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白き仮面に浮かぶ貌

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●貴婦人の求めるもの
 鏡よ鏡、応えておくれ。
 今宵の客は果たしてどんな貌を見せてくれるのでしょうか。

 ひとは皆、仮面を被って生きていると……本当の自分を隠していると申します。
 だからこそ、本当の貌をわたしは知りたい、暴いて見たい。

 勇猛な仮面の下に隠す臆病者。
 溢れる慈愛の下に隠す残酷さ。
 道化を演じる賢者も中には居るでしょうか。

 個を奪う白き無貌の仮面で覆う事で、ひとが知らず演じる表は剥がせましょう。
 面(おもて)に写し出されるは醜く浅ましく愚かく――故に純粋なる魂そのもの。
 それこそがひとの美しい面(めん)である――わたしはそう思い愛でるのです。

●白き仮面の招待状
「ダークセイヴァーの幾つかの町に招待状が届いたんだ」
 天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は集まる猟兵達の前で静かにそう告げた。
「差出人は近くに屋敷を構える吸血鬼の貴婦人。まぁ――大体想像付くよね」
 その地を支配する吸血鬼は、まぁ気紛れだ。領民をまるで遊戯の玩具として扱うと言うのは良く聞く話。今回の『貴婦人』と称される吸血鬼もまた、そんな大層残酷な趣味をお持ちだなのだと紅紀は語る。
「不定期に、周辺の町の人々を招いては仮面舞踏会を開いてるらしい。尤も招待されて行って、無事に帰った人は誰もいないそうだけど」
 大体が戻ってこないか、死体となって帰ってくるか――。
「極々稀に、生きて帰った者は……顔を失っていたらしい」
 多くの宝石を持たされて解放された、数少ない生還者とは。元が誰か解らぬくらいに、顔の皮が剥がされ損傷した状態だったのだと言う。

 仮面舞踏会、とは言うものの。その際に着ける仮面は先方が招待状と共に届けられた物を装着するようにと言う決まりがある。
 その仮面は、真っ白で無表情――目鼻口が有るだけの、不気味な無貌の仮面。
 着けたが最後、貴婦人の許しがあるまでは自力では外せない呪いの仮面。

「その仮面は外せない呪いだけじゃなくてね。装着者の裏の顔を引き出す呪いも籠められているみたいなんだよね」
 性格や人格の事を「顔」や「面」と言う言葉で比喩する事は多い。
 その白仮面は表に出して見せている「顔」を封じ、裏に隠れた性格や人格などを強制的に引っ張り出す。故に少なくとも貴婦人に会うまでは普段の己では行動出来ない。
「皆がどれだけ自分を把握しているかは解らないけどさ。普段は人に見せないような側面がガッツリ表に出ちゃうと考えてくれたら良いかな」
 僕だと気が荒い面かな、とか小さく笑いながら紅紀は言う。
 勇猛の裏にある弱さ。優しさの裏の凶悪さ。人格者の裏にある破綻者。
 多重人格者であれば普段は出てこない裏人格と言う場合もあるだろう。
「件の『貴婦人』は、そんな裏の顔を好むらしい。白仮面は最終的には具現化した性質に合わせて表情を変化させ……『貴婦人』は仮面ごと顔を引っ剥がして収集するのが結局の最終目的であり、それが趣味みたいだ」
 悪趣味にも程が有り、その為にこれまで多くの人々が犠牲になったのも事実。

 まずは町の者に代わって呪いの白仮面を装着した上で仮面舞踏会に招かれる所から。
 呪いによって強制的に己の側面を表に出された上で、舞踏会に参加した後は貴婦人の住まう別館へと招かれる事になるが。
 その途中で招待客を試すように、二つ首の悪魔が襲いかかってくるだろう。彼らはその顔を見定め、場合によっては首を刈りに来る。
 最後に貴婦人の前に辿り着けば、その仮面は彼女の声で剥がれ落ちる。だが、その直後に表に出ている人格や性格は果たしてどうなるかは解らない。普段の己か、裏の自分か――呪いに対する個人差もあるだろう。

「敢えて行く人の中に、自分の中の自分を知りたくないって人はいない、よね?」
 即ち――否応なしに、自分を見つめ直すキッカケになるだろうから、と。
 紅紀はそう告げた上で指先にグリモアの光描き、君達を闇の帳の先へ転送した。


天宮朱那
 天宮です。裏の顔とか多重人格とか好き。
 正体を隠して戦うヒーローに惹かれるのもそういった理由なのかも。

●仮面の呪い
 仮面は貴婦人より提供された呪いの白仮面。着けたら三章まで外せません。
 装着すると、PCの普段表に見せない顔――即ち性格や性質が表面化します。
 弱気な性格、凶悪な性格……実は○○みたいのも。元々自覚無自覚も人それぞれに。
 種族が多重人格者の方は主人格封印とかでも構いません。
 どう変化するか……いつもと違う自分を楽しんで見て下さい。
 あくまでフレーバー的なものなので、それによって以降の戦闘が不利になる事はありません。ご安心下さい。

●第一章
 貴婦人と称される吸血鬼が主催する仮面舞踏会への招待。
 招かれた館からのスタートとなります。
 仮面を着けた自分や同行者の変化を確認する場になるかと。

●第二章
 貴婦人のいる別館までの廊下の移動途中、二つ首の悪魔が襲いかかってきます。
 普段とは違う自分での戦い。思考パターンすら変わる人もいるのでは。

●第三章
 貴婦人の住まう別館。ボス戦です。
 ここで仮面は外れますが、呪いが暫く継続するかどうかはお任せ。
 自分の側面を知り、受け入れるか。否定するか。
 裏の自分のまま、貴婦人と対峙するか。
 PL様にとってエモいと思う方針で動いて頂ければ幸い。

 団体様は三人組まで。描写を濃くするには1~2名がお勧め。
 迷子防止に相手の名前(ID)かグループ名記載のご協力を。
 技能の『』【】等のカッコ書きは不要。具体的な使用方法の記述があれば生きた描写になるかと。技能名羅列は描写が割とシンプルになります。

 各章、導入部追記予定。追記前からプレイング送信は差し支えありませんが、齟齬が出る場合もありますのでご了承下さい。
 マスターページやTwitterなどでも随時告知をしますので宜しくお願いします。
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第1章 冒険 『退廃舞踏会』

POW   :    脚が動かなく成るまで踊る

SPD   :    華麗なダンスを披露する

WIZ   :    美しさで周囲を魅了する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ガタゴトと車輪が音を立てながら豪奢な馬車が進む。
 馬の嘶きと共にゆっくりと止まったのは、城と言うには小さいが、館と言うには大きすぎる程の邸宅の門前。
 招待状を送りつけた貴婦人は、わざわざ迎えの者を町にこうして寄越していた。
『ご招待するのです。最大限の礼を尽くすのは当然のことでしょう』
 これから自分のコレクションに加わるかも知れない貌を有する者、と言う視点で考えれば、彼女にとっては宝石の原石に等しいのやもしれぬ。
 訪れた使者も、馬車を手繰る御者も、皆その顔面には一様に黒き無貌の仮面。
 故郷には帰されずとも、命までは奪われず。ただ、個を奪われて貴婦人に仕えるのみを強いられた者達であると猟兵達は後に知る。

 さて、手元には白き仮面。
 石膏のような滑らかでつるりとした感触。
 目元に視界を得るための穴、それ以外は整った鼻の形と無表情な唇の造形。
 顔に当てれば、仮面の呪いは発動する――。

 吸い付くような、取り憑かれるような感触。
 白き仮面は文字通り顔の皮膚に張り付いて、己の顔と一つになる。
 手を離し口を開けば――仮面の硬い唇が己のものの様に動くのが解るだろう。

 顔を封じられた。普段の己が被る仮面は今、此処には無い。
 白き仮面は果たしてどんな表情を写しているだろうか。

 貴婦人の声であろうか――何やら響く言葉があった。
『貴方達の本当の貌をお見せ下さいませ』
 舞踏会の会場となる広いホールには緩やかに輪舞曲が流れ、個を奪われし黒き仮面の男女が踊る。給仕もまた黒き仮面。新参者だけは白き仮面なのが良く解る。

 現出した己の裏面と向き合い、把握しながら。
 まずはこの舞踏会とやらに付き合おうか。


 POW/SPD/WIZは無視して構いません。
 仮面を着けた自分や同行者の変化を確認する場になるかと。
 普段の自分とは違う性質や性格で思考・行動する事になります。
 いつもの自分はこうだけど、本当の自分は……みたいなのが有れば是非。
 ステータスに普段の性質・性格が載っていると参考になって助かります。

 それ以外の行動はお好きに。
 舞踏会を楽しむなり飲食するなり黒仮面に話しかけるなり。
アリステル・ブルー
アドリブ連携おまかせNG無

(吸血鬼は敵だから…)
でもそれは白い仮面への好奇心の前には無力な建前だ。

◆装着後
「ああ、うん…そうだこれが僕だ」
誰かの助けになりたいのは、僕が有益だと認めて欲しいから。
吸血鬼を許せないのは、理不尽な現実の不満をぶつけるにぴったりだから。
お人好しで正義感なんて見せているけど、全部僕を良く見て欲しいからなんだ。
だから僕を見捨てないでって。

…ああそうだね、そう仕事をしよう。
「ねぇそこの仮面の人、主催の貴き方がどのようなお方かお伺いしても?君の言葉でね」
黒仮面に聞くね。
いずれ敵対し剣を突き立てる『獲物』はどんな姿でどんな悲鳴を上げるだろうか?
(僕は今どんな顔をしてるんだろう)



 吸血鬼は敵――そして許せない存在。
 常であればアリステル・ブルー(人狼のクレリック・f27826)と言う名の青年はそう考え、口にするところであろう。
 そんな彼の手元には、『貴婦人』からの招待状たる白き無貌の面。舞踏会に紛れ込み、敵を討つ為には、呪われた品と解った上で着けていく必要がある。
 だが、それ以前に――アリステルは使命よりも前に抗えずにいたものは好奇心。
 果たして呪いの力にて現出する己の知らぬ己とは……?と。
 その思いを前にしては吸血鬼を倒す為、等とは無力すぎる建前だった。

 白く冷たい面を自分の顔にあてがえば、吸い付く様にそれは己の表を隠す。
 物理的に隠される顔。同時に仮面は表向きの「顔」すら奪う。
「ああ、うん……」
 湧き上がる思いにアリステルは思わず喉奥から声を漏らした。

 誰かの助けになりたい?
 ――違う。自分が有益な存在だと認めて欲しいから。
 吸血鬼を許せない? 
 ――それも違う。理不尽な現実の不満をぶつけるに相応しいから。
 そこに在るのは強い強い『承認欲求』。それこそがアリステルの本当の行動原理。
「――そうだ、これが――僕だ」
 お人好しで正義漢な表の性格は、全部全部、己を良く見て欲しいから。
 本当はエゴに過ぎないのだ――吸血鬼を倒すのも、人々の為よりむしろ自分の為?
 その承認欲求もエゴも、結局の所は強く強く彼が求める愛情の裏返し。

 人々を、見捨てられない――のではない
 人々に、見捨てられたくない――。

「……ああ、そうだね」
 気がつけば、豪奢で広いホールにアリステルは立っていた。
 優雅に流れる音楽に合わせて踊る者、忙しなく給仕を続ける者――全て黒き仮面をその顔に着けているのが目に飛び込んできた。
 そう――仕事をしよう。思考を巡らせた彼に差し出されたのは白く透き通った発泡酒が注がれしワイングラス。
「御客人、まずはどうぞ一杯お召し下さいませ」
 黒仮面の給仕が告げる。ありがとう、と応えながら手に取ったグラス。そっと香りを嗅ぐも、妙な薬などは仕込まれてはなさそうだ。
「ねぇ、仮面の人――主催の貴き方がどのようなお方かお伺いしても?」
 君の言葉でね……そう問いかけると、黒仮面は一瞬沈黙した後にこう答えた。
「私の様な醜き顔の者も、こうして仕える事を許して下さいます。とても――とても美しきお方ですよ。言葉には到底表す事も出来ない程に」
 己を醜いと告げる黒仮面に浮かぶ貌は、酷く歪んだ笑みであった。
 黒仮面達の誰に聞いても『貴婦人』については一様に美しいとしか返ってこない。
 いずれ敵対し、剣を突き立てる『獲物』はどんな姿でどんな悲鳴を上げるのか。
 そして――。
(「僕は今、どんな顔をしてるんだろう」)
 無貌から表情が変わっている事だけが、面に触れた指先から感じて、とれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライカ・ネーベルラーベ
偽りの仮面?本当の自分?
そんなのわたしだって知りたいよ
死ぬ前のわたしに、一体何が宿っていたのかなんて
この空っぽの残骸を、動かしてるのは何なのかなんて

安定しない躁鬱は所詮、両方表
常に朦朧とした意識の奥底にあるものは、憎悪
……だけどそれは感情。性質じゃない
「よくも……よくもわたしと相棒を殺してくれたな……っ!あの裏切り者共を見つけ出し、一人残らず柱に首を吊るしてやろう!」
怒りを顕にしながらも、普段よりも居丈高で堂々とした振る舞いに変化

高潔な騎士の裏に邪悪が潜むのではなく。
混沌を捏ねて作った粗雑な女性人格の裏に、高慢ながら矜持を持った騎士の如き武人が隠れている

「ワタシ、は、誰ダ?」



「偽りの仮面……? 本当の、自分……?」
 ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)は手にした白き無貌の仮面を見つめながら、静かに問いかけるかのように呟いた。
「そんなの――わたしだって知りたいよ」
 何せライカは己の記憶すらあやふやなのだ。デッドマンとして甦った彼女が元の記憶も人格も残っているかすら知らない。混濁した記憶の何が真実かを知る術もない。
(「死ぬ前のわたしに、一体何が宿っていたのかなんて――」)
 一度死して、空っぽになったこの身体を、残骸を動かしているのは何か。
 再び白き面に問う視線を向けた。無機質な仮面は応えてはくれないが、きっと『貴婦人』が付与した呪いとやらが彼女に示す事だろう――本当の『自分』を。

 吸い付く様に顔にぴったり張り付いた仮面。
 徐々に呼び醒まされる、心や記憶の裏にある本質。
 そう、安定しない躁鬱たる彼女は所詮表。どちらも今のライカを形作るもの。
 常に朦朧とした意識の奥底にあるものは――憎悪。
 雲懸かった思考が鮮明に変化する。混沌より生み出された粗雑な女性人格の裏面より顔を見せ始めたのは、騎士の如き矜持を有する武人たる彼女。
「よくも――」
 肉体よりずっとずっと遅れて明確に甦る記憶は憎悪の感情とリンクしていたか。その口振りは怒りを顕わにしながらも、居丈高で堂々とした振る舞いを思わせていた。
「よくも、わたしと相棒を……」
 殺してくれたな……っ!
 この場には居ない憎悪の対象に向け、吐き捨てる様に飛び出した言葉。
「嗚呼、そうだ。あの裏切り者共を見つけ出さねば。そして一人残らず柱に首を吊るしてやらねば――!」
 高慢にも聞こえるその言葉。だがそれこそが本来のライカの姿。

 混沌より高潔な騎士を掬い上げた仮面の表情もまた、堂々とした佇まいと強き怒りの感情に支配された凜々しき武人のそれへと変貌を遂げていた。
 面を着けて己を引き出されたが、ただ一つ――解らない事が一つだけ。
 それは――

「ワタシ、は――誰ダ?」

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
(硬い唇から荒い吐息が漏れていた
躰が小刻みに震えていた
道化の仮面が無い今の自分は、"人間"を保てているのか?

"人間"になるんだ
"人間"にならなきゃ
"人間"、に……

どうして、だっけ?
怪奇なのに影なのに化け物なのに――人殺し、なのに

なんで、生きてるんだっけ?
なんで躰は、頭は、動き続けてる?
人間に擬態し続けて人を欺き続ける意味は?

生きてるだけで罪を重ね続けてるんだよ
悪い事をしたら、人を殺したら死刑になるんでしょう?
存在してはいけないんでしょう?
なんで今も生かされてるの?

痛いよ
辛いよ
苦しいよ
生かさないで
始末して
自分で死ぬ勇気が無いんだ
自分を殺す術が無いんだ

誰か、だれか、ダレか……

"俺"を、ころしてよ)



 ただでさえ白い膚を覆うのは無機質な白さの仮面。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は包帯まみれの黒い指先を仮面の硬い唇に触れる。そこから荒い吐息が不規則に漏れ出るのを厭でも感じた。
 小刻みに震えるこの躰、カタチこそはニンゲンだ。しかし――。
 嗚呼、顔が――無い。道化の仮面が。『人間』の顔が。

 今の自分は果たして、『人間』を保てているのか……?

