『これは旅団シナリオです。旅団「OX-MEN:フォース・ポジション」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです』
OX-MENを知らぬ者はいないだろうが、一応説明しておこう。
OX-MENとは、己の立ち位置を示すもの。破壊する者、守護する者、回帰する者……。
その立ち位置は様々だが、その力を猟兵として振るい、世界の危機を救う。
これは、そんな彼らの戦いの。記されていなかった一ページである。
OX-MEN:双星山の戦い(ジェミニスターズ・マウンテン)
☆☆☆ 星の章 竜牙大願 ☆☆☆
これは何処の世界のことだったか。
パラドックスマンとの戦いの後、オックスメンは残された謎を追っていた。
そう、テンプル・スパイラスに残されていた三枚の絵である。
猟兵として数多の世界を渡り、数多の冒険と戦いを繰り広げる。
そんな日々の中、ついにその内の一枚が示す地を発見したのだが……。
「見事! よくぞ私の獣壊陣の内、三つを突破した!」
パラドックスマン。強大な龍の復活を目論む、邪悪な集団。
困難を乗り越えた彼らの姿を見つめる男は僧衣を纏い、手にした錫杖からは雷を迸らせる。
その顔は髑髏そのもの。いや、顔だけではない。手も足も、全て骨だけが露出していた。
「そうでなくてはな……だが、次なる陣も乗り越えることができるかな?」
ドン、と錫杖で地をつく。
それと同時、山道を進むオックスメンたちの足下に光が広がった。
だが、四度目となれば落ち着いたもの。
どちらにせよ、この陣を突破しなければ目的の場所へはたどり着けないのだ。
「さあ、ここからだ! お前たちの力が本物だというのならば……この結界を破り、私のもとまでたどり着いてみせよ!」
彼らはそれぞれが覚悟と共に光の中へと消えていく。
そして、光が消えた後には。
「遅れてすまない。状況は――む?」
オックスマンが一人、残されていた。
納斗河 蔵人
遅れてすまない。状況は理解した。このシナリオは旅団シナリオだ。
参加できるのは【OX-MEN:フォース・ポジション】の旅団員のみとなります。
例によって詳細は旅団掲示板でご確認を。
皆さんの立ち位置をこれでもかと見せつけてください。
今回のオックスマンは基本OPのみ。最後にちょっと出てくる可能性はあります。
頑張っていきますのでよろしくお願いします。
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
OX-MEN:ジェミニスターズ・マウンテン
剣の章 美食大乱
霧が、晴れた。
この感覚ももはや四度目。慣れたものである。
「……あれ?」
だが、これまでと違うのは。
「1、2、3……5人か」
全員が同じ陣に引き込まれたのではない、ということだ。
「まずは状況確認、だね」
「ええ。これまで同様、今回も何らかの事柄を解決すれば道は開かれるのでしょう」
フィオレッタの言葉にカプラが答える。
既に三つの獣壊陣を突破してきた彼らだが、毎回飛ばされた先では事件が起こっていた。
獣の大群の襲撃であったり、失せ物探しであったり。
それらを解決することで、道を切り開く宝具を手にしてきたのだ。
「ここではどのようなことが起きてるのかな」
「サクッと解決できればいいんだけどねー」
ライカは辺りを見渡すが、人影は無い。
イサナも同様に、しかし事件の兆候は感じられない。
「まずは……歩いてみるか」
「だね」
源次が当たりをつけて一歩を踏み出す。
他の面々もそれに続いた。
「出て行け! この店も、包丁も! 渡さないよ!」
「いい加減諦めろよ、シャオ」
「ギャッハッハ! 客なんざ一人も居やしねぇじゃないか」
「それはおまえらのせいだろ!」
小さな料理屋らしき建物の前。一人の少女が大男に向けて包丁を突きつける。
しかしその手は震え、とても脅しになってはいない。
実際、男たちは余裕の態度で、ニヤニヤとした笑いを浮かべながら少女……シャオを見下ろしていた。
「お前の親父、サンダンはそりゃあすごい料理人だったさ。だがな、もう死んだんだ。その天叢雲包丁はお前にはとても扱えねぇ」
「だとしてもだ! 父さんの店はあたしが守る!」
「お前には無理だ! 暗黒美食料理會に店も包丁も差し出しちまえ!」
「そうだぜ、大人しくいうことを聞けねえってんなら……」
「な、なんだってんだよ……」
威勢のよかったシャオであったが、男たちに囲まれ、声が震える。
辺りの住人も遠巻きに見守るばかり。この村は暗黒美食料理會に支配され、逆らえば生きていけないのだ。
「包丁は手に入れなきゃならねぇ。力尽くでもだ!」
「それまでにしておけ」
「なにっ!」
「えっ?」
男が振り向く。シャオの視線もそちらへと向く。
そこにいたのは、刀に手をかけた源次。
そう、オックスメンである!
「女の子相手に大の男がよってたかって……恥ずかしくないの?」
「事情は分かりませんが、そのような行い見過ごすわけにはいきません」
声に気を取られた隙を突き、フィオレッタとカプラが男たちとシャオの間に割り込む。
この陣を破るため、という意味もある。
だがそれ以上に目の前でこんなものを見せられて、黙っていられるわけが無いのだ。
「な、なんだテメェら――」
「邪魔するんじゃねぇ!」
「おっと、それ以上やるっていうなら、この銃が黙ってないよ」
「わたしはそれでもいいよ。手っ取り早く済みそうだし」
突然の乱入者に男たちが叫ぶ。
しかしそれよりも早くイサナの銃は狙いを定め、ライカは剣を手にしている。
「えっと……」
「ちっ……」
戸惑う少女だが、リーダー格は不利を悟ったか。
部下たちを制し、シャオをにらみつけた。
「今日のところは引き下がってやる。だが、店を続けられるとは思うなよ」
「な、何度きたってこの店は渡さないよ!」
「いつまで続くかねぇ……」
あきれたように笑い、男は背を向ける。
「兄さんたち、あんまり正義面してると長生きできねぇぞ」
それだけを言い残して、男たちは去っていった。
「この店、父さんの店なんだ……それを暗黒美食料理會の奴らが……」
少女はオックスメンを店に招き入れ、語る。
食卓の上にはお手製の蟹チャーハン。
小さいが埃一つ落ちていない様子から、彼女が丁寧に掃除をしていることがうかがえた。
父親が厨房に立っていたときはまだよかった。
暗黒美食料理會を相手にしても一歩も退くことはなく、村人もその味に魅了され大盛況。
どれほどに妨害を受けても決して屈しはしないと団結していたのだ。
しかし、一ヶ月前。
彼が突然に姿を消したことで状況は一変してしまう。
「みんな、逆らったら命が無いって。でも、あたしは……!」
シャオは悔しさに涙をにじませる。
父の店。幼い頃に母を亡くし、男手一つで育ててくれたこの店。
それをあんな奴らに渡してなるものか!
