の祭りに参加していただきます。成人の祭りですので、成人を迎えた方は祭りの主役として祝われることもあるでしょう。
 また、呼べばグリモア猟兵の白神・杏華も現れます。

 プレイング受付開始は断章公開からシステム的に受付停止になるまでとなります。ただしド深夜の送信はできればお控えください。寝てるからね。
 それでは、皆さんの熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『氷の森の救出作戦』

POW   :    寒さに耐えながら少女達を抱えてひたすら走る!

SPD   :    長時間居たら凍りついてしまう!高速で少女達を救出する

WIZ   :    魔法や道具の力で効率よく少女達を外へ逃がす

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Where there is a will, there is a way
 転移した先は夜の森だ。道を照らすのは月明かりのみ。
 短い草が生い茂り、土の匂いが吹いてくる。
 背の高い樹が視界を妨げる中、それでも猟兵たちは、件のエンドウィル氷樹林の方角が分かった。
 ある一方向の気温が極端に冷えている、と皮膚感覚が教えてくれた。
 そちらの方向に歩を進めれば、黒いばかりだった森の中に白色が混じり始める。
 それは光の粒。あまりの低温に空気が凍り付き、粒となって辺りに漂っている氷だ。
 ダイヤモンドダストと呼ばれるその現象は、美しさに反して、生命に試練を与える厳しい寒さの象徴であった。

 木々は白く凍り付き、あちらこちらに透明な氷が張り付いている。
 息を吸い込めば、内臓の芯まで凍り付くような寒さだ。
 長居することは不可能。早急に少女たちを見つけ出し保護しなければ、犠牲となるのは猟兵たちのほうだろう。
 猟兵たちの、少女たちを救う探索が始まる。
緋翠・華乃音
夜が更ければ気温はより低下する。
天候も崩れる可能性がある以上、あまり時間は掛けられないな。

月明かり程度の光源でも視界の確保に問題は無いが、助けに来ていることを救助者に知らせる為にもライトくらいは持っていこうか。

雪が微かにでも積もっているなら足跡が残っている筈だ。
音を鳴らしたその反響波から地形を立体的に把握し、効率的に捜索を進めよう。

研ぎ澄まされた視覚と聴覚、鋭敏な直感を惜しみなく用いる。
発見した女性が寒さに弱っているのなら、UCを使って適当なものを燃やし暖める。



●Go through fire and winter
 息を吸うと、氷よりもなお冷たいであろうその感覚が肺に流れる。
 息を吐くと白い煙となり、それらがカリ、と小さな音を立てた。
 それを聴き、緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は自分の立つ場所の危険性を察する。
(星の囁き、か)
 極度の低温環境においては、人の吐く息は瞬時に凍りつき、それぞれが氷の粒となる。
 それらが空中で打ち合わされ、吐いた者にのみ聞き取れるような微かな音を立てるのだ。
 その現象を、人々は「星の囁き」と呼ぶ。無論、到底歓迎できるものではない。
 夜が更ければここからさらに気温は低下する。
 ここが山である以上、急激な天候の変化が起きる可能性もある。
 それらの観点から、時間をかけるのは得策ではないと華乃音は判断した。
(さて……とにかく急ごう)
 彼は懐中電灯を取り出し、灯りをつけた。一筋の光が白銀の世界を眩く照らす。

 光の奥では何かが渦巻いて見えた。雪の欠片なのか、氷の粒なのか、そういったものが空気中を舞っている。
 彼が足元を照らすと、風で流されかけているが、足跡らしきものを発見することができた。
 それは少女たちの発見に至るか細い希望の道だ。
 こんな時でも。いや、こんな時だからこそ、華乃音の視覚能力は強く働く。
(こっちか……)
 複数の足跡が続く先。時折消えてはまた現れる道標を辿り、華乃音は懸命に足を動かす。
 全身をくまなく蝕む寒気は、もはやこの環境での活動時間が長くないことを示している。
(頼む、間に合え……)
 半ば祈るように、彼は懐中電灯をちらつかせた。その先に、樹でも氷でもない影が映り込む。

「だ、誰……!?」
 驚きと歓喜が入り混じった声だ。華乃音は足を早め、声の方向に向かう。
 その先に広場があった。樹に囲まれたそこはある程度の風を防ぐ場所だ。ここでなら、生存の時間を伸ばすこともできるだろう。
「安心してくれ。助けに来た」
 それを聞くと、少女たちの表情が綻んだ。しかし声を上げて喜ぶような体力はもう無いと見え、森は未だ静まり返ったままだ。
(このままじゃ動かすのも危険か)
 ここから彼女たちを移動させ、安全な地帯まで連れ出すのは難しく思えた。
 彼女たちは防寒具を身に着けてはいるが、当然この極寒の空間においては不十分な装備。
 広場にいくつか残る炎の痕を見るに、何度か火を焚いて体力を温存していたのだろう。
 華乃音は瑠璃色の蝶を呼び出した。同時に手頃な枝を近くの木から折ると、そこに付いた雪や氷を払い、広場の中心に投げる。
「よく見ていろ」
 簡素な言い方だが、そこには彼なりの思いが込められていた。
 積み上げられた枝に、蝶が飛び込む。薄暗い中でキラキラと光っていた瑠璃が消え、暫くすると、空の星をそのまま写したような瑠璃色の炎がそこに灯る。
「わぁ……!」
 幻想的な風景、そして数十分ぶりであろう暖かな感触。少女たちの体力が僅かに回復する。
 天に登る炎と空の色は同じであった。華乃音自身も自らの手を暖めながら、天から垂れる糸のようなそれを見るともなく見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・ひかる
これは……氷の精霊さんにお願いすれば何とかなるレベルを超えていますね。
迂闊な行動をしたら、わたしと精霊さん達でも危なそうです。
慎重に、考えていかないと……

まず周辺一帯の風の精霊さんに呼びかけ、お願いを行う
内容は「空気の停滞」、即ち風が吹かないようにすること
熱媒となる空気の攪拌さえ起きなければ、気温が低くても体温を奪われ凍死する危険性はぐっと低くなるはず

その上で【草木の精霊さん】発動
現在地から氷樹林、可能なら少女たちの所まで、樹木によるできる限り一本道の迷路を作る
これはわたしたちが迷わない以上に、少女たちを励ますためのもの
帰るための「道」を示す事ができれば、それは絶望を切り拓く「希望」足りえます


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

冗談抜きに一刻を争う事態じゃない…寒いのは嫌いとか言ってられる状況じゃなさそうねぇ。

ミッドナイトレースに○騎乗しつつゴールドシーンにお願いしてカノ(炎熱)とエオロー(結界)で〇氷結耐性の〇オーラ防御を展開、さらにラド(車輪・探索)であたしとミッドナイトレースを同時強化。
…温存してる場合じゃないか。●要殺と●轢殺を同時展開、速度と探索効率を両立させるわぁ。
情報量で頭痛くなるしものすごぉく疲れるから普段はやらないんだけど…今回ばっかりはそんなこと言ってられないし。後の事は後で考えましょ。

安心してちょうだいな。
あたしたちが来たんだもの、「もう大丈夫」よぉ?



