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竜の微睡む島

#グリードオーシャン

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#グリードオーシャン


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●竜の微睡む島
 その地は古く、竜の微睡む地であれば。
 長きを生きた竜は死する前に、戦いを望んだという。より強き竜へと。戦いこそ竜の弔い。黒き竜は銀竜の爪に敗れ、弔いに咆吼が響いたという。
「時は流れ、全ては竜骨と眠る島の中」
 竜種の名を持つアックス&ウィザーズの系譜を持つ緑深き島。
「竜の眠る島で宝探しをしませんか? 我らが友人よ」
 微笑んで告げたのは深い青の髪を揺らす青年であった。柘榴色の瞳に弧を描き、ハイネ・アーラス(海華の契約・f26238)は島の名を告げる。
「デュンファリ。それが、島の名です。古来より、竜は黄金を抱え込むと言いますから」
 黄金では無いが、島には宝物があるという。
「伝承に曰く。彼らも似たようなことを考えているかは分かりませんが、島はコンキスタドールの支配下にあります」
 島民の姿は無く、島は大量のコンキスタドールによって厳重に守られているのだ。
「えぇ、彼らを倒し、要塞を攻略し、その上で宝探しなどどうでしょうか? と」
 要素が増えている。
 要素が増えているが——海賊でもある青年にとっては然程不思議な事では無いのか、にっこりと笑ってハイネは続けた。
「島への侵入経路は見つけています。船で要塞への直接の乗り込みは難しいですが——岩場の近くまではご案内できますとも」
 ごつごつとした岩場は足場も悪く、落ちれば海の中だ。
「岩場を守るのは巨大魚たちです。あぁ、魚といっても短時間であれば空も飛びます」
 飛ぶのか。飛んでしまうのか。
「不思議との出会いは宝探しに似合いですとも」
 にこり、と微笑んで、ハイネは続けた。
「要塞内部に侵入すれば、開けた空間でこの地の支配者に出会うことでしょう」
 この地に宝がある、と言われるが故に存在するもの。
「核となる支配者を倒せれば、島も平和を取り戻せます。——えぇ、要塞の自爆装置が発動しますので」
 爆発している中、宝を探せというのか。
 え、崩落している中とかで探せというのか。
 宝らしいですね。と笑った海賊は告げる。
「では、参りましょう。我らが航路へと」


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
遺跡で宝探しをするとだいたい崩落するなーと言うイメージと共に。
だいたいぽっぷです。

▼各章について
 各章、導入追加後のプレイング募集となります。
 プレイング募集期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。

 また、状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

 第一章:巨大魚
 第二章:南洋島の古神
 第三章:爆発・冒険・大脱出

*水着での参加について
プレイングでそれっぽく書いて頂いたら、水着を参考にしつつ……なリプレイになります。
戦闘判定における不利(防御力低いなど)は発生しません。
水着イラストが無くても、それっぽい感じを書いて頂ければそれでどうぞ。

ちょっとしたおまけ要素程度なので、がっつり水着描写メインをご期待されると、あれおや? かもです。
(メインは普通にだいたいバトルです)


▼第三章について
要塞の「自爆装置」を発動する中、崩れ落ちる要塞内のあちこちで、それまで開かなかった道が開きお宝ありそうスペースが見えます(ざっくりイメージ)
お宝を探しつつ逃げるも、全力で逃げるもどちらでも。

*アイテムの自動発行はありません。
*竜の逸話にある、金のコイン、水に触れると輝く不思議な水晶の花などがあるようです。

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。


それでは皆様、御武運を。
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第1章 集団戦 『巨大魚』

POW   :    船喰らい
【頭部からの体当たり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【鋭い牙によるかみ砕き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    テイルフィンインパクト
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    ウォータービーム
レベル×5本の【海水】属性の【水流弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●海里に跳ねる
 ごつごつとした尖った岩場が、島の裏側には続いていた。島の裏側、断崖絶壁の地は波ばかりが打ち付ける岩場だ。船が進むには向かず、コンキスタドール達も出入りには使わない。波の作り上げた洞窟こそあれど、要塞を管理する人型のコンキスタドール達にとってみれば、特別使う必要の無い場所であった。
「——いや、裏のはあるだけっしょ?」
「だな。だいたい、あいつら雑食だろ? 近づきたくねぇわ」
 宝石捜索の為に集められていたコンキスタドール達は知らない。無理だろ的岩場を通る姿があることを。
「……」
 尖った足場。飛び移るようにして向かう必要もあるそこは、道というよりはアトラクションに近く——足場も崩れやすい。すぐに次の足場に移れば問題は無いだろう。猟兵の体力であれば問題は無く——だが、問題は足場より足の下——海中にあった。
「——ギョ」
「ギョン?」
 来訪者達を出迎えるのは大量の巨大魚たち。道を防ぐように水中から飛びかかってくる彼らを倒し、避けながら要塞へ続く洞窟に入る必要があるのだ。
 ——さぁ、どう動く?
ジャハル・アルムリフ
空を舞う巨大生物
待ち受ける王と爆発、宝物
うむ、それでこそ「れじゃー」にして鍛錬也

羽織っていた夏外套が傷まぬよう物陰へ畳んでおき
高い岩場を跳び駆け
おびき寄せ、迎え撃つ
脳裏で描くは一度試してみたかった妙技
ああ、御誂え向きとはこの事だ

向かってくる頭部、開いていれば口へ【怨鎖】の楔
上手く穿ち繋げること叶えば
翼で姿勢制御し
怪力用いて勢いのまま高くへ放り上げる
――うむ、これぞ一本釣り

舞い上がったそれの鎖を一気に引き
次なる巨大魚の脳天へと打ち下ろす
それから、何だったか…そうだ
「きゃっち、あんど、りりーす」――からの「二枚おろし」
弱った巨大魚の鎖を解除し剣で斬り裂かんと

…はて、此奴は食卓に上げて良い魚だろうか



●巨大魚と海と冒険
 ざっばーん、とそれはそれは見事なまでに、遠く、荒波が打ち寄せていた。何処ぞのポスターにでも似合いそうな光景も海辺であれば珍しくも無いのか。——否、ごつごつとした岩端は、結局の所コンキスタドール達ですら、手を余らせた品であったのだ。
 岩石海岸。
 露出した岩石の目立つ海岸であり、此度の侵入ルートであり——道だった。
 そう、一応は道だった。
 道というよりは最早アトラクションに近い。尖った岩場はぽつ、ぽつと感覚を開けて立つその場所を見据える青年の姿があった。
「空を舞う巨大生物。待ち受ける王と爆発、宝物」
 はたはたと揺れる外套が、日の光を受けて、キラ、と光る。金の刺繍が柔らかな光を零せば、何処からとも無くやってきた小鳥たちが青年の傍をくるくると回っていた。ピィ、ピ? と囁き歌う声は、彼らでも近づかぬ『この先』についてか。残る足場を見据えた青年——ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は一つ頷き、言った。
「うむ、それでこそ「れじゃー」にして鍛錬也」
「——ピ!?」
 鳥さんはびっくりである。
 否、ただの偶然かもしれない。何せ、岩場で派手に巨大魚が跳ねたのだ。
「あれが、話に聞いた巨大な魚か」
 あれだけ跳ねるのであれば、元気なのだろう、とジャハルは思う。羽織ってきた夏の外套を、はらり、と脱いで傷まぬようにと物陰に畳んで置く。ちょこん、と座った小鳥は見張りのつもりか。
「ピピ」
「あぁ。行ってこよう。夏のれじゃーだからな」
 鳴き声にひとつ、律儀に頷いてジャハルは岩場へと目をやる。トン、と軽く地面を蹴って、最初の足場に辿りつく。ゴツゴツと尖った岩場だが——そうと分かっていれば動き回るのも容易い。トン、トン、と足場を蹴り、岩場を蹴り上げて行けば、海中がざわつく。
(「ふむ、泡か」)
 巨大魚たちが水面に映る影に誘われて、上がってきたのだろう。キュイン、と海中に光る目を一つ見つけ、ジャハルはトン、と足元を蹴って進めていた体に力をいれる。足裏でぐ、と地面を掴むようにして、跳躍を上へと叩き込む。ぐん、と一気に高い岩場へと跳び駆け、僅かに視線を落とす。
「ああ、御誂え向きとはこの事だ」
 脳裏で描くは一度試してみたかった妙技。
 泡だった海面がざぁああと揺れ——割れた。
「ぎょ!」
 魚だ。巨大魚が勢いよく跳ねて、突撃してきたのだ。体当たりでもするように、ぐん、と来た巨体が大口を開ける。
「ぎょぎょー!」
「——」
 食らいつく牙を剥き出しに、迫る巨大魚へとジャハルは腕を差し出す。軽く握った腕の中、破片で切った手から零れ落ちた血の雫が、ぱたり、と巨大魚の頭に落ちた。
「ぎょ?」
「鎖せ」
「ぎょぎょ!?」
 ガウン、と爆風と共にくらり、と揺れた巨大魚がそれでも、と暴れるように身を起こす。空中といえど、巨大魚には巨大たる所以がある。重さ、だ。たたき落とすように尾を振り上げた体は——だが、ぐん、と勢いよく引き上げられた。
「ぎょ!?」
 それは、ジャハルの放った鎖だ。口の中、穿たれた鎖はしっかりと巨大魚の歯にひっかかり、暴れる巨体にジャハルは翼を広げた。引きずられることがないように、体勢を保てば後は——、暴れる巨大魚を抑え込む怪力で、ぐん、と勢いよく高く放り投げたのだ。
「ぎょぎょー!?」
「――うむ、これぞ一本釣り」
 弧を描く、巨体の影が頬に掛かる。ぎょーぎょーぎょー……、と妙に響く声に、海面から次の巨影も飛び出す。ジャハルの背を喰らうように来た一体へと、振り返るより先に鎖をぐん、と引いた。
「ぎょ!?」
「ぎょぎょ!?」
 ぎょん! と聞こえたのは派手に脳天に打ち下ろしたからか。くらり、と揺れた巨大魚が水面に落ちていく。流石、夏のレジャーは派手なのだ。
「それから、何だったか……そうだ」
 魚釣りには極意があるという。夏のレジャー。こんなシーズンに楽しみたいお魚たちとの(仁義無き)遊戯。
「『きゃっち、あんど、りりーす』――からの」
 『二枚おろし』
 海中へと、落ちるより先に身を飛ばす。一刀、斬り裂き、残る一体へとジャハルは視線を向ける。繋いだ鎖の先、向かい合うは容易く。だが、ふと思うのだ。
「……はて、此奴は食卓に上げて良い魚だろうか」
 巨大魚だ。なんかカラフルだ。新鮮ではあるっぽいのだが。
「……む」
 食卓を囲む相手が、一拍の後にため息をつく姿が見えような、そんな気がした。
 ——なお、巨大なお魚さんは綺麗に二枚おろしにされたのでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴久名・紡
海に落ちてもまぁ、水着だから大丈夫だと思うけど……
身体ぶつけたりして不用意な傷をつくらないよう
上着のパーカーはちゃんと着ておこう
……草履は仕方ない
ないよりマシな気がするから履いとく

岩場の移動は
自分の身体能力とジャンプを併用して攻略していく

巨大魚が近付いて来るようなら
煉獄焔戯で先制攻撃
魚相手だし、武器の形状は銛にしておこう
自分に近い位置の敵は早めに指定して狙う

銛の攻撃を掻い潜ってくる巨大魚が居た場合は
取り敢えず、頭突きを喰らわないように見切りも用いて
次の足場にジャンプする事で回避

必要に応じて残像も使用していく
回避が間に合わない場合はオーラ防御も使用

……ひと夏の体験にしてはスリリングが過ぎる、かも


ヴィクトル・サリヴァン
中々楽しい冒険になりそうだね。
さてどんな宝があるのかなー、コンキスタドールから逆に略奪れっつごー。
…えっ要塞に自爆装置付き?
まあ何とかなるでしょ。

折角の水辺だし格好は今年の水着+銛で。
色んな意味で負けられない戦い、海の家店員的にもシャチ的にも。
戦闘時は支援重視で動く。数多いだろうから奇襲には警戒。
他の猟兵巻込まず済むなら高速詠唱から雷属性魔法で巨大魚狙い挑発。
巨大魚の突撃は野性の勘で予測、カウンターで先に銛を投擲し魚の額にぶち込む。
それと同時にUC発動、水のシャチにがぶりと喰らいつかせ突撃を喰いとめてやろう。
心情的には新鮮食材ゲット、と行きたいけど崩れるらしいし我慢ねー。

※アドリブ絡み等お任せ



●海のお魚さん(おっきい)
 ざっばーん、と派手な水飛沫が海中から上がっていた。穏やかな海には遙かに遠く、ごつごつとした岩場がキラ、キラと日差しを受けて輝いていた。
 なんかやたら、きらーんと尖った感じで。
「……」
 とりあえず、安全じゃないだろ、というのが鈴久名・紡(境界・f27962)の感想だった。足場は随分と悪いし、挙げ句、海の中にはあの巨大魚だ。ぎょぎょ、ぎょぎょ、とやたら賑やかで——いや、そもそもどうして鳴くのか。
「……魚って鳴くのか?」
 深い藍色の瞳を細め、紡は一頻り考えて——息をついた。この世に於いて、知らぬことの方が多い。あり得ない、と言い切れぬ己を悪癖とも言い切れぬままに、紡は上着に袖を通す。
「海に落ちてもまぁ、水着だから大丈夫だと思うけど……身体ぶつけたりして不用意な傷をつくらないよう上着のパーカーはちゃんと着ておこう」
 何せ、海の中にはあの巨大魚だ。ぱっくり食べられてしまう——つもりは無いが、あれに揉まれるのは遠慮したい。膝丈の水着に併せ、羽織った上着の前を一応しめて、足元に目をやる。
「……草履は仕方ない」
 ないよりマシな気がする。素足で挑むよりは安心感もあるはずだ。
(「……よし」)
 ひとり、頷いた青年の横、くぅっと背を伸ばす長身が見えた。
「中々楽しい冒険になりそうだね」
 アロハシャツを羽織り、ブルーの水着姿のヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は海の眩しさも、ぎょぎょーん、と跳ねる巨大魚も当たり前のように見て、頷いてみせて——笑った。
「さてどんな宝があるのかなー、コンキスタドールから逆に略奪れっつごー」
「いや、あんた。中は自爆するって話だろ」
 無愛想な言いようは、結局の所、人見知りもあるからか。眉を寄せた紡の言葉に、ぱち、とヴィクトルは瞬いた。
「……えっ要塞に自爆装置付き? まあ何とかなるでしょ」
「何とか?」
「うん。なんとか」
 一発一撃真っ新であれば——流石に依頼にもならないだろう。うん。周りが海であれば脱出の手立てもあるし、いざとなれば島の下は海だ。
「いざとなれば、泳げば良いしね。あそこの魚相手も」
 眉を寄せ、一頻り考える顔をした後に紡は息を落とす。はた、と靡くパーカーを抑えるように、きっちりと前をしめて向かうべき先を見据えた。あぁ、とりあえず巨大魚が相手は確定している訳なのだから。
「ぎょーん」
「ぎょぎょーん」 
「……」
 喋るが。すごい喋るが。
 たっぷりと間を開け——二度目のため息で、己をひとつ切り替えた青年の横、ヴィクトルもまた戦いを前にしていた。なにせ相手は魚だ。大きい上になんか飛ぶらしい。
「色んな意味で負けられない戦い、海の家店員的にもシャチ的にも」
 そう——魚は、具材なのだ。
 おかずなのだ。
 否、時々メインを飾る食材となるのだが。
「——……先に行く」
 一応、と声を落とし、紡は地を蹴った。軽い跳躍。最初の岩場に辿りつけば、すぐに海面がざわついた。ぶくぶくと湧き上がる泡。波とは違う揺れに、だん、と強く岩場を蹴った。
(「戦うのであれば……」)
 あの、奥の岩場だ。
 少しばかり高いその場所へと一気に身を飛ばす。軽く手をついて、一気に上がる。片足、付けたところで後方で波が立った。
「ぎょぎょーん!」
「——欠片も残さず、灰燼に帰せ」
 振り返りざまに、紡は神力を紡ぐ。柏手ひとつ、手の中に光から零れ落ちるように生まれたのは銛だ。
「ぎょぎょん!」
 素っ頓狂な声とは逆に、ぐわりと開かれた大口は無数の牙を見せていた。岩場のようにかみ砕く気か。ぐわり、と迫る其処へ銛を放つ。穿つ一撃は腕から放つのではなく、紡の視界へと納めるものだ。指定することにより、穿つ一撃に巨大魚がぐらり、と揺れる。巨体が傾げば、後を追って飛ぶ巨大魚の動きがぶれた。
「——と」
 その頭突きに、紡は身を逸らす。ぎょぎょ、とやたら賑やかな巨大魚たちは、岩場にある青年を獲物とみたか。力強い頭突きが、一斉に向かってきた。
「ぎょぎょ!」
「だから、その鳴き声は……」
 何なんだと、言い返すより先に魚眼が迫った。次の足場へと身を飛ばす。追いかけてきた一体は——だが、雷撃に打ちぬかれた。
「ぎょ!?」
「海の中じゃ見ない雷だろう?」
 挑発するようにヴィクトルは笑みを敷く。歌うような軽やかな詠唱は二段飛ばし、高速に術式を紡ぎ上げる。空は快晴。潮の香りに、夏の海の冒険だ。
「追いかけてきたやつは落とす」
「了解」
 二つ一気に足場を飛び越え、距離を取った紡が銛を向ける。両眼に納め、標的へと定める。
「ぎょ、ぎょぎょん!?」
「……」
 逃がすつもりは無い、と言葉で告げる代わりに放つ。大口を開いたそこを穿ち、追いすがるもう一体が食らいついた先は——残像だ。
「……ひと夏の体験にしてはスリリングが過ぎる、かも」
 息をついて、指先を向ける。そこだと銛へと示すように。
「ぎょぎょーん!」
 穿つ一撃が巨大魚を沈めた。巨体が落ちた水飛沫が派手に海を彩る。
「ぎょん!」
「食べられるつもりは無いよ」
 ぐん、と跳ねるように一気に来た突撃にヴィクトルは軽々と岩場を越える。そう、シャチ的にもお魚さんに負けるつもりは無く——そもそも、水に濡れた岩場など知らぬ場でも無い。
「ぎょぎょ! ぎょん!」
 ばしゃん、と派手に聞こえた水音。見事挑発に乗ってきた巨大魚の頭突きに、カウンターを叩き込むように銛を投げた。
「ぎょ!?」
 巨大魚の頭へと、叩き付けた銛が次の瞬間水を纏う。
「さあ、追いかけて、齧り付いて――喰い千切れ」
 顕現するは水のシャチ。きらり輝く瞳と共に、がぶり、と食らいつけば巨大魚の突撃が——止まる。喰いとめる。
「ぎょ、ぎょぎょ!?」
 衝撃の中、仕留められた巨大魚が力を失って落ちていく。てやっと放り投げられたお魚さんは、それは大きなお魚さんなのだが——……。
(「新鮮食材ゲット、と行きたいけど崩れるらしいし我慢ねー」)
 何せ要塞は爆発してしまうらしい。釣り場としては理想でも、壊れてしまうには食材を置いて行くにはちょっと向かないのだ。海の家店員的には少しばかり肩を竦めて、ヴィクトルは奥へと続く洞窟を見据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