「なるほど……状況は理解しました」
「父親が守ってきた店を受け継ぎ、同じくして店を守るという意志……」
カプラが告げ、源次が空になった皿にレンゲを放る。
「なるほど、お前も「ディフェンダー」か」
父には及ばないのかもしれないが、料理の腕はたいしたものだ。
あのような妨害が無ければ、いずれ店も繁盛し活気を取り戻すだろうと源次は考える。
自分も店を守る身だ。力になれればいいのだが……
「美味しかったよ、蟹チャーハン」
――ぶっ壊れてるわたしだけど、味覚はぶっ壊れてないみたい。
そんな風に思いながらライカは口元を拭う。
「ご馳走してもらっちゃったしね。できることがあるならやらせてもらうよ」
イサナも口元にご飯粒をつけながら笑った。
「そうそう、多勢に無勢な状況で困ってる人がいる……それだけで手助けする理由には十分だよね」
フィオレッタの言葉に、シャオの目から雫がこぼれる。
これまで一人で戦ってきたのだ。妨害にも必死に耐え、抗ってきた。
だが、もう限界だったのだ。
味方は一人も居ない、そんな状況で戦い抜くのは無理があろうというもの。
「あ、ありがとう……あたし……」
この出会いは、彼女にとっての光明。
しかし、脅威は今も目の前に迫ってきているのだ。
オックスメンは一斉に警戒体勢に入る。
この店に近づいてくる気配。怒気をはらんだその存在とは――
「フン、小さな店だ……サンダンめ、ワシの誘いを断ってこんなところで」
「誰だ!」
ずかずかと、一人の男が入り込んでくる。
鋭い眼光。髪は禿げ上がり、その姿が威圧感を醸し出す。
「お前が奴の娘か? 全く、無駄な抵抗を……」
そう、彼こそが暗黒美食料理會の首魁、マンカンである!
「……何の用だ」
源次が立ち上がり、シャオをかばうように身を乗り出した。
しかしマンカンは一切動じること無く、用件だけを告げる。
「この店と、小娘がサンダンから受け継いだ包丁をよこせ」
「そんな要求、通ると思う?」
「通すさ。全ての食はワシに集まり、全ての食を支配する」
にい、と口元を大きくゆがめる。その言葉に一切の疑いを持つことはない。
「おい小娘。力尽くで奪ってもいいが、お前は納得するまい。故に、ワシに挑戦することを許す」
「挑戦だって?」
挑戦、それはすなわち、料理対決。
暗黒美食料理會ではあらゆる勝負が料理で行われる。
その結果は絶対で、敗者への要求はどのような内容であっても必ず果たさねばならないのだ。
「無論、ワシは頂点だ。暗黒美食料理會を立ち上げて以来、常に勝利してきた……」
ふ、とマンカンは息をつく。
「お前にその包丁を手にする資格があるか? あったとしてもワシに勝つことができるか?」
「ぐっ……」
シャオは答えない。答えられない。
自分の実力は父に遠く及んでいない。わかってはいるのだ。
が、そこでライカが口を開いた。
「さっきから聞いていれば資格だの何だのと、料理にいちいち小難しいことを……」
彼女は粗食でも平気なタチの根無し草。店とか食とかに対する拘りも正直、分からない。
だが、自分の居場所を守りたいというシャオの気持ちは分かる。
包丁だって、身を守るためには手放せないだろう。
そんなところに突然訪れて、自分の要求だけを語る。それは実に。
「うざったいなぁ」
「だよね。食べた人がおいしくて満足できれば、わたしにとってはそれが料理。小難しいことはよくわからないし、興味もない」
イサナも同意する。
店を持ち、食事を提供する。そこには苦労もあるが、彼女の言うとおりなのだ。
「そうだよ! 料理は愛情! っていうし、どんなに腕前があっても卑怯な人たちには負けないんだからね!」
フィオレッタは告げるが、マンカンはそれを鼻で笑い飛ばす。
「卑怯、卑怯か! 食とは全霊をかけて作りだすもの……必要なものは全て手に入れ、価値を高める! そこに卑怯も何もあるものか!」
彼にとっては料理が全て。
そのためならばあらゆる手段を肯定する。そうやって暗黒美食料理會は大きくなってきたのだ。
「うむ……奪いに来たというのならば、奪われる覚悟があるということだ」
「ええ……あなたは報復律をご存知でしょうか。「目には目を歯には歯を」で有名な名言ですね」
源次に続き、カプラが問う。
「料理対決に負けた時の条件を提示していないのは不公平と思われます」
「フン! 万に一つも有り得んが……この店だけで無く、村そのものから手を引こう。仕入れルートもくれてやる」
マンカンは答える。
その条件が釣り合いの取れたものであるかは分からないが、それはシャオ次第だ。
「――料理対決で料理に優劣をつける行い、傍目に見ても相当に不利なように思います。しかし……」
「性分ではないが、お前が意思を示すのならば……」
「いくらでも力を貸すから遠慮しないでね!」
「まあ、まっとうな手段で戦わない連中と戦うハメになったのは気の毒だよね」
「わたしだって手伝えるよ」
オックスメンは口々にシャオに告げる。
あとは、彼女の決意次第。
この店も、形見の包丁も。渡すわけにはいかない。
「やるよ。父さんから受け継いだ包丁と、この店はあたしが守る!」
その目に涙はもう無い。
強い意志をもって、シャオはマンカンに告げる。
「絶対に、お前の料理に、打ち勝ってみせる!」
「よかろう! 勝負は一週間後だ!」
「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」
「いいんだよ。料理なら任せて!……とは言えないけど、いくらでも力を貸すって、言ったでしょ」
「うむ……同じ飲食店経営者として見過ごすわけにはいかん」
勝負方法は単純だ。
料理を作り、より多くの人間にうまいと言わせた方が勝者となる。
審査員は村人全員。
暗黒美食料理會を恐れるものも多く、公平とは言い難いだろう。
「うーん、市場は抑えられちゃってるみたいだね。全然食材が手に入らないよー」
「買えないならば、他の手段を考えるしかありませんね」
食材の入手もそうだ。脅しつけられ、こちらにはろくな食材が回ってこない。
米だけは大量に備蓄があるが、それ以外は村人全員に喰らわせるには足りないのだ。
「食材の確保とか単純な加工なら、わたしの得意分野だ」
「わたしもなんとかできると思う……それ以上に、妨害をぶっ壊すほうが得意だけど」
「だね。妨害をしてくるなら、こっちも相応の態度で臨ませてもらおう」
そして、何よりも。
「今のあたしじゃ、あの男には勝てない……」
「わかっている。俺たちも協力するが、一番重要なのはお前自身……」
「料理とは手際です。宇宙精進料理の経験しかありませんが、手際のお手伝いをしたいと思います」
だが、時間はまだ一週間ある。
それまでに状況を変える事ができれば、きっと勝機は見えてくるはずだ。
シャオの手にした包丁がキラリと輝いた。
OX-MENよ!