●A journey of a thousand miles begins with a single step
 進めば進むほどに冷えていく。
 そろそろ温度も下限だろう、と何度予想したかもわからない。
 気付けばそこは、自然の精霊と心を通わす荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)ですら危険を感じるほどの領域に達していた。
「これは……氷の精霊さんにお願いすれば何とかなるレベルを超えていますね」
 さすがにひかると契約する氷の精霊自体はこの環境においても問題なく活動できている。
 だがそれ以外の精霊は皆力を失っていた。ここは自然の命をも拒絶する場所なのだ。
(迂闊な行動をしたら、わたしと精霊さん達でも危なそう……)
 長期間の滞在は不可能。即ち、この少女たちの救出には、少女たちの命のタイムリミットだけでなく、ひかる達自身の命にも制限が設けられているのであった。

「……寒いのは嫌い、とか言ってられる状況じゃなさそうねぇ」
 その緊急性は、無論ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)にも伝わっている。
 救出までにかかるあらゆる時間や危険は排除して進まなければならない。
 そう判断し、彼女はバイク型のUFO『ミッドナイトレース』に騎乗した。
 果てなき暗闇を、UFOの表面に走るネオン色が僅かばかり照らす。
 さらに、彼女はその愛機の表面を指で撫で、三文字のルーン文字を刻み込む。
 炎熱を意味するエオ、結界を意味するエオロー、車両を意味するラド。
 これらはミッドナイトレースに「意味」を刻み、その力を喚起する。
 加えて、ユーベルコード二種の併用によるティオレンシア自身の動体視力、運転能力、その他感知能力の大幅な強化。
 これらにより、彼女はまさに走る情報収集機と化した。
 今の彼女なら例え音に迫る速度の中で走っても、視界の端の微かな脈動すら見逃さないだろう。

 だがこれだけの強化には勿論相応の代償が付き纏う。
 大量の情報を処理し、なおかつ繊細な運転を求められる。超一流を二人分動かせば、人間の脳は悲鳴を上げる。
(でも、そんなこと言ってられないわねぇ)
 悲鳴など上げたければ上げればいい。命を落とそうとしている少女たちがいるのだ。
 どんな苦しみも噛み殺し、前に進む。そうするだけの理由がこの救出にはあった。
「乗って」
「はい、失礼します」
 バイクの背にひかるが座る。機体の周囲は結界によって幾らかの温度があったが、それでも身を刺すような寒さに衰えはない。
 バイクが走り出す。景色が高速で流れ、二人の進む先で植物が皆ひとりでに避けていく。
「これは……」
「草木の精霊さんの力です。ホントだったら、子どもたちの所まで一直線の道を作ってくれるくらいすごい精霊さんなんですけど……」
 極低温の環境では植物は力を失う。今は彼女たちが通った道を示すだけで精一杯だ。
 しかし、それだけとはいえ、その効果は大きい。
 一度通った道が草木によって示されれば、この樹林においてどこを通り、どこを通っていないかが克明にわかる。
 そうなれば、ティオレンシアはさらに効率的に脳を行使し、遭難者を探すことができるのだ。
「助かるわぁ。これなら子どもたちを見つけるのも、そう難しくは……」
 と、言いかけてティオレンシアはブレーキを踏んだ。車輪が雪の上を滑る。
「どうしたんですか?」
「見つけたわ……!」
 ティオレンシアは車体の向きを変え、さらに速度を上げてバイクを走らせた。
 常人であれば見逃していたであろうもの。少女たちの燃やした焚き火の煙を視認し、ティオレンシアは急ぐ。

「あ……! ぼ、冒険者さん……!?」
 そこには少女たちが座っていた。辺りは雪と樹に閉ざされ、彼女たちは唯一の希望に眩いばかりの眼差しを向ける。
「はい、冒険者ですよ。あなた達を助けに来ました」
 ひかるが淀みなく答える。そこにティオレンシアも続く。
「安心してちょうだいな。あたしたちが来たんだもの、『もう大丈夫』よぉ?」
 少女たちは幾分か体力を取り戻してはいたものの、未だ歓声をあげるほどの元気はない。
 だが、二人は感じていた。確かに少女たちは安堵し、二人に信頼を向けていると。
 ひかるは風の精霊に呼びかけ、この氷樹林を吹く風の一切を凪がせた。
 この森では、風はそのまま身を凍てつかせる冷風となり、体温を奪う天災となる。
 一度に全員を連れ出すことができない以上、待機することになる少女の危険は少しでも排除したい。
「安全のために、みんなの中から少しずつここから避難します。今……一番体力を消耗している子は?」
 ひかるがそう尋ねるも、少女たちは互いに顔を見合わせ、名乗り出る様子はない。
 そんな中、栗色の髪の少女が静かに手を上げた。他の子どもより僅かに年上のようだ。
「この中で一番小さなハンナと、病気があるエルザです。二人を先に避難させてあげてください」
 その言葉に、少女たちは静かに頷いた。彼女らの視線がハンナとエルザを照らし出す。
「わかったわぁ、それじゃ二人とも、行きましょう」
「エイミお姉ちゃん……」
 ハンナとエルザはバイクに乗せられながら、不安げに残された少女たちを見る。
 実際のところ、不安なのはここにいる皆が一緒だ。果たして生きて帰れるのか。無事に全員で戻れるのか。
「大丈夫です。あれを見て」
 そんな少女たちに、ひかるは元来た道を指差す。
 そこには、低い草が作った絨毯のような道があった。木々がその傍らに立ち並ぶ。
「出口までの道はもうあります。もう少しの辛抱です」
 それはまさしく精霊の通り道。生還の道を真っ直ぐに示したそれは、少女たちの心により強い希望をもたらした。
「それじゃ、掴まっててねぇ」
 ティオレンシアは再びバイクで来た道を戻った。無風の氷樹林は不気味なほどの静けさを湛え、彼女たちを見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

禍災・火継
小鳥遊・木蔭(f28585)と

私は勇気づけるとか、元気づけるとか、うまくできないと思うから、それは木蔭に任せるわ。UCで人手を稼ぐ、とはいかないけど私が探し回るよりも探させた方がいいかな。まぁ、不気味な姿だから子供たちが見たらびっくりするだろうけど、その声で探しやすくなるかもしれないし……。

見つけたところでたぶん防寒対策が十分じゃないだろうから、私の着ていたものでもいいから貸してあげましょう。私は神器みたいなものだから多少は平気だし。あとは私が警戒に回ったほうがいいかな。


小鳥遊・木蔭
禍災・火継(f28074)と行くぜ

いや、言っておくがオレもそんな向いてないと思うんだが。まぁ、お前よりマシか。……こういう時にもうちょっとオレもいろいろ魔法使えたらよかったと思うな、補助とかそういうの、苦手なんだよね。
とりあえず、鎖を張り巡らせておくか、これで簡単に道筋をつくっとけば帰りも楽だし、なんかが触ったらある程度はわかるようになる。

見つけたところで、待ってろ……とりあえず弱ってる奴からだな。木とか使えそうなもんを組み合わせて鎖で固定して、ソリみたいなもんを作ってそこに乗っけよう。オレが引っ張ってく。
他のりょうへ、あー冒険者のほうがいいか?も来るからよ、安心してろよ



●More haste,less speed
「さ、寒いな……!」
 周囲の雪の色と同じ白で、小鳥遊・木蔭(楔の魔法少女・f28585)の髪が震えた。
 木蔭は身体能力の強化を得意とする魔法少女だ。任意にその体を頑強に、頑健に変えることができる。
 しかし、そうした強化をもってしてもなおエンドウィルの寒気は突き刺さった。
 黒のドレスを抜け、紅のブーツを貫く冷たさが感覚を奪っていく。
「……大丈夫?」
 抑揚のない声で禍災・火継(残響音・f28074)が尋ねた。
 尋ねた彼女は分厚い防寒具を身に着けていたが、それも傍目から見れば十分とは言い難いものだ。
「こっちのセリフだっての。お前こそ大丈夫なのかよ」
「私は神器……みたいなものだから多少は平気。これくらいあれば十分よ」
 振り返った彼女の輪郭が不可思議にブレる。そこから分離したのはひとつの人影だ。
 それは氷樹林を包む夜の空と同じ暗い色をしていた。顔のない人型がゆっくりと歩き出す。
「あとはアレが歩き回って子どもたちを探してくれるわ」
「不気味だなぁ……」
 少女たちに見つかったら余計不安を煽らないだろうか、と木蔭は怪訝な目を向ける。
 対し、木蔭は周囲に鎖を巡らせた。接近するものに反応し、彼女と離れるにつれ解けて落ちる案内係だ。
 それぞれの方法で、彼女たちは遭難した少女たちを探す。
 ただ歩くだけでも体力を奪われ、思考が砕けそうになる寒さだ。
 もしも発見できない時間が長く続いた場合、一度帰還することも視野に入れなければならない。
 しかし、無論それはしたくない。氷を踏み砕く音、吐く息が凍る音が静かに続く。