 身を包帯で覆いながらも人の顔だけは他者に見えるようにしたのは、己が怪奇人間でありながらも人間でも在りたいという思いの証左。
 自身の怪奇性を認めながらも人間としての生を望んだスキアファールが望んだ顔。
 しかし、その『人間』としての貌を失ったらどうなるのか?
 意識が混濁する。白き仮面が人間としての彼の個を封じ、それ以外のものへと変えんと呪いの力がその身も心も蝕み、曝く。

 ――人間になるんだ。
 ――――人間に、ならなきゃ。
 ――――――にんゲン、に…………。

 自分に言い聞かせるかのように。
 呪いの魔力に抗うかのように。
 だがその思いも願いも虚しく。
 彼の中の怪奇が己に囁きだした。
「……どうして、だっけ?」
 怪奇なのに影なのに化け物なのに――人殺し、なのに。
 それは誰に向けたものなのか。スキアファールは痩せ細ったその腕で、ひょろ長い己の身を抱きしめるようにしながら問いかける。
「……なんで……」
 なんで、生きてるんだっけ?
 なんで、躰は、頭は、動き続けてる?
 人間に擬態し続けて、人を欺き続ける意味は?
 溢れ出る感情は止め処なく。まるで贖罪を求める悲痛な叫びが胸の内に響く。
 生きているだけで罪を重ね続ける、罪深きイキモノ。
 悪い事をしたら……人を殺したら死刑になるのがアタリマエ。
 存在してはいけない――なのに、何で今も生かされている?

 辛い、苦しい……生かさないで、始末して。
 自分で死ぬ勇気も、自分を殺す術も無い。
 こんな己の生に価値など無い。

「誰か、だれか、ダレか……」
 ――ダレカ、『俺』ヲ、コロシテヨ――。
 それは、人間であることを奪われた、彼の祈り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を…

…それが、大切な人達から受け継いだ私の誓い

…かつての私は誓いで心を凍らせて闘い続けてきた

…だけど"彼"と出逢って諭されて…自分の弱い心を自覚したもの

…仮面を被り、闘いの恐怖に震える事になっても、
彼と誓いがあれば、どんな恐怖も乗り越えてみせるわ




…だけど。この胸を焦がす感情からは眼を背けていたわ

…人々を虐げる吸血鬼が憎い
圧政に屈した民衆が憎い

…私の左眼に聖痕を刻んだ母様が、狂信者共が憎い

…そして何より、今なお私を呪縛する名も無き悪神が…憎い!

…私は私の意志を、私の運命を操ろうとする者を赦しはしないわ

…気付かせてくれた"貴婦人"には御礼をしないと…ね



 人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を――それこそが、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が大切な人々より受け継ぎし誓い。
(「……かつての私は……」)
 リーヴァルディは思い返す。自分は誓いで心を凍らせ闘った。闘い続けてきた。
 そんな己を変えたのは、『彼』の存在。
 出逢い、そして諭されて、気がついた。自覚した。己の弱き心を。
「――だから、恐くなど無い」
 手元には吸血鬼の貴婦人より送られたと言う招待状、そして白き呪いの面。
 呪いの力で自分自身が奪われようとも、闘いの恐怖に震える事になっても。
 リーヴァルディには『彼の存在』と『誓い』がある限り、どんな事でも乗り越えられる自信があった。

 だがしかし。
 己の内側より溢れ出た裏の面は、己の予想と反していた。
「これ、は……」
 胸が熱く感じられる。この焼き焦がすような感覚は感情から。
 そしてその感情とは――憎悪。
「あああ……!!」
 煮えたぎるは黒き怒りの炎。彼女の心を焼き、その脳をも負の怨熱で沸騰させる。

 吸血鬼が憎い――人々を虐げる悪しき存在。決して赦せぬもの。
 圧政に屈し、奴等を増長させるだけの民衆もまた憎い。
 そう、この左眼に消えぬ傷痕を――聖痕刻みし母、そして狂信者共も憎い。
 止め処なく溢れ出るは、この世界に蔓延る害悪な存在への嫌悪と憎悪と。
 そして――何よりも憎い存在が脳裏に浮かぶ。
「そう、憎い――今なお私を呪縛する彼奴が――憎い!!」
 名も無き悪神の存在が、リーヴァルディの身も心もこの世界に縛り付けている――憎悪と言う名の鎖もまた加わって。
 彼女は気付かない。無貌であった白き仮面が、強い憎悪を反映してその表情を写し出している事に。整ったその貌が歪んでしまった事に。
「私は赦しはしない――私の意思を、運命を操ろうとする者を」

 人類の繁栄や世界の救済と言う誓いは建前であり、表向きの仮面。
 その裏に隠された思いは、真に己を突き動かす原動力とは、憎いと言う思い。この世界の悪しきもの汚れしもの愚かなものへの私怨に過ぎなかったのか。
「ふ、ふふ……御礼をしないと……ね」
 気付かせてくれた『貴婦人』へと――たっぷり礼をしなければ。
 リーヴァルディの仮面は嗤う。憎き存在を狩れるその悦びに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蓮・紅雪
同行者:アイビス(f06280)
これをつけるの?
裏も表もない私たちがつけたところで、大して面白味もないでしょうに

アイビスが笑っている…?(滅茶苦茶ときめいてます)
一体どうしたのアイビス?
これが仮面の効果ということ?

ええ、行きましょう
貴女のしたいことを、見たいものを、何でも

ああ…アイビスのことしか考えられない
美味しそうな食事も、顔を剥ぐヴァンパイアのことも
いつも意識を取られるものが、どうでも良く感じられる…?
食事の味が、わからない…

(手を差し出され固まる)
はわ…(爆発)
踊るとか、無理よ
だってそんな…ふぅ(気絶)

※本人が意識していないアイビス愛が異常に溢れたようです

アドリブ歓迎


アイビス・ライブラリアン
同行者: 紅雪(f04969)
まず舞踏会ですか
華やかな場所は苦手なのですが…
ともあれまずは仮面をつけねばなりませんね
…紅雪もつけましたね?

(普段とは違う、誰が見ても分かる微笑みをして)
では、行きましょうか

(目を輝かせて)
舞踏会ならではですね…
豪華絢爛、とはこのことでしょうか

あれは…食べたことがないですね?
紅雪、行ってみませんか?

(軽く食事を終えた後)
すみません、少しはしゃいでしまいました…
…今はスローワルツなのですね
(スッと屈んで手を差し伸べ)
お嬢様、私と一曲踊っていただけませんか?
…ふふっ、こうでしょうか?
さあ、少し踊ってみましょう?

※普段より凄く感情が出ている、という変化です

アドリブ歓迎



「まずは舞踏会ですか……」
 華やかな場所は苦手と口籠もるはアイビス・ライブラリアン(新米司書人形・f06280)。相変わらず硬い表情をして、今回の段取りを迎えの馬車の中で確認する。
「ともあれまずは仮面をつけねばなりませんね」
「ええと、これをつけるの?」
 出立前に配られた、余りに無機質な白仮面を手にとって確認する様にアイビスに見せながら、蓮・紅雪(新雪・f04969)はそう問うた。
「ええ、着けたら吸血鬼の元に辿り着くまでは外せず、そして自分の表の顔を封じられて裏の顔を引き出す……とか」
「ふぅん……裏も表も無い私達が着けたところで、大した面白味もないでしょうに」
 何が楽しいのかさっぱり解らない。そんな表情を見せた紅雪だったが、そんな彼女にアイビスはたしなめるように促し、自分もその白仮面を手にとって……意を決したように顔にあてがった。
「……紅雪もつけましたね?」
「ええ……あれ?」
「どうかしましたか?」
 仮面を着けた紅雪は、アイビスが先程まで持っていた面が無表情だったのは確かだったと思い返していた。だが、今彼女が着ける面の表情は……微笑み。
 その覆う違和感すら感じさせず。アイビスそのものの顔貌に変化した仮面は、普段決して見せる事も無いであろう解りやすい笑顔なのだ。
(「アイビスが……笑っている……?」)
 キュン。何この胸が締め付けられるような感覚。一体どうしたのアイビス? これが仮面のもたらした効果ってことなの?
 ドギマギしつつ、紅雪は窓硝子に映った自分の仮面の表情を見るも、特段変化はない気もする。そういえば、表の顔を封じて裏の顔を引き出すとか言ってたっけと思い出し。
 そう考えると、普段のアイビスの硬い表情は彼女なりの表向きの作り顔で、本当はこんな感情豊かな人物なのだろうか、と推察するより他は無い。
「では、行きましょうか」
「ええ、行きましょう」
 馬車が到着し、迎えの黒仮面達の導くままに舞踏会の会場へと。
(「貴女のしたいことを、見たいものを、何でも……」)
 普段は自分を抑えているのであろう少女人形が、心の底から楽しんで笑顔で居てくれるなら。紅雪はそう思いながらアイビスの手を握ると、そっと握り返されたその握力に、また胸の高鳴りが止まらない。
 豪奢なダンスホールには美しい調度品やシャンデリアなどが飾られ、踊る人々もやはり美しく豪華なドレスに身を包んでいる。
「舞踏会ならでは……ですね。豪華絢爛とかこのことでしょうか」
 まるで子供のような笑みを浮かべ、その目を輝かせてアイビスは呟いた。
「あれは…食べたことがないですね? 紅雪、行ってみませんか?」
「え、ええ……?」
「?? ぼんやりして、どうかしましたか?」
 小首を傾げるアイビスに対し、紅雪の脳裏の思考も感情もぐるぐるし始めていた。
(「ああ……アイビスの事しか考えられない」)
 白仮面の表情は然程変わってないのだが、その頬の辺りの色が僅かにピンクに色づき始めているのを彼女は知らない。
 目の前の美味しそうな料理をはしゃぎながら口にするアイビス。それを見ているだけでお腹いっぱいですありがとうございます、というくらいに自分では食事の味すら解らない。
 顔を剥ぐと言う恐ろしいヴァンパイアがこの後に控えているであろう事も、自分の表の感情を封じられていつ意識を奪われるものか、という恐れすらもどうでも良い。
 確かに、人生経験値の少なめな紅雪は自分で言った通りに裏表は極端に少ない部類であったと言えよう。引き出す裏が、闇が無ければ呪いの効果は薄い。
 だが、仮面の呪いは違うベクトルで紅雪を駄目にしようと働いた。
 それが――自覚してなかったアイビスへの溢れる愛!!
「すみません、少しはしゃいでしまいました……」
 そのアイビスのお詫びの言葉すら、いつもの淡々とした佇まいではなく、しゅんと落ち込んでいるのがはっきり見える。こっちはこっちで普段見せない感情ががっつり表に出てしまっているのだ。
「今はスローワルツなのですね」
 流れる音楽を聞くとアイビスは仮面に笑みを浮かべ、紅雪の前にスッと屈んで手を差し伸べ、静かな声でこう囁いた。
「お嬢様、私と一曲踊っていただけませんか? ――ふふっ、こうでしょうか」
 そう冗談めかした笑みに、紅雪はポジティブな意味で固まっていた。

 溢れるアイビスLOVE 
     × 普段見せない表情のオンパレード
           = エ モ さ 大 爆 発

「はわ……」
 無理無理無理。踊るとか無理。
 手を差し出すとか、その台詞とか、何よりその表情。
「だって、そんな……」
「さぁ、少し踊ってみましょう?」
 アイビスのエスコートでダンスの輪に加わった二人。
 紅雪は踊っている間の記憶が一部飛んでいると後に述懐する。
「だって、専門用語で『尊い』って――あの時のアイビスの事を言うのでしょう?」
 ……と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・エアハート
海のように静かで穏やか。
太陽のような笑顔。
穢れのない清らかな心。
それが、いつもの俺。

でも本当の俺は。
荒れ狂う海のように残酷で。
雷雨のように冷たくて。
濁った宝石のように常に享楽的。

はあ…疲れる。
貼り付けた笑顔も鬱陶しい。
優等生のふりももう終い。
退屈しのぎに付き合ってやるよ。
この仮面だらけの舞踏会、をね。

あの黒仮面の女性、一人で退屈そう…。
仕方ない。話しだけでも聞いてやろう。
相手がいなくてつまらないと零す彼女にダンスのお誘いを申し込む。

…僕が貴方を目一杯楽しませてあげる。
彼女の耳元で囁いた後、エスコートしつつ二人のダンスを楽しむ。

ニヤリと妖しく笑う。
フフ、楽しくてどうにかなりそうだ…。



 ブルーサファイアの髪と瞳はまるで海の色。
 白き呪いの仮面を手にしたセシル・エアハート(深海に輝く青の鉱石・f03236)と言う青年は、まさにそんな海のように静かで穏やかで――そしてその水面を輝かせる太陽の如き朗らかな笑顔を常に浮かべていた。
「呪いの仮面……か」
 これを着けたらどうなってしまうのか。そこには恐怖心より勝る好奇心。
 そっと顔に宛がえば、石膏の様な感触が冷やりとしたかと思いきや。そのまま己の肌と一体化でもする様に張り付いた。
「……これ、は」
 物理的に顔を封じられると、己の表向きの顔もまた奪う。それがこの仮面の呪い。
 そう、本当は知っている。海とは穏やかなだけでは、優しい存在ではないのだと。
 荒れ狂う海はそれはもう残酷で、雷雨と高波は行き交う船を無慈悲に冷たく飲み込んでしまう。
 太陽の無い暗い暗い夜の海は、月明かりの下では濁った宝石の様に深く蒼黒く。
 海に似た青年は、海の持つ二面性を内に秘めて――そう、実に享楽的。
「はあ……疲れる」
 自堕落的な声色で仮面を着けた青年はゆらりと舞踏会の会場へと歩を進める。
 常に貼り付けていた笑顔の鬱陶しい仮面は封じられた。
 優等生の振りはもうお終い。本当だったら真面目にこんな潜入作戦に付き合う必要だってない。だけど――。
「退屈しのぎだ。付き合ってやるよ」
 この右も左も無表情な仮面だらけの舞踏会、を。
 ただしつまらなかったらそのままふらりと消えてしまいそうな雰囲気すら漂わせるセシルのその白仮面の表情が浮かべていたのは――愉悦。

「さぁ、僕に付き合って貰うよ?」
「あ……!」
 一人佇んでいた黒仮面の女の手を取ると、セシルはそのまま彼女をエスコートしてゆっくり流れる音楽の中心へ進む。
 退屈そうに見えた。相手をするべき男性もおらず、戸惑っていたとの事だった。
「……僕が貴方を目一杯楽しませてあげる」
 セシルのリードで踊れば、女のドレスがふわりと揺れ動く。
 此処は敵の本拠地で、本来ならば目一杯楽しんでいる場合では無いと言うのに。
 白仮面は妖しく笑う。享楽的に、退廃的に。
「フフ、楽しくてどうにかなりそうだ……」
 ――それは、底知れぬ深海の闇のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神奈木・璃玖
表面化する性質:本性の九尾の狐

仮面舞踏会への招待状、ですか
そのような文化があるとは存じていますが、まさか一介の商人である私が体験するとは思いませんでしたね
まあこれも依頼ですから、引き受けることに異論はありませんよ

呪いの仮面だと分かっていて付けるのはいささか危険ですが、これを付けなければ何も始まらないのですよね
ならば付けるしかありません
それにどのようになるのか興味がありますからね

(仮面をつけると本性の九尾の狐が表面化し)
あまり変化が見られぬようだが
否、変化ならばあるか
この(普段の)姿で『我』(九尾の狐)が表に出るとは
これもこの仮面の力ということか
ふむ、なかなかに面白き力ぞ
我を楽しませてくれそうだ



 招待状に添えられていたのは、白き無貌の石膏の面。
「そのような文化があるとは存じていますが――」
 眼鏡の中央を指先で軽く押し上げながら、神奈木・璃玖(九尾の商人・f27840)は興味津々と言った口振りで呟いた。
 仮面舞踏会、なる貴族の宴。自分の生まれ育った文化圏には無いものだが。まさか一介の商人たる自分が体験するとは思いも寄らなかった。
 だがこれも猟兵の仕事。決して遊びに行く訳では無い。
 その証拠がこの白き仮面。
 呪いの仮面だと解りきっているのにそれを敢えて身に着ける行為。それがどれだけ危険なのかは承知の上。
 着けなければ始まらないのであれば、着けるしか他に無いのだろう。
「それに――どのようになるのか興味がありますから、ね」
 普段の眼鏡をゆっくり外して大事にしまい、代わりに仮面を顔にあてがう。
 最初は冷たく滑らかな石膏の感触。それがまるで吸い付く様に顔の皮膚に張り付き、己の顔と白仮面は文字通り一体化する。
 同時に思考が混沌とする。商人たる己が失われていく、奪われていく。普段表向きに見せている自分というものが仮面によって封じられていく――。
「…………っ!」
 不意に混迷していた意識が明朗になる。
「……あまり変化が、見られぬよう、だが……?」
 仮面を着けている以外に、自分の肉体的には変化は現れない。
 だが視界の中に一つ気がついた。
「……否、変化ならばあるか」
 そっと手を仮面に触れて、形を触感で確認する。その形状は当初の『無貌の人間』ではなくて『狐面』へと変化していると解った。道理で鼻先が自分でも見える訳だ。
「普段の人の如き形態で、我が表に出るとは――ふむ、なかなかに面白き力ぞ」
 口調すら古風な言い回しになっている、と自分で気がつけば、引き釣り出された裏の顔とは何か、理解するのは早かった。
 璃玖の裏より呼び起こされたのは本性たる九尾の狐。普段は人の形をし、商人として過ごしている彼の慇懃な態度と姿が仮面だとすれば、その下にあるのは尊大な獣。
「これもこの仮面の力と言う事か――その趣向や興味深い」
 我を楽しませてくれそうだ――。
 九尾はククッと笑い、舞踏会の喧噪の中に姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
舞踏会といえばそれこそ
本来なら当たり障りのない社交辞令でやり過ごしつつ
己の得たい情報と人脈を得るにはうってつけの場だというのに

……常であれば己のこころを鎧う筈の、
隙無く整えた微笑が浮かべられない

貴婦人とやらの声に眉を寄せ
身に付けた幾つかの宝石に指先を触れては
偵察の『小鳥』を放つかと一瞬、過り
黒仮面の人々が映れば今はまだ、と緩く首を振る

身に染み付いた上品な所作は変わらずとも
その葛藤すらも顔に浮かんでいる
――どうにも勝手が違う

皆一様に見える黒仮面を見回せば、
近くにいた女性に一曲、お相手を願い
……貴女は、いつから貴婦人に仕えていらっしゃるのですか

彼等は、貴婦人を討った後
『戻れる』のだろうか――……?



