ーー不和の発端は、拠点において大切なものを一度にふたつも、失ってしまった事。ひとつは、皆で育てていた畑。もう一つは、その拠点で慕われた奪還者でもあった、旧リーダー。
拠点に、グラッパに、手を差し伸べてくれる猟兵の手を取ってーーその握手で、転送の光に包み込んだ。
小林
●挨拶
お目通しありがとうございます。小林です。
イメージはとっても明るい話! アポカリプスヘルでわあわあ笑えますように!
●お話の流れ
一章冒険・向日葵を咲かせようとしているグラッパとお婆さんがいます。
向日葵の育て方も知らないグラッパに教えたり、拠点の仲間をグラッパと共に説得したり、グラッパが成長できるよう手助けしましょう。
二章集団戦・戦闘なんて旧リーダー任せだったグラッパのケツを叩いてあげましょう。
グラッパに戦闘指導や指揮指導をうまく教えられるとプレイングボーナスがあります。
三章日常・歌いましょう! 帰還まで、どうか笑顔で満ちたひと時を!
新リーダーグラッパと共に歌ったり、拠点の絆を深めたり、あるいは今後の課題をグラッパに伝えても良いかもしれません。
(もしお声掛けいただけた場合、当グリモア猟兵のラピタも顔を出させて頂きます)
●執筆方針
四から六名様程の最小人数で書いていきたいと思っております。
また、もしも一章で採用した方が二章以降もご参加いただけた場合、優先的に採用させて頂きます。
各章に断章を挟みます。断章追加後にプレイングを頂けると嬉しいです。
それでは、どうか良い冒険になりますように!
第1章 冒険
『日に向かう花の願い』
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POW | 開墾だ硬い地面を耕そう |
SPD | 力を合わせて整地しよう |
WIZ | 栽培プランを考えよう |
👑11 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴 |
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●咲かねーよ
「雨が降ったら水浴びて〜〜〜力一杯笑うぜオレたち〜〜〜♪」
ジャンジャンべけべべんっ。
弦を陽気に鳴らして歌う声の朗らかさ。よく晴れた空、乾いた空気を心地よく震わせる……聞くものの心に、余裕さえあれば。
「明日はきっといい日だから〜〜一緒に太陽を見ようぜ〜〜〜♪」
べべんべんっっじゃんーーーー。
……土に向かって歌っている、缶とゴムを組み合わせて作った簡易ギターをもった金髪の青年ーーグラッパが一人。その側に共にしゃがんでいる老婆が一人。
硬いままの土の塊を持ち上げると……その下には白と黒のストライプの特徴的な種がざらざら。グラッパと老婆は顔を見合わせる。
「……芽吹かねえなー」
「めぶかないねえ」
「花には話しかけてやるとよく育つって聞いたけどなー」
「そうだねえ」
「もっと種植えたほうがいいのかな」
向日葵の種と思わしき白黒ストライプの粒を、小さな巾着からさらに、ざらっ。
……見かねた猟兵が、その手を待て待て待てよと阻止しなければきっとこの向日葵は一生芽吹けなかったろう。
見れば、拠点施設から遠巻きに、グラッパの歌を聞いてはいるが見ているだけの大人が数名。興味は示すも無力感で寂しい顔をするばかりの子供が数名。
奥からは仲間割れか、怒鳴り声が時折聞こえてくる。
その声を聞いて、グラッパは苦笑する。それでも弦の音だけは軽やかに鳴らしてみせた。
猟兵に向き直り、空元気!
「皆にはバカが何か言ってるって呆れられちまったんだけどさあ。この向日葵を、みんなで咲かせることが出来たら。ちゃんと笑って死ねる気がするんだ、オレたち。なあ、どう思う!?」
……オブリビオンに破壊され、荒れ果てた元畑。諦めてしまった住民達。少量残った作物の種、向日葵の種。
無知のちゃらんぽらんながら、みんなで笑っていたい気持ちは本物の、グラッパ。
さあ、できる事を、はじめようか。
大紋・狩人
待っっっ
向日葵は強い花だけどさあ、乱暴すぎないかな!?
種はふたつみっつでいいんだよ!
ほら、鍬。土に、種のねどこを作らないと。
(土いじりは心得がある。昔、庭でやったっけ)
(お祖母さま、このくらいのお齢だったなあ)
手をつなぐよう
昔、父から学んで弟妹に教えた園芸の基礎
思い出しながら、グラッパとお婆さんに伝えていく
宝探し、見ている子ども達がいれば、手招いてともに
共有する事は大切だから
一緒に、頑張ろうか
花の後で種が採れたら、炒ると食料になる
生きる支えになるんだ
幾許、乾燥させて取っておけば
次の夏にも一面の向日葵にまた会える
愉快も素敵なものも、ずうっと続くと嬉しいじゃないか
グラッパ、僕はそんな風に思うんだよ
●
「もっと種植えた方がいいのかな」
種ざーっ。
「こうさ、宝物みたいに埋めとけば多分いいかんじにさー」
土塊を重ねて重ねてごっごっ。
「待っっっっっ」
……土を重ねるグラッパの視線を、しなやかな手が遮った。ここいらの拠点ではなかなか見ないような流線の手指。するする目は釣られ、腕の流れを追うままに見上げればーー灰髪に、夜空を堅牢に敷き詰めたような装束。襤褸ながらもダイヤ輝くドレスに身を包んだ姫君が、そこに居た。
うわあ、綺麗だ。かたくて、けれど触れたら崩れそうな姫さんだ。
「向日葵は強い花だけどさあ、乱暴すぎないかな!?」
おおっと近付き難そうな第一印象を打ち砕く人の良さそうなハスキーボイス。男だこの姫さん!