「あ」
 沈黙を破ったのは火継だった。彼女は突如木蔭の手を引き、進路を変える。
 冷えきった手だが、それでも人の手だ。空気と比較にならないほどの熱を感じ、木蔭はついていく。
「どうした?」
「見つけた」
 迷いなく進む火継は、離れた位置にある人影の視界を見ていた。
 目的地らしき方に近付くにつれ、微かな話し声が耳に届き始める。
 遭難した少女たちだ。既に他の猟兵によって二人が保護され、残る彼女らも救出を待つ身である。
「あ……あなた達も冒険者の方ですか?」
「うん」
 頷くだけでそれ以降の言葉を繋ごうとしない火継に少女がたじろいだ。彼女は気だるげに木蔭の方をちらりと見る。
「私は勇気づけるとか、元気づけるとか、うまくできないと思うから、それは木蔭に任せるわ」
「いや、言っておくがオレもそんな向いてないと思うんだが……」
 だが今のまま火継に任せるよりはマシだろう、と木蔭が咳払いする。
「今から、できるだけここにいる奴らを運び出す。つっても、これから他のりょうへ……いや、冒険者か? それも来るから、安心してろよ」
「はい。待ってます」
 栗色の髪の少女が、少女たちの代弁をするように頷いた。
 とはいえ、その身体も大分冷え、もはや待っている子供たちの限界も近いだろう。
 すると、火継は徐ろに自らの着ているダウンを一枚脱ぎ、少女に着せた。
「ぼ、冒険者さん……!?」
「大丈夫。私より、あなたのほうが危ないから」
 脈拍の低下、血流の悪化。他の少女たちを守ろうとする彼女は、結果的に他の少女たちよりも危険な状態にあった。
「あ……ありがとう、ございます……!」
 自己犠牲の精神は決して褒められたものではない。火継は言葉には出さないが、そう示すように彼女の肩に手を置いた。

「……木蔭、できた?」
「あぁ。ちょっと冷たいと思うけど、もう少しの辛抱だ。我慢しろよ」
 木蔭は周囲の木を砕き、鎖で束ねたソリを作っていた。
 ソリによる運搬は運ぶ者、運ばれる者双方の体力を温存する。雪山での遭難時、そしてそこからの救助時によく使われる代物だ。
 本来ならば「魔法少女」らしく、傷や体力の回復、或いは補助などの魔法でも使いたいところではある。
 だが、木蔭の得意系統はそこにはない。無骨な身体強化だけが彼女の特色だ。
 故に、彼女はソリを引いた。三人の少女を乗せたソリが移動を始める。
 帰るべき道は、木蔭が残してきた鎖が示していた。
 警戒を絶やさぬ火継を傍らに、彼女とそのソリは氷樹林からの脱出の道を歩き出す。
 しかしその心に、森を掻き分け少女たちを探した時のような不安はない。
 救出は成った。出口は示されている。残された少女たちの居場所もわかる。
「……もう少しの辛抱、だな……」
 少女たちにかけた言葉を、木蔭は自身にも言い聞かせた。もう少し。完全な救出まで、もう少しだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハイドラ・モリアーティ
【M】
人助けのほうが人殺しより稼げる時代ってか
俺ァお嬢ちゃんたちをだいたい怖がらせるだけだろーしな
顔がよくてほどほどにモテそ~な知り合いって兄貴しかいねーんだわ
怖がりな乙女たちの王子様役、ヨロシクな

愛想振りまくのが苦手なンだよ。【SCHADENFREUDE】
――俺は「なぜか寒さを感じない」ってワケ。なんでだろォなァ。思い出せやしねーが
ご機嫌麗しゅう、氷まみれのシンデレラども
助けてやるよ。仕事なんでね――ああいけねえ、急に動かすと逆にケガすっかもな
兄貴、竜の姿になれなかったっけ?乗せてやってくれよ
俺は嫌なの。ブサイクだから竜の姿
あァ?お似合いだぜ兄貴
チョーイケてる。そんじゃ、ひとっ飛びつうことで


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【M】
さッむ……
長いこといたらこっちが先に冬眠しそうだ
どっちかっつーと怖がられてばっかでモテはしねえ……気がするけど
ま、他でもない可愛い妹の頼みだし
聞かない理由もねえな

己を呪詛に蝕ませ、感覚を鈍麻
これで動きに支障は出ないはずだ
さァ、助けに来たぞ、レディたち!
私たちが来たからには大丈夫だ
皆の命は保証する。ついて来てくれ

構わねえけど、ハイドラ、お前はやらねえの?
嫌だってんなら無理強いはしねえよ
起動術式、【怒りに燃えて蹲る者】
怖がられないよう小さめで
乗れるだけ乗ってくれ
すぐに飛ぶから――大丈夫!怖くないぞレディたち!
安全運転で行くから!な!(必死)
……これじゃ王子様ってより
姫様を攫う悪いドラゴンだな



●Frost on snow
 乱れた世にあっては、世を乱す者に富が与えられる。
 しかし平和な世にあっては、平和を維持する者に富が与えられる。
 社会の性とでも言うべきか、そうした性質はどこにでも共通のものだ。
 平和な世界に分類されるこのA&Wでは人々の救済者――つまり冒険者が重宝された。
 ハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)は優秀な殺人鬼だが、合理的だ。
 故に、この世界での殺しが大した銭にならず、むしろ己の首を絞めるものでしかないと知っていた。
「だが、まァ……俺だけで行ったって、お嬢ちゃんたちをだいたい怖がらせるだけだろーしな」
「そうか? 可愛いと思うんだが……」
「あァそうかい」
 いつもの事ながら自分贔屓な兄――ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の言葉を軽く流し、ハイドラは深く息を吐いた。
 そんな溜息が、凍り付いた粒となって飛散していく。
 想像以上の氷点下に、ハイドラは己の指先を見た。まだその皮膚の色に変化は見られない。
「顔がよくてほどほどにモテそ~な知り合いって兄貴しかいねーんだわ。
 怖がりな乙女たちの王子様役、ヨロシクな」
「おう、任せろ!」
 どちらかと言うと自分も怖がられる側の存在だが……と彼は思考し、すぐに消す。
 竜――つまり爬虫類に近い生態を持つニルズヘッグには危険な環境だが、それも考えない。
 何故なら、これも可愛い妹の頼みだからだ。聞かない理由は存在しなかった。

「さて……進むか」
 ハイドラとニルズヘッグが起動させた奇跡の力は、奇しくも似たようなものであった。
 片や記憶を犠牲に感覚を捨て、寒さも、その耐性の理由をも忘れ去る。
 片や自らの体に呪詛を巡らし、寒さを含めた触覚を鈍麻させる。
「ハイドラ、大丈夫か? 寒くないか? 凍らないか?」
「凍りはしねえだろ」
「そうか……冬眠もしない?」
「それはアンタだけだろ」
 ハラハラと自分を見つめるニルズヘッグを雑に扱いながら、ハイドラは油断なく自らの指先を見つめ続けて歩く。
(凍りはしねえっつったが、この温度。なんならマジで凍るな)
 寒さを無視して素早く動く。冷たさを忘れて震えを止める。
 そこまではできても、寒冷に完全な耐性を手に入れたわけではない。誤魔化せるのは時間制限付きだ。
 指先に白色や黒色の凍傷……その兆候が見えれば黄色信号。引き上げるべきタイミングだろう。
 そう考えながら、ハイドラは他の冒険者が残した痕跡を辿る。
 既に二度の避難が行われている。残る少女たちはそう多くなく、残る時間もそう長くない。

