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使徒は忠誠に酔い、女は盲愛に依存する

#UDCアース #UDC-HUMAN

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●彼女はしもべ
 サヨリは『彼』の、忠実なしもべだった。
 『彼』は売り出し中の若手俳優。
 貧乏時代は同棲し、家賃食費光熱費遊興費等々、諸々全てをサヨリが支払い『彼』を支えた。
 ある時から『彼』が強力なコネクションを手に入れ、その後ろ盾による猛プッシュを受けて知名度を広げ始めると、同棲は解消。
 それでも縁は切れなかった。『彼』は不定期にサヨリの元を訪れて睦まじい時間を過ごした。
 甘い言葉をたくさんくれた。かつてと同じように夢を語ってくれた。サヨリにはそれだけで十分だった。
 だから、サヨリは『彼』のためにさらに尽くした。
 『彼』の出演映画なら何度でも劇場に足を運び、ドラマは円盤を買い漁った。舞台やイベントの売れ行きが良くない時は、チケットを自腹で大量に確保して友人を誘い、できる限り空席を埋めるように頑張った。
 ただ少し強引すぎて、友人とはどんどん疎遠になってしまったけれど。
(「構わない。けーくんのために、私はすべてを捧げるの」)
 ネット上でも必死に布教を続けた。『彼』の批判や悪口には猛反発して相手を糾弾した。『彼』に言われて、ライバルの役者の悪評をばらまくことも日常茶飯事。
 自分の中で色々なものが捻じ曲がってきているのを感じてはいたけれど、やめるつもりは毛頭なかった。
 ……それなのに。
 とある週刊誌の記事が、盲目的で幸せな日々を打ち砕いてしまった。
 『彼』と売れっ子アイドルの熱愛報道。
 『彼』は事務所を通じて正式に、売れっ子アイドルとの真剣交際を認めた……。

 ……そして、気づけば、サヨリは吹きっさらしの高所に立っていた。
 貧乏時代に『彼』と一緒に、決して楽ではないけれど充実した日々を過ごした、古いマンションの屋上に。
 涙もなく茫然と地平線に沈む夕日を見つめるサヨリの頭の中に、音を伴わぬ声が響く。
(「素晴らしき忠義の徒よ。如何に報われなくとも、決して貴女の主に牙を剥くこと許されません。その牙、あくまで主の敵へと向けるべきもの」)
 乾ききったサヨリの瞳が一度まぶたの向こうに隠れ、
 再度見開かれた時、その双眼は人ならざる奇妙な色に輝いていた。
「さあ、殺しにゆきましょう」
 静かに酷薄な笑みを口許に刷きながら、彼女は人ならざる声を発し、人ならざる片翼を背に生やした。

●グリモアベース:ゲネ
「UDCアースで緊急事態! 力を貸してくれ!」
 ゲネ・ストレイ(フリーダムダイバー・f14843)は声高に猟兵達へと訴えると、早速ホロモニターを展開した。
「『人間がUDCに変身した』という信じがたい事件が相次いでいるが、今回もそれだ。耐えがたいほどにつらい出来事によって心が壊された結果、UDC怪物に変貌してしまうらしい」
 モニターに映し出されたのは、少し内向的な印象の女性だった。
「被害者の女性、名はサヨリ。彼女は学生の頃から同級生である俳優の卵の男と交際し、陰から男のことを支え尽くしていたが……まあよくある話、男は女を裏切り、華やかなりし芸能界の女と身を固めるつもりであることが発覚したわけだ」
 そろそろ結婚を意識する三十代を目前にして、大々的な熱愛スキャンダルからの裏切り発覚、男に連絡はつかない、相談できる友人もいない……。
 結果、サヨリの心は壊れ、身の内に魔を呼び込んだ。
「サヨリが変貌し、現れるのは『彼方よりの双龍『暁』のリリシエラ』。彼方に揺蕩う混沌とやらの使徒にして、主へと捧ぐ英雄譚を演じるため、冷静沈着に人々を殺める厄介なオブリビオンだ」
 サヨリは心壊れてなお、男に尽くした日々や「『彼』を支える自分」にすがりついている。
 その依存心が、忠誠心の塊であるリリシエラと共鳴し、UDC化の引き金を引く結果になってしまったようだ。
 戦場は取り壊しが決まった古いマンション。現在住人はおらず、人の出入りは一切ない。
 このマンションには、UDC-HUMAN──つまり変貌中のサヨリに引き寄せられてUDCが集まってきている。まずはこの連中を蹴散らしつつ、屋上にいるサヨリの元にたどり着く必要がある。
 不幸中の幸い、猟兵はサヨリが「UDCに変貌した直後」、まだ周囲に被害を及ぼしていない段階で駆けつけることができる。この時点で撃退できれば、完全にUDC化する前に救えるだろう。
「UDCとサヨリの人格は明確に別物だ。諸君の前に現れ敵対してくるのはリリシエラの人格だが、その依り代となったサヨリの耳にも諸君の言葉は届いているはずだ。サヨリの閉ざした心に響くような説得や行動ができれば、戦闘を有利に運ぶこともできるかもしれない。……そして」
 UDC騒動が終わった後にも一仕事頼みたい、とゲネは声のトーンを落とした。
「サヨリの事件はこれで終わりでも、元凶を潰さなければ第二第三のサヨリがどこかで生まれるはずだ。「人間の屑」は野放しにできない、制裁が必要だ。……言ってること、わかるよな?」
 秘密めかして、少し意地悪そうに笑うと、ゲネは転移術式を全モニターに景気よく展開した。
「そう! サヨリを弄んだ馬鹿男に制裁を! 相手が死なない範囲であれば手段は諸君らに任せる! ──さあゆきたまえ正義の使徒よ、猟兵よ。UDCアースへの道のりに幸あれ!」
 ノリノリのゲネの声に送り出されて、猟兵達は光の中に飲み込まれていった。


そらばる
 UDCアース、UDC-HUMAN事件。
 心傷つきUDCへと変貌した女性を救い、裏切り男に制裁を!

●戦場
 夕方、かつてサヨリが男と同棲していた古いマンション。
 現在は取り壊しが決定しており、完全な無人です。
 電気系統はほぼ死んでおり、エレベーターなども動きません。

●第一章:集団戦『六一六『デビルズナンバーまきびし』』
 UDC-HUMANに引き寄せられて集まってきた有象無象。
 リリシエラの忠誠心に共鳴したようで、献身的に屋上への踏破を阻もうとします。

 マンション内のあちこちで待ち伏せをして素早い動きで奇襲を仕掛けてくるので、それを予測して対処することで有利に撃退できるでしょう。

●第二章:ボス戦『彼方よりの双龍『暁』のリリシエラ』
 彼方に揺蕩う渾沌の遣わした使者。主に捧ぐ観劇、英雄譚を演じるために、冷静沈着に人々を殺める存在。
 圧倒的身体能力と類稀なる武術と魔術を駆使して戦います。
 自らの「主への忠誠心」を、サヨリの「男への盲愛」と共鳴させることで、サヨリの肉体を得て顕現します。

 屋上での戦闘になります。
 飛行能力を持ちますが、UDCに変化したてのこの時点ではまだ長距離飛行はできない(=逃走はしない)ものとして扱います。
 サヨリの事情を踏まえた説得や、中にいるサヨリ本体を攻撃しないような配慮があると、戦闘が有利になります。

●第三章:日常『人間の屑に制裁を』
 サヨリを弄んだ男(売り出し中の若手俳優)に制裁を下してください。
 トラウマになるような恐怖を与える、金銭的に破滅させる、社会的制裁を受けさせる、ボコボコに叩きのめすなど、死なせない範囲ならなんでもOK。

 執筆の進捗やプレイング締め切りなどは、マスターの自己紹介ページで呟いております。目安にどうぞ。
 それでは、皆さんの自由なプレイングをお待ちしています!
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第1章 集団戦 『六一六『デビルズナンバーまきびし』』

POW   :    悪魔の忍刀(デビルニンジャソード)
【忍者刀】による素早い一撃を放つ。また、【魂を削る】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    悪魔の巻物(デビルスクロール)
いま戦っている対象に有効な【忍法が記された巻物】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    悪魔の撒菱(デビルカルトロップ)
自身の身体部位ひとつを【まきびし】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●忍の巣窟
 斜陽の黄土色に染まる古びたマンション。
 取り壊し工事を控えて、入り口には立ち入り禁止の立て看板や簡易の規制線やロープが渡されており、建物全体はシートで覆われている。
 侵入は容易いが、実際に人の気配はない。……闇に蠢く不穏なもの達の気配を除いて。
 階段の暗がり、空き部屋の扉の裏、廊下の黒ずんだ天井……マンション内のあちこちに、潜む忍の者達の気配が多数。
 大量の六一六『デビルズナンバーまきびし』が、虎視眈々と猟兵を待ち伏せているのだ。
 サヨリのいる屋上に駆けつけるには、この危険なマンションを上へ上へと突破する必要がある。
 暗がりに潜む忍者達の奇襲を看破し、適切に対応することができれば、それも難しいことではないだろう。
 心傷つき魔に囚われた女性を救うため、猟兵達は逢魔が時の古びたマンションに踏み込むのだった。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……マズいね。
話を聞いた限りじゃ、
滅茶苦茶波長が合っちまってるじゃねぇか!
時間をかけすぎると取り返しがつかなくなるだろ、
強引にでも駆け上らぁ!