「美人だなあ姫さん!」
「ありがとう。ほら、種はふたつみっつで良いんだ! ……失礼するよ」
細指が土をごっごっ取り除き、あああまるでリスの越冬準備みたいに溜め込まれた種を、大紋・狩人は丁寧に拾い上げた。
「向日葵は、うんと背が高くなる花だから、きちんと間を開けて並べてやったほうが陽を浴びれる。それに、この土はちょっと硬すぎる」
種をお婆さんから受け取った袋に一度仕舞い込む。それから、転送時から持参してきた鍬を、グラッパに渡す。ほら。
「土を耕して、種の寝床を作ろう。被せる布団は柔らかい方がいいのは、種も人も同じだよ」
「……兄さん、お姫さんなのに詳しいなあ」
素直に受け取り、ぱちくり瞬きつつもグラッパは土を耕し始める。普通に耕していいのか? と基礎の問いに応えるべく、狩人自身ももう一本、鍬を持つ。
……やあやあ不思議な事もあるものだ。御伽噺の中でしか見た事ないようなドレスが、農工具を様になる腰の入れ方で構えるシーンなんて、最早想像の中でさえ見たことがない。
「詳しいわけでも無いけれど、昔僕が教えてもらったことを、君達にも伝える事は出来る。……ねえグラッパ、お婆さん。この種は、全て撒くつもりで耕していいのかな」
「勿論! めいっぱい咲かせたいのさ、うんと鮮やかな黄色で埋め尽くしたら皆怒ってなんていられないだろ!」
明朗なグラッパに、狩人は眩しげに銀の眦を細めて仄笑む。色のない場所よりは、色鮮やかな場所があたたかい気持ちをくれるのは、狩人も同意できるのだ。
「間隔を開けて、って言ったか。そんなら、向日葵達の寝床は、どのくらいの広さが必要になる?」
「そうだなあ、大体……ーー」
ーーお姫様と老婆、それからバカのグラッパが、何やら土を耕し始めている。最近中々言葉も発しなかったお婆さんも、楽しそうだし。
その上、グラッパときたら一言一言が大きくて明るくて、何にも持ってやしない筈なのに、まるで前のリーダーが食料を持って帰ってきたときみたいな顔で土を耕しているのだ。
その光景は子供達にとっても奇妙に映ったろう。
なんだか遊んでいるみたい。大人が怒ってばかりの日常から、いっとう遠い場所が、今、そこにある気がする。子供達は彼らの様子から目を離せない。
「ーーやあ」
それに気付かぬ狩人ではない。興味を示してくれる事は、明るい希望であるのだ、己に出来るかぎりの朗らかさで声をかけて手招こう。
「気になる? おいで、向日葵の種は、見たことあるかい」
子供たちがきょときょと顔を見合わせる。
「これから、種からは想像つかないような花が咲くんだ。見ておくと、きっともっと楽しみになるよ」
行って、いいのだろうか?
「なあ、結構これ疲れるんだ! お前たちも一緒に腹空かそう、後でオレの食事も分けてやるからさ!」
子供に、あの重そうな鍬は振り回せるのだろうか?
疑問こそ浮かべど、今日の食べ物が増えるのならば、まあ手伝うのも悪くはなさそうだ。
ゆっくり、戸惑いながらも子供達は歩み寄っていく。待ってましたと言わんばかりに、グラッパは即席の歌で、狩人は尊いものを見る眼差しで出迎える。
「……ほら、この種がこれから、花になる」
「しましま」「しましまぁ」
「花になると、もっとたくさんの種が取れる。そうすると今度は、種を炒って食べられるんだよ」
「たべられるの?」「たべちゃっていいの?」
「全部食べずに幾許感想させて取っておけば、また次の夏に一面の向日葵畑に会えるだろうね」
「わあ」「わあー」
「次の夏かあ。考えてなかったなー」
「そう。そうすると、きっともーっと、愉快で楽しい気持ちになる」
「わあ」「わあ」「わあ」
「そんな気持ちが、ずうっと続くと、もっともっと、嬉しいじゃないか」
死なずに。或いは、死んでも。
「僕は、そんな風に思うんだよ、グラッパ」
「…………それもそうだ。よーし誰が一番上手く耕せるか姫さんにみてもらおうぜ!」
先まで種を見ていたかと思いきや、今はもう鍬を代わる代わる振る子供らとグラッパを見ながら、狩人は強い日差しに汗を拭う。
老婆の、やすんではどうだい。という優しい気遣いも、狩人は嬉しげに遠慮して。
なんせ、一番上手く耕せた奴には姫さんからのキスだなどと不埒な事を言っているグラッパを、少々叱らねばならないので。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
向日葵、言うほど悪くない気がするよ。
土壌の浄化にもなるらしいし、一応だけど油も採れるし。
――夏報さんはつまんない人間だけど。
今、こんなつまんない意見を誰も求めてないってことはちゃーんとわかる。
って訳で、きみの考える向日葵の良さをもっと夏報さんに教えてよ!
うーん、生命力、やっぱり生命力かな?
あの種がみっちり詰まってる感じとか最高だよね。
なんていうんだっけ、自然界のフラクタル……フィボナッチ……なんかそういう奴。本で読んだよ。
でも種まきするときは数粒ずつ離して植えないとダメだからね。これも本で読んだ。
うーん、いいよね向日葵!