 舞踏会といえば――ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は先程着けた白仮面の感触を指先で確かめながら思考を巡らせた。
 それこし、本来ならば当たり障りの無い社交辞令でやり過ごしながら、得たい情報と人脈を得るのにまさにうってつけの場だと言うのに。
「…………さて」
 どうしたものか。己の顔の皮膚にぴたりと張り付いた仮面。最早一体化していると言っても過言では無いのは、口を開けようと思えば仮面の口も開くから。
 では、表情を作ろうと思ったら……何故かそれが出来なかった。
 常で在れば、己のこころを鎧う筈の、隙無く整えた微笑が浮かべられない。
 ファルシェにとって、揺るぎなき微笑は――敵地で在っても苦痛に侵されてもその顔に浮かべる微笑は、まさに『貴婦人』の言う『表向きの仮面』。
 その下にある様々な感情全てを他者に悟らせぬ、鉄壁の仮面。
 だが、呪いの白仮面はファルシェの仮面を容赦無く封じた。微笑にて隠していた、喜怒哀楽の感情を面に曝き出していた。

『貴方達の本当の貌をお見せ下さいませ』

 ホールに響くように聞こえてきた声に、ファルシェは眉を寄せる。
 そして明確にその表情が作られた。顔の筋肉の動きを己自身で感じていた。
「私の本当の貌――ですか」
 人前で裸体を晒す以上に酷な事をさせる、と彼は思いながらも。身に着けた幾つのかの宝石に指先をかけた。
 偵察の小鳥を放つか? 一瞬思考を巡らせるものの、視界に映った黒仮面達を認める事でゆるりと手を引いた。今はその時では無い。緩く頭を振るに止まる。
 皆一様に見える黒仮面達。表情は無い。
「失敬、宜しければ私と一曲如何でしょうか」
 近くにいたドレスの女性に声をかけ、手を差し延べる。その上品な所作は完全に身に染み付いており、喩え感情をさらけ出そうとも変わらない。だが。
(「――どうにも勝手が違う」)
 いつもで在れば、完璧なまでの微笑をたたえながら言葉をかけていただろう。だが、いつもの顔が作れない。作らせてくれない。
 葛藤と……焦燥だろうか。顔に浮かべた表情はまさにそれだろう。
 だが基礎となるその顔面は非常に整ったもの。黒仮面の女はその困ったようにも見えた表情が照れているかのように取ったらしく。
「ええ、わたくしなどで宜しければ」
 そう言って差し伸べられた手に、手を重ねてくれた。
 優雅な曲調に合わせて二人もまた優雅にダンスホールの中央にて踊る。
「……貴女は、いつから貴婦人に仕えていらっしゃるのですか」
「……忘れました。ここにいると時間の感覚も見失うのです」
 この広大な屋敷の敷地で過ごす事を許されたと告げる彼女。外界への隔たりは季節を忘れ、時をも忘れる。この舞踏会の開催すら酷く不定期なのだが、4~5回はこうして客人を持て成す側の役目を仰せつかったのだという。
 曲が終わり、小さく一礼した後に去って行く彼女を見つめ、ファルシェは思う。
(「彼等は、貴婦人を討った後――」)
 『戻れる』のだろうか――……と。
 その白き仮面の表情は悲しげに、そして寂しげに写し出されていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
角……うまくはまってくれるんだろうか

己の底で澱のようにたまり淀む嗜虐の欲求、それは自覚した時から常に俺と共に在る
普段は装備品に流し制限することで精神の拮抗を保っているが、仮面の装着によってそれは崩れるだろう
狂気と呪詛の耐性はそれを「実行」しないよう理性を繋ぎ留める手段に

仮面を着けた直後から静かに押し寄せる、装備によって抑えられていた感情

黒仮面達――全員、全員だ
この場所を己の炎で冥府と見紛う程に荒らし焼却したとして
彼らの仮面を皮ごと剥ぎ取り、どんな表情をしているのか見てみたいな

耐性でその渇望を制御しつつ、会場内を軽く移動し有利に働きそうな造りや設置物はないか情報収集を試みよう
まだ、今は潜む時だ



 額の一本角を避けるように、白仮面はすっぽりと鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の顔を覆い尽くす。だが、無用な心配だったと安堵したのもつかの間のこと。
 石膏の冷たさが顔の皮膚にぴたりと吸い付く。まるで肌を侵食し、己と一つになろうかとでも言う様に。顔を奪われながらも相馬は呼び醒まされていく己の奥底にある何かが表面化していく事を感じていた。
 それは――嗜虐の欲求。心の奥底にまるで澱みの如く溜まり沈むそれは、相馬自身も元々自覚はしていた。常に己と共に在ると解っていた。
 だからこそ、いつもは己の持つ武具に流し喰らわせる事で抑えていた。精神の拮抗を保ち続けていた。だがそれは綱渡りも同然。
 均衡を崩した瞬間、奈落への扉は開かれる。
 仮面は容赦無く彼の表向きの顔を封じる。冷静沈着で自分を律し続けていた彼は、内なる悪鬼に蝕まれる。静かに音も無く、相馬の感情を書き換えていく。
 膝を付き、抗うように大きく息を吐く。欲するままに、この場に殺戮の、血の花を咲かせる訳には行かぬと理性が辛うじて楔を打つ。
(「まだ、まだだ――」)
 狂気と呪詛に抗う事には慣れていた。荒い息を無理矢理に整え、舞踏会の広間に歩を進める。周囲を見渡せば、無表情な黒仮面達が無防備に客人達を持て成す姿。
 ――この場所を己の炎にて、果たして冥府と見紛う程に焼き尽くしたとして。彼らの仮面を皮もろとも剥ぎ取り、その内に如何なる表情を見せるものか。
 吸血鬼の婦人と然程変わらぬ残酷な妄想と渇望に取り憑かれながらも、彼は踏み止まる。それでは何の為に来たのかと、理性が必死に彼の中で囁き続ける。
 奨められた葡萄酒は手に取ったまま口を付けず、相馬はゆっくりと宴の場を歩き回りながら建物の様子や調度品に目を配るも、これと言ったものも見当たらず。そもそも貴婦人とやらはこの建物とは別に在り、客人を収集品と扱う以上は手荒な真似はするまい。
「今はまだ、まだだ――」
 潜む時だ。役目を果たす意味でも、己の衝動に身を任せる意味でも。

成功 🔵​🔵​🔴​

四辻・鏡
ホント、悪趣味
本当の貌なんざ、見ても剥いでも楽しくなんかねぇよ
そんなの、散々見てきた私が保証してやる
…それでも見たいというなら、いいぜ
この『遊び』に付き合ってやるよ

浮かび上がる己は鏡刀として、見る者の狂気を映し見定めるだけの武器としての己
自身の刃を見て抱く畏れを映し、その姿を変え続けてきただけの我
そこに人らしい感情はなく、ただ心の内を暴いていくだけ

すれ違う仮面があればその目を覗き
相手の狂気を口にして、畏れるままに振る舞う

殺人鬼のようだと思われればそのように
無垢な乙女と見られればそのように

角が軋む
鱗の肌が痛い

…嗚呼、だから嫌なんだ、ヒトなんて
もう、そう振る舞うのなんてうんざりなのに

アドリブ歓迎



「ホント、悪趣味」
 四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は先程受け取った白仮面を手の中で弄ぶようにひらひらと動かしながら、吐き捨てるようにそう呟いた。
(「本当の貌なんざ、見ても剥いでも楽しくなんかねぇよ――」)
 そんなの、散々見てきたのだから。保証してやると大声で叫んだって良い。
 なのに、この貴婦人とか抜かす吸血鬼はそんなモノを曝き蒐集するのが大好物だと来たモノだ。鏡のその言葉を聞いた所で、それでも見たいとほざくに決まってる。
「いいぜ――この『遊び』に付き合ってやるよ」
 吐き出した息は倦怠か呆れか。ヤドリガミの女は肝を据えた。

 仮面を着けた彼女の内より浮き上がるは、かつての彼女。
 見る者の狂気をその刀身に映し出し、見定めるだけの武器としての己。
 ――鏡刀。
 刃を見て抱く人の心の畏れが映し出され、応じて姿を変化させてきただけの存在。
 その身は、本質は鋼。炭と鉄と火より生み出されし者に人の感情は無く、ただ人の心の内を暴く写し鏡。

 白き仮面を着けた彼女の貌は無表情のまま。
 いや、敢えて言えば――石膏の面が更に滑らかに、まるで光を反射するかのよう。
 歩き擦れ違った黒仮面のその貌に視線を向ける。その目を覗く。
「――――」
「……ひっ」
 ドレスを着た黒仮面が思わず悲鳴に似た声を上げ、膝から脱力する。
 その傍らに居た給仕の黒仮面は、歩む鏡を見て、その視線を外さない。
 ――嗚呼、厭でも声が聞こえる。奴等の思考が入ってくる。
 まるで凶悪な殺人鬼の如く恐ろしい、とあの女は感じたのだろう。
 まるで無垢な乙女のように美しい、とあの男は思ったのであろう。
 ならばその様に振る舞うだけの事だ。

 角が、軋む――鱗の肌が――痛い――。

「だから嫌なんだ……ヒトなんて」
 独白めいた言葉は吐息と共に漏れた。
 ――もう、そう振る舞うのなんてうんざりなのに。
 ああ、その声にならぬその声とは。
 人の評価と言霊と、そして重すぎる思いに翻弄され続けた、ただ一振りの叫び声。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
ようするにヒトの本性を見たいという酔狂な吸血鬼を何とかしろと言う事よね
普段見せない側面なんて、既知の人がいなければ見せることなんて問題ないわ

本当の…貌ねえ?
欺くために意図的に笑みを絶やさずいるのは自覚はある
正直、どうなるのか楽しみなところはあるわ…ふふ。


響かない音 届かない心
溢れてる血 酷となる魂

誰かを傷つけねば気が済まない

だって 誰も居ない
泣いて叫んでも届かない声
無情にも空を掴んだ手
誰も助けてくれない

誰か気付いて 私はここよ
血を流せばいいの?傷つければ私を見てくれる?気付いてくれる?
ねえ― ねえ?

寂しさゆえに
刃を鈍く光らせることしか知らない
魂の奥底は歪んでいるのだろうと自嘲して



「――ようするに」
 招待状と共に町に届いたという無貌の白仮面を手に取り、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は静かに目を細めてそれを眺めた。
「ヒトの本性を見たいという酔狂な吸血鬼を何とかしろと言う事よね」
 悪趣味だと送り出した青年は笑って言っていたが。普段見せない側面なんて、その場に知っている者がいなければ気にするような事でも無い。他人に見せるくらい問題のない事。
 しかし――。
「本当の……貌ねえ?」
 他者を欺く為の意図的な笑み。その作りものの笑みを常に途絶えさせずにいる……そんな自覚が無いとは言えない。
 それを表向きの仮面と呼ぶのであれば――?
 笑みの仮面を奪われてしまったら自分はどうなってしまうのか?
 正直どうなるかは解らない。だからこそ。
「楽しみなところはあるわ……ふふ」
 笑みの中に浮かべたのは好奇心。果たして己がどうなるかも知らぬまま。

 白き仮面をその顔にあてがえば、吸い付くような感触が襲う。
 冷たい石膏が肌に触れ、そのまま離れない。
 封じられた笑み。それはディアナの心の奥底に潜む感情を隠すが為の偽り。

 響かない音――届かない心――
 ――溢れてる血――酷となる魂

「ああああ……」
 藻掻くように仮面の顔に爪を立てた。
 本当の私は、誰かを傷つけなければ気が済まない存在。
 だって、誰も居ないんだもの。
 だって、泣いて叫んでも、私の声は届きやしないんだもの。
 この手を空に掲げた所で、それを掴み取ってくれる者は誰も居ない。
 誰も、誰も助けてくれない――。

 仮面の奥の瞳よりぽろぽろと溢れ出るのは寂しさ。
 この世界の中に一人取り残された感覚。
 誰か気付いて。
 私はここよ。
 一人で生まれて一人で死ぬなんて事は解っているのに。
 頭では解っているのに。心が泣き叫んで悲鳴を上げている。
 強く握った掌。食い込んだ爪の先から赤い滴が滴り落ちる。
 血を流せばいいの? 傷つければ私を見てくれる? 気付いてくれる?

「ねえ―……」
(「ねえ?」)

 其処には寂しさゆえに刃を鈍く光らせることしか知らない女。
 弱い自分を隠す為のヴェールを剥ぎ取られ、心を裸にされたディアナは胸が押し潰されそうな感覚に大きく呼吸を繰り返しながら、舞踏会の終わりをただただ待った。
 まるで親とはぐれ、怯えて相手構わず噛み付く子犬のように。

 嗚呼――わたしの魂の奥底は、なんて歪んでいるのだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ディオ・デモン』

POW   :    燃やし穢す火の粉
【松明から飛ばす火】を降らせる事で、戦場全体が【焦熱地獄】と同じ環境に変化する。[焦熱地獄]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    分かたれる頭
【身を引き裂くことで、もう一方の自分】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    二つ頭の悪魔
【溢れ出す暴力への欲】に覚醒して【巨大な二つ頭の悪魔】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 舞踏会も終わり、黒仮面の男女は音も無く屋敷のいずこかに消えてしまった。
 ただ一人、残された黒仮面は執事らしき衣装を身に纏った男。
 ダンスホールの奥の扉の前にて、白仮面の客人達を誘う役目を仰せつかったと彼は静かな声で語る。
「皆々様――此方より館の主……貴婦人がおられる別館へとお向かい下さいませ」
 重く鈍い音を立てて扉が開けば、通路が薄暗いのは夜の帳が降りただけでは無く。
 石造の回廊は天井こそ吹き抜けになっているものの、射す光など有りはしない。
 どうぞ、と示されれば。一定間隔に蝋燭の灯火が仄かに点った。

 仮面の呪いは未だに猟兵達を捕らえて離さない。
 外れる事の無い仮面。幸い、視界は確保されている。呼吸も苦しくない。戦闘において不都合になる心配だけはなさそうだが。

『――皆様、舞踏会はお楽しみ頂けましたか。』
 どこからともなく、件の女の声がする。『貴婦人』の声だ。
『ふふ、その仮面は実にお似合いですよ?
 己自身を隠していた仮面からの解放は如何でしょう。
 本当の自分を晒して出したその開放感、実に素晴らしいのではありませんか?』
 クスクスと笑い声を立てながら、女の声は一方的に告げる。

『この先、私の可愛い下僕(しもべ)が貴方方を見定めに参ります。
 彼らは匂いで解ります。貴方方が正直であるかどうか』
 ――正直とはどういう事か。そんな問いを投げかける前に女は更に告げる。