カブに『騎乗』してエンジン全開、
階段だろうがうまく『操縦』してどんどん登っていくよ!
妨害が来るのは分かってるからさ、
最初から【超感覚網】のネットワークをマンション全体に張り巡らせる。
そうすりゃ敵意の場所から、伏兵もあぶり出せるだろ。
機先を制して『カウンター』のように『衝撃波』を合わせて、
道を塞ぐ奴らを吹き飛ばす!
乗る奴がいたら乗っとくれ、屋上までの直行便だ!
手遅れにならないうちに、絶対に。
間に合わせてみせる!


八坂・操
【SPD】
弄ばれて、棄てられて、行きつく先はUDC! 報復が悪いなんて、口が裂けても言えないけど、その手段はちょーっと頂けないかな?

そんな訳で、操ちゃん参戦! 何か忍者っぽい子達も一緒にいるけど、遊びに来たのかな?
「にーんじゃさーん、あっそびーましょー♪」
それじゃ、屋上に行くまで【子供の遊び】で鬼ごっこでもしよっか♪
玩具とはいえ貼り付けば機動力は削がれるし、もたもたしてたら一気にバーン☆
操ちゃんも不意打ちは『見切り』、怪糸で『捕縛』してくから、頑張って逃げようね♪
「いっちばんはーじめーは いっちのみやー♪」

鳴いて血を吐く不如帰。泣いて牙剥くUDC。さて、彼女の本質はどちらかな?



●最速の鬼ごっこ
「……マズいね」
 それが、事件のあらましを聞いた数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の第一声だった。
「話を聞いた限りじゃ、滅茶苦茶波長が合っちまってるじゃねぇか! 時間をかけすぎると取り返しがつかなくなるだろ、強引にでも駆け上らぁ!」
 勇ましく宇宙カブJD-1725に騎乗した多喜は、他の猟兵達へと高らかに呼びかける。
「乗る奴がいたら乗っとくれ、屋上までの直行便だ!」
 それに応えるように歩み出たのは、一人の女性。
「弄ばれて、棄てられて、行きつく先はUDC! 報復が悪いなんて、口が裂けても言えないけど、その手段はちょーっと頂けないかな?」
 呟きながら物思うように細められていた切れ長の目が上げられ、今度はにこやかな三日月を描いた。
「そんな訳で、操ちゃん参戦! 乗りまーす☆」
 八坂・操(怪異・f04936)は独特なハイテンションで元気よく挙手すると、いそいそとカブの後部座席に乗りつけた。
「よし、しっかり掴まってなよ!」
 多喜はエンジンを全開にして、一気に転移術式の中に飛び込んだ。
 光を引き裂くように転換した視界の目前には、斜陽に染まるマンションの入り口。
 激突必至の危うい速度で、しかし多喜はアクセルを全く緩めずに内部へと突っ込んだ。と同時に、研ぎ澄ませた全身の超感覚網を展開し、マンション全体に張り巡らせる。
 急ハンドル、急旋回、ギャギャギャギャ、と甲高い音でコンクリートを食い荒らすタイヤ。人馬一体のカブは狭いスロープだろうと階段だろうと難なく駆け上がり、正確なハンドリングとコーナリングを駆使してぐいぐい上階へと登っていく。
 感覚網に引っかかり、次々と浮かび上がる数多の害意。そのいくつかがルート上に点在している。
 階段裏から、手すりの向こうから、あらゆる視覚から、複数の黒い影が一気呵成に襲い掛かり──
「──悪いね、害意は全部視えているのさ!」
 多喜は階段のステップを利用して大きく跳躍した。
 と同時、車体から強烈な衝撃波が放たれ、殺到した忍者達を一緒くたに吹き飛ばした。
 車体は衝撃波の反動を得てさらに空中へと大きく二段跳躍し、一つ上階、吹きさらしの共用廊下へと見事な着地を決めた。
 上がってきた階段はどうやら屋上には繋がっていない。廊下の奥の非常階段へ向かう必要がありそうだ。
「さて……ここにもずいぶんと潜んでいるみたいだけど……」
 空き部屋の扉の向こう、通路の陰、設置物の裏。その気配を、一切振り落とされずに多喜の背中にペッタリくっついていた操もまた感じ取っていた。
「何か忍者っぽい子達も一緒にいるけど、遊びに来たのかな?」
 呟きつつ、操はこの指とまれとばかりに虚空に白い指を差し出した。
「にーんじゃさーん、あっそびーましょー♪」
 ──瞬間、物陰から一斉に多数の忍者が飛びかかってきた。自ら隙を晒すとは馬鹿め、とばかりの侮りが仕草に滲んでいる。
 操の口許が深い弧を描く。
「それじゃ、屋上に行くまで鬼ごっこでもしよっか♪」
 急発進するカブ。その後部座席で微笑む女性の指先から、突如として大量の玩具が湧き出した。
「何!?」
 声もなく飛びかかっていた忍者達が、空中で動揺も露わに動きを乱した。明確に生じた隙に大量の玩具が飛びつき、共用廊下の床に引きずりおろしていく。
「くっ、このっ」
「邪魔な……!」
 纏いつく玩具達を振り払おうと足掻く忍者達。しかし無常かな、玩具達の額や背中などに記された「1」のカウントが、一斉に「0」へと転じ──
「もたもたしてたら一気にバーン☆」
 操の手が弾むように一打ちすると同時、小さな爆発が数多に連鎖。忍者達の悲鳴が散発していく。
 その隙に奥の階段へと突っ込みながら、多喜が声を上げる。
「大掃除してくれたとこ悪いけど、第二波来るよ!」
「はーい☆ いっちばんはーじめーは いっちのみやー♪ 頑張って逃げようね♪」
 巧みなドライビングとピンポイントの衝撃波で敵群を蹴散らす多喜。的確に不意打ちを見極め、怪糸を操り忍者を捕縛しては玩具達の鬼ごっこの餌食にしていく操。
 カブは上へ上へとノンストップで駆け上がる。
「手遅れにならないうちに、絶対に。間に合わせてみせる!」
 気合いを籠めてハンドルを握りしめる多喜。
「鳴いて血を吐く不如帰。泣いて牙剥くUDC。さて、彼女の本質はどちらかな?」
 操の静かな呟きは、長い黒髪と共に風に流され、エンジン音にかき消された。
 屋上への扉は、もう目前だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
多分ありふれた話だけど
UDC化はサヨリの罪じゃない
ここを突破しサユリを助けるぜ

対策
獄炎纏う焔摩天で闇を晴らす
適宜、周囲へ炎を投じ明かりとし
死角失くす
因みに延焼はさせないぜ

こう明るくちゃ隠れられないだろ?

敵の姿や炎に照らされた影法師の動き
或いはそよぐ炎から
敵襲や挙動を察知

戦闘
例え素早い一撃でも
そしてそれが加速しても
俺を狙って仕掛けてくんなら迎撃のしようがある
そこは焔摩天の間合いの内だ

獄炎纏う焔摩天を薙ぎ払う
忍者刀や撒菱ごと砕き燃やし溶かしてやる

四方八方から数を頼んで押してきたら
体ごと回転し剣を振るい炎の暴風で纏めて焼き払う

事後
鎮魂曲を奏でる
ようやく忍務から解放されたな
骸の海で安らかに



●影を暴く炎
 おそらくこれはひどくありふれた話。
 ろくでなしに尽くして貢いで、見えている奈落に突き進んだ愚かな人間の末路。そんな話は女に限らず男に限らず、世に数多転がっている。自業自得の物語。
「けど、UDC化はサヨリの罪じゃない」
 薄暗いマンション内に炎が灯り、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の姿が赤々と浮かび上がる。
「助けるぜ」
 紅蓮に燃え上がるのは焔摩天の巨大な刃。
 斜陽の恩恵の薄い東側は、吹き抜けの共用通路も闇が濃い。その暗がりへと、ウタは炎を灯り代わりに投じていく。明々とした紅蓮は周囲に一切引火することなく燃え上がり、少しずつ死角となる暗がりを潰して侵食していく。
「こう明るくちゃ隠れられないだろ?」
 焔摩天を掲げて歩を進めるごとにじりじりと後退していく暗がり。それに合わせて闇の中で身じろぎする者の気配がいくつか。
 ……見られている。
 瞬間、炎が揺らめいた。炎に照らされ蠢く影法師、垣間見える忍装束。
 それら視覚情報をウタはしかと見極め、焔摩天の柄をきつく握りしめた。
 たとえ素早い一撃だろうと。そしてそれが加速したとしても。自分を狙って仕掛けてくるのなら、迎撃のしようはある。
「──そこは焔摩天の間合いの内だ」
 ウタは自らの身体ごと焔摩天を回転させ、遠心力を乗せた薙ぎ払いで全方位をカバーすると共に、炎の暴風を巻き起こした。
 閃く刃と無数のまきびし、それら全てを砕き燃やし溶かし、炎嵐は襲い掛かる忍や影に潜む者達を炙り出しながら吹き荒れる。
 火達磨になる忍者達の阿鼻叫喚の中を、決して延焼しない獄炎に彩られ、ウタは悠然と進む。わびしげな旋律をかき鳴らしながら。
「ようやく忍務から解放されたな。骸の海で安らかに」
 闇に忍ぶ者達への鎮魂曲が通り過ぎた後には、炭化した忍達が紅蓮の送り火に炙られ塵となり、黄昏の空に舞い散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
…捻じ曲がってること気付いた時が分水嶺ぽいですかね、後まあ何か最初から男の方がこっち見てない感じなのが…うん

