6
このまま僕は消えていいのに

#UDCアース #UDC-HUMAN

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#UDC-HUMAN


0





 こんな僕なら死ねばいいのに。
 そう思ったことはないだろうか。
 こんな僕なら消えていいのに。
 そう思ったことはないだろうか。

 少女は小さく呟いた。
「このまま僕は消えていいのに」

 トン。
 小さく軽く足を鳴らし、その姿は消えた。


「事件よ」
 リディー・プレヴェール(夢見る乙女のプリン(セ)ス・f27338)は書類を机へバサっと広げながら言った。

「UDC-HUMAN事件を予知したわ」
 UDC-HUMAN。
 人間がUDCに変貌してしまった際の名称。
 UDCに変貌してしまう条件、それは心に負った深い傷。
 これまでに発見されたUDC-HUMANは、例外なく心が壊れてしまっているのだ。

「これを見て頂戴」
 リディーは書類に目を通すように促す。

「彼女の名前は琴美(ことみ)。市立高校の2年生だそうよ。
 いじめが原因の自殺…未遂。まったく、飛び降りようだなんて…」
 リディーの表情は曇っていた。
 琴美は友達だと思っていた少女たちからいじめを受けていたらしい。
 主犯格は悠里(ゆうり)という少女。そして彼女の率いる2人の少女の、計3人だ。
 悠里は琴美の幼馴染なのだが、高校に入学してから関係が変わってしまったそうだ。
 母親しかおらず、あまり娘に関心を持っていない様子。
 こんな環境から、彼女は自殺を考えてしまったのだろうか。
 彼女が身を放り出したとき、その身は輝き、白い龍へと変貌した。
 龍の名は救済を謳う終末の龍『髏淵』。自らの体内にその魂を食らい、永劫に生かすことを救いとしているようだ。

 死にたくなかった、生きていたかった、同じような目にあっている人を救いたい…。
 まるで彼女の願いを具現したかのようなその姿に、彼女の心を映しているようにも思う。

「幸い、彼女はUDC-HUMANとなったことで命は救われたわ。
 戦闘は避けられないけれど、弱らせて説得をすればもとに戻れるかもしれない」
 彼女はまだ迷っている。その救い方ではいけない。本当に救われたとは言えない。
 そのことを伝えてさえあげられれば。それを彼女が納得してくれれば。
 彼女はその姿を戻すことができるだろう。もとの姿で再び生きていけるだろう。

 場所は8階建てのビル。道中には彼女の存在に惹かれて集まったUDCがたくさんいる。
 彼らを退けて、屋上に佇む白き龍を説得してほしいというのが今回の任務である。

「彼女は心から死を望んでいないはずよ。彼女を説得できるのは猟兵であるアナタたちだけ。
 どうか救ってあげて」
 リディーは深々と頭を下げた。


楔之 祈
 こんにちは、楔之 祈です。
 今回は、死にたいと言いながら生きたいと願う少女を救ってあげてほしい話。
 よく死にたい、なんていうけれど…あれは生きたいと言っているのだろうと思います。

●第一章:集団戦
 白き龍の佇むビルには、多くのUDCが集まってきています。
 彼らを退け、屋上まで向かってください。
 ビルは廃ビルとなっており、人はいません。比較的新築の部類に入る程度の強度。
 多少なり暴れても大丈夫でしょうが、崩壊には注意。

●第二章:ボス戦
 屋上には救いを謳う白い龍が佇んでいます。友好的ではあるものの、彼女は“救い”を与えようとしてきます。これを拒めば敵対します。
 戦闘は避けられない為、“救い”を受けるメリットはありません。
 説得が成功すれば、琴美へと戻すことができます。

●第三章:日常
  琴美をいじめていた3人、および母親への説教たれましょう。方法は問いません。
 うまく話せば3人や母親から気持ちを聞けるかもしれません。それがいい方向へ向かうのか否かはわかりませんが。

 プレイング募集期間等はマスターぺージ等ご確認ください。
 沢山のご参加、心よりお待ちしております!
12




第1章 集団戦 『喪失否定アプリケーション』

POW   :    「やっとここまで取り戻せたんだ」
戦闘力のない【執着対象を模倣するモザイクの塊 】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【周りの人を代償に現状を都合よく変えること】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD   :    「あんたも協力してくれるよな?」
攻撃が命中した対象に【因縁 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の未来を奪い不幸を招くこと】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    「この手は二度と離さない」
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【未来 】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木々水・サライ
サイボーグの男は『いじめ』というのは受けたことがないから、よくわからない。
だがそれで苦しい目にあっている人間がいるということは、任務の内容を聞いてよくわかった。
ならば自分に出来ることは、その子に手を差し伸べて救うことだ。

目標地点に到着し、多くのUDCを発見する。
【ソーシャル・レーザー】【プロジェクト・ディーヴァ】を使用し、『いじめ』についての意見を募集した上で、賛同者から力を借りる。一点集中の力は短期間で敵を貫くが失敗すると廃ビルを崩しかねないので、使用には要注意だ。


「俺も幼い頃に痛い目にあってるが、それと同じ…じゃないな。こっちのほうが深刻だな」

「落とす者がいるなら、拾う者もいるってことだ」




「俺も幼い頃に痛い目にあっている。が…それと同じではないのだろうな。こっちのほうが深刻だ」
 木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)は階段下から上を見て呟く。
 視界に移るのはコンクリートの天井。しかし、彼の視線は屋上にいるであろう救いの白き龍であった。
 彼に透視能力なんてものはない。見えているのもコンクリートだ。
 しかし、彼には見えているのだ。その存在が。白き龍がいるであろうということが。
 サイボーグである男には、『いじめ』という経験がない。
 情報としては持っているだろう。しかし、それだけなのだ。
 経験がないのだから、『いじめ』を受けた人の気持ち等わからない。
 想像はできても、それは憶測でしかないのだから。
 それでも、苦しい想いをしている人間がいる。それだけは分かる。
 落とす者がいるなら、拾う者だっている。
 なら、自身にできること。それは。

「俺が拾ってやる事だ」

 サライは自身のもつSNSにて『いじめ』についての意見を問う。
 【プロジェクト・ディーヴァ】。
 瞬く間に意見は集う。『いじめ』に反対する意見。いじめられている子がいるなら、救ってやってほしいという意見。
 中には『いじめ』を肯定する意見もある。
 しかし、大半はいじめられた経験のある人の言葉だった。
 本当につらかったと。助けてあげてほしいと。見てみぬふりをしてしまった後悔。
 数々の意見はサライに力を与える。
 サライは一点突破。目の前の喪失否定アプリケーションを一掃し道を作ろうと考えた。
 進むべき道。屋上へとつながるその道を邪魔する存在に、【ソーシャル・レーザー】の標準を合わせて。

「邪魔をするの?」
 どうして?なぜ?なんでなんだよ!!
 喪失否定アプリケーションは気持ちをぶつけるように叫び、サライへと突っ込んでくる。
 賛同者の数が多く、かなりの威力が期待されるレーザー。外せば廃ビルを崩壊させかねない為、しっかり狙いをつける。
 あえて接近を許し、近距離放射を狙うサライ。
 あと少し。もう少し。

「ここだ!」
 発射されるレーザー。
 喪失否定アプリケーションは咄嗟に避けようとする。
 瞬間の光が消えた時、喪失否定アプリケーションの両足はなかった。
 自分の未来を犠牲に成功を手にするその能力でも、完全には避けられなかった。
 直撃を免れた代償に、両足を失ったのだ。
 これではもう、歩くことはできないし、その命にも関わってくるだろう。

「ここは通してもらう」
 道を作ったサライ。
 数々の『いじめ』への意見について考えながら、階段を駆け上がっていった。
 自分に理解ができるのか、この任務が終わる頃には答えが出ているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……ダメだ。
お前らも、それは、ダメだ。
その力は、使っちゃいけねぇ。
その力で得たとしてもなぁ、それは結局紛い物だ。
元には、戻せねぇんだ……ダチの、準のようにな。
その救いを求める手をな、アタシは握れねぇ。
その力を、過去から這い出ようとする力を……
アタシは、拒絶する!
退きな有象無象ども、アタシは屋上に用があるんだ!

空間の歪みを因果の歪みに昇華して、
【災い拒む掌】でアンタらの因縁をそのまま返し、
アンタらの未来を逆に奪う。
そもそもが過去に縋ってばかりじゃあ、
未来も見えなくなっちまうのさ。
……ま、たまには振り返ってもいいけどよ。
そこまで縛られてちゃ意味ないさ。
そのまま朽ちてけ。




 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は階段を駆け上がる。
 各階に絶え間なく存在する喪失否定アプリケーションが行く手を阻む。

「…ダメだ」

 喪失否定アプリケーションは多喜の存在に気づくと、すぐさま攻撃を繰り出してくる。
 多喜は後ろへ飛び退きその攻撃をかわす。
 喪失否定アプリケーションのその能力は分かっていた。
 ここに来るまでに何度も彼らと戦ってきたから。
 その能力の力の源が、何なのかも彼女は分かっていた。
 だから。

「その力を…使っちゃダメだ」

 今度は別個体が攻撃を繰り出してくる。
 一度目を避けたことで多少体勢が崩れ、先程のように避けることは難しい。
 多喜は攻撃に合わせて手を突き出した。掌は光を放ち、やがてその光は収束する。
 多喜はぐっと拳を握ると再び突き出し、喪失否定アプリケーションへのカウンターを繰り出した。

「退きな!!有象無象ども!!!…アタシは、屋上に用があるんだ!!!」
 【災い拒む掌(キャプチャー・アンド・リリース)】。
 受けたユーベルコードをコピーし一定時間自身のものとして扱えるようになる。
 彼女はこれを用いて喪失否定アプリケーションを撃退していく。

「アンタらの因縁、そっくりそのまま返してやるよ!!!」
 喪失否定アプリケーションをなぎ倒しつつ屋上へ向かう多喜。
 彼女は願う。
 もうその力を使うなと。
 彼女は思う。
 その力は救いじゃない。その力で取り戻したものは、所詮紛い物でしかないのだと。
 一度大切なものを失ってしまった彼女だからこそ、その気持ちを理解し、否定できるのだ。

「…失ったものは、もう取り戻せねぇんだ。ダチの、準みたいにな」
 過去は過去でしかないのだ。
 人は、向いているほうにしか進めない。
 なら、わざわざ後ろを向いて、進んできた道を戻る道理はないのではないかと思う。
 もちろん、前ばかりを向いていても成長はできない。過去をしっかり認識し、踏み越えていくことで未来は開ける。
 彼らのように、過去に縋って、振り向いてばかりでは、未来を見ることはできないのだろうと多喜は思う。
 だからこそ、未来を見ているあの娘を救わねばならない。
 未来を望んで、その身を変えてしまったあの娘を。
 多喜は強い想いを胸に、階段を駆け上がっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
多感な年頃だしねぇ…多分些細なことでしょうけど
認められないってのは結構くるものがありますからね
おにーさん的には知ったこっちゃねぇの精神がいいと思いますが

まあ、色々言うのは救ってからですね
…でなんでしょうこいつら
永遠に生きる事が喪失とは考えずらいし…魅かれただけかな?

じゃあ、化け開きな、ミミック
『おまえが失ったものはなんだ?』
…まあ、よほど納得行けるようなもんじゃなきゃ満足しませんが
むしろ家族とか言われたら失笑してしまいそうです

自分は衝撃波込めた弾で幻影から抜けた奴を優先して撃ち貫いていきましょう
攻撃は当たると面倒そうなので、戦闘知識、第六感、視力でよく見切り、近づかないように

アドリブ絡み歓迎)




「はー…なんでしょね、こいつら」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はため息をつく。
 1階から絶えず存在するそれらに、うんざりする。
 そもそも何故それらが集まってきたのかがわからない。
 何せ永劫の生を謳うモノなのだ。失い、それを取り戻さんとする彼らには、ほぼほぼ縁の無い事ではないか。
 まぁ、考えても仕方ないのかもしれない。ここに集まったことに理由なぞ無いのかもしれないから。
 はたまた、自身の未来が食われていることに気づき、どこかで永遠を願ったのかもわからない。
 いずれにせよ、自分には関係のない事ではあるが。

「ここにもうじゃうじゃ…はい解散、とはいきませんかねぇ」
 目の前には喪失否定アプリケーションの団体さん。
 中には体の一部が欠損している個体もいる。先に通ったお仲間か、すでに力に呑まれたか。
 はたまた、失ったものがそれなのかもしれない。

「さぁ、化け開きなミミック。お前の失ったものはなんだ?」
 小さく呟くと黒く光る水晶のブレスレットから幻朧桜に化けた箱型の生命体を召喚する。
 【偽正・千桜塵殺(フロリッド・カタルシス)】。
 召喚された箱型の生命体は、喪失否定アプリケーションを幻影へと飲み込んでいく。
 この質問へ答えなければ幻影が解けることはない。
 ずっと、幻影の中で美しい桜の花弁にその身を刻まれ続けるのみ。

「さて、俺の満足する返答はもらえますかね」
 幻影から抜けるが先か、朽ちるが先か。拓哉は彼らを観察する。
 喪失否定アプリケーションは身体をよじらせ、暴れ始める。
 かなりのダメージがあるらしい。邪魔をするなと叫びながら、あらぬものへと攻撃を繰り出す。
 当たると厄介な攻撃が多い。距離を取るに越したことはない。
 喪失否定アプリケーションからは口々に、何かを零している。
 お金、家、車、仕事、恋人、夢。
 失い方に違いはある。それでも、拓哉を納得させられるだけの答えになり得たのは数少なかった。
 幻影を抜けて、拓哉を捉える喪失否定アプリケーション。
 拓哉は持っている全ての感覚を用いて攻撃を避け、その脳天に衝撃波の弾をねじ込んだ。
 幻影から出られず朽ちる者も現れ始める。

「妹を…たった一人の肉親を…願って何が悪いんだ…!」
 喪失否定アプリケーションは叫ぶ。最後の力を振り絞るかのような、か細くも力強い声で。
 その答えを聞いた時、拓哉は思わず失笑する。

「く…くくっ…いや、想像はしてましたがね」
 想像はできていた。中には家族を失った人もいるのだろうと。

「別にその気持ちも否定するつもりはありませんし?
 そんな力で家族を取り戻したってーなんて臭い事言うつもりもありませんがね。
 ただね。そんな力で取り戻した紛い物の御人形で満足できるお前が、ちゃんちゃらおかしくってさ」
 喪失否定アプリケーションはもう動かなかった。
 最後の言葉が聞こえていたのかはわからない。
 妹の話をした時点で朽ちたのかもしれないし、もしかしたら今も声は聞こえているかもしれない。
 まぁ、そんなことはもうどうでもいい。

 次の階へとつながる階段を見上げる。
 屋上にいる少女について。高校2年生ともなれば多感な年ごろである。
 とはいえまだまだ子供なのだ。彼女に起きたことは、些細な事なのかもしれない。
 子供というのは閉鎖的で、視野が狭い。見えている世界しか見えないのだ。
 その上、母親から関心を示してもらえなければ、彼女の世界にはもう何もない。
 そのうち、知ったことじゃない、と突っ返せる日も来るのだろうが。

「まぁ、色々言うのは救ってからですね」
 拓哉は足軽に階段を上がっていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

家綿・衣更着
連携アレンジ歓迎

UDCになるほど追い込まれたのはひどいけど、死なずに済んだのはきっと運命っす。
あとはおいらたちが頑張って僕っ娘さんを救うっす!