まあ、あと、(ちらりと観衆を見て)
土壌の浄化にもなるし油も採れるぜ。うん。
●
猟兵の教えに沿って、先ずは土を耕し始めるなどしたグラッパと子供達、それから炎天下。
「向日葵、言うほど悪くない気がするよ」
臥待・夏報は独言めいて朗々零す。遮るものが少ない陽光は、施設のそばに濃い影を落としている。そのコントラストの間に、夏報はいた。
「だーーよなあ!」
「そう、土壌の浄化にもなるらしいし、一応だけど油も採れるし」
「おお、婆さんが大事に種を持ってただけあるなあ」
さあグラッパは夏報提供の向日葵有用情報に興味津々だ。こらこらグラッパ、手が止まっているぞ。
「まあ、こんなつまんない夏報さんから提供できる程度のつまんない実用的意見は、一旦置いといてさ」
「つまんなくないぜ? 育て甲斐がムクムク湧いてくるよ」
「いいんだ。つまんなくていいんだよ」
ーー今日の主役は、仕事が終われば帰る猟兵ではなく。この拠点を引っ張る男になるべき、きみ自信なのだから。
夏報が立ち上がり、日陰を一歩出る。眩い日差しが白い肌を焼く。両手をゆるやかに広げ、夏めく暑さを浴びながら夏報は笑む。
「ーーって訳で、きみの考える向日葵の良さをもっと夏報さんに教えてよ! んんー、生命力? やっぱり生命力かな?」
「おっお望みならこのグラッパ、鍬からギターに持ち替えて、生命力で一曲歌おうか!」
「やあ、是非ーーと、言いたいところだけど」
夏報が示すは、おずおずながらちゃんと手伝いに出てきてくれた子供達。言い出しっぺなのにもう鍬を手放しそうなグラッパに、驚いたくりくりの瞳が二対計四つ注がれている。
「歌ってて大丈夫? 夏報さん心配だな」
「……フ……曲はまたのお楽しみにっ……」
ポロろろろ↓ん……。口頭でCmコードなど口遊ながら、耕す作業に戻るグラッパと安心したらしき子供達を、夏報は愉快げに眺めていた。
「まず黄色いところがいいよなあ〜〜」
えっちらおっちらざっくざく。
「うんうん、流石太陽の花だよねえ」
「顔より大きい花が咲くんだろ? いやあもうそんなん満点じゃん、神様が作った奇跡だよ」
グラッパは天然で声が大きい為、この話だって丸ごと観衆まで届いているだろう。
「花に種がみっちり詰まってる感じとか最高だよね」
「花ってこーんな(こーんな)デカくなるってオレ聞いてるぜ」
鍬を一度土に刺し、顔より大きい丸を描くグラッパ。うん、大体そのくらい。勘がいいね。
「そこに、みっちり?」
「そうさ、みっちり。なんて言うんだっけ、自然界フラクタル……フィボナッチ……なんかそうゆうやつ」
「おっわからない。工業用品?」
「自然の数学的な話さ。本で読んだよ」
「うん? つまりどうゆう?」
「種がみっちり詰まってるって事さ」
「えーーー大収穫だーーー! しかも食べられるんだろ種って!? はああーー〜流石フラダンス……あとひとりぼっち……?いや独りぼっちよりはみんな一緒がいいなあ、みっちりとさあ」
「そうだね、フラとチまで合ってるよグラッパ。でもいくらみっちり取れても、種まきする時は数粒ずつ離して植えないとダメだからね。これも本で読んだ」
「じゃあ、育てていくなら……もーーっと広い畑が必要になるんだなあ」
グラッパは目を眇めて遠くを見る。夏報もまた、遠くを見やる。荒れ果てた大地のその遠くで不浄な空気がうねり合って陽炎を揺らしている。
「いいな、それ」
「そう、いいよ」
何にも無い事を示すような陽炎の果てが、黄色に染まる日が幾年後かにあるならば。
子供の背丈など隠してしまうほどの大輪が咲き誇るならば。
「花見で乾杯したい!!!」
「良いね、エールなんかあけたらきっと最高だ」
「あーーーいいなぁ向日葵〜〜!」
「うーんうんうん、いいよね向日葵!」
話しながら手を止めたり再開したり、効率が悪い事。浮かれた声は反響も無く、きっと真っ直ぐに拠点の彼らまで届いている。
「まあ、あと」
くるり、夏報は演技がかったUターン。見つめるのはーー拠点でくすぶる、彼らへ。
さあ、明るい希望の話に、お酒の話まで添えちゃったぞ。きっと吐こうとした唾だってごくんと飲んじゃったはずだ。
「土壌の浄化にもなるし、油も採れるぜ」
あとはーー大人の大好きな、現実的でつまんないお話で、背中を押してあげるだけ。
「うん」
まるでずるい大人のように、あるいはませた少年のように。首肯。
さあ、夏報は、横に一歩踏み出した。
声など聞こえていないフリをしていた、仏頂面の大人数名が重い腰を上げ、こちらに歩き出してくるのを。グラッパの視界に収めてやるには、きっとこれで充分さ。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
ひまわり、だいすきっ
去年ね、わたしもひまわりを植えてそだてたんだよ
グラッパの言葉ににこにこ
うん、どんどんおおきくなっていくのを見るのもわくわくするし
ひまわりがさいたらね、みんなえがおになっちゃうよっ
だからね、わたしもおてつだいするっ
あめがふればひまわりもごくごくのむよ~♪
いっしょに歌いながら
ひりょう、よういできるかな
まいにち水もあげなくちゃ
でもあげすぎたらげんきがなくなっちゃうからほどほどに
ここにひまわりがあるよーってかんばん立てたらどうかな
みんな気にしてくれるかも
かんばんにおえかきもしようよ
ひまわりの絵と、にこにこのたいようっ
見てくれるひとがいたら声をかけるんだ
いっしょにひまわりさかせようよ
●
「去年ね、わたしもひまわりを植えてそだてたんだよっ」
とろけるような朗々、喜びを惜しみなく両腕広げ振りまくオズ・ケストナーに、グラッパは歓迎の笑みを向ける。土を耕す鍬を一度止めて、汗を拭う。
「おお、頼りになる経験者さんだ! それは、立派なひまわりは咲いたのかい?」
「うん、うんっ ひまわり、だいすきっ」
スキップとステップ、その間。楽しい気持ちだけがてっぺんから爪先まで溢れ出す歩みで、オズはグラッパに近づいていく。お婆さんへのご挨拶も、うやうやしく忘れずに! お近づきのしるしに、握手もしよう!