食が全てを支配するこの世界で、最高の美食を示せ!
**********
以下の行動は例です。各自、自分の見せ場やキャラクター性を重視してプレイングをかけてください。
POW:暗黒美食料理會による妨害を阻止する
SPD:何らかの手段で食材を調達する
WIZ:シャオと共に勝負に備える
イサナ・ノーマンズランド
「結局、わたし料理ってそんなに得意じゃないんだよね」
「よって、今回料理されるのはキミたちだ。食べ物は粗末にしちゃいけないけど、これは例外だよね」
「食が全霊をかけて作り出すものなら、わたしもわたしの全霊のできる事をしよう」
「なんでもあり、を悪用する人には相応の報いを受けてもらうよ」
【目立たない】ように保護色による【迷彩】を施したダンボールを被って隠れながら妨害を待ち受ける。敵の接近に対応して【忍び足】で接近。【クイックドロウ】で素早く準備したショットガンによる【零距離射撃】の【乱れ撃ち】で【吹き飛ばし】て撃退。【武器改造】によってゴム弾に換装済み故、安心してぶっ放せる【気絶攻撃】仕様である。
●脅威に屈することなかれ
何やら暗くて狭い場所で、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は息を潜める。
想うのは、荒れ果てた荒野のサルーン。貯蔵庫に残された酒を振る舞う、銃火器を好む者たちが集う場所。彼女の店だ。
OX-MENの中にも訪れるものは少なくないそんな店だが、あくまでイサナが出しているのは酒である。
ちょっとしたつまみくらいならばともかく本格的なものとなれば……手に余るのが実際のところだ。
料理はやはり彼女自身に任せるしかないだろう。
ならばシャオの勝利のために何ができるか。それは、審査員たる村人たちに公平な判定を下させること。
「……今日はまだこないのかな」
イサナが居たのは市場の隅。そこに置かれた、段ボールの中である。
この世界の雰囲気を考えれば、段ボールは異質なものになりそうだが……そこは流石のオックスサバイバー。
その卓越した技術で周囲の雰囲気に溶け込み、誰一人としてその存在には気付かない。
これならば暗黒美食料理會の警戒も招かないはずだ。
「なあ、暗黒美食料理會には手を出さない方がいいよ」
「ご忠告ありがとう。でも、怯えて暮らすなんて……そんなの見過ごせないよ」
一方、フィオレッタ・アネリ(または夏のフローラ・f18638)は市場の人々へと顔を繋いでいた。
彼女もまた、暗黒美食料理會の影響を取り除こうと奮戦していたのだ。
実際話を聞いてみれば、料理會の下っ端どもは幾度となく市場を訪れ、シャオの手に食材が回らないよう手を回していたようだ。
すなわち、逆らえば彼らの身も危ない。勝負を行う前以上にその恐怖は増している。
「……やっぱり、乗り込むしかないのかな、暗黒美食料理會に」
料理勝負に負ければこの村には手出ししない。マンカンはそう言っていたが村人たちの不安は拭えまい。
少なくとも妨害を止めさせなくては、こちらに票を投じる者はいない。
フィオレッタは暗黒美食料理會の手下たちについて、村人たちに問う。
すると意外なことに、その本拠地が何処に在るのか、誰一人として知らないというではないか。
乗り込もうにも、場所がわからないのであればどうしようもない。
精霊たちを飛ばして、探索しようか。いくらなんでも勝負まで見つからない、などという事態にはなるまい。
そんな風に考えたところで。事件は起きた。
「おうおう、ずいぶんといい食材じゃねェか!」
「チンケな食卓にのったらかわいそうだ! 俺たちが買い上げてやるよ!」
暗黒美食料理會だ。彼らは相も変わらず村人たちを威圧しに来たらしい。
とはいえ、目利きは確かなようで、彼らの手にした作物は見るからに一級品。
じゃらじゃらと音を立てる金貨はそれに十分見合うものだ。
こんなものが流通していることも、この地に目をつけた理由の一つなのだろう。
「……横暴だけど、料理に関しては確か、ってことかな」
そんな相手に、料理対決で勝たなければならない。
せめて料理の腕で勝負できるようにしておかなくては。
と、そこで新たな騒ぎが起きる。
どうやら食材を巡って争っているようだ。
「なんだァ! 俺たちには渡せねぇってのか?」
「金は十分にあるんだぜー!」
「これはおっかぁに食べさせようと、さっき買ったやつなんだー!」
「関係ないぜー! マンカン様が至高の料理にして食わせてやんよー! 一週間後にな!」
野菜の籠を奪い合う手下と村人。
これを仲裁して見せれば村人たちの不安も少しは――
ズドン。突然に爆音が響いた。
立ち上る煙。周囲を見渡す男たち。
「な、なんだぁ!?」
「結局、わたし料理ってそんなに得意じゃないんだよね」
音の主は、イサナだった。背後には段ボールが転がる。
その手には、ショットガン。煙を上げる銃口の、ずっとずっと先には衝撃で吹き飛ばされた手下の一人。
『零距離全力射撃(ゼロレンジスラムファイア)』の一撃が一瞬で意識を刈り取ったのだ。
なお、今回装填されているのはゴム弾である。全力でも安心仕様。
「よって、今回料理されるのはキミたちだ。食べ物は粗末にしちゃいけないけど、これは例外だよね」
ぴたり、と今度は銃を残された男たちに向ける。
こうやって市場を守るものが居る、となれば暗黒美食料理會もそう簡単に手出しはできまい。
そのためにもここで力を見せつけねば。
「ちっ……俺たちだってなめられたままじゃあ終われねぇ」
「昨日は五人居たが……今日は一人!」
「全員でやっちまえー!」
しかし彼らも引き下がるわけには行かない。
最高の食材をそろえる事もまた彼らの使命であり、そのためならどんな手を使う事も辞さない、プライドなのだ。
「食は命……どんな手を使ってでも、あの店と包丁はマンカン様の手に収めなくてはならない!」
「なんでもあり、を悪用する人には相応の報いを受けてもらうよ」
手下の拳が空を切る。姿勢を低くしたイサナは銃口を腹へと押し付け、引き金を引く。