方針として建物被害は最小限に。
【化術】や【迷彩】【忍び足】で隠れつつ内部侵入、可能なら最後尾にいたり一人だけはぐれてるなどの敵を一匹ずつ忍者手裏剣で【暗殺】してくっす。

気づかれたらトリプルどろんチェンジの提灯お化けでびっくりさせ、怯ませ敵をまとめ、巨大狸になって手裏剣を【貫通攻撃】【乱れ撃ち】で一気に攻撃してくっす!
追加攻撃対策に因縁つけられた敵を優先的に倒すっす。

…UDC怪物はけして救いではないっす。
せめて妖怪が見えれば孤独は和らいだんすかね?




 家綿・衣更着(綿狸忍者・f28451)は柱の影から様子を伺う。

「次はだれを狙うっすかね~」
 じっと喪失否定アプリケーションの群れを眺める衣更着。
 彼はお得意の化術や、忍術を用いて各個撃破を目論んでいた。
 忍び足で静かに柱から柱へと移り、タイミングを伺う。
 しかし、至る所にいる喪失否定アプリケーションは、図らずも各々の死角をカバーし合っており中々チャンスが訪れない。

「んん~…!じれったいっすね…!」
 動かない状況に、じれったさからそわそわとしてくる。
 いっそ正面突破、姿を現して一気に片付けようかとも考える。
 しかし、化かす者ともあろう男。ここはぐっと、忍耐力を見せねばならない。
 ふと、足元にコンクリートのかけらを見つけた。
 衣更着はそれを手に取ると、自分とは反対方向に投げつける。
 地面へと落ち、カラカラと音をたてながら転がっていくかけら。
 それを気にした喪失否定アプリケーションはぞろぞろと様子を見に行く。
 思惑通りの行動に、内心ガッツポーズをしつつ、一番後ろの個体へと忍び寄る衣更着。
 そして忍者手裏剣を用いて、確実に倒す。
 近くの柱へと再び身を隠した。
 後ろで倒されたことに気づいた喪失否定アプリケーションは周りを探索始める。
 うろうろと始めたことで先程より各個撃破しやすくなった。
 手際よく背後から倒していく。

「この調子なら、いけそうっすね」
 我ながらあっぱれ、とでもいうような表情。
 その一瞬の隙のせいか、ひとりの個体が衣更着に気づいた。
 駆けてくる喪失否定アプリケーション。その様子に周りの個体も気づき、一気に襲い掛かってくる。

「わわっ、えっとえーっと、トリプルどろんチェンジっす!」
 ぼわんと、綿のような煙に包まれた衣更着。
 その煙が晴れると、そこには提灯おばけが浮いていた。
 ふわふわと浮かび、びよーんと動き回る提灯お化け。
 その姿に驚き、喪失否定アプリケーション達は間合いを取ろうとうろうろと集まっていく。
 うまく誘導していく衣更着は、頃合いを見てその姿を巨大狸へと変え手裏剣を乱れ撃ちする。

「袋のネズミってやつっすかね!これで終わりっすよ!」
 誘導され、まとまってしまった喪失否定アプリケーション達は避けることもままならず、大打撃を受けた。
 一掃した後のフロアは、再び静けさを取り戻す。
 屋上を目指し、階段を駆け上がっていく。

(UDCになってしまう程追い込まれてしまったのはひどい事っす。
 でも、それで命が救われたなら、それには意味があるって思うっす)
 そして、自分たちが彼女を救う事にも。意味があり、運命だったのかもしれない。
 もし、彼女がUDCに変貌してしまうことが運命だったのなら、自分たちが彼女を救う事も運命だ。
 彼女が何に負けてしまったのかはわからない。
 誰かがそばにいてあげられたなら、彼女がUDCになってしまう事もなかったのだろうか。
 もし、あの子に妖怪が見えていたら。孤独は和らいだのだろうか。
 衣更着はそんなことを考えながら、先を急いだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
アド連歓迎
いやぁ、皆好き勝手言うよね?


人と仲良くしろとか、執着するなとか、自殺は良くないとか前向きに考えろとかまー都合のいい戯言ばっか吐きやがるんだわぁ。
一体どんなコーフクな人生歩んできたの?って思う!(けらけら)

……何も知らないって本当、幸福なことだよねェ。
まぁ何だかんだ言って、私結局貴方達と敵対しちゃうワケですけど。
全力魔法UC発動

貴方をオブリビオンたらしめんとする、その負の感情(執着、嫉妬、未練等)を貴方から強制的に切り離す。切断する。
残念ながら未来はあるのだ。猟兵はそれを創り出す存在なのだからね。
だから君も諦めて大人しく夢と希望を見るしかないのだよ。
喪失することで得たものもあるだろう?




「何も知らないってさぁ、ほんっとーに幸福なことだよねェ」
 鈴木・志乃(ブラック・f12101)は唾を吐くように言葉を吐き捨てた。
 人は皆、好き勝手に事を言う。
 人とは仲良くしろ。執着するな、自殺はよくない。
 そんなだからダメなんだ。自分はもっと辛かった、それに比べればマシだろう。
 都合のいい戯言。自分本位な励まし。もはやマウントだ。

「一体どんなコーフクな人生歩んできたの?って思う!」
 ケラケラとあざ笑う志乃。
 おそらく志乃は、それが悪い事だとは思っていない。
 偽善が全て悪だとは思わない。ただ、そういう自分本位な励ましは追い打ちになるということを知っているだけなのだ。
 喪失否定アプリケーション達の小さな声に耳を貸しながら、なんだかなぁと頭を掻く。

「まぁ、なんだかんだ言っても、私結局アレとは敵対しちゃうワケですけど」
 だって、彼らの力を肯定しているわけではないから。
 目の前でゆらゆらと揺れながら、じっと志乃を見ている喪失否定アプリケーション達。
 間合いをはかっているのか、志乃の出方を見ているようだ。
 ふわっとした光が、志乃の身体を包み込む。
 【私の世界的猟兵証明(アウトオブサークルオブライフ)】。
 彼女を包んだのは、未来を生む無限の可能性の光。
 その光は負の感情を切り離すことができる。

「貴方達、喪失することで得たものもあるんじゃない?」
 志乃は問いかける。
 しかし、誰もそれに対して答えなかった。
 喪失したことが、喪失したものが、彼らにとって大きいものだったのかわからない。
 ただ、少なくとも、彼らはそれを失った為に、希望を捨ててしまったのだろう。
 あるいはきっと、得たものに気づけなかったか。

「答えることも出来ない、かぁ」
 この問いが、きっかけとなった。
 喪失否定アプリケーション達は、一気に間合いを詰めてくる。
 そして攻撃を繰り出してきた。
 まるで、捨ててしまった希望を拾うかのように。

 志乃はその攻撃をふっと避ける。身軽に、ふわりと、煙のように。

「残念ながら、未来はあるのだ。そして、これは私の未来だよ。
 キミ達には渡せないのだよ」
 志乃は光を放つ。その光は喪失否定アプリケーション達を包み込む。

「貴方をオブリビオンたらしめんとするその負の感情。貴方から切り離す」
 光は次第に、しゅうっとその中に収束した。
 そして、彼らは動けなくなった。まるで、何かが抜けてしまったように。
 彼らの原動力が、抜けてしまったのだろう。

「うんうん、そうやって大人しく、夢と希望を見るのだよ。
 私達猟兵は、それを作り出す存在なのだからね」
 動けなくなった彼らの横を、スッと通り抜ける。

 これから屋上へ向かう。
 屋上にいるあの子に、都合いい言葉をかけるつもりはない。
 ただ、それでも救いたいとも思う。
 だって、彼女は猟兵なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
■心境
…止めなきゃ。間違いだったと後から気付いたら、
あの子は永久に苦しむことになる。
共感できるから、放って置けない。

■戦闘
戦場は建物内…得意の焔は、使えない。
しかも、集団戦。挟み撃ち、されたらマズイ。
他の猟兵と合流するか、誰も居なければ退路を背に…
例えば、入口とか…非常階段なら、少数戦闘に持ち込めるかも。
…敵の追加攻撃は厄介。もし味方が受けてしまったら、発動させた相手を優先的に倒して被害の拡大を防ぐ。
…未来は、自分で作るもの。奪っちゃ、ダメ。

【仙孤幻術・反転陽炎】を使い、出現した「私」を含めて協力して戦う。
残像とカウンターを併用して、敵をいなしながら抜刀術で両断。

…待ってて。必ず、助けるから。




 クロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)は、階段を駆け上がっていく。
 早く屋上へ着くように。早く彼女を救えるように。

(…!)
 階段を曲がったところに、喪失否定アプリケーションの影が見える。
 咄嗟に身を隠し、様子を伺うクロム。
 この階にはあまりいないようだが、それでも厄介な数はいる。
 建物の中、崩壊するかもしれないことを考えるとここでは彼女が得意とする焔は使えない。

(相手は集団…挟み撃ち、されたらマズイ)
 クロムは必至に考える。
 この階には自分しかいないため、なんとか誰かと合流しなければならない。
 しかし、その為にはまずここを離れなければならない。
 が、上の階へと続く階段の前付近にいる為底を抜けることは難しそうだ。
 まずは退路を確保する必要がある。
 退路を背に、危なくなればすぐに逃げ出せるように。ゆっくり音を立てないよう移動する。
 ここからどうするか。このまま一度階段を降り、別の道を探すのもいいが、それでは時間がかかってしまう。
 それに、ここより危険な場所かもしれない。
 なんとか少数戦闘に持ち込むことができれば。何かないかと辺りを見渡す。

(…!あそこ、通れる…?)
 突き当りに、非常階段への扉が見えた。
 幸い、喪失否定アプリケーション達がいるのは扉とは反対側。
 全力で走れば間に合うはずだ。
 非常階段であれば、列になり少数ずつ撃破も可能になるかもしれない。
 クロムはタイミングを計り、一目散に駆け出した。
 クロムの存在に気づいた喪失否定アプリケーション達は、遅れてクロムを追いかける。

 扉に辿り着いた。
 ドアノブに手をかける。
 ガチャ。

(よかった、開いてる)
 鍵はかかっていないようだった。
 そのまま勢いに任せて扉を開き、そして階段を駆け上がった。
 階段の踊り場。そこで待ち構える。

「吾が影に煙束ねて逆映しと成れ…」
 小さき呟くと、後ろからふわりとクロムを包むように現れる幻術。
 それは彼女を鏡写しにしたような姿で現れた。

「手伝って。上に行かなければならないの」
 クロムは自分自身に囁く。小さく、優しく。
 現れたクロムの幻術は、しっかりと頷くと、クロムの手へと自身の手を重ねた。
 まるで、自身は貴方のそばにある。と伝えるかのように。

 ガシャッ!
 大きな音を立て、喪失否定アプリケーション達が出てくる。
 クロムは自分に言い聞かす。
 大丈夫、やれる。
 クロムの姿を確認した喪失否定アプリケーション達は、有無も言わさず襲い掛かる。
 それに合わせて、二人のクロムも構え攻撃を繰り出す。
 喪失否定アプリケーションは、既に未来を失っているのだろう。
 欲するように、取り戻さんとするために、クロムの未来を奪いに来る。
 その手はクロムを捉えたかに見えた。

「…残念。それは、残像」
 横から、喪失否定アプリケーションの攻撃に合わせて刀が線を描く。
 目にもとまらぬ早業。その場には、両断され、消えていく喪失否定アプリケーションの姿があった。

 流石は剣豪。美しいともいえる抜刀術で次々と喪失否定アプリケーションを両断していく。
 これがもう一人いるのだから、喪失否定アプリケーション達には手も足も出ないだろう。

 しばらくして、フロアは静かになる。
 このフロアにいた喪失否定アプリケーション達は葬ったようだ。

「急ごう」
 クロムは先を急ぐ。
 他の猟兵達と合流できるように。
 そして、彼女を救えるように。
 止めなければならないから。
 きっと、あの子は分かっている。これが間違いなのだと。
 それでも、その心まで染まってしまったら。
 きっと、後から気づいたら、あの子は苦しむことになってしまう。
 それこそ、あの龍が謳う、“永劫”に。
 クロムは知っている。その苦しみを。だからこそ。