『裏の自分に抗う事さえしなければ、彼らも多少は大人しくしてくれる事でしょう。
 しかし、この期に及んで尚も《仮面》で真の己を隠そうとすれば――』

 ――二つ頭の悪魔は、戯れにその首を刈る事でしょう。

 やがて向こうに見えてきたのは、貴婦人が言った通りの存在。
 一つの下半身に二つの上半身を共有する歪な姿をした悪魔。
『ギギッ』
『キシシッ』
 クンクンと鼻を鳴らしながら知性の低い悪魔は此方を見る。
 猟兵達の顔に貼り付いた白仮面。表の顔を封じて裏の自分を曝き出されたまま。
 普段の自分とは違う自分で、この悪魔達を退ける必要がある。
 裏の自分に抗ってはならぬ。悪魔に大喜びで首を刈られたくなければ。


 前章に引き続き、仮面を付けた状態で開始です。
 物理的には仮面を付けている事での不利は発生しません。
 ただし呪いによって表面化した『本当の自分』が現出したままです。
 普段とは違う自分を受け入れつつ思考し、行動して見て下さい。
 苦悩しつつ戦う姿を見せて頂くのも有りで。
 仮面の呪いに抗って裏の自分を無視するのも構いませんが、その場合は敵が勘付いて執拗に攻撃を開始します。その場合は無傷では済まないと思って頂ければ。

 なお二つ頭の悪魔は「仮面に抗う者は即座に首を刈れ」「己に正直な者は優しく扱え」と言う命令を受けており、それに忠実です。
 攻撃するなとは言われて無い上、オブリビオンである以上は戦闘不可避です。
 なお、負傷描写がNGの方はその旨記載お願いします。
蓮・紅雪
同行者:アイビス(f06280)
アイビスの不満顔可愛い…
!?アイビスが、私に、微笑んだ!(過呼吸)
アイビスが怯えている…ああ袖を掴むアイビス可愛い…尊い…
ええ、早く滅しましょう。大丈夫、私がすぐに消し去るから。

UC発動。姿を変えて斬りかかるわ。
アイビスのためなら鬼にでもなれる。
(脳裏に様々な表情のアイビスが浮かんでいる)
(敵は全く見えてない)
ああ、アイビス、待っていて。
(悦表情で迷宮を駆け抜けオブリビオンを滅多斬り、その際もアイビスで頭がいっぱい)
ああ…アイビスが見え…ふにゃ!?
(舞踏会でのことを思い出して爆発、その勢いでリミッター解除+全力魔法+衝撃波)

ふぅ、はぁ…強敵だったわ。

アドリブ歓迎


アイビス・ライブラリアン
同行者: 紅雪(f04969)
(不満そうに)可愛い下僕…あまり可愛くありませんね
まったく…紅雪を見習ってほしいですね(紅雪に微笑みかけ)
…しかしよく見ると、怖いですね…(紅雪の袖の端を掴みつつ)
早く倒してしまいましょう

主に属性魔法+範囲攻撃で攻撃
いつもより狙いが甘いですね…感情のせいでしょうか
頑張って狙います…!
敵ユーベルコード…もっと見た目が怖くなりましたね…
怖いので迷路を出して、なるべく近くにこさせないようにします

紅雪はあんな恐ろしい敵と戦って大丈夫でしょうか…
不安です…早く戻ってきてくれないでしょうか…

アドリブ歓迎



 蝋燭の明かりのみが照らし出すのは仮面を付けた2人の少女。そして彼女達に躙り寄る二つ首の悪魔達。醜悪なその外見の存在が、鼻を鳴らしながら近づくその様子は不気味そのもの。
 ディオ・デモンと呼ばれる異形の悪魔達を前にして、アイビス・ライブラリアンはあからさまにも不機嫌そうな不満げな表情をその白仮面に浮かび上がらせた。
「可愛い下僕……? あまり可愛くありませんね」
「ええ……そうね……」
 彼女の言葉に相槌を打ちながらも蓮・紅雪の気は漫ろ。何故ならば――
(「アイビスの不満顔可愛い……」)
 相棒たる少女の余りに珍しくコロコロ変化する表情に、完全に見惚れていたから。
「まったく……こちらの紅雪を見習って欲しいものですね?」
 そう言いながらアイビスは振り返って紅雪の目を見つめた。微笑みかけるそのフフッという笑い声まで聞こえてきた気がする。
「――え!? あ、その――」
 アイビスが、私に、微笑んだ――!!
 紅雪は己の心臓の拍動が激しくなっていくのを感じる。え、今の可愛いって褒めてくれたの? アイビスが? 私に??
 過呼吸寸前の紅雪の心情を知ってか知らずか。アイビスは改めて敵の悪魔達が周囲をじわじわ取り囲んでいる事を認識すると、突然、紅雪の着物の袖をぎゅっと端掴んで告げる。
「しかし、よくよく見ると……怖いです、ね……」
 敵の不気味なその形状に、いつもであれば淡々と冷静に観察し、対処しているであろうアイビスは、怯えていた。怖がっていた。
 これも仮面の力により、感情を強く剥き出しにさせらてれているアイビス。
 そしてそんなアイビスの姿を見ている紅雪もまた……。
(「アイビスが怯えている……あああ……袖を掴むアイビス可愛い……尊い……」)
 相棒たるアイビスに対する愛情が異常に溢れかえって止まらない。過呼吸どころか心臓バクバクしすぎて心不全でも起こすんじゃないだろうかってくらいに。
「大丈夫よ、アイビス。私が付いてる」
 ぎゅっと袖を掴む手に己の手を重ねて握りしめる。伝わる熱が人形たる少女の指先に伝わっていく。
「紅雪……早億倒してしまいましょう」
「ええ、早く滅しましょう」
 そう2人が身構えた様子すら、対するディオ・デモン達は久方ぶりの客をそれまで吟味していたのか。何やら嬉しそうに嗤う。
『ギシシッ……しょうじきものノにおいダ』
『ギャギャッ、やさシクあつかワナイト』
 その言葉に反し。暴力への欲に応じてその身をみるみる巨大化させていく悪魔達。
「……!!」
 アイビスはそれを見て怯えた表情で魔道書の頁をめくり、悪魔達に向けて氷の魔法を放つも。その魔法の勢いも狙いも常より甘く、敵の腕や武器で薙ぎ払われ、または明後日の方向へと飛んでいってしまう。
『ゲヒャ、ゲヒャ、ナニかシタか』
「――ひっ――」
 巨大かつ気味の悪い悪魔の嗤い顔に、アイビスの表情が引き攣った。
 怖い。ただでさえ怖いのに、巨大化された事で更に怖くなった。
「アイビス……!!」
 そこに無我夢中で紅雪は悪魔の双頭の片方に斬りかかり、一瞬の内にその首を跳ね飛ばして彼女の傍に駆けて身を寄せる。
「紅雪……! め、迷路を展開します! あれを近くに来させたくない……!」
 今にも泣き叫びそうな表情のアイビスが本を広げると同時に、その場は本棚で埋め尽くされた迷宮と化す。
 瞬時に悪魔達との間に壁が作り出された事で敵の姿が見えなくなった。安堵したアイビスは、そのまま脱力し、へたり込む様にその場に膝を着いた。
 そんな彼女を抱きしめるように支える紅雪。様々な表情を見せ、こんな怯えて自分を頼り縋る彼女を今まで見た事があろうか。いや、無い。
「――大丈夫、私がすぐに消し去るから――!」
 アイビスの為なら鬼にでも何にでもなれる。
 そんな想いに身を委ね、紅雪はその身を紅纏った災厄の化身鬼と変じた。
「アイビス、ここで大人しく待ってて」
「紅雪――!!」
 本棚の迷宮を駆けだした紅雪を不安そうに見送るアイビス。あんな恐ろしい敵と戦って大丈夫なんだろうか。不安で不安で胸が押し潰されそうになりながらも、彼女を信じて少女人形は膝を抱えて座り込んだ。早く、早く戻ってきて――と。
「ああ、アイビス――待っていて」
 脳裏に先程から目にした様々な表情のアイビスを思い浮かべながら紅雪は文字通りの鬼神の如く、敵をばっさばっさと斬り倒していた。敵の顔など全く見えてない。
「ああ、アイビス、アイビスが見え――ふにゃ!!?」
 悦に入った表情で悪魔を三枚下ろしにしていたが、先程の舞踏会の事まで思い出すと、嬉しさと恥ずかしさとその他諸々が蘇り――その顔に被っていた白い仮面が真っ赤に紅潮した……気がした。
 そこから先の事は紅雪も記憶が無い。気が付いたら迷宮は消え、襲いかかってきた悪魔達は全て切り伏せていたのだから。
「紅雪っ!!」
 安堵をその仮面の表情に浮き上がらせながら、アイビスは紅雪に駆け寄る。その表情にまた尊みを感じながら紅雪は変化を解き、刀を納めながら大きく肩で息をした。
「ふぅ、はぁ……強敵だったわ」
「良かった、紅雪が無事で……さぁ、先を急ぎましょう」
「ええ……このままじゃ身が持たないわ」
 感情が正直に表に出すぎる事への心身への負担の凄まじさを二人は認識しつつ。
 不安と安堵のドキドキが止まらないアイビスと、そんな相方への愛が暴走してドキドキしっぱなしの紅雪は、回廊の奥へと歩き出したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…嗚呼。憎い。憎い。憎い…!

…これが私。今まで眼を背けてきた、本当の…私

…今までこの左眼の聖痕に犠牲者達の魂を取り込み、
領主を討つ事で彼らの嘆きや苦しみを晴らしてきたけど…
彼らの赫怒、彼らの憎悪から眼をそらしてきた…

…だけど、それももう終わり
いまだ鎮まらぬ魂よ、寄越しなさい
貴方達の憎悪を、憤怒を、絶望を…!

限界突破した憎悪と殺気に従い左眼の聖痕に魔力を溜めUCを発動
敵の火属性攻撃や剣や棍棒の乱れ撃ちを犠牲者達の呪詛のオーラで防御する

…首を刈られるのはお前達の方よ
私の逆鱗に触れた以上、お前達が辿る道筋はただ一つと知れ

残像が生じる早業のカウンターで懐に切り込み、
大鎌を怪力任せになぎ払い首をはねる



「嗚呼――憎い――」
 その銀の髪を振り乱しながら、屋敷から別館に繋がる回廊を歩む――いや、身を引きずる様に先を進む女が一人。
 リーヴァルディ・カーライルは白き呪いの仮面の上より、己の左眼を指先で抑えるように触れる。疼く。刻まれたモノが内より叫び声を上げている――!
「憎い。憎い憎い……!!」
 そう、これが私。今まで眼を背けて見ようともしなかった、本当の……私なのか。
 リーヴァルディの左眼に刻まれし聖痕。それは彼女を縛る呪い。
 今まで聖痕に取り込んできたのは犠牲者達の魂、そしてその思い。
 嘆き、悲しみ、苦しみ、絶望――彼らの負の思いを晴らすが為に、悪しき吸血鬼たる領主をただただ討つ。ずっと、ずっとそうしてきた。
 そうする事で彼らの赫怒、彼らの憎悪から眼をそらしてきた……。

「……だけど、それももう終わり」

 白き仮面はその表情を憎悪に染め、歪んだまま。
 燃えたぎる黒き怒りは彼女自身のものか、彼女の左眼に宿る未だ鎮魂せぬ彼らのものか。
「寄越しなさい――貴方達の憎悪を、憤怒を、絶望を……!」
 胸の奥から絞り出すような声は魂の叫び声。
 建前をかなぐり捨てた今、彼女を駆り立てるもの。それはこの世界の害悪の排除。
『ゲヒャ、ゲヒャ……イイかおダ』
『ギヒヒ……アノかたノだいすきナかお』
 気が付いたら、醜悪な悪魔達がリーヴァルディの周囲を取り囲んでいる。
 ああ、何と汚らわしくおぞましき存在か。
 吸血鬼の手下たる悪魔なぞ、自分に視線向ける事も声かける事も許されない。
「……首を刈られるのは、お前達の方よ」
 怨霊達の上げる叫び声が彼女の脳裏に響く。
 殺セ、コロセ――ユルサナイ――。
 向き合うべくして向き合った憎しみと怒りの感情は彼女に強烈な殺気をもたらす。
 負の感情に身を委ねた彼女の周囲にはどす黒いオーラが満ち、悪魔達の剣や棍棒の攻撃すらも受け止め、降り注ぐ炎の熱すら感じさせない。
『ヒぃッ……!?』
 悪魔すら怯える憎悪の気迫。だが逃げ出す事は許されぬ――。
「私の逆鱗に触れた以上、お前達が辿る道筋はただ一つと知れ」
 一瞬、彼女の姿が掻き消える。いや、目にも止まらぬ速度にて悪魔達の懐にその身を飛び込ませただけだ。
 手にした大鎌が朱色に染まる。空気すら斬り裂く音と共に薙ぎ払われた刃は、悪魔達の二つある首を次々と刎ね飛ばしていた。

「………嗚呼、まだ、まだ足りない」
 この無限に溢れて止まらぬこの憎しみは、いくらぶつけても足りない。
 リーヴァルディは回廊の先を見つめた。この先に、憎き吸血鬼の存在がある。
 彼女の仮面は写し出すのだ――憎しみに溺れる女の表情を。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
あ、あァあ、ア
("人間"を封じられ死への願望が溢れ続ける
呪瘡包帯が解けていく
"人間"の容がドロドロと崩れていく
悍ましい姿が露わになっていく)

いや、だ
いやだいやだいやだ
おれ、は、わたしは
こころだけはにんげんのままでいたい
こころまでばけものになりたくないの
ころしてころしてころシてころシテコロシテ縺薙m縺励※――

(縋るように譫言を呟き続けて
敵の攻撃に抵抗しない儘で
只々、己の死を待ち侘び続けるだけ――で、在りたかった、のに

この躰が、怪奇が、殺されることを赦さない

ナックラヴィーの名を、途切れ途切れに呼んだ
血が足りないと言わんばかりに、自ら身を裂いた
狂ったように哭いて嗤っていた

……あぁ
また、死に損なった)



 果たして、その異様な姿は「人間」に見えたであろうか?

「あ、あァ……あ、ア……」
 貴婦人住まう薄暗い回廊を歩むのは黒。頭部に張り付いた白き仮面が闇に尚目立つのは、それを身に着けたスキアファール・イリャルギの身が異変を生じているが故。
 怪奇人間たる彼の、「人間」を封じれば、残るのはただ「怪奇」のみ。
 仮面に人間としての顔を封じられた事は、即ち彼の中の「人間(=生)」が封じられ、「怪奇(=死)」が強い自己主張を始めると言う事。
 声にならぬ声。叫び声と言うにはか細いそれを断続的に上げ続けながら、人の形を保っていた黒き包帯すら解けていき、ドロドロとした何かに、おぞましい姿に変容していく。
「いや、だ――」
 いやだいやだいやだ。おれ、は、わたしは――。
 その声は助けを請う、何かに縋ろうと願う人としての彼の叫び。

 こころだけはにんげんのままでいたい
 こころまでばけものになりたくないの
 ころしてころしてころシてころシテコロシテ縺薙m縺励※――

 もはやそれは言葉にすら成らず。
 そしてその異様にして無防備なスキアファールを見つけた二つ頭の悪魔達は玩具を見つけたとばかりに彼に向けて刃を下ろし、棍棒で滅多打ちにし始めていた。
『ゲヒヒ、ナンだ、コイツ』
『シにタイのカ? ケケケッ!』
 抵抗すらせず、怪奇そのものの影と化した彼は思う。
 このまま殺してくれまいか、と。己の死を待ち侘びていた。今がその時だ。
 ――そう思いたかったのに。

 流れ落ちた血の色は果たして何色なのだろうか。
 途切れ途切れにその口に乗せたのはスコットランドの水妖の名。
 自らの爪を立て、暗闇たる己を引き裂けば、流れ落ちる滴り。
『ヒギャアアァ!?』
『グエェェェっ!?』
 影より滲み出たそれはおぞましき姿の影人間達と化し、本体たるスキアファールを護るように悪魔達にしがみつくとその場で爆ぜた。強酸よりも更に強い粘液が悪魔の身を蝕み、溶かし尽くし、やがては骸の海の向こうに消し去った。

「は、はは――あははははハハハハッッ!!!!」
 白き仮面は黒き塊に張り付いたまま、狂った様に哭いて、嗤った。
 どうして、どうしてこの躰が、怪奇が、殺されることを赦さない?
(「……あぁ」)
 止まらぬ己の嗤い声を聞きながら、封じられた彼の中の人間が呟いた。
(「また、死に損なった――」)
 ――と。

成功 🔵​🔵​🔴​

ディアナ・ロドクルーン
耳障りな声が聞こえる
不快な気配を感じる

いやだ、いやだいやだ
来るな、来ないで。だって―
(やんわりと仮面の下で笑みを深めたかもしれぬ、そんな雰囲気をまろびだし。静かな殺意が身を焦がす)