おー、でかい魚だな。足場もあんまよくねぇか…
ヒメ、噛みつかれたりすんなよ
夕食?いやグルメ以前に食べようと思わねェだろ、アレ

アレ、水を放つのか
は、俺より上手にできるやつ、いんのかな
水の扱いなら俺のほうが上手いだろ……って
なんでお前がそんなどやってんだよ
ま、いつものことか…
行くぞ、ヒメ。海に落ちんなよ

一本釣りで焼き魚って、器用だな、お前は
放っといても大丈夫そうだから俺は俺に向かってくるやつの相手を
俺は噛みつこうと飛びついてきたら水放ち撃ち落とす
まっすぐくるなら避ける
足場は先を見て辿っていく
足場少なくなっていくようなら、おいヒメ、肩車
移動はヒメに任せて攻撃は俺の分担でいこうぜ


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

デカい魚か
けど美味そうじゃねェから、食卓には並べられそうにないよな
與儀はグルメだしな!
逆に噛みつかれるのは御免だから、焼き魚にしてやるぞ!

てか與儀より巧く水扱えるわけねーだろっ
何てったって、俺の主に敵う水使いなんていないからな!(超どや
おう、俺は器用だ、海に落ちなんてしないぞ!

ふ、飛んで火に入る~って言うだろ
飛び出す魚を天来の焔で防ぎつつ、猛火で丸焼きにする!
與儀に向かおうもんなら、焔紅葉で絡め取って一本釣りにして
刻んで捌いてこんがり焼いてやる
…やっぱ美味そうじゃねェな

おう、攻撃は與儀に任せた!
ひょいって肩車して、器用に與儀の足になるぞ
どうだ、俺達の超連携プレイ!(どや



●お魚とグルメ
 ごつごつとした岩場に、水飛沫が踊る。荒波が打ち付けるに似合いの岩場であった。尖ったそこは、道というよりは足場に近く——挙げ句、水面ではばしゃんばしゃんと巨大魚が騒がしいのだ。
「ぎょぎょ」
「ぎょぎょーん」
 喋る巨大な魚が。
「おー、でかい魚だな。足場もあんまよくねぇか……」
 弧を描き、ばっしゃーんと海に一度潜っていった巨影を眺めながら英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は傍らの守護者へと目をやった。
「ヒメ、噛みつかれたりすんなよ」
「逆に噛みつかれるのは御免だから、焼き魚にしてやるぞ!」
 與儀はグルメだしな! と姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は、うんうん、と頷いた。
「美味そうじゃねェから、食卓には並べられそうにないよな」
 珍しい大きな魚とはいえ、なにせ見た目からしてちょっと食用に向いていない気もする。ちょっと紫だし、黄色いし、めちゃくちゃ跳ねてるし。
「ぎょぎょーん!」
「鳴いてるしな」
 ちょっとな、と息をついた京杜の横、與儀は小さく瞬いた。
「夕食? いやグルメ以前に食べようと思わねェだろ、アレ」
 色味がヤバい上にやたらめったら跳ねる。
「つーか、オブリビオンだろ」
 やれ、と息をついた先で、岩場のひとつに派手に水がかかっていた。波が掛かった訳では無い。岩場が一角、抉られたように形を変えていたのだ。
「アレ、水を放つのか」
 欠け落ちた一角に目をやって、與儀は瞳を細めた。
「は、俺より上手にできるやつ、いんのかな」
 口の端に笑みをしく。不敵な少年は、だが、その瞳の奥に神たる姿を滲ませていた。
「水の扱いなら俺のほうが上手いだろ……」
 低く笑う。吐息一つ零すようにして、巨大魚を見据えた與儀の横、連れの声が跳ねた。
「てか與儀より巧く水扱えるわけねーだろっ。何てったって、俺の主に敵う水使いなんていないからな!」
 どや、と三割増しの笑顔を見せた京杜に、與儀は敵を見据える瞳はそのままに息をついた。
「なんでお前がそんなどやってんだよ。ま、いつものことか……」
 自分のことのように、というよりは、自分のこと以上に與儀に纏わることに一喜一憂してみせる守護者に、ふ、と主は息を零す。今更呆れる訳も、驚く理由も結局は然程無いのだ。
「行くぞ、ヒメ。海に落ちんなよ」
「おう、俺は器用だ、海に落ちなんてしないぞ!」
 タ、と軽く地を蹴り上げる。前へと、飛ぶように與儀は行った。ごつごつと、尖った岩場は足場としては悪いが——それを分かっていれば、別段、すっころんで落ちるような下手は打つ気は無い。軽やかな着地の横、加速から一気に降り立った京杜が跳ねた巨大魚を見た。
「生きが良いな」
「ぎょぎょ」
「ぎょぎょーん!」
「……」
 鳴いてるけどな、あれ。
 浮かんだ言葉を、まぁいいかで與儀は飲み込む。足元、岩場に飛び移った影に気がついたのだろう。ぶくぶくと泡が生まれ、ざぁああ、と轟音と共に巨体が飛び上がったのだ。
「ぎょぎょー!」
 ぐわり、と大口を開けて巨大魚が迫る。ぎざぎざと見えた歯は岩場さえ削るのか。獲物を見る巨大魚の瞳に、だが割り込むように炎が舞った。
「ふ、飛んで火に入る~って言うだろ」
 唸る猛火は紅葉舞う焰。
 巨大魚が狙ってくるのであれば、迎え撃つだけだ。食らいつく巨大魚を頭から丸焼きにすれば、ぐらり、と巨体が崩れていく。
「こいつで一体。次は……」
「ぎょ!」
 ばしゃん、と強い水音がひとつ。だが、巨体が迫る風を感じたのは後方だ。
「こっちに来たか……って」
 笑みを敷き、迎え撃つ水を掌に招こうとした與儀の視界で巨大魚が——止まった。
「與儀には向かわせねぇ!」
 キリリ、と高く聞こえた音に鋼糸を知る。巨大魚を絡め取り、飛び上がってきたその勢いさえ利用するように京杜は腕を振り上げた。
「よし」
 空へと踊った巨体を鋼糸が捌く。刻み落とせば舞い踊る炎が巨大魚をこんがりと焼き上げた。
「……やっぱ美味そうじゃねェな」
 ぎょーん、ぎょーんぎょーん……と謎のエコーが残る戦場で、京杜は眉を寄せるようにして息をついた。
「一本釣りで焼き魚って、器用だな、お前は」
 ひとまず、あれが夕食に予定は無さそうだ。
 軽く息をつき、與儀は真横から迫ってきた巨大魚を見据える。
「ぎょぎょーん!」
「……隙を突いたつもりか?」
 ぐわり、と大口を開くより先に、掌を差し向ける。ふわり、と羽織るパーカーが揺れ花浅葱の瞳は水を見る。この戦場に、この世界に水を生む。
「喰らえよ」
「ぎょぎょーん!?」
 叩き付けられた水に、大口を開けるより先に巨大魚が落ちていく。巨体が派手に海面へと落ちれば、続く一体の姿が波の向こうに見えた。
「ぎょぎょ!」
 真っ直ぐ迷い無く来た巨大魚に、與儀は次の足場へと身を飛ばす。タン、と着地した先で残る足場は——然程多くも無いか。
「おいヒメ、肩車。移動はヒメに任せて攻撃は俺の分担でいこうぜ」
「おう、攻撃は與儀に任せた!」
 ぐ、と身を飛ばすようにして岩場にやってきた京杜にひょい、と肩車をされれば、視界も広がる。ついでに足場の不安も少ない。連携プレイで二人は一気に洞窟へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

梟別・玲頼
鳥形態にて、波の上を悠々と音も立てず優雅に飛び抜けよう。
岩場の上だろうと水の上だろうと、宙を飛べる私には全く以て問題はない話だな。

ほぉ…これはまた奇怪で派手な魚だな。その面白い顔で私を食らおうと言うのか。
翻弄するようにふわりひらりと頭突きで飛んでくる魚を回避し、海面に突き出た岩の上に片足で降り立とう。

ストール翻す青年姿に変わり。
本当、愉快な面しやがって。
さぁさぁ来やがれよ。オレは逃げも隠れもしねぇぜ?
向かってくる魚どもに中指立てて挑発しつつ。
体当たりしてきた所でUC発動。
命知らずの魚クンから鱠にしてやるぜ。
だが、うん…あれを食おうっちゃ思わねーな。

粗方倒したら再び鳥に変じ、先へと進もうか。



●青き海原に『ぎょ』
 荒波が押し寄せる岩場は、海流の荒れるこの地に似合いのものなのだろう。船で近づくには波が高く——だが、気まぐれのように凪ぐ。岩礁の多くは波を被り、ごつごつとひどく荒れていた。
「……」
 岩石海岸。
 コンキスタドール達ですら放置したこの地は、結局の所持て余されたのであり、荒れた岩場は打ち付ける波が理由とは思えぬ削れ方が上から見て取れた。
「——ふむ」
 そう『上』からだ。
 海面に映る影の主は高く、両翼を広げて羽ばたきを残す。
 村の賢者——コタンクルカムイ。
 梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)は琥珀色の瞳を細めた。あの岩の砕け方は、海中にて蠢くものが理由だろう。えぐり取るようなそれは、森の中で、木々が風を受けるのとは違う。共生の中に生まれた姿ではなく——だが、海中に蠢くそれとて、岩場を砕く気はあったか。
「岩場の上だろうと水の上だろうと、宙を飛べる私には全く以て問題はない話だな」
 シマフクロウの姿で、音も立てずに優雅に海上を行けば、ざぁああ、と海面が波立った。ぶくぶくと上がる泡。何かが迫ってくる、という感覚は気配として玲頼の身に残る。
 ——これは、己を餌として狙うものの気配だ。
「ぎょ」
「ぎょぎょん!」
「ぎょー!」
 バシャン、と派手に海面に尾を叩き付けるようにして『それ』は飛び出してきた。海中に落とす影は、岩場より巨大であったか。時に、人の船さえ喰らい潰すという巨大魚が大口を開けて玲頼に飛びかかってきたのだ。
「ほぉ……これはまた奇怪で派手な魚だな。その面白い顔で私を食らおうと言うのか」
 涼やかな笑みを浮かべ、玲頼は翼を広げる。空を一度強く叩く。ひゅ、と一度の加速で高さを得て、追いかけてきた巨大魚を前に滑るように海面へと身を落とした。
「ぎょん!?」
 ふわり、ひらり、と頭突きで飛んできた巨大魚を躱す。一体に頭上を追加させ、続く一体にはひらり、と上を取る。飛び上がるだけの巨大魚が海の存在であるとすれば、玲頼は空を行くものだ。翻弄するように舞い、とん、と岩場に片足で降り立つ。
「本当、愉快な面しやがって」
 羽ばたきひとつ。涼やかな風と共にフクロウは人の姿を得る。ストールを翻し、は、と息をつく姿は青年——人の姿だ。
 この身は、若くして死した子孫の姿。その魂に触れ、一つとなったからこそ彼の姿を持って玲頼は告げるのだ。
「さぁさぁ来やがれよ。オレは逃げも隠れもしねぇぜ?」
「ぎょん!」
 フクロウの姿であった時には、見えることは無かった「玲頼」らしい笑みを浮かべ、ばしゃん、と派手に立った水音に玲頼は中指を立てて——笑って、見せた。口の端に笑みを乗せ、挑発と共に見せたのは真実、不敵な笑みだ。ざばん、と派手に立った水音と共に、叩き付ける風が来た。巨大魚の圧、だ。纏うストールが揺れ、ぎざぎざと荒れた歯が見える。
「ぎょぎょーん!」
 食いちぎらんと空けられた大口は——だが、風に揺れた。
「我が名と共に、守護の風よ――吹き荒れろ」
 巨大魚が生んだ風では無い。呼び起こされしは、真空の刃たる風。伸ばす指先と共に、誘われた風が巨大魚を切り裂いたのだ。 
「命知らずの魚クンから鱠にしてやるぜ」
「ぎょーん!?」
 ごとり、と頭が落ちる。落ちながら——なんか、声がした。
「だが、うん……あれを食おうっちゃ思わねーな」
 喋るし、なんか喋るし。明らかに頭突きをし損ねた奴が足場を崩してるし。
「……刺身にしたところで、喋りそうだろ。あれ」
 息をついて、真横、迫る巨大魚を玲頼の風が切り落とす。ぎょぎょーん、と謎の声を上げる巨大魚の波が収まったところで、玲頼は、とん、と岩場を蹴った。ひらり、とストールが風をはらみ——次の瞬間、玲頼はフクロウの姿へと変わっていた。
「……ほぉ、あれが入り口とはな」
 目指すは洞窟の中。
 悠然と空を飛び、その奥を目指した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
火神・五劫(f14941)と参加