「放って置けない」

成功 🔵​🔵​🔴​

水澤・怜
心が壊れた…か
もし過去の俺がこの世界に生まれていたら…こいつらや件の少女と同じような事になっていたかもな


「自身の未来を犠牲にして得た力を…他人の未来を犠牲にして都合良く書き換えた現状を…お前達は肯定するのか?」

UC発動

遠距離の敵には青藍を【投擲】、近距離の敵は月白で攻撃
【2回攻撃】で可能な限り手数を増やし【スナイパー・見切り・早業・戦闘知識】を生かし敵への攻撃命中を優先

敵は恐らく様々な言い訳で自身を肯定するだろう

…だが

「自分の手をよく見ろ
他人を犠牲にして自身を肯定し、言い訳を重ねて得た力など…所詮紛い物にすぎん」

俺も一歩間違えばそちら側だった
だが決定的に違うのは…自身の未来を捨てなかったことだ




 水澤・怜(春宵花影・f27330)もまた、喪失否定アプリケーション達に囲まれていた。
 彼は思う。
 もし、自身がこの世界に生を受けていたならば。
 彼らのようにならない自信があっただろうか。

「自分達の手をよく見てみろ。
 他人を犠牲にして言い訳を重ねた力など、所詮は紛い物にすぎん。
 お前達は、そんな力を肯定しようというのか」
 怜の言葉に、ピクリと動く喪失否定アプリケーション。
 顔は分からない。が、鋭い視線は感じる。
 鋭く差すような視線。

「お前に、何がわかる?」
 喪失否定アプリケーションは怒りを抑え込むように言葉を絞り出す。
 同時に、モザイクで模られた女性のシルエットが現れる。

「未来を犠牲にして都合よく書き換えた現状を、お前は肯定できるのか?
 自分のあるはずだった未来を、他人の未来でさえ犠牲にした現状を、お前は肯定するのか?」
 まるで、自分に向けたかのような言葉。
 過去の自分がこの世界にいたならば、きっと同じことをしていたと思う。
 だからどうにも、他人事には思えないのかもしれない。

「さ…るさ…さい…うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!」
 喪失否定アプリケーションはぎゅっと、モザイクの女性を抱きしめる。

「どうして彼女が死ななければならなかった!?
 将来を約束した彼女が!もういないんだ!
 未来?そんなもの、彼女がいなくなった時点で俺にはもうないんだよ!!!」
 どうにも彼には、まだ気持ちが残っているらしい。
 大切な恋人を亡くしたのだろう。

「…そうか」
 怜は一言呟いて、戦闘態勢を整える。
 これ以上は、もういい。
 喪失否定アプリケーションは、周りにいる別個体の喪失否定アプリケーション達を代償に、じわじわと現状を有利に書き換えていく。

「大丈夫、もう君をどこにもいかせないよ。俺が、今度こそ守るからね」
 俺達の未来のために。
 喪失否定アプリケーションは書き換えられた現状によって強化されている。
 代わりに、周りの喪失否定アプリケーション達は消え、1対1の状況が生まれた。
 怜にとっては、戦いやすくなったようにも思う。

 怜は【青藍】を投げ、相手の出方を伺う。
 喪失否定アプリケーションは悠々とそれを避け、余裕を感じさせる動き。
 やはり一筋縄ではいかない。
 怜は間合いを詰め、【月白】で切りかかる。
 できるだけ早く、多く。怜の動きは洗練されていく。
 命中率も高まっていく。その刃は喪失否定アプリケーションを捉え始めていた。

「そこだ!」
 ついに手応えがあった。
 急所は外したとはいえ、確実にその身を貫いている。
 さらに、その顔を掌で捉える。

「俺も一歩間違えればそちら側だった。
 だが、もし俺とお前で違いがあるとすれば…未来を捨てなかったことだ」
 【業鏡(ゴウキョウ)】
 その掌から、鋭い棘が頭を貫く。
 そして怜が離れた後、膝から崩れ落ち、力なく横たわる喪失否定アプリケーション。
 怜は振り返ることなく、次の階へと進んでいく。

 心が壊れる。
 それがどれだけ苦しい事なのか。
 一歩間違えば自身にも当てはまっていただろうこの光景に、自身は何ができるのか。
 その答えはきっと屋上にあるのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

中村・裕美
「……身投げしたら竜になる……おとぎ話みたいな展開ね。……オブリビオンが……本当に救済者になるかは……別として」

戦闘は喪失否定アプリケーションに【早業】で【ハッキング】し、【ミームインベイジョン】で『過去からの産物であるオブリビオンに未来など持ちえない』と概念を書き加え、UCを使えないようにした上で、ドラゴンランスで蹴散らす
「……過去は過去に還りなさい」

向かう途中、琴美の事を学校関係者の掲示板や彼女達と周囲の人物達のSNSを裏アカ含めて【情報収集】し、いじめとなるきっかけがあったかなど調べておく
「……僕っ娘ってのも……珍しいわよね」
ボーイッシュで活発なイメージの一人称だけど……はてさて




「身投げしたら龍になる…なんて、まるでおとぎ話みたいな展開ね」
 中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)は眼鏡をあげながら呟く。
 童話やおとぎ話には、よく身投げをして龍になる話は存在する。
 伝承にも多いだろうか。それ程よく言い伝えられている。
 普通に考えれば、悪い事ではないのかもしれない。
 少女が、龍となり神に近しい存在になる。
 よくある言い伝えなのかもしれない。これが、オブリビオンでなければ。
 オブリビオンは、果たして救済者になれるのだろうか。

「…まずは、彼らの対応…ね」
 目の前には喪失否定アプリケーション達。
 かなりの数が排除されているとはいえ、まだ居る辺り相当集まっていたのだろう。
 電脳魔術師である彼女にとって、ハッキングはたやすいものだ。
 特に相手はアプリケーション。相性はいい。
 すんなりと中に入ることができた。
 【ミームインベイジョン(ミームインベイジョン)】。
 彼女は彼らの思考、概念を書き換えてゆく。
 『過去からの産物であるオブリビオンに未来など持ちえない』と概念を書き換えることで、未来を犠牲にするUCは使えなくなる。
 身動きが取れなくなった彼らを、裕美はドラゴンランスでなぎ倒していく。
 
「……過去は過去へと還りなさい」
 裕美は、喪失否定アプリケーション達が動かなくなったことを確認すると、屋上へ向かう。

「……さて」
 裕美は端末を開き、調べものを始める。
 学校の掲示板、SNSのアカウント、裏アカウントや裏掲示板も含め琴美に関する情報や、いじめに関する情報を集めようと考えた。
 中学時代の学校の掲示板では、琴美は明るい女の子であることが伺えた。
 大会に優勝していたりするところを見ると、運動は得意な方なのだろう。
 
 さらに調べていると、琴美本人のSNSアカウントが出てきた。
 どうやら鍵垢にしてあり、他につながりがないアカウント。
 おそらく、自分の呟き用に作り、吐き溜めにしていたのだろう。

 アカウントを開く。
 中には、いじめの内容や、自身を卑下する内容が綴られていた。
 机への落書き、靴を隠す等の小さいものから始まり、教科書を燃えるゴミに捨てられたことや、女子トイレでの暴行。
 ひどいときは、カンニングを企てられたこと。
 覚えのないカンニングペーパーを入れられ、その筆跡は琴美そのもの。
 おそらくトレスペーパーで文字をトレスし誰かが入れたのだ。
 親も呼ばれ、話し合いをしたとも書いてある。
 信じてはもらえなかった。
 母親は半信半疑で、味方に放ってくれなかった。今まで何度もいじめについて話した。
 どれもまともには受け取ってもらえず、あしらわれた。
 一つ一つは小さいかもしれないし、耐えられたのかもしれない。
 しかし、これにたった一人で1年以上耐えていたとなれば、そろそろ限界だったのも頷けるように思う。
 学校の裏掲示板では、琴美に対する悪口はあるが、主に投稿は固定された数人。
 大体はいじめられたくないという理由で、見てみぬふりだったという事だろう。

「……あ」
 ちょうど高校に入る頃のもの。
 そこには、両親の離婚について書かれていた。
 両親は離婚し、母親に引き取られ、引っ越したと。
 共に同じ高校へ行く約束をした友達とも離れ、ひとり今の高校へと入学した。
 その時の初めての友達が、悠里だった、と。
 中学の友達とは、始めは連絡を取っていたものの、向こうは向こうで友達ができ、次第に交流がなくなったという。

「……ほんと、ロクな人生してないわね」
 詳しい原因は分からない。これ以上は本人に聞くしかない。
 ぱたりと端末を閉じ、屋上へと向かう。

「……そういえば。僕っ娘ってのも、珍しいわよね」
 ボーイッシュで活発なイメージが付く。
 琴美は、一体どんな娘なのだろうか。もとに戻すことができれば、きっとわかるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『救済を謳う終末の龍『髏淵』』

POW   :    魂魄乖離咆哮
【UCを無効化し、精神と肉体を引き裂く咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    贄貌苦面龍鱗
戦闘中に食べた【ことがある生きた人類の血肉】の量と質に応じて【状態異常を無効化する人の顔の鱗を生成し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    人類救済説話
【全ての人類を生・老・病・死から永劫に救う】という願いを【人類の心の深層】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神樹・桜花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木々水・サライ
白い龍の前へとたどり着いた。
【黒鉄刀】を振りかざし、敵対の意思を見せておく。
【二人の白黒人形】起動。複製義体も出しておこう。
…攻撃はしない。攻撃されない限りは。


……琴美には、味方がいなかったのかもしれない。
先ほど入手した情報から導き出したひとつの答えが、脳内をぐるぐると回っている。
いじめ被害者には味方が少ないという情報が流れ込んできてしまったせいかもしれない。

だから今回は、俺が、俺の後に続く猟兵が味方だと告げよう。


「そっちの道に進んだら、もう二度と復讐の道は歩めねぇぞ」

「アンタをそんな風にした連中なら、俺が制裁に行ってやるからよ」

「今がダメでも、未来はきっと明るい。それは、俺が断言する」


家綿・衣更着
最初から真の姿(妖怪狸)
・挨拶
こんにちは琴美さん。おいらは衣更着、狸の妖怪っす。
妖怪は科学の発展で人間さんから見えなくなって、辛く、寂しく、驚きの感情も貰えず腹ペコっす…
だからこそ分かるっす。
それは救いじゃない。自分を見てもらえない、永劫の孤独っす!

・戦闘
まだ人食べてないはず!
敵UCに対抗し降魔化身法で強化。
走ってかく乱し基本は忍者手裏剣の【投擲】【乱れ撃ち】
接近時はどろんはっぱで【だまし討ち】【暗殺】っす。

・説得【コミュ力】
琴美さんはそうなっても人を助けようとしてるっす。
だからあなたに救われてほしい、生きてほしいっす!
琴美さんが一人なら、おいらが友達になるっす!
(自分のあやかしメダルを渡す)




 木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)と家綿・衣更着(綿狸忍者・f28451)は一足先に屋上へとたどり着く。

 サライは二体の白黒人形を取り出してくる。
 【二人の白黒人形(モノクローム・ツインズ)】。
 サライにそっくりの2体の複製義体は、サライの両脇に控えた。
 3人は【黒鉄刀】を構え、敵対の意思を見せる。
 が、切りかかりはしない。あくまで、応戦する気はある、という意思表示だ。
 同時に、無条件で味方ではない、という証。

 白き龍はじっと、サライと衣更着の顔を見る。
 しばしの沈黙。それを破ったのは衣更着だった。

「こんにちは!琴美さん!」
 サライとは対照に、フランクに声をかける衣更着。
 手をぶんぶんと振り、自分を見て―!とアピールしている。
 まるでお友達を呼ぶように。
 白き龍は“琴美”の名前に少し、反応したように見えた。

「おいらは衣更着、狸の妖怪っす!」
 えっへん、と自慢げに名乗る衣更着。
 話を聞いてもらうためか、少しばかり大げさに身振りする。

「おいら達妖怪は、科学の発展で人間さんに見えなくなっちゃったっす。
 だから、驚いても貰えないから、お腹ぺこぺこっすよ~…」
 うー…とお腹をさする。
 妖怪は、感情を糧に生きている。その為、自分が見てもらえないというのは、辛く寂しく、悲しいものなのだ。

「辛いのも、悲しいのも、寂しいのもわかるっす。
 だから、戻ってほしいっす。それは、救いじゃない…終わらない孤独っすよ!」
 白き龍の謳う『永劫』。
 彼女がその姿である限り。その姿に呑まれてしまえば。
 おそらく永劫の孤独へと迷い込んでしまう。
 それでは、生前と何も変わらない。
 白き龍は、反応を示さない。
 説得が聞こえていないのか。白き龍の力は、琴美の耳を塞いでいるのかもしれない。

「このままでは聞いて貰えないようだな」
 サライは二人の様子を見て、呟いた。
 先程回ってきた情報が頭から離れない。
 琴美について調べてくれた人がいた。そして、その情報を共有してくれたのだ。
 その情報から導き出される一つの可能性が、ぐるぐると頭を這うのだ。
 彼女には。琴美には、味方がいなかったのではないだろうか。
 得られた情報から見てもわかるが、何より信憑性が増したのは『いじめ被害者には味方が少ない』という数多の声のせいなのかもしれない。
 ならば。

(俺が味方だと告げよう。俺達が、味方だと告げよう。
 これからは一人じゃないと。彼女が信じてくれるかは分からないが)

 サライの伝えたいことは固まった。
 あとは、どうすれば彼女が聞き入れてくれるのか。
 衣更着も必死に説得しようとするが、やはり聞き入れてはもらえない。

「…汝、救いを望むか」
 低い、響くような声。
 これが、あの龍の声だというのか。
 これまでじっと見定めていた白き龍は、ゆっくりと口を開いた。
 幾つもある赤い宝石のような瞳から注がれる視線は、外れることなくしっかりと二人を捉える。

