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ピストル・ジャズ

#グリードオーシャン #お祭り2020 #夏休み

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●ピストル・ジャズへとご招待
「ようお前ら、今年の夏も楽しくやってるか? そォかい、そいつは何よりだ。それじゃ俺からも一つ、皆に真夏のレジャーをご紹介しよう」
 グリモアベースにて、君たちを待っていたのは正純である。
 彼は全員が揃ったのを確認すると、手元に用意した二つの情報を皆に手渡していく。
 一つ目は詳細が記載されたパンフレット、そして二つ目は何らかのチケットである。
「もしかしたら、詳しい奴はもう気付いてるかもしれねえな? そう、俺が皆に提案するのは――――水着でのバトルロイヤルだ」
 バトルロイヤル。
 自分以外は全て敵という形式で、たった一人の勝者が決まるまで戦い続ける、大規模な乱戦を意味する言葉である。
「今回は由緒正しき水着バトルロイヤルの総本山、『プライベイティア』での一大イベントへ皆をご招待するぜ。詳細なんかはパンフレットを読んでくれ。そしてチケットはもうお前たちの手の中だ」
 何を隠そう、君たちに配布されたチケットとは『ピストル・ジャズ』への参加チケットに他ならない。
 中心に存在するほんの小さな小島へとより集まるようにして集まった、何百隻からなる私掠船の成れの果てで構成された、海に浮かぶ船島こと『プライベイティア』。
 大量かつ雑多な船々の集合体から成るこの島で、年に一度のお祭りとして開かれる水着バトルロイヤル――――それが『ピストル・ジャズ』である。
「最初に、皆にはチケットと引き換えに配布される、薄い紙で出来た青いリストバンドを両手首に巻いてもらう。それが参加者の証であり、大会における皆の命の代わりってわけだな」
 正純が指示したパンフレットのページを見れば、リストバンドの見た目はUDCアースでのイベントの際に用いられるようなものであるらしいことが分かる。
 しかし、さほど素材は強くない。もしも水をかけられてしまえば、すぐにでもふやけて破れてしまうような代物だ。
「そうしたら、両手首に青いリストバンドを付けた参加者諸君に武器の配布が行われる。水鉄砲と名の付くような形のものは全て揃っているし、変わり種だと水風船形の爆弾やらスプリンクラー、霧や雨雲の発生装置なんかもある。もちろんプラスチックと水の噴射機で構成されたナイフや刀なんかも用意されているから、自分好みの戦闘スタイルを伝えると良い」
 つまり、『ピストル・ジャズ』の装備は水に関わるならば何でもありということだ。
 大抵のものは島の人々が用意してくれるため、細かいことは考えずとも良いという話。
 君たちは装備を一つだけに絞って機敏さを重視しても良いし、複数の装備を大量に装備して水力を重視しても良い。
 ただし、武器や装備の持ち込みは禁止されている。使えるのは配布された武器と自らの身体能力、そしてユーベルコードのみである。
「バトルロイヤル中のルールは簡単だ。両手首のリストバンドが両方破れた時点で失格となり、最後まで残った奴の優勝となる。日が暮れるまでに決着が付かない場合は無効試合になるから気を付けてくれ。つまり、皆にはリストバンドが濡れないように守りながら、最後の一人となるまで積極的に動きながら戦ってもらうことになるな。――――最後に」
 ルール説明を終えた正純が、パンフレットの最後のページを示す。
 そこに記されていたのは、ピストル・ジャズの優勝景品だ。
「一位になった奴には、この一年間に『プライベイティア』周辺の海で見つかった金銀財宝の全てと、バトルロイヤルが終わった後のデケえ祭りで、乾杯の合図を叫ぶ栄誉が与えられる。全員、優勝目指して頑張ってくれ。それじゃ、健闘を祈ってるぜ」
 猟兵たちを巻き込んで、真夏のグリードオーシャンで一つの祭が始まろうとしていた。
 果たして、今年の優勝は誰の手に――――?


ボンジュール太郎
 お疲れ様です、ボンジュール太郎です。
 猟兵同士に競い合ってもらう形の水鉄砲バトルロイヤルですね。
 勝っても負けても楽しめる、そんな方々の繰り広げる祭を心待ちにしております。
 参加者は猟兵の皆さまと、それから近隣の海から集まった海賊の皆さまとなっております。
 何卒宜しくお願い致します。

●地形について
 小島を中心に、遺棄された船が固まって出来上がった浮島、『プライベイティア』の地形は、大きく分けて三つのエリアで構成されています。
 一つ目は、比較的新しく流れ込んだ船々で構成された島の外周エリア。足場もひどく不安定で、状況判断を誤れば海への転落も起こり得るでしょう。最も広い上に見通しも良く、遺棄された船のマストに登れば高所も確保できるはずです。
 二つ目は、古い船が強固に繋がり合うことで構成された島の内周エリア。島民の市場と居住区にここにあります。多種多様な難破船が雑多に繋がり合い、道が入り組んだこのエリアは、見通しも悪い上に高所を取ることも難しいでしょう。
 三つ目は、『プライベイティア』の中心地である噴水広場エリア。唯一足場が完全に安定しているエリアです。広場はそれなりに広く、噴水を利用すれば武器への給水なども可能となるでしょう。ただし、包囲される危険性を孕んでいます。

●採用について
 採用人数は5~8名様程度をまとめて採用したいと考えております。
 合わせプレイングは採用率が下がります。

●プレイング受付について
 OPが公開され次第、受付を開始いたします。
 プレイング受付期限は7/24(金)の午前10:30までとします。

●アドリブ・絡みについて
 アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
 アドリブ、絡み無しを希望の方のみ、「×」を書いていただければその通りに致します。
 記名なしの場合は上手くやります。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りを楽しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●年に一度の大合奏
 真水で遊びたいのなら、ピストル・ジャズに参加しな
 金のしぶきが好きならば、ピストル・ジャズに参加しな
 夏の陽気に当てられたなら、ピストル・ジャズに参加しな

 『プライベイティア』は待っている
 鉄砲に水を詰め込んだ、陽射しが似合う粋な奴
 『プライベイティア』は待っている
 自分以外の獲物へと、水の刃をブチ込む強い奴

 市場で泳ぎたいのなら、ピストル・ジャズに参加しな
 船を足場に踊りたいなら、ピストル・ジャズに参加しな
 噴水広場で勝ちたいならば、ピストル・ジャズに参加しな

 『プライベイティア』は待っている
 濡れて負けても気にしない、手前のハートが強い奴
 『プライベイティア』は待っている
 宵越しの金はその日に使い、祝杯あげるよな粋な奴

 ――――『プライベイティア』近海、船乗りの唄より抜粋―――
アノルルイ・ブラエニオン
祭りとあらば賑やかしに行かない訳には行くまい!

水を使ったものなら何でも、と言ったな!?
では私が所望するのは『ハイドローロフォン』
水を使った……『楽器』だ
それと普通の水鉄砲も一丁

ハイドローロフォンは持ち歩けまい
だからどこかに隠して
私は水鉄砲で敵にちょっかいをかけ、【ダッシュ】で逃げる
そして敵をハイドローロフォンを隠した、私の狩場までおびき出す
敵が私を見失ったら、隠してあるハイドローロフォンを奏でUCを発動!
動きを止めた敵に水鉄砲で止めを刺す!
という、待ち伏せ一択だ


国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブOK!

【超高精度技能再現化装置】
ぼくの水着に装置(UC)を取り付ければ、完璧!
『メカニック』で精度向上、『目潰し』で奇襲と撃ち合いを制して、『誘惑』で思わずドキっとさせて、『ブームの仕掛け人』は……とっておきにしとこう!

主戦場は2かな?
遭遇戦には、誘惑が役に立ちそうだし、目潰しも普通に役立ちそう!給水はメカニックで消費を抑えて水圧を強める現地改修していこう!ぼくの技術をどんどん活かしていこう!

1の外周エリアまできたら、ぼくの秘められたブームの仕掛け人の力を解き放つよ!
特に高所に陣取っているなら……ブームの仕掛け人を極めれば熱い熱狂の風を呼べるはず!

「風が……くる……!」


ソレーア・グリーンライト
つまりパーティでサマーなフェスティバルだな?
敵も島も俺色に染め上げてやるか!

武器は普段のと似たヤツを。
近距離用&防御用「巨大ハケか筆」、
遠距離&牽制用の「水ボム」、
全てを塗り潰す「バケツ」で行くか!

使うのは塗料じゃなく水で我慢。
代わりにグリーンな俺を目に焼き付けとけ!

さて始まったら噴水広場に陣取るか。
逃げも隠れもしねえ、纏めて来い!

遠距離にはボムを。小ボムで腕を狙って大ボムは足元に投げて範囲攻撃だ!
近距離にはハケを振り水飛ばし。直接バンドに塗ってもいいな!
そして集団・混戦・強敵にはバケツ水とボムの嵐「オールグリーン」だ、纏めて散れ!

優勝したら財宝は辞退だ。
今回の飯と酒、今後の祭りに使っとけ!


ティオレンシア・シーディア
へえ、「水」が得物のサバゲ―なのねぇ。面白そうじゃないの。

武装は拳銃型の水鉄砲にグレネードをいくつか、後は小回りの利くナイフを数本、ってとこかしらぁ?いつもの武装とあんまり変わらないけど。
ひとまずは内周部に陣取ろうかしらねぇ。ここなら見通し効かないから出逢い頭の勝負が主になるはず。●要殺で周辺警戒しつつ、見つけた先から〇先制攻撃で潰してきましょ。
あたし、早撃ちには自信あるし――路地裏喧嘩なら、そうそう負けないわよぉ?
こういうとこだし、召喚系のUCで圧されるとちょっと辛いけれど。そこらへんは立ち回りでどうにかするしかないかしらぁ?
補給も難しそうだし、水不足(弾切れ)には注意しとかないとねぇ。


ヴァーリャ・スネシュコヴァ

祭りと聞いて我慢できず駆け付けたのだ
ここは華麗に優勝かっさらっていくぞ!

武器は…射撃苦手なのでナイフと水風船爆弾、あとはスプリンクラー!

内周エリアの入り組んだ地形を使って隠れつつ
人の気配を察知するため【第六感】を研ぎ澄ませる
相手が来たならすぐさま【ジャンプ】で飛びかかり
ナイフを使って【先制攻撃】で両手首のリストバンドを両断!
襲われた場合には【ジャンプ】で避けつつ水風船爆弾で迎撃を

スプリンクラーも活用
丁度いい場所に設置して地面を濡らし
『風神の溜息』で一気に濡れた地面を凍らせれば
相手が身動き取れないうちに、滑ってすれ違いざまにリストバンドを斬るぞ!

優勝狙いではあるが
大事なのは楽しむこと!だよな!


シャルロット・クリスティア
なるほど。これはこれは……ゲリラ屋の血が騒ぎますね。
今回ばかりは、実力披露の場として楽しませて頂きましょうか……!

得物は主武装にライフルタイプの長物と、遭遇戦に備えて拳銃サイズを一挺ずつ。
内周区画に潜み、闇討ちメインで行きましょう。
地形を精査し、通りやすいルートと、そこを極力一方的に見通せる場所、そしてその地点を狙えるポイントを把握。
後は息を潜め、自身を狙えるポイントを警戒しつつ、迂闊に通りかかった相手を狙撃するのみ。
移動は狙撃ポイントの変更程度の最低限、得意な戦場を手放す意味はない。
待ちは得意です。根気強くね。
給水は難しいですが、無駄弾を撃たねばいいだけです。大した問題にはならないでしょう。


ジャガーノート・ジャック
(遊びと言えど遊びなく。遊びだからこそ何処までも真剣に――。
今回の豹鎧、"本気"と書いて"ガチ"である。)

(ザザッ)
配布装備のみ使用可、手慣れた武器類は使用禁止。ユーベルコードは使用可。
良いだろう、ルールに徹した上で勝利を捥ぎ取る。
""勝ち""に行く。

警戒を怠らず「外周エリア」に移動、陣取り"TORCHICA"。防壁迷宮を展開。
広さと足場の悪さを逆利用させて貰う。
防壁を操作、壁兼敵への目隠しとしつつ本機に有利になるよう配備。乱機動で接近し二丁拳銃での速射、或いは死角から密やかに狙撃、足場を消して海へ落とすトラップワーク、手は幾らでもある。

他の猟兵はどう来るか――相手に不足はないな。(ザザッ


花仰木・寧
ばとるろいやる、ですか
よくわかりませんけれど、童心に返ったつもりで楽しめばよろしいのね
子どもの頃は私、お勉強と習い事ばかりでしたけど

悪魔に水の剣を持たせ影へ
私自身は霧の発生装置と水鉄砲を持ち、内周エリアへ
そうねえ……なるべく影の濃い、暗い場所がいいかしら
目は良いの、私

私には皆さんのような身体能力はない
飛んで跳ねて、切って結んではできませんけれど
容易く倒されるのは、口惜しいじゃない

身を潜め、霧で辺りの視界を塞ぐ
悪魔と視覚共有、近づく者あれば挟み撃ちに
悪魔が斬りかかるも良し
気配に気が逸れたところを私が狙っても

ま、倒されるまでは、精々頑張ってみますわよ
だって、こんなに楽しいのだもの!


オリヴィア・ローゼンタール
最近、水鉄砲の使い方を覚えたので楽しみですっ
水着も新しいのを着て行きましょう
武器はスタンダードな水鉄砲!
両手に持って、にちょうけんじゅう、というのですよね、てれびで見ました!
場所は……内周エリアで!

ダッシュで戦場を駆ける!
視力だけでなく聴力も使って参加者の気配を探る!
スライディングで躱したり、脚力を活かしたジャンプで市場の店の看板の上に飛び乗ったり、アクロバティックに!

バンバン撃ちまくって……水切れ
ユーベルコードは使用可とのことなので、【トリニティ・エンハンス】で水の魔力を操って残弾補充

財宝よりも楽しむことが目的で勝っても負けても終始笑顔
乾杯ではコーラを飲んでいる


荒谷・ひかる
えっと……つまり、基本は水鉄砲でのさばげー、ですか。
ルールは……なるほど。
……コード有りなら、もしかしていい線いけるかもです?