「……ご機嫌麗しゅう、氷まみれのシンデレラども」
「さァ、助けに来たぞ、レディたち!」
 少女たちを見つけた時のその振る舞いは真逆であった。
 ハイドラは面倒そうに、対してニルズヘッグは楽しげに。
 再び現れた冒険者の救助に、残る五名の少女たちが沸き立った。
「私たちが来たからには大丈夫だ。皆の命は保証する。ついて来てくれ」
 早速ニルズヘッグは少女たちを出口まで案内しようと手を伸ばす。
 しかし、一人の少女が立ち上がると同時にその場に転けた。
「どうした?」
「ご、ごめんなさい……足が、痺れて……」
(凍傷か)
 まさしく警戒した通りだ、とハイドラはニルズヘッグを手で制す。
「急に動かすと逆にケガする。見ての通り、歩けない奴もいる」
 さてどうするか、とハイドラは思案する。そこにある記憶が舞い込んだ。
「兄貴、確か竜の姿になれなかったっけ? 乗せてやってくれよ」
「お? あァ、構わねえけど、ハイドラ、お前はやらねえの?」
「俺は嫌なの。ブサイクだから竜の姿。それに子供五人くらい兄貴一人で運べるだろ?」
「そりゃまァ、そうだな。嫌だってんなら無理強いはしねえよ」
 ニルズヘッグが胸に手を添える。その目が黒く染まり、牙が鋭く伸びる。
 それは「変身」というよりは「変身解除」であった。彼は真の姿、黒い邪竜へと変じていく。
「ひっ……!」
「あぁー、大丈夫! 怖くない! 怖くないぞレディたち!」
 その姿は物語に語られる悪しき蛇竜そのものであり、少女たちを怯えさせるには十分であった。
 何とか人間の時と同様明るく無害な声を試み、彼は剥き出しの牙を口内にしまう。
「さァ、背中に乗ってくれ。みんな順番にな。怖くないぞ……!」
「うぅ……ゴツゴツする……」
「それは……すまん……!」
 ニルズヘッグは五人の少女が背に乗ったのを確認すると、大きな翼を広げた。
 風圧が風を散らす。そこに含まれる氷の粒が、シャラシャラと音を立てる。
「……これじゃ王子様ってより姫様を攫う悪いドラゴンだな」
「あァ? いいじゃねぇか、お似合いだぜ兄貴。チョーイケてる」
「そうか……ならいいが……」
「背中のこいつらは落ちないように見張っとく。そんじゃ、ひとっ飛びつうことで」
「おう。お前もしっかり捕まっておけよ!」
 ニルズヘッグの翼が風を掴んだ。翼膜越しに感じる冷たさは羽ばたくごとに強く感じる。
 空高く舞い上がれば、氷の樹を抜け、月の明かりがはっきりと見えた。
 温度はぐんぐん上昇し、やがて氷点下を抜ける。懐かしい暖かさが戻ってくる。
 雲が多いが、それでもなお隠れない大きく明るい月。
 温かくはないが、凍えさせるでもない。そんな光が、生還した蛇竜とその背の少女たちを照らし出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ナーガクーガ』

POW   :    飛びかかる影
【不意打ちの飛びかかり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【輝く牙による食い千切り攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    激昂
【怒りの咆哮を上げて威嚇する】事で【興奮状態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    集団防衛
【強敵の出現を知らせる警戒の咆哮】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Shot in the dark
 どこかから悲鳴が響いた。
 エンドウィル氷樹林から抜け、寒気も収まってきた頃。
 白ばかりだった景色が黒と青に絆されてきた頃。
「あ、あれ……!」
 一人の少女が闇を指差す。その先で、何かが素早く横切った。

 影を纏い、夜と同化して、獣が群れを成している。
 草を分ける音、喉から発される唸り声がその獣――ナーガクーガの存在を示していた。
 それが一体どれだけ潜んでいるのか、窺い知ることはできない。
 だが、確実なことがただ一つ。
 この獣を倒さなければ、少女たちを無事に村に送り届けることはできないということだ。
ハイドラ・モリアーティ
【M】
オイオイオイ、くそめんどくせーな
こいつぁ困っちまったな兄貴。うまいことあぶりだせたりしねェ?
いんや、なんかできそーだなって思ってよ
獣っつーのは逃げたら追いかけてくるし、追ったら逃げるモンだろ
んじゃあ、兄貴がフィールドさえ作ってくれたら簡単かなって
――できんの?マジで?

冗談だろ
お姉様同等なことしやがる。ああ、くそ、湧き上がるぜ、恐怖っつうのが
視たくもねェ、クソ、あのロンドン塔だ
――いらねえ記憶だ。ハハ、いい気つけだよ
【ADDICTION】来い、ヒュドラ
出口に向かって走らされる獣どもが今日のごちそうだ
余すことなく、食らってやろうぜ、なあ!
獣に念仏なんぞ、要らねーよなァッ!!


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【M】
あー、想像以上に素早いな
私、足遅いんだよな……こういう奴は苦手だ……
――ん、どうした?
確かにそうか、私の国にしちまえば良いんだな!名案だぜ!流石ハイドラ!
おー。出来るぞ。ちょっと危ないから、レディたちと一緒に下がっててくれな!

そういうわけだ
私の妹には爪の一つたりとも届けさせんよ
――現世失楽、【悪徳竜】
呼び起こす冷気の中に、我らが霧の街を映し出せ
冷気の届く範囲の全てが私の国だ
視界を失った暗闇の中で、どれほど足掻けるか、見ものだな

これで好きなようにやれるぜ、ハイドラ――
……?どうした?
動けないわけじゃないなら、まあ良い……か?
おー。全部お前の餌にしちまえよ
私は肉、苦手だしな



●In a fog
 影から影へ、素早く獣が飛び移る。
 己の気配を悟らせぬよう、己の位置をわからせぬよう。
 気づかれぬうちに包囲し、距離を狭め、獲物に少しずつ傷をつける。
 それが狩りだと、獣たちは心得ているのだ。撃破しやすく、一体で突出するものなど自然界には存在しない。
 なおかつ、今は少女たちという恰好の獲物と共にいるのだ。振り切るのも難しい。
 ニルズヘッグは竜を変じさせた黒槍を手に、二歩闇に向かって踏み込む。
 それに合わせて、獣が飛び退く音が聞こえた。彼我の距離は変わっていない。

「オイオイオイ、くそめんどくせーな」
 獣の反射を目の当たりにし、ハイドラが唸る。ニルズヘッグもまた肩を竦めた。
「あー、想像以上に素早いな。私、足遅いんだよな……こういう奴は苦手だ……」
 ハイドラは闇を睨みながら、複数の頭で思考する。
 ナーガクーガと追いかけっこに興じるのは危険だ。そうそう追いつけない。
 追い付いたとして、ここを離れるのなら少女たちを守るのが疎かになる。
 結局は、こちらから動くのは難しい。どうにかしてあちらに動いてもらわねばならない。
「こいつぁ困っちまったな兄貴。うまいことあぶりだせたりしねェ?」
「炙り出す?」
「あぁ、いんや……なんかできそーだなって思ってよ」
 獣とは逃げれば追い、追えば逃げるものだ。
 その条件下において、ナーガクーガに地の利がある今の状況はいかにも不味い。
 だが、その逃げ道が限られるならば。こちらに有利なフィールドを展開できるのなら、いくらか戦いやすくなるはずだ。
 そういう説明をすると、ニルズヘッグは嬉しそうにポンと手を打った。
「確かにそうか、私の国にしちまえば良いんだな! 名案だぜ! 流石ハイドラ!」
「――は? できんの? マジで?」
「おー。出来るぞ。ちょっと危ないから、レディたちと一緒に下がっててくれな!」

 さて、とニルズヘッグが一歩前に出る。彼が翼を広げると、辺りに霧が流れ始める。
 それはエンドウィルとは別種のものでありながら、それに似た冷気を湛えていた。
 霧の向こうに、建築物が見え始める。四本の塔を携えた建物だ。
 それはロンドンの風景。人類の進化のため、全てを犠牲にしようとした「霧」。
 誰が死に、誰が苦しんでも、進歩のために吐き出され続けた「霧」。
 悪徳を含んだそれは、ナーガクーガたちの視界を奪い混乱させる。
 ――ここはどこだ?
 ――なぜ闇が、こんなにも暗い?
 ――脱さなければ。ここから……!
 ナーガクーガたちの統制が崩れ、駆け出し始める。彼らが目指すのは出口。すなわち、二体の竜が待つ前方だ。
「これで好きなようにやれるぜ、ハイドラ――? どうした?」
 ニルズヘッグは、ハイドラが片目を押さえて俯いていることに気付く。どこか体調も悪そうだ。
「冗談だろ……お姉様同等なことしやがる」
 映し出されたロンドンの光景は、ハイドラにとって好ましくない記憶を思い起こさせた。
 霧の街に満ちる悪徳と狂気。それはかつて彼女に向けられたこともあるものであり、根底に根ざす恐怖だ。