「生、老、病、死。全ての辛さ、永劫救わんとするこの力。
 汝、何故否定するのだ」
 声は聞こえていた。
 ここまでくる間の、皆の心の声。白き龍は疑問に思う。
 生きる上で必然とも言える辛さから解放し、永劫に生かすことを何故否定するのか。
 白き龍は疑問に思う。

「おいらは望まないっす!感情は、その辛さがあってこそ生まれるモノっす!
 怒って、泣いて、笑って、それができないなら、死んでるのと同じっす!」
 問への答え。
 白き龍が掲げる、『永劫の生』への答え。

「俺も同意するぜ。そんなんで生きてても楽しくないね」
 きっと鋭い目で睨むサライ。

「憐れなり」
 決別した。
 白き龍はその身をよじり、バネのように縮こませると反動を使い二人へ突進する。

「降魔化身法っす!」
 ぐっと力を込めその身を強化する衣更着。
 しかし、【降魔化身法】によって受けた代償でその身は蝕まれていく。
 衣更着は強化されたその脚力で、素早く白き龍を翻弄していく。
 ただ飛び回るだけなら気にしなくていい。
 が、忍者手裏剣を使った攻撃やだまし討ちを織り込んでくる為、無視するわけにはいかないでいた。
 サライへの注意が甘くなる。そのタイミングをサライは見逃さない。

「それで、いいのかよ!」
 ぐっと間合いを詰め、その白い鱗に刃を突き立てる。
 流石はサライの模倣義体というべきか、3人の連携はばっちりはまっていた。
 三本の刃からジワリと、赤い血が流れだす。
 白き龍は、長い尻尾でサライを弾き飛ばした。
 流石に大きなダメージを入れるとまではいかなかったが、衣更着への注意は逸らせた。

「ぐっ…!」
 屋上への入り口の壁に打たれ、壁にはひびが入る。
 ぽろぽろとかけらがサライへと振り落ちた。
 白き龍は、何度か自己強化を試みるが、まだ人間を口にしてはいない。
 その為か、うまくいかないでいた。
 その様子を察した衣更着はサライへと気がいっている今をチャンスと捉え、ぐっと距離を詰める。

「琴美さんは、優しい人っす!だから、琴美さんには救われてほしいんす!」
 全力のだまし討ちを決める。
 先程反応のあった“琴美”の名前を、あえて出しながら。

 その一撃でぐらりと揺らぐ白き龍。
 頭に受けたのか、脳に振動が伝わった為か動きが止まる。

「そっちの道に進んだら、二度と復讐の道は歩めねぇぞ」
 サライは立ち上がり、語り掛ける。

「あんたをそんな風にした連中なら、俺らが成敗しに行ってやる。
 あんたが必要とするなら、一緒に行ってやるからよ」
 先程の攻撃で動きの止まった白き龍。
 サライと衣更着は並んで最後の思いをぶつける。

「琴美さん!さっきは痛くしてごめんなさいっす。でもね!聞いて!琴美さんが一人なら、おいらがお友達になるっすよー!」
 大きな声でまた最初のように手を振りアピールしている。

「ここにいる俺達も、これからくる俺達の仲間も、絶対あんたの味方になるからよ。戻ってこい!
 今がだめでも、未来はきっと明るい。俺が断言してやる!」
 サライも大きな声を張り上げる。
 伝えようと決めた言葉を。

「これ、おいらのあやかしメダルっす!お友達の証っす!
 元の姿に戻ったら、これあげるっす!だから、戻るっすよ!」
 狸のイラストの描かれた可愛らしいメダルを、ぎゅっと握りしめる。
 その姿からは、願う気持ちが伝わってくる。
 白き龍は、首を振り、ゆらゆらとした状態から覚醒する。
 じっと二人の顔を見る瞳は、初めと変わらず刺すように鋭い。
 二人の声は届いたのだろうか。否、届いているのだろう。
 その視線は心なしか、衣更着の手の中のメダルを見ているようにも見えたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
戻れない故の嘆きを、後悔を、私は知ってる。
哀しみしか残らなかった、その末路も。

■戦闘
…その救いは、正しいの?
【残像】で回避して【カウンター】の抜刀術で反撃、を軸に
葛藤を誘うように問いながら戦う。
焦れて隙が出来たら【仙狐式抜刀術・牡丹】で攻撃。

■説得
……あなたの話を聞かせて。全部吐き出そ。
辛い記憶を【慰め】るように、弱った髏淵を抱きしめる。
少しの抵抗は【激痛耐性】でやり過ごす。

自分の間違いに、改めて自分で気付いて欲しい。
「異形になったら……辛い過去は、癒されるの?」
心に響く事を【祈り】ながら、幼子をあやすように囁く。
「戻ろ、琴美さん。”人間同士”で居る内は、やり直せるよ」

※アドリブ・連携歓迎です


中村・裕美
いじめの内容は分かったけど、きっかけは不明
彼女のが望んだのは相手の復讐でなく自己の救済?自分にも原因があると思って苦しんでいるのかしら?

喋るのは苦手だけど頑張る
「……貴方を苛めた屑達に思い煩わされる必要なんてないでしょう?……いっそ消してあげましょうか?」
などとあえて苛めた相手をディスってみて相手の反応を見る

「……私は母親がいなかった。……父の負担にもなっていて……捨てられた、世界から疎まれた子なんだろうって思ってた。……そんな私でも、まだここにいる。……だから貴方も……ここにいていいのよ」
白龍には黒竜で対抗。UC無効化を耐久力で耐え、龍部分をブレスで電子化させて本体を露出させられればいいな


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

よう、琴美ちゃん。
ちょいと「話しに」来たよ。
なに、その龍さんにも聞いてもらいたい事さ。
だから、身構えないどくれ。
そうしてアタシ自身の思念を……魂の分け身と言えるものを、
髏淵にまるで「食わせる」様に放つ。
もちろん、知覚し、探査し、干渉するためのね。

その間はとにかく、『コミュ力』も盛った話し合いさ。
琴美ちゃんがどう思ってたか、
何をしたかったか。
そして……やりたい「救い」ってのは本当にこの形なのか。

そう、このやり取りは髏淵にも……
取り込まれた魂たちにも呼び掛ける。
そして『優しさ』をもって『手をつなぐ』。
今ならまだ大丈夫だと。
アタシも琴美ちゃんの味方になると『鼓舞』するよ。




 勢いよく扉が開く。
 飛び入ってきたのは、クロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)、中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の三人だ。
 白き龍は、じっと入ってきた三人へと視線を向ける。
 すでに戦闘が始まっている為か、少し傷ついている白き龍の姿。
 自身も襲われかねないと、三人は戦闘態勢に入る。

「汝らは、救いを願うか。求むるか」
 三人の様子を伺い、低く唸る白き龍。
 先の二人の時のように、やはり“救い”を求めるか否かを問うようだ。
 白き龍の問いに、一瞬驚いたが、3人は戦闘態勢を崩さない。
 それが答えなのだろう。

「残念ながら」
 先に声に出したのは裕美。
 しっかりと白き龍の目を見据えて答える。

「あぁ、アタシにもその救いは必要ないね」
 続いて答えるは多喜。
 彼女の答えもノーだ。

「私も。……その救いなら、間に合ってる」
 ぐっと刀を握る。
 クロムはその姿勢から答えを伝えている。

「グゥオオオオオオ!」
 三人の答えを聞き、白き龍は一声上げる。
 三人を敵と見なした合図。
 白き龍は三人目掛けて突進してくる。
 三人はそれぞれ3方向へと避ける。
 そして、白き龍を囲む形となった。
 白き龍は勢いに任せて蜷局を巻き、体勢を整える。

 先に動いたのはクロム。
 クロムは【残像】を用いて白き龍を撹乱する。
 絶えず、白き龍に声をかけながら。

「……その救いは、正しいの?」
 白き龍はクロムの動きを追い、尻尾を打ち付ける。
 それは残像を捉え、残像はその都度打ち消された。
 しかしその分現れるのだ。
 白き龍への声かけと共に。

「白い龍には、黒い龍で対抗…なんて」
 クロムが白き龍を撹乱している間に裕美は準備をする。
 大きな一撃を放つために。
 【魔竜転身(コード・ドラグナー)】を使用し、裕美はその身を黒き龍へと変えた。
 そして口内に黒い力の渦を溜め始める。
 その姿に気づいたクロムは溜まり切るのと同時に白き龍から距離を取った。

 溜まった瞬間、白き龍も気づき咄嗟に白いブレスを裕美へと放つ。
 今放つ瞬間であった裕美は、避けることができず直撃を許す。
 多喜とクロムは巻き込まれないよう距離を取り避けた。

 白いブレスは留まることを知らず、真っ直ぐ裕美を捉え続ける。
 が、次の瞬間白いブレスを中から一筋の黒い光が貫く。
 そして白いブレスをかき消し、今度は黒い光が白き龍へと刺さる。
 当たったモノを電子データ化する裕美のブレス。
 裕美は白き龍の攻撃を耐え、打ち消すだけの力を振り絞ったのだ。
 白き龍はビリッと電気を帯び、ぽろぽろと電子データ化していく。
 が、電子データ化した場所はすぐに元に戻ってしまう。
 完全に電子データ化とはいかなかったが、得られたものはあった。
 電子データ化された部分から、中にいる少女の姿を確認したのだ。
 中に姿があるということは、完全に力に呑まれているわけではない。
 なら、戻せる可能性は十分ある。

 力を出し切り、姿が戻ってしまった裕美。
 その場にへたり込みながらも、白き龍へと声をかける。

「私は…母親がいなかった。……父の負担にもなっていて…捨てられた。
 きっと、世界から疎まれた子なんだろうって…思ってた。
 ……そんな私でも、まだここにいる。ここにいるのよ。
 だから貴方も……ここにいていいのよ」
 話すことが得意ではない裕美。
 それでも一生懸命に話す。自分の思う事。伝えたいこと。

「……貴方を虐めた屑達に、思い煩わされる必要なんて、ないでしょう?
 ………いっそ消してあげましょうか?」
 すうっと一息ついて、味方であると伝える。
 同時に、あえていじめた相手を悪く言ってみる。
 彼女が望んだことが、復讐ではなく自己の救済であるのなら、自分に原因があると思って苦しんでいるのかもしれない。
 彼女に復讐の意思があるのならと、反応を見たかったのだ。
 白き龍の姿は完全に戻っている。
 故に琴美の様子は分からない。白き龍の力が十分に削げていないからか、様子の変化を読み取ることは難しかった。

 クロムは裕美に駆け寄り、その身を支える。
 その様子を見た多喜は、次は自分だと言わんばかりに掌を拳で打つ。
 そして白き龍の目の前に立ちはだかる。

「よう、琴美ちゃん」
 多喜は琴美を呼ぶ。
 白き龍は先程とは違い、落ち着いて様子で耳を傾けているようにも見える。
 続く戦いで、ある程度の力は削げているようだ。

「ちょいと“話しに”きたよ。
 その龍さんにも聞いて貰いたい話さ。
 だから、身構えないどくれ」
 多喜はぐっと拳を握ると、ふわりと腕をなんとも言えない靄を纏わせる。
 それは【過去に抗う腕(カウンターパスト)】。
 多喜の腕に纏っていたのは深層心理や、過去の記憶や経験を探査し、精神や思考回路へと干渉する思念波をだった。

 多喜はそれを、白き龍へ食わせるように放った。
 白き龍はそれを食らおうとはしない。嫌がり、駄々をこねる子供のように避ける。
 そんな白き龍を叱るように、刃が飛んできた。
 クロムだ。クロムは多喜へと意識が向いている間に合間を詰め、【仙狐式抜刀術・牡丹(センコシキバットウジュツ・ボタン)】をたたき込んだ。
 多喜は裕美を気にし目を向けた。裕美は少し休んでいるが、大丈夫そうだ。
 良かった、と安心する。

 攻撃を受けた白き龍は、クロムへと意識が向く。
 意識がそれたことで、チャンスと思い、再び思念波を放つ。
 今度はしっかり口に入る。
 そして多喜自身の思念をも送り込む。
 文字通り、魂の話し合いができるように。

(聞かせてよ。琴美ちゃん。
 琴美ちゃんのやりたいことってなんだったんだ?
 琴美ちゃんは、どう思っていたんだ?
 琴美ちゃん…本当に、このままでいるつもりなのか?)

 思念波を食らい、動かなくなった白き龍。
 クロムも話しかける為、その身へと抱き着いた。
 小さな身体のクロムでは、白き龍を抱きしめることはできなかった。
 しかし、そのぬくもりは白き龍を、琴美を包み込む。

「戻れない故の嘆きを。後悔を、私は知ってる。
 ……哀しみしか、残らなかった。…その末路も」
 クロムは小さく、幼子をあやすように囁く。

(……ぐ、あ)
(…!!)