…なんか深みに嵌りそうなんで思考はそこそこに行きますか
いい人に当たればきっと何事もない道を歩める人ぽいくらい分かってりゃ十分です

さて、まきびし忍者どもか
無理に通るのは厳しそうですね
地形の利用、第六感、戦闘知識、視力、暗視で潜んでいそうな所を大体把握
奇襲されない位置からミミック掴んで把握箇所に投擲して…化け暗な

そのまま闇にまぎれて目立たないように突入し、逆にこっちが奇襲し返して蹂躙して進みましょう
何、ミミックの闇の中なら戦闘力も上がりますので多少の無茶は出来るでしょう

(アドリブ絡み歓迎)


ミリャ・ウィズ
ミリャは色恋にはあまり興味が無い。尽くした男が有名になり捨てられる。それもまぁ、ある話だ。復讐も世を儚んでの自殺も本人次第。
ただUDCになるのはいただけない。
「……急ぎ、ますか。」

スマホをタップし【呼び出し・軍団】を発動。呼び出したドローンを周囲に展開。
ドローンによる偵察と情報収集で索敵、発見次第迎撃。なるべく先制攻撃を行う。
撒かれるであろうマキビシは空中浮遊で回避。

……そう、死ぬも生きるもやり返すも本人次第。ただ本人の意思に反するのはダメ。
だから
「UDCを……シバく。」
屋上を目指す。

【アドリブ、連携歓迎】



●影を撃ち、闇を重ねて
「……捻じ曲がってること気付いた時が分水嶺ぽいですかね、後まあ何か最初から男の方がこっち見てない感じなのが……うん」
 黄昏色に染まるマンションを前にして、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は煮え切らない気分でぼやいた。
 裏切りは酷いことだが、サヨリ自身に問題がないとはどうしても言えない。
 それを片耳にしつつ、ミリャ・ウィズ(タブレットウィザード・f28540)は沈思する。
 ミリャは色恋にはあまり興味が無い。尽くした男が有名になり、結果捨てられる。それもまぁ、ある話だ。復讐も世を儚んでの自殺も本人次第。
 ただUDCになるのはいただけない。
「……急ぎ、ますか」
 スマホをタップし、軍団を呼び出すミリャ。編隊を組んで周囲に展開するドローンと共にさっそくマンション内に踏み込んでいく。
「……なんか深みに嵌りそうなんで思考はそこそこに行きますか」
 拓哉も肩をすくめてそれに続いた。助けないという選択肢は初めからない。
 サヨリも、善い人に出会えればきっと何事もない道に歩める人なのだろう。それだけわかっていれば十分だ。
「さて、まきびし忍者どもか。無理に通るのは厳しそうですね」
 周囲に視線を馳せる拓哉。古めかしくもよくあるタイプのマンション内部の構造把握は容易い。
 となれば、隠れやすい場所の目星もつけやすい。拓哉は目を凝らして上階へと少しずつ歩を進めながら、敵に察知されない程度の軽い仕草で、怪しげな暗がりをミリャに示してみせた。
 ミリャは浅く頷き、ドローンを器用に操った。
 前方、踊り場の天井、通常なら滅多に目を向けない濃厚な闇の中に突撃するドローン。闇の中を瞬間的に銃撃の発光が瞬き、ギャッ、とあっけない悲鳴と共に忍者一体が床に落ちた。
 同様の手順で順序良く階段を制圧し、上階へと駆け上がっていく二人。あとはマンション中央、屋内の共用通路を突っ切れば、屋上に繋がる非常階段にたどり着けるはず。
 直線を正面から攻めていくドローン軍団。炙り出されていく多数の忍者達は暗がりから暗がりへと後退しつつ、まきびしを投げつけて応戦してくる。先行したドローンが数機撃墜されるが、手勢はまだ十分。ミリャはドローンに遅れて後に続くことで直撃を避け、床にばらまかれたまきびしを空中浮遊で危なげなく回避していく。
 ──その背後、うぞりと動く怪しい影。別の階から回り込んできたのだろう忍者の一体が、忍者刀を閃かせ──
 飛びかからんとした背後の忍者へと、口を開けた箱型生命体が勢いよく投擲された。
「なっ!?」
「……化け暗な」
 静かな拓哉の声に応えて闇の塊へと化けたミミックが、思わず身をすくめた忍者へと体当たりして床へと撃ち落とした。
 後方からさらに湧いて出る忍者隊を、ミミックは次々に襲う。忍者達は辛くも直撃を躱すも、代わりに辺りに広がる闇に視界を遮られ混乱に陥っていった。
 拓哉はミミックの広げた闇に紛れて敵群へと突撃した。一切の容赦なく、多少の無茶も構わず、闇に増幅された力で奇襲を仕掛けて蹂躙していく。舞い散る血は闇に秘され、散発する悲鳴だけが闇を貫いてマンションに響き渡った。
 やがて傷一つない姿で闇を割って現れた拓哉は、先行していたミリャの傍らに並んだ。
「これで後方の安全は確保できましたかね。このまま被害者女性の元まで蹂躙して進みましょう」
 ミリャは黙って頷くと、屋上を見透かすように心持ち視線を上向けた。
(「……そう、死ぬも生きるもやり返すも本人次第。ただ本人の意思に反するのはダメ。だから」)
「UDCを……シバく」
 二人は共に、屋上を目指す。
 ドローンの銃撃音とミミックの闇が、屋上への順路を侵食していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
今日も此の世界では世を蝕むちっぽけな“塵”が
そこいら中に舞っているようですな。
現世も、幽世とあまり変わらないかもしれません。
■決
【第六感】を巡らせながら敵の気配を探りつつ移動します。
特に曲がり角・ドア・高い天井といった奇襲に適した場所を
通る際は、十分注意。

■闘
仕掛けられたら刀の軌道を【見切り】つつ、振るう腕を
【グラップル】で掴み、止めてしまいましょう。
腕を止めてしまったら、斬れませんよな?

防御後は此方も【カウンター】を仕掛けますか。
【嘗女の惑乱】で相手の脇の下を人差し指でぐさっと突き、
『心の臓を刃で貫かれた』という誤情報を流しKOです。

確実に一人ずつ倒し、先に進みましょう。

※アドリブ・連携歓迎



●屍忍累々
「今日も此の世界では世を蝕むちっぽけな“塵”が、そこいら中に舞っているようですな。現世も、幽世とあまり変わらないかもしれません」
 荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は悠然とマンション内を歩み進んだ。一定のリズムでコンクリートを踏む威厳ある足音が、無人の屋内に響き渡る。
 高々とした天井の暗がり、ドアの向こう、曲がり角の先……蠢く気配を、辺りに巡らせた優れた蛟鬼の第六感はしかと捉えている。
 無防備に見える竜神の命を、虎視眈々と狙い定める、悪意の視線を。
 闇に翻る刃の、鋭くかすかな、風切り音を。
 そして後方、頭上より降り注ぐ刃。
「──甘い」
 黒い刃が掬い取った薄日の反射光からその軌跡を見切り、蛟鬼は忍者刀を振り下ろさんとした黒装束の腕を掴み取っていた。
 刃の投じる淡い光に目元を切り取られながら、鬼竜の怜悧な眼差しが捕らえた忍者を見返る。
「腕を止めてしまったら、斬れませんよな?」
「ぐぬっ……馬鹿めが、手は一本ではないぞ!」
 忍者は掴みとられた手とは逆の手を、瞬間的に腰裏に回した。掴み取ったまきびしを投擲する態勢に至るまで、わずか一呼吸。
 ──が、蛟鬼の空いている手の指が、忍者の脇を鋭く突くほうが速かった。
「──!? がふっ──」
 大量の血が、仮面の下から溢れ出した。忍者は左胸を抑え、地面に膝を突き、前のめりに床に倒れ込んだ。その身体に目立った外傷はない。
 蛟鬼が施したのは体術の類ではない。『心の臓を刃で貫かれた』という誤情報を流し込むことで相手の知覚を騙す、一種の幻惑だ。
「あなたが今までそうしてきたように、私もあなたを欺いたのです」
 反応はない。忍者はすでにこと切れている。
 蛟鬼はすげなく忍者の遺骸に背を向けると、同様に影に潜む者達の待ち伏せる屋上への順路を、悠々と踏破していく。
 地獄の獄卒の歩き去った道には、心臓を止めて絶命した忍者の遺骸が点々と転がっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『彼方よりの双龍『暁』のリリシエラ』

