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キリギリスに明日あれかし(作者 小林
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 この拠点は、もうダメだよ。
 みんな年中喧嘩ばかり、なけなしの食料も奪い合ってさ。
 いや、オレの腹が減るのは良いんだ、歌ってりゃ気も紛れるし。ポロロン。
 ただ。仲が悪いのはダメさ。
 苦しい中でさらに苦しんでどうすんのさ。楽しく滅びようって気概がないよ。
 くたばるならララバイ、愉快に死にたいって思わないのかねえ。

 それとも、皆。『大丈夫だ』って、『頑張ろう』って言ってくれる、あの声を待ってんのかな。
 もうそんな声はないんだって、バカなオレでも分かるのに……ポロロン。

 ……ん?
 婆さん、どうした? オレはもう飯は喰ったよ、本当だって。気にしないで……え?
 種を、みつけた?
 ーーああ、良い! 最高だ!
 黄色いでっかい、太陽の花束をみんなで見れば、きっとオレたち笑って死ねる!

「みんな! 向日葵だ、向日葵を咲かせようぜ!」



「崩壊寸前の拠点(ベース)を、立て直せる」
 グリモアベースにて。ラピタ・カンパネルラは、微笑みながら告げた。
「土壌も希望も痩せた時こそ、笑顔がきっと必要なんだ。君達猟兵に、その拠点全員を笑顔にする手伝いをしてきて欲しい」

 その拠点の最大の難点は、人々の非協力と険悪さである。
 協力こそが生存には必要であるのに、その逆の不和が満ちている。
 ーー不和の発端は、拠点において大切なものを一度にふたつも、失ってしまった事。ひとつは、皆で育てていた畑。もう一つは、その拠点で慕われた奪還者でもあった、旧リーダー。
 それら二つが、オブリビオンに襲われ、一度に失われた。
 ……人々は心の支えを失い、疲れ果ててしまった。諦めてしまったのだろう。
 ーーいやに浮かれた、一人を除いて。

「空き缶を加工して作ったギターを弾いてる人が、一人居る。その人が、拠点の新しいリーダーになれる筈なんだ」
 彼の名前は『グラッパ』、拠点で唯一の金髪故に、行けばすぐに分かるだろう。
 問題事を無責任にへらへら笑ってやり過ごす。楽しく滅べば良いじゃないか、がモットー。
 このグラッパが、リーダーに相応しくなれるように、猟兵達で手助けをして欲しいのだ。
「彼自身、リーダーになろうなんて思っていないし。拠点の仲間も、彼のことを、歌ってばかりの不真面目なキリギリスって呼んでいる」
 彼のカリスマ性を開花させる事。戦闘経験をつける事。笑い歌う事の素晴らしさを、皆で分かち合う事。
 それが出来れば、きっとこの拠点は、大丈夫だ。

「行くと……多分、グラッパが何か困ってるだろうな。先ずは、それを助けてあげて。きっと、素敵な事をしようとしている筈だから」
 ラピタは赤い目を細め、ふくふくと小鳥の囀りのように笑う。
 拠点に、グラッパに、手を差し伸べてくれる猟兵の手を取ってーーその握手で、転送の光に包み込んだ。


小林
●挨拶
 お目通しありがとうございます。小林です。
 イメージはとっても明るい話! アポカリプスヘルでわあわあ笑えますように!

●お話の流れ
 一章冒険・向日葵を咲かせようとしているグラッパとお婆さんがいます。
 向日葵の育て方も知らないグラッパに教えたり、拠点の仲間をグラッパと共に説得したり、グラッパが成長できるよう手助けしましょう。

 二章集団戦・戦闘なんて旧リーダー任せだったグラッパのケツを叩いてあげましょう。
 グラッパに戦闘指導や指揮指導をうまく教えられるとプレイングボーナスがあります。

 三章日常・歌いましょう! 帰還まで、どうか笑顔で満ちたひと時を!
 新リーダーグラッパと共に歌ったり、拠点の絆を深めたり、あるいは今後の課題をグラッパに伝えても良いかもしれません。
 (もしお声掛けいただけた場合、当グリモア猟兵のラピタも顔を出させて頂きます)

●執筆方針
 四から六名様程の最小人数で書いていきたいと思っております。
 また、もしも一章で採用した方が二章以降もご参加いただけた場合、優先的に採用させて頂きます。