「おばあさんも、ひまわりすき?」
ああ、ああ。老婆は眩い少年の笑みに目を細めて何度も頷く。皺枯れた手と、人形のなめらかな手が握り合う。
「あのね、どんどんおおきくなっていくのを見るのもわくわくするし」
それから、低い箇所を撫でるような仕草、からの、自分の頭のてっぺんよりも高い箇所まで掌を上げる。成長を表すジェスチャーだ。
それから両手を祈るように握ってーーぱ! と広げて、満面笑顔! ひまわりのはなは、このくらい大きい!
「ひまわりがさいたらね、みんなえがおになっちゃうよっ」
ああ、ああーーお婆さんも、子供達も、最早ただ、向日葵の夢を語れるだけで嬉しくて、眩しくて。
きっとまさに、向日葵ってこんな風に咲く。
印象よりも背の高いオズを見て思う。整った白さと子供のやわさを持ち合わせながら、背に合わせて相応に大きい掌がつくる花を見て思う。
「ーーなあ、先輩! 何したらいいか教えてくれないか!」
「うん、まかせて。ねえ、グラッパ、一曲おねがいできる?」
「曲? よしきた!」
グラッパは待ってましたと言わんばかりに農耕具を素早く置いて、手作りの缶製ギターを慣れたように携える。オレ暫く動かないから、という宣言の如く、お婆さんの側にどっかり腰を下ろす。
さあさそろそろ単純労働にも疲れてきた頃だろう、朗らかな一曲で心も体も浮かれさせよう。張った紐を明るいコードでべべん!と震わせ、
それでは泥臭いメロディにてご唱和を!
「あめふれば〜ひまわりもごくごくのむよ〜♪」
「オレらはみんな生きてるから〜〜みずのうまさが染みるのさ〜〜♪」
べんっべけべけべんべけべん!じゃんじゃん! 軽快なメロディは単純で、即席で合わせて歌うのは難しくはない。
「おもたいひりょうは、おいしいひりょう〜♪ おいしいひりょうは、元気になるよ〜♪」
よいしょっ。奥にあった、残り少ない堆肥袋を持ち上げて、オズは宝物を見つけた顔で駆け戻る。
「元気になったら何がしたーい?♪」
べべん! 耳裏に手を当て、グラッパが応答を待つ。
「きっと何でもできちゃうよ♪ できないことだってすてきだよ♪」
オズが袋を開けて、柔らかくなった土の上でくるくるくる。堆肥を振りまいて笑う。肥料はいつも少し変な匂いがするーー大体、水と虫と絵具を固めて置いといたみたいな。そんな匂いがするけれど、それもまた植物が生きている証であろう。
「あっはっは、それもそうだ! 足りないものを補い合うのも、足りないのを一緒に仲良く我慢するのも、オレも嫌いじゃあなかった!」
明るい声ほどよく通る。二人の声はきっと遮るものが少ないこの世界で、誰しもに届いている。奥の方からこれみよがしなため息が聞こえた気もするが、いやあ、聞いてくれてるならこんなに嬉しいことはない。
「まいにち水もあげなくちゃっ」
「毎日かぁ、ここらで一雨、にわか雨が恋しいなあ」
べん……少し篭った音。屋上の古い貯水タンクを見上げる。入道雲を背負ったあのタンクの中身が果たしてどのくらいあったか、それを把握しているのはグラッパ以外の大人だった。
「うーん、あげすぎても元気がなくなっちゃうからー……きっと大丈夫♪ たりないのも仲良くがまんしよっ♪」
……などと、笑うのも、束の間。
入道雲、すなわち積乱雲ーー雨雲。
日が陰って涼しくなったかとおもった一瞬の後に、恵のスコールが注ぐのを、グラッパもオズも子供達も、歓声も同然の悲鳴をきゃあきゃあ上げて、施設の中へと駆け込んでいくのだった。
ああ、お婆さんはちょっと脚が悪いので、グラッパが迷わずおぶっていったとも。
さあ、一雨あがるまでは何ができるだろう?
雨が壁を叩く音も、雷の光も楽しみながら。
オズが子供達に、お絵かきが好きかと問うてまわる。
「ここにひまわりがあるよー、ってかんばん、たてるの」
看板程度の資材には事欠かない。
立ち入り禁止、この先危険区域、危険物ーーそんな赤黒黄色の文言ばかり書かれた廃看板を、グラッパが白に塗りつぶして持って来た!