POW   :    煌々輝龍
全身を【暁を束ねた神威 】で覆い、自身の【悪意と其れに隠された覚悟と忠誠】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    曙光の覇者は遙かを見定める
自身に【暁を束ねた神威 】をまとい、高速移動と【暁の刃や楯】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    逢魔:暁の詩
対象の攻撃を軽減する【神龍体:南天 】に変身しつつ、【恒星の燈を支配する彼女の固有戦技】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は死之宮・謡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暁の使徒は夕空に嗤う
 赤みを増していく黄昏の屋上に、彼女の姿はあった。
 猟兵に背を向け、屋上縁に佇む女。長い黒髪がいっそう豊かに伸び、瞬く間に色を変えて、夜へと変じゆく夕空……あるいは朝へと変じゆく夜空のような美しいグラデーションを描く。OLらしいくたびれたスーツは、暁色の光沢を帯びた不可思議な金属の鎧へ。髪を割って、鳥のものとも龍のものとも知れない奇妙な片翼が勢いよく現れる。
 人ならざる変貌を遂げ、人ならざる人格を宿して、女は猟兵達を冷徹な笑みで振り返った。
 それはサヨリというただの人間に受肉し顕現した怪物。
 『彼方よりの双龍『暁』のリリシエラ』。
「……これは酷い興ざめですね」
 リリシエラの口許は笑みを浮かべている。しかしその瞳は決して笑ってはいない。
「皆様は彼女を助けに? それは奇矯なこと。彼女は己の主に殉じようとしているのです。主から繋がりを絶たれたとしても、彼女は最期の瞬間まで主のために忠誠を尽くすべき、そうは思いませんか?」
 一切の歪みを持たず、しかし含みを多量に持たせた視線で、リリシエラは猟兵を睥睨する。
「主の敵を打倒するのです。無力な彼女に、私ならばそれを成し遂げるだけの力を貸せましょう」
 それはつまり、サヨリを裏切った俳優の、ライバルやアンチを殺して回るつもりだという宣誓に等しい。
 戦意を漲らせる猟兵達。退く気配がないと見ると、リリシエラは口許を彩る笑みをより酷薄に深める。
「そして、私の演ずる英雄譚は、彼方におわす我が主に捧げしもの。主のほかに招待券を送った覚えはありません。──お引き取り願いましょう、この世から」
 暁色の片翼を広げて、冷酷な忠誠の使徒は膨大な殺気を解き放った。

 覇気に満ちたリリシエラの姿に、サヨリの面影を見つけることは難しい。心を閉ざしたサヨリの人格は、そう簡単には表層に現れてくれないだろう。
 しかし、猟兵の声は届くはずだ。戦いの痛みも感じてしまうかもしれない。
 戦いのさなかに何かサヨリの心を揺さぶるような言葉を投げられたなら、あるいはサヨリを慮る行動をとれたならば、リリシエラとの戦いにもなんらかの変化が起こるかもしれない。
 どちらにせよ、猟兵は間に合った。あとは目の前のUDC怪物を倒せば、サヨリの救出は可能だ。
 サヨリの悲劇を惨劇へと昇華させぬため、猟兵達は冷酷な片翼の使徒に立ち向かう。
八坂・操
【SPD】

上げた忠誠心だね、サヨリちゃん! でもそれはUDCになるほど……命を張るほど価値のある相手かな?

「ね、メリーちゃんはどー思う?」
そんな感じで【メリーさんの電話】しながら軽くお話ししよっか♪
操ちゃんは『見切り』と『逃げ足』で回避して、攻撃はメリーちゃん任せだ!

「ねぇねぇ、サヨリちゃんは何で『彼』のしもべになろうと思ったの?」
「愛かな? 顔かな? 身体かな? ヒヒヒッ、身銭を切って、関係を切って、人生を切って、そして『彼』は何を返してくれたのかな?」
「殉ずるって何で? 感謝も言葉も気持ちさえ、もう何も渡されないのに?」
「敵ってだぁれ? 忠義の徒を……最後に貴女を裏切ったのは」

一体だぁれ?


ミリャ・ウィズ
いいように使われてるな……と率直に思う。男に利用された挙句捨てられて、今度はUDCに利用された挙句捨てられるんだろう。
正直腹が立たないのだろうか?自分だったらムカつくが。
「……いいように利用されてムカつかない?……ソイツも彼も、見てくれるのは……最初だけよ。」
左手にタブレットを持ち右指をパチンと鳴らして魔法を展開した。

動きが速そうなので一気に囲む。
【緑の魔法・包囲】を展開。撃破は勿論だがむしろ足止めを狙う。
相手の攻撃が分かりにくいのでよく見て防御。

彼女を勝手に無力にするな。彼の躍進も彼女のサポートがあってこそだろう。勝手な事を言うな。
「……その人からオマエは出て行け。」


【連携アドリブ歓迎】



●暁斬り裂く刃、心斬り裂く言葉
 黄昏色に染まる暁の使徒を、ミリャ・ウィズ(タブレットウィザード・f28540)は静かに見つめる。その内に心を閉ざして囚われているのだろうサヨリの姿を見透かすように。
 いいように使われてるな……と率直に思う。男に利用された挙句捨てられて、今度はUDCに利用された挙句捨てられるんだろう。
 正直腹が立たないのだろうか? 自分だったらムカつくが。
「……いいように利用されてムカつかない? ……ソイツも彼も、見てくれるのは……最初だけよ」
 率直な疑問と見えている末路を投げつけて、ミリャは左手にタブレットを持ち右指をパチンと鳴らして魔法を展開した。
 瞬間、大量の水晶の剣が、夕焼け色を弾きながらリリシエラの周囲に閃いた。
 リリシエラは即座に全身を暁の輝きに包んで、微笑みに悪意の色を深めながら飛翔した。
 暁の使徒と水晶の剣の追走劇が始まった。リリシエラは軽やかに宙を駆け、剣はリリシエラを包囲せんと追いすがる。
 暁の光を引きながら屋上の中空を立体機動で駆け巡り、透明な刃の軌跡を躱し、時に槍で砕き……だが受肉して間もなく、おそらく万全の状態ではないのだろう。追撃を躱しながらも、リリシエラは時折屋上に足をつき、駆け足での高速移動にしばし切り替えたのち、また空中に舞い上がるを繰り返す。二つの動作の繋ぎ目にはどうしても隙が生じ、そのたびに水晶の刃が使徒の肌に、翼に、斬り傷を刻んでいく。
 目まぐるしい戦いを眺めて、くすくすと笑う声が一つ。
「見上げた忠誠心だね、サヨリちゃん! でもそれはUDCになるほど……命を張るほど価値のある相手かな?」
 給水塔の上に腰かけている八坂・操(怪異・f04936)だ。その狐めいた眼差しで見つめているのはやはり、姿を乗っ取った使徒ではなく、その内側に隠れているだろう宿主の姿。
 操はだしぬけに携帯電話を耳に当てると、戦場ほったらかしで楽しげにおしゃべりを開始した。
「ね、メリーちゃんはどー思う?」
 通話が繋がった瞬間、
 屋上を駆け抜けるリリシエラを、横合いから閃くナイフが襲い掛かった。
「──っ!?」
 咄嗟に空中に作り上げた光の楯で刃を受け止めるリリシエラ。瞠目した両眼に映り込んだのは、長い髪に目元を隠し、にぃ、と不気味な笑みを浮かべる少女の姿だった。
「ねぇねぇ、サヨリちゃんは何で『彼』のしもべになろうと思ったの?」
 電話を耳に当てたまま、操は足を遊ばせながらよく通る声を上げた。
「愛かな? 顔かな? 身体かな? ヒヒヒッ、身銭を切って、関係を切って、人生を切って、そして『彼』は何を返してくれたのかな?」
 操の言葉を浴びるごとに、ナイフと拮抗する光の楯に涼やかな罅が入り始めた。リリシエラははっとして胸元に手を置く。
「まだ意識があるのですか……この程度の揺さぶりに心乱すとは」
 リリシエラは襲い来る水晶剣と少女を暁の楯で凌ぎながら、薄刃状の光を生成し、暁の刃と成して操めがけて放出した。
 操は刃の軌道を見極めひらりと身を躱した。真っ二つになった給水塔から噴き出す水を一滴たりと浴びることなく、一瞬たりとリリシエラから視線を外さず、愉快犯の笑みを崩さずに。
「殉ずるって何で? 感謝も言葉も気持ちさえ、もう何も渡されないのに?」
 操が声を上げるほどに、リリシエラの動きが鈍る。全身に斬り傷が増えていく。
「っ、それ以上はおやめなさい!」
 リリシエラは防戦の隙間にがむしゃらに暁の刃を飛ばし、術者である操とミリャを狙う。が、それもまた嘲笑うように回避され、あるいは堅実に防がれ砕け散ってしまう。
 操はなおいっそう嗤う。
「敵ってだぁれ? 忠義の徒を……最後に貴女を裏切ったのは」
 一体だぁれ?
 ──まるで悲鳴を上げるかのように、暁の楯が粉々に自壊した。
 メリーさんのナイフがリリシエラの懐に吸い込まれ、暁の鎧を袈裟懸けに斬り裂いた。
 苦悶の声を上げながら姿勢を崩したリリシエラの視線の先に、ミリャの静かな眼差しが数多の水晶剣に乱反射している。
 その瞳は語っている。彼女を勝手に無力にするな。彼の躍進も彼女のサポートがあってこそだろう。勝手な事を言うな。
「……その人からオマエは出て行け」
 透ける刃が一斉に暁色の鎧へと降り注ぎ、血しぶきが夕空に舞い散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
絶望が強いからこそ
幻想に縋りつきたくなるよな
そこを魔に付け込まれたとは可哀そうに

サヨリ
真実から目を逸らし
自分を欺いてた
それが招いた結果だ

けど…もう過去の話だ

自分と
自分が是から創り上げていく未来を
信じろ

戦闘
夕闇じゃ分が悪いんじゃないか
等と嘲り隙を誘う

炎の輝きで暁の煌きを相殺・浸食
&視界を灼き
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

攻撃にUC挟む
「盲愛に依存の僕としてあり続ける未来」を灰に

使徒
一応感謝しとくぜ
もしUDC化しなかったら
サヨリは死を選んだかも知んないからな

英雄譚なんか糞喰らえ
ここに過去の居場所はない
この世界は、未来は今を生きる命のモンだ
さっさと海へ還りやがれ!