 声が聞こえる。呻くような声。

(…ぼ…ぼく、は。
 悲し、た。友達だと、思…たのに。)

 聞き取りにくい声。
 もごもごとした声ではあるが、断片的にでも聞こえてくる声はおそらく琴美のものなのだろう。
 やっと、彼女の声を聴くことができた。

(ぼく…いても、誰も……。
 こんな、ぼ…が、消えちゃ…けで、皆…笑顔……なら)
 苦しそうに、もがくような声。
 聞こえているのは、多喜だけ。
 多喜は通訳するように、彼女の声を皆に届けた。

 ぎゅっと、クロムの抱きつく力は強くなる。
 琴美の言葉を聞いたからだろうか。

「いいよ……。いいんだよ。
 貴方の話を、聞かせて。大丈夫。
 本当の気持ちを、聞かせて。」
 貴方がその姿になった、その理由を。
 クロムは変わらず、優しく、優しく声をかける。
 多喜はしっかり耳を傾ける。琴美の紡ぐ言葉を、聞き逃さないように。

(………。
 い…たい。ほんとうは)

「生きたい」
 多喜は小さく、言葉を紡いだ。
 琴美から聞いた、紛れもない彼女の本当の気持ち。
 多喜の言葉に、皆ホッとした。

「大丈夫。今ならまだ、遅くない!
 アタシも、琴美ちゃんの味方になるよ!」
 多喜は大きな声で叫び、鼓舞する。

「戻ろ。琴美さん。“人間同士”でいる内は、やり直せるよ」
 クロムも優しく諭す。
 裕美も、優しい眼差しで眺める。

 しかし、その瞬間、ビタンビタンと尻尾を打ち付け始める。
 次第にその動きは大きくなり、身をよじり全てを跳ね返す。
 グルルルル…と唸っている。
 先程の様子とは違い、暴れまわっている。
 まるで、全てを消し去る様に。
 琴美の気持ちが揺らいだ時、おそらく、琴美へと声を届ける猟兵達の存在を危険だと判断したのだろう。
 琴美の気持ちとは別に、力が暴走しているのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水澤・怜
俺は仕事柄多くの死と向き合ってきた
死者は生者の記憶の中でしか生きられない
だが時間と共に死者の記憶は確実に消えていく
完全に忘れ去られる…真の孤独とはそういうことだ

自分は死ぬのに自分を蔑ろにした者はのうのうと生き残る
君はそれが悔しかった…違うか?
未来に手を伸ばすきっかけが負の感情でも今は構わない
誤った力で自分も他人も不幸にするよりはな

後はその姿を元に戻してからだ

お前の救済とやらが生むのは人々の意欲や危機感を削ぐ世界だ
確実に人々の進歩は止まる
それが救済だと?笑わせるな

相手の敵意を確認次第UC発動

【投擲・スナイパー・戦闘知識】で敵の急所を避けつつ【麻痺攻撃】
あえて急所は外した
動かぬ身でよく考えることだ


波狼・拓哉
救いは過去から来るものですからねぇ…さっきのは救えない奴らしかいませんでしたし笑っちゃいましたけど…こっちは笑えませんね
というか1年もよく我慢で来たもんですよ

認められないってのは自分が居ていいのか、間違いじゃないかっての強く感じてしまうもんなんです
だから君の「消えたい」はそこまですれば誰かは認識してくれるかもしれないという願いもあるんでしょう
だけど今は自分達がいます
色々と君の言葉で君の事を教えて頂けると有難いな
…まあ、その状態でも他人を救う…認識しようとしてるというの君の良い人柄だと思いますよ

さてミミック、化け撃つか
自分も衝撃波込めた弾で一緒に
琴美ちゃんには当てないようにね

アドリブ絡み歓迎)


鈴木・志乃
生きるのは苦しい。老いるのも苦しい。
病気は苦しい。死ぬのも苦しい。


……だからこそ、幸せが何倍にも強く感じられるんだ。
まぁ、偽善者の言うことだけどね。

もし苦しみを感じなかったら、一生懸命に生きる喜びは知らなかったろう。人が死ぬことを知らなければ、目の前の出会いや縁を大事にしただろうか?
全ての人が永遠に生きる世界で、人は人を大切にするのかな?
……罪人が平気でのさばるよ、きっと。

人一倍、人の苦しみが分かる貴方にこそ、私は幸せを噛み締めて生きて欲しい。その為ならなりふり構うものか。
高速詠唱オーラ防御展開、UC発動
たとえUCが無効化されても抱きしめて、彼女を止めるよ。
貴方一人救えないで何が猟兵だ。




「結構派手にやってますねぇ」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は聞こえていた音と、目に入った現状に声を漏らす。
 続いて屋上に辿り着いた水澤・怜(春宵花影・f27330)、鈴木・志乃(ブラック・f12101)も目を見開く。
 そこには傷ついた仲間と、荒れ狂う龍がいたのだから。

 新たな3つの顔に、白き龍は有無も言わさず突撃してくる。
 もはや対話もできないのだろう。
 3人はしっかりそれを避け、戦闘態勢に入り迎え撃つ。
 じっと白き龍の瞳を見て動きを伺う。
 しかし、その瞳は何を捉えているのかはわからなかった。
 虚空を見ているような、自分を見ているような、自分の中を見据えているような、何も見ていないような。
 まるで動きがわからない。
 それは、力の暴走そのものだった。
 目的がないのだ。ただ、今はこの目の前の疎ましい存在達を消し去る為だけに力を振るう。
 いや、正確には少し違う。
 もう一つ、別の力が働き、その中で渦巻いているような感覚。
 だからこそ、その瞳はしっかり猟兵へと捉えてはいなかったのだろう。

「やるせませんよねぇ」
 荒れ狂うその姿をみて、拓哉は思う。
 きっと今、苦しんでいる。
 救いとは過去からくるものだ。ここに来るまでの道にいたソレは、救えたものではないが。
 しかし、彼女のものは違うだろう。
 ソレに対しては笑ってしまった彼も、これに関しては笑えない。
 1年間も虐めや孤独に耐えたのは、本当にすごい人だと拓哉は感心する。
 だからこそ、今度は救いたいし、今の姿がやるせない気持ちになってしまうのだ。

「まったくだ。…が、今は話を聞いて貰えそうにないな」
「ともあれまずは彼女を止めないと」
 拓哉の呟きに続いて、二人からも声が零れる。

 初めに動いたのは怜だ。

「君は!」
 怜は大きな声で叫んだ。

「君は、自分が死ぬのに自分を蔑ろにした者はのうのうと生き残る。
 それが悔しかった。…違うか?」
 大声で問う様に話す。
 彼女に届くように。そして、注意を自分に向けるように。
 見境なく暴れられるより、自分に向かってきてくれる方が幾分扱いやすいのだ。
 白き龍は怜へと注意を向け、攻撃してくる。
 その身を食らうべく、口を大きく開けて。
 思考が絡んでいない動き。故にそれは単調で避けやすい。
 怜はローリングで避けると、懐から強力な麻痺薬が塗られたメスを取り出す。
 【八千矛(ヤチホコ)】。
 それを急所を外すように放つ。
 メスは空気を割き、まっすぐ線を引くように飛んでいく。

 メスはしっかり急所を外し、白き龍を捉えた。
 強力な麻痺薬はすぐに全身へ回り、身体の動きを奪った。
 無理に動こうとする為か、痙攣するかのように揺らめいていた。
 動けなくなったところで、次に動いたのは志乃だ。

 志乃は動けなくなった白き龍にゆっくり近づく。
 高速詠唱をしながら。【Only One(オンリーワン)】。
 志乃はオーラ防御を展開し、全てを受け止める準備をする。
 そしてそっと白き龍を抱きしめた。抱き着いているという表現の方が正しいかもしれない。
 白き龍にとっては二度目の抱擁。
 ガタガタと震え、小さく身悶えする白き龍を抑えるようにしっかり抱きしめる志乃。
 そして、小さく小さく呟いた。

「貴方一人救えなくて、何が猟兵だ」

 その言葉と同時に、ぐわっと大きな声で唸る。
 まるで、黙れとでもいう様に。
 精神と肉体を刻むような咆哮。それを一身に受ける志乃。
 防御オーラを展開していても、近距離にいるからかかなり痛いだろう。
 頭が割れるように響くその声に耐え、ずっと、じっと抱きしめ続けた。

「生きるのは、苦しい。老いるのも、苦しい。
 病気は、苦しい。死ぬのも、苦しい。

 …でもさ、だからこそ幸せが何倍にも強く感じられるんだ」
 志乃はゆっくり話始める。
 偽善者の言う事だと、自分で嗤いながら。
 それでも真剣に、落ち着いて、伝えたいことを話す。
 この苦しみを知っているから、一生懸命に生きる喜びを知れたのだと。
 人の死を知っているからこそ、目の前の出会いを、縁を大事にできるのだろうと。
 もしそれを知らない世界なら、きっと罪人がのさばる世界になっているだろう。
 そして、人一倍、人の心に寄り添えるであろう琴美だからこそ、幸せを噛み締めて生きて欲しいのだと。

 全ての言葉を白き龍は聞いていた。
 否、きっと琴美が聞いていたのだ。

 力なく、それでもまだ抵抗をする白き龍。
 痺れも取れてきているのか、先程より動きが大きい。
 動くなら今が最後のチャンス。
 拓哉は動いた。

「化け撃てミミック。俺と一緒に」
 拓哉は宇宙戦艦に化けた箱型生命体を召喚する。
 【偽正・械滅光線(バトルシップ・ドーン)】。
 箱型生命体からは光が一点に集まっていく。
 そして戦艦の大砲から発射される光線と共に、拓哉が発射される。
 もちろん、急所には当たらないように。彼女に当てないように調整された光線。
 光線はしっかりと白き龍を捉え、拓哉を運んだ。
 拓哉は白き龍へと飛び込む。

「今は、自分達がいます」
 拓哉は伝える。

「自分が居ていいのか、間違いなんじゃないかってのを強く感じちゃうもんなんですよね。
 認められないって。
 そんな姿になっても、他人を救う…認識しようとしてるというのは、君の人柄なんだと思いますよ。
 もちろん、いい意味で」
 彼女の“消えたい”は、認識してほしいという願いの現れなのかもしれない。
 そこまですれば、もしかすると誰か見てくれるかもしれない。
 そう拓哉は感じたのだ。
 だから、今は自分達がいると。自分たちが見ていると伝えたかったのだ。

「あとは、色々と君の言葉で、君の事を教えて頂けると有難いな」
 もちろん、戻ってから。
 そう付け加えて。

 光線を受けた白き龍のその身は、光に包まれる。
 目を開けていられない程の強い光。
 光が収束すると、底には一人の少女が横たわっていた。
 猟兵達は駆け寄り、少女を抱き上げる。
 少女からは、琴美からはしっかり吐息を感じられる。生きている。

「ん……」
 しばらくして、琴美は起きる。
 良かった。皆胸を撫でおろす。

 それから、琴美から話を聞いた。
 悠里のことは、心から友達だと思っていたこと。
 いじめられた原因は分からないし、見当もつかないこと。
 学校で顔見知りもいないけれど、周りの子は皆中学からのグループができてたせいでなじめなかったこと。
 母親のことが大好きなことも。

「最初は、僕だって負けないように頑張ったよ…。
 やられっぱなしは嫌だもん」
 琴美は案外気が強いのかもしれない。
 きっと、ちゃんと友達や支えてくれる存在があれば彼女は戦っていけたのだろう。

「迷惑かけてごめんなさい。でも、お願いがあります」
 琴美はやっと気持ちが落ち着いたのか、深々と頭を下げながら頼み込む。

「僕、復讐とかは考えてない。のうのうと生きてるのが許せないなんて思った事ない。
 ただ本当に、僕が消えちゃえばみんな笑えるんじゃないかって思ってた。
 僕が何回聞いても、悠里は答えてくれない。
 だからね。もし、悠里に会うのなら。お願い。

 僕の代わりに、聞いてほしいんだ。
 何がいけなかったのか。原因が何なのか。
 僕が悪いのなら謝るし、関わるなっていうなら関わらない。
 ただ、本心が聞きたいんだ」
 琴美は、今にも泣きそうな、それでいて決意のこもった力強い瞳をしていた。
 きっと、今でも悠里のことを友達に思っている。
 そこまでされても友達だと思えてしまうのは、お人よしが過ぎるのだろう。

「そうだ。それから…。
 ありがとう。認めてくれて」
 にっこりとした心の底からの琴美の笑顔は、とても眩しかった。
 
 これから猟兵達は会いに行く。
 琴美の願いを乗せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鈴木・志乃
持ち前の第六感で相手の反応を観察し、悠里の性格を途中で見切り話の方向性を決定づける。情報が無さ過ぎて何が苛めの原因なのかも分からないしね。最初から悪だと決めつける訳には行かない。

劣等感や嫉妬があったとか、好きな人が一緒だったとか、単純におふざけだと思ってたとか。まぁ、それでも死人が出かけたんだから許されることではないけど。

かわいい理由だったら二人の仲を取り持つように動こう。しっかり反省して、今後二度とこういうことの無いように。そうじゃ無かったら……UC発動。琴美が龍として作ろうとしていた幸福な世界でも見せようか。その根底にある圧倒的な虚無と絶望、自己犠牲精神も。




「やぁ、貴方達って、この高校の子?」
 鈴木・志乃(ブラック・f12101)は三人の女の子に声をかける。
 琴美と同じ学校の女子生徒。
 もちろん、この三人がいじめの主犯格メンバーであることは志乃知っている。

「誰ですかぁ」
「私達忙しいんですけどぉ」
 少女達は不信感から、嫌そうな顔で答えた。

「あぁ、急にごめんね。実はさ、琴美ちゃんって子のお友達を探しているんだ」
 “琴美”の名前を出し、反応を見る。
 志乃は、彼女達が絶対悪だとは考えないようにしていた。
 虐めた理由がわからない以上、決めつけるのは早計だろう。
 まずは、少女達の反応を見てからでも遅くはない。

「琴美…?が、どうしたんですか?」
 真ん中の少女が食いついてくる。どことなく違和感のある、心配した表情。
 彼女が悠里だ。
 髪は亜麻色のショート。ゆるんと内側にカールされた髪は愛らしく、誰が見ても可愛い女の子だろう。

「いやね、彼女がさ。自殺しようとしたんだよ。
 止めたけれどね。貴方達、何か知らないかと思って。お友達なら、話聞いてないかな?」
 志乃は話を続ける。
 “自殺”という単語のみを使い、白き龍のことは伏せた。