「……本当にこれで良かったの?」

今の私はコンテストで着た黒のビキニ姿
たしかに水着なら水しぶきや海中に落ちても大丈夫だけど

「火神君はどう思う?」

誰が言い出したのか、断崖絶壁でする格好かしら?
羅刹に視線を向ければ、逞しい肉体を露わに泰然自若

「やることは変わらないから」

夜帷を振るい、敵に死の刻印を与えて【暗黒】を発動

「闇は闇に」

火神君への攻撃をかばい体当たりを受け止める
【怪力】で噛みつきを無理やり引き剥がす
問題は水流弾

「足場を崩されたら不利だと思う」

海に落ちて水中戦になれば彼らの本領発揮だ

「何かアイデアがあるのね?」

彼が飛翔して躍動する
私はその背にしがみつくのに精一杯


火神・五劫
舞(f25907)と

黒地の飾り気のない競泳水着姿にて
準備運動しつつ、舞へ答える

「これがこの島の作法だとばかり…違うのか?」

はて、水着の着用は誰の発案か
少なくとも俺ではないし
ましてや舞でもないようだが

「ああ。存分に暴れるだけだ。ついでに土産もいただければ僥倖か」

敵はでかい上に派手
狙いを付けるに困らんな
火影を構え、刃に体重を乗せ
『怪力』任せにぶった切ってやるか

かばってくれる舞には
礼を言いつつ釘を刺す
「あまり無茶はするな」

しかし、足場が悪い
水中戦に持ち込まれたら一気に不利になる
ならば

「簡単だ、飛べばいい…舞、乗れ!」

【鳳火連天】発動
舞を背負って宙へ
邪魔する輩には道を開けろの意を込め渾身の『頭突き』を



●潮騒を聞く
 見上げれば良く晴れた青い空があった。空の上は風が強いのか、雲も無い。眩しい程の日差しは、青々とした海には似合いであり——だが、打ち付ける波は海辺、浜辺と言うよりは岩礁だ。
「ぎょーん!」
「……」
 巨大な魚も、何故か鳴いているし。
 巨体が動く故だろう。吹き抜ける風が漣とは逆に動く。はらり、と揺れた黒のパレオに指先を搦め、日下部・舞(BansheeII・f25907)は息をついた。
「……本当にこれで良かったの?」
 今の舞は、コンテストで着た黒のビキニ姿だ。ひらりと舞うパレオは風に揺れ、障り心地の良い黒の水着は舞の白い肌に良く似合っていた。
 ——が、此処はどう見ても岩場だ。
 確かに、水着であれば水しぶきや海中に落ちても大丈夫そうではあるのだが。
「ぎょーん」
「ぎょぎょーん!」
 跳ねる巨大魚。何か鳴いている上に——恐らく、巨体故の攻撃力もある。
「火神君はどう思う?」
 誰が言い出したのか。
 断崖絶壁でする格好かしら? と舞が視線を向けた先、黒地の飾り気のない競泳水着姿の連れは、逞しい肉体を顕わに告げた。
「これがこの島の作法だとばかり……違うのか?」
 さらり、とそう口にしたところで、火神・五劫(送り火・f14941)は首を傾げた。
「はて、水着の着用は誰の発案か」
 少なくとも俺ではないし、ましてや舞でもないようだが。
 先を行った猟兵達の中にも、水着姿の者もいたが——やはり、海辺での動きやすさか。後は、暑さへの対応か。一つ二つと思い浮かべと、舞の言うように断崖絶壁ですることかと言われれば、はて、と悩むのだ。
「ぎょん」
「ぎょぎょん!」
 だが、巨大魚の方は待っているつもりは無いようだ。海面が揺れ、ぱく、ぱくと口を開く巨大魚が波を生む。
「——悩んでいる暇はないか」
 あれは、すぐに飛び込んでくる。
 息を一つ落とし、五劫は頭の中を切り替える。この地を戦場と、巨大魚を敵として捉える。纏う空気を変えたのは舞も同じか。
「やることは変わらないから」
 視線をひとつ、敵へと向ける。黒い瞳は、柔らかに靡く髪と共にこの地にひとつ影を作る。とん、と岩場へと蹴り出していくのは彼女が先か。
「ああ。存分に暴れるだけだ。ついでに土産もいただければ僥倖か」
 軽やかな背を追うようにして、五劫も岩場へと飛び移る。ダン、と前に飛ぶように叩き込んだ跳躍に、獲物を探していた巨大魚たちが動き出す。
「ぎょぎょ」
「ぎょぎょん!」
 敵はでかい上に派手。ごつごつと荒れた足場を足裏に捕らえ、五劫は火影を抜いた。
「狙いを付けるに困らんな」
「ぎょぎょーん!」
 素っ頓狂な鳴き声と共に、ぐわりと、巨大魚が大口を開けて跳ね上がった。海中から一直線に巨体が飛び上がれば、ゴオオ、と風が唸った。足場の一角が砕け——だが、この程度で落ちるつもりはない。
「狙いを付けるに困らんな」
 迫る頭突きに、構えた火影を振り下ろす。向かってくる分、刃に体重を乗せ、ガキン、とぶつかったそこから——怪力任せに五劫は巨大魚をぶった切った。
「ぎょぎょーん!」
「両断しても鳴くのか?」
「——変わった魚なんじゃないかしら」
 少なくとも、と舞は意識を集中させる。派手な水音は正面。だが気配が迫ってくるのは——背後だ。
「やることは変わらないから」
 足を引く。狭い足場とて構わず、踊るように抜き払った刃で舞は迎え撃つ。
「ぎょぎょん!」
 飛び上がったそれは、頭突きというよりは接近か。ぐわり、と大口が開くより先に夜帷を振るう。片刃の長剣の姿をしたそれは、ただの刃では無い。斬撃と共に、刻みつけるは死の刻印。
「闇は闇に」
 舞の言の葉が、全ての発動を告げる。
「ぎょん!?」
 尾っぽを振るい、一撃叩き付けようとしていた巨大魚が——傾ぐ。刻みつけたのは死の刻印である以上、絶え間なく生命を蝕む負の力が巨大魚を襲ったのだ。
「ぎょ、ぎょぎょん……!」
 落下の間、それでも、と放たれた水流に身を逸らす。たん、とん、と足場を移動した先で舞の視界で何かが光った。
「——あれは」
 巨大魚だ。あの奇妙な鳴き声も無いまま、向かう先は五劫の腕。食らいつく気か。
「——」
 そう、と分かった瞬間、舞は身を飛ばしていた。正面、巨大魚を切り落とす五劫の影に立ち、庇うように軸線に腕を伸ばしたのだ。
「ぎょん!」
 ガギン、と派手な音と共に血がしぶいた。巨大魚の体当たりを舞が受け止めたのだ。
「……」
「あまり無茶はするな」
 感謝する、と口にして——それでも、釘を刺したのは、己の腕に食らいついた巨大魚を怪力で舞が引き剥がしていたからだ。ぺち、と落とす舞に五劫は眉を寄せた。
「舞」
「私は、別に」
 それは傷のことを言っているのか。パレオの上を血が滑り落ちるのも構わずに、それより、と舞は海面へと視線を向けた。
「足場を崩されたら不利だと思う」
「——……、それは、確かにあるな」
 飛びかかってくる分に関しては、対応はできる。水流弾の勢いで、足場まで一緒くたに狙われては——最悪、水中戦だ。
「水中戦に持ち込まれたら一気に不利になる。ならば……」
 五劫が視線を上げる。ふ、と口元浮かべられた不敵な笑みに舞は夜帷を握り直す。
「何かアイデアがあるのね?」
「簡単だ、飛べばいい……舞、乗れ!」
 ぶわり、踊るは鳳凰を象ったオーラ。五劫の魂の炎は天翔る翼と成る。
「——」
 乗れ、と言われて。手を伸ばす。背負われたと気がついた頃には五劫が飛翔し、躍動する。舞はその背にしがみつくのが精一杯だ。
「ぎょぎょん!」
「——退いてもらうぞ!」
 逃がさないとばかり、正面飛びかかってきた巨大魚へと五劫が頭突きを叩き込む。ぐらり、と海に落ち、倒れていく巨大魚を背に二人は一気に洞窟へと飛び込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
ギョって鳴くのですか…あなた達…ギョ…
(何やらツボっている)

侮りも油断も勿論しないけれど
真顔を取り繕っても
肩が微かに震えているのは許して欲しい
だって魚がギョって鳴くのですよ
可愛すぎませんか

天を振り仰いで
空翔ける妖へ何故か言い訳

船底や岩場、空を軽やかにトンと蹴り
自身も魚達に向かって舞うように跳躍

どうせなら一緒に遊びましょうよ

とん、ととん、
彼らの身をトランポリン宜しく足場にし乍ら
上へ上へ
翻る夏の装いは風を孕み
書記と鳥の神、トートも斯くや
翼を広げた鳥影にも見えるだろうか

符を扇状に広げ持ち
空を薙いで起こす衝撃波で魚達を捌いてしまおう

それにしても
高みから見下ろす海は実にうつくしい
眩い宝石箱を覗くようです



●海鳴りに遠く
 蒼海に巨大魚が踊る。
 船が入り込めぬ岩場とて、巨大魚達にとっては庭であるのか。実際の所、コンキスタドール達ですら手を余らせた岩石海岸に、ばしゃん、と派手な水音が響いた。
「ギョ」
「ギョギョン!」
 ご機嫌な跳躍である。水面から飛び上がる餚は——まぁ存在はしているだろう。巨大魚であれば、飛び上がったときの勢いも強くなり周囲に齎す影響も大きくなる。ごつごつとした岩場は、彼らの戯れもあるのだろう。勢いよく飛び上がり過ぎちゃったとか。なんだかテンションが上がってしまったとか。
「ギョ!」
「ギョって鳴くのですか……あなた達……ギョ……」
 その勢いよく響いた鳴き声が、青年を打ちぬいていた。ツボっていたのだ。
 だって「ギョ」だ。相手は魚で。巨大魚で。海岸に住まう自然の番人で——……。
「ギョギョン!」
 鳴いた。鳴いていた。
「——……」
 侮りも油断も勿論しないけれど、真顔を取り繕っても都槻・綾(糸遊・f01786)の肩は震えてしまっていた。
「だって魚がギョって鳴くのですよ。可愛すぎませんか」
 天を振り仰いで、綾は空翔ける妖へと言い訳を紡ぐ。何故か——、半ば思わずに近く、肩を震わせる綾につん、と妖が顔を逸らしたのは、巨大魚が可愛いと言われたからか、それとも、あの『ギョ』が気になってか。打ち付ける波は変わらず、鋭い牙は海面を移動するものを獲物として捉えようとするのだろう。
「ギョン」
「ギョギョン!」
 ばしゃん、と跳ねて。巨大な魚とて、空を舞う。高く、高く、飛び上がった先——賑やかな声と共に目が合った。
「ギョ!」
「——」
 来る、と分かったからこそ綾は岩場を蹴った。軽やかに次の岩場へと身を飛ばし、飛び込むように弧を描いた巨大魚達を見送るように、細い岩場から足を——落とした。
「翔けて跳ねて、」
 空を軽やかに、トン、と蹴る。ふわり、羽織を揺らして綾は空を飛ぶ。
「ギョ!」
「ギョギョン!」
 先に上がった巨大魚達に向かって、舞うように高く、身を飛ばす。片足、階段を上がるようにして。着地の先で、迫る尾に身を逸らす。一差し、舞うようにしてくるり、と回る。
「どうせなら一緒に遊びましょうよ」
「ギョ!?」
 同じ高さに、誰かがいることに驚いた巨大魚たちが声を上げる。眼をぱちくりとさせたその姿に綾は、ふ、と笑った。頭上にひとつ見えた空翔ける妖の影に、ギョン、って。と思わず先に言ってしまう。
「ギョ、ギョギョン!?」
「ギョンギョ——……!」
 笑う男の前、巨大魚達も驚いたと話をしているのか。軽やかに空を蹴った綾は、とん、ととん、と巨大魚へと飛び移る。彼らの身をトランポリン宜しく足場にして、上へ、上へと飛んだ。
 翻る夏の装いは風を孕み。書記と鳥の神、トートも斯くや。海面に映る影は、翼を広げた鳥影にも見えるだろうか。
 ひゅう、と遠く、誘いの風が天へと抜けた。符を扇状に広げ持ち、ギョギョン、と足場にした巨大魚たちが飛び上がってくるそこへと——放った。
「ギョ!?」
「ギョーン……!」
 ギョーンギョーンギョー……、と謎のエコーを残しながら、空を薙いで起こされた衝撃波に巨大魚が捌かれる。最初から最後まで、妙に賑やかだった巨大魚を見送りながら、ふと綾は煌めきを見る。
「高みから見下ろす海は実にうつくしい」
 ざばん、と跳ねた波。日の光を受けた波は、海は何処までもキラキラと輝いて。
「眩い宝石箱を覗くようです」
 吐息を零すようにひとつ、笑う。今日見た煌めきを、忘れぬようにとそっと、指先で空からなぞった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
冒険、宝、これに心躍らせぬ海賊はいない!
そして、これはこれは立派な魚だねぇ。
堅そうだが、囓ってみるまで味はわからないからねぇ。

上だけを脱いで、半身を顕わに。
鮮やかな赤い布は腰に巻き付け。
剣を支えるためにはベルトが必要だしね。
うん、涼しい。

ははは、魚が飛ぶか。
構わないよ。我は逃さないとも。
岩場を慎重に渡りつつ間合いに入れば舵輪を投げる。
安易に接近するのは危険だろう。
旋回する舵輪の軌道で誘導しこちらに来て貰うという作戦さ。

おお、高い高い。けれど、残念だったねぇ。
双剣の力を解き放ち、一気に強烈な一撃を狙って仕掛ける。
綺麗におろしてあげよう。

どんな困難も乗り越えて見せよう。その先に、お宝があるならば!



●それこそ果てなき冒険への旅路
 晴れ渡る青空の下、波は荒れていた。コンキスタドール達ですら手を余らせる岩石海岸。彼らの船ですら乗り入れることのできないその一角は、ごつごつとした荒れた岩場だ。確かにその向こうには岸壁から続く洞窟は見えるが道、というよりは足場に近い。
「冒険、宝、これに心躍らせぬ海賊はいない!」
 だからこそ、ハディール・イルドラート(黄金狂の夢・f26738)は笑みを浮かべていた。難所ではあるが足場は残り、しかも行く先は洞窟で、島には宝の伝承がある聞けば——冒険心をくすぐられるのだ。ピンク色の瞳を細め、一つ二つと、行く先の岩場を見つけておく。ぽつり、ぽつりと立つだけのそれに、ばしゃん、と派手に波がかかった。
「ギョ」
「ギョギョン!」
 巨大魚達だ。
 派手な色彩の体は海から上がってしまえばよく目立つ。巨大な尾で海面を叩けば、足場を濡らす。。
「そして、これはこれは立派な魚だねぇ」
 ぱっくん、と岩場を渡ってきた者を食べる気なのだろう。ぎざぎざとした歯は岩場を砕くほどに強く、巨体を持ち上げても悠々と巨大魚は海の中へと帰って行くのだ。
「ぎょん!」
 謎の、威勢の良い鳴き声を残して。
 ——そう、鳴くが魚なのである。
 勢いよく跳ねたら口から漏れただけかもしれないしねぇ、とハディールは思う。
「堅そうだが、囓ってみるまで味はわからないからねぇ」
 陸も制覇しようとする魚だろうか。ちょっと余裕で空を舞っている気もしなくもないが。お腹の辺りが腹筋みたいに見えなくも無いが——不思議生命体との出会いは冒険につきものなのだ。
「それが、危険な魚っていうのもね」
 海らしい。
 海賊は、数多の海原で神秘と出会い、冒険と共に七つの海を踏破したのだから。
 ざぁああ、と波を渡る潮風に、靡く柔らかな髪をそのままに上だけを脱ぐ。袖を抜き、半身を顕わにするとハディールは鮮やかな赤い布を腰に巻き付けた。剣を支えるためのベルトだ。軽く頭をふるえば、白い耳が立つ。
「うん、涼しい」
 折角の海。折角の日差しの下だ。
 トン、と軽やかに先の岩場へと踏み込めば、海面が揺れた。
「ギョン」
「ギョギョーン!」
 暴風雨に似た轟音と共に『それ』は跳ねた。
「ギョギョン!」
 巨大魚たちだ。
 勢いよく身を空へと飛ばしたのは、岩場を行くハディールより高さを取るためか。食らいつくのが間に合わなくとも、あの巨体で落ちてこられれば——間違い無く、危ない。
「ははは、魚が飛ぶか。構わないよ。我は逃さないとも」
 タン、と次の岩場に飛ぶ。跳躍と共に舵輪を投げた。追いかけるだけで言えば容易いが——あの巨体。安易に接近するのは危険だ。
「ギョン!」
 だからこそ、舵輪を投げる。弧を描くそれは、投げてもハディールの手の中に帰り着くもの。そして、舵輪が海上で弧を描けば——巨大魚達が、動いた。
「ギョン!」
「ギョギョン!」
 高く、跳ね上がった彼らが上空から向かい来る。晴れ渡った空から届く日差しが巨体に隠れ、ざぁああ、と迫る圧が風を招く。
「おお、高い高い。けれど、残念だったねぇ」
 だが、その危機にハディールは笑った。凡そ、危機とも思わぬままに、海賊は不敵に笑う。
「綺麗におろしてあげよう」
 低く、身を沈め二刀を抜く。足場は悪くとも——何、船上と変わりはしない。双剣の力をハディールは一気に解き放つ。唸る風音と共に、薙ぎ払う斬撃は迫る巨体を捌き——その奥、大口を開けた巨大魚さえもおろす。
「ギョ!?」
「ギョギョーン!?」
 真っ二つになりながらも、鳴き声を残して巨大魚たちは海の中へと落ちていく。派手に上がった水飛沫に濡れる前に、タン、とハディールは岩場を移れば、奥に洞窟が見えてきていた。仄暗き道の向こう、果たして何が待っているのか。
「どんな困難も乗り越えて見せよう」
 戻ってきた舵輪を手にハディールは笑みを浮かべた。
「その先に、お宝があるならば!」
 ——さぁ、冒険を続けよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『南洋島の古神』

POW   :    崩れ得ぬ神嶺
【巨大な拳】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【地盤を自らへ取り込み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    神体宝玉の瞳
【視線】を向けた対象に、【頭部へ納められた宝玉より放たれる魔力】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    島ハ我也、我ハ世界也
自身からレベルm半径内の無機物を【自身を構築する遺跡建材】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宝玉に神ありて
 それは竜種にとっては儀式であった——という。より強き個を残す為の儀式であり、尊き炎への弔いであり見送りであった、と。
 遠く、アックス&ウィザーズより辿りついたその島は、竜達の戦いの名残。弔いの果て。巨竜に相応しき宝が眠る地。
 ——そして、この地に宝が眠るからこそ『その』姿は此処にあった。

●信仰の先
 見回りのコンキスタドール達を退け、洞窟の奥へと進んだ猟兵達の目に入ったのは今までの狭い洞窟とは違う、開けた空間だった。長く、うねった道を抜けた所為か、広いというよりは高い、と感じる。屋根の代わりに木々が生い茂る弧を描くように何かが屋根を作っている。
 宛ら、自然の要塞か。
 廃墟となったそこを利用するように、コンキスタドール達は要塞を作り上げたのだろう。正面から向かえば、相応に迎撃の用意があったらしい。
 ——だが、此処は無人だ。
 中枢へと飛び込んだ時には、まだ息の合ったコンキスタドール達ですら逃げ出した。逃げ切れているかは分からないが。
「誰も……」
 浅く口を開く。猟兵の一人が訝しむ声を上げて——口を噤んだ。誰もいなかった、開けた空間に影が落ちた。巨大な影。猟兵達をすっぽりと包むほどのそれに、この地の真の支配者を知る。
「   」
 声はなかった。だが、姿だけがあれば十分だ。
 南洋島の古神。
 然る島で信仰されていた神は、今や忘れ去られ——だが、仰ぐ者は既に居なくとも、神として在り続ける。この地にある宝は、かの神を奉じるに値する宝石であり、それが故に南洋島の古神の存在は確立する。
 ゴォオオ、と風が唸るように古神が身を起こす。要塞を揺らす古きモノ。要塞の核たる者。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 自身の座す島内であれば、大抵の物理現象さえ己の中に再現せしめるもの。故に、この地は広大にして巨大な自然の要塞となり——同時に、相応の迎撃機能を持った。
「我ハ——」
 山嶺の如く巨なる神が、この地の支配者として姿を見せた。