事後
使徒へ鎮魂曲
サヨリの未来を祝す旋律


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

やっぱ変異しちまってたか……!
でも、その雰囲気には誤魔化されないよ。
リリシエラ、アンタの中にサヨリさんがいるのなら。
今からでも遅くはねぇ、声を届けてみせる!
カブに『騎乗』したまま狭い屋上を逃げ回りながら、
『コミュ力』に賭けて二人へ呼びかけるよ!

サヨリさん、アンタ気付いてたんだろ。
自分がアイツの「道具」に成り下がってた事に。
でもそれすら要らないと捨てられて。
たまんねぇよな。

だからリリシエラ。
あまり誑かすんじゃないよ。
お前が忠誠を抱く主と、サヨリさんが尽くす彼。
同じじゃねぇだろ。
お前、行く末にゃ「彼」も殺すつもりだよな?

サヨリさん。
今こそ考えろ。「反逆」の時だって事を!



●声を届けて
「やっぱ変異しちまってたか……!」
 屋上にカブを走らせながら、目まぐるしく中空を舞う使徒の姿を横目に見て、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はきつく奥歯を噛みしめた。
「でも、その雰囲気には誤魔化されないよ。リリシエラ、アンタの中にサヨリさんがいるのなら──」
 エンジン全開で屋上の縁を駆け、わずかな段差を足掛かりに大きく跳躍、夕空に飛翔するかの如くカブが舞い上がる。
「今からでも遅くはねぇ、声を届けてみせる!」
 離れた棟から棟へ、一足飛びのショートカットを果たしてみせる多喜。その姿を目にとめ、リリシエラが暁の刃を飛ばしてくる。
 多喜は逃げに徹した。巧みなハンドリングで車体の軌道を曲がりくねらせ狙いを散らし、屋上に突き立つ刃を紙一重で躱しながら、『二人』に向けて声を張り上げる。
「サヨリさん、アンタ気付いてたんだろ。自分がアイツの「道具」に成り下がってた事に」
 振りかざされたリリシエラの腕がピクリと震え、飛ばされた暁の刃の軌道が大きく逸れた。思いがけぬ失敗に、解せない様子でリリシエラが眉をひそめたのがわかる。
 ……届いている。リリシエラの感知し得ない奥底に閉じこもっている、サヨリ自身に。
「でもそれすら要らないと捨てられて。たまんねぇよな」
 共感に彩られた多喜の言葉がサヨリに響く。そのたびに、リリシエラの動きが鈍る。
 その場に舞い込む新たな声。
「夕闇じゃ分が悪いんじゃないか」
「!?」
 明白な嘲りを含めた声色に、反射的に振り向いたリリシエラを、弧を描いた紅蓮が襲った。
「ぐっ──!?」
 リリシエラの視界を、強烈な炎の輝きが灼いた。
 その隙を押し切らんと、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払った。
 咄嗟に展開した暁の楯で辛くも紅蓮を受け止めるリリシエラ。しかし一時的に視野を奪われ、楯の制御は危うい。
「……絶望が強いからこそ幻想に縋りつきたくなるよな。そこを魔に付け込まれたとは可哀そうに」
 大剣の炎の輝きで暁の煌きを相殺しながら、ぽつりと零すウタ。
 その呟きがリリシエラの耳に届いた瞬間、獄炎と拮抗していた暁の楯に涼やかな罅が入った。
 リリシエラは歯噛みする。
「また揺さぶりですか……!」
「一応感謝しとくぜ。もしUDC化しなかったら、サヨリは死を選んだかも知んないからな」
 皮肉めいた礼を敵に突きつけると、ウタはさらに火力を上げてじりじりと楯を圧倒しながら、さらに言葉を重ねていく。目の前の使徒ではなく、その内部で今もきっと耳を傾けているだろう宿主へと。
「真実から目を逸らし、自分を欺いてた、それが招いた結果だ」
 まぶしげに細められた使徒の瞳を覗き込む。その向こう側を。
「けど……もう過去の話だ」
 力強く、訴える。
「自分と、自分が是から創り上げていく未来を、信じろ」
 ──暁が、炎に食い破られる。
 光の楯が粉々に砕けた。暁の欠片が数多舞う中、エンジン音と共に多喜の声が響く。宿主ではなく、取り憑いている怪物へと。
「だからリリシエラ。あまり誑かすんじゃないよ。お前が忠誠を抱く主と、サヨリさんが尽くす彼。同じじゃねぇだろ」
 そして、身を翻して暁の刃を生成し始めた使徒の悪行を、詳らかにしてみせる。
「お前、行く末にゃ「彼」も殺すつもりだよな?」
 リリシエラの全身が明らかに硬直した。それは、本来ならば混沌の使徒には芽生えるはずのない小さな罪悪感が、確かに胸の内に棲みついた瞬間。
 一拍の沈黙ののち、無数の陽光の棘が暁の鎧を貫き使徒の胸に花開いた。
「──ッ……おの、れ……っ」
 のけぞり、呼吸を詰めながらも暁の刃を解き放たんと、リリシエラは手を翳した。──が。
「サヨリさん。今こそ考えろ。「反逆」の時だって事を!」
 心に響く多喜の声がリリシエラ胸の奥を揺さぶり──暁の刃は、ことごとくが砕け散った。
 瞠目するリリシエラの双眸に映るのは、暁の光を呑み込む紅蓮の炎。
「英雄譚なんか糞喰らえ。ここに過去の居場所はない」
 ウタの手の中で、地獄の炎が声なき声で生命賛歌を歌う。
「この世界は、未来は今を生きる命のモンだ。さっさと海へ還りやがれ!」
 獄炎纏う大剣が、暁の鎧に強烈な一撃を叩きこんだ。
 炎は、使徒の内に秘められた理不尽な未来を……「盲愛に依存の僕としてあり続ける未来」を灰へと還す。
 主に盲従する使徒の喉から、可聴音外の波長を帯びた絶叫が夕空へと解き放たれる。
 彼方の主へと送り届けるようなその波長を乱すように、ウタは鎮魂曲をかき鳴らした。……サヨリの未来を祝す旋律を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
いやまあ、繋がり断たれるってケースバイケースなんで全部そうだとは言いませんけど、裏切られたら流石に忠誠は捨てましょうよ
それもう忠誠というか隷属でしょうよ

サヨリさん!あなたの彼を思う気持ちについては否定のしようがありません
ですが、周りの敵を全て排除するのが本当の気持ちなんですか
始めは頑張ってる、夢を諦めない姿を見て魅かれたのではないですか?
もう一度見て考えてください!彼は本当に始めに魅かれた姿と同一なのかを!

さて適当に衝撃波込めた弾で撃って当てて…化け燻しな、ミミック!
サヨリさんまで傷つけないように周りを削ってやりましょう…翼なら全部削っても大丈夫ですかねぇ

(アドリブ絡み歓迎)


荒覇・蛟鬼
やれやれ、あなたも罪な御方ですな?サヨリの御嬢様。
ちっぽけな“情”に身を委ねるからそうなるのです。
こうなった以上はあなたにも罰を受けて頂きますかな。
■闘
空を飛ぶようなら此方も高く【ジャンプ】し【空中浮遊】しましょう。
空を飛びつつ相手が来る瞬間を【見切り】つつ、騎士様の振るう
槍の柄を【グラップル】して受け流しバランスを崩させます。

そこから騎士様の額目掛けて【嘗女の惑乱】を頭部目掛けて放ち、
『身体に潜む者が一斉に攻撃を仕掛けている』と情報を流します。
同時にサヨリの御嬢様にも騎士様に抵抗するよう伝えますか。