…ああ、良い子ね
私が何をしたいか分かっているのね

どれほど渇望しても得られないもの
その為にあり
 その為におり
  その為にいる

私の爪は、刃は肉を裂き、辺り一面血の花を咲かせることでしょう
貴方が消えればあの声の主は私を見てくれるかしら?
私の寂しさを埋めてくれる―?
良い声で啼いてくれる―?
悪魔?オブリビオン?何でも良いわ、どちらにせよ殺すだけだもの

第六感、見切りで相手に攻撃を避け
部位破壊でじわじわと嬲るように動けなくしていく



 耳障りな声。不快な気配が肌に触れる。
 薄暗い回廊の向こう側より感じる存在感。
 ディアナ・ロドクルーンはそれが悪しき存在だと感じると、己が身を抱きしめながら、ゆっくりとその首を左右に振った。
「いやだ、いやだいやだ――」
 まるで怯える子供のようにでも見えたのだろうか。双頭の悪魔達はその醜悪な顔の嗤い顔をより一層深めると、じわりじわりとディアナに近づいて彼女の顔を覗き込む。
『ギヒヒ……おびエテルのカ、かわいソウニ』
『やさシクいたブッテヤロうカ、こむすめ』
 松明の光を掲げながら迫る悪魔を見、ディアナは一歩二歩と小さく後ろに歩を進めた。
「来るな、来ないで。だって――」
 仮面の下の表情が歪めば、呪いで一体化した貌もまた歪む。
 それは――歓喜に満ちあふれた、笑み。
「嗚呼、良い子ね――私が何をしたいのか、分かってくれているのね」
 爪が煌めく。ずぶりと音立て、悪魔の肉が斬り裂かれ、辺りに血の花咲き乱れる。
 悪魔の悲鳴すら、喉笛を引き裂く事で黙らせると、ディアナは恍惚の表情を浮かべたまま、ちょこんと首を傾げた。
「貴方達が消えれば、あの声の主は私を見てくれるかしら?」
『ヒィィッ!?』
「ねぇ――」
 ……オシエテヨ。
 ざくりとデモンの眼下に人差し指を突き入れた。何か悲鳴を上げているが、そんな些細な事は気にしない。静かな殺意が身を焦がす衝動に任せ、理性的な思考を挟む余地などこれっぽっちもありはしない。
 悪魔? オブリビオン? 何でも構わない。どちらにせよ殺すだけ。
「ねぇ、私の寂しさを埋めてくれる――?」
 ばき、と。巨大化しようとしたその腕を引きちぎり。
「良い声で啼いてくれる――?」
 ぶち、と悪魔の尾を弄び引っこ抜く。
 いくら、いくら血が流れても、この乾ききった心を潤す事はまだ出来ないのか。

 どれほど渇望しても得られないもの。
 その為にあり、
 その為におり、
 その為にいる。

「お願い――私を一人にしないで――」
 嗚呼、傷つける事でしか。私は愛せないのか、愛されないのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四辻・鏡
流血負傷歓迎

…そう
次はお前か

嫌悪もない、侮蔑もない
そんなものは刀には必要無い
でもただ一つ、訂正させて貰うよ

見定めるのは、お前ではなく私の方だ

嘘つきでも、正直者でも、好きなように視ればいい
代わりに、その狂気を私は頂くよ

刀故、本体以外の傷を厭わず接近
相手の瞳を見据え、UCを発動

闘うのは武器の本能
写すは、鏡の本能

鏡よ鏡

お前の望む、お前の畏れはどちらだ?


敵が自身の畏れに溺れ、動きを止めると同時に匕首を抜き相手の首を掻っ切りに

しかと、見るがいい
これが汝だ
この恐怖はお前の牙
この刃はお前の爪
この赤は、お前の欲望

知っていたかい?
鏡に映ったお前は、こんな姿形をしているんだよ

あれ…じゃあ私の姿は、どんなだったっけ



 薄暗い廊下をゆらりと歩むその姿は、まるで幽霊の様にも似て。
「……そう、次はお前か」
 進路を遮る様に現れた双頭の悪魔達を付けた仮面越しに見詰めると、四辻・鏡は感情の無い声でそう問うた。
『ゲヒ、ゲヒヒ……オまえ、うまクはナサソうダ』
『オヤ……かおガよクみエナイゾ……?』
 鏡の事を見定めようとして悪魔達は目を凝らす。彼女の付けた仮面は無表情。悪魔を見返したその顔には嫌悪も侮蔑もない。人間らしい感情すら見受けられず、その石膏の表面は鏡面の如く悪魔達の醜悪な顔を写し出していた。
『われラをみテ、きょうふスラわかヌか』
「そんなものは刀には必要無い。でも――ただ一つ、訂正させて貰うよ」
 鏡の視線が悪魔を射貫く。滑る様に走り抜けたのは刃の切っ先、悪魔の首を一つ跳ね飛ばす。
『ヒギャアッ!!?』
「見定めるのは、お前ではなく私の方だ」
 嘘つきでも、正直者でも、好きなように視ればいい。代わりに――
「代わりに、その狂気を私は頂くよ?」
 彼女は悪魔達の群れに踊る様に飛び込んだ。本体さえ無事であればそれで良い。そう思うは、彼女の本質が器物であり道具で在るが故。
 そんな命知らずとも言える所作に、悪魔達は畏怖の視線を彼女に向けた。
「鏡よ鏡――」

 ――お前の望む、お前の畏れはどちらだ?

『ヒィィィィッッ!!??』
 鏡と視線が交わったその先から、悪魔達はその畏怖に呑み込まれて身を竦ませる。
 抱いた畏れが、それ見た己自身に跳ね返り溺れる事で動作が止まる。
「しかと……しかと見るがいい。これが汝だ」
 刀が告げる。その首を断ち切りながら。
「この恐怖はお前の牙。この刃はお前の爪」
 ぶすり、と肉が裂かれ、骨を砕きながら、刀は躍る。
「この赤は――」
 飛び散る血飛沫を仮面に、その衣装に受け止めながら、告げる。
「お前の欲望」
 振り抜いた匕首の刀身、血を喰らっても尚褪せる事無く蝋燭の灯りを受け止め照らす。

 闘うは、武器の本能。写すは、鏡の本能。

「知っていたかい? 鏡に映ったお前は、こんな姿形をしているんだよ」
 血に伏せ息絶えた悪魔達に、手にした鏡面を向けながら、無表情に彼女は告げた。
「――あれ――?
 そして、ふと思い出したのだ。
「……じゃあ私の姿は、どんなだったっけ」

 鏡は、鏡を映せない――それが鏡である以上は――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
……解放ではなく、暴き立てているだけと云うのです
少々、はしたない趣味かと

声だけの相手に
普段なら優美な微笑みと共に述べるところを
眉を寄せて呟く

現れた悪魔に表情険しく、目を細めて構えるけれど
向けられた松明の炎にびくりと僅かに身を固くする
強化しての接近戦に持ち込む心算が、それで遅れ

代わり、咄嗟に懐からサファイアを出し騎士を創り上げる
熱に強い青、炎の中にも適応するでしょう
戦いは主に騎士に頼り
炎から庇われつつ己は身の守りを第一に
可能な時のみ杖で受けてからの反撃を


――仮面に鉄壁の微笑を封じられた今、隠せない
かつて、怒りに燃えた人々が半魔の子を狩ろうと集った、
あの松明の炎の揺らぎを、熱を、この身は憶えている



 聞こえてくる『貴婦人』の声。それに対してのファルシェ・ユヴェールの口にした感想は常より尚も辛辣な響きを含んでいた。
「……解放ではなく、暴き立てているだけと云うのです。少々、はしたない趣味かと」
 こう呟いた処で相手に聞こえているかどうかも知れないのだが、言わずには居られなかった。普段であれば優美な微笑みと共に、声も精々呆れた程度の感情しか乗らない所だ。
 なのに、白き仮面は彼のいつもの仮面を封じた。微笑と言う、彼の感情を覆い隠す仮面を奪い去った。感情の赴くままに己の表情が変化する。眉を寄せた顔の動きが自身で感じられる事に、また心が動く。
『ヒヒ、ヒヒヒ……オまえハ、あらがウものカ?』
『すなおナかお、モットアノかたニみセテさシあゲロ!』
 現れた双頭の悪魔達の下卑た嗤い声に対しても険呑な視線を向けざるを得ない。目を細め、構えようとした際――視界に飛び込んできた松明の炎に、びくりと身が竦み、一瞬視界が白む。

 ゆらゆらと揺れる炎――その硝子細工の心、掻き乱す。

「しま……っ……!?」
 反応が遅れる。僅かな瞬間に松明から炎の雨が降り注ぎ、周囲が焦熱に包まれる。
 急ぎ、己の強化に用いようとした石を別の石に持ち変えて放てば、青き鎧の騎士がその場に姿を現す。
「熱に強いサファイアであれば――」
 ファルシェの想像力がその騎士の力。焦熱の中に適応すると確信されたその騎士は彼の身を守る鉄壁の守護神として悪魔達を屠る。
 襲い来る炎を騎士が遮り、身の守りを固めながらも……彼は己の顔が引き攣っているのを確かに感じていた。そしてその理由は明らかだとも解っていた。
『ギヒヒ……ソウダ、ソウダ! おびエロ、おびエロ!』
 騎士の攻撃に倒されながらも煽る様に悪魔は告げる。炎を掲げて迫るそれを、ファルシェは気力を振り絞って杖にて退け、騎士の槍が貫くのをどうにか見届けた。

「…………」
 悪魔達を全て退け、焦熱が退いたにも関わらず。ファルシェはその場に崩れる様に膝を着いて呆けていた。
 まだ残る熱の余韻に己の身を抱きしめる。行き場の無い恐れの感情が心を埋め尽くす。
「ああ、あああ……っ」
 両の瞳に溢れ出すこれは涙だ。仮面に鉄壁の微笑を封じられた今、抑え込めない、隠しきれない――心の古傷が開いてしまった。

 ――かつて、怒りに燃えた人々が私の前に集ったあの日。
 半魔の子を見つめる視線は恐怖を帯び、口々に殺せと叫んでいた。

「――――!!」

 最早声にすらならない声を上げて、幼き日の心のままに彼は泣き叫んでいた。
 嗚呼、あの松明の炎の揺らぎを、熱を――この身は憶えているのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライカ・ネーベルラーベ
「邪魔ヲ……すルな!」
仮面の呪いに抵抗する以前に、
どの状態が正しい自分なのか
どの性格が自分の常の姿なのか
どの衝動を選ぶべきなのか
自分でもわからない

故に仮面の呪いのまま、居丈高な武人格が戦う
【血統励起・雷竜】で半竜の姿に変化
普段よりもこの姿が馴染む……
湧き上がる怒りと暴力衝動のまま、双頭の悪魔の相手をする
「低級の悪魔如キが!わたシの相手になると思ッたか!」
もっと、もっと速く動けたはず
もっと爪はスムーズに振るえたはず
「オオオオオオオオオオッ!」

竜が半分ヒトなのか
ヒトが半分竜なのか
一つだけわかること
わたしは、戦い敵を屠ることを喜んでいる!



「邪魔ヲ……すルなッ!!」
 ライカ・ネーベルラーベは己に襲いかかってくるディオ・デモン達を振り払いながら、己の自身が何者かを見失っていた。
 仮面の呪いに抵抗する以前の問題だった。
 どの状態が正しくて、どの性格が自分の常なのか、どの衝動を選ぶべきか。
 嗚呼、自分でも解らないのだと言うのに。
 故に。呪いが引き吊り出し、混沌とした人格の内より現れた武人が今の彼女を支配する。
 戦わねば――戦いがわたしを呼んでイル――!!
 心臓の代わりに拍動するのは竜種の魔力核。その力解き放てば、ライカのその蘇らされた身体が、機械の四肢が軋み、半竜の形へと歪み変化していく。
「――ガアァァッ!!!」
 普段よりも馴染むこの姿。熱き負の感情が、衝動が突き動かす感覚に快感すら覚える。
「低級の悪魔如キが――」
 竜が叫ぶ。迸る電撃が醜悪な悪魔を穿ち、その爪が半分に分け放たれた双頭を更に真っ二つにかち割った。
『ヒギィィ!?』
「貴様ラが! わたシの相手に、なるとデも思ッたか!!」
 湧き上がる怒り。この衝動は暴力の嵐となって吹き荒れ、悪魔達を次々と屠る。
 ――だが、もっとだ。
 わたしは、もっと、速く動けたはずだ。
 もっと、この爪も滑らかに自在に振るえたはずなのだ。

 わからない。
 竜が半分ヒトであるのか。
 はたまた、ヒトが半分竜であるのか。
 いや――そもそもどちらも同じでは? 
 ――違う、全然意味が違ってくる。

 しかし、ただ一つの真実は理解した。
(「わたしは――」)
 わたしは……戦う事を、敵をこの手で屠る事を喜んでいる……!
「オオオオオオオッッッ!!!」
 竜が叫ぶ。これは間違いなく、歓喜の雄叫びなのだ。
 その事を、ライカの中のヒトの部分は感じ続けていたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神奈木・璃玖
嗚呼、この開放感たるや!なんと心地よいものか!
この人の身で我が出る事は叶わぬと思うておったが、試してみる価値はあったというものだな
(いつの間にか尾が九つに増えている)
しかし、まだ足りぬ
やはり人の身ではまだ真に我の力を出すことは叶わぬようだ

ならば如何にするか
答えは決まっている
選択UCにて、我の本来の姿へと転じてその力を振るおう
我が本性、真なる姿たる『九尾の狐』
この姿が、我の『本当の姿』とやらなのだからな

戸惑うことはせぬ
商人らしく振る舞うあの姿も我の一部であるが、こちらが我が本性であることは明確なる真実故に
抗う事など、何の意味があると言うのだろうか



 白き仮面にて隠されたのは普段のオモテ。
 そして仮面の貌となるのは秘されしウラ。

「嗚呼――この、この開放感たるや!」
 神奈木・璃玖は蝋燭の炎に導かれるまま、薄暗い回廊を歩みながらも、今おのれに起こっている事に感動すら覚えていた。
 璃玖の本性たる九尾の狐。常ならば人の姿の内に抑えられし魔性。
 だがこの呪いの面は、貴婦人とやらが言う様に、己自身を隠す仮面から解放してくれた。
「なんと心地よいものか……! この人の身で我が出る事は叶わぬと思うておったが」
 試してみる価値は充分あったと言うもの。無貌の面はまるで張り子の狐面の様な形を成し、彼の尻から覗くふわりとした白銀の尻尾は大きく広がり、いつの間にやら九つに増えて上機嫌なのを表すようにゆっくり揺れていた。
 しかし。その長身に只ならぬ妖気を纏いながらも、璃玖――いや、九尾はふとごちる。
「――いや、まだ足りぬ。やはり人の身ではまだ真に……」
 そう思考を巡らせていたその時。
『ギヒャ、けものノにおいガする』
『きつねノかお? ギヒヒ……オモシロイ』
 近づいて醜悪な顔を二つ並べて様子を伺っている悪魔達。その鼻を幾度も膨らませ、匂いを嗅ぎながらそいつらは松明を掲げ、璃玖に向けて火を飛ばす。
 あっという間に周囲が炎の結界で覆われ、焦熱が彼らを包み込む。
『キヒィ、やキこガシテやろウカ』
 はしゃぐ様に璃玖に向かってくる悪魔達であったが。
 焦熱を上回る灼熱が巻き起こり、デモン達を飲み込む――!!
「下郎の炎に我を焼く事が出来ると思うてか」
 そこに居たのは四肢を床に踏みしめた九尾の狐。白き仮面をそのままに、璃玖がその身を変化させた、彼の本当の姿。
「やはりこの姿ともなれば、我が力を十二分に出す事が叶う処よな」
 くく、と喉で笑い、璃玖――いや、九尾は灼熱の狐火を自在に操ると悪魔達をその手の松明ごと燃やし、一匹足りとも焼き尽くす。

 ――面を付けてから、戸惑う事は全く無かった。
 商人らしく振る舞う普段の人の姿も間違いなく璃玖の一部ではあれ、今のこの姿こそ、九尾としてのこの意識こそが己の本性である事は明確なる真実なのだから。
 抗う必要など全く以て有りはしない。
「さて――行くとしよう」
 いつの間にか、姿を人の身に変じていた璃玖は靴音を響かせて回廊を歩む。
 礼を言わねば――己自身である事の素晴らしさを気付かせてくれた招待主に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・エアハート
お前達が俺の相手してくれるの?
…へえ、面白い
退屈しのぎに付き合ってよ
俺が飽きるまで…ね?