◆――――――――――――――――――――――――――◆

プレイング受付期間:8月7日(金)8:31〜

*戦場はひらけており、戦うのに十分な広さがあります。
*要塞からの脱出は3章からです。2章はボスとの戦いのみとなります。

◆――――――――――――――――――――――――――◆
日下部・舞
火神君(f14941)と参加

「彼を屠れば財宝は思いのままね」

言ってみたけど、自分でも棒読みだと思う
今は古神を倒すことに集中する
パレオをなびかせて駆け出した

「彼を惹きつけて」

夜帷を振るい斬り払う
攻撃を武器受け、パレオで絡め取り捌きながら回避する
火神君が作った隙を突いて連続攻撃

「やっぱり水着は違うと思う」

ミュールサンダルに足をとられて体勢が崩れる
殺到する建材を羅刹の男が受け止めている

「火神君!」

【影時間】を起動

彼と自身を透明化、動けない羅刹を抱えて一度距離を取る

「私なら大丈夫。だから無茶しないで」

心配そうに受け止めた彼に触れる
逞しい体には傷一つない

「でも、ありがとう」

【影時間】を解除
戦闘を続行する


火神・五劫
舞(f25907)と

「財宝…ああ、そうだな」

舞に答えるものの
視線を古神から外せない
感じるは深い敬意と、言うなれば郷愁
俺の故郷もこういった存在に守られていたのだろうか

思考を現へ引き戻すは
靡いたパレオの軌跡
「ああ、任せろ」
彼女と此処にいる理由を忘れてはいない

「掛けまくも畏き者とお見受けする」
古神の真正面から
堂々と声を張り上げ挑む
火影は抜かず、俺自身の両の手で

巨体の動きを『見切り』
躱してからの『カウンター』
身体の繋ぎ目を拳で抉っての『部位破壊』を試みる

舞の危機には瓦礫との間に割り込み
【堅牢地神】で守り抜こう

敵と距離を取ってのち
僅かに瞳を和ませ笑う
「無茶をするな、はお互い様だったな」
さあ、時を進めよう



●祈誓
 巨大な影は、ただ、在るだけで一種の威圧感を与えていた。轟音と共に立ち上がった南洋島の古神がこちらを見下ろす。頭部にひとつ、鈍く光ってみせるのは瞳か。怪しく光るのでは無く、ただ僅かに圧のようなものを感じさせるそれに日下部・舞(f25907)は息をついた。
「彼を屠れば財宝は思いのままね」
 それらしく、で選んでみた言葉ではあったが、自分でも棒読みだと思う。宝の眠る島に、コンキスタドールの要塞、島を守る神——と、要素だけは確かに揃っているのかも知れないが。
「財宝………ああ、そうだな」
 ややあってそう応えながらも、火神・五劫(f14941)は古神から視線を外せずにいた。
 古き神。今や忘れ去られだが、仰ぐ者は既に居なくとも、神として在り続ける存在。
「——」
 薄く開いた唇は言葉を作ることは無く、ただ五劫が感じるのは深い敬意と言うなれば郷愁であった。
(「俺の故郷もこういった存在に守られていたのだろうか」)
 山奥の里。全てを骸の海から現れた妖に奪われたあの地も——……。
「彼を惹きつけて」
 沈みかけた思考を、現実へと引き戻すのは靡いたパレオの軌跡。トン、と軽く地を蹴った舞が古神へと踏み込んでいた。
「ああ、任せろ」
 彼女と此処にいる理由を忘れてはいない。
「島ハ我也、我ハ世界也。我ハ——……」
 振り上げた腕でさえ、影を作る。だが、流石に大ぶりだ。一足、加速するように間合いへと踏み込んで舞はたたき落とされる腕を躱す。横を抜け、踏み込んだ足を基点に身を翻す。翻弄するようにパレオがひらり、と揺れれば、もう片方、伸びた腕が風を生む。
(「——来る」)
 打ち付ける拳だ。打撃より先、風を肌に感じながら舞は身を低める。だが、避けはしない。真っ正面から挑む、五劫の姿を見たからだ。
「掛けまくも畏き者とお見受けする」
 告げる言葉こそ、古神を惹きつける言葉。神としてあり、神として仰がれていたものはそれが故に挑むモノを無視はできない。
「——我ハ、神ナリ」
「——」
 あぁ、と応じる言葉の代わりに五劫は踏み込んだ。その手に火影は無い。両の手で、舞を狙った拳が戻ってきたそこに身を逸らす。ゴォオ、と風が突き抜けた。一撃、穿つ攻撃を躱しただけだ。
(「だが、動きは素早くは無い、か」)
 巨体が故だ。速さよりは重さが強い。外れた拳で床を掴み、だが、ぐん、と古神は顔を上げた。
「今コソ我ガ神嶺ヲ」
 告げる瞬間、打ち出された拳が速度を得た。ヒュ、と空を切る音に五劫は身を飛ばす。逸らす程度では躱しきれない。右に振った体を軸に、通り過ぎていった拳を、古神を見る。バキバキ、と音を立て要塞の内部が古神へと取り込まれていく。
「これが神嶺か。だが……」
 その継ぎ目へと迷わず五劫は言った。叩き込む拳に、巨体がこちらを向く。身が影の中に落ちる。だが——それで問題は無い。
「……」
 ひらり、と戦場を舞う彼女が古神へと迫っていた。打ち出された拳は容易くは戻れない。開いた身へと、深く踏み込んだ舞の一撃が古神に沈む。引き抜いた先、薙ぎ払う刃で迫る指さえ切り裂いた娘は、とん、と軽やかに着地をして息をついた。
「やっぱり水着は違うと思う」
 海だとしても、島だとしても。
 巨大な魚と——神というものを相手にこれはどうにも違う気がする。降り注ぐ破片の中、ほう、と一つ息をついた舞の体が、ふいに、傾ぐ。
「——」
 ミュールサンダルに足を取られたのだ。
 体勢が崩れれば、敵の間合い、古の神が見逃す筈も無い。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 告げる言葉と同時に建材が頭上に来た。影が舞の頬に触れる。避けるには——足らない。あれは落ちるのでは無く、神の手によって集められ向けられるのだから。
(「これは……」)
 身構える暇も無く、ただ危険ね、と思った舞の視界が遮られた。
「耐え抜いてみせよう」
 五劫だ。瓦礫との間に割り込み、庇うように立った男が全てを受け止めていた。
 ガウン、と重い音が響く。衝撃で床板に罅が入る。自然の要塞は、今や古神によって作り替えられ、木々によって強化され鋼が食い尽くされていく。
「——我ハ」
「火神君!」
 だが、その最後の一撃が五劫を捉えるより先に、舞は彼へと手を伸ばしていた。五劫と自分を透明化して、守り抜くが故に動く事が出来ない彼を抱えて、後ろに飛ぶ。支えを失った瓦礫が一斉に地に落ちた。
「私なら大丈夫。だから無茶しないで」
 心配そうに、舞は受け止めた彼に触れる。逞しい逞しい体には傷一つない。
「でも、ありがとう」
「無茶をするな、はお互い様だったな」
 僅かに瞳を和ませて、五劫は笑った。
「さあ、時を進めよう」
「——えぇ」
 影より出る。透明化を解除して、二人は神の座す戦場へと舞い戻る。古の神を、この地から解き放つために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴久名・紡
カミは独りで居ても確かにカミなんだろう
でも、多分……
そんな在り方は悲しいだけだ

神とは
人の信仰の果てに
あるもののはずだから……

ふと、叔父の事が過ったけれど
あの人の事を想うのは後にして

かりそめの記録使用
銀の矢に変化させた禮火を
黒の弓に変化させた葬焔で射かける
巨体だから外さないだろうけど
確実に当ててく

当たればある程度は回避対処は出来るはず
でも、命中率高いから
ちゃんと見切りや残像、ジャンプなんかも使って回避行動は取るよ
間に合わない場合はオーラ防御
ダメージは生命力吸収でカバー

必要に応じて、同一戦場に居る猟兵に
攻撃タイミングなどの情報は共有しておく

宝があるから、存在ししつづける
それはやっぱり悲しい事だから



●その神髄は
 ゴォオオ、と風が駆けた。吹き抜けるのではなく、ただ駆け抜ける。轟音と共に行くのは、巨体が踏み込むが故だ。速度こそ無く——だが、その体躯が島を震わせる。
「島ハ我也、我ハ世界也。我ハ——」
「……」
 その先に言葉が続く事は無い。神と本来座す島であれば言えたのか。南洋島の古神は、その在り方は何処までも神のそれではあったが——今や忘れ去られた神に守護は遠い。
「カミは独りで居ても確かにカミなんだろう」
 巨体を見上げ鈴久名・紡(f27962)は、薄く唇を開く。
「でも、多分……そんな在り方は悲しいだけだ」
 藍色の瞳に憂いが滲む。揺れる髪をそのままに、乾いた空気が、荒れたこの地が紡の心を揺さぶる。
「神とは、人の信仰の果てにあるもののはずだから……」
 希われ、思い慕われ。
 人々は仰ぎ、感謝し、時にその憎悪の全てを受け止めても尚、その果てに神は在り続ける。
「……」
 ふと、叔父の事が頭を過った。——だが、今は目の前の『神』の相手だ。
(「あの人のことを想うのは——……」)
 その後に。
 戦場へと意識を向ければ、金属製の床の一部が、既に古神に置き換えられたところだった。ごつごつとした木の根は、足場としては悪そうだが、動き出す気配は無い。
「それなら……」
 古神を正面に捉え、紡は禮火に触れた。
「暫くは覚えておくよ」
 告げる言葉は宣誓であり、かりそめの記憶。手にした禮火を銀の矢に、葬焔を黒の弓へと変化させ、番えた。
 ——キリリリ、と弓をひく。
 狙われた感覚にか、古神が振り返る。ダン、と踏み込みが地面を揺らす。だがその程度では紡は——外さない。
「——射貫く」
 言葉を一つだけ置いて、放った矢が巨体に突き刺さった。衝撃に、ぐら、と古神が傾ぎ——顔を、こちらに向けた。
「我ガ瞳ニ」
 瞬間、光が走る。古神の頭部へ納められた宝玉が魔力を放ったのだ。舞い踊る枝葉さえ焼き尽くし走る力に紡は身を振る。横に一度、着地した先から一気に壁を蹴り上げて上を取る。
「よっと」
 魔力が僅か追うように来る、と視えたからだ。矢を穿つことにより得た力。とはいえ、相手の命中率が高いのも分かっている。飛ぶようにいれた回避が、紡を魔力砲から救っていた。
「ひとまず、致命傷にはならなかったし良しとするかな」
 着地した先、低めた体で再び矢を番える。古神の頭部がこちらを向く。避けていた時より、攻撃を狙ったときに向くのは、その気配を感じ取るが故か。同じ戦場で戦う猟兵へと、そのタイミングを共有しながら紡は矢を構えた。
「……」
 島だと、古神は言う。神だと、古神は言う。
 仰ぐものは無くとも、基幹として存在し——それ故に、宝と結びつきこの地にあるもの。
「宝があるから、存在ししつづける。それはやっぱり悲しい事だから」
 忘れ去られた神に、眠りを告げるべく竜神と幽世に住まういずれかの種族の因果を持つ青年は弓を——引いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
おお、古き神か。
相手にとって不足は無い――
番人が強ければ強いだけ、お宝への期待が高まるというものだ。

頭部、視線と宝石の角度に充分気をつけ、その攻撃を誘って躱す。
舵輪も投げてみるけど、ダメージはあんまり通らなさそうだね。

近づけない風を装い、横に逃れ。動き回りながら隙を窺うよ。
喰らっても掠めても脚を止めない。
狙いは神の側面を確認できたときかな。

――ああ。巨大な神であれ、我が臆すことなどありはしない。
咆哮放って、距離を詰め切る前から全力で仕掛ける。
斬撃で魔力を斬り払い、踏み込む。
腕から駆け上り、宝石を切り出すように牙を振るおう。

ひとの世界を侵略するのは、海賊の在り方だからね。
悪いが、押し通るよ。



●海路は続き
 ひび割れた地面が震動により弾けた。バキ、と派手に聞こえた音さえも、轟音に散らされる。ガウン、と重く響いた落下音は、瓦礫の一つが地に落ちたからだった。最も、要塞が崩れた訳では無い。ただ——歩いたのだ。
「レハ島也。島ハ我也」
 南洋島の古神。
 然る島で信仰されていた神が歩き、その巨体が数多の振動を生んだのだ。
「おお、古き神か」
 仰ぎ見る瞳は、驚きよりも期待に満ちていた。パラパラと落ちてくる砂に軽く頭を振るい、ハディール・イルドラート(f26738)はゆるり、と柔らかな尾を揺らした。
「相手にとって不足は無い――番人が強ければ強いだけ、お宝への期待が高まるというものだ」
 神たるものが存在するほどの宝。要塞は、宛ら神殿の代わりか。振動ひとつで今更、驚く事も無い。——まぁ、今すぐ穴が空いてどかん、と落ちますと言われれば話は違うのだが。
「番人の方が先に落ちそうだからね」
 それは無さそうだし、何より今落ちてしまうのは勿体ない。ふ、と見上げた先、古神がひたり、とこちらを捉えた。
「我ハ、我ハ世界也」
 告げる言葉が空間を震わせ——次の瞬間、衝撃が来た。拳だ。
「おっと」
 振り上げられた拳が風を打ち上げる。駆ける風に、ハディールは身を横に飛ばした。衝撃波ほどの強さは無いが——巻き上がった砂が肌を切り裂く。
「随分と派手な攻撃のようだが——あぁ、それもお宝を前にした試練らしいとも」
 着地した先、古神の視線が追いつくのを見てから舵輪を投げる。弧を描いた一打が巨体にぶつかり——ガン、と鈍い音をたてた。
「ダメージはあんまり通らなさそうだね」
 だが、一打は、一つの攻撃として正しく神に届いた。鈍く落ちる光。古神の頭部、収まりし宝玉が光を放った。
「我ガ瞳ハ空也」
 最初に感じたのは威圧だ。光の圧。真っ直ぐ、見据えた先を捉えるように光は走り来る。
「——あぁ」
 そう、来る、のだ。
 一直線、己へと向かってくる力にハディールは床を蹴った。一歩、二歩目で身を低める。尾まで感じた熱に——トン、とハディールは飛んだ。床に手をつき、そのまま、転回する。
「よっと。船の上でなくても、動きは取れてね?」
 背を凪ぐように駆けていった光に、火傷のように痛むそれにハディールは小さく笑う。まぁ、脱いでしまったしねぇ、と落とす言葉はこの冒険を楽しむように響き、脚は——止めない。横に逃れ、崩れ落ちてきた岩を飛び越える。
「レハ、我ガ瞳ハ——」
 背を伝い落ちた血をおいて。尾を染める赤を置いて。ただただ、海賊は駆ける。光の威圧から逃げるように加速して、加速して——それを、見た。
「空也」
 古神の側面。その横顔。宝玉の瞳は海賊を捉えてはいない。
「――ああ」
 駆ける脚を止める。一歩、踏み込む筈の脚を基点に古神をハディールは見て——吼えた。
「巨大な神であれ、我が臆すことなどありはしない」
 激しい咆吼が空を震わせた。衝撃が空間を伝わり、巨大な神へと届く。
「レハ——……」
 肩口から腕が砕けた。首を伝い、古神に衝撃が届く。僅か、蹈鞴を踏んだ古神の放つ光が凪ぐように来た。——だが、その力にハディールは刃を振るった。弧を描く刃が魔力を切り払い、巨体の腕へと駆け上がった。
「ひとの世界を侵略するのは、海賊の在り方だからね」
 一足、飛ぶように行く。足場たる腕が崩れようが構わず前に出る。ゴオオ、と風音を響かせ振り返った古神へとハディールは行った。
「悪いが、押し通るよ」
 顔横へと飛び出る。薙ぎ払う刃から、宝石をえぐり出すように牙を立てた。偽神兵器たる刃——ナーブが岩石の顔を剔り、キン、と宝玉に罅を入れ、その一部を砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

梟別・玲頼
辿り着くと同時に人間態に変じ、巨影見つめ
――イワシリカムイ(岩石の島の神)
其方も私と同じく、忘れられた土地共に在りしカムイか
似ている――故に親近感が沸かぬ事も無い
一つ違えば私も過去の存在に成り果てたであったろうな

だけど(弓を番えて軽く首を振り)
済まねぇな…バケモンになっちまったお前さんを救うにはオレにはこれしか手立てがねぇんだわ
まずは一撃、風斬りの矢で射る
相手の視線から逃れる様に出来るだけ細かく動きつつ
頭目掛けて手を翳し、風の矢当てて此方見る事妨害
その挙動や身体構成、オレ自身の狩る者としての勘を元に、より効果的な部位を目掛けて羽矢を射る