因みにこれがサヨリの御嬢様に与える罰です。
ボランティアの刑ですな。

※アドリブ歓迎・不採用可



●反旗を翻すとき
「……小癪な真似を……」
 鎧にはおびただしい傷、心理的な消耗に荒くなる呼吸。表面的な傷以上の損耗がリリシエラを苛んでいるのがわかる。
 リリシエラは乱れた呼吸を整えると、再び暁の神威を全身に纏いなおして宙に舞い上がった。
 使徒の戦意は失われていない。それは翻せば、サヨリ自身の心もまだ迷妄のさなかにあるということ。
「やれやれ、あなたも罪な御方ですな? サヨリの御嬢様」
 荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は厳しい眼差しで使徒を見上げると、屋上を蹴って高々と跳躍した。空中を浮遊し、リリシエラと視線を合わせて対峙する。
「ちっぽけな“情”に身を委ねるからそうなるのです。こうなった以上はあなたにも罰を受けて頂きますかな」
「罰……不遜な響き」
 リリシエラは愉快とも不愉快ともつかぬ仕草で目を細めつつ、口許に薄らかな笑みを刷いて暁色の槍を構えた。
「裏切られた傷心の女性にかける言葉ではありませんね。もう少し女心を学ぶことをお勧めしますよ、『坊や』」
 蛟鬼の年齢を見抜いた挑発と共に、暁纏う抉るような一突きが水平に疾った。
 穂先の軌道を冷静に見極め体を捌く蛟鬼。さらに襲い来る連続の突きのことごとくを見切り隙を窺う。
 上空で繰り広げられる殺陣を見上げつつ、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はぼやく。
「いやまあ、繋がり断たれるってケースバイケースなんで全部そうだとは言いませんけど、裏切られたら流石に忠誠は捨てましょうよ。それもう忠誠というか隷属でしょうよ……」
 衝撃波を籠めた弾丸を二丁拳銃に装填し、目まぐるしく飛び回る使徒に狙いを定める。
「サヨリさん! あなたの彼を思う気持ちについては否定のしようがありません」
 引き金を引く。声を掛けながらの牽制射撃。リリシエラは身を躱し、あるいは暁の楯で衝撃を相殺し、なおも蛟鬼への連撃を繋げていく。
「ですが、周りの敵を全て排除するのが本当の気持ちなんですか。始めは頑張ってる、夢を諦めない姿を見て魅かれたのではないですか?」
 拓哉も負けじと声を上げ続ける。
 サヨリの真意を測るような言葉を浴びるたび、リリシエラの動きにぎくしゃくとした不整合がところどころ発生する。リリシエラは動きにくそうにしつつも、不調を食い破る勢いで蛟鬼を猛追する。
 しかし、全身全霊を籠めて突き出した強烈な一撃は、頑健な力に掴み取られた。
「何……っ」
「──単調ですな。もはや見飽きましたぞ」
 蛟鬼はがっしりと掴み取った槍の柄を一気に引き寄せ、姿勢を崩したリリシエラの額めがけて抉るような当身を放った。
 物理的な衝撃と共に流し込まれるのは、知覚を狂わせる誤情報。
 リリシエラには、『身体に潜む者が一斉に攻撃を仕掛けている』感覚を。
 そして、身の内に潜むサヨリには……『己に取り憑いた使徒への抵抗』。
「これがサヨリの御嬢様に与える罰です。ボランティアの刑ですな」
 蛟鬼の手が退いた瞬間、リリシエラが醜いまでの絶叫を上げて胸を掻きむしり始めた。内部から宿主に食い破られる感覚が、その全身を苛んでいる。
 無防備なその背中を、拓哉の銃口はしっかりと捉えている。
「もう一度見て考えてください! 彼は本当に始めに魅かれた姿と同一なのかを!」
 解き放たれた銃弾は一直線、リリシエラの背部に直撃した。もはや悲鳴もなくのけぞるリリシエラ。
「化け燻しな、ミミック!」
 拓哉は間髪入れずにミミックをけしかけた。箱型生命体はたちまき煙へと変じ、リリシエラの全身を取り巻いていく。
「お……のれぇ……っ!」
 空中に張り付けにされたように硬直するリリシエラの周囲に、多数の暁の刃が展開した。最後の抵抗。
 しかし、屈辱に歪んでいたその顔から、ふ、と力が抜ける。
 唇が動く。霞を食むように、けれど確かに何かの言葉の形を描く。
 ……ごめんなさい。
 使徒とは違う人格によってそう動いたように、猟兵達の目には見えた。
 あらゆる暁の力が砕け散る。矛も盾もなくした使徒の、絶望に彩られた表情が煙の向こうに閉ざされる。
 鎧が、翼が、身を包むあらゆる暁の神威が、静かに削り取られていく。
 やがて夕空に溶けるように煙が退いたそこには、どこにでもいる容姿の妙齢の女性が横たわっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●けーくんの正体
 意識を失い横たわるサヨリの目尻から、一筋の涙が滑り落ちていく。
 サヨリの身は無事だった。治療の必要もなく、安静にさせておけば遠からず意識を取り戻すだろうとわかる。
 せめて家に送り届けてやろうと、猟兵達は彼女の身体や持ち物を検めた。
 身分証から自宅の住所を割り出しつつ、ふと、同じバッグの中に入っていた雑誌の見出しに目が留まる。
『売り出し中のイケメン若手俳優・KATE(ケイト)に熱愛発覚!?』
 若手俳優と人気アイドルの熱愛を報じたゴシップ誌だ。記事には、ご丁寧に若手俳優の誕生日が明記されていた。
 もしやと思ってサヨリのスマホの暗証画面にその誕生日を打ち込んでみると……ロックが解除された。
 アドレス帳に該当の若手俳優の名前はない。
 が、頻繁にやり取りをしていた記録の中に、どことなく類似した登録名を一つだけ発見する。
『慶太郎くん』
 スマホは多種多様なスキャンダルの種と、その裏付けとなるデータの宝庫だった。
 そして、その名の主とは、ある日を境にパッタリと連絡がつかなくなっているようだった。

●人気者の裏事情
 日没過ぎ、夜に明々と輝くとあるテレビ局の上層階で、三人の男が会合を開いていた。
 テレビ局の役員と思しき男が言う。
「今回の熱愛報道、反応は上々のようで! いやーさすが人気の美男美女カップルは注目度が高いですな!」
 奇妙な威厳のある、恰幅の良い初老の男が言う。
「はっはっは、それは重畳。しかしこれを機に女遊びは控えたまえよ? 君にはゆくゆくは我が教団のスポークスマンになってもらうつもりなのだからね」
 顔立ちの良い若者が言う。
「心配いりませんって、万事オレに任せてくださいよ! 今後もバリバリに活動しまくって、すぐにでも芸能界のトップを取ってやりますから!」

 和やかな、それでいてやけに胡散臭い会合の合間、トイレに立った役員は一人はぼやく。
「なぁにが人気カップルだ、若手売り出し段階で人気急降下、早くも落ち目なお先真っ暗コンビだろうが。ま、人気なんてもんはメディア露出量と提灯記事でどうとでも捏造できるし、あの御大がバックについてくれてる限りヤツもしばらくは安泰だろうけどな。長いものには巻かれるに、人気は捏造するに限るねぇ~」

 役員が席を立った直後、若者もまた事務所からの電話にかこつけて中座し、残された初老の男は大きな溜息を零す。
「まったく、あのような底の浅い若造しか人材がないとは業腹だが……致し方あるまいな。多少なりと知恵の回る人間より、頭の悪い無能な働き者のほうが操るには都合が良い。最近は邪教だなんだと妙な団体が幅を利かせているのだ、我が教団もメディアを利用してここで巻き返さねば……!」

 通話が終わってもすぐには会合には戻らず、若者は一人喫煙所でぼやく。
「あーたりぃ。ったく老害どものご機嫌とりも楽じゃないぜ。せいぜいご威光を踏み台にスターダムを駆け上がってやるさ。へっ、世の中ちょろいぜ」

 そう、これは茶番劇である。
 売り出し中若手俳優・KATEの人気に実態はない。視聴率低迷にあえぐテレビ局の宣伝力と、闇に暗躍する邪教にお株を奪われたとある新興宗教の資金力によって醸造された、見せかけの人気俳優というわけだ。

 平然と嘘を真実として喧伝し、金銭と権力におもねるテレビ局。
 UDC怪物こそ絡まぬものの、勢力拡大のためにあらゆる汚い手段を是とする宗教団体。
 そしてもちろん、あらゆる他者を踏み台にし、サヨリを裏切ったKATE(ケイト)──本名『慶太郎』。
 三者三様の人間の屑が今、テレビ局に集っている。

 この男達を放置すれば、またぞろサヨリのような被害者が生まれるのは目に見えている。
 手段は自由。恐怖支配、社会的制裁、実力行使、金銭的破滅などなど。
 ──人間の屑には、制裁を。
木霊・ウタ
心情
オブリビオンじゃないんで
ちょいと悩むけど
悪を止める機会と力があるなら
やってやるぜ

行動
KATEは
サヨリとの事以外に
叩けば色々と埃が出てきそうだ

TV局と新興宗教との癒着も
調べられるだろ

影で其らを探り
&防衛組織UDCにも調査してもらい
その情報を
組織力でネットへ拡散
&週刊誌へネタ売り

因みにサヨリや
多分沢山いる他の女性の事は
巻き添えとしない為
公にしないように念押し

サヨリがリーク元かって逆恨みも警戒
一定期間の監視や保護をUDCへ依頼

事後に独白
サヨリが好きになったのは
きっと慶太郎の夢が
最初は本物だったからかもな

これから這い上がるのか
堕ちる所まで堕ちてくのか
何方の未来を創っていくのか
時々は気にしてやるよ


八坂・操
【SPD】

テレビ局の都合、新興宗教の宣伝……そんな背景があっても、最後に棄てると決めたのは『彼』の勝手だ。

という訳で、操ちゃんが選んだのはKATEくん!
サヨリちゃんから貰った醜聞をばら撒いて、社会的制裁をしよう!