その衝撃に姿勢を崩した他の男を踏み台に、跳躍。もちろんその背には散弾のお土産つきだ。
「イサナさんが注意を引きつけているうちに……」
そんな大立ち回りの中、フィオレッタは最初に吹き飛ばされた手下へと駆け寄っていた。
彼女が呼び出した樹精の伸ばす蔦が、その体を木に捕らえる。
辺りには花精が漂い、甘く、優しい香りが浮かぶ。
気絶している手下の表情が苦しげなものから、穏やかなものへと変化した。
眠りに誘い、深く深く……その心の奥まで花は沈み込む。
記憶をたどり、心をたどり。フィオレッタは彼女を知った。
「名前は……ダファ。女性だったんだ。……よし、これなら……」
目を閉じ、すぅ、と息を吸う。
その手に浮かぶはカルペ・ディエム。瑞々しくきらめく春の果実。
口づけ、かじり取る。全身に染み渡る甘さが心を揺らす。
そして。
「くそっ、やりやがる……」
「見た目で判断したらダメって事。勉強になったね」
手下たちはイサナに翻弄され、少なくない人数が地に伏せっている。
これ以上やっても状況は変わるまい。
マンカンはあのような小娘相手でも全力で叩き潰すつもりだ。とても負けるとは思えない。
「おい、おまえら! 帰るぞ!」
「今日のところは見逃してやらぁ!」
「アレ、ダファのやつはどこ行った」
「最初に吹っ飛ばされてましたぜ」
「不覚を取りました、お許しを」
そんな風に。やいのやいのといいながら、暗黒美食料理會はものすごい勢いで市場から去って行く。
「何度きても追い返すからね。面倒だからもう来ないでね」
その背に向けてイサナはいうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
叢雲・源次
・シャオと共に勝負に備える
妨害工作の対処は向こうに任せるとして…まずこちらの強みを再確認しておこう
その上で、補うべき技術を与える
付け焼刃かもしれんが、時間がないのも事実だ
持っている強みと手札を揃えて勝負するしかあるまい
俺が与えられるものは…そうだな…カレーを作る際に培ったスパイスの配合比率、あとは盛り付ける際の見栄え…か
しかし…シャオの実力は父親に遠く及ばないというが…それを補える「あと一手」が欲しい
何か、父親が残した秘伝のようなものがあればいいのだが…
(店内をインターセプターとアナライザーで走査、分析してみる)
●見出すもの
一方、そのころシャオの店では。
難しげな顔で厨房に立つシャオ。そして、傍らには源次とカプラ。
その姿をライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)は店の中から見守っていた。
「料理を作らなきゃいけない……コレは分かる」
自分たちが武力で制圧すれば店も村も守られるかもしれない。
だが、それでは一時的なもの。
料理が全てを決めるこの世界で生きていくならば、勝たなければ。
「材料が必要……コレも分かる」
市場に流通する食材の大半は暗黒美食料理會に抑えられている。
イサナはその状況を変えてはくれるだろうが、この村の人間全員に食わせるには量も質も足りないことに変わりはない。
何らかの手段で手に入れなければ、勝負の舞台にすら上がれないのだ。
「材料が手に入らない……コレは分からない」
「……おや」
「フム……」
ライカのつぶやきにカプラと源次はうなり、シャオは首をかしげる。
「えっ、どういうことだい?」
市場に行ってもろくなものは手に入らないという事は既に確認したとおりである。
「取ってくればいい。ある場所は……もうわかったみたいだし」
と、その肩にはいつの間にかフィオレッタの花精がとまっているではないか。
ライカは立ち上がり、店の出口へと向かう。
「行ってくるよ。帰りには食材を持ってくるね」
そう、言い残して。
「妨害への対処は向こうに任せるとして……」
ライカを見送り、叢雲・源次(DEAD SET・f14403)はシャオに向き直る。
「まずこちらの強みを再確認しておこう。その上で、補うべき技術を与える」
「ええ、この状況を逆転させるには焦りは禁物です」
同様に、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)もまた姿勢を正した。
「強み……」
実際のところ、シャオの料理に関する技術はかなり高い。
しかし父サンダン、そして暗黒美食料理會の主マンカンと比べてしまえば、やはり適わないのもまた事実。
それでも勝たねばならないというのならば、弱点を補うよりもまず長所を伸ばすべき、というのは理に適っていると言える。
「例えば……先だって振る舞ってくださった蟹チャーハンです。あの手際は見事でした」
「ああ……焼き物は小さな頃から結構手伝ってたからね。これだけは父さんにだって引けを取らない自信はあるよ」
自慢げに、ふふんと鼻を鳴らす。これだけで勝てるとは思えないが、武器の一つにはなるだろう。
「フム……ならばそれを主軸としよう。メニューは決まっているのか」
「めにゅう……? やっぱりうちは食堂だからね。腹一杯食べてもらうのが一番かと思って」
と、そこでシャオは米の山を指さす。これだけは本当に大量にあるのだ。これも強みと言えるだろう。
「米で粉を挽いて、麺を作ろうと思ってる。それを具材と一緒に炒めるんだ」
「なるほど、ビーフンだな」
「なんだ、新しい料理かと思ったけど、源次は知ってるんだな。まあ、あたしが思いつくことくらい誰かがやってるか……」
シャオの言葉に源次とカプラは顔を見合わせる。
どうやらこの世界、中国の様相を見せているが時代としては少し古いようだ。
山奥のこの地では、海に近い地域で発祥したとされる料理はあまり知られていないらしい。
「ディフェンダー、どうやら……」
「ああ、光明が見えたぞ」
村人たちにも、暗黒美食料理會にも知られていない料理。
新たな味に対する衝撃は、間違いなく彼らにも届くはずだ。