「いっしょにお絵かきしようよ。ひまわりの絵と、にこにこのたいようっ」
お絵描き道具なら、ほらここに。魔法みたいに出した、面白い形のクレヨン、パステル、絵具が代わる代わる使える七色ガジェット。子供達の目がきらきらだ。
「ひまわり、みたこと、ないよ」
けれど、子供が、おそるおそる首を振るーーこの痩せた目に、黄色を握る事は赦されるのだろうか。
勿論、だとも。
「いいね、みたいひまわりを描こうよ。 お絵かきは、そっくりにかかなくてもいいの。たいようみたいな、きいろいお花。みんなで、どんな花がさくのかなあって、かんがえながらかくの」
オズは咲うのだ、屈託なく。ただのひとかけらたりとも、誰のことも否定しない、春の星めいた無垢なる笑みで!
「いっしょにひまわり、さかせようよ!」
「描かないと、オレの下手なひまわりばっか増えちまうぞ!」
晴れたらきっと、もっともっと、ここに描いたたくさんの七色ひまわりが綺麗に見える。
ざあざあ振りのパーカッシヴ。子供達の喜びはソプラノ。即席の歌はまだまだ絶えない。
大成功
🔵🔵🔵
ダンド・スフィダンテ
俺様は言葉での治癒や鼓舞と誘導を彼らに
『食べ物がない』
『不安で仕方がない』
『あのバカは何をしてるんだ』
『どうせ無力だ。何も出来やしない』
『未来が見えない』
『死にたくない』
『生きていたい』
『生かしてやりたい』
なぁ、それなら共に、あのバカな友に
力を貸してやくれないか?
向日葵の種は食料にも、油にもなる
何もしないより、芽吹けばずっと、明日に繋がる
バカがバカなままで、この場所で生きているんだ。
貴殿らだって、あのバカな友が嫌いじゃない……だろ?
人は一人で生きてはいけない
それなら一人ぐらい、誰かのおかげで何時だって笑ってるバカが居たって、良いじゃないか。
な?
彼は見るからにバカだが……なにせ歌は、上手いしさ?
●
座り込んでいた。頭も、肩も、心も落としたまんま。
滅びゆくベースなど、廃墟と違い無い。
薄暗い。埃の臭い。覇気のない。そんなものに囲まれれば、希望に縋る事への徒労が恐ろしくなる。すり減っていく前に、棄ててしまいたくなる。緑が減ったこの大地では、いつまで酸素は俺達に望ましい量が保たれる。
力強く支えてくれた彼ももう居ない。残ったのは、疲れた大人と腹を減らした子供と馬鹿ばかり。
今から立ち上がったところで、きっと何にもならない。
「『食べ物がない』」
誰もがそれはわかり切っていた。今更言うなと、誰かが乾いた声で返した。
「『不安で仕方がない』」
そうだ、不安は身も蝕んでいく。不安と疲労に身を委ねる事への恐怖はある、あるがーー足掻いた末に溺死するのは、いっとう苦しいじゃないか。
「『あのバカは何をしてるんだ』」
ああ全くさ。あのグラッパは何をしているんだ。向日葵なんて本当に育てられるのか。
「『どうせ無力だ。何も出来やしない』」
枯らすのがオチだ、何も出来るもんか。
だからほら、人に手伝ってもらってばっかりで。助けてもらってばっかりで。歌くらいしかまともに出来やしないのに。平和を掴む度胸も無い。
「『未来が見えない』」
「見えねえなあ」
「全くさ」
「元々見えなかったけどよお」
なのに、子供達の声が明るいなあ。
「『死にたくない』」
「……死にたくねえなあ」
「全くさあ……」
「なあ」
まるで朝焼けみたいに笑うよなあ。
もうどんなに見てないだろう、そんなもの。
「『生きていたい』」
まだ顔を上げていいだろうか。
朝焼けを、笑って、歌って、見たいと思う事は。
「『生かしてやりたい』」
俺達に。
諦めた俺達に。
未だ許されるか。
許されると信じさせてくれる程のあの馬鹿の声を、まだ、聞いて、良いだろうか。
上げた頭は随分重い。空虚では無い脳にずっと届いていた『その』声は。一体誰なのだと知るために、頭をあげるだけの力を不思議と湧かせていた。声の主は、俺達と全く同じように腰掛けていた。まるで朝日か向日葵のようなーーどこかのバカによく似た色で。妙に朗らかな、眼差しで。
……いつからいたんだと聞くのも馬鹿馬鹿しい。多分最初からいたのだろう。
「なぁ、
それなら共に、あのバカな友に
力を貸してやくれないか?」
包むような優しさで。されどその優しさは退路を断つような断定も含んでいて。
「向日葵の種は凄いぞー、食料にも、油にもなる。
何もしないより、芽吹けばずっと、明日に繋がる。知っていたか? 俺様は最近調べたばかりだ、すごいな!」
男は軽く笑って俺達一人一人の顔を見る。俺達も釣られて互いの顔を見た。痩せたな。髭も生えた。だが、まだ泣きそうな顔をするだけの元気がある。
男は言葉を続ける。
「バカがバカなままで、この場所で生きているんだ。
貴殿らだって、あのバカな友が嫌いじゃない……だろ?」
そう言われて浮かぶ顔が一人、はっきりといる。
そうだ。煩くて、何も出来なくて、けれども歌と音楽と何も考えてなさだけは一丁前。
人は、一人で生きてはいけない。
こんな所で腐っている馬鹿共だって、誰かに生かされてきた。誰かを生かしてきた。
「それなら、一人ぐらい、誰かのおかげで何時だって笑ってるバカが居たって、良いじゃないか」
「……」
俺達の眉間にシワが寄るのを、男は気の抜けた笑みで見ていた。
「な?