服装は今年の水着(競泳水着)
持ち物はオーソドックスなハンドガン型水鉄砲を二丁
戦場は主に噴水広場エリアを中心に、足場の安定しているところを選択
他のエリアだとめっちゃ転びそうですし(運動神経一般人未満)

ゲーム開始次第【水の精霊さん】を発動
精霊さんの力で水鉄砲に水を自動供給&射程及び範囲強化
普通の水鉄砲だと油断して襲ってきた人はシャワーのような無尽蔵広域連射で撃退です
その後は自分で水を撒いた範囲の近くで戦闘
状況に応じてその辺の水溜りから精霊さんに奇襲をお願いしますね


ヘスティア・イクテュス
へぇ…金銀財宝の全て…ね?
わたしにそんなこと言っていいのかしら?

SkyFish団船長、ヘスティア
そのイベントに参戦!ってね?


水系統なら大体あるのかしら?
なら…使うのはこれ!水の勢いで空飛ぶジェットパック!
大雑把な使い勝手は普段使うティターニアと同じ!
高所も取れて、なによりジェット噴射で攻撃に転用できるのがいいわね!

エリアはホースによる給水のしやすい外周エリアをメインに
ミスティルテイン代わりのライフル型水鉄砲と合わせて相手を狩りまくるわ!


うん、中心地に逃げられたらどうしようもないわね!
自身の腕を信じて!ジェットパックを捨てて突撃!
スペースノイドだって武器が装備がなくても戦え…(ry



●開幕に向けて
 さて――――。
 今回のバトルロイヤルについて、最初にルールの確認を兼ねての説明を行っておこう。
 ルール1。出場者は全員試合前に配布された装備のみを使用し、優勝を目指すこと。武器や装備の持ち込みは厳禁である。ただし、ユーベルコードの使用は許可されている。
 ルール2。出場者は全員両手首に青いリストバンドを巻き、そのどちらもが濡れて千切れた場合のみ失格。最後まで生き残った者が優勝となる。つまり、平たく言うならライフ2つのサバイバル、ということだ。
 ルール3。初期位置の転送については、主催協力のグリモア猟兵が参加者の意図を聞いたうえである程度の『遊び』を持たせた場所に全員を同時に転送する。初期位置の転送において、参加者の有利不利が生まれることはない。
 ルール4。この大会の様子は島中に撒かれた大量の超小型独立飛行監視用「メガリス」と、いくつかの超大型映写機型「メガリス」によって、周囲の近海の全てに中継生放送されている。これはあくまで運営に当たっての不正防止のためであり、観客たちの賭け事を助長するためのものではない。また、この撮影によって参加者たちに不利益が及ぶことは決してない。
 ルール5。優勝者には、この一年間に『プライベイティア』周辺の海で見つかった金銀財宝の全てと、バトルロイヤルが終わった後の祭で乾杯の合図を叫ぶ栄誉が与えられる。
 ルール6。力を見せつけた参加者たちには、順位を問わず海賊たちからの敬意と称賛が与えられる。海の強者に貴賎無し。
 ルール7。祭を楽しみ、そして自分のやり方で勝ちを目指すべし。
 長々と大変失礼した、ルール説明は以上である。
「――――それじゃ野郎共ォ! 誰に賭けるかはもう決めたかァ!?
 やはり本命は前回優勝者の『九つの命を持つシナナイン』!
 対抗は『悪魔の銃手のハヤスギ・ウツノ』!
 大穴に『長耳のミミガイー』、『日本刀のオクテ・サムライ』、
 ダークホースに『爆弾魔のヤックヤラレー』!
 ックゥー、今年も豪華なメンバーが揃ってるじゃねえか!」
 既に映写機メガリス前で酒を飲みながら賭け事を行っている海賊たちの興奮は冷めやらぬ様子。賭け事の元締めであると思しきサングラスの男も、マイクを握る手に力が入る。
「じゃあ行くぞォ! ――――『ピストル・ジャズ』、開幕だァ!!」


●内周エリア・選手紹介
「ねえ、そこの角刈りがお似合いのお兄さん? こんな勝負の最中だけど……、もしも良ければお飲み物はいかがかな? 参加者の皆さんへの差し入れってことで、皆に配ってるんだ!」
「むむっ?! よもや試合中にもこのような『さあびす』があるとは、かたじけのうござる……。 し、しかし! 実に可愛らしい給仕殿、参加者でもない若い女性がそのように足を出してはなりませぬぞ……!」
「なあに、心配ご無用だよ! だって――――ぼくも、参加者の一人だからさ」
「――――なッ、ぐわッ!? こ、このオクテが油断を……!? む、無念……」
 『ピストル・ジャズ』におけるファーストキルを手にしたのは、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)。彼女を一言で言うなら、天才だ。
 犠牲者が思わず彼女の誘惑にまんまと騙されたのも無理はないだろう。何故ならば、彼女はそもそも本職のパテシエイルであり、しかも今彼女が身に纏っているのは給仕風の水着。
 動き方も堂に入っているうえに、ユーベルコード【超高精度技能再現化装置】によって誘惑・目潰しの技巧も上がっているとなれば、彼女にとって有利な状況を作り出すなど造作もない。
 哀れなるかな、可愛らしい給仕風の水着姿に身を包んだ鈴鹿が一丁の水鉄砲を銀の丸盆の裏に隠していることに犠牲者が気付いたのは、自分が最初の脱落者となってからのこと。
 鈴鹿は見事な手際で丸盆の上のドリンクを用いて犠牲者の両目に目潰しをお見舞いすると、そのまま即座に水鉄砲を二連射。誘惑からの目潰しによる技ありだ。彼女の姿は伊達ではない。
「ようし! この調子で奇襲をかけつつ、水の消費を抑えて水圧を強める現地改修をしていこうかな! データを集めてぼくの技術をどんどん活かしていこう! できれば早めに外周エリアまで辿り着きたいところだね!」
 そして鈴鹿のもう一つの強みは、彼女自身が優秀なメカニックであるということだろう。バトルロイヤルにおいて『武器と装備の持ち込み』は禁止されていないが、『装備の現地改修』は禁止されていない。
 さらに言えば――――鈴鹿はまだ一つ、とっておきを隠している。彼女が奏でるソロがどのように戦局に影響を及ぼすか、見物である。


「ばとるろいやる、ですか……。よくわかりませんけれど、童心に返ったつもりで楽しめばよろしいのね。子どもの頃は私、お勉強と習い事ばかりでしたけど。そうねえ……なるべく影の濃い、暗い場所がいいかしら」
 貞淑な微笑を浮かべながら暗がりを探して歩き、濡れた声音でそのように呟くのは花仰木・寧(不凋花・f22642)その人だ。
 花の帝都で暮らすモダンガールである寧の水着姿は、永久に色あせず凋まない花の如くの美しさである。大胆なビキニトップスにロングパレオの組み合わせが実に艶やかだ。
 彼女自身の装備は霧の発生装置と水鉄砲という、些か変わった組み合わせである。
「ヒッヒッヒ……上品そうなお嬢さん見っけェ! 悪いが、ヤック・ヤラレー様の新型水風船爆弾の餌食になってもらうぜェ! 恨まないでくれよ、麗しき人よ!」
 しかし、そんな彼女の背後から忍び寄る男の影があった。両手に水爆弾を大量に構えて、彼は暗がりの寧の無防備な背中へと手持ちの爆弾を次々に投げていく。
 ――――だが、男が投げた水風船爆弾は、全て寧へと届く前に地に落ちていく。まるで鋭利な刃物で切られたような切り口だけを残して、爆発もせずに、だ。
「あら、ご丁寧な歓待痛み入りますわ。ですけれど……爆弾も、爆発の前に切ってしまえば何のことは無いでしょう? 目は良いの、私」
「なんだこの奇麗なお嬢さん、どういう……!? ぐわッ!?」
 寧の背後より迫る男の存在に彼女が気付き、迎撃に成功したのは、何も偶然によるものではない。
 ユーベルコード、【ベレトゥの糸】。影に身を潜めさせたまま、悪魔アマラントスを召喚する力である。アマラントスは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡してくれる。
 つまりは――――、寧の影に潜んだ仮面の悪魔、魔性の花と剣を操る者、アマラントスが彼女の代わりに敵の発見と迎撃、おまけに撃墜をこなしたということだ。
 ちなみに、アマラントスも今日この日だけは安心安全な水の剣を装備しているため、ルール上何も問題は無い。
 寧は内周エリアの市場の奥、入り組んだ闇へと姿を潜めていく。影と霧、それから水着を纏った彼女が次に姿を現すのはいつのことだろうか。
 ともあれ、焦らなくともよろしい。その時は必ず来るはずだ。演者の全てが輝く瞬間がある。それがジャズって代物だ。


「ククク……聞こえるぜ、聞こえるぜェ……! ミミガイーの長耳にかかりゃァ、この戦場の全ては筒抜けよォ! 後は隠れて機を待つだけってなァ、ククク……!」
 多い人数が参加していれば、こういう人物もいるだろう。内周エリアの目立たない物陰に潜み、周囲の争いの状況を超聴覚によって把握しながら隠れ続けていた。
 しかし、その戦法も崩れる時が来た。超長距離からのスナイプによって。
「――――そこ」
「ギャッ!? クソッ、今のはなんだチクショウ! 一体どこから撃たれ――――」
「耳に頼りすぎましたね。――――貰います」
「ハ――――ハァァ!?嘘だろ、まさか水鉄砲で狙撃かよ……!? やるじゃねえか、大したもんだぜ……!」
 それは瓦礫の山の僅かな隙間に針を通すかのような、二連続の超精密狙撃。そのような戦術を水鉄砲で可能にするのは、彼女位のものだろう。
 シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)。歳不相応なほどに正確な狙撃を武器にして、オレンジモチーフのトップスにホットパンツを身に着けた彼女もまたこの戦場に降り立った。
 彼女の得物は主武装にライフルタイプの長物と、遭遇戦に備えて拳銃サイズの水鉄砲を一挺ずつ。
 薄着であるが故に隠密性は若干失われているが、そこは彼女自身が培ってきた経験でカバーしているらしい。スニーカー装備で運動性も確保済ということだ。
「なるほど。これはこれは……ゲリラ屋の血が騒ぎますね。今回ばかりは、実力披露の場として楽しませて頂きましょうか……!」
 【伏せ札開帳】。シャルロットのユーベルコードは、約80m半径内の、自分に気づいていない敵を狙撃で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中する幻想のチカラ。いや、彼女にとってはワザというべきか。
 内周区画に潜み、闇討ちメインで立ちまわる彼女のゲリラ戦術は、決して見過ごせる代物ではない。特にバトルロイヤルにおいては、何をか況やである。
 闇と距離とを輩に、シャルロットは孤独な独奏を奏でるべく戦場のど真ん中で息を整える。彼女のスタッカートはどのように作用するだろうか。


「へえ、『水』が得物のサバゲ―なのねぇ。面白そうじゃないの。……あらぁ、そう言ってる間に……お客さんかしらぁ」
「へェ……。イカした姉ちゃんだな。よく似合ってる水着もそうだが、獲物が俺と同じってのが良い。……やるかい、同業者。俺も早撃ちには自信があってね」
「あら、褒めてくれてありがとう。奇遇ね、あたしも早撃ちには自信あるの。こっちはいつでも良いわよぉ。何なら合図しましょうか?」
 メインアームに拳銃型の水鉄砲。それから腰元にグレネードをいくつかと、後は小回りの利くナイフを数本を用意して、どこかアラビア風の大人びた水着に身を包んだ美女は腕利きらしき男と相まみえる。
 男もまた、女性と同様の装備である。そして、『早撃ち』に自信のある表情をしている。そんな二人が会えば、必然的に――――『早撃ち勝負』になるのは分かり切っていた。
「ハハッ、合図はいらねェよ。行くぜ――――ッッッ?!」
「――――言ったでしょ? あたし、早撃ちには自信あるって。――――路地裏喧嘩なら、そうそう負けないわよぉ?」
「……ククク、参ったね……。これでも、俺も悪魔の銃手と呼ばれるくらいには強かったはずだが……。世界は広いぜ」
 男もまた確かな実力者。しかし、今回に至っては『相手が悪かった』という他にないだろう。
 水着の美女の早撃ちは、男が銃を構えて彼女に銃口を向けるまでに完了していた。それも、高速で三連射の早撃ちを、である。
 両の手首のリストバンドに、男の額。三つの急所を同時に射抜き、男に抜かせる間もなく負けを認めさせるそのワザは、紛れもなくゲットオフ・スリーショット。
 そのような芸当を水鉄砲で行える人物など、彼女以外にいるものか。
「なあアンタ、名前聞かせてくれよ。アンタの優勝、願ってるぜ」
「ふふ、ありがとう。ティオレンシアよ。ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。まぁ、やれるとこまでやってみるわぁ」
 内周部は入り組んだ道も多く、出逢い頭の勝負が主になる可能性も当然ある。そして、近距離の遭遇戦は有無を言わさぬティオレンシアの早撃ちが光るはずだ。
 だって――――ジャズには速弾きが付き物だろ?