「シャオ、その料理は武器になる。付け焼き刃かもしれんが、時間がないのも事実だ。持っている強みと手札を揃えて勝負するしかあるまい」
「えっ、いける? あたしのひらめきで、あいつらに勝てる?」
「無論、それだけでは難しいでしょう。その為には修行あるのみ……さあ、準備を始めましょう」
大成功
🔵🔵🔵
ライカ・ネーベルラーベ
料理を作らなきゃいけない…コレは分かる
材料が必要…コレも分かる
材料が手に入らない…コレは分からない
ある場所は分かりきってるし、取ってくればいい
と言い遺して暗黒美食料理會の拠点(の一つ)に乗り込むよ
ここなら確実にいい材料が置いてある
「食材買いに来た。じゃあ、貰っていくから」
人外の出力に任せ、勝手に奥へ入って勝手に食材を強だ…受け取る
相手が暴力で止めようとしてきたら、それを幸いと一発受けて反撃
殺しちゃまずいかな…あの様子見るに、相手はこっちが死んでもいいとは思ってそうだけど
「必要なものは全て手に入れる、だっけ。わたしもそうする事にしたよ」
「じゃあコレ代金。残りは出世払いでよろしく」(ちゃりーん)
●暗黒美食料理會
(竹林の奧……しかも虎がうようよしてる。こんな場所に本拠地を構えているなんて)
暗黒美食料理會の広大な屋敷。
手下たちはせっせと手に入れた食材を運び入れ、冷たい空気に身を震わせる。
(しかも巨大な冷蔵庫……いえ、冷凍庫? 本当に食に関する事には糸目をつけないんだ)
そんな中の一人、ダファ……に『変身』したフィオレッタは、そんなことを考える。
――手下たちに紛れ、ここまでやってきたがマンカンの姿は見えない。
ぐるりと辺りを見渡し考え込む彼女を気にかけたのか、一人の男が声をかけてくる。
「よう、お疲れダファ。どうした、ぼーっとして」
「いえ……マンカン様はどうしていらっしゃるのかなー、と」
花精の力でフィオレッタはダファの性格や口調まで完璧に把握していた。
「え? そりゃあ厨房にこもって新しい料理を考案してるんじゃないのか」
「ですよねー。そりゃそうか」
ありがたいことにこういうことを言い出しても不思議とは思われない娘だったらしい。
ここまでも、これからも。疑いを持つ者など居はしない。
男に手を振り、フィオレッタは厨房を目指す。
広い廊下。巨大な扉。風精の力を借りてその存在を希薄にし、厨房へと滑り込む。
「フムゥ……」
その中心ではマンカンが包丁を手に食材と向き合っていた。
様々な肉、野菜、魚。その表情は真剣そのもの。
彼が言ったように、シャオはまだまだ未熟だ。
だが、その小娘相手であろうと油断はない。
全力で対決に臨む気概は一目で見て取れる。
そんな彼の下へ、フィオレッタは気配を殺しながら、背後からゆっくりと近づいていく。
「……勝負に勝てぬとみて命でも取りに来たか?」
「えっ?」
突如、マンカンが口を開いた。
その視線は確かにフィオレッタを捉え、しかと見据えている。
「……これ以上、村の人たちに手出しをしないように、「お願い」しにきたんだ」
「フン! 言っただろう。ならば料理対決に勝て、と」
「でも、あんな風に脅して……公平に審査なんてできないでしょ」
鋭い眼力。彼女は一歩も退かず、真っ向から受け止める。
「……」
「……」
沈黙。向かい合う二人の間に緊張感がはしる。
先に表情を緩めたのは、マンカンのほうだった。
「まあ、よかろう。この勝負、勝利に向けてワシの料理は既に完成を見た」
「……食材を眺めていただけなのに?」
フィオレッタは疑問符を浮かべるが、マンカンは当然と言った表情で笑う。
「食材の声を聞き、見通せばそれは当然のこと。それすらできぬ小娘にあの包丁は過ぎたものよ」
「言葉だけ聞いてると悪役っぽくないんだけどなぁ」
はぁ、と嘆息する。とはいえ、言質は取った。ならば。
「じゃあ、改めて「正々堂々と料理勝負すること」を約束して欲しいな」
「無論! だがお前たちはその条件でワシに勝てるとでも思っているのかね?」
花精は力を放つ。精神力の強さ故にか、マンカンはまるで気にもとめていないようだが『《誓花》(イストルツィオーネ)』の誓約は確かに為された。
このルールを破ればマンカンには花精の力が襲いかかる。
もっとも、この様子ではそのような事態にはもはやならないのかもしれないが。
「……もう行け。これ以上料理のこと以外でワシを煩わせるな。それと……」
マンカンは視線を食材へと戻し、告げる。
「略奪行為は、お前たちの正々堂々とやらに反しないのか?」
大きな振動が、暗黒美食料理會を揺らした。
「食材買いに来た」
崩れ落ちた壁の向こうでライカが言った。
そう、市場に食材は出回っていないが、ここにだけはどんな食材も集っている。
暗黒美食料理會。その食料庫に向けて彼女は乗り込んできたのだ。
「いらっしゃいませー! って、強盗じゃねェか!」
「お客様なら正面から入ってこいや!」
手下たちは罵声を浴びせるが、彼女はどこ吹く風。
ずかずかと入り込み、食材庫の扉を開け放った。
「じゃあ、貰っていくから」
「そうはさせるか!」
「食材は命だぜ!」
もちろん、彼らも黙ってはいない。ライカの行く手を阻むべく、実力行使に打って出る。
勢いよく迫る拳を、彼女は避けもしない。
鈍い音が響いた。
「入ったぜ! これならひとたまりも……」
「一発は一発だよ」
「なにっ……ぐぇ」
暴力には暴力。これ幸いとライカは反撃の拳をたたき込む。
『半人半機の帰還兵(ギフテッド・アヴェンジャー)』とも呼ばれる彼女の一撃で、男は崩れ落ちた。
(殺しちゃまずいかな……最初に襲ってきたときの様子見るに、相手はこっちが死んでもいいとは思ってそうだったけど)
どうしたものか。仕留めてしまったほうが後腐れもないのではないか。
両の手に力がこもる。
「必要なものは全て手に入れる、だっけ。わたしも……」
「わぁ、まって、ライカさん」
手にした剣を振り下ろそうとしたところで待ったが入った。フィオレッタだ。既に変身は解除し、いつもの姿に戻っている。