 だが、それもいい気付けだ。ハイドラは奥歯を噛みしめる。
「……来い、ヒュドラ」
 体に刻まれたタトゥーがざわめく。それらは首の長い竜へと変わると、一斉に牙を剥いた。
「余すことなく、食らってやろうぜ、なあ! ――獣に念仏なんぞ、要らねーよなァッ!!」
 それは怒りをぶつけるようであり、恐怖を誤魔化すようでもあった。
 ともかく、ナーガクーガたちと多頭の蛇がぶつかり合う。ハイドラもまた、獣の腹部に爪を滑りこませる。
 夜の闇に血飛沫が舞い、霧はすべてを覆い隠す。獣の咆哮と、グチャリグチャリと肉の音が響き渡る。
「普通に動けるようで何よりだ! たくさん食べて大きくなるんだぞ!」
 私は肉苦手だしな。などと言いながら、ニルズヘッグはニコニコと眼前の凄惨な風景を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

禍災・火継
小鳥遊・木蔭(楔の魔法少女・f28585)と

やるわよ、木蔭。UCを起動して必要なら少女たちを守るために使うわ。
射線上に打ち込み動きを制限して、叩く。
木蔭がやりやすいように動くとしましょう。私は火力があんまりないからね…。

相手は獣、ならまぁ、人間っぽく戦いましょう


小鳥遊・木蔭
禍災・火継(残響音・f28074)と共闘する

護衛対象は火継に任せて、オレは脅威を全力で排除するとするかね!
ちょうどいいところに武器があるよなぁ、これは割と余談なんだが…衝撃を一番伝えあうのは同じ硬度の物質らしいぜ。だから、同種同士だと…試したことはないが、めちゃめちゃ痛いぜ!

っつーわけで適当な一匹に楔を打ち込み、ブン回す!
何度か遣ったらムリヤリ引き抜いて次の獲物を物色だな



● Killing two birds with one stone
 獣が唸る。
 彼らは元より、縄張りに入り込んだ少女たちを狙っていた者たちだ。
 獲物が、彼らの忌み嫌うエンドウィル氷樹林に入り込んだ。だから追うことはできなかった。
 旨そうな獲物を逃がして、腹を空かしていたのだ。その分ナーガクーガたちの飢えと怒りは強くなっている。
 獣が牙を咬み合わせた。しかしそんな威嚇も、二人の猟兵には通じない。

「やるわよ、木陰」
「おう!」
 火継が軽く手をかざすと、空中に幾本もの卒塔婆が浮かび上がる。
 それらは空中で円を描くと、幾何学上に組み合わさり、また離れていく。
 火継はまず二つ、小手調べとばかりにナーガクーガに卒塔婆を飛ばす。
 闇に向けて撃ち込まれた木板は空を切り、獣たちは軽く攻撃を躱す。
「こいつら、速いな……!」
 攻撃を躱したナーガクーガは、そのまま獲物である少女たちの元へと駆ける。
 しかし、踏み出した先。その鼻先に、天から降り来る卒塔婆が掠め、獣はすかさず飛び退いた。
「手出しはさせない……」
 さらに地面に突き刺さる卒塔婆がナーガクーガの逃げ道を塞ぐ。
 引いた先に追撃が。走った先に木板が迫り、獣はただ疲弊しながら逃げ惑う。
 それが人の知恵――誘導であると、気づくことなどできようはずもない。
「うらぁっ!」
 金属が擦れる音を立てながら、鎖が舞った。結びつけられた先端の楔がナーガクーガの一体に突き刺さる。
「ギャオオォォ――」
 楔から逃れようとするナーガクーガ。伸びる鎖の先端を握るのは木陰だ。
「おっと、そう簡単には逃げられないぜ?」
 木陰が鎖を上に振り上げると、ナーガクーガの足は地面から離れ、宙を舞う。
 重さをなくした獣の体を、木陰は振り回した。激しく空中を回転する獣は、やがて容赦なくほかの獣へとぶつけられた!
「ギャウンッ!」
 衝撃を最もよく伝えるのは同種の物質。同種の生物がそれにあたるかは定かではないが、ともかく、その衝撃は二体の獣を気絶させるのは十分だったようだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

緋翠・華乃音
どうやらこの獣は、自らが狩られる側だとは理解していないらしい。
退くなら命は奪わない――と、言ったところで通じる訳がないよな。


瑠璃の瞳は気配すら視覚として捉える異能。
冷たい意識が敵意や殺意を読み取り、行動や攻撃の兆候を把握。

武装は拳銃とダガーナイフ。
用いるべきは研ぎ澄まされた合理性。
最善を瞬時に選択する判断力。

敵の挙動を見切り、フェイントを刺すまでもなく虚を突いて反撃。
蝶の羽搏きのように。或いは暗殺者の機械的な殺戮のように。
手の内を読ませず変幻自在に戦闘を続ける。



●Pride will have fall
 獣とは獲物を狩るものだ。少なくとも、彼ら自身はそう認識している。
 特に、このナーガクーガなる獣たちは、周辺の生態系の頂点に立っている。
 獲物とは、追い詰め、肉を裂き、食らうものだ。ナーガクーガが恐れるのは、ただ冷気によって動けなくなること程度。
 だから、なのだろう。彼らは猟兵に痛手を負わされても引くことをしない。
 華乃音を視野にとらえても、それは変わらなかった。
 自分たちは捕食者なのだ。多少抵抗されたとしても、狩りを仕損じるはずがない。
 そんな過信から、ナーガクーガらは変わらぬ様子で狩りの距離感を維持していた。

「退くなら命は奪わない」
 無論、そう言ってみたところで、獣は退かない。
 華乃音は溜息を吐き、拳銃とナイフを構え闇の中を覗き込んだ。
 常人の目であれば、そこには何も映らない。闇と同化したナーガクーガは見切ることも難しい。
 しかし、華乃音が持つ瑠璃の瞳は常識を覆す。
 その目に映るのは光ではない。生物が発する、気配そのものだ。
 たとえそれが何者であろうとも、自らの気配を完全に消すことなどできはしない。
 暗闇の中に、複数の息遣いが浮かび上がった。獣の筋肉が動く。風が揺れる。
 彼はただそこに銃口を向けた。決して素早くはない動き。
 だが、自らが安全区域にいると思い込んでいるナーガクーガはその場から動かない。
 華乃音が引き金を引く。同時に火を噴いた銃口から弾丸が飛び出し、闇に潜むナーガクーガの頭蓋を抉り割った。

「グルアァッ……!」
 ひとつ、気配が消えた。
 それに応じ、周囲の気配が変わる。慌て、恐れ、散り散りになっていく。
 連携して初めて猟兵と並ぶ集団のオブリビオンだ。一度離散してしまえば、その力は脅威ではない。
「……そうか。仕方がないな」
 混乱した獣の中から、華乃音に向かって吠え猛りながら突撃してくる個体が一体いた。
 ナーガクーガはうまく自らの体表を闇に隠しながら、華乃音に迫った。
 しかしながら、その眼にはすでに――飛び掛かるよりも前から、獣の姿が映っている!
 彼は余裕をもってナーガクーガを出迎え、開いた口の中にダガーナイフの刃を押し込んだ。
 口内を通じて頭蓋を傷つけた刃。ゴボリと血を吹き、獣は脱力した。
「狩り続けていれば、狩られることもある。そんなこともわかっていなかったのか……」
 華乃音は冷たく、獣を見下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
あれがナーガクーガ……それも、結構な数のようですね。
ですが、わたしと精霊さん達なら、きっとやれます。

仲間には事前に作戦を説明しておく
まず付近に洞穴があればそこに全員で避難
無いのなら氷と大地の精霊さんにお願いして足元か岩肌に穴を掘り、そこへ避難
避難完了したなら精霊さん達にお願いして崩れないように強化してもらい、【本気の大地の精霊さん】発動
氷雪に覆われた大地が、僅かであれ鳴動すれば……そこに起きるのは全てを呑み込む「巨大雪崩」
山肌を総なめにする大質量の氷雪の奔流からは、如何に氷雪に適応した獣であれ逃れることは不可能でしょう