 各章に断章を挟みます。断章追加後にプレイングを頂けると嬉しいです。

 それでは、どうか良い冒険になりますように!
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第1章 冒険 『日に向かう花の願い』

POW開墾だ硬い地面を耕そう
SPD力を合わせて整地しよう
WIZ栽培プランを考えよう
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●咲かねーよ

「雨が降ったら水浴びて〜〜〜力一杯笑うぜオレたち〜〜〜♪」
 ジャンジャンべけべべんっ。
 弦を陽気に鳴らして歌う声の朗らかさ。よく晴れた空、乾いた空気を心地よく震わせる……聞くものの心に、余裕さえあれば。
「明日はきっといい日だから〜〜一緒に太陽を見ようぜ〜〜〜♪」
 べべんべんっっじゃんーーーー。
 ……土に向かって歌っている、缶とゴムを組み合わせて作った簡易ギターをもった金髪の青年ーーグラッパが一人。その側に共にしゃがんでいる老婆が一人。
 硬いままの土の塊を持ち上げると……その下には白と黒のストライプの特徴的な種がざらざら。グラッパと老婆は顔を見合わせる。
「……芽吹かねえなー」
「めぶかないねえ」
「花には話しかけてやるとよく育つって聞いたけどなー」
「そうだねえ」
「もっと種植えたほうがいいのかな」
 向日葵の種と思わしき白黒ストライプの粒を、小さな巾着からさらに、ざらっ。
 ……見かねた猟兵が、その手を待て待て待てよと阻止しなければきっとこの向日葵は一生芽吹けなかったろう。
 
 見れば、拠点施設から遠巻きに、グラッパの歌を聞いてはいるが見ているだけの大人が数名。興味は示すも無力感で寂しい顔をするばかりの子供が数名。
 奥からは仲間割れか、怒鳴り声が時折聞こえてくる。
 その声を聞いて、グラッパは苦笑する。それでも弦の音だけは軽やかに鳴らしてみせた。
 猟兵に向き直り、空元気!
「皆にはバカが何か言ってるって呆れられちまったんだけどさあ。この向日葵を、みんなで咲かせることが出来たら。ちゃんと笑って死ねる気がするんだ、オレたち。なあ、どう思う!?」

 ……オブリビオンに破壊され、荒れ果てた元畑。諦めてしまった住民達。少量残った作物の種、向日葵の種。
 無知のちゃらんぽらんながら、みんなで笑っていたい気持ちは本物の、グラッパ。

 さあ、できる事を、はじめようか。
大紋・狩人
待っっっ
向日葵は強い花だけどさあ、乱暴すぎないかな!?
種はふたつみっつでいいんだよ!
ほら、鍬。土に、種のねどこを作らないと。

(土いじりは心得がある。昔、庭でやったっけ)
(お祖母さま、このくらいのお齢だったなあ)
手をつなぐよう
昔、父から学んで弟妹に教えた園芸の基礎
思い出しながら、グラッパとお婆さんに伝えていく
宝探し、見ている子ども達がいれば、手招いてともに
共有する事は大切だから
一緒に、頑張ろうか

花の後で種が採れたら、炒ると食料になる
生きる支えになるんだ
幾許、乾燥させて取っておけば
次の夏にも一面の向日葵にまた会える
愉快も素敵なものも、ずうっと続くと嬉しいじゃないか
グラッパ、僕はそんな風に思うんだよ