無駄な争いを避けるような穏やかな海(アイツ)の出る幕はない
今頃は大人しく眠っている頃だろう
嵐の海を止める術なんて何一つない
そう…今の俺を止める奴は誰もいないのだから

オーラ防御で自分自身を包み、 相手の攻撃を素早く見切る
雷と水の属性攻撃を駆使してUCを発動
吹き荒れるスコールを一斉発射し、全力魔法で放つ


何だ、つまらない
もう声も出なくなったんだ
でも最高に楽しかったよ…飽きるくらいにね?
暗闇の海のように血溜まりの中で狂気に、不気味に微笑む



 華やかな舞踏会から一転、薄暗い回廊に導かれたセシル・エアハートは先程の自分を思い返しながら先を進んでいた。
(「あの舞踏会での俺は……本当に俺、だった……?」)
 白き仮面は未だに愉悦の笑みをたたえたまま。その表情を確認するかの様に、醜悪な笑みを浮かべた双頭の悪魔達はじわりじわりと近づいてきた。
 ……考えている暇はない。今は目の前の敵を倒す事を考えなければ。
『ゲヒャヒャ……イイえがおヲシテイルナ』
 悪魔が嗤う。仮面が引き出した裏の顔が貴婦人にお目見えするのに相応しいかを見定める為に此奴らは存在する。
 そう、彼らには見えているのだろう。水面に浮かび上がったセシルの裏の顔が。
「へぇ……面白い」
 不敵に、そして楽しげに青年は言う。いつもならば焦る事無く冷静に、そして状況を見極めつつの戦いに挑んでいた筈なのだが。
「今ちょうど退屈していた所なんだ。ねぇ、俺を楽しませてよ――」
 飽きるまで、ね?

 戦いすらも、今の彼にとっては遊びのようなもの。
 その掌から放たれた雷は、まるで嵐の中で駆け抜ける稲妻。
『ギィィッ!?』
『ヒギャアァァッ!?』
 悪魔達の悲鳴すら心地良い。
 荒れ狂いし波の様に翻弄し、吹き荒れる風の如くその身を躱す。
 そして、叩き付ける雷雨と同じように、その場に血の雨が降り注ぐ。

 凪の様な穏やかさは封じられ、ここにあるは残酷なまでに気紛れで享楽的な海そのものの性質を晒け出したセシルの姿。
「何だ、もう虫の息? ……つまらないな」
 まるで遊んでいた玩具が壊れてしまったかのような、無邪気な声色で彼は首を傾げた。
「でも楽しかったからまあ良しとするか――フ、フフッ」
 込み上げてくるのは笑い声。
 ああ、滅茶苦茶にしてやりたい、壊してしまいたい。
 破滅的で退廃的で……そして愉悦と享楽が彼の、セシルの奥底に隠された真なる性質だと言うのだろうか。
「フフフッ―――アハハハハハ!!!」
 狂った様に笑いながら、遮る敵を全て屠った彼は先へ進む。
 この暗闇の海に、果たして照らす光があるのかも知れずに……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリステル・ブルー
●WIZ/おまかせNG無

視界も呼吸も大丈夫。ならいつも通り戦えそうだね
(今の状況、いや心境か。これが通常通りかは疑問だけど)
貴婦人の言う通り、現状にどこか開放感を覚えている
ありのままの自分でいられるからか…な
ひとまずそれを受け入れて大人しく僕の番を待つ

「ユール」
使い魔を呼び出すけれど、彼にはこの戦闘へのどうしようもない高揚感伝わっちゃうかな
でも…目の前にいるのは斬っても良い相手だから遠慮なんて必要ないね
細剣を抜いて周囲の闇に紛れるように足音を殺し、一気に距離を詰めて背後に回ろう
その背中に剣を突き立てて【UC使用】
僕の全力を込めて串刺しにされるといいよ
反撃は第六感と見切り、後は剣で受けて対応かな



「ああ、うん……」
 己の顔に張り付いた白き仮面の表面を指先で撫でながら、アリステル・ブルーは視界と呼吸が確保出来ている事を確認し、安堵の息を吐いた。
 これなら、いつも通り戦えそうだ。そんな今の状況を確認する己の心境が、通常通りかどうかは甚だ疑問だけれども。
 薄暗い回廊に通されて聞こえてきた『貴婦人』の言葉。彼女は自分達の変化した様子をただただ楽しんでいるだけなのかも知れない。あの言葉も煽るだけのものかも知れない。
 しかし、アリステルは今の現状に、どこか開放感を覚えていた。誰かに対して『仮面』を被らず、ありのままの自分を晒け出す事を受け入れていた。
 常の自分は、きっとどこかで自分を抑え続けているのだろう。無意識の内に、良い子であろうとしていたのか。優しく大人びた笑みの下にあった素顔は、思いの外――無邪気な残酷さすら秘めた、愛情に飢えた子供の自分。
『ギヒヒ……イイかおシテる』
 双頭の悪魔達がアリステルのそんな表情を、胸の内を察して歪な嗤い声を上げた。
「君達には、そう見えるのかな」
『ヒヒ、たのシソウダ。おれタチモたのシマせろ』
 暴力の衝動に従って動く悪魔達の視線を受け、彼は静かに――だが高揚を帯びた声で呟く。
「――ユール」
 喚びだしたのは青い鳥の使い魔。アリステルの高まり行く戦闘への渇望に、高揚感に、喚ばれたそれは高らかに鳴き声上げた。
 その声に悪魔達が気を取られた瞬間。
「遠慮は必要無かったよね」
 黒き細剣をいつの間にか抜き、アリステルは悪魔の一体の背後を取っていた。
 ずぶり、と射し込まれる切っ先。双頭の片割れが血を吐き出す。
『きさま……イツノまニ!?』
 事切れた方と逆の胴体が身を捩って剣をアリステルに振り下ろすも、その動作を見切り後ろに数歩足を運んで回避しながら、青年は使い魔に合図を送る。
「さぁ、輪舞曲(ロンド)の続きと逝こうか?」
 舞踏会の後には相応しいであろう――小鳥達は囀り、数えきれぬ数の剣が舞い踊っては悪魔達を取り囲み、四方八方より串刺しに貫いた。
 悪魔達の断末魔すら、心地良く感じる己が此処にいる。
「――次は貴方だね、貴婦人」
 黒剣の血を払うと、鞘に納めながらアリステルは通路の先を見詰めた。
「どんな表情を見せて頂けるのか……凄く楽しみだよ」
 ――それは獲物を楽しみにする――狼の瞳。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『鏡に映らない』グリムヒルド』

POW   :    世界で一番美しいのは誰?
【自分の美貌が敵を屈服させる】という願いを【精神を支配した配下たち】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    世界で一番美しいのは誰?
【手鏡を覗き込んでいた】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ   :    世界で一番美しいのは誰?
全身を【触れた者の自我を蝕む闇】で覆い、自身が敵から受けた【自身の美しさを否定する言葉】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は禍神塚・鏡吾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 双頭の悪魔達を退け進んだ薄暗い石造の回廊の先、急に開けた場所に出た。
 本館と比べると小振りな、それでも尚大きな屋敷は貴婦人の住まう別館。
 猟兵達がその門扉の前に立つと、軋む様な音を立ててそれはゆっくりと開いた。

『どうぞ、御客人。中へお入り下さいませ』

 この声は貴婦人のものだ。遠慮する必要は無いと猟兵達は言われるまま、招かれるままにその扉をくぐって屋敷の中に進む。
 入って直ぐ、玄関口を抜けたそこにあったのは大広間であった。
 華美な調度品に大理石の床、そして豪奢な絨毯で彩られた一筋の道の先には玉座の如く据えられたソファが見えた。
 ただし異様な事は、この部屋の四方八方には粉々に砕かれた鏡らしきものが壁にかかり、その隙間を縫う様に各々表情の違う白仮面がまるで死仮面の様に飾り付けられていた。

『ようこそお出で下さいました。
 わたしの名はグリムヒルド。下々の者からは貴婦人と呼ばれております』

 そう告げたのは、ソファの後ろに立つ薄紫色のドレスを身に纏った女性。
 手鏡越しに此方に背を向けたまま彼女は告げ、ようやく振り返ったその顔は美人と言って差し支えの無い整った顔立ち。ただし、陰鬱な――と言葉を添えるモノではあったが。
 貴婦人は猟兵達の顔に張り付いたその仮面の貌を見比べるようにしばし眺め、そして小さく笑みを零したかと思うと。上に向けた手の平を翳して告げる。

『ええ……素晴らしい。貴方達の本性は、醜くも美しい。良くお見せになって』

 その言葉と同時に、白仮面が各々の顔から軽い痛みを伴って引き剥がされた。ぴたりと張り付いていたそれを念力で無理矢理剥がしただけなので、顔の皮は残されていたし、血も一滴も滴る事は無かったが。
 自分の傍にやってきた様々な表情の仮面達を眺めながら満足そうに頷く貴婦人。

『わたしはわたしの顔を見たことがございません。鏡にはわたしの姿は映らないのです』
 先程まで眺めていた手鏡の表面を指先で撫でながら、グリムヒルドは語る。

『だから、私は下々の者に常に問います。私は如何様な顔をしているのかと』
 悲しげに、寂しげに貴婦人は微笑みながら、硝子面をなぞる指を止めた。

『皆、口々にわたしの美しさを讃えます。しかしそれは真実なのでしょうか』
 指先に力が籠もる。鏡面に徐々に蜘蛛の巣の如き線が描かれる。
 そして、パキンと音を立て、手鏡の鏡面だけが崩れ落ちた。

『他人は自分を映す鏡、と聞いた事がございます』
 故に女は求めはじめた――他人の顔を。
 それも、包み隠さぬ本性の顔を。
『我が可愛い下僕達を退けた貴方達は只者では無い事は存じております』
 しかし、自分に勝てる筈も無い。その言葉には傲慢さが見え隠れしており。
『わたしを憎いとお思いか、哀れに思いますか。隠さずわたしにお見せ下さいませ』
 ――その表情すらも、我が蒐集品の一つにして差し上げましょう。
 美しくも残酷な吸血鬼は微笑みながら進み出た。

 仮面の呪いは解けた。
 しかし、今の己は果たして――表と裏の『どちら』だ?


 仮面は剥がれ落ち、呪いは解除されました。
 しかし精神を蝕む呪いからの回復には個人差があります。

 すぐに普段の自分に立ち戻り、裏の自分を受け入れ成長した己で戦うか。
 もしくは先程までの自分を否定するか。
 呪いの効果が尾を引き、裏の自分のままで戦いに身を投じるか。
 裏の自分の残渣に抗いながら表の自分を取り戻すか。

 それぞれ好きな形で臨んで頂ければ幸いです。

 敵ユーベルコードの使用について補足。
 POWは部屋の鏡を通じて屋敷内にいる黒仮面の従者達に呼びかけます。鏡からの呼びかけは猟兵達からも可能とします。
 SPDは手鏡が失われても違う人のリプレイでは平然と予備を持って現れます。細かい事は気になさらぬ様。
スキアファール・イリャルギ
(呪いは解除、怪奇の姿維持)

……嗚呼
思い知らされた
こんなにも殺されたいと願ってたことを
でも幾ら願っても赦されないことを

人間として嘆き乍ら怪奇に生かされ続ける私は、私の本質は――やっぱり、怪奇なんだ

人間なのに
人間だったのに
人間でいたいのに
全部否定された気分だ
心も怪奇に浸すことが最善なんだと言われた気分だ――

……嫌に決まってんだろ

大切な人達が「生きてくれ」と言ってくれたから
擬態してでも人間として生きようと思ったんだ

死にたいけど……生きるしかないんだ
怪奇を受け入れ、怪奇人間として――


剥がれた己の仮面はきっと醜い
どこが"素晴らしい"のでしょうね良い趣味してる

ご安心を
少なくともあなたは私より美しいですよ



 それはまるで黒き塊の様な何かに見えた。
 呪いの白き仮面のみが唯一の人間らしき部位に見えたものの、貴婦人はお構いなしにそれを手元に引き寄せてそれを繁々と眺めていた。
『あなたは興味深いわ。表では人間のふりをしてらした……と言う事なのかしら』
 スキアファール・イリャルギのその姿は怪奇に侵された不定形のまま。
 だがしかし呪いは解けた。
 白い仮面の代わりに黒い塊には、彼本来の顔が浮かび上がっていた。
「……嗚呼……思い知らされた」
 その表情は余りにも虚ろで、血の気を失った様に真っ青で。
「こんなにも殺されたいと願ってたことを。でも幾ら願っても赦されないことを」
 あの時の自分は人間として嘆きながら、尚もまた怪奇に生かされていた。
「私は、嗚呼、私の本質は――やっぱり、怪奇―――なんだ」
 人間なのに。人間だったのに。人間でいたいのに。
 彼自身の思いを踏みにじるかの様に。常に身を覆う包帯にて身体を隠す事すら出来ない彼の四肢には、ギョロリと無数の眼が浮かび上がる。
 その異形たる姿にグリムヒルドは目を細め、小さく笑みを浮かべた。
『それは良き事……己の正体を知り、己と向き合う事が出来たのでしょう』
「人間である自分を全部否定されて、心も怪奇に浸す事が最善と言われた気分だ――」
『ふふ――確かにそのなりで人間であろうと抗うのも可笑しな話です』
 クツクツとその苦悩する様子が面白いのか。スキアフォールの独白に耳を傾け、グリムヒルドは告げる。
『人間の魂を棄て、怪奇とやらに完全に身を堕としてしまえば如何ですこと?』
 その方が楽なのでしょう? 貴婦人の誘惑にも似た言葉。自我を蝕む闇の声。
 ――だが、しかし。
「……嫌に決まってんだろ」
 彼は明確に、女の提案を否定した。
 影である彼のその身から吸血鬼に放たれるは、痩せぎすの影たる手。女の纏う闇を闇で喰らい呑み込んでいく。
「大切な人達が生きてくれって言ってくれたから、だから――」
 生きようって思った。擬態してでも、人間として。
 怪奇を受け入れ――たとえ怪奇人間と蔑まれようとも、この心は人間なのだから。
『やはり面白い方。そこまでして生にしぶとくしがみつこうと? 素晴らしきこと』
 彼女の手元に浮かぶ己の仮面に目を留め、スキアフォールは軽く首を横に振る。
 何と醜い顔をしていたのか、と自分自身で厭になる。
「その仮面も、どこが『素晴らしい』のでしょうね――良い趣味してる」
『そう? わたしにはとても美しく思えますけれども』
 影手が纏う闇に触れながらも自我を保つ相手の姿に、グリムヒルドは挑発するかの様に言い、言葉を引き出そうとするも。
「――ご安心を」
 掌の先に口が開き、女の身を貫きながらその口々は告げた。
「「少なくとも、あなたは私より美しいですよ」」
 人間を取り戻した彼のその身の形は、いつの間にかヒトとしての姿形を取り戻し。
 真っ直ぐその背筋伸ばした姿勢で立ち、自身と自信を知らぬ憐れな貴婦人に向けて率直な感想を述べていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神奈木・璃玖
ああ、もう戻ってしまいましたか
この妖狐たる私が呪いにかかるというのもなかなか興味深いものでしたが
しかし私は貴女に感謝しているのですよ
真の姿たるあの姿が実に良いものだと、貴女は私に教えてくださいました
この商人たる姿もあの真の姿もどちらも私ですから、戸惑うことは決してないのですよ、貴婦人殿
そのお礼に仮面に頼らずとも、私があの姿を受け入れているという証拠をお見せいたしましょう

(選択UCにより、九尾の狐へと変化)
お前が美しいかどうかなど、詮無きこと
外面の美醜などに興味は無い
そうは思わぬか、この館の従者共よ?(敵の鏡を使用して呼びかけ)
美しさを求めるのは女の美徳だが、それも過ぎれば醜いものよな