外の様子が落ち着いたら、皆でゆっくり外へ脱出です


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

さっきまでは環境が厳しかったから出てこなかっただけだもんねぇ。氷樹林抜けたらそりゃ出てくるか。
ほっといてもいいことないし、きっちり叩き潰しましょ。

ミッドナイトレースに○騎乗したままテイクオフ。この子はこんなナリでもUFOだもの、○空中戦ならこっちの領分よぉ?
まずは●圧殺で敵の機動力を殺しましょ。闇に紛れるって言ってもスタングレネードバラ撒けば影で場所は把握できるし、多少は動きも鈍るはず。あとは爪も牙も届かない高度から●轢殺で高速機動戦の釣瓶打ちねぇ。
イサ(停滞)・ソーン(障害)・ニイド(束縛)のルーンも併用すれば、味方への〇援護射撃にもなるでしょ。



●Providing is preventing
(さっきまでは、寒いから姿が見えなかっただけだもんねぇ。そりゃあ出てくるか)
 しかし、猟兵たちの攻撃により獣は徐々にその数を減らしていた。
 全容を把握することは難しいが、攻撃の鈍化からしてそれは明らかだった。
「これなら、さっき話した作戦が使えるかもしれません」
「やってみる価値はありそうねぇ」
 全体数が把握できなくとも、オブリビオンの一掃を図ることができる一手。
 ティオレンシアとひかるは、すでにある作戦を立てていた。その実行のため、ティオレンシアはバイクのハンドルを操る。
 すると、車輪が垂直回転する。空洞を地面に向けたバイクは、そのまま反重力によって空高くまで浮遊した。
「これでよし。もうこっちの領分よぉ」
 彼女の操るマシンはバイクであり、UFOでもある。空中飛行はお手の物だ。
 空中に飛んだティオレンシアに、ナーガクーガたちは成す術がない。ただ上を睨みながら吠えるだけだ。

 ならば、それはもういい。獣たちは思考を切り替えた。
 届かぬところにいる獲物よりも、手に届く獲物を確実に殺すのだ。少女たちとひかるを睨み、牙を剥く。
 無論、それは想定済みの動きである。
 ひかるは光の精霊を呼び出し、上空のティオレンシアはスタングレネードを取り出した。
「みんな、目を閉じていて!」
 ひかるがそう少女たちに呼びかける。次の瞬間――

 ――――。

 ――閃光と轟音がすべてを塗りつぶし、やがて世界が夜を思い出す。
 光が晴れたころ、既にそこにひかるの姿はなかった。ナーガクーガらは高い声で吠え、怒る。
「惚けてる場合じゃないわよぉ」
 乾いた破裂音が空気を叩く。リボルバー『オブシディアン』が火を噴き、獣に弾丸を叩きこんだ。
 ルーンの刻まれたその弾丸は、獣に突き刺さるとその魔力を発揮し始める。
 停滞・障害・束縛。それら三つの力が、獣から機動力を削いでいた。
 ティオレンシアは高速で飛行しながら、スタングレネードで把握したナーガクーガの位置に正確に弾丸を撃ち込んでいく。
 とはいえ、それまでだ。弾丸による攻撃は決定打に欠けていた。
 空中からの距離を取った射撃では、例え眉間に弾丸を埋め込んだとしても致命傷には至らないのだ。
 この方法で彼らを仕留めようとするならば、それこそ一や二時間では足りないだろう。

「……そろそろかしらぁ」
 ティオレンシアは、突如UFOの方向を転換すると同時に降下した。
 雪山を滑り走る。その先には洞穴があった。中にはひかると少女たちの姿がある。
「こっちです! いきますよ……!」
 ひかるが両手を組む。すると、どこかから低く響くような音が聞こえ始めた。
 それは段々と大きくなる。そして、音が実体を持つかのように、地面が、空間が揺れる。
 それはひかるに力を貸す大地の精霊の技である。地面を揺さぶる、それだけの力であっても、規模が大きくなればそれは天災となる。
「きゃああ〜!?」
「大丈夫。大丈夫です」
 ひかるは騒ぐ少女たちを落ち着かせようと、静かに微笑んだ。
「この洞穴は、大地の精霊さんが守ってくれてます」
 壁面は淡い光を放っていた。また、激しい揺れを感じるにもかかわらず、中に置かれた焚き火は少しも崩れない。
 大地とは、試練を与えるだけではない。人を守り、育むのもまた大地なのだ。
 ……地面の激しい揺れのあとは、再び轟音。波が迫ってくるような音だ。
 しかし、此度迫るのは海の波ではなく雪の波。
 激しい地震により、雪が滑り落ちたのだ。落下する雪崩は木を折り、岩を転がし、すべてを呑み込みながら山を降りてくる。
 それを見て、鳥は飛び立った。原生生物たちはみな避難した。滅びを感じさせるものに対して、彼らの感覚はひどく鋭敏だ。

 その中にあって、ナーガクーガたちは動けぬままであった。
 理由は単純。ティオレンシアが撃ち込んだルーンは、その場にナーガクーガたちを押し留めた。
 逃げることができない。ゆったりとした歩みしか行えぬ足で、彼らは雪崩から逃れようとする。
 だが、逃げきれるはずもない。一匹、また一匹と雪に飲み込まれる。
「オォォォ……アオオオォォォォ――ンン!」
 悲鳴のような咆哮が響く。……山が静まる頃、ナーガクーガたちの姿はどこにもなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『宴会をしよう』

POW   :    気合で食べ物を食べる。

SPD   :    速く食べ物を食べる。

WIZ   :    ゆっくりと食べ物を食べる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Have a narrow escape from death
「――本当に、ありがとうございます……!」
 翌日の朝。少女たちが住む村の長の老人が、猟兵たちに深々と頭を下げた。
 ナーガクーガの目撃に、エンドウィル氷樹林の自然の脅威。
 それらから、身を護る術のない少女たちが生還するのは不可能に近い。
 彼女らが生き残り、そして誰も欠けることなく五体満足に帰ってきたことは奇跡なのだ。

「このお礼は村を挙げて行わせていただきます。よろしければ、これより開催される成人の祭りにご参加ください」
 村では音楽が鳴り響き、奇跡を起こした冒険者たちの活躍を讃えている。
 屋台がいくつか並び、羊の肉を焼いたものや何かの料理の串があるようだ。
 村の中心に置かれた舞台では、成人を迎えた男女が祝詞を受けている。女性には花冠が与えられる。
 この祭りにどう参加するも自由だ。猟兵たちにはそれだけの権利がある。

 祭りが始まった。
ハイドラ・モリアーティ
【M】
――俺ァいいや
いや、さっきたらふく食ったからこれ以上食うと吐く
お姉様がたとは違って小食でね
俺に必要なのは、たばこと酒。これだけなんだよ
兄貴もそうじゃねえの。……ああ?草食……??
あーそう。……まあ、いいんじゃね?人間にも流行ってるらしいぜ、ベジタリアン

成人の祭りだとさ
兄貴今いくつだっけ。えっ いや
……思ったより上だなって思っただけだよ
ちげーって、そんな風に思ってねー
俺?21歳。今年で22あっというまに成人なんざ通り過ぎて――って、だああ、やめろ
絶対角に引っかかるから冠は乗せんなってば、やばいから!マジで!
酒だけくれりゃそれでいいよ。アー、畜生
こんな儲けは望んじゃいなかったんだがなぁ……。


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【M】
おー、料理も一杯だし、皆楽しそうで良いな!
ハイドラは?食わなくて良いのか?
そうかあ……じゃあ兄ちゃんの煙草を分けてやろう。遠慮しなくて良いんだぞ!
私?私は――ううん、草食なんだよ。こんな見た目だけどな
へー!そうなのか!
周りに肉好きな奴が多いから、人間は肉食なんだと思ってた

私は28だよ。丁度なったところ
……そんなに年相応に見えねえのかな……子供っぽい?
ハイドラは?あいつらの妹ってことは――
じゃあ実質二十歳だな!(暴論)(冠を頭に乗せようとする)
ええー。似合いそうなのになあ……
酒で良いのか?じゃあとびっきり良い奴を貰って来てやる!
ここで待ってろよ、知らない人についてくなよ、すぐ戻るからな!