「もっと種植えた方がいいのかな」
 種ざーっ。
「こうさ、宝物みたいに埋めとけば多分いいかんじにさー」
 土塊を重ねて重ねてごっごっ。
「待っっっっっ」
 ……土を重ねるグラッパの視線を、しなやかな手が遮った。ここいらの拠点ではなかなか見ないような流線の手指。するする目は釣られ、腕の流れを追うままに見上げればーー灰髪に、夜空を堅牢に敷き詰めたような装束。襤褸ながらもダイヤ輝くドレスに身を包んだ姫君が、そこに居た。
 うわあ、綺麗だ。かたくて、けれど触れたら崩れそうな姫さんだ。
「向日葵は強い花だけどさあ、乱暴すぎないかな!?」
 おおっと近付き難そうな第一印象を打ち砕く人の良さそうなハスキーボイス。男だこの姫さん!
「美人だなあ姫さん!」
「ありがとう。ほら、種はふたつみっつで良いんだ! ……失礼するよ」
 細指が土をごっごっ取り除き、あああまるでリスの越冬準備みたいに溜め込まれた種を、大紋・狩人は丁寧に拾い上げた。
「向日葵は、うんと背が高くなる花だから、きちんと間を開けて並べてやったほうが陽を浴びれる。それに、この土はちょっと硬すぎる」
 種をお婆さんから受け取った袋に一度仕舞い込む。それから、転送時から持参してきた鍬を、グラッパに渡す。ほら。
「土を耕して、種の寝床を作ろう。被せる布団は柔らかい方がいいのは、種も人も同じだよ」
「……兄さん、お姫さんなのに詳しいなあ」
 素直に受け取り、ぱちくり瞬きつつもグラッパは土を耕し始める。普通に耕していいのか? と基礎の問いに応えるべく、狩人自身ももう一本、鍬を持つ。
 ……やあやあ不思議な事もあるものだ。御伽噺の中でしか見た事ないようなドレスが、農工具を様になる腰の入れ方で構えるシーンなんて、最早想像の中でさえ見たことがない。
「詳しいわけでも無いけれど、昔僕が教えてもらったことを、君達にも伝える事は出来る。……ねえグラッパ、お婆さん。この種は、全て撒くつもりで耕していいのかな」
「勿論! めいっぱい咲かせたいのさ、うんと鮮やかな黄色で埋め尽くしたら皆怒ってなんていられないだろ!」
 明朗なグラッパに、狩人は眩しげに銀の眦を細めて仄笑む。色のない場所よりは、色鮮やかな場所があたたかい気持ちをくれるのは、狩人も同意できるのだ。
「間隔を開けて、って言ったか。そんなら、向日葵達の寝床は、どのくらいの広さが必要になる?」
「そうだなあ、大体……ーー」


 ーーお姫様と老婆、それからバカのグラッパが、何やら土を耕し始めている。最近中々言葉も発しなかったお婆さんも、楽しそうだし。
 その上、グラッパときたら一言一言が大きくて明るくて、何にも持ってやしない筈なのに、まるで前のリーダーが食料を持って帰ってきたときみたいな顔で土を耕しているのだ。
 その光景は子供達にとっても奇妙に映ったろう。
 なんだか遊んでいるみたい。大人が怒ってばかりの日常から、いっとう遠い場所が、今、そこにある気がする。子供達は彼らの様子から目を離せない。
「ーーやあ」
 それに気付かぬ狩人ではない。興味を示してくれる事は、明るい希望であるのだ、己に出来るかぎりの朗らかさで声をかけて手招こう。
「気になる? おいで、向日葵の種は、見たことあるかい」
 子供たちがきょときょと顔を見合わせる。
「これから、種からは想像つかないような花が咲くんだ。見ておくと、きっともっと楽しみになるよ」
 行って、いいのだろうか?
「なあ、結構これ疲れるんだ! お前たちも一緒に腹空かそう、後でオレの食事も分けてやるからさ!」
 子供に、あの重そうな鍬は振り回せるのだろうか?
 疑問こそ浮かべど、今日の食べ物が増えるのならば、まあ手伝うのも悪くはなさそうだ。
 ゆっくり、戸惑いながらも子供達は歩み寄っていく。待ってましたと言わんばかりに、グラッパは即席の歌で、狩人は尊いものを見る眼差しで出迎える。




「……ほら、この種がこれから、花になる」
「しましま」「しましまぁ」
「花になると、もっとたくさんの種が取れる。そうすると今度は、種を炒って食べられるんだよ」
「たべられるの?」「たべちゃっていいの?」
「全部食べずに幾許感想させて取っておけば、また次の夏に一面の向日葵畑に会えるだろうね」
「わあ」「わあー」
「次の夏かあ。考えてなかったなー」
「そう。そうすると、きっともーっと、愉快で楽しい気持ちになる」
「わあ」「わあ」「わあ」
「そんな気持ちが、ずうっと続くと、もっともっと、嬉しいじゃないか」
 死なずに。或いは、死んでも。
「僕は、そんな風に思うんだよ、グラッパ」
「…………それもそうだ。よーし誰が一番上手く耕せるか姫さんにみてもらおうぜ!」
 先まで種を見ていたかと思いきや、今はもう鍬を代わる代わる振る子供らとグラッパを見ながら、狩人は強い日差しに汗を拭う。
 老婆の、やすんではどうだい。という優しい気遣いも、狩人は嬉しげに遠慮して。
 なんせ、一番上手く耕せた奴には姫さんからのキスだなどと不埒な事を言っているグラッパを、少々叱らねばならないので。
大成功 🔵🔵🔵