 その顔から引き剥がされる僅かな痛みの感覚。朝、誰かに起こされて目を覚ました時の感覚にも似ていると神奈木・璃玖は感じた。
「――ああ、もう戻ってしまいましたか」
『ええ……ふふ、こうまでこの仮面が変形するのもまた珍しい』
 グリムヒルドは手元に引き寄せた璃玖の白仮面を手にとってしげしげと眺め、微笑んだ。その形は狐面。それこそが璃玖の本性の顔。
 妖狐として強い霊力を持ちうる自分が呪いにかかったと言う事に、璃玖自身は深く興味を抱いていた。故に貴婦人に向ける感情も敵意や憎悪とは違う。
「――私は貴女に感謝しているのですよ」
 仮面を着ける為に外していた眼鏡を再びかける事も無く、璃玖は目の前の女性に告げる。浮かべる微笑は商売人としての愛想では無く、恐らく本心からの笑み。
「真の姿たるあの姿が実に良いものだと、貴女は私に教えて下さいました」
『仮初めの姿より、本来の姿の方が気に入った……と?」
「少し違いますね。この商人たる姿も、獣として四肢で地を踏む私も、どちらも私です」
 人の世界に生きる為に、常に人の姿を取ってきた。商人として生きる内に、獣たる自分を知らず抑え続けてきた。元々の自分の人格がまるで別の人格の様に、自分とは別の存在の様に思えていたかも知れない。
 だがしかし、人の姿にて獣の人格が表面化した時に違和感は感じなかった。然程戸惑う事も無かった。当然だ。商人の姿も九尾狐の姿も、璃玖である事には変わらないのだから。
「御礼を言わせて頂きます、貴婦人殿。私は私を晒し出す事を、恐れる事はしない」
 璃玖の瞳が金の光を帯びる。その身がごう、と黄金色の炎に包まれる。
「私があの姿を受け入れているという証拠をお見せいたしましょう」
『何ですって……』
 グリムヒルドは見る間に九尾の狐に変化した璃玖を見つめ、感嘆の声を上げる。
『仮面の力無しに裏の貴方をお見せになる、とは――ふふ、ますます愉快だこと』
 そして女は壁に掛かる鏡に、いや、その向こうに通じる従者達に言葉を投げた。
『さぁお前達……ご覧あそばせ。美しいわたしがこの獣を屈服させるさまを』
 魔力の弾丸をその手から撃ち出しながら、高笑いするグリムヒルド。しかし九尾はそれに怯む事も無く、周囲に操る狐火でそれを相殺し、身を守りながらもフンと鼻で笑った。
「お前が美しいかどうかなど、詮無きことよ。我は外面の美醜などに興味は無い」
『獣風情に何がお解りになって?』
「故に解るのだよ。真の美しさとは、その内面に有るとな」
 ――そうは思わぬか、この館の従者共よ?
 九尾は貴婦人に倣って、鏡の向こうにいるであろう黒仮面の従者達に呼びかけた。
「「…………」」
 返事は無い。だが精神支配を受けているにも関わらず、グリムヒルドを褒め称える言葉が一瞬失われたのは確かであった。
『お前達、お前達……!!』
「残念ながらそう言う事らしい」
 九尾は周囲の狐火を一斉に貴婦人に叩き付け、その炎熱にドレスが燃え上がる。
『ああ、あああっ……!!?』
「美しさを求めるのは女の美徳だが……」
 それも過ぎれば醜いものよな――? 九尾の姿のまま、璃玖は呆れた声で、心醜き女を見つめて肩を竦め、大きく息を吐いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライカ・ネーベルラーベ
(裏の残滓を引きずる)
うるさいうるさいうるさいうるさい……!
顔も仮面も知ったことか……っ!

理解できることは唯一つ
今自分の頭の中がごちゃごちゃになっているはこいつのせいだ、という
ただそれだけ

その怒りに呼応したのか、バイクに騎竜の霊が降りて変身
(【舞え、勝利を誓うは鋼と雷の翼竜】)
竜騎兵としてグリムヒルドを討伐する
「わたしは!これがわたしだ!竜の誓いに賭けてキサマを滅ぼす!」

突撃力に物を言わせて、強引に接近してチェーンガンブレードを叩き込んであげる
キサマの容姿など、否定も肯定もすまい
我が前では等しく、滅ぼすべき敵でしかありえないのだから――!



 白仮面が外れても尚、ライカ・ネーベルラーベを蝕む呪いは消えやしない。
『あなたは……相当裏のあなたがお強いようね?』
「うる、さい……うるさいうるさい、うるさい……!!」
 呪いの残滓を引きずりながら、その身をも引きずるように、ライカは一歩、二歩と目の前で嗤う貴婦人を名乗った吸血鬼に迫り近づこうとする。
「顔も、仮面も、知ったことか……っ!」
 最初は、ただ自分を知りたいだけだった。死ぬ前の自分が何者かも解らない。そんな空虚な疑問の答えを求めようとしただけだった。
 それによって浮かび上がってきたのは居丈高で高慢な、しかし矜持を宿した騎士たる武人。後から作り出された様な常のライカの人格はなりを潜めたまま。
 解らない。これが生前の自分なのか。ではいつもの自分は何なのか。
 答えが見えないながらも、たった一つだけ、理解出来る事がある。それは――。
(「こいつのせいだ――」)
 今、自分の頭の中がごちゃごちゃで収拾付かない事態になっているのは、間違いなく目の前で薄ら嗤って自分を観察しているこの吸血鬼の女だ。
 ただそれだけは解れば……充分だ。
「があぁぁァァッ!!!」
 喉奥から叫び声が発せられると同時に、共にあった自動二輪がその姿を変化させる。まるで彼女の怒りに呼応したかの様に、騎竜の霊が鋼と雷の鉄騎として降臨する。
『まぁ、まぁ――貴女、竜使いでしたのね――!』
「わたしは! これがわたしだ!!」
 竜騎兵として。ライカは相棒の背に飛び乗り、そして両手に握った鋸剣が高速回転の音を鋭く響かせる。
「竜の誓いに賭けて――キサマを滅ぼす!」
『ふふ、出来るものならお出でなさいまし』
 グリムヒルドはその身を闇で覆いながら手鏡の代わりに短剣を手に身構える。
 だが、ライカは相手がどう立ち向かおうと構わない。ただただ強引に、騎竜の突進力に物を言わせて接近するのみ……!!
『何ですって……!?』
 自我を蝕む闇など、ライカに通じる筈も無かった。何故なら彼女の自我は、呪いの残滓で蝕まれたまま。その上で彼女は吶喊して来ているのだから。
 強烈な体当たりに吸血鬼の身体が一瞬宙を舞う。そこに叩き込まれたチェーンガンブレードが唸り声を上げ、貴婦人のドレスを引き裂き、肉を喰らう。
『あぁぁっっ!?』
 ズタズタに喰らい付く刃の痛みにグリムヒルドは悲鳴を上げた。
「キサマの容姿など、否定も肯定もすまい」
 ライカは吐き捨てる様に、血に塗れる女に向けて告げる。
「我が前では等しく、滅ぼすべき敵でしかありえないのだから――!」
 其処に有るのは、騎士にして武人――そして殺戮者として蘇り、今を生きる少女の姿。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイビス・ライブラリアン
同行者: 紅雪(f04969)
仮面が外れましたか
信じがたいですが、そういう側面が私にある、ということですね
記録してできる限りの対処をしたいかと思います
? 紅雪、こちらを見てどうかしましたか?
落ち着いてください

……紅雪、やけにこちらを気にしていますね
悪い気はしないのですが、敵に意識を向けてくださいね

主に属性魔法+範囲攻撃で攻撃
多重詠唱+高速詠唱で徐々に手数を増やしましょうか
そして攻撃しながら魔力溜めで魔力を溜めていきます
敵UCはやられる前にこちらでUCを発動
溜めておいた魔力を解放。いっそ館ごとなくなればよろしいかと

新たな発見があったとはいえ2度は遠慮したいですね
さあ、帰りましょうか

アドリブ歓迎


蓮・紅雪
同行者:アイビス(f06280)
何故かしら…既に強敵と戦った後の気分だわ。

貴女の自分勝手に付き合う程、私たちは暇ではないの。
アイビスの普段見せない表情が見れたことは感謝するけれど――!?
(まだ呪いが残っているのかアイビスを意識した瞬間顔が赤くなる)
な、なんだか動悸が…。
いえ、大丈夫。蒐集品になんてなるものですか。

(薄紅の指輪を掲げ雪華と紅雨を召喚)
何だか気が立っているわね?(二匹は唸り声を上げながら紅雪の周りをぐるぐる)
なる程、お前たちも影響を受けてしまったのね。それならば気が晴れるまで暴れなさい!(UC発動)

もうこんな依頼は懲り懲りよ。
帰ってゆっくりティータイムにしましょう。

アドリブ歓迎



 顔から白仮面が剥がされた瞬間、頭に雲懸かった様な感覚が消え失せていくのを感じた。直接吸い込む空気は新鮮にも関わらず、陰の気に満ちてはいたが。
「仮面が……外れましたか」
 アイビス・ライブラリアンは顕わになった自分の素肌に、確かめる様に頬に手を触れた。その口振りは冷静沈着でどこか事務的にも感じられるいつものもの。
「何故かしら……既に強敵と戦った後の気分だわ」
 蓮・紅雪は疲労感に似た物を感じながら、小さく肩を竦めた。常より激しい感情に振り回されたのは紅雪も同じ。だが、本当に強敵と戦うのはこれからの話だ。
『ふふ、感情のまま突き動かされて行動した気分は良かったのではなくて?』
 貴婦人・グリムヒルドは手鏡を持ったまま、小さく笑みを零した。
『自分を抑えるより、自分自身の内側を解放させる方が随分と楽でしょうに』
「悪いけど、貴女の自分勝手に付き合う程、私たちは暇ではないの」
 グリムヒルドを睨み付けながら紅雪は告げる。ただ、と小さく息を吐いて彼女は相棒たる少女人形に目を向けた。
「アイビスの普段見せない表情が見れたことは感謝するけれど――」
「そうですね……信じがたいですが、そういう側面が私にある、と言う事ですね」
 感受性の示すがままに、揺れに揺れた感情。そんな先程の自分をアイビスは実に冷静に受け入れていた。その事実は記録して、検証して、出来る限りの対処を検討すれば良い。今後に活かせば良いだけの話なのだ。
 だが、共に歩む少女の方はと言うと。
「――おや? 紅雪、こちらを見てどうかしましたか?」
「……感謝する……けど、うん」
 しどろもどろになる紅雪がそこにいた。アイビスの顔を見、意識した途端に……先程までの動揺が、胸の高鳴りが舞い戻ってくる。その顔も一気に紅潮したのを当のアイビスは怪訝そうな表情で見つめた。
「……紅雪、やけにこちらを気にしていませんか? それに顔が赤いです」
「な、なんだか動悸が……」
「落ち着いてください。ほら、深呼吸でもして――敵に意識を向けて下さい」
「あ、いえ、だ、大丈夫……」
 そんな二人のやりとりを見ていたグリムヒルドは、思わずクスクスと声を上げて笑い、側に浮いたままの二人が着けていた面を改めて見る。
『本当に仲の宜しいこと。ご安心なさい。お二人の貌は並べて飾って差し上げますから』
「――! 蒐集品になんてなるものですか。丁重にお断りするわ!」
「仲の良さを認めて頂く事に悪い気はしません。が――」
 アイビスは手にした魔導書をめくりながら相手に向けると頁から稲妻が迸り、宙に浮いた自分の白仮面を撃ち抜いた!
『!!? なんてことを……!!』
「残念ながら私たちは貴女の所有物ではありませんので」
 淡々と告げながら、アイビスは素早く魔術詠唱。雷が広範囲に渡って広がり、貴婦人の纏う闇に自らが触れる事無く撃ち抜き、その手数も増していく。
「雪華、紅雨、いらっしゃい!」
 紅雪も手にした指輪を掲げれば、氷と炎、二頭の狼が喚び出される。
「――何だかお前たち、気が立っているわね?」
 グルル、と唸り声を上げ続ける二頭は紅雪の周囲を落ち着かなくぐるぐる周てから、グリムヒルドに視線を向けると大きく吼えた。
「「グルルゥゥ……ガアゥッ!!」」
「成る程、私の影響を受けてしまったのね。ならば遠慮は要らないわ」
 彼女の分身の様に寄り添う二頭は、身に纏う氷と炎を激しく立ち上らせる……!
「気が晴れるまで暴れなさい!!」
「「アオォォーーンッッ!!」」
 紅雪の号令で、二頭の狼達は容赦無く貴婦人に向かって駆けだし、その鋭い牙で喰らい付き肉を引き裂く!!
『ぐああぁぁっ!!?』
「さて、二匹とも下がって下さい……!」
 その間にもアイビスは魔導書に魔力を蓄積し、大技撃ち出す準備は完了済み。
『魔導書よ、力を――!』
 向けた頁が魔力を放出する。四大元素の力が各々輝きを帯びて広がると、グリムヒルドを中心に集約して――爆ぜた。
『――っ!!!?』
 轟音が館を揺らし、壁に掛かっていた幾つかの仮面や鏡が外れ落ちて床に割れる。
「――いっそ館ごとなくなればよろしいかと」
「……アイビス、もしかして怒ってる?」
「私は至って平静です。しかし新たな発見があったとはいえ2度は遠慮したいですね」
「ええ、私もこんな経験は懲り懲りよ」
 そう言いつつも紅雪は、いつかまた、アイビスの感情が垣間見る機会が再び訪れる事を期待したりしなかったり……と言うのは本人の前では決して口には出さずして。
「帰ったらゆっくりティータイムにしましょう」
 己の思いもまた、心の宝石箱に鍵を掛けて眠らせるのだ。いずれまた開く時の為。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
POW

剥がれされた痛みに柳眉を潜め、薄紫色のドレスの主を見遣る
砕けた鏡の破片を踏みつけて
―ああ、やっとお逢い出来ましたわね
私の本当の貌を見れて満足したかしら?

憎いとも哀れとも思わない
―外見だけが取り柄の吸血鬼

常に欺き続けて己自身さえ不確かだった自分を知れた驚きより
暴き立てられた不快さの方が上回るわ。
その貌は、私だけのもの。お前にはあげないわ
私は、欲張りなのだから

刻印で強化された爪で相手が動く前に先制攻撃を仕掛ける
ねえ、貴女の本当のお顔を見せてくれる?
一撃、一撃。少しづつ動きを阻害する麻痺攻撃を交えて
他の人たちも思うことあるでしょう?
すぐに倒さないわ、時間をかけて、ゆっくりと
躯の海に還しましょう



 仮面が引き剥がされたその痛みは、まるで夢から現実に引き戻す合図のようで。
 ある種の狂気を浮かべた仮面のその下より現れた柳眉をひそめ、ディアナ・ロドクルーンは目の前にいる薄紫色のドレスを身に纏ったこの館の主の顔を見つめる。
 周囲には既に砕けた鏡の硝子片。爪先で踏みつけ、ヒールの先から更に割れる感覚を受けながら、ディアナは感情の知れぬ薄笑いを浮かべて相手を見つめた。
「――ああ、やっとお逢い出来ましたわね。私の本当の貌を見られて、満足したかしら?」
『ええ、寂しがりの狼さん――とても素敵な感情をお持ちのようで』
 貴婦人は手鏡を口元に当てながら薄く微笑みを浮かべた。その顔は確かに美しい。だが本人は己のその顔を見る事が出来ぬと語る。だからこその顔への執着。
(「――外見だけが取り柄の吸血鬼」)
 憎いとも、哀れとも思わない。思えない。それしか目の前の女には無いのだろう。
「そうね、確かに自分でも驚いているわ。常に欺き続けて、自分すら私は欺いて……」
 見えざる仮面を常に被っていたのだと。そしてその素顔が己自身不確かだった事は否めないのだ。故に己の知らぬ感情に驚きを感じていた。
「でも、暴き立てられた不快さの方が上回るわ」
 感謝はしない。する訳は無い。何故ならグリムヒルドがその手に掲げた白仮面の浮かべるその表情は、貌は――。
「その貌は、私だけのもの。お前にはあげないわ。私は欲張りなのだから」
 告げるのと足を踏み出して女に向かったのはほぼ同時。紫色に輝く爪が貴婦人の同じ色のドレスを引き裂いて布の千切れる音が響く。
「ねえ、貴女の本当のお顔を見せてくれる?」
『わたしの顔、ですか。ふふ、自分自身では如何なる容姿か知れぬと申しますのに』
 ディアナの言葉に寂しそうに笑みを浮かべたグリムヒルドは目を細めて問いかける。無事に残っている鏡に向けて。
『お前達はどう思いますか? 少なくとも美しきこのわたしは、この寂しがりな狼のお嬢さんよりも、ずっとずっと正直に生きておりますわよね?』
 屈服させるべく、精神的優位を得るかの問い。だがディアナはお構いなしにその爪に更に上回る意志を乗せて振り下ろす。
「その腐った性根、身の内より壊して差し上げるわ――!」
 爪が鋭く輝き、続け様に斬り裂いた。貴婦人の美しい白磁はそのままに。
『がふっ……!?』
 グリムヒルドの動きが一撃一撃受ける都度鈍り、そして口から血を吐き出した。ディアナの攻撃は肉体を傷つけずにその内腑のみを斬り裂いていた。
「他の人たちも思うことあるでしょう?」
 此処に来た猟兵は自分だけでは無い。ディアナ同様……いや、それ以上に呪いに蝕まれた者は多かろう。
「すぐに倒さないわ、時間をかけて、ゆっくりと……ね?」
 この吸血鬼が人々を弄んだその罪。あっさり終わらせる訳には行かないのだ。
 少しずつ水に沈む恐怖を与えるが如く――躯の海に還しましょう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…まさか私の心の裏側に、こんな憎しみの感情があったなんてね

過去を消す事は出来ない…影のようについて回る
…乗り越えたつもりでも、それは心の底に沈めただけ

…だけど、憎しみだけが私の…"私達"の全てでは無い

真の姿になり"聖霊鎧装"を装備してUCを発動
無数の怨霊を取り込んだ聖痕に救世の祈りを捧げ、
聖痕と大鎌を接続し犠牲者達の呪詛を浄化する大剣に武器改造

…顔が見えないのが恐ろしいのね?
ならば、お前に真実を教えてあげる

…聞くがいい。お前に命を奪われた者達の言葉を!

限界突破した闇光の大剣を怪力任せになぎ払い、
破魔のオーラで防御を貫く闇属性攻撃の斬撃を放つ

…この世界に、お前の居場所は無い。骸の海に還るがいい



 仮面が引き剥がされる様に外れ、その痛みに意識が鮮明になった。
「……まさか、私の心の裏側……こんな憎しみの感情があったなんてね」
 リーヴァルディ・カーライルは大きく息を吐く。その仕草に貴婦人は興味深いとばかりに笑みを浮かべ、その手に彼女の着けていた仮面を引き寄せると愛でる様に撫でた。
『ふふ、随分と憎悪に蝕まれておりますのね、あなたの心は』
「残念ながら否定はしない。お陰で知ってしまった、とでも言うべきかしら」
 過去を消す事は出来ないのだと。それは影の様に一生ついて回る。逃れられない。
「乗り越えたつもりでも、それは心の底に沈めただけだって……思い知らされたわ」
『いっそ、憎しみに狂ってしまえば宜しくて?』
 グリムヒルドは手にした白仮面を目の前に立つリーヴァルディの顔に重なる様に掲げて目を細め、軽く首を傾げて問いかける。
『本心を沈めたままより解放して晒け出した方があなたらしく生きられるのでは?』
 まるで、憎しみに生きろ、と言う誘惑の様な言葉。
 だがそんな言葉に耳を貸す様なリーヴァルディではない。
 静かに首を横に振り、相手を睨み付け、否定する。
「――いいえ、憎しみだけが私の……『私達』の全てでは無い」
 紫水晶の瞳が赫く染まる。捧げるは祈り。聖なる衣がその身を包み、左の瞳に刻まれた聖痕に取り込まれた無数の霊達が彼女に呼応する様に叫びを上げる。
 憎しみは戦う理由の一つに過ぎない。自分の為だけに戦っている訳では無い。
 救世の祈りは、現在の悲しみの為、未来への希望の為。
 人類に今一度の繁栄を。この世界に救済を。
「憎しみも私の一部として受け入れる……そして、私は強くなれるのだから――!」
『ほほ、綺麗事ばかり言うものね――』
 大鎌の形を大剣に変え、リーヴァルディは貴婦人目掛けて振り下ろす。ギンッと鋼が打ち合う音。割れた手鏡でグリムヒルドは剣を受け流すも、痺れる痛みに耐えきれずに簡単に床に取り落とす。
「顔が見えないのが恐ろしいのね? ならば、お前に真実を教えてあげる」

 ――聞くがいい。お前に命を奪われた者達の言葉を!

 大剣に籠められしは虐げられ命奪われし人々の祈り。
 闇光を帯びたそれを力任せに薙ぎ払えば、破魔の力がグリムヒルドの纏う闇すら突き抜け、女の胴を刃が斬り裂いた。
『あ゛ぁぁっっ!!!?』
「この世界に、お前の居場所は無い」
 骸の海への招待状。それが、リーヴァルディから貴婦人へ……己を知れた事への礼なのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・エアハート
あの白仮面…。
俺はあんな顔をしていたんだね。
何て恐ろしくて、醜いんだろう。
ずっと知らないままでいたかったのに。

ああ、身体が、心が痛い 。
裏の自分が俺を操って支配しようとしてる。
どこまで俺を弄んだら気が済むの?
このまま永遠に光の差さない暗闇の海にしようというのか…?
…何て可哀想な人(裏の自分)。
荒れ続ける海なんて結局は何もかも失って残らないんだよ。
だからもう、ゆっくり休んでいいよ。
君の怒りを俺が鎮めてあげる。

穏やかな海は帰って来た。
後はあの元凶の吸血鬼を海の怒りで貫いてやる。
勿論、俺と裏側の自分の二人分を合わせて倍返しで、ね。



 己から離れた仮面を見つめれば、呪いの内にあった自分が如何様な表情をしていたかは察する事が出来た。
「あの白仮面……」
 グリムヒルドが手元に引き寄せ、彼女の周囲に浮いたそれ――セシル・エアハートは愕然とした表情を浮かべた。
『ふふ、如何ですか。自分の裏の顔をご覧になった感想は』
「俺は……あんな顔をしていたんだね……」
 何と恐ろしくそして醜いのだろう。ずっと知らないままでいたかったのに。その方が、ずっとずっと幸せでいられたのかも知れないのに。
 思わず自分の腕で自分を抱きしめる。ああ、身体が、心が痛い。もう呪いは仮面と共に己から離れていった筈なのに、裏の自分はこの身の内に確かに存在すると感じていた。
(「どこまで……俺を弄んだら気が済むの……?」)
 自分の中の自分に問いかける。このまま裏の自分が自分を操り、支配しようとしているのか? 海たる自分の心を、永遠に光差さぬ暗闇の底に変えてしまおうと言うのか?
「……なんて、可愛そうな人」
『――ほぉ?』
 グリムヒルドはセシルの呟きに小首を傾げた。だが青年のその言葉は彼女に向けられたものではない。深海の底に引きずり込もうとしている裏の自分に対しての言葉。
「荒れ続ける海なんて結局は何もかも失って残らないんだよ? だから、もう……」
 荒い息を自分自身で必死に沈める。高揚し、破滅と退廃を望む心を宥める。
「ゆっくり休んでいいよ――君の怒りを俺が鎮めて、あげる」
 深く深く息を吐く。その先には凪が生じた。呪いにて荒れ狂った海は、再び穏やかな姿を取り戻す。
 そこに短剣を手にその身を闇に包んだ貴婦人が近くまで迫り、その凶刃をセシルに向けて突き立ててくる。
『つまらない人。そのまま堕ちる所まで堕ちてしまえば、どれだけ享楽的に生きることが出来たものでしょうね?』
 闇が再びセシルの自我を奪い去ろうと這い寄るのを感じる。だが海の闇より深く不快な闇を受け入れてはならないと本能的に感じた彼は、必死にその身を後ろに退けた。
「鎮める為には、この元凶の吸血鬼を貫いてやらなきゃ、だね」
 その言葉に、荒ぶる海の如き自分が頷きを返した気がした。
「海の怒りを、その身に受けろ――!!」
 青玉の指先より生じた水は海の色。
『――ぐっ――がぁっ!?』
 紺碧の矢は穏やかなる表海と荒れ狂う深海の二色をもって、その聖なる力で陰鬱たる闇の権化である吸血鬼を射抜いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
……今日はこのまま己を微笑に隠す事は致しません

侍らせた者にどれほど美しいと讃えられようと
その言を信じぬのでは
どれ程願おうと、顔を知ることは出来ぬまま

故に
貴女が本当に己の顔を見たがっているとは思えぬのです
「言わせている」と自覚しながら受ける讃美では
満たされる筈もないと気付いている

彼らの中には
本当に貴女を美しいと思った者も居たでしょうに

美しいと讃えられたその言葉を
美しくありたい貴女の理想を
素直に受け取らぬうちは、その望みは叶いませんよ

案内をしてくれた者
一曲お相手下さった女性
鏡の向こうに居るであろう人々
そして貴婦人、貴女自身
私の言葉は本心ですが
彼等が少しでも揺らいだならば

血統の力でお相手致しましょう



 白き仮面が外れ、顕わになったファルシェ・ユヴェールの表情は、普段見せる事も無く険しいもの。ただ真っ直ぐ、己より離れて吸血鬼の手元に移った仮面を睨み付ける。
『あら、呪いは解けた筈なのに、あなたはあなたの仮面を被り直す事はなさらないの?』
「……ええ。今日はこのまま己を微笑に隠す事は致しません」
 元々彼は己の感情を他者に悟られぬべく、知らず知らずのうちに微笑と言う仮面を着けていた。それを引き剥がされたままの今だけは、素直に感情をさらけ出している。
「自分自身に素直になろう、と今は思うのです。素直になれぬ貴女の前では」
『――なんですって?』
 手鏡を手にしたまま、グリムヒルドは眉を寄せてファルシェを睨み付けた。どういう事か、と言葉の続きを促す視線に、彼は静かに首を横に振った。
「貴女は侍らせた者にどれほど美しいと讃えられようと――その言を信じぬのであれば、どれ程願おうと、顔を知ることは出来ぬままでしょう」
 故に、とファルシェは続ける。辛辣とも言える視線を女に向けたままに。
「貴女が本当に己の顔を見たがっているとは思えぬのです」
 ヴァンパイアとそれに支配されている人間。その関係は恐怖による支配と従属。それをファルシェは厭と言う程知っている。見てきている。
 だからこそ、この女は『言わせている』と言う自覚を持っている事が感じられたのだ。世辞だと、ただの恭順によるものだと感じながら受ける賛美に、満たされる筈も無いと、この女は気付いている。
「彼らの中には、本当に貴女を美しいと思った者も居たでしょうに」
 向ける視線には、素直になれぬ女に対する憐れみにも似たものが混じっていたのをグリムヒルドは感じ、唇を僅かに噛む。それは同時に図星を突いている証左。
『わたしの、わたしの何が解ると言うのですか』
「――美しいと讃えられたその言葉を、美しくありたい貴女の理想を」
 そこでファルシェは――この館に着いて"初めて"微笑を見せた。
「素直に受け取らぬうちは、その望みは叶いませんよ?」
『この……この混血如きが……っ!! わたしを愚弄するのですか!!』
 剥き出しの言葉と感情は、時に鋭い刃物になる。思ったままを述べた彼の感想と推測は、女の自尊心を容赦無く斬り付ける。ましてや……"半分の存在"に憐れみを受け、嘲笑されたと受け止めたのだ。
『おまえたち……!!』
 グリムヒルドは壁に残された鏡に向かって叫ぶ。その先には彼女に従属している人々がいる筈だ。
「「…………」」
『!? お前達、常ならばこのわたしの美貌は間違いないと言うのに、何故、揃いも揃って黙っているのですか!?』
 だが鏡の向こうからは返事が無い。その様子にファルシェは思う。
 案内をしてくれた者、一曲お相手下さった女性、鏡の向こうに居るであろう人々、そして……貴婦人自身も、自身を騙す仮面を着けているのではないか、と。
 故に彼女は己を見る事も鑑みる事も出来ぬのか。
「――私の言葉は本心ですが、彼ら含めてその心が揺らいだのであれば」
 仕込み杖の刃を静かに抜いて構えるファルシェの瞳は、紅鋼玉よりも尚赤く、輝きを帯びていた。即ち、彼の内にある吸血鬼の力。忌まわしき力であれど、この血脈に源を有する力こそが、ありのままの己なのでもあると認識した上で。
「この身に流れる血統の力でお相手致しましょう」
 刹那。一閃した刃の輝きが貴婦人の身を裂くと同時に、それに血の花が咲いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四辻・鏡
なんだ結局、自分の為ってことか
裏表なく貪欲なのは嫌いじゃないけど
やっぱ悪趣味過ぎんだよ、お前

鏡に映らない?冗談
我は鏡刀、銘は影姫。我が刃が映すは姿にあらじ

見せてやる、汝の在り方を

口調、表情は元へと戻るが
こうして敵と相対するのが敵への嫌悪からなのか、妖刀としての性質故か曖昧で

ああ、やっぱり調子が狂う
姿とか、知りたいのはこっちさ

闇に躊躇わず斬りかかり、至近距離で視線を合わせUCを
生憎、誰かさんのせいで自我も微か
どのみち、私はただ映すだけさ

だからさ
私の否定でお前が強くなるという事は
お前自身、己が美しいなんざ思っちゃいないんだろ?

自分を知れない異形へ同族嫌悪と、少しばかりの憐みを込めて
匕首で急所を貫き



 顔から剥がれていく仮面。その引っ張られるかの様な痛みが消え失せれば、四辻・鏡は口端を上げて目の前にいる貴婦人――グリムヒルドを睨む様に見据えた。
「なんだ結局、自分の為ってことか」
『ふふ、誰もあなた方の為などと申し上げたつもりはございません』
 小首を傾げながら、既に傷付き果てた吸血鬼は微笑む。挑発めいたその言だが、鏡は鼻で笑い飛ばす。
「裏表なく貪欲なのは嫌いじゃないけど、やっぱ悪趣味過ぎんだよ、お前」
『――端からそれはご存じでしたでしょうに』
 いちいち言う事が小癪で腹立たしい。その苛立ちに己の表情が動くのが良く解る。成る程、呪いとやらは解けているらしい。紡ぐ言葉も常のものに戻っている。
 だが、相手に対するこの嫌悪感は果たして何処から来ているものか、と――胸に覚えるこの霧のかかった感覚は拭えない。
 敵に相対したが故なのか、妖刀としての性質故なのか。
(「ああ、やっぱり調子が狂う――」)
 姿見に映らないと告げた女。床に散った鏡面は彼女の代わりに天井のみを映す。
「鏡に映らないって……? はっ、冗談」
 手にしたのは一降りの刃。露と濡れた刀身は鏡面の如く輝く鋼。
「我は鏡刀、銘は影姫。我が刃が映すは姿にあらじ――……」
 映らないなんて筈は無い。でなければ『鏡』の瞳に映るはずが無い。
「見せてやる、汝の在り方を」
 そして、己の在り方も。

『――くっ!!』
 刃が貴婦人の腕を斬り裂いた。彼女が纏う闇に対し、鏡は全く躊躇う事無く斬り込んだ。その闇の性質が、自我を蝕むモノだと言うのは百も承知。だが、生憎先程の仮面の呪いのせいでその自我ですらあやふやで、かすかに残るのみなら気にする理由は無い。
 そしてグリムヒルドの視線と鏡の視線が至近距離にて交錯する。
『これ、は――!?』
 貴婦人は鏡の瞳に見たものに、動揺するかの反応を示す。
 映し出されたのは狂気。そして――。
『いいえ、いいえ、映る筈が無い――見える筈が無い』
 上ずった声で呟くグリムヒルドの纏う闇も、その揺らいだ心に応じて薄らいでいく。その魔力が、鏡の視線に因って揺らぎだしたのだ。
「言っただろ――私は『鏡』だと。そう、私はただ映すだけさ」
『これが、これがわたしだと仰るのですか……!?』
 貴婦人が鏡の瞳を通して、恐らく初めて見たであろう己の姿……果たしてどう見えたのかはその反応を見れば解る。
「だから、さ」
 わざとらしく大きく肩を竦めて、鏡は告げる。叩き付ける。真実を。
「もし、私が否定する事でお前が強くなるという事は――お前自身、己が美しいなんざこれっぽっちも思っちゃいないんだろ?」
『――!!』
 褒め称えぬ者を不利にするユーベルコードは、裏を返せば自分自身の自信の無さ。
 そしてグリムヒルドは知る。己の浅ましさを、醜さを、鏡刀に映った姿を見る事で。
『いいえ、そんな筈はない。そんな鏡は割ってしまえば良いのです――!』
 短剣を手に、貴婦人は鏡に迫る。その瞳を突こうと。その刃を砕かんと。
 だが鏡は冷静にその攻撃を受け止め、再びその瞳を覗き込む。
 自分を知れない異形――嗚呼、この嫌悪感は同族嫌悪か、と気が付いた。そして鏡刀は相手の身体を真正面から袈裟斬りにした。
『あ――』
 女は声にならぬ悲鳴を漏らす。映し出された己の姿をその瞳に厭と言う程焼き付けながら。
「それとな」
 返す刃の切っ先を相手の喉元に突き込みながら、鏡は告げる。
 自分を知らぬ女へ、同じく自分を知れぬ女からの――死出への餞の一閃。
「姿とか知りたいのは――こっちさ」
 その言葉と、グリムヒルドの断末魔が重なった。

 貴婦人=グリムヒルドが骸の海に送られると、壁に掛かっていた全ての白仮面に亀裂が走り、見る間に粉々に砕けていく。
 壁に掲げられた鏡の向こうより聞こえてくる声より、黒仮面達も己の顔を取り戻し、呪いから解放されたらしい事が察せされた。
 長く長く続いていた仮面の宴は、ようやく終焉を迎えたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月12日
宿敵 『『鏡に映らない』グリムヒルド』 を撃破!


挿絵イラスト