心配すんなよ
お前の守護が無くてもこの島は大丈夫だ
約束するぜ



●黄昏、或いは黎明の
 空を仰ぐ地は、祭壇に似ていた。削り出された岩が目立ち、砂と土と——だがここは海の匂いがした。
「……」
 潮の香り。鉄の匂い。要塞としてある人工物の気配。その数多の主として立つものがこの地にはいたのだ。
「……」
 羽ばたきと共に、トン、と梟別・玲頼(f28577)は地に足をついた。片足で降り立ったフクロウは人の身を得る。ひらりとストールを揺らし、指先、軽く絡めただけで終えたのはこの地にある巨影を見たからだった。
「――イワシリカムイ」
 それは『岩石の島の神』と告げる言葉であった。
「其方も私と同じく、忘れられた土地共に在りしカムイか」
 コタンクルカムイたる玲頼には、守護する地があった。小さな村。人々は自然と共に生き、玲頼もまた人々と共にあった。——あの日までは。
(「似ている——」)
 あの神と、自分は。
 然る島で信仰されていた南洋島の古神は、今や忘れ去られ、仰ぐものも無く。それでも神としてあり続けている——コンキスタドールとして。
「一つ違えば私も過去の存在に成り果てたであったろうな」
 帰る地など、最早無かったのだ。開拓により土地は切り開かれ、玲頼の森は消えた。
「だけど」
 矢に番え、軽く頭を振る。月の名を持つ弓は、陽光の下、キラリ、と輝いた。
「済まねぇな……バケモンになっちまったお前さんを救うにはオレにはこれしか手立てがねぇんだわ」
「——レハ島也。我ハ世界也」
 ゴォオォオ、と風が生まれた。吹き上げるそれは、古神が一歩踏み込んできたからだ。巨体が動けば風が生じる。強大であるが故の威圧は——だが、カムイたる玲頼にとっては威圧としては届かない。
「——」
 靡く髪も衣もそのままに、キリリ、と弓を引いた。放つ風斬りの矢がヒュン、と戦場を走った。容易く巨体へと矢は届く。胴を射貫き、だが、それだけで止まらぬ古神も——予想通りだ。
「レハ、我ハ——」
「神だとは続かない……続けない、か」
 それは意を持つ言葉か、単なる偶然に過ぎないのか。脚を止めることだけはなく、床を蹴る。キィイイン、とふいに甲高い音と共に頭部の宝玉へと光が灯る。
(「来るか——……それなら」)
 回避の脚を、一度強く入れる。細かく、身を振り、着地した先で後ろに飛び指先に風を搦める。
「クンネチュプ・クよ」
 キリリ、と引き絞った先、風の矢が飛んだ。今度こそ、衝撃で古神が傾ぐ。頭部を射貫かれ、こちらを見失ったか。放たれる光は、その射線をずらし——だが、ふいに揺れる。
「探している、か。まぁ、そうだろうな」
 ここが此の神の島であるのならば、その全てを使い玲頼を探しに掛かるだろう。だが『それ』は玲頼にも分かっている。狩る者としての勘が、この身にはある。どれほど狭い場所であろうが、どれほど広大な森であろうが、どれ程巨大な敵であろうが——それが、生きて動いているのであれば。
「捉えられるさ」
 瓦礫を飛び越え、空にてふいに羽根が舞う。人の身のまま、手にした羽根は月の弓へと番えるが為に。放つ矢は、肘へ、崩れかけの肩口へ。迷わず届き巨体の体勢を崩した。
「レ、ハ——」
 ぐらり、と傾ぐ。手をつけば、大地が震えた。衝撃の中、常と変わらぬ様子で、ただ玲頼は静かに、古き神を見上げた。
「心配すんなよ。お前の守護が無くてもこの島は大丈夫だ。約束するぜ」
 コタンクルカムイより、イワシリカムイへ。南洋島の古神へと、玲頼は告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
信仰があってこそ神は存在する
ならば
宿り神たる己は
誰のどんな信仰のもとで
斯様に身を得たのだろう

本体である器物を愛でた人々か
然れど
香炉はもはや戸棚の奥にしまわれて
ひとの眼に触れることも滅多にないというのに

其れでも
世に在り続ける己と
仰ぐもの無き古神と

――ねぇ
私達は
自分自身を崇めて居るだけなのかしら
嘗ての栄光に縋って
世界の移り変わりなど識らぬと耳を塞ぎ
人心の変化にさえ思い至らず、

幽かな笑み湛え
ゆるりと唇に添える篠笛

荘厳な荒御魂へ捧げる、鎮魂の調べ
遥かなる島国の夕景の愛惜
やがて静かな眠りの宵の情景へと変移する奏で

ふわり解けた笛が
深い夜色の花弁となって古神を包んでも
耳に優しく残る旋律でありますよう、願って



●魂の揺りかご
 轟音と共に瓦礫が落ちる。床で砕け散った岩石は、咆吼に似た風音と共に床に飲み込まれた。咆吼を響かせるは、この地に座す神であるが故に。この地の宝石が、かの存在を神として存在させているが故に。
「——レハ、我ハ島也」
 床に触れれば砂塵が飲み込み、咆吼が如く響くそれは巨体が拳を振る音であった。
「……」
 神は仰ぎ見る者であるが故に。
 その巨体が生む影が頬に差し、その身を包み込むのにも構わず都槻・綾(f01786)は南洋島の古神を見上げていた。
「信仰があってこそ神は存在する」
 轟音の中、薄く唇を開く。揺れる髪をそのままに、夏の衣に触れた砂が流れていく。
(「ならば宿り神たる己は、誰のどんな信仰のもとで斯様に身を得たのだろう」)
 宿りの神。ヤドリガミ。
 長き年を使われた器物に魂が宿ったものとして、綾はある。信仰など凡そ——思いつきもしないままに。
(「本体である器物を愛でた人々か。然れど、香炉はもはや戸棚の奥にしまわれて、ひとの眼に触れることも滅多にないというのに」)
 其れでも、世に在り続ける己と仰ぐもの無き古神と。
 ——ふいに、ゴオオオ、と風が抜けた。見下ろしてあった神が、腕を振り上げたのだ。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 告げる言葉と同時に、周囲の瓦礫が建材へと組み替えられていく。この地の神として、その権能を示すようにして土塊を、要塞の機材を組み替え鋭き槍へと変えた。
「我ハ——」
 威圧と共に響いた声が射出を告げた。ヒュ、と空を切り裂き打ち出される槍を綾は舞うようにして避ける。肩口浅く剔られれば血が舞い、その飛沫さえ踊らせるようにして躱し、トン、脚を付けた。
「——ねえ。私達は自分自身を崇めて居るだけなのかしら」
 嘗ての栄光に縋って世界の移り変わりなど識らぬと耳を塞ぎ。
「人心の変化にさえ思い至らず」
 幽かな笑み湛え、ゆるりと綾は唇に篠笛を添えた。やがて紡ぎ出すは、荘厳な荒御魂へ捧げる、鎮魂の調べ。
 遥かなる島国の夕景の愛惜。紡ぐ調べは、やがて静かな眠りの宵の情景へと変移する魂の揺りかご。
「我ハ島、我ハ——……」
 南洋島の古神の動きが一瞬、鈍る。古神であるが故に鎮魂の音は響き届く。それは捧げられた調べであるが故に。
 宿り神から古の神へと。
「——……」
 せめて、と綾は願う。耳に優しく残る旋律でありますよう、と。
「いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ、」
 手にした笛がふわり、と風の中、解けていく。深い夜色の花弁が、残る槍を飲み込み古神へと届いた。柔らかな、抱擁となって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

あ~、神様ってよ
崇め奉ってくれるやつらがいねーと意味ねェだろ
まァ、神にはいろんなやつがいるから全部がそうとはいえねェけど
人の意のままになどならないからこそ神ってもんだ

……お前また、変なこと考えてんだろ(蹴りつつ)
顔見ればわかるんだよ、バカヒメ
お前は、俺の従者で俺のためにいればいいんだよ
一緒にいたいから、いるんだよ、俺は

島は我、まではまぁいいんじゃねェか
けど我は世界か、大きくでたもんだ

嵐を起して、相手が操るものを逆に飲み込み巻き上げてぶつける
どっちが神様ってやつかあれに教えてやろうぜ
そも、俺がこうして偉ぶっていられるのはお前がいるからなんだよな
お前がいねェと何も始まんねェよ


姫城・京杜
與儀(f16671)と

與儀はすげー神だからそう思うんだろうし、そんな主が誇らしいけど
忘れられ仰がれなくても、怪物になっても
神で在ろうってのは、俺には少し羨ましい
俺は自分が何で神なんだって、そればかりだ
簡単に死ねねェし、なのに誰も救えない
でも言ったら怒られるから
そうだな、って頷いてみせるけどバレてて
蹴られて気を取り直しつつ、主の盾に

世界とか支配したいか?
やっぱ分かんねェ…

視線感じたり何か操作してきても全部焔の盾で防ぐ!
一応これ神の炎だからな
與儀守るの最優先だけど
鋼糸や盾で敵の動き阻害し主を支援!
てか神って言うけどな…身の程知らないと痛々しいぞ

でも一つだけ、神でよかったのは
主と同じ時を過ごせる事だ




 砂塵舞う風が熱を帯びていた。宝玉の招く光は、熱線となって床を焼いたのか。焦げ付いた地は——だが一瞬のうちに床に変わる。要塞の床と、この島に似合いの自然を混ぜ込んだような姿へと変じれば、巨体がまた一歩、動く。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 その巨大な影は、凡そ人を威圧するには十分であった。——そう、相手が『人』であれば。
「あ~、神様ってよ、崇め奉ってくれるやつらがいねーと意味ねェだろ」
 その巨体を見上げ、英比良・與儀(f16671)は息をついて見せた。
「まァ、神にはいろんなやつがいるから全部がそうとはいえねェけど」
 金色の神を揺らし、見下ろす巨体——南洋島の古神へと視線を返す。古の神たる者の宝玉の瞳を、神たる少年は見据えた。
「人の意のままになどならないからこそ神ってもんだ」
 口の端、浮かべた笑みは告げる言葉によく似合う。それを不遜と言う者はいまい。與儀は神であり、また、その傍らの一人も神であった。
「……」
 與儀はすげー神だからそう思うんだろうし、そんな主が誇らしいけど。——けれど、と姫城・京杜(f17071)は思うのだ。
(「忘れられ仰がれなくても、怪物になっても。神で在ろうってのは、俺には少し羨ましい」)
 南洋島の古神に既に民は無く、この地は古神の座した地では無い。それでも、南洋島の古神は『神』としてあった。仰ぐ者は既に居なくとも存在しつづける——し続けられる者へと昇華された。コンキスタドールとして『南洋島の古神』であり続けるのだ。
(「俺は自分が何で神なんだって、そればかりだ」)
 簡単に死ねねェし、なのに誰も救えない。
 とぷり、と心の奥底に沈む想いがある。浮き上がるよりは染みるように、京杜を侵すのだ。何で神なのか、と。この手から零れ落ちるのに、救えないまま、また何もかも——……。
「——、」
 そう、口にしてしまうのは簡単で。でも言ったら怒られることは分かっている。だから、からり、と明るい笑みを京杜は浮かべて見せた。
「そうだな」
 與儀、と笑って見せた先で——打撃が来た。
「……お前また、変なこと考えてんだろ」
 ひゅん、と一発。華麗に決まった與儀の蹴りに、顔を上げる。
「與儀」
「顔見ればわかるんだよ、バカヒメ」
 お前は、俺の従者で俺のためにいればいいんだよ。
 薄く唇を開き告げる。見上げた先、揺れて、沈む従者の瞳を捉える。こちらを見ろとでも言うように。
「一緒にいたいから、いるんだよ、俺は」
 ——そう、與儀が口にした時、ゴォオオ、と風が唸った。古神がその腕を振り上げたのだ。走る衝撃波に與儀と京杜は身を飛ばす。トン、と後ろに躱した先、ふと京杜は顔を上げる。
「——與儀!」
 見られた、と思ったのだ。
 来る、と告げるより先に主の名を呼ぶ。一歩、己が前に出る。踏み込みと同時に舞い上がった焔が盾を紡ぎ上げる。
「我ガ瞳ハ——空也」
 次の瞬間、古神の瞳が光った。一直線、放たれる魔力が焔にぶつかる。紡ぎ上げ、重ね紡いだ焔は古神の魔力では——破れない。
「一応これ神の炎だからな」
 破らせない、と覚悟を込め、紅い焔神はその腕を振り上げた。ゴォオオオ、と翔る焔の壁が盾となり、魔力砲を弾き上げる。
「我ハ、我、ハ——」
 轟音と共に弾けた力を、與儀は見送る。一撃、防ぎ弾き上げた守護者の背を視界に、真っ直ぐに敵を、古神を見る。グン、と跳ね上げられた顔は、その視線は間違い無くこちらを捉えている。バキバキ、と崩れ落ちる石を気にせず、宝玉ではなく、この地の全てに変動が走るのを與儀は感じ取る。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 瓦礫が、欠け落ちた要塞の破片が、鉄くずが震えその形を変えていく。
 この地に座す神は南洋島の古神であるが故に。この地が、古神の真なる場所でなくとも、コンキスタドールとなった古神はその権能を発揮する。古神は己が権能を持って建材を鋭き形に組み上げていく。
「世界とか支配したいか? やっぱ分かんねェ……」
「島は我、まではまぁいいんじゃねェか。けど我は世界か、大きくでたもんだ」
 京杜の言葉に、與儀は小さく笑ってそう告げた。くるり、と一度回った建材は打ち出してくるか。
「……」
 ひゅん、と薙ぎ払うように與儀は腕を振るった。空を一度、切り裂くように、招くように。誘いを告げるように口元笑みを浮かべれば——嵐が顕現する。打ち出された建材がヒュウウ、と甲高く響く風音に飲み込まれていく。
「どっちが神様ってやつかあれに教えてやろうぜ」
 不敵な笑みを浮かべ與儀は告げる。
「レハ、我ハ島也。我ハ——」
 己が権能により操るものが飲み込まれたのは衝撃であったのか。巨体が、僅か身を起こす。だが、その先に届くのは全てを巻き込み進む嵐だ。
「てか神って言うけどな……身の程知らないと痛々しいぞ」
 風が切り裂き、片腕を砕いていた。主の嵐を見据え、蹈鞴を踏む巨体に京杜は言った。
 英比良・與儀という神を知っているからこそ。
「でも一つだけ、神でよかったのは、主と同じ時を過ごせる事だ」
 靡く髪をそのままに、静かにそう京杜は告げる。ほ、とどこか安心したようにさえ見える声に、與儀は口を開いた。
「そも、俺がこうして偉ぶっていられるのはお前がいるからなんだよな」
 お前がいねェと何も始まんねェよ。
 たった一人の守護者へと、與儀は告げた。今度こそ、その言葉が届いたかどうかは——嵐の行く戦場にいる二人だけが知る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
尾を一振り空打ち
竜種の習いであったなら
準ずるのが筋というものだろう

…巨きいな
竜と戦うだけはある
ただのひと撫でで仕留められる筈もない、が
お陰で的だけは見つけやすい

では儀式の作法に則って
古き竜には及ばぬ身ながら――御相手願おう

拳が掠めるか掴まれでもすれば致命と心得て
一時も止めることなく
翼で宙を翔け、脚で巨体を駆け
跳び移り、飛び越えて手を躱しながら
狙うは瞳と思しき器官への部位破壊
樹上を走るようにして
力任せに切っ先を叩き込む

僅かでも体勢を崩せたなら
振り落とされぬよう剣を楔に耐え
【雷帝】の一撃落とす

長い務めであったな、古神
たったひとつの使命であると
大切な宝を守り続けたものへ敬意を示して



●竜の弔い
 その地は古く、竜の微睡む地であれば。
 長きを生きた竜は死する前に、戦いを望んだという。より強き竜へと。戦いこそ竜の弔い。
 死力を尽くし、己が全てを賭け。広げた翼が風を喚び、穿つ咆吼が島に穴を空けたという。——そして、その身の全てを昇華して大地に還るのだ。
『ルグァアアアアアアアア』
 高く、高く響く竜の咆吼こそ終焉を告げる。弔いの声。黒き竜は銀竜の爪に敗れ、弔いに咆吼が響いた時、この島には名が生まれたという。
 デュンファリ。
 騒然と駆けゆくもの。
 竜種の誇りを持って戦い、弔う地。
 竜の微睡む地についた名は、グリードオーシャンに落ちてきても尚、残った名。