彼は見るからにバカだが……」
ばか、ばか、ばかばかばかばか、言いやがって。
「なにせ歌は、上手いしさ?」
あいつと飯を分けた事も、あいつのバカさに毒気を抜かれた事もない癖に、ばかばかばかばか言いやがって。
そんな俺達の苛立ちも、さも見通したように毒気の抜ける顔で笑いやがって。
そうだ。
死ぬならば、
向日葵を背負って歌うあのバカと、子供達を見てからでも、遅くはあるまい。
鉛のように重い腰をあげ、泣きそうな顔でぶつぶつ言う俺達を。男は全部見透かしたようにーーいいや、最初から信じていたかのように、笑っていた。
ーー名前は?
そう知らない相手に問うだけの気力が、この男が話し始めてから物の数分で生まれていた。
男は、ダンド・スフィダンテと、名乗った。
苦戦
🔵🔴🔴
ジョウ・デッドマン
バッカじゃねーの?
……崩壊しかけの拠点なんて、僕らスカベンジャーのいい餌なんだけど、さ。
アンタらが植えんのがヒマワリなら、協力してあげなくも、ない。
……ちゃんと育てろよ。
……そいつすっげーでかくなるからな。
…………バカみてーに明るい花が咲くんだよ。
咲かせてみろよ。この地獄でさ。
ジャンクなら有り余ってんだろ。借りるよ。
「ガジェットショータイム」で土を耕すガジェットにいくつか組み直して、
……ガキども、こっちのオモチャで遊んでいいよ。この辺の土ボコボコにしちゃえ。
……変な形は余計だ、バカ。
バカみてーに明るい花が咲いてるとさ。
死ねねーよ。
……生きてるアンタにはわかんねーだろーけどさ。
●
拠点奥に残されたジャンクを前に、小さな人だかりが出来ている。
死にかけの小金属の群れ。パーツとパーツが噛み合いぶつかり合い、命を吹き込まれていく音。がちゃ、がちゃがしゃがちゃちゃちゃ。ーードン!
瞬く間に組み上がる不可思議マシンに、グラッパ含む子供達の目は釘付けだ。
「すごい」
「出来合わせのオモチャだけどな」
それぞれ形はバラバラ。
「かっこいい」
「かっこいいかもな。使えれば、もっと」
大小、重い軽い。個性豊かにバラついたソレら即席ガジェットを、一つ一つ、ジョウ・デッドマンは子供達へと手渡していく。
その表情は深く被ったキャスケットの影で見えないが、声変わりを知らぬ澄んだ声音は、無愛想ながらに、子供達の言葉には応じていた。
「ガキども、ほら、持って。ここを……押すと、動くから」
「わ、わ、わーわーーーー」
がしょーん。きゃー!
沸き立つ子供たちに、ジョウとて満更でもない。少し。ほんの少しだよ。
それから、カーキ色の丈夫な布に覆われた、細く白い手指を外へと伸ばしてーー
「外の土、ボコボコにしちゃえ」
命じる。下されたお許しに大興奮の子供達は、一斉に外へと駆け出した。外はといえば雨上がりだった、硬かった土は水を吸って柔らかく、岩なども埋もれているならば取り出しやすくなっている事だろう。雨降って地固まる。ーー水に不足する事のない国が産んだ、贅沢な言葉だ。
「で、アンタは」
「はいオレ!」
明朗無邪気顔で待機していたグラッパが元気に手をあげた。そんな元気に返事すると腹減るぞ。帽子の影の下、呆れの皺を一本増やしながら、最後の一つを渡す。岩を砕く、一番重くて一番力が要るヤツ。
「力あるだろ。ガキが、岩を掘り出してくれる筈だから。使い方が分かってれば、の話だけど……それを砕くのが、アンタの仕事」
「やあった、ありがとうなぁジョウ! はーーっ、変な形だなー!」
「それは余計な感想って言うんだ、覚えとけバカ」
渡したガジェットは持ち手が何故か蛇腹稼働になっていて、ぶかぶかアコーディオンさながらだ。その箇所は岩砕きの用途には一切関係なさそうだ。絶対無い。むしろ力が逃げるんじゃないか。されどそんなことお構いなしに笑うグラッパに、ジョウの悪態が効いている様子はまるで無かった。
「…………ほんと、バッカじゃねーの?」
外での作業中。なんとも無駄な動きと要らぬ会話のおおい作業風景に、いくど目かの悪態が耐えきれずに漏れていった。
この世界の空は、重い雲がない限りは、遠くてバカに広い薄水色をしている。まるで透明みたいに。何一つ与えてくれないような色で。
「バカかなあ」
「バカだね。歌、だって、疲れるばっかで腹の足しにもならないし。そのまんま崩壊しちまった方が、後続の足しになるんじゃないの」
資材、食糧、あるいは武装ーー生存に必要なものの多くは、消耗品だ。消耗する人間さえ死ねば、その頭数だけストックは増える。生存率を上げられなくなった拠点など、さっさと滅んでくれるに越したことはない。ーー僕らスカベンジャーの餌にでもなれば良い。
そうやって、きっと見放していられたのに。
その花でさえなければさ。
ジョウの無愛想な物言いにーーグラッパは目を細めて笑う。
「うん、俺もそう思う。けど、お前も、手伝ってくれるもんな!」
「……そうだけど」
睨む。けど、この手の存在はなぜかいくらこっちが無愛想でも怯まない事を、ジョウはよく知っている。
「だあよな!」
グラッパはこの十数分ですっかり使い慣れた謎蛇腹で岩を破砕して笑う。ブァーーーーん! うるさい音が陽気に響く。鳴らないようにガジェットショータイムできなかったのだろうかと、ジョウは己の手を見た。……いや、思いついちゃって……。
「ジョウ、いい奴そうな顔してたもんなあ」
「そんなん、アンタの思い込みだ」
バカ。この死んだ目に一体何を期待する。
地獄で笑うやつは、どいつもこいつも頭があっぱらぱーだ。
「いやあでも」
ヴァーーーーーん!