●An apple a day keeps the doctor away
「おー、料理も一杯だし、皆楽しそうで良いな!」
 ニルズヘッグはそう無邪気な笑みとともに祭りを見つめていた。
 漂う肉の焼ける匂いに、彼は隣にいる妹の様子を伺う。
「ハイドラは? 食わなくていいのか?」
 そう問われ、どこか遠くを見る目で祭りの様子を眺めていたハイドラがあぁ、と呟く。
「――俺ァいいや」
「食欲不振か? 大丈夫か?」
「違ぇっつーの……いや、さっきたらふく食ったから、これ以上食うと吐く。
 お姉様がたとは違って小食でね」
 食べたのはオブリビオンのさして旨くもない肉だが、腹は膨れている。
 だから彼女が今欲しいのは、腹を満たす肉ではなく嗜好品の類だった。
「今の俺に必要なのは、たばこと酒。これだけなんだよ」
「そうかあ……じゃあ兄ちゃんの煙草を分けてやろう。遠慮しなくて良いんだぞ!」
「あぁ、どーも……」

 銘柄は……とチラリと確認する。が、何だろうとどうでもいいか、と一本取り出し咥えた。
 ニルズヘッグがそれにライターで着火する。
 火が煙草の筒を燃やし、やがてハイドラは溜め込んだ煙を吐き出した。
「フー……つーか、兄貴もそういう口じゃねぇの。肉に興味なさそうだけど」
「私?私は――ううん、草食なんだよ。こんな見た目だけどな」
「……ああ? 草食……??」
 ハイドラの頭を支配したその疑問は、彼の竜の姿を見たからこその疑問であった。
 ないだろ、どこが草食だよ。草食うんだったらあんなデカい牙も図体もいるか?
 だが、本人がそう主張し、そして実際に肉を食べないのなら、疑っても仕方がない。
「……あーそう。……まあ、いいんじゃね? 人間にも流行ってるらしいぜ、ベジタリアン」
 あれはあれで大分話が変わってくるが……或いは本質的には近いものかもしれない。
「へー! そうなのか! 周りに肉好きな奴が多いから、人間は肉食なんだと思ってた。草食もいるんだな!」
「肉食も草食もいるってことはつまり、雑食ってことだろ……」
「……ハイドラは頭いいな!」

 煙草を手に、ハイドラは村の中心で行われる儀式に近づいて見た。
 舞台で跪き、戴冠のように若い女性が少女から花冠を被せられている。
「成人の祭りだとさ。……兄貴今いくつだっけ」
「私は28だよ。丁度なったところ」
「え」
 ニルズヘッグはその反応に慣れているのか、ハイドラの反応からすべてを察し肩を落とす。
「……そんなに年相応に見えねえのかな……」
「えっ……いや……思ったより上だなって思っただけだよ」
「ホントか? 子供っぽいと思ってたりしないか?」
「ちげーって、そんな風に思ってねー」
 ならいいが、とニルズヘッグは一歩舞台に近付いた。お、アレはさっき背中に乗せた子だぞ! などと指を差す。
 舞台の上では、粛々と。かつ楽しげに、華やかな儀礼が進んでいた。

「ハイドラの歳は? あいつらの妹ってことは――」
「俺? 21歳。今年で22だ。あっというまに成人なんざ通り過ぎて――」
「じゃあ実質二十歳だな!」
「は?」
 ニルズヘッグはすぐさま舞台のほうに行くと、花冠を貰って戻ってくる。
 そして有無を言わさず、ハイドラの頭に被せようとした。彼女が全力で腕をつかみ、それを拒む。
「だああ、やめろ! 絶対角に引っかかるから冠は乗せんなってば、やばいから! マジで!」
「ええー。似合いそうなのになあ……」
 ニルズヘッグは不満げであったが、妹の抵抗に無理やり我を通すのは兄の行いではない。
 渋々といった様子で引き返し、苦笑する祭りの進行役に冠を返し戻ってきた。
「変なものいらねぇって。酒だけくれりゃいいっつーの」
「ん、酒で良いのか? じゃあとびっきり良い奴を貰って来てやる!」
 待ってろよ、知らない人についてくなよ、すぐ戻るからな! などと何度も念を押しながらニルズヘッグが離れていく。
(さっき俺の年齢の話をしたんだよな……?)
 そういう話でもないんだろうな、とハイドラは煙草を吸い、煙を吐いた。

(アー、畜生)
 こんな形のない儲けは望んじゃいなかったんだが。
 だが、金だ何だと話をするには、この光景はあまりに拍子抜けだ。
 求めれば金での支払いも拒みはしないだろう。どころか、それにも喜んで応じるはずだ。
 しかしそれはコストパフォーマンスが高いとはとても思えない。
 こんな田舎で流通する貨幣は価値が低いだろうし、払いきれない量を要求しても仕方ない。
 何より、そんなことをしてまでこの村から金をせしめる意味もない。
(……うまい酒を飲むのが一番の儲けか)
 結局、最終的にはそれに行きつくのだ。
 木製のジョッキを持って駆けてきたニルズヘッグの姿に、ハイドラは溜息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
【荒谷姉妹】

皆さん、今戻りました……わふっ!?
(姉に抱きしめられ)
ど、どうしたんですか姉さん?
ちょ、息苦し……ぷはっ!(胸元から脱出)
もう、姉さんの怪力でやられたら窒息しちゃいますよ?

姉さんが過保護なのは今に始まった事じゃないので、いつものことだと気にせずお祭りへ
そういえば、姉さんも今20歳ですからお祭りの主役じゃないですか?
と、いうことで……少しお花をわけてもらって花冠を作ってみました!
それじゃ、飛び入りになりますけど舞台に行きましょうっ!
大丈夫です、村の人たちにはお話通してありますからっ!

(舞台で花冠を姉に被せ)
姉さん、成人おめでとうございます!


荒谷・つかさ
【荒谷姉妹】

お疲れ様……皆無事に帰ってきて、何よりだわ。
……苦しかった?
ごめんね。ちょっと加減間違えたわ。

祭りの手伝い役兼用心棒として村で待機していたが、無事に戻ってきたひかるの姿を見て思わず強めに抱きしめる
言葉は落ち着いていても、心配でたまらなかった
以前見せられた死別の幻は、振り払ったとはいえ思いの外心の傷となったらしい
とはいえ自覚したら隠せる程度、以後は何でもないように振舞う

以後、ひかると二人で祭りを楽しむ
言われてみれば……私も祝われる対象なのかしら
って、ちょっと、引っ張らないでってば……
この押しの強さ、誰に似たんだか……ふふ、ありがとう。



●Blue bird comes
「皆さん、今戻りました」
 戦いは終わり、ひかるは平穏そのものの村へと帰還した。
 そこには極端な冷気も命を狙う獣もなく、暖かな陽射しと植物の生が繁っている。
 帰ってきた彼女を迎えたのは村人だけではない。そこには彼女の姉、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)も訪れていた。
「ひかる、お疲れ様……皆無事に帰ってきて、何よりだわ」
「あれ? 姉さ――わふっ!?」
 つかさはひかるに早歩きで近付くと、彼女を抱きしめた。
 その力は強く、ひかるはつかさの胸の中でもごもごと声を漏らす。
「ど、どうしたんですか姉さん? ちょっ、息苦し……」
 ひかるが離れようとしても、彼女は暫しその力を緩めなかった。
 ――触れれば反応し、抱きしめれば温かい妹がそこに生きている。
 その事実を確かめるように、つかさは力を込める。
 骨壷などではない、実体ある彼女のことをしかと確かめるため。かつてどこかで見た幻を振り払うように。