 イチゴ風の装飾が実に甘やかな水着を着こなしているヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)と、白を基調に赤のラインが眩しいおニューの競泳水着を着こんだオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)の二人は、既に内周エリアの台風の目とも呼ぶべき乱戦に巻き込まれていた。
 二人の目の前では、既に一人の巨漢が何人もの参加者を蹴散らしている。しかし、何やらその様子がおかしい。
 彼は既に激戦によって何度もリストバンドに被弾しているはず。にも拘らず、彼のリストバンドはまだ破れていないのだ。何故なら――――。
「ぐわっはっはっはァ! どうしたどうした、このシナナイン・フセイシテル様に敵う奴ァいねえのかァ?!」
「あいつめ……! なあオリヴィア、ここは一旦共闘しないか!? だってあいつ……!」
「はい、是非! 私もそう思っていたところです、ヴァーリャさんっ! だってあの人……!」
「「不正してる!!」」
「ほォ、もう気付くやつが出て来やがったか……去年はこの『九枚のリストバンドを重ねて手首に付ける作戦』で優勝までこぎつけられたんだがなァ!」
 そう、二人の目の前で無双の如き活躍をしているように見える男――――前回優勝者である『九つの命を持つシナナイン』こと、本名『シナナイン・フセイシテル』は、この大会中において堂々と一人だけリストバンドを重ねて付けるという不正を働いていたのである。一人だけライフ9は余りに卑劣。
 リストバンドの重ね付けは監視型メガリスでも発見は難しいのも当然、しかもメガリスによる監視は今年から始まったものである。彼の不正に二人が気付けたのは、ひとえにヴァーリャの研ぎ澄まされた第六感とオリヴィアの眼鏡越しの優れた視力があったればこそ。
 もはやお天道様が許そうとも、『ピストル・ジャズ』の名において不正などとは許しておけぬ。ヴァーリャとオリヴィアはそう決意した。
「一気に仕掛けるぞ、オリヴィア! サポートを頼んで良いか?!」
「分かりましたっ! 勝つために何でもするなんて、皆が楽しみにしてるこの大会で許しておけません!」
「ごちゃごちゃとうるせえカワイ子ちゃんたちだぜェ! 俺のライフはまだ9個あるぞォォ!!」
 シナナインの構える二丁の巨大ガトリング型水鉄砲による乱射を、二人の猟兵は鮮やかな高機動によって全て躱していく。放たれた水しぶきは、彼女たちの影すら捕らえることはありえ無い。
 男から向かって右側、内周エリアの入り組んだ狭い道のスペースを最大限に利用しながら、緩急を活かしたステップで敵の攻撃を躱し、素早いダッシュと看板などを用いたジャンプによる三次元機動で距離を詰めていくのはオリヴィアである。
 対して男から向かって左側、敵の乱射による目の前の猛攻に対し水風船爆弾を投げて盾にすることで防ぎながら、爆発していく水風船爆弾の水が撒かれた通路を即座に持ち前の魔力で凍らせ、得意のスケート技術による超直線的なトップスピードを用いて距離を詰めるのはヴァーリャだ。
「こっ、コイツら……! ただのカワイ子ちゃんじゃねェッ! 今までの相手よりも桁違いに速いッ!」
「不正なんて楽しくないだろ、シナナイン!」
「リストバンドの重ね付けなんて、私たちには意味ないですよ!」
「ギャ、ギャアアアアア!!」
 負い目の無さが勝ちを呼ぶ。不正を働いてた男は、自分のライフを水増しすることで『まだまだ大丈夫』という慢心と油断を共に身に付けてしまった。
 そんな男の驕った攻撃に、真正面からこの大会を楽しみに来ている二人の猟兵が当たるはずはなく。そして同様に、彼女らの攻撃が男のリストバンドを破れぬはずもない。
 市場の看板からさらに跳躍し、シナナインの頭上を取ったオリヴィアの二丁拳銃の乱射が、男の右手首のリストバンドを適切に撃ち抜いていく。
 ガトリング水鉄砲が追いきれぬほどの速度でシナナインの至近へと迫ったヴァーリャの水ナイフの一閃が、男の左手首のリストバンドを全て斬り裂いていく。
「さっすがオリヴィア、ナイスだぞ! 結構撃ってたけど、給水とかは大丈夫か?」
「ヴァーリャさんこそ、お見事です! 残弾補充は少し工夫してあるので、平気ですっ」
「へへっ、そうか! ……それじゃあ!」
「はいっ! ……それでは!」
「「正々堂々、勝負ッッ!」」
 不正を働いていた男を下した二人の猟兵は、お互いの動きを讃え合いながらも戦闘態勢を取る。既に彼女たちの目に脱落した男の姿は見えていない。
 彼女たちの目に映るのは、自分と同様に『優勝は当然狙うが、一番大事なのは楽しむこと』という真実を理解している好敵手のみ。
 ナイフと水風船爆弾による軽装備に、スプリンクラーと氷の魔力による得意のスケート技術を有し、内周エリアを走り回るヴァーリャ。彼女の氷の魔力は、水を主体に戦いあうこの大会において工夫の余地があるだろう。
 スタンダードな二丁拳銃を装備して、類稀な五感の鋭さと鍛え抜かれた運動能力を駆使し、軽やかに三次元的な機動で内周エリアを飛び回るのはオリヴィア。二丁拳銃を用いる彼女には、どうやら内周エリアにいながら残段補充の手がある様子。それがどのように終盤に響いてくるか、見逃すわけにはいかない。
 正々堂々と戦い始める二人の猟兵が奏でるデュオを中心にして、内周エリアが動き出す。――――『ピストル・ジャズ』のはじまりだ。


●外周エリア・選手紹介
 外周エリア。
 内周エリアと比較して船同士の結びつきも非常に弱く、ともすれば転落による脱落もあり得るこの場所を支配する存在が二つ。
 ――――ザザッ。波と潮風、そして多くの船によって構成されるこの空間を映す液晶に、どこからともなくノイズが走る。
 メガリスの不具合では断じてない。メガリスは正常に現在の戦闘状況を中継してくれている。
「配布装備のみ使用可、手慣れた武器類は使用禁止。ユーベルコードは使用可。良いだろう、ルールに徹した上で勝利を捥ぎ取る。――――""勝ち""に行く」
「ンだよ、コイツッ……! お前ら手ェ貸せッ、囲むぞオイ! この化け物倒しておかねえとやべえッ!!」
「チッ、仕切るンじゃねえや! だがクソッ、外周エリアに陣取った黒いヤローを倒しておかなきゃってのは同意だなァ……!」
「ここなら足場も悪ィ! 人数で押しつぶしちまえば、アイツだって無敵じゃねえはずだ……!」
 遊びと言えど遊びなく。遊びだからこそ何処までも真剣に――――。
 今回の豹鎧、"本気"と書いて"ガチ"である。
「……それで良いのか?」
「ア? コイツ、何言って――――」
「いやなに、脱落に至る最後の言葉がそれで良いのかと思ってな。――――ミッションを開始する」
 既に外周エリアに陣取り、王となったジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)が、動く。
 【"TORCHICA"】。既に彼の仕込みは完了している。戦場全体に製作者のみ自在に動かせる防壁で出来た迷路を作り出すこのチカラと、たった二つの二丁拳銃だけで、彼はこの場の『JOKER』となる。
「なにをごちゃごちゃ――――うおおああッ?!」
「オイどうしたッ、何でいきなりフッ飛ばされ……ッ、ぎゃああっ!」
 ジャックは外周エリアの広さと足場の悪さを逆利用し、他の参加者を一網打尽にしていく。
 彼が僅かに防壁を操作してやれば、横合いからいきなり動き始めた外壁は質量兵器となって、手痛い一撃を海賊たちに喰らわせる。
 同時に彼らの足場代わりとなっていた外壁を即座に消去すれば、これで対転落者救助用メガリスのおせっかいになる海賊が二人。
「馬鹿野郎が、後ろががら空きだぜ……ッ!! な、なにィ!?」
「ああ、がら空きだろうな。わざとそこだけを空けていたんだ。迎撃が容易になるように」
「マジかよコイツ、強すぎる……ッ!」
 ジャックの背後から忍び寄る海賊たちが放つ水鉄砲の一撃は、その奇襲を読んでいたジャックの操作する外壁によって防がれた。
 そんな彼らを出迎えるのは、ジャックの二丁拳銃による二連速射とライフルの狙撃である。即座にリストバンドを二つ破かれた男の退場が、ここに決まった。
「他の猟兵はどう来るか――――相手に不足はないな。」
 豹鎧の王、外周エリアの指揮者は、――――戦局をどこまで支配できるだろうか?

「ねえ、ちょっと良いかしら?」
「何だオラァ! 今は戦ってる最中だろォが手短にたのむぜコラァ!」
「確認しておきたいんだけど、この大会の優勝賞品、一年間の金銀財宝って本当?」
「オウよ! ソイツは本当だぜ、『プライベイティア』の周りで暮らしてる奴らは全員そのルールを順守してるからなァ、安心しろコラァ!」
「へぇ……金銀財宝の全て……ね? 確認ありがとう、でも……わたしにそんなこと言っていいのかしら?」
「ホォー、自信満々なお嬢ちゃんじゃねェか! 聞いてやるぜ、どの団のヤロウだオメェ! ここいらじゃ見たことねえドクロだなコラァ!」
「尋ねてくれてありがとう! わたしはヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)! SkyFish団船長のヘスティア、このイベントに参戦! ってね?」
 ジャックが外周エリアの王ならば、ヘスティアは外周エリアの女王であった。
 彼女の装備は、なんと水の勢いで空飛ぶジェットパック。
 ホースによるジェットパックへの給水がしやすい外周エリアをメイン戦場に据えた彼女は、普段使いのビームライフル、ミスティルテイン代わりのライフル型水鉄砲による猛攻とジェットパックの高機動によって、外周エリアの相手を狩りまくっていた。
「今までの戦いぶりを見る限り、どうやら射撃の腕はピカイチみてえだなァ! だが、俺だって砲撃手としては負けてられねえんだゴラァァ!」
「あら、何も私の強みは射撃だけじゃないわよ? それじゃ、そろそろ加速していくわッ! ――――ジェット噴射ッ!」
「――――ンだとォッ?!」
 ヘスティアの強みは二つある。大型ライフル型の水鉄砲による高水圧の連続射撃に、その隙を撃ち消して強みに変える程のジェット噴射の三次元的な高機動だ。
 普段の戦闘においてジェットパックを使用している彼女にとって、そこに不慣れから生じる隙などありはしない。高所を取り、素早く動き、手痛い攻撃で確実に仕留める。
 浮いていることで足場の影響も受けずに万全の状態で動き回るヘスティアは、まさに外周エリアにおいて女王と呼ぶに相応しい活躍を見せていた。
 彼女は目の前の海賊たちへとジェット噴射による三次元的高速機動で接近すると、そのまま巧みなジェットパック操作によって空中でドリフトターンを見せ、敵の集団へジェットパックによる水の噴射を浴びせていくではないか。
「クソッ……! そういうことか! お前にとってジェットパックは高機動を実現するための装備でもあり、水流噴射による武器も兼ねてるって訳か……やるじゃねえかコラァ! 応援してやるぜ、優勝取れよヘスティア!」
「ふふっ、説明ありがとう! ええ、頑張ってみるわ! ……中心部に逃げられたらどうしようもないけどね……!」
 宇宙海賊代表、外周エリアの女王が動く。どうやら狙いは王の元。お互いの耳に派手なソロは既に届いているはずだ。あとはどちらが主旋律を握れるかである。


「祭りとあらば賑やかしに行かない訳には行くまい! ――――だって私は吟遊詩人なのだから! しかし……フッ、あの二人もやるじゃないか! まるでこのエリアの王と女王のようだな! それで良いとも!」
 さて、ジャックとヘスティアが外周エリアで派手に大暴れしている最中、その様子を物陰から偵察している男が一人。偵察していると言っても、彼の唇からは常に鼻歌が聞こえ、その手足は絶えずリズムを刻んでいるのだが。
 彼の名は、アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)。見たところ、彼の装備はスタンダードな水鉄砲がたった一つだけのようにも見える。
「それでこそ、私の仕掛けを披露するに相応しい相手というもの! 勇者が相手とは吟遊詩人冥利に尽きる、ここは一つ道化にならせて頂こうか!」
 ――――しかし。アノルルイは、何も無策でここにいる訳ではない。彼には彼の戦法と作戦がある。
 彼は吟遊詩人だ。歌と音で困難に対する喧嘩を売りさばく男である。その一点において彼がブレることは無い。
 そして、この戦いの配布武器は『水を使ったものなら何でも』用意してくれるシステムだ。
「楽しみだなあ、楽しみだとも! 早く彼らに私の音楽を聞かせてやりたいところだが……仕方がない、劇にも前準備というものは必要だからな!」
 アノルルイの仕込みは既に完了している。彼はジャックとヘスティアが大暴れをして外周エリアの人員からの注目を集めている間に、広く、そして物を隠すには丁度良いスペースが多い外周エリアへと、自らの策を隠していた。
 王と女王の栄光が生み出すものごとの影潜間に隠れ、吟遊詩人は静かに歌うのだ。彼にとって今この瞬間は戦いではなく祭であり、そして劇である。
 彼は待つ。音を奏で、彼自身が最も楽しめるその瞬間が来るまで。彼は待つ。劇の幕が上がり、自分の出番が回ってくるまで。
 『ピストル・ジャズ』は祭りを楽しむものの全てのものを歓迎し、そして尊ぶ。これは即興のジャズだ。踊る奴も奏でる奴も、多い方がきっといい。
「私はここで機が来るのを待つだけだ、隠れながら! 私はここで音を奏でるだけだ、――――だって私は吟遊詩人なのだから!」
 