臥待・夏報
向日葵、言うほど悪くない気がするよ。
土壌の浄化にもなるらしいし、一応だけど油も採れるし。
――夏報さんはつまんない人間だけど。
今、こんなつまんない意見を誰も求めてないってことはちゃーんとわかる。

って訳で、きみの考える向日葵の良さをもっと夏報さんに教えてよ!
うーん、生命力、やっぱり生命力かな?
あの種がみっちり詰まってる感じとか最高だよね。
なんていうんだっけ、自然界のフラクタル……フィボナッチ……なんかそういう奴。本で読んだよ。
でも種まきするときは数粒ずつ離して植えないとダメだからね。これも本で読んだ。

うーん、いいよね向日葵!
まあ、あと、(ちらりと観衆を見て)
土壌の浄化にもなるし油も採れるぜ。うん。




 猟兵の教えに沿って、先ずは土を耕し始めるなどしたグラッパと子供達、それから炎天下。

「向日葵、言うほど悪くない気がするよ」

 臥待・夏報は独言めいて朗々零す。遮るものが少ない陽光は、施設のそばに濃い影を落としている。そのコントラストの間に、夏報はいた。
「だーーよなあ!」
「そう、土壌の浄化にもなるらしいし、一応だけど油も採れるし」
「おお、婆さんが大事に種を持ってただけあるなあ」
 さあグラッパは夏報提供の向日葵有用情報に興味津々だ。こらこらグラッパ、手が止まっているぞ。
「まあ、こんなつまんない夏報さんから提供できる程度のつまんない実用的意見は、一旦置いといてさ」
「つまんなくないぜ? 育て甲斐がムクムク湧いてくるよ」
「いいんだ。つまんなくていいんだよ」
 ーー今日の主役は、仕事が終われば帰る猟兵ではなく。この拠点を引っ張る男になるべき、きみ自信なのだから。
 夏報が立ち上がり、日陰を一歩出る。眩い日差しが白い肌を焼く。両手をゆるやかに広げ、夏めく暑さを浴びながら夏報は笑む。
「ーーって訳で、きみの考える向日葵の良さをもっと夏報さんに教えてよ! んんー、生命力? やっぱり生命力かな?」
「おっお望みならこのグラッパ、鍬からギターに持ち替えて、生命力で一曲歌おうか!」
「やあ、是非ーーと、言いたいところだけど」
 夏報が示すは、おずおずながらちゃんと手伝いに出てきてくれた子供達。言い出しっぺなのにもう鍬を手放しそうなグラッパに、驚いたくりくりの瞳が二対計四つ注がれている。
「歌ってて大丈夫? 夏報さん心配だな」
「……フ……曲はまたのお楽しみにっ……」
 ポロろろろ↓ん……。口頭でCmコードなど口遊ながら、耕す作業に戻るグラッパと安心したらしき子供達を、夏報は愉快げに眺めていた。