●黒き竜人は告げる
 床板が衝撃にひび割れていた。あれ程の巨体、動き回れば容易く轟音が生まれ、地に手をつけば重さと衝撃波で床が弾ける。それでも、この床が砕け散ることが無いのは、あの巨体がこの地の要であるからだろう。
「島ハ我也、我ハ世界也」
 南洋島の古神。
 山脈の如く巨なる神。今はもう忘れ去られ、仰ぐ者は既に無くとも、ただ神として在り続けるもの。そして『神』であるが故に、この地は保たれる。どれ程の衝撃を受けても、頭上から落ちてくる破片はあれど地は崩れず、とうの南洋島の古神が肩口を深く剔られ、頭部に傷を受けていようとも代わりはしなかった。
「……」
 落ちてくるのは、岩石ばかりだ。派手な音をたて、一つ落ちてきた破片を目の端にジャハル・アルムリフ(f00995)は尾を一振り、空を打つ。
「竜種の習いであったなら、準ずるのが筋というものだろう」
 戦いこそ竜の弔い。そう、この地に伝わるのであれば——己が行うはひとつ。
「レハ、我ハ——」
 古神が身を起こす。その巨大な影がジャハルに掛かった。すっぽりと包み込むようして、見下ろす気配へと視線を返す。
「……巨きいな。竜と戦うだけはある」
 ただのひと撫でで仕留められる筈もない、がお陰で的だけは見つけやすい。要塞の中は、こちらの戦場としては申し分無いが、古神にとっては存分に暴れるには足りぬ場だろう。島ハ我也、という古神にとっては、然程関係の無いことかもしれないが。
「では儀式の作法に則って。古き竜には及ばぬ身ながら――御相手願おう」
 ザァアアアア、と足元、浚うように腕が来た。床まで一気に剔るように薙ぎ払いが轟音を喚ぶ。
「——」
 衝撃が届くより先にジャハルは翼を広げた。羽ばたきひとつ、一気に上へと行く。あれは単純な薙ぎ払いだ。まだ力を篭めきられてはいない。本命は——この後か。
「島ハ我也、我ガ神嶺也」
 ゴォオオオ、と打ち上げる風と共に拳がせり上がってきた。飛び上がったジャハルを追うように、拳が来る。
「あれに掠ったとて無事では無いだろうな」
 捕まれば、それこそ致命だ。
 ならばこそ、強く空を翼で叩いた。加速する。ぐん、と一気に上へと飛び上がり、身を横に振る。翼で宙を翔け、一気に巨体の胴に降りる。壁面を駆け上がるように逆の腕へと一気にかけていく。流石の古神とて、己を、己の拳では打てまい。
「レハ、我ハ——島ハ我也」
 ゴォオオン、と風が宙に抜けた。巨大な拳が外れ、バキバキと周辺の地形が崩れていく。衝撃に落ちたのではない。南洋島の古神が自ら、取り込んでいるのだ。
「我ハ——世界也」
 甲高く、一つ音が響くと同時に頭部の宝玉が光を零す。崩れた片腕を補強するように地盤を取り込んだ古神の腕が、迫った。
「——」
 己の腕を、掴み砕くほどの勢いで。
「速いな」
 ブン、と一撃、穿つほどの勢いに、腕から肩口へとジャハルは一気に飛ぶ。タン、と地を足で蹴って、衝撃の伝わる腕を駆け上がる。狙うは、頭部。あそこが間違い無く『眼』だ。
 ——タン、と一気に駆け上がる。行き先に気がついたか、古神の腕が来る。グン、と穿つそれは、先に躱したときより大きく——だが、大きいだけであれば躱す手立てはある。
「レハ島也。我ハ——」
 ゴォオオ、と短く、唸る風音と共に拳が来た。その衝撃に向かってジャハルは跳ぶ。来る拳へと飛び移り、タン、と着地の足で剣を抜く。一気に拳から肩口まで駆け上がった。頂きへと足をかけ、樹上を走るようにして眼前に、跳ぶ。
「レハ、我ハ島也。我ガ神嶺ハ——」
「——あぁ」
 広げる翼と共に竜は告げる。黒き翼を広げ、己が全力で——力任せに影なる剣を、その鋒を叩き込んだ。
「レハ、我ハ——!」
 ぐらり、と巨体が揺れた。頭部に納められた宝玉に、バキ、と罅が入る。衝撃に古神は身を揺らした。
「レハ、我ハ我ハ——」
 だん、と地に手を突く。戦いの中、要塞と、大地が剥き出しとなった地を拳で叩く。衝撃に、振り下ろされないようにジャハルは剣を握った。宝玉に突き刺したままのそこを、楔とするように衝撃に耐え、翼を広げる。
「そこだ」
 バキ、と空間が震える。ジャハルの角が紫雷を纏う。空を震わせ、雷を響かせ——そして、雷撃は高速の一撃となって、剣を伝い古神へと落ちた。
「レハ、我ハ、レ、ハ——」
 それは術のかたちを編めぬならば、と得た技。其の侭に穿てばいい、と竜の雷光は神へと届き——巨体が、傾ぐ。地へと倒れ込んでいく巨体からジャハルは飛び立つ。
「長い務めであったな、古神」
 地に降り立ち、黒き竜人たる青年は告げた。嘗て、この地にあった竜種の習い、その弔いのように。たったひとつの使命であると、大切な宝を守り続けたものへ敬意を示して。
 そうして、南洋島の古神は、地に倒れ込むようにして姿を消した。大地へと還るように、骸の海へと沈み行く。この地にある宝石を護り続けた神は、そうして再びの眠りへと旅立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 冒険 『爆発・冒険・大脱出』

POW   :    壁を破壊するなど、力任せに脱出する

SPD   :    隠された扉や通気口などを利用して、素早く脱出する

WIZ   :    被害を遅らせるような仕掛けを用意して、脱出までの時間を稼ぐ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●竜の微睡む島
 要塞の要たる神が崩れ落ちる。島で在り、世界で在ると告げた存在が消えて行けば、ぽっかりと空を仰ぐ巨大な空間だけが残った。大砲を備えた要塞は急速に錆び付き、枝葉に飲み込まれていく。
 ——ドォオオン、とふいに振動が生まれた。
 要塞を飲み込む根が生んだ振動か、逃げなければ、と猟兵達の誰もが思った瞬間——来た道が、崩れた。
「——は?」
 キィイイインン、と甲高く響く音が一つ。要塞内部に残っていたモニタに映しされたのは『機動』の一文字。多くの言語で綴られ、呪文めいたそれが示すのはただ一つ『自爆装置の機動』だ。ガウン、と轟音と共に、来た道が火を噴く。上は、と思った先で、岩石が塞いできた。
「……」
 周到である。
 自爆装置なので周到なのである。或いは——この地に眠る宝石を、コンキスタドール達ですら、奪いきれてはいない宝を沈める為だろう。既に要塞の一部が沈みかけているのか、足元が大きく揺らいだ。
「いやいやいや、出口どこだよ!?」
「あ、待て彼処……! コンキスタドールが出てきた当たりに、洞窟がある!」
 爆砕と共に後ろの道が崩れ落ちれば、要塞の要たる神の起き上がった先に、衝撃で生まれた穴がいくつかあった。迷路のようになっているようだが——この巨石の後ろは、要塞島の本来の入り口だ。最後は脱出が出来るはずだ。
 悩んでいる暇は無い。見つけた穴へと飛び込んだ猟兵たちの足元が揺らぐ。衝撃によっては、足元も崩れ落ち、海が見えるだろう。そのまま泳いで脱出することは、海流の厳しさを思えば無理だろうが——内部の海中トンネルのような空間を、泳いで抜けることはできるはずだ。
 だが、どんな道を進んで脱出しようが、君達の目に煌めきは届くはずだ。
 そう、ここは、宝石の眠る島。
 竜の抱いた宝のある地。
 両翼は金のコインを抱き、水に濡れれば煌めき咲く水晶の花を抱いていた——という。
 震動や衝撃によって、そこに続く道は見えるはずだ。
 爆発し、崩落していく洞窟から全力でひたすら逃げるか。お宝と出会う為に駆け抜けるか。——さぁ、君ならどうする?
◆――――――――――――――――――――――――――――――――◆

プレイング受付期間
8月22日(土)8:31 〜 8月25日(火)いっぱい

爆発したり崩落する洞窟から逃げながらお宝を探そうの回。
最後に「脱出する」というプレイングがあれば、間に宝探しをしていても脱出OKです。

脱出ルートは
1)洞窟内をひたすら頑張って移動する
2)崩れた箇所から海中トンネルのような空間を使って必死に移動

のどちらかをご選択ください。
だいたいざっくりとした雰囲気ルートです。

見つける宝については、
・竜が両翼で抱いていたとされる金のコイン。
・水や海水に触れると煌めいて咲く、透明な水晶の花(水などに触れない限り見つからない)

などがあります。他の宝でもだいたいOKです

お任せの場合は、探す場所によって変動します。
竜の逸話にそってこんなのがあるかも……な感じの場合はそれっぽいものを。

*アイテムの自動発行はございません。
*敵の出現はありません。島内のコンキスタドールは全て倒されました。

それでは皆様、ご武運を。

◆――――――――――――――――――――――――――――――――◆
鈴久名・紡
……誰だったかに、聞いた事がある
お約束、というのだと――

一先ず、島の外を目指しつつ
探索して行こう
脱出ルートは2)

海中トンネル……みたいだけど
所々、顔は出せそうだ
息継ぎの心配がないのは安心できるけど
おっと、行き止まりだ……

戻る途中で自爆装置の起動の影響か
天井の岩が沈んで来る
今のところ、
そんな進路を塞ぐようなサイズじゃないみたいだけど
それでも時間の猶予は無さそう?

そんな事を考えながら進む
俺の目の前に何処かから落ちてきた、花
あぁ、これは水晶なのかな?
花を内包してるみたいだ……
何となく、竜珠っぽさもある

流石、竜の抱いた宝の眠る島
見失わない内に手に取って

脱出する
帰ろう、このお宝を持って……帰るべき場所へ



●竜の抱いた宝
 轟音と共に、大地が揺れた。爆発と同時に自然の洞窟を使って作られていた要塞に水が流れ込んでくる。海水だろう。足先を濡らす水と、吹き抜ける風に鈴久名・紡(f27962)はたっぷりと間を開けて——息をついた。
「……誰だったかに、聞いた事がある。お約束、というのだと――」
 ドォオオオン、と派手に上がった爆発を背に、二度目のため息を落として紡は地を蹴った。爆発する遺跡は辺りだとか、まぁ遺跡と言えば爆発だとか。宝と言えば遺跡壊れるから足場もなくなるし、とか。宝無いと無事なんだよなぁ、みたいな話は誰のものであったか。世の中全ての遺跡がそうであるとは言わないが——どうやら、今、紡の足場は正直言って、危ない。
「……、海中トンネルだな。あっちに行くか」
 ひたすら走るのも良いが、落ちる可能性があるなら最初から泳いでしまっていた方が良い。島の外を目指し洞窟を進み、下へと——海面の覗く空間へと迷わず飛び込んだ。
「——」
 バシャン、と派手に上がった水音と共に、一度、上に出て空気を吸う。幸い、水着だ。泳ぐのに問題は無い。
「海中トンネル……みたいだけど。所々、顔は出せそうだ」
 立ち泳ぎの要領で進みながら、見えなくなった道に、息を吸う。一気に身体を沈め、ぶくぶくと上がる泡が落ち着いたところで瞳を開く。
(「……結構、綺麗みたいだな」)
 海中は、まだ濁ってはいない。島の外にあった海流も此処には影響していないらしい。ひとまず、移動には問題は無さそうだ。周囲を見渡し、ゆっくりと身体を沈めながら泳いでいく。潜ってしまえば進めないと思っていた道も、通れるようになる。アーチ状の空間を抜け、柱のようなごつごつとした岩を掴んで、次の息継ぎの空間に向かう。
「——は」
 荒く息を落とし、海中から顔を上げて紡は周囲を見渡した。ごつごつとした岩には、削られた跡がある。元々は遺跡だったのだろうか。紋章めいた彫刻は風化して読み取ることはできない。
「……」
 この地は、竜に纏わる伝承がある。それに関することだろうか。地上に上がってみるには、流石に海面からは高さがある——それでも、どこか澄んだ空気を感じたのは神域に近いものがあったからか。ほう、と一つ息を落とし、紡はぱち、と瞬いた。
「おっと、行き止まりだ……」
 先に続く道が無い。ふ、と息を零し、一杯に空気を吸って海中トンネルへと戻る。まずは——さっきの分岐だろう。ゴォオ、とふいに海中に伝わるほどの振動が来る。押し出されるような水流に、紡は海中の柱を掴んだ。
(「あれって……天井の岩か。今のところ、そんな進路を塞ぐようなサイズじゃないみたいだけどそれでも時間の猶予は無さそう?」)
 ここで溺れて終わるつもりは無い。
 派手に落ちてきた岩が、トンネルの底を砕く。流れの変わった先、奥へと続く道が見える。
(「あそこなら……」)
 微かに漏れてきている光は、太陽の光だ。強く、柱を蹴って泳ぎ出す。指先触れる海流が冷たくなる。外の海流と触れあっているのだろう。外へ——、と進み続ける中、キラリ、と紡の視界に何かが光り、ゆらゆらと落ちてきた。
(「——花?」)
 パチ、と瞬く。煌めきはゆっくりと紡の前へとやってくる。
(「あぁ、これは水晶なのかな? 花を内包してるみたいだ……」)
 何となく、竜珠のようでもある。
(「流石、竜の抱いた宝の眠る島」)
 見失わない内に、紡はそっと手を伸ばした。海流に浚われぬようにと受け止めれば、キラキラとそれは手の中で光る。
(「帰ろう、このお宝を持って……帰るべき場所へ」)
 受け止めた煌めきと共に、海中トンネルを抜ける。最後、生まれた空間でいっぱいに息を吸い込んで日の光の先へと向かえば、そこは島の外。太陽の煌めきと、真っ白な砂浜が紡を出迎えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
舞(f25907)と

「だな。水着ゆえ丁度いい」

なるほど、水着着用はこの事態を見越してか
慧眼だと大真面目に頷く
誰の発案かは結局わからんかったが

暗中を見通す目を持つ彼女の後に続く

同じ道を行けど、見ている景色は違うのだろうか
想い馳せつつ泳ぐうち
先を行く小さな背が止まり、道を外れて水底へ

されど、止めはせずただ見守る
彼女の視線の先――水晶の花は俺の目にも見えたから

小さな光が彼女の手に収まると同時、唸り声に似た轟音
光が、舞が、深い闇に呑まれていく

【怪力乱神】の発動は、無意識に
闇の淵に縫い留めた舞に手を伸ばし
腕の中へ収め、無我夢中で水を掻き

気付けば二人、青空の下
水晶の花は、そうだな
古神への手向けとなればいい


日下部・舞
火神君(f14941)と参加

「海中トンネルにしましょう」

脱出経路に迷うことはなかった
なぜなら私たちは水着姿だから

「泳ぐのは好きだし」

洞窟から海中へ
ここで迷ったら命に関わる
【妖精眼】で光の乏しい海中も見通せる
崩落によっていずれここも人の手が届かない場所になる

かすかに何かが煌めいた

ユラリユルリと海底へ潜っていく
まるで沈むように、深く、より深く

「水晶の花……」

深い断層の淵に咲く見えない花
手の中に収めて、直後に海が震えた
バランスを崩した私は断層の深みへと
急激な温度差に脚の自由が奪われる

水晶の花が零れ落ちる
伸ばした手は届かない

溺れてしまいそうな私を逞しい腕が抱き寄せる
力強く泳ぐ羅刹に身を委ねて脱出する



●この手に掴むものこそが
 轟音と共に大地が揺れていた。パラパラと落ちる砂は、戦場に蓋をするように落ちてきた岩の所為だろう。押しつぶされるよりは、と迷わず二人は洞窟へと踏み込む。
「海中トンネルにしましょう」
「だな。水着ゆえ丁度いい」
 脱出経路を迷う事は無かった。そもそも、水着で来たのだ。
「なるほど、水着着用はこの事態を見越してか
慧眼だ」
「……」
 一応、と日下部・舞(f25907)は思う。誰の発案か分からぬまま、そう言えばそう聞いたけど誰だったかしら、というまま水着でやってきた島だったのだが——大真面目に火神・五劫(f14941)に頷かれてしまえば、少しばかり考えたくもなる。
「泳ぐのは好きだし」
 たっぷり考えて紡いだ舞の言葉に、そうか、と五劫は笑みを見せた。
 海中へと続く道は、ひんやりとした海水の流れ込んだ空間のようだった。足を踏み入れれば、いきなり深くなる。とぷり、と身を沈め、周囲を見渡す。
(「光は、あまり入って来ないようだけど……」)
 見える、と言える。
 妖精眼で確認すると、舞は一度、五劫を振り返った。
『こっち』
 唇でそう言葉を作って、手で招く。生真面目に頷いたひとが泳ぎ出したのを確認するとゆっくりと舞も進み出した。
 海中の流れは比較的緩やかだった。海の水が流れ込んできているのも在るだろうが——この島が「落ちて」来たとき、海流が変化したのだろう。嘗ての世界の名残が一つ、二つと海中からも見て取れる。巨大な柱は、ここが神殿であった証か。
(「崩落によっていずれここも人の手が届かない場所になる」)
 誰も知ることのない空間となるのだろう。青く美しい海も、白亜の柱も。長く続くこの通路は嘗ては神殿へと続く道だったのだろう。
「……」
 ほう、と息を落とした先、舞の視界で何かが煌めいた。ユラリユルリと海底へ潜っていく。まるで沈むように、深く、より深くへ落ちていくのは——……。
「水晶の花……」
 深い断層の淵に咲く見えない花。海流に触れて、僅かに花弁だけが煌めいていたのだ。
「——」
 漸く、五劫の目も海中トンネルに慣れてきていた。最も、慣れている程度だ、ということは分かっている。先を行く舞は暗中を見通す瞳を持つ。
(「同じ道を行けど、見ている景色は違うのだろうか」)
 海の色は深い青か、美しい青なのか。将又もっと違う色彩が、彼女の見る世界には広がっているのだろうか。
「……」
 思いを馳せながら泳いでいれば、ふいに先を行く舞が止まっていた。
(「……舞?」)
 道を探しているのだろうか。一瞬、浮かんだ疑問は、ゆらり、と道を外れるようにして水底へと向かう姿に解を得た。
 水晶の花が、そこにあったからか。
 掌に掬えるほどの美しい花。水に触れ、初めて姿を見せると言われる透明な花は五劫の瞳にも見えていた。
(「海中の煌めき、か」
 手を伸ばす彼女を見守っていれば、ふいに空間が揺れた。舞の手の中、小さな光が収まったと同時に唸り声に似た轟音が響く。
「——」
 バランスを崩したのか。水中で舞が揺れる。温度差だ、と気がついたのか、急速に冷たい海流が混ざり込んでいたからだ。足を取られたのか。
『——舞』
 ゴポ、と海中なのも構わずに声を上げていた。無意識に五劫は闇の淵へと縫い止められた舞へと手を伸ばす。ぐ、と引き上げるようにして腕の中に収めれば、ひらりとほっそりとした指先が——海底を撫でるように揺れた。
「——外に、辿り着けたか」
 無我夢中に泳いで、気がつけば二人青空の下に辿り着いていた。五劫の腕に抱かれたまま、花が、と舞が告げる。
「掴んではいられなかったの」
「水晶の花は、そうだな……古神への手向けとなればいい」
 溺れかけた彼女が、無事にいてくれた事実に安堵の息をついて五劫はそう言った。海中で眠るあの花はきっと——美しく煌めいているのだろうから。深い、海の底でも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
2)