ふわりと舞い降りたその姿にライカは少しだけ表情を緩め、視線は外さずに言う。
「そっちの用は済んだ? 道案内ありがとう」
「うん、どういたしまして……じゃなくって」
そこでフィオレッタは手下たちに紙を突きつけ、告げた。
「マンカンさんから許可はもらっています。奪われるくらいならばこちらからくれてやれ、ですって」
「んなっ……」
そこに書かれたサインは確かにマンカンのもの。手下たちもこの書状の前には従うしかない。
二人は悠々と食料庫の中に入っていく。
「使う食材は決まったから、勝負にはもう関係ない、だって」
「なにそれ、余裕のつもり? ……癇に障るなあ」
肉、魚、野菜……すさまじい量の食材だ。
二人は持ち帰るべきものを次々と荷車に積み上げる。
手下たちは見た目に似合わぬそのパワーに呆然とするばかり。
「やっぱり肉は必要だよね」
「それだけじゃバランスも彩りも悪いよ。ちゃんと野菜も……」
話しながらも作業は止まらない。
そうして、いつしか食材が山のようになったところでライカは振り返る。
「じゃあコレ代金。残りは出世払いでよろしく」
放られた一枚のコインがちゃりーん、と音を立てて床に転がった。
大成功
🔵🔵🔵
聖護院・カプラ
暗黒美食料理會とやら、ただの包丁を欲するとも思えませんが……いや。
天叢雲包丁が古事記に記されているアーティファクトその物とすれば。
この包丁は切れ味が異常に良く、刃が湿り気を帯びている為に
食材の繊維や細胞を傷付けないどころか逆に食材のポテンシャルを上げる可能性を持っています。
ただし、それは正確なタイミングで切った時だけ。
シャオさん、貴女が勝負に勝つには息を乱さず平常心で事に挑む必要があります。
……サンダンさんが食材を切るタイミングは覚えていますね。
それをなぞる様に切れば貴女の父と包丁は力を貸してくれる事でしょう。
サンダンさんは、貴女の傍に居ます。
私は食材を浄土へ連れ行き食材の格を上げておきます。
●足りないもの
「……へぇ、ビーフンにしたんだ。いいんじゃないかな、量もいっぱい食べられるし」
「うむ……シャオの得意分野を活かし、かつこの村では斬新な料理だ」
店に戻っていたイサナは、シャオの料理を試食する。
具材も何もない状態だが、それでも十分にうまい。これを完成させれば確かに勝負になるかもしれない。
「それ以外にも生春巻きってのも挑戦してみようと思うんだ。揚げない春巻きなんて初めて聞いたよ」
「ここよりもはるか南方の料理ですからね。ご存じなくても当然かと」
得意料理のチャーハンに、米粉を使ったビーフンと生春巻き。
シャオはこの三つの料理で料理対決に挑む事を決めたようだ。
「……その為にも、食材がないとね。ライカはまだなのかな」
「いや……噂をすれば、だ。ちょうど戻ったらしい」
視線を外に向ければ、土煙の上がる様子が見える。
その戦闘にいたのはライカの姿。続いて、宙を舞うフィオレッタ。
「すごい……あんなに!」
「ほう、あれほどの量があれば対決には十分でしょう」
きっ、と音を立ててバイクが止まる。
「お待たせ。食材、買ってきたよ」
ゴーグルをあげたライカは悪びれもせずに言ってのけたのだった。
「カニが大量にあるね! これでチャーハンは問題なさそうだ!」
「春巻きには海老や鶏肉を用いるのがいいでしょう。彩りに、野菜も添えて」
「ビーフンには豚肉、にんじん、タマネギ……」
早速、シャオは料理の試作に入る。
蟹チャーハンは既に彼らも食べたとおり、見事なものだ。
生春巻きも、米粉の皮に包まれることで素材の味がひとつとなり、見事な調和を示している。
だが……
「こうして米ばっかり使ってると」
「飽きが来るね」
「全然味は違うのに、何でだろうね」
「でも、あたしはこの三つの料理でマンカンに勝てる、って思うんだ。もう少し味付けを考えてみようか」
試作を重ねても勝利を確信するには至らない。
何かが足りない、あと何か一つのひらめきがあれば。
と、その時食材の山から一つの瓶が転がり落ちる。拾い上げたイサナはそこに書かれた文字を読み上げた。
「ターメリック……ああ、ウコンか。でもお酒を飲むわけじゃないしね」
「……む? ターメリックだと?」
その言葉に源次が反応する。
改めて見渡せば、様々なスパイスも食材の中に紛れていたのだ。
「何が役に立つかわからなかったから……でも、臭み消しはこれ以上要らなかったかもね」
スパイスの効果。それは大きく四つにわけられる。
臭みを消す、矯臭作用。
辛さを加える、加辛作用。
香りをつける、賦香作用。
そして、彩りを加える着色作用。
これらの力によって食欲を増進し、人々をひきつける。
「いや……でかしたぞ、リターナー」
脳裏に浮かぶのは彼の得意とする料理。
「そうだ……カレーだ。カレービーフンだ」
「かれー?」
「あ、いいねそれ」
「もっと目新しくて、美味しいものになりそう!」
シャオは首をかしげる。やはりカレーもこの地には伝わっていないのだ。
――いける。
誰もがそう思った。
「――それにしても、暗黒美食料理會とやら、ただの包丁を欲するとも思えませんが……彼らは何故この包丁を狙っているのでしょう」
『第十八願(シシンシンギョウノガン)』の力で食材の格をあげるのだ、とカプラは祈りの姿勢を取っていた。
浄土に連れ行く、という彼の言葉にはオックスメンでさえ戸惑いを隠せなかったものだが、どうやらその儀式は終わったらしい。
「さあ、あたしにもそれはわからないな……父さんが大事にしていたのはわかるけど」
目を開き、告げた先には試作を続けるシャオ。
その姿を見つめながらカプラは根本。暗黒美食料理會の目的を考える。
「あいつらのやることだし、いい包丁だからってだけで狙ってきそうな気もするけど」
「それで、もっといい包丁を見つけたら取り替えるのかも」
「うーん、会って話した感じだともっと何かありそうな雰囲気だったかな」
イサナの言葉にライカは同意するが、フィオレッタはまた少し違う印象を持ったようだ。