「マスコミに垂れ込めば信頼が何よりも大切な俳優は廃業だね! 蹴落としたお友達は助けてくれるかな? 愛しい彼女は庇ってくれる? 穀潰し扱いの親族は?」
「『彼女』は良い子だったよ? ただある日突然棄てられただけ」

だからアンタも、突然、全く無意味に、理不尽に棄てられるべきだ。

視線を合わせて『恐怖を与える』。

喪失を畏れろ、失敗を懼れろ、視線を恐れろ。
最早他人の目はアンタの失態だけを望んでいる。


ミリャ・ウィズ
UDCは倒したんで後は野となれ山となれだが新しいUDCの出現を防ぐためと言われればやぶさかではない。
ただ鉄拳制裁やわからせるといったことはあまり得意じゃない。ならどうするか。

当然ッ!情報収集と真実の公表だッ!
そっちが捏造ならこっちは真実だ。様々な情報や映像、会話をハッキングで収集し全テレビ局を電波ジャック、衆目に放映(ばらまい)てやる。
楽しくなってきた。電脳魔術師の腕が鳴るといわんばかりにノートPCを取り出し【青い箱】を発動。
テロップは「衝撃!テレビ局と芸能界、新興宗教の癒着!」これで行こう。
「……うふふ。」
正直業界の大スキャンダルだが笑いが止まらない。


【連携アドリブ歓迎】



●真実は暴露すべし!
 人間の屑は複数いた。
 猟兵達は各々に考える。誰に制裁を下すべきか。自分が誰を制裁したいのか。
 八坂・操(怪異・f04936)の出した結論は明快だ。
「テレビ局の都合、新興宗教の宣伝……そんな背景があっても、最後に棄てると決めたのは『彼』の勝手だ」
 仲間達の前で堂々と宣言する。
「という訳で、操ちゃんが選んだのはKATEくん! サヨリちゃんから貰った醜聞をばら撒いて、社会的制裁をしよう!」
 同様の結論を出して、ミリャ・ウィズ(タブレットウィザード・f28540)も頷く。
「……やる」
 感情を描かぬ瞳の奥に、ちろりと、闘争心にも似た種火が燃えた。
 さらに木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)もまた賛意を示す。
「オブリビオンじゃないんでちょいと悩むけど、悪を止める機会と力があるならやってやるぜ」
 三人は連携しつつ、各々に行動を開始した。
 ミリャは考える。UDCは倒した。後は野となれ山となれだが、新しいUDCの出現を防ぐためと言われれば『残業』もやぶさかではない。
 ただ鉄拳制裁やわからせるといった行為はあまり得意じゃない。ならばどうするか。
 ──当然ッ! 情報収集と真実の公表だッ!
 そっちが捏造ならこっちは真実だ。様々な情報や映像、会話をハッキングで収集し、全テレビ局を電波ジャック、衆目に放映(ばらまい)てやる。
 楽しくなってきた。電脳魔術師の腕が鳴るといわんばかりにノートPCを取り出しユーベルコードを発動するミリャ。
「……Secret of the Little Blue Box」
 たちまち指は軽やかに動き、視神経は俊敏に情報を伝達し、全脳細胞が一気に覚醒する。ノートPCは秘密を暴き立てる魔法書と化し、とてつもないスピードでキーボードを走るミリャの指に応えて、凄まじい勢いで大量の情報を提示・集積していく。
 KATEの行状は普段から問題が多かったらしく、叩けば叩くほど埃が出てくる。すでに匿名掲示板では『ゴリ押しクソ糧(かて)野郎』などといった蔑称と嫌悪コメントが氾濫しており、中には業界関係者のタレコミらしき発言もちらほら。実際、事務所関係者や業界関係者の鍵付きSNSアカウントを特定・セキュリティ突破してみれば、KATEに対する愚痴がわんさか。テレビ局内の監視カメラにはマネージャーに当たり散らすKATEの姿がばっちり。こっそり潜り込んだ関係者のPCには癒着の証拠がどっさり。サヨリのスマホの情報と照らし合わせて、裏付け作業もスムーズだ。
 一度興に乗ってしまったミリャはもう止まらない。集めた証拠を組み立てて、痛快な暴露動画を人間離れした処理速度で構築していく。
 テロップは「衝撃!テレビ局と芸能界、新興宗教の癒着!」これで行こう。
「……うふふ」
 正直業界の大スキャンダルだが、笑いが止まらない。
 一方、ウタは別方向からのアプローチを試みていた。
「KATEはサヨリとの事以外にも叩けば色々と埃が出てきそうだ。TV局と新興宗教との癒着も調べられるだろ」
 そう考え、協力を仰いだ先は、人類防衛組織「UDC」。
 猟兵と防衛組織のタッグによる足で稼ぐ調査によって、次々に集まっていく証言証拠。KATEは周囲の人間からは完全に嫌われ者の腫物扱いで、マシンガン悪口で日頃の鬱憤をぶちまける者もいれば、バックの権力を恐れてなかなか口を割らない者も多い。それも「関係各位の身元を特定できるような報道は絶対に阻止する」という真摯な説得によって、かなり踏み込んだ証言までかき集めることに成功した。もちろんスキャンダルの累が及ばぬよう、組織による秘密裏の護衛・保護もセット運用だ。
 ハッキングで得た情報、足で稼いだ情報を組み合わせ、暴露計画はさらに加速する。本格的な暴露の前段階として、まずは防衛組織の組織力をもってネット上への情報浸透が開始された。第三者の目撃情報や噂話として、匿名掲示板やSNSに「ロケで見かけたけどカメラに映ってない時は態度が悪かった」「どこそこで女性と一緒に歩いていたらしい」などなど、それとなくスキャンダル未満の事実を拡散しておくのだ。これらは暴露報道の真実味を高め、電波ジャックと同時にネット上は祭りになることだろう。
 併せて、組織の顔が利く週刊誌との連携もスタート。計画は瞬く間にゴーサイン待ちの最終段階へ。
 この段階をもって、猟兵達はKATE本人への接触を図った。
「いやー出るわ出るわの悪行の数々。新興宗教とテレビ局との癒着に、女性関係がボロボロと。虎の威を借りて他を蹴落としてオイシイ役にありついたのも一桁じゃないみたいだね? これはまたとんでもない醜聞だねぇ」
 猟兵の陣頭に立ち、テレビ局のVIPルームを我が物顔で占拠していたKATEに証拠を突きつけたのは操だった。
「な、何を言っているんだ、君は。……ああ、わかった、好きな俳優よりオレのほうが活躍してるからって逆恨みしているんだろう? 証拠もないのに滅多なことは言うもんじゃないよ?」
 あくまでシラを切ろうとするKATE。歯の浮くような白々しさに、脱力した視線を交わし合う猟兵達。
「……証拠なら、ある」
 ミリャがノートPCを開いて渾身の自作動画を流して見せると、KATEは悲鳴じみた怒号を上げながらノートPCを奪おうとした。が、もちろん猟兵の身体能力に敵うはずもなく、あっさり避けられて無様にすっころんだ。
 必死に起き上がろうとするKATEの顔を、操の狐のような目が覗き込む。ヒッ、と情けない声を上げるKATE。
「マスコミにタレコめば信頼が何よりも大切な俳優は廃業だね! 蹴落としたお友達は助けてくれるかな? 愛しい彼女は庇ってくれる? 穀潰し扱いの親族は?」
 嗜虐的に責め立てる操の三日月型に細められた目が、ひとたび伏せられたのち、カッと見開かれた。
 表情の抜け落ちた白い顔は異様な翳りと迫力を帯び、その黒瞳は魂の底を覗き込むような眼力に満ちる。
「『彼女』は良い子だったよ? ただある日突然棄てられただけ」
 恐怖を植え付け、煽り立てる眼差し。だがKATEは視線を逸らせない。呼吸さえままならない。
「だからアンタも、突然、全く無意味に、理不尽に棄てられるべきだ」
 喪失を畏れろ、失敗を懼れろ、視線を恐れろ。
 最早他人の目はアンタの失態だけを望んでいる。 
「ウ、ソだ……この俺がそんな……っ! ……み、見るな、見るな見るな、俺を見るなぁぁぁぁぁ──ッッッ!」
 操の目力に心折れ泣き叫ぶKATEの自業自得の悲嘆をBGMに、ミリャは容赦なくキーボードに指を走らせ電波ジャックと動画配信を開始した。
 KATEの絶叫が上層階に響き渡る。
「……サヨリが好きになったのは、きっと慶太郎の夢が最初は本物だったからかもな」
 ウタは後の始末を仲間に任せ、一人ひっそりとテレビ局を後にしながら独白する。
「これから這い上がるのか、堕ちる所まで堕ちてくのか、何方の未来を創っていくのか。時々は気にしてやるよ」
 暴露映像に騒然となる局内。電波ジャックされたモニターの前には人だかりが築かれ、人々はロビーを悠然と横切る猟兵の姿に気づかなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

さぁて、反逆開始!
と意気込んだら……ハッタリもいい所じゃないのさ。
こういう烏合の衆なら、どこからでも切り崩せるだろうけど……
そうだね、ハッタリにはハッタリでお灸を据えてやろうかねぇ?

まずはUDC組織からカバーの会社と肩書を用意してもらう。
そしてテレビ局の役員に正式にアポイントを取って、
教団が提示している以上での金銭協力を交渉の俎上に上げようじゃないのさ。
代わりに要求するのは「慶太郎と教団への便宜を取りやめる事」。
懐具合が厳しいという『傷口をえぐる』ように交渉して『言いくるめ』、
手を切らせるように仕向ける。

ま、こっちの金銭協力とかも全部ダミーさ。
因果応報を噛み締めな!