●噴水広場・選手紹介
「オッケー、オッケーオッケーオッケー……。とにかく良ォ~く分かったぜ。つまり、パーティでサマーなフェスティバルだな? 上等だぜ、敵も島も、このバカ騒ぎも――――俺色に染め上げてやるか!」
「えっと……つまり、基本は水鉄砲でのさばげー、ですか。ルールは……なるほど。……コード有りなら、もしかしていい線いけるかもです? 何だか見知った人もそれなりにいらっしゃるみたいですし……わたしも、負けていられませんね!」
 『プライベイティア』の中心地、噴水広場にて武器を構えて大群を相手にしているのは二人の猟兵。
 巨大なハケに筆、水ボム、バケツといった個性的な装備に全身緑ずくめのスタイルが眩しい青年と、オーソドックスなハンドガン型水鉄砲を二丁装備したポニーテールに競泳水着が良く似合う女子である。 
 『彼』も『彼女』も、噴水広場を主戦場に選んだのは足場の安定さと自らの装備を活かすため。だが、それにしたってノイズが多い。
 二人がやたらめったらに狙われている理由は至極単純。他の戦域での猟兵たちの活躍の報を受け、既に他の海賊たちは『猟兵はヤバい』と彼らを徹底的にマークしているが故だ。
「オウオウ野郎共! あそこだァ、あの緑頭の坊主とポニーテール水着のカワイ子ちゃんが猟兵って噂だぜェ!」
「ここで会ったが百年目ェェェァ! オメーらに恨みはねえけどよォ、俺ら『ウゴウノ・ファミリー』の優勝のために、先に脱落してもらおうかァ!」
「やたらめったらに俺らばっかり狙ってきやがって、ここまで露骨だとむしろ楽しそうで笑えて来やがるぜ! ワハハハ! よっしゃスッキリ! どうだいお嬢ちゃん、コイツは思い付きなんだが……ここはアイツら前座を片すまで共闘しねえか?」
「えっと……そうですね、目的としては生き残ることを最優先に考えるべき、かな……? はい、いいですよ! 申し遅れました、わたしは荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)と申します」
「俺はソレーアだ、ソレーア・グリーンライト(グリーングリーンペインター・f16539)! よっしゃァ、それじゃひかる! 短い間だがよろしく頼むぜ!」
「話し合いは終わったかよォ、野郎共かかれ――――ッッ、グオオアァァ?!」
 これまで二人の猟兵が徒党を組んだ海賊の大群に対して互角程の勝負を強いられてきたのは、ひとえに数と方向の差。
 ここは全方位に開けた噴水広場。誰しも自分の前と後ろを同時に見ることはできぬのだ。だからこそ、彼らも全力で戦うことが出来ずにいた。――――だが、今は違う。
 二人の猟兵が互いに背中を預けた今ならば、『前と後ろを同時に見ることが出来る』というものだ。
「オラオラオラオラオラオラァ! 俺は逃げも隠れもしねえ、纏めて来い!」
「ンだコイツ、さっきまでと動きが全然違うし……! しかも、攻撃が避けづれェ!」
「安心しな、使うのは塗料じゃなく水だからよ! 代わりにグリーンな俺を目に焼き付けとけッ!」
 ソレーアの戦い方は正にフリーダム。噴水広場をキャンバスに見たて、彼は両の腕で水ボムを巧みに操りながら自分の間合いよりも遠くにいる海賊たちの手元を実に見事に狙い撃っていく。
 ごくまれに水ボムの熾烈な水しぶきを避けて自らの間合いに入ってきた海賊へは、直接自分が走り込んで大きく振り被り、巨大なハケを大きく振ることで水滴を飛ばして広範囲を一気に塗り替えていく。
 これぞまさに、ソレーアなりのスプラッシュアート。先ほどまで海賊たちで埋め尽くされていた戦場の戦力図が、ソレーアの動きで瞬く間に塗り替えられていく。
「悪いなお嬢ちゃん、遠慮はしないぜェ!?」
「噴水広場にそんなカワイイ二丁拳銃だけで陣取ろうとしたのが間違いなんだよォ!」
「たしかに、すこし厳しかったかもしれませんね? わたしの武器が、『ただの二丁拳銃だけ』ならの話ですけど……! ――――【水の精霊さん】ッ! ばしゃーん! と、お願いっ!」
「な――――なんだありゃあ?! 逃げ――――う、うわああ!!」
 ソレーアが海賊たち相手に獅子奮迅の働きを見せる中で、ひかるも同様に自らの力を解放していく。
 彼女のユーベルコードは、水の精霊さんを召喚することで自身の装備へと『水の自動供給』、『射程及び範囲強化』を施すというもの。また、水の精霊さん自体も独立して鉄砲水を放てる上に、その水の上で戦うことでひかる自身の戦闘能力も向上していく。
 ひかるの武装を普通の水鉄砲だと決めつけて油断した海賊たちも、ひかるの仕込みに気が付くが――――もう遅い。
 まるでシャワーのような無尽蔵かつ広域の連射は、ひかるの目の前に存在するすべてを濡らし尽くしていくではないか。
 中にはひかるの背後に回って奇襲を企むものもいるが、それも水の精霊さんが独立して動き、海賊の横合いから鉄砲水を飛ばすことで撃退していく。
 気付けば――――既にあれだけ大量にいた海賊たちは壊滅に至っていた。彼らが弱かったのではない。二人の猟兵が圧倒的だったのだ。
「ヒュウ、ひかるもやるねェ! よっしゃァ、それじゃァ――――!」
「ありがとうございます、ソレーアさんこそ! ええ、それじゃ――――!」
「「いざ、勝負!」」 
 ソレーアも、ひかるも、自らの装備に自信がある。だからこそ、最も過酷な戦闘が予期される噴水広場に陣取っているのだ。
 そして彼らの持つ水力は、間違いなくこのバトルロイヤル中において最強のものといえるだろう。言わば、彼らはこの戦いにおける台風の目。彼ら二人の猟兵が、内周エリアとどう絡むのかが注目の的になるはずだ。


●序盤戦
「はぁぁっ!」
「えぇいっ!」
 さて、メガリスの中継を内周エリアへと戻そう。既に局面は猟兵同士の戦いへと移行している。
 内周エリアの南側ほぼ中心、曲がりくねった十字路にて苛烈に争いあうのはオリヴィアとヴァーリャの二人である。
 この場所は噴水広場へと繋がる入り組んだ一本道と、外周エリアへと繋がる末広がりの大通り、そして内周エリアの東西に伸びる道に面した僅かに広い場所。
 言わば市場の中心地でもあり、至る所に船の成れの果てである路上看板やバザー、居住区と思しき小道や行き止まりが多数存在している混沌の場所だ。
 その中で、オリヴィアとヴァーリャはまるで互いに息を合わせながら踊っているかのように撃ち合い、投げ合い、互いの手首を狙って舞い続けている。
 オリヴィアが持ち前のダッシュとジャンプでヴァーリャに接近しながら二丁拳銃の乱射を行えば、ヴァーリャはオリヴィアの射撃に水風船爆弾を合わせて少し多めに投げることでそれを見事迎撃。
 空中に浮いたオリヴィアへと反撃を行うため、ヴァーリャ自身も路地の壁を利用した三角飛びで高さを稼ぎつつ、ナイフの一閃を放つべく空中のオリヴィアへ接近を図る。
 しかし、接近を嫌ったオリヴィアはヴァーリャの目を狙っての乱射を行いながらも、空中で看板を蹴って自らの位置をずらして着地していく。
 既に二人はこの様な三次元的攻防を幾度となく繰り広げていた。
「わぷっ……なんの!」
「さすがですね、ヴァーリャさん! ……?」
「いいや、オリヴィアこそすごいぞ! ……ッ!?」
「――――そこだよっ!」
 だが、均衡はいずれ崩れるもの。特にバトルロイヤルにおいては、同一箇所での長丁場の戦闘は第三者の介入を呼び込んでいるのと同義である。
 彼女ら二人の戦闘への介入を行うのは、既に幾らかの改修を自身の装備へと施した鈴鹿。彼女の狙いは、至近距離で戦う二人のどちらも、だ。
 鈴鹿の接近にオリヴィアとヴァーリャの二人がいち早く気付けたのは、それぞれが持つ聴力と第六感によるところが大きい。
「最初の奇襲は仕損じたか、しょうがない! やっぱり猟兵相手はもっと実戦のデータが必要だね!」
「くっ、危ない……ッ! ですが、これは好機――――!」
「う、おおお……っと、っと!?」
 オリヴィアは先に着地していたこともあり、鈴鹿の強力な水鉄砲による高圧水流の乱射を連続スライディングで躱していく。
 だが、それでも相当ギリギリの回避だ。鈴鹿の現地改修は凄まじいと言わざるを得ない。
 対して厳しい回避を強いられたのはヴァーリャである。鈴鹿の射撃を空中に浮いた状態で受けざるを得ない彼女は、持ち前のジャンプでの回避を使えない。
 故に、ヴァーリャは必然的に自らの身を守るため水風船爆弾による迎撃を行っていくほかない。だが、その防御策を取ったことで――――。
 ヴァーリャの着地に、今まで存在しなかった僅かな隙が生じたのだ。そこを見逃すオリヴィアではない。
「――――失礼します、ヴァーリャさん! ……そこッ!」
「、くっ……!」
 鈴鹿の射撃によって着地に生じた隙を活かし、オリヴィアの二丁拳銃の乱射がヴァーリャのリストバンドの一つ目を穿つ。

 そのヒットを確認したオリヴィアはもちろん、それを見た鈴鹿もこの事態を好機と見てヴァーリャへの追撃を行うべく再度接近を図る。
「やばいっ、一発やられてしまったぞ……!? やるな、オリヴィア! ここは一旦引かせてもらうぞ、俺も簡単に負けるつもりは無いからな! ――――【風神の溜息】! ふうっ」
 しかし、ヴァーリャとてそのまま流れるような敗退を選ぶ気は毛頭ない。ユーベルコード、【風神の溜息】。
 本質はヴァーリャの唇から絶対零度の吐息を放ち、凍結により対象の動きを一時的に封じるチカラであるが、今回においては少しその用途が異なっていた。
 先程のオリヴィアとの戦闘において、ヴァーリャがいくつか意図的にバラ撒いていた水風船爆弾があった。それこそ、彼女の『水の逃走経路』。
 万が一旗色が悪くなった際のために、ヴァーリャは十字路の一方向へ水の逃げ道を用意しておいたのである。あとはそれを絶対零度の吐息で即座に凍らせていけば、ヴァーリャ専用のスケートロードの出来上がりという訳だ。
「あれは――――! ヴァーリャさんの氷の魔力! 一旦逃がすと厄介ですね……! 逃がしませんっ!」
「なるほどね、そういうこと! それじゃぼくも、ここは追撃と行こうかな!」
 超高速のスケーティングで一旦戦線離脱を図るヴァーリャを、オリヴィアは持ち前の脚力を活かしたダッシュで追う。
 彼女はヴァーリャの氷の魔力の応用の恐ろしさを知っているからこそ、このまま至近距離の間合いで倒しきってしまいたいのだろう。
 そして、オリヴィアの意図を即座に読み取った鈴鹿も、彼女たちの後ろからさらに追跡をかける。ヴァーリャが逃げ、オリヴィアがそれを追うこの状態は鈴鹿にとってのアドバンテージ。
 一方的にデータを取れるこのシチュエーションを、彼女が逃す筈もない。万が一のオリヴィアの反転に備え、鈴鹿は少し距離を置きながらオリヴィアを追う。
 そしてそこに、もう二人が介入を図る。
「――――あらぁ? ヴァーリャちゃんがすごい勢いで滑ってくから、追いかけようと思ったら――――オリヴィアちゃんに会えるなんてねぇ」
「っ、ティオレンシアさん――――ッ!? この距離は彼女の間合い……! まずい――――ッ!」
「おっと、新手……!? 成る程、こういう形なら……そこっ!」
「……成る程、こういう図ですか……。リストバンドを一つ失ったヴァーリャさんが逃げているということは、彼女を誰かが追っていると思っていましたが……それなら――――失礼」
「ッ!」
「っ?!」
 そしてまた、戦場でリストバンドが二つ減る。

 一つは、オリヴィアの片手のリストバンド。彼女のリストバンドを見事に撃ち抜いたのは、有無を言わさぬティオレンシアの速射である。
 ユーベルコード、【要殺】。このチカラを発動させている限り、ティオレンシアの視力・聞き耳・第六感・見切り・咄嗟の一撃――――いわゆる、対『路地裏喧嘩』特攻技能を超強化する幻想。
 ティオレンシアはその力を用いることで、内周エリアのドンパチに耳を済ませながら接近。そして先程のヴァーリャの逃走をいち早く察知し、狭い路地裏を用いて先回りを図っていたのである。
 つまり、彼女もオリヴィアと同様にヴァーリャへの止めを優先したという訳だ。だが、そこにティオレンシアにとって良いニュースと悪いニュースがあった。
 悪いニュースは、想定よりもヴァーリャの移動速度が速かったこと。彼女の滑走は並大抵の追随を許さない。故に、先回りを選択したティオレンシアもヴァーリャへは追い付けなかったのだ。
 良いニュースは、ヴァーリャを追って全力疾走を開始していたオリヴィアと、ヴァーリャの逃走経路を察知して裏路地を用いた先回りを図ったティオレンシアが、丁度至近距離で遭遇するに至ったこと。これによって、ティオレンシアは早撃ちによる戦果を一つ上げることに成功した。
「ティオレンシアさんへ、狙撃……?! ひとまず、この距離は良くないですね……! 一時退却させて頂きます!」
「鈴鹿ちゃんが後ろにいたのは気付いてたんだけど……狙撃手かぁ、これは痛いわねぇ。先に探して、潰しておいた方が良いかしらぁ」
「危ない危ない、更に狙撃手がいたのか! これは少し引いてて良かったかも!」
「――――命中を確認」
 賢明なる皆様ならばもうお分かりのことだろう。
 そう、先の戦闘で減ったもう一つのリストバンドはティオレンシアの片手のリストバンドだ。
 先ほどの咄嗟の遭遇戦において、放たれた水弾は三つ。
 一つ目はティオレンシアがオリヴィアへと放ち、見事命中させた至近距離での早撃ち。
 そして、二つ目は鈴鹿がオリヴィアの背後からティオレンシアへ向かって不意打ち気味に放った高圧水流である。
 しかし、鈴鹿が放った水弾はティオレンシアのリストバンドを射止めるには至らなかった。ティオレンシアの【要殺】によって研ぎ澄まされた感覚は、彼女が既に気付いている存在からの不意打ちの類を許さない。
 オリヴィアへと放つ不可避の早撃ち。鈴鹿の改修済水鉄砲による正確な射撃に対する最小限の回避。攻撃と回避のレベルの高い両立――――。
 こと『出会いがしらの遭遇戦』において、ティオレンシアはこの瞬間、間違いなく自らが最強であることを証明してみせたのである。
 ――――だが、『最強』とはシチュエーションごとに変わるものだ。そして、猟兵たちはいずれもシチュエーションを限定すれば『最強』になれる強さを必ず有している。
 戦場に潜む狙撃手、シャルロット。彼女にとっては、この瞬間がまさに『最強』になれる瞬間であった。
 彼女が既に行ったのは、内周区画へ潜み、闇討ちを行うべく地形を精査し、通りやすいルートと、そこを極力一方的に見通せる場所、そしてその地点を狙えるポイントを把握すること。
 そして、彼女はこう決めていた。後は獲物がかかるまで、『息を潜め、自身を狙えるポイントを警戒しつつ、迂闊に通りかかった相手を狙撃するのみ』だと。