食材の声を聞き、見通す。
その言葉に、何かヒントがあるような気がした。
「いや。天叢雲包丁が、古事記に記されているアーティファクトその物とすれば」
そこでカプラは唐突に何かに思い至ったかのように立ち上がる。
視線は、シャオの持つ包丁。
「見てください、ディフェンダー。あなたならわかるはずです。求める答えは、私たちの目の前にあった」
「……これは」
シャオの腕はこの短期間でみるみるうちに上がっている。
しかし、それでも父サンダンには及ばないという、自信のなさが見て取れていた。
それを補える一手を求めて、源次は店中を高度な情報デバイスで走査していたのだが。
「食材が、光っている」
「ええ。しかしそれは儚いものです……今は、まだ」
天叢雲包丁。その切れ味は異常といっても良い。
しかしそれだけではなかったのだ。カプラと源次の機械の目はその刃が湿り気を帯びていることに気付く。
「食材の繊維や細胞を傷つけることなく……」
「逆に食材のポテンシャルをあげる可能性を持っています」
集中するシャオにはそんな会話も耳に入らない。
軽快な包丁の動き。その中にも、食材が光を得るもの、得ないものが存在していた。
「……どうやら、それは正確なタイミングで切ったときだけ……」
「結局のところ、修練か」
「ええ、ですが私たちの力はきっと彼女の助けとなります」
「だね。食が全霊をかけて作り出すものなら、わたしもわたしの、全霊のできる事をしよう」
イサナがそういうと同時、シャオがふう、と息をつく。
そんな彼女の下へ、オックスメンは集う。
「シャオさん、貴女が勝負に勝つには、息を乱さず平常心で事に挑む必要があります」
「……うん」
「勝負は一人でやるんでよね。何百人分も作るんなら、その為にも体力つけないとね」
そういうのは得意だよ、とイサナが笑った。
「父の姿を思い出せ。そこにヒントは必ずある」
「食材の声を聞くんだって。今のあなたならきっと聞こえるはずだよ」
「……居場所、守るんでしょ。その包丁、使いこなしてみせて」
源次が、フィオレッタが、ライカが。口々に、シャオへと言葉をかけていく。
「そう、サンダンさんはあなたの傍に居ます」
残された時間は僅か。
しかしシャオは諦めることなく、一心不乱に修行に励み……
そして、対決のときが来た。
大成功
🔵🔵🔵
フィオレッタ・アネリ
街で料理會について【情報収集】して、メンバーを探し出して人気のないところで樹精の蔦で【捕縛】
花精の【誘惑】と【読心術】で潜入に必要な情報を引き出したら【催眠術】で深い眠りに
次は『カルペ・ディエム』でメンバーの姿に変身(【化術】)して料理會に堂々と潜入
怪しまれないよう情報を元に【演技】して、マンカンさんの居場所を聞き出しつつ、それとなく理由をつけて人払いを
居場所が分かったら風精の姿隠しで【存在感】を消して近づき、姿を見せずに【限界突破】した花精の【精神攻撃】で【恐怖を与え】て、これ以上妨害しないようにしっかり「お願い」するよ
ついでに《誓花》で「正々堂々と料理勝負すること」を約束してもらおうかな!
●美食大乱
「さあ! やって参りました! 暗黒美食料理會主催、究極至高の料理対決! 美食大乱!」
「え、そんな名前ついてたんだ」
広々とした市場の道に、ずらりと並ぶ村人たち。
暗黒美食料理會の手によって一人残らず集められた彼らの遥か先。
道の終端には二人。
暗黒美食料理會首領、マンカン・ゼンセキ。
この世のあらゆる食に精通し、料理には一切の妥協を許さず常に頂点を目指す男。
対するは、サンダン・ロンポウの娘、シャオ・ロンポウ。
父から受け継いだ店と包丁を、そしてこの村を守るべく立ち上がった少女である。
「ルールは単純明快! ただひたすらに自分の料理を食わせ続け、より支持を得た方の勝ちだ!」
司会の男は暗黒美食料理會所属。こういう催しには慣れっこなのかよどみなく進行を続けていく。
互いに出品する料理は三品。計六品を食した上でどちらの料理人が優れているか投票する形にである。
「但し! 料理には他者の手出しは無用! たった一人で最後まで料理を作り続ける……孤独な戦いを戦い抜いたものにだけ料理が微笑むのです!」
「俺たちにできることはやった……あとは」
「シャオさんに託すしかない、ってことだね」
「相手はどんな料理を出してくるんだろう」
緊張感と、ほんの少しの高揚感。
どこまでできるかはわからない。しかし勝たなくては。
「小娘、この短い猶予の間にずいぶんと腕を上げたようだな」
「……そうじゃなきゃ、アンタには勝てないからね」
マンカンの言葉にシャオは答える。その瞳には先日までのような怯えの色はなく、ただこの料理対決に臨む気概だけがある。
「よかろう! ならば全力で叩き潰してみせる! あがいてみせよ!」
「ああ! あたしは父さんの店と、包丁……そしてこの村を守ってみせる!」
「いざ、美食大乱……開戦です!」
ジャーンという銅鑼の音と共に、両者は一斉に火をつける。
小さな村とはいえ数百人は住んでいるのだ。もたもたしていては全員に食べさせることなどできはしない。
「さあ、両者の料理を見ていきましょう……おーっと、マンカン師! いきなり鳥を丸のまま……油に投入ー!」
「ガーッハッハハハッハ!」
じゅわ、といういい音と共に油が弾ける。その音、香り……それだけで村人たちはひきつけられていく。
油通しを済ませたあとは手際よく包丁を入れ、皿へ盛る。
かけられたタレには多種多様なスパイスが用いられていた。
「う、うまい! どんどん食欲がわいてくる!」
「なんだ、この心に訴えかける味は……!」
「ああ、もう……耐えられない!」
それを食した村人たちはすさまじい衝撃を受ける。
こんな山奥では誰も食べたことのないような料理。あるものは衝撃に膝をつき、木よりも高く飛び上がり、何故か服が破れ飛ぶ。
「わが暗黒美食料理會を受け入れれば、いくらでもこの料理を食べることができるぞ!