「まず黄色いところがいいよなあ〜〜」
 えっちらおっちらざっくざく。
「うんうん、流石太陽の花だよねえ」
「顔より大きい花が咲くんだろ? いやあもうそんなん満点じゃん、神様が作った奇跡だよ」
 グラッパは天然で声が大きい為、この話だって丸ごと観衆まで届いているだろう。
「花に種がみっちり詰まってる感じとか最高だよね」
「花ってこーんな(こーんな)デカくなるってオレ聞いてるぜ」
 鍬を一度土に刺し、顔より大きい丸を描くグラッパ。うん、大体そのくらい。勘がいいね。
「そこに、みっちり?」
「そうさ、みっちり。なんて言うんだっけ、自然界フラクタル……フィボナッチ……なんかそうゆうやつ」
「おっわからない。工業用品?」
「自然の数学的な話さ。本で読んだよ」
「うん? つまりどうゆう?」
「種がみっちり詰まってるって事さ」
「えーーー大収穫だーーー! しかも食べられるんだろ種って!? はああーー〜流石フラダンス……あとひとりぼっち……?いや独りぼっちよりはみんな一緒がいいなあ、みっちりとさあ」
「そうだね、フラとチまで合ってるよグラッパ。でもいくらみっちり取れても、種まきする時は数粒ずつ離して植えないとダメだからね。これも本で読んだ」
「じゃあ、育てていくなら……もーーっと広い畑が必要になるんだなあ」
 グラッパは目を眇めて遠くを見る。夏報もまた、遠くを見やる。荒れ果てた大地のその遠くで不浄な空気がうねり合って陽炎を揺らしている。
「いいな、それ」
「そう、いいよ」
 何にも無い事を示すような陽炎の果てが、黄色に染まる日が幾年後かにあるならば。
 子供の背丈など隠してしまうほどの大輪が咲き誇るならば。
「花見で乾杯したい!!!」
「良いね、エールなんかあけたらきっと最高だ」
「あーーーいいなぁ向日葵〜〜!」
「うーんうんうん、いいよね向日葵!」
 話しながら手を止めたり再開したり、効率が悪い事。浮かれた声は反響も無く、きっと真っ直ぐに拠点の彼らまで届いている。
「まあ、あと」
 くるり、夏報は演技がかったUターン。見つめるのはーー拠点でくすぶる、彼らへ。
 さあ、明るい希望の話に、お酒の話まで添えちゃったぞ。きっと吐こうとした唾だってごくんと飲んじゃったはずだ。
「土壌の浄化にもなるし、油も採れるぜ」
 あとはーー大人の大好きな、現実的でつまんないお話で、背中を押してあげるだけ。
「うん」
 まるでずるい大人のように、あるいはませた少年のように。首肯。
 さあ、夏報は、横に一歩踏み出した。
 声など聞こえていないフリをしていた、仏頂面の大人数名が重い腰を上げ、こちらに歩き出してくるのを。グラッパの視界に収めてやるには、きっとこれで充分さ。
大成功 🔵🔵🔵

オズ・ケストナー
ひまわり、だいすきっ
去年ね、わたしもひまわりを植えてそだてたんだよ

グラッパの言葉ににこにこ
うん、どんどんおおきくなっていくのを見るのもわくわくするし
ひまわりがさいたらね、みんなえがおになっちゃうよっ
だからね、わたしもおてつだいするっ

あめがふればひまわりもごくごくのむよ~♪
いっしょに歌いながら
ひりょう、よういできるかな
まいにち水もあげなくちゃ
でもあげすぎたらげんきがなくなっちゃうからほどほどに

ここにひまわりがあるよーってかんばん立てたらどうかな
みんな気にしてくれるかも
かんばんにおえかきもしようよ
ひまわりの絵と、にこにこのたいようっ

見てくれるひとがいたら声をかけるんだ
いっしょにひまわりさかせようよ



●

「去年ね、わたしもひまわりを植えてそだてたんだよっ」
 とろけるような朗々、喜びを惜しみなく両腕広げ振りまくオズ・ケストナーに、グラッパは歓迎の笑みを向ける。土を耕す鍬を一度止めて、汗を拭う。
「おお、頼りになる経験者さんだ! それは、立派なひまわりは咲いたのかい?」
「うん、うんっ ひまわり、だいすきっ」
 スキップとステップ、その間。楽しい気持ちだけがてっぺんから爪先まで溢れ出す歩みで、オズはグラッパに近づいていく。お婆さんへのご挨拶も、うやうやしく忘れずに! お近づきのしるしに、握手もしよう!
「おばあさんも、ひまわりすき?」
 ああ、ああ。老婆は眩い少年の笑みに目を細めて何度も頷く。皺枯れた手と、人形のなめらかな手が握り合う。
「あのね、どんどんおおきくなっていくのを見るのもわくわくするし」
 それから、低い箇所を撫でるような仕草、からの、自分の頭のてっぺんよりも高い箇所まで掌を上げる。成長を表すジェスチャーだ。
 それから両手を祈るように握ってーーぱ! と広げて、満面笑顔! ひまわりのはなは、このくらい大きい!
「ひまわりがさいたらね、みんなえがおになっちゃうよっ」
 ああ、ああーーお婆さんも、子供達も、最早ただ、向日葵の夢を語れるだけで嬉しくて、眩しくて。
 きっとまさに、向日葵ってこんな風に咲く。
 印象よりも背の高いオズを見て思う。整った白さと子供のやわさを持ち合わせながら、背に合わせて相応に大きい掌がつくる花を見て思う。
「ーーなあ、先輩! 何したらいいか教えてくれないか!」
「うん、まかせて。ねえ、グラッパ、一曲おねがいできる?」
「曲? よしきた!」
 グラッパは待ってましたと言わんばかりに農耕具を素早く置いて、手作りの缶製ギターを慣れたように携える。オレ暫く動かないから、という宣言の如く、お婆さんの側にどっかり腰を下ろす。
 さあさそろそろ単純労働にも疲れてきた頃だろう、朗らかな一曲で心も体も浮かれさせよう。張った紐を明るいコードでべべん!と震わせ、
 それでは泥臭いメロディにてご唱和を!