「向日葵が見たそうな顔してた!」
グラッパうるさいよおー。
なんか歌にしてよおー。
賑やかで朗らかなひととき。
「…………、」
対、沈黙。
ジョウのため息が声にも音にもかき消される。まあため息なんて、本当は別に必要でもない吸気だし、聞かれなくても問題はないが。言葉が紡がれるのを待つグラッパの笑みがやかましいのは問題だが。
吸って、溜めて、
いくど目かの、バカ、を吐こうとして。
やめた。
「…………ちゃんと育てろよ」
「協力してくれよな!」
「そいつすっげーでかくなるんだからな」
「オレより!?」
「ちゃんと育てれば」
「物知りだなあジョウ!」
「…………」
あのドン引きSDアイコン。
気を取り直す。何度目だよ。
「…………バカみてーに。明るい花が咲くんだよ」
「バカみてーなのかぁ」
ああバカ同然だよ、よく知ってる。
グラッパは能天気に空を見あぐ。空を見ても砕くべき岩は無いが、グラッパを呼ぶ子供の声はきちんと聞こえた。
「バカみてーに明るい花が咲いてると。死ねねーよ」
「そっかぁ。死んじゃいたくても?」
グラッパは冗談めかして、されど祈るような声音さえ含め目を細める。それを見上げるジョウの眼差しは、きっと相変わらず帽子で隠れてグラッパからは見えやしなかった。
「……生きてるアンタには、わかんねーだろうけど」
そうだよ。
ああ、そうなんだよ。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
笑って“死ねる”、なぁ
…まあ、そうかもな
そんじゃきっちり咲かせてやらねえと
アレスの助言にその通りだという顔で頷く
植える場所…?うんうんそうだぞ!
土…うんうん、こうだぞ!
歌で身体強化して土塊にドカンと1発
チマチマやってたら日が暮れちまうし
ははっ、さらに細かくするのは任せた!
細かい作業は丸投げて
にこにこと見てる
遠巻きに見てるヤツがいるなら近くに呼ぼう
熱は…近い方が伝わるだろ
なぁ、ひまわりってどんな花なんだ?
ここまで手伝って何だけど
見たことねぇからさ
笑えるような、そんな花なんだろ
キラキラした眼差しでグラッパに問う
じゃあ、死ねねぇな
“笑って”死ぬんだろ?
それまで、きっちり生きなきゃな
アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
笑って“死ねる”、か…
でも、拠点に花と笑顔を咲かせようとするのは
いい考えだと思うな
植物の事は勉強中の身だが出来る限りの事を
植える場所も大切だけど
元が畑ならここも風通しと日当たりはいいはず…
うん、まずは荒れた土を耕そう
僕は農具を借りて…セリオス?
拳で耕す彼に唖然
いや、確かに早いけど
ちょっと雑じゃないか…?
…大雑把な土は僕が整えて行くか…
僕達が本気だと言うことも皆に見せよう
実を言うと…僕も向日葵は本でしか知らなくてね
少なくとも僕達の世界では見た事はない
太陽の花、だと聞いたよ(キラキラした目でグラッパ殿に尋ね)
…今、僕らが撒いた種は
希望で、未来でもある
生きてこそ…咲くんじゃないかな
●
「そぉーーーれっ!」
障害物の無い空に、声が響き渡りーー寸秒遅れて派手な破砕音が拡がった。
屈強。……とはとても言えない、華奢な拳が、大地に皹を入れて盛大に砕いたのだ。
土を割った張本人はふんすふんすと背筋を伸ばしながら、肩をぐんるぐんる。
「よーっしいけるいける。土耕すのは任せてくれていいぜ!」
「いや……セリオス……少し、雑じゃないか?」
「んん? けどもうチマチマやってても陽が暮れちまうしーー」
土にまみれる拳を振るい、朗らかに笑うのはセリオス・アリス。そんな彼を見ながら、アレクシス・ミラは呆れるやら、……喜ばしいものを見た気持ちになれたような、複雑な明るい想いだ。
太陽と土に塗れて、明日のための畑を笑って耕すというのは、彼らにとってはどうにも贅沢な事に思えてやまない。
土ごと決意を握りしめるような、無防備なセリオスの手。
「ほらっ、アレスもいるし!」
「……んん?」
雑じゃないか、への返答が、それは、どう、ゆう?