おや
大変
飲み込まれてしまいそうですねぇ

海中トンネルを渡り出口を目指す
焦る様子は皆無
いつも通りのんびり思考

仮初の身が此のまま沈んだなら
本体の香炉は海底に眠り
いつかの時代
何処かの探検家に
宝物の一つとして拾われる可能性もあるのかしら

其れもまた一興、なんて
もしもの未来を脳裏に描き
ちいさく笑みが零れるけれど
ふと
視界を流れいく煌きに数度瞬き

小首を傾げて手を伸ばせば
硬質な欠片に指先が触れる

やぁ、
まるで花弁の如し――、

掌できらきらと輝く水晶の花
流れを辿れば花園へ至るだろうか
好奇心の赴くままに宝探し

いのちある限りは瞳に燈し続けたい、うつくしきもの達
今は未だ海に眠るのは早そう、と
ふくり笑んで
脱出も目指しましょ



●千夜一夜の語らいの果てに
 空が揺れていた。戦場に見た青空は遠く、岩盤により防がれたその場所は、とっぷりと落ちる闇に囚われていた。ざぁああ、と流れ込んできた海流が足に触れた。
「おや大変。飲み込まれてしまいそうですねぇ」
 その様子を友人達が見ていれば、相変わらずと笑ったか——将又、一先ず早く逃げろと告げたか。焦る様子も無いままに、崩れゆく地を——神の座していた場所へと都槻・綾(f01786)は一度目をやり、背を向けた。
 洞窟の中を下っていけば、すぐに海中トンネルの入り口へと辿りついた。水が随分と冷たい。足先を沈め、一歩、二歩と進んだそこで深くなる。
「すぐに足もつきませんか……、最初から、此処は深かったんでしょうか?」
 呟いて、ふ、と息を吸って身を沈めていく。ごつごつとした岩を眺めながら沈んで行けば、ふいに岩が色彩を変える。
(「あれは……」)
 柱、だろうか。
 刻まれた文字は見えず、少しばかり近づくようにして泳いでいく。つぅ、と指先で触れれば、紋様に似た何かが見えた。
「……」
 これは、嘗ての島からやってきたのか。
 宝石を抱く竜の島。竜は宝を抱くが故に——この地に残っていたのか。神殿さえも。
 ——ふ、と息を落とす。ぷくぷく、と生まれた泡に小さく笑い、綾は水面を、柱を眺めるように海底へと背を向ける。
「……」
 仮初の身が此のまま沈んだなら、本体の香炉は海底に眠り——いつかの時代、何処かの探検家に宝物の一つとして拾われる可能性もあるのだろうか。望むままに海に潜り、宝を、発見を目的とする彼らが驚きを以て告げるのだろうか。
『——みつけた』と。
 綾の本体である香炉を手にして。
(「其れもまた一興」)
 もしもの未来を脳裏に描き、小さく綾は笑みを零した。ふふ、と落ちた息に泡が揺れ——ふいに、何かが光る。
「……?」
 視界を流れていく煌めきに瞬き、小首を傾げて綾はそっと手を伸ばした。カチと触れたのは硬質な欠片。一度触れれば、その形が分かる。見えてくる。
(「やぁ、まるで花弁の如し――、」)
 それは、きらきらと輝く水晶の花であった。よく見なければ、それがすぐ傍にあるとは分からない。透明な花弁の美しい花。流れを辿れば花園へと至るだろうか。好奇心の赴くまま、綾は海の中で身を滑らせていく。とん、と柱に触れて、少しばかり深きを潜って。海中に埋もれた門を見下ろして泳いでいけば——見つけたのは、水晶の花が咲く、麗しの花園。
「——」
 ほう、と息を零す。
 いのちある限りは瞳に燈し続けたい、うつくしきもの達。
(「今は未だ海に眠るのは早そう」)
 ふくり、と笑って綾は水晶の花と共に先を——島の外を目指す。海流に乗って、辿りつけば、出会うのは晴れ渡った青い空。美しい青の海も、きらきらと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

梟別・玲頼
爆発音に思わずビビるオレ
(耳良すぎるのも考え物)

いや、なまらやばいっしょこれ!?
思わず北海道弁零れ、はっとして首を振り
何の為に自爆する必要あるんだ、ええっ!?
消えちまったアイツ(岩)に文句言っても無駄か
全力で駆け出し、アイツの後ろ空間の穴に向けて飛び込みながら鳥変身

蝙蝠になった気分だが致し方あるまい
壁や天井に追突せぬよう注意して飛行
暗闇は得意故、何とかなろう
洞窟内であっても多少の空気の流れは有る筈だ
風と共にある私の感覚を最大限に研ぎ澄ませ、島の外に繋がりし空気の匂いを捉えれば出口は自ずと知れた事
ふむ…こっちか

途中に光り輝くものが有らば、蹴爪の先に引っ掛けて幾つか回収
奴の形見に少し頂くとしようか



●神の住まう島
 轟音と共に、大地が割れた。
 遙か、彼方。洞窟のその奥より届いた崩落は只人の耳には揺れに過ぎず——だが、青年の耳には正しく轟音として響いた。
「——!」
 ぶわり、と髪は揺れたか。吹き抜けた風が生んだ偶然か。梟別・玲頼(f28577)はシマフクロウである。色々あって今はこの姿を得ているが、魂はシマフクロウであり、コタンクルカムイ「レラ」であり、森の守護者と言われたものであり。
「いや、なまらやばいっしょこれ!?」
 ——耳が、良い。
 思わず北海道弁が零れ、はっとして首を振る。
「何の為に自爆する必要あるんだ、ええっ!?」
 虚空に叫んだところで、二度、三度と反響して終わる。その間にも、振動が増え玲頼の聴覚は正しくそれを『崩落』と拾い上げる。
「あー……」
 消えた岩——基、神に文句を言っても無駄か。潰される気も無ければ、代わりに此処に座って過ごすつもりもない。
「……」
 神の座した気配が消えたそこを一瞥して、玲頼はぽっかりと開いた穴に飛び込んだ。ゴォオ、と背後、流れ込んできた海水にタン、と地を蹴り、落下に身を任す。ふわりとストールがひらめいた次の瞬間、玲頼は梟へと変じていた。
「——全く、騒がしいことだ」
 暗く灯り一つ無い洞窟ではあったが、夜目は利く。
「蝙蝠になった気分だが致し方あるまい」
 暗闇は得意だ。滑るように狭所を通り抜け、迷い無く落ちてくる岩の下を行く。ヒュゥウウ、と洞窟内に風を切る音が駆けた。
(「——やはりそうか」)
 洞窟の中であっても、多少空気の流れはある。崩落が始まった影響で、内部の空気が動いているのだろう。砂混じりの空気に、しめった洞窟特有の空気。羽根に触れる風は重く——ふいに潮騒が混じる。
「……」
 風と共にある感覚を最大限に研ぎ澄まし、島の外に繋がる空気の匂いを辿っていけば自ずと知れた事。
「ふむ……こっちか」
 ぽっかりと、緩やかに下る道よりは上に玲頼は羽ばたく。半ば、真上へと上がるように行った先、玲頼の目に飛び込んできたのは白い壁。——否、これは柱か。
「ほぉ、随分と凝った造りをする」
 神殿だ。
 神域の名残は、柱と壁ばかりに。神の名残は既に無く——だが、残る爪痕は、果たして伝承にある竜が宝を抱いた場所か。ゴォオオ、と何度目かの震動と轟音が届く。
「長居は無用か」
 ここは、と薄く唇を開き、閉じる。羽根に風を孕み、羽ばたきを強くしたのはひとつ手向けであったか。急降下から一気に外へと向かう回廊へと飛び込めば、キラ、と光り輝くものが見えた。
「……ふむ、奴の形見に少し頂くとしようか」
 蹴爪に引っかけたのは、コインの飾られた首飾り。金色に光り、十字を刻まれたそれは——嘗ての地にて、奇跡を招くと言われていた。
 ——やがて、玲頼は洞窟を飛び出し空に出る。高く飛び上がれば、眼下に広がる海が眩しく目に映った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
あはは、崩落する要塞!
これぞ冒険の醍醐味……楽しいねぇ。
いてて、笑うと傷が痛むみたいだ。

けれど此処から楽しいお宝探しだ。
泳ぎは得意なんだけどねえ……尾と傷が気になる。
それ以上に折角開通した新しいルートが我を呼んでいる!気がする。

根性出して潜ろうか。
最悪、ハイネくんが助けてくれるだろうと覚悟を決めて飛び込む。
いざ、海中で美しく咲く花を目指して。

激流の影響を受けて海流が激しそうだけど、周囲に目を光らせて泳ぐ。
色々花に出会えたらいいんだけれど。
窪みに見える、耀きを見つけたら、手を伸ばす。

指先が触れたところで横から激しい水流が……!

――喩え流されながらも、必死にお宝を掴むのが、海賊の意地というものさ。



●未知への旅路
 ゴォオオオ、と空が唸る。獣のように低く、荒れた海のように高く響く音と共に、あれだけ巨大な神が暴れても砕けなかった地面に罅が入った。
「あはは、崩落する要塞!」
 端から、崩れ落ちていく足場を軽やかに飛び越えて、は、とハディール・イルドラート(f26738)は笑った。
「これぞ冒険の醍醐味……楽しいねぇ。いてて、笑うと傷が痛むみたいだ」
 背の傷だろう。海水被ったら痛そうだねぇ、と他人事のように一つ笑い、トン、トン、とハディールは崩落する床を駆け抜けていく。
「ま、立ち止まってたら巻き込まれてしまいそうだからねぇ」
 ひょい、と崩れていく足場を一気に飛び越えて洞窟の中に滑り込む。ゴォオオ、と派手な音を上げて落ちた地面の下、ヒュウウ、と吹き抜ける風と共に僅か、海水の匂いがする。岩が落ちるまでは随分とあった。
「飛び降りるにはこっちは向いてなさそうだねぇ。となると、やっぱりこのまま種」
 洞窟は緩やかに下っていく。内部を抜けていくルートであれば——恐らく、あの上へ行く梯子を使えば良いのだろう。コンキスタドール達が使っていたのか、崩落に一部巻き込まれながらも何とか通れそうではある。
 もう一つは、とハディールは馴染む海の香りにピン、と耳を立てた。
「海の中を抜けていくか、だね。泳ぎは得意なんだけどねえ……尾と傷が気になる」
 しみるだろう、とは思う。問題はしみるだけではなく、海中で身動きが取れなくなることだ。外海を思えば、流れが緩やかとは言えないだろう。海水の温度が変われば足を取られることもあるだろう。——だが。
「それ以上に折角開通した新しいルートが我を呼んでいる! 気がする」
 気がする。——そう、気がするだけなのだが力一杯、そんな気がするのだ。安全な道ばかり行く海賊っていうのも、楽しくは無いのだから。
「根性出して潜ろうか」
 最悪、ハイネくんが助けてくれるだろう。
 ゆるり、と少しばかりひりつく尻尾をユラして、覚悟を決めてハディールはぽっかりと開いた海中トンネルへと飛び込んだ。
「——は」
 ぷは、と一度顔を上げて、しみた傷にぶわわ、と尻尾が揺れる。——まぁ、濡れてしまっている訳なのだが。
「流石にしみるね。——だが……あぁ、やはり、下まで続いている」
 崩落時、大きく響いた音があったのだ。先の中枢であった崩落もあるが随分と深いと思ったのだ。痛む背中より、深く底の知れぬ海中の方が気になる。知らず、口元に不敵な笑みをしいてハディールは一気に海中へと身を沈めた。
(「いざ、海中で美しく咲く花を目指して」)
 海賊だ。泳ぎには自信もある。激流の影響を受けて、流れの激しい区域に一度足を止める。巻き込まれる前に、周囲をしっかりと確認して岩に触れた。
(「……ん? これは建物かな?」)
 岩場、というには形が整い過ぎている。崩落の影響で顕わになったのか、海流に巻き込まれないようにと、ぐ、と力を入れた先で岩が——砕けた。
『——これは……』
 こぽり、と口から空気が零れた。紡ぎきれなかった言葉が海流に揺れ、砕けた岩の向こうから艶やかな黒曜石の柱が目に映る。神殿か、装飾か。此処は『落ちてきた島』だ。伝承にある竜の住まう地であった頃の名残かもしれない。
(「良いね。宝探しらしくなってきたじゃないか!」)
 海流に巻き込まれないように柱を掴む。内側へと入り込めば、上手く激流に飲み込まれずに先へと進むことができた。
「——」
 そこに見えたのは、キラ、キラと輝く不思議な花達。何処までも澄んだ水の中、輝く花は、睡蓮に似たか、牡丹に似たか。百花の名を持つ花々に似たそれは、確かに海流が触れることで姿を見せていた。
(「——あぁ、不思議だねぇ。うん、冒険らしい」)
 流れが弱まれば、その花は姿を消す。此処に住まうようで——同時に、この地に隠されていたようであった。
「……」
 もう少し近くで、と深く潜る。窪みに見える輝きに、手を伸ばせば、予想より硬い——硝子のような感触が指に返った。
(「あぁ、これなら……!」)
 瞬間、横から激流が来た。ゴォオ、と水の中にいても聞こえた音は圧となってハディールに襲いかかった。
「——ッ」
 だが、と手を伸ばす。爪が岩に引っかかる。僅かな痛みに——だが構わず、その煌めきをハディールは掴んだ。
(「これで……」)
 ――喩え流されながらも、必死にお宝を掴むのが、海賊の意地というもの。そっと、両の手で包み込んだ先、体は海流に飲み込まれ引きずられていく。海底、その深き底——船の沈む墓場のような闇に触れるより先に、転移の光がハディールを包んだ。
 ——やがて視界が開ける。転移の先、青年は息をつき、だが笑って問うた。
 それで冒険は如何でしたか? 船長。と。
「あぁ、勿論!」
 滴り落ちる海水で、煌めいて咲く百花の花を手に、ハディールは笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と
2)

やべぇな、ヒメとっとと脱出するぞ
って宝探し?
ひとまず脱出が先だ、ここで潰れたくねェし
お前が潰れたら運ぶの大変だしな

こっち進めそうだな。お前体でかいが……通れるか
そこでドヤんな
って行き止まり――かと思ったが、こっち潜れば先に抜けれそうだ
どこに続くかわかんねェけど、どうにかなるだろ
いくぞ、ヒメ

逸れないように手ェ繋いでやろうか?
いや絶対にお前だからな、迷子なったりするのは

潜って進む水の中は深い青
けどなんとなく水の流れから進む先はわかる
脱出もうまくいきそうだと思っているとちょっと待ってくれと
何とってんだ?
まァ、あの表情からすればあとで俺にくれそうなかんじだな
楽しみにしとこ


姫城・京杜
與儀と2)

おわっ、何か崩れて…!?
宝探しとか出来そうにねェな、これじゃ
與儀は俺が守る!…けど、潰れたら元も子もないからな
ああ、一緒に脱出する…!

俺はスタイルいいからな、意外と大丈夫だぞ(どや
此処にいても仕方ねェし…ああ、飛び込もう
與儀には俺がついてるからな、どうにかしてみせる!
手は勿論確り繋ぐに決まってるだろ
與儀が迷子になったら大変だし!

水、だから
進む方向は主にお任せ
俺は水中でも照らせる神の炎灯す

ふと岩場に光るいろを見つけ
思わず、ちょっとだけ待ってくれと、手を伸ばして
何とかそれ掴んでから、また主と深い青を泳ぐ
掌には、竜の瞳の様な赤と青の宝石
んで、ひとつは與儀にあげようって、一緒に泳ぎつつ思うぞ



●その腕に抱く宝は
 大地が――割れる。晴れ渡った空を眺められた地は、突如の崩落で薄闇へと変わった。帯のように差し込む光は、空に蓋をした岩に罅が入っている所為だろう。天然の洞窟を利用して作られた要塞は、その機能を存分に生かしながら――今、崩落している。
 お約束的爆発を生みながら。
「おわっ、何か崩れて……!?」
 熱風に、姫城・京杜(f17071)は主の前に立つ。轟音と共に来たそれは、後方から巻き上がった炎の所為だろう。
「宝探しとか出来そうにねェな、これじゃ」
 一振りで払い、四方へと散らした京杜の後ろ、三度目の震動に英比良・與儀(f16671)は眉を寄せた。
「やべぇな、ヒメとっとと脱出するぞ。――って宝探し?」
 守護者のその言葉に、そういやあったな、と與儀が息を零す。
「ひとまず脱出が先だ、ここで潰れたくねェし。お前が潰れたら運ぶの大変だしな」
 世には体格差、というのがあるのだ。少年の姿の與儀が京杜を運ぶのはまず――無理だろう。あちこち、賑やかに爆発していなければ、まだ話は違うのだが。
(「與儀は俺が守る! ……けど、潰れたら元も子もないからな」)
 洞窟内部の状況は分からない。足場が崩れるか、行き先が崩れるか。どちらでも、そう長居時間、足を止めてはいられないだろう。
「ああ、一緒に脱出する……!」
 告げる言葉を合図とするように、足元が砕けた。早いだろ、と息をついた與儀と共に、たん、と地面を蹴り出す。轟音と共に崩れていく要塞中枢の下は海であったのか。資材が落ちていく割に音が、遠い。
「深そう、だな……。落ちた音もしねぇし、離れるのは早い方が良いかもな。……與儀?」
「――いや、あそこが海に繋がってんなら、中枢を支える分、敢えて深い所を使ってたのかもな」
 なら、と與儀は洞窟の奥へと目をやる。下り坂になっているこの道の方がアタリだろう。
「こっち進めそうだな。お前体でかいが……通れるか」
 つるり、とした壁面は、コンキスタドール達が此処を使っていた証拠だ。
「俺はスタイルいいからな、意外と大丈夫だぞ」
「そこでドヤんな」
 間髪入れず、突っこんだ與儀の声が反響した。――そう、反響だ。詰まんねぇでさっさと行け、と蹴飛ばす勢いで京杜を見送り、続けて通ったその狭い道の先、二人を出迎えたのは分厚い岩盤であった。四方を囲むように作られたそれは、貯蔵庫か、名残の梯子が示すように道であったのか。
「割に、梯子をかける場所っぽいのも無いんだよな……。全部落ちたのか?」
 眉を寄せた京杜の横、ぺたり、と岩に触れた與儀が一度、伏せた瞳をゆっくりと開いた。
「――いや、この壁は出てきたやつだな」
 岩が濡れているのは海水だ。梯子は何処かにかけていたのでは無く流れてきたのだろう。抜けて来た隙間も、崩落で出来たものか。
「それに――あぁ、そうだな。そうだろうな」
 ふは、と與儀が笑う。ぱち、と瞬いた京杜の前、あった、と花浅葱の瞳は弧を描いた。
「こっち潜れば先に抜けれそうだ。どこに続くかわかんねェけど、どうにかなるだろ」
 ここにいれば、洞窟の中、閉じ込められるか爆発に巻き込まれるかだ。
 さっき違い、此処は海面が見えている。水の気配から、流れを読み取った與儀が視線を上げた。
「いくぞ、ヒメ」
「此処にいても仕方ねェし……ああ、飛び込もう
與儀には俺がついてるからな、どうにかしてみせる!」
 力強く拳を握った京杜が続けて飛び込めば、その勢いの良さに体が一度沈み込む。
(「ま、溺れはしねぇけど」)
 溺れさせもしないのだが。浮き上がってきた守護者が、頭を振るう姿に小さく笑い、與儀は濡れた手を差し出した。
「逸れないように手ェ繋いでやろうか?」
「勿論確り繋ぐに決まってるだろ。與儀が迷子になったら大変だし!」
 極々真面目に告げた京杜に、極々真面目な顔で與儀は言い切った。
「いや絶対にお前だからな、迷子なったりするのは」
 それはもうすっぱーんと、両断であった。
 兎にも角にも、手は繋がれることとなった。差し出された手をぎゅ、と強く握るほど子供にはなりきれず――だが、弱く握っていれば水の中、迷わず行く與儀を見失いそうで失わないように京杜は握る。進む方向は任せて、周囲を照らす灯りにと神の炎を灯せば、崩落する要塞の地下を見ることが出来た。
『――おぉ、おっきな柱だな』
 與儀、とぱくぱくと唇で形を作る。つい、と繋いだ手で気がついたのか。肩を竦めるようにして與儀も頷いた。
『あぁ。神殿か何かかもな』
 唇で形だけを作って会話をする。何処まで通じているか分からないまま――だが、瞳は何処までも雄弁だ。ふ、と笑った與儀は先を見る。水の流れを見る限り、このまま行けば直に外に出られる。脱出もうまくいきそうだ。
(「これなら――……、ん?」)
 つい、と手を引かれる。振り返った與儀に京杜は言った。
『ちょっとだけ待ってくれ』
 唇でそう形を作って、眉を寄せた主が息を零すのを見てから京杜は手を離した。見つけた岩場に手を伸ばす。さっき泳いでいる時に見つけていたのだ。
(「光る、いろ」)
 少しばかり潜って、ぐ、と手を伸ばす。キラキラと光ったそれは――あぁ、やっぱり京杜の目に見えた通り、竜の瞳のような赤と青の宝石。
(「ひとつは與儀にあげよう」)
 ぱしゃん、と深い水を蹴って、與儀の元へと向かう。腰に手をあて、こちらを見ていた主の掌がゆっくりと差し出された。
『――行くぞ』
 吐息ひとつ、零すようにして形作られた言葉の外。京杜を見ていた與儀は小さく笑った。
(「まァ、あの表情からすればあとで俺にくれそうなかんじだな。楽しみにしとこ」)
 最初は何をしているのかと思ったが、良いものに出会ったのだろう。
 まずは手を繋いで外へ。やがて長く続くトンネルを抜ければ、晴れ渡る青空が二人を出迎えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
…宝石
かつて竜が見出したなら
俺がここで諦める理由は無い

駆けながらも誓うはひとつ
師ならばこう言うだろう
宝も生も全て手にしてこいと

とうとう飛び移るべき足場も崩れれば
空気掴むべく翼を――広げることなく
真直ぐに渦巻く海中へと飛び込む
落ちてくる岩を掻い潜り
時に蹴って推進力を得ながら
煌めき求めて内部の空間へと水を掻く

姿を潜めた光を探すことには慣れている筈と
己の勘と眼を信じて更に先へ
泡ならぬ煌めきを目にしたなら、一直線に
多少どこかにぶつけようと構うものか

古い装飾品は竜の落とし物だろうか
…遠慮なく頂いてゆくぞ、竜よ
嵌め込まれた宝石へ
透明な輝き放つ花へと
その向こうに待つ光を重ね
欲深にも抱えこみ、爆発にすら乗って



●竜は宝を抱くという
 轟音と共に大地が裂けた。バキバキ、とつるりとした床板が砕け顕わとなった地面が今猛威を振るう。
 これこそ、要たる神を失った姿か。轟音と共にただの一撃で全てを潰すこともできただろうに、緩やかに閉じるように行く島の姿にジャハル・アルムリフ(f00995)は一撃と共に見送った神のあった場所を一度、見る。
「……」
 その一度を最期として、ジャハルは崩れゆく足場から身を飛ばす。ゴォオオ、と一度、跳ね上がった岩は――次の落下に加速するのか。上に向かわされる前に、迷い無く飛び降りる。トン、と触れた床板が、次の瞬間、派手に砕けた。
「――あぁ、その程度では」
 落ちる気は無い。
 翼を広げるより先に、だん、と次の岩場に手をつく。持ち上げるようにして一気に体を持ち上げれば、洞窟の暗がりへと転がり込む。ゴォオオオン、と背に落下が生む風が届いた。パキパキ、と乾いた土に罅が入る。
「長居には向いていない、か」
 洞窟の壁はつるり、としていた。ごつごつとした天井に比べ、壁面には誰かが触っていたような跡がある。一部はコンキスタドール達が使用していたのだろう。
(「ならば……、あぁ。壊れるだろうな」)
 それはもうどかーんと力一杯。
 遺跡というのは宝を持つと崩壊するのだろうか。岸壁に刻まれた行く先は掠れ、梯子は既に落ちていた。
「……宝石。かつて竜が見出したなら、俺がここで諦める理由は無い」
 迫る崩落にひとつ、息を吐く。た、とジャハルは一気に駆けだした。迷って足を止めている暇など今は無い。頭上から落ちてくる岩を避け、眼前、迫った大岩に壁を蹴る。落ちた梯子をかけるよりは――上がった方が、早い。
「――は」
 真横の壁を蹴り、落ちてくる岩を足場に先へと向かう通路へと行く。岩盤は固いのか。所々崩落に耐えている箇所があった。――だが、そり立つ壁は、地面だけが残っている、というだけだ。
(「ここにいれば、残されるだけだろうな」)
 島に眠る竜になる気はない。
 駆けながら誓うはもうひとつ。師ならばこう言うだろう。
「宝も生も全て手にしてこいと」
 不敵に告げる静かな声が耳に届いた気がした。ふ、と息を吐き、ジャハルは笑う。あぁ、と唇でひとつ音をつくり、崩れゆく足場を一気に蹴る。飛び移るべき足場も消えれば、あとは蝙蝠のように駆けるか。背の翼を揺らし――だが、そのままジャハルは真っ直ぐに渦巻く海中へと飛び込んだ。
 ――バシャン、と派手な水音が響く。岩と一緒に落ちたのだ。巻き込まれれば、一緒くたに沈むことになる。だが、その間を掻い潜り、とん、と足で蹴る。一度、手に入れた推進力で崩落を抜ければ、キラ、と光るものが見えた。
(「あれが……水に咲く花か」)
 重なり合う花弁は牡丹に似るか。傍らを見れば睡蓮にも似る。海流が触れているのか、ゆらり、ゆらりと揺れる時は姿を見せ、砂混じりの海流ではまるでそこからいなくなったように姿が消えていく。煌めきは海底を彩る道標だ。深く、底へと沈む道では暗く先が見えず――だが、底を知る場であればぽつり、ぽつりと海中の回廊をジャハルに告げる。
「……」
 姿を潜めた光を探すことには慣れている筈。己の勘と目を信じ、更に先へと進んでいく。花は、海底の他に先に沈んでいた岩にもついているようだった。長く、そこにあるのだろうか。起きてきたばかりの岩とは違う。つるり、としたそれは――遺跡の柱か。
(「文字……か?」)
 柱を撫で、指先で形を辿る。絵よりは恐らく、文字だろう。なんとなくだが、流れがある――と、そこまで思ったところでジャハルは緩く首を振った。
「爪か」
 ふ、とジャハルは笑う。緩やかに弧を描くそれは、薙ぎ払う爪痕に似ていた。ならばこれは、嘗ての竜たちの戦いの跡か。黒き竜か、将又他の竜であったか。柱に触れ、その深さを辿りかければ、泡ならぬ煌めきが見えた。
「――」
 一直線に泳いでいく。ゴォオ、と落ちてきた岩に体がぶつかるのも構わずに滑り込む。そこにあったのは、古い装飾品であった。竜の落とし物か。崩れた柱が支え合うようにして作っていた狭い空間は宝物この代わりであったか。
「……遠慮なく頂いてゆくぞ、竜よ」
 嵌め込まれた宝石へ、透明な輝き放つ花へとその向こうに待つ光を重ね、両の腕を伸ばした。 そう、竜は宝を抱くものであれば。
 欲深にも抱え込み、ジャハルは揺れる海中から脱出する。迫る爆発の、その海流にすら乗って島の外へと一気に泳ぎ出る。派手な水飛沫と共に、浮き上がった先、見上げれば水柱の生んだ虹と青い空がジャハルを出迎えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
自爆装置は欠かせないよねー。ロマンロマン。
冒険は帰るまでが冒険、けれど手ぶらで帰るのはそれこそ無粋。
水中得意だし行ける所まで行ってみよー!

崩れた所から海中トンネル潜り、道中水没区域を中心に探索。
飛び込む前にUCで空シャチ達召喚、一緒にダイブして人海…鯱海戦術で水中の煌めきを探すね。
こういうのは一番深くに潜ってみるのが吉、半端な浅さはきっと誰かが探してるだろう。
深く深く、光も射さないような所まで潜り、伝説の竜の実在分かるもの見られれば、って。
例えば骨とか。一番深くにあるのは最古の竜のなのかな?
見つけたら持ち帰れるものならゲットして空シャチと共に浮上、脱出!

※アドリブ絡み、具体的な宝の内容等お任せ



●竜の眠る島
 轟音と共に上がる炎が、とうとう、コンキスタドールの要塞を包み込んだ。中枢を支えていた柱が崩れ、青白い炎が上がる。それでも、空へと続く道を塞いだ岩が崩れ落ちないのは――やはり、お約束なのか。薄く差し込む日差しに、次はあそこかなー、といつもの調子でヴィクトル・サリヴァン(f06661) は笑みを浮かべた。
「自爆装置は欠かせないよねー。ロマンロマン」
 そう、轟音も爆音もついでに崩れていった床もロマンなのだ。巨大な橋でもあれば、今頃上を走らせられている頃だろう。宝のある遺跡は何故かどうして爆発するのだ。
「さて、と。後は帰るだけだけど」
 冒険は帰るまでが冒険、けれど手ぶらで帰るのはそれこそ無粋。
「その地は古く、竜の微睡む地であれば。か。うん、水中得意だし行ける所まで行ってみよー!」
 今日は身軽な水着だ。ゴォオオ、と迫る崩落にヴィクトルは洞窟の中へと滑り込む。緩やかな下り坂は海中トンネルの入り口へと続いていた。足先、かかる海水の冷たさは深く続く証だろうか。
「それじゃぁ、この辺りで……っと。一緒に行こうか」
 召喚したのは、空泳ぎのシャチたち。パシャン、と水音を立て、遊ぶように空を舞ったシャチたちと一緒にヴィクトルは海中トンネルへと飛び込んだ。
(「――さて、と」)
 深く、暗い海の底。洞窟の影が齎した海の暗がりは慣れぬものには何処までも続く深い闇に見えたことだろう。バシャン、と時折、海水を叩く音がヴィクトルの耳に届く。するり、と慣れた様子で海水を蹴って、空シャチたちと一緒に振り返った。
「結構落ちてくるねー、まぁ自爆装置って言うからには力一杯じゃないとね」
 そうだろうか? そんなものなのだろうか?
 くるくるとヴィクトルの周りで遊び、首を傾げて見せた空シャチたちが、何かを見つけたと言うように先を泳いだ。
「やっぱり深いところはあるよね」
 この島は落ちてきた島であり、そこをコンキスタドールが要塞として使っていた。自然の要塞としていた部分もあるがそれでも補強が必要になる。
「上に、上に足していくよね。ってなれば、この辺りは深い」
 元々、要塞の中枢が崩壊し始めた時に、瓦礫の着水がやたら遅かったのだ。轟音と共に落ちたのであれば、海水は足元に流れ込む以上にあそこから吹き上がる必要があったのにそれが無かった。
「――じゃぁ、行こうかな」
 こういうのは一番深くに潜ってみるのが吉、半端な浅さはきっと誰かが探してるだろう。
 空シャチたちと共に、ヴィクトルは深く深くへと潜っていく。光も射さないような海の底まで。夜の海を泳ぐのが好きなヴィクトルにとって、その暗がりは恐れるべきものでは無く――未知なるもの、落ちる瓦礫よりも早く、海の奥深くへと向かう。
 ――ふいに、海流が変わった。
「――此のあたり、何かあるのかな?」
 もう少し下がるかと思った海水温が落ち着いている。大分深く潜ったはずだ。何かあるのか、とくるりと見渡した先、空シャチ達が水中でくるくると回ってみせた。
「ん? あぁ、何か確かにそこで光って……」
 誘われるがまま、進んでいけば見えたのはドーム状の空間に見えた煌めきだった。黒い煌めき。宝石にも似たそれに足を止める。
「竜の宝石の方に出会ったかなー。それもそれでロマンがあるけれど――……」
 言いながら、海の底へと背を向け地上を見上げて気がついた。その煌めきが空にもあることを。銀色の煌めきは緩やかに弧を描き、ドーム状の空間を彩っていた。
「もしかして、これそのものが竜の骨……」
 ぱち、と瞬く。そうだと思えば、このあたりだけ海流が違うのも分かる。あれは翼で、眠る竜の骨が未だ形を残し空間を維持しているのだ。
「銀竜は眠る……かな?」
 竜はその身に水晶を宿していたのか。煌めきは竜骨を這うように生まれていた。岩に触れ、空間を維持するようにあった水晶と骨の間をヴィクトルは滑るように泳いでいく。このまま、暫く探索していたい気分はあるが――出口が潰れてしまっては流石に困る。
「それじゃぁひとつだけ、もらっていくね」
 最古の竜の証。最後に残り、最期を果たし眠りについた竜へとヴィクトルはそう告げて、欠け落ちていた銀色の竜骨を手にした。
 ――そして、外へと向かう。水晶に似た竜の名残と共に島の外へと。一気に浮き上がれば、晴れ渡った青い空がヴィクトルを出迎えた。
 斯くして大冒険は終わりを告げる。
 崩落の音と共に、派手に生まれた大穴にも、何れ草木が身を寄せ合うのだろう。ここは、竜の微睡む島であるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月29日


挿絵イラスト