 つまり――――こうだ。
 『状況の悪いヴァーリャが立て直しを図り』、『オリヴィアがそれを追い』、『鈴鹿が少し引いた場所からそれを俯瞰して漁夫の利を狙い』、『ティオレンシアが出会い頭の戦闘でチャンスをものにして』、『シャルロットがその全てを把握していた』。
 この状況を最も正しく認識していたシャルロットがティオレンシアを狙撃するに至った理由は、恐らく確実性だろう。
 先ほどの瞬間で最もアクションのファクターが多かった――――つまり、状況が動くインパクトタイミングの鍵を一番力強く握っていたのはティオレンシアだ。そして、シャルロットだけがそれをよく理解していた。
 だからこそ、シャルロットは攻撃と同時に回避を行ったティオレンシアのリストバンドを穿つことが出来たのだ。決して気付かれない位置から、決して避けられない一射を用いることで。彼女の【伏せ札開帳】は、それを可能にする力である。
「ここは一度引くべきねぇ。狙撃手狙いで動こうかしら」
「これ以上は欲張れないかな? データは十分取れたし、ぼくもここは一度落ち着かせてもらおうっと」
「さて、移動しますか。狙撃ポイントの変更程度の最低限のものですが……。得意な戦場を手放す意味もないですしね」
 鈴鹿とティオレンシアも、これが潮時と見てそれぞれ撤退を始めていく。鈴鹿は再度自らの装備の改修を行うため。ティオレンシアはシャルロットを探すため。既にオリヴィアはいち早く離脱を完了させている。
 それと同時に、シャルロットも追っ手の存在を察知して狙撃ポイントの変更を図るために移動を開始した。給水は行わない。シャルロットは根気強く隠れ、根気強く待ち、そして狙いを定めて穿つだけだ。それが自らの最強であることを知っている。
 給水をしないのも、無駄弾を撃たねばいいだけだと彼女は考えているためだ。ある意味では、最も自分の役割を割り切っていると言えるだろう。
 そうこうしているうちに、シャルロットの移動が完了したようである。暗がりから暗がりへ、影から影へ。既に狙撃ポイントの策定は済んでいる。彼女の移動に時間はかからない。
「ポイント2到着。狙撃準備開始。……? なんだか、霧が濃く出てきましたね……身を隠したい私にとっては好都合ですが……っ、?」
「あら、本当にそうかしら? アマラントス、お客様よ。――――丁重に出迎えてあげて」
「ッッ! 誰――――いや――――迎撃――――ッッ?!」
「残念、本当に注意するべきは私の方ではなかったわね? 後ろががら空きでしてよ」
 そして、影の奥より刃が走る。

 狙撃ポイントを移すために影から影へと移動を行ったシャルロット。その判断は間違っていなかったと言える。そのまま待機していれば、ティオレンシアの追撃は免れなかっただろうから。
 ――――だが、影に潜むのは彼女だけではなかったのだ。水の刃を持った悪魔と、それを従える寧も、影に潜んで機を窺っていたのである。
 寧が行っていたのは単純なこと。彼女は霧の発生装置を利用して内周エリアの至る所に濃い霧を撒き、その上で自らは闇へと溶け込むようにして近付くものを待っていたのだ。
 更に寧が用意周到であったのは、自らが潜む場所と、影に潜む悪魔アマラントスを潜ませる場所を僅かに離して、挟撃を行ったことだ。
 これにより、潜伏していた寧にいち早く気付いたシャルロットは前方と後方からの水鉄砲と水の刃のコンビネーションをまともに受け、リストバンドの片方を失ってしまった。
 辛うじてリストバンドを一つ残せたのは、シャルロットがいち早く寧の存在に気付けたからであろう。
「私には皆さんのような身体能力はない。ええ、それは認めますわ。飛んで跳ねて、切って結んではできませんけれど、――――容易く倒されるのは、口惜しいじゃない?」
「潜伏しての挟撃、とは……! これはまずいですね、退避を――――!」
「そんなに焦らずとも、ここで休んでいかれてはいかがかしら?」
「くっ……予想以上に霧が濃い! これでは、むやみやたらに動けない……っ!」
 そして寧が姿を現した以上、もはや霧の不自然な発生を隠す理由もなくなった。彼女は霧の発生装置の効力を最大限にして、内周エリア全域へ濃霧を発生させていく。
 それは自分の姿とアマラントスを霧の中に隠すため。辺りの視界が塞がるのは、影と霧に隠れながらもアマラントスと視界を共有できる寧にとっては有利に働き、そしてシャルロットにとっては不利に働いていた。
 寧はここでシャルロットに止めを刺す腹積もりだ。
 ――――だが。
「学園の理科で習ったぞ……! 霧は水蒸気! そして水蒸気は急速に冷やせば――――水になるんだ! 【風神の溜息】ッ!」
「これは――――、霧が、消えて――――?!」
 『飽和水蒸気量』という言葉がある。
 掻い摘んで話すとすれば、水蒸気を含んだ空気が急速に冷やされ、『飽和水蒸気量』を超えると余分な水蒸気は水に変わるという話。そして、これは温度が小さいと小さくなる。
 つまり、霧は寒い場所では濃霧足り得ないのだ。そして、ヴァーリャの【風神の溜息】による絶対零度の吐息ならば、霧を凍らせて視界を良くすることだってできる。
 この付近に隠れ潜んでいたのは、シャルロットと寧だけではない。ヴァーリャもだ。
 彼女はオリヴィアたちから距離を稼いだ後、内周エリアの入り組んだ地形を使って隠れつつ、人の気配を察知するため第六感を研ぎ澄ませていたのである。
「そこだな! 捉えたぞ、美人なお姉さん! ――――それッ!」
「きゃぁっ……! まさか、こんな方法で……さすがに、猟兵の皆さまはやりますわね」
「ありがたいですね……! この機に乗じて!」
 ヴァーリャが取った戦術はとても単純。自らのスピードを活かした奇襲による一撃離脱だ。
 彼女は霧を凍らせて目の前の視界を良くしながらジャンプで霧に潜んでいた寧に飛び掛かると、素早い手捌きによる薙ぎ払いで寧の両手首のリストバンドを一気に両断する作戦を試みた。
 だが、そこは寧とて猟兵である。彼女はアマラントスを即座に読み戻すと、水の刃での防衛を行わせることで二つ目のリストバンドを守ることに成功した。
 結果的に、ヴァーリャは寧のリストバンドの一つを切ってみせたのである。

 そして、そのいざこざを利用してシャルロットはいち早く戦線離脱を図った。彼女だけが、『狙撃手』狙いの『早撃ち』が、そろそろここに来ることを知っていたからだ。
「あらぁ、もう始まってるのねぇ? あたしも混ぜて頂戴な」
「う、おおっ!? ティオレンシアか! 危ない危ない、欲張らなくて良かったぞ俺! さっきの反省を活かせてる! 逃げろ逃げろー!」
「氷のあの子がいなくなったなら……もう一度霧を発生させられるわね? アマラントス、退路をお願い」
「なによぉ、つれないわねぇ。まぁ、それなら狙撃手さんをまた探すだけだけどぉ」
 容赦なく二人に襲い掛かるティオレンシアの速射を、ヴァーリャと寧のどちらもが辛うじて防いでいく。
 ヴァーリャは先ほどの経験を活かして先んじて着地していたために予測回避が可能であり、寧も濃霧を発生させながらアマラントスに自らの片手首を守らせていたからだ。
 内周エリアの猟兵たちは即座に破裂し、そしてまた散らばっていく。別の場所でも同様だった。
「なんだか霧が出てきた……さて、これで最終盤かな? ぼくの計算通りなら、例え猟兵が相手の撃ち合いでもこの装備差で勝てるはず――――ッ」
「そこですっ!」
「おおっと!?」
 ヴァーリャたちの戦闘とは僅かに離れた場所で、鈴鹿は自らの装備の現地改修を行っていた。猟兵たちのデータを基準にした、鈴鹿にとっての最終形が完成したのである。
 そして、僅かに離れた上空から鈴鹿を狙う影。オリヴィアだ。彼女は鈴鹿への奇襲を行うべく、虎視眈々とチャンスを窺っていたのである。
「危ない危ない、キミも狙撃手狙いだと思ってたよ! あれ、でも……ははーん、さっきの戦闘音はやっぱりそういうことか」
「ええ、どうやらシャルロットさんは大人気みたいですから! 私はこっち狙いで!」
「ってことは、やっぱり狙撃手は今も追われてるのかな? それなら高所が取れる……!」
 しかし、鈴鹿とて奇襲の可能性を考えていなかったわけではない。頭上からの奇襲をギリギリのところで避けた鈴鹿は、オリヴィアへの反撃を行いつつ外周エリアの方角へ歩を進めていく。
 オリヴィアも機敏なステップで鈴鹿の反撃をかわしながらそれを追う。――――より正確に言うならば、『追う形を見せた』のであるが。
「――――そこです」
「ッ?! ここで……狙撃!?」
「よしっ! シャルロットさんは、やはり逃げ切っていた!」
 そんな鈴鹿の片方のリストバンドを、彼女の遥か後方からシャルロットが撃ち抜いた。――――より正確に言うならば、『オリヴィアがシャルロットに鈴鹿を撃たせる形を作った』のであるが。
 オリヴィアと鈴鹿を分けたのは、『ヴァーリャの逃げた方向』という情報の有無だ。先ほどヴァーリャを追撃するためにすぐ後ろについて追撃を図ったオリヴィアだけは、『狙撃の方向』と『ヴァーリャの逃げた方向』が同じ方角であることを知っていたのだ。
 故に、彼女は単純にティオレンシアがシャルロットを追う形にはならないはずだと予測できたのだ。だからこそ、オリヴィアは鈴鹿を奇襲する際に至近距離ではなく、僅かに離れた場所からの跳躍で奇襲を行った。
 全ては、鈴鹿をシャルロットの射線上に炙り出すために。現在狙撃手はどうなっているか、という予測情報の差が二人を分けたのである。
「それでも、これで――――外周エリア、到着っ!」
「これ以上の深追いは、私もシャルロットさんに撃たれてしまう可能性が高い……私は、内周エリアに」
「命中を確認、オリヴィアさんの姿は見えませんね……。次の狙撃ポイントに移りますか」
 そして、局面は移る。外周エリアの嵐へと。


●中盤戦
 鈴鹿がシャルロットからの狙撃を受けながらも外周エリアに向かっている最中、ヘスティアとジャックは熾烈な争いを繰り広げていた。
 既にほかの海賊たちは皆リタイアしてしまっている。完全なるタイマンというやつだ。
「くっ……! 私のジェットパックに生身で付いて来れるなんて……やるわね!」
「ここまで手間取るとは、本機としても想定外だ。同じ言葉をそちらへ返そう」
 片や水流を噴射することでの高速移動を可能にするジェットパックを背負い、高性能のライフル型水鉄砲を構えて空中で踊るヘスティア。
 片や自分のみが操作できる防壁を自在に動かして時に防御へ、時にチャンスメイクの足掛かりとして用いることで、二丁拳銃というスタンダードな装備ながらも多角的な攻めを実現しているジャック。
「だが、そろそろ勝たせてもらおう。そちらのジェットパックとライフルは確かに脅威ではあるが、小回りという点では本機の方が勝っている。当たらなければどうということは無い」
「まったく、痛いところを突いてくるじゃない! でも、このままだと旗色が悪いのは確かね……! 何か、戦況を変える何かがあれば……!」
 両者共にまだリストバンドは破れていないものの、ジャックの指摘通り、戦況はややヘスティアに不利という所か。
 理由はやはり、ジャックのユーベルコード、【"TORCHICA"】による応用性の高さによるところが大きいだろう。
 彼の防壁を利用した場所を選ばない戦術スタイルと、攻め手を許さない苛烈な攻めは、ヘスティアのジェットパックによる高機動を凌いでいた。
 ジャックはヘスティアのライフル攻撃へは冷静に外壁を用意して安全地を作り出すことで対抗し、足場を揺さぶりながら広範囲の水流で攻撃するジェットパックによる範囲攻撃は自らの防壁やマストを足場にすることで高所へと退避。
 ヘスティアのジェットパックは確かに脅威だ。高機動を実現し、自在に空中を飛び回ることで足場の不安定さからも解放されている。だが、ジェットパックが装備である以上、そこには必ず操縦によるタイムラグが発生する。
 対して、ジャックの防壁はユーベルコードによるものだ。防壁は彼の動きと連動して、リアルタイムで自在にその形を変えていく。
 恃む戦術の基盤が装備かユーベルコードか。そこで生じるタイムラグの差は、ヘスティアを徐々に追い詰め始めていた。
「まずいわね、このままじゃ……きゃッ!?」
「ここらで、一気に決めさせてもらう……新手ッ!?」
「――――ハッハッハッハ! そこで争うお二方、この私に少々ご注目頂きたい! ハッキリ言って――――私を追ってきて頂きたいのだ! もしも追って来ていただけない場合、君たちの本拠地である外周エリアを『大きく揺らす』!」
 そこでやや遠方から二人へ威嚇射撃での介入を図るのは、何の変哲もない水鉄砲一丁の身を装備したアノルルイである。彼の思惑としては、ここで一方的な強者が生まれてしまうのは好ましくない。
 彼の戦術は、敵にちょっかいをかけ、すぐさまダッシュで逃げること。そして追ってきた敵を、自らの狩場までおびき出すこと。
 その戦術を行うには、相手が釣りに引っ掛かるような状態でなくてはならない。つまり、『奴を追わなくても待っていれば勝てる』と思わせてしまってはならないのだ。
 だからこそ、アノルルイはこのタイミングで身を晒すことを選んだ。
「このまま今の勝負を続けているだけじゃ、負ける可能性が高い――――なら、あれが罠だろうと状況を動かす方が得策ね!」
「……罠だな。だが……この優位を保つには……良いだろう。罠にかけられる前に始末する」
 ヘスティアは迷わずこの状況に乗る。彼女からすれば、アノルルイの介入は願っても無いこと。この状況を続ければ負ける可能性が高い以上、相手の策に乗ってでも流れをどこかで引き寄せる他に無いからだ。
 彼女はジェット噴射を利用してジャックに水を掛けながらも加速を行い、アノルルイへと迫っていく。これはヘスティアからジャックへの『誘い』だ。戦場を大きく移動させることで、主導権を彼から奪おうという魂胆である。
 対して、ジャックは僅かに逡巡しつつも彼らの誘いに乗る。彼からすれば、最優先はこの優位を保つこと。アノルルイの『外周エリアを大きく揺らす』という言葉がブラフであろうとなかろうと、不確定要素は排除しておきたいのが本音だろう。
 そして、彼にはアノルルイの逃走を許さず一気に決めるだけのチカラもあるのだ。
「こちらの追う術には、こういうのもある――――【"TORCHICA"】」
「おわぁっ!?」
「――――そこだ」
 ジャックがアノルルイとヘスティアを追いながらも僅かに指を動かして行ったのは、逃げるアノルルイの足元に密かに移動させた防壁を立ててのトラップワーク。簡単に言えば、『足払い』のようなもの。
 だが、単純な戦術ほど刺さった時の威力は大きい。それをまともに受け、転倒はせずとも大きくよろめいてしまったアノルルイのリストバンドの両方を目がけて、ジャックの『二連狙撃』が迫る。