アレクシスの頭上に浮かんだ疑問符に、セリオスは腕白に笑う。さも名案提示のドヤドヤ顔で、人差し指を立てて。
「だってほらーー丁寧なのは、アレスの方が得意だろ?」
「まあ、そうだけど」
アレクシスの担いだ鍬は、剣とも盾とも違う、農具の重みを体に伝える。戦場で命を護り殺めるほどの頑丈さはない木の持ち手。経年と砂埃と、人々の手汗を数多吸った木の手触り。
「あっはは、細かく砕くのはまかせた!」
ーーされど武具も農具もどちらも、命を、人の笑顔を、きっと君の笑顔だって繋いでいくためのもの。
手を大きく振り、再び土仕事へ駆け出していくセリオスに、アレクシスも続いていく。
さあ、この辺りの土一帯全部耕してやろう。僕達の本気を見せてやろう。あのあたりで、それはそれは恨めしそうに羨ましそうに、こちらを見ている大人達の一歩の為にも。馬鹿正直に励む楽しさを教えてやらなければ。
「おーーーいオッサン達! 暇なら手伝ってくれないかーー!」
あっセリオス、土が僕の顔に飛ぶ。もうちょっと手のブンブンを優しく。
「ええい、言われないでもそうするつもりだ!」
「拳で耕すなんざなってねえんだよ、顔が綺麗な奴らはこれだから!」
あっすごいな彼ら、すごく素直に乗せられてくれる。きっとここまでの猟兵達や子供達の活動が実を結んだのだ。
「じゃあ、是非とも手本を見せて欲しい。植物のことは、学んではいるんだけれど……どうも実物の農具なんて随分触れてなかったから、重心が難しくて。どうか、貴方がたの大切な経験を、僕達に教えてください。」
そんな、丁重な一言を添えて。なにもなかった畑に、人々の影が数多伸びていく。
●
「グラッパ殿。……実を言うと、僕達も貴方と同じだ」
「おん?」
土はやわらかく、種は間を開けて。雨も飲んで、あとは芽吹くを待つだけの……畑と呼ぶには殺風景で、されど荒地とはもうとても呼べなくなった畑を、誰しもくたびれて眺めていた。
アレクシスは頬に泥をつけ、いつもなら太陽を透かしてまばゆいばかりの髪も今は誇らしくくすんでいる。土の匂いを纏ったままこぼした言葉に、農具から楽器に持ち替えたグラッパが首を傾ぐ。
「金髪色男なところが?」
「いえその」
違います。こほん。ちょっと遠回しに褒められたのが少々気恥ずかしい咳払い。
「向日葵を、知らないんだ。少なくとも、本の中でしか見たことがない」
「そうそう。俺達の世界、花の種類が少なくてさあ」
ぴょんこ、二人の間にセリオスが割って飛び込んでくる。
「見ただけで笑えるような花って……どんっくらいきらきらなんだ!? 名前から考えるに……暇潰しに最適な花か?」
それはひまわりならぬ暇割りかもしれない。みんな……にこっと……した。
「太陽のような花、と聞いたよ」
「ぴかぴかぱーーってすっごい光るのか!?」
「そう、ぴかぱーって」
乗ってくれるアレクシス。
「ぴかぱーって!」
自信満ち満ちセリオスアリス。
「ぴかぱーにしてえ〜〜〜〜〜〜っ」
天を仰いで全肯定グラッパ。
聞いていた子供も、老婆も、大人達も、どこか呆れたように、されど目の前に巻いた希望が悪くはなさげに、目を細めていた。
「そんなん見たら、きっと今よりもっともっと笑えるな!」
アレクシスの言葉を待つように、セリオスが歯列を覗かせ笑う。だからアレクシスは頷いて。
言葉を紡ぐ。
「今、僕らが蒔いた種は、未来でもあり、希望でもある。夢物語に託すためじゃなく、自分達で目にするために、未来を蒔いた」
ここにいる誰しもに届きますようにと祈り、明日を語る。
空腹でも、寒くとも、辛くとも。
「生きてこそ咲くんだろうなと、思うよ。……頑張ろうね」
一面の太陽を、咲き誇らせてみせよう。誓いを胸に、やわく笑む。
「それまで、きっちり、生きなきゃなあ」
ぱんぱん、手から土を払いながらセリオスも。老婆へ、子供へ、大人達へ、それから他でもないグラッパへ、生きていく事を念押しだ。
ある者はバツが悪そうに。ある者はまばゆげに。ある者は宝箱を前にした時のように、話を聞いていた。
誰からともなく、応。と声。
それに続くように、応、々、々。
生きる決意が同調して膨れていく。
えい、えい、おーーー! と、空き缶ギターを鳴らして声を上げたグラッパは。一番、泣きそうな顔で笑っていた。
斜陽がひどく眩しい。
ーーーそうだ、僕らには、明日が来る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ひとつ芽吹けば、あとは続々と。たよりない双葉が、来る日も来る日も増えて、伸びて、緑の隊列を作っていく。ある日はしおれて。時には強すぎる日照や雨から、ちっぽけな緑を無力な人々が護って。
今朝もグラッパが一番乗り、揚々とひまわり畑に駆け出していくのを、拠点内部から住民や、小まめに様子見を繰り返す猟兵が見ていた。もうそんなに毎日見に行かずとも、花は育ってくれるのにーーと呆れを含んで語らう。
足りない食事で最低限の疲労を補う。さてさて今日は、食料の補充の為に少し移動をしてくるよ。きっと足りないが無いより良いだろーーと、大人達が話して、扉に手をかけた。
顔面蒼白、引き攣った顔。消え入りそうな声で告げられた否定に、人々は顔を上げる。朝の冷えた空気が人々の首を撫でる。あのグラッパが、外に出ることを拒否する、ーー?
多汗と、危うい呂律。落ち着け、落ち着いて話して。異常事態を察した猟兵がグラッパの背をさすりゆっくり呼吸をさせるーーグラッパの、マメが潰れた手が、猟兵に縋り付いた。
トラウマだ。笑って死にたい。こんな恐怖はもう味わいたくない。失う絶望から目を背けていたいーー全身から悲鳴同然に噴出するパニック状態に、拠点の人々も息を呑み狼狽える。退路を探り振り返った視界端の窓。