「…そう、ですか。あのぉ、あの子、虐められていたみたいでぇ」
 悠里はピクリとして、すぐ心配する表情に戻る。
 そして、虐められていたことを話した。
 一通り話を聞く。
 彼女が話したことは、別の子に虐められていたこと。
 自分達は友達として心配し、守っていたことを話す。
 もちろん、志乃にはわかっている。これが嘘だということが。
 琴美から聞いていたこともあるが、何よりあからさまな演技なのだ。
 普通の人ならコロッと騙されそうなまでに完璧な演技。演劇部でも通用するんじゃないだろうか。

「…そういうさ。下手な演技はいいから」
「……は?」
 志乃はしびれを切らし話を打ち切った。
 これ以上聞いていても意味はないだろうと考えたのだ。
 その言葉に、悠里は機嫌を悪くする。
 両脇の女の子二人は、そんな様子の悠里にびくついているようにも見えた。

「知ってるんだよ。虐めたの、貴方達でしょ」
 志乃はずばりと言い放つ。

「別にどうしようってわけじゃない。
 琴美ちゃんは、貴方達を責めていないよ。
 その代わり、理由を聞かせてほしいってさ。いい子だよね。私なら許さないけど。
 で?どうして虐めたりしたの?」
 志乃はわなわなしている悠里に問いかける。
 悠里は先程までの様子とはがらりと変わり、今度はなよなよと泣き崩れている。

「ご、ごめんなさぃ…私、私っ…やりたくて、やったわけじゃぁ…」
 ぐす、ぐす、と鼻をすすり泣く悠里。
 両脇の女の子は、演技に合わせて背中をさすっている。
 これも嘘くさい。どうも悪びれた様子がないのは一目瞭然だった。

「あのさぁ。人の命がかかってるの、わかる?
 奪おうとしたの、理解できてる?ほかでもない、友達のだよ」
 半ば怒りの色が見える声で一言言い放つ志乃。
 何を言っても仕方ないと分かったのか、泣き真似をやめ、ケラケラと笑い始める悠里。
 これが本性なのだろう。

「あはは、友達ぃ?友達とか思ったことないし」
 あー可笑しい、なんて笑っている。
 死にかけた、自殺未遂をしたこともなんとも思っていない様子だ。
 そんな様子の悠里に、志乃は思う。
 これは救えたもんじゃないなと。
 一度痛い目を見なければわからないだろう。

「貴方達は?」
 両脇の二人に問う。
 二人は何も答えなかった。否、答えられなかったが正しいのかもしれない。
 二人は悠里に怯えて意見が言えない。意思がないのかもしれない。ただの取り巻きだ。
 それでも虐めたことには違いがない。三人には一度見てもらおう。
 あの龍がもたらしたであろう世界のことを。

「それが答えか。ほんと…」
 救えない奴ら。
 志乃はキラキラとした風を吹かせる。それはとても美しく、見る者を魅了した。
 それは悠里達も例外ではない。彼女達はその風に呑まれた。
 【流星群(メテオストリーム)】。
 その幻想は、美しく脆く、醜いものだった。

「…あ」
 悠里達は学校前にいた。志乃に話しかけられた場所。
 目の前には志乃はいない。静かで、いつもと変わらない風景。
 …静か?
 悠里は不思議に思う。静かすぎるのだ。
 ここはそこまで田舎ではない。その為何も聞こえないなんてことはあり得ないのだ。
 何かがおかしいと思ったその時。
 奥から大きな大きな白い白い、美しい龍が現れた。幾つもの赤い宝石のような瞳が悠里達を捉える。

「あ…あぁ…あ…やめ」
 有無も言わさず突進してくる白き龍。

「ひぎ、いぎぃいいいいあぁ」
 その身は食い千切られ噛み千切られる。
 赤い血が激痛と共に滴り落ちる。
 痛みと自身の叫び声に、思考が支配され考えられなくなる。
 そして、その瞬間に命絶えたのだった。

 なぜだろう。
 もう、何日目なのだろう。
 そこは白い白い街並み。色のついていない世界。
 おそらく、ここはあの龍の中なのだろう。
 あの中にはこの世界が生成されていて、ここに閉じ込められてしまうのだろう。
 痛みはもう感じない。苦しみはもう感じない。
 とある場所では、降ろしてくれと叫んでいる。自殺を考えたものの死ねなかったのだろう。
 ここには、生しかない。妨げるものは何もない。何も。

 もう何か月ここにいるだろう。
 思考もうまく働かない。
 意思なんてものはとっくに消えてしまった。
 あぁ、これは生きていると言えるのだろうか。

「お帰り」
 聞こえた声にハッとした。
 目の前には志乃が立っている。
 耳には様々な音が入ってくる。拳を握れば掌は痛い。
 戻ってこれた。悠里はぽろりと涙をこぼす。
 あれ?あれ?と拭うがそのたびに流れる涙は多くなる。
 相当恐ろしい体験だったのだろう。

「それが、貴方のしたことで起こりえた世界だよ。
 しっかり考えることだね。二度と同じ体験をしなくて済むように」
 志乃は言い放つ。
 願わくば、二度とこんな事が起こらないように。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
[WIZ]
同じ目とは、ちょっと違うけど。
同じくらいの絶望を「体験」させる。
主犯格の3人の少女の下校中に先回りし、
「妖笛・奴延鳥」を奏で、白昼夢に引き込む【結界術、催眠術】。

夢の内容は、琴美さんが本当に亡くなってしまった後。
自分達の仕打ちが世間に知られた世界。
もう戻れない哀しみ。
取り返しのつかない後悔。
突き刺さる周囲の目。

「虐めた理由」なんて寝言を言ったら
「……それが、命を吹き消すに値する理由?」
強い否定を込めて問いを投げる。
刀傷は目に見える。言葉は言ノ刃、その傷は目に見えない。
例えそれが、心臓に達する致命傷だったとしても。

悪夢から覚めたのなら、行きなさい。
今度はあなた達が、琴美さんを助ける番。




 志乃と別れた三人。
 いつもならこれから遊び回る時間なのだが、先程の体験からかあまりそんな気分にはなれない。
 正直、未だ反省の色は見えない。
 否、後ろの二人は痛いほど身に染みているだろう。
 悠里とは比べて、げっそりとしており顔色が悪く、今にも泣きだし倒れ込んでしまいそうな状態だったから。
 そんな彼女達を待っていたのはクロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)。
 姿は見せず、ゆっくり優しく『妖笛・奴延鳥』を奏でる。
 そして白昼夢へと引きずり込んだのだった。
 クロムは白昼夢の中の三人に願う。
 できるだけ残忍な夢を見れますように、と。

「……どんな理由であれ、それが、一つの命を吹き消すに値するものではない、と…思う。
 ……命を奪う事態になった。そのことを、自覚しなさい」
 クロムは呟いた。

 白昼夢に呑まれた三人。
 先程の夢とは違い、まるでいつもの風景だった。
 故に気づいていない。三人が白昼夢に紛れ込んだことに。
 三人はそのまま家へと帰っていった。
 次の日。

「おはよう」
 いつもの朝だ。
 コーヒーと、朝ご飯のいい香り。大きな窓から入る太陽の光は眩しく温かい。
 今日はフレンチトースト。母の十八番料理の一つ。
 父はコーヒーを片手に新聞を広げている。
 しかしその顔は次第に曇っていく。

「悠里。これは、お前の学校か?」
 新聞を見せてくる。
 そこには『悲劇!いじめによる苦痛により自殺か!』との見出し。
 まるで品の無い見出しタイトル。なんでも取り上げるメディアとはこういうものなのか。
 記事を読んでいく。
 丸い写真には顔写真が載っている。琴美のものだった。
 虐めた人の名前、虐めの内容、全てそこに書かれている。

「これは本当なのか、悠里」
 父は低い声で言った。

「違う、違う、こんなの、知らない、知らないよ、パパ。信じてよ…」
 お得意の演技か、本心か。
 きょどり震えながら漏らす声は、今にも泣きそうなものだった。
 悠里は急いで家を出る。
 そして駆け足で学校へ向かった。
 教室の扉を勢いよく開く。いつもより早い登校時間。
 誰もいないと思った。このクラスはいつも皆遅刻ギリギリなのだ。
 しかし、その日に限っては違った。
 教室では、二人の少女がクラス全員に囲まれていたのだ。

「なに…これ…」
 思わず声を漏らす。
 悠里の姿に気づいたクラスの人達は、悠里の顔を見るや否やその腕を引っ張り中心へと放り投げる。
 三人を囲い、口々に聞こえてくるクラスの声。

「お前これほんとかよ」
「こんな事してたんだな、ドン引きだわ」
「流石にやばいよ…これ…」
 口々に三人を責める様な声。
 それに対して悠里は。

「知らない!あいつは仕方ないじゃんか!あいつは金魚の糞でよかったんだ。私の引き立て役でよかったんだよ!
 それを出しゃばって、私の彼氏に色目使って、皆だって見てみぬふりしてただろ!?同罪じゃない!」
 悠里は喚く。自分は悪くないと。
 そもそも友達でもなかったことを。友達だなんて一度も思った事はない事を。
 そして、自分の彼氏を誑かしたと。だから制裁をしたのだと。
 もともと嫉妬深かった悠里は、勘違いをしただけであった。
 悠里の彼氏は、ただ彼女の友達をほめただけ。彼女の友達を悪く言う人はなかなかいないだろう。
 それを勘違いしたのだ。
 きっとこれが本心だ。
 友達だとは思っていなかった。ただ自分を引き立たせるだけの存在であるはずだった。
 ただ一人でいた琴美を仲間に入れてあげるいい子を演じるために近づいただけの存在だった。
 それがこうなるなんて誰が想像したのだろう。

 そのあと、教師の呼ばれ話を聞かれた。
 一部始終を聞かれた。
 琴美の母もそこにいた。
 琴美の母は、お前のせいで娘を失ったのだと喚いていた。
 家に帰った。
 父には怒鳴られ、幻滅され、母は泣いていた。
 テレビをつけた。ニュースになっている。
 だから、登下校の時すれ違う街の人の視線が自分を刺していたのだ。

 それからは地獄だった。
 毎日毎日、ニュースからは虐めの話。新聞には一面を飾り、街の人から睨まれる。
 父は悠里を避けるようになり、母のせいだと怒鳴り、母はずっと泣いている。
 クラスでは孤立し、先生からは目を付けられ監視される。
 一つ変わったことは、三人だった彼女達は、悠里一人になったことだった。
 一人になったのだ。両脇にいた二人の取り巻きは、強いられていたと分かりクラスに受け入れられた。
 可哀想に、辛かったねと。
 完全に一人になってしまった。この結末は、それぞれ変えられていた。
 自身が一人になる様に。故に、三人は同じ苦痛を味わっているのだ。

「……っ」
 ハッとする。
 三人はいつもの道の真ん中に立っていた。
 目の前には先程まではいなかったクロムの姿。
 あぁ、またかと思った。一体何なんだと。

「…分かった?」
 クロムは問いかけた。

「…何が、ですか」
 警戒する悠里。

「……貴方のやったこと。貴方達の、やったこと。
 分かった?
 …どれだけ、ひどいことをしたのか」

 言葉は刃。言葉は時に鋭く刺しに来るのだ。
 そしてその傷は見えないものである。
 故に、気を付けていかなければならないのだ。
 それを悠里達に伝わったのか。それは今後の行動次第なのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

中村・裕美
「……救いようがないわね」
世の中がみんな悠里みたいな人間なら、世界は滅んだ方がいいと思うけど……それだけじゃないものね。この世界は

あとは、琴美の周りを何とかしたいところ。彼女の元々の性格なら、きっかけさえあれば他のクラスメイトとも仲良くなれるんじゃないかしら?
学校関係のSNSとかに琴美が飛び降り自殺をしたみたいな情報を流して、後で管理人を装って消す。いじめに思うところがあるなら、後でガセと分かっても思うところがあるんじゃないかしら?
きっかけ作りに、こっそりくすねた琴美の生徒手帳を「ここの学校の生徒の方ですよね?」と通学中のクラスメイトに届ける、みたいな会話のきっかけになりそうな工作をしとく




「……救いようがないわね」
 中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)は、悠里の様子を見てため息をついた。
 様々な幻想や白昼夢に魘されてなお、反省の色が見えない悠里。
 世界があんな人間だらけなら、滅んだ方がいいとさえ思ってしまった。
 世界を救う側の人間が。ただそれをしないのは、彼女は知っているからかもしれない。
 それだけが、この世界ではないことを。

 裕美はそっとSNSを開く。
 そして黙々と書き込んでいった。
 琴美が自殺をした、と。
 ニュースサイトを装い、うまく拡散していく。
 流石は電脳魔術師である。巧みにデータ等を操っていった。
 裕美は首謀者の三人以外にも、やらなければいけないことがあると考えたのだ。
 クラスの子が見て見ぬ振りをしていた事も原因である。
 言わば皆虐めの片棒を担いでいるのだ。
 故に、知らしめる必要がある。後悔をさせ、考える機会を与えようと考えたのだ。
 ニュースサイトを装ったのは、後に消した際に自作自演を疑われないようにだ。
 人間にはいるのだ。揚げ足を取って楽しむ輩が。
 人間にはいるのだ。こうだと決めつけ笑い広める輩が。
 そうなれば、再び虐めの対象とされても不思議ではない。
 故に、ニュースサイトや信憑性の高いソースの情報として取り上げ、琴美が発信元という可能性を消してしまおうと考えた。
 裕美は情報の効果を確認するために、琴美の学校へと向かった。

「だって…でも…」
「私のせいで…私達の…」
 学校では早速話が広まったいた。
 皆口々に口走っている。
 その中の一人に近づき、声をかける。
 もちろん、同じクラスの子だ。