「――――させないわよっ!」
「おお、これは僥倖! 女王陛下に感謝の意を表そう、この大会が終わったら一曲いかがかな?!」
「後の話は祭の後でやって! さっさと逃げなさい!」
「一発防がれたか、空中で本機の水弾を狙い撃つとは――――だが」
 しかし、ジャックが放った二連狙撃の片方を空中で姿勢だけ反転したヘスティアのライフルが撃ち落とす。
 彼女にとってここでアノルルイに墜ちられては困るのだろう。故に、ヘスティアが守るのは一発だけ。アノルルイのリストバンドは残り一つだが、これで彼を追い詰めつつ活かすことが出来た訳だ。
 だが、それをみすみす許すジャックではない。彼は自分の足場に防壁を連続かつ高速で生やし、カタパルトのように用いることで猛スピードでアノルルイへと迫っていく。
「これで、止めだ」
「速いッ!? けど、させないわよ……!」
「もう少しで間に合う、私の『楽器』へ……!」
「――――風が……くる……! 全員、そこまで! この姿は伊達じゃないってとこ、見せてあげるよ!」
 だがそこで、混沌としてきた外周の戦局に、更に新手が加わる。
 【超高精度技能再現化装置】によって『メカニック』のワザを極め、水鉄砲の性能を最大限に上げた鈴鹿が来たのだ。
 外周エリアの大きな船、そのマストの上に陣取って。『ブームの仕掛け人』を最大限に極め、『プライベイティア』全域に――――熱い熱狂の風を呼び込む鈴鹿が来たのだ。
「きゃっ! 今度は、なに……!?」
「ッ、これは……暴風、か……! だが!」
「この風なら、並の水鉄砲じゃ太刀打ちできないよ! でも、ぼくが直接手を入れた、この水鉄砲なら!」
 鈴鹿が『プライベイティア』に呼び込んだ風は、バトルロイヤルを見ている海賊たちの熱狂を乗せて海を走り、荒れ狂う嵐となって島と船の全てを揺らしていく。大の大人でも立っていられぬほどの強風だ。
 特に影響が大きいのは、言わずもがな外周エリアである。結びつきが緩い船の群れで構成されたこのエリアは、既に暴風の餌食となってしまった。船の幾つかは既に風に煽られて転覆し、そうでない船もひどく揺られて話になりやしない。
 最も割を食ったのは、ジェット噴射による飛行を行っていたヘスティアであろう。彼女は風の煽りをもろに受け、僅かに体勢を崩してしまった。といっても、それはほんの僅かな隙でしかなかったが――――。
 そこを狙うのが、ジャックと鈴鹿である。

 ジャックは防壁を支え代わりにして拳銃の連射を行い、鈴鹿は持ち前の技術で水圧を強化した水鉄砲にてヘスティアをの一射を放つ。
「危うく一発退場、……っ!? 風が、まずいわね……ッ!!」
「風の影響が大きすぎる、やるなら狙撃しかないか……!」
「よし、さすがぼくが回収した水鉄砲! 風の影響も問題なしだ!」
 ヘスティアにとって不幸でもあり、幸運でもあったのは、強風の影響がとてつもなく大きいものであったということだろう。
 鈴鹿の放った高圧水流による一撃はヘスティアの片方のリストバンドを破いたが、ジャックの放った拳銃の射撃は風に煽られてまともに飛びはしなかった。出力の差、あるいは水圧の差によるものだろう。
 だが、まだまだ外周エリアの混沌は加速する。
「――――ようやく掴んだぞ! 私の楽器! さあ皆々様お待ちかね、私の演奏を開始しようか! だって私は、吟遊詩人なのだから! 【サウンド・オブ・エンタイスマント】! 演目は――――『ピストル・ジャズ』!」
「これは――――ッ、動けないッ?!」
「もう何なのよッ!」
「さすがのぼくも、これは計算外だな……!」
 超が付くほどの暴風が場を支配している最中、突発的な撃ち合いには目もくれずにお目当ての『ブツ』の元まで辿り着いたアノルルイが、いよいよその力を発揮していく。
 【サウンド・オブ・エンタイスマント】。アノルルイのユーベルコードであるその力は、彼の演奏する楽器から美しい音色を放つことで、感動によって演奏を聞いた相手の動きを止めるというもの。
 そしてアノルルイの用いる楽器は、世にも珍しい水の楽器、別名『水のオルガン』――――ハイドローロフォン。大型な上に設置型の楽器であるため、携行は出来なかったという訳だ。
 大きい楽器の中に水が常に循環しており、管に開いた穴を指で塞ぐことで水圧を変化させ、音程が変える仕組みを持つ、水の水圧で音が出る楽器である。
 そして彼が奏でるのは、この大会を楽しむ人々のための曲。風の影響なども意に介さず、動きが止まった三人の参加者たちへ、アノルルイは美しい水の旋律を見事に奏でて見せるではないか。

「新手の彼女は少し遠いか、この風と私の水鉄砲では届かんな! まあ、王と女王に意趣返しできれば上々か!」
「ぐっ!」
 自分以外の参加者の動きを止めたアノルルイは、片手で演奏を続けながら片手の水鉄砲でジャックとヘスティアへと射撃を行う。
 防壁の操作も封じられてしまい、まともに受けてリストバンドの片方を失ってしまったのはジャックである。だが、ヘスティアはアノルルイの射撃を何とか避けることに成功していた。
 ヘスティアの身を救ったのは、今も荒れ狂う暴風の煽りを受けながらも空中で浮き続けるジェットパックの不規則な移動。装備であるジェットパックは、ヘスティアの状態に関わらず稼働を行い続けていたのだ。
「ハッハッハッハ、外してしまったか! まあ良い、もう一度だ! アンコールは受付中だよ!」
「ジェットパックで助かったけど……! このままじゃ! 指先を動かすのが、精いっぱい……!」
「……、そこだッ!」
「なッ!?」
 だが、アノルルイの射撃を受けたジャックの反撃が始まった。アノルルイのユーベルコードがいかに強力なものであれど、その効果は永続という訳ではない。人は同じ感動に慣れていくものだ。
 そして、指先さえ動けばジャックにとってはそれで良い。彼は指先の操作によってアノルルイの足元の防壁を操作し、彼を僅かに空中に浮かせてやる。そうなれば必然的に、アノルルイの指先は楽器から離れ、演奏は止まる。
 外周エリアの時間が動きだす。
「良い曲だったぞ、吟遊詩人! 祭の後で一曲頼む!」
「リクエストとは、嬉しいことだ……!」
 そして、ジャックが放つライフルによる狙撃が、暴風の壁をも貫いてアノルルイの最後のリストバンドを撃ち抜いた。
 アノルルイ、脱落。

「次は風だ、落とさせてもらう!」
「今度はぼく狙いか! でも、手の自由が戻った今なら!」
「大暴れはさせないわよ……!」
 アノルルイを落としたジャックが次に狙うのは、風を呼び込んでいる原因の鈴鹿だ。彼は周囲の防壁を自らのそばに纏わせて壁としながら、狙撃の射程距離に鈴鹿を収めるため接近していく。二丁拳銃は風の影響を鑑みれば使えない。やるとしたら狙撃だ。
 だが、それを邪魔するのがヘスティアである。彼女にとっては風という要素があるうちにジャックを落としておきたいという理由もあるのだろう。風の影響を受けないライフル射撃が、ジャックの進路を塞ぐように展開されていく。
 ヘスティアの弾幕と暴風によって迂回などの進路を狭められたジャックは、必然的に最短距離をひた走って鈴鹿へと近づくこととなる。
 そして狙撃圏内に標的を収めた彼は、自らの周囲に展開させていた防壁の一部分だけを解放して鈴鹿への狙撃を敢行する。
「妨害が、多い……! しかし、圏内だ――――!」
「――――残念! 圏内なのはぼくも同じことさ!」
 その瞬間、勝敗は決した。ジャックの狙撃も、鈴鹿の射撃も、どちらも等しく正確なものであり、その弾道まで寸分たがわず同じものであった。。
 勝負を分けたのは、『性能の差』。ジャックの配布ライフルによる狙撃は、鈴鹿が最大限にまで手を加えた改修済水鉄砲の放った射撃の水圧に負けてしまったのだ。
 鈴鹿の射撃がジャックの狙撃を撃ち抜いて、彼の最後のリストバンドを穿つ。
 ジャック、脱落。

「クッ……! まさか、最後に性能差で負けるとは……最後まで面白い勝負だった、二人の健闘を祈る」
「性能って聞くと、メカニック的には負けられないんだよね! ぼくも面白かったよ、また後で! ――――さあ、次だ!」
「これで、あとはわたしとあの子だけか……! 覚悟決めるわよ、SkyFish団船長ヘスティア! 絶対に勝つんだから! 最大出力、急上昇ッ!」
 ジャックが落ち、外周エリアに残るはヘスティアと鈴鹿のみとなった。
 マストという高所に陣取り、風の影響を受けない高圧水流での攻撃を行い続ける鈴鹿がやや有利、風の影響をもろに受けるジェットパックを操りながら、ライフルを操るヘスティアがやや不利という所。
 そして、そんなことはヘスティアも良く分かっていた。だからこそ、彼女は勝負を決めるために賭けへと身を投じる。
 ヘスティアが取った行動は、鈴鹿から離れながら思い切り高度を上げていくというもの。海から水を吸い上げるホースの限界距離が来るまで、彼女はどこまでも飛ぶつもりだ。
「……高所を取ってのジェット噴射で攻撃するつもり……? だとしたら、マストで陣取るのはまずいかも……。ホースを直接弄って落とすか……?」
「やるわよ、わたし! ――――急降下ッ!」
「、来るッ! ここは一旦マストの影に隠れて、ジェット噴射をやり過ごす!」
 超上空で横軸を鈴鹿へと合わせながら、ヘスティアが行動を開始する。ジェット噴射による塩水の雨が鈴鹿へと降り注ぐが、すでにマストの影に移動を開始していた彼女は問題なくそれをやり過ごす。
 次。高空から急降下を行いながら、ヘスティアがぐんぐんと鈴鹿に迫っていく。ここで決める気だ。恐らく、どちらも。

「上空の有利を……! でも、ぼくの水鉄砲ならッ! そこだッ!!」
「――――、今! ジェットパック、分離ッ!」
「な――――?!」
 高い高い空の上でヘスティアが行った最後の策。
 それは、鈴鹿の射撃に合わせて上空でジェットパックを捨て、射線を切って更に彼女に突撃を行うことだった。
 着地などは二の次の、非常に危険な策ではあるが――――そういった発想こそが、天才の虚を突くことが出来るのだ。
「さあ、行くわよ! 【ミスティルテイン】、水鉄砲モード! ――――そこよッ!」
「っ、わああっ!」
 頭から船へと落下しながら、空中で反転した姿勢のままでヘスティアがユーベルコードを発動する。
 攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視して攻撃できるかを選択できるその力を、彼女は迷わず命中率重視で用いていく。空から放たれたライフルの狙撃が、鈴鹿の最後のリストバンドを貫いていく。
 鈴鹿、脱落。
「……。あーあ、負けちゃったかあ! しょうがない、あんな策で来るとは思わなかったなあ。優勝目指して頑張ってね!」
「いたた……。帆に引っ掛かって助かったわ……。やるもんじゃないわね、装備を捨てての突撃なんて……。ええ、頑張るわ! ジェットパックはもうないけど、やれるとこまでやってみる!」
 外周エリアの勝負が決まった。鈴鹿を下したヘスティアは、ジェットパック無しの状態で移動を開始していく。
 さて、鈴鹿の風が『プライベイティア』を支配したころ、他の場所では何が起こっていたのだろうか。


●終盤戦
 鈴鹿の風が『プライベイティア』に吹き荒れる少し前、噴水広場エリアではソレーアとひかるがタイマン勝負を行っていた。
 見れば、二人ともまだ互いにリストバンドは残り二つ。だが、僅かにソレーアが押しているか。
「どうしたよひかる! そんなもんじゃねェだろう!」
「クッ……まだまだこれからですよ! 今はまだ、耐える時……!」
 ソレーアを有利足らしめているのは、何を置いても彼の武装の多彩さにあるだろう。牽制で放たれる大小の水ボムは絶えずひかるにプレッシャーをかけ続け、彼女の動きに精神的な制限をかけている。
 何よりもひかるにとって厳しいのが、彼女の二丁拳銃+水の精霊さんの加護による無尽蔵広域連射を、巨大なハケを振り払うことで防がれてしまうことだ。
 真正面からの攻撃はハケで防御しつつ、水ボムとハケの水飛ばしで牽制しながら致命の隙を狙う。ソレーアは対大群も想定しつつ、非常にタイマン性能の高い装備でこの勝負へ挑んでいたのである。
 だが、ひかるとてただ押されるだけではない。彼女はソレーア相手に防戦一方のように見せて、その実自らの戦場に水を撒き続けていた。いわば、これはひかるにとって仕込みの時間。
 さらに言えば、彼女と水の精霊さんは鋭敏にこの島の変化を察知していた。
 ――――『島の湿度が上がっている』。それも、ごくごく自然に、人が疑問を抱かないような速度で。それが逆に不自然であることを、彼女たちは読んでいた。
 内周エリアの猟兵たちが、噴水広場へ集まり始めているのだろう。湿度が上がっているのも、恐らくは誰かの戦略だ。
「そろそろ、何かが動くはず……! 狙うのはそこ……! っ、きゃぁっ?!」
「ひかる! お前が何か仕込んでるのは分かってるぜ! だが、俺も玉虫色は許せねえ緑の男! 煮え切らねえならこっちから決めに行くぜ――――ッ?!」
 焦れたソレーアが一気に試合を動かすべく、自らのスペシャルを披露しようと武器を構えたその瞬間である。
 鈴鹿の風が吹いて試合が動いたのは、正にその時であった。豪風が内周エリアの霧を噴水広場に呼び込んで、猟兵たちを連れてくる――――!