「あめふれば〜ひまわりもごくごくのむよ〜♪」
「オレらはみんな生きてるから〜〜みずのうまさが染みるのさ〜〜♪」
 べんっべけべけべんべけべん!じゃんじゃん! 軽快なメロディは単純で、即席で合わせて歌うのは難しくはない。
「おもたいひりょうは、おいしいひりょう〜♪ おいしいひりょうは、元気になるよ〜♪」
 よいしょっ。奥にあった、残り少ない堆肥袋を持ち上げて、オズは宝物を見つけた顔で駆け戻る。
「元気になったら何がしたーい?♪」
 べべん! 耳裏に手を当て、グラッパが応答を待つ。
「きっと何でもできちゃうよ♪ できないことだってすてきだよ♪」
 オズが袋を開けて、柔らかくなった土の上でくるくるくる。堆肥を振りまいて笑う。肥料はいつも少し変な匂いがするーー大体、水と虫と絵具を固めて置いといたみたいな。そんな匂いがするけれど、それもまた植物が生きている証であろう。
「あっはっは、それもそうだ! 足りないものを補い合うのも、足りないのを一緒に仲良く我慢するのも、オレも嫌いじゃあなかった!」
 明るい声ほどよく通る。二人の声はきっと遮るものが少ないこの世界で、誰しもに届いている。奥の方からこれみよがしなため息が聞こえた気もするが、いやあ、聞いてくれてるならこんなに嬉しいことはない。
「まいにち水もあげなくちゃっ」
「毎日かぁ、ここらで一雨、にわか雨が恋しいなあ」
 べん……少し篭った音。屋上の古い貯水タンクを見上げる。入道雲を背負ったあのタンクの中身が果たしてどのくらいあったか、それを把握しているのはグラッパ以外の大人だった。
「うーん、あげすぎても元気がなくなっちゃうからー……きっと大丈夫♪ たりないのも仲良くがまんしよっ♪」
 ……などと、笑うのも、束の間。
 入道雲、すなわち積乱雲ーー雨雲。
 日が陰って涼しくなったかとおもった一瞬の後に、恵のスコールが注ぐのを、グラッパもオズも子供達も、歓声も同然の悲鳴をきゃあきゃあ上げて、施設の中へと駆け込んでいくのだった。
 ああ、お婆さんはちょっと脚が悪いので、グラッパが迷わずおぶっていったとも。
 
 さあ、一雨あがるまでは何ができるだろう?
 雨が壁を叩く音も、雷の光も楽しみながら。
 オズが子供達に、お絵かきが好きかと問うてまわる。
「ここにひまわりがあるよー、ってかんばん、たてるの」
 看板程度の資材には事欠かない。
 立ち入り禁止、この先危険区域、危険物ーーそんな赤黒黄色の文言ばかり書かれた廃看板を、グラッパが白に塗りつぶして持って来た!
「いっしょにお絵かきしようよ。ひまわりの絵と、にこにこのたいようっ」
 お絵描き道具なら、ほらここに。魔法みたいに出した、面白い形のクレヨン、パステル、絵具が代わる代わる使える七色ガジェット。子供達の目がきらきらだ。
「ひまわり、みたこと、ないよ」
 けれど、子供が、おそるおそる首を振るーーこの痩せた目に、黄色を握る事は赦されるのだろうか。
 勿論、だとも。
「いいね、みたいひまわりを描こうよ。 お絵かきは、そっくりにかかなくてもいいの。たいようみたいな、きいろいお花。みんなで、どんな花がさくのかなあって、かんがえながらかくの」
  オズは咲うのだ、屈託なく。ただのひとかけらたりとも、誰のことも否定しない、春の星めいた無垢なる笑みで!
「いっしょにひまわり、さかせようよ!」
「描かないと、オレの下手なひまわりばっか増えちまうぞ!」

 晴れたらきっと、もっともっと、ここに描いたたくさんの七色ひまわりが綺麗に見える。
 ざあざあ振りのパーカッシヴ。子供達の喜びはソプラノ。即席の歌はまだまだ絶えない。
大成功 🔵🔵🔵