「……すみません。ここの学校の生徒、ですよね」
 相も変わらず、人と話すということは苦手であるようだ。
 それでも怪しまれないように、なるべく、明るく見えるように頑張った。
 生徒達は、気構えながら答える。

「これ、生徒手帳。この近くで……その、拾ったんです。
 届けて、もらえたら…と思って」
 裕美は、一冊の生徒手帳を取り出し手渡した。
 それは琴美のもの。彼女が気を失っている間に落としたらしいそれを実は拾っておいたのだ。
 その場で返してもよかったのだが…。
 それをあえてしなかったのは、話すきっかけになるのではと考えたからだ。
 この子達から返してもらえれば、きっかけになる。
 琴美の性格ならきっと、友達はいくらでも作れるはずだから。

 クラスメイトは、皆顔をしかめていた。
 何せ自殺をしたとニュースになっている子の生徒手帳なのだから。
 深刻そうな表情で、口々に出てくる言葉には、ごめんなさいという単語もある。
 反省した、とまではいかずとも、やはり考え直すきっかけにはなったようだ。
 十分に効果はあった。
 いつまでもあのニュースを残しておくわけにはいかない。
 そっと全てのニュースを消しておいた。

「これで、少しぐらい考えること…できるわよね」
 ふう、と一息つく裕美。
 後日、琴美に中学時代の友達から連絡が入ったことは、また別のお話。

成功 🔵​🔵​🔴​

波狼・拓哉
…琴美ちゃん眩しすぎて基本狂気に浸かってるおにーさん溶けそう

まあ、戯言は置といて…どうしましょう
『お友達』の方に皆さん行きそうですし…母親の方向かってみますかね

化け透かしなと
透明になってリラックスされてる所にいきなりお邪魔させて貰いましょう
顔だけばれない様何か上手い事変装しとこう

コミュ力、言いくるめ、礼儀作法、演技で礼儀よく振る舞いつつ、恐怖を与えて本音を引き出しましょう
礼儀よく物騒な事言って、娘も巻き込もうかとか言ったらいけますかね

反省の色無しというか救いようがない感じなら仕方なし
いつも目はありますよ?って脅していい親演じさせますか
…それで見る目変わればいいんですけどね

(アドリブ絡み歓迎)




「なにあれお兄さん溶けそう…」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、琴美の純真さに浄化されていた。
 半分狂気で出来ているような、基本狂気に浸かっている彼にとって、彼女の純粋な心は眩しすぎたのかもしれない。
 そんな冗談を言いながら、琴美の家を見上げる。
 悠里達のことはもちろんの事、拓哉は母親に話を聞こうと思ったのだ。

「化け透かしな」
 息を吐くように呟く。
 召喚された箱型生命体は、その身で拓哉を包み透明にする。
 その姿でこっそりと家にお邪魔させて頂こうというのだ。

(お邪魔しますよっと)
 すっと風通しのために開けてある窓から忍び込む拓哉。
 家にはたくさんの賞状やメダル、トロフィー等が飾ってあった。
 中学時代の勲章だ。仕入れた情報通り、運動能力抜群の人気者だったんだろう。
 母親は…。
 いた。リビングだ。
 家事をしている最中なのか、窓の開きが少し大きくなったことに気づいていない。
 すっと後ろに立ち、声をかける。

「静かに」
 背中に硬い異物を押し付ける。
 母親の身体は飛び跳ね、突然の出来事からか驚きと恐怖で震えている。

「……誰ですか」
 母親は小さい声で、答える。
 拓哉はそれには答えず、母親の両手をシンクから離すように指示する。
 包丁でも取り出されたら困る。
 母親は大人しく指示を聞き入れ、両手をだらりと太ももへつける。

「さて、琴美さんのお母さんですね?」
「琴美?琴美!?あの子が何なんです!?どうする気ですか!?」
 母親は声を上げる。
 “琴美”の名前を聞き取り乱す母親。
 その様子は、娘に関心のない母親とはかけ離れているように思う。
 その姿に少し違和感を覚える拓哉。
 娘に関心のない母親、ではなかったか?

「大丈夫ですよ。まだ何もしていませんから。
 まぁそれも、これからの貴方の振る舞い次第、ですが」
 落ち着いた優しい声で母親の質問に答える。
 それは優しい分状況と相まって恐怖を駆り立てるものだった。

「何が、目的なんですか…?
 あの子に何かしたら、許しませんから」
 キッっと鋭い口調で言い放つ母親。
 やはり、聞いていた話とは違う様に思う。

「琴美さんが、そんなに大事ですか?」
 拓哉は聞いてみることにした。
 琴美に対してどう考えているのか。
 今までのやり取りを聞いた限りでは、娘に関心を持たない毒親には思えないのだ。

「あたりまえでしょう…?あの子は私の、自慢の娘です。
 よく気が利いて、元気な子で、私なんかよりしっかりしている自慢の娘です!」
 迷いなく言い放つ。

「その自慢の娘さんの願いを知っていますか?」
「は?」
 拓哉の質問に、理解ができないというような声を返す母親。
 振り向こうとする母親を、突き付けた硬い異物をぐっと押し付け静止する。

「彼女が、消えたいと願っていたことを知っていますか?」
「…なに?」
 え?と困惑する母親。
 消えたいとは何なのか。
 拓哉は話す。彼女が身を放り投げたことを。

 それを聞いて、母親は再び取り乱す。
 あの子に限ってそれはないと。あの子はそんな子ではないと。
 その言葉を聞いて、拓哉は分かった。
 母親は、娘を信用しすぎたのだ。
 しっかりしている自慢の娘。だからこそ、自分で出来てしまうから。
 故に、楽観視してしまったのだ。虐めという現実を。

「本当ですよ。全て」
 冷たく言い放つ拓哉。
 それを聞いて、思わず泣き崩れる母親。
 あの子は帰ってこない。大事な娘すら守れなかった不甲斐ない母親。
 そう自身を責め、涙が止まらない。
 側に凶器を持った人間が脅しているという状況をも厭わず、母親はただ泣いていた。

 拓哉は救いがないようなら、このまま脅し倒してしまおうと考えていた。
 そうすることで、いい親を演じさせようかと。
 もちろん、それが根本的な解決にはならないし、娘に対しての見る目も変わるかと聞かれたら怪しいところがある。
 だとしても、仕方のない事だろうと。
 しかし、その必要はないと判断した。
 目の前で、これほど泣き崩れている母親が、演技をしているようには見えなかったのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

水澤・怜
『僕が消えればみんな笑える』か…(表情曇らせ)

琴美…君の想い、手紙にしてはくれないか
伝言するのは簡単だ
だが…それが確実に君からのものだと信用されなければ意味がない


琴美からの手紙を手に医師を装い母親に接触

娘さんが自殺をはかられました
命に別状はありませんが精神的に深く傷ついておられます
彼女の想いを預かりました
読んであげて下さい

手紙を渡し慰めるよう軽く肩を叩くのがUC発動の合図
棘は掌のみ等威力は抑える

やり直す気があるなら勿論助力しよう
否なら…彼女の掌に罪の印が現れる

それが貴女の重ねた罪の重さだ
その手ではしばらく人に会う事も触れる事も叶わんだろうな

…孤独か?

琴美の今までの孤独に比べたら…どうだろうな?




「僕が消えれば皆笑える…か」
 表情を曇らせる水澤・怜(春宵花影・f27330)は、琴美の家の前で可愛らしい封筒を手に握っていた。
 怜はここに来る際、琴美から手紙を預かっていた。
 言葉を伝えることは簡単だ。しかし、それを信じて貰えなければ意味がないと考えて前もって手紙に認めて置いて貰っていた。
 
 いざ、家に入ろうとベルを鳴らす。
 …前に、家中の騒々しさに気づく。
 窓から中を覗こうと移動する。窓は開いていた。
 中が気になり、不躾だと思いながらも中に入る。
 中には先に来ていた仲間と、泣き崩れる母親の姿があった。

「これは…?」
 母親は聞きなれない新しい声に怯えびくついている。

「あぁ、ちょっと、ね」
 話を詳しく聞く。
 どうやら、琴美の現状を先に伝えられていたらしい。
 そのことを聞いて泣き崩れたと。
 怜も、話を聞いて母親は完全に関心を示さなかったという訳ではないと感じた。

「お母さん、ですね」
 ゆっくり近づき、膝をつき目線を合わせる。
 そして、手紙を渡す。
 お母さんへと、表に書かれた封筒を。

「これ…あの子の、字…」
 母親は手紙を受け取ると、怜の顔を見る。
 開けてもいいか、と確認するように。
 怜は、ゆっくり頷いた。

『お母さんへ。
 まず最初に、ごめんなさい。
 お母さんとお父さんが離婚しちゃったのも、僕のせいなのかなって思ってた。
 僕がもっと頑張れば、もっとしっかりすれば大丈夫だったのかなって思ってた。
 僕、お母さんが大好き。
 お母さん、僕が自殺したなんて知ったら、きっとすごく自分を責めちゃうと思う。
 でもね、違うよ。
 お母さんが僕をとても大事にしてくれたの知ってる。
 お母さんが褒めてくれるから、たくさん頑張ったんだ。
 お母さんの自慢で居られるように。お母さんのせいなんじゃないよ。
 僕、もうすぐ帰るから。そしたら、ぎゅって、抱きしめてほしいなぁ。
 琴美。』

 手紙にはこう綴られていた。
 最後まで読んだ母親は、また泣いた。
 娘を抱きしめるように、手紙を抱きしめて。

「お母さん。
 琴美さんは生きていますよ。
 命に別状はありません。ですが、精神的に深く傷ついておられます。
 彼女のお願いを、聞いてあげてもらえませんか」
 怜は優しく語り掛ける。
 そして、そっとその肩に触れた。
 同時に、【業鏡(ゴウキョウ)】を使用した。
 もしこれが演技だったなら。おそらく断罪されるだろう。
 しかし、もしきちんと反省しているのなら……このユーベルコードは正しく発動しない。
 そう考えたのだ。
 
 しばらくしても、変化はない様子だ。
 その様子に、胸を撫でおろす。
 きっと大丈夫。もう、大丈夫。
 怜は強くそう感じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……まずは、琴美ちゃんが前を向いてくれてよかった。
そしたら、後は周りのお膳立てだよな。
制裁ってよりも、なんて言うかねぇ……
もっと大変な物になりそうで気が重いよ。
ま、学生相手ならもっと歳の近いコがいるだろうし、
おふくろさんにでも会ってみるかねぇ?

普段着なら『演技』程度で『変装』の必要もないね。
最近引っ越してきたご近所さんを装って、
あいさつがてら『コミュ力』で談笑する。
そしてそのまま世間話から越してきた時の苦労とかを聞いてみるよ。
実際に、色んな苦労をしてるのは想像に難くないからね。

けどまぁ、釘は刺しとかないとねぇ。
話の合間に「娘さんの事、もっと見てやりな」と指摘するよ。




 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は怜の後に辿り着く。
 正確にはほぼ同時と言っても過言ではない。
 今はまだ中に入らず、庭先で待機している。
 というのも、少し気が重いのだ。
 ただ制裁を下すだけだというのなら、ここまで気は重くならなかっただろう。
 しかし、今日はそのつもりで来たのではない。
 話を聞き、諭す。これがどれだけ大変なのかは、はっきりとはいかずとも予想はできた。

 中では母親の声がしている。
 嗚咽の混じった泣き声。ごめんねと良かったを繰り返す。
 これ以上何か声をかける必要があるのだろうか。
 そうとも考えた。
 しかし、これまで聞いた話では、彼女が完全悪ではないことは予想できた。
 己を責め続け泣き続ける母親をそのままにしておいていいのだろうか。
 否。多喜は、話をするためにやってきたのだ。

「こんにちは」
 多喜は開いた窓から顔を覗かせる。
 母親は新しい来客に目を見開く。
 すかさず、仲間です、とフォローが入ったおかげですんなりと会話に入ることができた。
 本当は、引っ越してきたご近所さんという体で話をするはずだった。
 故に、普段着を身に着けてきた。
 しかし、こうも話が進んでしまっていては逆に怪しくなってしまう。
 とは言え完全にタイミングを逃した、という訳でもない。
 今だからこそ、母親のケアも必要なのだ。
 きっと、己を責めることはやめないだろう。胸に抱えて生きていくのだろう。
 それで充分なのだと思う。
 これ以上責めても、何か得られるのだろうか。答えは否だと思う。

「話は聞いてるよ。
 琴美ちゃんの話も聞いてきた。…だからさ、今度はおふくろさんの話を聞かせてほしい」
 縁側に腰掛け、距離を取ったまま話す。

「あたしさ、思うんだ。
 きっと、おふくろさんも大変だったろうなって。
 そりゃあ、今初めて会ったわけだし知らないけどさ。あんなに琴美ちゃんがいい子に育ったのは、母親の背中を見てたからだよなって」
 縁側から空を見上げながら話し続ける。
 天は清々しい程に晴れ渡っていた。

「だからって今回のことは仕方ないで済まされないことだけど。
 これから、琴美ちゃんの事もっと見てやれるなら、悪い事ってわけでもないんじゃねーかな」
 約束。多喜は声を張り上げる。
 これから、琴美の事をしっかり見てやる事。
 きっと、学ぶチャンスだと思うから。

「あの子は…」
 多喜の言葉を聞いてか、小さくゆっくりと話始める母親。
 多喜は静かにそれを聞く。

「あの子は、本当にしっかりした子でした。
 きっと、私に心配させないようにしていたんでしょうね。
 仕事が忙しく、あまり構ってやれなくても、あの子は笑っていました。大丈夫だからって」
 母親がその手に握りしめる手紙は、ひしゃげてしまっている。
 強く強く握りしめたその手は、まるで琴美の手を握り二度と離さなんとするように。

「離婚する時も、一人新しい学校へ行くときも。いつだって笑って大丈夫と言っていました。
 いつしか、あの子のそんな所に甘えてしまっていた。
 いつだって自分で出来てしまったから。一人でも大丈夫と。何を聞いても、貴方なら大丈夫でしょうと」
 それが間違いだった。そういうと母親はまた泣きだしてしまう。
 多喜はそれでもいいと思った。
 この世界で、自分の間違いを認められる人は一体どれだけいるだろう。
 母親はきちんと反省している。それがよくわかったから。
 とはいえ、今一度釘を刺しておかないといけない。
 二度と、こんなことが起きないように。
 この一生で、琴美のたった一人の味方で居られるように。

「それだけわかってりゃ、もう心配ないね。
 おふくろさんよ。一つだけ、もう一回約束。
 琴美ちゃんのこと、しっかり見てやんなよ」
 多喜はそれだけ言うと、それ以上触れなかった。
 母親も、しっかり頷く。この親子はもう大丈夫だろう。

 それから、もっと母親と話した。
 当時の苦労、世間話。
 少しでも肩の荷が軽くなる様に。
 窓からふわっと強い風が入る。
 きっとこれは、二人のこれからの背中を押す追い風なのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

家綿・衣更着
琴美さんがそうしたいならお助けっす!友達っすから!