「――――行くわよ、アマラントス」
「――――ひかるさんっ、お覚悟っ!」
「うおおおっ危ねぇな美人の姉さんよ!」
「オリヴィアさん?! いつの間に!? そうか、風と霧に乗じて――――! ならっ! 水の精霊さん、この霧をもっと濃くして!」
 噴水広場に早速踊り出でたのは、まず二人。
 アマラントスとのコンビネーションを用いて霧の中から突如現れ、ソレーアの背後より奇襲を仕掛けた寧。
 そして、ひかるの横合いからダッシュで駆け付け、二丁拳銃の乱射を放っていくオリヴィアである。
 強風に大きなハケを呷られて、体のバランスを崩しかけていたソレーアだったが、寧の放つ水鉄砲の一撃を寸での所で躱し、アマラントスの一撃を逆手に持ったハケで受け止めていく。
 その隣で、ひかるも自分がばら撒いた水の上で強化されている脚力を活かし、オリヴィアの乱射をステップで避けていく。また、水の精霊さんの力を用いて霧の濃度を上げることで、彼女は霧の中へ溶け込んでいく。
「――――そこです、ソレーアさんっ!」
「同じ攻め手なら喰らわねえ――――ンだとォ?!」
 そう。ひかるの狙いは、風が吹く前からソレーアであった。彼女にとっては誰しもの想定外であった強風も、内周エリアの猟兵たちの介入も、そしてこの霧も、全てが丁度良かったのだ。
 霧に乗じてソレーアの横合いに忍び寄った彼女は、彼に水鉄砲による奇襲を仕掛けると同時に――――水浸しになった噴水広場の水面を利用して、自らの少し離れた位置に水の精霊さんを新しく召喚。
 独立して鉄砲水を放ってもらうことで、精霊さんとのコンビによる波状攻撃を放ってみせたのである。ソレーアに一撃お見舞いしてみせたひかるはそのまま噴水広場の中央から距離を離し、一度仕切り直しを図る様子。
 これでソレーアのリストバンドも片方が失われた。そして、その事実がソレーアの緑魂に火を付けた。

「へっ! 良いじゃねえか、大分面白くなってきやがったぜ! これぞ祭ってもんだろうよ! 行くぜ行くぜ行くぜ、霧も島も敵も祭も、全部俺色に染め上げてやらあ! ――――【オールグリーン】!」
「あら、これは良くないわね……また少し隠れさせてもらおうかしら」
「これは、ちょっとまずいですね――――! 上に逃げるしかない!」
 ソレーアのユーベルコード、【オールグリーン】は自身から半径40m弱内の指定した全ての対象を攻撃するという、集団戦及び混戦にはもってこいのチカラ。
 ひかるとのタイマンにおいては後隙の大きさを見越して使用を避けていたバケツをも用いて、ソレーアは噴水広場に集まってきた猟兵たちすべてに対してバケツと水ボムによる全方位超範囲攻撃を仕掛けていく。
 その威力は折り紙付きな上、バケツの水と共に放つ大量の水ボム同時爆破により、周囲の霧も僅かに晴れていくではないか。
 そんな彼の無差別攻撃を濃霧の中で先んじて察知できていたのは、アマラントスと視界を共有していた寧だけである。彼女はソレーアが攻撃態勢に入ったことを確認すると、即座に水しぶきの影響がない影へとその身を隠すことで難無きを得る。
 対照的に、少々厳しい形になったのはオリヴィアだ。手持ちの装備的にも近距離で戦わざるを得ない彼女は、必然的に先の戦闘で誰よりも深く踏み込んでおり、ソレーアの範囲攻撃を回避するために空中へジャンプすることで回避する他になかった。
 そして、ソレーアの攻撃の影響で霧が僅かに晴れたことを喜ぶ猟兵もいた。
「……霧が僅かに晴れた……これで射線が通りますね。ひかるちゃん、オリヴィアさん――――失礼」
「っ……! これは――――シャル姉さんの狙撃?!」
 その猟兵とは、噴水広場からやや離れた内周エリアの十字路。濃霧に包まれたその道に潜みつつ、狙撃態勢を取り続けていたシャルロットである。
 彼女が狙うのは、噴水広場の最も端に位置していたひかると、ソレーアの攻撃を避けるために空中に上ったオリヴィア。
 シャルロットの狙撃は正確無比そのもの。彼女の放った二発の狙撃のうち、一発は間違いなくひかるのリストバンドを射抜いていく。そしてもう一発はオリヴィアの最後のリストバンドに吸い込まれるように空を切り――――しかし、リストバンドを射抜くことは無かった。

「っ、止められた?!」
「――――防ぎ、切った……! こうして上に上れば、必ずシャルロットさんの狙撃が来るだろうと思っていたんです! それに、狙撃は良く見てましたから!」
 オリヴィアはシャルロットの狙撃を止められたのは、オリヴィアが彼女の狙撃を最も警戒していた故だ。
 ティオレンシアへの狙撃に、鈴鹿への狙撃。バトルロイヤル中で行われたシャルロットの正確無比な狙撃のどちらもを、オリヴィアは至近距離で視認していた。
 だからこそ、オリヴィアはシャルロットの狙撃を自らの獲物である水鉄砲を盾にすることで受け切ったのだ。彼女の優れた感覚と度胸、そしてシャルロットの狙撃を至近距離で見た経験があってこそ成り立つ防衛策である。
「オリヴィアさんには位置が完全にバレましたね……! 狙撃ポイントを変えて――――!」
「――――ようやく追いついたわぁ。もう逃がさないわよぉ」
「ッ!! ……、っ、やられた……っ! 結構、良い線行ったと思ったんですけどね……!」
 また、霧が晴れたことを喜ぶのはシャルロットだけではない。『狙撃手』を追っていた、ティオレンシアもだ。
 彼女が噴水広場エリアに今まで接近していなかったのは、ひとえに距離の有利を取られる『狙撃手』の痕跡を追跡していたため。ティオレンシアの【要殺】があれば、それも可能だ。
 そして、こうして霧が晴れたことで十字路内の見通しは良くなり、霧の中で隠れていたシャルロットの姿もティオレンシアの視界に映ったという訳だ。
 そうしたら、後は接近して早撃ちをお見舞いしてやるだけ。猟兵たちの戦いはいつだってシンプルだ。『どちらがより強みを押し付けられるか』。これに尽きる。
 ティオレンシアの至近距離からの早撃ちにて、シャルロットの最後のリストバンドも破れてしまった。
 シャルロット、脱落。

「――――チャンスだ! オリヴィア、覚悟してもらうぞ!」
「私も一枚噛ませて頂こうかしら。手強い人は早めに倒しておきたいものですしね」
「まだまだ塗り足りねえなァ、着地も着地狩りも、纏めて塗り潰させてもらうぜ!」
「この状況なら、一網打尽にできるかも……! もしくは……! 精霊さん、いくよ!」
「あらあら、もう佳境って感じねぇ? あたしも急ごうかしらぁ」
 噴水広場の戦乱はまだ終わらない。続いて噴水広場に繋がる小道から、オリヴィアの隙を突くべく飛び出したのは、登場の機を今か今かと待ち続けていたヴァーリャである。
 ヴァーリャの意図を読み取り、それに追従する形で続くのは寧。アマラントスには自らの背後を警戒させ、オリヴィアの退路を断つべく慎重に動く様子。
 そしてそれらを纏めて吹き飛ばそうとバケツを構えるのはソレーア、更にソレーアの背後から状況を一網打尽にすべく動くのはひかるだ。
 その様子を把握しながら、ティオレンシアも戦乱に加わらんとして走る。いよいよ最終局面だ。
「それッ!」
「ごめんなさいね」
「くッ……、これ以上は……!」
 空中のオリヴィアはヴァーリャの投げる水風船爆弾が破裂する前に身をよじって繰り出すキックで弾き、寧が放つ水鉄砲の連射は何とか対象の手首を逃がし続けることで避け続ける。
 それも長くは続かないだろう。攻勢に出られぬ状態が続く以上、オリヴィアが圧倒的な劣勢に立たされているのは間違いない。
「オォラよッ! グリーングリーンオールグリーン!」
「うわぁっ!? 範囲攻撃か、厄介だな……! 中々近づけない!」
「あまり私と相性が良くないですわね、あのお二人の攻撃は……」
 だが、戦場を自分の思い描いた状況に変えることほど難しいものは無い。そこに複数人の意思が介在していればなおのこと。
 ソレーアが放つ範囲攻撃という戦場の一要素が、ヴァーリャと寧の深追いを難しくさせていた。
 しかし、どれだけ濡れて湿っていても、現状況は火薬庫だ。だれかが火を付けてさえしまえば、後は流れるように連鎖的な爆発が起こるはず。
「――――オリヴィアちゃん、また付き合ってもらうわよぉ」
「ティオレンシアさん……! 良いでしょう、勝負です!」
 そんな火薬庫に突出して突撃を行うのは、噴水広場へと駆けこむティオレンシア。ここに残りの参加者の全員が揃っている以上、内周エリアにいる意味もない。
 彼女が狙うのは、先ほど何とか着地へと至ったオリヴィアの隙。しかし、勝負を挑まれたオリヴィアも既に覚悟は決まっている様子。
「やるわねぇ。まだいくわよ」
「クッ、……耐えて見せます! 必ず!」
 すぐさま互いに間合いを図りながら走る二人の間に幾つもの火花が散る。比喩表現ではあるが、恐らく参加者たちの目には本当に青い火花が散っているように見えただろう。
 ティオレンシアの早撃ちにやや遅れながら、オリヴィアが二丁拳銃による防衛線を張っているのだ。空中に放たれる水しぶきが、真反対の弾道による別の水しぶきにぶつかって空中で散っていく。オリヴィアの視力が、ギリギリでの防衛を可能にしているのである。
「まだまだ。まだまだまだまだ」
「ぐっ、う、……あああああ!!」
 しかして無限に続くかと思われた両者の撃ち合いは、唐突に終わりを告げる。――――ティオレンシアの弾切れだ。
「っ、まだ――――」
「させませんっ!!」
「――――……あらぁ、残念ねぇ。……まあ、仕方ないか。得意の攻撃で仕留めきれなかったってことだもの」
 オリヴィアが放つ水鉄砲の一撃が、懐のナイフを取り出そうとしたティオレンシアの最後のリストバンドを射抜いた。
 ティオレンシア、脱落。

「はぁっ、はぁっ……! ティオレンシアさんと私の水鉄砲の形式は同じ……! なら、耐えればそろそろ弾切れが来ると、思っていました……!」
「ああ、成る程! あっはっは、やるわねぇ。あたしの負けだわぁ。頑張ってね」
 【トリニティ・エンハンス】。オリヴィアが使用していたユーベルコードである。彼女はこの力を用いることで水の魔力による自己バフを得、そして残弾の補充を常に行っていたのだ。
 思うに、オリヴィアは最初にティオレンシアからの被弾を受けた時からこの情景を思い浮かべていたのだろう。だからこそ、ここまで耐えたのだ。ティオレンシアの弾が切れる、この瞬間まで。
 ――――だが、そこで勝負が終わらないのがバトルロイヤルというもの。オリヴィアに迫るのは、先ほどから虎視眈々と好機を窺っていたひかるである。
「覚悟してくださいね、オリヴィアさん! 精霊さんに手伝ってもらったわたしの水鉄砲は――――強いですよっ!」
「ッ?! こ……れは、さすがに……! 受けきれない……!! きゃああっ!」
 数々の攻撃を避け、時に退け、ティオレンシアとの撃ち合いにおいては水しぶきを空中で撃ち落とし続けるという芸当まで披露してみせたオリヴィアであったが、そんな彼女を仕留めたのは――――。
 一言で言うなら、『水力差』だろう。それも、圧倒的な。ティオレンシアとの撃ち合いに集中力の殆どを割いていたオリヴィアはひかるの接近に気付かず、そして近距離でのタイマンの撃ち合いにおいて、精霊さんの協力を得たひかるは最強であったのだ。
 二丁拳銃の乱射でも迎撃が不可能なほどの水しぶき、いや、ここまでくれば最早水流か。僅かに耐えることが出来たとしても、精霊さんによって水の供給も自動で行われ、更に地形からのバフも得ている以上、ひかるの勝利は堅いものであったのかもしれない。
 オリヴィア、脱落。

「うううう……ひかるさんの警戒を怠っていました……! 頑張ってくださいねっ! 優勝目指してファイトですっ」
「ありがとうございます、オリヴィアさん! わたし、頑張りますよ!」
 ティオレンシアが落ち、オリヴィアが落ち、大きく状況が動いた。
 それを見て弾かれたように、ひかる以外の三人の猟兵も再度動き始めていく。
「あの二人の範囲攻撃は怖いけど、タイマンに持ち込めれば俺にもチャンスはあるはずだ……! なら、そのために!」
「こういう状況は、あまり好きじゃないのだけれど……。ま、倒されるまでは、精々頑張ってみますわよ。だって、こんなに楽しいのだもの!」
「そいつは同意だな、美人の姉さん! 俺は自由にやらせてもらうぜ、後悔のないようにな!」
 噴水広場の中央のひかるを中心にして、僅かに離れた場所からヴァーリャは寧への攻撃を開始する。ソレーアとひかるたちへ挑むための状況を作り出そうとしているのだ。
 それを受けて、寧は敢えてソレーアの方へとわざと移動を開始する。この状況を乱戦に持ち込むつもりだ。アマラントスとの協力を考えれば、乱戦の方が目があると踏んだのだろう。
「……良し、ここだッ!」
 ――――だが、そこでヴァーリャが動いた。寧とソレーアに思い切り背を向けて、彼女は単身ひかるへと猛ダッシュして距離を詰めていく。
 今この状況での反転こそ、自分が最も求めた状況への近道であることに気付いた故だ。
「タイマン勝負だぞ、ひかる! 正々堂々、楽しくな!」
「ヴァーリャさん……! はい、望むところです! 来て、精霊さん!」
「お、タイマン勝負かい! 俺らもやるかい、美人の姉さんよ! ここらで一つ踊ってくれや!」
「ふふっ……、ええ、こうなったならば受けて立ちますわ。逃げの一手も具合が悪そうですし、熱烈なアプローチには答えなくてはね? ――――アマラントス」
 状況は二つに分離した。ひかるとヴァーリャのタイマン勝負、ソレーアと寧のタイマン勝負だ。