「……ぷはっ! もう、姉さんの怪力でやられたら窒息しちゃいますよ?」
「あら……苦しかった? ごめんね。ちょっと加減間違えたわ」
 一応つかさなりに加減したつもりではあったが、それでも妹にとっては強かったようだ。
 しかしひかるは気にした様子もなく、笑顔で姉の手を引く。
「そんなことより、この村では今日お祭りなんですよ。いっしょに行きましょう!」
「ええ。肉の屋台もあるらしいわね」
「それこそ加減してくださいね……」
 つかさもまた、生じた不安と安堵を穏やかな祭りの中に溶かしていった。
 そしてひかるは、姉が屋台中の肉を食い尽くしてしまわないようハラハラしながら見守っていた。幸い店じまいになる屋台はなかったようだ。

「あっ、そういえば!」
 村を歩くうち、ひかるが両手を合わせる。
「姉さんも今20歳ですからお祭りの主役じゃないですか?」
「あぁ……そういえば、そうね。言われてみれば……私も祝われる対象なのかしら」
 気付けば、もうそんなに時間が経っていたのかとつかさは思案した。
 妹を守るための力を求め、オブリビオンを屠り、日々を駆け抜けてきた。
 だからこうした節目であっても、殊更に気にするようなこともなかったが。
「だめです! こういうお祝いを大事にしないと、仕事人間になっちゃいますよ?」
 この場合は狩猟人間? などと考えつつ、ひかるはすぐに村の舞台に向かう。
 成人の儀を担当する村人はすぐさま彼女の提案を受け入れた。そして、ひかるは姉の手を舞台まで引いていく。
「それじゃ、飛び入りになりますけど舞台に行きましょうっ! こっちです!」
「って、ちょっと、引っ張らないでってば……」
 つかさは苦笑しながら、自らを引く弱い手の力に導かれた。
 ひかるがいつもこうして力強く進んでいくからこそ、つかさは不安にもなる。
 いつか自分の手の届かない先へ行ってしまわないかどうか。
 ……そうならないよう、彼女は妹の手を握った。

 あっという間に、つかさは舞台の上に立たされていた。その前には膝をつき座るひかるの姿。
「汝、荒谷つかさは、生まれ持つ肉体と魂とを保ち、二十という月日を跨ぎし者。
 その魂に穢れあらんことを、我ら父母の助けがあらんことを……」
 村人の女性がそう唱えると、ひかるにアイコンタクトを取る。
 彼女が一歩つかさに歩み寄る。その手には、彼女が急遽作った花冠が握られていた。
 ひかるがつかさの頭にそれを乗せる。植物の香りがする冠は、思いの外優しくつかさの頭に馴染んだ。
「姉さん、成人おめでとうございます!」
「もう、この押しの強さ、誰に似たんだか……ふふ、ありがとう」
 村の住人から拍手が送られた。新たな成人、というわけでもないが、つかさは成人の儀を経験したことになった。
 それは戦いばかりの日々の中、微かに生まれた休息の記憶である。
 いつの日か記憶を辿るとき――彼女に力と、守るべきものを思い出させるための。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小鳥遊・木蔭
【禍災火継と】
……なんかこういう雰囲気、あわねぇよなぁ。
昔はオレもこういうところで暮らしてたんだけど、なんだろうな
すげぇ、今更な気がするわ
でも、まぁ、いいことさ。なんにせよ無事に連れ帰れてよかった

…おい、火継。折角だし、こういうところでちゃんと持て成されるのも礼儀っちゃ礼儀だ。うまくやるためにもこういう時に覚えておけよ。
オレはいいんだよ、キャラじゃねぇんだから。


禍災・火継
【小鳥遊木蔭】と
成人、ね。大人になるってどんな感じなのかしら。
私には関係ないか。なんにせよ、めでたい席をめでたいままにできたことは、よかったのかしらね。

木蔭、なにやってるの?
……私は、ああいうの近寄ると白けさせるとおもうのよね、こんなだし。
礼儀、礼儀……そうかもね。ちゃんとするためには、参加すべきなのかしら。
でもほら、私一人だとたぶん向こうが困るから、ちゃんとあなたもついてきてよ。お目付け役なんでしょ、あなた。
手をつかんで引っ張ってでも連れて行くからね



●Once upon a time
 齢二十を迎える女性らに一通りの冠が送られ、成人の儀は終わりに差し掛かっていた。
 それでも、祭りの火は消えることはない。
 猟兵たちに救われた少女らも、思い思いに家族や友人と祭りに興じていた。
 いずれも、猟兵たちの活躍がなければ目にすることのできなかった光景であった。

「……なんかこういう雰囲気、あわねぇよなぁ」
 木陰は昔を思い出しながらそう独りごちた。
 昔は彼女も、こうした平和の中に生きる少女だった。家族がいて、同年代の友人がいた。
 しかし、今はもう違う。平和は遥か過去へと消え去り、遠く眩しい物を見つめるようだ。
「そうね、私も……得意な空気ではないわ」
 その感覚は、まったく同じではないが、火継もまた共有するものであった。
 もう何も覚えてはいないが、彼女にも平和に生きた時期があった。感情があり、記憶がある。存在する理由もある、そんな時期が。
 ――例え今もそうして生きていたなら、成人の儀というものに憧れもするのだろうか。
 今の彼女にとって、それは別世界のように薄く感じられる出来事だ。
 大人になる、という現象は通常の肉体と通常の精神を持つものに齎される。
 火継にはどちらもない。大人への成長というもの自体が、彼女とは関わりのないものなのだ。

 普通であった少女が普通でいられなくなったモノ。それが木陰であり、火継なのだ。
 少女の普通の成長を祝う成人の儀は、彼女たちの対極にあるものに思えた。
「あ……お姉ちゃんたち!」
 そんな彼女らに、一人の少女が駆け寄った。雪山で木陰が保護した少女だ。
「あの時はありがとう! お姉ちゃんたちがいなかったら今頃……」
 少女はその先を口に出すことを憚った。
 だが、単純なことだ。彼女は、二人がいなければ死んでいたのだ。
 例え遠い世界のように思える話であったとしても。救った命のうちのたった一つに過ぎないとしても。
 その少女の命を救い、「成人」になる機会を与えたのだ、と。木陰と火継はそう改めて認識した。
「ティリス。その方たちは?」
「あっ、お母さん! あのね、このお姉ちゃんたちがね、わたしを助けてくれたんだよ!」
 そんな少女の後ろから、彼女の母親らしき妙齢の女性が現れた。
 女性は少女の言葉を聞くと、感嘆と感激の入り交じる瞳で二人を見た。そして。
「本当にありがとうございました。皆様がいなければ、こうして祭りを迎えることもできませんでした。それに、娘も……帰ってこれなかったかもしれません」
 目尻に浮かぶ涙は、その母親の娘への愛情の表れだった。彼女はそれを拭い、続ける。
「もしよろしければ、お礼をさせてください。何でも致しますから」

「……だってよ。折角だし、受けておけよ。こういう所でちゃんと持て成されるのも礼儀だ」
 木陰は呆然と立っている火継を肘で小突いた。火継はなおも首を捻る。
「……そうかもね。ちゃんとするためには、参加すべきなのかしら」
 でも、と火継は木陰の腕に手を絡ませる。
「私一人だとたぶん向こうが困るから、ちゃんとあなたもついてきてよ。お目付け役なんでしょ、あなた」
「えぇ? いや、オレはいいんだよ、キャラじゃねぇんだから」
 木陰はなんとか火継を振り払おうとするが、どれも失敗に終わる。
 何のことはない、二人ともに誰かに感謝されることになど慣れていないのだ。行かない選択肢があればそれを選んでいたかもしれない。
 しかし、それはない。……火継は木陰の腕を掴む力を強めた。
「手をつかんで引っ張ってでも連れて行くからね」
「わ、わかった、わかったよ。一緒に行きゃいいんだろ行きゃ!」
 話し合いを終えた二人は、観念した様子で女性に歩み寄った。
 女性は満面に笑みを浮かべる。娘の恩人への歓待ができるのならばそれも当然と言えた。

「……でも、たまにはこういうのも良いのかもしれないわね」
 温かく、むず痒い空気の中。火継は誰にも聞かれぬ声で、そう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト