8
研究所に残された食料

#アポカリプスヘル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル


0





 廃墟と化したとある研究施設――。
 建物の外にはびこっているバイオ植物たちを振り払い、敷地の一番奥にある研究棟へ着いた奪還者たちは建物を見上げた。
「本当に、こんな場所に食料があるのか?」
 奪還者の一人がやや不安げな面持ちで呟いた。
 彼がそう思うのも無理はない。建物の上は柱や鉄骨といった基礎が野ざらしになり、崩壊しかかっていた。建物の下、つまり一階や二階に当たる場所は、外壁こそ無事だが窓は全て割れている。
「でも中へ入って確かめないと、噂が本当かどうかも分からないよ」
「だな。体力が無くなってへばっちまう前に確かめてみようぜ」
 意を決した奪還者たちは建物を迂回して、割れた窓から中へ入っていった。
「これ、水耕栽培の……だよね?」
「あぁ、そうらしいな」
 彼らが足を踏み入れた場所には、スチール製の棚がいくつも倒れ、栽培の苗床と思われるスポンジが硬く乾いて散らばっていた。
 土埃の積もった部屋から通路へ出た彼らは、近くの壁に掛かっていたフロアマップを参考に、食料があるとされる保管庫までの道を急いだ。
 やがて、中央部分が凹んでひしゃげた扉が彼らの前に現れる。扉の横には役目を放棄したセキュリティ端末があった。
「建物自体がこんな有様じゃ、当然か……」
 グループの先頭を務める奪還者の青年は、僅かに開いていた扉のすき間から体を中へ捻じ込んだ。噂の保管庫。その室内を見渡した青年はハッと目を見張った。
「おい! あったぞ!!」
 青年の声を聞いた仲間が立て続けに保管庫へ入る。
 学校の体育館ほどの広さを持つ保管庫。そこには、朽ちてボロボロになったクレート材や壊れたコンテナが転がっていた。
 それらに混ざって、金属製の大きなコンテナが保管庫の奥にいくつも積み重なっている。細かな傷こそ付いているがコンテナそのものは無事なようだ。
「やった……! 本当にあったんだ!」
「待て、逸る気持ちは分かるが、喜ぶのは中身を確かめてからだ」
「お、おうっ!」
 ごくりと喉を鳴らしつつも、彼らはコンテナへ近付こうとした。その時。
「ヂィィィィィッ――!」
「カリカリカリカリッ!」
 耳障りな鳴き声、爪が床を引っ掻く音。扉のすき間から、天井のダクトから、割れた天窓から入ってきた黒い鼠のような異形が奪還者たちを取り囲んだ。
「ひぃっ!?」
「何だ!? こいつら!!」
「怯むな! 戦うぞ!!」
 混乱をきたしつつも奪還者たちは武器を手に取り、異形へ立ち向かった。しかし、多勢に無勢である。必死の抵抗も虚しく、彼らは四肢を食い千切られながら、一人、また一人と命を落としていった。


「――と、ここまでが予知の内容になります」
 猟兵たちを前に予知の内容を語り終えたアーリィは、次にモニター画面を操作した。画面には研究棟を含む敷地が映し出される。
「この研究所では、植物や作物の遺伝子に関する研究を行っていたようです。そのためか今でも農作物が保管されていると言われ、ここを目指す奪還者たちが後を絶たないようなのですが……」
 切り替わった画面には気味の悪い植物たちが映し出された。
 茎や葉は異様なほどに肉厚で、高さも身の丈を越えるものが多い。中には果実を実らせているものもあるが、形や色は歪なため食料としては期待できそうにない。
「これらは、この研究所で栽培されていた植物のようです。人がいなくなったあと、植物は独自の生態系を獲得して侵入者を拒んでいます。しかし、それ以上に危険なのがこの研究所に住まうオブビリオンたちです」
 説明の最中、蠢く植物の間から禍々しい黒毛のマウスがひょっこりと鼻先を覗かせた。尖った鼻をひくつかせたマウスは建物の方へ走っていき、割れた窓から建物の中へ入っていった。その額には赤い角が生えている。
「このオブビリオンは『インフェクション・マウス』と呼ばれています。強い毒性の病原体を持つため、戦闘の際には注意が必要となります」
 噛み付き攻撃と引っ掻き攻撃。シンプルな攻撃方法の他に、病原体を自身の周囲に展開して放出する、あるいは自身の傷口から病原体に汚染されている血を飛ばして攻撃する、といった行動も確認されている。いずれにせよ、用心するにこしたことはない。
 説明を終えたアーリィは画面を閉じる。
「この世界に住まう人々には希望が必要です。その希望の一つを絶やさぬよう、皆さまには奪還者の方々がこの場所へ来る前に、食料を発見して外へ運び出していただきたく思います」


ユキ双葉
 こんにちは、ユキ双葉です。
 こちらはアポカリプスヘルのシナリオとなります。

 奪還者たちは廃墟となった研究所から食料を持ち帰ろうとしています。
 ですが、食料コンテナのある保管庫にはオブビリオンがたむろしています。
 事件を防ぐためには、バイオ植物のはびこるエリアを抜けて保管庫へ到達後、
 オブビリオンを排除して食料を外へ運び出す必要があります。

『第一章』
 食料コンテナのある保管庫は、敷地の一番奥に建つ研究棟の中です。
 研究棟へ辿りつくまではバイオ植物が邪魔をしてくるため、
 何がしかの対処を講じる必要があります。

『第二章』
 保管庫での集団戦となります。
 保管庫の広さは学校の体育館と同程度です。
 インフェクション・マウスの大きさは中型犬と同程度です。

『第三章』
 食料コンテナをベースへ運んだあとは、ささやかな催しが開かれます。
 ベースの人々は皆さんを労うため、音楽を奏でてくれます。
 一緒に音楽を楽しんだり、音に耳を傾けながら住人と言葉を交わすのも、
 いいかもしれません。

●ベース
 郊外に建つ二階建ての小学校。
 校庭の横に小さな畑があり、そこで細々と野菜を育てている。
21




第1章 冒険 『狂気の植物園にご用心!』

POW   :    所詮植物!片っ端から伐採だ!

SPD   :    植物は生き物!悪くなる前に手早く収穫だ!

WIZ   :    油断するな!弱点を狙い着実に除草だ!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

キカロ・ディズト
生命力に溢れすぎていて圧巻の一言に尽きます
この世界で生きる人々も大変ですね…

まずは弱点を探りながら攻撃を行う。
俺は植物の攻撃が届かなそうな所に位置取ってUCを発動
「ここは貴方に任せます」
召喚した2体のうち、刀使いは弱点探しの為の攻撃を行わせて
蒼狼には、刀使いを妨害する植物の排除、または敵攻撃を回避して撹乱を狙ってみます

俺は敵攻撃が来そうなら、立ち位置を変えて距離を取る
茎、葉、実、それぞれを攻撃して、植物の一挙一動を見逃さないよう観察
反応が無ければ茎の根元や、見た目に差異がある場所などを攻撃
植物がこれまでと違う動きを見せた所が弱点と判断、猛攻を仕掛ける

貴重な食料への道、切り拓かせて貰います




 目の前の光景を一言で表現するならばジャングルだ。
 自分の背丈よりもはるかに成長したゼンマイと思しき山菜や蕗を見上げながら、キカロ・ディズト(冬のハガネ・f29598)は妙な感慨を抱いた。
(「生命力に溢れすぎていて圧巻の一言に尽きます。この世界で生きる人々も大変ですね……」)
 キカロが近付いても、元山菜たちは襲ってくる気配を見せない。対して、蕗たちの奥に見え隠れする蔓植物は動くものの気配に敏感なようで、時折、蛇のように蔓の先端をもたげていた。
 意を決したキカロは植物の要塞へ分け入る。襲ってくる気配を見せる植物と、そうでない植物を慎重に見極めながら進んでいると、二枚貝のような葉を素知らぬ顔で広げているハエトリグサを見かけた。
「なるほど、これは危険ですね」
 足を止めたキカロは、巨大な蕗の束を隠れ蓑にしながら二体の死霊を呼び寄せる。
 一体は刀を持ち、もう一体は蒼い狼の様相を呈していた。
「ここは貴方に任せます」
 返事の代わりに刀使いが刃先を煌かせる。囚人の無念を乗せた死霊は、蕗の陰から飛び出し植物の群れへ身を躍らせた。ややあって、蒼狼も大地を蹴る。
「なかなか硬いようですね……」
 死霊たちと植物の戦闘を冷静に観察しながら、キカロは植物要塞の攻略方法を考える。
 異様な成長を遂げているせいもあってか、植物たちは斬撃にある程度の強さを見せた。焼却手段があれば手っ取り早いのだが、生憎それは手元にない。
「あっ!」
 死霊たちの死角から、ハエトリグサが葉を左右へ広げて襲い掛かろうとしていた。すかさず蒼狼が跳躍する。
 ガアッ――!
 鋭い爪が茎へ食い込み、茎は縦方向に裂ける。柔らかな茎の内側。鋭い牙がそこへ噛み付く。キカロは思わず声を上げた。
「そうか」
 植物の茎は繊維が縦向きに寄り集まっているものが多い。横からの衝撃には強いが、縦方向からの攻撃には弱いということだ。
 キカロが植物の弱点に気付いたその時。
「っ!?」
 葉の揺れる音が真横から聞こえた。何かがこっちに向かってくる音。咄嗟に後ろへ跳んで避ける。
 キカロの眼前を素通りして地面へ激突したのは何かの実だ。実が飛んできた方向を見ると、他の植物に絡まって実をぶら下げた蔓が揺れている。実は人の顔ほどもあるぼってりとした野菜のような見た目だ。ナス科、あるいはウリ科だろうか。
 キカロは破裂した実を観察する。鼻につく酸っぱい匂い。地面へ広がった汁は赤紫色で、種と思しき物体はゼリー状のものに覆われている。とても食えた代物ではない。
 キカロは刀使いへ蔓を攻撃させた。異様な成長を遂げているといっても、蔓は茎ほど硬くない。茎よりは簡単に断ち切ることができた。同様に葉も切り捨てていく。
「情報収集はこれくらいで充分でしょう。さて、それでは貴重な食料への道、切り開かせてもらいますよ」
 二体の死霊を呼び戻したキカロは、その両手に刀と精霊銃を構え植物要塞へ斬り込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高吉・政斗
(アドリブ&絡み大歓迎)

飲食確保系依頼ってやつは…
必ずLVで変異体と絡むよなぁ…メンドクサ

(UC起動)
目的の場所は結構遠いので一気に戦車型でダッシュ!
邪魔するヤツラは戦車砲(鎧無視攻撃)や副砲(制圧射撃)で一斉掃射!
序に轢き潰す!(蹂躙)
そう、変異体植物を誘き寄せる形で暴れよう、囮役です俺。

戦車は内外乗車が出来るから好きに使って暴れてくれても構わない…ジフテリア?燃焼行動はやり過ぎない様に…って見てるだけで熱っ!。(機銃使用などのご利用は無計画的にOK~)


奴らの相手にしながら研究棟出入り口に差し掛かったら…
早速帰りの準備だ、ここで二足型に変形して変異体を迎え撃つ!
(攻撃方法は移動中と同じで)


尖晶・十紀
【IAA】 アドリブ歓迎

食料には使えないと、聞いたけど……それ以外の使い道、例えば薬効とか、そういうのがないか【サバイバル】知識、【毒耐性】で探して採取しておくよ。……見た目があれでも味はいい、てこともありそうだし。

使えなさそうな部位は草木灰の材料に回そうかな。所詮は植物、燃やせば燃えるだろうし。という訳で【UC】で焼却し尽くそう。ひたすら焼却、徹底的に焼却、なにがなんでも焼却だ。


ヴィクトリカ・ライブラリア
【IAA】 バイオ研究所ねえ。
こういうところでのサルベージも司書の業務のひとつ、ここは経験者のお姉ちゃんに任せておきなさい。
というわけでチームの先頭で盾を構えてずいずい進むわ。
正面から何か来る分は【盾受け】でカバーして火炎放射器の【範囲攻撃】で焼却ね。
これを基本行動としつつ、【情報収集】【世界知識】【サバイバル】と電子辞書の検索機能を活用して十紀さんの活動をサポート。
ついでに鞄に入れて【運搬】してきた罠の部品をイヴェットさんに渡した側から採取したサンプルを回収するわ。力仕事は年長者に任せて、ね?
ところでいぇーいジフちゃん見てる? どうよお姉ちゃん頼りになるでしょ。敬っていいのよ?


ジフテリア・クレステッド
【IAA】
流石に独自の生態系の植物の知識はないし…私はとにかく邪魔なやつを駆除していくよ。
仲間から少し離れた【目立たない】位置取りを常に意識して仲間を狙う植物を【スナイパー】ライフルで狙撃する。【毒使い】である私謹製の毒弾での銃撃ならどんな分厚い植物にだって【鎧無視攻撃】してるようなものだよ。
基本的には採取・調査をしてる仲間を中心に守るつもり。戦車で突っ切っていく政斗は…別に援護しなくともいいかな。戦車だし。囮よろしく。やっぱりおとこのこはたよりになるなー、すてきー。ついでにおねえさまもー。(棒読み)
…って!?うわっ!めっちゃ燃えてる!! やっば!【ダッシュ】で政斗のところまで逃げる!


イヴェット・アンクタン
【IAA】
植物ですか。大規模は別の方が、燃やすのならば十紀さんが、外部サポートはジフテリアさんや、ライブラリアさん達がやって下さるでしょうし……私は脇を固め、足りない部分をその都度、補う形で動きましょうか。

罠使いの真骨頂【トラップ】を存分に活用いたします。持ち前の視力で見極め、なれぬ場所も足場とする習熟した技術で走り……破壊工作として特製BOXから、除草剤入りの罠を設置していきます。
ライブラリアさんから部品も貰えますし、サンプル回収などの援護を並行して進めましょう。
これだけでは、心もとないので、ダガーやライフルで追加攻撃しますか。

まばらも過ぎる場合はUCで一度まとめます。いったん止まりなさい。




 一人の猟兵が研究棟までの道を一つ切り開いたのち、今度は五人の猟兵たちがグリモアベースから転送されてきた。
「うわー、これはスゴイねぇ……」
 自身の背丈よりも遥かに高く逞しく育ったゼンマイを見上げながら、ヴィクトリカ・ライブラリア(二等司書・f24575)は呟いた。ヴィクトリカの頭上では、ゼンマイの他にも様々な植物が自重で左右へ振れ、地面に陰影を重ねていた。
「はぁー……この手の依頼ってのは、高確率で変異体と絡むよなぁ」
 高吉・政斗(剛鉄の戦車乗り・f26786)の口からは、溜め息が零れる。
 陰影の中、地面を生物のように這い回っているのは、蔓系の寄生植物だ。よく目を凝らせば、花に擬態した食虫植物も混ざっている。まともに相手をするとなれば厄介だ。
「青果物は食料に使えないと聞いたけれど……」
 揺れる草葉の影、ちらちらと覗き見える実は真っ赤なトマトに似ている。だが、尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)がよく知るトマトとは、少し形状が違うようだ。十紀は口元に手を当て考える。
「食料以外の、例えば薬物とか……そういう方向での使い道はあるかもしれないから、出来れば少し採取していきたいな」
「オッケー。じゃぁここは経験者のお姉ちゃんに任せておきなさい。こういうところでのサルベージも司書業務の一つだからね」
 ヴィクトリカが意気揚々と胸を張った。
「それなら、私はとにかく邪魔な奴を駆除していくねー。パッと見ただけでも結構やばそうなのもいるみたいだし」
 小振りのスナイパーライフルを構えたジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)は、スコープを覗く。
 視認できる範囲をざっと確認しただけでも、食虫植物の影がちらほらと見え隠れしている。奴らの動きを止めるには捕虫器部分、つまりは葉と茎の境目を精密に撃ち抜いて、動きを止める必要がある。
「除草剤の罠、も仕掛けておきましょうか。本格的な焼却作業へ入る前に、十紀さんが襲われては困りますから」
「ありがとう、助かるよ」
 イヴェット・アンクタン(ロックオン・サバイバー・f24643)の提案に、十紀が頷いた。
「政斗はどうするの?」
 スナイパーライフルを下ろしたジフテリアが、政斗を振り仰ぐ。
「俺の得物は戦車だからな。てわけで、やることは決まってるだろ?」
 なるほど、とジフテリアは納得する。
 戦車のキャタピラが植物だらけの道を舗装してくれるなら、有り難いことはない。ついでにある程度の食虫植物たちを引き付けてくれれば、採取を行う十紀たちの周囲も幾許かは安全になる。
「そっか。じゃ、囮よろしく」
「あぁ、任せとけ。元よりそのつもりだ」
 力強く宣言した政斗の目は、すでに敷地の奥を見据えていた。


「さて、お仕事始めましょうか」
 仕事始めは作業場所の清掃から。政斗の駆る戦車を見送ったのち、ヴィクトリカは透明な防護盾を前面へ構えた。
「はーい、どいてどいてー!」
 ヴィクトリカは盾を構えたまま、植物の壁を押しのけて前進していく。芽を出したばかりの若く柔らかな植物は、それだけでこそげ取られていくが。
「おっと!」
 真正面から何かの実が飛んでくる。ヴィクトリカは僅かに盾を傾けた。隙間からの直撃を防ぎ、立て続けに飛んできた実もしっかりと防御する。
 盾に衝突した実は赤紫色の汁を盾へ塗りつけ地面へ落ちた。加えて、実を投げたと思われる蔓の固まりがヴィクトリカへ襲い掛かってくる。
「あんまり使いたい装備じゃないけど……躊躇してる場合じゃないわね」
 仕事はチームワーク。十紀の作業へ影響が及ばないようにするため、ヴィクトリカは盾の切り抜き部分から火炎放射器を突き出した。
「それっ!」
 合図と共に炎が一直線に噴き出した。燃焼範囲を細く絞った蒼い炎は、瞬く間に蔓植物の表面を走り回る。炎に撒かれた蔓は空中でのたうち、やがて黒く変色して散り散りになった。
「これは、やはりトマトではないね。では一体何だろう」
 雑草駆除を続けるヴィクトリカの近くでは、十紀が件の青果物を観察していた。実は赤くぷっくりと熟れ、傷口からは酸味の強い爽やかな香りが立っている。
 トマトとの違いは生育状態だ。茎を支柱へ絡ませて成長するトマトとは違い、こちらは樹木の枝からぶら下がっている。トマトというよりはザクロに近いのかもしれない。
「それはタマリロね」
 一息ついたヴィクトリカが十紀を振り返り答えた。
「タマリロ?」
「そ。元々は熱帯地方の植物なんだけど、寒さにもある程度強いみたいよ。本当は太陽の光が沢山必要なんだけれど……ここにあるのは遺伝子改良されて日陰でも生育できるようにしたのかな」
 ヴィクトリカの手元で電子辞書が薄く発光していた。
 十紀は再びタマリロを眺める。
 ヴィクトリカの調べでは、パッションフルーツとキウイフルーツの中間に位置する味を持つらしい。だが、ここにあるものは遺伝子改良された挙げ句、勝手に繁殖したものだ。直接的な栄養の摂取は無理かもしれない。
「……うん、でも栄養成分の抽出だけなら可能かもしれないな」
 枝から下がっている実の中でも、形や色艶の良いものを選びもぎ取っていく。ヴィクトリカが前衛を固めている間、十紀は青果物の採取に勤しんだ。

 一方、イヴェットは植物の要塞を駆け回り罠を仕掛けていた。
 二人が予定している進行ルートへ先回りして、危険度が高そうな植物や、足を絡め取られそうな蔓植物が群生している場所を中心に罠を仕掛けていく。
「よし、終了。次は向こうですか」
 イヴェットの足取りは軽快だ。根が張り出して滑りやすくなった場所でも、何ら問題なく足場に出来る。
「この辺りにも、罠を仕掛けておいた方が良さそうですね」
 イヴェットの目がラグビーボールに似た形の青果物を捉えた。西瓜のような模様が入っているが、落ちて割れた中身を見ると明らかに西瓜ではないと分かる。
 青臭い匂いを放つ青緑色のそれは、例えるならメロンだ。しかし、種の配置はキュウリとよく似ている。
「……きゅうりメロン?」
 イヴェットは首を傾げた。
「これは、十紀さんが必要としそうですね。けれど、この蔓の部分は邪魔です」
 電気コード並みの太さを持つ蔓は奇妙に蠢いている。イヴェットはちら、と特製BOXを見遣った。
 イヴェットが設置している罠は、除草剤を仕込んだ小型の筒状スプリンクラーだ。地面へ設置して使うタイプである。装置の上部には360度回転する噴霧口が付いている。
 使用している除草剤は葉から吸収されるもので、土には影響を与えない代物だ。だが、とイヴェットは青果物を見上げる。実は枯らしてしまうかもしれない。
「少しだけ、先に採取しておきましょうか」
 イヴェットはダガーナイフを手に取り、五個ほどの実を素早く切り落とした。採取した青果物は特製BOXへ仕舞いこむ。罠を取り出した分だけスペースが空いていた。
「これでよし、と。では罠を設置していきましょう」
 植物からの攻撃を受けないように注意しながら、イヴェットは一定の間隔で罠を仕掛けていく。そして、少し離れた場所で罠が作動するのを見届けてから、部品補充のためヴィクトリカたちの所へ戻った。

 収穫後に残った枝葉を集め、焼却の準備をしていた十紀は葉の擦れる音に気が付いた。ややもせず、植物の間からイヴェットが姿を見せる。
「あぁ、イヴェットお帰り」
「はい。部品がなくなったので一度戻ってきました」
 前方にいるヴィクトリカも、盾で植物をなぎ倒してイヴェットを振り返る。
「罠の部品ね? あるわよー」
 ヴィクトリカは盾を地面に固定し、鞄から細かいパーツを幾つも取り出した。
「あ、その前にこれをお願いします」
 特製BOXから採取してきた実を取り出したイヴェットは、実を地面へ並べる。
「オッケー。力仕事は年長者に任せて」
 部品を手渡したヴィクトリカは、両手で実を全て持ち上げ自身の鞄へと仕舞い込んでいった。
 物の入れ替えを行う二人を見ていた十紀は、ふと違和を覚えた。何だろう。二人を覆う影が不自然に揺れている。
 頭上を見上げれば、細長い茎から逆さにぶら下がる赤紫色の肉厚な花弁があった。右へ、左へ、ゆらゆらと振れる花はいつの間にか二人へ影を寄せている――。
「ヴィクトリカ! イヴェット!」
 十紀が鋭い声で二人へ呼びかける。と、同時に花は急な角度をつけて二人へ襲い掛かった。


「――!」
 巨大な蕗の陰でコッキングの音が響く。
 ライフルでハエトリグサを駆除したジフテリアは、三人へ襲いかかろうとしていたムラサキヘイシソウの花へ素早く照準を合わせた。間髪入れずに空気を裂く音が爆ぜ、花が地面へと落ちる。
 ムラサキヘイシソウ。花自体に食虫機能はなく、ロゼット状に地面へ広がる葉が捕虫器の役割を果たしている。本来は消化液を分泌する器官を持たないが、この施設に生えているものは違うらしい。
 ジフテリアは再び照準を定める。と、事の次第に気付いたヴィクトリカが、素早く反転して火炎放射器を照射した。三人とも無事のようだ。ジフテリアはほぅと息を吐いた。
「ふぅー、気が抜けないなぁ。政斗の方はどうかな」
 植物による視界不良の中にあっても、戦車の音はよく響く。ジフテリアは僅かに移動して、植物の隙間から遠目で政斗の様子を確認した。
『オラアアアァァ!!』
 戦車はその場に留まることなく常に動き回っている。
 爆走する戦車の後ろを大量のネナシカズラが追いかけ、キャタピラで掘り返された土煙の中からは巨大化した食虫植物が戦車へ襲い掛かっていた。
 大きな旋回を始めた戦車が植物たちへ機銃掃射を仕掛ける。不自然に跳ねた植物たちは見る間に追走を止め、地へ伏していった。
 詳細を確認することはできないが、多分、上空から戦車の滑走跡を見たら、ミステリーサークルのようになっているだろう。
「戦車へ乗り込む前にユーベルコードも使ってたし、うん、あっちは援護しなくてもいいかも。やっぱりおとこのこはすごいなー」
 素直に感心していると、視界の端に蒼い火柱が映りこんだ。ヴィクトリカの炎だ。見遣ればヴィクトリカが火炎放射器を振り回して、何事かを叫んでいる。
「いぇーい! ジフちゃん見てる? どうよ、お姉ちゃん頼りになるでしょ。敬っていいのよ?」
「はいはい、おねえさまもすてきー。……って、あれ?」
 ガスマスク越しに、ふと空気が熱いことに気付く。ジフテリアの近くに蒼い火の粉が舞っている。風向きが変わってこちらへ飛んできたのだろうか。生い茂った緑へ着地した火の粉は、ちりちりと音を立てて燃え始めた。
「え、えっ、ちょっと」
 ジフテリアのすぐ側で火が勢いよく発火した。
「あっつい!!」
 ジフテリアはすぐさま横へ飛び退きながら、戦車が進んでいる方向を確認した。目視できない範囲へ移動したのか姿は見えないが、機銃掃射の音を頼りに走り出す。
 戦車の中で火の手をやり過ごそうと考えたのだ。そんな彼女の後ろを、火の粉が追いかけてくる。
「ん? 何か燃えてるのか?」
 手ずから改造した戦車の中では、モニターで周囲の状況を確認していた政斗が、異変を察知していた。
 生体反応と急速に広がる熱源反応のデータ。モニターを切り替えるとジフテリアの姿が映る。政斗はハッチを空け戦車の外へ身を乗り出した。
「――ジフテリア! どうした? 採集が終わるまで燃焼行動は控えめにって、熱っ! 見てるだけで熱っ!」
 火は野焼きのように広がっていく。
「ああっ、くそっ!」
 再び戦車の中へ身を沈めた政斗はモニター画面を操作した。画面にいくつもの情報が映し出される。この戦場へ来てから記録していた映像、火の燃焼速度から予測される燃焼範囲とその時間、鎮火剤のデータベース――その中で目に留まるものがあった。
「んん? これって農業用のスプリンクラーか?」
 植物の影にひっそりと佇んでいた細い合金製の棒。すぐに映像を解析した。
「へぇ、太陽エネルギーで自家発電ね……。てことは、まだ使える可能性が高いのか。よしっ」
 政斗は戦車の主砲をスプリンクラーが潜む方向へ向けた。水が勢いよく噴き出すことを祈り、照準はスプリンクラーの上半分へ絞る。
「そらっ!」
 ドォンッ――! と重い音が響き反動で戦車が僅かに揺れた。砲弾は見事に命中し、スプリンクラーからは噴水のような水が撒き散らされる。
「よし、他のもやるぞ」
 戦車を追いかけてくる邪魔な植物の排除はジフテリアに任せつつ、政斗は次々とスプリンクラーを破壊していく。
 一つ、二つ、三つ。近くにあったスプリンクラーを破壊し終えた頃には、無事、火の手を食い止めることができた。
 サァァ――と細雨のように広がり、薄い虹を作る水飛沫をモニター越しに眺めながら、政斗は安堵の溜め息を吐き出す。
「はぁぁ、びっくりしたぜ……」
 操縦席の背もたれへずるずると沈み込むと、ハッチを叩く音が聞こえた。見上げれば、ほっとしたように目元を細めたジフテリアがこちらを覗き込んでいた。
「ありがと。助かった」
「おう」
 拳を上げた政斗は快活に笑ってみせた。


 野焼き騒動の後、政斗の戦車は小規模のミステリーサークルをいくつか作りながら、研究棟へ辿り着いた。
 戦車をその場で180度回転させると、植物が迫っていることに気付く。今まで追ってきていたやつの残りと、違う場所から集まってきたやつだ。
「さてと、帰り道の確保も兼ねて一暴れするか」
 戦車のモードチェンジ――二足型への変形。
 モニター画面の色彩が反転し、プログラムコードが流れていく。合わせて戦車が大きく揺れた。政斗の体は座席へ固定される。
 主砲を外した戦車は左右のキャタピラを分離させた。次いでレールを後ろへ下げ、キャタピラは前後へと分かれる。
 キャタピラが肩や腕へ変形していくのと同時に、発煙弾発射装置が浮き上がった。そして操縦席を残したまま戦車の装甲が外れる。装甲は後ろ方向へ回転して、操縦席の下で足を形作った。
 腕部分のキャタピラは外側へ向けられ、新たな装甲の役目を果たす。操縦席はコンパクトに変形して、その上に顔となる部分が出てきた。
 最後に地面へ落ちたままの主砲を拾い上げれば完成だ。
「おっ!」
 躯体が高さを増したことで視界が開けた。揺れる植物の間に仲間たちの頭部が見える。
「そぉらっ!」
 こちらへ向かってくる仲間たちへ被弾しないように注意しつつ、政斗は植物へ砲口を向けた。手動による素早い連射が可能になった主砲で、次々と植物を撃破していく。
 と、植物の一部が突如膨れ上がった。ブチブチと繊維を貫く音が響いて、薄橙の槍弾が姿を現す。
 ひとまとまりになった植物は瞬く間に紅蓮の炎を立ち昇らせた。立て続けに膨れ上がる植物の壁も、次々と燃えていく。
「ふぅ」
 焼け跡を踏み越えて出てきたのは十紀だ。続けてイヴェットが飛び出してくる。火炎放射器を構えて二人の背後を守っていたヴィクトリカも、こちらへ出てきた。
「あとは、ジフちゃんだけね。おっと」
「もう着いたよ」
 目立たない場所へ戻り三人の援護に回っていたジフテリアも、合流を済ませる。
「俺がそっちに戻るまでもなかったな」
「当たり前じゃん」
 政斗の軽口にジフテリアが当然だと言わんばかりに答える。
「雑草駆除はこれで完了ですか。では、あとは棟内の食料を運び出すのみですね」
 オブビリオンの気配が満ちる研究棟。奪還者たちがここを訪れる前に食料を運び出すため、猟兵たちは中へ足を踏み入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『インフェクション・マウス』

POW   :    接触感染
【噛みつきや引っ掻き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【強い毒性をもつ病原体】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    空気感染
自身に【病原体のコロニー】をまとい、高速移動と【空気中への病原体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    飛沫感染
【自身に傷を負わせる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【病原体に汚染された血液】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 食料コンテナのある保管庫。
 そこはオブビリオン――インフェクション・マウスたちに占拠されていた。
「キーッ! キーッ!!」
 近付いてくる猟兵の気配に反応したマウスたちは、毛を逆立て一斉に鳴き声を上げ始める。
「ヂイィィィッ!!」
 食料につられてやってきた人間は、格好の餌になる。マウスたちは肉の味をよく知っていた。
 だからこそ彼らは侵入者たちを歓迎して迎え入れた。
 それが最後の晩餐になるとも知らずに――。
キカロ・ディズト
これだけ数が居ると鳴き声も不協和音を極めていますね
狩られるのはどちらか…マウスの駆除、油断なく行きます

マウスの血液を直に浴びない為の対策として、
露出を控えた服装の上にマントを着用
ゴーグルとマスクで顔も覆う

敵数が多い状況では防御より攻撃重視
鳴き声も敵位置を把握する為の一助とする

…傷口からの血を攻撃手段とするなら、こちらもそれを利用させて貰います

UC『郎笑の爆弾魔』を発動
群れの中心付近の一匹に銃口を向け、
精霊の力を借りて素早く照準を定め【スナイパー】攻撃
爆発開始後は、ダメージの浅そうなマウスを標的に、銃や刀での攻撃を続けて数減らしに専念
爆発が収まった後は逃げるマウスを速やかに撃破
一匹も逃しません




「うっ! これはっ――」
 入り口を塞いでいた半端な扉を蹴破った瞬間だった。キィキィと甲高い鳴き声がキカロを出迎える。庫内に舞った埃を吸わないよう、口元を腕で覆いながらキカロは周囲をぐるりと見回した。
 マウスたちは食料コンテナを囲むように陣取っている。天井裏からマウスたちが走る音も聞こえてきた。
「これだけ数が居ると、鳴き声も不協和音を極めていますね」
 キカロは不快げに眉を潜める。
「ヂイイイイッ!!!」
 一際高い鳴き声を上げ、マウスの先頭集団が向かってきた。軽い身のこなしでマウスの一撃を避けたキカロは、スラリと刀を抜く。
「敵意は十分ですか……。ですが、俺は狩られる側に回るつもりはありませんよ」
 ヒュッと鮮やかな音を残し、マウスの脇腹に半月状の斬り口が生じる。途端、血が噴き出した。マウスの目が怪しく光る。床へ着地したマウスは、すぐさま体を震わせ血を飛ばしてきた。
 キカロの反応は早い。後ろへ跳びながらマントを翻し、血の付着を防ぐ。ゴーグルとマスクで覆った顔も無事だった。
「……傷口からの血を攻撃手段とするなら、こちらもそれを利用させて貰います」
 マウスの挙動に注意しつつも、自らの内へ意識を集中する。高まり漲る力から囚人の死霊が姿を現した。
『…………』
 その囚人は朗らかな笑みを浮かべていた。戦場にあってその笑みは、場違いで不気味ですらあった。
「貴方の力、借りますよ」
 飛び掛ってきたマウスを避け、群れの中心を見定める。精霊銃を抜き銃口を中心にいる一匹へ向けた。すかさず、引き金を引く。
「ヂッ!」
 狙撃に気付いたマウスが床を蹴り出した。
「――っ、よし」
 胴を撃ち抜くことは叶わなかったが、片足を浚うことができた。
 千切れた箇所からぶわりと炎が膨らむ。更に死霊の力が加わって、炎を巻き込んだ爆発と爆風は連鎖的に広がっていった。
 煙に燻された周囲のマウスたちは「キィッ」と短い悲鳴を上げた。いち早く危険を察して逃げる個体もいれば、興奮してキカロへ向かってくる個体もいる。
「はっ!」
 真正面から飛び掛ってきた個体を撃ち抜き、窓から逃げるマウスを目で追った。
 マウスたちを全滅させなければ、食料コンテナを外へ運び出す際に危険が残る。保管庫の外へ飛び出したマウスも追わなければならない。
「! この気配は……」
 僅かに逡巡したキカロの背を押したのは、他の猟兵たちの気配だった。複数名の気配がこちらへ向かっている。であれば、自分は逃げるネズミを追いかけたほうがいい。
「一匹も逃しませんよ」
 銃を強く握り締めたキカロは、勢いよく床を蹴り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高吉・政斗
【IAA】
よし!保管庫に着いた!
鼠連中の数半端ねぇなぁ。
ヴィクと十紀がある程度やってくれるかな?それなら安心。
(っほ


・俺は皆と一緒に(イヴェット・十紀・ジフテリア・ヴィクトリカ)行動。
戦闘は皆の背後に…って皆毒やら煙やら罠やら…(生きるよ?俺)
なら俺は物資にビーコン弾(暗号作成)を貼り付けよう。
俺も射撃で参戦…楽しみはこれから。

(FECTにはある命令をした)
・保管庫周辺、大まかな位置付近に二足型で移動。
・ビーコン反応時、非攻撃対象と判断(学習力)。
・ビーコン反応位置を計算(学習力)、保管庫へ強制侵入。
・敵排除行動に移行。
・(UC起動)戦闘時間が掛かる場合搭乗準備する。

よしテクニカルに行こうか。


ジフテリア・クレステッド
【IAA】
ビリオン・マウスユニット、私がこの二つ名に相応しい存在なのかちょっと試してみようかな。
さて、お姉様が非殺傷性のガスを撒くなら私は致死性のガスを撒くとしようか。ガスマスクを外して呼吸による毒ガスで【範囲攻撃】。【毒使い】の本領発揮だ。【継続ダメージ】で死に絶えろネズミども!
仲間と敵の毒には【毒耐性】で耐える。敵の攻撃には【激痛耐性】で。そして私の血液も十紀と同じく毒になるからね。どんどん駆除していこう。私は【継戦能力】がそこそこ高いから多少の無理は効くし。
はははははっ!命がゴミのようだよ!こんなことしてても普段は動物好きの私です!
……皆ノリノリで暴れてるけど、これ政斗生きてる?


尖晶・十紀
【IAA】アドリブ連携歓迎

大型かつ大軍……暫く肉には困らなそうだけど……残念、ここまで冒されていたら食べられそうにないね。

武器はワイヤー付きの鉄パイプ。急所狙いの怪力に任せた鎧砕きの一撃。遠い敵には投擲で対応。行って戻ってくる間で二回攻撃。

仲間がピンチなら積極的にかばう。毒や激痛への耐性はあるし、それに……血が毒になるのは奴らだけじゃない。

相手の攻撃を利用しカウンター気味にUC発動、動きを止める呪詛と麻痺毒で内部から、燃える血で外部から蹂躙してやる。

……そういえば政斗大丈夫かな……いざというときのために血清渡しとこ……


イヴェット・アンクタン
【IAA】
つまり食料を餌に、寄ってきた方々を食らっていたのですね。……ではとびきりの晩餐をご馳走いたします。身を裂く鉄と炎をどうぞご賞味あれ。

力は近遠ともに皆さまに譲りますし、先の通り隙間を埋める形で動きましょう。
視力で弱所を見抜き撃ち抜きつつ情報取集を。共通の弱点さえ戦闘知識に入れられれば、後はいつも通りやるだけですから。
素早い忍び足から暗殺の要領でかっ切り、要所で罠を設置。コレを欠かせては立ち回りに支障が出ます……ネットと爆撃の、二種を使い分けましょう。

毒ガスに対しては、環境耐性もありますから問題ありません。
聞き耳により状況を把握しながら立ち回り、隙を見てUC発動。トドメへの布石とします。


ヴィクトリカ・ライブラリア
【IAA】 ふんふんなるほど害獣ね。
オッケオッケ、相手がそうなら容赦は無いわ。こういう連中はね、まず燻すと後処理が楽なのよ。
はい皆一旦止まってー。フラスコチャイルドじゃない人はガスマスクつけといてね。
というわけで【罠使い】らしく搦手で敵の戦力を削ぐわ。
バッグから取り出したるはM18Fガスグレネード、吸えば涙と鼻水が止まらなくなり喉が爛れる非殺傷の毒ガスをぶちまけるとっておき。
味方が狩り立てた連中が巣に逃げ込んだらそこに放り込んで盾で出入り口を塞いでダクトテープでしっかり目張りしてあとは三分も待てば、抵抗も随分軽くなるんじゃない? フラスコチャイルド各位は待望の汚染領域よ、全力で暴れましょ。




 研究棟内部――。
 フロアマップで確認した通路を走り抜けると、五人の前に保管庫の入り口が見えてきた。
「あの向こうが保管庫ね。って、入り口が廃材で塞がれてるけど!?」
 ジフテリアの言うとおり、保管庫の入り口は何故か沢山の廃材で塞がれていた。正確には廃材が無造作に積み重なって、すでに何処かへ吹き飛んだ扉の代わりをしていた。
「これは……どうやら先客がいたようですね」
 イヴェットが感じ取ったのは、他の猟兵が用いたユーベルコードの名残りである。
「ということは、中はもう空っぽだったりするのかな?」
「中に入ってみりゃ分かるさ。そぉら!」
 ヴィクトリカの横から抜け出た政斗は、足を勢いよく振り上げた。靴の踵が見事に廃材をぶち抜く。支えを失ってバランスを崩した廃材は、激しい音を立てて庫内の床へ転がり、土煙と粉塵を存分に巻き上げた。
「よし! 保管庫へ着いたぜ! って、鼠連中の数半端ねぇなぁ!?」
「あぁ、大型かつ大軍……暫く肉には困らなそうだけど……残念、ここまで冒されていたら食べられそうにないね」
 マウスたちの毛は硬くごわごわしている。何より不気味に脈打つ表皮が禍々しい。マウスたちの姿を見た十紀は眉を潜めていた。
「キィィィ! キィィィ――!」
「ヂッ! ヂィッ!!」
 五人を迎えるけたたましい鳴き声には、歓喜と敵意と高揚が滲み出ていた。全てがない交ぜになった耳障りな音だ。イヴェットはマウスたちを睨みつける。
「食料を餌に、寄ってきた方々を食らっていたのですね……」
 食料――。
 五人は保管庫の奥を見た。食料コンテナは保管庫の奥にあるが、その周囲はマウスたちが取り囲んでいる。
 マウスたちの数は多く呼気も荒い。異様に興奮している。だがよく見れば、既に傷を負っている個体もいた。恐らく先客が残してくれた土産だ。
 イヴェットはすぅと眼を細めた。
「皆さん、このマウスたちですが、罠で上手く追い込めば一毛打尽に出来るかもしれません」
「んっ、それ良いアイディアね!」
 イヴェットの閃きにヴィクトリカが賛同する。
「それに、こういう害獣はまとめて燻すと後処理が楽だしねー」
「お姉様、何をする気?」
 首を傾げたジフテリアの前でにっこりと笑ったヴィクトリカは、自身の鞄を指し示した。ジッパーが開いて中が少しだけ見える。
 特性のガスを有したグレネード。戦場を汚染環境に変えるのはフラスコ・チャイルドの十八番だ。ジフテリアの胸中にもむくむくと沸いてくる思いがあった。
「それなら、私もちょっと試してみようかな」
 ビリオン・マウスユニット。自分がこの二つ名に相応しい存在なのかを試してみたい。
「んん? 何を試すの? ジフちゃん」
「お姉様が非殺傷性のガスを撒くなら、私は致死性のガスかなと思って」
「なるほど。我々とオブビリオン。汚染環境を得意とする者同士でサドンデスか。ふっ、分かりやすくていいね。だけど」
 そこで言葉を切った十紀は後ろを、つまりは政斗を振り返った。他の三人も、はたと気がついた様子で政斗を振り返る。硝子のように美しい八つの目が、政斗へ集中した。
「おぅ、あのー、あれだ」
 小銃を小脇に抱えたままの政斗は、片方の手を持ち上げぽりぽりと頬を掻いた。
「俺は頑張って生きるから……誰か途中でガスマスクとかくれると、ありがてぇ、かな?」
 はは、と乾いた笑いを洩らす政斗の顔は少し引き攣っていた。


「ヂイッ!!」
「作業の邪魔です」
 細い足場の上、敵意を漲らせ飛びかかってきたマウスを、イヴェットはダガーで斬り伏せる。飛び跳ねた体が下へ落ちるのを見届けてから、イヴェットは再び走り出した。
 イヴェットは今、二種の罠を仕掛けるために鉄骨の上を走り回っていた。天井付近、端から端まで交差するように渡してある鉄骨は、配管を支え、照明器具をぶら下げるためのものだ。中でも一際太いものは、梁の役割も兼ねている。
「! またっ……!」
 イヴェットの後ろから影が迫る。傷口から血を撒き散らし、マウスは鉄骨から跳んできた。と、マウスの横っ腹を鉄パイプがぶん殴る。どむっ、と鈍い音が響き、マウスは潰れた悲鳴を上げた。
 鉄骨から真っ逆さまに落ちたマウスは、床面へ叩き付けられた衝撃で汚染された血を周囲へ撒き散らす。
 鉄パイプは十紀の手元へ戻っている。彼女はマウスたちの注意をひきつけるように、戦っていた。邪魔をしてはいけない。イヴェットは目だけで礼を述べて、次の設置場所へ向かった。
「もうあと少し、ですね」
 二種の罠を、互いが誘爆しないよう一定の間隔を空け、交互に設置していく。
「次」
 横一列分の罠を設置し終えたイヴェットは、次の鉄骨へ飛び移った。

 その頃、下では十紀の派手な立ち回りと共に、ジフテリアが盛大に毒の息を撒き散らしていた。
 彼女の目の縁からはどろりとした血が溢れている。瘴気を含んだ濃い紫色の呼気は、絶えず周囲を満たしていく。まさしく地獄だ。毒に耐性がある筈のマウスたちもかなり苦しんでいた。
「あははははっ!! 死に絶えろネズミども!!!」
 ガスマスクを外して息苦しさが減った分、気が昂ぶっているのか、ジフテリアの口からは高笑いまで飛び出している。
「ジフちゃん、はしゃいでるわねぇ。わたしも負けてられないな、っと」
 ヴィクトリカは飛び掛ってきたマウスを盾でいなし、隙間から小銃を突き出した。小銃は小気味良い音を立て、マウスたちの体へ穴を開けていく。
 毒ガスは次第に空気中の濃度を増していった。心なしか視界も利きにくくなってきた。政斗は冷や汗を浮かべる。
「俺、本当に大丈夫か……?」
 仲間からもらった予備のガスマスクをつけてはいるが、どうにも不安を消せない。そうかと言って作業の手を休めるわけにもいかなかった。
「いやいや、俺は俺の出来ることをやるだけだ」
 気を取り直した政斗は、引き続きコンテナへビーコンを取り付けていく。そして、最後のコンテナにビーコンを取り付けようとしたとき。
「のわあっ!?」
 突如、毒ガスが大きくうねり膨れ上がった。間髪入れずに、政斗の横をマウスが飛んでいく。一直線に吹っ飛んできたマウスは、政斗の後方にある壁へ激突し、壁一面に血を撒き散らした。
「危なっ! 俺、危なっ!!」
「政斗」
「はい!?」
 思わず敬語になってしまった。姿勢を正した政斗の前に十紀が姿を見せた。
 壮絶な姿だった。顔にも体にも血糊がべっとりと付いている。手に持った鉄パイプからは血が滴っていた。恐らく、これでマウスを吹っ飛ばしたのだろう。血はワイヤー部分にまで伝っていた。
「これを」
「あ? あぁ」
 目を丸くしている政斗に、十紀は手を出してあるものを見せる。それは砂時計のような装置に保管されている血液だった。政斗は、ハッとして十紀の顔を見る。
「戦場がかなり汚染されてきたからね。念のため血清を渡しておくから、体に異変を感じたらすぐに使ってほしい」
「! 分かった。サンキュ」
 政斗は受け取った血清を大切に胸ポケットへ仕舞いこむ。 
「皆さん、罠の設置が終わりました」
 ところ狭しと立ち込める毒霧の中、イヴェットの声が朗々と響いた。いよいよ、マウスを追い詰めるときがやってきたのだ――。


「点火」
 イヴェットの合図と共に、出入り口近くの罠が作動した。バンッ! バンッ! と立て続けに短い音が響き、頭上からの爆撃が始まった。
 鉄骨の下面、床へ向けて設置された罠は、マウスたちをダクトへ追い込むため、手前から発動するように仕掛けていた。
 爆撃の嵐に晒されたマウスたちは、ぴょんぴょんと跳びはねて逃げ惑う。ダクトへ向かう前に鉄骨へ登るマウスは、イヴェットの足が蹴り落とした。逃げずに襲ってくる個体は、十紀のパイプが保管庫の中央より後ろへ弾き飛ばす。
 続けてネットの罠が作動する。バサッと音を立てて落ちたネットは、蜘蛛の巣状に広がりマウスたちを絡め取った。なおも暴れる個体にはジフテリアの呼気が襲い掛かる。
 罠は一列、また一列と作動していく。散り散りに逃げる個体もいるが、概ねのマウスは追い立てられるように、天井ダクトがある場所へ近付いていった。
 毒ガスに爆風、粉塵。皆ノリに乗っているが、政斗は無事だろうか。攻撃の手を休めたジフテリアは、ふと政斗の安否を気に掛けた。
「そういえば、政斗、生きてる?」
「おう!」
 爆撃による煙の向こうで影が揺れている。政斗の手だ。ジフテリアはほっと息を吐く。
「では、そろそろそちらも準備を」
「了解!」
 煙の中を声が飛び交う。十紀の号令にOKサインを作った政斗は、力強く叫んだ。
「FECT、来い!!」
 直後、政斗の真後ろにある壁から雷鳴のような音が轟き、積み重なっていたコンテナが僅かにカタカタと振動した。次いで二足歩行の戦車が壁を破壊しながら侵入してきた。
 戦車は即座に戦場のデータを収集し解析を始めた。無論、ビーコンからの信号も受信している。
 戦車が大きく動く。両腕に取り付けてある機関銃が、マウスたちを追い立てるように攻撃を開始した。
「キーッ!」
 イヴェットの罠と戦車で挟み撃ちにされたマウスたちは、一斉に左右へ散った。ダクトとダクトを結んだ直線上にまで追い込まれていたのだ。
「お姉様!」
「オッケー! 任せて!」
 ヴィクトリカが走り出す。近くにあった鉄骨の支柱を、三角跳びの要領で足場にした彼女は、そのまま天井付近の鉄骨へ飛び移り、近い方のダクトへ走った。
「涙と鼻水が止まらなくなって、喉が爛れる非殺傷の毒ガスよー。喰らいなさい!」
 慣れた手つきで『M18F』のピンを外したヴィクトリカは、低い姿勢から美しい投球フォームを見せた。
 ダクトへ逃げ込むマウスたちを『M18F』が追いかける。ヴィクトリカはすぐさま盾とダクトテープで出入り口を塞いだ。そして、その場で体を反転させ、反対側のダクトへ狙いを定める。
「それっ!」
 今度はサイドスローの要領で『M18F』をダクトへ投げ入れた。ダクトの入り口はイヴェットが塞いだ。持ち寄った資材がダクトテープで無造作に貼り付けられていく。
 これで三分待つ。ちょうどカップラーメンが出来上がる時間だ。
「それじゃ、晩餐の準備が整うまでにお片づけをしましょうか」
 鉄骨の下、ダクトへ逃げそびれたマウスたちへ狙いを定めたヴィクトリカは、小銃の引き金を引いた。


 三分後――。
「それじゃ、いくわよ」
「はい」
「せーのっ!」
 ヴィクトリカとイヴェットは声を合わせて、ダクトテープを剥がす。途端、生き残っていたマウスたちが、自由を求めて外へ出てきた。
 力なく鳴いて飛び出してきたマウスたちは、次々と鉄骨から落ちていく。ガスが効いている証拠だ。ダクトの中を覗けば、他のマウスによって圧死している個体が確認できた。
 マウスたちはよろけている。それでも起き上がるのはオブビリオンだからだ。連携を取ることが出来なくなった個体は、本能に任せたまま猟兵たちへ向かってきた。
「そろそろ狂乱の宴も終わりにしよう」
 マウスが十紀の腕へ噛み付く。ぶつりと皮膚が裂けて血があふれ出した。灼血――異能を秘めたそれは、十紀の手を伝い鉄パイプへ流れていく。
「ふっ」
 尋常ならざる膂力でマウスを地面へ叩きつけた十紀は、自らの血によって変化した鉄パイプでマウスの体を突き刺した。マウスの体が硬直する。そして、次の瞬間には激しい痙攣を見せた。
「ギ、ギッ――……!」
 マウスの体が沸騰したように弾け飛んだ。飛び散った肉片が壁へぶつかり、ずるずると垂れ下がっていく。
「とびきりの晩餐をご馳走いたします。身を裂く鉄と炎をどうぞご賞味あれ。」
 イヴェットを中心に橙色の槍弾が生成される。槍弾は美しい幾何学模様を描きマウスたちを取り囲んだ。鋭く尖った先端がマウスたちへ向けて降り注ぐ。悲鳴の嵐が沸き起こった。
「ガッ! グゥッ――」
「喰らえっ!」
 ジフテリアが叫ぶ。食い込む牙の激痛をやり過ごし、傷口から流れ出た血をそのままマウスへ浴びせ返した。猛毒を帯びた血液。表皮は爛れ、目から体内へ入った毒素はマウスの体を内部から崩壊させていく。
「ははははっ! 命がゴミのようだよ!」
 悶絶するマウスを見て高笑いするジフテリアだが、普段は動物好きなのだ。今は高揚が過ぎてなりを潜めているだけである。
「よし、あと少しだな」
 前衛は四人に任せて、政斗はまだ息のある個体を探す。戦車の内部、モニター画面に個体の生存反応が提示された。
 マウスへ確実に止めを刺すため、戦車のアームを動かし、短い間隔で機関銃を撃つ。
 保管庫の中は燦々たる状況だ。しかし、食料コンテナだけは極めて良い状態を保っている。それは、猟兵たちのプロ意識の賜物でもあった。
 やがてマウスたちの鳴き声は減り、ガスや煙も薄くなっていった。しん、と静まり返った保管庫に戦闘を終えた猟兵たちの荒い息遣いが響く。
 戦闘は猟兵たちの勝利に終わった。勝鬨を上げた彼らは早速、コンテナを運び出すための準備へ取り掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『荒野に響く音色』

POW   :    力強く、いきいきとパフォーマンス

SPD   :    流れる曲に思いを馳せる

WIZ   :    心を合わせ、音を重ねアンサンブル

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 校庭にキャンプファイヤーの火が灯っている。
 火を囲うのはベースの住人たちだ。彼らは古き時代の遺物、ラジカセを発電機へ繋げて音楽を楽しんでいる。
 食料コンテナをベースへ運び入れた猟兵たちへの、ささやかな労い。今かかっている曲は、明るい『J-POP』だ。住人たちは音に合わせて踊り、歌い、そうでない住人たちは、いつもより少しだけ奮発した食事を楽しんでいる。
 やがて曲が終わる。住人の一人がカセットテープを入れ替えようとして、ふと手を止めた。住人は猟兵たちに向かって言った。
「もし、聞きたい曲があったら言ってね。色んな音楽のテープが残っているから」
キカロ・ディズト
住民の皆さんの明るい表情を見ると
疲れも感じなくなりますね

聞きたい曲…今流していたような、
明るく楽しい気持ちになれるような曲はありますか?

俺は聴く側として楽しもうと思います
実は、人となって初めて間近で音楽に触れるので…
…恥ずかしいのも少し…ありますが…

弾むリズムに合わせて手拍子を取り。
主旋律も覚えやすいし、歌えるかもしれない…
慣れなさからぎこちないかもしれないけれど、
皆の歌声に合わせるように、
自分の声を旋律に合わせてみます。

…苦境の中でも嬉しい時に心から喜ぶのは
今日の楽しい経験が明日を生きる糧になるからでしょうか。

歌い終わったら、
皆の明日が少しでも良くなるよう祈りも込めて
心からの拍手を贈ります




「聞きたい曲、ですか……」
 ラジカセを前に問われたキカロはふと考えた。
 人となってから初めて間近に触れる音楽。どんな曲がいいだろうか。直接、歌うのはまだ少し恥ずかしい。故に聴いているだけでも明るく楽しい気持ちになれる曲がいい。
「そうですね……いま流していたような曲はありますか? 明るくて手拍子を取りやすい曲がいいのですが」
 キカロの返答を聞いた住人は朗らかに笑った。
「もちろんですよ。えーと、そうだなぁ」
 箱の中でケースがカシャカシャと音を立てている。順に手前へ倒されていくケースの中で、青い透明なケースが目に付いた。書き込まれたタイトルを目で追ったキカロは、住人に尋ねる。
「すいません。これはどんな感じの曲ですか?」
「あぁ、これね。これは皆で歌って踊れる曲だよ。あ、君がさっき言った内容とぴったりかも」
 ケースからテープを取り出した住人は、ラジカセにテープをセットする。三秒ほどの間を過ぎたのち、音がフェードインしてきた。
 冒頭から明るい雰囲気を感じさせる曲だった。コンガとマラカスに似た音がリズムを取り、すぐに歌が入ってくる。
『輪になって踊ろう――』
 伸びやかな若い男性の声だった。複数人。おそらくグループで活動していたのだろう。
 音はやがてギターとドラムを含み、賑やかになっていく。だがリズムはゆったりとしたままで、一定の調子を保っていた。
(「これなら俺でも歌えるかも……」)
 住人たちはキャンプファイヤーを囲んで踊っている。そんな彼らを見ながら手拍子でリズムを取っていたキカロは、意を決したように背筋を伸ばした。
 少しの咳払いをしたのち、息を吸ってそっと声を吐き出す。歌はサビの部分に差し掛かっていた。繰り返しの歌詞に合わせて音を乗せていく。
「貴方もこっちへ!」
 キカロの歌声に気付いた住人の一人が、キカロを輪へ誘った。おずおずと輪の中へ入ったキカロは、住人たちの顔を見る。
 彼らの顔は火に照らされていた。誰も彼も明るく笑っている。世界がこんな状態でも前を向いて生きているからだ。
(「……苦境の中でも嬉しい時に心から喜ぶのは、今日の楽しい経験が明日を生きる糧になるからでしょうか」)
 男性ボーカルの声が終わり、そして曲もゆっくりと終わりを迎えた。
 キカロは一緒に歌って踊ってくれた住人たちへ拍手を送る。皆の明日が少しでもよくなるようにと祈りを込めて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高吉・政斗
【IAA】イヴェット達はこんな事をやろうとしてたんか?
(タノシソウ)

土紀&イヴェット&ヴィクがなんやらカッコいい事やり始めているので…
「物資調達成功記念」的に心の中で思いながら祝砲だな!
(祝砲…だから砲弾頭の無い砲弾撃つよ~…普通に危ないからねぇ)
二人が合わせてる曲に準じてボーン、ドーン、ドカーン!
(デカイ音が出そう…そんな理由でUC起動)

何か…やるか。

俺の戦車を打楽器に見立て履帯や砲塔や側面やらをポコポコッと色々な音色になるかな!。
(UDCに入た時、TVのCMでなんかやってた)
コレになんか会う曲…って言ったらHipHop系の曲でしょうな。
歌無しでも行けそうだから是非お願いしたひっ!


ヴィクトリカ・ライブラリア
【IAA】なるほどライブ……ライブ!?
ちょっとお姉ちゃん聞いてないんですけど! ライブするの!? 此処で!?
そっかーだからこの面子なのねなるほどね。じゃあお姉ちゃんは裏方でマネジメントにうわなにをするはなせーっ!
人前で歌うとか無理だし! ほらキーボードも持ってきてないし!
ってなんで皆が持ってるのよわたしのキーボード!?
あああうううううううう……ええい自棄よ! どうなってもしらないわよ!!
こうなりゃかわいい妹分達の活躍を喰ってやるんだから!
持ち歌のシンフォニック・メタルでフラスコチャイルドの死生観でも歌うとするわ。
ところで皆声小さくない? ねえちゃんと歌ってる? ねえ????


イヴェット・アンクタン
【IAA】
うってつけの場ですね……ギターを構えて衣を替え、IAA緊急ライブの幕開けです。このひと時を全力で奏で上げます。
J-POPやメインたるパンクロック他……別の曲もやってみましょうか。鍛えた楽器演奏術、ギターテクニックで宴にさらなる熱を注ぎましょう。

はっちゃけてもかまいませんね?
十紀さんのドラム、高吉さんのパフォーマンス、ジフテリアさん達の歌に負けぬよう、背後に降り立つキャバリア【ギガント・バリスタ】から大音量を流しますよ。……先ほど武器改造しました、すみません。

さて、後は歌唱中のライブラリアさんを、メインへ押し上げ……おや、ジフテリアさん、トーンを落とし始めましたね?
では合わせましょう。


尖晶・十紀
【IAA】
呼び方
イヴェット→イヴ
ヴィクトリカ→ヴィク


どうせならさ……生演奏、聞きたくない?

【フリオーゾ・ドラムセット】を起動させて、と。さあ、何が聞きたい?ロック?J―POP?どんなジャンルもどんと来い、リクエストには出来る限りで答えるよ。ヴィクには……最終手段【上目遣い】の使用も辞さない。

……やるね、皆。十紀も負けてられない。いつもは支えるのが役目だけど……今日は、メイン貰ってもいいよね?

奏者も聴衆も皆巻き込んで、時に強く鼓舞するように、時に激しく挑発するように、全身全霊のパフォーマンス。ビートを刻み続けよう。


……明日は筋肉痛確定だな……でも楽しいからいいか。


ジフテリア・クレステッド
【IAA】
キャンプファイヤーに音楽…テンション上がってきた!
メンバーも揃ってることだし、『ICY ASH Artificial』の緊急ライブでもしようか!

とか言ってる間に皆の方がノリノリだ…私たちも負けてられないね!お姉様!
今日こそ逃がさないよ!オラッ!最年長がリーダーやるんだよぉ!!

最初はツインボーカルで【歌唱】するけど徐々に【目立たない】よう声をトーンダウンさせて楽器による【パファーマンス】にシフトしていく。
ふっふっふ、これがお姉様をIAAの顔であるとこのベースの人間たちに認知させるための作戦だ!

そうやって既成事実を作れば、これからもなし崩しで一緒に歌ってくれるかもしれないし…。




 ラジカセから抜かれたカセットテープが箱へ戻される。何度目かの曲が終わり、校庭にはほんの少し静寂が訪れた。
 次のテープを選ぶまでの間、BGMの代わりになるのは住人同士の談笑だ。彼らの声は未だ熱を帯びている。増えた備蓄品と、それを運んできてくれた猟兵の存在、そしてもてなしのために流し続けている音楽が、彼らの熱を維持していた。
 それは猟兵たちもまた同じである。
「キャンプファイヤーに音楽……んーっ! テンション上がる!」
 ささやかな非日常感と、仕事終わりの開放感によってジフテリアの気分は高揚していた。先程から音楽がかかるたびに体でリズムを取っていた。
「どうせならさ……生演奏、聞きたくない?」
 ジフテリアの様子を見た十紀は、仲間たちへある提案を持ちかける。木の箱へ腰掛けたままの十紀をジフテリアが振り返った。
「メンバーも揃ってることだし……『ICY ASH Artificial』の緊急ライブしちゃう!?」
 ジフテリアの目は期待に満ちている。その期待に乗る人物がもう一人。
「なるほど、この場所、野外ライブにはうってつけですね」
 十紀と同じく木の箱へ腰掛けていたイヴェットが頷く。
「曲はどうしましょう? J-POPにメインのパンクロック……別の曲もありですね」
「パンクロック? お姉さんたちバンドやってるの?」
 猟兵たちの話を聞いていた少年が一人やってくる。続けて、一人、また一人と集まって彼らはいつしかベースの住人たちに囲まれていた。
「バンドだって! かっこいいね!」
「私、実はライブって初めてなんだ」
「あのさ、曲とかリクエストしてもいいのかな?」
 住人たちは目をキラキラと輝かせていた。木箱から立ち上がった十紀は『フリオーゾ・ドラム』を起動させながら答える。
「ロックもいけるよ。どんなジャンルもどんと来い、リクエストには出来る限りで答えるよ」
 わっ! と歓声が上がった。イヴェットも改造ギターを取り出し、軽くパフォーマンスをしてみせた。
「であれば、私はこのギターテクニックでさらなる熱を注ぎましょう」
 またも喜びの声が上がる。
「皆ノリノリだ……! 私たちも負けてられないね! お姉様!」
「んん?」
 場の盛り上がりを見ていたジフテリアは、ヴィクトリカの元へ駆け寄り、その腕をがっしりと掴んだ。差し入れのエナジードリンクを飲んで、雰囲気に酔っていたヴィクトリカは目をぱちぱちさせる。
「えっと、あ、なるほどぉ、ライブ……ライブ!?」
 腰を抜かさんばかりの勢いで驚いたヴィクトリカは目を引ん剥く。見る間に慌て出した彼女は恐ろしい早さで首を横へ振った。
「ちょっとお姉ちゃん聞いてないんですけど!? ライブするの!? 此処で!? ……ハッ!」
 何かを閃いたのか、ヴィクトリカは動揺を押し殺して早口で捲くし立てる。
「そっかーだからこの面子なのねなるほどね。じゃあお姉ちゃんは裏方で……ヒッ!?」
「今日こそ逃さないよ! オラッ! 最年長がリーダーやるんだよぉ!!」
「いやーっ!」
 鬼の形相でヴィクトリカの腰に抱きつくジフテリア。ヴィクトリカは何とか拘束を逃れようと、あれこれと手を考える。
「無理! 人前で歌うとか無理だし! ほらキーボードも持ってきてないし!」
「ありますよ」
 にべもない答えが返ってきた。涼しい顔で答えたイヴェットの隣に、何故かキーボードが並んでいる。ヴィクトリカの顔が絶望に彩られていく。
「な、なんで皆が持ってるのよわたしのキーボード!?」
「ヴィク……」
 ダメ押しとばかりに十紀が上目遣いでヴィクトリカを見上げる。
「うっ……!」
「ヴィク」
 言葉に詰まるヴィクトリカの肩をそっと叩く手があった。救いの手か、はたまた奈落への誘いか。振り返ったヴィクトリカの目に政斗が映りこむ。
「……諦めろ。ここはいっちょ、派手にやろうぜ!」
 満面の笑みがヴィクトリカを諦めの境地へ誘った。あぁ、もう逃れる術はないのだ。悟ったヴィクトリカはヤケクソ気味に叫んだ。
「あああうううううううう……ええい自棄よ! どうなってもしらないわよ!! こうなりゃかわいい妹分達の活躍を喰ってやるんだから!」
「決定ですね。IAA緊急ライブの幕開けです! このひと時を全力で奏で上げます!」
 ライブの開催を告げる口上。イヴェットの声に住人たちは盛大な拍手を送った。


 急遽、設けられた特設の野外ステージ――。楽器以外の照明器具や音響セットはベースから持ち寄ったものであるが、それでも充分に雰囲気は出ていた。
 日も暮れ行く中、五つの影がそこに並び立つ。加えて戦車、さらに五人の後ろにはキャバリアの機影も控えていた。
「……――すぅ」
 息を吸い込んだジフテリアはマイクスタンドへそっと手を掛ける。
 最初は『造りものの歌』から。音の広がりは壮大に。けれども歌詞はぐっと自分たちの世界へ引き込むように。
 イヴェットの指が動く。ギターピックが弦を弾き、零れ落ちるような音色が広がった。続けてジフテリアとヴィクトリカが同時に歌いだす。
「……――♪ ~~~~♪」
 透明な高い音。続けてキーボードが加わり曲調が変わった。
 フラスコ・チャイルドが抱える生死観。それを観客へ投げかけた瞬間、ドラムの音と共にメロディーは高みへ駆け上がる。交響曲の様相が一気に増してきた。
 ジフテリアはマイクスタンドを抱えたまま、ちら、と目の端でヴィクトリカの様子を窺った。キーボードの演奏にも歌声にも熱が入っている。いい感じだ。
(「もう少し曲数を進めたら、私は徐々にトーンダウンして……」)
 そうすることで、ヴィクトリカを『IAA』の顔であると、このベースの住人たちに認知させる作戦である。
(「それに、そうやって既成事実を作れば、これからもなし崩しで一緒に歌ってくれるかもしれないし……」)
 水面下で進行する思惑をよそに、ライブは徐々に盛り上がりを見せていく――。


「次の曲、行くよー!」
 ワアアアア――!!
 一曲目からの終わりを引き継いだ二曲目は、稲妻が落ちるようなドラムの音で始まった。曲調は一気に変わりイントロから激しさを増していく。
「……! ……!!」
 ヴィクトリカの指がキーボードを弾き、間髪入れずに十紀がドラムを鳴らす。ドラムの終わりと重ねるようにして、イヴェットがギターを深く弾き込んだ。そして、キーボードのソロからギターの速弾きが加わり、ビートを上げたドラムが再び合流する。
 まるで戦場にいるみたいだ。激しいパフォーマンスを間近で見ながら、政斗は体を震わせた。
(「イヴェット達はこんな事をやろうとしてたんか。~~っ、かっこいい!!」)
 しかも、三人のペースは落ちることなく、曲はあっという間にサビの部分へ入っていった。
(「さて、俺も祝砲を上げるか。物資調達成功記念ってやつだな!」)
 曲や歌の邪魔をしないように、けれども確実に合わせるため政斗は空砲のタイミングを計った。間奏、そして間奏から次の歌詞へ入る直前。
(「よし、今だ!」)
 ドオォンッ――! ドンッ――!
 十紀のドラムに追随する形で二度、空砲を撃ち鳴らした。戦車の大盤振る舞いに子どもたちが「わぁ! すげー!」と声を上げた。住人たちもはしゃいでいる。
(「……やるね、皆。十紀も負けてられない」)
 いつもは皆を支える役目だから――。
(「今日は、メインもらってもいいよね?」)
 半透明のスティックを手元で回転させた十紀は、別の生き物のように腕を繰り、ドラムの疾走感を一気に上げた。手数が多くて体力を持っていかれる。それでも。
(「鼓動が――」)
 空気が震えていた。大地が揺れている。魂の鼓動が、ライブを見ている住人たちへ伝播していく。乾いた世界に命が満ちていく。
(「……明日は筋肉痛確定だな……でも楽しいからいいか」)
 不思議な充足感を覚えた十紀は、目元を撓ませた。 
(「皆さんすごい。私も負けてはいられない」)
 イヴェットは『弩』の力を用いて『ギガント・バリスタ』へ呼びかけた。
 フォン――……と、静かな音を立ててキャバリアが淡く発光する。と、キャバリアからシンセサイザーにも似たサウンドが広がった。大音量ながらも、仲間が奏でる音を包み込むように広がる音色は、シンフォニックでさえあった。
(「キャバリアの音もなかなかいい感じですね。後は歌唱中のライブラリアさんを、メインへ押し上げ……おや?」)
 気付けばジフテリアの声量が少しずつ下がっている。加えて、ヴィクトリカを目立たせるために、立ち位置も少しずつ移動しているようだ。マイクスタンドと共に、ステージの前方から中央寄りにまで移動してきている。
(「ジフテリアさん、トーンを落とし始めましたね。では、こちらも合わせていきましょう」)
 ヴィクトリカに意図を悟られることのないよう、イヴェットはステージの前へ出てギターを派手にかき鳴らした。


 熱狂冷めやらぬまま、二曲目は終わりを迎えた。
 即席のライブである。次はどんな曲にするか。皆がそう考えたところへ、コン、ココンッ、と耳へ飛び込んでくる音があった。
 伸びのある篭もった金属音。政斗が戦車を木のスプーンで叩いている。身近にある物を打楽器に見立てた、即席のパーカッションだ。再び同じリズムが繰り返される。
 それを曲の始まりと見立てた十紀はすぐにドラムを合わせた。続けてギターが入る。ワンフレーズ分のメロディーが終わって、キーボードが合流した。
 全体的に重心の低い音が続く。先程までの曲が気分を高揚させるものなら、こちらは少しばかりの緊迫感を漂わせている感じだ。例えば、ジャングルの奥地で化学兵器の工場を見つけてしまったような――。
「んっ」
 ジフテリアが咳払いをする。
 それまでの曲より、ワントーン声を低くして歌い出しを務める。鋭く尖った歌詞がヒップホップ調の曲に乗って流れていく。
 続けてヴィクトリカの声が入るのを確認してから、ジフテリアは徐々に自身の声をトーンダウンさせていった。
 ボーカルのメインがヴィクトリカへ移る。三曲目へ入って順調にテンションを上げてきたヴィクトリカは、ジフテリアの企みごとには気付かない。
 仲間たちはパフォーマンスの精度を上げていく。
 ヴィクトリカはまだ気付かない。
 完全にステージの後ろへ下がったジフテリアは、仲間たちと一緒にパフォーマンスへ加わった。
 そうして、曲が半分くらい過ぎた頃、ヴィクトリカはようやくステージ上の違和に気がついた。
(「あれ? なんか皆声小さくない? ねぇ? ねぇ!?」)
 ヴィクトリカの目が仲間たちへ訴える。しかし、メロディーは有無を言わせず進んでいく。たとえ自分の声しか聞こえなくても、歌うしかない。
 響き渡る歌姫の声。ジフテリアは観客の目を釘付けにするヴィクトリカの背を見て、満面の笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月08日


挿絵イラスト