 もはやこの勝負、誰が最後の生き残りになってもおかしくはない。――――素早く仕掛けたのは、ヴァーリャである。
 彼女は持ち前の脚力を活かして猛然とダッシュを行いながら、要所でジャンプを挟むことでひかるの射線をズラして接近を試みる。
 しかし、ひかるとてみすみす接近を許すわけではない。弾数無限のシャワーのような水流を絶えず放ち続けることで、彼女はヴァーリャをけん制し続ける。
 ここまで二人の想定通り。そしてきっと、これからも。
「やっぱり、ひかるはそう来るよな! ――――【風神の溜息】ッ!」
「ヴァーリャさんこそ、そう来ると思ってました! 【水の精霊さん】!」
 ひかるへの最後の接近を行うべく、ヴァーリャはユーベルコードを用いて水浸しになった地形を一気に凍らせていく。ひかるの地形のバフをなくしつつ、自らの移動経路を確保する最上手だ。
 だが、ひかるもヴァーリャのその手を予期していた。だからこそ、彼女は水鉄砲の射出を一旦止めて、最後の瞬間に備えて水鉄砲の水圧を高めていく。
 二人の抜き身の刀は今こそ鞘に納められ、敵のリストバンドを食い破るその時を待っている。これは居合いだ。ナイフと水鉄砲による。
「はあああァァァッ!!」
「ええぇぇぇいっっ!!」
 それは全く同時のこと。
 ヴァーリャが氷面を猛スピードで滑り抜け、ひかるの最後のリストバンドを切り裂くのと、ひかるの水鉄砲で高められた水圧が、敵を飲み込まんとして放たれ、ヴァーリャの最後のリストバンドを破いたのは。
 ――――即ち、相打ちである。
 ひかるの装備と水の精霊さんのシナジーと、ヴァーリャの自らが最も恃みとする氷の魔力とスケーティングの技術は、この時に至って互角であった。
「くぅ~……あははははっ! 引き分けか、ひかる! すごいな、あの水鉄砲のやつ! 俺もう先にやられたかと思ったぞ!」
「うふふっ、わたしも負けたかと思いました! そっかあ、水浸しにしたところを凍らされるとは……ちょっと思ってなかったですね……!」
 しかし、二人の表情は晴れやかだ。勝つために全力を出し、その過程を楽しむことを知っているから。
 ひかる、ヴァーリャ、脱落。

「……どうしたよ、来ないのかい?」
「機を待っているんですよ。……ふふ。勝つために、そして楽しむためにね」
 二人の少女が互いの健闘を称え合うのとは対照的に、ソレーアと寧のタイマン勝負は非常に――――静かなものであった。
 完全なる膠着。
 ソレーアが先に動けば、寧はそれを見てアマラントスに彼の背後から仕掛けさせるだろう。そして、そのことをソレーアも分かっている。
 寧が先に動けば、多彩な装備を持つソレーアが最適解を用意して後の先を取り、勝負を決するだろう。そして、そのことを寧も分かっている。
 だからこその、この膠着だ。
「……姉さんよ。あんた、これに勝ったら優勝賞金はどうする気だ?」
「……そうですわね……うーん……特に考えてませんでしたわ。――――今を楽しむことに集中しすぎてしまったみたい」
「くく……、ふははっ! 良いね、それ。そうかい、そうだよなァ。後のことを考えて動けなくなっちまうなんざ、俺らしくねえやな……ッシャア! 名乗るぜ姉さん、俺は思い付きとノリで動く系ペインター、ソレーアだ! あんたの名前は?!」
「あら――――ふふ、面白いひと。私、寧と申します。勝っても負けても、恨みっこなしでよろしくお願いいたしますね」
「オッケー、寧! それじゃ準備は俺が用意する! このボムが地面に落ちたらスタートだ!」
「承知いたしましたわ、ソレーアさん。……それでは、尋常に」
「おおよ! 尋常に……!」
 勝負の掛け声は要らなかった。二人はソレーアが投げた小型の水ボムが地面に落ちて弾けたのを皮切りに、同時に行動を開始していく。

 ソレーアは小型の水ボムを寧の腕に投げつけつつ接近を図り、寧は水ボムを空中で撃ち落としながらアマラントスとの多角的な攻めを展開する。
 アマラントスが後方から放つ水の刃を防ぐのは、ソレーアの構える巨大なハケ。先ほどアマラントスの動きを見ていたこともあり、僅かにソレーアに余裕が見えるか。
 それを察して、寧がアマラントスの攻撃の狙いを僅かに変える。彼女はソレーアのリストバンドではなく、彼の武装である巨大なハケをアマラントスに叩き落とさせるよう動いたのだ。これであわよくばソレーアの武装を奪えるし、そうでなくとも彼の動きを止めるか崩すかは出来るはず。
 だが、敵の急な狙い変更に戸惑いながらも主導権を握られまいとして、ソレーアは自ら巨大なハケを手放してアマラントスから距離を取りつつ、一気に寧へと接近していく。実に見事な切り替えだ。
 対して寧はアマラントスを引き戻しながら、バックステップで再度距離を取っていく。バケツの範囲にさえ入らなければ、水ボムを撃ち落とすだけで済む。アマラントスを戦況に加えて仕切り直しを図るつもりだろう。
「――――狙い通りィ! この戦場を染めてやるぜ、俺色にッ!!」
「――――な――――っ!
 しかし、その状況でソレーアは水ボムを出すことはしなかった。意表を突くかのような全力疾走である。
 彼は無手のまま凄まじい勢いで寧へとダッシュで近づき、そして懐に仕込んだ最後の武器である筆を取り出して、虚空へ一筆走らせたのだ。
 寧の最後のリストバンドが、ソレーアが最後まで隠し持っていた筆によって破られていく。
 寧、脱落。
「まさか……、最後まで切り札を隠していらっしゃるとは思いませんでしたわ。お上手なのね」
「いいやあ、こいつは切り札とはちょっと違うね! こいつは俺の『いつもの手』さ! ペインターたるもの、やっぱスペアの筆くらいはいつでも懐に忍ばせておかねえとな!」
 そして――――。
 噴水広場の最後の生き残りが、ソレーア・グリーンライトに決定した。

「……お、来たな? 遅かったじゃんか!」
「外周エリアからここまで遠いのよ。ジェットパックも無いし、めちゃくちゃ歩いたんだから……」
「くく、それじゃ休憩でも挟むかい?」
「ふふ、冗談でしょ? 今すぐやりましょう、『ピストル・ジャズ』を終わらせるために!」
「良い意気込みじゃねえの、グリーンだね! ――――勝っても負けても、恨みっこなしでよろしく!」
「ええ、こちらこそ! ――――行くわよ、最後まで諦めないんだからねっ!」
 既にジェットパックを失って、ライフルのみで噴水広場へと到着したヘスティアと、自分以外の全員を倒して待機していたソレーアの最終決戦の結果がどうなったかは――――皆々様の想像にお任せしよう。


●後日談
 ――――今年の『ピストル・ジャズ』は盛り上がったよなァ!
 何てったって、猟兵の連中がイカしまくってたぜ! 全員戦いぶりも最高だったが、その後の打ち上げでの切り替えの早さも良かったやなァ!
 俺はアイツが好きだったなァ……あいつだよ、ほれ、あの吟遊詩人! アイツの戦い方も、それに打ち上げの時の演奏も超一流だったろ? アイツはイカすぜ、来年も呼ぼう!
 あァー、あのなんか変だがめちゃめちゃ演奏の上手い奴! 黒くてカッコイーあんちゃんも、あの人の演奏には耳を傾けて聞いてたよなァ、こう、耳をピン! ってよ!
 馬鹿言え、ありゃ鎧だろーが。鎧の耳が立つわけなくねえ? ってか、俺としちゃあの給仕の手伝いをしてくれた子が最高に可愛くてハッピーだったぜ……また来年も来てくれねえかなあ……。『ぱあらあめいど』とかいう文化なんだろ? 極東サイコーかよ……
 オメーみたいな髭面のために来てくれるわけねーだろが、ギャハハハ! だが、また来て欲しいってんなら……俺ァ、あのオレンジの水着の金髪の子が良い……
 アァ?! オメー45も過ぎて―――― ちっげーよボケ! 娘に似てんだァ、もう何年も会ってねえけどよ……。あの子のブロンドの一つ結びがな、娘に似てたのさァ
 ふーん、おっさん娘いたのかい? 俺ァ断然あのバーテン風のお姉さんだねえ! あの糸目であの声ッてのがよ、タマんねェのよ! 酒の席で一杯作ってもらったんだけどな、それがまた旨ェのなんのって!
 飲むといやァよ、乾杯の時にコーラ飲んでたあのメガネっ子! あの子も可愛かったよなァ、なんつーの? 健康的で色気より食い気って感じだったけどよ、打ち上げの時にずゥッと楽しそうな笑顔だったのが印象的だったぜ……
 いや待て! 健康的って話なら俺はあの俺っ子ちゃんを推していきてェ! あの子は良ォ~く分かってたぜェ、『ピストル・ジャズ』で大事なのは楽しむことだってな! あーあ、来年と言わずまたすぐにでも来てくれねえかなァ
 フッ……なァんも分かっちゃいねえなァ、オメーらはよ…… さては角っ子ちゃんの献身ぶりを見てねえな? そらもう大したもんだったぜ、お客さんだから気にしねえでくれって言ってるのによ、体調崩した奴らの治療を引き受けてくれてよ……何だっけな、草木の精霊さんつって……
 いやいやいやいや! それを言い始めたら俺ァあの色黒の肌のオトナのねえさんに骨抜きにされちまったぜ!? あの人の目で見詰められた時にゃよ、俺ァ人魚伝説もあながち嘘じゃねえかもなって思ったね!
 なんだよ自慢話かァ? それならホレ、オメーあの子の海賊団の名前は知ってんのかよ? 知らねえだろうなァ、俺は直接教えてもらったけどよ! 知ってるよォ、SkyFish団だろ、酔ったお前の口から何度も聞かされたよ! 
 しっかし、やっぱこの話の時に欠かせねえのはあの男だよなァ? おおー、アイツな! あの緑の! ビビったよなァ、乾杯の段になっていきなりよ、『財宝は辞退だ。今回の飯と酒、今後の祭りに使っとけ!』なんて言うんだからよ! アイツは海の男だぜ、今度会ったら俺の船に乗せてやっても良いな!
 ヘヘへッ、オメーが『船に乗せて下さい』って頼む側じゃねえのォ? ギャハハ、言えてらァ! うるせーテメーら! 文句あんなら来年の『ピストル・ジャズ』でなァ――――!

●パンフレット
 この祭りを『ピストル・ジャズ』、何百隻からなる私掠船の成れの果てを、『プライベイティア』と呼ぶようになったのには由来がある。
 最初は、ほんの小さな小島を奪いあっての海賊同士の縄張り争いが切っ掛けだった。
 どうして金銀財宝を夢見る海賊たちが、そんな小さな小島を巡って必死に争いなどをやっていたのか?
 答えは簡単。今ではこの街のシンボルとなっている噴水広場を見れば分かると思うが、例の小島とやらには奇麗な水が湧き出る泉が存在したのだ。
 つまり、昔の海賊たちは自分の喉を潤すためのほんの僅かな水を確保するために、手首から血を流して血みどろになりながら鉄と火薬によるお祭り騒ぎを連日連夜繰り返していたという訳だ。
 水を争ってのバカ騒ぎは遠くの海にも良く聞こえ、水をたんまり船に積み込んだ賢明な船乗りたちは、用意が不十分だった愚か者たちが繰り広げる鉄火の合奏を揶揄して、『ピストル・ジャズ』と呼ぶようになった。
 そうして小島の上には血だけが流れた。無数の命が無くなって、小さな小島の周りには帰る奴のいない船が寄り添うように溜まっていくようになった。
 それからだ。潮の流れをまったく無視して、この場所に乗組員のいない私掠船が集まり始めるようになったのは。
 まるでそいつは、死んだ船が引き寄せ合って寄り添いあっているようだった。賢明な船乗りたちは、この場所に『プライベイティア・グレイブヤード』という名を付けて恐れるようになった。

 ある日のことだ。血に濡れた小島の上で、どうしようもなく喉の渇いた二人の海賊が銃口を互いの額に突き付けながら、一つの協定を作り上げた。
 『独り占めには足りねえが、分けりゃあ喉は潤せる』。
 こうして、ほんの小さな小島の泉はたくさんの海賊たちの金と労力とで噴水広場となった。
 この広い海が広がる世界において、水は誰のものでもなく、皆の共有財産であることを、誰の目にも明らかにしたのである。
 噴水広場ができ、航海における要所となった『プライベイティア・グレイブヤード』には、気付けば人が住み始めるようになった。
 最初は目ざとい商人たちである。彼らは小島を取り囲む船の墓場を、それぞれが金を出して勝手に補修しながら市場へと変えていった。
 その次に日雇いの力自慢たちが移り住んできた。彼らはその力を惜しみなく使い、壊れた船のあちこちを適当に直しながら居住区へと変えていった。
 そうして船の墓場、『プライベイティア・グレイブヤード』は海に浮かぶ船島こと『プライベイティア』と時間をかけて変化したという訳だ。
 何十年という時間をかけて墓場は島になり、飲み水にも困らなくなったころ、二人の子供たちが噴水広場を舞台に水鉄砲だの水のチャンバラだので遊び始めた。
 二人の年寄りがそれを見てこう叫んだ。『ピストル・ジャズ』だと。子供たちはその言葉の響きが気に入って、年寄りたちが昔話をして、それから後は早かった。
 かつて喉の渇いた馬鹿野郎共が織りなす鉄と火薬の合奏を指し、揶揄されていた『ピストル・ジャズ』は、今では誰からも開催を待ち望まれる、水を用いたお祭り騒ぎと姿を変えたのだ。
 これが、『ピストル・ジャズ』と『プライベイティア』の成り立ちである。
 今年の祭に参加してくれた、全ての参加者へ感謝を。それから、分け合う心と、真水に感謝を。
 私たちはいつでも水に助けられ、水に活かされている。それを理解してくれている者へ、私たちは協力を惜しまない。
 いつか奪うことしか知らないコンキスタドールが蘇った時、私たちは必ず対抗することを、真水と『ピストル・ジャズ』に誓う。
 『プライベイティア』近海一同より、愛を込めて

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月27日


挿絵イラスト