「料金はいただくがな!」
「その為にもうまい食材をしっかり育ててくれよな!」
手下たちもここぞとばかりにマンカンの料理を勧めていく。
「さあ! おまえたちも食え! そして負けを認めるんだな!」
そうする内にオックスメンにも皿が差し出される。
シャオに味方している以上、勝負には関係ないはずだが……
「ワシは最高の料理を作り出す! それだけだ!」
「ほう……」
マンカンの叫びにカプラが唸る。
それは欲望だが、一本の芯が通った信念。悟りにも通じる一路。
「……皆さん、いただきましょう。彼の所業を認めるわけにはいきませんが、料理に罪はありません」
「まあ、食べずに審査はできないしね」
イサナは既に準備万端。箸を手に、手を合わせる。
「ごちゃごちゃ言わずに、最初からそう言えばいいのに」
「真っ当にやっていれば、わたしたちも文句はないのにね」
ライカもフィオレッタも、異論はないようだ。
そうして、彼らは口にする。マンカンの料理を。
「……これは」
瞬間、源次のスーツがはじけ飛んだ。
機械化された体の、五臓六腑にまでその味が行き渡る。
続いて、もう一口。網膜の裏に浮かび上がる文字は、Delicious! C’est bon! Buono! とその味を讃えるものばかり。
箸が、止まらない。
「すごい、これ美味しいよ! 見た目はこってりしてそうなのに爽やかでいくらでも食べられちゃう!」
「いうだけの……ことはあるね。逆に味覚がぶっ壊されそう……」
彼女たちの背後には花が浮かぶ。幻覚だろうか? いいや、違う。これは。
「うう、あまりのおいしさに権能があふれ出ちゃう……!」
フィオレッタが意図せずに咲かせたのだ。それほどまでにこれは衝撃だった。
カプラが無言で浮かび上がり、辺りにはスペース宇宙が広がる。
言うなれば、無限の可能性。生命の饗宴。
敵対する立場でなければ、村人たちのようにこの食を求めてしまっていたかもしれない。
それほどまでに鮮烈で、衝撃的。
「確かに見事だ。洗練された食……」
「暗黒美食料理會を名乗るだけのことはあるね」
「また食べたい、って思っちゃうよ」
「最高の食材、最高の料理人。うぬぼれじゃなかったんだ」
「ですが……この勝負」
誰もが料理を絶賛した。しかし、それでも。
「彼女の……勝ちを確信しました。何故ならば……」
「シャオちゃん、すまないな……俺たちが情けないばっかりに」
「そんなこと言わないでよ! あたし、皆に食べて欲しくて作ってるんだから笑って!」
「すげぇ、うまいよ……」
「へへっ、そう言ってもらえるとあたしもうれしいよ!」
シャオは一心不乱に料理を作る。しかしその中でも笑顔は忘れない。
そう、記憶の中の父はいつだって笑っていた。
新しい料理を考えついてはしゃぐ姿。
美味しそうに食べる客の姿を見て上機嫌な姿。
そして、シャオが料理を教えて欲しいと言ったときの嬉しそうな姿。
どれも、忘れることなんてできはしない。
「さあ、一丁あがったよ!」
「すごいよ、こんなの食べたことない。そのはずなのに……」
「とても、懐かしいような、安心するような……」
誰もが、笑っていた。
ストン、と包丁が軽快な音を立てる。
切り開かれた断面は、みずみずしく光り輝く。
彼らが、助けてくれなければ。
村人たちは怯え、こちらの料理を食べもしなかったかもしれない。
食材もそろわず、勝負に臨むことすらできなかったかもしれない。
あるいは妨害を受けて、料理の準備すらままならなかったかも。
父の残した包丁の、真の力に気付くことすらなかったに違いない。
新しい料理を思いついても、それを形にはできなかっただろう。
「やるよ……さあ、みんな! あたしの料理を食べてくれ!」
そして。
「さあ、決着の時は来た! 見るまでもなくマンカン師の勝利は疑いようもないが……」
ジャーンと言う音と共に幕が下りる。その先に示された数字は。
「マンカン師のしょ……えっ!?」
暗黒美食料理會にとっては意外すぎる結果。
「馬鹿な! 同数だって!?」
「あ、ありえねぇ……」
どよめきが辺りを包む。彼らは勝利を確信していた。マンカンが負けることなどあり得ないと。
しかし、村人たちは違った。
「うう、俺はやっぱりあの味が忘れられねぇんだ」
「てめえ裏切ったのか」
「いや、アレは仕方ないよ……そう怒るなよ……」
純粋に、料理の味だけでこの勝負に向き合ったのだ。
マンカンの、シャオの全身全霊を籠めた料理の前に。
「これは……どうなるんだ」
「……フン」
戸惑うシャオに、マンカンが不機嫌そうに言った。
「小娘。……食わせてみろ。お前が今回出した中で、ワシを唸らせる料理を」
「えっ……?」
「おーっと、マンカン師! 突然に相手の料理を食わせろと迫るー!」
だがしかし、彼の目は穏やかそうにも見える。
その目と向き合い、シャオは笑った。
「わかったよ! 食ったら負けを認めてさっさと帰りな!」
ドン、と器を置く。オックスメンの皆と力を合わせて作り上げた、カレービーフンだ。
マンカンは静かにビーフンを口へとは古府。誰もが注目し、息をのんで見守る。
「フン……カレーか。辣とは違う。村人に合わせて配合を調整したか」
何やらカレーに嫌な思い出でもあるのか。顔をしかめながらも箸は止めない。
「マンカン・ゼンセキ。あなたの料理は確かに見事でした。ですが……」
「みてるのは、自分自身と料理だけだった」
勝負は、紙一重だった。ギリギリのところで、同点まで持って行ったのだ。
「しかし、シャオがみているのは違う」
「作った料理を、食べさせる相手だよね」
「つまり、料理は愛情、ってこと」
そして、最後の一口を食べ終わると同時、マンカンは立ち上がった。
「小娘……シャオ・ロンポウ。いいだろう。今回は引き下がってやる」
振り向き、歩き出す。
「だが、お前がその包丁の力に溺れ、道を見失うようなことがあれば……その時は容赦はしない。天叢雲包丁、貰い受けに来るぞ」
それ以上は言わず、振り返りもしない。
あっけにとられた暗黒美食料理會であったが、しばらくの後全員がその背を追って駆けだしたのであった。
●先を示すもの
「みんな、本当にありがとうね!」
「いいえ、これはあなたと、サンダンさんの勝利です」
「俺たちは力を貸したに過ぎない。俺も店を持つ者として、その精神……見習いたい」
戦い終えて。シャオの店に戻った面々は別れの時を迎えていた。
「まさか本当に勝っちゃうなんてね。すごいよ。私も頑張らないとなー」
「あたしもびっくりだ……でも、これで終わりじゃないんだ、料理の道は」
「お店、守れてよかった」
獣壊陣によって作り出されたこの世界は一つの物語を終えて、閉ざされていくはずだ。
そして。
「それでさ。この包丁……あんたたちに預かって欲しいんだ」
「いいの? それがないとこの店を守る武器がなくなるんじゃ」
「これがあるとあたしは頼っちゃう。自分の実力だけで、料理しないとね」
へへ、とシャオは笑う。
「それに、きっと父さんやマンカンも同じことを言うと思うよ。わかるんだ。これを必要としているのは、皆だって」
「……」
その笑みにオックスメンは言葉を詰まらせる。
きっと、彼女と会うことはもはやあるまい。だが、この出会いに意味はあった。
「さあ、お別れだ! あんたたちの使命が無事に果たされることを、あたしも祈ってるよ!」
別れを告げ、オックスメンは歩き出す。
この世界に訪れたときと同じように、深い霧の中を。
そして、彼らの手にした天叢雲包丁は一条の光を走らせ、彼らの行くべき道を示しだしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