●離間の策
「さぁて、反逆開始! と意気込んだら……ハッタリもいい所じゃないのさ」
 張り合いがないねぇ、と頭を掻く数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。もっとも猟兵が敵に回ったとなれば、そもそもUDCアースの一般人に勝ち目など毛ほどもないのだが。
「こういう烏合の衆なら、どこからでも切り崩せるだろうけど……そうだね、ハッタリにはハッタリでお灸を据えてやろうかねぇ?」
 良い事を思いついた。キラリと目を輝かせ、多喜は行動を開始した。
 パリっとスーツを着こなし、いかにも仕事の出来そうなキャリアウーマンへと大変身。名刺に書かれた肩書はとある企業の女社長。テレビ局には正式なアポイントを取りつけ済み。これらのお膳立ては全て、プレゼンティッドバイUDC組織である。
 テレビ局内は暴露動画の波紋に揺れていたが、客人の前では最大限に取り繕ってみせた。多喜は下にも置かない扱いで役員の元に通された。
 要件を聞くと、役員は油ぎった丸顔の相好を崩した。
「スポンサー契約ですか! いやぁそれは願ってもない!」
「ですが一つだけ条件が」
 大人の女性感全開の落ち着いた物腰で、多喜は本題に入る。
「単刀直入に申し上げます。俳優のKATEの重用、及びとある教団への便宜を、今すぐに取りやめて頂きたいのです」
 役員はピクリと動きを止めた。なおもへらへらと笑顔を維持している辺りはなかなかの古狸っぷりだ。
「……例のスキャンダルですか? いやぁ、あれはただの悪質な悪戯で……」
「事実かどうかはいずれわかることでしょう。ですが正直なところ、事の真偽は問題ではないのです。重要なのはイメージですから」
 多喜がそっと差し出した書類に、役員の目は釘付けになった。正確には、そこに記載されている法外な金額に。
「今どきのテレビ局って、懐事情、厳しいんでしょう?」
 傷を抉るような一言が、トドメの一撃となった。
 秘密裏の契約はここに成った。三者からなる癒着の構造から、テレビ局は脱落することになる。少なくとも、契約相手が実在しないダミー会社であると知れるまでは。
 しかし見込まれていた莫大な利益が幻だと判明した時、癒着で成り立つような経営状態のテレビ局が、果たして無事に済むや否や……
「因果応報を噛み締めな!」
 爽快な笑みで立派な局舎を見上げたのち、多喜扮する女社長は悠々とテレビ局の敷地を後にしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
…わー組織的ー
そしてどこを残しても面倒そう…サヨリさんよく被害が屑俳優だけで済みましたね
洗脳とかされてない?

さて…やりますか
と言っても個人には他の人もやるでしょうし…組織を潰しに行きますか!

化け侵しましょうミミック
いつもはミミックが射出してますけど、別に出してくれだ武器を自分が使っても問題ないので…ダガー辺りでいいや

地形の利用、第六感、戦闘知識、目立たない、闇にまぎれるで闇討ちして回りましょう
大丈夫肉体にダメージは無いから!……たとえ利用するだけでも味方認定すると敵になりますけどね
一緒に一つの目的目指すと敵になる…内部崩壊ですね!
…周りが信頼出来なくなるというのは大変ですよ?

アドリブ絡み歓迎)


荒覇・蛟鬼
さてさて、お仕事の時間ですな。
彼に相応しい罰は……(黒本開き)重い罪ではございませんし、
「生転生の刑」程度でも良いですか(※軽い罰です)
■行
【POW】
先ずは慶太郎様の正面に立ち、異様な【殺気】を放って
【恐怖を与え】、動けなくします。
お次はその顔面目掛けて【怪力】を込めた拳の一撃を
放ち、顔の骨を砕いてやりましょう。
刑の執行が終わったらすぐさま119に連絡します。

顔が壊れた以上、最早俳優として生きる事はほぼ不可能では
ございますが……嘆くことはございませんぞ、慶太郎様。
「生転生の刑」が与えるものは新たなる人生なのですから。
罪も洗い流されたことですし、これからも精進なさい。

※アドリブ歓迎・不採用可



●崩れる牙城と全てを失った男
「……わー組織的ー」
 事の真相を知り、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は乾いた感嘆を零した。
「そしてどこを残しても面倒そう……サヨリさん、よく被害が屑俳優だけで済みましたね。洗脳とかされてない?」
 一応彼女を自宅に運んだ際に確かめたが、宗教的な痕跡はない。KATE自身も宗教の人脈と権威のみ都合よく利用していただけで、教理には染まっていなかったようだ。
 とはいえこの教団は悪質だ。KATEは他の猟兵がきっちり〆てくれるだろうし、あと為すべきは……
「さて……やりますか」
 かくて拓哉が見上げたのは、件の新興宗教が一棟まるまる本拠としている高層ビル。
「化け侵しましょうミミック。組織を潰してやりましょう!」
 心得たとばかりに箱型生命体が具現化した数多の武器の内、拓哉はダガーを選び取ってビル内への潜入を開始した。
 よくある一般企業の社屋といった構造の内部を、拓哉は気配を消し身を潜めながら進んだ。
 暗がりから暗がりへ、物陰から物陰へ。巧みに闇に紛れながら、信者を発見次第、背後からダガーで闇討ちしていく。
「きゃっ!? 何!?」
「っ、なんだ? 今何かが……?」
「──! しらばっくれて……あなた今私の首を押したでしょう!?」
「何を言う! 君こそ私を突き飛ばしたのではないのかね!?」
 直前まで和やかに談笑していた年配の男女が、たちまち罵り合いを開始した。各々に身体に衝撃があったことを訴えてはいるが、痛みや外傷はない。……あるはずがない。
 なぜなら、これがミミックの武器の力だからだ。見てる世界はひっくり返り、思考は改変され、味方は敵に見えるようになる。たとえ利用する対象として見ていても、協力関係にある以上、その対象もまた味方の範疇となる。
「一緒に一つの目的目指すと敵になる……内部崩壊ですね! ……周りが信頼出来なくなるというのは大変ですよ?」
 拓哉の独白する通り、下から上への静かなる侵攻に合わせて、ビル内は徐々に険悪な争い声に満ちていった。
 そんな異常事態のさなかに、新たにビルに入り込んだ怪しげな風体の男が一人。
 マスクにサングラス、季節に見合わぬ厚着を着込んではいるが、見る者が見ればそれがKATEの変装であることがわかるだろう。
「クソックソッ、ここにもこんなに人が……!」
 KATEは病的に人目を恐れて、回りくどい道のりを選んで上へと急ぐ。結果、信者達の異変に気付くことなく最上階にたどり着いた。
 が、しかし。
「……貴様! どの面下げて私の前に現れたッ!?」
 助けを求めて縋り付こうとするKATEを視界に入れるや否や、教祖は容赦なく怒鳴り散らした。
 当然、あらかじめ拓哉が手を回した結果だ。この期に及んでもまだKATEに利用価値を認め、法的措置や情報操作で挽回する計画を練っていたらしい。
 しかし計画書の束はKATEに叩きつけるだけの用途に使われ、あえなく紙屑となって辺りに散らばった。
「ひ、ひぃぃぃ~~~~!」
 情けない声を上げながら教祖から逃げ出すKATE。
 しかしその前方、薄暗い廊下の片隅に、別の人影が立ちはだかっていることに気づく。この場に不釣り合いなほど立派な体躯に翳が差し、不気味な存在感を浮かび上がらせて……
 人影は、殺気を放った。気魄だけで命を食い破らんばかりの異様な眼光、威圧感。
 KATEは、ひぅっ、と悲鳴の成りそこないの息を詰まらせ、その場に硬直した。生温かな粗相が股座を濡らした。
「さてさて、お仕事の時間ですな。彼に相応しい罰は……」
 殺気一つでKATEの動きを制した荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は、何事もなかったかのように手にした黒本を開いた。
「重い罪ではございませんし、「生転生の刑」程度でも良いですか」
 パタリ、と黒本を閉ざすと、蛟鬼はだしぬけにKATEへと歩み寄り、無造作にその顔面に拳を叩きこんだ。ボキバキと軽快に骨が砕ける音。
 仕事を終えるや、蛟鬼は手早く119に一報を入れたのち、血まみれに陥没した顔面に触れることもできずに嘆いているKATEを再度見やった。
「あががっ……かおが……ほれのかほがぁ……ッ」
「顔が壊れた以上、最早俳優として生きる事はほぼ不可能ではございますが……嘆くことはございませんぞ、慶太郎様」
「あんぐぅ!?」
 KATEこと慶太郎は名を呼ばれて肩を跳ね上げた。この男、ダサい(と本人は思い込んでいる)本名がコンプレックスなのだ。
「「生転生の刑」が与えるものは新たなる人生なのですから。罪も洗い流されたことですし、これからも精進なさい」
「ぬぐ……ぐふぅぅぅ……」
 吹き出る涙と鼻水と血にまみれて、KATEはがっくりと泣き伏した。

●また歩いて行こう
 暗い自室で、サヨリは目を醒ます。
 抜け殻のような気分だった。自分の中から何もかも抜け落ちてしまったかのような。
 漫然と、テレビを点ける。
 どの局も、某俳優と某テレビ局、それに某新興宗教の癒着についての報道で大荒れだった。多くは同業他社のスキャンダルをどうにか矮小化しようという台本が透けて見えたが、情報が出揃ってくるとさすがに庇いきれずに出演者の苦言が増えてくる。
『我々の業界の話でもありますから』
『真面目にやってる人間が馬鹿を見る』
『女性の人権をなんだと思って──』
 幾度かザッピングを繰り返したのち、サヨリはすげなくテレビの電源を落とした。
 不思議と心は動かなかった。何もかも抜け落ちてしまったから、自分自身が空っぽになっているからだと、サヨリは気づく。
 よく覚えていないが、たっぷり泣いた気がする。十分絶望したし、めいっぱい嘆いたし、めいっぱい暴れたし、たくさん共感してもらったし、たくさん叱ってもらったような気がする。
 きっちり吐き出して発散しきった。だからもう、大丈夫。
 スマホを取り出し、アドレス帳から連絡先を一つ消す。胸を小さな痛みが刺したけれど……きっとこの先何度もこの痛みと付き合うことになるのだろうけれど。
 大丈夫。きっと歩いていける。

 ここにまた一人、猟兵に救われた女が新たな人生を歩み出す。
 救われた記憶はなくとも、心の隅に芽生えた見知らぬ誰かへの感謝の気持ちを、彼女はきっと一生忘れることはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日


挿絵イラスト