他猟兵のやりすぎは止める。

琴美側の記録を貰い、【迷彩】【鍵開け】で悠里家に忍び込み日記確認やPC等【ハッキング】で【情報収集】。

琴美に【化術】し【演技】【コミュ力】【催眠術】で悠里の罪悪感を高め本心を吐くよう誘導。
得た情報を基に改心&和解できるよう、昔を再現する【優しさ】籠めた【化術】で【おどろかす】。

驚かせてごめんね。人の世界も化かし化かされ。でも自分は失っちゃだめっす。

母親も同様に調査&対処し可能なら両親の復縁も手伝い。
学校はUDC組織を通し再発防止を。

また手を繋げても傷は残る。あとは彼女達次第。
おいらの報告で琴美さんの驚き食べれるかなっす




 家綿・衣更着(綿狸忍者・f28451)はそっと鍵を開ける。
 小さくなった扉の音を、誰にも聞かれることはなかった。
 その家は留守なのである。
 両親共働きであるようだった。兄弟もおらず、一人っ子の悠里。
 とはいえ、ゆっくりはできない。急いで悠里の部屋を漁る。
 一人用としてはかなり広い部屋。
 この家自体も、豪邸とはいかずとも大きな一軒家である。
 ある程度のお金持ち、なのだろう。

「高そうなものばっかりっす…壊しちゃったりしたら…はっ」
 弁償かも…!
 ふと頭を過った。もしそうなれば、払えるのだろうか。
 そんなことを考えて、ぶんぶんと頭を振り思考を払う。
 今は少しでも悠里のことを知らねば。

 しばらく漁るも、あまり情報は出てこない。
 うまく隠されているのか、これというものがない。
 日記も付けていないようだ。
 どうしたものかと頭を悩ませていると、棚の奥の方に隠された本を見つける。
 これは…。

「アルバム…?」
 ぱらりと開いてみる。
 たくさんの写真が入っている。が、人物はすべての写真で共通していた。
 悠里と、一人の男性。
 仲睦まじい姿。これは、恋人同士であると誰が見てもわかるだろう。

「とても仲良さそうっすね…」
 中の良さそうに、微笑ましい写真達。
 次のページを開いた時、はらりと一枚の写真が落ちる。
 衣更着はその写真を手にする。そして、顔を歪ませた。
 そしてその写真を懐へしまうと、そっと部屋を出たのだった。

 悠里の帰路。その先に佇む衣更着。
 その姿はさらっとした長髪の黒髪に緑の瞳、元の姿とはかけ離れていた。

「あ、あー…あー…よし」
 発声練習。その声は紛れもなく琴美のものだった。
 衣更着は、琴美に変化したのだ。この姿でなら、悠里の罪悪感を引き出せるのではないかと考えたのだ。

 しばらくして、悠里が一人帰ってきた。
 携帯を手に歩いている。
 辺りは既に薄暗くなっていた。

「ねぇ」
 衣更着は声をかける。

「…!?」
 驚いた。そんな顔をしている。
 悠里は目を見開き、じっと琴美の姿を目に焼き付ける。
 この場にいるはずのないその姿を。

「どうしてここにいるのよ。あんた、私の家知らないはずでしょ」
 琴美の住む家は反対方向。
 一度も家に招いたことはなく、自身の家を知っているはずはない。
 驚き、怪訝な顔をし、そして声を荒げる。
 その姿には余裕がないように見えた。

「どうして」
 琴美の声で問う衣更着。
 あえて幽霊っぽく。より罪悪感と恐怖感を与えるために。

「は…?」
 聞き取れない為か、いら立っている為か、低い声で聞き返してくる。

「どうして、あんなことするの」
「あんなことってなぁに?」
 あくまでとぼけるつもりの悠里。

「どうして」
 はらりとあの写真を落とす。
 琴美の顔を何度も何度も切りつけた、憎しみの象徴を。

「なんで、それ…」
 悠里は動揺する。
 写真のことがばれたからではない。なぜそれを琴美は持っているのかを。

「どうして」
 一歩ずつ近づく。
 ゆっくり、ゆっくり、威圧的に、まるで逃がさないとでもいう様に。

「あんたが嫌いだからよ、元から、友達だなんて思ってない!
 引き立て役として置いとけばよかったんだ。不細工すぎると、腹立つからね」
 恐怖からなのか、感情が爆発し口走る。
 それは本音?衣更着は問う。

「本当、全部ね!あっはは、それなのに友達友達、うざいだけじゃ飽き足らずケイ君にまで手を出して。
 あんたさぁ、友達の彼氏横取りするような性格しといて、被害者面してんのほんっとむかつくのよ!」
 ケイ君。きっと悠里の彼氏だろう。
 それからもいろんなことを口に出した。
 友達でもない人間の事。ましてや、自分より下だと見下していたのなら。
 貶すような、そんな発言もわからなくはないのかもしれない。
 それを止める彼。友達のことを悪く言うことはいけないと。
 それが気に入らなかった悠里は次第にそのことで喧嘩を始めたこと。
 彼が琴美を好きだから庇うんだと思い込み始めた。
 ケイ君。彼はきっと、悠里が心を唯一許していた相手だったのだろう。
 そして依存していた。大好きで大好きで仕方なかった。
 その感情が思い込みを助長させたのだ。
 何度説明しても、信じて貰えない。それほど思い込みは深すぎたのだ。

 元から友達だと思っていない。
 何度聞いても、その答えしか返ってこない。
 何度聞いても、これが悪い事だったと思っていない。
 どれだけ罪悪感を高めようと優しい過去を見せたとしても、そもそも友達ではないのであれば効果はない。
 おそらくきっと、二人が和解することはできないのだろう。

「わかった」
 これ以上は無駄だと衣更着は帰る。
 写真を置いて、ふわっとその身を見えなくする。
 驚かせてごめんね。心の中で謝りながら。

「…ごめんね、ダメだったっす」
 琴美へと報告をする。
 琴美は、驚いた表情をしていた。
 が、しかし、すぐにその事実を受け入れた様子だった。
 感じていたのかもしれない。
 学校には、UDC組織から話を通し、今一度虐めに関しての対策をとお願いした。
 一度目繋いだ手は嘘だった。
 元から繋がれていない手。それでももし、もし。
 今は無理でも、いつか。手を握れる日が来るのなら。
 衣更着はその時を待つことにする。これは彼女達の問題だから。
 もしその時が来たら、自分も混ぜてほしい。
 琴美の握る自身のメダルの輝きを見ながら、そう願うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

木々水・サライ
琴美の言葉は確かに聞いた。
……さて、俺には似つかわしくない制裁の時間か。

同じ苦痛を与え、被害者の痛みを理解させる。これだな。
とはいえ実際にやった手法なんてもん、俺には分かんねぇからなぁ……。
ああ、そうだ。前に調べておいた情報……SNSで集めたいじめについての情報って使えねぇかな。
それを見せることで、悠里がどれだけ酷いことをしていたかっていうのを自覚できるんじゃないかと思う。

そして、出来ることなら今度は琴美の味方になってやれって声をかけてやりてぇな。


「琴美自身を突き落としたのは誰でもないが、あの子の心を突き落としたのはお前だよ」

「なら、お前が今度は味方になってやれ」




 琴美の言葉は確かに聞いた。
 そしてその願いも。

「制裁、なんて、俺には似つかわしくねぇな」
 自嘲するように笑う木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)。
 制裁するのであれば、やはり同じ痛みを与えるのが手っ取り早いのだろう。
 とはいえ、サライ自身に何をされたかなんてわからない。
 上に、一年もの間の苦痛を与えることは、難しいだろう。
 前もって聞いていたあの情報。琴美の虐めの内容をしっかり全て悠里に伝えることで少しでも考えさせるきっかけにならないかと考えるサライ。
 しかし、問題はそれをどう見せるか。
 何せただ文字や口頭で見せたところで彼女が反省するのだろうか。
 反省しなかったとしたら、どういえば苦痛を表せるのだろうか。

「アンタが悠里、だな」
 心なしか疲れた表情の悠里を見つけ、声をかけるサライ。
 悠里はサライの顔を見て、またなのかと言いたげな顔をする。

「またなの?もう、なんなの?」
 連続して起きる数々の不可解な出来事。それのせいか、精神的に疲れているのだろう。
 白い龍に全てを食われた世界。かみ砕かれた、激痛の先の無。
 死ぬことも許されない世界。何も面白くもない、ただ息をするだけの世界。
 またはすべてがばれてしまった世界。
 親から拒絶され、クラスからは責め立てられ、一人罪に溺れる世界。
 家の前に佇む琴美が、どうしてなのと詰め寄ってくる夢のような出来事。
 全てを体験してもなお、自分が悪いことをしたとは思わない。
 しかし、だからと言って何の効果もなかった、という訳ではなかった。
 少なからず、精神的苦痛は与えられている。どうして自分が悪いのか理解ができない。
 そのことが逆に痛みを助長させる。
 どうしてこんな思いをするのか。どうしてこんな思いをしなければならないのか。
 相手が悪いのに。されて当然なのに。

「辛いか」
 サライの存在に動揺したのか、小さくぶつぶつとつぶやいている。
 私は悪くない。悪いのはあいつだと。虐められて当然なのだと。
 サライは一言問う。
 悠里からの答えはなかった。が、おそらくかなり精神に来ている。
 その瞬間では効果がないように思えたそれも、一人になった今徐々に蝕んでいく。

「それが、琴美にしたことの代償だ。
 どんなことをしたのか、アンタ覚えてんのか?」
 サライは自身の行いを自覚させるため自分から口に出すよう促す。

「どんな事って何?知らない、知らない!!!」
 悠里は声を荒げる。認めたくないのか、本当にわからないのか。
 しかし、散々揺らがなかった彼女の精神が乱れている今が。
 訴えかけるチャンスなのではないか。

「教科書を隠しただろう。上靴を捨てただろう。
 机の落書きは?机を隠したことは?」
 小さなものから大きなものまで、一つ一つ確実に悠里に聞こえるようにテンポよく紡いでいく。
 悠里は耳を塞ごうとする。が、それをサライは阻止する。
 いやだと騒いでも、サライはやめない。全てを言い終わるまで。

「カンニングペーパーの捏造は?全てを琴美のせいにしたことは?」
 全てを聞いてもなお、受け入れない悠里。
 混乱からか、うわごとのようにケイ君と名前を呼び続ける。
 きっと、こんな時いつでもそばにいてくれたのだろう。
 そして、抱きしめ落ち着かせてくれた。
 しかし、いないのだ。今は、誰も抱きしめてくれない。

「なんで、なんでなんでなんで!!」
「そもそも、アンタの勘違いなんだよ。
 ケイってやつはずっとそばにいてくれたんだろ。
 アンタ、そこまで大事な奴を信じてやれなかったんだろ」
 混乱し暴れる悠里に、サライは続ける。

「されて当然だといったな。
 なら、これも当然なんじゃねぇのか」
 因果応報。
 先程の悠里の言葉を借りるのならば、これもされて当然のことなのだとサライは伝える。
 それだけのことをしたのだから。

「琴美自身を突き落としたのは誰でもねぇ。けどな、あの子の心を突き落としたのはアンタだよ。
 琴美はな、アンタを恨んでねぇってよ。優しいよな」
 ふー、ふーと威嚇するように息をする悠里に、最後の言葉をかける。
 琴美の気持ちを伝える。

「そのさ、先入観とか捨てて、一回ちゃんと話あってみたらどうだ?
 その先で出来ることなら、アンタがあの子の味方になってやれ。
 それが無理なら、もう関わってやんな。
 あの子は、アンタのことを友達だとずっと言ってよ。本気でそう思ってんだよ」
 これ以上は何も言わなかった。
 悠里もそれ以上、何も答えなかった。
 
 後日、琴美から一通の手紙があった。

『猟兵の皆さんへ。
 お久しぶりです。琴美です。
 皆さんのおかげで、あれから生きるのが楽しくなりました。
 お母さんとは、たまに一緒に出掛けます。
 悠里さん…とは、お友達をやめました。
 元から友達じゃなかったんだっけ…。その代わり、もう何もしてきません。
 新しい友達もできました。失くしたと思ってた生徒手帳、持っててくれたんですよ。
 学校の習慣に、定期的に個人面談が行われるようになりました。
 
 僕、いつか皆さんのように強くなりたいと思います。
 本当にありがとうございました。また、会えますように。
 琴美。』

 一枚の手紙を取り囲む猟兵達。
 円になり良かったと笑いながら手紙を眺めるその姿は、平和と表せるのではないだろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月07日


挿絵イラスト